JP3441630B2 - 高級不飽和脂肪族エステルの精製方法 - Google Patents

高級不飽和脂肪族エステルの精製方法

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、合成香料、農薬、
昆虫性フェロモン等の生理活性物質として有用な高級不
飽和脂肪族エステル類を、安価に且つ効率良く精製する
方法に関する。
【0002】
【従来の技術】尿素と結晶性付加物を形成させることに
よって、直鎖状炭化水素、脂肪酸、アルコール類を分
離、分別する尿素付加物法は、1940年にドイツのB
engenによって発見された古典的手法である。尿素
付加物法の操作は、次のように極めて単純である。すな
わち、目的とする成分を含有する試料を、尿素の飽和メ
タノール溶液、飽和水溶液、メタノールおよび水の混合
飽和溶液のいずれかと混合してかき混ぜ、生成する尿素
付加物を濾過によって分離し、洗浄した後、これを水
(または有機溶剤)中に入れることによって、尿素(ま
たは目的とする成分)を溶解させ、目的とする成分を得
るものである。
【0003】合成香料や昆虫性フェロモンには、高級不
飽和脂肪族エステル類のものが多く、それらの精製にこ
の尿素付加物法が用いられることが多い。とりわけ、昆
虫性フェロモンの大多数を占める不飽和脂肪族アルコー
ル酢酸エステルは、その幾何異性体や飽和体が活性に影
響を与えるおそれがあるため、精製操作が必要とされる
ことが多い。試料の量が少ない場合には、硝酸銀シリカ
ゲルカラムクロマト法も用いられるが、試料の量が多い
場合は、尿素付加物法が適している。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかし、尿素付加物法
において、尿素のメタノール溶液は、アルカリ性であ
り、エステル結合部の加水分解を促進する。すなわち、
本来、尿素は、水やアルコールに可溶であり、中性を示
すのであるが、尿素付加物法の工程中で、溶解時に加熱
して、最小限の溶媒に溶かそうとすると、アンモニアが
発生し、アルカリ性を示す。また、尿素付加物の形成の
容易性は、不飽和脂肪族化合物中の不飽和結合の位置や
幾何構造等で異なり、尿素付加物の生成に長時間要する
ことが避けられない場合がある。
【0005】したがって、尿素付加物法において、昆虫
性フェロモンの成分である不飽和脂肪族アルコールの酢
酸エステルや蟻酸エステルを試料とし、しかも、その量
が多量である等の理由で処理時間が長くなる場合には、
エステル結合部が加水分解され、不飽和脂肪族アルコー
ルが不純物として副成する。この不飽和脂肪族アルコー
ルの存在は、昆虫性フェロモンの生物活性に影響を与え
る可能性が少なくない。したがって、尿素付加物法を用
いた昆虫性フェロモン等の精製において、不純物である
不飽和脂肪族アルコールを副成させない技術が求められ
ていた。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、尿素付加
物法による不飽和脂肪族エステルの精製方法について鋭
意検討した結果、不飽和脂肪族エステルを含有する試料
と、尿素の飽和メタノール溶液および/または飽和水溶
液を混合して、尿素付加物を生成させる工程において、
メタノールおよび/または水中に低級脂肪酸またはその
酸無水物を存在させて、混合操作を行なうことによっ
て、相当するアルコールの副成を極力抑え、高純度の不
飽和脂肪族エステルを得ることができることを見い出
し、本発明を完成した。
【0007】すなわち、本発明の高級不飽和脂肪族エス
テルの精製方法は、低級脂肪酸またはその酸無水物の存
在下で、高級不飽和脂肪族エステルを含有する試料と、
尿素の飽和メタノール溶液および/または飽和水溶液を
混合して、尿素付加物を析出させる工程を含むことを特
徴とする。上記高級不飽和脂肪族エステルとしては、例
えば、不飽和脂肪族アルコールの酢酸エステルまたは蟻
酸エステルを挙げることができ、また、上記低級脂肪酸
またはその酸無水物としては、例えば、酢酸、蟻酸、プ
ロピオン酸、およびそれらの酸無水物より選ばれる一種
以上からなるものを挙げることができる。
【0008】
【発明の実施の形態】本発明の方法による精製の対象と
なる高級不飽和脂肪族エステルとしては、通常、炭素数
6〜20で、不飽和結合の数が1〜4の不飽和脂肪族ア
ルコールと、炭素数1〜6のカルボン酸のエステルの幾
