JP3263378B2 - Co基合金の熱処理方法 - Google Patents

Co基合金の熱処理方法

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、Co基合金の熱処
理方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来より知られているCo基合金とし
て、その化学成分が重量パーセントで、C:0.9〜
1.4%、Mn:1.0%以下、Si:0.4〜2.0
%、Cr:26.0〜32.0%、W:3.0〜6.0
%、Mo:1.0%以下、Ni:3.0%以下、Fe:
3.0%以下、その他の不純物が0.5%以下であり、
残部がCoからなる合金があり、この合金は、一般に
「ステライトNo.6」という商品名で販売されてお
り、耐食性、耐焼付き摩耗性及び耐キャビテーション性
に優れているため主に弁装置の弁座部分に広く使用され
ている。
【0003】また、更に別のCo基合金として、その化
学成分が重量パーセントで、C:0.2〜0.3%、S
i:0.9〜1.5%、Mn:1.0%以下、Ni:
1.75〜3.25%、Fe:2.0%以下、Cr:2
5.5〜29.0%、Mo:5.0〜6.0%、B:
0.007%以下であり、残部がCoからなる合金があ
り、この合金は、一般に「ステライトNo.21」とい
う商品名で販売されており、耐食性及び耐キャビテーシ
ョン性に優れているため調整弁や絞り弁の弁座部分に使
用されている。
【0004】また、使用に際して、ステライトNo.6
は従来よりガス溶接によって母材に溶接されるのが一般
的であるが、ガス溶接技術者の減少や溶接効率の向上と
いった観点から、最近ではプラズマ・トランスファー・
アーク溶接(以下、「PTA溶接」と称する)やティグ
溶接(以下、「TIG溶接」と称する)が採用されてい
る傾向がある。また、ステライトNo.21は従来より
PTA溶接やTIG溶接によって母材に溶接されるのが
殆どである。そして、溶接施工が行われた場合には、後
熱処理が行われ、この熱処理は、溶接によって発生する
熱影響部の軟化と残留応力の除去との双方の効果があっ
て、応力除去焼鈍と称されている。
【0005】ここで、一般の炭素鋼同士の溶接施工にお
いては、「電気工作物の溶接に関する技術基準を定める
省令(昭和45年通商産業省令第81号)」にその熱処
理条件として、595℃以上700℃以下の温度範囲で
溶接後熱処理を行うべき旨が規定されている。
【0006】したがって、ステライトNo.6やステラ
イトNo.21(以下、まとめて単に「ステライト」と
も称する)といったCo基合金を炭素鋼に溶接する場合
にも、一般的には、上記省令第81号に規定の熱処理条
件を適用し、650℃±25℃の温度範囲で後熱処理さ
れるのが従来からの通例であった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、本出願
人による粒界腐食に関する試験によると、上述したPT
A溶接やTIG溶接等の電弧溶接によってステライトを
炭素鋼に溶接する場合には、必然的に母材の溶け込みが
生じ、ステライトのFe含有量が増加し、Fe含有量の
増加に起因して、ステライトの耐粒界腐食性が著しく低
下する問題が確認されている。
【0008】また、後熱処理においても、炭素鋼同士の
溶接に関する上記省令第81号に規定の温度範囲は、ス
テライトの溶接においては粒界腐食を著しく促進する温
度範囲であることが分かっている。
【0009】従って、本発明は、上述した従来の問題を
解決するためになされたものであり、PTA溶接やTI
G溶接等の電弧溶接を用いても、Co基合金の耐粒界腐
食性が低下することを抑制できるCo基合金の熱処理方
法を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】上述の目的を達成するた
め、本発明の熱処理方法は、化学成分が重量パーセント
で、C:0.9〜1.4%、Mn:1.0%以下、S
i:0.4〜2.0%、Cr:26.0〜32.0%、
W:3.0〜6.0%、Mo:1.0%以下、Ni:
3.0%以下、Fe:3.0%以下、その他の不純物が
0.5%以下であり、残部がCoからなるCo基合金
を、炭素鋼にPTA溶接又はTIG溶接し、溶接後の
eの含有量が15%以下のものに対して750℃以上に
加熱する熱処理を行うことを特徴とする。同目的を達成
する本発明の別の熱処理方法は、化学成分が重量パーセ
ントで、C:0.9〜1.4%、Mn:1.0%以下、
Si:0.4〜2.0%、Cr:26.0〜32.0
%、W:3.0〜6.0%、Mo:1.0%以下、N
i:3.0%以下、Fe:3.0%以下、その他の不純
物が0.5%以下であり、残部がCoからなるCo基合
金を、炭素鋼にPTA溶接又はTIG溶接し、溶接後の
Feの含有量が30%以下のものに対して900℃以上
に加熱する熱処理を行うことを特徴とする。
【0011】また、同目的を達成する本発明の別の熱処
理方法は、化学成分が重量パーセントで、C:0.2〜
0.3%、Si:0.9〜1.5%、Mn:1.0%以
下、Ni:1.75〜3.25%、Fe:2.0%以
下、Cr:25.5〜29.0%、Mo:5.0〜6.
