JP3445478B2 - 機械構造用鋼及びそれを用いた破断分割機械部品 - Google Patents

機械構造用鋼及びそれを用いた破断分割機械部品

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、機械構造用鋼及び
それを用いた破断分割機械部品に係り、特に、内燃機
関、ピストン圧縮機、ピストンポンプ等に用いられる機
械構造用鋼及びそれを用いた破断分割機械部品に関する
ものである。
【0002】
【従来の技術】機械構造用鋼、または合金鋼を用いた分
割機械部品として、例えば、内燃機関用コネクティング
ロッド(以下、コンロッドと呼ぶ)などが挙げられる。
【0003】切断によるコンロッドの分割方法の模式図
を図3に示す。
【0004】通常のコンロッド15の分割方法は、図3
(a)〜図3(d)に示すように、コンロッド粗材11
の大端部に内面切削加工を施した後、鋸刃などの切断手
段により本体部12とキャップ部13に切断すると共
に、それぞれの切断面12a,13aに仕上加工を施
し、続いて、ボルト14により本体部12とキャップ部
13を締結し、最後に、コンロッド全体に仕上加工を施
すものである。
【0005】破断によるコンロッドの分割方法の模式図
を図4に示す。尚、図3と同様の部材には同じ符号を付
している。
【0006】一方、破断によるコンロッドの分割方法
は、図3(b)の大端部切断工程および図3(c)の切
断面仕上加工工程を省略し、図4(a)〜図4(c)に
示すように、予めコンロッド粗材11の大端部の穴11
aに切欠Kを形成しておき、この切欠Kが破断開始点と
なるように破断分割し、各破断材のそれぞれの端面22
a,23aに対する仕上加工を施すことなく、本体部2
2とキャップ部23をそのまま突き合わせてボルト14
で締結するものである。
【0007】この破断分割法を採用することにより、コ
ンロッドの製造コストの低減を図ることができるため、
コンロッドの分割方法として破断分割法が主流になりつ
つある。
【0008】すでに実用に供されている破断分割用の鋼
素材としては、破断性が良好で、かつ、変形が少ない高
炭素鋼(C:0.65〜0.75wt%)が挙げられる
が、材料に延性を付与しないようにすべく、焼入れ・焼
戻しなどの熱処理を施していない熱間鍛造ままの状態、
所謂、非調質状態で使用されているが、破断面の着脱性
が良好でない、降伏強さが低いといった問題を有してい
た。
【0009】そこで、高炭素鋼における破断面の着脱性
および降伏強度の向上を目的とした方法が提案されてい
る(特開平9−3589号公報、特開平9−31594
号公報など)。
【0010】これらの方法は、破断分割後の破断面を平
坦なものとして接合性(着脱性)を改善し、また、降伏
強さを向上させることを狙ったものである。例えば、S
i、V、Pの添加量を一定値以上とすれば0.7以上の
降伏比が得られる事、かつ、引張強さを800MPaに
制御して引張試験の伸びを10%以下とすれば、分割に
よる破断面はフラットな脆性破面となる事などが開示さ
れている(特開平9−111412号公報参照)。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、これら
の破断面の着脱性および降伏強度の向上を図った高炭素
鋼においても、破壊変形が大きい、破断面の着脱性があ
まり良好でないといった問題があった。
【0012】含有C量と鍛造加熱温度との関係を図5に
示す。
【0013】すなわち、破断分割用として実用に供され
ている高炭素鋼は、含有C量が0.65〜0.75wt
%と多いため、図5に示すように、鍛造温度を1,10
0〜1,200℃弱と低めに設定しなければならず、鍛
造金型の寿命低下、および鍛造加熱温度の切替えによる
段取り時間の増長という問題があった。
【0014】疲労回数と応力との関係を図6に示す。図
中の実線はJIS S70Cの鍛造まま(HB282)
を示し、点線はJIS S53Cを調質(HB255)
したものを示し、二点鎖線はJIS S53Cを調質
(HB285)したものを示している。
【0015】また、図6に示すように、鍛造ままの高炭
素鋼は、略同じ硬さの調質材と比較して疲労強度が著し
く低いため、高炭素鋼で十分な疲労強度を得ようとする
場合、硬さを高くせざるを得ないが、被削性の劣化(悪
化)が避けられなくなる。
【0016】従来の高炭素鋼の組織の模式図を図7に、
従来の高炭素鋼の劈開破面同士を合わせた模式図を図8
に示す。図7(a)は、組織中における破断による劈開
破壊の進行の様子を示し、図7(b)は、劈開破面の模
式図を示している。
【0017】さらに、高炭素鋼は鍛造ままでパーライト
100%の組織Pとなるため、図7(a)、図7(b)
に示すように、各劈開面fの境界である劈開段Sはパー
ライトの結晶粒界となる。このため、図8に示すよう
に、劈開段差が大きなバリ状となり、劈開破面(分割
面)同士の着脱の際、劈開面が強固に噛合ってしまい、
手作業による着脱が必須であるエンジン組付け時・整備
時において、手作業による分割ができないという問題が
あった。
【0018】したがって、破断面の着脱性および降伏強
度の向上を図った高炭素鋼においても、工業的な生産を
可能とする程度の低変形能、良好な破壊(破断)破面、
および調質鋼材並の疲労強度を実現することは困難であ
った。
【0019】そこで本発明は、上記課題を解決し、破断
分割した時の変形が小さく、着脱性が良好で、高い疲労
強度を有した機械構造用鋼及びそれを用いた破断分割機
械部品を提供することにある。
【0020】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するため
に請求項1の発明は、化学組成が、C:0.45〜0.
