JP3463500B2 - 延性に優れたフェライト系ステンレス鋼およびその製造方法 - Google Patents

延性に優れたフェライト系ステンレス鋼およびその製造方法

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【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はフェライト系ステン
レス鋼およびその製造方法に係り、特に自動車、家電、
厨房、あるいは建材などに使用される延性が優れ、張り
出し成形などの成形加工に適したフェライト系ステンレ
ス鋼およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】自動車、家電、厨房、あるいは建材など
に使用されるステンレス鋼は張出成形などの加工性が良
いことが要求される。そのために多くの研究がなされ、
たとえば特開平3−2355号公報にみられるように鋼
の高純度化によってその目的を達することが提案され、
現実に使用されている。この技術はC、Nなどの侵入型
の元素を低減し、塑性変形時の転移の運動を容易にする
ことにより加工性を改善するものであるが、高度の脱
炭、脱窒を必要とするため製造コストが高いという欠点
がある。
【0003】一方、SUS304に規定されるオーステ
ナイト系ステンレス鋼や残留オーステナイト相を含有す
る低合金鋼では、たとえば日本金属学会報第27巻第8
号(1998)第623頁以下に記載されているように
いわゆるTRIP(変態誘起塑性)現象を利用して延性
を向上することが行われている。これはオーステナイト
相を含む鋼に塑性加工を加えると、塑性歪みが加わった
部分ではオーステナイト相がマルテンサイ相に変態し硬
化するため、その後の加工においてその部分の変形が抑
制され、その結果、局所歪みが発生しがたくなり、一様
延びが大きくなり、ひいては破断伸びが向上する現象を
利用するものであるが、フェライト相を主たる構成組織
とするステンレス鋼においては、オーステナイト相とフ
ェライト相を共存させることが困難であるため実用化さ
れていなかった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明はフェライト系
ステンレス鋼の延性の向上を従来のようなコストの高い
鋼の高純化によらず、比較的安価な手段を用いて行うこ
とを目的とし、特に塑性加工時においてTRIP効果を
極めて有効に利用できるフェライト相を主たる構成組織
とするステンレス鋼およびその製造方法を提供するもの
であり、引張破断伸びが30%以上の特性を有するフェ
ライト系ステンレス鋼およびその製造方法を提供するこ
とを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明者等はフェライト
相を主たる構成組織とするステンレス鋼において、オー
ステナイト相を5〜20%残留させ、かつ、マルテンサ
イト相を5%以下に制限すればTRIP現象を有効に利
用することができ、高い延性が得られることを見いだし
て本発明を完成したものである。具体的には、フェライ
ト相を主たる構成相とするフェライト系ステンレス鋼の
組成を、質量比でC:0.10%以下、Si:1.0%
以下、Mn:1.5%以下、Cr:16.0%以上、2
5.0%以下、N:0.020%以上、0.070%以
下、残部鉄および不可避的不純物からなり、かつ、Cr
当量:17.5%以上、24.5%以下、Ni当量:
2.0%以上、6.0%以下をそれぞれ満足するととも
に、鋼の組織を室温においてフェライト相を主たる構成
相としながら、残留オーステナイト相を5%以上、20
%以下含有するとともにマルテンサイト相を5%以下に
制限してなるものとするものである。ここに、 Cr当量=Cr%+Mo%+1.5Si%、 Ni当量=Ni%+30C%+30N%+0.5Mn% と定義される。
【0006】また、本発明は前記鋼の組成において、さ
らにCu:1.0%以下、Ni:3.0%以下の1種ま
たは2種、あるいはAl:1.0%以下、Mo:1.0
%以下の1種または2種、あるいはこれらの双方を含有
させるものである。
【0007】さらに本発明は上記フェライト系ステンレ
ス鋼の製造方法として、熱間圧延および冷間圧延を行っ
て得た冷延鋼板の最終焼鈍工程において、加熱温度をフ
ェライト相とオーステナイト相からなる2相域から高温
のフェライト相単相に変態完了する温度Tαと(Tα−
100)℃の間の温度範囲とし、かつ、その後の冷却速
度を800℃まで平均冷却速度、5℃/s以上とする焼
鈍方法を採用するものである。
【0008】
【発明の実施の形態】まず本発明のフェライト系ステン
レス鋼の組成について説明する。 C:0.10%以下 Cはオーステナイト生成元素であり、しかも拡散係数な
らびにオーステナイト相への平衡分配係数が比較的大き
いために高温の2相域の状態でオーステナイト相へより
多く平衡分配され、オーステナイト相の確保ならびに安
定化に有効である。したがって、オーステナイト相の安
定生成のための必須添加元素であるが、0.10%を越
えて含有すると炭化物を多く析出し、耐食性を阻害する
ため上限を0.1%に制限する。
【0009】Si:1.0%以下 Siは脱酸剤として有効であるが、1.0%を越えると
鋼を脆化させるので上限を1.0%として脱酸に必要な
範囲において添加する。
【0010】Mn:1.5%以下 Mnはオーステナイト生成元素であり、また、Sの無害
化のため有効であるが、過剰に添加すると鋼を脆化させ
るため、上限を1.5%として適宜添加する。
【0011】Cr:16%以上、25%以下 Crはフェライト生成元素であり、また不動態皮膜の構
成元素であり、耐食性の確保のためフェライト系ステン
レス鋼の必須添加元素である。これらの機能の発揮のた
めには、16.0%以上の添加が必要であるが、25.
