JP3638460B2 - 光記録媒体及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、光記録媒体及びその製造方法に関し、より詳しくは、光ビームを照射して情報の記録・再生を行う相変化型の光記録層を有する光記録媒体であって、記録層の堆積後に結晶化させるための初期結晶化工程が不要な光記録媒体及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
光ビームを照射して情報の記録・再生を行う相変化型の光記録媒体は、大容量性、高速アクセス性、媒体可搬性を兼備する他、競合する光磁気媒体に比較して、再生原理がCDと同じ反射率変化形なのでCD互換ドライブが安価に提供出来る、信号品質が優れているので高密度化し易い、1ビームオーバライトが容易なので記録データ転送速度が速い、等の利点を有している。
【0003】
以下では、光記録媒体の一例として光ディスクを例に挙げつつ説明する。
相変化記録方式においては、記録層に対して照射するレーザパワーレベルの違いに応じて、形成される膜の微細構造を変化させる。すなわち、一般に十分高いパワーレベル照射(レーザパワーをPとしたとき、P>Pw0)により非晶質部を形成し、中間パワーレベル(Pw0>P>Pe0)によって結晶化を生じさせる。
【0004】
P>Pw0のパワーレペル照射により記録層をその融点以上に加熱し、その後の冷却の際の「結晶化保持時間」を「結晶化時間」よりも短く設定することによって、溶融した不規則な原子配列状態を再配列させることなく、そのまま冷却して非晶質状態に固定することができる。ここで、「結晶化保持時間」とは、記録層の温度が融点未満で結晶化温度以上の温度帯に保持される時間をいい、「結晶化時間」とは、記録層が結晶化するのに必要な時間をいう。
【0005】
一方、Pw0>P>Pe0のパワーレベル照射においては、記録層を融点未満で結晶化温度以上に加熱し、「結晶化保持時間」を「結晶化時間」よりも長く設定することにより、原子の再配列を起こして結晶化させる。
【0006】
このようにして形成した非晶質マークと、その周囲の結晶部の光反射率の違い、および/または反射された光の位相差を利用して、マークの存在を検知する。
【0007】
以上のように照射パワーの調整のみによって、記録層を結晶状態、非晶質状態のいずれかの状態に変化させることが出来るので、光ビーム変調オーバライトが可能である。すなわち、相変化型光記録媒体の一つの特徴は、ダイレクトオーバーライトが可能なことであり、記録トラックの初期状態が結晶・非晶質のいずれであるかにかかわらず、高パワーレーザ照射部分は非晶質に、中間パワー照射部は結晶にできる。
【0008】
記録媒体の代表的な膜構成としては、基板上に、誘電体層、記録層、誘電体層、金属層を順次積層した構成を挙げることができる。そして、記録層の材料としては、例えば、GeSbTe、InSbTeなどの合金膜、またはそれらにAg、Cr、Vなどの添加元素を加えた材料を挙げることができる。これらの膜は、通常はスパッタ成膜法により成膜される。スパッタ成膜法は、真空成膜法の一種で、大面積基板に均一な膜厚の膜を付着させる方法として適している。
【0009】
さて、スパッタ成膜法では、付着される材料の平板をターゲット電極とし、真空容器中に保持する。この真空容器中に希ガスであるAr(アルゴン)を大略O.01Pa〜10Pa程度の圧力で導入し、このターゲット電極に直流または高周波の電力を印加することでグロー放電を生じさせる。すると、電極付近の陰極降下電圧によって加速されたガス粒子により、該ターゲットの表面からターゲット材料原子あるいは同原子の集合体が跳ね飛ばされ、対向または隣接して配置された基板に高遠で飛来する。このように飛来する材料原子または分子はスパッタ粒子と呼ばれる。
【0010】
スパッタ粒子は、一般に数eVのエネルギーを持つといわれている。1eVは104Kに相当し、室温の熱エネルギーと比較して非常に高いエネルギーを有する。このように高いエネルギーをもった高速の粒子は、基板に到着すると結晶化時間よりもはるかに短い時間で冷却される。そのため、as−depo.(as−deposited:堆積したままの状態)の記録膜は非晶質となる。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、このようにして製造した従来の光記録媒体は、実際に記録媒体として使用する前に、ディスクの記録に供する記録層金体をあらかじめ低線速の連続レーザ照射によって結晶化しておく必要がある。この工程は、「初期化工程」または「初期化」と呼ばれる。
【0012】
この工程が必要な理由は、次のとおりである。すなわち、as−depo.非晶質の膜を結晶化するためには、その後の記録によって非晶質化した部分を結晶化するのに比べて、結晶化温度領域により長い時間の間保つ必要がある。従って、高密度・高転送速度を目的に設定された使用時の線速においては、as−depo.非晶質膜を一回の消去レベルのレーザ照射では結晶化できない。ユーザーが使用するドライブすなわち駆動装置を用いてas−depo.非晶質部を結晶化するためには、低線速でレーザ照射するか、同一トラックを複数回レーザ照射する必要が生じる。
【0013】
しかし、新しい媒体の使用に先立って、その都度このような初期結晶化をユーザーに強いるのは利便性の点で好ましくない。そこで、媒体の製造者があらかじめ結晶化(初期化)を行うのが通常である。すなわち、初期結晶化は媒体の製造過程の一部として行われ、記録膜が結晶化した状態で販売される。
【0014】
