JP3307841B2 - 耐塩酸性及び冷間加工性に優れたセミオーステナイト型析出硬化ステンレス鋼 - Google Patents
耐塩酸性及び冷間加工性に優れたセミオーステナイト型析出硬化ステンレス鋼Info
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- JP3307841B2 JP3307841B2 JP28069596A JP28069596A JP3307841B2 JP 3307841 B2 JP3307841 B2 JP 3307841B2 JP 28069596 A JP28069596 A JP 28069596A JP 28069596 A JP28069596 A JP 28069596A JP 3307841 B2 JP3307841 B2 JP 3307841B2
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Description
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、固溶化状態での良
好な冷間加工性、加工後に高い析出硬化度を有し高硬度
が得られ、かつ使用時には特に耐塩酸環境に優れた耐食
性を有するセミオーステナイト型析出硬化ステンレス鋼
に関するもので、その用途は冷間鍛造にて製造されるボ
ルト・ナット、シャフト類およびドリリングタッピング
ネジなどである。
好な冷間加工性、加工後に高い析出硬化度を有し高硬度
が得られ、かつ使用時には特に耐塩酸環境に優れた耐食
性を有するセミオーステナイト型析出硬化ステンレス鋼
に関するもので、その用途は冷間鍛造にて製造されるボ
ルト・ナット、シャフト類およびドリリングタッピング
ネジなどである。
【0002】
【従来の技術】従来、冷間鍛造にて製造されるステンレ
ス製高強度ボルトやネジ等は、素材の冷間加工のしやす
さよりSUS410を使用される場合が多いが、冷間鍛
造後に所定の焼入焼戻処理を施しても硬度および耐食性
が不足しており、窒化処理や部分メッキなとで特性を補
う必要があった。また、Cu含有オーステナイト系ステ
ンレス鋼やセミオーステナイト型析出硬化ステンレス鋼
のSUS631等が使用される場合もあるが、どの鋼種
も一長一短であり、耐食性、高強度、高冷間加工性を全
て合わせ持つ材料は存在しなかった。
ス製高強度ボルトやネジ等は、素材の冷間加工のしやす
さよりSUS410を使用される場合が多いが、冷間鍛
造後に所定の焼入焼戻処理を施しても硬度および耐食性
が不足しており、窒化処理や部分メッキなとで特性を補
う必要があった。また、Cu含有オーステナイト系ステ
ンレス鋼やセミオーステナイト型析出硬化ステンレス鋼
のSUS631等が使用される場合もあるが、どの鋼種
も一長一短であり、耐食性、高強度、高冷間加工性を全
て合わせ持つ材料は存在しなかった。
【0003】そこで、発明者らは上記問題を解決すべく
特願平7−145481号にて冷間加工性に優れたセミ
オーステナイト型析出硬化ステンレス鋼を発明した。こ
の発明鋼は素材時のSUSXM7並の高冷間加工性と、
加工により生じたマルテンサイトが高い析出硬化特性を
持つため、使用時は450HV以上の高強度とSUS3
04並の優れた耐食性を合わせ持つものである。しか
し、この特願平7−145481号の発明鋼は通常環境
では十分な耐食性を有するが、常時塩酸雰囲気に曝され
る環境下ではその耐食性は不十分であることが分かっ
た。
特願平7−145481号にて冷間加工性に優れたセミ
オーステナイト型析出硬化ステンレス鋼を発明した。こ
の発明鋼は素材時のSUSXM7並の高冷間加工性と、
加工により生じたマルテンサイトが高い析出硬化特性を
持つため、使用時は450HV以上の高強度とSUS3
04並の優れた耐食性を合わせ持つものである。しか
し、この特願平7−145481号の発明鋼は通常環境
では十分な耐食性を有するが、常時塩酸雰囲気に曝され
る環境下ではその耐食性は不十分であることが分かっ
た。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明が解決しようと
する課題は、固溶化状態でオーステナイト組織であり、
冷間用のCu含有オーステナイトステンレス鋼のSUS
XM7と同等の優れた冷間加工性を有し、使用時には4
50HV以上の高強度と塩酸環境下での部材に使用でき
る耐塩酸性を持つ、冷間加工性に優れたセミオーステナ
イト型析出硬化ステンレス鋼を提供することである。
