JP3500325B2 - 相変化記録媒体、その製造方法及び製造装置 - Google Patents

相変化記録媒体、その製造方法及び製造装置

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JP3500325B2 JP18253599A JP18253599A JP3500325B2 JP 3500325 B2 JP3500325 B2 JP 3500325B2 JP 18253599 A JP18253599 A JP 18253599A JP 18253599 A JP18253599 A JP 18253599A JP 3500325 B2 JP3500325 B2 JP 3500325B2
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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、相変化記録媒体、
その製造方法及び製造装置に関し、より詳しくは、光ビ
ームを照射して情報の記録・再生を行う相変化型の光記
録層を有する光記録媒体であって、記録層の堆積後に結
晶化させるための初期結晶化工程が不要な相変化記録媒
体、その製造方法及び製造装置に関する。
【0002】
【従来の技術】光ビームを照射して情報の記録・再生を
行う相変化型の光記録媒体は、大容量性、高速アクセス
性、媒体可搬性を兼備する他、競合する光磁気媒体に比
較して、再生原理がCDと同じ反射率変化形なのでCD
互換ドライブが安価に提供出来る、信号品質が優れてい
るので高密度化し易い、1ビームオーバライトが容易な
ので記録データ転送速度が速い、等の利点を有してい
る。
【0003】相変化記録媒体は、記録マークを形成する
ことにより情報の記録を行い、この記録マークを消去す
ることにより情報の消去を行うことができる。記録マー
クの形成は、記録レベルの光照射により記録層を溶融し
てランダムな状態にし、記録層の結晶化時間よりも短い
時間内に冷却してランダムな状態を室温にクエンチして
非晶質の記録マークを形成することにより行う。一方、
記録マークの消去は、消去レベルの光照射で記録層をそ
の融点未満且つ結晶化温度以上の温度に昇温し、この昇
温時間を記録層の結晶化時間よりも長く保持することに
よって結晶化させることにより行う。また、情報の再生
は、結晶と非晶質との反射率の違いを利用して行われ
る。
【0004】相変化記録媒体は、記録前の状態が非晶質
か結晶かに関わらず記録が成立するので、1ビームでオ
ーバライトが出来るという利点を有する。
【0005】相変化記録媒体の具体例としては、光ディ
スクを挙げることができる。光ディスクの構造は、代表
的には、ヘッダー部がプリフォーマット化され、データ
部がプリグループ化されたポリカーボネイト基板上に、
下側誘電体層、記録層、上側誘電体層、反射層を順次積
層した構造(4層構造)を有する。さらに、反射層の上
には接着層を介して対向基板を貼合わせるか、レーベル
を貼り付ける。
【0006】記録層としては、カルコゲン系の金属化合
物、例えばGeSbTe、AgInSbTe、InSb
TeやそれらにCr、V、N等を適宜微量添加した薄膜
が用いられる。
【0007】誘電体層と反射層は、記録層の酸化防止、
積算オーバライトによる劣化の防止、記録時の熱応答の
調整、再生時の光学的エンハンス等の役割りを担ってい
る。特に、光学的エンハンスメント効果に関しては、下
側誘電体層は基板と記録層の間での多重干渉効果、上側
誘電体層は記録層と反射層と間での多重干渉効果によ
り、記録層単層の反射率変化量を増加させ、信号品質を
向上させることができる。
【0008】以上説明したような相変化記録媒体は、C
D−RW(compact disc-rewritable)、DVD−RA
M(digital versatile disc-random access memory)
などを始めとする各種の情報記録システムにおいて応用
され、今後も大容量化、データ転送速度の高速化、低価
格化などが望まれている。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】しかし、本発明者は、
独自の検討を続けた結果、このような相変化記録媒体に
は、未だ解決すべき種々の課題があることを認識した。
これらの課題について以下に列挙する。
【0010】(転送速度向上技術の課題) 先ず、転送速度に関する従来技術の問題について説明す
る。データ転送速度の高速化に対する要求は、他の記録
媒体と同様に高い。しかし、相変化記録媒体において
は、記録時のデータ転送速度を向上するためには、記録
層の結晶化時間を短縮する必要がある。何故ならば、デ
ータ転送速度の高速化は、光スポットの通過時間の短縮
化を意味するからである。従来、結晶化時間を短縮する
手段としては、記録層に記録層を構成する主要元素以外
の元素を微量添加する、記録層の下地に結晶化制御用の
シード層を設ける、等の提案が為されている。しかし、
結晶化時間短縮の効果は不十分で、相変化記録媒体のデ
ータ転送速度は数10Mbps(mega bit per secon
d)以下に制約されている。
【0011】(製造コスト低減に対する課題) 相変化記録媒体の従来の典型的な製造工程は、 (1)原盤のマスタリングプロセス (2)スタンパ作成プロセス (3)インジェクションによる基板の形成プロセス (4)スパッタによる膜付けプロセス (5)(必要に応じて貼り合せプロセス) (6)初期結晶化プロセス (7)ベリファイプロセス という流れに従っていた。
【0012】この一連のプロセスの中で「(6)初期結
晶化プロセス」とは、アズデポ(as-depo.:堆積したま
まの状態)の相変化記録層をディスク全面に亘って結晶
化する工程である。この工程を設ける理由は、アズデポ
の非晶質状態の記録層は、光記録により形成する非晶質
マークとは異なり、記録化に要する時間が非常に長いか
らである。このため、従来の相変化記録媒体は、アズデ
ポのままで用いられることはなく、初期結晶化工程によ
り記録層を結晶化する必要があった。
【0013】例えば、光ディスクを例に挙げると、「初
期結晶化工程」は、ディスク半径方向に長い楕円状のレ
ーザビームを高パワーで照射しながらディスクを比較的
低速で回転させ、さらに楕円ビームの長軸よりも短い送
りピッチでビームを半径方向に送ることにより、徐々に
記録層をアニールして結晶化する方式を採用している。
初期化に要する時間は、ディスク径、初期化時の線速
度、送りピッチに依存するが、フォーカシング時間も含
めると最低でも数分間を要し、甚だ生産性が悪い。現実
の製造ラインは、ディスク1枚当りのタクトが数秒にな
るように設計するので、初期化装置を数10台並べて実
施する必要があり、装置コストがかさみ、装置設置面積
も必要とされ、装置保守も必要であり、記録媒体の生産
性が低く、製造コストが高くなるという課題があった。
【0014】(記録媒体の構造の選択の自由度に対する
課題) 従来の相変化記録媒体が有するもうひとつの課題は、媒
体の構造の選択の自由度が制限されることである。すな
わち、従来の多くの相変化記録媒体は、Rc(結晶部の
光反射率)の方がRa(非晶質の記録マークの光反射
率)よりも高く設定されているが、これは、前述したよ
うに初期結晶化工程が必要であったことに起因してい
る。
【0015】すなわち、媒体の初期状態が結晶である場
合には、RcをRaよりも高く設定することによって、
記録前の反射率が高く、アドレス部、及びデータ部の初
期状態の反射率が高く、ヘッダ信号やサーボ信号の品質
が向上してサーボの安定性が良好である。
【0016】但し、媒体の初期状態が結晶であるという
制約を無くせば、各層の膜厚や材料の選択によって非晶
質マークの反射率(Ra)を結晶部の反射率(Rc)よ
りも高くも低くも自由に設計することが可能となる。
【0017】しかし、従来の相変化記録媒体は、Rcが
高い為に、結晶状態の吸収率(Ac)はそれほど高くす
ることが出来ず記録感度が悪い、マーク長記録に必須と
される吸収率調整がしにくい、初期化プロセスが必須な
ので製造プロセスコスト的には不利である、等の問題を
有していた。ここで「吸収率調整」とは、結晶状態の吸
収率Acを非晶質状態の吸収率(Aa)よりも高く設定
する事であり、溶融潜熱を考慮した場合に溶融時の膜温
度を結晶部と非晶質部で等しくする、即ちオーバーライ
トジッタを低減する為の手段である。
【0018】Rc>Raとされた、いわゆるHigh to Lo
w構造(以下、HtoL構造と略記する)の媒体では、
少なくも記録層以外に光吸収層が無く、かつ全反射形の
膜構造では自動的にAc<Aaとなり吸収率調整が出来
ない。Rc>RaのHtoL媒体において吸収率調整を
実施する方法としては、反射膜を半透明化(極薄膜化)
する、記録層と反射層との間に光吸収層を設ける、など
の方法も考えられる。しかし、これらの方法によって
も、吸収率の比Ac/Aaは高々1.2程度であり、さ
らなる吸収率調整が必要とされる高線速動作には向かな
いという問題があった。
【0019】これに対して、RcがRaよりも低く調整
されているLtoH(Low to High)媒体は、記録感度
が高い、吸収率調整がし易いといった特長を有し、次世
代の光ディスクの主流として期待される。特に、前記し
た4層膜構造の基板と下側誘電体層との間に薄い金属か
らなる半透明膜を配した五層膜構造の媒体では、上下の
干渉膜厚を適切に選ぶとAc/Aaを1.5以上に設計
出来るので、結晶部の記録感度が高いことも合わせて高
線速動作に好適である。
【0020】しかしながら、このようなLtoH媒体に
おいても、Ac/Aaを高く設定するほど、また、再生
CNRを高く設定するほどRcが低下するので、Rc>
Raの媒体と同様に初期結晶化工程に供してしまうとア
ドレス部が読取りにくくなる、記録前の状態でのデータ
部のサーボ信号が読取りにくくなる、という問題があっ
た。
【0021】(大容量化に対する課題) 相変化媒体の記録密度を向上する技術としては、光源の
短波長化、対物レンズのNAの増大、超解像薄膜の付与
などが挙げられる。これに対して、記録密度の向上を図
らずに記憶容量を向上させる手段として提案されている
のが、片面二層化である。片面二層は同一の光ビーム入
射面側から、数10μm程度離れて配置された2層の記
録層を光ビームの焦点位置を調整するだけで記録再生す
るもので、ディスクを裏返す必要が無いため、ユーザか
ら見た場合には、ほぼ倍の記録密度を有する片面単層デ
ィスクと同等の性能を持つといえる。再生専用のDVD
では通称DVD−9で知られる片面二層ディスクが知ら
れているが、書換え形では、記録層1層分の透過率が不
十分なため、光ビーム入射側に対して奥に配置される記
録層へ十分に光が届かず記録再生が困難と考えられてき
た。
【0022】しかしながら、ISOM(International
Symposium on Optical Memory)’98,Technical Dig
est,pp.144-145(Th−N−05)に開示されている様
に、書換え形の相変化媒体においても、片面二層化が可
能なことが示唆された。この技術のポイントは、光ビー
ムの入射側から第1記録層部、第2記録層部とした時
に、奥側に配置される第2記録層部へ十分に光が透過す
るように、第1記録層部の透過率を50%程度と高めた
点、第1記録層部と第2記録層部からのサーボ信号、再
生信号のバランスを取るために第2記録層部の反射率を
高く、すなわち透過率を低く設定した点、オーバライト
ジッタを低減するために第1記録層部、第2記録層部共
に、結晶部の吸収率Acを非晶質部の吸収率Aaよりも
高く設定した点である。
【0023】上記した設定を満足させるため、第1記録
層部は結晶部反射率Rcが非晶質部反射率Raよりも高
い、いわゆるHigh to Low構造(以下、HtoL構造と
略記する)で反射膜の無い3層構成、第2記録層部は結
晶部反射率Rcが非晶質部反射率Raよりも低いLto
H構造の下側に薄いAu半透明膜、上側に薄いAl−C
r反射膜を有する5層構成を採用している。
【0024】この構成では、光ビーム入射側から見た時
の各記録層部の反射率は、第1記録層部が結晶部に対し
て9%、非晶質部に対して2%、第2記録層部が結晶部
に対して3%程度、非晶質部に対して9%程度となる。
従って、この片面二層相変化媒体を従来の製造工程に従
って初期結晶化した場合には、アドレス部とデータ部の
初期反射率は第1記録層で9%、第2記録層では3%程
度となり、例えば片面単層のDVD−RAM規格の15
%−25%に比べてかなり低い。第1記録層の初期反射
率程度であれば、再生パワーを上昇させればアドレス信
号再生、データ部のサーボ信号再生が何とか可能ではあ
るが、第2記録層部の反射率は低すぎてこのままではア
ドレス信号、サーボ信号共に再生が困難となる。
【0025】また、前記した書換え形に限定されず、片
面二層媒体に共通する課題として初期結晶化工程の煩雑
性を挙げることができる。すなわち、第1記録層部、第
2記録層部をそれぞれ初期結晶化すると、2倍の工程を
要するので生産性、製造コストに支障をきたす事にな
る。
【0026】本発明は、係る種々の課題の認識に基づい
てなされたものである。すなわち、その主たる目的は、
相変化記録媒体の記録転送速度を向上させ、媒体の製造
コストを低減し、媒体の構造の選択の自由度を飛躍的に
拡げて特にRc<Ra構造の媒体を実現し、さらに記憶
容量を増大することにある。
【0027】さらに具体的には、記録層の結晶化に要す
る時間を短縮し、データ転送速度を向上することであ
り、アズデポ非晶質に高速結晶化性能を付与することに
より、初期結晶化工程を無くして製造コストを低減する
ことであり、さらに、Rc<Raの媒体をアズデポの非
晶質状態から使用可能として、媒体の構造の選択範囲を
広げることであり、片面2層媒体の反射率を向上させて
記憶容量の増加を実現させることにある。
【0028】
【課題を解決するための手段】すなわち、本発明の相変
化光記録媒体は、光照射によって非晶質状態と結晶状態
との間を可逆的に相変化し光学的な特性が変化する第1
の記録層を備えた相変化記録媒体であって、前記第1の
記録層の前記非晶質状態における光反射率は、前記結晶
状態における光反射率よりも高く、前記記録層は、記録
前の状態が微細結晶核を含有するアズデポの非晶質状態
であり、且つオーバーライト後に前記記録層に形成され
る消去部としての前記結晶状態の部分を構成する結晶粒
の粒径に対する個数の分布が少なくとも2つの異なる粒
径でそれぞれ極大値を有し、前記微細結晶核の平均粒径
は、0.5nm以上4nm以下であり、前記少なくとも
2つの異なる極大値のうちの第1の極大値の粒径は4n
mよりも大きく且つ20nm以下であり、前記少なくと
も2つの異なる極大値のうちの第2の極大値の粒径は2
0nmよりも大きく且つ100nm以下であって、前記
第1の極大値を中心とする分布に属する結晶粒が全体に
対する面積比で20%以上90%以下であることを特徴
とする。ここで、前記アズデポの非晶質状態における前
記記録層の熱伝導率が0.8W/mK以上、6W/mK
以下であることを特徴とする。また、前記記録層は、K
rとXeの少なくともいずれかを0.2原子%以上10
原子%以下の割合で含有することを特徴とする。また、
前記記録層は、トラックピッチよりもe−2径の大きな
スポットサイズを有する記録光を照射した後に、トラッ
ク間にアズデポの非晶質状態のバンド部を有することを
特徴とする。また、光照射によって非晶質状態と結晶状
態との間を可逆的に相変化し光学的な特性が変化する第
2の記録層と、前記第1の記録層と前記第2の記録層と
の間に設けられた分離層と、をさらに備えたことを特徴
とする。一方、本発明の相変化記録媒体の製造方法は、
光照射によって非晶質状態と結晶状態との間を可逆的に
相変化し光学的な特性が変化する第1の記録層を備えた
相変化記録媒体であって、前記第1の記録層の前記非晶
質状態における光反射率は、前記結晶状態における光反
射率よりも高く、前記記録層は、記録前の状態が微細結
晶核を含有するアズデポの非晶質状態であり、且つオー
バーライト後に前記記録層に形成される消去部としての
前記結晶状態の部分を構成する結晶粒の粒径に対する個
数の分布が少なくとも2つの異なる粒径でそれぞれ極大
値を有し、前記微細結晶核の平均粒径は、0.5nm以
上4nm以下であり、前記少なくとも2つの異なる極大
値のうちの第1の極大値の粒径は4nmよりも大きく且
つ20nm以下であり、前記少なくとも2つの異なる極
大値のうちの第2の極大値の粒径は20nmよりも大き
く且つ100nm以下であって、前記第1の極大値を中
心とする分布に属する結晶粒が全体に対する面積比で2
0%以上90%以下であることを特徴とする相変化記録
媒体の製造方法であって、基板上に前記第1の記録層を
堆積している間または前記基板上に前記記録層を堆積し
た後に、赤外線ランプにより照射される光に対して実質
的に吸収を有しない材料により前記基板を支持しつつ前
記赤外線ランプの加熱により前記基板の温度をその熱変
形温度未満としつつ前記記録層を室温よりも高い温度に
昇温することにより、前記記録層を前記微細結晶核を含
有する非晶質状態とすることを特徴とする。または、本
発明の相変化記録媒体の製造装置は、光照射によって非
晶質状態と結晶状態との間を可逆的に相変化し光学的な
特性が変化する第1の記録層を備えた相変化記録媒体で
あって、前記第1の記録層の前記非晶質状態における光
反射率は、前記結晶状態における光反射率よりも高く、
前記記録層は、記録前の状態が微細結晶核を含有するア
ズデポの非晶質状態であり、且つオーバーライト後に前
記記録層に形成される消去部としての前記結晶状態の部
分を構成する結晶粒の粒径に対する個数の分布が少なく
とも2つの異なる粒径でそれぞれ極大値を有し、前記微
細結晶核の平均粒径は、0.5nm以上4nm以下であ
り、前記少なくとも2つの異なる極大値のうちの第1の
極大値の粒径は4nmよりも大きく且つ20nm以下で
あり、前記少なくとも2つの異なる極大値のうちの第2
の極大値の粒径は20nmよりも大きく且つ100nm
以下であって、前記第1の極大値を中心とする分布に属
する結晶粒が全体に対する面積比で20%以上90%以
下であることを特徴とする相変化記録媒体を製造する製
造装置であって、基板上に前記第1の記録層を堆積して
いる間または前記基板上に前記記録層を堆積した後に、
赤外線ランプ加熱により前記基板の温度をその熱変形温
度未満としつつ前記記録層を室温よりも高い温度に昇温
することにより前記記録層を前記微細結晶核を含有する
非晶質状態とする加熱手段と、 前記基板を支持する基
板ホルダであって、 前記基板ホルダの前記基板との接
触部は、前記赤外線ランプ加熱により照射されるランプ
光に対して実質的に吸収を有しない材料により構成され
ている基板ホルダと、を備えたことを特徴とする。
【0029】本発明によれば、上述した各構成により、
相変化記録媒体の記録転送速度を向上させ、媒体の製造
コストを低減し、媒体の構造の選択の自由度を飛躍的に
拡げて特にRc<Ra構造の媒体を実現し、さらに記憶
容量を増大することができる。
【0030】さらに具体的には、記録層の結晶化に要す
る時間を短縮し、データ転送速度を向上し、アズデポ非
晶質に高速結晶化性能を付与することにより、初期結晶
化工程を無くして製造コストを低減することができ、さ
らに、Rc<Raの媒体をアズデポの非晶質状態から使
用可能として、媒体の構造の選択範囲を広げ、片面2層
媒体の反射率を向上させて記憶容量の増加を実現させる
ことができる。
【0031】
【発明の実施の形態】以下、図面を参照しつつ本発明の
実施の形態について説明する。
【0032】(第1の実施の形態) まず、本発明の第1の実施の形態について説明する。本
実施の形態においては、相変化記録媒体の初期状態、す
なわち堆積したまま(as-depo.:アズデポ)の状態が非
晶質状態であり、且つこの非晶質状態が独特の近距離秩
序構造を有する点にひとつの特徴を有する。
【0033】図1(a)〜(c)は、本実施形態による
相変化記録媒体の記録層の微細構造を従来の相変化記録
媒体と比較しつつ表した模式図である。すなわち、図1
(a)は、本実施形態の記録層の微細構造、図1(b)
は、従来技術により作成した記録層のアズデポ状態の微
細構造、図1(c)は、本実施形態及び従来技術により
作成した記録層に光記録を行うことにより形成した結晶
部の微細構造を各々表す模式図である。
【0034】従来技術により作成した記録層のアズデポ
の状態(図1(b))は、長距離秩序も近距離秩序もみ
られないランダムな配列を呈している。これに対して、
本実施形態により作成したアズデポ状態の記録層の場合
には、長距離秩序は見られないが、0.5nm(8個程
度の原子からなる極微細結晶核)から4nm(4000
個程度の原子からなる微結晶核)のサイズの近距離秩序
が見られた(図1(a)において符号Aで例示した)。
【0035】一方、本実施形態で作成した記録層と従来
技術により作成した記録層に光記録によって形成した結
晶部においては、約20nm以上の長距離秩序を有する
多結晶状態が観察された。ここで、後述するように、本
発明と従来技術とでは、結晶部の粒径分布は異なってい
たが、数10nm以上の領域にわたり規則的に原子が配
列する構造を呈する点では一致する。
【0036】図1(a)に示した記録層は、以下に説明
する種々の手段で作成することが出来る。まず、本実施
形態の具体例を説明する前に、本実施形態の相変化記録
媒体の記録層の作成する上での基本的なコンセプトを説
明する。
【0037】相変化記録に使用される記録膜は通常スパ
ッタ法で成膜され、成膜直後には非晶質状態にある。ス
パッタリング法は、高エネルギーのアルゴン(Ar)イ
オン衝撃により、ターゲット面からスパッタ放出された
スパッタ粒子(気相)がランダムに基板面上に到着し、
ランダムな状態で表面をマイグレート(migrate)した
後に膜という固相状態に転移して所定の膜を作成する技
術である。
【0038】スパッタ粒子は、一般に数eVのエネルギ
ーを持つといわれている。1eVは10 Kに相当
し、室温の熱エネルギーに比較して非常に高い。また、
スパッタ粒子が基板状において気相から固相へ転移する
速度は通常1012K/秒程度である。即ち、数eV
(数万K)のランダム状態から室温の固相に変化するに
要する時間は10ナノ秒程度であり、融点から結晶化温
度の間の温度帯を通過する時間は高々1ナノ秒程度と推
定される。一方、GeSbTe,InSbTe系記録膜
の結晶化に必要な結晶化保持時間は、数10ナノ秒であ
る。つまり、従来のスパッタ法により膜が堆積する際に
は、結晶化保持時間よりもはるかに短い時間で冷却され
るので、スパッタ成膜直後の記録層は図1(b)に表し
たように、近距離秩序の無い非晶質状態になる。
【0039】この成膜直後の非晶質状態は、光記録によ
り形成される非晶質状態とは異なる。何故ならば、光記
録時の冷却速度は、線速や、媒体の層構造にも依存する
が、典型的には1010K/秒程度とスパッタ成膜過程
のそれよりも二桁程度遅いからである。つまり、スパッ
タ成膜時の膜付着過程における冷却速度がきわめて速
く、記録時の非晶質部形成過程の冷却速度二桁程度速い
ことから、as−depo.状態の膜においては、光記
録後の非晶質部に比較してよりランダムネス(無秩序
性)の高い、換言すれば、近距離秩序が小さい非晶質が
形成されると考えられる。
【0040】スパッタ成膜直後の非晶質状態が光記録で
形成される非晶質状態と同質であれば、初期結晶化工程
を経ずに記録再生動作が可能であるが、実際には冷却速
度の差に起因して、スパッタ成膜直後の非晶質状態は光
記録で形成される非晶質状態とは異なるために、Rc>
Raの媒体でもRc<Raの媒体でも初期結晶化工程を
経ないと光記録が困難であった。光記録により形成され
た非晶質状態は、冷却過程における結晶化保持時間が、
記録層の結晶化時間に近いために、長距離においては無
定型状態を呈するが近距離秩序は有することを本発明者
は発見した。さらに、この発見に基づき、記録層及びそ
の上下の干渉層のスパッタリングプロセスに工夫を加え
て、アズデポの非晶質状態中に光記録で形成した非晶質
状態と同様の近距離秩序を形成することに成功して本発
明をなすに至った。
【0041】具体的な本発明のプロセスとは、スパッタ
リングプロセスにおけるスパッタリング粒子の冷却速度
を低下させて、スパッタ成膜直後の非晶質状態を光記録
で形成される非晶質状態に近づけることであり、もうひ
とつは、スパッタ成膜直後の記録層に圧縮性応力を付与
して、記録層が結晶化しやすい状態にすることである。
これらは、もちろん組み合わせても良い。
【0042】スパッタ直後の非晶質状態を光記録で形成
される非晶質状態に近づける為には基板上に入射するス
パッタ粒子のエネルギーを低下させるか、表面マイグレ
ーションの時間が長くなるように制御する。より具体的
には、スパッタガスとして、通常用いられるArガスよ
りも、GeSbTe系スパッタ粒子に対しての冷却効果
が顕著なKr(クリプトン)、Xe(キセノン)もしく
は、これらの混合ガスを用いるか、基板にバイアスを印
加して表面マイグレーションを助長するなどの方法が効
果的である。この様にして形成したディスクはスパッタ
成膜直後の状態が、光記録で形成される非晶質状態に近
く、長距離的には非晶質状態だが、近距離秩序を有する
微細構造を呈する。
【0043】一方、スパッタ成膜直後の記録層に圧縮性
応力を付与して近距離秩序の形成を助長する為には、記
録層自体の圧縮応力を高めるか、記録層の上下に配され
る干渉に圧縮応力を付与して記録層が収縮し易くするこ
とが有用である。記録層は近距離秩序の全く無い非晶質
状態にある時よりも近距離秩序を有する非晶質状態にあ
る時の方が、若干ではあるが体積が小さい。従って、圧
縮応力を付与することにより、体積収縮しやすい、すな
わち近距離秩序を形成しやすくなる。圧縮応力の付与は
スパッタ膜の場合は一般的に成膜時に基板上に高エネル
ギの粒子を入射させる事で実現可能である。具体的手法
としては、記録層もしくは上下の干渉層の形成時に、ガ
ス圧力を低下させて基板に入射するスパッタ粒子のエネ
ルギを増加させるか、基板にバイアスを印加してガスイ
オンを加速させ、積極的に基板に入射させることが効果
的である。
【0044】これらの手法の内で、記録層形成時のガス
圧力を低下させる方法は前記した一つ目のスパッタ粒子
のエネルギを低くする方法と相反するが、基板上でのス
パッタ粒子の冷却速度を適度に低下させて、かつ記録層
に適度な圧縮応力を付与する条件が本発明を実施する上
で好適であり、それは他の手法との関連の中で見出され
るものである。但し、好ましくは記録膜は重希ガスを用
いた高圧の条件でスパッタ成膜し(基板にバイアスを印
加すると同時に圧縮応力を付与する上で好適である)、
上下の干渉膜の形成時は低圧ガススパッタして大きな圧
縮応力を付与する方法が最も望ましい。上記が本発明の
相変化記録媒体の作成方法の基本的な考えである。
【0045】以下、本発明の具体例について説明する。
【0046】図2は本発明の相変化記録媒体の断面構成
図である。図2において、101はディスク基板、10
2は半透明層、103は下部干渉層、104は記録層、
105は上部干渉層、106は反射層である。基板10
1はプリフォーマットされた直径120mm、板厚0.
