JP2944856B2 - 冷間加工性および耐孔食性に優れた析出硬化型ステンレス鋼 - Google Patents

冷間加工性および耐孔食性に優れた析出硬化型ステンレス鋼

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JP2944856B2 JP16845593A JP16845593A JP2944856B2 JP 2944856 B2 JP2944856 B2 JP 2944856B2 JP 16845593 A JP16845593 A JP 16845593A JP 16845593 A JP16845593 A JP 16845593A JP 2944856 B2 JP2944856 B2 JP 2944856B2
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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、冷間加工性および耐孔
食性に優れたマルテンサイト系析出硬化型ステンレス鋼
に関する。マルテンサイト系析出硬化型ステンレス鋼の
鋼線、棒鋼および鋼管は、原子力材料や海洋材料、プラ
スチック金型および高強度ボルト・ナット、シャフトと
して用いられ、特に耐孔食性を必要とする分野において
使用される。
【0002】
【従来の技術】従来のマルテンサイト系析出硬化型ステ
ンレス鋼(SUS630等)をボルト、ナット等の製品に加工
する場合、通常固溶化熱処理後、冷間加工および切削加
工を施し、析出硬化熱処理にて任意の強度を得る方法が
頻繁に行われている。しかしながら固溶化熱処理後、急
冷される際にマルテンサイト組織となるため、固溶化熱
処理後の硬さが約32HRC と非常に硬くなる。そのため
冷間加工性、被削性が困難であると言われている。ただ
し組織をマルテンサイト組織としなければ、析出硬化は
生じない。
【0003】この対策として焼なまし処理を施すことが
あるが、この熱処理を行った場合、硬さは約30HRC と
なり、冷間加工性を向上させるのに充分な対策ではな
い。また、本材料は耐孔食性にも優れ、海洋材料として
頻繁に使用されてきたが、近年の長寿命化、高品質化に
より従来のマルテンサイト系析出硬化型ステンレス鋼で
は対応できなくなってきた。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明が解決しようと
する課題は、上記の従来技術における要求に応えるよう
従来技術を改善するもので、固溶化熱処理後の硬さを
約25HRC 以下に低下し、冷間加工性および切削加工性
を向上させ、また、耐孔食性を改善する元素、例えば
Cr、Mo、Nの添加によりオーステナイト系ステンレ
ス鋼の代表鋼であるSUS304と同程度にし、あわせ
て、析出硬化熱処理後の硬さは従来鋼のSUS630
以上を有するものとすることである。
【0005】
【課題を解決するための手段】上記の課題を解決するた
めに、本発明鋼は、析出硬化特性を失わないで高強度に
するため、Cuの添加を必要不可欠とし、耐孔食性を向
上させるためにCr、Moを添加しかつC含有量を低下
し、また固溶化状態の硬さを低下させるために固溶強化
元素であるC、Nの含有量を低下する必要がある。これ
らより、本発明鋼はC含有量をできる限り低下しCr、
Moを添加して耐孔食性を向上させる。また組織をマル
テンサイト組織になるように成分バランスを調整しなけ
ればならない。ただし後述するようにCを低下しMoを
添加するとδフェライト量が増加するため、Ni−ba
l.式にて−4以上となるようにNiにて成分調整する
必要がある。
【0006】即ち、本発明は、重量%で、C:0.02
%以下、Si:1%以下、Mn:2%以下、P:0.0
4%以下、S:0.03%以下、Ni:5.5〜8.0
%、Cr:12〜20%、Mo:0.6〜3.0%、C
u:3〜5%、Nb:0.1〜0.5%、C+N:0.
035%以下、および、Nb/C:18以上で、残部が
Feおよび不可避不純物よりなり、下記式で表されるN
i−bal.が−4以上でかつマルテンサイト組織を有
する冷間加工性および耐孔食性に優れた析出硬化型ステ
ンレス鋼である。但し、Ni-bal.=Ni+27C+23N+0.2Mn+0.3
Cu-1.2(Cr+Mo)-0.5Si-0.3Nb+10
【0007】
【作用】本発明鋼は、低Cマルテンサイト組織としてい
るので硬度が低く、そのために冷間加工性と切削加工性
が良好となっている。また、Mo添加により耐孔食性が
オーステナイト系ステンレス鋼の代表鋼であるSUS3
04と同程度のレベルに向上し、かつ、析出硬化熱処理
後の硬さは従来鋼のSUS630以上を有するものとな
っている。
【0008】本発明鋼についてその成分を限定する理由
について以下に示す。 C:0.02%を超えると硬さが急に上昇するので、
0.02%以下とする。
【0009】Si:耐孔食性を高めるためにはできる限
り低い方がこのましいが、脱酸剤として非常に有効であ
るので、上限を1%とする。
【0010】Mn:強度およひ靱性を向上させるのに有
効な元素であるが、2%を超えると機械的性質および耐
孔食性が劣化するため、上限を2%とする。
【0011】S:切削加工性を向上させるのに有効な元
素であるが、0.03%を超えると耐孔食性が急激に劣
化するため、上限を0.03%とする。
【0012】P:切削加工性を向上させるのに有効な元
素であるが、0.040%を超えると熱間加工性の劣
化、衝撃靱性の劣化が著しくなるため、上限を0.04
0%とした。
【0013】Ni:δフェライトの生成を抑制し、かつ
析出効果に必要不可欠な元素であるため、下限は5.5
%とする。逆に多すぎると残留オーステナイトが生成し
やすくなるため、Ni−bal.との関連も考慮して上
限を8%とする。
【0014】Cr:析出硬化型ステンレス鋼として必要
不可欠な元素であり、ステンレス鋼として要求される耐