何異性体を挙げることができる。また、高級不飽和脂肪
族エステルは、幾何異性の種類によって、その外径が異
なるため、複数の幾何異性体の中の一つのみを選択的に
精製することもできる。具体的には、Z,E−9,11
−テトラデカジエニル・アセタート、Z−8−ドデセニ
ル・アセタート、Z−9−テトラデセニル・フォルメー
ト、Z−11−テトラデセニル・アセタート、Z−9−
ドデセニル・アセタート等の幾何異性体を高純度で精製
することができる。
【0009】高級不飽和脂肪族エステルを含有する試料
の、尿素の飽和溶液中への添加量は、その試料の純度、
目標とする精製の度合い、尿素付加物の形成の容易性等
によって異なり、実験的に決められるものである。一般
的には、用いる尿素の量とほぼ同量の試料を用い、尿素
付加物を析出させる際に、徐々に冷却して比較的長時間
かけて析出させた方が、高純度でまたは効率良く分別精
製し得ることが多い。例えば、50〜55gの尿素を溶
解した55〜60℃のメタノール100g中に、20〜
70gの試料(主成分として不飽和脂肪族アルコールの
酢酸エステルを含む。)を添加し、0.5〜6時間かけ
て、尿素付加物を生成させる。
【0010】本発明で用いる低級脂肪酸またはその酸無
水物としては、炭素数1〜4、好ましくは炭素数1〜3
の脂肪酸、及びそれらの無水物を挙げることができる。
具体的には、酢酸、蟻酸、プロピオン酸、シュウ酸、及
びそれらの酸無水物等を挙げることができる。その使用
量は、メタノール(または水)100重量部に対して
0.1〜5.0重量部である。好ましくは、比較的安価
な酢酸または無水酢酸を0.1〜3.0重量部用いるの
が良い。使用量が5.0重量%程度であれば、尿素付加
物法によって試料を精製した後、試料中に微少量の低級
脂肪酸が残存したとしても、試料を純水または希薄な重
曹水で洗浄することによって、添加した低級脂肪酸を容
易に除去することができ、実用上全く問題が生じない。
【0011】添加する低級脂肪酸またはその酸無水物
は、高級不飽和脂肪酸エステルを含有する試料中に添加
しても、あるいは尿素の飽和メタノール溶液および/ま
たは水溶液中に添加しても、どちらでもよい。本発明で
用いられる尿素の飽和溶液の溶媒としては、メタノー
ル、水、メタノールと水の混合液のいずれかを用いるこ
とができる。このうち、特にメタノールが好ましく用い
られる。尿素の飽和メタノール溶液および/または水溶
液の温度は、通常、20〜60℃であり、好ましくは4
0〜60℃である。
【0012】飽和溶液中の尿素の量は、メタノールを用
いた場合、メタノール100g中、55〜60℃で50
〜55g程度である。水を用いた場合、飽和溶液100
g中に含まれる尿素は、40℃で62.3gである。な
お、尿素は、64.5℃の沸点をもつメタノール100
g中に、50℃で46g、60℃で62.8g溶解し、
また、水100g中に50℃で201g、60℃で25
5g溶解する。
【0013】本発明の方法では、少量の低級脂肪酸また
はその酸無水物の存在下で尿素付加物を生成させること
によって、反応系内がアルカリ側に傾くことを防止し
て、アルコールの生成を阻害し、効率良く、目的とする
化合物を精製することができる。ここで、尿素付加物と
は、中空六角の管を形成する六方晶系の尿素の結晶の中
に、高級不飽和脂肪酸エステルの分子が抱き込まれた物
質をいう。
【0014】高級不飽和脂肪酸エステルの分子の外径
は、幾何異性の種類によって異なるため、一つの幾何異
性体は、尿素の結晶内に入り易く、他の幾何異性体は、
尿素の結晶内に入りにくいという現象が生じ得る。この
現象を利用して、目的とする幾何異性体と他の異性体と
を分離し、精製の度合いを高めることができる。例え
ば、目的とする幾何異性体が、他の異性体よりも尿素の
結晶内に入り易い場合には、尿素付加物を濾過して回収
し、これを純水中に入れて、尿素を溶解し、油状物質と
して、高純度の該幾何異性体を得ることができる。逆
に、目的とする幾何異性体が、他の異性体よりも尿素の
結晶内に入りにくい場合には、尿素付加物を濾過して除
去した後の濾液から、メタノール等の溶媒を除去するこ
とによって、高純度の該幾何異性体を得ることができ
る。
【0015】なお、目的とする幾何異性体を高純度で含
む上記油状物質中に、低級脂肪酸またはその酸無水物が
残存している場合でも、純水で繰り返し洗浄するか、ま
たは5重量%以下の濃度の重曹水で洗浄すれば除去する
ことができる。以下に、実施例を示すが、これにより本
