JP3310155B2 - 破壊靭性に優れるα+β型チタン合金継ぎ目無し管の製造方法 - Google Patents

破壊靭性に優れるα+β型チタン合金継ぎ目無し管の製造方法

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JP3310155B2 JP03854696A JP3854696A JP3310155B2 JP 3310155 B2 JP3310155 B2 JP 3310155B2 JP 03854696 A JP03854696 A JP 03854696A JP 3854696 A JP3854696 A JP 3854696A JP 3310155 B2 JP3310155 B2 JP 3310155B2
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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はα+β型チタン合金
からなる継ぎ目無し管の製造方法に関する。さらに詳し
くは、破壊靭性に優れたα+β型チタン合金からなる継
ぎ目無し管の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】チタン合金は軽量、高強度、高耐食性を
有することから、近年、地熱開発、深海底油田・ガス田
開発などの、大深度、高温、高圧、高腐食の極限環境に
最も適した材料として注目されている。中でも、航空機
用途などで多用され、高い実績を誇るα+β型チタン合
金や、これに少量のPdやRuを添加し耐食性を高めた
高耐食性α+β型チタン合金は、特に優れた極限環境用
素材として有望視されている。上記の用途では、管が主
要製品形状であるが、チタン合金製管材の製造方法とし
て、板を曲げ加工し溶接する方法(溶接管)、熱間押し
出しによる方法(継ぎ目無し管)、プラグミル等を使用
して穿孔、延伸、定型、絞り等の圧延を連続的に行い造
管する方法(継ぎ目無し管)などが考えられる。このう
ち、加熱した中実ビレットを穿孔延伸、定型、絞り等の
圧延工程により連続的に中空の管に造管する方法(以
下、穿孔・圧延法と記す)や熱間押し出し法は、溶接部
のない継ぎ目無し管が製造できるので、補修や部品交換
等が極めて困難な上述の極限環境用途でも、長期間安定
して使用できるという利点がある。
【0003】また、このような極限環境で長期間補修等
を行わず安定して使用するためには十分な強度、延性に
加え、破壊靭性が高くなくてはならない。一般に、α+
β型チタン合金の厚板では、破壊靭性を向上させるため
に、β変態点以上のβ単相温度への加熱を含む熱処理を
行い、破壊靭性に優れた針状のα相を主とする組織に変
換する手法が用いられている。この方法では、破壊靭性
は向上するものの、β単相域へ加熱している間にβ粒が
粗大化し、強度、延性が低下する。しかし、現在、α+
β型チタン合金が使用されている航空機等の用途におい
ては、強度および延性の低下代は許容される範囲であ
り、これら分野では十分な強度、延性と高い破壊靭を有
する素材として活用されてきた。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかし、地熱開発、海
底油田・ガス田開発などの、大深度、高温、高圧、高腐
食の極限環境に、α+β型チタン合金継ぎ目無し管を使
用する場合、先に述べたように、補修や部品交換がほと
んど不可能であり、しかも数十年以上の期間で使用され
るため、従来の適用用途に比べ、さらに高い機械的性質
が要される。すなわち、破壊靭性向上法として厚板等で
行われている先述の方法を単に適用して得られる機械的
性質では、本極限環境用途には不十分であり、高い強度
と延性を保持した上で、高い破壊靭性をも確保する必要
がある。
【0005】このような問題点に鑑み、本発明は、地熱
開発、海底油田・ガス田開発などの大深度、高温、高
圧、高腐食の極限環境に耐えうる、十分な強度および延
性を保持した上で、さらに破壊靭性に優れたα+β型チ
