JP3872637B2 - 高強度α+β型チタン合金管およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は高強度α+β型チタン合金からなる管およびその製造方法に関する。さらに詳しくは、高強度α+β型チタン合金からなる溶接管およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
チタン合金は軽量、高強度、高耐食性を有することから、近年、地熱開発、深海底油田・ガス田開発などの、大深度、高温、高圧、高腐食の極限環境に最も適した素材として注目されている。中でも、航空機用途などで多用され、高い実績を誇るα+β型チタン合金や、これに0.01〜0.3%程度の少量のPdやRuを添加し耐食性を高めた高耐食性α+β型チタン合金は、特に優れた極限環境用素材として有望視されている。
【0003】
上記の用途では、管が主要製品形状であるが、α+β型チタン合金製管材の製造方法としては、
[1]熱間押し出しによる方法(継ぎ目無し管)、
[2]プラグミル等を使用して穿孔、延伸、定型、絞り等の圧延を連続的に行い造管する方法(継ぎ目無し管)、
[3]厚板をロールベンディング法と呼ばれるロール成型法により冷間で成型し、突き合わされた板端部同士を溶接する方法(溶接管)、
[4]厚板を熱間または温間でプレス成形し半円断面形状とし、これを2枚突き合わせて溶接する方法(溶接管)などがある。
【0004】
このうち、[3] の方法は、管の真円度が確保しにくく、また、長尺の管が得にくいとの理由でチタン合金管の製造にはほとんど用いられていない。また[4] の方法は、熱間あるいは温間での加工のため素材を加熱する必要があり、また、溶接を2ヶ所行う必要があるため、全体として高コストとなりこれもほとんど用いられていない。一方、[1] および[2] の方法は、特性の劣化が懸念される溶接部のない継ぎ目無し管が製造できるという利点があり、主にこれらの方法で作製されたチタン合金管が使用されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところが,これらの方法で製造したチタン合金管は、内外面に深い疵や欠陥を有していることが多く、相当量の切削加工を行いこれらの疵や欠陥を除去しなくてはならない。しかし、チタン合金は被削性が極端に悪く、このような大量の切削加工は大幅なコスト増になってしまうという問題点があった。また、これらの方法で製造した管は偏肉が大きく、管の肉厚が極端に厚いところと薄いところが生じやすいという問題点も有していた。
すなわち、強度設計は最も薄い部分の肉厚で行わざるを得ないため、結局これよりも厚い部分の材料が無駄に使用されるため高コストとなるばかりか、せっかくの軽量というチタン合金の特性が十分に発揮できないという問題点があった。もちろん切削加工により肉厚を揃えることは可能であるが、先に述べたように、チタン合金は被削性が極端に悪い材料であり、さらに大幅なコスト増となってしまうため、大きな偏肉の是正は実際上困難であった。
【0006】
このような問題点に鑑み、本発明は、大幅なコスト増となる大量の切削加工を必要とせず、軽量高強度のチタン合金の特徴を十分に活かすことのできる、高強度α+β型チタン合金管を提供しようとするものである。
さらに、本発明は、このようなチタン合金管を低コストで製造するための方法を提供しようとするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために本発明は、下記の(1)〜(11)を要旨とする。
(1) 下記(a)〜(e)群のいずれかから選んだ高強度α+β型チタン合金管からなる管であって、外径150mm以上、肉厚6mm以上で管の長さ方向の溶接シーム部を1ヶ所有し、溶接部を除く部分の最小肉厚と最大肉厚の比(最小肉厚/最大肉厚)が、0.95〜0.99であることを特徴とする、高強度α+β型チタン合金管(請求項1に対応)。
質量%で、
(a)Al:2.5〜3.5%、 V:2.0〜3.0%、
残部がTiおよび不可避不純物からなる高強度α+β型チタン合金。
(b)Al:2.5〜3.5%、 V:2.0〜3.0%、
Pd,Ruの1種以上:総量で0.01〜0.5%、
残部がTiおよび不可避不純物からなる高強度α+β型チタン合金。
(c)Al:5.5〜6.75%、 V:3.5〜4.5%、
残部がTiおよび不可避不純物からなる高強度α+β型チタン合金。
(d)Al:5.5〜6.75%、 V:3.5〜4.5%、
Pd,Ruの1種以上:総量で0.01〜0.5%、
残部がTiおよび不可避不純物からなる高強度α+β型チタン合金。
(e)Fe:1.0〜1.5%、 O:0.2〜0.6%、
N :0.01〜0.05%、
残部がTiおよび不可避不純物からなる高強度α+β型チタン合金。
(2) 管全体が、β焼鈍組織からなることを特徴とする、前記(1)に記載の高強度α+β型チタン合金管(請求項2に対応)。
【0008】
(3) 前記(1)又は(2)に記載の高強度α+β型チタン合金管を製造する方法であって、厚さ6mm以上の高強度α+β型チタン合金板を、冷間にてU−O法またはプレスベンディング法により管状に成型し、突き合わされた板端部を溶接することを特徴とする、高強度α+β型チタン合金管の製造方法(請求項3に対応)。
(4) 突き合わされた板端部をキーホールプラズマ溶接法により溶接し、必要に応じてさらに、溶接フィラーを使用したプラズマ溶接あるいはTIG溶接により肉盛りを行うことを特徴とする、前記(3)に記載の高強度α+β型チタン合金管の製造方法(請求項4,5に対応)。
(5) 突き合わされた板端部が上側になるよう管状成型体を配置し、溶接を管状成型体の外側上部から行うことを特徴とする、前記(3)または(4)に記載の高強度α+β型チタン合金管の製造方法(請求項6に対応)。