初期結晶化工程では、作製した記録媒体にレーザビームで比較的遅い線速でディスクの記録部全体を走査することで結晶化が行われる。ここで使用されるレーザは、記録用レーザあるいは読み出し用レーザとは異なり、ビームスポットをきわめて小さく絞る必要はない反面、出力1W程度と比較的高パワーが必要とされ、長円形状のビーム形状にして一度に複数トラックを走査するなどの方法によりできるだけ短時間ですむように工夫されている。それでも初期化工程は媒体の全面を走査する必要上ディスク一枚あたり数分必要である。これは、成膜工程のタクトタイム(たとえば10秒/枚)に比べて非常に長く不経済である。また、初期化工程に使用される設備投資は製品価格に転嫁され商品価格が上昇するという問題もあった。
【0015】
本発明は、かかる課題の認識に基づいてなされたものであり、as−depo.状態から直ちに使用できる記録膜を提供することによって相変化光記録媒体の製造に必要な設備投資を低減し、それによって低価格の相変化記録媒体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0016】
【課題を解決するための手段】
上記した目的を達成するために、本発明によれば、消去レベルの光照射を行ったとき、記録膜が複数の結晶粒の集合体である多結晶となり、該結晶粒の粒径分布が複数の極大を持つ光記録媒体とすることを特徴とする。
【0017】
以下、本発明の実施に必要な手段とその作用を詳述する。
前述したように、従来はas−depo.の光記録膜を結晶化するために必要とされるレーザパワーと、溶融非晶質化(すなわち記録)によって形成された非晶質部を結晶化するために必要なレーザパワー及び結晶化時間とは異なっていた。この理由は、as−depo.の非晶質状態とその後の光記録により形成した非晶質状態とでは、微細構造に相違がある為である。すなわち、スパッタ成膜時の膜付着過程における冷却速度がきわめて速く(1012K/秒と見積もられる)、記録時の非晶質部形成過程の冷却速度(1010〜1011K/秒とみられる)よりも一桁から二桁速い。このために、as−depo.状態の記録層においては、記録後の非晶質部と比較してより無秩序性の高い、換言すれば短範囲規則性が小さい非晶質が形成されていると考えられる。
【0018】
これに対して、本発明者は、理論的な検討と試作実験とを繰り返すことにより、初期結晶化工程を経ることなく直ちに記録(as−depo.記録)が可能な記録層を得た。そして、その微細構造を詳細に調べた結果、結晶化後の結晶粒の分布において、従来とは異なる独特の特徴を有することを知得するに至った。すなわち、本発明の光記録媒体においては、消去レベルのレーザビームを照射して形成される結晶状態は、いずれも異なる結晶粒径の微結晶の集合体であり、該微結晶の粒径分布が複数の極大を持つことが判明した。
【0019】
具体的には、本発明の光記録媒体は、光照射により結晶状態と非晶質状態との間を可逆的に変化する相変化記録層を備えた光記録媒体であって、前記相変化記録層が前記結晶状態にある時、その記録層を構成する結晶粒の粒径に対する個数の分布が少なくとも2つの異なる粒径において極大値を有することを特徴とする。
【0020】
すなわち、記録層は多結晶体であり、その多結晶体は、大きな結晶粒と小さな結晶粒にそれぞれピークをもった粒径分布を有する。
または、本発明の光記録媒体は、 光照射により結晶状態と非晶質状態との間を可逆的に変化する相変化記録層を備えた光記録媒体であって、ヘッダ部の前記相変化記録層は、結晶化の初期核を含んだ非晶質状態であることを特徴とする。そして、この光記録媒体において、前記ヘッダ部の前記相変化記録層は、前記結晶状態における光の反射率が前記非晶質状態における光の反射率よりも低いものとすることができる。
また、前記相変化記録層が前記結晶状態にある時、その相変化記録層を構成する結晶粒の粒径に対する個数の分布が少なくとも2つの異なる粒径においてそれぞれ極大値を有するものとすることもできる。
【0021】
また、前記少なくとも2つの異なる粒径のうちの小なる粒径における極大値を中心とした分布に属する結晶粒が前記相変化記録層に占める割合は、面積比で30%以上80%以下の範囲であることが望ましい。
【0022】
また、前記少なくとも2つの異なる粒径のうちの小なる粒径は、2nm〜15nmであり、前記少なくとも2つの異なる粒径のうちの大なる粒径は、15nm〜200nmであることが望ましい。
一方、本発明の光記録媒体の製造方法は、光照射により結晶状態と非晶質状態との間を可逆的に変化する相変化記録層を有する光記録媒体の製造方法であって、前記相変化記録層を結晶化の初期核を含んだ非晶質状態に成膜することを特徴。
ここで、スパッタ雰囲気中にアルゴンよりも原子量の大きいガス種を混合させて前記相変化記録層を成膜することができる。
また、この場合、前記ガス種は、クリプトン及びキセノンの少なくともいずれかであるものとすることができる。
【0023】
as−depo.記録を実現するためには、ディスクを記録/再生装置にセットして実使用時と同様の高線速で動作させ、消去パワーレベルのレーザビーム照射をしたときに一回の照射で十分に結晶化し、ディスク反射率が完全に結晶化レベルになることが必要とされる。ここでいう高線速とは、具体的には例えば6m/秒以上の値をさす。ピックアップ光が波長630〜660nm、NA0.55〜0.65程度の場合、記録時のレーザパワーは、消去レベルPeと記録レベルPw、そして読み出しレベルPrの3値とされ、具体的にはPe=3〜6mW、Pw=10〜15mW、Pr=1.0mW程度のパワーが選択される。
【0024】
記録を行うと、Peレベルの照射を受けた部分は結晶化し、Pwレベルの照射を受けた部分は非晶質化する。レーザビームの照射を受けない部分(対象トラック以外の部分)は、as−depo.の非晶質のままである。as−depo.記録についていえば、初回記録時の結晶化領域(すなわちマーク間の領域)からの信号レベルと、2回以上オーバーライトしたときの結晶化領域からの信号レベルに違いがないことが重要である。この様子は、例えば、再生波形をオシロ・スコープで観察することにより確認できる。
【0025】
