JP3274440B2 - 磁気抵抗効果素子、ならびに、前記磁気抵抗効果素子を用いた薄膜磁気ヘッド - Google Patents

磁気抵抗効果素子、ならびに、前記磁気抵抗効果素子を用いた薄膜磁気ヘッド

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JP3274440B2 JP28786499A JP28786499A JP3274440B2 JP 3274440 B2 JP3274440 B2 JP 3274440B2 JP 28786499 A JP28786499 A JP 28786499A JP 28786499 A JP28786499 A JP 28786499A JP 3274440 B2 JP3274440 B2 JP 3274440B2
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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、前記反強磁性層と
強磁性層との界面にて発生する交換異方性磁界を用いた
磁気抵抗効果素子および薄膜磁気ヘッドに係り、特に前
記反強磁性層が元素X(Pt,Pd等)とMnとを含有
する反強磁性材料で形成された場合、より大きい交換異
方性磁界を得られるようにした磁気抵抗効果素子(スピ
ンバルブ型薄膜素子)、ならびに、前記磁気抵抗効果素
子を用いた薄膜磁気ヘッドに関する。
【0002】
【従来の技術】スピンバルブ型薄膜素子は、巨大磁気抵
抗効果を利用したGMR(giant magnetoresistive)素
子の1種であり、ハードディスクなどの記録媒体からの
記録磁界を検出するものである。
【0003】このスピンバルブ型薄膜素子は、GMR素
子の中でも比較的構造が単純で、しかも弱い磁界で抵抗
が変化するなど、いくつかの優れた点を有している。
【0004】前記スピンバルブ型薄膜素子は、最も単純
な構造で、反強磁性層、固定磁性層、非磁性導電層およ
びフリー磁性層から成る。
【0005】前記反強磁性層と固定磁性層とは接して形
成され、前記反強磁性層と固定磁性層との界面にて発生
する交換異方性磁界により、前記固定磁性層の磁化方向
は一定方向に単磁区化され固定される。
【0006】フリー磁性層の磁化は、その両側に形成さ
れたバイアス層により、前記固定磁性層の磁化方向と交
叉する方向に揃えられる。
【0007】前記反強磁性層にはFe−Mn(鉄−マン
ガン)合金膜、またはNi−Mn(ニッケル−マンガ
ン)合金膜、固定磁性層及びフリー磁性層にはNi−F
e(ニッケル−鉄)合金膜、非磁性導電層にはCu
(銅)膜、またバイアス層にはCo−Pt(コバルト−
白金)合金膜などが一般的に使用されている。
【0008】このスピンバルブ型薄膜素子では、ハード
ディスクなどの記録媒体からの漏れ磁界により、前記フ
リー磁性層の磁化方向が変動すると、固定磁性層の固定
磁化方向との関係で電気抵抗が変化し、この電気抵抗値
の変化に基づく電圧変化により、記録媒体からの洩れ磁
界が検出される。
【0009】ところで、前述したように、反強磁性層に
は、Fe−Mn合金膜やNi−Mn合金膜が用いられる
が、Fe−Mn合金膜は、耐食性が低く、また交換異方
性磁界が小さく、さらにブロッキング温度が150℃程
度と低くなっている。ブロッキング温度が低いことで、
ヘッドの製造工程中やヘッド動作中における素子温度の
上昇により、交換異方性磁界が消失してしまうという問
題が発生する。
【0010】これに対し、Ni―Mn合金膜は、Fe―
Mn合金膜に比べて、交換異方性磁界が比較的大きく、
しかもブロッキング温度が約300℃と高い。従って反
強磁性層には、Fe―Mn合金膜よりもNi―Mn合金
膜を用いる方が好ましい。
【0011】また、B.Y.Wong,C.Mitsu
mata,S.Prakash,D.E.Laughl
in,and T.Kobayashi:Journa
lof Applied Phsysics,vol.
79,No10,p.7896―p.7904(199
6)には、Ni−Mn合金膜を反強磁性層として用いた
場合における前記反強磁性層と固定磁性層(NiFe合
金膜)との界面構造について報告されている。
【0012】この論文には、「NiFeとNiMnの両
方の{111}面が膜面と平行となるように、NiFe
/NiMn界面での結晶整合状態を保って成長してい
る。界面での整合歪みは、膜面と平行な面を双晶面とす
る双晶が多数導入されることにより緩和されている。た
だし、残存している界面歪みにより、界面近くでのNi
Mnの規則化は低く抑制され、界面から離れた場所では
規則化度が高くなっている。」と記載されている。
【0013】なお、整合とは、界面における反強磁性層
と固定磁性層との原子が、1対1で対応する状態のこと
をいい、逆に非整合とは、界面における反強磁性層と固
定磁性層との原子が一対の位置関係にない状態のことを
いう。
【0014】NiMn合金で反強磁性層が形成される場
合、熱処理が施されることにより、NiMn合金と固定
磁性層との界面に、交換異方性磁界が発生するが、これ
は熱処理が施されることにより、NiMn合金が不規則
格子から規則格子に変態することによる。
【0015】熱処理が施される前では、NiMn合金の
結晶構造は、Ni,Mn原子の配列順序が不規則な面心
立方格子(以下、不規則格子という)であるが、熱処理
が施されると、結晶構造は、面心立方格子から面心正方
格子に変態し、しかも原子位置が規則化(以下規則格子
という)する。なお、結晶構造が完全に規則格子となっ
た場合におけるNi−Mn合金膜の格子定数a,cの比
c/aは、0.942である。
【0016】このように、完全に規則格子となったNi
Mn合金膜の格子定数比c/aは、比較的1に近い値で
あるため、不規則格子から規則格子に変態する時に生じ
る界面での格子歪みは、比較的小さくなっており、従っ
てNiMn合金膜と固定磁性層との界面構造が整合状態
にあっても、熱処理が施されることにより、NiMn合
金が不規則格子から規則格子に変態し、交換異方性磁界
が発生する。
【0017】なお前述した論文に記載されているよう
に、界面における格子歪みは、双晶によりある程度緩和
されている。
【0018】
【発明が解決しようとする課題】前述したように、Ni
Mn合金は、比較的交換異方性磁界が大きく、またブロ
ッキング温度も約300℃と高くなっており、従来のF
eMn合金に比べて優れた特性を有しているが、耐食性
に関しては、FeMn合金と同じ様に、充分であるとは
いえなかった。
【0019】そこで最近では、耐食性に優れ、しかもN
iMn合金よりも大きい交換異方性磁界を発生し、高い
ブロッキング温度を有する反強磁性材料として、白金族
元素を用いたX−Mn合金(X=Pt,Pd,Ir,R
h,Ru,Os)が注目を浴びている。
【0020】白金族元素を含有するX−Mn合金を反強
磁性層として用いれば、従来に比べて再生出力を向上さ
せることができ、またヘッド駆動動作時における素子温
度の上昇により、交換異方性磁界が消滅し再生特性が低
下するといった不具合も生じにくくなる。
【0021】ところで、この白金族元素を含有するX−
Mn合金を反強磁性層として用いた場合、交換異方性磁
界を発生させるには、NiMn合金を反強磁性層として
用いた場合と同様に、成膜後熱処理を施す必要がある。
【0022】NiMn合金の場合、前述した文献によれ
ば、固定磁性層(NiFe合金)との界面構造は整合状
態となっていると記載されているが、X−Mn合金(X
は白金族元素)の場合も同じ様に、固定磁性層との界面
構造を整合状態としておくと、熱処理を施しても交換異
方性磁界がほとんど発生しないことがわかった。
【0023】本発明は上記従来の課題を解決するための
ものであり、反強磁性層として、元素X(Xは白金族元
素)とMnとを含有する反強磁性材料を用いた場合、そ
の成膜順序に応じた最適な合金組成比を備えることで、
大きい交換異方性磁界を発生することができるようにし
た交換結合膜を用いた磁気抵抗効果素子、ならびに、前
記磁気抵抗効果素子を用いた薄膜磁気ヘッドを提供する
ことを目的としている。
【0024】
【課題を解決するための手段】本発明の磁気抵抗効果素
子ならびにこの磁気抵抗効果素子を用いた薄膜磁気ヘッ
ドは、反強磁性層が強磁性層の上に位置する場合と、下
に位置する場合とで、前記反強磁性層を構成する組成X
の組成比、またはX+X′の組成比に最適な範囲を与え
ることを特徴としている。
【0025】すなわち、本発明はスライダのトレーリ
ング側端部に設けられたデュアルスピンバルブ型の磁気
抵抗効果素子において、前記トレーリング側端部から磁
気記録媒体の移動方向に向う方向を上側としたときに、
下側から下側反強磁性層、固定磁性層、非磁性導電層、
フリー磁性層、非磁性導電層、固定磁性層、上側反強磁
性層の順に連続して接するように積層成膜されたもの
で、且つ前記フリー磁性層の磁化方向を前記下側と上側
固定磁性層の磁化方向と交叉する方向へ揃えるバイア