(6) 突き合わされた板端部が下側になるよう管状成型体を配置し、溶接を管状成型体の内側上部から行うことを特徴とする、前記(3)乃至(5)のいずれか1項に記載の高強度α+β型チタン合金管の製造方法(請求項7に対応)。
(7) 溶接に使用するパイロットガス、シールドガスの一部あるいは全部を、ヘリウムガスとすることを特徴とする、前記(3)乃至(5)のいずれか1項に記載の高強度α+β型チタン合金管の製造方法(請求項8に対応)。
(8) 厚さ6mm以上の高強度α+β型チタン合金板が、β変態点以下の温度域で50%以上の圧下量の加工を受け、β変態点以下の温度域で焼鈍された高強度α+β型チタン合金板であることを特徴とする、前記(3)乃至(7)のいずれか1項に記載の高強度α+β型チタン合金管の製造方法(請求項9に対応)。
(9) 前記(3)乃至(8)のいずれか1項に記載の製造方法において、溶接後の管を、β変態点以上に加熱し空冷以上の冷却速度で冷却し、さらに650℃〜850℃に加熱し30分以上保持し空冷以下の冷却速度で冷却し、さらに必要に応じて、450〜650℃に加熱し2時間以上保持し空冷以下の冷却速度で冷却する一連の熱処理を行うことを特徴とする、高強度α+β型チタン合金管の製造方法(請求項10,11に対応)。
【0009】
【発明の実施の形態】
発明者らは、上記のα+β型チタン合金からなる継ぎ目無し管の問題点を是正するため、厚中板を曲げ成型し板端部を溶接するいわゆる溶接管について再検討した結果、大幅なコスト増となる大量の切削加工を必要としない、高強度α+β型チタン合金管およびその製造方法を見出すに至った。
【0010】
すなわち、前記(1)に記載の本発明は、前記(a)〜(e)群のいずれかから選んだ高強度α+β型チタン合金管からなる管であって、外径150mm以上、肉厚6mm以上で管の長さ方向に1ヶ所の溶接シーム部を有し、溶接部を除く部分の最小肉厚と最大肉厚の比(最小肉厚/最大肉厚)が、0.95〜0.99であることを特徴とする、高強度α+β型チタン合金管である。
【0011】
外径150mm以上、肉厚6mm以上の高強度α+β型チタン合金を対象としたのは次の理由による。すなわち、これよりも小径あるいは薄肉の管は、熱間押し出しにより継ぎ目無し管を製造し、これを管の長さ方向に引き抜き加工などの冷間加工する方法により、比較的偏肉の少ない継ぎ目無しチタン合金管が製造でき、外面の疵を除去するためにかなりの切削加工を行う必要はあるものの、偏肉という観点からは、本発明をあえて適用しなくとも比較的均質な肉厚の管が得られるからである。
【0012】
また、本発明は溶接管であり溶接部を必然的に含んでいるが、特性劣化や製造コストの観点から、溶接シーム部は必要最小限の1ヶ所とした。そして、前記(1)記載の管は、溶接部を除く部分の最小肉厚と最大肉厚の比が0.95〜0.99の範囲にあることとした。0.95より低い値を有する偏肉の大きい管は、継ぎ目無し管においても慎重な操業条件で製造すれば達成可能であり、このような管は継ぎ目無し管の場合と同様、高コストの切削加工を行って偏肉を是正するか、あるいは、余分な肉厚部分を放置したまま所望よりも重い管をそのまま使用せざるを得ず、本発明の効果は十分に発揮できない。
【0013】
一方、溶接部を除く部分の最小肉厚と最大肉厚の比が0.99を超えるような偏肉の小さい管は、精密切削加工を行わなければ製造不可能であり、高コストとなってしまう。また、本発明では溶接部は1ヶ所であり、この部分の管全体に占める割合はわずかである。したがって溶接部の余盛りにともなう肉厚増分による重量増は管全体からすれば微々たるものである。以上の理由により、前記(1)では、偏肉を示す指標である、最小肉厚と最大肉厚の比は、溶接部を除いて0.95〜0.99の範囲とした。
【0014】
さて、本発明がその対象としている高強度α+β型チタン合金とは、室温における平衡状態でα相とβ相の2相を主相とし、β変態点以上の温度から焼き入れた場合、冷却中にマルテンサイト変態する種類の合金であり、Ti−3Al−2.5V、Ti−6Al−4V、Ti−6Al−4V ELI、Ti−1〜1.5%Fe−0.2〜0.6%酸素−0.01〜0.05%窒素、Ti−4.5Al−3V−2Mo−2Feなどがこれに相当する。ここでELIはExtra Low Interstitials の略で酸素、窒素、炭素などの侵入型不純物元素を低減した合金である。
【0015】
また、従来の技術の項でも説明したように、特に極限環境下で使用する場合には、0.01〜0.5%程度の少量のPdやRuを添加し耐食性を高めることがある。これらPd,Ru添加合金も高強度α+β型チタン合金に属する合金である。この中で、特に汎用の合金は、Ti−3Al−2.5V、Ti−6Al−4V、Ti−6Al−4V ELIであり、また石油や天然ガスのライザー管やラインパイプ、地熱発電におけるケーシングなど過酷な環境で使用される場合、さらにこれらにPdやRuを少量添加した合金が使用される。すなわち、これらの合金に本発明を適用すると、極めて効果的に本発明の利点を得ることができる。
【0016】
前記(1)の(a)群は、上記理由により、質量%でAlを2.5〜3.5%およびVを2.0〜3.0%含有する合金、すなわちASTM規格などで通称「Ti−3Al−2.5V」と称されている合金を、前記(1)記載の本発明に適用した場合であり、前記(1)の(b)群は、これにさらに、質量%で総量0.01〜0.5%のPdまたはRuを添加した合金に、本発明を適用したものである。
【0017】
