JP3373592B2 - 防眩性に優れた高耐食性フェライト系ステンレス鋼 - Google Patents

防眩性に優れた高耐食性フェライト系ステンレス鋼

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、防眩性,耐孔食性,耐
候性に優れたフェライト系ステンレス鋼に関する。
【0002】
【従来の技術】ステンレス鋼は、代表的な耐食材料とし
て各種建築用資材,構造材等に使用されている。なかで
も、フェライト系ステンレス鋼は、高価なニッケルを含
まず、溶接にも問題がないことから、安価な耐食材料と
して汎用されている。しかし、フェライト系ステンレス
鋼の代表鋼種であるSUS430を例にとると、腐食環
境の緩やかな田園地帯においても短期間で赤銹を発生す
ることにみられるように耐食性,耐候性が十分でない。
更に、溶接時の加熱,冷却によって粒界腐食が発生し易
い欠点もある。
【0003】耐候性を改善するには、Cr量の増加やM
oの添加等が有効である。CrやMoの増加に伴った靭
性の低下は、C及びNを低減させることで改善してい
る。C,Nの低減は、耐粒界腐食性改善にも有効であ
る。しかし、C,Nの低減にも自ら限界があり、現在、
工業的に到達し得るC,N量レベルでは、粒界腐食感受
性を完全に無くすことはできない。そこで、C,Nを固
定し得るTi又はNb等の安定化元素を単独或いは複合
で添加することにより、粒界腐食に及ぼすC,Nの悪影
響を解消している。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】これらの技術的背景を
もとにして、たとえば低炭素・低窒素30Cr−2.0
Mo−Nb鋼のように、耐候性に優れた含Mo高Cr鋼
が開発されている。しかし、海岸地帯,海上等の塩素イ
オンを含む腐食環境に曝されると、温度,湿度等の気象
条件によっては短期間に赤銹を発生することがある。赤
銹発生は、不動態皮膜の一部が塩素イオンで破壊され、
ステンレス鋼成分が溶解し、Feの腐食生成物が形成さ
れることに起因する。すなわち、ステンレス鋼の表面
は、通常赤銹等の発銹を抑制する不動態皮膜で覆われて
いる。しかし、海岸地帯や海上では不動態皮膜が破壊さ
れ、その再生を妨げる作用をもつ塩素イオンを含んだ海
塩粒子の飛来により、腐食が進行する。
【0005】また、外装材等の用途に使用されるステン
レス鋼板として、表面光沢を抑えた防眩性が望まれるこ
とから、ダル加工や研磨仕上げしたものが多用されてい
る。しかし、ダル肌や研磨肌は、光輝焼鈍又は調質圧延
で仕上げたものに比較して耐候性に劣る。これは、ダル
肌や研磨肌の材料に形成されている不動態皮膜に欠陥が
多く、しかも凹凸部があるため付着した塩素イオンが流
れ落ちにくいためである。光輝焼鈍等を施したものにあ
っても、加工時に発生した疵等の欠陥が表層部に存在す
ると耐候性が劣化し、早期に赤錆が発生することがあ
る。本発明は、このような問題を解消すべく案出された
ものであり、不動態皮膜の特性を改善する合金設計によ
って、塩素イオンを含む腐食環境においても優れた耐食
性,耐候性を示し、防眩性に優れた研磨肌,ダル肌等と
して使用可能なフェライト系ステンレス鋼板を提供する
ことを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明の高耐食性フェラ
イト系ステンレス鋼は、その目的を達成するため、C:
0.05重量%以下,Si:1.0重量%以下,Mn:
1.0重量%以下,P:0.04重量%以下,S:0.