ス層が設けられており、 前記上側反強磁性層が、X−M
n−X′合金(ただし、Xは、Pt,Pd,Ir,R
h,Ru,Osのうちいずれか1種または2種以上の元
素であり、X′は、Ne,Ar,Kr,Xe,Be,
B,C,N,Mg,Al,Si,P,Ti,V,Cr,
Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Ga,Ge,Zr,N
b,Mo,A g,Cd,Ir,Sn,Hf,Ta,W,
Re,Au,Pb、及び希土類元素のうち1種または2
種以上の元素である)で構成され、前記X−Mn−X′
合金のX+X′の組成比がat%で、47〜57の範囲
内であり、 前記下側反強磁性層が、X−Mn合金(ただ
しXは、Pt,Pd,Ir,Rh,Ru,Osのうちい
ずれか1種または2種以上の元素である)で構成され、
前記X−Mn合金のXの組成比がat%で、44〜57
の範囲内であることを特徴とするものである。
【0026】または、スライダのトレーリング側端部に
設けられたデュアルスピンバルブ型の磁気抵抗効果素子
において、前記トレーリング側端部から磁気記録媒体の
移動方向に向う方向を上側としたときに、下側から下側
反強磁性層、固定磁性層、非磁性導電層、フリー磁性
層、非磁性導電層、固定磁性層、上側反強磁性層の順に
連続して接するように積層成膜されたもので、且つ前記
フリー磁性層の磁化方向を前記下側と上側の固定磁性層
の磁化方向と交叉する方向へ揃えるバイアス層が設けら
れており、 前記上側反強磁性層が、X−Mn合金(ただ
しXは、Pt,Pd,Ir,Rh,Ru,Osのうちい
ずれか1種または2種以上の元素である)で構成され、
前記X−Mn合金のXの組成比はat%で、47〜57
の範囲内であり、前記下側反強磁性層が、X−Mn−
X′合金(ただし、Xは、Pt,Pd,Ir,Rh,R
u,Osのうちいずれか1種または2種以上の元素であ
り、X′は、Ne,Ar,Kr,Xe,Be,B,C,
N,Mg,Al,Si,P,Ti,V,Cr,Fe,C
o,Ni,Cu,Zn,Ga,Ge,Zr,Nb,M
o,Ag,Cd,Ir,Sn,Hf,Ta,W,Re,
Au,Pb、及び希土類元素のうち1種または2種以上
の元素である)で構成され、前記X−Mn−X′合金の
X+X′の組成比はat%で、44〜57の範囲内であ
ることを特徴とするものである。
【0027】または、スライダのトレーリング側端部に
設けられたデュアルスピンバルブ型の磁気抵抗効果素子
において、 前記トレーリング側端部から磁気記録媒体の
移動方向に向う方向を上側としたときに、下側から下側
反強磁性層、固定磁性層、非磁性導電層、フリー磁性
層、非磁性導電層、固定磁性層、上側反強磁性層の順に
連続して接するように積層成膜されたもので、且つ前記
フリー磁性層の磁化方向を前記下側と上側の固定磁性層
の磁化方向と交叉する方向へ揃えるバイアス層が設けら
れており、 前記上側反強磁性層が、X−Mn合金(ただ
しXは、Pt,Pd,Ir,Rh,Ru,Osのうちい
ずれか1種の元素である)で構成され、前記X−Mn合
金のXの組成比はat%で、47〜57の範囲内であ
り、前記下側反強磁性層が、X−Mn合金(ただしX
は、Pt,Pd,Ir,Rh,Ru,Osのうちいずれ
か2種以上の元素である)で構成され、前記X−Mn合
金のXの組成比はat%で、44〜57の範囲内である
ことを特徴とするものである。
【0028】または、スライダのトレーリング側端部に
設けられたデュアルスピンバルブ型の磁気抵抗効果素子
において、前記トレーリング側端部から磁気記録媒体の
移動方向に向う方向を上側としたときに、下側から下側
反強磁性層、固定磁性層、非磁性導電層、フリー磁性
層、非磁性導電層、固定磁性層、上側反強磁性層の順に
連続して接するように積層成膜されたもので、且つ前記
フリー磁性層の磁化方向を前記下側と上側の固定磁性層
の磁化方向と交叉する方向へ揃えるバイアス層が設けら
れており、 前記上側反強磁性層が、X−Mn合金(ただ
しXは、Pt,Pd,Ir,Rh,Ru,Osのうちい
ずれか2種以上の元素である)で構成され、前記X−M
n合金のXの組成比はat%で、47〜57の範囲内で
あり、前記下側反強磁性層が、X−Mn合金(ただしX
は、Pt,Pd,Ir,Rh,Ru,Osのうちいずれ
か1種の元素である)で構成され、前記X−Mn合金の
Xの組成比はat%で、44〜57の範囲内であること
を特徴とするものである。
【0029】上記の磁気抵抗効果素子は、反強磁性層と
固定磁性層とが接して形成されたデュアルスピンバルブ
型薄膜素子である。
【0030】また、前記上部反強磁性層が、前記X−M
n合金に代えて、X−Mn−X′合金(ただし、Xは、
Pt,Pd,Ir,Rh,Ru,Osのうちいずれか1
種または2種以上の元素であり、X′は、Ne,Ar,
Kr,Xe,Be,B,C,N,Mg,Al,Si,
P,Ti,V,Cr,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,
Ga,Ge,Zr,Nb,Mo,Ag,Cd,Ir,S
n,Hf,Ta,W,Re,Au,Pb、及び希土類元
素のうち1種または2種以上の元素である)で形成さ
れ、前記X−Mn−X′合金のX+X′の組成比はat
%で、47〜57の範囲内であってもよいし、前記下側
反強磁性層が、前記X−Mn合金に代えて、X−Mn−
X′合金(ただし、Xは、Pt,Pd,Ir,Rh,R
u,Osのうちいずれか1種または2種以上の元素であ
り、X′は、Ne,Ar,Kr,Xe,Be,B,C,
N,Mg,Al,Si,P,Ti,V,Cr,Fe,C
o,Ni,Cu,Zn,Ga,Ge,Zr,Nb,M
o,Ag,Cd,Ir,Sn,Hf,Ta,W,Re,
Au,Pb、及び希土類元素のうち1種または2種以上
の元素である)で形成され、前記X−Mn−X′合金の
X+X′の組成比はat%で、44〜57の範囲内であ
ってもよい。
【0031】さらに、前記上側反強磁性層のX−Mn合
金のXの組成比、あるいはX−Mn−X′合金のX+
X′の組成比はat%で、50〜56の範囲内であるこ
と、および前記下側反強磁性層のX−Mn合金のXの組
成比、あるいはX−Mn−X′合金のX+X′の組成比
はat%で、46〜55の範囲内であることが好まし
い。
【0032】次に、前記X―Mn合金元素Xは、Pt
であることが好ましい。この場合に、例えば熱処理後に
おける前記反強磁性層の格子定数a,cの比c/aは、
0.93〜0.99の範囲内であることが好ましい。
【0033】また、前記反強磁性層となるX―Mn―
X′合金の元素XはPtであることが好ましい。
【0034】例えば、前記元素X′は、Ne,Ar,K
r,Xeのうち1種または2種以上の元素である。
【0035】ここで、前記元素X′の組成比はat%
で、0.2〜10の範囲内であることが好ましい。
【0036】また、前記元素X′の組成比はat%で、
0.5〜5の範囲内であることがさらに好ましい。
【0037】また、前記X−Mn−X′合金の元素Xと
Mnとの組成比の割合X:Mnは、4:6〜6:4の範
囲内であることが好ましい。
【0038】前記反強磁性層として用いられる前記X―
Mn―X′合金は、スパッタ法により形成されることが
可能である。
【0039】また、前記X−Mn−X′合金は、元素X
とMnとで構成される空間格子の隙間に元素X′が浸入
した浸入型固溶体であり、あるいは元素XとMnとで構
成される結晶格子の格子点の一部が、元素X′に置換さ
れた置換型固溶体であることも可能である。
【0040】また、前記反強磁性層の少なくとも一部の
結晶構造が、L1 0 型の面心正方規則格子となっている
ことが好ましい。
【0041】さらに、前記下側反強磁性層は、下地膜の
上に接して形成されているものでもよく、前記下地膜
は、例えばTaからなる。
【0042】そして、本発明の薄膜磁気ヘッドは、前記
のいずれかに記載された磁気抵抗効果素子の上下にギャ
ップ層を介してシールド層が形成されていることを特徴
とするものである。
【0043】上記したように本発明では、反強磁性層と
して、少なくとも白金族元素(元素X)とMnとを有す
る反強磁性材料を使用し、前記反強磁性層が強磁性層の
上側に形成されるか、下側に形成されるかにより、前記
反強磁性層の組成比に最適な範囲を与えることで、大き
な交換異方性磁界を発生させることが可能となってい
る。
【0044】このように反強磁性層の組成比を適正化す
ることで、交換異方性磁界を大きくできる理由は、反強
磁性層と強磁性層との格子定数の差を大きくでき、界面
構造を非整合状態にできるからである。
【0045】なお本発明では、上記した反強磁性層の組
成範囲を使用すれば大きな交換異方性磁界が得られるこ
とは実験により明らかにされており、その実験結果につ
いては後述することとする。
【0046】
【発明の実施の形態】図1は、本発明のデュアルスピン
バルブ型薄膜素子の構造をABS面側から見た断面図で
ある。なお、図1ではX方向に延びる素子の中央部分の
みを破断して示している。
【0047】このデュアルスピンバルブ型薄膜素子は、