タン合金継ぎ目無し管を製造する方法を提供することを
目的としている。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため
に本発明は、下記の方法(1)〜(4)を要旨とする。
すなわち、 (1) α+β型チタン合金からなる継ぎ目無し管を、
熱間で、穿孔および延伸、定型、絞り等の圧延工程によ
り連続的に製造する方法において、β変態点−300℃
以上、β変態点+100℃以下の温度で最終圧延工程を
終了し、空冷以上の冷却速度で冷却し、さらに、β変態
点以上、β変態点+100℃以下の温度で1分以上、1
時間以下の焼鈍を行うことを特徴とする破壊靭性に優れ
るα+β型チタン合金継ぎ目無し管の製造方法。 (2) (1)記載の焼鈍を行った後、空冷以上の冷却
速度で冷却し、さらに、650℃超、β変態点−150
℃未満の温度で30分以上、4時間以下の時間加熱保持
することを特徴とする破壊靭性に優れるα+β型チタン
合金継ぎ目無し管の製造方法。 (3) (1)記載の焼鈍を行った後、β変態点−15
0℃以上、β変態点−30℃未満の温度に30分以上、
4時間以下の時間加熱保持し、空冷以上の冷却速度で冷
却する第2の熱処理を行い、さらに、650℃超、β変
態点−150℃未満の温度で30分以上、4時間以下の
時間加熱保持する第3の熱処理を行うことを特徴とする
破壊靭性に優れるα+β型チタン合金継ぎ目無し管の製
造方法。 (4) (1)記載の焼鈍を行った後、β変態点−15
0℃以上、β変態点−30℃未満の温度に30分以上、
4時間以下の時間加熱保持し、空冷以上の冷却速度で冷
却する第2の熱処理を行い、さらに、450℃以上、6
50℃未満の温度で1時間以上、8時間以下の時間加熱
保持する第3の熱処理を行うことを特徴とする破壊靭性
に優れるα+β型チタン合金継ぎ目無し管の製造方法で
ある。
【0007】
【発明の実施の形態】本発明者等は、強度、延性、破壊
靭性の3つの特性全てに優れたα+β型チタン合金管を
製造するために、α+β型チタン合金の熱間変形特性、
相変態および再結晶等の金属学的諸特性について再度掘
り下げた研究を行った結果、厚板圧延や熱間押し出しと
は著しく異なる変形条件、すなわち、強いせん断変形、
高歪み速度、周方向への材料の拘束等の極めて特殊な変
形条件である、穿孔・圧延法において、ある特定の加工
温度域においてα+β型チタン合金の再結晶および粒成
長が著しく抑制されることがわかった。そして、本発明
者等は、この知見を応用し、溶接部の無い継ぎ目無し管
が製造できるという利点をも有する穿孔・圧延法によ
り、強度、延性、破壊靭性の3つの特性全てに優れるα
+β型チタン合金管を製造する方法を発明するに至っ
た。
【0008】本発明の方法では、α+β型チタン合金か
らなる継ぎ目無し管を、熱間で、穿孔および延伸、定
型、絞り等の圧延工程により連続的に製造する方法にお
いて、まず、β変態点−300℃以上でβ変態点+10
0℃以下の温度で最終圧延工程を終了し、空冷以上の冷
却速度で冷却することとした。この工程条件は、再結晶
および粒成長が著しく抑制され、大量の塑性歪みが蓄積
した変形組織を生成させ、かつ途中で再結晶や成長を起
こさせることなく、室温まで冷却することにある。
【0009】最終圧延工程の終了温度がβ変態点以上で
β変態点+100℃以下の温度であった場合、β相は冷
却中に針状のマルテンサイトや微細針状α+β二相組織
に変態するが、このとき、β相の蓄積した塑性歪は大部
分が凍結される。一方、最終圧延工程の終了温度がβ変
態点未満の温度であった場合、α+β二相からなる変形
組織が形成するが、冷却中にα相はそのまま室温まで凍
結され、β相はマルテンサイトや微細針状α+β相に変
態する。しかし、両者とも熱間加工終了直後に有してい
た大量の塑性歪は大部分が凍結される。しかしながら本
発明においては、最終圧延工程終了温度をβ変態点−3
00℃以上としたのは、これ未満の温度域では変形抵抗
が高く、十分な熱間加工性が確保できないからである。
また、最終圧延工程終了温度をβ変態点+100℃以下
