JP3428341B2 - 強度、靱性に優れたアンバー合金の製造方法 - Google Patents
強度、靱性に優れたアンバー合金の製造方法Info
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- JP3428341B2 JP3428341B2 JP00302297A JP302297A JP3428341B2 JP 3428341 B2 JP3428341 B2 JP 3428341B2 JP 00302297 A JP00302297 A JP 00302297A JP 302297 A JP302297 A JP 302297A JP 3428341 B2 JP3428341 B2 JP 3428341B2
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Description
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、特にLNG輸送、
貯蔵容器の構造材料等に適した強度、靭性に優れたFe
−Ni系アンバー合金の製造方法に関する。 【0002】 【従来の技術】近年、エネルギー源の多様化にともな
い、天然ガスが脚光を浴びており、その需要量は全世界
的に増加している。天然ガスの輸送と貯蔵に際しては、
−160℃といった極低温で液化天然ガス(LNG)と
しておこなわれる。このLNGの海上輸送船及び陸上貯
蔵用低温容器には、それぞれ、いくつかの構造形式があ
るが、近年の大容量化の傾向にともないLNG船は独立
タンク方式からメンブレン方式へ、陸上貯蔵タンクも二
重殻構造をもつ金属製タンクから半地下式のメンブレン
タンクに移行しようとしている。 【0003】そして、これらのメンブレン用材料とし
て、LNGの液面の上下によって生ずる熱膨張、収縮を
緩和するため、及び溶接部デザインを簡略化して施工性
を上げるために、低熱膨張率を有するFe−Ni系アン
バー合金が用いられている。 【0004】しかしながら、このアンバー合金はオース
テナイト組織であるため、オーステナイト鋼特有の低強
度、低耐力が大きな欠点となっている。アンバー合金の
場合、完全溶体化処理状態で引張破断応力レベルは高々
450〜500MPa、耐力250〜350MPa程度
を有するにすぎない。メンブレン材としての構造信頼性
確保と軽量化のために重要な強度特性を、基材成分に添
加元素を少量加えることによる固溶硬化、析出強化等で
得ることを考えると、不純物元素の添加は本合金の基本
性能とも言うべきアンバー特性(低熱膨張特性)を阻害
し、また微量元素の添加自体、母相中の介在物量の増加
に繋がり、靱性が低下するといった問題がある。同じオ
ーステナイト鋼としては、オーステナイトステンレス鋼
において、特開昭60−26619号公報では、高強度
化対策として細粒化強化による高張力化を達成する方法
が開示され、特開昭60−197817号公報では、未
再結晶域で圧下を加え転位強化により高張力化を達成す
る方法が開示されている。さらに特開昭63−1868
22号公報においては、部分再結晶温度域を回避して圧
延することによって、安定した高強度の確保がなされて
いる。こうした試みはアンバー合金については行なわれ
ておらず、物理的性質(低熱膨張特性)や靱性を大きく
阻害することなく、強度特性の優れたFe−Ni系アン
バー合金を製造する方法が嘱望されていたものである。 【0005】 【発明が解決しようとする課題】しかしながら、オース
テナイト鋼を細粒化した場合の強度の粒度依存性は、低
合金鋼の2/3以下と小さく、効果が少ないことが知ら
れている。また、アンバー合金は高温での耐酸化性が低
く、高温加熱が不可であり、部分再結晶温度が700〜
950℃程度と広いため、ステンレス鋼における特開昭
63−186822号公報等の技術による方法が適用困
難である。 【0006】本発明の目的は、物理的性質(低熱膨張特
性)や製造性を阻害することなく、強度、靭性に優れた
Fe−Ni系アンバー合金の製造方法を提供することに
ある。 【0007】 【課題を解決するための手段】前記課題を解決し目的を