ハードディスク装置に設けられた浮上式スライダのトレ
ーリング側端部などに設けられて、ハードディスクなど
の記録磁界を検出するものである。なお、ハードディス
クなどの磁気記録媒体の移動方向はZ方向であり、磁気
記録媒体からの洩れ磁界の方向はY方向である。
【0048】図1の最も下に形成されているのはTa
(タンタル)などの非磁性材料で形成された下地層6で
ある。この下地層6の上に、下側反強磁性層4、固定磁
性層3、非磁性導電層2、およびフリー磁性層1が連続
して積層されている。さらに前記フリー磁性層1の上に
は、非磁性導電層2、固定磁性層3、上側反強磁性層
4、およびTa(タンタル)などの保護層7が連続して
積層されている。また、下地層6から保護層7までの多
層膜の両側にはハードバイアス層5,5、導電層8,8
が積層されている。
【0049】本発明では前記フリー磁性層1および固定
磁性層3が、NiFe合金、CoFe合金、Co合金、
Co、CoNiFe合金などにより形成されている。
【0050】なお図1に示すようにフリー磁性層1は一
層で形成されているが、これが多層構造で形成されても
よい。つまり、前記フリー磁性層1が、例えばNiFe
合金とCoFe合金とが積層された構造となっていても
よいし、NiFe合金とCoとが積層された構造でもよ
い。
【0051】前記フリー磁性層1と固定磁性層3との間
に介在する非磁性導電層2は、Cuで形成されている。
さらに、ハードバイアス層5,5は、例えばCo−Pt
(コバルト−白金)合金やCo−Cr−Pt(コバルト
−クロム−白金)合金などで形成されており、導電層
8,8は、Cu(銅)やW(タングステン)、Cr(ク
ロム)などで形成されている。
【0052】本発明では、下側と上側の反強磁性層4
は、少なくとも元素X(ただしXは、Pt,Pd,I
r,Rh,Ru,Osのうちいずれか1種または2種以
上の元素である)とMnとを含有する反強磁性材料によ
って形成されている。
【0053】本発明では、図1に示す固定磁性層3と
下の反強磁性層4との界面構造は、非整合状態となって
おり、また界面における前記反強磁性層4の少なくとも
一部の結晶構造は、L10型の面心正方格子(以下、規
則格子という)となっている。
【0054】ここで、L10型の面心正方格子とは、単
位格子の6面のうち、側面の4面の中心をX原子(X=
Pt,Pd,Ir,Rh,Ru,Os)が占め、単位格
子の隅、および上面および下面の中心にMn原子が占め
るものをいう。
【0055】また本発明では、固定磁性層3と上下の
強磁性層4との結晶配向が異なっていることが、固定磁
性層3と反強磁性層4との界面構造が、非整合状態にな
りやすい点で好ましい。
【0056】図1に示すデュアルスピンバルブ型薄膜素
子では、Taの下地層6が敷いてあるので、前記下地層
6の上に形成される下側の反強磁性層4の{111}面
は、界面に平行な方向に優先配向するが、この前記反強
磁性層4の上に固定磁性層3が形成されると、前記固定
磁性層3の{111}面の界面方向に対する配向度は、
下側の反強磁性層4の配向度よりも小さいか、あるいは
無配向になり易い傾向がある。このように、下側の反強
磁性層4と固定磁性層3との結晶配向は異なっており、
従ってより界面構造を非整合状態とすることが可能とな
っている。
【0057】また、前記固定磁性層3の上に形成される
上側の反強磁性層4の{111}面は、前記固定磁性層
3の{111}面の配向度に比べて小さいか、あるいは
無配向となっている。従って前記界面における構造が非
整合状態になりやすくなっている。
【0058】本発明では熱処理前の段階から、固定磁性
層3と反強磁性層4との界面構造を非整合状態としてい
るが、これは熱処理を施すことにより、前記反強磁性層
4の結晶構造を、不規則格子(面心立方格子)から前述
した規則格子に変態させ、適性な交換異方性磁界を得ら
れるようにするためである。
【0059】言い変えれば、界面構造が整合状態にある
と、熱処理を施しても、前記反強磁性層4の結晶構造
が、不規則格子から規則格子に変態しにくく、従って交
換異方性磁界が得られないという問題が生じる。
【0060】本発明では、前記反強磁性層4は、X―M
n合金(ただしXは、Pt,Pd,Ir,Rh,Ru,
Osのうちいずれか1種または2種以上の元素である)
で形成されている。特に本発明では、前記反強磁性層4
がPtMn合金により形成されていることが好ましい。
【0061】X−Mn合金、特にPtMn合金は、従来
から反強磁性層として使用されているFeMn合金、N
iMn合金などに比べて耐食性に優れており、またブロ
ッキング温度も高く、さらに交換異方性磁界(Hex)
が大きいなど反強磁性材料として優れた特性を有してい
る。
【0062】本発明では、前記反強磁性層4がPtMn
合金で形成されている場合、熱処理を施した後、つまり
少なくとも一部の結晶構造が規則格子となった前記反強
磁性層4の格子定数a,cの比c/aは、0.93〜
0.99の範囲内であることが好ましい。
【0063】格子定数a,cの比c/aが0.93以下
になると、前記反強磁性層4の結晶構造のほぼ全てが規
則格子となるが、このような状態になると、前記固定磁
性層3と反強磁性層4との密着性が低下し、膜剥がれな
どが発生し好ましくない。
【0064】格子定数a,cの比c/aが0.99以上
になると、前記反強磁性層4の結晶構造のほぼ全てが不
規則格子となってしまい、前記反強磁性層4と固定磁性
層3との界面にて発生する交換異方性磁界が小さくなっ
てしまい好ましくない。
【0065】ところで前記反強磁性層4が、X―Mn合
金(ただしXは、Pt,Pd,Ir,Rh,Ru,Os
のうちいずれか1種または2種以上の元素である)で形
成される場合、熱処理前の段階において、固定磁性層3
と反強磁性層4との界面構造を非整合状態とするため
に、本発明では、前記X―Mn合金の組成比を下記の数
値内に設定している。
【0066】前記反強磁性層4が、X−Mn合金(ただ
しXは、Pt,Pd,Ir,Rh,Ru,Osのうちい
ずれか1種または2種以上の元素である)で形成され、
しかも図1に示す上側の前記反強磁性層4が固定磁性層
3の上に形成される場合、X−Mn合金の元素Xの組成
比はat%で、47〜57の範囲内であることが好まし
い。より好ましくはX−Mn合金の元素Xの組成比はa
t%で、50〜56の範囲内である。
【0067】上述した組成比内で上側の反強磁性層4を
形成すると、熱処理前、つまり結晶構造が不規則格子と
なっている段階での前記反強磁性層4の格子定数と、固
定磁性層3の格子定数との差を大きくすることができ、
従って熱処理前にて、前記固定磁性層3と反強磁性層4
との界面構造を非整合状態に保つことができる。
【0068】この状態で熱処理を施すと、前記反強磁性
層4の結晶構造の変化により、交換異方性磁界が発生
し、前述したようにX−Mn合金の元素Xの組成比の組
成比がat%で、47〜57の範囲内であると、400
(Oe:エルステッド)以上の交換異方性磁界を得るこ
とが可能である。またX−Mn合金の元素Xの組成比は
at%で、50〜56の範囲内であると、600(O
e)以上の交換異方性磁界を得ることが可能である。
【0069】このように本発明では、反強磁性層4とし
てX―Mn合金を使用した場合、元素Xの組成比を上述
した範囲内で形成することにより、熱処理前における前
記反強磁性層4と固定磁性層3との界面構造を非整合状
態に保つことが可能である。
【0070】また本発明では、X―Mn合金に、第3元
素として元素X′を添加することにより、反強磁性層4
の格子定数を大きくでき、熱処理前における反強磁性層
4と固定磁性層3との界面構造を非整合状態にすること
が可能である。
【0071】X―Mn合金に元素X′を加えたX―Mn
―X′合金は、元素XとMnとで構成される空間格子の
隙間に元素X′が侵入した侵入型固溶体であり、あるい
は、元素XとMnとで構成される結晶格子の格子点の一
部が、元素X′に置換された置換型固溶体である。ここ
で固溶体とは、広い組成範囲にわたって、均一に成分が
混ざり合った固体のことを指している。なお本発明では
元素XはPtであることが好ましい。
【0072】ところで本発明では前記X―Mn―X′合
金をスパッタ法により成膜している。スパッタによっ
て、前記X―Mn―X′合金は非平衡状態で成膜され、
成膜されたX―Mn―X′合金は、膜中の元素X′が、
元素XとMnとで構成される空間格子の隙間に侵入し、
あるいは、元素XとMnとで構成される結晶格子の格子
点の一部が、元素X′に置換される。このように、前記
元素X′が、X―Mn合金の格子に侵入型であるいは置
換型で固溶することにより、格子は押し広げられ、反強
磁性層4の格子定数は、元素X′を添加しない場合に比
べ大きくなる。
【0073】また本発明では、元素X′として様々な元
素を使用することが可能であるが、反応性の高いハロゲ
ンやO(酸素)等を使用すると、これらがMnとのみ選
択的に化学結合してしまい、面心立方晶の結晶構造を保
てなくなると考えられ好ましくない。本発明における具
体的な元素X′は、Ne,Ar,Kr,Xe,Be,