また、前記(1)の(c)群は、同様の理由で、質量%でAlを5.5〜6.75%およびVを3.5〜4.5%含有する合金、すなわちASTM規格などで通称「Ti−6Al−4V」あるいは「Ti−6Al−4V ELI」と称されている合金に、前記(1)を適用した場合であり、前記(1)の(d)群は、これにさらに、質量%で総量0.01〜0.5%のPdまたはRuを添加した合金に、本発明を適用したものである。
【0018】
前記(2)は、前記(1)の(a)〜(e)群のいずれかに記載の高強度α+β型チタン合金管において、管全体がβ焼鈍組織からなることを特徴としている。β焼鈍組織とは、β粒界に析出した粒界α相とβ粒内に生成した針状α相からなる組織であり、等軸組織に比べると破壊靭性が高いという特徴を有しており、前記(2)にかかる発明は、特に高い破壊靭性が望まれる用途に対し効果を発揮する。
ただし、β焼鈍組織は等軸組織に比べると延性が乏しいという欠点を有しているため、前記(2)の管を製造する場合には、前記(9)に記載の方法のように、延性に優れた板材を用いてU−O法やプレスベンディング法等の冷間成型を行い、最後に熱処理を行うことにより、β焼鈍組織に変換する方法により製造することが望ましい。また、低延性を助長する残留歪みは極力除去することが望ましい。
【0019】
以上説明した前記(1)または(2)に記載した本発明の高強度α+β型チタン合金管は、前記(3)〜(9)のいずれかに記載の方法によって製造することができる。
前記(3)では、まず、厚さ6mm以上の高強度α+β型チタン合金板を、冷間にてU−O法またはプレスベンディング法により管状に成型する。ここで板の厚さを6mm以上としたのは、これ未満の板厚だと、管状に成型した後、前記(1),(2)で規定された肉厚以下になってしまい、前記(1),(2)に記載の高強度α+β型チタン合金管が製造できないからである。板の幅については特に規定しなかったが、成形後の管の径を考慮して適宜設定すればよい。また、次の工程である溶接を簡便に行うため、成型前に適宜開先加工を行っておくことが望ましい。
【0020】
U−O法またはプレスベンディング法により管状に成型するとした理由は下記のとおりである。
すなわち、冷間で板を管状に成型する方法としては、
[1]板面と垂直に配置されたカリバーロール(一般に多スタンドからなる)を用いて管状に成型するロールフォーミング法、
[2]板面と平行に配置された水平ロール(一般に3ロールの間を通板させる)を用いて管状に成型するロールベンディング法、
[3]プレスにより板をU字型に押し曲げ、さらにO字型にプレスし管状に成型するU−O法、
[4]プレスにより板の幅方向端部を長さ方向に押し曲げ、この工程を順次板幅中心方向へ進めて行き、厳密には多角形状の管に成型するプレスベンディング法などがある。
[3]および[4] では、真円度の高い管を得るため、あらかじめ板幅端部を強く曲げておき、管状に成形後この部分を切除し、最後に円形管状にプレスすることもある。
また、 [3]および[4] の方法を組み合わせ、板の幅方向端部を [4]の方法によりあらかじめ円弧状に成型しておき、しかる後に中央部を3点曲げなどによりU字型に押し曲げ、円形管状に成型することもある。
【0021】
発明者らは、α+β型チタン合金の塑性変形能におよぼす変形様式、歪み速度、加工方法の影響などを詳細に解析・研究した結果、高強度、低延性、低ヤング率でスプリングバックの大きい高強度α+β型チタン合金は、 [1]のロールフォーミング法や [2]のロールベンディング法では、冷間においては十分に加工できず、割れを生じたり真円度が確保できないが、 [3]のU−O法や[4] のプレスベンディング法を用いれば、管状に加工でき、しかも良好な板端の突き合わせ状態が得られることを見出した。本発明はこの知見を基に完成されたものである。
【0022】
U−O法またはプレスベンディング法による冷間成型工程の次に、突き合わされた板端部を溶接し管とする。先のU−O法あるいはプレスベンディング法を用いて高強度α+β型チタン合金を冷間成型すると、板端部が良好に突き合わされ、この部分1ヶ所のみを溶接すれば管を製造できる。チタン材の溶接には、TIG溶接、プラズマ溶接、MIG溶接、電子ビーム溶接などが一般に用いられており、本発明でもこれら溶接方法を単独あるいは組み合わせて用いることが可能である。また電子ビーム溶接は、近年、大型の高真空チャンバーを必要とせず簡易シールドで溶接が可能な低圧電子ビーム溶接法が開発されているが、この方法も十分適用可能である。
【0023】
溶接後の管は、必要に応じて、熱処理、矯正、表面仕上げ精整を行う。なお、熱処理が複数の工程からなる場合、矯正工程は、これら熱処理の間にて行い、順次形状を整えていくことも可能である。また、残留歪みがさほど問題とならない場合、熱処理終了後、最後に矯正を行うことも可能である。また、表面仕上げ精整は、大幅なコスト増にならない程度の軽度の切削、研削あるいはさらに酸洗を行うことによりにより実施できるが、ショットブラストやサンドブラストを行った後、酸洗を行う方法が安価かつ簡便であり推奨される。
【0024】
前記(4)は、本発明の前記(3)に記載の製造方法において、突き合わされた板端部をキーホールプラズマ溶接法により溶接し、必要に応じてさらに溶接フィラーを使用したプラズマ溶接あるいはTIG溶接により肉盛りを行うことを特徴としている。ここで、キーホールプラズマ溶接とは、プラズマ溶接の1種で、プラズマガス流を貫通させながらビームを移動させ溶接する方法である。チタン合金の溶接は、先に述べたように種々の方法があるが、TIG溶接が最も多用されており、前記(1),(2)記載の管もTIG溶接などにより溶接することが可能である。
【0025】