0%を越えると鋼の脆化をもたらすので、上限を25.
0%に限定する。なお、後に示すようにCr当量を満足
することが必要である。
【0012】N:0.020%以上、0.070%以下 Nはオーステナイト生成元素であり、しかも拡散係数な
らびにオーステナイト相への平衡分配係数が極めて大き
い元素なので、高温の2相域の状態でオーステナイト相
へより多く平衡分配され、オーステナイト相の確保なら
びに安定化に極めて有効である。したがって、0.02
0%以上添加する。しかし、過剰に添加すると窒化物を
多く析出し、かえって延性を劣化するので0.070%
以下の範囲でとする。
【0013】本発明に係る鋼の基本組成は、上記成分を
含有し、残部が鉄および不可避的不純物、たとえばP、
Sなどであるが、さらに以下に示す成分を選択的に加え
ることができる。 Cu:1.0%以下、Ni:3.0%以下 これらの元素はいずれもオーステナイト生成元素であ
り、オーステナイト相の確保に有効である。従って鋼の
合金コストをいたずらに上昇させない範囲で、適宜添加
するのがよい。具体的には、それぞれ1.0%以下、
3.0%以下の範囲で1種または2種を添加するのがよ
い。
【0014】Al:1.0%以下、Mo:1.0%以下 これらの元素はフェライト生成元素であり、フェライト
相の確保に有効である。また、Alは不働態皮膜の形成
元素でもあり、耐食性の向上に有効である。一方、Mo
は耐孔食性の向上に有効である。しかしながらこれらの
元素は過剰に添加すると鋼の脆化を惹き起こすので、い
ずれも上限を1.0%として1種又は2種を添加する。
なお、鋼の所要特性に応じ、上記フェライト生成元素と
前記オーステナイト生成元素を併用することもできる。
【0015】Cr当量:17.5%以上、24.5%以
下 本発明では後に示すように適量のオーステナイト相を残
留させ、かつマルテンサイト相を極力形成させないよう
にしなければならないが、かかる組織にするには単に上
記のように組成範囲を限定するだけでは不十分である。
鋼の組成全体のバランスにより鋼を構成する相分率が決
定されることに留意しなければならない。特に、Cr当
量およびNi当量に留意しなければならない。Cr当量
は、 Cr当量=Cr%+Mo%+1.5Si% により規定されるが、この値が17.5%未満ではオー
ステナイト相が不安定になり、マルテンサイト相が生じ
やすくなり、本発明において必要な組織構成が得られな
くなる。一方、24.5%を越えると高温でのオーステ
ナイト相の確保が困難になる。したがってCr当量は1
7.5%以上、24.5%以下に限定される。
【0016】Ni当量は Ni%+30C%+30N%+0.5Mn% により規定されるが、この値が2.0%未満では高温の
オーステナイト相の確保が困難であり、一方、6.0%
を越えるとオーステナイト相分率が過剰になり、いずれ
も本発明において必要な組織を得ることができなくな
る。したがってNi当量は2.0%以上、6.0%以下
とする。
【0017】本発明においてはフェライト相を主たる構
成相としながらTRIP現象によって優れた延性を保有
させるが、そのためには鋼の組織中に5ないし20%の
オーステナイト相を残留させなければならない。オース
テナイト相が5%未満では、塑性変形の進行する部分で
の強度上昇効果が小さいため、塑性変形の際の局部伸び
を抑制することができず、TRIP現象の特徴である大
きな一様伸びを得ることができない。一方、残留オース
テナイト相が20%を越えて存在してもTRIP現象に
よる伸び上昇効果は飽和し、合金添加コストの上昇を招
くだけであるので、残留オーステナイト相の上限は20
%とする。
【0018】しかしながらオーステナイト相が上記のよ
うに5%以上、20%以下であっても、マルテンサイト
相が多量に存在するときには、もはやオーステナイト相
のマルテンサイト相への変態によるTRIP現象による