としたのは、これを超える温度で最終圧延工程を終了す
ると、拡散が活発な高温域であるために、穿孔・圧延法
といえども再結晶や粒成長が起こってしまうからであ
る。また冷却条件を、空冷以上としたのは、これよりも
遅い冷却速度では、冷却中に再結晶や粒成長が起こって
しまうからである。
【0010】次に、本発明の方法(1)では、β変態点
以上でβ変態点+100℃以下の温度で1分以上、1時
間以下の時間加熱保持する焼鈍を行うこととした。この
工程条件は、β変態点以上のβ単相域に加熱し、冷却中
に破壊靭性に優れた針状α相を生成させることにある。
通常の厚板等の製品では、この工程中にβ相が粒成長す
るため破壊靭性は向上するものの、強度、延性が低下し
てしまう。しかし、穿孔・圧延法の場合、最終圧延工程
終了温度および熱間加工後の冷却条件が本発明に規定さ
れた範囲内であれば、この段階では再結晶や粒成長が起
こらず、大量の塑性歪みが蓄積されているので、その後
に、β変態点以上に加熱しても、歪解放が優先的に起こ
り、次いで粒成長が起こるので、厚板等の製品に比べて
よりさいβ粒径が得られ、強度、延性をあまり低下させ
ることなく、破壊靭性を向上せることができる。しか
し、焼鈍温度がβ変態点+100℃を超えると拡散が活
発化し、短時間のうちに歪が解放され引き続いてβ粒成
長が起こり、強度、延性が低下する。加熱保持時間は、
1分以上の加熱保持を行わないと歪みの解放が不十分
で、靭性の向上が不十分な上に延性が低下する。1時間
を超えて加熱保持すると、歪の解放に引き続いてβ粒成
長が開始し、強度、延性が低下する。
【0011】本発明の方法(2)〜(4)では、本発明
の方法(1)記載の焼鈍に引続いて、さらに、第2、第
3の熱処理を行うこととした。これらの熱処理は、強破
壊靭性をさらに改善するためのものである。すなわち、
本発明の方法(2)では、本発明の方法(1)記載の焼
鈍を行った後、空冷以上の冷却速度で冷却し、さらに、
650℃超ないしβ変態点−150℃未満の温度で30
分以上〜4時間以下の時間加熱保持することとした。こ
の工程は、靭性と強度の両方を高めるのに有効な熱処理
である。すなわち、本発明の方法(1)記載の焼鈍工程
における冷却を、空冷以上で行うことにより、微細な粒
径のβ相を、細なマルテンサイトあるいは微細な針状α
+β組織に変換し、さらに、650℃超ないしβ変態点
−150℃未満の温度で30分以上〜4時間以下の時間
加熱保持することにより、一部を比較的粗大なα相に成
長させ、亀裂の伝播抵抗を増す一方、残部を微針状α相
とし、強度を上昇させようとするものである。
【0012】ここで、焼鈍後の冷却は空冷以上で行わな
いと、素材全体が、粗大な針状α相組織に変態するた
め、強度の上昇は達成されず、本発明の方法(1)と同
程度の特性しか得られない。また、次の第2の熱処理の
加熱保持温度および時間は、650℃超ないしβ変態点
−150℃未満の温度で30分以上の時間でなくてはな
らない。その限定理由は、650℃以下では、微細針状
α相組織の割合が大きくなり、強度は著しく高くなる半
面、靭性の向上が不十分となるためであり、また、β変
態点−150℃を超えると、微細針状α相の量が減少す
るめに、高い強度は得られず、本発明の方法(1)と同
程度の特性しか得られない。また、30分以上保持しな
いと組織が安定化せず、破壊靭性の向上が不十分とな
る。この熱処理時間は、4時間を超えても特性に大きな
変化はないが、4時間で既に所望の特性が得られている
ので、これ以上熱処理を続けることはエネルギー的に無
駄であり、本発明の方法(2)では4時間を上限とし
た。
【0013】次に、本発明の方法(3)では、本発明の
方法(1)記載の焼鈍を行った後、β変態点−150℃
以上ないしβ変態点−30℃未満の温度に30分以上〜
4時間以下の時間加熱保持し、空冷以上の冷却速度で冷
却する第2の熱処理を行い、さらに、650℃超ないし
β変態点−150℃未満の温度に30分以上〜4時間以
下の時間加熱保持する第3の熱処理を行うこととした。