しかし、特に肉厚の大きい管を製造する場合、TIG溶接では溶接パス数が膨大となり非効率的である。このような場合、キーホールプラズマ溶接法を用いると効率的である。キーホールプラズマ溶接法は、溶接フィラーを用いなくとも20mm厚程度までのチタン合金板を1パスで溶接することが可能であり、溶接欠陥も生じにくいという利点をも有している。ただし、上部に肉厚の減少したアンダーカットを生じやすいという欠点も併せ持っている。したがって、このようなアンダーカットが生じた場合、さらに溶接フィラーを使用したプラズマ溶接あるいはTIG溶接により肉盛りを行い、これを補うことが必要となる。
【0026】
また、20mm以上の肉厚の管を製造する場合、キーホールプラズマ溶接のみでは全肉厚を溶接できないので、これに加えさらに、溶接フィラーを使用したプラズマ溶接あるいはTIG溶接により肉盛りを行い、これを補うことが必要となる。なお、キーホールプラズマ溶接を行う前に、突き合わされた板端部をTIG溶接により仮り止め溶接しておくと、キーホールプラズマ溶接を安定して行うことができる。
【0027】
前記(5)は、本発明の前記(3)または(4)記載の製造方法において、突き合わされた板端部が上側になるよう管状成型体を配置し、溶接を管状成型体の外側上部から行う。このような配置にて溶接を行うと、溶融部に働く重力と凝固方向が平行となるため溶接部にポロシティなど機械的性質、特に疲労特性を劣化させる溶接欠陥が生じにくくなる。
【0028】
前記(6)は、本発明の前記(3)〜(5)のいずれかに記載の製造方法において、突き合わされた板端部が下側になるよう管状成型体を配置し、溶接を管状成型体の内側上部から行う。このような配置にて溶接を行うと、前記(5)の場合と同様に、溶融部に働く重力と凝固方向が平行となるため溶接部にポロシティなど機械的性質、特に疲労特性を劣化させる溶接欠陥が生じにくくなる。しかも、溶接欠陥の生じにくい初期の溶接パスが管の外側となるため、特に疲労亀裂発生の原因となることの多い管の外側の欠陥を減らすことが可能で、疲労特性をさらに向上させることができる。
【0029】
前記(7)は、本発明の前記(3)〜(5)のいずれかに記載の製造方法において、溶接に使用するパイロットガス、シールドガスの一部あるいは全部を、ヘリウムガスとすることを特徴としている。一般にTIG溶接、プラズマ溶接、MIG溶接などによるチタン材料の溶接では、不活性ガスとしてアルゴンガスをシールドガスあるいはパイロットガスに使用する。前記(7)ではこのアルゴンガスの一部または全部に代わりヘリウムガスを使用することとしたが、これはアルゴンよりもヘリウムの方がプラズマ化しやすく入熱効果が増すためで、溶接効率を向上させることを第1の目的としている。これに加え、アルゴンよりもヘリウムの方が溶融部に巻き込まれたガスが外部に逃げやすく、その結果疲労特性を劣化させるポロシティなどの溶接欠陥を大幅に減少させることができる。
このような品質向上を第2の目的としている。
【0030】
上記のような効果は、溶接部のみに関わるものであり、シールドガス全てをヘリウムにしなくとも、アークの生じている部分のみヘリウムガスとすることで達成できる。例えばTIG溶接の場合、トーチガスのみをヘリウムとし、溶接部前後のシールドガスはアルゴンガスでも上記効果は達成可能である。ただし、ガスの流量や溶接部の幾何学的条件によっては、アーク部に他からガスが巻き込まれて流入する場合があり、このような場合には全ての使用ガスをヘリウムにした方が良い。
【0031】
前記(8)は、本発明の前記(3)〜(7)のいずれかに記載の製造方法において、使用する厚さ6mm以上の高強度α+β型チタン合金板を、β変態点以下の温度域で50%以上の圧下量の加工をし、β変態点以下の温度域で焼鈍したものとしている。α+β型チタン合金は、β変態点以下の温度域で50%以上の圧下量の加工を受け、さらにβ変態点以下の温度域で焼鈍すると、延性に富む等軸組織、あるいはミル焼鈍組織と呼ばれる延伸組織となる。本発明は、このようなチタン合金板を使用することにより、冷間における成型性を向上させ、冷間成型を行いやすくしようとするものである。β変態点以下での加工量が50%未満であったり、焼鈍温度がβ変態点を超えると、延性に乏しい針状組織が発達するため、管の外径が小さいなどのより厳しい条件では、成型中に割れを生じる場合もある。
【0032】
前記(9)は、本発明の前記(2)に記載の高強度α+β型チタン合金管を製造する方法の一つであり、高破壊靭性に加え、高疲労強度、高延性をも併せ持ったα+β型チタン合金管を製造することができる。すなわち、前記(9)は、前記(3)〜(8)のいずれかに記載の製造方法において製造された管に対し、β変態点以上に加熱し空冷以上の冷却速度で冷却し、さらに650℃〜850℃に加熱し30分以上保持し空冷以下の冷却速度で冷却し、さらに必要に応じて、450〜650℃に加熱し2時間以上保持し空冷以下の冷却速度で冷却する一連の熱処理を行う。
【0033】
ここで、最初の熱処理である、β変態点以上に加熱し空冷以上の冷却速度で冷却する工程は、β変態点以上に加熱することにより管全体を一旦β単相とし、空冷以上の冷却速度で冷却することにより疲労特性の劣る粗大な粒界α相を生成させることなく、比較的微細な粒界α相や針状α相組織、すなわちβ焼鈍組織を得るための工程である。ここで、β変態点以上の温度に加熱しないと、全体がβ単相にならずα相が残存し、完全なβ焼鈍組織は得られない。また、空冷よりも遅い冷却速度で冷却すると、疲労特性の劣る粗大粒界α相が生成してしまう。以上の工程で、β焼鈍組織を得ることができるが、この組織は破壊靭性に優れる反面、延性に乏しく、次工程の熱処理で、組織安定化および残留歪み除去を行っておく必要がある。
【0034】