効果は期待できない。したがってマルテンサイト相は5
%以下に制限しなければならない。このことはオーステ
ナイトが残留する鋼組成においては特に注意すべきであ
り、製造上は次に示す熱処理条件の選択によって解決が
図られる。なお、マルテンサイト相は上記観点から特に
好ましくは、3%以下とするのがよい。
【0019】上記組成および組織にかかる条件を満たせ
ば、塑性加工の際、TRIP現象による一様伸びが得ら
れ、本発明の目的が達せられるが、かかる組織を得るた
めには以下に示す熱処理を施すのがよい。まず、冷延鋼
帯を最終焼鈍する際、フェライトおよびオーステナイト
の2相組織領域に加熱するのである。この2相領域にお
いては、高温であるほどNがオーステナイト相に多く分
配され、オーステナイト相が安定化し、TRIP現象に
よる延性向上効果が顕著に現れる。そこで加熱温度はフ
ェライトおよびオーステナイトの2相域から高温のフェ
ライト単相領域に変態完了する温度Tαを基準とし、こ
の温度から100℃以内に加熱することとする。すなわ
ち、加熱温度範囲は、 Tα以下、Tα−100℃以上 とする。なお、上記加熱温度は通常のフェライト系ステ
ンレス鋼の焼鈍が比較的低温のα単相領域(例えば85
0℃)で行われるのに比較すると高温側にある。
【0020】上記の条件により2相域に加熱された鋼板
はその後冷却されるが、その際冷却速度を大きく取るこ
とが重要である。すなわち、一旦高温の2相域において
N等のオーステナイト安定化元素の多く分配した相が形
成されても、その後温度が低下するとオーステナイト相
中のこれら元素の含有量(分配比)が低下し、そのため
オーステナイト相の安定度が低下し、最終的に残留オー
ステナイト相分率の低下あるいはマルテンサイト相の過
剰な生成をもたらす。このような悪影響は、冷却速度が
5℃/sより小さいと顕著になる。従って、2相域から
の冷却速度は5℃/s以上とする。なお、この場合にお
いて鋼板の温度が800℃より低下した温度範囲におい
ては、もはや冷却速度の影響は現れないので、冷却速度
の制御範囲は上記加熱温度から800℃までの範囲とす
る。
【0021】
【実施例】以下、本発明の実施例を比較例とともに示
す。表1に示す組成を有する鋼を溶製し、スラブとした
後熱間圧延、冷間圧延を行って板厚0.7mmのフェラ
イト系ステンレス鋼板を製造した。鋼AないしEは本発
明に規定する組成範囲を満足する鋼であるが、Fないし
Jは本発明の範囲を逸脱する鋼である。すなわち、鋼F
はCr含有量およびCr当量が低すぎ、鋼GはCrおよ
びCr当量が高すぎる鋼である。鋼HはN含有量が高す
ぎ、一方、鋼IはN含有量が低すぎる鋼である。鋼Jは
Niを多く含有し、そのためNi当量が高すぎる鋼であ
る。
【0022】これらの成分を有するフェライト系冷延鋼
板に対して、表2に示す条件で焼鈍を行ない、焼鈍後の
鋼板にの残留オーステナイト量、マルテンサイト量の測
定、および引張破断試験による引張破断伸びの測定を行
った。引張破断試験は鋼板からJIS Z 2201−
13B引張試験片(板状引張試験片:板厚0.7mm、
標点間距離50mm、平行部幅12.5mm)を切りだ
し、JIS Z 2241に準拠して室温で引張試験を
実施したものである。得られた測定結果は、焼鈍条件と
併せて表2に示す。
【0023】
【表1】
【0024】
【表2】
【0025】これらの結果から本発明に規定する組成お
よび組織条件(残留オーステナイト量およびマルテンサ
イト量)を満足するものが、高い引張破断伸び、すなわ
ち高い延性を示し、一方、組成条件、焼鈍条件等を満足
しない理由により組織条件が満たされなかった鋼は、い
ずれも引張破断伸びが低い。なお、表2に示す試験番号
13(鋼J)はNiが高いものであり、残留オーステナ
イト量、マルテンサイト量など組織条件は満たしてお
り、引張破断伸びも高いが、高価であるため、本発明の
適用範囲から除外されるものである。