達成するために、本発明は以下に示す手段を用いてい
る。 (1)本発明の合金は、重量%で、Ni:30〜45%
と、C:0.001〜0.04%とを含むFe−Ni系
アンバー合金を製造する方法において、合金を900〜
1150℃に加熱し、下記(1)式で表されるTR ℃以
下の温度で、累積圧下率5%以上の熱間圧延を行うこと
を特徴とする、強度、靱性に優れたアンバー合金の製造
方法である。 TR (℃)=2,500×C%+750 …(1)この場合、必要に応じて、強度や耐食性に有効なCr,
Mo,Cu,Nbの1%以下の添加や、熱間加工性向上
などに有効なHf,Ta,Al,Ti,Zrの0.1%
以下の添加、さらに、B,Ca,Mgの0.01%以下
の添加を行なってもよい。 【0008】 【発明の実施の形態】本発明者は、物理的性質(低熱膨
張特性)や製造性を阻害することなく、強度、靭性に優
れたFe−Ni系アンバー合金を得るため、合金の添加
元素、圧延終了温度と強度向上との相関性について、鋭
意研究を重ねた。 【0009】その結果、まず耐高温酸化性の観点からの
スラブ加熱は、1150℃を超えなければ表面の酸化は
許容範囲であること、これを超える高い温度で加熱する
と粒界酸化が著しく進行し、圧延後に疵または割れとな
って健全な板が得られず、軽度な場合も表面手入に大変
な手間と時間を要することがわかった。 【0010】さらに、アンバー合金の熱間加工後の完全
再結晶温度、及び部分再結晶開始温度はC量と密接に相
関し、熱間加工を模擬した圧縮試験後の金属組織と硬さ
から再結晶組織の判断を実施した結果、完全再結晶温
度、部分再結晶温度と、C量との量的な関係を把握でき
ることが明らかとなった。 【0011】図1に圧延終了温度と硬さの関係を示す。
これから、C量、圧延終了温度と強度向上との相関は数
式化でき、TR (℃)=2,500×C%+750で決
まる温度TR が、部分再結晶開始温度を表現していると
見ることができる。すなわち、この温度以下での圧延・
加工では、残留歪みによる強度向上が達成されること等
が見いだされた。 【0012】一方、C含有量が少なく、母相に固溶しき
れない炭素量の殆どない範囲であれば、部分再結晶温度
範囲(粗粒+細粒の混合粒範囲)であっても、未固溶炭
化物による結晶粒成長の抑制作用はなく、特に転位の回
復は完全再結晶温度範囲と殆ど同様に進行することが、
硬さ試験の結果等から判断できた。 【0013】本発明者は、この結果からアンバー合金は
同じオーステナイト組織とは言え、炭化物の析出や残留
が再結晶挙動に支配的な役割をはたす、オーステナイト
系ステンレス鋼とは異なり、その強度向上は未再結晶温
度域においては大であるが、部分再結晶温度域では小さ
く、あたかも再結晶温度域として取り扱うことができる
事を意味し、広い範囲での熱間加工を許容しつつ、高い
強度を安定して確保できることを新たに見いだしたので
ある。 【0014】以上の知見に基づき、本発明者は、合金組
成及びスラブ加熱温度を制御し、C量の規定する部分再
結晶温度を下回らない範囲(即ち、部分再結晶温度域
内)で、積極的に部分再結晶温度域を加工に使用するよ
うにして、熱間加工が比較的低温度域に及ぶ製品でも加
工が可能(即ち、圧延パス数が多いので薄物製造も容易
となる)で、かつ、強度の向上を安定して達成すること
ができる、本発明の強度、靭性に優れたアンバー合金の
製造方法を見いだし、本発明を完成させた。 【0015】すなわち、本発明は、合金組成及び製造条
件を下記範囲に限定することにより、物理的性質(低熱
膨張特性)や製造性を阻害することなく、強度、靭性に
優れたFe−Ni系アンバー合金を得ることができる。 【0016】以下に本発明の成分添加理由、成分限定理
由、及び製造条件の限定理由について説明する。 (1)成分組成範囲 Ni:30〜45% 本発明においては、低熱膨張率のFe−Ni系アンバー
合金を対象としており、Niは本合金の熱膨張率を支配
する元素である。30〜45%Ni−Fe bal.の
合金範囲で所要の低熱膨張特性が得られる。Niが30
%未満もしくは45%越えでは所要の低熱膨張特性が得