6mmのポリカーボネイト基板であり、プリピット列か
らなるアドレス部(図示せず)と、プリグルーブの形成
されたデータ部(図示せず)とからなる。基板の作成方
法は、通常の原盤マスタリング、メッキによるスタンパ
作成、スタンパ上へのポリカーボネイト樹脂のインジェ
クション形成である。本具体例では、グルーブ、ランド
共にトラック幅は第1世代DVD−RAM規格の0.7
4μm、グルーブ深さはクロストークキャンセル仕様の
70nmとした。
【0047】この基板上に形成した相変化媒体の構造
は、基板面から順番に、膜厚10nmのAu半透明膜1
02、膜圧85nmのZnS−SiO下部干渉膜10
3、膜厚10nmのGeSbTe記録層104、膜厚3
0nmのZnS−SiO上部干渉膜105、膜厚10
0nmのAlMo反射膜106である。ZnS−SiO
の組成は上部、下部共にSiOが20at.%、G
eSbTeは、Ge:Sb:Te=2:2:5の標準的
な組成とした。
【0048】上記膜構造のディスクの光学的な設計値
(ミラー面)は、Rc:5%,Ra:20%,Ac/A
a:1.3の典型的な吸収率調整形LtoH構造であ
る。また、反射光の位相差は零に調整された膜構造であ
る。各層の形成は、記録層を除外して全て通常の実験で
使用される典型的なスパッタリング方法と条件で行っ
た。即ちスパッタ方法としてマグネトロンスパッタリン
ダ方法、スパッタガスとして純Arガス、ガス圧力とし
て0.67Pa、ターゲットヘの投入パワーは数10〜
数100W、基板は無バイアスである。GeSbTe膜
の成膜は本発明のディスクを得る為に特殊な手法と条件
を用いた。以下に記録層の形成方法の具体例を説明す
る。
【0049】まず、半透明層102と下側干渉層103
の形成された基板101を、記録層104を形成するた
めのスパッタチャンバ内に導入し、ターゲットに対向す
る基板ホルダ上に固定する。次に、スパッタチャンバ内
を真空排気し、ガス導入系から20%のKrガスを含有
するKr−Xe混合ガスをトータル流量200sccm
で導入する。排気系7のコンダクタンスを調整してスパ
ッタ室の内部のガス圧力を6.7Paに調整した後、ス
パッタ源に電源5から50WのRFパワーを投入し、同
時に表面マイグレーション制御系を動作させて基板上に
10Wの弱いRFパワーを投入し、GeSbTeターゲ
ットを5分間バイアスマグネトロンスパッタして、下側
干渉膜上に膜厚10nmのGeSbTe記録層104を
形成する。
【0050】通常のスパッタとの違いは、スパッタガス
としてKr−Xe混合ガスを用いGeSbTeスパッタ
粒子が気相中でエネルギを失いやすくした点、ガス圧力
を高く設定してGeSbTeスパッタ粒子の気相中での
冷却を助長し、かつターゲットヘ入射するガスイオンの
エネルギを低くしスパッタ粒子がターゲットから放出す
る時のエネルギーを低く調整した点、スパッタ源に投入
するパワーを比較的低く設定し、スパッタ粒子の放出時
のエネルギをさらに低下させた点、基板に弱いバイアス
を印加してポリカーボネイト基板が熱的にダメージを受
けない範囲で、成膜中基板上にガスイオンを入射させ
て、基板上でのスパッタ粒子の表面マイグレーション時
間を長くした点である。
【0051】上記した点は、基板へ入射するスパッタ粒
子のエネルギを低くし、かつ基板上でランダムな液相状
態から固相状態へと転移する間の時間を長くする即ちス
パッタ粒子の冷却速度を低下させる上で効果的である。
この様な手段によってスパッタ成膜過程におけるGeS
bTeスパッタ粒子の冷却速度を従来法の1012K/
secから、光記録時の1010K/secのオーダ迄
遅くすることが出来、それによって成膜直後の非晶質状
態中に光記録時の非晶質状態と同様の0.5nmから1
0nmのサイズの近距離秩序を形成することが出来る。
成膜直後の非晶質状態を光記録時の非晶質状態に近づけ
る為には、前記の記録膜材料に合わせたスパッタガスの
選定、ガス圧力の増加、スパッタパワーの低下、基板バ
イアスの印加の全てを行う必要性は無く、適宜幾つかを
組合せて実施しても効果的である。また、上記手段に加
えて、成膜中に基板を数10℃程度加熱する、副次的な
イオン源を設けて成膜中の基板面にイオンシャワーを照
射する、等の手段でスパッタ粒子の基板上での表面マイ
グレーションを助長する、ターゲット面から放出したス
パッタ粒子をイオン化して減速電界中を通過させる、タ
ーゲットと基板との間の距離を離す、ターゲットに対し
て基板を偏心させてターゲット面から斜めにスパッタ放
出した粒子のみで成膜する、等の手段で基板に入射する
スパッタ粒子のエネルギを低下させる、等の手段を列記
することが出来、これらを適宜組合せることで、スパッ
タ成膜直後の非晶質状態を光記録時の非晶質状態に近づ
けることが可能である。
【0052】また、上記した例は全て記録層104の成
膜を最も実用的なスパッタリング法で実施する場合を記
述したが、基板へ入射する記録膜材料粒子のエネルギを
低く設定する上では、真空蒸着法、ガス中蒸着法、MB
E(molecular beam expitaxy)法、プラズマCVD(c
hemical vapor deposition)法、MOCVD(metal-or
ganic chemical vapor deposition)法等を記録層の成
膜に適用することも効果的である。
【0053】前記したKr−Xeガス中、高圧、低パワ
ー、基板バイアスマグネトロンスパッタ法で作成したG
eSbTe記録膜104の上に、通常のマグネトロンス
パッタ法を用いて、上側干渉層105、反射層106を
順次形成してスパッタ室から取出す。この5層膜構成の
ディスクを、膜の設けられていない直径:120mm、
板厚:0.6mmのポリカーボネイト基板とUV硬化型
接着層を介して貼合せ、本発明の効果を検証する為のサ
ンプルとする。
【0054】比較例として、上記実施例と同一の膜構成
で作成方法が異なるディスクも作成した。比較ディスク
は、記録層の形成を通常のスパッタリング方法・条件で
行ない貼合せ構造にした後に、従来の製造工程に従って
長円形ビームで一部を初期結晶化したものである。比較
例で用いた記録層のスパッタリング条件は前記した本発
明の実施例における記録層以外の膜のスパッタリング条
件と同一のマグネトロンスパッタリング方法、スパッタ
ガスとして純Arガス、ガス圧力として0.67Pa、
ターゲットへの投入パワーは数10〜数100W、基板
は無バイアスとした。
【0055】本発明のディスクと比較ディスクの初期結
晶化部は以下の手段で評価した。波長:650nm、対
物レンズのNA:0.6の記録再生光学系を有する光デ
ィスク評価システムを使用し、先ずはアドレス部ミラー
面の反射率を測定した。次に、データ部に対して、線
速:6m/秒で、最短ビット長:0.41μm/bit
の8/16変調のランダムパターン信号を、隣接する各
々10トラックのランドとグルーブに記録し、再生信号
をタイムインターバルアナライザーを用いて検出しウィ
ンドウ幅に対するジッタ比(%)を測定した。ジッタ測
定は初回記録時、10回オーバライト時、100回オー
バライト時でランドトラックとグルーブトラックに対し
て各々行った。上記した評価条件は第1世代のDVD−
RAM規格に準拠したものであり、DVD−RAMでは
ミラー部反射率が15%以上、ランダムデータに対する
許容ジッタ量は8.5%と規定されている。表1に評価
データを示す。
【0056】 表1から明らかな様に、本発明のディスクはミラー面反
射率が高く、アドレス信号品質が優れており、また、初
回からデータ部の反射率が高くトラッキングサーボ信号
品質が良好であり、かつ初回記録からデータ部のジッタ
が低く良好な記録が出来ていることが判る。
【0057】一方で従来技術に従って作成した比較ディ
スクでは、全面に亘り初期結晶化しているので、データ
部のジッタ特性は初回記録から良好な値を示すものの、
ミラー部反射率が低く、また、初回記録時のデータ部反
射率も低い為にアドレス信号、トラッキングサーボ信号
共に本発明のディスクに比較すると品質が劣る。また、
本発明のもう一つの大きな効果としては、製造工程にお
いて初期結晶化工程を省くことができるので、ディスク
が低価格で提供できるという点があることは説明するま
でも無い。
【0058】記録後の本発明のディスクと比較ディスク
をTEM(transmission electron microscope:透過電
子顕微鏡)観察に供して微細構造を観察した。TEM観
察に際しては、アズデポの部分、記録部(光記録した非
晶質部と結晶部)を切出した小片試料を作成し、対向基
板をUV接着層共々剥がして取り除いた後に、樹脂に埋
め込んで研磨し媒体膜断面部を露呈させた。そして、媒
体膜断面部の記録層の部分を高分解能電子顕微鏡により
観察した。
【0059】この観察結果が、前述した図1である。す
なわち、図1(a)は、本発明の相変化媒体の記録層1
04のアズデポ状態と光記録によって形成した非晶質マ
ーク部の微細構造を表し、図1(c)は、本発明の記録
層104の光記録によって形成した結晶スペースの規則
的原子配列の状態を表し、図1(b)は、従来技術で作
成した比較例の相変化媒体のアズデポ状態(初期結晶化
していない部分)の微細構造を表す。また、従来技術で
作成した相変化媒体の初期結晶化後の状態と光記録で形
成した結晶部の状態は図1(c)と同様であり、従来技
術で作成した相変化媒体の初期結晶部に光記録で形成し
た非晶質部の微細構造は図1(a)と同様であった。
【0060】次に、OW繰返し回数とCNR(carrier
to noise ratio)の関係について、本発明に従って形成
したアズデポの相変化媒体と、従来技術に従って形成し
たアズデポ(初期結晶化していない部分)の相変化媒体
を対象に調べた。図3は、この測定結果を表すグラフ図
である。図3から明らかなように、本発明に従って形成
した相変化記録媒体(図3では「本発明」と表される)
においては、アズデポ後の初回記録からOW繰返しに亘
り52dBを超える高いCNRが得られたのに対して、
従来技術に従って作成した媒体(図3では「比較例」と
表される)ではアズデポ後の初回記録ではCNRが20
dB程度と低く、100回程度OWを繰り返さないと無
初期化媒体並みのCNRが得られないことが判る。本発
明の記録媒体は、長距離的には非晶質だが、近距離秩序
を具備するために近距離秩序が結晶核として作用し、ア
ズデポから良好な記録が実現したものと考えられる。
【0061】次に、アズデポ初回のCNRと近距離秩序
のサイズとの関係を調べた。近距離秩序のサイズは、前
述した記録層および上下干渉層のスパッタリングプロセ
スを調整することにより制御した。例えば、記録層成膜
時のガス圧力が高いほど、ターゲットへのスパッタ入力
が低いほど、また、基板に印加するバイアス電圧が高い
ほど、近距離秩序を為すサイズは大きくなった。その結
果、アズデポ初回記録から良好なCNRを得る上では、
原子が8個程度からなるクラスターの存在が必要である
ことが判った。このクラスタのサイズは、高分子能電子
顕微鏡観察の結果では0.5nmということが分かっ
た。また、近距離秩序(微結晶核)が5nm以上、即ち
原子8000個程度が規則的に配列する様になると、近
距離秩序クラスター間の距離も短くなり、非晶質中に近
距離秩序が点在する微細構造から多結晶的な構造へ変化
した。このような多結晶構造は、従来技術で作成した相
変化媒体の初期結晶化工程後の構造もしくは光記録によ
って形成した結晶部の構造に類似したものである。つま
り、本発明の目的の一つであるLtoH媒体に適用する
とアズデポの反射率が低くなってしまい、不適当である
ことが判明した。
【0062】上記実施例では、上下の干渉膜は通常の特
に大きな圧縮応力を記録層に付与しない方法で作成した
例を説明したが、記録層の形成を通常のスパッタ条件で
行い、上下の干渉層の形成をArガス圧0.1Pa、基
板バイアス50Wの条件で実施し、上記実施例と同様に
ディスクの試作を行い評価した結果も、表1に示した本
発明の評価結果と同等であった。また、記録膜の形成を
重希ガス高圧スパッタ形成、上下の干渉膜を低圧バイア
ススパッタした場合にも同等の結果を得た。これらの評
価は6m/sの線速で実施したが、高線速動作で結晶化
保持時間が短くなるほどに、複数の手段を複数、相補的
に用いる方が初回からの記録特性が良好であった。
【0063】以上説明したように、本実施形態によれ
ば、アズデポ状態から良好な記録特性を得ることが出来
るので、LtoH構造の媒体のアドレス信号、サーボ信
号の品質を向上出来る他、相変化媒体の製造工程から初
期結晶化工程を削除することが出来るので、媒体製造コ
ストの削減、製造工程の省力化、省スペース化が実現可
能である。
【0064】(第2の実施の形態) 次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。本
実施形態は、相変化記録媒体が結晶状態にある時に、そ
の結晶粒の粒径の個数に対する分布が複数の極大を有す
るというユニークな特徴を有する。
【0065】以下、本実施形態の実施に必要な手段とそ
の作用を詳述する。 前述したように、従来はas−d
epo.の光記録膜を結晶化するために必要とされるレ
ーザパワーと、溶融非晶質化(すなわち記録)によって
形成された非晶質部を結晶化するために必要なレーザパ
ワー及び結晶化時間とは異なっていた。この理由は、a
s−depo.の非晶質状態とその後の光記録により形
成した非晶質状態とでは、微細構造に相違がある為であ
る。すなわち、スパッタ成膜時の膜付着過程における冷
却速度がきわめて速く(1012K/秒と見積もられ
る)、記録時の非晶質部形成過程の冷却速度(1010
〜1011K/秒とみられる)よりも一桁から二桁速
い。このために、as−depo.状態の記録層におい
ては、記録後の非晶質部と比較してより無秩序性の高
い、換言すれば近距離秩序性が小さい非晶質が形成され
ていると考えられる。
【0066】これに対して、本発明者は、理論的な検討
と試作実験とを繰り返すことにより、初期結晶化工程を
経ることなく直ちに記録(as−depo.記録)が可
能な記録層を得た。そして、その微細構造を詳細に調べ
た結果、結晶化後の結晶粒の分布において、従来とは異
なる独特の特徴を有することを知得するに至った。すな
わち、本実施形態の光記録媒体においては、消去レベル
のレーザビームを照射して形成される結晶状態は、いず
れも異なる結晶粒径の微結晶の集合体であり、該微結晶
の粒径分布が複数の極大を持つことが判明した。
【0067】具体的には、本実施形態の光記録媒体は、
光照射により結晶状態と非晶質状態との間を可逆的に変
化する相変化記録層を備えた光記録媒体であって、前記
相変化記録層が前記結晶状態にある時、その記録層を構
成する結晶粒の粒径に対する個数の分布が少なくとも2
つの異なる粒径において極大値を有することを特徴とす
る。
【0068】すなわち、記録層は多結晶体であり、その
多結晶体は、大きな結晶粒と小さな結晶粒にそれぞれピ
ークをもった粒径分布を有する。
【0069】また、前記少なくとも2つの異なる粒径の
うちの小なる粒径における極大値を中心とした分布に属
する結晶粒が前記相変化記録層に占める割合は、面積比
で20%以上90%以下の範囲であることが望ましい。
【0070】また、前記少なくとも2つの異なる粒径の
うちの小なる粒径は、4nmよりも大きく20nm以下
であり、前記少なくとも2つの異なる粒径のうちの大な
る粒径は、20nmよりも大きく100nm以下である
ことが望ましい。
【0071】as−depo.記録を実現するために
は、ディスクを記録/再生装置にセットして実使用時と
同様の高線速で動作させ、消去パワーレベルのレーザビ
ーム照射をしたときに一回の照射で十分に結晶化し、デ
ィスク反射率が完全に結晶化レベルになることが必要と
される。ここでいう高線速とは、具体的には例えば6m
/秒以上の値をさす。ピックアップ光が波長630〜6
60nm、NA0.55〜0.65程度の場合、記録時
のレーザパワーは、消去レベルPeと記録レベルPw、
そして読み出しレベルPrの3値とされ、具体的にはP
e=3〜6mW、Pw=10〜15mW、Pr=1.0
mW程度のパワーが選択される。
【0072】記録を行うと、Peレベルの照射を受けた
部分は結晶化し、Pwレベルの照射を受けた部分は非晶
質化する。レーザビームの照射を受けない部分(対象ト
ラック以外の部分)は、as−depo.の非晶質のま
まである。as−depo.記録についていえば、初回
記録時の結晶化領域(すなわちマーク間の領域)からの
信号レベルと、2回以上オーバーライトしたときの結晶
化領域からの信号レベルに違いがないことが重要であ
る。この様子は、例えば、再生波形をオシロ・スコープ
で観察することにより確認できる。
【0073】as−depo.記録に適した記録膜を使
用する上では、ディスクを「Low−to−High」
すなわち結晶部からの反射率が非晶質部からの反射率よ
りも低くなるように設計することが望ましい。これは、
トラッキングを容易にするとともに、あらかじめ基板に
埋め込まれた凹凸で構成されるヘッダ部の情報読み取り
を容易にするためである。Low−to−Highで
は、消去部(結晶質)からの再生信号レベルは記録マー
ク部(非晶質)からのものよりも低い。理想的には1回
のみの記録によって、Peレベルの照射部分を光学的に
完全に結晶化し、Pwレベルの照射部分は光学的に完全
に非晶質となることが望ましい。
【0074】すなわちLow−to−Highにおいて
は、Peレベル照射部からの信号が十分に「Low」す
なわち下がることが望ましい。しかし、従来の光記録媒
体の場合は、1回のPe照射では再生信号レベルが十分
には下がらず、2回以上オーバーライトすることで徐々
に下がる傾向が認められた。これに対して、本実施形態
の記録媒体の場合は、上述したような信号で変調したレ
ーザビームを1回照射しただけで、Pe照射部からの信
号レベルが十分低下することが確認された。すなわち、
本実施形態の記録媒体の場合には、2回以上繰り返して
オーバーライトしても、Pe照射部からの信号レベルに
変化がなく、一回目の照射のみで十分に結晶化したこと
が分かった。一方、本実施形態の記録媒体においては、
Pw照射部からの信号レベルはas−depo.領域か
らのものと同一であった。
【0075】本実施形態の光記録媒体は、as−dep
o.状態から1回だけ記録した場合でも、マーク間(消
去レベルPe照射部)において十分に結晶化が生じ、粒
径が比較的大きい結晶粒の周りを粒径が比較的小さい多
数の結晶粒が取り囲んだような微細構造を有する。この
ような微細構造は、例えば、TEM(Transmission Ele
ctron Microscope:透過電子顕微鏡)により観察し、特
定することができる。
【0076】すなわち、TEM観察により得られるTE
M像においては、記録マーク部(非晶質部)はコントラ
ストの乏しい一様な領域として観察される。一方、マー
ク間のPe照射部(結晶部)は、その結晶化の度合いに
応じて結晶粒が観察され、十分に結晶化した場合には、
結晶方位により異なるコントラストを持つ微結晶の集合
体として観察される。この傾向は一般的にどのディスク
の記録膜でも同様である。
【0077】図4は、本実施形態の光ディスクのマーク
間部分の記録層のTEM像の一例を表す概略図である。
ここで、同図は、本実施形態の光ディスクにおいて、記
録層の堆積後に1回だけPeレベルのレーザビームを照
射した後の状態を表す。同図から分かるように、本実施
形態の記録層においては、マーク間のすべての部分にお
いて結晶粒が観察され、完全に結晶化して多結晶体とな
っている。また、その結晶粒径に着目すると、粒径が比
較的大きい結晶粒の周りを粒径が比較的小さい多数の結
晶粒が取り囲んで埋め尽くしている微細構造を有するこ
とが分かる。
【0078】一方、本実施形態の光ディスクに対して、
10回のオーバーライトを行い、マーク間部分の記録層
をTEM観察した結果、図4とほぼ同様のTEM像が得
られた。つまり、本実施形態の光ディスクにおいては、
記録層のマーク間の微細構造はas−depo.状態か
らの一回目の消去レベルのレーザ照射により完全に結晶
化して決定され、その後のオーバーライトにより変化し
ないことが分かった。
【0079】ここで、TEM観察のための試料の作成方
法について説明すると以下の如くである。すなわち、ま
ず、記録媒体に上述した方法により記録を行った後、金
属反射膜と基板とを除去し、金属メッシュ上にとって観
察サンプルとする。この際の基板の除去は、有機溶媒を
用いて行うことができる。しかし、試料作成の際に熱的
な影響が加わることを避ける必要がある。このため、イ
オンミリング法などを用いる場合にも、試料が150℃
以上に加熱されないように十分に注意する必要がある。
【0080】さて、図4に例示したようなTEM像を画
像処理により解析して、粒径分布を定量的に求めること
ができる。
【0081】図5は、本実施形態の光ディスクのマーク
間部分の結晶粒径の分布を表すグラフ図である。ここ
で、同図は、図4に例示したようなTEM像において符
号Aで表したような粒径20nm以上の大きい結晶粒の
出現頻度分布をプロットしたものである。図4の例で
は、前記少なくとも2つの異なる粒径のうちの小なる粒
径における極大値を中心とした分布に属する結晶粒が占
める割合は、面積比で約75%である。なお、この分布
は、TEM像において無作為に抽出した約8.5μm角
の領域において得られたものである。また、ここで「粒
径」とは、一個の結晶粒に注目した場合その最長径と最
短径とを測定し、その平均と定義する。
【0082】図5の(a)は、as−depo.状態か
ら1回だけ記録した場合を表し、(b)は、10回のオ
ーバーライトを行った場合を表す。同図5から、大きい
結晶粒は、概ね20〜100nmの範囲に分布している
ことが分かる。また、(b)で表したように10回のオ
ーバーライトを繰り返した後も、この結晶粒径の分布に
は実質的な差異が認められない。大きい結晶粒に属する
結晶粒の径の平均は、(a)では50.5 nm、
(b)では60.8 nmであった。以上の結果から、
本実施形態の光記録媒体は、as−depo.状態から
1回記録するだけで十分に結晶化が進行したことが分か
る。
【0083】ここで、図4において符号Aで表した大き
い結晶粒の粒径は、記録膜の組成や製造方法などの諸条
件に依存する傾向がある。しかし、本発明者が種々の相
変化記録媒体について比較検討をした結果によれば、大
きい結晶粒の粒径は、概ね20〜100nmの範囲にあ
ることが判明した。
【0084】また、図4に示したように、符号Aで表し
た大きい結晶粒の周りに多数の微細な結晶粒があること
が分かる。この微細な結晶粒についても、同様に粒径の
分布を測定した。
【0085】図6は、微細な結晶粒の粒径分布を表すグ
ラフ図である。ここで、同図は、図4に例示したような
TEM像において符号Bで表したような粒径20nm以
下の小さい結晶粒の出現頻度分布をプロットしたもので
ある。なお、この分布は、as−depo.状態から1
回だけ記録した試料のTEM像を観察し、無作為に抽出
した約2μm角の領域において観察された20nm以下
のサイズの約300個の結晶粒の出現頻度分布の例をグ
ラフ化したものである。
【0086】図6から、小さい結晶粒の粒径は、概ね4
〜20nmの範囲に分布していることが分かる。分布の
極大値に対応する粒径は約7〜8nmであった。また、
10回のオーバーライトを繰り返した後においても、こ
の分布は実質的に変化しなかった。
【0087】これに対して、従来の光ディスクの場合を
説明すると以下の如くである。 すなわち、従来の光デ
ィスクの場合には、1回のPeレベルのレーザ照射では
結晶化せず、結晶粒は観察されないが、オーバーライト
を繰り返すと結晶化が進行し、Pe照射部において比較
的大きい結晶粒が観察されるようになる。その粒径分布
を画像処理により解析すると、記録膜の組成に応じて粒
径は異なるが、ある平均値を中心にある範囲に単一的に
分布しており、複数の極大値はもたない。たとえばGe
Sb Te の場合は、粒径70〜150nm
の範囲に分布しており、結晶化部はこのようなサイズの
結晶粒に埋め尽くされている。すなわち、記録層は、大
きい結晶粒により埋め尽くされ、粒径分布は単一の極大
をもつ。
【0088】従来の光ディスクを、初期化装置によって
初期化した場合も同様である。すなわち、70〜150
nm程度の粒径をもつ比較的大きい結晶粒により埋め尽
くされることが分かった。
【0089】以上、従来の光ディスクと比較しつつ説明
したように、本実施形態の光ディスクの特徴は、消去レ
ベルのレーザビームを1回だけ照射しただけで十分に結
晶化がおこり、その粒径分布が大きい結晶粒と微細な結
晶粒の2つの極大値を有することである。
【0090】本実施形態の光ディスクの記録層において
は、as−depo.状態でも、結晶化の初期核となり
得る多数のきわめて小さい微細規則構造がすでに存在し
ている。このような微細規則構造は、0.5〜4nm程
度の微細結晶核を有する。
【0091】本実施形態の記録膜は、従来の初期化装置
によって初期化した場合も同様の微細構造を示す。すな
わち、4〜20nm程度の微細結晶粒に取り囲まれて2
0〜100nmの粗大な結晶粒が存在する状態となる。
この場合にも、多くの結晶粒の粒径が微細であることか
ら、非晶質から結晶化する際の結晶化時間が短くて済
む。すなわち、より高線速に適した記録膜であり、消去
率の向上に効果がある。
【0092】また、本実施形態の光記録媒体は、TEM
像において、小さい粒径に属する結晶粒が全体に対する
面積比で20%以上90%以下であることを特徴とす
る。さらに、本発明者の検討の結果によれば、この面積
比が40%以上80%以下の場合により安定して確実な
結晶化を実現できることが分かった。すなわち、結晶化
してこのような粒径分布を示す場合に、結晶核生成と結
晶成長とのバランスが最も良好で、高い消去率が実現で
きると共にas−depo.記録にも適した記録膜とな
る。
【0093】本実施形態による独特の構成を有する光記
録媒体を製造する方法としては、例えば、前述したよう
にクリプトン(Kr)及び/またはキセノン(Xe)を
スパッタガスとして用いる方法を挙げることができる。
【0094】KrやXeがゲルマニウム(Ge)、アン
チモン(Sb)、テルル(Te)などのスパッタ粒子に
対して冷却効果に優れる理由をより詳細に説明すると以
下の如くである。すなわち、スパッタ法による成膜に際
しては、ターゲットからたたき出されたスパッタ粒子は
基板に到達する過程で雰囲気ガス粒子に衝突する。その
際に失う運動エネルギーは衝突の相手の質量に依存す
る。剛体衝突モデルで近似すると、入射粒子と衝突する
相手ガスの粒子が同一の質量を持ち、衝突する相手が静
止していると仮定すると、正面衝突ならば入射粒子の運
動エネルギーは100%相手の粒子に移動する。正面衝
突以外では衝突パラメータ(インパクトパラメータ)に
応じた割合で運動エネルギーが移動するが、全衝突パラ
メータに関して積分すると、同一種類の粒子同士の衝突
では一回あたり、平均して半分の運動エネルギーが相手
に移動する。剛体衝突モデルを仮定すると、衝突する粒
子の質量をm1 、衝突される粒子の質量をm2 として、
失うエネルギーの割合は、2m1 m2 /(m1 +m2 )
と表される。
【0095】Ge、Sb、Te原子の優勢な質量数はそ
れぞれ、73、122、123である。たとえば、Sb
がAr(質量数40)に衝突する場合、持っていたエネ
ルギーの37%しか移動しないのに対し、Xeに衝突す
る場合は50.0%が移動する。一個の粒子が複数回の
衝突を経る場合は、特にガス種による違いが顕著とな
る。一般に、衝突する二個の粒子同士の質量数が近い
程、効率良く運動エネルギーを失う。このためスパッタ
粒子がKr、Xeに衝突する過程を経ると、十分にその
エネルギーが低下し、すなわち温度が低くなって基板に
到達することになる。そのため、基板上において室温ま
で持ち来される過程での冷却速度が小さくなり、そのた
めに膜のランダムネスが小さくなる。その結果として、
光記録後の非晶質部に近いランダムネスを持った非晶質
が得られる。ここで、スパッタ粒子が運動エネルギーを
失う程度は衝突頻度も依存するが、衝突頻度νはν=1
/nσ(σは衝突断面積、n=p/kTはガス粒子密
度)と表され、雰囲気ガス圧によって好適な範囲に調節
することができる。
【0096】以下、具体的な実施例を例示しつつ本実施
形態の実施の形態についてさらに詳細に説明する。
【0097】(実施例1) 図7は、本実施形態の第1実施例に係る相変化光記録媒
体の概念断面図である。 同図において、201は基
板、202は第1干渉層、203は記録層、204は第
2干渉層、205は反射層である。この媒体は、以下の
手段で作製した。まず、0.6μm幅のグルーブが設け
られたポリカーボネイト製の光ディスク基板201を多
室スパッタリング装置の基板ホルダーに装着する。そし
て、ZnS−SiO2コンポジットターダットを具備す
るスパッタ室において、RFスパッタ法により膜厚80
nmの第1干渉層202を成膜し、次にGeSbTeタ
ーゲットを具備するスパッタ室においてDCスパッタ法
により膜厚20nmの記録層203を成膜し、続いてZ
nS−SiO2コンポジットターゲットを具備するスパ
ッタ室において、RFスパッタ法により膜厚30nmの
第2干渉層204を成膜し、最後にAlターゲットを具
備するスパッタ室において、DCスパッタ法により膜厚
50nmの反射層205を成膜する。
【0098】ここで、記録層203以外の成膜には純A
rを用いてスパッタしたが、記録層203の成膜に際し
てはスパッタガスとしてAr+Krの混合ガスを用い
た。ガスの組成はAr:Kr=1:10とし、全圧は
4.0Paとした。ガス圧を測定する真空計は全圧測定
に適したダイアフラムゲージを用い、その測定子はガス
導入口の直近ではなく、ガス圧の位置分布の影響を受け
ない位置に設置した。成膜終了後に取り出したディスク
基板にもう一枚のダミー基板(厚さ0.6mm)をUV
樹脂で接着し、評価媒体とした。
【0099】この記録媒体を線速一定の条件で評価し
た。記録膜はas−depo.状態のままで、線速8.