as−depo.記録に適した記録膜を使用する上では、ディスクを「Low−to−High」すなわち結晶部からの反射率が非晶質部からの反射率よりも低くなるように設計することが望ましい。これは、トラッキングを容易にするとともに、あらかじめ基板に埋め込まれた凹凸で構成されるヘッダ部の情報読み取りを容易にするためである。Low−to−Highでは、消去部(結晶質)からの再生信号レベルは記録マーク部(非晶質)からのものよりも低い。理想的には1回のみの記録によって、Peレベルの照射部分を完全に結晶化し、Pwレベルの照射部分は完全に非晶質となることが望ましい。
【0026】
すなわちLow−to−Highにおいては、Peレベル照射部からの信号が十分に「Low」すなわち下がることが望ましい。しかし、従来の光記録媒体の場合は、1回のPe照射では再生信号レベルが十分には下がらず、2回以上オーバーライトすることで徐々に下がる傾向が認められた。これに対して、本発明の記録媒体の場合は、上述したような信号で変調したレーザビームを1回照射しただけで、Pe照射部からの信号レベルが十分低下することが確認された。すなわち、本発明の記録媒体の場合には、2回以上繰り返してオーバーライトしても、Pe照射部からの信号レベルに変化がなく、一回目の照射のみで十分に結晶化したことが分かった。一方、本発明の記録媒体においては、Pw照射部からの信号レベルはas−depo.領域からのものと同一であった。
【0027】
【発明の実施の形態】
本発明の光記録媒体は、as−depo.状態から1回だけ記録した場合でも、マーク間(消去レベルPe照射部)において十分に結晶化が生じ、粒径が比較的大きい結晶粒の周りを粒径が比較的小さい多数の結晶粒が取り囲んだような微細構造を有する。このような微細構造は、例えば、TEM(Transmission Electron Microscope:透過電子顕微鏡)により観察し、特定することができる。
【0028】
すなわち、TEM観察により得られるTEM像においては、記録マーク部(非晶質部)はコントラストに乏しい一様な領域として観察される。一方、マーク間のPe照射部(結晶部)は、その結晶化の度合いに応じて結晶粒が観察され、十分に結晶化した場合には、結晶方位により異なるコントラストを持つ微結晶の集合体として観察される。この傾向は一般的にどのディスクの記録膜でも同様である。
【0029】
図1は、本発明の光ディスクのマーク間部分の記録層のTEM像の一例を表す概略図である。ここで、同図は、本発明の光ディスクにおいて、記録層の堆積後に一回だけPeレベルのレーザビームを照射した後の状態を表す。同図から分かるように、本発明の記録層においては、マーク間のすべての部分において結晶粒が観察され、完全に結晶化して多結晶体となっている。また、その結晶粒径に着目すると、粒径が比較的大きい結晶粒の周りを粒径が比較的小さい多数の結晶粒が取り囲んで埋め尽くしている微細構造を有することが分かる。
【0030】
これに対して、従来の光ディスクの場合について説明すると、as−depo.状態でPe照射した部分は、一様なコントラストで結晶粒が判然とせず、依然として非晶質あるいはTEMの分解能以下(約2nm以下)のきわめて小さい微結晶の集合体であった。この部分の光反射率も、結晶状態の値とは異なることから、光学的にも非晶質であるといえる。さらに、この部分の電子線回折パターンはほぼハロー状であり、この点からも非晶質状態であるといえる。
【0031】
一方、本発明の光ディスクに対して、10回のオーバーライトを行い、マーク間部分の記録層をTEM観察した結果、図1とほぼ同様のTEM像が得られた。つまり、本発明の光ディスクにおいては、記録層のマーク間の微細構造はas−depo.状態からの一回目の消去レベルのレーザ照射により完全に結晶化して決定され、その後のオーバーライトにより変化しないことが分かった。
【0032】
ここで、TEM観察のための試料の作成方法について説明すると以下の如くである。すなわち、まず、記録媒体に上述した方法により記録を行った後、金属反射膜と基板とを除去し、金属メッシュ上にとって観察サンプルとする。この際の基板の除去は、有機溶媒を用いて行うことができる。しかし、試料作成の際に熱的な影響が加わることを避ける必要がある。このため、イオンミリング法などを用いる場合にも、試料が150℃以上に加熱されないように十分に注意する必要がある。
【0033】
さて、図1に例示したようなTEM像を画像処理により解析して、粒径分布を定量的に求めることができる。
【0034】
図2は、本発明の光ディスクのマーク間部分の結晶粒径の分布を表すグラフ図である。ここで、同図は、図1に例示したようなTEM像において符号Aで表したような粒径20nm以上の大きい結晶粒の出現頻度分布をプロットしたものである。なお、この分布は、TEM像において無作為に抽出した200nm角の領域において得られたものである。また、ここで「粒径」とは、一個の結晶粒に注目した場合その最長径と最短径とを測定し、その平均と定義する。また、本願明細書において示すデータにおいては、TEMの分解下限(2nm)以下の極めて微細な結晶粒は、計測対象から除外した。
【0035】
図2の(a)は、as−depo.状態から1回だけ記録した場合を表し、(b)は、10回のオーバーライトを行った場合を表す。同図2から、大きい結晶粒は、概ね25〜80nmの範囲に分布していることが分かる。また、(b)で表したように10回のオーバーライトを繰り返した後も、この結晶粒径の分布には実質的な差異が認められない。大きい結晶粒に属する結晶粒の径の平均は、(a)では50.5 nm、(b)では60.8 nmであった。以上の結果から、本発明の光記録媒体は、as−depo.状態から1回記録するだけで十分に結晶化が進行したことが分かる。
【0036】
ここで、図1において符号Aで表した大きい結晶粒の粒径は、記録膜の組成や製造方法などの諸条件に依存する傾向がある。しかし、本発明者が種々の相変化記録媒体について比較検討をした結果によれば、大きい結晶粒の粒径は、概ね15〜200nmの範囲にあることが判明した。