発明が限定されるべきではない。
【0016】
【実施例】実施例1 Z,E−9,11−テトラデカジエニル・アセタートの
精製 温度計とジムロート冷却管の付いた1リットルの四ツ口
フラスコ内に、メタノール400gと尿素200gを入
れ、内温58℃で攪拌し、尿素を完全に溶解させた。次
いで、酢酸4gを添加したのち、Z,E−9,11−テ
トラデカジエニル・アセタート170g(精製前純度:
84.6%)を投入し、尿素付加物を析出させ、攪拌し
ながら、3時間かけて5℃まで徐々に冷却した。得られ
た尿素付加物を減圧下でヌッチェで濾過して回収し、純
水800gに完全に溶解させた後、上層に浮いた油状化
合物を単離した。一方、濾過後の濾液は、減圧下でメタ
ノールを除去したのち、純水800gで2回洗浄した。
この2つに分別した油状サンプルをGC分析した結果、
表1に示す精製を確認することができた。
【0017】
【表1】
【0018】比較例1 酢酸4gを添加しないこと以外は実施例1と全く同様の
操作を行い、得られた有機層の純度とその量を計算し
た。その結果を表2に示す。
【0019】
【表2】
【0020】実施例2 Z−8−ドデセニル・アセタートの精製 酢酸4gの代わりに無水酢酸1gを、Z,E−9,11
−テトラデカジエニル・アセタート170gの代わりに
Z−8−ドデセニル:アセタール170gを用いた以外
は、実施例1と全く同様の操作を行った。得られた有機
層の純度とその量を計算した。その結果を表3に示す。
【0021】
【表3】
【0022】比較例2 Z−8−ドデセニル・アセタートの精製 無水酢酸1gを添加しないこと以外は実施例2と全く同
様の操作を行った。得られた有機層の純度とその量を計
算した。その結果を表4に示す。
【0023】
【表4】
【0024】実施例3 Z−9−テトラデセニル・フォルメートの精製 酢酸4gの代わりにプロピオン酸1gを、Z,E−9,
11−テトラデカジエニル・アセタート170gの代わ
りにZ−9−テトラデセニル・フォルメート170gを
用いた以外は、実施例1と全く同様の操作を行った。得
られた有機層の純度とその量を計算した。その結果を表
5に示す。
【0025】
【表5】
【0026】比較例3 Z−9−テトラデセニル・フォルメートの精製 プロピオン酸1gを添加しないこと以外は実施例3と全
く同様の操作を行った。得られた有機層の純度とその量
を計算した。その結果を表6に示す。
【0027】
【表6】
【0028】
【発明の効果】本発明の精製方法によれば、高級不飽和
脂肪族エステルを含有する試料の尿素付加物法による精
製を、相当するアルコールを副成させずに、多量に効率
的に行なうことができる。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 鈴木 宏始 新潟県中頸城郡頸城村大字西福島28番地 の1 信越化学工業株式会社 合成技術 研究所内 (56)参考文献 特開 平10−95744(JP,A) 特開 平10−7618(JP,A) 特開 平8−100191(JP,A) 特開 平5−262676(JP,A) 特開 平4−41457(JP,A) 特開 昭61−95095(JP,A) 特開 昭53−71010(JP,A) 特表 平9−504020(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) C07C 67/60 C07C 69/07 C07C 69/145

Claims (2)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 低級脂肪酸またはその酸無水物の存在下
    で、高級不飽和脂肪族エステルを含有する試料と、尿素
    の飽和メタノール溶液および/または飽和水溶液を混合
    して、尿素付加物を析出させる工程を含むことを特徴と
    する高級不飽和脂肪族エステルの精製方法。
  2. 【請求項2】 上記高級不飽和脂肪族エステルが、不飽
    和脂肪族アルコールの酢酸エステルまたは蟻酸エステル
    であり、かつ、上記低級脂肪酸またはその酸無水物が、
    酢酸、蟻酸、プロピオン酸、およびそれらの酸無水物よ
    り選ばれる一種以上からなる請求項1に記載の高級不飽
    和脂肪族エステルの精製方法。
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