【0026】
【発明の効果】本発明によりフェライト系ステンレス鋼
でありながら、引張試験破断伸びに代表される延性が極
めて高いステンレス鋼を製造することができ、自動車、
家電、厨房、建材などをステンレス鋼により冷間で製造
することが極めて容易になった。

Claims (5)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 鋼組成が、質量比でC:0.10%以
    下、Si:1.0%以下、Mn:1.5%以下、Cr:
    16.0%以上、25.0%以下、N:0.020%以
    上、0.070%以下、を含有し、残部が鉄および不可
    避的不純物からなり、かつCr当量:17.5%以上、
    24.5%以下、Ni当量:2.0%以上、6.0%以
    下をそれぞれ満足するとともに、 室温における組織が、 フェライト相を主構成相とし、かつ、残留オーステナイ
    ト相を5%以上、20%以下含有するとともに、マルテ
    ンサイト相を5%以下に制限してなることを特徴とする
    延性に優れたフェライト系ステンレス鋼。ここに、 Cr当量=Cr%+Mo%+1.5Si%、 Ni当量=Ni%+30C%+30N%+0.5Mn%
  2. 【請求項2】 鋼組成が、質量比でC :0.10%以
    下、Si:1.0%以下、Mn:1.5%以下、Cr:
    16.0%以上、25.0%以下、N:0.020%以
    上、0.070%以下、および、Cu:1.0%以下、
    Ni:3.0%以下、の1種又は2種を含有し、残部が
    鉄および不可避的不純物からなり、かつCr当量:1
    7.5%以上、24.5%以下、Ni当量:2.0%以
    上、6.0%以下をそれぞれ満足することを特徴とする
    請求項1記載の延性に優れたフェライト系ステンレス
    鋼。
  3. 【請求項3】 鋼組成が、質量比でC :0.10%以
    下、Si:1.0%以下、Mn:1.5%以下、Cr:
    16.0%以上、25.0%以下、N:0.020%以
    上、0.070%以下、および、Al:1.0%以下、
    Mo:1.0%以下、の1種又は2種を含有し、残部が
    鉄および不可避的不純物からなり、かつCr当量:1
    7.5%以上、24.5%以下、Ni当量:2.0%以
    上、6.0%以下をそれぞれ満足することを特徴とする
    請求項1記載の延性に優れたフェライト系ステンレス
    鋼。
  4. 【請求項4】 鋼組成が、質量比でC :0.10%以
    下、Si:1.0%以下、Mn:1.5%以下、Cr:
    16.0%以上、25.0%以下、N:0.020%以
    上、0.070%以下、およびCu:1.0%以下、N
    i:3.0%以下、の1種または2種ならびにAl:
    1.0%以下、Mo:1.0%以下、の1種又は2種を
    含有し、残部が鉄および不可避的不純物からなり、かつ
    Cr当量:17.5%以上、24.5%以下、Ni当
    量:2.0%以上、6.0%以下をそれぞれ満足するこ
    とを特徴とする請求項1記載の延性に優れたフェライト
    系ステンレス鋼。
  5. 【請求項5】 熱間圧延および冷間圧延を行って得た冷
    延板に対する最終焼鈍工程において、フェライト相とオ
    ーステナイト相からなる2相域から高温のフェライト相
    単相に変態完了する温度Tαと(Tα−100)℃の間
    の温度範囲に加熱し、その後800℃までの平均冷却速
    度を5℃/s以上として冷却することを特徴とする請求
    項1ないし4のいずれかに記載の延性に優れたフェライ
    ト系ステンレス鋼の製造方法。
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