60wt%(0.45wt%は除く)、Si:0.50
〜2.00wt%、Mn:0.10〜0.30wt%未
満、P:0.01〜0.10wt%、S:0.01〜
0.20wt%、V:0.08〜0.15wt%、N:
0.0020〜0.0050wt%未満、残部:Feお
よび不可避不純物であり、内部組織がフェライト・パー
ライト組織からなるものである。
【0021】請求項2の発明は、上記化学組成中に、
0.005〜0.050wt%のAl、及び/又は0.
005〜0.050wt%のTiが含有されている請求
項1記載の機械構造用鋼である。
【0022】請求項3の発明は、上記化学組成中に、
0.05〜0.30wt%のNb、0.10〜0.50
wt%のCr、0.05〜0.50wt%のMoの内、
いずれか1種又は2種以上が含有されている請求項1又
は請求項2記載の機械構造用鋼である。
【0023】請求項4の発明は、化学組成が、C:0.
45〜0.60wt%(0.45wt%は除く)、S
i:0.50〜2.00wt%、Mn:0.10〜0.
30wt%未満、P:0.01〜0.10wt%、S:
0.01〜0.20wt%、V:0.08〜0.15w
t%、N:0.0020〜0.0050wt%未満、残
部:Feおよび不可避不純物であり、内部組織がフェラ
イト・パーライト組織である機械構造用鋼に、熱間圧延
加工若しくは熱間鍛造成形加工を施した後、破断分割加
工を施してなるものである。
【0024】上記数値範囲を限定した理由を以下に説明
する。
【0025】C含有量を0.45〜0.60wt%
(0.45wt%は除く)としたのは、0.45wt%
よりも多くすることで必要な強度が確保できるためであ
り、0.60wt%以下とすることで降伏比および疲労
限度比が高まる。
【0026】Siは延性を低下させて破断性を向上させ
る効果があり、Si含有量を0.50〜2.00wt%
としたのは、0.50wt%よりも少ないと延性低下の
効果が少なく、2.00wt%よりも多いと、熱間延性
が低下して鋼素材の製造時あるいは熱間鍛造時に傷が発
生しやすくなるためである。
【0027】Mnは延性をあまり損なうことなく鋼を強
化する固溶強化する元素であり、Mn含有量を0.10
〜0.30wt%未満としたのは、0.10wt%より
も少ないと、加熱時にSが固溶状態となって熱間延性が
低下し、鋼素材の製造時あるいは熱間鍛造時に傷が発生
しやすくなるためであり、0.30wt%未満とするこ
とで破断時の変形が低減し、かつ、比較的平坦な脆性破
面を得ることができる。
【0028】Pは鋼の脆化元素であり、P含有量を0.