られないため、Niの範囲は30〜45%である。 C:0.001〜0.04% Cは本合金において、強度を向上させる添加元素である
とともに、その含有量は再結晶温度を大きく左右する。
ただし、C添加量に応じた加工温度設定が可能であるた
め、強度面から添加範囲を規定する。すなわち、Cが
0.001%未満では強度特性が劣る上、これ未満にC
量を低減することは通常の精錬では一般的でなく、一方
0.04%を超えると低熱膨張特性が阻害されるため、
添加量は0.001〜0.04%である。 【0017】ちなみに、本合金においては、溶製の際の
不可避的不純物として、Si,Mn,P,S,N,O,
Coの混入があっても、また、必要に応じて、強度や耐
食性に有効なCr,Mo,Cu,Nbの1%以下の添加
や、熱間加工性向上などに有効なHf,Ta,Al,T
i,Zrの0.1%以下の添加、さらに、B,Ca,M
gの0.01%以下の添加を行なっても、本発明の効果
は阻害されず含有は許容される。 【0018】上記の成分組成範囲に調整することによ
り、物理的性質(低熱膨張特性)や製造性を阻害するこ
となく、強度、靭性に優れたFe−Ni系アンバー合金
を得ることが可能となる。 【0019】このような特性の合金は以下の製造方法に
より、製造することができる。 (2)合金板製造工程 上記の成分組成範囲に調整した合金を転炉にて溶製した
後、鋳造スラブとし、合金を900〜1150℃に加熱
する。 【0020】耐高温酸化性の観点からのスラブ加熱は、
1150℃を超えなければ表面の酸化は許容範囲である
こと、これをこえる高い温度で加熱すると粒界酸化が著
しく進行し、圧延後に疵または割れとなって健全な板が
得られず、軽度な場合も表面手入に大変な手間と時間、
ひいてはコストを要することから、スラブ加熱温度の上
限は1150℃である。一方、加熱温度が低すぎると、
スラブ中の炭化物析出元素が充分に固溶せず、強度、靭
性バランスが劣化するため、下限は900℃である。 【0021】次に、加熱した合金に対して、下記(1)
式で表されるTR ℃以下の温度で、累積圧下率5%以上
の熱間圧延を行う。 TR (℃)=2,500×C%+750 …(1) 圧延方法に関しては、(1)式で規定される温度TR
(℃)以下で圧延を実施すると、その累積圧下率に応じ
た強度向上効果が得られ、一方TR (℃)より高い温度
で圧下を加えても、強度の向上効果は殆どない。また、
累積の圧下率が5%未満では、強度向上への効果が小さ
い。図2に、TR (℃)以下で圧延を実施した場合の累
積圧下率と引張強さ、耐力の関係を示す。同図より明ら
かなように、累積圧下率5%以上で、引張強さ450N
/mm2 以上、耐力280N/mm2 以上の良好な強度
特性が得られる。従って、TR (℃)以下での圧下で、
かつ累積圧下率は5%以上である。以下に本発明の実施
例を挙げ、本発明の効果を立証する。 【0022】 【実施例】表1、表2に、それぞれ本発明合金、比較合
金の化学成分、回復臨界温度TR(℃)、TR (℃)以
下での累積圧下率その他の製造条件を示す。また、表
3、表4に、それぞれの発明合金、比較合金の圧延後の
表面疵発生状況(目視で粒界割れの有・無を確認)、こ
れらについて実施した引張試験、シャルピー衝撃試験の
結果を示す。表3には、比較のため高温で焼鈍した後の
引張試験、シャルピー衝撃試験の結果も示した。各合金
は実験炉真空溶解し、得られた鋳塊を熱間圧延して試材
とした。 【0023】表1に示すとおり、合金No.1−A〜N
o.7−Dは本発明合金であり、全て1150℃以下の
スラブ加熱、回復臨界温度TR (℃)以下での累積圧下
率5%以上の本発明の製造条件で製造した。 【0024】表3に示すように、本発明合金は、圧延後
の表面状態は良好であり、引張強さ約460N/mm2
以上、耐力約300N/mm2 以上の良好な強度特性を
示している。同じ表の右欄に示した、焼鈍した後の引張
性質と比較すれば、圧延状態での良好な強度特性はなお
はっきりする。一方、靱性は焼鈍した状態の方が高い値
を示すが、圧延ままでも200J/cm2 以上と十分な
値である。 【0025】一方、表4に示すように、比較合金No.