する課題は、固溶化状態でオーステナイト組織であり、
冷間用のCu含有オーステナイトステンレス鋼のSUS
XM7と同等の優れた冷間加工性を有し、使用時には4
50HV以上の高強度と塩酸環境下での部材に使用でき
る耐塩酸性を持つ、冷間加工性に優れたセミオーステナ
イト型析出硬化ステンレス鋼を提供することである。
【0005】
【課題を解決するための手段】一般に耐塩酸性を向上さ
せるにはMoの添加が有効であると言われているが、発
明者らは特願平7−145481号に示す成分系にて更
に検討した結果、この鋼種における耐塩酸性はδフェラ
イト量に依存しており、Moを逆に特願平7−1454
81号の範囲より低減してNi−bal.を−2以上に
し、鋼中のδフェライトを減少させると耐塩酸性が向上
することを見いだした。Moを低減すると特願平7−1
45481号でも述べているように、耐孔食性を初めと
する一般的な耐食性はSUS304よりも劣る結果にな
るが、従来のSUS630以上の耐食性は確保でき、実
用上は問題ないと考える。
せるにはMoの添加が有効であると言われているが、発
明者らは特願平7−145481号に示す成分系にて更
に検討した結果、この鋼種における耐塩酸性はδフェラ
イト量に依存しており、Moを逆に特願平7−1454
81号の範囲より低減してNi−bal.を−2以上に
し、鋼中のδフェライトを減少させると耐塩酸性が向上
することを見いだした。Moを低減すると特願平7−1
45481号でも述べているように、耐孔食性を初めと
する一般的な耐食性はSUS304よりも劣る結果にな
るが、従来のSUS630以上の耐食性は確保でき、実
用上は問題ないと考える。
【0006】しかし、単にMoのみを低減した場合には
固溶化熱処理後の硬さ及びMd30が上昇しすぎてST
硬さが高くなるとともに加工硬化率も高くなり、冷間加
工性が劣化する。特願平7−145481号での固溶化
硬さの指標としてMAIを導出しているが、これにはM
oを低下させる影響については明確では無かった。そこ
で新たに実験値の多重回帰より導き出したSTH式の値
が200以下として固溶化熱処理硬さを200HV以下
にした上で、冷間加工で加工誘起マルテンサイトが生ず
るようにMd30が0〜−40の範囲になるように成分
調整すれば、冷間加工用として汎用されているSUSX
M7といったCu含有オーステナイトステンレス鋼と同
等の冷間加工性を確保できることが分かった。また、特
願平7−145481号と同様に冷間加工で生じたマル
テンサイトはCu,Nbを過飽和に固溶しているため高
い析出硬化度を有し、60%冷間加工後に480℃時効
処理を施すと450HV以上の高強度を得ることができ
ることも明らかである。
固溶化熱処理後の硬さ及びMd30が上昇しすぎてST
硬さが高くなるとともに加工硬化率も高くなり、冷間加
工性が劣化する。特願平7−145481号での固溶化
硬さの指標としてMAIを導出しているが、これにはM
oを低下させる影響については明確では無かった。そこ
で新たに実験値の多重回帰より導き出したSTH式の値
が200以下として固溶化熱処理硬さを200HV以下
にした上で、冷間加工で加工誘起マルテンサイトが生ず
るようにMd30が0〜−40の範囲になるように成分
調整すれば、冷間加工用として汎用されているSUSX
M7といったCu含有オーステナイトステンレス鋼と同
等の冷間加工性を確保できることが分かった。また、特
願平7−145481号と同様に冷間加工で生じたマル
テンサイトはCu,Nbを過飽和に固溶しているため高
い析出硬化度を有し、60%冷間加工後に480℃時効
処理を施すと450HV以上の高強度を得ることができ
ることも明らかである。
【0007】これらより、その発明の要旨とするところ
は、重量%にして、C :0.030%以下、Si:
0.5%以下、Mn:1.0%以下、S :0.030
%以下、Ni:6.0〜9.0%、Cr:14〜19
%、Mo:0.5%未満、Cu:2.5〜5.0%、N
b:0.1〜0.4%、かつC+Nが0.04%以下、
残部がFeおよび不可避不純物よりなり、下記式で示さ
れるNi−ba1.が−2以上、Md30が0〜−40
で、STHが200以下で、固溶化処理状態で主として
オーステナイト組織を有し、冷間加工により容易にマル
テンサイト組織となり、優れた析出硬化特性を持つこと
を特徴とする、耐塩酸性および冷間加工性に優れたセミ
オーステナイト型析出硬化ステンレス鋼。ただし、 Ni−ba1.=Ni+27C+23N+0.2Mn+
0.3Cu−1.2(Cr+Mo)−0.5Si−0.