2m/秒、クロック周波数116.45MHzの3T信
号をas−depo.のディスクに記録したところ、5
2.5dBのCNRを得た。また、やはりas−dep
o.状態の異なるトラックに3Tから11Tまでのラン
ダム信号を記録したところ、8.2%のジッタ値を得
た。このトラックにオーバーライトを操り返したとこ
ろ、10回目で8・4%となった。さらにオーバーライ
トを繰り返し、100回、1000回後にジッタ値を測
定したが、いずれも8〜9%の範囲であった。
【0100】このように、as−depo.のトラック
に直接記録することで良好なジッタと繰り返し特性を得
ることができた。
【0101】次に、本実施形態の記録膜に形成された結
晶化部の結晶状態をTEMで調べた。まず、as−de
po.トラック上に上記の線速及び記録クロック周波数
で11T信号で変調したレーザビームを一回だけ照射し
てマーク列を形成し、再生信号波形を観察した。この実
験において、消去レベルのレーザパワーPeとマーク間
からの再生信号レベルの関係を測定したところ、Pe=
4.5mWで最小になった。ここで、再生信号レベル
は、レーザビームが読み出しているトラックからの反射
率を反映する。従って、再生信号レベルの最小は最適な
結晶化条件であることを示す。このようにして最適消去
パワーを見出した。
【0102】次に、TEM観察を行う試料を形成した。
すなわち、別のas−depo.トラックにPe=4.
5mW、Pw=12mWでディスク一回転分だけ11T
信号の書き込みを行った。TEM試料として観察しやす
いように、これを複数のトラックに対して行った。この
部分を以下に「as−depo.記録部」と称する。ま
た、比較のために、別のトラックに対して同じ記録条件
で複数回のオーバーライトした試料も作製した。そし
て、Al反射層205と基板201を除去し、金属メッ
シュ上にとって観察サンプルとした。Al反射層205
は膜にメッシュ状の傷をつけ、テープを接着剤で貼り付
けてはがす方法によって除去した。また、基板201は
有機溶剤により溶かし去った。これらの方法によれば、
結晶状態に変化を及ぼすような熱過程は存在しない。
【0103】まず、as−depo.記録部のマーク間
部分のTEM明視野像を観察した。この結果から、消去
部分は図4に例示したものと同様の多結晶体であり、T
EMで分解できない微結晶あるいは非晶質の部分は特に
観察されなかった。個々の結晶粒はその結晶方位により
異なるコントラストを持つ微結晶の集合体として観察さ
れた。
【0104】撮影したTEM像をもとに、結晶粒の粒径
を測定し、その出現頻度を調べた。解析の結果、as−
depo.記録部のPe照射領域、繰り返しオーバーラ
イト後のPe照射領域の両方とも、8nmを中心として
4〜20nmの範囲に属する微細な結晶粒と、20〜1
00nmの範囲に分布する大きい結晶粒の2種類に明確
に区別出来ることが判明した。これらの大きい結晶粒と
微細な結晶粒の粒径分布を解析すると、図5及び図6と
ほぼ同様のグラフが得られた。
【0105】このように、as−depo.記録に適し
た本実施形態の記録膜の特徴は、一回だけ消去レベルの
レーザを照射することにより多結晶化し、形成される結
晶粒の粒径分布が、20〜100nmの範囲に分布する
比較的に大きい粒径の結晶粒と、その周りを埋め尽くす
4〜20nmの範囲に分布する結晶粒とによって構成さ
れることが判明した。言い換えれば、粒径の出現頻度を
粒径に関する関数として考えたときに、その分布が複数
の極大をもつことが特徴であることが判明した。また複
数回オーバーライトした場合でも同様に、結晶化部の粒
径分布は同様に複数の極大を持つことが判明した。
【0106】本実施例では記録膜にGeSbTeを用い
たが、このほかInSbTe、AgInSbTe、Au
InSbTe系やその他の相変化記録膜、またそれに添
加元素を加えた材料系に対しても当然本実施形態の効果
が生じる。また繰り返し可能媒体のみならず、いわゆる
CD−R、CD−RWなどの一回書込み型、複数回書き
込み型の記録媒体としても効果を発揮する。
【0107】(比較例) 上記実施例に対する比較のため、記録膜203の成膜プ
ロセスを通常のプロセスで形成した光ディスクを用意
し、同様の実験を行った。ここで、ディスクの膜構成、
膜厚は実施例と同一である。成膜は、記録膜以外は第1
実施例と同一の方法によった。記録膜は、スパッタガス
にArを用い、ガス圧を1.0Paに調節した。
【0108】本ディスクに対し、まず、as−dep
o.トラック上に第1実施例と同様の線速及び記録クロ
ック周波数で11T信号で変調したビーム照射を一回行
ってマーク列を形成し、再生信号波形を観察した。その
結果、Pe照射部分からの信号レベルは一回のPe照射
では十分に下がらなかった。さらにPeを変えて実験し
たが、2.5mW未満ではまったく変化が見られず、
2.5mW以上、6mW未満ではやや反射率低下が見ら
れたが飽和レベルにはほど遠く、as−depo.部か
らの信号レベルに近かった。また、6mW以上のパワー
では反射率低下は、まったく見られなかった。これは、
パワーが高すぎて記録層が部分的に溶融し、冷却時に再
非晶質化したことによるものと考えられる。
【0109】Pe=2.5mW以上、6mW未満として
2回以上のオーバーライトすると、オーバーライトの繰
り返しで徐々に反射率が下がった。5回以上のオーバー
ライトによってPe照射部からの信号レベルは飽和レベ
ルに達した。そこで、実使用時の最適Peレベルを、1
0回オーバーライト時のマーク間からの信号レベルがも
っとも低くなるパワーとし、求めたところ、その値はP
e=4.0mWであった。
【0110】次に、TEM観察を行う試料を形成した。
すなわち、異なるas−depo.トラックにPe=
4.0mW、Pw=12mWでディスク一回転分だけ1
1T信号の書き込みを行った。TEM試料として観察し
やすいように、これを複数のトラックに対して行った。
この部分を「as−depo.記録部」と称する。ま
た、比較のため別なトラックに対し同じ記録条件で複数
回のオーバーライトした部分も用意した。
【0111】次に、Al反射膜と基板を除去し、金属メ
ッシュ上にとって観察サンプルとした。まず、一回のみ
記録した部位の個M像を観察したところ、Pe照射部
は、as−depo.記録した場合は一様なコントラス
トで結晶粒が判然とせず、依然として非晶質であること
が分かった。これは、同部分の電子線回折パターンとし
てハロー状のパターンしか観察されなかったことからも
裏付けられる。また、記録マーク部(非晶質)はコント
ラストに乏しい一様な領域として観察された。
【0112】一方、同ディスクに繰り返しオーバーライ
トした場合のPe照射部は結晶粒が明らかであった。そ
の粒径分布を画像処理により解析すると、ほとんどの粒
径が70〜150nmの範囲にあることが判明した。
【0113】図8は、個々の結晶粒径を測定し、出現頻
度をプロットしたグラフ図である。すなわち、同図は、
TEM写真上において任意に得られた約4.5μm角の
領域から、すべての結晶の粒径の出現頻度分布をプロッ
トしたものである。図8からわかるように、従来の光デ
ィスクにおいては、粒径の分布は単一の極大をもち、そ
の極大値は110nm程度であった。つまり、記録層
は、比較的大きな結晶粒によってほぼ埋め尽くされてい
ることが分かった。
【0114】また、比較のために2回記録を行ったトラ
ックについて同様のTEM観察で調べたところ、十分に
結晶化が進行しておらず、結晶粒が部分的に認められた
ものの、それ以外の大部分の領域は非晶質状態であるこ
とが判明した。
【0115】(実施例2) 以下、本実施形態の第2の実施例に係る相変化光記録媒
体について説明する。
【0116】本実施例の相変化光記録媒体も、図7に表
したものと同様の断面構成を有する。但し、各層の膜厚
は、記録膜203が結晶状態の時に反射率が高くなる、
いわゆるHigh−to−Lowの構成に合わせて設計
した。
【0117】すなわち、各層の材料は本実施形態の第1
実施例と同様にしつつ、第1干渉層202の膜厚を16
0nm、記録層203の膜厚を20nm、第2干渉層2
04の膜厚を5nm、反射層205の膜厚を150nm
とした。記録媒体の作成手順も、本実施形態の第1実施
例と同様とした。
【0118】次に、このようにして作成した記録媒体を
初期化装置にかけ、全面初期化を行った。使用した装置
のレーザビームは、95μm×1μmのサイズの長円形
ビームである。初期化条件は線速2m/秒とし、送りピ
ッチ12μm、レーザパワー300mWとした。
【0119】次に、このようして初期化した記録媒体
を、線速一定の条件で評価した。まず、線速8.2m/
s、クロック周波数116.45MHzの3T信号を記
録したところ、51.2dBのCNRを得た。さらに、
本ディスクの別の初期化部に11T信号を一回記録した
ところ、11TのCNRとして56.5dBと良好な値
を得た。
【0120】次に、この11T信号を3T信号によりオ
ーバーライトしたところ、その信号強度は以下の如くで
あった。
【0121】 ここで、「有効消去比」とは、書き込んだ11T信号の
信号強度とオーバーライトされた3T信号の信号強度と
の差として定義される。
【0122】次に、やはり初期化した異なるトラックに
3Tから11Tまでのランダム信号を記録したところ、
9.5%のジッタ値を得た。このトラックにオーバーラ
イトを繰り返したところ、8〜9%の範囲で推移し、極
めて良好なジッタ特性を有することが確認された。
【0123】このように良好な繰り返し特性を得ること
ができた理由は、消去率が34.7dBと良いことから
もわかるように、記録した非晶質マークがオーバーライ
トで十分良く消去できたことに起因する。
【0124】次に、本記録膜の結晶状態をTEMで調べ
た。観察したのはディスクのうちの初期化しただけで何
も記録していない部分である。ここで、比較のために、
初期化部分に多数回のオーバーライトを行ったトラック
も形成した。
【0125】第1実施例と同様の方法で試料を作成し、
まず、初期化部のTEM明視野像を観察した。その結果
は図4に例示したものと同様で明らかに多結晶であり、
TEMで分解できない微結晶あるいは非晶質の部位は特
に検出されなかった。個々の結晶粒はその結晶方位によ
り異なるコントラストを持つ微結晶の集合体として観察
された。 撮影したTEM像をもとに、結晶粒の粒径を
測定し、その出現頻度を調べた。方法は、8μm角の範
囲で明視野像を撮影し、まず大きい粒径に属する結晶粒
の径を測定した。具体的には、それぞれの結晶粒の最長
径と最短径を測定し、その平均をとって記録した。個々
の結晶粒の径は20〜100nmの範囲に分布してお
り、その平均は60nmであった。
【0126】次に、それ以外の部分の小さい粒径に属す
る結晶粒を高倍率で観察したところ、どの部分も4〜2
0nmの粒径をもつ比較的小さい結晶粒の集まりであっ
た。
【0127】また、オーバーライト繰り返しで形成され
た結晶部の観察では、同様に大きい結晶粒と、それを取
り囲んで微細な結晶に埋め尽くされた部分に分けられる
事が判明した。
【0128】なお、本実施例においても記録膜203の
材料としてGeSbTeを用いたが、このほかInSb
Te、AgInSbTe、AuInSbTe系やその他
の相変化記録膜、またそれに添加元素を加えた材料系に
対しても当然本実施形態の効果が生じる。また繰り返し
可能媒体のみならず、いわゆるCD−R、CD−RWな
どの一回書込み型、複数回書き込み型の記録媒体として
も効果を発揮する。
【0129】以上、具体例を例示しつつ本実施形態の実
施の形態について説明した。しかし、本実施形態はこれ
らの具体例に限定されるものではない。
【0130】例えば、上記した具体例では、光ディスク
として、基板からZnS−SiO/GeSbTe/
ZnS−SiO /Alをスパッタ成膜した4層構造
のものを例示した。しかし、これ以外にも、例えば、こ
れにAu半透明膜を挿入した5層構造のものでも良く、
また、記録層のスパッタ条件や初期化条件が本実施形態
の実施にとって重要である他は、特に各層の膜材料、膜
厚、記録膜以外の成膜方法・条件には制約されない。
【0131】例えば、5層膜構造の場合に、半透明層と
しては、Auの他に銀(Ag),銅(Cu),シリコン
(Si)などや、誘電体母材中に金属微粒子を分散した
構造の膜を用いることができる。
【0132】また、5層構成の半透明膜のかわりに、屈
折率の異なる2種類以上の透明膜材料を用いた2層以上
の積層膜を用いることもできる。例えば、膜厚を適切に
選んだZnS膜あるいはZnSとSiOとの混合
膜、同じくSiO 膜、同じくZnS膜あるいはZn
SとSiO2 との混合膜、を順に積層した膜を用いる
ことにより、さらに高密度記録に適した媒体を提供でき
る。
【0133】また、干渉層としては、ZnS−SiO
以外に、Ta ,Si ,SiO
,Al ,AlN等の誘電体膜材料、記録
層としてはGeSbTeの他にInSbTe,AgIn
SbTe,GeTeSeなどのカルゴゲン系膜材料、反
射層としてはAlの他にも、AlMo、AlCr、Al
TiなどのAl合金系膜材料などから適宜選択して用い
ることができる。
【0134】さらに、上述した具体例においては、光記
録媒体の一例として光ディスクを例に挙げて説明した
が、本実施形態はこれに限定されるものではなく、その
他にも、例えば、光記録カードなど種々の形態の光記録
媒体に同様に適用し、同様の効果を得ることができる。
【0135】本実施形態は、以上説明した形態で実施さ
れ、以下に説明する効果を奏する。
【0136】まず、本実施形態によれば、記録膜の初期
結晶化という付加的な工程を経ることなく、as−de
po.状態で直ちに使用でき、かつ記録特性、高繰返し
オーバライト特性に優れた光記録媒体を提供できる。
【0137】その結果として、初期結晶化に必要な設備
投資、運転費用、時間を削減し、より安価且つ高性能な
光記録媒体を提供できる。
【0138】例えば、従来の光記録媒体の場合には、デ
ィスク1枚あたりの成膜工程のタクトタイムが数秒であ
るのに対して、初期化工程のタクトタイムが数分もかか
り、製造上の大きなボトルネックとなっていた。これに
対して、本実施形態によれば、このような初期化工程を
削減することができ、製造スループットを大幅に改善す
ることもできる。
【0139】(第3の実施の形態) 次に、本発明の第3の実施の形態について説明する。
【0140】本実施形態は上記した目的を実現する手段
として、外部からの光照射によって結晶相と非晶質相と
の間の相変化を生ずる記録層を備えた相変化光記録媒体
であって、前記記録層は、クリプトンとキセノンの少な
くともいずれかを含有することを特徴とする相変化光記
録媒体を提供する。
【0141】ここで、前記記録層における前記クリプト
ンとキセノンの含有率は、あわせて0.2〜10at.
%(原子パーセント)の範囲内であることが望ましい。
【0142】これは、スパッタ成膜直後すなわちas−
depo.の状態での記録層の非晶質状態を光記録後の
非晶質状態に近づけ、初期結晶化工程無しに記録再生動
作を可能とするものである。
【0143】本発明者は、as−depo.の状態で好
適なランダムネスを持った非晶質を制御性よく成膜する
方法として、膜中にクリプトン(Kr)及び/またはキ
セノン(Xe)を含有し、特にKr及び/またはXeの
原子分率が0.2〜10%の場合に光記録媒体の記録膜
として最も好適な特性が得られることを見出した。
【0144】このようにして形成された相変化光ディス
クのアズデポの状態に非晶質マークの記録を実行する
と、独特の構成が形成される。すなわち、マーク間が結
晶化してトラック幅よりも狭い結晶化バンド中に非晶質
マークが点在する状態となる。ここで、マークの幅は結
晶化バンドよりも狭いか若しくは等しい。等しい場合に
は非晶質部がネットワーク状に連結し、その中に結晶化
したマーク間領域が存在する状態となる。線速が速くな
くて、非晶質マーク端部が結晶化する場合には、トラッ
ク幅よりも若干狭い結晶バンドが形成され、そのバンド
中にバンド幅よりも若干狭い非晶質マークが存在する状
態となる。結晶バンドの間の領域はスパッタ形成直後の
非晶質状態を保持する。
【0145】すなわち、本実施形態は、光検出側から見
て、結晶部の反射率(Rc)が非晶質部の反射率(R
a)よりも低く調整された相変化光ディスクにおいて、
記録状態が、トラック幅よりも狭い結晶バンド中に、こ
の結晶バンドと幅が等しいか狭い非晶質マーク列を有す
る態様を呈する事を特徴とする相変化光ディスクを、更
には、光検出側から見て、RcがRaよりも低く調整さ
れた相変化光ディスクにおいて、アドレス部の相変化記
録層が非晶質状態にあることを特徴とする相変化光ディ
スクを、提供するものである。
【0146】結晶バンドと非晶質マークの幅が等しい形
態では、非晶質マークの端部は結晶バンド間の非晶質バ
ンドと連結する形態を取る。この場合マーク幅は定義し
にくいが本実施形態においては、マーク幅と非晶質バン
ドが連結している形態におけるマーク幅は結晶バンドと
一致すると定義する。
【0147】また、一般的に光ディスク基板にはトラッ
キングガイド用の溝(グループ)が設けられ、この上に
媒体膜が成膜されるので、トラック間の領域はグループ
段差部となる。本実施形態の光ディスクは、このグルー
プ段差部の少なくとも一部が非晶質状態にあることを特
徴とする。トラック間の非晶質状態は、未記録状態のデ
ィスクに少なくとも1回記録を行った後に形成されてい
れば良く、多数回のオーバーライト後は、トラック間が
結晶状態に移行するものであってもよい。少なくとも1
回記録後にトラック間が非晶質なのか、結晶なのかは、
例えば、電子ビームを絞って照射する電子線回折法によ
り判断することができる。
【0148】以下、図面を参照しつつ本実施形態の実施
例について説明する。
【0149】図9は、本実施形態の実施例にかかる相変
化光ディスクを表す概略断面図である。同図において、
301は基板、302は第1干渉層、303は記録層、
304は第2干渉層、305は反射層である。図9の光
ディスクは例えば以下の方法で作製できる。まず、0.
6μm幅のグルーブが設けられたポリカーボネイト製光
ディスク基板301を多室スパッタリング装置の基板ホ
ルダーに設置する。
【0150】図10は、本実施形態の実施に使用したス
パッタリング装置の要部概略構成図である。すちわち同
図において、311はスパッタ室、312はディスク基
板、313はスパッタリングターゲット、314はスパ
ッタリング源、315はスパッタ電源、316はガス導
入系、317は排気系、318は基板表面マイグレーシ
ョン制御系である。図10のスパッタ室は、記録層30
3の形成に使用したものであり、他の各層については図
10と類似構成の他のスパッタ室においてそれぞれのス
パッタリング方法・条件を用いて成膜した。
【0151】基板301は、まず、ZnS−SiO
ンポジットターゲットを具備するスパッタ室に搬送さ
れ、RFスパッタ法により膜厚約80nmの第1干渉層
302を成膜する。次に、GeSbTeターゲットを具
備するスパッタ室に搬送してDCスパッタ法により膜厚
約20nmの記録層303を成膜する。続いて、ZnS
−SiOコンポジットターゲットを具備するスパッタ
室に再び搬送して、RFスパッタ法により膜厚約30n
mの第2干渉層304を成膜する。最後に、Alターゲ
ットを具備するスパッタ室に搬送して、DCスパッタ法
により膜厚約50nmの反射層305を成膜する。
【0152】ここで、記録層303の成膜時には、スパ
ッタガスとしてArとXeとの混合ガスを用いた。ガス
の組成はAr:Xe=1:4とし、ガス圧は2.0Pa
とした。
【0153】記録層3の成膜と同一条件で成膜した試料
をラザフォードバックスキャタリング(RBS)で分析
したところ、含有されるXeの組成は2.5原子%であ
ることが判明した。
【0154】この光ディスクを初期結晶化工程に供する
ことなく、線速一定の条件で評価した。線速8.2m/
秒で、DVD規格にのっとりクロック周波数116.4
5MHzの3T信号をas−depo.のディスクに記
録した結果、52.5dBのCNR値を得た。やはりa
s−depo.の異なるトラックに3Tから11Tまで
のランダム信号を記録したところ8.5%のジッタ値を
得た。このトラックにオーバーライトを繰り返したとこ
ろ徐々にジッタ値が低下し、10回目で8.4%となっ
た。さらにオーバーライトを繰り返し、100回目、及
び1000回目でのジッタ値を測定したが、どちらも8
〜9%の範囲であった。
【0155】このように、本実施形態によれば、初期結
晶化が必要とされず、as−depo.のトラックに直
接記録しても良好なCNR、繰り返し特性を得ることが
できた。
【0156】本発明者は、記録層303に含有される希
ガスの量とディスクの特性との関係についてさらに詳細
に検討した。
【0157】図11は、記録層に含有されるKr量と3
Tジッタ特性との関係を示すグラフ図である。ここで、
Krの含有量は、RBSにより測定した。また、記録層
へのKrの含有比は、記録層の成膜時のKrガス圧力、
成膜速度、基板バイアスなどに依存する。すなわち、ガ
ス圧力が高い程、あるいは成膜速度が遅い程、膜中へK
rが取込まれる傾向がある。また、基板バイアスパワー
に対しては、適当なバイアス印加時に最もKr含有比が
高くなった。一般に、Krの含有量が多い程、記録層の
ランダムネスが低下し、光記録後の非晶質状態に近づく
ものと考えられる。
【0158】図11において、塗りつぶしのプロット
は、成膜後初期化せずに1回3Tマーク列を記録した時
のジッタ量を示し、白抜きのプロットは、3Tマーク列
記録とDC消去とを100回繰り返した後に3Tマーク
列を記録した時のジッタ量を示す。ここで、グラフの縦
軸のジッタ量はウィンドウ幅に対するパーセント表示と
した。
【0159】ドライブとしての実用的な動作マージンを
含めた3Tジッタ許容量の目安は8%である。ジッタが
これ未満の場合には、信頼性の高い低BER(bit erro
r rate)動作が確保され、これ以上の場合は信頼性に欠
けることを意味する。図11から明らかなように、初期
記録ジッタ(黒丸)は、Kr含有比が0.2at%(原
子パーセント)未満では8%よりも高く、低BER動作
が困難なことが判る。一方、Kr含有比が20at%以
上ではジッタが再度8%を超えた。すなわち、これらの
間の含有量において、良好なジッタ特性が得られること
が分かった。
【0160】Kr含有比0.2at%未満でジッタが高
い理由は、この範囲では成膜時の記録層の冷却速度の緩
和が不十分であり、近距離秩序状態の形成が不足して、
無初期化の非晶質状態からの結晶化が困難なためであ
る。一方で、Kr含有比20at%以上でのジッタの急
激な上昇は、CNRの低下によるものであり、信号振幅
が低下したことによる。これは、20at%以上もの過
剰なKrを含有する記録層では、結晶と非晶質間の光学
的特性の変化が少なくなることに起因すると考えられ
る。
【0161】繰返し記録後のジッタ(白丸)は、Krを
含有しない従来技術の記録層(図11の左端の白丸。こ
こで、左向き矢印の0中の“0”はKrを含有しないこ
とを意味する。)から、Kr含有比10at%の膜まで
十分に低い値を保持し、10at%以上でジッタは急激
に増加する。Krを10at%以上含有する膜の場合に
は、加熱冷却サイクルを繰り返すことによって、記録層
中の原子拡散が進行して相分離状態になるためである。
従って、初期化工程を経ることなく、初回記録から繰り
返し記録後に亘り低ジッタ動作が可能なKr含有比の範
囲は0.2〜10at%の範囲であることが判る。同様
の実験をXeについても実施した結果、0.2〜12a
t%とKrよりもやや広い範囲で初回記録から繰り返し
記録に亘り低ジッタ特性が得られた。
【0162】すなわち、本実施形態によれば、KrやX
eなどのガスを用いてスパッタリング成膜するととも
に、これらのガスが所定の組成範囲で含有されるような
成膜条件を選択することにより、as−depo.状態
での短距離秩序状態を促進し、初期結晶化工程を経るこ
となく、極めて良好な光書込み特性を得ることができ
る。
【0163】なお、本実施形態では記録層の材料として
GeSbTeを用いたが、この他にもInSbTeやそ
れに添加元素を加えた材料系についても当然に本実施形