3−N,3−P,4−N,4−P,5−N,6−Nに見
られるように、1150℃を超える温度でスラブ加熱し
た圧延材では、種々の成分系において圧延後の表面状態
は粒界割れの様相を呈した。組織観察すると、アンバー
の結晶粒界での酸化が起こっており、高温加熱に起因す
る圧延中の割れであることが認められた。また、比較合
金No.1−L,1−M,2−L,2−M,5−R,5
−L,5−M,6−Mにおいては、TR 以下での累積圧
下率が不足し、またはTR 以上で仕上げているため、引
張強さが平均値で本発明合金より約50N/mm2 、耐
力が平均値で約100N/mm2 劣っている。比較合金
No.8−AではCの含有量が少ないため、強度特性の
向上はもっとC量の多い合金に比べて劣っている。比較
合金No.9−BではCの含有量が多いため、低温〜室
温付近の平均熱膨張係数が2.3×10-6/Kとアンバ
ー特性自体に劣化が生じている(本発明のアンバーの平
均熱膨張係数:約1.6×10-6/K)。 【0026】以上に例示するように、本発明で意図する
圧延後の良好な表面性状、高い強度特性及び靱性を得る
ためには、本発明で規定するように、Cの量を適性範囲
とした上で、スラブ加熱温度を1150℃以下とし、T
R (℃)以下での累積圧下率5%以上で製造することが
必要であると理解される。 【0027】 【表1】 【0028】 【表2】【0029】 【表3】 【0030】 【表4】【0031】 【発明の効果】本発明によれば、合金組成及び製造条件
を特定することにより、物理的性質(低熱膨張特性)、
製造性を阻害することなく、機械的性質の優れた高強度
Fe−Ni系アンバー合金を提供することができる。本
発明の合金は、LNG輸送、貯蔵容器の構造材料等をは
じめとする強度、靭性を要する部材への利用が可能であ
り、工業上有用な効果がもたらされる。
貯蔵容器の構造材料等に適した強度、靭性に優れたFe
−Ni系アンバー合金の製造方法に関する。 【0002】 【従来の技術】近年、エネルギー源の多様化にともな
い、天然ガスが脚光を浴びており、その需要量は全世界
的に増加している。天然ガスの輸送と貯蔵に際しては、
−160℃といった極低温で液化天然ガス(LNG)と
しておこなわれる。このLNGの海上輸送船及び陸上貯
蔵用低温容器には、それぞれ、いくつかの構造形式があ
るが、近年の大容量化の傾向にともないLNG船は独立
タンク方式からメンブレン方式へ、陸上貯蔵タンクも二
重殻構造をもつ金属製タンクから半地下式のメンブレン
タンクに移行しようとしている。 【0003】そして、これらのメンブレン用材料とし
て、LNGの液面の上下によって生ずる熱膨張、収縮を
緩和するため、及び溶接部デザインを簡略化して施工性
を上げるために、低熱膨張率を有するFe−Ni系アン
バー合金が用いられている。 【0004】しかしながら、このアンバー合金はオース
テナイト組織であるため、オーステナイト鋼特有の低強
度、低耐力が大きな欠点となっている。アンバー合金の
場合、完全溶体化処理状態で引張破断応力レベルは高々
450〜500MPa、耐力250〜350MPa程度
を有するにすぎない。メンブレン材としての構造信頼性
確保と軽量化のために重要な強度特性を、基材成分に添
加元素を少量加えることによる固溶硬化、析出強化等で
得ることを考えると、不純物元素の添加は本合金の基本
性能とも言うべきアンバー特性(低熱膨張特性)を阻害
し、また微量元素の添加自体、母相中の介在物量の増加
に繋がり、靱性が低下するといった問題がある。同じオ
ーステナイト鋼としては、オーステナイトステンレス鋼
において、特開昭60−26619号公報では、高強度
化対策として細粒化強化による高張力化を達成する方法
が開示され、特開昭60−197817号公報では、未
再結晶域で圧下を加え転位強化により高張力化を達成す
る方法が開示されている。さらに特開昭63−1868
22号公報においては、部分再結晶温度域を回避して圧
延することによって、安定した高強度の確保がなされて
いる。こうした試みはアンバー合金については行なわれ
ておらず、物理的性質(低熱膨張特性)や靱性を大きく
阻害することなく、強度特性の優れたFe−Ni系アン