2Nb+10 Md30=551−462(C+N)−9.2Si−
8.1Mn−13.7Cr−29(Ni+Cu)−1
8.5Mo STH=1353−3870C−72.5Ni−38.
4Cr−32.2Mo である。
は、重量%にして、C :0.030%以下、Si:
0.5%以下、Mn:1.0%以下、S :0.030
%以下、Ni:6.0〜9.0%、Cr:14〜19
%、Mo:0.5%未満、Cu:2.5〜5.0%、N
b:0.1〜0.4%、かつC+Nが0.04%以下、
残部がFeおよび不可避不純物よりなり、下記式で示さ
れるNi−ba1.が−2以上、Md30が0〜−40
で、STHが200以下で、固溶化処理状態で主として
オーステナイト組織を有し、冷間加工により容易にマル
テンサイト組織となり、優れた析出硬化特性を持つこと
を特徴とする、耐塩酸性および冷間加工性に優れたセミ
オーステナイト型析出硬化ステンレス鋼。ただし、 Ni−ba1.=Ni+27C+23N+0.2Mn+
0.3Cu−1.2(Cr+Mo)−0.5Si−0.
2Nb+10 Md30=551−462(C+N)−9.2Si−
8.1Mn−13.7Cr−29(Ni+Cu)−1
8.5Mo STH=1353−3870C−72.5Ni−38.
4Cr−32.2Mo である。
【0008】
【発明の実施の形態】以下に、本発明鋼の化学成分の添
加量の限定理由を示す。 C:Cは固溶強化元素であるため、0.030%を超え
て添加されると硬さが上昇して冷間加工性が劣化する。
また、Cは耐食性に有効な元素であるCr,Moと炭化
物を形成し、このためマトリックス中に固溶しているC
r,Moが減少して耐食性が劣化する。これらを抑制す
るためにCは0.030%以下とする。より望ましくは
0.020%以下である。 Si:Siは脱酸材として非常に有効な元素であるが、
0.5%を超えると耐食性が劣化し、かつ固溶化熱処理
時の硬さを上昇させて冷間加工性が劣化する。そのた
め、Siは0.5%以下とする。
加量の限定理由を示す。 C:Cは固溶強化元素であるため、0.030%を超え
て添加されると硬さが上昇して冷間加工性が劣化する。
また、Cは耐食性に有効な元素であるCr,Moと炭化
物を形成し、このためマトリックス中に固溶しているC
r,Moが減少して耐食性が劣化する。これらを抑制す
るためにCは0.030%以下とする。より望ましくは
0.020%以下である。 Si:Siは脱酸材として非常に有効な元素であるが、
0.5%を超えると耐食性が劣化し、かつ固溶化熱処理
時の硬さを上昇させて冷間加工性が劣化する。そのた
め、Siは0.5%以下とする。
【0009】Mn:Mnは固溶化状態でのオーステナイ
ト傾向を高め、強度および靱性を向上させるに有効な元
素であるが、1%を超えると冷間加工時にマルテンサイ
ト変態するのを抑制し、冷間加工時の加工硬化率および
変形抵抗が高くなる。また、冷間加工後の析出硬化特性
も損ねる。そのため、Mnの上限を1%とした。 S:Sは切削加工性を向上させるためには非常に有効な
元素であるが、0.03%を超えて添加すると耐食性が
劣化するので上限を0.03%とした。
ト傾向を高め、強度および靱性を向上させるに有効な元
素であるが、1%を超えると冷間加工時にマルテンサイ
ト変態するのを抑制し、冷間加工時の加工硬化率および
変形抵抗が高くなる。また、冷間加工後の析出硬化特性
も損ねる。そのため、Mnの上限を1%とした。 S:Sは切削加工性を向上させるためには非常に有効な
元素であるが、0.03%を超えて添加すると耐食性が
劣化するので上限を0.03%とした。
【0010】Ni:Niはオーステナイト化傾向が強
く、かつ析出硬化特性を有するので必要不可欠の元素で
ある。6%未満ではδフェライトの生成を抑制する作用
および固溶化状態でのマルテンサイト組織を抑制してオ
ーステナイト組織とする作用が十分にできないため下限