態の効果が生じる。また繰り返し可能媒体のみならず、
いわゆるCD−R(compact disc-recordable),CD
−RWなどの一回書込み型、複数回書き込み型の記録媒
体としても効果を発揮する。
【0164】次に、本実施形態において記録後のトラッ
クの状態を調べた実施例について説明する。
【0165】図12は、本実施形態の光ディスクの概略
構成を表す断面図である。すなわち、本実施形態の光デ
ィスクは、基板321の上に、半透明膜322、下側干
渉膜323、記録層324、上側干渉膜325、反射膜
326がこの順番に積層された構成を有する。基板32
1は、プリフォーマットされた直径:120mm、板
厚:0.6mmのポリカーボネイト基板であり、プリピ
ット列からなるアドレス部とプリグルーブの形成された
データ部とからなる。基板321の作成方法は、通常の
原盤マスタリング、メッキによるスタンパー作成、スタ
ンパー上へのポリカーボネイト樹脂のインジェクション
形成である。本実施形態では、グルーブGとランドLの
トラック幅はいずれも、第1世代DVD−RAM(digi
tal versatile disc-random access memeory)規格の
0.74μmとし、グルーブGの深さDはクロストーク
キャンセル仕様の70nmとした。
【0166】この基板321の上に形成した各層は、基
板面から順番に、膜厚10nmのAu半透明層322、
膜厚85nmのZnS−SiO下側干渉層323、膜
厚10nmのGeSbTe記録層324、膜厚30nm
のZnS−SiO上側干渉層325、膜厚100nm
のAlMo反射層326である。ZnS−SiOの組
成は下側、上側共にSiOが20at.%とし、Ge
SbTeはGe:Sb:Te=2:2:5の標準的な組
成とした。この構造の光ディスクの光学的な設計値(ミ
ラー面)は、Rc(結晶部の反射率)が5%で、Ra
(非晶質部の反射率)が20%で、Ac(結晶部の吸収
率)/Aa(非晶質部の吸収率)が1.3であり、典型
的な吸収率調整形LtoH構造である。
【0167】また、結晶部と非晶質部の反射光の位相差
は零に調整された膜構造である。記録層324以外の各
層の形成は、全て通常の実験で使用される典型的なスパ
ッタリング方法と条件により行った。すなわち、スパッ
タ方法として、マグネトロンスパッタリング方法を用
い、スパッタガスとして純Arガス、ガス圧力は0.6
7Pa、ターゲットへの投入パワーは数10〜数100
W、基板は無バイアスとした。
【0168】一方、GeSbTe記録層324の成膜
は、本実施形態による独特の手法と条件を用いた。その
形成方法について図10を参照しつつ以下に説明する。
まず、半透明層322と下側干渉層323が形成された
基板321を記録層を形成するためのスパッタ室311
内に搬送し、図10に示した様なターゲット313に対
向する基板ホルダに取り付ける。そして、スパッタ室3
11を真空排気後、ガス導入系316から20%のKr
ガスを含有するKrとXeの混合ガスをトータル流量2
00sccmで導入した。排気系317のコンダクタン
スを調整してスパッタ室311内部のガス圧力を6.7
Paに調整した後、スパッタ源314に電源315から
50WのRFパワーを投入し、同時に表面マイグレーシ
ョン制御系318を動作して基板上に10Wの弱いRF
パワーを投入し、GeSbTeターゲット313を5分
間バイアスマグネトロンスパッタして、下側干渉層32
3の上に膜厚10nmのGeSbTe記録層324を形
成した。
【0169】通常のスパッタとの違いは、(1)スパッ
タガスとしてKrとXeとの混合ガスを用いGeSbT
eスパッタ粒子が気相中でエネルギーを失いやすくした
点、 (2)ガス圧力を高く設定してGeSbTeスパッタ粒
子の気相中での冷却を助長し、且つターゲットへ入射す
るガスイオンのエネルギーを低くしスパッタ粒子がター
ゲットから放出する時のエネルギーを低く調整した点、 (3)スパッタ源に投入するパワーを比較的低く設定
し、スパッタ粒子の放出時のエネルギーをさらに低下さ
せた点、 (4)基板に弱いバイアスを印加してポリカーボネイト
基板21が熱的にダメージを受けない範囲で、成膜中基
板上にガスイオンを入射させて、基板上でのスパッタ粒
子の表面マイグレーション時間を長くした点である。
【0170】上記したような相違点は、基板へ入射する
スパッタ粒子のエネルギーを低くし、かつ基板上でラン
ダムな液相状態から固相状態へと転移する間の時間を長
くする即ちスパッタ粒子の冷却速度を低下させる上で効
果的である。この様な手段によって、スパッタ成膜過程
におけるGeSbTeスパッタ粒子の冷却速度を従来法
の1012K/秒から、光記録時の1010K/秒のオ
ーダまで遅くすることができ、それによって成膜直後の
非晶質状態を光記録時の非晶質状態に近づけることがで
きる。
【0171】成膜直後の非晶質状態を光記録時の非晶質
状態に近づけるためには、前記の記録層材料に合わせた (1)スパッタガスの選定、 (2)ガス圧力の増加、 (3)スパッタパワーの低下、 (4)基板バイアスの印加の全てを同時に行う必要性は
無く、適宜幾つかを組合せて実施しても効果的である。
【0172】また、上記手段に加える付加的な手段とし
て、 (5)成膜中に基板を数10℃程度まで加熱する、 (6)副次的なイオン源を備えて成膜中基板面にイオン
シャワーを照射する、等の手段により、スパッタ粒子の
基板上での表面マイグレーションを助長し、あるいはタ
ーゲット面から放出したスパッタ粒子をイオン化して減
速電界中を通過させる方法も効果的である。
【0173】さらに、 (7)ターゲットと基板の間の距離を離す、 (8)ターゲットに対して基板を偏心させてターゲット
面から斜めにスパッタ放出した粒子のみで成膜する、等
の手段で基板に入射するスパッタ粒子のエネルギーを低
下させる方法も効果的である。
【0174】これらの方法を適宜組合せることにより、
スパッタ成膜直後の非晶質状態を光記録時の非晶質状態
に近づけることが可能である。また、上記した例はいず
れも記録層24の成膜を最も実用的なスパッタリング法
で実施する場合を挙げたが、基板へ入射する記録層の材
料粒子のエネルギーを低く設定する限りにおいては、真
空蒸着法、ガス中蒸着法、MBE(molecular beam epi
taxy)法、プラズマCVD(chemical vapor depositio
n)法、MOCVD(metal-organic chemical vapor de
position)法等を記録層の成膜に適用することも効果的
である。
【0175】さて、前記した(1)Kr−Xe混合ガ
ス、(2)高圧雰囲気、(3)低パワー、(4)基板バ
イアスマグネトロンスパッタ法を用いて作成したGeS
bTe記録層324の上に、通常のマグネトロンスパッ
タ法を用いて、上側干渉層325、反射層326を順次
形成してスパッタ室から取出した。この5層構成のディ
スクを、膜の設けられていない直径:120mm、板
厚:0.6mmのポリカーボネイト基板とUV硬化型接
着層を介して貼合せ、本実施形態の効果を検証する為の
サンプルとした。
【0176】また、比較例として、上記光ディスクと同
一の層構成で作成方法が異なる光ディスクも作成した。
比較ディスクは、記録層の形成を通常のスパッタリング
方法・条件で行ない、貼合せ構造にした後に、従来の製
造工程に従って長円形ビームで初期結晶化したものであ
る。ここで、比較例で用いた記録層のスパッタリング条
件は、前記した本実施形態における記録層以外の膜のス
パッタリング条件と同一であり、マグネトロンスパッタ
リング方法、スパッタガスとして純Arガス、ガス圧力
として0.67Pa、ターゲットへの投入パワーは数1
0〜数100W、基板は無バイアスとした。
【0177】本実施形態の光ディスクと比較ディスクと
は以下の手段で光記録した。すなわち、波長が650n
m、対物レンズのNAが0.6の記録再生光学系を有す
る光ディスク評価システムを使用した。レーザスポット
のe−2径は約0.9μmである。一方、ディスクのト
ラックピッチは0.74μmとビームスポットのe−2
径よりも小さい。このようなレーザ光を用いて、データ
部に対して、線速6m/秒で、最短ビット長0.41μ
m/bitの8/16変調のランダムパターン信号を、
隣接する各々10トラックのランドとグルーブに記録し
た。
【0178】本発明者は、初期結晶化をせずに光記録し
た本実施形態の図12のディスクと比較ディスクを透過
電子顕微鏡(TEM)観察に供して、その記録状態を観
察した。TEM観察は、記録部を切出した小片試料を作
成し、UV接着層共々対向基板を剥がして取り除いた後
に、基板を溶解して除去し、媒体膜部のみをメッシュに
救い上げ、第1層のAuをイオンミリングにより除去し
て行った。
【0179】図13は、本実施形態の光ディスクの初期
記録後のパターンを表す概略図であり、図14は、本実
施形態の光ディスクの100回目のオーバライト時(O
W100)のパターンを表す概略図である。いずれにお
いても、図中のLi−1,Lは各々i−1,i番目の
ランドトラック、Gはi番目のグルーブトラック、A
は非晶質記録マーク部、Cは結晶質マーク間部、CBは
結晶バンド幅、ABは結晶バンド間の非晶質バンドの
幅、MWはマークの幅をそれぞれ表す。また、図13で
は、MWは明記していないが、同図のパターンでは、M
WとCBは一致する。
【0180】一方、従来技術に従って作成した比較ディ
スクでは、初期結晶化を必要とするので、当然のことな
がら初期記録後もOW後も図14において非晶質バンド
AB部が無く、結晶状態のネットワーク中に非晶質の記
録マークが点在するパターンを呈した。
【0181】また、本実施形態のディスクに対してラン
ダムデータを12m/sの高速動作条件で記録し、同様
に記録パターンのTEM観察を行った結果、OW後も図
13に近いパターンを呈した。
【0182】これらの観察結果は、以下のように解釈出
来る。すなわち、記録時には記録マークになる部分は溶
融し、その周囲は結晶化可能な温度帯に昇温される。線
速が遅いか、OW回数が多いとマークエッジの結晶化可
能な温度帯に昇温されている積算時間が長く、非晶質マ
ークの周囲に結晶部が生成される。従って、本実施形態
のディスクは、低線速であるほど、また、OW回数が増
加するほど、図14に示したパターンに近づき、逆に高
線速であるほど、また、OW回数が少ないほど、図13
に示したパターンに近づく。
【0183】つまり、本実施形態の光ディスクは、いづ
れの場合にも、光検出側から見て、結晶部の反射率が非
晶質部の反射率よりも低く調整された相変化光ディスク
であって、記録状態が、トラック幅よりも狭い結晶バン
ド(結晶バンドと結晶バンドの間には非晶質のバンドが
形成されている)中に、この結晶バンドと幅が等しいか
あるいは狭い非晶質マーク列が形成されたパターンを有
し、同時にアドレス部の相変化記録層は非晶質状態にあ
ることを特徴とする。
【0184】以上、具体例を参照しつつ本実施形態の実
施例について説明した。しかし、本実施形態はこれらの
具体例に限定されるものではない。
【0185】例えば、上記した具体例では、Rc<Ra
の膜構造の媒体として、基板からZnS−SiO/G
eSbTe/ZnS−SiO/AlまたはAlMo膜
をスパッタ成膜した4層構造のもの、または、これにA
u半透明膜を挿入した5層構造のものを例示したが、本
実施形態はRc<Raの媒体であれば何でも良く、ま
た、記録層のスパッタ条件や初期化条件が本実施形態の
実施にとって重要である他は、特に各層の膜材料、膜
厚、記録膜以外の成膜方法・条件には制約されない。
【0186】例えば、五層膜構造の場合に、半透明層と
しては、Auの他に銀(Ag),銅(Cu),シリコン
(Si)などや、誘電体母材中に金属微粒子を分散した
構造の膜を用いることができる。また、干渉層として
は、ZnS−SiO以外に、Ta,Si
,SiO,Al,AlN等の誘電体膜材
料、記録層としてはGeSbTeの他にInSbTe,
AgInSbTe,GeTeSeなどのカルゴゲン系膜
材料、反射層としてはAlMoの他、AlCr,AlT
iなどのAl合金系膜材料などから適宜選択して用いる
ことができる。
【0187】さらに、上述した具体例においては、光記
録媒体の一例として光ディスクを例に挙げて説明した
が、本実施形態はこれに限定されるものではなく、その
他にも、例えば、光記録カードなど種々の形態の光記録
媒体に同様に適用し、同様の効果を得ることができる。
【0188】本実施形態は、以上説明した形態で実施さ
れ、以下に説明する効果を奏する。
【0189】まず、本実施形態によれば、結晶部の反射
率が非晶質部の反射率よりも低く設定された相変化光記
録媒体の、アドレス信号やサーボ信号の品質を向上さ
せ、かつデータ部のジッタを初回記録時から低減でき
る。
【0190】また、本実施形態によれば、記録膜の初期
結晶化という付加的な工程を経ることなく、as−de
po.の状態で直ちに使用でき、かつ記録特性、高繰返
しオーバライト特性に優れた相変化光記録媒体を提供で
きる。
【0191】その結果として、初期結晶化に必要な設備
投資、運転費用、時間を削減し、より安価且つ高性能な
光記録媒体を提供できる。
【0192】以上説明したように、本実施形態によれ
ば、従来よりも高性能でしかも製造工程を簡素化するこ
とができる相変化光記録媒体を提供することができ産業
上のメリットは多大である。
【0193】(第4の実施の形態) 次に、本発明の第4の実施の形態について説明する。本
実施形態においては、相変化記録媒体の記録層が独特の
範囲の熱伝導率を有する点にひとつの特徴を有する。
【0194】本実施形態は上記した目的を実現する手段
として、第1に、外部からの光照射によって結晶状態と
非晶質状態との間の相変化を生ずる記録層を備えた相変
化光記録媒体であって、非晶質状態の熱伝導率が0.8
W/mK以上6W/mK以下であることを特徴とし、前
記記録層は、アドレス部とデータ部とを有し、前記アド
レス部は、実質的に非晶質状態であることを特徴とする
相変化記録媒体を提供する。
【0195】相変化記録媒体のアドレス部には、ユーザ
によりデータは書き込まれない。つまり、アドレス部
は、初期状態が保たれる。本実施形態においては、後に
詳述する方法により堆積した記録層は、上記した熱伝導
率を有し、アズデポ状態で直ちにデータの記録が可能で
あるので、初期結晶化工程を経る必要がなくなる。つま
り、本実施形態の記録媒体は、製造後ユーザにより使用
された後においても、アドレス部が上記した構成上の特
徴を有する。
【0196】なお、本願明細書において、「実質的に非
晶質状態」とは、光学的にみて非晶質といえる状態であ
ることをいう。例えば、記録媒体の特性として重要な光
反射率が、結晶スペースの反射率よりも非晶質マークの
反射率に近い場合を指す。
【0197】または、本実施形態は、外部からの光照射
によって結晶状態と非晶質状態との間の相変化を生ずる
記録層を備えた相変化光記録媒体であって、前記記録層
は、アドレス部とデータ部とを有し、前記データ部は、
データを記録する前の未記録状態において実質的に非晶
質状態であって、且つその熱伝導率が0.8W/mK以
上6W/mK以下であることを特徴とする相変化記録媒
体を提供する。
【0198】つまり、本実施形態の媒体は、初期結晶化
工程を経る必要がないので、データ部にデータが書き込
まれる前の未使用状態であれば、本実施形態の媒体のデ
ータ部は、上記したような構成上の特徴を有する。
【0199】ここで、前記熱伝導率が2W/mK以上4
W/mK以下であることがさらに望ましい。
【0200】また、前記記録層は、GeSbTeまたは
AgInSbTeを主成分とすることが望ましい。
【0201】本発明者は、アズデポ(as-depo.:堆積し
たままの状態)の非晶質部の熱伝導率が上記した範囲に
調整されている記録媒体においては、初期結晶化工程を
経ずにアズデポ非晶質状態のままで記録しても良好な記
録特性が得られることを見出した。
【0202】上記した本実施形態の相変化記録層は、初
期状態すなわち記録層をスパッタ法などにより堆積した
ままの状態での非晶質部の熱伝導率は、従来の相変化記
録層の非晶質部の熱伝導率よりも低いこと、制御範囲が
広いことを特徴としている。従来よりも熱伝導率が低く
設定されていることで、光学的にAaが小さく調整され
ている場合でも非晶質部の温度は上がり易く、良好な消
去特性が得られる。また、本実施形態の相変化記録層は
その作成の仕方によって幅広い範囲で熱伝導率が制御可
能なので、熱応答設計の自由度が向上する。
【0203】本実施形態は基本的には材料物性に関する
ものであるが、所定の熱伝導率を得るためには製造方法
が重要なので、以下に本実施形態の相変化記録媒体の製
造方法の概要を説明する。
【0204】相変化記録に使用される記録層は通常はス
パッタ法で成膜され、成膜直後には非晶質状態にある。
スパッタリング法は、高エネルギーのアルゴン(Ar)
イオン衝撃により、ターゲット面からスパッタ放出され
たスパッタ粒子(気相)が基板面上にランダムに到着
し、ランダムな状態(液相)で表面をマイグレートした
後に膜という固相状態に転移して所定の膜を作成すると
いう技術である。スパッタ粒子が気相から固相へ転移す
る際の冷却速度は通常1012K/秒程度である。即
ち、数eV(数万K)のランダム状態から室温の固相に
変化するに要する時間は10ナノ秒程度であり、融点か
ら結晶化温度の間の温度帯を通過するに要する時間(結
晶化保持時間)は高々1ナノ秒程度と推定される。
【0205】一方で、GeSbTe、InSbTe系記
録層の結晶化時間は、数10ナノ秒である。膜が結晶化
する条件は、膜の結晶化時間が前記した結晶化保持時間
よりも短いことであるので、スパッタ成膜直後の記録層
は非晶質状態になる訳である。ここで重要なのは、成膜
直後の非晶質状態が、光記録で形成される非晶質状態と
は異なるということである。何故ならば、光記録時の冷
却速度は、ビームの線速、媒体の層構造にも依存する
が、典型的には1010K/秒程度であり、スパッタ成
膜過程の冷却速度よりも二桁程度遅いからである。溶融
状態(スパッタ成膜におけるマイグレーション過程と光
記録時の溶融過程の両方を意味する)からの冷却速度の
違いは、ランダムネスに反映される。即ち、冷却速度が
速い程ランダムネスは高く、冷却速度が遅い場合にはマ
クロスコピックにはランダムだが、近距離秩序を有する
微細構造を呈する。
【0206】この微細構造の違いは、熱伝導率に反映さ
れる。一般的に、熱伝導率はランダムな状態の方が低
い。これは熱伝導が格子振動による場合でも電子伝導に
よる場合でも、ランダム系の方が散乱が大きい為であ
る。従って、非晶質状態と結晶状態とを比較すると、非
晶質状態の熱伝導率の方が明らかに低い。非晶質状態中
に近距離秩序(ナノクリスタルと言っても良い)を含有
する場合には、単純な重み付き平均を取れば、非晶質状
態と結晶状態の中間的な値の熱伝導率を示すと考えられ
る。
【0207】しかし、本発明者は、詳細な熱伝導測定の
結果、ナノクリスタルを含有する非晶質の方が、ナノク
リスタルを含有しない非晶質に比較して、反って熱伝導
率が低いことを発見した。推定される理由は幾つか有る
が、ナノクリスタルを含有する非晶質の方が、ナノクリ
スタル付近での非晶質部のダングリングボンドが多いの
というが一つの有力な理由である。もう一つの理由は、
非晶質部よりも熱容量の低いナノクリスタル部で熱吸収
が発生して、全体としての熱伝導を阻害するというメカ
ニズムを挙げることが出来る。
【0208】本実施形態の熱伝導率を有する記録層を具
備する相変化記録媒体を形成する具体的な方法は、スパ
ッタプロセスにおけるスパッタ粒子の冷却速度を低下さ
せて、堆積直後の非晶質状態を光記録で形成される非晶
質状態に近づけることである。スパッタ直後の非晶質状
態を光記録で形成される非晶質状態に近づける為には基
板上に入射するスパッタ粒子のエネルギを低下させる
か、表面マイグレーションの時間を長く制御する。より
具体的には、スパッタガスとしてGeSbTe系スパッ
タ粒子に対する冷却効果が通常用いられるアルゴン(A
r)ガスよりも顕著なクリプトン(Kr)、キセノン
(Xe)もしくはそれらの混合ガスを用いるか、基板に
軽くバイアスを印加して表面マイグレーションを助長す
る等の方法が効果的である。この様にして形成したディ
スクはスパッタ成膜直後の状態が、光記録で形成される
非晶質状態に近い。従って、ナノクリタル含有非晶質に
特有の低い熱伝導率を呈する。
【0209】以下、図面を参照しつつ本実施形態の実施
例について説明する。
【0210】図15及び図16は、本実施形態の実施例
にかかる相変化記録媒体の断面構造を例示する概念図で
ある。これらの図面においては、同一の機能を有する部
材は同一の符号で示した。図15は、典型的なLtoH
構造の媒体を表し、図16は典型的なHtoL構造(R
c>Ra)の媒体を表す。
【0211】図15、図16において、401はトラッ
キンググルーブの設けられたポリカーボネイト基板、4
02は半透明膜、403は下部干渉膜、404は記録
層、405は上部干渉膜、406は反射膜である。
【0212】図17は、記録媒体の平面構成の一例を表
す概念図である。すなわち、同図は、DVD−RAMの
平面構成を表し、下側はディスクの全体構造図、上側は
その一部拡大図である。ディスクには、「ランド・トラ
ック」と「グルーブ・トラック」とが交互に形成され、
円周上に沿って複数の「セクタ」に分けられている。そ
れぞれの「セクタ」の先端部には「ヘッダ部」すなわち
「アドレス部」が設けられている。「ヘッダ部」には、
アドレスなどのセクター情報がプリピット列として設け
られる。この「ヘッダ部」にはデータの記録再生動作は
行われず、データの記録再生動作は「データ部」に行わ
れる。
【0213】従って、記録媒体の「ヘッダ部」は、製品
を出荷した後にその結晶或いは非晶質状態が変化するこ
とはない。いいかえると、仮に媒体の初期状態が非晶質
状態の場合には、「ヘッダ部」は非晶質状態のまま維持
される。逆に、従来の媒体のように、結晶化工程を経る
場合には、この「ヘッダ部」は結晶状態のまま維持され
ることとなる。
【0214】そして、後に詳述するように、本実施形態
の記録媒体は、初期結晶化工程を経ないので、この「ヘ
ッダ部」が実質的に非晶質状態にあり、しかもその熱伝
導率が従来にない独特の範囲にある。
【0215】または、本実施形態の記録媒体は、未使用
状態にあっては、「データ部」も同様に実質的に非晶質
状態にあり、しかもその熱伝導率が従来にない独特の範
囲にある。
【0216】本実施形態の相変化記録媒体は、以下の手
順で作成することが出来る。まず、ポリカーボネイト基
板1は、通常の光ディスク基板のマスタリングプロセス
により作成可能である。例えば、板厚0.6mm、直径
120mm、トラックピッチ0.6μm、グルーブ深さ
70nmの形状を有する。
【0217】各層の形成は、例えばマグネトロンスパッ
タリング装置を用いて実施可能であり、基板401のグ
ルーブ面上に順次、図15の場合には、例えば膜厚10
nmのAu半透明膜402、膜厚80nmのZnS−S
iO2下部干渉膜403、膜厚20nmのGeSbTe
記録層404、膜厚30nmのZnS−SiO2上部干
渉膜405、膜厚100nmのAl合金反射膜406を
スパッタリング成膜する。図16の記録媒体の場合に
は、例えば膜厚120mのZnS−SiO2下部干渉膜
403、膜厚15nmのGeSbTe膜404、膜厚2
0nmのZnS−SiO2上部干渉膜405、膜厚10
nmのAu反射膜406をスパッタリング成膜して得る
ことが出来る。
【0218】各層成膜後の媒体は、スパッタ装置から取
出した後、例えばブランク基板と貼り合せることによ
り、相変化記録媒体を得ることができる。
【0219】本実施形態においては、上記した作成手順
の中で、記録層の形成条件と上下の干渉膜の形成条件と
を調節することによって、従来よりも低い非晶質の熱伝
導率と、広い範囲での非晶質の熱伝導率の制御を行う。
具体的には、 (1)記録層の形成時に、従来技術で使用されるArガ
スの代りに、Ge、Sb、Te系スパッタ粒子に対する
冷却効率の高いKr、Xe、Kr−Xeガスを使用する
こと、 (2)スパッタ粒子の輸送過程での冷却を促進する為
に、ガス圧力を従来技術の典型値である0.25〜0.