B,C,N,Mg,Al,Si,P,Ti,V,Cr,
Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Ga,Ge,Zr,N
b,Mo,Ag,Cd,Ir,Sn,Hf,Ta,W,
Re,Au,Pb、及び希土類元素(Sc,Yとランタ
ノイド(La,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,
Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu))
のうち1種または2種以上の元素である。
【0074】上記に示した様々な元素X′のいずれを使
用しても、スパッタによって、反強磁性層4の格子定数
を大きくできるが、特に置換型で固溶する元素X′を使
用する場合は、前記元素X′の組成比が大きくなりすぎ
ると、反強磁性としての特性が低下し、固定磁性層3と
の界面で発生する交換結合磁界が小さくなってしまう。
【0075】特に本発明では、侵入型で固溶し、不活性
ガスの希ガス元素(Ne,Ar,Kr,Xeのうち1種
または2種以上)を元素X′として使用することが好ま
しいとしている。希ガス元素は不活性ガスなので、希ガ
ス元素が、膜中に含有されても、反強磁性特性に大きく
影響を与えることがなく、さらに、Arなどは、スパッ
タガスとして従来からスパッタ装置内に導入されるガス
であり、ガス圧やスパッタ粒子のエネルギーを適正に調
節するのみで、容易に、膜中にArを侵入させることが
できる。
【0076】なお、元素X′にガス系の元素を使用した
場合には、膜中に多量の元素X′を含有することは困難
であるが、希ガスの場合においては、膜中に微量侵入さ
せるだけで、熱処理によって発生する交換結合磁界を、
飛躍的に大きくできることが実験により確認されてい
る。
【0077】なお本発明では、元素X′の組成比の範囲
を設定しており、好ましい前記元素X′の組成範囲は、
at%で0.2から10であり、より好ましくは、at
%で、0.5から5である。またこのとき、元素XとM
nとの組成比の割合X:Mnは、4:6〜6:4の範囲
内であることが好ましい。元素X′の組成比と、元素X
とMnとの組成比の割合X:Mnを、上記範囲内で調整
すれば、成膜段階(熱処理前)における反強磁性層4の
格子定数を大きくでき、しかも熱処理を施すことにより
反強磁性層4と固定磁性層3との界面で発生する交換結
合磁界を、元素X′を含有しない場合に比べ、大きくす
ることが可能である。
【0078】さらに本発明では、X−Mn−X′合金
(ただしXは、Pt,Pd,Ir,Rh,Ru,Osの
うちいずれか1種または2種以上の元素であり、X′
は、Ne,Ar,Kr,Xe,Be,B,C,N,M
g,Al,Si,P,Ti,V,Cr,Fe,Co,N
i,Cu,Zn,Ga,Ge,Zr,Nb,Mo,A
g,Cd,Ir,Sn,Hf,Ta,W,Re,Au,
Pb、及び希土類元素のうち1種または2種以上の元素
である)で形成された反強磁性層4が、図1において
固定磁性層3の上に形成される場合、前記X−Mn−
X′合金のX+X′の組成比はat%で、47〜57の
範囲内であることが好ましく、より好ましくは、X−M
n―X′合金のX+X′の組成比はat%で、50〜5
6の範囲内である。
【0079】熱処理を施すことによって反強磁性層4と
固定磁性層3との界面で発生する交換結合磁界により、
前記固定磁性層3の磁化は、図1に示すY方向に単磁区
化され固定される。なお、反強磁性層4として使用され
るX―Mn―X′合金の元素X′が例えばガス系の元素
である場合には、熱処理を施すことにより、前記元素
X′が膜中から抜け出て、成膜された段階での元素X′
の組成比よりも、熱処理後の元素X′の組成比は小さく
なり、あるいは完全に前記X′が膜中から抜け出してし
まって、組成がX―Mnになってしまうことがあるが、
成膜段階(熱処理前)における固定磁性層3と反強磁性
層4との界面構造が非整合状態となっていれば、熱処理
を施すことにより、前記反強磁性層4の結晶構造は、不
規則格子(面心立方格子)から規則格子に適性に変態
し、大きい交換異方性磁界を得ることが可能である。
【0080】図1において下側に位置する反強磁性層4
は、上側の反強磁性層4と同じ様に、X−Mn合金(た
だしXは、Pt,Pd,Ir,Rh,Ru,Osのうち
いずれか1種または2種以上の元素である)、好ましく
はPtMn合金、またはX―Mn―X′合金(ただし
X′は、Ne,Ar,Kr,Xe,Be,B,C,N,
Mg,Al,Si,P,Ti,V,Cr,Fe,Co,
Ni,Cu,Zn,Ga,Ge,Zr,Nb,Mo,A
g,Cd,Ir,Sn,Hf,Ta,W,Re,Au,
Pb、及び希土類元素のうち1種または2種以上の元素
である)で形成されている。
【0081】この場合も、固定磁性層3と反強磁性層4
との界面構造は、非整合状態となっており、また界面に
おける前記反強磁性層4の少なくとも一部の結晶構造
は、L10型の面心正方格子(以下、規則格子という)
となっている。
【0082】ころで、反強磁性層4がX―Mn合金
(ただしXは、Pt,Pd,Ir,Rh,Ru,Osの
うちいずれか1種または2種以上の元素である)で形成
され、下側の反強磁性層4が固定磁性層3の下に形成さ
れる場合、反強磁性層4を構成するX−Mn合金の元素
Xの組成比はat%で、44〜57の範囲内であること
が好ましい。この範囲内であれば、400(Oe)以上
の交換異方性磁界を得ることが可能である。より好まし
くはX−Mn合金の元素Xの組成比はat%で、46〜
55の範囲内である。この範囲内であれば、600(O
e)以上の交換異方性磁界を得ることが可能である。
【0083】このように上述した組成範囲内であると交
換異方性磁界を大きくすることができるのは、熱処理前
における反強磁性層4の格子定数(不規則格子)と、固
定磁性層3の格子定数との差を大きくすることができ、
熱処理前での界面構造を非整合状態とすることができる
からである。
【0084】従って熱処理を施すことにより、界面にお
ける前記反強磁性層4の少なくとも一部の結晶構造を、
不規則格子から交換異方性磁界を発揮するために必要な
規則格子に変態させることが可能となる。
【0085】また下側の前記反強磁性層4が、X―Mn
―X′合金(ただしX′は、Ne,Ar,Kr,Xe,
Be,B,C,N,Mg,Al,Si,P,Ti,V,
Cr,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Ga,Ge,Z
r,Nb,Mo,Ag,Cd,Ir,Sn,Hf,T
a,W,Re,Au,Pb、及び希土類元素のうち1種
または2種以上の元素である)で形成される場合、前記
X―Mn―X′合金は、スパッタ法によって形成され、
元素XとMnとで構成される空間格子の隙間に元素X′
が侵入した侵入型固溶体となり、あるいは、元素XとM
nとで構成される結晶格子の格子点の一部が、元素X′
に置換された置換型固溶体となっている。
【0086】元素X′を膜中に含有する反強磁性層4の
格子定数は、前記元素X′を含有しない反強磁性層4の
格子定数に比べて大きくなり、成膜段階(熱処理前)に
おける反強磁性層4と固定磁性層3との界面構造を非整
合状態に保つことができる。
【0087】なお本発明では、膜中に占める元素X′の
組成比を、at%で、0.2〜10の範囲内とし、より
好ましい組成範囲をat%で、0.5〜5の範囲内とし
ている。また元素X′を前記組成範囲内で形成し、さら
に、元素XとMnとの組成比の割合X:Mnを、4:6
〜6:4の範囲内とすれば、より大きい交換結合磁界を
得ることが可能である。
【0088】また図1に示す下側の反強磁性層4では、
X―Mn―X′合金で形成された反強磁性層4が固定磁
性層3の下側に形成される場合、X―Mn―X′合金の
X+X′の組成比は、at%で、44〜57の範囲内で
あることが好ましい。より好ましくはX−Mn―X′合
金のX+X′の組成比はat%で、46〜55の範囲内
である。
【0089】以上から、図1に示すデュアルスピンバル
ブ型の薄膜素子では、フリー磁性層1よりも下側に形成
されている下側の反強磁性層4は、固定磁性層3の下に
形成されているので、前記反強磁性層4を構成するX−
Mn合金の元素Xの組成比はat%で、44〜57の範
囲内であることが好ましく、より好ましくはX−Mn合
金の元素Xの組成比はat%で、46〜55の範囲内で
ある。
【0090】また、フリー磁性層1よりも上側に形成さ
れている上側の反強磁性層4は、固定磁性層3の上に形
成されているので、前記反強磁性層4を構成するX−M
n合金の元素Xの組成比はat%で、47〜57の範囲
内であることが好ましく、より好ましくはX−Mn合金
の元素Xの組成比はat%で、50〜56の範囲内であ
る。
【0091】この組成範囲内であれば、熱処理前におけ
る固定磁性層3の格子定数と反強磁性層4の格子定数と
の差を大きくすることができるので、熱処理前における
界面構造を非整合状態にすることができ、従って熱処理