01〜0.10wt%としたのは、0.01wt%より
も少ないと十分な破断性が得られず、0.10wt%よ
りも多いと熱間延性が大きく低下するためである。
【0029】Sは快削元素であり、S含有量を0.01
〜0.20wt%としたのは、0.01wt%よりも少
ないと十分な被削性が得られず、0.20wt%よりも
多いと多量のMnS粒子が疲労強度を低下させるためで
ある。
【0030】V含有量を0.08〜0.15wt%とし
たのは、0.08wt%以上とすることで、析出強化に
より鋼の降伏強さおよび疲労強度を向上させ、かつ、延
性を低下させて破壊性(破断性)を改善することができ
るためであり、0.15wt%よりも多いと、硬度が必
要以上に高くなって被削性が低下するためである。
【0031】Nは鋼中でVNとして析出して結晶粒を微
細化し、延性を高め、劈開面の着脱性を低下させる効果
があるため、結晶粒がある程度大きくなるようにN含有
量の上限は0.0050wt%未満とする。また、N含
有量を0.0020wt%よりも少なくしても、上述し
た効果は飽和し、鋼の製造コストの上昇を招くだけであ
るため、N含有量の下限は0.0020wt%とする。
【0032】Al脱酸を行うと鋼中に硬質なアルミナが
分散し、被削性が低下するため、基本的にAlは添加し
ない。Al脱酸を行わないことにより、組織が粗大化し
て破壊性(破断性)が向上する効果もある。しかし、引
張強さが比較的低い場合あるいは切削加工代が小さい場
合、被削性が問題となることは無く、これらの場合にお
いては、脱酸効果を得るべく0.005wt%以上のA
lを添加してもよいが、0.050wt%よりも多くA
lを添加しても脱酸効果は飽和する。
【0033】Ti脱酸を行って鋼中にTiNが析出する
と、熱間鍛造後の組織が微細化して延性が増大するた
め、Ti脱酸あるいはTi添加は基本的に行わない。し
かし、鋼の硬さが十分に高い場合には、Ti脱酸を行っ
ても十分低い延性が得られる。この場合、0.005w
t%よりも少ないと十分な脱酸効果が得られず、0.0
50wt%よりも多いと粗大なTi析出物が生成して被
削性が低下する。
【0034】以上の構成によれば、化学組成が、C:
0.45〜0.60wt%(0.45wt%は除く)
Si:0.50〜2.00wt%、Mn:0.10〜
0.30wt%未満、P:0.01〜0.10wt%、
S:0.01〜0.20wt%、V:0.08〜0.1
5wt%、N:0.0020〜0.0050wt%未
満、残部:Feおよび不可避不純物であり、かつ、内部
組織がフェライト組織とパーライト組織とで形成される
フェライト・パーライト組織からなるため、破断分割し
た時の変形が小さく、着脱性が良好で、高い疲労強度を
有した機械構造用鋼を得ることができる。
【0035】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を説明
する。
【0036】本発明の機械構造用鋼は、以下の(1)〜
(3)の観点に基いたものである。
【0037】(1)破壊性(破断性)の向上 Mnは固溶強化元素として鋼を強化する元素であり、延
性をあまり低下させることなく強化することができると
いう長所を有している。このため、中炭素の機械構造用
鋼には、通常、約0.6wt%以上のMnが添加されて
いる。
【0038】本発明者らは、これらの作用に着目し、M
nと破壊性の関係を調べた結果、破壊変形量とMn量に
は大きな相関関係があり、特にMn添加量を0.3wt
%未満とすることで、鋼の延性(引張試験の絞り値)が
著しく低下すると共に、破壊時の変形量が減少し、劈開
破面が平坦になるということを見出した。
【0039】また、非調質鋼には、析出強化元素である
VあるいはNbが添加されているが、これらの元素が鋼
中でNと結合して窒化物となると、鍛造加熱時のオース
テナイト結晶粒が微細化して、十分低い延性(高い破壊
性)が得られなくなるということを見出した。
【0040】よって、鋼の破壊性を向上させるために
は、鋼中のMnおよびNの含有量を少なくすることが非
常に重要である。
【0041】(2)再接合後の分割性(着脱性)の向上 破壊(破断)後の破断面同士を突き合わせると共に、ボ
ルトなどで圧着接合し、その後、ボルトを外して再分割
する工程においては、手作業による分割が行えなければ
ならない。ここで、着脱性を高めるためには、劈開面の
劈開段がバリ状にならないようにしなければならない。