67Paよりも高めに設定すること、 (3)GeSbTeターゲットヘの入力を低めに設定し
て陰極降下電圧を低下しスパッタ粒子の放出エネルギー
を抑制すること、 (4)成膜中に基板ホルダーに弱いRFバイアスを印加
してスパッタ粒子の基板上でのマイグレーション時間を
長くすること、及びこれらの適当な組合せの条件を採用
する。
【0220】上記条件の採用により、スパッタ粒子の基
板上での冷却速度を低下させ、アズデポの記録層中に近
距離秩序を有する微結晶核を生成することができる。そ
れによって、アズデポ非晶質部の熱伝導率を従来よりも
低くできる。同時に、スパッタ粒子の基板上での冷却速
度を成膜条件で制御することによって、幅広い範囲で非
晶質部の熱伝導率を制御することが出来る。
【0221】記録層中への近距離秩序の形成は、上記し
た記録層の成膜条件の調整に加えて上下の干渉膜の成膜
条件に工夫を施すことでも可能である。具体的には、干
渉膜の形成を、通常用いられるガス圧力よりも低い圧力
において実施すること、スパッタ入力パワーを通常の数
100W〜数kWよりも高めに設定することなどであ
る。この様にして形成した干渉膜は、圧縮性の応力を示
し、記録層の体積収縮を助長する。記録層は、同一原子
数で比較した場合に、結晶部の体積の方が非晶質部の体
積よりも小さい。従って、上下の膜から体積収縮を助長
する作用があると、記録層中に非晶質部よりも体積の小
さい近距離秩序を形成し易くなる。
【0222】本発明者は、上記した手段で図15及び図
16に表した相変化記録媒体を形成した。また、その効
果を明確化するために、比較例として従来の成膜方法を
用いて同様の断面構造を有する比較用の相変化記録媒体
を作成した。ここで、従来の成膜方法とは、例えば記録
層の形成にArガスを用い、ガス圧力を0.4Pa程度
とし、スパッタ入力を数100Wとし、上下干渉膜の形
成時に0.67Pa程度のガス圧力、数100Wのスパ
ッタ入力を選択したことを意味する。
【0223】以下、本実施形態の成膜方法により作成し
た図15の構造の媒体を本実施形態の「ディスク1」、
本実施形態の成膜方法で作成した図16の構造の媒体を
本実施形態の「ディスク2」、従来の成膜方法で作成し
た図15の構造の媒体を「比較ディスク1」、従来の成
膜方法で作成した図16の構造の媒体を「比較ディスク
2」と略記する。
【0224】上述した手法で作成した本実施形態の相変
化記録媒体と比較の為の従来技術の相変化記録媒体の記
録層の熱伝導率の測定は、「高速時間分解(ピコセカン
ド)熱反射率測定法」によって実施した。これは、通商
産業省・工業技術院・計量研究所・計測システム部・計
測情報研究室の馬場らのグループが開発した手法であ
り、その詳細は、例えば、Proc.Themophysical Propert
ies 17、p43、Prc.EUROTHERM'57"Microscale Heat Tran
sfer" 等に開示されている。
【0225】この測定法は、物質の反射率が物質の温度
に依存するという光熱物性を利用している。反射率の温
度に対する変化は、物質の種類に依存するが、例えばA
lの場合は10−5(K−1)程度の絶対反射率の変化
を示す。この現象は、物理的には、格子の熱振動が電子
状態に微妙に影響を与えることに起因する熱反射率の変
化として説明できる。この測定法では、物質の表面加熱
の手段としてピコセカンド程度のパルス幅のポンプ光を
用いる。パルス光照射により表面温度が上昇し、反射率
が変化し、一般的に増加する。ポンプ光をオフすると、
表面から試料の厚さ方向に熱が拡散し、表面温度が低下
して反射率が低下する。数10nmの薄膜試料では、膜
厚方向の熱拡散の時定数は膜の熱伝導率に依存し、数1
0ピコ秒から数ナノ秒の間の値を示す。ポンプ光オフ後
の表面反射率の変化を、表面が加熱しない程度の低いパ
ワーのプローブ光でモニタすると、膜厚方向への熱拡散
の時定数が測定される。この時定数から膜厚方向への熱
浸透率に変換し、さらにそれを熱伝導率に換算(膜厚方
向への一次元熱伝導と仮定)すれば熱伝導率の値を得る
ことができる。
【0226】高速時間分解(ピコセカンド)熱反射率測
定法は、膜厚が数10nmの薄膜試料の熱伝導率を精度
良く測定することができる世界唯一の手法である。例え
ば、従来良く用いられてきた「光交流法」などと比較す
ると、測定値の信頼性は格段に高い。元来、光交流法
は、数100μm程度の膜厚の試料の熱伝導測定用に開
発されたものである。しかし、数10〜数100nmの
厚みの薄膜試料に適した測定手法が無かったために、薄
膜に対しても光交流法を適用せざるをえなかった、とい
うことが実態であった。光交流法によって相変化記録媒
体に使用される膜材料の熱伝導率を測定した例は、例え
ば、Jpn.Appl.Phys.28-3、pp.123-128 に開示されてお
り、本実施形態に関連するGeSbTe記録層の非晶質
部の熱伝導率の測定値として、0.58W/mKという
値が明示されている。この測定値は、同文献に開示され
ているZnS−SiOの熱伝導率よりも低い点、G
eSbTe膜の結晶部の熱伝導率と同一の測定値である
点、及び、Ge、Sb、Te各々のバルクの熱伝導率の
いずれより著しく低い点、で甚だしく疑わしい。
【0227】本発明者も光交流法による測定の追試を試
みたが、実際の相変化記録媒体に用いられる数10nm
厚の試料では測定値が大きくばらついて全く有意な測定
は出来なかった。さらに、光交流法が適用可能とされる
数10μm厚の試料について測定した場合においても、
測定値のバラツキはプラスマイナス数10%を超え、信
頼性あるデータの取得は不可能であった。
【0228】これに対して、高速時間分解(ピコセカン
ド)熱反射率測定法は、前述したように、試料の膜厚方
向への熱拡散を高速時間分解測定するもので、ポンプ光
により試料表面を加熱した後、プローブ光により試料表
面反射率の変化をピコセカンドオーダで観察するもので
ある。表面加熱後、熱が膜厚方向に拡散していくと表面
温度が低下して熱反射率が低下する挙動を精密測定する
手法である。熱反射率感度の高い、例えばAl等に対す
る測定精度が特に高いが、全ての膜材料に対して有用な
手法である。何故ならば、反射率の低い例えば透明な材
料に対しても、表面にAl薄膜をコートすれば、透明な
薄膜材料の膜厚方向への熱拡散に伴うAlコート膜表面
温度の時間変化を調べることによって、透明な薄膜材料
の熱伝導率を知ることが出来るからである。
【0229】本発明者は、数10nm厚の薄膜試料を用
いて熱伝導率の詳細な測定を行った。熱伝導率の測定に
は、図15及び図16のディスクサンプルと、別途記録
層のみを例えばSiウェーハ上に作成し、その上に熱反
射率測定用のAl膜をコートした試料を用いた。後者の
場合は、Si上に膜厚100nmのGeSbTe膜を前
述した本実施形態の成膜方法もしくは従来技術の成膜方
法で形成し、連続して例えば膜厚20nmのAl膜をコ
ートした。前者のディスクサンプルを直接用いる場合
は、貼り合せた対向ブランク基板を剥離後、テープをを
Al合金系反射膜側に貼り付けてピールオフする等の方
法で記録層を露出し、その上に膜厚10〜20nm程度
のAl膜をコートした。
【0230】測定の結果、前者及び後者の熱伝導率は、
プラスマイナス5%の範囲内で一致した。本明細書にお
いては、測定値として、後者即ちSiウェーハ上に作成
した試料を用いた場合の値を示す。
【0231】従来技術で作成した記録層の非晶質状態の
熱伝導率は、典型的には7(W/mK)であり、形成条
件に依存して6.8〜7.2(W/mK)の範囲の値を
示した。また、結晶状態の熱伝導率は、従来の記録層に
おいても本実施形態の記録層においても、8.8〜1
0.1(W/mK)の範囲にあり、従来の記録層の非晶
質状態の熱伝導率の1.3〜1.4倍程度の値を示し
た。
【0232】一方、本実施形態の記録層の熱伝導率は、
アズデポ状態すなわち非晶質状態で0.8〜6(W/m
K)の範囲にあった。この範囲内での値の変動は、記録
層の作成方法、即ち非晶質中に含まれる微細結晶核のサ
イズや含有比率に依存するものと考えられる。
【0233】本実施形態の記録層は、非晶質状態におい
て微細結晶核を有すると推測されるので、その熱伝導率
は、従来の記録層における非晶質状態の熱伝導率と、結
晶状態の熱伝導率との中間的な値を示すことが予測され
た。これに反して、本実施形態の記録層が非晶質状態に
おいて、従来の結晶状態と非晶質状態のいずれよりもか
なり低い値を示した原因は、前述したように、微細結晶
核界面でのダングリングなどに起因して熱抵抗が高いこ
とであると推測される。
【0234】図18は、熱伝導率(κ)の測定値と、図
15の構造のディスクサンプルを用いて測定したDC消
去率との関係を表すグラフ図である。
【0235】DC消去率の測定は、以下の方法により実
施した。すなわち、図15の構造のディスクを、波長6
50nmの光源とNAが0.6の対物レンズを有する評
価システムにセットする。そして、線速10m/秒で回
転し、最適記録パワー(この場合には10〜13mW)
で11T相当のマークを記録した後、CNRを測定し、
消去パワー(4〜6mW)をDC的に照射して、11T
キャリアレベルの低下量を測定した。ここで、記録層の
初期結晶化は、本実施形態のディスク及び従来技術のデ
ィスク共に行わなかった。
【0236】図18において、黒丸は本実施形態の相変
化記録媒体の熱伝導率κとDC消去率のプロット、白丸
は従来技術の相変化記録媒体のそれを表す。従来技術の
ディスクでは、DC消去率は高々5dB程度であり、消
去特性が極めて悪かった。それに比較して、本実施形態
のディスクにおいては、κが0.8〜6W/mKの範囲
で35dB以上の高い消去率が得られた。特に、κが2
〜4W/mKの範囲では、40dB以上の極めて高い消
去率が得られた。これは、本実施形態の相変化記録媒体
では、記録層の非晶質状態の熱伝導率κが従来技術より
も低く調整されているために、同じ光吸収率でもより高
い温度に昇温保持される時間が長いためであると考えら
れる。
【0237】図19は、無初期化・初回記録の3T−C
NRと熱伝導率κとの関係を示すグラフ図である。同図
においても、黒丸が本実施形態、白丸が従来技術のデー
タをそれぞれ表す。図19から明らかなように、従来の
媒体のCNRは20dB程度と低いが、本実施形態の相
変化記録媒体においては、無初期化の状態で初回記録か
ら52dB程度の極めて高いCNRが得られる。これ
は、本実施形態の記録層は、アズデポ状態においても非
晶質中に近距離秩序の微結晶核が存在し、アズデポ状態
での初回記録においても高速に結晶スペースの形成が進
んだためであると推測される。そして、本実施形態の媒
体においては、微結晶化核の存在が、前述したメカニズ
ムによって熱伝導率に反映したものと考えられる。
【0238】以上の説明から明らかなように、本実施形
態の相変化記録媒体は、記録層の堆積後に初期化工程が
不要であり、アズデポ状態の初期状態を非晶質として直
ちに使用することが可能である。
【0239】図16に表したHtoL媒体においても上
記と同様の評価を行い、図15の媒体と2dB程度の差
異の俺囲内で同様の結果が得られた。つまり、本実施形
態は、LtoH及びHtoLのいずれの構成の媒体に対
しても効果を奏することが分かった。但し、HtoL媒
体を無初期化状態で使用する場合は初期反射率が低いの
で、アドレス信号、サーボ信号の品質はLtoH媒体を
無初期化で使用する場合に比較すると劣る。従って、図
16の記録媒体を実施する際には、非晶質部の反射率を
10%程度と高めに設定してサーボが安定するように調
整することが望ましい。
【0240】上記実施例では、記録層としてGeSbT
e膜を使用した場合について例示したが、本実施形態は
GeSbTeに他の元素を添加した場合でも適用出来、
熱伝導率κの値は数%ずれるのみで、概ね効果的なκの
範囲は0.8〜6W/mKであった。
【0241】以上例示した具体例は、GeSbTe系の
記録層を用いた場合であるが、本実施形態は、AgIn
SbTeを用いた場合にも同様に適用することができ
る。すなわち、GeSbTe系の典型的組成は、Ge:
0.22、Sb:0.22、Te:0.56付近である
のに対して、AgInSbTe系の典型的な組成は、例
えば、Jpn.Appl.Phys.、32、pp.5241-5247 に開示され
ているように、Ag:0.08、In:0.13、S
b:0.49、Te:0.30付近である。つまり、い
ずれもSb、Teが主成分であり、熱伝導率κが10%
程度ずれた範囲でGeSbTeと同等の良好な特性が得
られた。
【0242】さらに詳しくは、記録層の材料としては、
上記の他にも、カルコゲン系の金属化合物、例えばGe
−Sb−Te,Ag−In−Sb−TeやそれらにC
r,V,N等を適宜微量添加した材料を用いることがで
きる。相変化記録媒体として好ましい組成範囲は、結晶
化温度以上の温度における高速結晶化と室温付近におけ
る非晶質状態の熱的安定性とを両立する組成範囲であ
る。
【0243】図20は、GeSbTe系3元合金系にお
ける結晶化時間の分布を例示したグラフ図である。同図
においては、結晶化時間が短いほうが高速で結晶化が可
能である。
【0244】図21は、GeSbTe系3元合金系にお
ける結晶化温度の分布を例示したグラフ図である。同図
においては、結晶化温度が高いほうが非晶質状態が熱的
に安定であるといえる。
【0245】図20や図21のデータは、例えば J.App
l.Phys.,69(5),pp.2849-2856(1991)に開示されている。
これらの図から分かるように、高速結晶化と非晶質状態
の安定性が両立しうる組成範囲は、GeTeとSb
Te との二つの金属化合物組成を結ぶ線上で、Ge
Te:Sb Te の比率が5:2から1:6の間
の組成線分を中心にGe,Sb,Teの組成範囲が各々
プラスマイナス5原子%の組成範囲である。
【0246】図22は、Ag−In−Sb−Te系4元
合金における望ましい組成範囲を表すグラフ図である。
すなわち、同図には、(AgSbTe(In
1−y Sb1−x と表した組成式のxとyが
それぞれグラフの横軸と縦軸にプロットされている。同
図においては、符号Bで表した組成範囲が記録層として
望ましく、符号Aで表した組成範囲は記録層の材料とし
てさらにより望ましい。すなわち、x=0.37〜0.
42、y=O.62〜0.79で示される組成範囲が望
ましい組成範囲である。
【0247】以上詳述したように、本実施形態によれ
ば、アズデポ状態から直ちに高いCNRでの記録が可能
となるので、相変化記録媒体の製造工程から初期結晶化
工程を除外することができる。その結果として、製造コ
ストを低減させ、相変化記録媒体を広く普及させること
ができるようになる。
【0248】(関連技術) 次に、本発明に関連する技術について説明する。本関連
技術においては、相変化記録媒体の記録層をスパッタリ
ングにより形成する際の条件を独特の範囲とすることに
より、初期結晶化工程が不要となるような製造方法を提
供する。
【0249】すなわち、基板と前記基板上に堆積された
記録膜とを有する相変化記録媒体の製造方法であって、
前記基板上に前記記録膜をスパッタリングにより堆積す
る際に、ターゲットに印加する電圧Vdcとターゲット
構成元素のスパッタ閾値電圧Vthとの関係をVth<
Vdc≦10Vthとすることを特徴とする相変化記録
媒体の製造方法を提供する。
【0250】ここで、本関連技術の望ましい実施例とし
て、前記電圧Vdcと前記スパッタ閾値電圧Vthとの
関係を3Vth≦Vdc≦8Vthとすることを特徴と
する。
【0251】また、前記スパッタリングの際に生成され
る負グロープラズマ中のイオン密度Niが、10
11(cm−3)<Niなる範囲にあることを特徴とす
る。
【0252】また、前記記録膜は、GeSbTeまたは
AgInSbTeを主成分とすることを特徴とする。
【0253】一方、本関連技術の相変化記録媒体の製造
装置は、基板と前記基板上に堆積された記録膜とを有す
る相変化記録媒体を製造する製造装置であって、前記基
板上に前記記録膜をスパッタリングにより堆積するため
のターゲットと、前記ターゲットに電力を印加して負グ
ロープラズマを生成するための電源と、前記負グロープ
ラズマの密度を高めるために設けられたプラズマ密度増
加手段と、を備えたことを特徴とする。
【0254】本発明者は、本関連技術の目的を実現する
ために、アズデポの非晶質状態を初期化プロセスの後の
光記録で形成する非晶質状態に近づけるべく、記録層の
スパッタ条件とスパッタ方法を検討した結果、上記した
技術に至った。相変化記録層を形成する際に用いられる
ターゲットの構成元素としては、Ge、Sb、Te、A
g、Inが代表的である。これらの元素のスパッタ閾値
電圧(Vth)は、元素の種類とスパッタガスの種類に
依存するが、概ね20eV前後の値を示す。従来は、成
膜速度を速めるために、典型的なVdcの値は300V
〜600Vとされ、Vthの15〜30倍の値が採用さ
れていた。本発明者は、記録層のスパッタ条件を詳細に
変えながら、初期化プロセス無しの記録層の記録特性、
特に初期化無しで初回記録した際の反射率の変化量に着
目して実験を行った結果、従来用いられていたVdcよ
りもかなり低いVdcの範囲で良好な無初期化記録特性
が得られることを見出した。
【0255】すなわち、無初期化状態すなわちアズデポ
状態で実用的に十分な初回記録特性が得られるVdcの
範囲は、Vth<Vdc≦10Vthである。 ここ
で、Vdcは、一般的には気体放電において、放電陰極
と負グロープラズマとの間に印加する電圧である。スパ
ッタリングにおいては、ターゲットが陰極に相当し、負
グロー中の正イオンは陰極降下部でターゲット方向に加
速され、ほぼVdcに相当するエネルギでターゲットに
入射し、ターゲット物質をスパッタ放出する。Vdcは
DC放電でもRF放電でも存在し、RF放電の場合には
しばしば「自己バイアス電圧」とも呼称される。Vth
はターゲット物質がスパッタ放出する閾値エネルギであ
り、ターゲットに入射するイオンのエネルギがVth未
満の領域では実質的なスパッタ放出は起こらないことを
意味する。
【0256】本発明者は、本関連技術に至る過程で、ア
ズデポから光照射を繰返した場合の記録層の微細構造の
変化の様子を詳細に調べた。この調査においては、記録
層の成膜は従来技術に従い、Vdc>10Vthの条
件、より具体的にはVdc=400Vの条件で行った
(Vthについては後記する)。アズデポの非晶質状態
に結晶化レベルの強度の光照射を繰り返すと徐々に記録
層が結晶化し、反射率が非晶質レベルから結晶レベルに
遷移し、100回以上の繰返し照射で完全に結晶化レベ
ルに移行する。非晶質と結晶の中間状態の反射率を持つ
媒体の記録層と、アズデポの非晶質の記録層、及び20
0回光照射を繰り返して完全に結晶化した記録層の各々
を高分解能の透過型電子顕微鏡(TEM)によって観察
した。
【0257】その結果、アズデポの非晶質の記録層にお
いては、特に微細構造は見えず、電子線回折パターンも
非晶質特有のハローパターンを呈した。一方、完全に結
晶化した記録層は、粒径50nm程度の結晶粒の集合体
であり、電子線回折もスポッティなパターンを呈した。
これらの構造は、従来から良く知られている構造であ
る。
【0258】これに対して、媒体反射率が非晶質レベル
と結晶レベルの中間に位置する中間状態は、数nmの微
細な結晶核が非晶質中に点在する構造を呈し、光照射回
数に応じて、結晶核の密度の増加と、結晶核の粒成長が
起こっている様子が観察された。本発明者は、この結果
から、アズデポで微細結晶核が点在する構造の記録層が
形成出来れば、アズデポ状態から記録が出来る、という
着想に至った。
【0259】アズデポの非晶質状態中に微細結晶核を形
成すべく、記録層のスパッタ条件とスパッタ方法とにつ
いて検討した結果、スパッタ中のVdcを本実施形態に
規定する範囲に制御すればアズデポから記録が可能なこ
とを見出した。相変化記録層を形成する際に用いられる
ターゲットの構成元素は、Ge,Sb,Te,Ag,I
nが代表的である。これらの元素のスパッタ閾値電圧
(Vth)は、元素の種類、スパッタガスの種類に依存
するが、12〜30eV前後の値を示す。表1に上記し
た各元素のVthを各種希ガスに対して示す。
【0260】 表1のデータは、スパッタリングイールドの報告値と、
本発明者が行った成膜速度とVdcとの関係を調べた実
験結果の内挿値(成膜速度が実質的に”0”になるVd
c)をまとめたものである。
【0261】多成分系の材料、多成分系のスパッタガス
を用いる場合には、表1の値の相加平均を用いれば良
い。又、微量添加元素、酸素、窒素、水素などの反応性
ガスの微量添加は表1の値には大きな影響は与えない。
【0262】従来は、成膜速度を速めるために、典型的
なVdcの値は、400〜600VとVthの10数倍
以上の値が採用されていた。これに対して、本発明者は
記録層をスパッタする際のVdcを変えながら媒体を試
作し、結晶化レベルの光を1回照射した後の反射率に着
目して実験を繰り返した結果、従来用いられていたVd
cよりもかなり低いVdcの範囲で、記録層中への微細
な結晶核の生成と、それによる良好なアズデポ記録特性
が得られることを見出した。有意な高速初期化特性が得
られるVdcの範囲は、Vdc≦10Vthであった。
VdcがVth以下では膜が形成されないので、Vdc
の下限がVthであることは言うまでもない。
【0263】Vth<Vdc≦10Vthなる範囲に調
整するとアズデポ非晶質中に微細な結晶核が生成される
理由は以下の通りである。すなわち、前述したように相
変化記録層は、その結晶化温度以上で融点未満の温度帯
では結晶化が進行する。記録層が結晶化温度以上で融点
未満の温度帯に保持される時間を「結晶化保持時間」と
呼ぶが、この結晶化保持時間が、記録層の材料毎に特有
の「結晶化時間」よりも十分に長ければ記録層は完全に
結晶化し、短ければ殆ど結晶化しない。
【0264】ここで、結晶化時間は、アレニウス式もし
くはジョンソンメールアブラミ式における結晶化の時定
数に相当する。スパッタリングの過程を考えると、ター
ゲットからスパッタ放出されたスパッタ粒子(Ge,S
b,Te,Ag,In及びそれらのダイマー、トリマー
等)は、数eV程度(数万K)のエネルギを有する気相
の状態で基板上に入射し、薄膜という固相状態に変態す
る。気相から固相へ変化する際にも、融点未満から結晶
化温度の結晶化可能温度帯を通過するが、従来のVdc
条件では、基板へ入射する際のスパッタ粒子のエネルギ
ーが極めて高かったために、基板上でのスパッタ粒子の
冷却速度が極めて早く、結晶化保持時間が記録層の結晶
化時間よりもはるかに短すぎた。それゆえ、従来技術で
形成した相変化記録層のアズデポ状態においては、結晶
核は存在せず、極めてランダムネスの高い非晶質状態に
なっていた。このようなアズデポ非晶質の膜は結晶化す
るに多大な時間を要する。
【0265】これに対して、本関連技術のVdcの範囲
を用いると、ターゲットから放出するスパッタ粒子のエ
ネルギが低下するため、基板に入射するスパッタ粒子の
エネルギも低下する。その結果として、スパッタ粒子の
基板上での冷却速度が低下し、気相から固相へ変化する
際の結晶化保持時間が長くなって微細な結晶核が生成さ
れる。そして、このような微細結晶核の存在によって、
光照射を1回するだけで完全に結晶化することができ
る。
【0266】前述したように、良好な高速初期化特性を
得るためには、Vth<Vdc≦10Vthとするのが
良いが、これらの範囲は従来用いられてきたVdcより
も低い。しかし、単純にVdcを低く設定すると、記録
層の成膜速度が低下してスパッタ工程の生産効率上好ま
しくない。工程全体の効率を向上させるためには、Vd
cは良好なアズデポ記録特性が得られる範囲に設定しつ
つ、スパッタ工程の生産効率の低下分(成膜速度の低下
分)を初期化工程削減効果が上回るように、工程全体の
コストを上げずにスループットを高めるか、もしくは工
程全体のスループットを損ねることなくコストを低減化
すること重要である。工程全体の効率は、製造規模、デ
ィスク1枚当りの製造時間などを前提とする設計事項な
ので一義的には決まらないが、本発明者の実験(後に詳
述する)からは、Vth<Vdc≦10Vthの範囲全
体に亘り、工程全体の効率が向上するという結果が得ら
れている。
【0267】また、スパッタ工程の生産効率の向上はス
パッタ工程自体に更なる工夫を施すことでも実現出来
る。例えば、Vdcは良好な無初期化初回記録特性が得
られる範囲に設定しつつ、ターゲットに流入するイオン
電流密度(Ii)の増加、即ち負グロープラズマ中のイ
オン密度(Ni)の増加を試みることが挙げられる。こ
こでスパッタ放出量は、スパッタリングイールドをγ、
ターゲット面積をStとおくと、γ(Vdc)・Ii・
Stと表すことが出来る。γ(Vdc)は、γがVdc
(ターゲットに入射するイオンのエネルギーに比例す
る)の関数であることを表わし、γ(Vth)=0であ
る。また、IiとNiとの間には、Ii=e・Ni・v
i/4なる関係がある。ここで、eは素電荷量、viは
負グロープラズマ中のイオンのランダム速度である。従
って、Vdcが低くてもNiが高ければ高い成膜速度を
実現することが可能である。Vdcを低い値に保持した
ままNiを増加させる手段としては、マグネトロンプラ
ズマ用磁石の磁界強度の増加、プラズマ励起電源の高周
波数化、ホローカソード電子源、イオン源、誘導結合プ
ラズマ生成コイル、などの補助的なプラズマ密度増加手
段を挙げることが出来る。また、エネルギ制御可能な高
密度プラズマ源としてECRプラズマ、ヘリコンプラズ
マなどを用いることも効果的である。
【0268】これらの手段を適用して実験を繰り返した
結果、Niが1011(cm−3)<Niに調整されて
いる場合に良好な無初期化初回記録特性を保持したま
ま、高速成膜が可能であることを見出した。Niの下限
は、実用的な成膜速度、例えばVdcが2Vth程度の
低い値の場合でも0.5nm/秒以上であり、Vdcが
10Vthの場合には2nm/秒程度の十分に速い成膜
速度を得る為の条件である。Niに特に上限は無いが、
プラズマ密度の過度な増加は基板の加熱を誘発するの
で、好ましくはNi<1012(cm−3)とするのが
良い。本関連技術の相変化記録媒体の製造装置ではプラ
ズマ密度増加手段を設けているので、Vth<Vdc≦
10Vthの範囲において、Niが1011(c
−3)以上の高密度プラズマを生成できる。
【0269】ここで、Vdcは通常スパッタ装置に付随
して設置されているモニタから直読出来る。Vdcは、
ターゲットに電圧プローブを取付けることによってもモ
ニタでき、RF放電の場合には高周波高耐圧のプローブ
を用いて、オシロスコープで電圧波形観測をすればモニ
ターすることが出来る。Niは、プローブ法で測定する
ことが出来る。プローブ法の詳細は、例えば、堤井信カ
著「プラズマ基礎光学」(内田老鶴圃出版)に詳述され
ている。
【0270】以下、図面を参照しつつ本関連技術の実施
例について説明する。 図23は、本関連技術の実施に
使用したマグネトロンスパッタリング装置の構成を表す
概念図である。図23に表した装置は、主に記録層の形
成に使用されるものであり、干渉層、反射層など記録層
以外の膜の形成は従来と同一のスパッタリング装置を用
いることが出来る。もちろん、記録層以外の膜の形成に
図23の装置を用いても構わない。
【0271】図23において、501は成膜容器、50
2はスパッタ源、521はスパッタ源502を構成する
スパッタリングターゲット、522はスパッタ源502
を構成するターゲットハウジシグ、523はスパッタ源
502を構成するマグネット、503はスパッタ電源、
531はスパッタ電源503を構成する直流遮断容量、
532はスパッタ電源503を構成するRF(13.5
6MHz)電源、504はVdcモニタ系、541はモ
ニタ系504を構成するVdcモニタ、542はモニタ
系504を構成する高周波高耐圧プローブとオシロスコ
ープ、505は基板ホルダ、506は光ディスク基板、
507はスパッタガス供給系、508は排気系、509
はプラズマプローブ、510はプローブ回路、511は
マグネトロンプラズマ、512は誘導結合コイルであ
る。
【0272】本具体例では、RFマグネトロン放電の例
を示すが、ターゲットヘの電力供給はDCでも構わず、
また、マグネトロン放電では無い通常の二極放電でも本
関連技術の実施に支障は無い。当然の事であるが、スパ
ッタ電源には電力計が取付けられておりスパッタ入力を
モニタする。上記構成中、Vdcモニタ541はスパッ
タリング装置に予め取付けられているもので、RF遮断
とチューニング用のLC回路と直流電圧(Vdc)モニ