この熱処理は、本発明の方法(2)よりもさらに高い靭
性を得るのに有効な熱処理である。
【0014】より高い靭性が得られる機構は次の通りで
ある。まず、本発明の方法(1)記載の焼鈍を行った
後、β変態点−150℃以上ないしβ変態点−30℃未
満の高温α+β二相温度域に30分以上〜4時間以下の
時間加熱保持する第2の熱処理により、粗大なα相がβ
相中に存在する組織とする。この粗大α相は亀裂の伝播
を防止する効果が特に強く、靭性がさらに向上する。次
に、空冷以上の冷却速度で冷却し、β相をマルテンサイ
トあるいは微細針状α相に変態させる。さらに、第3の
熱処理として、650℃超ないしβ変態点−150℃未
満の温度で30分以上〜4時間以下の時間加熱保持し、
一部を比較的粗大なα相に変換し、さらに亀裂の伝播抵
を増す一方、残部を微細針状α相とし、強度を上昇させ
ようとするもので、後半の工程は本発明の方法(2)に
おける機構と同様である。
【0015】ここで、第2の熱処理の温度範囲および時
間を、β変態点−150℃以上ないしβ変態点−30℃
未満、30分以上〜4時間以下に限定したのは下記理由
による。すなわち、β変態点−30℃以上の温度では、
α相体積分率が低いため靭性向上に有効な粗大なα相が
生成しにくく、β変態点−150℃未満の温度では、α
相の粗大化が不十分であり、また、30分以上保持しな
いとα相の粗大化が不十分であり、4時間を超えて保持
しても、α相の粗大化は十分達成されており、これ以上
の保持はエネルギー的に無駄である。これに引き続く工
程として、空冷以上で冷却することとしたのは、空冷よ
りも遅い冷却速度だと、冷却中にマルテサイトあるいは
微細針状α相が生成せず、本熱処理の効果が十分でなく
なるからである。また、第3の熱処理を650℃超ない
しβ変態点−150℃未満の温度で30分以上〜4時間
以下の時間加熱保持することとしたのは、先に本発明の
方法(2)における機構の説明で述べた通りである。
【0016】本発明の方法(4)では、本発明の方法
(3)記載の製造方法において、第2の熱処理を行った
後、450℃以上ないし650℃未満の温度で1時間以
上〜8時間以下の時間加熱保持する第3の熱処理を行う
こととした。この熱処理は、特に強度が重視される場合
であり、本発明の方法(3)よりも多少靭性は低下する
が、強度は上昇する。第2の熱処理工程までは、本発明
の方法(3)と全く同じであるが、最終第3の熱処理
を、450℃以上ないし650℃未満の温度で1時間以
上〜8時間以下の時間加熱保持することにより、本発明
の方法(3)の場合よりも微細なα相を多く生成させ、
強度の向上を図ったものである。
【0017】ここで第3の熱処理の条件を、450℃以
上ないし650℃未満で1時間以上〜8時間以下とした
のは、450℃未満ではα相が微細すぎて靭性が低下す
るからであり、650℃以上では一部のα相が比較的粗
大化し、本発明の方法(3)に記した高靭性化は達成さ
れるが、強度の大きな向上は達成されない。また、1時
間以上の加熱保持を行わないと組織が十分安定化せず、
靭性が低下し、8時間未満の加熱保持時間で組織は既に
形成されており、特性変化はなく、これ以上の熱処理は
エネルギー的に無駄である。
【0018】なお、本発明において、α+β型チタン合
金とは、平衡状態において室温でαβの二相を主相と
し、β変態点以上の単相温度域から焼入れた場合に、全
体あるは一部がマルテンサイト変態する種類の合金で、
Ti−6Al−4V、Ti−6Al−6V−2Sn、T
i−6Al−2Sn−4Zr−6Mo、Ti−6Al−
1.7Fe−0.2Si、Ti−5.5Al−1Fe−
0.15重量%酸素−0.05重量%窒素、Ti−5A
l−2.5Fe、Ti−1.5Fe−0.5重量%酸素
−0.04重量%窒素などがこれに相当する。また、T
i−6Al−4V−0.2%Pdなど、PdやRuなど
の白金族元素をさらに添加し耐食性を向上させた合金や
侵入型不純物元素量を低減させたTi−6Al−4V−
ELI(Extra-Low Interstitials)などもα+β型チタ