バー合金を製造する方法が嘱望されていたものである。 【0005】 【発明が解決しようとする課題】しかしながら、オース
テナイト鋼を細粒化した場合の強度の粒度依存性は、低
合金鋼の2/3以下と小さく、効果が少ないことが知ら
れている。また、アンバー合金は高温での耐酸化性が低
く、高温加熱が不可であり、部分再結晶温度が700〜
950℃程度と広いため、ステンレス鋼における特開昭
63−186822号公報等の技術による方法が適用困
難である。 【0006】本発明の目的は、物理的性質(低熱膨張特
性)や製造性を阻害することなく、強度、靭性に優れた
Fe−Ni系アンバー合金の製造方法を提供することに
ある。 【0007】 【課題を解決するための手段】前記課題を解決し目的を
達成するために、本発明は以下に示す手段を用いてい
る。 (1)本発明の合金は、重量%で、Ni:30〜45%
と、C:0.001〜0.04%とを含むFe−Ni系
アンバー合金を製造する方法において、合金を900〜
1150℃に加熱し、下記(1)式で表されるTR ℃以
下の温度で、累積圧下率5%以上の熱間圧延を行うこと
を特徴とする、強度、靱性に優れたアンバー合金の製造
方法である。 TR (℃)=2,500×C%+750 …(1)この場合、必要に応じて、強度や耐食性に有効なCr,
Mo,Cu,Nbの1%以下の添加や、熱間加工性向上
などに有効なHf,Ta,Al,Ti,Zrの0.1%
以下の添加、さらに、B,Ca,Mgの0.01%以下
の添加を行なってもよい。 【0008】 【発明の実施の形態】本発明者は、物理的性質(低熱膨
張特性)や製造性を阻害することなく、強度、靭性に優
れたFe−Ni系アンバー合金を得るため、合金の添加
元素、圧延終了温度と強度向上との相関性について、鋭
意研究を重ねた。 【0009】その結果、まず耐高温酸化性の観点からの
スラブ加熱は、1150℃を超えなければ表面の酸化は
許容範囲であること、これを超える高い温度で加熱する
と粒界酸化が著しく進行し、圧延後に疵または割れとな
って健全な板が得られず、軽度な場合も表面手入に大変
な手間と時間を要することがわかった。 【0010】さらに、アンバー合金の熱間加工後の完全
再結晶温度、及び部分再結晶開始温度はC量と密接に相
関し、熱間加工を模擬した圧縮試験後の金属組織と硬さ
から再結晶組織の判断を実施した結果、完全再結晶温
度、部分再結晶温度と、C量との量的な関係を把握でき
ることが明らかとなった。 【0011】図1に圧延終了温度と硬さの関係を示す。
これから、C量、圧延終了温度と強度向上との相関は数
式化でき、TR (℃)=2,500×C%+750で決
まる温度TR が、部分再結晶開始温度を表現していると
見ることができる。すなわち、この温度以下での圧延・
加工では、残留歪みによる強度向上が達成されること等
が見いだされた。 【0012】一方、C含有量が少なく、母相に固溶しき
れない炭素量の殆どない範囲であれば、部分再結晶温度
範囲(粗粒+細粒の混合粒範囲)であっても、未固溶炭
化物による結晶粒成長の抑制作用はなく、特に転位の回
復は完全再結晶温度範囲と殆ど同様に進行することが、
硬さ試験の結果等から判断できた。 【0013】本発明者は、この結果からアンバー合金は
同じオーステナイト組織とは言え、炭化物の析出や残留
が再結晶挙動に支配的な役割をはたす、オーステナイト
系ステンレス鋼とは異なり、その強度向上は未再結晶温
度域においては大であるが、部分再結晶温度域では小さ
く、あたかも再結晶温度域として取り扱うことができる
事を意味し、広い範囲での熱間加工を許容しつつ、高い
強度を安定して確保できることを新たに見いだしたので
ある。 【0014】以上の知見に基づき、本発明者は、合金組
成及びスラブ加熱温度を制御し、C量の規定する部分再
結晶温度を下回らない範囲(即ち、部分再結晶温度域
内)で、積極的に部分再結晶温度域を加工に使用するよ
うにして、熱間加工が比較的低温度域に及ぶ製品でも加
工が可能(即ち、圧延パス数が多いので薄物製造も容易
となる)で、かつ、強度の向上を安定して達成すること
ができる、本発明の強度、靭性に優れたアンバー合金の