【0037】
一方、図1をみると、符号Aで表した大きい結晶粒の周りに多数の微細な結晶粒があることが分かる。この微細な結晶粒についても、同様に粒径の分布を測定した。
【0038】
図3は、微細な結晶粒の粒径分布を表すグラフ図である。ここで、同図は、図1に例示したようなTEM像において符号Bで表したような粒径20nm以下の小さい結晶粒の出現頻度分布をプロットしたものである。なお、この分布は、as−depo.状態から1回だけ記録した試料のTEM像を観察し、無作為に抽出した90nm角の領域において観察された約300個の結晶粒の出現頻度分布の例をグラフ化したものである。
【0039】
図3から、小さい結晶粒の粒径は、概ね2〜15nmの範囲に分布していることが分かる。分布の極大値に対応する粒径は約5nmであった。また、10回のオーバーライトを繰り返した後においても、この分布は実質的に変化しなかった。
【0040】
これに対して、従来の光ディスクの場合を説明すると以下の如くである。
すなわち、従来の光ディスクの場合には、1回のPeレベルのレーザ照射では結晶化せず、結晶粒は観察されないが、オーバーライトを繰り返すと結晶化が進行し、Pe照射部において比較的大きい結晶粒が観察されるようになる。その粒径分布を画像処理により解析すると、記録膜の組成に応じて粒径は異なるが、所定の平均値を中心にある範囲に分布している。たとえばGe2Sb2Te5の場合は、粒径80〜120nmの範囲に分布しており、結晶化部はこのようなサイズの結晶粒に埋め尽くされている。すなわち、記録層は、大きい結晶粒により埋め尽くされ、粒径分布は単一の極大をもつ。
【0041】
従来の光ディスクを、初期化装置によって初期化した場合も同様である。すなわち、80〜120nm程度の粒径をもつ比較的大きい結晶粒により埋め尽くされることが分かった。より詳しく観察すると、これらの結晶粒に挟まれて微細結晶が観察される場合があるが、それらの占める面積は小さく、通常10〜20%の範囲であった。
【0042】
以上、従来の光ディスクと比較しつつ説明したように、本発明の光ディスクの特徴は、消去レベルのレーザビームを1回だけ照射しただけで十分に結晶化がおこり、その粒径分布が大きい結晶粒と微細な結晶粒の2つの極大値を有することである。
【0043】
本発明の記録膜が有する独特の微細構造は、次のようなメカニズムにより表れると考えられる。すなわち、一般に、結晶化は結晶核生成とその粒成長の二段階でおこることが良く知られている。そして、本発明の光ディスクの記録層においては、as−depo.状態でも、結晶化の初期核となり得る多数のきわめて小さい微細規則構造がすでに存在していることが推測される。このような微細規則構造は、例えば、2〜10nm程度の間隔で存在していることが推測される。
【0044】
レーザビームの照射によって結晶化温度の近傍まで昇温されると、これらの微細規則構造が成長し、それぞれの微細規則構造を中心にして5nm程度の小さい結晶粒が生成される。この状態において記録層の殆どの部分は、このような小さい結晶粒により埋め尽くされる。これらの結晶粒は、図1において符号Bで示したような微細な結晶粒を構成する。この結晶粒径は光学的に重要な値であり、これ以下では複素屈折率が非晶質のそれに近づく。2nm以上の粒径を持つことで複素屈折率が結晶と等しくなる。また、結晶粒が小さいので、先述の微細構造から5nm程度に成長するために必要な時間が短くて済むことになる。従って、高線速でもas−depo.のディスクに消去レベルのレーザー照射をするだけで、光学的に結晶化レベルの状態にすることができる。
【0045】
一方、このような初期核生成過程の後には、結晶粒成長過程が生ずるが、本発明の光記録媒体の場合には、レーザビーム照射の初期の段階において既に多数の結晶核が生成するために、殆どの結晶核は、これ以上大きく成長することができず、何らかの要因で突発的に成長した少数の結晶粒のみが、図1に符号Aで示したような大きい結晶粒となる。なお、このような大きい粒径に属する結晶は、光学的には当然ながら結晶の屈折率をもつ。
【0046】
本発明の記録膜は、従来の初期化装置によって初期化した場合も同様の微細構造を示す。すなわち、2〜15nm程度の微細結晶粒に取り囲まれて25〜80nmの粗大な結晶粒が存在する状態となる。この場合にも、多くの結晶粒の粒径が微細であることから、非晶質から結晶化する際の結晶化時間が短くて済む。すなわち、より高線速に適した記録膜であり、消去率の向上に効果がある。
【0047】
また、本発明の光記録媒体は、TEM像において、小さい粒径に属する結晶粒が全体に対する面積比で30%以上80%以下であることを特徴とする。さらに、本発明者の検討の結果によれば、この面積比が50%以上70%以下の場合により安定して確実な結晶化を実現できることが分かった。すなわち、結晶化してこのような粒径分布を示す場合に、結晶核生成と結晶成長とのバランスが最も良好で、高い消去率が実現できると共にas−depo.記録にも適した記録膜となる。
【0048】
本発明による独特の構成を有する光記録媒体を製造する方法としては、例えば、以下に説明する方法を用いることができる。
【0049】
まず、第1の方法としては、記録媒体の堆積工程において、スパッタ雰囲気中にArよりも原子量の大きいガス種を混合させる方法を挙げることができる。このようなガス種としては、例えば、クリプトン(Kr)やキセノン(Xe)を挙げることができる。すなわち、本発明者の検討によれば、as−depo.の状態で好適なランダムネスを持った非晶質を制御性よく成膜する方法として、記録層の成膜時にクリプトン(Kr)及び/またはキセノン(Xe)を用いることが好適であることが見出された。
【0050】