ン合金に属する。これらα+β型チタン合金は、平衡状
態において、FeTi相、ω相、シリサイド、Ti−A
l系規則相、Ti−O系規則相、Ti−N系規則相、金
属間化合物相などを含有するものがあるが、実質的には
β変態点下の温度域ではα+βの二相を基本としてお
り、β変態点以上ではα相の体積分率は零で、それ以下
の温度では温度の低下とともにα相の割合が増加し、室
温で、合金種によって異なるが、大体75%〜95%の
α相と残部β相で構成されている。
【0019】
【実施例】以下に、実施例によって本発明をさらに詳し
く説明する。 [試験1]真空アーク溶解により、β変態点990℃の
Ti−6Al−4Vを溶製し、熱間鍛造により120mm
厚のスラブおよび直径170mmのビレットとした後、各
々、厚板圧延に13mm厚の厚板を、あるいは熱間押し出
しにより外径165mm、厚さ25mmの管を製造した。こ
のときの熱間加工終了直後の温度は、厚板の場合900
℃で、管の場合1050℃であった。
【0020】また、熱間加工終了後、素材はいずれも空
冷し、表1に示した熱処理を行った。この素材から、引
張試験片(評点間距離25mm、径6.25mm)と破壊靭
性験片(機械ノッチ先端に疲労予亀裂を導入、厚さ1
2.7mm)を切り出し、引張試験および破壊靭性試験を
行い、引張強さ、伸び、KICを求めた。厚板の場合、引
張試験片は最終圧延方向と平行および垂直となるように
2つの方向から採取し、また、破壊靭性試験片は、切り
欠きが最終圧延方向と平行および垂直となるように、2
方向から採取した。管の場合、引張試験片は長さ方向お
よび周方向の2方向から採取し、また破壊靭性試験片は
切り欠きが長さ方向および周方向と平行となるように2
方向から採取した。表1に示した試験結果は、全て2方
向の平均値である。
【0021】さて、表1に示した例は、いずれも参考例
であり、試験番号1は、β変態点以下のα+β二相温度
域で熱間加工を終了し、焼鈍を行った厚板の場合で、引
張強さ、伸びは高いが、KICは低い値となっている。試
験番号2および3は、靭性を高めるために、β変態点以
上への加熱を含む熱処理を行った場合で、確かにKIC
高くっているが、β単相域へ加熱している間にβ粒が粗
大化し、強度、延性が低下しいる。試験番号4および5
に示した熱間押し出し管の場合も同様で、KICは高い
が、引張強さ、伸びは低くなっている。
【0022】
【表1】
【0023】[試験2]真空アーク溶解により、β変態
点990℃のTi−6Al−4Vを溶製し、熱間鍛造に
より210mm×210mmの正方形断面の中実ビレットを
製造した。このビレットを、穿孔、3段階からなる延
伸、定型の各工程を連続的に経て外径160mm、厚さ1
8mmの継ぎ目無し管に熱間加工した。最終の定型工程終
了直後の素材温度を表2中「最終圧延工程終了温度」の
欄に、また、定型工程終了後の冷却条件を表2中「最終
圧延工程終了後の冷却」欄に示した。熱間加工後の管
は、表2中「熱処理」欄に記した温度、時間、冷却条件
で加熱保持、冷却を行い、管の長さ方向および周方向と
平行に引張試験片を採取し、引張試験を行った。また、
切り欠きが管の長さ方向および周方向と平行になるよう
に破壊靭性試験片を切り出し、破壊靭性試験を行った。
試験片は試験1で使用したものと同じである。試験結果
は表2に示すとおりで、各々の値は、全て2方向から採
取した試験片の平均値である。
【0024】表2において、試験番号6,8,9,1
0,13,16は本発明の方法(1)の実施例であり、
いずれも950MPa 以上の高い引張強さ、10%以上の
高い伸び、80 MPa・m1/2 以上の高いKICを示してお
り、強度、延性、靭性の3つの特性はいずれも高いもの
であった。
【0025】これに対し、表2に示した比較例のうち、
試験番号7,12,15,17は高い強度および延性が
得られず、試験番号14は高い延性および靭性が得られ
ず、また試験番号18は高い靭性が得られなかった。ま
た試験番号11では、熱間加工中に深い疵が生じ、試験
片を採取することすらできなかった。以上は、最終圧延