【0042】高炭素鋼では、劈開段がパーライト粒界で
あるためバリ状になりやすいが、組織をフェライト・パ
ーライト組織に調整することにより、劈開段は軟質な初
析フェライトとなるため、劈開段差を小さくすることが
できる。
【0043】また、疲労強度向上を目的に、VNのピン
止め効果などによる鋼の結晶粒微細化を行うと、単位面
積当たりの劈開段差部が多くなって着脱性を疎外する。
このため、N量が一定値以下になるように調整し、結晶
粒が、ある程度大きくなるように調整する必要がある。
【0044】よって、再接合後の分割性を向上させるた
めには、鋼中のNの含有量を少なくすることが非常に重
要である。
【0045】すなわち、工業的に満足できる程度の低い
延性(破断時の変形量が少ない)と、良好な着脱性を実
現する適度な粗さの脆性破面を得るためには、鋼中のM
nおよびNの含有量を少なくすることが必要不可欠であ
る。
【0046】(3)降伏強さおよび疲労強度の向上 フェライト・パーライト鋼の降伏比(降伏強さ/引張強
さ)を高めることにより、高い降伏強さを保ったまま良
好な被削性を実現することができ、また、疲労限度比も
向上させることができる。すなわち、鋼をフェライト・
パーライト組織とすると共に、低硬度・高降伏強さとす
ることで、被削性を向上させることが可能となる。
【0047】また、降伏強さを高めることにより、同一
強度のものと比較して、疲労強度を高めることができ
る。降伏比向上のためには、従来の機械構造用鋼よりも
炭素含有量を少なくし、かつ、V、Nbなどによる析出
強化を積極的に利用することが必要となる。
【0048】本発明の機械構造用鋼の組織の模式図を図
1に示す。図1(a)は、組織中における破断による劈
開破壊の進行の様子を示しており、図1(b)は、劈開
破面の模式図を示している。尚、図7と同様の部材には
同じ符号を付している。
【0049】本発明の機械構造用鋼は、化学組成が、
C:0.45〜0.60wt%(0.45wt%は除
く)、Si:0.50〜2.00wt%、Mn:0.1
0〜0.30wt%未満、P:0.01〜0.10wt
%、S:0.01〜0.20wt%、V:0.08〜
0.15wt%、N:0.0020〜0.0050wt
%未満、残部:Feおよび不可避不純物であり、かつ、
図1に示すように、内部組織がフェライト組織Fとパー
ライト組織Pとで形成されるフェライト・パーライト組
織からなるものである。
【0050】尚、被削性を向上すべく、本発明の機械構
造用鋼中に、添加量が0.4wt%以下のPb、Bi、
Se、0.050wt%以下のTe、0.0030wt
%以下のCaの中から選択される少なくとも1種を、必
要に応じて適宜添加してもよいことは言うまでもない。
【0051】本発明の機械構造用鋼は、含有C量を0.
45〜0.60wt%(0.45wt%は除く)と高炭
素鋼と比べて少なくしているため、内部組織がフェライ
ト・パーライト組織となっている。このため、図1
(a)、図1(b)に示したように、劈開面fの劈開段
Sは初析フェライトとなり、これによって、劈開段S部
がバリ状になることがないと共に、劈開破面(分割面)
も強固に噛合うことがなく、手作業により劈開破面を分
割することが可能となる。
【0052】また、本発明の機械構造用鋼は、疲労強度
を向上すべく結晶粒の微細化を行っている。結晶粒微細
化のためにNおよび窒化物生成元素(V、Tiなど)を
微量含有させることで、高炭素鋼と比べて結晶粒が微細
となる。
【0053】ここで、劈開破面同士の突き合わせ部(劈
開段S部)は、低硬度である方が劈開破面同士の着脱が
良好であるが、結晶粒径があまり微細であると単位面積
当たりの噛合い部分が多くなり、逆に着脱性を阻害す
る。このため、疲労強度と着脱性のバランスを考慮し、
含有N量を0.0020〜0.0050wt%未満にコ
ントロールして結晶粒度を制御する。
【0054】含有N量をコントロールし、窒化物の析出
を抑制することで、鍛造加熱時にオーステナイト結晶粒
が粗大化し、延性を低下させることができる。
【0055】含有N量と疲労強度及び着脱性との関係を
図2に示す。ここで、図中の横軸は含有N量を示し、縦
軸は疲労強度及び着脱性を示している。
【0056】図2に示すように、本発明の機械構造用鋼
は、含有N量を0.0020〜0.0050wt%にコ
ントロールしているため、疲労強度と着脱性とのバラン
スが良好である。
【0057】尚、本発明の機械構造用鋼は、フェライト