この理由を検討した結果、次のように説明できることが判明した。すなわち、スパッタ法による成膜に際しては、ターゲットからたたき出されたスパッタ粒子は基板に到達する過程で雰囲気ガス粒子に衝突する。その際に失う運動エネルギーは衝突の相手の質量に依存する。剛体衝突モデルで近似すると、入射粒子と衝突する相手ガスの粒子が同一の質量を持ち、衝突する相手が静止していると仮定すると、正面衝突ならば入射粒子の運動エネルギーは100%相手の粒子に移動する。正面衝突以外では衝突パラメータ(インパクトパラメータ)に応じた割合で運動エネルギーが移動するが、全衝突パラメータに関して積分すると、同一種類の粒子同士の衝突では一回あたり、平均して半分の運動エネルギーが相手に移動する。剛体衝突モデルを仮定すると、衝突する粒子の質量をm1、衝突される粒子の質量をm2 として、失うエネルギーの割合は、2m1 m2 /(m1 +m2)2表される。
【0051】
以下、光記録膜としてGeSbTeを例にとる。Ge、Sb、Te原子の優勢な質量数はそれぞれ、73、122、123である。たとえば、SbがAr(質量数40)に衝突する場合、持っていたエネルギーの37%しか移動しないのに対し、Xeに衝突する場合は50.0%が移動する。一個の粒子が複数回の衝突を経る場合は、特にガス種による違いが顕著となる。一般に、衝突する二個の粒子同士の質量数が近い程、効率良く運動エネルギーを失う。このためスパッタ粒子がKr、Xeに衝突する過程を経ると、十分にそのエネルギーが低下し、すなわち温度が低くなって基板に到達することになる。そのため、基板上において室温まで持ち来される過程での冷却速度が小さくなり、そのために膜のランダムネスが小さくなる。その結果として、光記録後の非晶質部に近いランダムネスを持った非晶質が得られる。ここで、スパッタ粒子が運動エネルギーを失う程度は衝突頻度も依存するが、衝突頻度νはν=1/nσ(σは衝突断面積、n=p/kBTはガス粒子密度)と表され、雰囲気ガス圧によって好適な範囲に調節することができる。
【0052】
一方、本発明の光記録媒体を製造する方法としては、スパッタ時に基板にバイアスを印加してスパッタ粒子の基板上での表面マイグレーションを助長する方法も挙げることができる。この様にして形成したディスクはスパッタ成膜直後の状態が、光記録で形成される非晶質状態に近い。
【0053】
このようにして形成された相変化光ディスクに非晶質マークの記録を実行すると、独特の構成が形成される。すなわち、マーク間が結晶化してトラック幅よりも狭い結晶化バンド中に非晶質マークが点在する状態となる。ここで、マークの幅は結晶化バンドよりも狭いか若しくは等しい。等しい場合には非晶質部がネットワーク状に連結し、その中に結晶化したマーク間領域が存在する状態となる。線速が速くなくて、非晶質マーク端部が結晶化する場合には、トラック幅よりも若干狭い結晶バンドが形成され、そのバンド中にバンド幅よりも若干狭い非晶質マークが存在する状態となる。結晶バンドの間の領域はスパッタ形成直後の非晶質状態を保持する。
【0054】
一方、本発明の光記録媒体を製造する方法としては、スパッタ成膜直後の記録層に圧縮性応力を付与して結晶化し易くする方法も挙げることができる。すなわち、記録層自体の圧縮応力を高めるか、記録層の上下に配される干渉膜に圧縮応力を付与して記録層が収縮し易くする。記録層は非晶質状態にある時よりも結晶状態にある時の方が体積が小さいので、圧縮応力を付与した状態におけば体積収縮し易い、即ち結晶化し易い状態にある。スパッタ膜の場合は、一般的に成膜時に基板上に高エネルギーの粒子を入射させることで圧縮応力を付与することができる。具体的手段としては、記録層もしくは上下の干渉層形成時に、ガス圧力を低下させて基板に入射するスパッタ粒子のエネルギーを増加させるか、基板にバイアスを印加してガスイオンを加速して積極的に基板に入射させる方法がある。
【0055】
これらの方法は、前記したスパッタ粒子のエネルギーを低くする方法と相反するが、基板上でのスパッタ粒子の冷却速度を適度に低下させて、かつ記録層に適度な圧縮応力を付与する条件が本発明を実施する上で好適であり、それは他の手法との関連の中で見出されるものである。ここで、記録膜はKrやXeなどの重希ガスで高圧スパッタ成膜し(基板にバイアスを印加すると圧縮応力を付与する上で好適)、上下の干渉膜形成時は低圧バイアススパッタして大きな圧縮応力を付与する方法が好ましい。また、記録膜に対して熱膨張率の差が大きい材料を用いて上下の薄膜層あるいは基板を構成し、且つ昇温状態で膜形成を行うことにより、室温に冷却後に圧縮応力を発生させることも有効である。
【0056】
以上、本発明の光記録媒体を製造する具体的な方法について説明した。
【0057】
以下、具体的な実施例を例示しつつ本発明の実施の形態についてさらに詳細に説明する。
(実施例1)
図4は、本発明の第1実施例に係る相変化光記録媒体の概念断面図である。 同図において、1は基板、2は第一干渉層、3は記録層、4は第二干渉層、5は反射層である。この媒体は、以下の手段で作製した。まず、0.6μm幅のグルーブが設けられたポリカーボネイト製の光ディスク基板1を多室スパッタリング装置の基板ホルダーに装着する。そして、ZnS−SiO2コンポジットターダットを具備するスパッタ室において、RFスパッタ法により膜厚80nmの第一干渉層2を成膜し、次にGeSbTeターゲットを具備するスパッタ室においてDCスパッタ法により膜厚20nmの記録層3を成膜し、続いてZnS−SiO2コンポジットターゲットを具備するスパッタ室において、RFスパッタ法により膜厚30nmの第二干渉層4を成膜し、最後にAlターゲットを具備するスパッタ室において、DCスパッタ法により膜厚50nmの反射層5を成膜する。
【0058】
ここで、記録層3以外の成膜には純Arを用いてスパッタしたが、記録層3の成膜に際してはスパッタガスとしてAr+Krの混合ガスを用いた。ガスの組成はAr:Kr=1:10とし、全圧は4.0Paとした。ガス圧を測定する真空計は全圧測定に適したダイアフラムゲージを用い、その測定子はガス導入口の直近ではなく、ガス圧の位置分布の影響を受けない位置に設置した。成膜終了後に取り出したディスク基板にもう一枚のダミー基板(厚さ0.6mm)をUV樹脂で接着し、評価媒体とした。