を施すことにより、界面での前記反強磁性層4の一部の
結晶構造を不規則格子から交換異方性磁界を発揮するの
に必要な規則格子に変態させることが可能である。なお
前記反強磁性層4がPtMn合金で形成される場合、熱
処理後における前記反強磁性層4の格子定数a,cの比
c/aは、0.93〜0.99の範囲内であることが好
ましい。
【0092】また、反強磁性層4と固定磁性層3との結
晶配向も異なっているので、より界面構造を非整合状態
にすることが可能となっている。
【0093】上述した組成範囲内でれば、少なくとも4
00(Oe)以上の交換異方性磁界を得ることが可能で
あるが、反強磁性層4を固定磁性層3の下に形成する方
が、固定磁性層3の上に形成するよりも、X−Mn合金
の元素Xの組成比の範囲を若干広くすることが可能であ
る。
【0094】また反強磁性層4がX―Mn―X′合金で
形成される場合は、元素X′の組成比は、at%で、
0.2〜10の範囲内であり、より好ましい組成範囲は
at%で、0.5〜5の範囲内である。また元素XとM
nとの組成比の割合X:Mnは、4:6〜6:4の範囲
内であることが好ましい。
【0095】さらにフリー磁性層1よりも下側に形成さ
れている下側の反強磁性層4の場合、前記反強磁性層4
を構成するX―Mn―X′合金のX+X′の組成比はa
t%で、44〜57の範囲内であることが好ましく、よ
り好ましくはX−Mn―X′合金のX+X′の組成比は
at%で、46〜55の範囲内である。
【0096】また、フリー磁性層1よりも上側に形成さ
れている上側の反強磁性層4の場合、前記反強磁性層4
を構成するX−Mn―X′合金のX+X′の組成比はa
t%で、47〜57の範囲内であることが好ましく、よ
り好ましくはX−Mn―X′合金のX+X′の組成比は
at%で、50〜56の範囲内である。
【0097】上記組成範囲内であれば、熱処理前におけ
る固定磁性層3の格子定数と反強磁性層4の格子定数と
の差を大きくすることができ、熱処理前における界面構
造を非整合状態にすることができ、従って熱処理を施す
ことにより、界面での前記反強磁性層4の一部の結晶構
造を不規則格子から交換異方性磁界を発揮するのに必要
な規則格子に変態させることが可能である。
【0098】のデュアルスピンバルブ型薄膜素子
は、固定磁性層3は、交換異方性磁界により、図示Y方
向に単磁区化され固定されており、フリー磁性層1の磁
化は、ハードバイアス層5,5の影響を受けて図示X方
向に揃えられている。
【0099】導電層8からフリー磁性層1、非磁性導電
層2および固定磁性層3に定常電流が与えられ、しかも
記録媒体からY方向へ磁界が与えられると、フリー磁性
層1の磁化は図示X方向からY方向に変動し、このとき
非磁性導電層2とフリー磁性層1との界面、および非磁
性導電層2と固定磁性層3との界面でスピンに依存した
伝導電子の散乱が起こることにより、電気抵抗が変化
し、記録媒体からの漏れ磁界が検出される。
【0100】なお、シングルスピンバルブ型薄膜素子で
は、スピンに依存した電子の散乱を起こす場所が、非磁
性導電層2とフリー磁性層1との界面、および非磁性導
電層2と固定磁性層3との界面の2箇所であるのに対
し、図に示すデュアルスピンバルブ型薄膜素子では、
伝導電子の散乱が起こる場所が、非磁性導電層2とフリ
ー磁性層1との2箇所の界面と、非磁性導電層2と固定
磁性層3との2箇所の界面の計4箇所であるため、デュ
アルスピンバルブ型薄膜素子の方がシングルスピンバル
ブ型薄膜素子に比べて大きい抵抗変化率を得ることが可
能である。
【0101】図2は、図1に示す磁気抵抗効果素子層が
形成された読み取りヘッドの構造を記録媒体との対向面
側から見た断面図である。
【0102】符号20は、例えばNiFe合金などで形
成された下部シールド層であり、この下部シールド層2
0の上に下部ギャップ層21が形成されている。また下
部ギャップ層21の上には、図1に示す磁気抵抗効果素
子層22が形成されており、さらに前記磁気抵抗効果素
子層22の上には、上部ギャップ層23が形成され、前
記上部ギャップ層23の上には、NiFe合金などで形
成された上部シールド層24が形成されている。
【0103】前記下部ギャップ層21及び上部ギャップ
層23は、例えばSiO2やAl23(アルミナ)など
の絶縁材料によって形成されている。図に示すよう
に、下部ギャップ層21から上部ギャップ層23までの
長さがギャップ長Glであり、このギャップ長Glが小
さいほど高記録密度化に対応できるものとなっている。
【0104】
【実施例】本発明では、まず下記に示す膜構成から成る
多層膜を成膜し、反強磁性層を構成する一元素のPt量
と、前記反強磁性層の格子定数との関係について調べ
た。
【0105】膜構成としては、下から Si基板/アルミナ/下地層:Ta(100)/固定磁
性層:NiFe(300)/反強磁性層:PtMn(3
00)/Ta(100) の順で積層した。なお上記括弧中の数値は膜厚を表わし
ており、単位はオングストロームである。
【0106】実験は熱処理を施さない段階で、X線回折
のθ/2θ法により、Pt量と反強磁性層の格子定数と
の関係を、回折パターンのピーク位置から求めた。
【0107】図3に示すように、Pt量が増加するにつ
れて、反強磁性層(PtMn)の格子定数が大きくなっ
ていることがわかる。また固定磁性層を構成するNiF
e合金、CoFe合金、またはCoの格子定数は、図に
示すように、約3.5〜3.6の範囲である。
【0108】次に、反強磁性層を固定磁性層の下、ある
いは上に形成した2つの多層膜を、DCマグネトロンス
パッタ法により成膜し、熱処理を施した後におけるPt
量(反強磁性層を構成する一元素)と交換異方性磁界と
の関係について調べた。その実験結果を図4に示す。
【0109】反強磁性層が、固定磁性層の下に形成され
ている膜構成としては、下からSi基板/アルミナ/下
地層:Ta(50)/反強磁性層:PtMn(300)
/固定磁性層:Co90Fe10(30)/保護層:Ta
(100)の順で積層し、前記反強磁性層が、固定磁性
層の上に形成されている膜構成としては下から、Si基
板/アルミナ/Ta(50)/固定磁性層:Co90Fe
10(30)/反強磁性層(300)/保護層:Ta(1
00)の順で積層した。なお、上記括弧中の数値は膜厚
を表わしており、単位はオングストロームである。
【0110】また熱処理工程における条件としては、ま
ず昇温に3時間をかけ、次に240度の温度状態を3時
間保持し、さらに、降温に3時間をかけた。なお、熱処
理真空度を5×10-6Torr以下とした。
【0111】図4に示すように、反強磁性層(PtMn
合金)が、固定磁性層の下側にある場合、および上側に
ある場合共に、Pt量が約50at%まで大きくなるに
したがって、交換異方性磁界は高くなっていき、Pt量
が約50at%以上になると、交換異方性磁界は徐々に
小さくなっているのがわかる。
【0112】400(Oe)以上の交換異方性磁界を得
るには、反強磁性層(PtMn)を固定磁性層の下側に
形成した場合、Pt量を44〜57at%の範囲内で、
反強磁性層(PtMn)を固定磁性層の上側に形成した
場合、Pt量を47〜57at%の範囲内で適性に調節
すればよいことがわかる。
【0113】また600(Oe)以上の交換異方性磁界
を得るには、反強磁性層(PtMn)を固定磁性層の下
側に形成した場合、Pt量を46〜55at%の範囲内
で、反強磁性層(PtMn)を固定磁性層の上側に形成
した場合、Pt量を50〜56at%の範囲内で適性に
調節すればよいことがわかる。
【0114】以上の実験結果から、反強磁性層(PtM
n)の組成比を適性に調節した実施例として4種類の多
層膜を成膜し、比較例として1種類の多層膜を成膜し、
各膜の配向性や、交換異方性磁界等について調べた。そ
の実験結果を表1に示す。
【0115】
【表1】
【0116】実施例〜までの多層膜は、シングルス
ピンバルブ型薄膜素子であり、実施例の多層膜はデュ
アルスピンバルブ型薄膜素子である。また比較例の多
層膜は、実施例の多層膜と同じ膜構成で、反強磁性層
(PtMn)の組成比のみが異なっている。
【0117】また実施例の多層膜には、Cu(非磁性
導電層)の上に、Co−FeとNi−Feが積層されて
いるが、この2層でフリー磁性層が構成されている。同
じ様に実施例の多層膜には、Cu(非磁性導電層)の
下に、Ni−FeとCo−Feが積層されているが、こ
の2層でフリー磁性層が構成されている。また実施例
の多層膜には、2つのCu(非磁性導電層)の間に、C
o−Fe、Ni−Fe、およびCo−Feが積層されて
いるが、この3層でフリー磁性層が構成されている。
【0118】表1に示すように、実施例〜までの多
層膜では、PtMn(反強磁性層)とCoFe(固定磁
性層)との界面での格子整合は「なし」となっているの
に対し、比較例の多層膜では、界面での格子整合は
「有り」となっている。
【0119】また「240℃熱処理後のPtMnの規則
化度」の欄を見ると、実施例〜の多層膜では「○」
となっているのに対し、比較例の多層膜では「×」と
なっている。