0%、B:0.007%以下であり、残部がCoからな
るCo基合金を、炭素鋼にPTA溶接又はTIG溶接
し、溶接後のFeの含有量が19%以下のものに対して
750℃以上に加熱する熱処理を行うことを特徴とす
る。
【0012】
【発明の実施の形態】以下、この発明の実施の形態とし
て、本発明の熱処理を施したステライトの試験材に関し
て説明する。まず、ステライトの溶接において、母材で
ある炭素鋼がステライトに溶け込む量については、PT
A溶接の場合、溶接条件を適切にすることによってFe
量を15%以下に、また、TIG溶接の場合でも30%
以下に管理することが可能である。
【0013】そこで、ステライトNo.6又はステライ
トNo.21のPTA粉末とFe粉末とを混合し、アル
ゴン雰囲気のアーク炉を用いた鋳造により、ステライト
中のFe含有量が約0〜40%の範囲にある複数の1次
試験材を製作した。図1に、かかる鋳造1次試験材の形
状寸法を示す。すなわち、これらの1次試験材は、上面
の直径が50mm、下面の直径が40mm及び高さが2
0mmの切頭円錐体である。また、以下の表1に、ステ
ライトNo.6粉末とFe粉末との混合による7種類の
1次試験材S0,S5,S10,S15,S20,S3
0及びS40の化学成分を示し、表2に、ステライトN
o.21粉末とFe粉末との混合による6種類の1次試
験材T0,T5,T10,T15,T20,T30との
化学成分を示す。
【0014】
【表1】
【0015】
【表2】
【0016】これらの1次試験材に、650℃、750
℃及び900℃で4時間の熱処理を施工した。ここで、
熱処理時間は、製品厚さ25mm当たり1時間が一般的
であるため、4時間の熱処理時間は、板厚100mmの
製品の熱処理時間に相当している。そして、熱処理後の
鋳造1次試験材を加工して、図2に示すような直径16
mm、厚さ3mmの円板状の2次試験材を製作する。
【0017】熱処理後のこれら2次試験材に対し、JI
S規格G0575に規定するステンレス鋼の硫酸・硫酸
銅の腐食試験方法(以下、「ストラウス試験」と称す
る)を16時間実施し、2次試験材のFe含有量と熱処
理の温度とが粒界腐食性に及ぼす影響について試験を行
った。図3及び4にそれぞれ、ステライトNo.6から
なる試験材及びステライトNo.21からなる試験材に
関する試験結果を示す。
【0018】図3に示されるように、ステライトNo.
6からなる試験材を650℃で熱処理した場合、Fe含
有量が1%程度では粒界腐食は生じないが、Fe含有量
が5%になると粒界腐食が生じ始め、それよりも更にF
e含有量が増加すると粒界腐食が顕著に進行している。
すなわち、これは、含有されたFeが粒界腐食を著しく
進行させていることを示している。
【0019】また、750℃で熱処理した場合、Fe含
有量が15%までは粒界腐食が生じなかったが、Fe含
有量が20%では粒界腐食の発生が認められた。
【0020】さらに、900℃で熱処理した場合、Fe
含有量が30%までは粒界腐食が生じなく、Fe含有量
が40%ではじめて粒界腐食の発生が認められた。
【0021】このようにステライトNo.6からなる試
験材においては、650℃の熱処理では粒界腐食性が著
しく促進されたが、750℃及び900℃のように熱処
理温度が高くなると、粒界腐食感受性はFe含有量が多
い場合でも低くなった。
【0022】同様に、図4に基づいて、ステライトN
o.21からなる試験材について説明する。まず、65
0℃で熱処理した場合、Fe含有量1%程度では粒界腐
食は生じなかったが、Fe含有量が5%になると粒界腐
食性が生じはじめ、それよりも更にFe含有量が増加す
ると粒界腐食は顕著に進行した。
【0023】また、750℃で熱処理した場合、Fe含
有量が19%までは粒界腐食が生じなかったが、Fe含
有量が33%では粒界腐食の発生が認められた。
【0024】さらに、900℃で熱処理した場合、Fe
含有量が33%で0.05mm深さの粒界腐食が生じて
いるものの殆ど粒界腐食性は消失した。
【0025】ステライトの粒界腐食は、ステライトが凝
固する際に晶出する炭化物(以下「1次炭化物」と称す
る)によって生じるものではなく、オーステナイト形ス
テンレス鋼である300系ステンレス鋼と同様に後熱処
理で析出する炭化物(以下「2次炭化物」と称する)の
隣接部にCr欠乏層が生じることが原因となって発生す
る。
【0026】粒界腐食感受性は、420〜650℃に加
熱された場合に認められる。650℃では、図5に概念
的に示されるように、2次炭化物中のCr濃度が高く、
このため2次炭化物に隣接するCr欠乏層のCr濃度が
低く粒界腐食が促進される。しかし、750℃及び90
0℃で析出する2次炭化物のCr濃度は低いため、2次
炭化物に隣接するCr欠乏層のCr濃度が高く、また熱
処理温度が高いためCrの拡散が生じてCr欠乏層が解