【0059】
この記録媒体を線速一定の条件で評価した。記録膜はas−depo.状態のままで、線速8.2m/秒、クロック周波数116.45MHzの3T信号をas−depo.のディスクに記録したところ、52.5dBのCNRを得た。また、やはりas−depo.状態の異なるトラックに3Tから11Tまでのランダム信号を記録したところ、8.2%のジッタ値を得た。このトラックにオーバーライトを操り返したところ、10回目で8・4%となった。さらにオーバーライトを繰り返し、100回、1000回後にジッタ値を測定したが、いずれも8〜9%の範囲であった。
【0060】
このように、as−depo.のトラックに直接記録することで良好なCNR、繰り返し特性を得ることができた。
【0061】
次に、本発明の記録膜に形成された結晶化部の結晶状態をTEMで調べた。まず、as−depo.トラック上に上記の線速及び記録クロック周波数で11T信号で変調したレーザビームを一回だけ照射してマーク列を形成し、再生信号波形を観察した。この実験において、消去レベルのレーザパワーPeとマーク間からの再生信号レベルの関係を測定したところ、Pe=4.5mWで最小になった。ここで、再生信号レベルは、レーザビームが読み出しているトラックからの反射率を反映する。従って、再生信号レベルの最小は最適な結晶化条件であることを示す。このようにして最適消去パワーを見出した。
【0062】
次に、TEM観察を行う試料を形成した。すなわち、別のas−depo.トラックにPe=4.5mW、Pw=12mWでディスク一回転分だけ11T信号の書き込みを行った。TEM試料として観察しやすいように、これを複数のトラックに対して行った。この部分を以下に「as−depo.記録部」と称する。また、比較のために、別のトラックに対して同じ記録条件で複数回のオーバーライトした試料も作製した。そして、Al反射層5と基板1を除去し、金属メッシュ上にとって観察サンプルとした。Al反射層5は膜にメッシュ状の傷をつけ、テープを接着剤で貼り付けてはがす方法によって除去した。また、基板1は有機溶剤により溶かし去った。これらの方法によれば、結晶状態に変化を及ぼすような熱過程は存在しない。
【0063】
まず、as−depo.記録部のマーク間部分のTEM明視野像を観察した。この結果から、消去部分は図1に例示したものと同様の多結晶体であり、TEMで分解できない微結晶あるいは非晶質の部分は特に観察されなかった。個々の結晶粒はその結晶方位により異なるコントラストを持つ微結晶の集合体として観察された。
【0064】
一方、隣接するas−depo.部分(非晶質状態)は、コントラストに乏しい一様な色調を呈する領域として観察された。
【0065】
撮影したTEM像をもとに、結晶粒の粒径を測定し、その出現頻度を調べた。解析の結果、as−depo.記録部のPe照射領域、繰り返しオーバーライト後のPe照射領域の両方とも、5nmを中心として2〜16nmの範囲に属する微細な結晶粒と、25〜80nmの範囲に分布する大きい結晶粒の2種類に明確に区別出来ることが判明した。これらの大きい結晶粒と微細な結晶粒の粒径分布を解析すると、図2及び図3とほぼ同様のグラフが得られた。
【0066】
このように、as−depo.記録に適した本発明の記録膜の特徴は、一回だけ消去レベルのレーザを照射することにより多結晶化し、形成される結晶粒の粒径分布が、35〜100nmの範囲に分布する比較的に大きい粒径の結晶粒と、その周りを埋め尽くす2〜20nmの範囲に分布する結晶粒とによって構成されることが判明した。言い換えれば、粒径の出現頻度を粒径に関する関数として考えたときに、その分布が複数の極大をもつことが特徴であることが判明した。また複数回オーバーライトした場合でも同様に、結晶化部の粒径分布は同様に複数の極大を持つことが判明した。
【0067】
本実施例では記録膜にGeSbTeを用いたが、このほかInSbTe、AgInSbTe、AuInSbTe系やその他の相変化記録膜、またそれに添加元素を加えた材料系に対しても当然本発明の効果が生じる。また繰り返し可能媒体のみならず、いわゆるCD−R、CD−RWなどの一回書込み型、複数回書き込み型の記録媒体としても効果を発揮する。
(比較例)
上記実施例に対する比較のため、記録膜3の成膜プロセスを通常のプロセスで形成した光ディスクを用意し、同様の実験を行った。ここで、ディスクの膜構成、膜厚は実施例と同一である。成膜は、記録膜以外は第1実施例と同一の方法によった。記録膜は、スパッタガスにArを用い、ガス圧を1.0Paに調節した。
【0068】
本ディスクに対し、まず、as−depo.トラック上に第1実施例と同様の線速及び記録クロック周波数で11T信号で変調したビーム照射を一回行ってマーク列を形成し、再生信号波形を観察した。その結果、Pe照射部分からの信号レベルは一回のPe照射では十分に下がらなかった。さらにPeを変えて実験したが、2.5mW未満ではまったく変化が見られず、2.5mW以上、6mW未満ではやや反射率低下が見られたが飽和レベルにはほど遠く、as−depo.部からの信号レベルに近かった。また、6mW以上のパワーでは反射率低下は、まったく見られなかった。これは、パワーが高すぎて記録層が部分的に溶融し、冷却時に再非晶質化したことによるものと考えられる。
【0069】
Pe=2.5mW以上、6mW未満として2回以上のオーバーライトすると、オーバーライトの操り返しで徐々に反射率が下がった。5回以上のオーバーライトによってPe照射部からの信号レベルは飽和レベルに達した。そこで、実使用時の最適Peレベルを、10回オーバーライト時のマーク間からの信号レベルがもっとも低くなるパワーとし、求めたところ、その値はPe=4.0mWであった。
【0070】