03重量%以下,Ni:1.0重量%以下,Cr:20
〜35重量%,Mo:1〜8重量%,Nb:0.1〜
1.0重量%及びN:0.05重量%以下を含み、Cr
+3Mo≧37重量%を満足する。このフェライト系ス
テンレス鋼は、更にTi:0.05〜0.3重量%,A
l:0.01〜0.5重量%,Cu:0.1〜1.0重
量%及びZr:0.05〜0.3重量%の1種又は2種
以上を含むこともできる。
【0007】
【作用】本発明者等は、フェライト系ステンレス鋼の表
面に形成される不動態皮膜と耐食性,耐候性との関係を
種々の観点から調査・研究した。その結果、不動態皮膜
に含まれるCr及びMoの割合が高くなると、耐食性,
耐候性等において非常に優れた特性が得られることを解
明した。不動態皮膜中のCr及びMoが耐食性,耐候性
等の向上に与える理由は、次のように推察される。不動
態皮膜中に多量のCrが存在すると、不動態皮膜が破壊
されても、自己修復作用が強く、再不動態化され易い。
しかし、Cr及びFeを主成分とする不動態皮膜には、
腐食の起点となる活性な欠陥部が存在する。Moは、こ
の不動態皮膜中に存在する欠陥部を補完し、腐食の発生
を抑制する。また、カソード反応を抑制する作用をMo
が示すことから、仮に腐食が発生した場合でも腐食の進
行が抑制される。その結果、耐食性及び耐候性が向上す
る。
【0008】不動態皮膜中のCr及びMoは、基材であ
るフェライト系ステンレス鋼の組成に大きく影響され
る。そこで、フェライト系ステンレス鋼の合金設計が不
動態皮膜の組成に与える影響を調査した。その結果、C
r+3Mo≧37重量%の条件が満足されるように20
〜35重量%の範囲でCr及び1〜8重量%の範囲でM
oが含まれるとき、Cr及びMoの割合が安定して高い
不動態皮膜が形成されることを見い出した。不動態皮膜
に多量のCr及びMoが含まれるとき、耐食性及び耐孔
食性が著しく向上する。また、加工疵等の欠陥があって
も、孔食の進行が抑制される。しかも、このような不動
態皮膜は、酸洗仕上げを必要とすることなく、研磨した
ままの鋼材表面においても形成される。そのため、防眩
性に有効なダル肌や研磨肌をもった材料としての使用が
可能になる。
【0009】以下、基材として使用されるフェライト系
ステンレス鋼の合金成分及び含有量を説明する。 C,N: ステンレス鋼に不可避的に含まれる元素であ
る。C,N含有量を低減すると軟質になり、加工性が向
上すると共に炭化物の生成が少なくなる。また、C,N
含有量の低減に伴って、溶接性及び溶接部の耐食性も向
上する。そこで、C及びN含有量の上限を、共に0.0
5重量%に規定した。 Si: 溶接部の高温割れや溶接部靭性に対し有害な元
素である。また、ステンレス鋼を硬質にするので、Si
含有量は低い方が好ましい。そこで、Si含有量の上限
を1.0重量%に規定した。
【0010】Mn: ステンレス鋼中に微量に存在する
Sと結合して可溶性硫化物MnSを形成することによ
り、耐候性を低下させる有害な元素である。そこで、M
n含有量の上限を1.0重量%に規定した。 P: 母材及び溶接部靭性を損なうので、P含有量は低
い方が望ましい。しかし、ステンレス鋼等の含Cr鋼を
脱Pすることは困難であり、且つP含有量を極度に低下
させることは製造コストの上昇を招く。したがって、P
含有量の上限を0.04重量%に規定した。 S: 耐候性及び溶接部の高温割れに悪影響を及ぼす有
害な元素であるため、S含有量は低い方が好ましい。そ
こで、S含有量の上限を0.03重量%に規定した。
【0011】Ni: フェライト系ステンレス鋼の靭性
改善に有効な合金元素である。しかし、多量のNi含有
は、コスト高の原因となる。本発明においては、通常の
フェライト系ステンレス鋼で不可避的不純物として混入
される1.0重量%にNi含有量の上限を定めた。 Cr: ステンレス鋼の耐食性を高める主要元素であ
り、耐候性,耐孔食性,耐隙間腐食性及び一般耐食性を
著しく向上させる。耐食性改善に与えるCrの作用は、
20重量%未満では不十分である。しかし、Cr含有量
が35重量%を超えると、著しい脆化が生じ、薄板製
造,製品加工等の際に困難を伴う。そのため、Cr含有
量を20〜35重量%の範囲に定めた。
【0012】Mo: Crと共に耐候性を高める有効な
合金元素であり、その効果はCr量が増すにつれて大き
くなる。本発明で規定したCr量レベルにおいては、1