次工程の熱処理で650℃〜850℃に加熱し30分以上保持し空冷以下の冷却速度で冷却する工程は、先の工程で冷却中に残存した不安定組織を安定化するとともに、冷却中の残留歪みの大部分を除去する工程である。ここで加熱・保持温度を650〜850℃としたのは、これよりも低い温度だと拡散が遅く組織の安定化が達成されないからであり、またこれ以上の温度だと、組織が粗大化し、疲労特性が劣化するからである。また、保持時間を30分以上としたのは、これ以上の時間保持しないと、十分組織の安定化や残留歪みの除去が達成されないからである。また、冷却は空冷以下の冷却速度で行う必要がある。これよりも速い冷却速度で冷却すると、冷却中に再度歪みが蓄積してしまう。
【0035】
以上の工程でなお残留歪みが認められる場合、あるいは極端に残留歪みの除去が必要な用途に対しては、さらに管を450〜650℃に加熱し2時間以上保持し空冷以下の冷却速度で冷却する処理を行うことができる。この工程により、ほぼ完全に残留歪みは除去される。ここで450〜650℃に加熱・保持することとしたのは、これよりも低い温度だと歪みの除去が達成されないからであり、また、650℃を超えた温度に加熱すると熱歪みにより、管がわずかではあるが変形する可能性があり、その場合、再度矯正、歪み除去の工程を行う必要があるからである。また、保持時間を2時間以上としたのは、これ未満では十分に歪みの除去が達成されないからである。熱処理後の冷却は、余分な歪みの蓄積を避けるため、空冷以下の冷却速度で冷却することが必要である。
【0036】
上記工程により、所望のβ焼鈍組織が得られ、しかも熱処理後の冷却中、U−O法やプレスベンディング法による成型、溶接等の各工程にて蓄積された歪みをも解消することができ、優れた材質の管を得ることができる。また、溶接部、熱影響部とも、β粒径の差はあるものの、母材部とほぼ同じ組織となり、材質特性バラツキも抑制することができる。 また、前記(9)記載の工程は、冷間矯正と組み合わせて行うと効果的である。すなわち、最大3工程からなる熱処理の間にて、冷間矯正を適宜行うことにより、矯正と歪み除去をより効果的にかつ効率的に行うことができる。
【0037】
【実施例】
以下に、実施例によって本発明をさらに詳しく説明する。
(試験1)
まず最初に、表1に示す各種α+β型チタン合金の中実または中空ビレットを準備し、穿孔圧延−延伸圧延−定型圧延の一連の圧延工程、あるいは熱間押し出し法により、種々の径、肉厚の継ぎ目無し管を製造した。各継ぎ目無し管の長さは約10mである。また、一部の継ぎ目無し管はさらに冷間にて引き抜き加工を行った。
【0038】
表1に示すとおり、冷間での引き抜き加工を行っていない、試験番号1,2,3,4,5,7,9は、肉厚偏差が非常に大きく、最小肉厚と最大肉厚の比が、いずれも0.95未満の値となっている。試験番号6,8,10は、各々試験番号5,7,9の継ぎ目無し管を冷間引き抜き加工したもので、引き抜き加工により偏肉の度合いが減少しているが、管の外径が150mm以上で肉厚が6mm以上の試験番号6は、依然として最小肉厚と最大肉厚の比が0.95未満の大きな偏肉を有している。しかし、管の外径が150mm未満の試験番号8および肉厚が6mm未満の試験番号10は、最小肉厚と最大肉厚の比が0.95以上となっており、偏肉は是正されている。ただし、押し出し加工時に発生した疵を除去するため、かなりの切削加工が必要であった。
【0039】
【表1】
【0040】
(試験2)
表2に示す各種高強度α+β型チタン合金の厚中板(板厚5.5〜29mm、長さ約10m)を、U−O法またはプレスベンディング法により冷間にて管状に成型し、突き合わされた板端部をキーホールプラズマ溶接法により溶接し、さらに溶接フィラー(共金)を使用したTIG溶接により1パス〜6パスの肉盛りを行い、長さ約10mの高強度α+β型チタン合金管を製造した。ここで、溶接はすべてアルゴンガスを使用し、突き合わされた板端部が上側になるよう管状成型体を配置し、全ての溶接を管状成型体の外側上部から行った。
また、使用した高強度α+β型チタン合金板は、いずれもβ変態点以下の温度域で50%以上の圧下量の加工を受け、その後β変態点以下の温度域で焼鈍された板である。
【0041】
さて、表2において、試験番号11は前記(1)の(a)群の実施例であり、試験番号12〜13は前記(1)の(b)群の実施例であり、試験番号14〜15は前記(1)の(c)群の実施例であり、試験番号16〜19は前記(1)の(d)群の実施例であり、試験番号22〜23は前記(1)の(a)群の実施例である。
これらはいずれも、前記(4),(5),(8)に記載の方法によって製造されたものである。以上の本発明(1)の実施例はいずれも、外径150mm以上、肉厚6mm以上で、高強度α+β型チタン合金からなり、管の長さ方向に1ヶ所の溶接シーム部を有し、溶接部を除く部分の最小肉厚と最大肉厚の比が0.95〜0.99の範囲である。
【0042】
このような本発明(1)の管は、試験1で説明した同程度の径、肉厚の継ぎ目無し管に比べて著しく偏肉が少なくなっている。すなわち、大幅なコスト増となる大量の切削加工を行わずとも、無駄な重量の無い、高強度α+β型チタン合金からなる管を提供でき、軽量高強度のチタン合金の特徴を十分に活かすことができる。
【0043】
ここで、試験番号20および21は、最小肉厚と最大肉厚の比が0.95以上の偏肉の少ない管であるが、同寸法の試験番号8および10(表1)の冷間引き抜き加工を行った継ぎ目無し管でも、最小肉厚と最大肉厚の比が0.95以上の偏肉の少ない管が得られている。もちろん、継ぎ目無し管のように疵取りのための切削加工が不要であるという利点を有しているが、偏肉という観点からは、必ずしも継ぎ目無し管よりも有利ではない。これは、試験番号20は、前記(1)で規定されている外径150mmよりも小径の管であったため、また、試験番号21は、前記(1)で規定されている肉厚6mm未満であったため、本発明の効果が十分に発揮できなかったものである。