次に、TEM観察を行う試料を形成した。すなわち、異なるas−depo.トラックにPe=4.0mW、Pw=12mWでディスク一回転分だけ11T信号の書き込みを行った。TEM試料として観察しやすいように、これを複数のトラックに対して行った。この部分を「as−depo.記録部」と称する。また、比較のため別なトラックに対し同じ記録条件で複数回のオーバーライトした部分も用意した。
【0071】
次に、Al反射膜と基板を除去し、金属メッシュ上にとって観察サンプルとした。まず、一回のみ記録した部位の個M像を観察したところ、Pe照射部は、as−depo.記録した場合は一様なコントラストで結晶粒が判然とせず、依然として非晶質あるいはTEMの分解能以下(約2nm以下)のきわめて小さい微結晶の集合体であることが分かった。これは、同部分の電子線回折パターンとしてハロー状のパターンしか観察されなかったことからも裏付けられる。また、記録マーク部(非晶質)はコントラストに乏しい一様な領域として観察された。
【0072】
一方、同ディスクに繰り返しオーバーライトした場合のPe照射部は結晶粒が明らかであった。その粒径分布を画像処理により解析すると、ほとんどの粒径が50〜150nmの範囲にあることが判明した。
【0073】
図5は、個々の結晶粒径を測定し、出現頻度をプロットしたグラフ図である。すなわち、同図は、TEM写真上において任意に得られた790nm角の領域から、TEMで分解可能なすべての結晶の粒径の出現頻度分布をプロットしたものである。また、ここでも、TEMの分解下限(2nm)以下の極めて微細な結晶粒は、計測対象から除外した。図5からわかるように、従来の光ディスクにおいては、粒径の分布は単一の極大をもち、その中心値は110nm程度であった。つまり、記録層は、比較的大きな結晶粒によってほぼ埋め尽くされていることが分かった。
【0074】
また、比較のために2回記録を行ったトラックについて同様のTEM観察で調べたところ、十分に結晶化が進行しておらず、結晶粒が部分的に認められたものの、それ以外の大部分の領域は非晶質状態であることが判明した。
(実施例2)
以下、本発明の第2の実施例に係る相変化光記録媒体について説明する。
【0075】
本実施例の相変化光記録媒体も、図4に表したものと同様の断面構成を有する。但し、各層の膜厚は、記録膜3が結晶状態の時に反射率が高くなる、いわゆるHigh−to−Lowの構成に合わせて設計した。
【0076】
すなわち、各層の材料は第1実施例と同様にしつつ、第一干渉層2の膜厚を160nm、記録層3の膜厚を20nm、第二干渉層4の膜厚を5nm、反射層5の膜厚を150nmとした。記録媒体の作成手順は、第1実施例と同様とした。
【0077】
次に、このようにして作成した記録媒体を初期化装置にかけ、全面初期化を行った。使用した装置のレーザビームは、95μmx1μmのサイズの長円形ビームである。初期化条件は線速2m/秒とし、送りピッチ12μm、レーザパワー300mWとした。
【0078】
次に、このようして初期化した記録媒体を、線速一定の条件で評価した。まず、線速8.2m/s、クロック周波数116.45MHzの3T信号を記録したところ、51.2dBのCNRを得た。さらに、本ディスクの別の初期化部に11T信号を一回記録したところ、11TのCNRとして56.5dBと良好な値を得た。
【0079】
次に、この11T信号を3T信号によりオーバーライトしたところ、その信号強度は以下の如くであった。
【0080】
11Tキャリアレベル:−47.2dBm
3Tキャリアレベル:−12.5dBm
有効消去比: 34.7dB
ここで、「有効消去比」とは、書き込んだ11T信号の信号強度とオーバーライトされた3T信号の信号強度との差として定義される。
【0081】
次に、やはり初期化した異なるトラックに3Tから11Tまでのランダム信号を記録したところ、9.5%のジッタ値を得た。このトラックにオーバーライトを繰り返したところ、8〜9%の範囲で推移し、極めて良好なジッタ特性を有することが確認された。
【0082】
このように良好な繰り返し特性を得ることができた理由は、消去率が34.7dBと良いことからもわかるように、記録した非晶質マークがオーバーライトで十分良く消去できたことに起因する。
【0083】
次に、本記録膜の結晶状態をTEMで調べた。観察したのはディスクのうちの初期化しただけで何も記録していない部分である。ここで、比較のために、初期化部分に多数回のオーバーライトを行ったトラックも形成した。
【0084】
第1実施例と同様の方法で試料を作成し、まず、初期化部のTEM明視野像を観察した。その結果は図1に例示したものと同様で明らかに多結晶であり、TEMで分解できない微結晶あるいは非晶質の部位は特に検出されなかった。個々の結晶粒はその結晶方位により異なるコントラストを持つ微結晶の集合体として観察された。
撮影したTEM像をもとに、結晶粒の粒径を測定し、その出現頻度を調べた。方法は、200nm角の範囲で明視野像を撮影し、まず大きい粒径に属する結晶粒の径を測定した。具体的には、それぞれの結晶粒の最長径と最短径を測定し、その平均をとって記録した。個々の結晶粒の径は60〜100nmの範囲に分布しており、その平均は82.5nmであった。
【0085】
次に、それ以外の部分の結晶状態を高倍率で観察したところ、どの部分も2〜10nmの粒径をもつ比較的小さい結晶粒の集まりであり、15nmを超える大きさの結晶粒は極めて少ないことが判明した。
【0086】
オーバーライト繰り返しで形成された結晶部の観察では、同様に大きい結晶粒と、それを取り囲んで微細な結晶に埋め尽くされた部分に分けられる事が判明した。
【0087】
なお、本実施例においても記録膜3の材料としてGeSbTeを用いたが、このほかInSbTe、AgInSbTe、AuInSbTe系やその他の相変化記録膜、またそれに添加元素を加えた材料系に対しても当然本発明の効果が生じる。また繰り返し可能媒体のみならず、いわゆるCD−R、CD−RWなどの一回書込み型、複数回書き込み型の記録媒体としても効果を発揮する。