工程終了温度、最終圧延工程終了後の冷却速度、焼鈍温
度、焼鈍時間のいずれかが、本発明の方法(1)に規定
された範囲外であったためである。
【0026】
【表2】
【0027】[試験3]試験2で使用したTi−6Al
−4Vのビレットを、穿孔、3段階からなる延伸、定型
の各工程を連続的に経て、外径160mm、厚さ20mmの
継ぎ目無し管に熱間加工した。最終の定型工程終了直後
の素材温度、すなわち最終圧延工程終了温度は1000
℃で、定型工程終了後の冷却条件、すなわち最終圧延工
程終了後の冷却速度は空冷である。この継ぎ目無し管を
50cmの長さに切断し、表3の「熱処理」欄に記した熱
処理を行い、試験2と同様に試験片を採取し、引張試
験、破壊靭性試験を行った。試験結果は表3に示すとお
りで、各々の特性値は、全て2方向から採取した試験の
平均値である。
【0028】表3において、試験番号19, 20, 2
3, 26は本発明の方法(2)の実施例であり、いずれ
も、970MPa 以上の引張強さ、10%以上の伸び、1
00 MPa・m1/2 のKICを示しており、表2に示した本
発明の方法(1)の実施例よりも、さらに高い強度と靭
性が得られている。これに対し、試験番号22および2
4は強度は上昇したものの、KICは表2に示した本発明
の方法(1)の実施例と同程度であり破壊靭性の向上は
認められなかった。また、試験番号25および27は、
強度および靭性の両方が、表2に示した本発明の方法
(1)の実施例と同程度でしかなかった。これは、焼鈍
後の冷却速度、次いで行う熱処理の加熱保持温度、時間
のいずれかが本発明の方法(2)に規定された範囲外で
あったためである。また、試験番号21は、強度、延
性、靭性ともに高い水準であったが、焼鈍後に4時間3
0分の再熱処理を行っているにもかかわらず、3時間3
0分の短い熱処理しか行っていない試験番号20と同程
度の特性しか得られておらず、エネルギー的に無駄であ
る。
【0029】
【表3】
【0030】[試験4]試験3で使用した、Ti−6A
l−4Vの継ぎ目無し管を50cmの長さに切断した素材
を、1030℃で15分間焼鈍し、空冷し、さらに、表
4の「熱処理」欄に記した第2および第3の熱処理を行
い、試験2および試験3と同様に試験片を採取し、引張
試験、破壊靭性試験を行った。試験結果は表4に示すと
おりで、各々の特性値は、全て2向から採取した試験片
の平均値である。
【0031】表4において、試験番号28,30,3
2,35,38,39,41は本発明の方法(3)の実
施例であり、いずれも、970MPa 以上の引張強さ、1
0%以上の伸び、120 MPa・m1/2 以上のKICを示し
ており、表3に示した本発明の方法(2)の実施例より
も、さらに高い靭性が得られている。
【0032】これに対し、試験番号29,31,34,
40はKICが、また、試験番号36,37では引張強さ
とKICの両方が、表3に示した本発明の方法(2)の実
施例から向上しなかった。これは、第2の熱処理の温
度、時間、冷却速度、第3の熱処理の時間のいずれか
が、本発明の方法(3)に規定された範囲外であったた
めである。なお、試験番号43は、KICは、表3に示し
た本発明の方法(2)の実施例と同程度でしかなかった
ため、本発明の方法(3)の目的である高靭性化は達成
されなかったが、KICは100 MPa・m1/2 の比較的高
い値であり、また、伸びも10%以上の値であり、さら
に、引張強さが著しく高く1000MPa を超えているこ
とから、特に強度を必要とする用途には極めて適した特
性であった。これは、本発明の方法(4)の実施例に相
当する。
【0033】
【表4】
【0034】[試験5]試験3で使用した、Ti−6A
l−4Vの継ぎ目無し管を50cmの長さに切断した素材
を、1030℃で15分間焼鈍し、空冷し、さらに、9
40℃に1時間加熱保持後水冷する第2の熱処理を行
い、さらに、表5に示した第3の熱処理を行い、試験2
〜4と同様に試験片を採取し、引張試験、破壊靭性試験