製造方法を見いだし、本発明を完成させた。 【0015】すなわち、本発明は、合金組成及び製造条
件を下記範囲に限定することにより、物理的性質(低熱
膨張特性)や製造性を阻害することなく、強度、靭性に
優れたFe−Ni系アンバー合金を得ることができる。 【0016】以下に本発明の成分添加理由、成分限定理
由、及び製造条件の限定理由について説明する。 (1)成分組成範囲 Ni:30〜45% 本発明においては、低熱膨張率のFe−Ni系アンバー
合金を対象としており、Niは本合金の熱膨張率を支配
する元素である。30〜45%Ni−Fe bal.の
合金範囲で所要の低熱膨張特性が得られる。Niが30
%未満もしくは45%越えでは所要の低熱膨張特性が得
られないため、Niの範囲は30〜45%である。 C:0.001〜0.04% Cは本合金において、強度を向上させる添加元素である
とともに、その含有量は再結晶温度を大きく左右する。
ただし、C添加量に応じた加工温度設定が可能であるた
め、強度面から添加範囲を規定する。すなわち、Cが
0.001%未満では強度特性が劣る上、これ未満にC
量を低減することは通常の精錬では一般的でなく、一方
0.04%を超えると低熱膨張特性が阻害されるため、
添加量は0.001〜0.04%である。 【0017】ちなみに、本合金においては、溶製の際の
不可避的不純物として、Si,Mn,P,S,N,O,
Coの混入があっても、また、必要に応じて、強度や耐
食性に有効なCr,Mo,Cu,Nbの1%以下の添加
や、熱間加工性向上などに有効なHf,Ta,Al,T
i,Zrの0.1%以下の添加、さらに、B,Ca,M
gの0.01%以下の添加を行なっても、本発明の効果
は阻害されず含有は許容される。 【0018】上記の成分組成範囲に調整することによ
り、物理的性質(低熱膨張特性)や製造性を阻害するこ
となく、強度、靭性に優れたFe−Ni系アンバー合金
を得ることが可能となる。 【0019】このような特性の合金は以下の製造方法に
より、製造することができる。 (2)合金板製造工程 上記の成分組成範囲に調整した合金を転炉にて溶製した
後、鋳造スラブとし、合金を900〜1150℃に加熱
する。 【0020】耐高温酸化性の観点からのスラブ加熱は、
1150℃を超えなければ表面の酸化は許容範囲である
こと、これをこえる高い温度で加熱すると粒界酸化が著
しく進行し、圧延後に疵または割れとなって健全な板が
得られず、軽度な場合も表面手入に大変な手間と時間、
ひいてはコストを要することから、スラブ加熱温度の上
限は1150℃である。一方、加熱温度が低すぎると、
スラブ中の炭化物析出元素が充分に固溶せず、強度、靭
性バランスが劣化するため、下限は900℃である。 【0021】次に、加熱した合金に対して、下記(1)
式で表されるTR ℃以下の温度で、累積圧下率5%以上
の熱間圧延を行う。 TR (℃)=2,500×C%+750 …(1) 圧延方法に関しては、(1)式で規定される温度TR
(℃)以下で圧延を実施すると、その累積圧下率に応じ
た強度向上効果が得られ、一方TR (℃)より高い温度
で圧下を加えても、強度の向上効果は殆どない。また、
累積の圧下率が5%未満では、強度向上への効果が小さ
い。図2に、TR (℃)以下で圧延を実施した場合の累
積圧下率と引張強さ、耐力の関係を示す。同図より明ら
かなように、累積圧下率5%以上で、引張強さ450N
/mm2 以上、耐力280N/mm2 以上の良好な強度
特性が得られる。従って、TR (℃)以下での圧下で、
かつ累積圧下率は5%以上である。以下に本発明の実施
例を挙げ、本発明の効果を立証する。 【0022】 【実施例】表1、表2に、それぞれ本発明合金、比較合
金の化学成分、回復臨界温度TR(℃)、TR (℃)以
下での累積圧下率その他の製造条件を示す。また、表
3、表4に、それぞれの発明合金、比較合金の圧延後の
表面疵発生状況(目視で粒界割れの有・無を確認)、こ
れらについて実施した引張試験、シャルピー衝撃試験の
結果を示す。表3には、比較のため高温で焼鈍した後の
引張試験、シャルピー衝撃試験の結果も示した。各合金