【0088】
以上、具体例を例示しつつ本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。
【0089】
例えば、上記した具体例では、光ディスクとして、基板からZnS−SiO2/GeSbTe/ZnS−SiO2/Alをスパッタ成膜した4層構造のものを例示した。しかし、これ以外にも、例えば、これにAu半透明膜を挿入した5層構造のものでも良く、また、記録層のスパッタ条件や初期化条件が本発明の実施にとって重要である他は、特に各層の膜材料、膜厚、記録膜以外の成膜方法・条件には制約されない。
【0090】
例えば、5層膜構造の場合に、半透明層としては、Auの他に銀(Ag),銅(Cu),シリコン(Si)などや、誘電体母材中に金属微粒子を分散した構造の膜を用いることができる。
【0091】
また、5層構成の半透明膜のかわりに、屈折率の異なる2種類以上の透明膜材料を用いた2層以上の積層膜を用いることもできる。例えば、膜厚を適切に選んだZnS膜あるいはZnSとSiO2との混合膜、同じくSiO2膜、同じくZnS膜あるいはZnSとSiO2との混合膜、を順に積層した膜を用いることにより、さらに高密度記録に適した媒体を提供できる。
【0092】
また、干渉層としては、ZnS−SiO2以外に、Ta2O5,Si3N4,SiO2,Al2O3,AlN等の誘電体膜材料、記録層としてはGeSbTeの他にInSbTe,AgInSbTe,GeTeSeなどのカルゴゲン系膜材料、反射層としてはAlの他にも、AlMo、AlCr、AlTiなどのAl合金系膜材料などから適宜選択して用いることができる。
【0093】
さらに、上述した具体例においては、光記録媒体の一例として光ディスクを例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、その他にも、例えば、光記録カードなど種々の形態の光記録媒体に同様に適用し、同様の効果を得ることができる。
【0094】
【発明の効果】
本発明は、以上説明した形態で実施され、以下に説明する効果を奏する。
【0095】
まず、本発明によれば、記録膜の初期結晶化という付加的な工程を経ることなく、as−depo.状態で直ちに使用でき、かつ記録特性、高繰返しオーバライト特性に優れた光記録媒体を提供できる。
【0096】
その結果として、初期結晶化に必要な設備投資、運転費用、時間を削減し、より安価且つ高性能な光記録媒体を提供できる。
【0097】
例えば、従来の光記録媒体の場合には、ディスク1枚あたりの成膜工程のタクトタイムが約10秒であるのに対して、初期化工程のタクトタイムが2〜3分もかかり、製造上の大きなボトルネックとなっていた。これに対して、本発明によれば、このような初期化工程を削減することができ、製造スループットを大幅に改善することもできる。
【0098】
以上説明したように、本発明によれば、高性能でしかも製造工程を簡素化することができる光記録媒体を提供することができ産業上のメリットは多大である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の光ディスクのマーク間部分の記録層のTEM像の一例を表す概略図である。
【図2】本発明の光ディスクのマーク間部分の結晶粒径の分布を表すグラフ図である。
【図3】本発明の光ディスクの微細な結晶粒の粒径分布を表すグラフ図である。
【図4】本発明の第1実施例に係る相変化光記録媒体の概念断面図である。
【図5】比較例において、個々の結晶粒径を測定し、出現頻度をプロットしたグラフ図である。
【符号の説明】
1 基板
2 第1干渉層
3 記録層
4 第2干渉層
5 反射層
Claims (9)
- 光照射により結晶状態と非晶質状態との間を可逆的に変化する相変化記録層を備えた光記録媒体であって、前記相変化記録層が前記結晶状態にある時、その相変化記録層を構成する結晶粒の粒径に対する個数の分布が少なくとも2つの異なる粒径においてそれぞれ極大値を有することを特徴とする光記録媒体。
- 光照射により結晶状態と非晶質状態との間を可逆的に変化する相変化記録層を備えた光記録媒体であって、ヘッダ部の前記相変化記録層は、結晶化の初期核となる微細規則構造を含んだ非晶質状態であることを特徴とする光記録媒体。
- 前記ヘッダ部の前記相変化記録層は、前記結晶状態における光の反射率が前記非晶質状態における光の反射率よりも低いことを特徴とする請求項2記載の光記録媒体。
- 前記相変化記録層が前記結晶状態にある時、その相変化記録層を構成する結晶粒の粒径に対する個数の分布が少なくとも2つの異なる粒径においてそれぞれ極大値を有することを特徴とする請求項2または3に記載の光記録媒体。
- 前記少なくとも2つの異なる粒径のうちの小なる粒径における極大値を中心とした分布に属する結晶粒が前記相変化記録層に占める割合は、面積比で30%以上80%以下の範囲であることを特徴とする請求項1または4に記載の光記録媒体。
- 前記少なくとも2つの異なる粒径のうちの小なる粒径は、2nm〜15nmであり、
前記少なくとも2つの異なる粒径のうちの大なる粒径は、15nm〜200nmであることを特徴とする請求項1、4及び5のいずれか1つに記載の光記録媒体。 - 光照射により結晶状態と非晶質状態との間を可逆的に変化する相変化記録層を有する光記録媒体の製造方法であって、前記相変化記録層を結晶化の初期核となる微細規則構造を含んだ非晶質状態に成膜することを特徴とする光記録媒体の製造方法。
- スパッタ雰囲気中にアルゴンよりも原子量の大きいガス種を混合させて前記相変化記録層を成膜することを特徴とする請求項7記載の光記録媒体の製造方法。
- 前記ガス種は、クリプトン及びキセノンの少なくともいずれかであることを特徴とする請求項8記載の光記録媒体の製造方法。
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