【0120】さらに、「交換異方性磁界」および「抵抗
変化率」の欄を見ると、実施例〜までの多層膜で
は、大きい交換異方性磁界と抵抗変化率を有しているの
に対し、比較例の多層膜の交換異方性磁界および抵抗
変化率は、実施例〜の多層膜に比べて非常に小さく
なっていることがわかる。
【0121】以上の実験結果は、PtMn合金の組成比
に関係している。表1に示すように、比較例における
PtMnのPt量は44at%であるのに対し、実施例
〜までのPtMnのPt量は、49〜51at%と
なっている。
【0122】このため、図(熱処理前)を参照する
と、比較例のPtMnの格子定数は、実施例〜ま
でのPtMnの格子定数よりも小さくなっており、比較
例の方が実施例〜に比べて、PtMn(反強磁性
層)の格子定数と、Co−Fe(固定磁性層)の格子定
数との差が小さくなっていることがわかる。
【0123】つまり、熱処理前の段階において、比較例
の多層膜では、PtMnとCoFeとの界面構造が整
合状態になりやすく、一方、実施例〜までの多層膜
では、PtMnとCoFeとの界面構造が非整合状態に
なりやすくなっている。
【0124】熱処理前では、実施例〜および比較例
のPtMnの結晶構造は、不規則格子(面心立方格
子)となっているが、界面構造が整合状態となっている
比較例では熱処理を施しても、PtMnの結晶構造は
不規則格子から規則格子に変態できず、規則化は一向に
進まない状態となっている。
【0125】これに対し、界面構造が非整合状態となっ
ている実施例〜の多層膜では、熱処理を施すことに
より、PtMnの結晶構造が不規則格子から一部が規則
格子(Ll0型の面心正方格子)に変態し、規則化が充
分に進行したものとなっている。
【0126】図は、熱処理後における実施例のPt
MnとCoFeとの界面構造を示す高分解能TEM写真
である。
【0127】図に示すように、PtMnとCoFeと
の界面では、PtMnの原子の並び方向とCoFeの原
子の並び方向とが一致しておらず、非整合状態となって
いることがわかる。
【0128】一方、図は、熱処理後における比較例
のPtMnとCoFeとの界面構造を示す高分解能TE
M写真である。
【0129】図に示すように、PtMnとCoFeと
の界面では、PtMnの原子の並び方向とCoFeの原
子の並び方向とが一致しており、整合状態となっている
ことがわかる。
【0130】また図は、実施例の多層膜におけるP
tMnの規則化度を、図は比較例の多層膜における
PtMnの規則化度を測定した熱処理後の実験結果であ
る。
【0131】実験は、PtMnにおける2つの等価な
{111}面のなす角度を測定し、そのなす角度から規
則化度を求めた。なお横軸は、PtMnとCoFeとの
界面からPtMn側への距離を示している。
【0132】図に示すように、{111}面のなす角
度の測定値は、約65°から約72°の範囲内に散らば
っており、PtMnの結晶構造は、熱処理前の不規則格
子の一部が変化して、規則格子となっていることがわか
る。
【0133】これに対し、図では、{111}面のな
す角度の測定値が、約70〜約71の範囲内に収まって
おり、PtMnの結晶構造は、熱処理を施しても、熱処
理前の不規則格子の状態を保ったままとなっていること
がわかる。
【0134】以上のように、実施例〜の多層膜で
は、PtMnのPt量を49〜51at%とすること
で、界面構造を非整合状態とすることができ、従って規
則化を適性に進行させることができるので、図4を見て
もわかるように、PtMnとCoFeとの界面で発生す
る交換異方性磁界は非常に大きい値を有している。
【0135】一方、比較例の多層膜では、PtMnの
Pt量が44at%と低いので、界面構造は整合状態と
なり、従って規則化が適性に進まず、図を見てもわか
るように、PtMnとCoFeとの界面で発生する交換
異方性磁界は非常に小さい値となってしまう。
【0136】またPtMnとCoFeとの界面構造を非
整合状態とするには、PtMnの結晶配向と、CoFe
の結晶配向とを異なるようにしておくことが好ましい。
【0137】なお、表1に示す{111}面の配向度の
「強」「中」「弱」は、膜面方向に対する優先配向度を
表わしている。
【0138】表1に示すように、比較例のPtMnの
{111}面の配向度、およびCoFe(固定磁性層)
の{111}面の配向度は共に「強」となっている。
【0139】これは、実施例の膜構成を参照すると、
Taの上に形成されたNiFe,CoFe(フリー磁性
層)、Cu(非磁性導電層)およびCoFe(固定磁性
層)は、下地層としてのTaの影響を強く受けて、{1
11}面の配向度は強くなり、図3を参照してわかるよ
うに熱処理前におけるCoFe(固定磁性層)の格子定
数とPtMn(反強磁性層)の格子定数との差が小さい
ために、PtMnの{111}面は、CoFeの{11
1}面の配向度の影響を強く受けて、膜面方向に優先配
向してしまう。
【0140】これに対し、実施例ではTaの上に形成
されたNiFe,CoFe(フリー磁性層)、Cu(非
磁性導電層)およびCoFe(固定磁性層)は、下地層
としてのTaの影響を強く受けて、{111}面の配向
度は強くなるものの、図を参照してわかるように熱処
理前におけるCoFe(固定磁性層)の格子定数とPt
Mn(反強磁性層)の格子定数との差は大きいために、
PtMnの{111}面は、CoFeの結晶配向の影響
をあまり受けず、膜面方向における配向度は弱くなって
いる。
【0141】またPtMnの上にCoFe(固定磁性
層)が積層されている実施例の場合では、CoFe
がPtMnの上に形成されると、CoFeの{111}
面の配向度は弱くなり、従ってPtMnとCoFeとの
結晶配向は、自動的に異なる方向に向けられる。
【0142】次に本発明では、反強磁性層をPt―Mn
―X′(X′=Ar)合金で形成し、元素X′量と、P
t―Mn―X′合金の格子定数との関係について調べ
た。実験に使用した膜構成は下から、Si基板/アルミ
ナ/Ta(50)/Co90Fe10(30)/Pt―Mn
―X′(300)/Ta(100)である。なお括弧内
の数値は膜厚を表しており、単位はオングストロームで
ある。
【0143】反強磁性層の成膜は、スパッタ装置内に、
PtとMnとの割合が6:4、5:5、及び4:6とな
る3種類のターゲットを用意し、各ターゲットを用い
て、元素X′となるArの導入ガス圧を変化させなが
ら、DCマグネトロンスパッタ及びイオンビームスパッ
タによって、Pt―Mn―X′(X′=Ar)合金膜を
形成した。そして、Pt―Mn―X′(X′=Ar)合
金膜中に占めるX′(X′=Ar)量と、Pt―Mn―
X′(X′=Ar)の格子定数との関係について測定し
た。その実験結果を図に示す。
【0144】図に示すように、PtとMnとの組成比
の割合が、6:4、5:5、及び4:6のいずれかの場
合においても、元素X′(X′=Ar)量が大きくなる
ことにより、Pt―Mn―X′(X′=Ar)の格子定
数は大きくなることがわかる。なお固定磁性層を構成す
るNiFe合金、CoFe合金、またはCo の格
子定数は、図に示すように、約3.5〜3.6の範囲
である。またこの実験では、元素X′(X′=Ar)量
を4at%程度までとし、それ以上大きい含有量の場合
について実験を試みていないが、これは、元素X′とな
るArはガス元素であるために、ガス圧を上げても、膜
中にArを含有しにくいことによるものである。
【0145】次に、上述の実験に使用したPt―Mn―
X′(X′=Ar)合金膜に対し、以下に記載する熱処
理工程を施した。熱処理工程における条件としては、ま
ず昇温に3時間をかけ、次に240度の温度状態を3時
間保持し、さらに、降温に3時間をかけた。なお、熱処
理真空度を5×10-6Torr以下とした。
【0146】図10は、Pt―Mn―X′(X′=A
r)合金膜の元素X′(X′=Ar)量と、前記熱処理
によって、反強磁性層と固定磁性層との界面に発生した
交換結合磁界の大きさとの関係を示すグラフである。
【0147】図10に示すように、元素X′(X′=A
r)量が大きくなると、交換結合磁界は大きくなってい
ることがわかる。すなわち、元素X′(X′=Ar)を
PtMnに添加すれば、元素X′(X′=Ar)を添加
しない場合に比べて大きい交換結合磁界を得ることが可
能である。
【0148】次に本発明では、別の元素X′を用いて、
反強磁性層をPt―Mn―X′(X′=Mo)合金で形
成し、元素X′(X′=Mo)量と、Pt―Mn―X′
(X′=Mo)合金膜の格子定数との関係について調べ
た。実験に使用した膜構成は下から、Si基板/アルミ
ナ/Ta(50)/Co90Fe10(30)/Pt―Mn
―X′(300)/Ta(100)である。なお括弧内
の数値は膜厚を表しており、単位はオングストロームで
ある。
【0149】反強磁性層の成膜には、PtMnのターゲ
ットに元素X′(X′=Mo)のチップを貼り合わせた
複合型ターゲットを用意し、ターゲットに占めるチップ
の面積比を変化させながら、膜中に占める元素X′
(X′=Mo)量を変化させて、前記元素X′(X′=