を行った。試験結果は表5に示すとおりで、各々の特性
値は、全て2方向から採取した試験片の平均値である。
【0035】表5において、試験番号44,45,48
は本発明の方法(4)の実施例であり、いずれも,10
00MPa 以上の引張強さ、10%以上の伸び、100 M
Pa・m1/2 以上のKICを示しており、破壊靭性は表4に
示した本発明の方法(3)の実施例ほどではないが、著
しく高い強度と比較的高い靭性を兼ね備えた継ぎ目無し
管が得られている。
【0036】これに対し、試験番号46,50は高強度
は得られたものの、KICが80 MPa・m1/2 程度しかな
く、破壊靭性がかなり低くなってしまった。これは、試
験番号46では、第3の熱処理の時間が本発明の方法
(4)で規定された時間よりも短かったためであり、試
験番号50では、第3の熱処理の温度が本発明の方法
(4)で規定れた温度よりも低かったためである。ま
た、試験番号49では、本発明の方法(4)の他の実施
例と同等の特性が得られているが、第3の熱処理の時間
がこれよりも短い試験番号48と同等の特性でしかな
く、長時間熱処理した効果が認められない。すなわちエ
ネルギー的に無駄である。また、試験番号47は、第3
の熱処理温度が本発明の方法(4)で規定された温度よ
りも高く、本発明の方法(3)で規定された温度であっ
たため、極めて高い破壊靭性を示したものの、強度の向
上十分でなかった。
【0037】
【表5】
【0038】[試験6]真空アーク溶解により、Ti−
6Al−4V−ELIにさらに0.1重量%のPdを添
加した、Ti−6Al−4V−0.1Pd−ELIを溶
製し、熱間鍛造により厚さ120mmのスラブおよび10
mm×210mmの正方形断面の中実ビレットを製造した。
β変態点は960℃である。
【0039】スラブは熱間圧延により、厚さ13mmの厚
板とし、表6記載の熱処理を行い、試験1のTi−6A
l−4V厚板と同様に、試験片を採取し、引張強さ、伸
び、KICを求めた。このとき、最終圧延工程終了温度は
900℃で、圧延終了後の冷却は空冷である。ビレット
は、穿孔、3段階からなる延伸、定型の各工程を連続的
に経て、外径160mm、厚さ18mmの継ぎ目無し管に熱
間加工し、表6記載の熱処理を行い、試験2のTi−6
Al−4V継ぎ目無し管と同様に試験片を採取し、引張
強さ、伸び、KICを求めた。このとき、最終圧延工程終
了温度は1000℃で、圧延終了後の冷却は空冷であ
る。いずれの試験片も、試験1〜5と同様に2方向から
採取されており、表6の結果は全て2方向の平均値であ
る。
【0040】表6において、試験番号51は厚板の例で
参考例である。靭性を高めるために、β変態点以上への
加熱を含む熱処理を行っており、確かに、KICは高くな
ているが、β単相域へ加熱している間にβ粒が粗大化
し、強度、延性が低下してる。これに対し、本発明の実
施例である試験番号52〜55の継ぎ目無し管は、いず
れも900MPa 以上の高い引張強さ、13%以上の高い
伸び、90 MPa・m1/2以上の高いKICが得られてお
り、強度、延性、靭性の3つの特性が揃って優れた継ぎ
目無し管が得れている。特に、本発明の方法(2)の実
施例である試験番号53は、本発明の法(1)の実施例
である試験番号52よりも、高い強度および靭性が得ら
れており、本発明の方法(3)の実施例である試験番号
54では、さらに高い靭性が得られている。また、本発
明の方法(4)の実施例である試験番号55は、靭性は
試験番号53と同程度であるが、980MPa 以上の極め
て高い引張強度が得られている。
【0041】
【表6】
【0042】[試験7]真空アーク溶解により、Ti−
1.5Fe−0.5重量%酸素−0.04重量%窒素を
溶製し、熱間鍛造により、厚さ120mmのスラブおよび
210mm×210mmの正方形断面のビレットを製造し
た。β変態点は960℃である。スラブは熱間圧延によ
り、厚さ13mmの厚板とし、表7記載の熱処理を行い、
試験1のTi−6Al−4V厚板と同様に、試験片を採
取し、引張強さ、伸び、KICを求めた。このとき、最終