【0044】
なお、試験番号11〜19,20,22,23は全て6mm以上の厚さのα+β型チタン合金板を用いて製管しており、いずれも6mm以上の肉厚の管が製造されているが、試験番号21は6mm未満の肉厚である5.5mmの板厚の中板を用いたため、製管後の肉厚も6mm未満となってしまったものである。
【0045】
【表2】
【0046】
(試験3)
次に、表3に示した種々の厚板製造条件にて製造した板厚25mmのTi−6Al−4V ELI(β変態点:965℃)板を用いて、同じく表3に示した各種の成型方法にて種々の外径の管に成型し、その成型性を、割れを生ずることなく管状に成型できた最小外径/肉厚の値で評価した。ここで、試験番号24〜34,36は8mの板を、また、試験番号35は長さ2mの板を使用した。これらの管状成型体は、その後、試験2と同じ方法にて溶接し、α+β型チタン合金管に造管した。なお、いずれの試験においても、β変態点以下の温度域における厚板圧延時には、圧延方向を途中で90度回転させるクロス圧延を行っている。
【0047】
表3において、プレスベンディング法あるいはU−O法により成型した、試験番号24〜34は、使用した厚板の製造条件等の違いにより差異はあるものの、割れを生ずることなく管状に成型可能な最小外径、すなわち限界外径と、肉厚との比が10〜24の範囲にあり、冷間にて管状に成型可能であった。また、板端の突き合わせ状態も良好であった。一方、ロールベンディング法を用いた試験番号35は、限界外径/肉厚の値が24を超える場合、管状に成型可能であったが、大きな皺が発生し、板端の突き合わせ状態も悪く、次工程の溶接が安定して実施できず、さらに十分な真円度も確保できなかった。また、ロールフォーミング法を用いた試験番号36は、さらに成形性が悪く、外径700mm(外径/板厚=28)の管ですら、割れを生じ十分に成型することができなかった。以上のように、冷間成型が可能であったのは、プレスベンディング法およびU−O法により成型した場合のみであった。
【0048】
一方、プレスベンディング法により成型した試験番号24〜33のうち、試験番号25〜31は、限界外径/肉厚の値が16以下であり、より小さな外径の管も成型可能であった。これは、前記(9)の効果によるものである。すなわち、これらの板は、β変態点以下の温度域で50%以上の圧下量の加工を受け、さらにβ変態点以下の温度域で焼鈍されており、延性に富む等軸組織、あるいはミル焼鈍組織と呼ばれる延伸組織からなり、より過酷な条件での成型が可能となったものである。これに対し、試験番号24,32,33は、限界外径/肉厚の値が20〜24の比較的大きな径の管しか成型できなかった。これは、試験番号24では、前記(9)に規定された、β変態点以下での厚板圧延の加工量が50%未満であり、試験番号32,33では、焼鈍温度がβ変態点以上であったため、延性に乏しい針状組織が発達し、成型中に割れを生じやすくなり、加工条件の比較的緩い大径管しか成型できなかったものである。
【0049】
【表3】
【0050】
(試験4)
次に、28mmの板厚で長さ12mのTi−3Al−2.5Vをプレスベンディング法により冷間にて外径700mmの管状に成型し、突き合わされた板端部を表4に示す種々の条件で溶接し、Ti−3Al−2.5V管を製造した。ここで、使用したチタン合金板は、β変態点以下の温度域で90%の圧下量の加工を受け、その後β変態点以下の700℃で焼鈍された板である。溶接後の管は、720℃−2時間−空冷の熱処理を行い、矯正した後、さらに540℃−4時間−空冷の熱処理を行い、管の外面近傍の溶接金属から、平行部長さが30mmで8mmの直径の丸棒試験片を管の長さ方向と平行に切り出し、応力比マイナス1(引張−圧縮)の軸力疲労試験を行い、10の7乗回の繰り返し数でも破断しない強度を疲労強度と定義し、疲労特性の評価を行った。
【0051】
同様に母材の疲労試験も行ったが、母材の疲労強度は330MPaであった。なお、開先加工は成型前に行い、キーホールプラズマ溶接を行う場合は、Y型開先としルートフェイスを18mm、その上部を45度(突き合わせ状態で90度)の開先とした。電子ビーム溶接を行う場合には、I型開先とした。またTIG溶接やMIG溶接のみで溶接する場合には、V型開先とし、その角度は突き合わせ状態で60度とした。なお、いずれの溶接の場合にも、溶接施工に先だってTIG溶接により仮付け溶接を行った。また、電子ビーム溶接、キーホールプラズマ溶接以外の溶接には共金のフィラーを用いた。
【0052】
表4において、試験番号37〜47は、突き合わされた板端部が上側になるよう管状成型体を配置し、いずれも管状成型体の外側上部から溶接した例で、前記(5)の実施例である。その中で試験番号37はシールドガスにアルゴンを用いてTIG溶接により全溶接を行った例であり、30パスの多パスを要しているものの前記(1)のチタン合金管が製造可能であった。
疲労強度も母材よりもやや低い程度で溶接部としては十分であった。
【0053】
試験番号38および39は各々電子ビーム溶接、低圧電子ビーム溶接により溶接した場合で、1パスで溶接が可能であり著しく効率的であったが、これらの溶接法は設備コストが膨大であるため高コストであった。
試験番号40は、MIG溶接を行った場合で、5パスで溶接を完了しており全体をTIG溶接する場合(試験番号37)に比べると効率的であったが、溶接金属の疲労強度が他の溶接方法に比べて低くなるという欠点を有していた。
【0054】
以上の方法に対し、前記(4)の実施例である試験番号41,42はキーホールプラズマ溶接を組み合わせた場合で、総計7パスあるいは8パスの溶接で全溶接を完了しており、TIG溶接のみの場合よりも著しく効率的である。また、疲労強度も他の方法と比べて遜色無く、MIG溶接よりもかなり高くなっている。