を6%とした。しかし、9%を超えるとMd30が低く
なり過ぎてオーステナイトの安定度が増し、冷間加工時
の加工硬化率および変形抵抗が高くなると共に、冷間加
工後の析出硬化特性が失われるため、上限を9%とし
た。
く、かつ析出硬化特性を有するので必要不可欠の元素で
ある。6%未満ではδフェライトの生成を抑制する作用
および固溶化状態でのマルテンサイト組織を抑制してオ
ーステナイト組織とする作用が十分にできないため下限
を6%とした。しかし、9%を超えるとMd30が低く
なり過ぎてオーステナイトの安定度が増し、冷間加工時
の加工硬化率および変形抵抗が高くなると共に、冷間加
工後の析出硬化特性が失われるため、上限を9%とし
た。
【0011】Cr:Crはステンレス鋼としての耐食性
を確保する上で必要不可欠な元素であり、また、本発明
鋼ではMd30、STHを調整するのに主要な元素であ
る。本発明鋼はMoを0.5%未満と低く抑えているた
めCr添加量が14%未満ではSUS630並の耐食性
は確保できなくなる。しかし、フェライト生成傾向が強
く、19%を超えて多量添加するとNi−bal.が低
下してδフェライト量が増し、耐塩酸性を損ねるように
なる。そのため上限を19%とした。
を確保する上で必要不可欠な元素であり、また、本発明
鋼ではMd30、STHを調整するのに主要な元素であ
る。本発明鋼はMoを0.5%未満と低く抑えているた
めCr添加量が14%未満ではSUS630並の耐食性
は確保できなくなる。しかし、フェライト生成傾向が強
く、19%を超えて多量添加するとNi−bal.が低
下してδフェライト量が増し、耐塩酸性を損ねるように
なる。そのため上限を19%とした。
【0012】Mo:Moは耐食性、耐孔食性の向上に有
効な元素であるが、0.5%以上添加するとNi−ba
l.が低くなると共に基地中のδフェライトが増加し、
耐塩酸性を損ねることとなる。そのため、Moを0.5
%未満に限定した。Moは特願平7−145481号で
述べているように耐孔食性を初めとする一般的な耐食性
に関しては有効であるため、本成分系では一般的な耐食
性は劣化する。ただし、Moを添加しない場合でも本成
分系ではSUS630並の耐孔食性は確保できており、
実用上はそれほど問題ないと考えている。
効な元素であるが、0.5%以上添加するとNi−ba
l.が低くなると共に基地中のδフェライトが増加し、
耐塩酸性を損ねることとなる。そのため、Moを0.5
%未満に限定した。Moは特願平7−145481号で
述べているように耐孔食性を初めとする一般的な耐食性
に関しては有効であるため、本成分系では一般的な耐食
性は劣化する。ただし、Moを添加しない場合でも本成
分系ではSUS630並の耐孔食性は確保できており、
実用上はそれほど問題ないと考えている。
【0013】Cu:Cuは析出硬化特性を持たすために
必要不可欠な元素である。Cuの添加量が2.5%未満
では析出硬化特性を損ね、また冷間加工性を向上させる
効果も十分では無いため、その下限を2.5%とした。
しかし、5%を超えて添加すると熱間加工性および靱性
が劣化して、工業的な圧延が困難になる。そのため、上
限を5%とした。
必要不可欠な元素である。Cuの添加量が2.5%未満
では析出硬化特性を損ね、また冷間加工性を向上させる
効果も十分では無いため、その下限を2.5%とした。
しかし、5%を超えて添加すると熱間加工性および靱性
が劣化して、工業的な圧延が困難になる。そのため、上
限を5%とした。
【0014】Nb:NbはCおよびNを固定すると共に
析出硬化度を向上させるに必要不可欠な元素であるが、
0.1%未満ではその効果が少ないため下限を0.1%
とした。また、0.4%を超えて多量添加すると靱性及
び熱間加工性を劣化させると共に、Md30を下げて冷
間加工時の硬さ及び変形抵抗を増加させると共に、冷間
加工後の析出硬化特性を劣化させるのでその上限を0.