重量%未満のMo含有量では耐候性改善効果は小さく、
逆に8%を超えてMoを添加すると延性の低下を招き加
工上困難を伴う。そこで、Mo含有量を1〜8重量%の
範囲に設定した。Mo含有量は、Cr含有量との間でC
r+3Mo≧37重量%の関係が成立していることが必
要である。この式は、本発明者等による実験の結果とし
て求められたもので、研磨肌,ダル肌としても良好な耐
候性を維持するために有効な指標である。すなわち、C
r+3Mo≧37重量%の関係が満足される合金設計で
は、鋼材表面に形成される不動態皮膜にCr及びMo酸
化物の割合が多くなり、研磨肌,ダル肌の状態において
も耐食性及び耐候性が向上する。Cr,Moは耐候性改
善のための基本成分であり、Moの方がCrよりも耐候
性改善に対する寄与が大きいことから、係数をCrの3
倍とした。
【0013】Nb: 本発明で規定したC量レベルのフ
ェライト系ステンレス鋼において粒界腐食を防止する。
この作用を得るため、0.1重量%以上のNb含有量が
必要である。しかし、過剰のNb添加によって溶接部靭
性を阻害するので、Nb含有量の上限を1.0重量%に
規定した。本発明のフェライト系ステンレス鋼は、T
i,Al,Cu及びZrの1種又は2種以上を任意成分
として含むことができる。これらの合金元素の影響は、
次の通りである。 Ti: 不動態皮膜を強固にし、比較的低いCr量及び
Mo量の組成であっても優れた耐食性及び耐候性が得ら
れる。また、Ti添加は、粒界腐食を抑制し、C,Nを
固定する作用も呈する。このような効果を得るために
は、0.05重量%以上のTiを含有することが必要で
ある。しかし、0.3重量%を超えてTiを含有させる
と、素材の表面品質を劣化させ、局部的な腐食を強める
傾向がみられる。そこで、Tiを含有させる場合、その
含有量を0.05〜0.3重量%の範囲に定める。
【0014】Al: 脱酸剤として添加される成分であ
るが、不動態皮膜を緻密化する作用も呈する。このよう
な作用は、0.01重量%以上のAl含有量で顕著とな
る。しかし、0.5重量%を超えてAlを添加すると、
素材の表面品質の劣化を招き、且つ溶接性が悪化する。
そのため、Alを含有させる場合、その含有量を0.0
1〜0.5重量%の範囲に設定する。 Cu,Zr: 任意成分として添加されるCu及びZr
は、共に耐候性改善に有効な合金元素である、このよう
な効果を得るためには、0.1重量%未満のCu含有量
又は0.05重量%未満のZr含有量では不十分であ
る。しかし、多すぎると溶接部靭性が阻害されるため、
したがって、CuやZrを含有させる場合、Cu含有量
の上限を1.0重量%に、Zr含有量の上限を0.3重
量%にそれぞれ設定する。
【0015】この合金系においては、Cr及びMoを多
量に含む不動態皮膜が研磨されたままの鋼材表面に形成
される。不動態皮膜に含まれるFe,Cr及びMoの合
計量に占める各元素の割合及びCr+3Moの割合を原
子数換算でみると、Crの割合は、鋼材の組成が本発明
で規定する要件を満足する限り25.0%以上となって
いる。また、Moの割合が4%以上で、Cr+3Moの
割合が42%以上になっている。他方、Feの割合は、
Cr及びMoの増加に伴って、70%以下に低下してい
る。不動態皮膜にこのように多量のCr及びMoが含ま
れていることから、鋼材表面層に加工疵等の欠陥が多少
存在していても自己修復作用が働き、腐食の進行が抑制
される。この点、Cr+3Moが37重量%未満の研磨
材では、Feの割合が高くなり、また比較的ポーラスな
不動態皮膜が形成されることと相俟つて、後述する実施
例で示されているように耐候性及び耐孔食性共に劣って
いる。
【0016】
【実施例】表1に示す化学成分を有する各種のステンレ
ス鋼を溶製し、熱間圧延により板厚3.5mmの熱延板
を製造した。その後、板厚1.0mmまで冷間圧延し、
1000〜1050℃で焼鈍後、長さ100mm及び幅
100mmの供試材を切り出した。なお、一部の供試材
については、焼鈍・酸洗後にダル目を付けた。表1にお
いて、Aグループの鋼は、本発明で規制した成分・組成
を満足するステンレス鋼である。そのうち、A1及びA
5は25Cr鋼をベースとし、A2及びA4は30Cr
鋼をベースとし、A3は31Cr−3Mo鋼である。他
方、Bグループの鋼は、Cr+3Moが37重量%に達
しないステンレス鋼である。
【0017】
【表1】