は実験炉真空溶解し、得られた鋳塊を熱間圧延して試材
とした。 【0023】表1に示すとおり、合金No.1−A〜N
o.7−Dは本発明合金であり、全て1150℃以下の
スラブ加熱、回復臨界温度TR (℃)以下での累積圧下
率5%以上の本発明の製造条件で製造した。 【0024】表3に示すように、本発明合金は、圧延後
の表面状態は良好であり、引張強さ約460N/mm2
以上、耐力約300N/mm2 以上の良好な強度特性を
示している。同じ表の右欄に示した、焼鈍した後の引張
性質と比較すれば、圧延状態での良好な強度特性はなお
はっきりする。一方、靱性は焼鈍した状態の方が高い値
を示すが、圧延ままでも200J/cm2 以上と十分な
値である。 【0025】一方、表4に示すように、比較合金No.
3−N,3−P,4−N,4−P,5−N,6−Nに見
られるように、1150℃を超える温度でスラブ加熱し
た圧延材では、種々の成分系において圧延後の表面状態
は粒界割れの様相を呈した。組織観察すると、アンバー
の結晶粒界での酸化が起こっており、高温加熱に起因す
る圧延中の割れであることが認められた。また、比較合
金No.1−L,1−M,2−L,2−M,5−R,5
−L,5−M,6−Mにおいては、TR 以下での累積圧
下率が不足し、またはTR 以上で仕上げているため、引
張強さが平均値で本発明合金より約50N/mm2 、耐
力が平均値で約100N/mm2 劣っている。比較合金
No.8−AではCの含有量が少ないため、強度特性の
向上はもっとC量の多い合金に比べて劣っている。比較
合金No.9−BではCの含有量が多いため、低温〜室
温付近の平均熱膨張係数が2.3×10-6/Kとアンバ
ー特性自体に劣化が生じている(本発明のアンバーの平
均熱膨張係数:約1.6×10-6/K)。 【0026】以上に例示するように、本発明で意図する
圧延後の良好な表面性状、高い強度特性及び靱性を得る
ためには、本発明で規定するように、Cの量を適性範囲
とした上で、スラブ加熱温度を1150℃以下とし、T
R (℃)以下での累積圧下率5%以上で製造することが
必要であると理解される。 【0027】 【表1】 【0028】 【表2】【0029】 【表3】 【0030】 【表4】【0031】 【発明の効果】本発明によれば、合金組成及び製造条件
を特定することにより、物理的性質(低熱膨張特性)、
製造性を阻害することなく、機械的性質の優れた高強度
Fe−Ni系アンバー合金を提供することができる。本
発明の合金は、LNG輸送、貯蔵容器の構造材料等をは
じめとする強度、靭性を要する部材への利用が可能であ
り、工業上有用な効果がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態に係る合金の硬さに影響す
るC含有量と圧延終了温度との関係を示す図。 【図2】本発明の実施の形態に係るTR 以下の温度にお
ける累積圧下率と引張強さ及び耐力との関係を示す図。
るC含有量と圧延終了温度との関係を示す図。 【図2】本発明の実施の形態に係るTR 以下の温度にお
ける累積圧下率と引張強さ及び耐力との関係を示す図。
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(58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名)
C21D 8/00 - 8/10
C22C 38/00 - 38/60
Claims (1)
- (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 重量%で、Ni:30〜45%と、C:
0.001〜0.04%と、残部Fe及び不可避的不純
物からなるFe−Ni系アンバー合金を製造する方法に
おいて、合金を900〜1150℃に加熱し、下記
(1)式で表されるTR ℃以下の温度で、累積圧下率5
%以上の熱間圧延を行うことを特徴とする、強度、靱性
に優れたアンバー合金の製造方法。 TR (℃)=2,500×C%+750 …(1)
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