タから成立っている。プローブとオシロスコープからな
るモニタ542は、特に本関連技術の実施には必要無い
が、本関連技術の本質的パラメータであるVdcの確認
測定用に設置した。プラズマプローブ509は、通常の
相変化記録媒体のスパッタリング装置には取付けられて
いないもので、ここでは本関連技術に関わるプラズマ電
位、イオン密度などのプラズマパラメータを測定する目
的で取付けた。プローブ回路は通常のもので、プローブ
ヘの電圧印加系、プローブ電流モニタ系から成立ってい
る。ここでは、マグネトロンプラズマ密度(イオン密
度)は磁界の影響が少ないイオン飽和電流から算定し
た。誘導結合コイル512は本実施形態の実施の為に特
別に取付けたもので、プラズマ密度とターゲットヘ入射
するイオン電流密度を増加させる目的で設置したもので
ある。
【0273】また、図23は所謂、静止対向型スパッタ
装置の構成を例示するが、本関連技術はターゲットと基
板との配置関係には限定されず、基板がターゲットに対
して偏心し自転もしくは自公転する構成でも構わない。
スパッタガスはとしては、アルゴン(Ar)が一般的だ
が、He,Ne,Kr,Xeもしくはそれらの混合ガス
を用いても良く、また、必要に応じて酸素、窒素、水素
などの反応性ガスを添加しても構わない。
【0274】上記した装置を用いて以下の手順で本関連
技術を実施した。
【0275】(第1の具体例) 本具体例では、本関連技術の基本的な具体例として特に
プラズマ密度を高める工夫を施さない場合のVdcと無
初期化初回記録特性及び成膜速度の関係を調べた結果に
ついて示す。図23に表した装置を用いて以下の手順で
実施した。
【0276】図24は、本具体例において試作した記録
媒体の断面構造を表す概念図である。
【0277】同図において、506はトラッキンググル
ーブの設けられたポリカーボネイト基板である。基板5
06としては、直径120mm、板厚0.6mm、トラ
ックピッチ0.6μmの試作品を使用した。無初期化状
態での初回記録特性を調べる目的で基板上に形成する媒
体膜の構成は、膜厚10nmの金(Au)半透明層56
2、膜厚80nmのZnS−Si0第1干渉層56
3、膜厚20nmのGeSbTe(2:2:5)記録層
564、膜厚30nmのZnS−Si02 第2干渉層
565、膜厚50nmのAl合金反射層566からなる
5層構成とした。
【0278】記録層が非晶質状態にある時の反射率は2
0%、結晶状態にある時の反射率は5%の所謂LtoH
(low to high )構成の媒体構成である。LtoH構成
を採用した理由は、無初期化状態即ちアズデポの非晶質
状態での反射率を高めて、トラッキングサーボ信号の安
定性を向上するためである。結晶反射率の方が非晶質反
射率よりも高い所謂HtoL構成の媒体でも本実施形態
の適用は可能であり、その様な場合は非晶質反射率を十
分にサーボの安定性が得られる値に設計すれば良い。
【0279】図23のスパッタリング装置は記録層の形
成に使用する。記録層以外の層の形成は、図23とは独
立したスパッタリング装置で行っても良く、図23と連
結したスパッタリング装置で行っても良い。以下の説明
では、記録層以外の層は、通常のスパッタリング装置、
即ち図23からVdc確認用のオシロスコープ系54
2、プラズマプローブ510、誘導結合コイル512を
除いた構成のスパッタリング装置を用いた場合について
述べる。また、成膜後の記録層の表面酸化を防止するた
めに、連結形の装置を使用し、真空中で連続して各層の
形成を行う。
【0280】まず、基板506上に前記したAu半透明
層562、ZnS−SiO2第1干渉層563を形成し
た後、基板506を基板ホルダー505と共に図23の
スパッタリング装置の成膜容器501内に搬送する。前
記した様に、本具体例においては、記録層の形成に際し
てプラズマ密度増加用の誘導結合コイルは動作させな
い。スパッタガス供給系のマスフローコントローラを調
整して成膜容器内に100sccmのアルゴン(Ar)
ガスを導入し、排気系を調整して容器内のガス圧力を2
Paに保持する。
【0281】次に、RF電源503をオンしてスパッタ
源502にP(W)の電力を投入すると、GeSbTe
ターゲット521の上部の空間にドーナツ状のマグネト
ロンプラズマが生成し、Vdcモニタ504にPに依存
してVdcが表示される。ここで、Pは放電パラメータ
として成膜毎に変化させる。Vdcのモニタ値は、装置
に付随のモニタ541の読みと、確認用の電圧プローブ
とオシロスコープの系での測定値は、プラスマイナス5
Vの範囲で一致したので、以下ではスパッタ装置に付随
するモニタ541の直読値を説明する。
【0282】PをVdcで除した値がターゲットに入射
する平均的なイオン電流密度となる。予め調べた成膜速
度を参考にして、膜厚20nmのGeSbTe記録層5
64が第1干渉層563の上に堆積されるまでスパッタ
放電を継続した後、RF電源503をオフしガス遮断
後、記録層564が堆積された基板を第2干渉層56
5、反射層566の成膜室に順次移動して相変化ディス
クを形成する。
【0283】得られたディスクは、媒体膜の設けられて
いないダミー基板と貼り合せ、アズデポの状態のまま記
録再生動作に供した。媒体膜の形成においては、成膜時
間が比較的短い場合が多く、成膜中にプローブ測定する
事が困難であるため、成膜と同一条件で別途プローブ測
定を行い、イオン密度を導出することが望ましい。ター
ゲットに入射するイオン電流密度と、プラズマ中のイオ
ン密度については、次の実施例に関して言及することと
し、ここではVdcと無初期化状態での初回記録特性及
び成膜速度の関係について説明する。
【0284】図25は、Vdc/Vthと無初期化初回
記録特性及び成膜速度の関係を表すグラフ図である。こ
こで、Vthは、Ge、Sb、Te各元素のVthの重
み付き相加平均を用いても良く、また、成膜速度とVd
cのデータから実験的に求めても良い(成膜速度が零に
なるVdcの内挿値がVthを与える)。ここでは、ス
パッタデータブックに記載されているGe、Sb、Te
各元素のVthの重み付き相加平均値と実験的に求めた
Vthとがほぼ20Vで一致した。
【0285】縦軸の(Ra−Rc1)/(Ra−Rc)
は、アズデポの非晶質反射率(Ra)と、アズデポで初
回記録を行い形成した結晶スペースの反射率(Rc1)
と、100回以上のオーバライトを行った後の結晶スペ
ースの反射率(Rc)を用いて求めたものである。Rc
はいわば従来技術に従って初期結晶化工程を施した後の
結晶部の反射率に相当するものなので、(Ra−Rc
1)/(Ra−Rc)はアズデポでの初回記録で如何に
良好な結晶スペースが形成されたかの指標になる。この
値が100%ならば、初回から完全に結晶スペースが形
成できており、x%の時には(100−x)%分は未だ
十分に結晶にならずに非晶質の残渣が存在していること
を意味する。
【0286】図25から、本関連技術に従ってVth<
Vdc≦10Vthとすることで、良好な無初期化初回
記録特性が得られることがわかる。つまり、相変化記録
媒体の製造工程から初期結晶化工程を除外することでき
る。特に、Vdc≦8Vthの範囲では、(Ra−Rc
1)/(Ra−Rc)は100%と完全な値を示し、か
つその再現性も十分に高かった。
【0287】なお、Vdcが3Vthよりも小さくなる
と成膜速度が極端に遅くなり、膜密度が減少して耐酸化
性が若干劣化する傾向が見られるため、3Vth≦Vd
cであることがより望ましい。
【0288】図25の右側の縦軸のDRは、記録層の成
膜速度を表す。本関連技術の第1具体例により得られた
成膜速度は、同図において「実施例1」として表した。
【0289】同図からわかるように、記録層の成膜速度
は、Vdcが低くなるほど低下する。例えば、Vdcを
2Vthとした場合、記録層の成膜速度は約0.5nm
/秒となる。従来の方法による成膜速度の典型値は2n
m程度であるので、Vdc=2Vthにおいては、成膜
速度が従来の典型値の1/4程度に低下する。しかし、
この場合においても初期化工程を削減できる効果の方が
大きい。
【0290】以下に、ディスク1枚当りの製造時間を従
来と同一とする条件で製造コストの比較を行う。スパッ
タリング装置の価格は、典型的には初期化装置価格の1
0〜20倍程度である。記録層成膜速度の低下分をスパ
ッタ室の増分に置換えると、スパッタ室一室の増加は、
スパッタリング装置全体の価格の5〜10%程度の価格
上昇をもたらすので、成膜速度の1/4の低下は初期化
装置4台分の価格に置換えられる。しかし、従来は、ス
パッタ装置1台当り10台程度の初期化装置を設置して
いた。これに対して、本関連技術によれば10台の初期
化装置が不要となるので、前記した成膜速度の低下分の
初期化装置換算分(4台)を大幅に上回ることができ
る。
【0291】以上の試算は、本関連技術のVth<Vd
c≦10Vthのほぼ全範囲に亘って成立する。Vdc
の下限は、上記試算に従えば成膜速度が従来の1/10
に低下するVdcとなり、本具体例では1.3Vthと
なる。但し、工程全体の効率の算出方法は、工程の設計
に依存して変化する。ここでVdcをVthを含まない
Vth以上と規定する。
【0292】また、本具体例ではVdcを主に放電入力
(P)によって制御したが、Vdcはガスの種類、ター
ゲット構成元素の種類によっても僅かではあるものの変
化する。また、発明者などの実験結果から、DRはγ
(Vdc)・Iiに比例することが確認された。具体例
1におけるIiは、Vdc/Vth:2〜10の範囲に
おいて、0.4〜0.8mA/cm、Niは、2x
1010〜4×101O(cm−3)であった。
【0293】(第2の具体例) 図26は、本具体例において作成した相変化記録媒体の
断面構造を例示する概念図である。同図において、57
1は光ディスク基板、572は下側干渉層、573は記
録層、574は上側干渉眉、575は反射層である。
【0294】本具体例では、記録層573以外の層につ
いては、図23のスパッタリング装置では無く、純A
r、通常のマゲネット(1T級)、13.56MHz電
源、フィードバックク無しの手法を採用した。また、全
ての層の形成は真空中で一環して行った。
【0295】なお、本具体例では、典型的な相変化記録
媒体の層構造として4層構造を採用したが、本関連技術
は特に媒体の層構造には限定されるものではなく、例え
ば、Joint−MORIS/ISOM1997のテク
ニカルダイジェストpp.66−67のFig.4に示
されている構造、同pp.74−75のFig.1に開
示されている構造、同ポストデッドラインペーパ・テク
ニカルダイジェストpp.23−24のFig.1
(b)に開示されている構造、第10回相変化記録研究
会シンポジウム講演論文集pp.104−109のFi
g.1に開示されている欄造、特開平10−22617
3号公報に開示されている構造、など幅広く適用可能で
ある。
【0296】ディスク基板としては、プリフォーマット
されたポリカーポネイト製の円盤を用いるのが一般的で
ある。基板の直径は64mm,80mm,120mm,
135mm,300mm等であり、基板の厚みは0.6
mmまたは1.2mmが代表的である。本実施例では、
DVD−RAMフォーマットのディスク基板を用いた。
上下の干渉層には、ZnS−20%SiO2が主に用い
られるが、その他にも、Ta−O,Si−0,Si−
N,Al−N,Ti−O,B−N,Al−Oなど透明誘
電体材料の中から自由に用いることも可能である。
【0297】記録層としては、Ge−Sb−Te系また
はAg−In−Sb−Te系が代表的であり、本実施例
ではGe Sb Te を用いた。 反射層とし
ては、Al合金、Au,Cu,Ag、Ti−Nなどの高
反射率材料を用いることが出来、本具体例ではAl−M
o合金を採用した。
【0298】膜厚は、下側干渉層572が120nm、
記録層573が20nm、上側干渉層574が15n
m、反射層575が100nmとした。光学計算上、波
長650nmの光に対して非晶質部の反射率は5%、結
晶部反射率は20%となる媒体構成である。
【0299】次に、図26の構成の相変化記録媒体の作
成手順を説明する。スパッタリング装置に基板571を
装着し、真空排気して従来条件で下側干渉層572を形
成した後、図23の構成のスパッタリング装置内に基板
を搬送して、記録層573形成を以下の手順で実施し
た。
【0300】すなわち、成膜容器501は予め真空排気
されており、下側干渉層572の形成室から基板は基板
ホルダー505とともに真空中を搬送されてくる。ガス
導入系507からAr−Kr混合ガスを200sccm
導入し、成膜容器501の内部の圧力を2Paに維持し
つつ、パルス変調RF電源532を投入してGeSbT
eターゲット521の上部空間にドーナツ状のマグネト
ロンプラズマ511を生成する。
【0301】この負グロープラズマとターダットとの間
には陰極降下部が形成され、ターゲットは接地電位に対
して−Vdcの電位を持つ。プラズマ中のイオンの中、
陰極降下部に拡散してきたものは、ターゲットに向けて
加速され、ほぼVdcのエネルギでターゲットを衝撃
し、ターゲット構成元素をスパッタ放出する。スパッタ
放出時のエネルギは、入射したイオンのエネルギ即ちV
dcにほぼ比例するので、本関連技術ではスパッタ粒子
のエネルギは従来よりも低く抑えられる。
【0302】以上説明したようにして記録層を堆積した
後に、再度従来のスパッタリング方法により、上側干渉
層574、反射層575を順次積層して、ディスクを大
気中に取出した。
【0303】本具体例においても、Vdcをパラメータ
として多数の光記録媒体を試作し、そのアズデポ状態で
の記録特性について評価した。その結果、Vdc/Vt
hと無初期化初回記録特性及び成膜速度との関係は、図
25に表したものとほぼ同様であり、Vth<Vdc≦
10Vthなる範囲において良好な無初期化初回記録特
性が得られた。
【0304】なお、後に詳述するように、スパッタ放出
量は、前述した各種のプラズマ密度増加手段を用いて高
密度プラズマを生成することにより、従来より低いVd
cにおいても、従来と同等の数nm/秒程度の高い値を
得ることができる。
【0305】(第3の具体例) 前述した第1及び第2具体例は、主にVdcと無初期化
初回記録特性との関係に着目した本関連技術の基本的な
形態である。この第3具体例は、Vdcを無初期化状態
での初回記録特性上の好ましい範囲に設定したままの状
態で、成膜速度を高めるべくプラズマ密度増加手段をさ
らに備える。
【0306】記録層の成膜に用いるスパッタリング装置
の構成は図23と同様であるが、本実施例では、マグネ
トロンプラズマ生成用磁石523の磁界強度の増加、誘
導結合プラズマ生成用コイル512、及びそれらの併用
を試みる。磁界強度の増加、誘導結合プラズマの生成に
よりVdcが変化するが、Vdcは基本的に良好な無初
期化初回記録特性が得られる範囲である2Vth≦Vd
c≦10Vthの範囲になる様に、スパッタ源への放電
入力(P)も含めて調整する。
【0307】図23の構成の装置による第3具体例の実
施手順は、前述した第1具体例の実施手順に以下の改良
を施せば良い。即ち、磁石523を通常の1〜1.5k
G級の磁界を発生させる部材から、2〜2.5kG級の
磁界を発生させるものに変える、もしくはスパッタ源へ
の電力の印加と同時に誘導結合プラズマコイル512に
電力を供給する。あるいは、それらの両方を実施しても
良い。
【0308】磁界強度の増加は、磁石の構成材料を高B
s材料に代えるか、磁気回路の設計に工夫を施せばすれ
ば良い。誘導結合プラズマコイルとは、半導体プロセス
装置などに使用されている所謂誘導結合プラズマ(IC
P)を生成させる為のもので、CuもしくはSiO
被覆Cuコイルを成膜容器内のターゲット付近に設置
し、外部からRF電力を投入してICPを生成するもの
である。
【0309】本具体例では、Vdcをモニタすると共
に、プラズマプローブ509を用いてイオン密度(N
i)の計測を行い、第1具体例と同様に無初期化状態で
の初回記録特性、成膜速度を調べた。無初期化状態での
初回記録特性は、誘導結合プラズマの生成のような補助
的なプラズマ密度増加手段の実施、マグネトロン磁界強
度の増加の様な工夫を施した場合においても、Vth<
Vdc≦10Vthの範囲で良好な値を示した。これは
無初期化状態での初回記録特性、ひいてはアズスパッタ
膜の微細構造が、記録層の成膜時のプラズマ密度には依
らず、Vdc即ちターゲットに入射するイオンエネルギ
ひいてはターゲットからスパッタ放出するスパッタ粒子
のエネルギによって支配されていることを意味する。
【0310】成膜速度は、第1具体例と同様にγ(Vd
c)・Iiに比例し、Iiは前述したようにプラズマ中
のイオン密度(Ni)とプラズマ中のイオンのランダム
速度(vi)によって、Ii=e・Ni・vi/4と表
記出来る。viはイオン温度がほぼ1000Kであるこ
とを考慮すると約5x10(cm/秒)であるか
ら、プローブ測定のNiからIiを推定でき、それから
成膜速度を推定出来る。前述の第1具体例、すなわちプ
ラズマ密度を特に増加させる工夫を施さない場合は、良
好な無初期化初回記録特性が得られるVdc/Vth=
1〜10の範囲において、Niは、2x1010〜4x
1010(cm−3)、Iiは0.4〜0.8mA/c
m2 であった。これに対して、本具体例では、Vdc
/Vth=2〜10の範囲において、Niは10
11(cm−3)以上、Iiは2mA/cm 以上の
高い値を示した。
【0311】本具体例において得られた成膜速度(D
R)を図25に「実施例3」として表した。同図から分
かるように、本具体例に従って高密度プラズマを生成し
た場合は、Vdc≦8Vthの範囲では、記録層の成膜
速度は従来の典型値を上回っており、工程全体の効率向
上が顕著に図れることが明白である。
【0312】以上説明した具体例においては、プラズマ
密度増加手段として、マグネトロン磁界強度の増加、補
助的なプラズマ生成手段としての誘導結合プラズマコイ
ルを用いた例を示したが、この他に、ホローカソード型
の電子源の設置、イオン源の設置(動作圧力がスパッタ
室よりも低い場合には差動排気系も合わせて設置すれば
良い)、ECRプラズマ、ヘリコンプラズマの利用な
ど、各種の手段を同様に用いることができる。
【0313】(第4の具体例) 本具体例では、Ar−10%Kr混合ガスを用いた。質
量数の重いKrを添加することで低イオンエネルギでも
スパッタ放出の効率を上げることが出来る。Vdcを低
下するためには、質量数の軽いガスを用いた方が好まし
いので、希ガスを用いる場合にはHe,Ne,Kr,X
eを適当な比率で混合するのが良い。
【0314】スパッタ源は、図23では典型的なマグネ
トロンスパッタ源の例を示したが、図23のマグネット
がターゲット裏面にあるタイプの他にも、ターゲットの
基板側と同一の面側にマグネットが配置されているタイ
プでも良い。また、マグネトロンスパッタ源以外に、通
常の二極スパッタ源(非マグネトロンタイプ)、ECR
スパッタ源などでも良い。さらに、前述したようにプラ
ズマ密度を高めるための、補助的なプラズマ生成手段が
附加されているのが好ましい。本具体例では、プラズマ
密度増加手段として、NdFeB系の強力な磁界源(>
2T級)のマグネットを採用し、負グロー中の電子の捕
捉効率を高めた。スパッタ電源はDCでもRFでも構わ
ず、通常の13.56MHzのRF以外にも適当な周波
数の交流電源を用いても良く、また、高密度化の為にパ
ルス変調プラズマを用いても良い。
【0315】本具体例では、10kHzでパルス変調さ
れた13.56MHzのRF電源を使用した。10kH
zのパルス変調をかけることにより、負グロー中からの
イオン・電子の両極性拡散損失が低減されて、プラズマ
密度が増加する。本関連技術は、Vdcの制御がポイン
トなので、放電中のVdcは適時モニターし、外乱によ
るVdcの変化を抑制するためにフィードバック回路を
用いて、常に所定のVdcになるようにスパッタ電源を
制御するのが望ましい。フィードバック系の採用によ
り、VdcとNiの変動は、プラスマイナス1%未満に
抑制することが出来る。
【0316】以上説明した以外の構成は、従来型のスパ
ッタリング装置と同等で構わない。本具体例と従来のス
パッタリングプラズマとを比較すると、従来の純Ar、
通常のマグネット(〜1T級)、13.56MHz電
源、フィードバック無しの場合のNiは3x10
10(cm−3)以下であったのに対して、本具体例に
おいてはNiが1011(cm−3)以上と大幅に改善
されて高成膜速度を実現することが出来た。
【0317】ここで、Niは、従来型の場合は投入パワ
ーに依存するが2kW程度の高パワーを投入してもせい
ぜい3x1010(cm−3)程度の値に留まった。ま
た、フィードバック無しの場合、放電中のNiの変動量
はプラスマイナス20%程度の範囲で変動した。
【0318】(第5の具体例) 高速初期化特性は、本質的にVdcに依存し、ターゲッ
トに入射するイオン数即ちNiには依存しない。従っ
て、特にプラズマ密度を高めなくても本関連技術は実施
可能である。プラズマ密度が1011(cm−3)未満
の条件、例えばNi=4x1010(cm−3)の条件
で本関連技術を実施した例を以下に示す。
【0319】対象とした媒体は、上記した第1具体例と
同一である。記録層の成膜は、純Ar、通常のマグネッ
ト(〜1T級)、13.56MHz電源、フィードバッ
ク無しの手法を採用した。
【0320】Vdc=10Vthの条件では、従来の
(典型的にはVdc>13Vth)条件により作成した
記録媒体と比較してはるかに優れ、実用的に使い得るア
ズデポ記録特性が得られた。この時の、記録層の成膜速
度は、従来の典型値の90%程度を維持しており、工程
全体の効率向上が図れることは明白である。
【0321】また、Vdcを2Vthと低い値に設定し
た場合、記録層の成膜速度は従来の典型値の1/8程度
に低下する。これは、初期化装置8台分のコスト増だが
初期化工程の削減効果は初期化装置10台分なので、工
程全体の効率は向上する。
【0322】VdcがVthに近すぎると、成膜速度の
低下分の方が初期化工程削除による高遠化よりも顕著と
なる。このバランスポイントは、例えば、成膜速度が従
来の1/10に低下する条件とすることができる。この
条件は、本具体例の場合には、Vdc=1.7Vth前
後といえる。
【0323】(第6の具体例) 次に、記録層材料を上記したGe−Sb−Te系からA
In13Sb49Te30(原子%)に変えて、
Ge−Sb−Te系を用いて前述した各具体例で実施し
たのと同様の手法で、本関連技術を実施した。
【0324】その結果、従来技術に従って記録層を作成
した比較例共々、Ge−Sb−Te系の場合と同様に、
Vth<Vdc≦10Vthの全範囲で、良好なアズデ
ポ記録特性が得られ、初期化工程削減効果の方が、成膜
速度低下率を上回り工程全体の効率が向上することが確
認出来た。
【0325】以上、具体例を参照しつつ本関連技術の具
体例について詳細に説明した。しかし、本関連技術は、
これらの具体例に限定されるものではない。
【0326】すなわち、記録層のスパッタ条件が本関連
技術の実施にとって重要である他は、特に各層の膜材
料、膜厚、記録膜以外の成膜方法・条件には制約されな
い。例えば、記録層の材料としては、上記の他にも、カ
ルコゲン系の金属化合物、例えばGe−Sb−TeやA
g−In−Sb−TeなどにCr,V,N等を適宜微量
添加した材料を用いることができる。
【0327】また、5層膜構造の場合に、半透明層とし
ては、Auの他に銀(Ag),銅(Cu),シリコン
(Si)などや、誘電体母材中に金属微粒子を分散した
構造の膜を用いることができる。また、干渉層として
は、ZnS−SiO以外に、Ta ,Si
,SiO ,Al ,AlN等の
誘電体膜材料、記録層としてはGeSbTeの他にIn
SbTe,AgInSbTe,GeTeSeなどのカル
ゴゲン系膜材料、反射層としてはAlMoの他、AlC
r,AlTiなどのAl合金系膜材料などから適宜選択
して用いることができる。
【0328】さらに、上述した具体例においては、光記
録媒体の一例として光ディスクを例に挙げて説明した
が、本関連技術はこれに限定されるものではなく、その
他にも、例えば、光記録カードなど種々の形態の相変化
光記録媒体に同様に適用し、同様の効果を得ることがで
きる。
【0329】本関連技術によれば、アズデポ状態から直
ちに高いCNRでの記録が可能となるので、相変化記録
媒体の製造工程から初期結晶化工程を除外することがで
きる。その結果として、製造コストを低減させ、相変化
記録媒体を広く普及させることができるようになる。
【0330】(第5の実施の形態) 次に、本発明の第5の実施の形態について説明する。本
実施の形態は、独特の条件において基板上の記録層を加
熱する点に特徴を有し、初期結晶化工程を不要とする相
変化記録媒体の製造方法及び製造装置を提供するもので
ある。
【0331】上記した目的を達成するために、本実施形
態の相変化記録媒体の製造方法は、基板と前記基板上に
堆積された記録膜とを有する相変化記録媒体の製造方法
であって、前記基板上に前記記録膜を堆積している間ま
たは前記基板上に前記記録膜を堆積した後に、前記基板
の温度をその熱変形温度未満としつつ前記記録膜を室温
よりも高い温度に昇温することにより、前記記録膜中に
微細結晶核を生成させることを特徴とする。
【0332】一方、本実施形態の相変化記録媒体の製造
装置は、基板と前記基板上に堆積された記録膜とを有す
る相変化記録媒体を製造する製造装置であって、前記基
板の温度をその熱変形温度未満としつつ前記記録膜を室
温よりも高い温度に昇温する加熱手段を備えたことを特
徴とし、前記記録膜中に微細結晶核を生成させるように
したことを特徴とする。
【0333】または、本実施形態の相変化記録媒体の製
造装置は、基板と前記基板上に堆積された記録膜とを有
する相変化記録媒体を製造する製造装置であって、前記
基板上に前記記録膜を堆積するための手段と、前記記録
膜の堆積中に、前記基板の温度をその熱変形温度未満と
しつつ前記記録膜を室温よりも高い温度に昇温する加熱
手段と、を備えたことを特徴とし、前記記録膜中に微細
結晶核を生成させるようにしたことを特徴とする。
【0334】ここで、本実施形態の望ましい実施例とし
て、前記加熱手段は赤外線ランプ加熱を用いたものであ
ることを特徴とする、また、前記基板を支持する基板ホ
ルダをさらに備え、前記基板ホルダの前記基板との接触
部は、前記ランプ加熱により照射される赤外線ランプ光
に対して実質的に吸収を有しない材料により構成されて
いることを特徴とする。
【0335】本実施形態の基本的考えは、相変化記録層
の成膜中もしくは成膜直後に記録層を昇温して、結晶化
するか、もしくは非晶質ネットワーク中に微細な結晶核
を生成するということである。従来は、光ディスク用の
基板として実用的な樹脂基板を用いた場合には、基板の
熱変形温度の方が記録層の結晶化温度よりも低いがため
に、成膜中でも成膜後でも記録層の結晶化温度以上に昇
温することが不可能であった。
【0336】本発明者は、成膜中もしくは成膜直後で有
れば基板の熱変形温度未満に記録層を昇温すれば、完全
な結晶化は出来ないものの、非晶質ネットワーク中に結
晶核を形成することが可能なことを発見して第1乃至第
3の発明に至った。
【0337】さらに、工夫を加えて、急速加熱と急速冷
却が可能な赤外線ランプ加熱方式を採用すれば、熱容量
の大きい基板には熱負荷を与えない時間内で、熱容量の
極めて小さい記録膜だけを昇温でき、非晶質ネットワー
ク中に微細な結晶核が点在する構造のみならず、結晶状
態の記録膜の形成も可能であることを見出し第4の発明
に至った。
【0338】また、第4の発明の実施に当り、基板ホル
ダの基板との接触部に用いる材料としてランプ光を吸収
しない材料を用いれば、記録膜を結晶化するために十分
に長い時間ランプ加熱しても、基板の熱変形は皆無であ
ることを発見し第5の発明に至った。
【0339】ここで、本実施形態により形成される記録
膜、すなわち非晶質ネットワーク中に微細結晶核を点在
する構造の記録膜で、何故に本実施形態の目的とする初
期結晶化工程の削減が図れるのかを簡単に説明する。前
記したように、相変化記録原理から考えれば記録マーク
は非晶質であり、この記録マークの非晶質部は長時間の
アニール無しに数10ナノ秒程度の時間の消去ビームの
照射によって結晶化するのであるから、一見初期結晶化
工程を経ずに、アズデポの非晶質に対して記録動作を行
っても差し支えないように思える。しかしながら、現実
にはアズデポの非晶質には、結晶スペースの形成ができ
ないために、記録することができない。これに対して、