圧延工程終了温度は900℃で、圧延終了後の冷却は空
冷である。ビレットは、穿孔、3段階からなる延伸、定
型の各工程を連続的に経て、外径160mm、厚さ18mm
の継ぎ目無し管に熱間加工し、表7記載の熱処理を行
い、試験2のTi−6Al−4V継ぎ目無し管と同様に
試験片を採取し、引張強さ、伸び、KICを求めた。この
とき、最終圧延工程終了温度は950℃で、圧延終了後
の冷却は空冷である。いずれの試験片も、試験1〜6と
同様に2方向から採取されており、表7の結果は全て2
方の平均値である。
【0043】表7において、試験番号56は厚板の例で
参考例である。靭性を高めるために、β変態点以上への
加熱を含む熱処理を行っており、確かに、KICは高くな
っているが、β単相域へ加熱している間にβ粒が粗大化
し、強度、延性が低下してる。これに対し、本発明の実
施例である試験番号57〜60の継ぎ目無し管は、いず
れも950MPa 以上の高い引張強さ、14%以上の高い
伸び、60 MPa・m1/ 2 以上の高いKICが得られてお
り、強度、延性、靭性の3つの特性が揃って優れた継ぎ
目無し管が得れている。特に、本発明の方法(2)の実
施例である試験番号58は、本発明の方法(1)の実施
例である試験番号57よりも、高い強度および靭性が得
られており、本発明の方法(3)の実施例である試験番
号59では、さらに高い靭性が得られている。また、本
発明の方法(4)の実施例である試験番号60は、靭性
は試験号58と同程度であるが、1050MPa 以上の極
めて高い引張強度が得られている。
【0044】
【表7】
【0045】
【発明の効果】以上説明したように、本発明を適用する
ことにより、地熱開発、海底油田・ガス田開発などの、
大深度、高温、高圧、高腐食の極限環境に耐えうる、十
分な強度および延性を保持し、さらに破壊靭性に優れた
α+β型チタン合金継ぎ目無し管を製造することができ
る。

Claims (4)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 α+β型チタン合金からなる継ぎ目無し
    管を、熱間で、穿孔および延伸、定型、絞り等の圧延工
    程により連続的に製造する方法において、β変態点−3
    00℃以上、β変態点+100℃以下の温度で最終圧延
    工程を終了し、空冷以上の冷却速度で冷却し、さらに、
    β変態点以上、β変態点+100℃以下の温度で1分以
    上、1時間以下の焼鈍を行うことを特徴とする破壊靭性
    に優れるα+β型チタン合金継ぎ目無し管の製造方法。
  2. 【請求項2】 請求項1記載の焼鈍を行った後、空冷以
    上の冷却速度で冷却し、さらに、650℃超、β変態点
    −150℃未満の温度で30分以上、4時間以下の時間
    加熱保持することを特徴とする破壊靭性に優れるα+β
    型チタン合金継ぎ目無し管の製造方法。
  3. 【請求項3】 請求項1記載の焼鈍を行った後、β変態
    点−150℃以上、β変態点−30℃未満の温度に30
    分以上、4時間以下の時間加熱保持し、空冷以上の冷却
    速度で冷却する第2の熱処理を行い、さらに、650℃
    超、β変態点−150℃未満の温度で30分以上、4時
    間以下の時間加熱保持する第3の熱処理を行うことを特
    徴とする破壊靭性に優れるα+β型チタン合金継ぎ目無
    し管の製造方法。
  4. 【請求項4】 請求項1記載の焼鈍を行った後、β変態
    点−150℃以上、β変態点−30℃未満の温度に30
    分以上、4時間以下の時間加熱保持し、空冷以上の冷却
    速度で冷却する第2の熱処理を行い、さらに、450℃
    以上、650℃未満の温度で1時間以上、8時間以下の
    時間加熱保持する第3の熱処理を行うことを特徴とする
    破壊靭性に優れるα+β型チタン合金継ぎ目無し管の製
    造方法。
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