・パーライト組織であることを限定しているが、本発明
の機械構造用鋼を工業的製鋼法で溶製・鋳造すると共
に、通常の熱間圧延を施して棒鋼に形成した場合、およ
び更に熱間鍛造を施して自動車用部品に形成した後、空
冷あるいはファン強制空冷した場合において、鋼の組織
はフェライト・パーライト組織となるため、特別な鋼素
材の製造方法や鍛造方法を用いる必要はない。
【0058】
【実施例】化学組成がそれぞれ異なる29種類の鋼を、
真空溶解炉でそれぞれ150kg溶製した後、20×6
0mm断面の板に鍛造成形し、その後、1,473Kに
加熱すると共に空冷し、実施例1〜14、参考例1,
2、および比較例1〜13の試験片を作製する。
【0059】実施例1〜の試験片は、化学組成がC、
Si、Mn、P、S、V、Nからなるものであり、比較
例1の試験片は、化学組成がC、Si、Mn、P、S、
Cr、V、Nからなる従来の高炭素非調質鋼であり、
考例1及び比較例2〜7の試験片は、化学組成の内の
C、Si、Mn、P、S、V、Nの少なくとも1つの含
有量が規定範囲外であるものである。
【0060】また、実施例の試験片は、化学組成が
C、Si、Mn、P、S、V、NとAlとからなるもの
であり、比較例8〜10の試験片は、化学組成の内のA
lまたはTiの含有量が規定範囲外であるものである。
【0061】さらに、実施例7〜14の試験片は、化学
組成がC、Si、Mn、P、S、V、NとCr、Mo、
Nb、Al、およびTiから選択される1種又は2種以
上とからなるものであり、参考例2及び比較例11〜1
3の試験片は、化学組成の内のC、Cr、Mo、Nbの
少なくとも1つの含有量が規定範囲外であるものであ
る。
【0062】実施例1〜14、参考例1,2、および比
較例1〜13の試験片の化学組成を、表1〜表3に示
す。
【0063】
【表1】
【0064】
【表2】
【0065】
【表3】
【0066】表1〜表3に示した実施例1〜14、参考
例1,2、および比較例1〜13の試験片の鋼組織は、
すべてフェライト・パーライト組織であった。
【0067】次に、これらの試験片から引張試験片(平
行部直径8mm)、小野式回転曲げ疲労試験片(平行部
直径8mm平滑試験片)を作製し、引張試験および疲労
試験を行い、また、直径9mmの超硬ドリルを用いてV
1000(1000mmを切削できる最大周速度)を求め
た。
【0068】また、各試験片を直径45mmの棒鋼に鍛
造成形したものを素材とし、この棒鋼を高周波で1,5
23Kに誘導加熱した後、鍛造成形すると共にファン冷
却して大型コンロッドを作製する。この大型コンロッド
の大端部に切削仕上げ加工およびボルト穴加工を施し、
その後、大端部内面の相対する2か所にノッチ加工を施
した後、油圧機械により破断分割を行う。破断分割後、
破断面を突き合わせると共に、2本の7T規格ボルトの
塑性域締めで再接合し、その後、ボルトを外すと共に、
キャップ部と本体部を剥離させる。
【0069】この剥離の際に必要なモーメントを測定し
た。剥離モーメントが50kgf・cm(約4.9N・
m)を越えると、手作業による分割は困難である。
【0070】実施例1〜14、参考例1,2、および比
較例1〜13のそれぞれにおける各試験結果を表4〜表
6に示す。尚、コンロッド破壊時の変形量(破壊面の絞
り量)は、引張試験の絞り値に比例するので、表4〜表
6の絞り値は破壊時の変形量の指標である。
【0071】
【表4】
【0072】
【表5】
【0073】
【表6】
【0074】表4〜表6に示すように、本発明の機械構
造用鋼である実施例1〜14は、比較例1の高炭素非調
質鋼と比べて、降伏比、疲労限度比、被削性に優れ、か
つ、剥離力も小さい。
【0075】これに対して、比較例2、3は、Mn及び
/又はNの含有量が多いため、絞り値と剥離モーメント
が大きい。また、比較例4は、CおよびSの含有量が少
ないと共に、MnおよびVの含有量が多いため、絞り値
と剥離モーメントが大きい(特に剥離モーメントが大き
い)。比較例5は、炭素の含有量が多いと共に、Vの含
有量が少ないため、降伏比および疲労限度比が小さい。
比較例6は、Siの含有量が少ないと共に、Mnおよび
Nの含有量が多いため、絞り値と剥離モーメントが大き
い(特に剥離モーメントが大きい)。比較例7は、S
i、Mn、およびPの含有量が多いと共に、Vの含有量
が少ないため、疲労限度比が小さく、被削性(V
1000)が悪く、かつ、剥離モーメントが大きい。