消する。
【0027】ここで、Feが粒界腐食を促進する原因
は、第1に、Feがステライト中に溶け込みステライト
の主元素であるCoと固容体を形成してステライト全体
のCr濃度を低減し、ステライトのマトリックス(基
地)の耐食性を低下させることがある。また、第2に、
この耐食性の低下したマトリックスの中からCr濃度の
高い2次炭化物が析出して、2次炭化物隣接部のCrを
欠乏させ、この部分の耐食性を更に低下させることがあ
る。この場合に650℃では、より高温の熱処理の場合
に比べて2次炭化物のCr濃度が高いためCr欠乏層の
Cr濃度の低下を一層促進する。さらに、第3に、Fe
が含有されるとCrの拡散を遅延させることがある。ま
た、Crの拡散は、低温ではより小さく、高温ではより
大きくなるため、650℃ではそれ以上の熱処理温度の
場合に比べて時間がかかる。
【0028】このようにして、Fe含有量は、ステライ
トの粒界腐食感受性を高める作用を有している。そし
て、上述したように、Feが含有された場合でも、65
0℃より更に高温の熱処理は、ステライトの粒界腐食感
受性を低減するが、この効果が実質的に認められる熱処
理温度の下限は700℃である。
【0029】そして、この熱処理条件は、650℃の熱
処理に比べてステライト溶接部の残留応力の低減にも有
効であり、粒界腐食が発生したことが原因となって生じ
るステライトの割れへの進展を防止することができる。
【0030】
【発明の効果】以上説明したように本発明の熱処理方法
によれば、ステライト等のCo基合金の粒界腐食感受性
を低減することができ、PTA溶接やTIG溶接等の電
弧溶接を用いた場合でもCo基合金の耐粒界腐食性の低
下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 1次試験材の形状寸法を示す図である。
【図2】 2次試験材の形状寸法を示す図である。
【図3】 ステライトNo.6からなる試験材の粒界腐
食試験の結果を示す図である。
【図4】 ステライトNo.21からなる試験材の粒界
腐食試験の結果を示す図である。
【図5】 粒界腐食の発生原因を示す模式的な図であ
る。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.7 識別記号 FI C22F 1/00 630 C22F 1/00 630G 650 650C 691 691A 694 694B (56)参考文献 特開 昭59−169696(JP,A) 特開 昭64−104473(JP,A) 特開 平8−134571(JP,A) 特開 平4−162984(JP,A) 蓮井、森垣 ”現代溶接技術体系<第 15巻>肉盛溶接・容射”産報出版株式会 社 昭和55年 1月23日 (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) B23K 9/00 - 10/02 C22C 19/07 C22F 1/10

Claims (3)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 化学成分が重量パーセントで、 C:0.9〜1.4%、Mn:1.0%以下、Si:
    0.4〜2.0%、 Cr:26.0〜32.0%、W:3.0〜6.0%、
    Mo:1.0%以下、 Ni:3.0%以下、Fe:3.0%以下、その他の不
    純物が0.5%以下であり、残部がCoからなるCo基
    合金を、炭素鋼にPTA溶接又はTIG溶接し、溶接後の Feの含有量が15%以下のものに対して75
    0℃以上に加熱する熱処理方法。
  2. 【請求項2】 化学成分が重量パーセントで、 C:0.9〜1.4%、Mn:1.0%以下、Si:
    0.4〜2.0%、 Cr:26.0〜32.0%、W:3.0〜6.0%、
    Mo:1.0%以下、 Ni:3.0%以下、Fe:3.0%以下、その他の不
    純物が0.5%以下であり、残部がCoからなるCo基
    合金を、炭素鋼にPTA溶接又はTIG溶接し、溶接後の Feの含有量が30%以下のものに対して90
    0℃以上に加熱する熱処理方法。
  3. 【請求項3】 化学成分が重量パーセントで、 C:0.2〜0.3%、Si:0.9〜1.5%、M
    n:1.0%以下、 Ni:1.75〜3.25%、Fe:2.0%以下、C
    r:25.5〜29.0%、Mo:5.0〜6.0%、
    B:0.007%以下であり、 残部がCoからなるCo基合金を、炭素鋼にPTA溶接
    又はTIG溶接し、溶接後の Feの含有量が19%以下のものに対して75
    0℃以上に加熱する熱処理方法。
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