【0018】各供試材を、先ず#120、次いで#60
0の機械研磨を施した後、#600の手研磨で仕上げ
た。なお、ダル肌の供試材については、そのまま使用し
た。研磨材に形成されている不動態皮膜の表層部をXP
S分析し、Fe,Cr及びMoを定量した。原子数換算
でFe,Cr及びMoの合計を100としたとき、それ
ぞれの元素が占める割合及びCr原子+3(Mo原子)
の割合を算出した。算出結果を示す表2から明らかなよ
うに、Cr+3Mo≧37重量%の条件を満足するAグ
ループの供試材は、何れもCr原子+3(Mo原子)の
割合が高くなっている。これに対し、Cr+3Moが3
7重量%に達しないBグループの供試材では、Cr原子
+3(Mo原子)の割合が低い値を示した。
【0019】
【表2】
【0020】各研磨材を、沖縄県宜野湾市で3階建建物
の屋上で暴露面が北向きになるように、5度の傾斜をつ
けてベークライトワッシャーを介してステンレス鋼製ア
ングルに取り付け、大気暴露試験に供した。そして、各
供試材の耐候性を、暴露試験後の供試材表面における赤
銹発生率で判定した。赤銹発生率は、JIS D 02
01に基づいて求めた。赤錆発生率をCr+3Moで整
理したところ、図1に示すようにCr+3Mo=37重
量%を境として赤錆発生率が急激に低下していた。表2
及び図1から、Cr+3Mo≧37重量%は、不動態皮
膜中のCr及びMoの割合が高く、耐候性の向上に有効
であることが確認される。
【0021】次いで、研磨材及びダル材の孔食電位を測
定した。測定は、液温80℃に保持しAr脱気した20
%NaCl溶液を用いて掃引速度0.1mV/分の動電
位法で行い、アノード電流密度が200μA/cm2
達する電位を孔食電位として測定した。測定された孔食
電位をCr+3Moで整理した結果を、図2に示す。図
2から明らかなように、耐孔食性に関しても、Cr+3
Mo=37重量%を境として急激な上昇傾向がみられ
る。他方、Cr+3Moが37重量%未満の領域では、
Cr+3Moの増加に見合った孔食電位の上昇度合いは
小さなものであった。
【0022】
【発明の効果】以上に説明したように、本発明において
は、フェライト系ステンレス鋼の合金設計、特にCr+
3Moを37重量%以上とすることによって、鋼材表面
に形成される不動態皮膜に多量のCr及びMoを含ませ
ている。この不動態皮膜は、基材の成分系と相俟つて、
研磨肌及びダル肌の状態にあっても優れた耐食性及び耐
候性を呈する。そのため、防眩性の向上に有効な研磨仕
上げ及びダル仕上げが採用でき、優れた耐候性及び耐孔
食性を活かして屋根材,外装材,貯湯槽等の屋外タンク
等の外装構造材料として広範な分野で使用される。
【図面の簡単な説明】
【図1】 Cr+3Moが赤錆発生率に与える影響を示
すグラフ
【図2】 孔食電位とCr+3Moとの関係を示すグラ
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 杉本 育弘 山口県新南陽市野村南町4976番地 日新 製鋼株式会社鉄鋼研究所内 (72)発明者 白山 和 山口県新南陽市野村南町4976番地 日新 製鋼株式会社鉄鋼研究所内 (56)参考文献 特開 平5−70899(JP,A) 特開 平3−2355(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) C22C 38/00 - 38/60

Claims (2)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 C:0.05重量%以下,Si:1.0
    重量%以下,Mn:1.0重量%以下,P:0.04重
    量%以下,S:0.03重量%以下,Ni:1.0重量
    以下,Cr:20〜35重量%,Mo:1〜8重量
    %,Nb:0.1〜1.0重量%及びN:0.05重量
    %以下を含み、Cr+3Mo≧37重量%を満足する防
    眩性に優れた高耐食性フェライト系ステンレス鋼。
  2. 【請求項2】 Ti:0.05〜0.3重量%,Al:
    0.01〜0.5重量%,Cu:0.1〜1.0重量%
    及びZr:0.05〜0.3重量%の1種又は2種以上
    を含む請求項1記載の高耐食性フェライト系ステンレス
    鋼。
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