【0055】
試験番号37,41,42は全ての溶接をアルゴンガス雰囲気で行った例であるが、パイロットガス、シールドガスの一部あるいは全部を、ヘリウムガスとした、試験番号43,44〜47ではさらに溶接効率が向上しており、同様の条件でアルゴンガスのみで溶接を行った場合よりも、総溶接パス数は減少している。しかも、同様の条件でアルゴンガスのみで溶接を行った場合よりも、疲労強度が高くなっている。これらはまさに前記(7)の効果である。
【0056】
次に、表4において、試験番号48〜50は、突き合わされた板端部が下側になるよう管状成型体を配置し、いずれも管状成型体の内側上部から溶接した例で、前記(6)の実施例である。溶接欠陥の生じにくい初期溶接部分が管の外側となるため、特に疲労亀裂発生の原因となることの多い管の外側の欠陥を減らすことができ、疲労強度がさらに高くなり350MPa以上となっている。特に、ヘリウムガスをパイロットガスに使用した場合にその効果が顕著であった。
【0057】
一方、表4において、試験番号51は、突き合わされた板端部が真横になるよう管状成型体を配置し、管状成型体の真横外側から溶接した例である。このような配置だと、溶融部に働く重力と凝固方向が垂直となるため、溶接部にポロシティなどの溶接欠陥が生じやすい。そのため、溶融部に働く重力と凝固方向が平行な場合と比べると、疲労強度が低下している。しかし、母材(330MPa)よりもやや低いものの、なお300MPa以上の高い値であった。
【0058】
【表4】
【0059】
(試験5)
28mmの板厚で、長さ10mで、β変態点(965℃)以下の温度域で90%の圧下量の加工を受け、その後β変態点以下の750℃で焼鈍されたTi−6Al−4V ELI−0.1Ru板を、プレスベンディング法により冷間にて外径700mmの管状に成型し、突き合わされた板端部をキーホールプラズマ溶接法により溶接し、さらに溶接フィラー(共金)を使用したTIG溶接により6パスの肉盛りを行い、Ti−6Al−4V ELI−0.1Ru管を製造した。ここで、溶接はすべてアルゴンガスを使用し、突き合わされた板端部が上側になるよう管状成型体を配置し、全ての溶接を管状成型体の外側上部から行った。
【0060】
また、開先加工は成型前に行い、ルートフェイスを18mm、その上部を45度(突き合わせ状態で90度)のY型開先とした。次に、この管に対し、表5に示す条件の熱処理を行い、母材と溶接金属の両方から、管の長さ方向と平行に、ゲージ長さ25mm、ゲージ部の直径6.25mmの丸棒引張試験片を採取し、引張試験を行い伸びを測定した。また、管の外面近傍の溶接金属から、平行部長さが30mmで8mmの直径の丸棒試験片を管の長さ方向と平行に切り出し、応力比マイナス1(引張−圧縮)の軸力疲労試験を行い、10の7乗回の繰り返し数でも破断しない強度を疲労強度と定義し、疲労特性の評価を行った。
さらに、亀裂の伝播方向が長さ方向と平行となるように、1インチCT試験片を採取し、KIC試験を行い、破壊靭性値としてKQ値を測定した。なお、熱処理が複数の工程からなる場合、各熱処理の間および最終熱処理後に、熱処理が1工程のみからなる場合、熱処理後に、各々矯正を行った。
【0061】
表5において、前記(2)の本発明実施例で、母材、溶接金属ともにβ焼鈍組織である試験番号55〜56,58〜73は、母材、溶接金属がいずれも、80MPa・√m以上の高い破壊靭性値となっており、特に高い破壊靭性が望まれる用途に対し有効なチタン合金管である。一方、試験番号52,53,54,57は、溶接金属の破壊靭性値は高いものの、母材は、ミル焼鈍組織あるいは等軸組織であるため、破壊靭性値が低くなってお
り、特に高い破壊靭性が望まれる用途に対しては不向きである。
【0062】
また、前記(2)の実施例のうち、試験番号56,58,60,64,66,67,69,70,73は、前記(9)記載の方法で製造した例である。これらはいずれも、8%以上の比較的高い伸びと、80MPa・√m以上の高い破壊靭性値、480MPa以上の高い疲労強度を合わせ持っている。これは、前記(9)の効果が十分に達成されたからである。特に、試験番号69,70,73では高い延性(伸び)が得られているが、これは、途中の製造工程で蓄積された歪みが十分に解消されることによって達成されたものである。
【0063】
一方、試験番号55は、母材、溶接金属ともに、伸びが5%の低い値となっている。これは、β変態点以上に加熱後、何ら熱処理を行っていないため、冷却中に残存した不安定組織を安定化することができず、また、冷却中の残留歪みが除去できなかったためである。
試験番号59は、母材、溶接金属とも比較的高い伸びと高破壊靭性が得られているが、疲労強度が極端に低くなっている。これは、β変態点以上の温度に加熱した後、本発明で規定された空冷以上の冷却速度で冷却しなかったため、疲労特性の劣る粗大粒界α相が生成し、疲労特性が低下してしまったものである。
【0064】
試験番号61〜62,65は、母材、溶接金属ともにいずれも低い伸びしか得られなかった。これは、試験番号61は、β変態点以上への加熱冷却に引き続いて行った熱処理の保持時間が、前記(10)で規定された30分未満であったため、組織の安定化や残留歪みの除去が十分達成されなかったたらであり、試験番号62は、同じく熱処理の温度が、前記(10)で規定された650℃よりも低かったため、拡散が不十分で組織の安定化が達成されなかったからであり、試験番号65は、同じく熱処理後の冷却速度が前記(10)で規定された空冷以下の冷却速度よりも速い冷却速度であったため、冷却中に再度歪みが蓄積したためである。また、試験番号63は、β変態点以上の温度への加熱冷却後の熱処理の温度が、前記(10)で規定された850℃よりも高かったため、組織が粗大化し疲労強度が低くなってしまった。