一旦初期結晶化してしまえば、その後光照射で非晶質マ
ークを形成しても、この非晶質マークは消去ビームの照
射によって高速に結晶化する。
【0340】アズデポの非晶質と光記録で形成した非晶
質は、通常のX線回折や電子線回折では有意差が見られ
ない。本発明者は、高分解能電子顕微鏡を用いてアズデ
ポの非晶質と光記録の非晶質部とを詳細に観察した。そ
の結果、アズデポの非晶質には、特に規則的な構造が認
められなかった一方で、光記録により形成された非晶質
中にはサブnm(ナノメータ)から数nm程度のサイズ
の近距離秩序が観察された。つまり、ランダムネスが高
く秩序性の全く無いアズデポの非晶質部は高速結晶化が
出来ないが、近距離秩序を含有する非晶質は近距離秩序
が結晶化を促進して高速結晶化が可能になることを発見
した。
【0341】本実施形態は、この発見に基づいてなされ
たものである。すなわち、本実施形態によれば、相変化
記録媒体の基板にダメージを与えることなく、記録層を
効果的に加熱して、高速結晶化が可能な近距離秩序を形
成することができる。その結果として、初期結晶化工程
が不要となり、製造コストを低減して相変化記録媒体を
広く普及させることができる。
【0342】アレニウスの扱いにおいては、非晶質中の
結晶領域の比率(X)は、結晶化定数をαとおくと、x
=1−exp(−αt)で与えられる。ここで、tは時
間である。αは、結晶化の頻度因子(ν)と結晶化の活
性化エネルギ(Ea)とを用いて、α=νexp(−E
a/kT)と表わすことが出来る。ここで、kはボルツ
マン定数、Tは絶対温度である。従って、結晶化は温度
と時間の両方に依存して進行すること、及び室温であっ
ても数10年というような長期間の経過によって徐々に
結晶化が進展することが分かる。
【0343】本実施形態における微細結晶核生成のため
の加熱時間あるいは結晶化のための加熱時間は、相変化
記録媒体の製造タクトに対応し、数秒間から数分間であ
る。この時間範囲では、所謂、DSC測定で得られた結
晶化温度より低温側においても微細結晶核は発生する。
このことは、レーザ光照射による数10ナノ秒から10
0ナノ秒程度の加熱でも、200〜300℃程度に加熱
すれば容易に結晶化する事実からも類推できる。
【0344】本発明者が実験的に求めた加熱時間と加熱
温度との関係は以下の通りである。すなわち、微細結晶
核を非晶質中に分散させた構造(光学的には実質的に非
晶質状態である)の記録層を形成する場合は、数分の加
熱時間に対しては80〜90℃、数秒から10秒程度の
短時間加熱では100〜110℃、1秒以下では120
度以上であることが、各々望ましい。
【0345】一方で、記録層を結晶化させようとする場
合には、数分の加熱時間に対しては110〜120℃、
10数秒の加熱時間に対しては130〜140℃、1秒
以下の加熱時間の場合は150℃以上であることが望ま
しい。
【0346】なお、成膜中に加熱を行うとスパッタ粒子
の基板面上でのマイグレーションが促進されるため、マ
イグレーションが完了して固体化した後である成膜後に
加熱を行って固相拡散を助長するよりも近距離秩序が形
成されやすいため好ましい。
【0347】次に、相変化記録媒体の基板の材料につい
て説明する。 相変化記録媒体の基板としては、熱変形
温度が120℃程度のポリカーボネイト基板が一般的に
用いられている。ポリカーボネイト以外の基板材料とし
ては、ポリメチルメタクリレート(PMMA)またはア
モルファスポリオレフィン(PO)が、光学特性的に光
ディスク用の基板の材料として使用可能である。PMM
Aの熱変形温度は、射出成形品では85℃、キャスト品
では100℃程度である。また、POの熱変形温度は、
130℃程度である。本願発明は、ポリカーボネイト基
板以外にも、PMMAやPOを基板として採用する場合
にも有効である。
【0348】さらに、将来的に採用が検討されている新
たな光ディスク基板材料を用いた場合についても適用す
ることができる。本実施形態の赤外線ランプ加熱で記録
層のみを選択的に加熱する場合においては、基板の熱変
形温度が記録層の結晶化温度(DSC測定値が目安とな
る)よりも低い場合でも効果的であり、製造性の点から
も赤外線ランプ加熱の方が急速に加熱・冷却可能である
というメリットがある。
【0349】さらに、基板ホルダの基板との接触部を赤
外線ランプ加熱により照射されるランプ光に対して実質
的に光吸収を有しない材料で構成すると、記録膜を選択
的に加熱することができるため、基板の熱変形を抑制す
ることができる。
【0350】以下、図面を参照しつつ本実施形態の実施
例について説明する。 図27は、本実施形態において
用いる相変化記録膜の形成装置の構成を例示する概念図
である。同図において、601は成膜容器、602は基
板ホルダ、603は抵抗加熱ヒータ、604はヒータ電
源、605は光ディスク基板、606は相変化記録膜、
607はスパッタ源、608はGeSbTeターゲッ
ト、609はスパッタ電源、61Oはガス供給系、61
1は排気系、612は基板加熱用赤外線ランプである。
【0351】本実施形態の第1の実施例では、図27に
おいて記録膜の昇温には抵抗加熱ヒータ603を主に用
い、第2の実施例では、記録膜の昇温には赤外線ランプ
を用いる。但し、記録膜の昇温に、抵抗加熱ヒータと赤
外線ランプ照射を併用しても構わない。また、成膜容器
601は、単独のバッチ式でも、ローディング/アンロ
ーディング室の設けられたバッチ式でも、複数の成膜容
器を連結してなるインラインタイプもしくは枚葉式の中
の一室でも構わない。
【0352】(第1の実施例) 本実施例では、相変化記録膜の昇温に抵抗加熱ヒータ6
03のみを使用した。前記した図27の構成を用いて、
以下の手順で本実施形態を実施した。成膜容器は、枚葉
式スパッタ装置の中の一室であり、ポリカーボネイトの
基板605は装置の前室に取付けられ排気された後、各
成膜容器に受け渡されていくという構成を有する。記録
膜606を成膜する前に基板5の上には所定の方法に従
ってZnS−SiO2からなる第1干渉膜が形成されて
いる。第1干渉膜の形成された基板5は真空排気された
成膜容器601に受け渡されてくる。ここで、基板60
5とホルダ602は一体となって移動する形式でも、そ
うでなくても構わない。
【0353】ヒータ603を通電して、基板温度を例え
ば85℃に保持した後、ガス供給系610から例えばA
rガスを200sccm供給し、容器中のガス圧力を例
えば0.25Paに保持し、スパッタ電源609をオン
しスパッタ源607にRF電力を投入すると、ターゲッ
ト608の近傍にマグネトロンプラズマが生成される。
プラズマ中のArイオンはターゲットとプラズマ間に形
成される陰極降下部においてターゲットの方向に加速さ
れ、数100eVのエネルギでターゲット表面を衝撃す
る。すると、ターゲットを構成するGe,Sb,Teな
どの粒子がスパッタ放出され、対向して配置されている
基板605の上にGeSbTe膜が堆積される。この
後、別の成膜容器に受け渡された基板の上には、第2干
渉膜として例えばZnS−SiO、反射膜として例え
ばAl合金膜が順次堆積されて大気中に取出される。記
録層の成膜以外の部分で基板を熱変形温度未満の温度帯
で昇温してもしなくても良い。
【0354】本実施例においては、媒体の層構成は、結
晶反射率の方が非晶質反射率よりも高い通常のHtoL
(high to low )構成とし、各層の膜厚を調整して非晶
質の反射率を10%、結晶反射率を35%とした。これ
らの設定は本実施形態の効果を検証する目的で実施した
ものであり、アズデポ状態が非晶質状態である場合にお
いてサーボ信号が安定して得られるだけの反射率に設定
したということを意味する。但し、本実施形態は上記し
た反射率の構成以外に、LtoH構成にも適用可能であ
る。
【0355】以上の手順で形成された相変化記録媒体
を、「第1実施例の媒体1」とする。即ち、第1実施例
の媒体1は、記録膜の成膜中に抵抗加熱ヒータ603を
用いて基板の熱変形温度未満の温度帯に昇温して得たも
のである。このようにして、成膜時の基板温度を変えつ
つ、第1実施例の媒体1を複数形成した。
【0356】次に、前述と同様の手順で、記録膜成膜時
には基板加熱をせずに、記録膜の成膜後にヒータ603
を通電して数分間の加熱を行い、前記と同一の層構成の
相変化記録媒体を得た。これを「第1実施例の媒体2」
とする。この場合にも、記録膜成膜後のアニール温度を
パラメータとして複数のディスクを試作した。
【0357】次に、比較例として、記録膜の成膜中も成
膜後も全く基板の昇温を行わずに、前記したものと同一
の層構成のディスクを作成した。これを「比較媒体」と
する。
【0358】上記した手順に従って得た「第1実施例の
媒体1」、「第1実施例の媒体2」及び「比較媒体」
は、それぞれ以下の手順で評価した。まず、スパッタ装
置から取出したディスクは、対向ブランク基板と貼り合
せた後に、初期結晶化工程を経ずにディスク評価機にセ
ットする。そして、線速度8.2m/秒、記録ビット長
0.28μm/bitの条件で信号の記録を行った。
【0359】また、基板昇温による基板ダメージを調べ
る目的で、ノイズレベルの測定も行った。記録前にディ
スク反射率を調べたところ、第1実施例の媒体1,2及
び比較媒体ともに、ほぼ10%程度の値を示し、初期状
態すなわちアズデポ状態がマクロ的には非晶質であるこ
とが示唆された。
【0360】図28は、ディスク評価結果を表すグラフ
図である。同図の白丸は比較媒体の評価結果、黒丸は第
1実施例の媒体2の評価結果、黒三角は第1実施例の媒
体1の評価結果をそれぞれ表す。ノイズレベルを見る
と、成膜中加熱でも成膜後加熱でも80℃程度までは特
にノイズの上昇は無く、100℃程度から基板のグルー
ブの熱変形または基板の「ソリ」の増加に伴うと思われ
るノイズ増加が見られた。図中にはプロットしていない
がポリカーボネイトの熱変形温度である120℃を超え
ると「ソリ」が激しく、対向基板との貼り合せが旨くい
かないか、貼り合せは出来ても安定したサーボ信号を得
ることが出来ず評価に供し得なかった。
【0361】アズデポ初回記録のCNRをみると、本実
施形態に従って成膜中、もしくは成膜後に記録膜の加熱
をした場合には、初回から高いCNRを示すことが明ら
かである。記録膜の好ましい加熱温度帯は70〜110
℃、より好ましくは75〜105℃、最も好ましくは8
5℃付近であった。成膜中加熱(媒体1)と成膜後加熱
(媒体2)を比較すると成膜中加熱の方がCNRが良好
であった。これは本実施形態によって形成した相変化記
録膜は前述したように、非晶質ネットワーク中に微細な
結晶核が点在する構造を呈すると考えられるが、成膜中
にスパッタ粒子が基板面上でマイグレートしている最中
に加熱してマイグレーションを促進させた方が、成膜後
即ちマイグレーションが完了して固体化した後に加熱し
て固相拡散を助長する場合に比べて、近距離秩序が形成
されやすいためと考えられる。
【0362】(第2の実施例) 本実施例では、図27の構成で抵抗加熱ヒータ603は
用いずに、赤外線ランプ612を記録膜の加熱に使用し
た。ランプ加熱は連続的には行わず、基板ホルダの温度
上昇を避けるために、設定温度に到達したら一旦ランプ
をオフして50℃程度まで冷却し再度設定温度まで加熱
するという「サイクル加熱」を3サイクル繰り返した。
この方法によって記録層が設定された温度に加熱されて
いる時間は、概ね数秒〜10秒程度であった。
【0363】また、本実施例では、図27に示した通常
のSUS部材からなる基板ホルダ602と、赤外線に対
して実質的に吸収を有しない部材からなる基板ホルダと
を用いた。
【0364】図29は、ランプ光を吸収しない基板ホル
ダを例示する概念図である。同図において、621はS
US製の構造部材、622は赤外波長に対して透明であ
り吸収率が低い材料からなる部材、623は赤外線を吸
収して昇温する構造部材621の熱を透明な部材622
に伝達するのを防止するための空隙、透明部材622に
接触して載せられる605はディスク基板、606は基
板605の上に設けられる所定の膜である。ここで、透
明部材622は、マコール、バイコール等の加工性の良
好なガラス部材もしくは石英、アルミナ等からなるもの
とすることができる。
【0365】実施例1と同様に、基板温度は基板外周部
を局部的に加工し、基板の記録膜が設けられる面に対し
てターゲットとは反対側の位置に取付けた。ランプ加熱
の場合には、熱電対自体がランプ光を直接吸収して加熱
されてしまい正しい温度が測定出来ないので、熱電対を
挿入した部分のターゲットに対向する位置にはランプ光
をほぼ100%近く反射する薄膜を設けた。この様にす
ることで記録膜の温度を正しく測ることができる。
【0366】評価に当っては、まず記録膜の反射率の測
定を行った。その結果、ランプ加熱温度が140℃以上
の場合は、反射率は30%程度の値を示し、記録膜が結
晶化していることが判明した。加熱温度が130℃以下
の場合は、反射率は10%程度であり記録膜は非晶質状
態であり、ランプ加熱温度が130〜140℃の間の場
合は部分結晶化を反映する反射率が得られた。
【0367】図30は、CNRとノイズレベルの評価結
果を表すグラフ図である。同図で黒丸は図27の基板ホ
ルダ602を用いた場合、白丸は図29に表した基板ホ
ルダを用いた場合の結果である。本実施例においては、
加熱温度が130℃以上になるとノイズレベルが上昇す
る傾向が見られる。図28に示したデータ、すなわち抵
抗加熱ヒータで加熱した場合と比較すると、本実施例の
方がノイズレベルが上昇する加熱温度が高い温度側にシ
フトしていることが分かる。
【0368】抵抗加熱では、基板ホルダを加熱し、その
熱によって基板を加熱し、さらにその熱によって記録膜
を加熱する。このため、基板の熱変形が低い温度から発
生する。これに対して、本実施例においては記録膜を直
接加熱するため、図27のようなSUS製基板ホルダを
用いても、加熱と冷却をサイクリックに実施した場合に
は基板の熱変形は格段に抑制される。さらに、図29の
ホルダを用いて記録膜のみを選択的に加熱し基板は加熱
しない場合(光ディスクに通常使用されるポリカーボネ
イト基板は赤外線に対して透明である)には、基板の熱
変形は格段に抑制されることが分かる。
【0369】図27のホルダを用いた場合には、120
℃以上の加熱で基板の変形に伴うノイズレベルの上昇と
初回CNRの低下が観測されたが、図29のホルダを使
用した場合には、170℃の加熱に対してもノイズ上昇
は皆無であった。初回CNRは、図28に示した抵抗加
熱の場合と同様に、80℃以上の温度でノイズレベルが
発生しない限りにおいては高い値を示し、本実施形態の
効果が検証された。
【0370】以上、具体例を参照しつつ本実施形態の実
施例について詳細に説明した。しかし、本実施形態は、
これらの具体例に限定されるものではない。
【0371】例えば、上述した具体例においては、Rc
<Raの膜構造の媒体として、基板からZnS−SiO
/GeSbTe/ZnS−SiO /Al合金膜
をスパッタ成膜した4層構造のものを例示したが、これ
以外にも、例えば、これにAu半透明膜を挿入した5層
構造としても良い。
【0372】また、記録層の加熱条件が本実施形態の実
施にとって重要である他は、特に各層の膜材料、膜厚、
記録膜以外の成膜方法・条件には制約されない。例え
ば、記録層の材料としては、上記の他にも、カルコゲン
系の金属化合物、例えばGe−Sb−TeやAg−In
−Sb−TeなどにCr,V,N等を適宜微量添加した
材料を用いることができる。
【0373】また、5層膜構造の場合に、半透明層とし
ては、Auの他に銀(Ag),銅(Cu),シリコン
(Si)などや、誘電体母材中に金属微粒子を分散した
構造の膜を用いることができる。また、干渉層として
は、ZnS−SiO以外に、Ta ,Si
,SiO ,Al ,AlN等の
誘電体膜材料、記録層としてはGeSbTeの他にIn
SbTe,AgInSbTe,GeTeSeなどのカル
ゴゲン系膜材料、反射層としてはAlMoの他、AlC
r,AlTiなどのAl合金系膜材料などから適宜選択
して用いることができる。
【0374】さらに、上述した具体例においては、光記
録媒体の一例として光ディスクを例に挙げて説明した
が、本実施形態はこれに限定されるものではなく、その
他にも、例えば、光記録カードなど種々の形態の相変化
光記録媒体に同様に適用し、同様の効果を得ることがで
きる。
【0375】以上詳述したように、本実施形態によれ
ば、アズデポ状態から直ちに高いCNRでの記録が可能
となるので、相変化記録媒体の製造工程から初期結晶化
工程を除外することができる。その結果として、製造コ
ストを低減させ、相変化記録媒体を広く普及させること
ができるようになる。
【0376】(第6の実施の形態) 次に、本発明の第6の実施の形態について説明する。
【0377】本実施形態においては、複数の記録層を設
けることにより記憶容量を倍増しつつ、アドレス信号や
サーボ信号を安定に獲得し、さらに初期結晶化工程に伴
う生産性の低下も防ぐことができる相変化記録媒体、そ
の製造方法及び製造装置を提供する。
【0378】相変化媒体の記録密度を向上する技術とし
ては、光源の短波長化、対物レンズの高NA化、超解像
薄膜の付与などが挙げられる。
【0379】記録密度の向上を図らずに記憶容量を向上
させる手段として提案されているのが、片面二層化であ
る。片面二層は同一の光ビーム入射面側から、数10μ
m程度離れて配置された2層の記録層を光ビームの焦点
位置を調整するだけで記録再生するもので、ディスクを
裏返す必要が無いためユーザから見た場合には、ほぼ倍
の記録密度を有する片面単層ディスクと同等の性能を持
つ。再生専用のDVDでは通称DVD−9で知られる片
面二層ディスクが知られているが、書換え形では、記録
層1層分の透過率が不十分なため、光ビーム入射側に対
して奥に配置される記録層へ十分に光が届かず記録再生
が困難と考えられてきた。
【0380】しかしながら、ISOM(International
SymposiumonOptical Memory)'98,TechnicalDigest,pp.
144-145(Th−N−05)に開示される様に、書換え
形の相変化媒体においても、片面二層化が可能な事が示
唆された。この技術のポイントは光ビームの入射側から
第1記録層部、第2記録層部とした時に、奥側に配置さ
れる第2記録層部へ十分に光が透過するように、第1記
録層部の透過率を50%程度と高めた点、第1記録層部
と第2記録層部からのサーボ信号、再生信号のバランス
を取るために第2記録層部め反射率を高く、すなわち透
過率を低く設定した点、オーバライトジッタを低減する
ために第1記録層部、第2記録層部共に、結晶部の吸収
率Acを非晶質部の吸収率Aaよりも高く設定した点で
ある。
【0381】上記した設定を満足させるため、第1記録
層部は結晶部反射率Rcが非晶質部反射率Raよりも高
い、いわゆるHtoL構造で反射膜の無い3層構成、第
2記録層部は結晶部反射率Rcが非晶質部反射率Raよ
りも低い、いわゆるLtoH構造の下側に薄いAu半透
明膜、上側に薄いAl−Cr反射膜を有する5層構成を
採用している。
【0382】この構成では、光ビーム入射側から見た時
の各記録層部の反射率は、第1記録層部が結晶部に対し
て9%、非晶質部に対して2%、第2記録層部が結晶部
に対して3%程度、非晶質部に対して9%程度となる。
従って、この片面二層相変化媒体を従来の製造工程に従
って初期結晶化した場合には、アドレス部とデータ部の
初期反射率は第1記録層で9%、第2記録層では3%程
度となり、例えば片面単層のDVD−RAM規格の15
%〜25%に比べてかなり低い。第1記録層の初期反射
率程度であれば、再生パワーを上昇させればアドレス信
号再生、データ部のサーボ信号再生が何とか可能ではあ
るが、第2記録層部の反射率は低すぎてこのままではア
ドレス信号、サーボ信号共に再生が困難となる。
【0383】また、前記した書換え形に限定されず、片
面二層媒体に共通する課題として初期結晶化工程の煩雑
性がある。すなわち第1記録層部、第2記録層部をそれ
ぞれ初期結晶化すると2倍の工程を要するので生産性、
製造コストに支障をきたす事になる。
【0384】本実施形態は掲記した従来の片面二層媒体
の課題に鑑みてなされたものであり、良好なアドレス信
号、サーボ信号の再生ができる相変化記録媒体と、初期
結晶化工程が煩雑化して生産性を損ねるという課題を解
決できる相変化記録媒体の製造方法、製造装置を提供す
ることを目的としている。
【0385】本実施形態は上記の目的を達成するために
本実施形態においては、光照射によって結晶状態と非晶
質状態との間の相変化を生じる第1記録層部とこの第1
記録層部上に形成された分離層と、この分離層上に形成
されかつ光照射によって結晶状態と非晶質状態との間の
相変化を生じる第2記録層部とを具備し、前記第1及び
第2記録層部のうち少なくとも一方のアドレス部がデー
タ部の非晶質記録マークと実質的に同一のランダムネス
を有する非晶質状態であることを特徴とする相変化記録
媒体を提供する。
【0386】または、第1基板と、この基板上に形成さ
れた第1下側干渉層と、この下側干渉層上に形成されか
つ光照射によって結晶状態と非晶質状態との間の相変化
を生じる第1記録層と、この第1記録層上に形成された
第1上側干渉層とを有する第1記録層部と、前記第1上
側干渉層上に形成された分離層と;この分離層上に形成
された第2下側干渉層と、この第2下側干渉層上に形成
されかつ光照射によって結晶状態と非晶質状態との間の
相変化を生じる第2記録層と、この第2記録層上に形成
された第2上側干渉層と、この第2上側干渉層上に形成
された反射層とを有する第2記録層部とを具備し、前記
第1及び第2記録層部のうち少なくとも一方のアドレス
部がデータ部の非晶質記録マークと実質的に同一のラン
ダムネスを有する非晶質状態であることを特徴とする相
変化記録媒体を提供する。
【0387】本実施形態の相変化記録媒体において好ま
しい態様を以下に列挙する。
【0388】(1)データ部の非晶質記録マークと実質
的に同一のランダムネスを有する非晶質状態を有するア
ドレス部の熱伝導率が0.8〜6W/mKであること。
【0389】(2)熱伝導率が0.8〜6W/mKのア
ドレス部を有する記録層のデータ部の結晶スペースが、
結晶粒子の粒径に対する個数の分布が少なくとも2つの
異なる粒径でそれぞれ極大値を有していること。
【0390】(3)(2)のデータ部の非晶質記録マー
クがトラック幅よりも狭い結晶スペース内に列状に形成
されており、列状マークのそれぞれは結晶スペース以下
の幅を有し、かつトラック幅が動作波長と対物レンズの
開口数で決まるレーザスポット径よりも狭いこと。
【0391】まず本実施形態の相変化記録媒体に関して
説明する。
【0392】初期状態がアズデポの非晶質状態にある場
合、一般的には記録(結晶スペースの形成)は困難とな
り、何回も同一トラックをオーバライトしないと有意な
再生信号が得られないが、例えば前述した第3実施形態
に関して詳述した技術を用いると、アズデポの非晶質状
態でも1回目から有意な再生信号を得ることができる。
【0393】第3実施形態で提案している技術の要旨を
簡単に説明すると、レーザビームを用いた光記録により
形成された非晶質記録マークにアズデポの非晶質状態を
近づけることで、初期結晶化工程なしでも1回目のオー
バーライトから有意な再生信号を得ることができるよう
になる。
【0394】本実施形態において、前述した第3実施形
態の技術を、片面二層の内の特にLtoH構造の記録層
に適用すると、アドレス信号、サーボ信号の品質が大幅
に改善され、更には初期結晶化工程が不要となるため生
産性が向上する。
【0395】ところで、媒体のアドレス部はユーザによ
ってデータが書き込まれることはないため、オーバーラ
イト後もアズデボの非晶質状態が維持される。本実施形
態による第1、第2記録層部のうち少なくとも一方のア
ドレス部における非晶質状態の熱伝導率は0.8〜6W
/mKの範囲であることが、本発明者の研究により判明
している。
【0396】更にデータ部に関して言えば、データ部の
結晶スペースが、結晶粒子の粒径に対する個数の分布が
少なくとも2つの異なる粒径でそれぞれ極大値を有して
おり、また非晶質記録マークが結晶スペース内に列状に
形成され、列状マークのそれぞれが結晶スペース以下の
幅を有し、トラック幅が動作波長と対物レンズの開口数
で決まるレーザスポット径よりも狭いことも判明してい
る。
【0397】前記したISOM(International Sympos
ium on Optical Memory)'98,Technical Digest,pp.144
-145(Th−N−05)に開示される片面二層相変化記
録媒体に本実施形態を適用した場合には、第2記録層部
のみへの適用が効果的で第1記録層部は従来通り初期結
晶化工程を経ることになるが、本実施形態はそれに限定
されず、例えば第1記録層部に透過率の高いLtoH構
造の媒体を使用した場合には、第1記録層部も初期状態
を非晶質状態とすることができ、又、第1記録層部に高
透過率のLtoH構造、第2記録層部に高反射率のHt
oL構造を使用する場合には、第1記録層部のみ初期状
態を非晶質状態とし、第2記録層部は従来通り初期結晶
化工程を経るという製造方法を適用することができる。
【0398】いずれの態様においても、単にLtoH構
造の記録層部のアドレス信号、サーボ信号の安定性を確
保するだけではなく、第1及び第2の記録層部のうち1
っだけがLtoHの場合には初期結晶化工程が従来の片
面単層ディスクと同等になり、第1及び第2の記録層部
が共にLtoHの場合には従来以上に製造工程が簡略化
されて生産性の向上ひいては製造コスト低減に繋がる。
【0399】また本実施形態によるアズデポの非晶質状
態を有する記録層は、特にLtoH構造の記録層に有効
ではあるが、HtoL構造の記録層に適用することも可
能である。
【0400】以下、図面を参照して本実施形態の実施例
を説明する。
【0401】(第1、第2の実施例) 図31,図32はそれぞれ本実施形態の第1、第2の実
施例に係る相変化記録媒体としての相変化光ディスクの
2つの例を示す概略断面図である。図31,2を通じて
同等の機能を有する部分は同一の符号で示してある。
【0402】図31,図32において記録再生用の光ビ
ームは図の下側から照射される。図31,図32におい
て701は第1記録層部、702は第2記録層部、73
1は第1基板、732は第2基板、704は第1及び第
2記録層部を分離する分離層であり、共通である。
【0403】図31と図32では第1記録層部701の
膜構造と第2の記録層部702の膜構造が異なる。
【0404】図31においては第1記録層部701を構
成する膜は光ビーム入射側から第1下側干渉層711、
第1記録層712、上側干渉層713、第2の記録層部
702を構成する膜は光ビーム入射側から半透明層72
1、第2下側干渉層722、第2記録層723、第2上
側干渉層724、反射層725である。
【0405】一方、図32では第1記録層部701を構
成する膜は下側干渉層714・下側干渉層715・下側
干渉層716の3層で構成される第1下側干渉層、第1
記録層717、第1上側干渉層718、第2記録層部7
02を構成する膜は第2下側干渉層726、第2記録層
727、第2上側干渉層728、反射層729である。
【0406】図31のディスクでは、第1記録層部70
1はHtoL構造、第2記録層部702はLtoH構造
となっており、図32のディスクでは第1記録層部70
1はLtoH構造、第2記録層部702はHtoL構造
である。
【0407】図31、図32のディスクは例えば以下の
手順で作成した。
【0408】トラッキンググルーブとプリピットヘッダ
ー部を有する例えば0.58mm厚のポリカーボネイト
を用いた第1基板731と、例えば0.6mm厚のポリ
カーボネイトを用いた第2基板732は通常の光ディス
ク基板製造プロセスに従って得ることができる。
【0409】第1基板731上への膜の形成は例えば以
下の手順に従って実施する。
【0410】図31のディスクにおいては、第1基板7
31をマグネトロンスパッタリング装置の基板ホルダに
装着し真空排気後、ZnS−SiO2ターゲットをスパ
ッタ源に装着するスパッタ室内で、例えば0.4Paの
Arガスプラズマ雰囲気でターゲットをスパッタして、
第1下側干渉層711を例えば80nmの平均膜厚で形
成する。続いて、GeSbTeターゲットを装着するス
パッタ室で例えば0.4PaのArガスプラズマ雰囲気
でターゲットをスパッタして、平均膜厚7nmの第1記
録層712を形成、次に再度ZnS−SiO2ターゲッ
トをスパッタ源に装着するスパッタ室内で、例えば0.