【0076】また、比較例8〜10は、Al及び/又は
Tiを多量に含有しているため、いずれも被削性が良好
でない。
【0077】さらに、比較例11〜13は、Cr、M
o、Nbの含有量がそれぞれ多いため、いずれも引張強
さが大きいと共に、被削性が悪い。
【0078】本発明の機械構造用鋼を用いてコンロッド
を製造する場合、軽量・低コストのコンロッドの製造が
可能となり、特に内燃機関において軽量、高出力、およ
び高品質化が可能となる。また、本発明の機械構造用鋼
を用いた破断分割機械部品は、コンロッドに限らず、同
様の構造(分割部)を有する部品、例えば、内燃機関の
シリンダーヘッド、シリンダーブロック、デフケージな
どの別体タイプの各種ベアリング支持台、および、軸物
の固定部品などにも適用することができる。
【0079】
【発明の効果】以上要するに本発明によれば、機械構造
用鋼の各構成元素の含有量を最適にコントロールするこ
とで、十分な強度、降伏比、および疲労限度比を有する
と共に、破断時の変形量が極めて小さく、かつ、被削性
も良好であるという優れた効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の機械構造用鋼の組織の模式図である。
【図2】含有N量と疲労強度及び着脱性との関係を示す
図である。
【図3】切断によるコンロッドの分割方法の模式図であ
る。
【図4】破断によるコンロッドの分割方法の模式図であ
る。
【図5】含有C量と鍛造加熱温度との関係を示す図であ
る。
【図6】疲労回数と応力との関係を示す図である。
【図7】従来の高炭素鋼の組織の模式図である。
【図8】従来の高炭素鋼の劈開破面同士を合わせた模式
図である。
【符号の説明】
F フェライト組織(フェライト・パーライト組織) P パーライト組織(フェライト・パーライト組織)
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 橋口 哲朗 北海道室蘭市仲町12番地 新日本製鐵株 式会社 室蘭製鐵所内 (72)発明者 大山 修 北海道室蘭市仲町12番地 新日本製鐵株 式会社 室蘭製鐵所内 (56)参考文献 特開 平9−176796(JP,A) 特開 平9−268345(JP,A) 特開 平9−194999(JP,A) 特開 平9−111412(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) C22C 38/00 - 38/60

Claims (4)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 化学組成が、 C:0.45〜0.60wt%(0.45wt%は除
    く)、 Si:0.50〜2.00wt%、 Mn:0.10〜0.30wt%未満、 P:0.01〜0.10wt%、 S:0.01〜0.20wt%、 V:0.08〜0.15wt%、 N:0.0020〜0.0050wt%未満、 残部:Feおよび不可避不純物であり、内部組織がフェ
    ライト・パーライト組織からなることを特徴とする機械
    構造用鋼。
  2. 【請求項2】 上記化学組成中に、0.005〜0.0
    50wt%のAl、及び/又は0.005〜0.050
    wt%のTiが含有されている請求項1記載の機械構造
    用鋼。
  3. 【請求項3】 上記化学組成中に、0.05〜0.30
    wt%のNb、0.10〜0.50wt%のCr、0.
    05〜0.50wt%のMoの内、いずれか1種又は2
    種以上が含有されている請求項1又は請求項2記載の機
    械構造用鋼。
  4. 【請求項4】 化学組成が、 C:0.45〜0.60wt%(0.45wt%は除
    く)、 Si:0.50〜2.00wt%、 Mn:0.10〜0.30wt%未満、 P:0.01〜0.10wt%、 S:0.01〜0.20wt%、 V:0.08〜0.15wt%、 N:0.0020〜0.0050wt%未満、 残部:Feおよび不可避不純物であり、内部組織がフェ
    ライト・パーライト組織である機械構造用鋼に、熱間圧
    延加工若しくは熱間鍛造成形加工を施した後、破断分割
    加工を施してなることを特徴とする機械構造用鋼を用い
    た破断分割機械部品。
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