4%とした。
析出硬化度を向上させるに必要不可欠な元素であるが、
0.1%未満ではその効果が少ないため下限を0.1%
とした。また、0.4%を超えて多量添加すると靱性及
び熱間加工性を劣化させると共に、Md30を下げて冷
間加工時の硬さ及び変形抵抗を増加させると共に、冷間
加工後の析出硬化特性を劣化させるのでその上限を0.
4%とした。
【0015】C+N:Nは耐孔食性の向上およびオース
テナイト生成傾向が強く、基地のδフェライトを減少さ
せるに非常に有効な元素であるが、Cと同様マトリック
スに固溶して硬さを増加させる。CとNの総量として
0.04%を超えると固溶化状態での硬さが高くなり、
冷間加工性が劣化すると共に、炭窒化物が生成しやすく
なって耐食性が劣化するため、その上限を0.04%と
した。
テナイト生成傾向が強く、基地のδフェライトを減少さ
せるに非常に有効な元素であるが、Cと同様マトリック
スに固溶して硬さを増加させる。CとNの総量として
0.04%を超えると固溶化状態での硬さが高くなり、
冷間加工性が劣化すると共に、炭窒化物が生成しやすく
なって耐食性が劣化するため、その上限を0.04%と
した。
【0016】Ni−bal.:Ni−bal.は凝固後
の組織を推定する上で有効となる指標である。この計算
値が負の値になるとδフェライト相が生成する。本発明
におけるNi−bal.は著名なシェフラーが提唱した
ニッケルバランスを基本として実測値から多重解析にて
求めたものであり、本発明鋼に含有してシェフラーの式
には無いCuとNbの鋼を加えたものである。特願平7
−145481号では熱間加工性の観点からNi−ba
l.を−4以上に限定したが、本発明ではδフェライト
の生成を抑制して耐塩酸性を改善するため、Ni−ba
l.は−2以上とした。
の組織を推定する上で有効となる指標である。この計算
値が負の値になるとδフェライト相が生成する。本発明
におけるNi−bal.は著名なシェフラーが提唱した
ニッケルバランスを基本として実測値から多重解析にて
求めたものであり、本発明鋼に含有してシェフラーの式
には無いCuとNbの鋼を加えたものである。特願平7
−145481号では熱間加工性の観点からNi−ba
l.を−4以上に限定したが、本発明ではδフェライト
の生成を抑制して耐塩酸性を改善するため、Ni−ba
l.は−2以上とした。
【0017】Md30:冷間加工によりマルテンサイト
変態が起こるのを推定する指標であり、その意味は30
%冷間加工を施した場合に50%マルテンサイト変態が
起こる温度である。この値が高くなるほど冷間加工によ
りマルテンサイト変態が起こりやすくなる。Md30を
−40以上にすると常温以上の冷間加工によりマルテン
サイト変態量が増加し、冷間加工後に十分な析出硬化特
性を持つようになる。そのためMd30の下限を−40
とした。しかし、Md30の値が0を超えると固溶化熱
処理でマルテンサイトが生じて硬さが上昇し、冷間加工
時の変形抵抗を高めて加工性を劣化させる。そのため、
上限を0とした。
変態が起こるのを推定する指標であり、その意味は30
%冷間加工を施した場合に50%マルテンサイト変態が
起こる温度である。この値が高くなるほど冷間加工によ
りマルテンサイト変態が起こりやすくなる。Md30を
−40以上にすると常温以上の冷間加工によりマルテン
サイト変態量が増加し、冷間加工後に十分な析出硬化特
性を持つようになる。そのためMd30の下限を−40
とした。しかし、Md30の値が0を超えると固溶化熱
処理でマルテンサイトが生じて硬さが上昇し、冷間加工
時の変形抵抗を高めて加工性を劣化させる。そのため、
上限を0とした。
【0018】STH:本成分系において、固溶化熱処理
硬さを推定するための指標として実験より多重解析して
求めた実験式である。この式の値が200を超えると固
溶化熱処理後の硬さが200HV以上となり、冷間加工
時の変形抵抗が高くなって加工性か劣化する。そのた
め、上限を200とした。
硬さを推定するための指標として実験より多重解析して
求めた実験式である。この式の値が200を超えると固
溶化熱処理後の硬さが200HV以上となり、冷間加工
時の変形抵抗が高くなって加工性か劣化する。そのた
め、上限を200とした。
【0019】
【実施例】以下に本発明鋼の特徴を比較鋼と比べて実施
例をもって説明する。表1にこれら供試材の化学成分、
各制御式の値を示したものであり、1〜3が本発明鋼で
ある。4〜7は比較鋼であるが、4、5は特願平7−1
45481号の特許請求範囲である。また、従来鋼は8