【0065】
さて、試験番号68,71,72,73は、比較的高い伸び、高破壊靭性、高疲労強度のいずれもが、母材、溶接金属ともに達成されているが、3工程からなる熱処理を行ったにもかかわらず、2工程からなる熱処理しか行っていない、試験番号56とほとんど同じ特性あるいはこれよりも若干低い特性しか得られていない。その理由は、試験番号68は、3工程目の熱処理の温度が、前記(11)で規定された450℃よりも低かったため、さらなる歪みの除去が達成されなかったからであり、試験番号71は、同じく3工程目の熱処理の温度が、前記(11)で規定された650℃よりも高かったため、熱歪みにより、管が変形し、その後の矯正時に再度歪みが蓄積したためであり、試験番号72は、同じく3工程目の熱処理の時間が、前記(11)で規定された2時間よりも短かったためさらなる歪みの除去が十分に達成されなかったからであり、試験番号73は、同じく3工程目の熱処理後の冷却速度が、前記(11)で規定された空冷以下の冷却速度よりも速い冷却速度であったため、冷却中に再度歪みが蓄積したためである。
【0066】
【表5】
【0067】
以上のように、前記(11)を適用することにより、破壊靭性に優れたβ焼鈍組織を有し、冷間成型、溶接等の各工程にて蓄積された歪みが解消され、粗大α相も抑制され、高疲労強度、高延性をも併せ持ったα+β型チタン合金管を製造することができる。これらチタン合金管の溶接部は、母材部とほぼ同じ組織となり、材質特性バラツキも抑制される。
【0068】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明を適用することにより、大幅なコスト増となる大量の切削加工を必要とせず、軽量高強度のチタン合金の特徴を十分に活かすことのできる、高強度α+β型チタン合金管を提供できる。また、このようなチタン合金管を低コストで製造することができる。
Claims (11)
- 下記(a)〜(e)群のいずれかから選んだ高強度α+β型チタン合金管からなる管であって、外径150mm以上、肉厚6mm以上で管の長さ方向の溶接シーム部を1ヶ所有し、溶接部を除く部分の最小肉厚と最大肉厚の比(最小肉厚/最大肉厚)が、0.95〜0.99であることを特徴とする、高強度α+β型チタン合金管。
質量%で、
(a)Al:2.5〜3.5%、 V:2.0〜3.0%、
残部がTiおよび不可避不純物からなる高強度α+β型チタン合金。
(b)Al:2.5〜3.5%、 V:2.0〜3.0%、
Pd,Ruの1種以上:総量で0.01〜0.5%、
残部がTiおよび不可避不純物からなる高強度α+β型チタン合金。
(c)Al:5.5〜6.75%、 V:3.5〜4.5%、
残部がTiおよび不可避不純物からなる高強度α+β型チタン合金。
(d)Al:5.5〜6.75%、 V:3.5〜4.5%、
Pd,Ruの1種以上:総量で0.01〜0.5%、
残部がTiおよび不可避不純物からなる高強度α+β型チタン合金。
(e)Fe:1.0〜1.5%、 O:0.2〜0.6%、
N :0.01〜0.05%、
残部がTiおよび不可避不純物からなる高強度α+β型チタン合金。 - 管全体が、β焼鈍組織からなることを特徴とする、請求項1に記載の高強度α+β型チタン合金管。
- 請求項1または2に記載の高強度α+β型チタン合金管を製造する方法であって、厚さ6mm以上の高強度α+β型チタン合金板を、冷間にてU−O法またはプレスベンディング法により管状に成型し、突き合わされた板端部を溶接することを特徴とする、高強度α+β型チタン合金管の製造方法。
- 突き合わされた板端部をキーホールプラズマ溶接法により溶接することを特徴とする、請求項3に記載の高強度α+β型チタン合金管の製造方法。
- 突き合わされた板端部をキーホールプラズマ溶接法により溶接し、さらに溶接フィラーを使用したプラズマ溶接あるいはTIG溶接により肉盛りを行うことを特徴とする、請求項3または4に記載の高強度α+β型チタン合金管の製造方法。
- 突き合わされた板端部が上側になるよう管状成型体を配置し、溶接を管状成型体の外側上部から行うことを特徴とする、請求項3乃至5のいずれか1項に記載の高強度α+β型チタン合金管の製造方法。
- 突き合わされた板端部が下側になるよう管状成型体を配置し、溶接を管状成型体の内側上部から行うことを特徴とする、請求項3乃至5のいずれか1項に記載の高強度α+β型チタン合金管の製造方法。
- 溶接に使用するパイロットガス、シールドガスの一部あるいは全部を、ヘリウムガスとすることを特徴とする、請求項3乃至7のいずれか1項に記載の高強度α+β型チタン合金管の製造方法。
- 厚さ6mm以上の高強度α+β型チタン合金板が、β変態点以下の温度域で50%以上の圧下量の加工を受け、β変態点以下の温度域で焼鈍された高強度α+β型チタン合金板であることを特徴とする、請求項3乃至8のいずれか1項に記載の高強度α+β型チタン合金管の製造方法。
- 請求項3乃至9のいずれか1項に記載の製造方法において、溶接後の管を、β変態点以上に加熱し空冷以上の冷却速度で冷却し、さらに650℃〜850℃に加熱し30分以上保持し空冷以下の冷却速度で冷却する熱処理を行うことを特徴とする、高強度α+β型チタン合金管の製造方法。
- 請求項3乃至9のいずれか1項に記載の製造方法において、溶接後の管を、β変態点以上に加熱し空冷以上の冷却速度で冷却し、さらに、650℃〜850℃に加熱し30分以上保持し空冷以下の冷却速度で冷却し、さらに、450〜650℃に加熱し2時間以上保持し空冷以下の冷却速度で冷却する一連の熱処理を行うことを特徴とする、高強度α+β型チタン合金管の製造方法。
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