食性を確保するには12%以上必要である。しかし20
%を超えて多量に添加するとδフェライト量が急激に増
加し、熱間加工性を劣化させるため、上限は20%まで
とする。
【0015】Mo:耐孔食性の向上に有効な元素である
が、その効果は0.6%以上で現れるが、3.0%を超
えて多量に添加するとNi−bal.が小さくなり、δ
フェライトが発生しやすくなるため、0.6〜3.0%
とする。
【0016】Cu:析出硬化させるためには3%以上の
添加が必要であり、下限を3%とする。しかし、5%を
超えて添加すると靱性、熱間加工性が劣化するため、上
限を5%とする。
【0017】Nb:Cの安定化と析出硬化度を向上させ
るのに必要不可欠な元素であるが、0.1%未満ではそ
の効果は少なく、0.5%を超えると靱性の低下、熱間
加工性の低下を招くため、0.1〜0.5%までとす
る。
【0018】C+N:Cと同様、Nは固溶化熱処理状態
の硬度を低下させるにはできる限り低い方が好ましく、
C+Nの総和量として上限を0.035%までとする。
【0019】Nb/C:析出硬化熱処理後の硬度を上昇
させるには適宜なNb/Cに設定する必要がある。Nb
/Cが18以上になると析出硬化熱処理後の硬さは40
HRC以上が得られる。Nb/Cを高くすると析出硬化
熱処理後の靱性が劣化する恐れもあるが、実施例に示す
ようにMo添加により焼戻し脆化は消失する。
【0020】Ni−bal.:Ni−bal.は凝固後
の組織を推定する上で有効となる指標である。この計算
値が負の値になるとδフェライト相が生成する。
【0021】図1はNi−bal.と凝固後のδフェラ
イト量との関係を示す図である。このNi−bal.は
著名なシェフラーが提唱したニッケルバランスを基本と
し、本発明では実測値から多重解析にて求めたものであ
り、またシェフラーの式にはCuとNbの項がないの
で、これらの項をNi−bal.に加えた。
【0022】このδフェライト相は均質熱処理および圧
造によりその量は減少する。Ni−bal.が−4未満
になると、これら処理を行っても全く減少しなくなる。
すなわち、図2にみるとおり、Ni−bal.と熱間鍛
造後のδフェライト量との関係をみると、熱間鍛造によ
りδフェライト量は減少し、Ni−bal.が−4以上
となればδフェライト量は1%以下となり、良好な熱間
および冷間加工性が得られることが判る。
【0023】δフェライトが多量に存在すると熱間加工
性の劣化および冷間加工時の割れの起点になるので、N
i−bal.を−4以上とする。
【0024】
【実施例】本発明鋼、比較鋼、従来鋼、およびSUS3
04に関する16例の、Feおよび不可避不純物を除く
化学成分、Ni−bal.並びに凝固後の組織を表1に
示し、固溶化熱処理後の硬さ、穿孔性、並びにR50変形
抵抗値を表2に示し、さらに、480℃析出硬化熱処理
後の硬さ、耐孔食性並びに靱性について表3に示す。
【0025】表1に見るとおり、Ni−bal.が−4
以上である本発明の鋼において、凝固後の組織はα’す
なわち主としてマルテンサイト組織でδフェライトは1
%未満混在するのみである。これに対し、Ni−ba
l.が−4以下である比較鋼は
【0026】
【表1】
【0027】1%以上のδフェライトが混在し、またオ
ーステナイト組織が混在する。
【0028】
【表2】
【0029】そして、本発明鋼は低炭素含有量であり、
表2に見るとおり固溶化熱処理後の硬さは比較鋼や従来
鋼に比し低く25HRC以下である。従って、切削加工
性を示す穿孔性ならびにR50変形抵抗値は比較鋼、従来
鋼およびSUS304に比し本発明鋼は優れている。
【0030】また、表3に見るとおり、本発明鋼は48
0℃析出硬化熱処理後の硬さにおいて従来鋼のSUS6
30と同程度に高く、また、耐孔食性もオーステナイト
ステンレス鋼のSUS304に劣ることなく、480℃
析出硬化熱処理後の硬さおよび耐孔食性は比較鋼および
従来鋼に比し本発明鋼は優れている。
【0031】
【表3】
【0032】
【発明の効果】以上説明したように、本発明のマルテン
サイト析出硬化型ステンレス鋼は高強度、高靱性である
にも拘わらず、冷間加工性および切削加工性がよく、耐
孔食性もマルテンサイト析出硬化型ステンレス鋼である
にも拘わらずオーステナイト系ステンレス鋼と同等のレ
ベルとなっている。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1はNi−bal.と凝固後のδフェライト
量との関係を示す図である。
【図2】図2はNi−bal.と熱間鍛造後のδフェラ
イト量との関係を示す図である。
フロントページの続き (72)発明者 阿部 源隆 兵庫県姫路市飾磨区中島字一文字3007番 地 山陽特殊製鋼株式会社内 (56)参考文献 特開 昭61−147855(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.6,DB名) C22C 38/00 - 38/60

Claims (1)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 重量%で、C:0.02%以下、Si:
    1%以下、Mn:2%以下、P:0.04%以下、S:
    0.03%以下、Ni:5.5〜8.0%、Cr:12
    〜20%、Mo:0.6〜3.0%、Cu:3〜5%、
    Nb:0.1〜0.5%、C+N:0.035%以下お
    よびNb/C:18以上で、残部がFeおよび不可避不
    純物よりなり、下記式で表されるNi−bal.が−4
    以上でかつマルテンサイト組織を有することを特徴とす
    る冷間加工性および耐孔食性に優れた析出硬化型ステン
    レス鋼。但し、Ni-bal.=Ni+27C+23N+0.2Mn+0.3Cu-1.2(C
    r+Mo)-0.5Si-0.3Nb+10
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