Mo)量とPt―Mn―X′(X′=Mo)合金の格子
定数との関係について測定した。その実験結果を図11
に示す。
【0150】図11に示すように、PtとMnとの組成
比の割合が6:4、1:1、4:6のいずれかの場合に
おいても、膜中に占める元素X′(X′=Mo)の濃度
が大きくなるほど、Pt―Mn―X′(X′=Mo)の
格子定数は大きくなることがわかる。なお固定磁性層を
構成するNiFe合金、CoFe合金、またはCoの格
子定数は、図11に示すように、約3.5〜3.6の範
囲である。
【0151】次に、上記実験で使用したPt―Mn―
X′(X′=Mo)合金膜に対し、以下に記載する熱処
理工程を施した。熱処理工程における条件としては、ま
ず昇温に3時間をかけ、次に240度の温度状態を3時
間保持し、さらに、降温に3時間をかけた。なお、熱処
理真空度を5×10-6Torr以下とした。
【0152】図12は、Pt―Mn―X′(X′=M
o)合金膜の元素X′(X′=Mo)の濃度と、前記熱
処理によって、反強磁性層と固定磁性層との界面に発生
した交換結合磁界の大きさとの関係を示すグラフであ
る。
【0153】図12に示すように、PtとMnとの組成
比の割合が、6:4、1:1、4:6のいずれの場合で
あっても、膜中の元素X′(X′=Mo)量が約3at
%以上になれば、交換結合磁界は徐々に低下していくこ
とがわかる。特に、膜中の元素X′(X′=Mo)量が
約10at%以上になると、PtとMnとの組成比の割
合が1:1の場合であっても、交換結合磁界は非常に小
さくなってしまい好ましくない。
【0154】ところで、元素X′(X′=Mo)の適性
な含有量であるが、少なくとも、前記元素X′(X′=
Mo)を含有しない場合、すなわち、元素X′(X′=
Mo)量が0at%のときよりも、交換結合磁界が大き
くなることが好ましい。
【0155】Pt:Mnの組成比の割合が、6:4の場
合は、元素X′(X′=Mo)量が、約1at%以下で
あれば、元素X′(X′=Mo)量が0at%のときよ
りも、交換結合磁界が大きくなる。
【0156】また、Pt:Mnの組成比の割合が、1:
1の場合は、元素X′(X′=Mo)量が、約7at%
以下であれば、元素X′(X′=Mo)量が0at%の
ときよりも、交換結合磁界が大きくなる。
【0157】さらに、Pt:Mnの組成比の割合が、
4:6の場合は、元素X′(X′=Mo)量が、約10
at%以下であれば、元素X′(X′=Mo)量が0a
t%のときよりも、交換結合磁界が大きくなる。
【0158】次に、元素X′(X′=Mo)の適性な含
有量の下限であるが、Pt:Mnの組成比の割合が、
6:4の場合、元素X′(X′=Mo)量が、約0.5
at%になると、交換結合磁界が最も大きくなるので、
そこで本発明では、元素X′(X′=Mo)量が、0.
5at%よりも小さい0.2at%を下限として設定し
た。
【0159】以上の実験結果から本発明では、元素X′
の組成比の好ましい範囲をat%で0.2から10とし
た。またより好ましい範囲をat%で0.5から5とし
た。
【0160】なお上記の元素X′の好ましい組成範囲
は、Pt(=元素X)とMnとを4:6から6:4の範
囲内に設定した場合である。
【0161】
【発明の効果】以上詳述した本発明によれば、反強磁性
層と強磁性層とを有する磁気抵抗効果素子において、前
記反強磁性層をX―Mn(ただしXは、Pt,Pd,I
r,Rh,Ru,Osのうちいずれか1種または2種以
上の元素である)で形成する場合、反強磁性層を強磁性
層の上側に形成するか、下側に形成するかで前記反強磁
性層の組成比を適性に調節することにより、より大きい
交換異方性磁界を得ることが可能となっている。
【0162】あるいは本発明では、元素X′(ただし
X′は、Ne,Ar,Kr,Xe,Be,B,C,N,
Mg,Al,Si,P,Ti,V,Cr,Fe,Co,
Ni,Cu,Zn,Ga,Ge,Zr,Nb,Mo,A
g,Cd,Ir,Sn,Hf,Ta,W,Re,Au,
Pb、及び希土類元素のうち1種または2種以上の元素
である)を、X−Mn合金膜中に含有させたX−Mn−
X′合金により反強磁性層を形成し、適正に組成比を調
整することによっても、上記と同様の効果を得ることが
可能になっている。
【0163】以上のように、X−Mn合金、あるいはX
−Mn−X′合金から成る反強磁性層を、固定磁性層の
上側に形成するか、下側に形成するかで適正に組成比を
調整することにより、前記磁気抵抗効果素子層の抵抗変
化率を高めることができ、再生特性を向上させることが
可能となっている。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のデュアルスピンバルブ型薄膜素子の構
造をABS面側から見た断面図、
【図2】本発明における薄膜磁気ヘッドを記録媒体との
対向面側から見た断面図、
【図3】反強磁性層をPtMnで形成した場合におけ
る、熱処理前でのPt量と前記反強磁性層の格子定数と
の関係を示すグラフ、
【図4】反強磁性層をPtMnで形成した場合における
Pt量と交換異方性磁界との関係を示すグラフ、
【図5】表1に示す実施例の多層膜の高分解能TEM
写真、
【図6】表1に示す比較例の多層膜の高分解能TEM
写真、
【図7】表1に示す実施例の多層膜におけるPtMn
(反強磁性層)の規則化度を示すグラフ、
【図8】表1に示す実施例の多層膜におけるPtMn
(反強磁性層)の規則化度を示すグラフ、
【図9】反強磁性層をPt―Mn―X′(X′=Ar)
で形成した場合における元素X′(X′=Ar)量と前
記反強磁性層の格子定数との関係を示すグラフ、
【図10】反強磁性層をPt―Mn―X′(X′=A
r)で形成した場合における元素X′(X′=Ar)量
と交換結合磁界との関係を示すグラフ、
【図11】反強磁性層をPt―Mn―X′(X′=M
o)で形成した場合における元素X′(X′=Mo)量
と前記反強磁性層の格子定数との関係を示すグラフ、
【図12】反強磁性層をPt―Mn―X′(X′=M
o)で形成した場合における元素X′(X′=Mo)量
と交換結合磁界との関係を示すグラフ、
【符号の説明】
1 フリー磁性層 2 非磁性導電層 3 固定磁性層 4 反強磁性層 5 ハードバイアス層 6 下地層 7 保護層 8 導電層 9 エクスチェンジバイアス層 10 軟磁性層(SAL層) 11 非磁性層(SHUNT層) 12 磁気抵抗層(MR層) 20 下部シールド層 21 下部ギャップ層 22 磁気抵抗効果素子層 23 上部ギャップ層 24 上部シールド層
フロントページの続き (72)発明者 大湊 和也 東京都大田区雪谷大塚町1番7号 アル プス電気株式会社内 (72)発明者 牧野 彰宏 東京都大田区雪谷大塚町1番7号 アル プス電気株式会社内 (56)参考文献 特開 平10−91921(JP,A) 特開 平9−81915(JP,A) 特開 平8−249616(JP,A) 特開 平6−314617(JP,A) 特開 平9−35212(JP,A) 特開 平9−148132(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) H01L 43/08 G11B 5/39 H01F 10/30

Claims (21)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 スライダのトレーリング側端部に設けら
    れたデュアルスピンバルブ型の磁気抵抗効果素子におい
    て、 前記トレーリング側端部から磁気記録媒体の移動方向に
    向う方向を上側としたときに、下側から下側反強磁性
    層、固定磁性層、非磁性導電層、フリー磁性層、非磁性
    導電層、固定磁性層、上側反強磁性層の順に連続して接
    するように積層成膜されたもので、且つ 前記フリー磁性
    層の磁化方向を前記下側と上側の固定磁性層の磁化方向
    と交叉する方向へ揃えるバイアス層が設けられており、 前記上側反強磁性層が、X−Mn−X′合金(ただし、
    Xは、Pt,Pd,Ir,Rh,Ru,Osのうちいず
    れか1種または2種以上の元素であり、X′は、Ne,
    Ar,Kr,Xe,Be,B,C,N,Mg,Al,S
    i,P,Ti,V,Cr,Fe,Co,Ni,Cu,Z
    n,Ga,Ge,Zr,Nb,Mo,Ag,Cd,I
    r,Sn,Hf,Ta,W,Re,Au,Pb、及び希
    土類元素のうち1種または2種以上の元素である)で構
    成され、前記X−Mn−X′合金のX+X′の組成比が
    at%で、47〜57の範囲内であり、 前記下側反強磁性層が、X−Mn合金(ただしXは、P
    t,Pd,Ir,Rh,Ru,Osのうちいずれか1種
    または2種以上の元素である)で構成され、前記X−M
    n合金のXの組成比がat%で、44〜57の範囲内で
    ある ことを特徴とする磁気抵抗効果素子。
  2. 【請求項2】 スライダのトレーリング側端部に設けら
    れたデュアルスピンバルブ型の磁気抵抗効果素子におい