〜10であるが、8はSUSXM7、9はSUS30
4、10はSUS630である。表2は溶製した鋼塊を
φ20mmに圧延後、1040℃、水冷の条件にて固溶
化熱処理した状態での硬さ、固溶化処理材を20%およ
び50%の冷間加工を施した時の変形抵抗値、60%冷
間加工を施した後に480℃、空冷の条件で析出硬化し
た状態での硬さ、及びその状態での耐食性を示したもの
である。
例をもって説明する。表1にこれら供試材の化学成分、
各制御式の値を示したものであり、1〜3が本発明鋼で
ある。4〜7は比較鋼であるが、4、5は特願平7−1
45481号の特許請求範囲である。また、従来鋼は8
〜10であるが、8はSUSXM7、9はSUS30
4、10はSUS630である。表2は溶製した鋼塊を
φ20mmに圧延後、1040℃、水冷の条件にて固溶
化熱処理した状態での硬さ、固溶化処理材を20%およ
び50%の冷間加工を施した時の変形抵抗値、60%冷
間加工を施した後に480℃、空冷の条件で析出硬化し
た状態での硬さ、及びその状態での耐食性を示したもの
である。
【0020】
【表1】
【0021】
【表2】
【0022】耐食性の評価は耐塩酸性と耐孔食性で評価
した。耐塩酸性は25℃、5%濃度の希塩酸中に試験片
を浸漬して24時間放置後に試験片減量を測定すること
を2回繰り返して平均値を求め、単位面積時間当たりの
腐食減量を導出して評価した。また、耐孔食性の試験は
JISの6%塩化第二鉄溶液の浸漬試験を行い、その腐
食減量を導出して評価している。
した。耐塩酸性は25℃、5%濃度の希塩酸中に試験片
を浸漬して24時間放置後に試験片減量を測定すること
を2回繰り返して平均値を求め、単位面積時間当たりの
腐食減量を導出して評価した。また、耐孔食性の試験は
JISの6%塩化第二鉄溶液の浸漬試験を行い、その腐
食減量を導出して評価している。
【0023】固溶化処理後の硬さは発明鋼は全て200
HV以下であるのに対し比較鋼6はSTHの値が高いた
め、マルテンサイトが生じて硬さが高くなっている。変
形抵抗は固溶化状態での硬さと加工中のマルテンサイト
変態の量に左右される。発明鋼は比較鋼4、5と同様、
加工率20%、50%とも低い値を保っているのに対し
比較鋼6は固溶化硬さが高いため20%における変形抵
抗が高くなっている。比較鋼7は20%の変形抵抗は発
明鋼と同等であるが、Md30が低いため加工誘起マル
テンサイト変態があまり起こらず、50%における変形
抵抗が高くなっている。また、比較鋼7は加工後のマル
テンサイト量が不足しているため、十分な析出硬化が得
られず、時効硬さも低くなっている。
HV以下であるのに対し比較鋼6はSTHの値が高いた
め、マルテンサイトが生じて硬さが高くなっている。変
形抵抗は固溶化状態での硬さと加工中のマルテンサイト
変態の量に左右される。発明鋼は比較鋼4、5と同様、
加工率20%、50%とも低い値を保っているのに対し
比較鋼6は固溶化硬さが高いため20%における変形抵
抗が高くなっている。比較鋼7は20%の変形抵抗は発
明鋼と同等であるが、Md30が低いため加工誘起マル
テンサイト変態があまり起こらず、50%における変形
抵抗が高くなっている。また、比較鋼7は加工後のマル
テンサイト量が不足しているため、十分な析出硬化が得
られず、時効硬さも低くなっている。
【0024】耐塩酸性に関して、発明鋼の腐食減量が非
常に低く従来鋼9、10といったオーステナイト系ステ
ンレス鋼よりも良好であることが分かる。しかし、比較
鋼4、5ではNi−ba1.が低く鋼中にδフェライト
が存在するため耐塩酸性が悪いことが分かる。耐孔食性
に関しては比較鋼4、5、従来鋼9、10が良好な値と
なっており、Moを減らした発明鋼はこれらより若干劣
っている。しかし、従来鋼11とほぼ同等の耐孔食性は
確保しているため、通常環境での耐食性はステンレスと
して問題ないレベルである。
常に低く従来鋼9、10といったオーステナイト系ステ
ンレス鋼よりも良好であることが分かる。しかし、比較
鋼4、5ではNi−ba1.が低く鋼中にδフェライト
が存在するため耐塩酸性が悪いことが分かる。耐孔食性
に関しては比較鋼4、5、従来鋼9、10が良好な値と
なっており、Moを減らした発明鋼はこれらより若干劣
っている。しかし、従来鋼11とほぼ同等の耐孔食性は
確保しているため、通常環境での耐食性はステンレスと
して問題ないレベルである。
【0025】
【発明の効果】以上の説明及び実施例より明らかなよう
に、本発明鋼は固溶化状態ではオーステナイト組織であ
り、かつSUSXM7並の良好な冷間加工特性を有し、