4PaのArガスプラズマ雰囲気でターゲットをスパッ
タして平均膜厚30nmの第1上側干渉層713を形成
してスパッタリング装置から取り出す。
【0411】続いて第2基板732をスパッタリング装
置に装着し、例えば0.4PaのArガスプラズマ雰囲
気で平均膜厚10nmのAuを用いた反射層25を形
成、続いて例えば0.1PaのArガスプラズマ雰囲気
で平均膜厚25nmのZnS−SiO2を用いた第2上
側干渉層724、続いて例えば4PaのKrガスプラズ
マ雰囲気で平均膜厚12nmのGeSbTeを用いた記
録層723、続いて例えば0.1PaのArガスプラズ
マ雰囲気で平均膜厚85nmのZnS−SiO2を用い
た第2下側干渉層722を形成、最後に例えば0.4P
aのArガスプラズマ雰囲気で平均膜厚8nmのAuを
用いた半透明層721を形成してスパッタリング装置か
ら取出す。
【0412】このようにして各膜を形成した第1及び第
2基板731,732の第1記録層部1、第2記録層部
702を形成した側を透明接着シートもしくはUV硬化
型接着層を用いて40μmのスペーシングで貼り合せて
分離層704を形成し、第1の実施例に係る図31のデ
ィスクを得た。
【0413】図32のディスクは例えば以下の手順で作
成した。
【0414】第1基板731をマグネトロンスパッタリ
ング装置の基板ホルダーに装着し真空排気後、ZnS−
SiO2ターゲットをスパッタ源に装着するスパッタ室
内で、例えば0.4PaのArガスプラズマ雰囲気でタ
ーゲットをスパッタして、下側干渉層714を例えば6
0nmの平均膜厚に形成する。続いて、SiO2ターゲ
ットを装着するスパッタ室で例えば0.4PaのArガ
スプラズマ雰囲気でターゲットをスパッタして、平均膜
厚100nmの下側干渉層715を形成、次に再度Zn
S−SiO2ターゲットをスパッタ源に装着するスパッ
タ室内で、例えば0.1PaのArガスプラズマ雰囲気
でターゲットをスパッタして平均膜厚60nmの下側干
渉層16を形成する。これにより下側干渉層714・下
側干渉層715・下側干渉層716からなる第1下側干
渉層が作製される。続いて、GeSbTeターゲットを
装着するスパッタ室内で、例えば8PaのKrガスプラ
ズマ雰囲気でターゲットをスパッタして、平均膜厚8n
mの第2記録層717を形成、次にZnS−SiO2タ
ーゲットをスパッタ源に装着するスパッタ室内で、例え
ば0.1PaのArガスプラズマ雰囲気でターゲットを
スパッタして平均膜厚40nmの第1上側干渉層718
を形成して取り出す。
【0415】第2基板732上には、例えば0.4Pa
のArガスプラズマ雰囲気で平均膜厚10nmのAlを
用いた反射層729を形成、続いて例えば0.4Paの
Arガスプラズマ雰囲気で膜厚25nmのZnS−Si
O2第2上側干渉層728、続いて例えば0.4Paの
Arガスプラズマ雰囲気で平均膜厚12nmのGeSb
Teを用いた第2記録層727、続いて例えば0.4P
aのArガスプラズマ雰囲気で平均膜厚85nmのZn
S−SiO2を用いた第2下側干渉層722を形成して
スパッタリング装置から取出す。
【0416】このようにして各膜を形成した基板73
1,732の第1記録層部1、第2記録層部2を形成し
た側を透明接着シートもしくはUv硬化型接着層を用い
て、40μmのスペーシングで貼り合せて分離層704
を形成し、第2の実施例に係る図32のディスクを得
た。
【0417】(第1、第2の実施例のプロセス) 上記した成膜プロセスの中で特徴的なプロセスはLto
H構造部の記録層と記録層を挟む上下の干渉層の成膜プ
ロセスである。上記したような記録層の重希ガス高圧ス
パッタと、上下干渉層の低圧スパッタは記録膜の初期状
態をアズデポの非晶質状態に保ちながら、初回からの記
録特性を確保する上で重要である。これらの成膜プロセ
スは、基本的にはスパッタ粒子が基板面で冷却する際の
冷却速度の制御を特徴とする。
【0418】以下、アズデポの非晶質状態に対して初期
化工程なしに記録を行うための手法について、基本的な
考え方を説明する。この非晶質状態とは実質的に非晶質
な状態であって、光学的に見て非晶質と言える状態をい
う。これは例えば、記録媒体の特性として重要な光反射
率が結晶スペースの反射率よりも非晶質記録マークの反
射率に近い状態を指す。
【0419】相変化記録に使用される記録層は通常スパ
ッタリング法で成膜され、成膜直後には非晶質状態にあ
る。スパッタリング法は高エネルギーのArイオン衝撃
により、ターゲットのターゲット面からスパッタ放出さ
れた気相のスパッタ粒子がランダムに基板面上に到着
し、液相のランダムな状態表面をマイグレートした後に
膜という固相状態に転移して所定の膜を作成する技術で
ある。
【0420】スパッタ粒子が気相から固相へ転移する速
度は通常1012K/sec程度である。すなわち数e
V(数万K)のランダムな状態から室温の固相に変化す
るに要する時間は10ナノ秒程度であり、融点から結晶
化温度の間の温度帯を通過するに要する時間である結晶
化保持時間は高々1ナノ秒程度と推定される。
【0421】一方でGeSbTe,InSbTe系記録
膜の結晶化時間は数10ナノ秒であり、膜が結晶化する
条件は膜の結晶化時間が結晶化保持時間よりも短いこと
であるので、スパッタ成膜直後の記録層は非晶質状態に
なる。
【0422】この成膜直後の非晶質状態は光記録で形成
される非晶質状態とは通常は異なる。何故ならば光記録
時の冷却速度は、線速、ディスクの層構造にも依存する
が、典型的には1010K/sec程度とスパッタ成膜
過程のそれよりも二桁程度遅いためである。スパッタ成
膜直後の非晶質状態が光記録で形成される非晶質状態と
同質であれば、初期結晶化工程を経ずに記録再生動作が
可能であるが、実際には冷却速度の差に起因してスパッ
タ成膜直後の非晶質状態は光記録で形成される非晶質状
態とは異なるために、Rc>RaのディスクでもRc<
Raのディスクでも初期結晶化工程を経ないと1回目か
らは記録が困難となってしまう。
【0423】第1、第2実施例のRc<Ra、すなわち
LtoHのディスクを具備する相変化記録媒体を形成す
る方法は、この初期結晶化工程を経ずとも1回目から記
録できる方法である。
【0424】この方法を実現するための具体的手段は、
スパッタプロセスにおけるスパッタ粒子の冷却速度を低
下させて、スパッタ直後の非晶質状態を光記録で形成さ
れる非晶質状態に近づけることである。あるいは、スパ
ッタ成膜直後の記録層に圧縮性応力を付与して記録層が
結晶化しやすい状態にすることであり、又はこれらの組
合せである。
【0425】スパッタ直後の非晶質状態を光記録で形成
される非晶質状態に近づけるためには、基板上に入射す
るスパッタ粒子のエネルギーを低下させる、表面マイグ
レーションの時間を長くする等の方法を用いることがで
きる。
【0426】本発明者の研究によれば、溶融状態からの
冷却速度の違いはランダムネスに反映される。すなわち
冷却速度が速いほどランダムネスは高くなって完全な非
晶質状態に近くなるが、冷却速度が遅い場合には、巨視
的にはランダムであるが微視的には近距離秩序を有する
微細結晶核が点在する構造をとる。すなわち光記録時で
形成される非晶質状態は冷却速度が遅いため、このよう
な微細結晶構造を有する。アズデポの非晶質状態におい
ても、このような微細結晶構造を形成、すなわち光記録
で形成される非晶質記録マークと実質的に同一のランダ
ムネスを形成することができれば、1回目から記録を行
うことが可能となる。これは、微細結晶核が結晶成長の
種として機能するため、結晶成長の種を有していない純
粋な非晶質状態とは異なって十分に結晶化が進行するか
らである。
【0427】尚、「実質的に同一のランダムネス」と
は、結晶性、結晶構造を評価する通常のX線回折によっ
ては特に有意な結晶ピークが検出されない程度のランダ
ムネスを呈し、かつ高分解能の透過型電子顕微鏡によっ
て原子レベルの微細構造を観察した際に、数nm未満、
典型的には0.5〜4nm程度の大きさの規則的な原子
配列を呈する微細結晶核のサイズ分布が±50%程度の
範囲内で一致していることを意味している。ここで、サ
イズ分布とは平均粒径、粒径分散によって表されるもの
である。また「粒径」とは、1個の結晶の最長径と最短
径との平均を意味している。
【0428】微細結晶核の分布を調べる方法としては、
例えばディスクの記録層部をディスク面から無作為にサ
ンプリングし、数μm角程度の領域を高分解能の電子顕
微鏡で観察する方法が採用される。
【0429】また「近距離秩序」とは、規則的な原子配
列が数nm未満の領域、典型的には0.5〜4nm程度
の領域に存在する原子配列の秩序性を意味している。
【0430】(第1、第2の実施例の評価) 図31,図32に戻って説明を続ける。図31,図32
に示した相変化光ディスクを、LtoH構造の部分はア
ズデポの非晶質状態のまま、HtoL構造の部分は通常
の初期結晶化工程を施した後、光ディスクテスターを用
いて評価した。評価条件はレーザ波長650nm、対物
レンズのNA:0.6、線速度:8.2m/s、最短ビ
ット長は0.31μm/bitであり、トラックピッチ
は上述した通り0.6μmである。
【0431】結果は、図31,図32のディスク共に、
二つの記録層部からの未記録状態での反射率は10%前
後の値を示し、現行のDVD−RAMの規格に比較すれ
ばやや暗いが、再生信号を若干高めに設定するなどすれ
ば、実用上十分なアドレス信号品質、サーボ信号品質が
得られた。又、オーバライト記録後のジッタ値は、図3
1,図32のディスクの二つの記録層部共に、10%前
後の良好な値を示した。
【0432】(第1、第2の実施例の比較例) 比較のため、図31,図32のLtoH部の形成を通常
のスパッタプロセスで形成した媒体を用意して、上記し
たと同様の評価を試みたところ、両媒体共LtoH部か
らは10%程度の高い反射率が得られたものの、初回か
ら数10回のオーバライトジッタは15%以上と実用外
の値に留まった。通常のスパッタプロセスで形成した記
録層はランダム性が高く近距離秩序を有する微細結晶核
がないため、結晶スペースの形成が困難で初回から数1
0回のオーバライト記録を行った程度では有意なジッタ
特性が得られないものと考えられる。又、さらなる比較
として、上記した通常のスパッタプロセスで形成しだL
toH部を初期結晶化した所、初期反射率が2−3%程
度と極串て低い値となり、アドレス信号品質、サーボの
安定性を大幅に損ねた。
【0433】(第1、第2の実施例の変形例) 第1、第2の実施例のスパッタプロセスにしたがって形
成しだLtoHの記録層部を有する相変化光ディスク
の、簡単でかつ製造コスト低減効果の大きい変形例は、
図31,図32のLtoHの記録層部を2層積層する構
造である。すなわち、第1、第2実施例のスパッタプロ
セスに従って第1、第2記録層共に作成し、初期結晶化
工程を経ずにアズデポの非晶質状態から両層とも記録す
れば最も好ましい態様となる。
【0434】第1、第2記録層部共にLtoHの記録層
部を有するディスクは、例えば図31,2のLtoHの
記録層部を組合せれば実現可能である。この場合には第
1、第2記録層部を成膜した後に、両記録層部とも初期
結晶化工程を施すことなく、実動作に供することが出来
る。
【0435】試作した両記録層部ともLtoHの記録層
部を有するディスクは、レーザ波長650nm、対物レ
ンズのNA:0.6、線速度:8.2m/s、最短ビッ
ト長:0.31μm/bitで評価した。トラックピッ
チは前記と同様に0.6μmである。結果は、二つの記
録層部からの未記録状態での反射率は10%前後の値を
示し、現行のDVD−RAMの規格に比較すればやや暗
いが、再生信号を若干高めに設定するなどすれば、実用
上十分なアドレス信号品質、サーボ信号品質が得られ
た。又、オーバライト記録後のジッタ値は、2つの記録
層部共に、10%前後の良好な値を示した。
【0436】(関連技術) 本実施形態の関連技術について説明する。この関連技術
は、第1、第2記録層部共にHtoL構造の記録層部を
有する相変化光ディスクの初期結晶化方法と初期結晶化
を行う製造装置に関するものである。手法的には上述の
実施例と異なるが、アドレス信号、サーボ信号の安定性
を向上させる点、製造工程の煩雑化を回避して製造コス
トを低減する上では同等の効果が得られる。
【0437】図33は本実施形態の関連技術に係る相変
化光ディスクを初期結晶化するために試作した、初期結
晶化を行う製造装置の概略断面図である。
【0438】図33において、701は第1基板731
上に堆積された第1記録層部、702は第2基板732
上に堆積された第2記録層部、705は第1、第2基板
を保持する第1、第2保持部として機能しディスクを回
転させるためのスピンドルモータ、706はスピンドル
モータ705のモータ軸、707は初期結晶化用光ビー
ムを照射するための光照射部、708は光学系としての
収束レンズである。光照射部707は一般的に初期化装
置と呼ばれる。また第1、第2保持部は別々に設けても
良い。
【0439】第1記録層部701、第2記録層部702
にはHtoL構造が用いられるのが好ましく、例えば、
第1記録層部701には、図31の第1記録層部70
1、第2記録層部702には図32の第2記録層部70
2を用いる事ができる。第1基板731、第2基板73
2は第1、第2の実施例と同様のものを用いることがで
きる。
【0440】図33の装置を用いて以下の手順でディス
クを製造することが可能である。まず、通常のスパッタ
リングプロセスで作成した第1記録層部1を有する第1
基板731、同じく通常のスパッタリングプロセスで作
成した第2記録層部702を有する第2基板732を図
33の装置のスピンドルモータ705の軸706に同軸
状に取付ける。
【0441】次に、スピンドルモータ705を駆動して
例えば、第1、第2基板731,732を2m/s程度
の線速度で回転し、また光照射部707を駆動してディ
スク半径方向に長い初期結晶化用光ビームを第1記録層
部701に照射する。照射ビームの50%程度は第1記
録層部701を通過して発散する。この発散ビームは従
来の初期結晶化工程では利用されていなかったが、本実
施例では、第1記録層部701を通過して発散したビー
ムを第1、第2基板731,732の間に配した収束レ
ンズ708によって再度集光し第2記録層部702に照
射する。
【0442】初期結晶化用光ビームはディスク半径方向
に数100μm、ディスク周方向に数μm程度の長円形
のブロードビームなので、単板の第1、第2基板73
1,732に反りがあっても、第1記録層部701、第
2記録層部702共に、十分に高い初期結晶化エネルギ
ーを与えることが可能である。
【0443】また収束レンズ708の焦点距離は、第1
基板731と第2基板732との間隔の約1/2に設定
される。レンズの形状は一般的な点対称形の凸レンズ形
状でも良いが、初期結晶化用光ビームの長軸方向の曲率
が短軸方向の曲率よりも小さく設定された蒲鉾形形状に
するのが、第1記録層部701上でのビームプロファイ
ルと第2記録層部702上でのビームプロファイルを一
致させる上で好ましい。
【0444】また、必要に応じて、ボイスコイルモータ
などを用いて、収束レンズ707を上下方向に駆動させ
ても良い。
【0445】このようにして両記録層部を同じ光ビーム
でほぼ同時に初期結晶化した後に、先述したような通常
の貼り合せ工程で貼り合せれば、本関連技術に係るディ
スクが完成する。ディスク面の反射率、記録特性は前述
の第1、第2の実施例におけるHtoLの記録層部と同
等であることはいうまでもない。
【0446】(関連技術の変形例) 両記録層部をほぼ同時に初期結晶化するもう1つの方法
は、装置に焦点位置の異なる二つの光ヘッドを設けて光
照射部とする方法である。1つ目のヘッドからの初期結
晶化用光ビームは第1記録層部を照射して初期結晶化
し、二つ目のヘツドからの初期結晶化用光ビームは第2
記録層部を照射して初期結晶化するようにすれば良
い。]
【0447】以上、具体例を参照しつつ本実施形態の実
施例について説明した。しかし本実施形態はこれらの具
体例に限定されるものではない。
【0448】例えば上述の具体例では記録層としてGe
SbTeを例に挙げて説明したが、本実施形態ではGe
SbTeの他、InSbTe,AgINSbTe,Ge
TeSe,SnSeTe,GeSeSn,InSeTl
等を用いても良い。またこれらの材料にCo,Pt,P
d,Au,Ag,Ir,Nb,Ta,V,W,Ti,C
r,Zr等を少なくとも1種以上微量添加しても記録層
として良好な特性が得られる。さらに窒素などの還元性
ガスを微量添加してもよい。
【0449】第1記録層の平均膜厚t。は必要最低限の
光吸収と第2記録層以降への光透過量確保のためにも5
nm以上20nm以下であることが望ましい。また同様
の効果を保つために第2記録層以降の平均膜厚tはt
≧tn−1の関係を満足することが望ましい。
【0450】また分離層としては、光ビームのエネルギ
ー損失を最小限にすることを考えると、消衰係数kが光
源波長に対して0.1以下である透明材料を用いること
ことが望ましい。このような材料としては紫外線(U
V)硬化樹脂の他、例えばポリメチルメタクリレート、
ポリカーボネイトなどの樹脂材料、あるいは、Si
,Al,TaO,V,CaO,ZrO
,Pb,SnO,CoO,CuO,Cu
O,AgO,ZnO,Fe等の酸化物やSi
,SiON,SiAlON等の窒化物、MgF
CaF等の弗化物が適している。記録層を光ビームの
焦点深度以上に分離するため、分離層の平均膜厚は10
μm以上が必要となる。よってこのような厚膜作製にお
いて有利な塗布型の樹脂材料がより好ましい。これらの
材料は必要に応じて混合物として、あるいは積層させて
用いることができる。また余り厚すぎると透過量や2層
以上の記録層に対する焦点深度の観点から望ましくない
ため50μm以下が好ましい。
【0451】また半透明層としてAg,Cu,Siや誘
電体母材中に金属微粒子を分散した構造の膜等を用いて
も良い。その平均膜厚は、例えば650nmの動作波長
に対して、Ag,Cuについては上述したAu同様に3
〜20nm、より好ましくは5〜15nmとするのが良
く、Siの場合には10〜80nm、より好ましくは3
0〜60nmとするのが良い。誘電体中に金属微粒子を
分散した構造の膜の場合には、膜中の金属微粒子の体積
含有率をqとして、0.25≦q≦0.75の範囲にお
いて(5〜20)/q(nm)に設定することが好まし
い。これらの平均膜厚を採用することにより、第2記録
層部の光利用効率を向上させることができ、第1記録層
部を透過した低強度光によっても高感度に記録が可能と
なる。また第2記録層部における結晶スペースの光吸収
係数と非晶質記録マークの光吸収係数の比率を1以上
1.5以下に設計できるので、オーバーライトジッタの
低減にも効果的であり、かつ第2記録層部の反射率を高
く設定できるので、第1記録層部を透過した光の第2記
録層部における反射光量が大きくなるという点でも好ま
しい。
【0452】反射層としては、例えばAlTi,Ti
N,AlMo,AlCu,Ag,Cu,Pt,Pd,I
r等を用いることもできる。反射層の平均膜厚は20〜
200nmの範囲であることが、反射率確保と冷却速度
確保の観点から好ましい。
【0453】干渉層は記録層へ効率よく光を吸収させる
ために、消衰係数kが0.5以下であることが好まし
い。干渉層としてはZnO,Ta,SiO,Al
,CuO,CuO,TaO,Y,ZrO
,CaF,MgF,Si,AlN及びこれ
らの複合物等も用いることができる。透過量を確保する
ためには干渉層の平均膜厚が300nm以下であること
が望ましい。
【0454】また以上の実施例では相変化光ディスクを
例に挙げて説明したが、本実施形態は相変化光ディスク
に限定されるものではなく、光記録カード、光磁気テー
プ等の各種の相変化記録媒体に適用可能である。
【0455】以上詳述したように本実施形態によれば、
良好なアドレス信号、サーボ信号の再生ができる相変化
記録媒体と、初期結晶化工程が煩雑化して生産性を損ね
るという課題を解決できる相変化記録媒体の製造方法、
製造装置を提供することが可能となる。
【0456】
【発明の効果】本発明によれば、上述した各構成によ
り、相変化記録媒体の記録転送速度を向上させ、媒体の
製造コストを低減し、媒体の構造の選択の自由度を飛躍
的に拡げて特にRc<Ra構造の媒体を実現し、さらに
記憶容量を増大することができる。
【0457】さらに具体的には、記録層の結晶化に要す
る時間を短縮し、データ転送速度を向上し、アズデポ非
晶質に高速結晶化性能を付与することにより、初期結晶
化工程を無くして製造コストを低減することができ、さ
らに、Rc<Raの媒体をアズデポの非晶質状態から使
用可能として、媒体の構造の選択範囲を広げ、片面2層
媒体の反射率を向上させて記憶容量の増加を実現させる
ことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1(a)〜(c)は、本実施形態による相変
化記録媒体の記録層の微細構造を従来の相変化記録媒体
と比較しつつ表した模式図である。すなわち、図1
(a)は、本実施形態の記録層の微細構造、図1(b)
は、従来技術により作成した記録層のアズデポ状態の微
細構造、図1(c)は、本実施形態及び従来技術により
作成した記録層に光記録を行うことにより形成した結晶
部の微細構造を各々表す模式図である。
【図2】図2は本発明の相変化記録媒体の断面構成図で
ある。
【図3】OW繰返し回数とCNR(carrier to noise r
atio)の関係について、本発明に従って形成したアズデ
ポの相変化媒体と、従来技術に従って形成したアズデポ
(初期結晶化していない部分)の相変化媒体を対象に調
べた測定結果を表すグラフ図である。
【図4】本発明の光ディスクのマーク間部分の記録層の
TEM像の一例を表す概略図である。
【図5】本発明の光ディスクのマーク間部分において2
0nmよりも大きい結晶粒の結晶粒径の分布を表すグラ
フ図である。
【図6】本発明の光ディスクの微細な結晶粒の粒径分布
を表すグラフ図である。
【図7】本発明の第1実施例に係る相変化光記録媒体の
概念断面図である。
【図8】比較例において、個々の結晶粒径を測定し、出
現頻度をプロットしたグラフ図である。
【図9】第3実施形態の実施例にかかる相変化光ディス
クを表す概略断面図である。
【図10】第3実施形態の実施に使用したスパッタリン
グ装置の要部概略構成図である。
【図11】記録層に含有されるKr量と3Tジッタ特性
との関係を示すグラフ図である。
【図12】第3実施形態の第2実施例の光ディスクの概
略構成を表す断面図である。
【図13】第2実施例の光ディスクの初期記録後のパタ
ーンを表す概略図であり、
【図14】第2実施例の光ディスクの100回目のオー
バライト時(OW100)のパターンを表す概略図であ
る。
【図15】第4実施形態の実施例にかかる相変化記録媒
体の断面構造を例示する概念図である。
【図16】第4実施形態の実施例にかかる相変化記録媒
体の断面構造を例示する概念図である。
【図17】記録媒体の平面構成の一例を表す概念図であ
る。
【図18】熱伝導率(κ)の測定値と、図15の構造の
ディスクサンプルを用いて測定したDC消去率との関係
を表すグラフ図である。
【図19】無初期化・初回記録の3T−CNRと熱伝導
率κとの関係を示すグラフ図である。
【図20】GeSbTe系3元合金系における結晶化時
間の分布を例示したグラフ図である。
【図21】GeSbTe系3元合金系における結晶化温
度の分布を例示したグラフ図である。
【図22】Ag−In−Sb−Te系4元合金における
望ましい組成範囲を表すグラフ図である。
【図23】関連技術の実施に使用したマグネトロンスパ
ッタリング装置の構成を表す概念図である。
【図24】関連技術の実施例において試作した記録媒体
の断面構造を表す概念図である。
【図25】Vdc/Vthと無初期化初回記録特性及び
成膜速度の関係を表すグラフ図である。
【図26】関連技術の第2具体例において作成した相変
化記録媒体の断面構造を例示する概念図である。
【図27】第5実施形態において用いる相変化記録膜の
形成装置の構成を例示する概念図である。
【図28】ディスク評価結果を表すグラフ図である。
【図29】ランプ光を吸収しない基板ホルダを例示する
概念図である。
【図30】CNRとノイズレベルの評価結果を表すグラ
フ図である。
【図31】第6実施形態の第1の実施例に係る相変化光
ディスクの概略断面図。
【図32】第6実施形態の第2の実施例に係る相変化光
ディスクの概略断面図。
【図33】第6実施形態の第3の実施例に係る相変化光
ディスクを初期結晶化するための製造装置の概略断面
図。
【符号の説明】
101、201、321、406、506 基板 102、322、402、562 半透明層 103、202、323、403、563 下側干渉層 104、203、324、404、564 記録層 105、204、325、405、565 上側干渉層 106、205、326、406、566 反射膜 311 スパッタ室 312 ディスク基板 313 スパッタリングターゲット 314 スパッタリング源 315 スパッタ電源 316 ガス導入系 317 排気系 318 基板表面マイグレーション制御系 501 成膜容器 502 スパッタ源 521 スパッタリングターゲット 522 ターゲットハウジシグ 523 マグネット 503 スパッタ電源 531 直流遮断容量 532 RF(13.56MHz)電源 504 Vdcモニタ系 541 Vdcモニタ 542 高周波高耐圧プローブとオシロスコープ 505 基板ホルダ 506 光ディスク基板 507 スパッタガス供給系 508 排気系 509 プラズマプローブ 510 プローブ回路 511 マグネトロンプラズマ 512 誘導結合コイル 601 成膜容器 602 基板ホルダ 603 抵抗加熱ヒータ 604 ヒータ電源 605 光ディスク基板 606 相変化記録膜 607 スパッタ源 608 GeSbTeターゲット 609 スパッタ電源 610 ガス供給系 611 排気系 612 基板加熱用赤外線ランプ 621 SUS製の構造部材 622 透明部材 623 空隙 605 ディスク基板 606 膜 701 第1記録層部 702 第2記録層部 705 スピンドルモータ 706 モータ軸 707 光照射部 708 光学系としての収束レンズ
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 永 瀬 俊 彦 神奈川県川崎市幸区小向東芝町1 株式 会社東芝 研究開発センター内 (72)発明者 中 村 直 正 神奈川県川崎市幸区柳町70番地 株式会 社東芝 柳町工場内 (56)参考文献 特開 平2−94134(JP,A) 特開2000−353343(JP,A) 特開 平8−300821(JP,A) 特開2001−209970(JP,A) 国際公開98/038636(WO,A1) 国際公開91/005342(WO,A1) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) B41M 5/26 G11B 7/24 511

Claims (7)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】光照射によって非晶質状態と結晶状態との
    間を可逆的に相変化し光学的な特性が変化する第1の記
    録層を備えた相変化記録媒体であって、 前記第1の記録層の前記非晶質状態における光反射率
    は、前記結晶状態における光反射率よりも高く、 前記記録層は、記録前の状態が微細結晶核を含有するア
    ズデポの非晶質状態であり、且つオーバーライト後に前
    記記録層に形成される消去部としての前記結晶状態の部
    分を構成する結晶粒の粒径に対する個数の分布が少なく
    とも2つの異なる粒径でそれぞれ極大値を有し、 前記微細結晶核の平均粒径は、0.5nm以上4nm以
    下であり、 前記少なくとも2つの異なる極大値のうちの第1の極大
    値の粒径は4nmよりも大きく且つ20nm以下であ
    り、 前記少なくとも2つの異なる極大値のうちの第2の極大
    値の粒径は20nmよりも大きく且つ100nm以下で
    あって、 前記第1の極大値を中心とする分布に属する結晶粒が全
    体に対する面積比で20%以上90%以下であることを
    特徴とする相変化光記録媒体。
  2. 【請求項2】前記アズデポの非晶質状態における前記記
    録層の熱伝導率が0.8W/mK以上、6W/mK以下
    であることを特徴とする請求項1記載の相変化記録媒
    体。
  3. 【請求項3】前記記録層は、KrとXeの少なくともい
    ずれかを0.2原子%以上10原子%以下の割合で含有
    することを特徴とする請求項1または2に記載の相変化
    記録媒体。
  4. 【請求項4】前記記録層は、トラックピッチよりもe
    −2径の大きなスポットサイズを有する記録光を照射し
    た後に、トラック間にアズデポの非晶質状態のバンド部
    を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つ
    に記載の相変化記録媒体。
  5. 【請求項5】光照射によって非晶質状態と結晶状態との
    間を可逆的に相変化し光学的な特性が変化する第2の記
    録層と、 前記第1の記録層と前記第2の記録層との間に設けられ
    た分離層と、 をさらに備えたことを特徴とする請求項1〜4のいずれ
    か1つに記載の相変化記録媒体。
  6. 【請求項6】請求項1記載の相変化記録媒体の製造方法
    であって、 基板上に前記第1の記録層を堆積している間または前記
    基板上に前記記録層を堆積した後に、赤外線ランプによ
    り照射される光に対して実質的に吸収を有しない材料に
    より前記基板を支持しつつ前記赤外線ランプの加熱によ
    り前記基板の温度をその熱変形温度未満としつつ前記記
    録層を室温よりも高い温度に昇温することにより、前記
    記録層を前記微細結晶核を含有する非晶質状態とするこ
    とを特徴とする相変化記録媒体の製造方法。
  7. 【請求項7】請求項1記載の相変化記録媒体を製造する
    製造装置であって、 基板上に前記第1の記録層を堆積している間または前記
    基板上に前記記録層を堆積した 後に、赤外線ランプ加熱により前記基板の温度をその熱
    変形温度未満としつつ前記記録層を室温よりも高い温度
    に昇温することにより前記記録層を前記微細結晶核を含
    有する非晶質状態とする加熱手段と、 前記基板を支持する基板ホルダであって、 前記基板ホ
    ルダの前記基板との接触部は、前記赤外線ランプ加熱に
    より照射されるランプ光に対して実質的に吸収を有しな
    い材料により構成されている基板ホルダと、 を備えたことを特徴とする相変化記録媒体の製造装置。
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