    て、 前記トレーリング側端部から磁気記録媒体の移動方向に
    向う方向を上側としたときに、下側から下側反強磁性
    層、固定磁性層、非磁性導電層、フリー磁性層、非磁性
    導電層、固定磁性層、上側反強磁性層の順に連続して接
    するように積層成膜されたもので、且つ 前記フリー磁性
    層の磁化方向を前記下側と上側の固定磁性層の磁化方向
    と交叉する方向へ揃えるバイアス層が設けられており、 前記上側反強磁性層が 、X−Mn合金(ただしXは、P
    t,Pd,Ir,Rh,Ru,Osのうちいずれか1種
    または2種以上の元素である)で構成され、前記X−M
    n合金のXの組成比はat%で、47〜57の範囲内で
    あり、前記下側反強磁性層が、X−Mn−X′合金(ただし、
    Xは、Pt,Pd,Ir,Rh,Ru,Osのうちいず
    れか1種または2種以上の元素であり、X′は、Ne,
    Ar,Kr,Xe,Be,B,C,N,Mg,Al,S
    i,P,Ti,V,Cr,Fe,Co,Ni,Cu,Z
    n,Ga,Ge,Zr,Nb,Mo,Ag,Cd,I
    r,Sn,Hf,Ta,W,Re,Au,Pb、及び希
    土類元素のうち1種または2種以上の元素である)で構
    成され、前記X−Mn−X′合金のX+X′の 組成比は
    at%で、44〜57の範囲内であることを特徴とする
    磁気抵抗効果素子。
  3. 【請求項3】 スライダのトレーリング側端部に設けら
    れたデュアルスピンバルブ型の磁気抵抗効果素子におい
    て、 前記トレーリング側端部から磁気記録媒体の移動方向に
    向う方向を上側としたときに、下側から下側反強磁性
    層、固定磁性層、非磁性導電層、フリー磁性層、非磁性
    導電層、固定磁性層、上側反強磁性層の順に連続して接
    するように積層成膜されたもので、且つ 前記フリー磁性
    層の磁化方向を前記下側と上側の固定磁性層の磁化方向
    と交叉する方向へ揃えるバイアス層が設けられており、 前記上側反強磁性層が 、X−Mn合金(ただしXは、P
    t,Pd,Ir,Rh,Ru,Osのうちいずれか1種
    の元素である)で構成され、前記X−Mn合金のXの組
    成比はat%で、47〜57の範囲内であり、前記下側反強磁性層が、X−Mn合金(ただしXは、P
    t,Pd,Ir,Rh,Ru,Osのうちいずれか2種
    以上の元素である)で構成され、前記 X−Mn合金のX
    の組成比はat%で、44〜57の範囲内であることを
    特徴とする磁気抵抗効果素子。
  4. 【請求項4】 スライダのトレーリング側端部に設け
    られたデュアルスピンバルブ型の磁気抵抗効果素子にお
    いて、 前記トレーリング側端部から磁気記録媒体の移動方向に
    向う方向を上側としたときに、下側から下側反強磁性
    層、固定磁性層、非磁性導電層、フリー磁性層、 非磁性
    導電層、固定磁性層、上側反強磁性層の順に連続して接
    するように積層成膜されたもので、且つ 前記フリー磁性
    層の磁化方向を前記下側と上側の固定磁性層の磁化方向
    と交叉する方向へ揃えるバイアス層が設けられており、 前記上側反強磁性層が、 X−Mn合金(ただしXは、P
    t,Pd,Ir,Rh,Ru,Osのうちいずれか2種
    以上の元素である)で構成され、前記X−Mn合金のX
    の組成比はat%で、47〜57の範囲内であり、前記下側反強磁性層が、X−Mn合金(ただしXは、P
    t,Pd,Ir,Rh,Ru,Osのうちいずれか1種
    の元素である)で構成され、前記 X−Mn合金のXの組
    成比はat%で、44〜57の範囲内であることを特徴
    とする磁気抵抗効果素子。
  5. 【請求項5】 前記上部反強磁性層が、前記X−Mn合
    金に代えて、X−Mn−X′合金(ただし、Xは、P
    t,Pd,Ir,Rh,Ru,Osのうちいずれか1種
    または2種以上の元素であり、X′は、Ne,Ar,K
    r,Xe,Be,B,C,N,Mg,Al,Si,P,
    Ti,V,Cr,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,G
    a,Ge,Zr,Nb,Mo,Ag,Cd,Ir,S
    n,Hf,Ta,W,Re,Au,Pb、及び希土類元
    素のうち1種または2種以上の元素である)で形成さ
    れ、前記X−Mn−X′合金のX+X′の組成比はat
    %で、47〜57の範囲内である請求項3または4記載
    の磁気抵抗効果素子。
  6. 【請求項6】 前記下側反強磁性層が、前記X−Mn合
    金に代えて、X−Mn−X′合金(ただし、Xは、P
    t,Pd,Ir,Rh,Ru,Osのうちいずれか1種
    または2種以上の元素であり、X′は、Ne,Ar,K
    r,Xe,Be,B,C,N,Mg,Al,Si,P,
    Ti,V,Cr,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,G
    a,Ge,Zr,Nb,Mo,Ag,Cd,Ir,S
    n,Hf,Ta,W,Re,Au,Pb、及び希土類元
    素のうち1種または2種以上の元素である)で形成さ
    れ、前記X−Mn−X′合金のX+X′の組成比はat
    %で、44〜57の範囲内である請求項3または4記載
    の磁気抵抗効果素子。
  7. 【請求項7】 前記上側反強磁性層のX−Mn合金のX
    の組成比、あるいはX−Mn−X′合金のX+X′の組
    成比はat%で、50〜56の範囲内である請求項1な
    いし6のいずれかに記載の磁気抵抗効果素子。
  8. 【請求項8】 前記下側反強磁性層のX−Mn合金のX
    の組成比、あるいはX−Mn−X′合金のX+X′の組
    成比はat%で、46〜55の範囲内である請求項1な
    いし7のいずれかに記載の磁気抵抗効果素子。
  9. 【請求項9】 前記X―Mn合金元素Xは、Ptであ
    る請求項1ないし8のいずれかに記載の磁気抵抗効果素
    子。
  10. 【請求項10】 前記反強磁性層の格子定数a,cの比
    c/aは、0.93〜0.99の範囲内である請求項
    記載の磁気抵抗効果素子。
  11. 【請求項11】 前記反強磁性層となるX―Mn―X′
    合金の元素XはPtである請求項1、2、5、6、7、
    8のいずれかに記載の磁気抵抗効果素子。
  12. 【請求項12】 前記元素X′は、Ne,Ar,Kr,
    Xeのうち1種または2種以上の元素である請求項1、
    2、5、6、7、8、11のうちのいずれかに記載の磁
    気抵抗効果素子。
  13. 【請求項13】 前記元素X′の組成比はat%で、
    0.2〜10の範囲内である請求項1、2、5、6、
    7、8、11、12のいずれかに記載の磁気抵抗効果素
    子。
  14. 【請求項14】 前記元素X′の組成比はat%で、
    0.5〜5の範囲内である請求項13記載の磁気抵抗効
    果素子。
  15. 【請求項15】 前記X−Mn−X′合金の元素XとM
    nとの組成比の割合X:Mnは、4:6〜6:4の範囲
    内である請求項1、2、5、6、7、8、11、12、
    13、14のいずれかに記載の磁気抵抗効果素子。
  16. 【請求項16】 前記X―Mn―X′合金は、スパッタ
    法により形成される請求項1、2、5、6、7、8、1
    1、12、13、14、15のいずれかに記載の磁気抵
    抗効果素子。
  17. 【請求項17】 前記X−Mn−X′合金は、元素Xと
    Mnとで構成される空間格子の隙間に元素X′が浸入し
    た浸入型固溶体であり、あるいは元素XとMnとで構成
    される結晶格子の格子点の一部が、元素X′に置換され
    た置換型固溶体である請求項1、2、5、6、7、8、
    11、12、13、14、15、16のいずれかに記載
    の磁気抵抗効果素子。
  18. 【請求項18】 前記反強磁性層の少なくとも一部の結
    晶構造が、L1 0 の面心正方規則格子となっている請
    求項1ないし17のいずれかに記載の磁気抵抗効果素
    子。
  19. 【請求項19】 前記下側反強磁性層は、下地膜の上に
    接して形成されている請求項1ないし18のいずれかに
    記載の磁気抵抗効果素子。
  20. 【請求項20】 前記下地膜はTaからなる請求項19
    記載の磁気抵抗効果素子。
  21. 【請求項21】 請求項1ないし20のいずれかに記載
    された磁気抵抗効果素子の上下にギャップ層を介してシ
    ールド層が形成されていることを特徴とする薄膜磁気ヘ
    ッド。
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