冷間加工後に熱処理を施すことにより加工硬化した基地
硬さに析出硬化による硬さが加わり非常に高い強度が得
られる。特に60%以上の加工率を施してから熱処理を
施すと450HV以上が得られる。さらに、耐塩酸性に
関しては非常に優れた特性を示し、その他の耐食性に関
してもSUS630並の特性を有しているセミオーステ
ナイト型析出硬化ステンレス鋼であることが分かる。そ
のため、塩酸環境下での高強度ボルト材などを冷間鍛造
等にて製造することができる従来の鋼にない優れた効果
を有するものである。
に、本発明鋼は固溶化状態ではオーステナイト組織であ
り、かつSUSXM7並の良好な冷間加工特性を有し、
冷間加工後に熱処理を施すことにより加工硬化した基地
硬さに析出硬化による硬さが加わり非常に高い強度が得
られる。特に60%以上の加工率を施してから熱処理を
施すと450HV以上が得られる。さらに、耐塩酸性に
関しては非常に優れた特性を示し、その他の耐食性に関
してもSUS630並の特性を有しているセミオーステ
ナイト型析出硬化ステンレス鋼であることが分かる。そ
のため、塩酸環境下での高強度ボルト材などを冷間鍛造
等にて製造することができる従来の鋼にない優れた効果
を有するものである。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (56)参考文献 特開 平8−92699(JP,A) 特開 平6−248392(JP,A) 特開 平8−225894(JP,A) 特公 平6−15704(JP,B2) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) C22C 38/00 - 38/60
Claims (1)
- 【請求項1】 重量%にして、 C :0.030%以下、 Si:0.5%以下、 Mn:1.0%以下、 S :0.030%以下、 Ni:6.0〜9.0%、 Cr:14〜19%、 Mo:0.5%未満、 Cu:2.5〜5.0%、 Nb:0.1〜0.4%、 かつC+Nが0.04%以下、残部がFeおよび不可避
不純物よりなり、下記式で示されるNi−ba1.が−
2以上、Md30が0〜−40、STH(固溶化熱処理
硬さ推定式)の値が200以下で、固溶化処理状態で主
としてオーステナイト組織を有し、冷間加工により容易
にマルテンサイト組織となり、優れた析出硬化特性を持
つことを特徴とする、耐塩酸性および冷間加工性に優れ
たセミオーステナイト型析出硬化ステンレス鋼。ただ
し、 Ni−ba1.=Ni+27C+23N+0.2Mn+
0.3Cu−1.2(Cr+Mo)−0.5Si−0.
2Nb+10 Md30=551−462(C+N)−9.2Si−
8.1Mn−13.7Cr−29(Ni+Cu)−1
8.5Mo STH=1353−3870C−72.5Ni−38.
4Cr−32.2Mo
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---|---|---|---|
JP28069596A JP3307841B2 (ja) | 1996-10-23 | 1996-10-23 | 耐塩酸性及び冷間加工性に優れたセミオーステナイト型析出硬化ステンレス鋼 |
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JPH10130784A JPH10130784A (ja) | 1998-05-19 |
JP3307841B2 true JP3307841B2 (ja) | 2002-07-24 |
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---|---|---|---|---|
JP3691341B2 (ja) * | 2000-05-16 | 2005-09-07 | 日新製鋼株式会社 | 精密打抜き性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼板 |
-
1996
- 1996-10-23 JP JP28069596A patent/JP3307841B2/ja not_active Expired - Fee Related
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Publication number | Publication date |
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