JP3261255B2 - シェル屋根のリフトアップ工法 - Google Patents

シェル屋根のリフトアップ工法

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、上に凸の略球面状をな
す格子シェルがシングルレイヤーで構成されたシェル屋
根の構築方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】この種のシェル屋根は、骨組となる格子
シェルがシングルレイヤーで構成されているため、周囲
の柱等により構成される外周フレームと切り離した格子
シェル単体の状態では、立体トラスのような頑丈さがな
く、格子シェルの外周部を外周フレームに接合して、全
体形状を形成することで安定するという構造上の特殊性
を有している。
【0003】従って、予め、地上で屋根を組み立て、こ
れを吊り上げて柱等に架設するといったリフトアップ工
法には馴染まず、かかるシェル屋根を構築するにあたっ
ては、床面に屋根全体を支持し得る大きさのステージを
設置し、このステージの上に各単材を吊り込んで格子シ
ェルを組み立て、格子シェルの外周部を外周フレームに
接続した後、適当な時点で、例えば、屋根や天井の仕上
げ、照明器具等の設備工事の完了後、ステージを解体撤
去するといった施工方法が必要とされた。
【0004】このため、ステージ用の膨大な数量の仮設
材が必要で、その搬入・搬出、組立・解体に多大の手間
を要し、しかも、ステージを撤去するまで、床面側の仕
上げ工事に着手できない等の問題点があった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】上記の現状に鑑み、本
発明は、上に凸の略球面状をなす格子シェルがシングル
レイヤーで構成されたシェル屋根を構築するにあたり、
少量の仮設材で格子シェルを補強して、リフトアップ時
の変形を防止できるようにすることにより、仮設材使用
量の低減、工期短縮、コストダウン、安全性向上等を図
り得る工法を提供しようとするものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するた
めに、本発明が講じた技術的手段は、次のとおりであ
る。即ち、本発明によるシェル屋根のリフトアップ工法
は、上に凸の略球面状をなす格子シェルがシングルレイ
ヤーで構成されたシェル屋根を構築するにあたり、格子
シェルの少なくとも一部を地組みし、地組みした格子シ
ェルの下面側に引張補強材となる下弦材を平面視で格子
シェルのビームと平行に且つ十字状に張設すると共に、
互いに交差する下弦材の隣合う端部連結点間には、圧縮
補強材となるアーチ材を前記連結点間に位置する格子シ
ェルの各交差部に固定された状態に連結し、外周フレー
ムの構築後、前記下弦材の両端部連結点を吊り下げ支持
して前記格子シェルをリフトアップし、当該格子シェル
の外周部を前記外周フレームに接合した後、前記下弦材
およびアーチ材を撤去することを特徴としている。
【0007】尚、前記アーチ材は、全部を撤去すること
が望ましいが、シェル屋根で覆われた空間の使用や視覚
上、邪魔にならない部分については、残置させてもよ
い。前記下弦材に油圧ジャッキを介装して下弦材の張力
を調整可能に構成することや、前記下弦材およびアーチ
材を格子シェルの交差部に突設したブラケットに着脱自
在に連結することは、後述する理由により好ましい。ま
た、格子シェルは、格子用ビームに集成材等を使用した
木造であってもよく、鋼管等を使用したS造であっても
よい。
【0008】
【作用】上記の構成によれば、例えば、図11に示すよ
うに、格子シェルのビームと引張強度の高い下弦材とで
形成される弓形が互いに交差し、これらの交差した弓形
が圧縮強度の高いアーチ状のアーチ材で連結された架構
体となり、下弦材の両端連結点を吊り下げ支持して格子
シェルをリフトアップした際、格子シェルの変形が防止
される。
【0009】そして、所定レベルまでリフトアップした
格子シェルの外周部を外周フレームに接合して、全体形
状を形成することにより、シェル屋根の形状が安定する
ので、邪魔になる下弦材およびアーチ材は撤去して、本
来のシェル屋根を構築することができる。
【0010】
【実施例】以下、本発明の一実施例を図面に基づいて説
明する。図1、図3において、1はシングルレイヤーで
構成された木造の格子シェルであり、上に凸の略球面状
をなし、平面視においては、全体として方形に形成され
ている。格子シェルのビームは互いに直角に交差して、
正方形の枡目を形成している。
【0011】格子シェル1のうち、周囲の仮想線で示し
た格子部分は、先行して鉄骨柱2に架設される格子シェ
ル1Aであり、当該格子シェル1Aと鉄骨柱2とで外周
フレーム3の一例を構成している。図2と、図1、図3
に実線で示した格子部分は、地組みされる格子シェル1
Bである。
【0012】地組みした格子シェル1Bの下面側には、
引張補強材となる下弦材4が、平面視で格子シェル1B
のビームと平行に且つ十字状に2本ずつ張設されてい
る。各々の下弦材4の途中には、油圧ジャッキ5が介装
され、下弦材4の張力を調整可能に構成されている。
尚、1本の下弦材4は、後述するように、近接して互い
に平行に配置した一対のPC鋼材(PC鋼棒、PC鋼
線、PCより線のいずれであってもよいが、この実施例
ではPC鋼棒を使用している。)23で構成されてい
る。
【0013】互いに十字状に交差する下弦材4の隣合う
端部連結点P間には、圧縮補強材となるアーチ材6が、
図3に示すように、平面視において直線状に、且つ、側
面視においては、アーチ状を呈するように、前記連結点
P間に位置する格子シェル1Bの各交差部に固定された
状態に連結されている。下弦材4としては、重量の割り
に圧縮強度が大きい鋼管等の金属パイプが使用されてい
る。この金属パイプは、前記連結点P間にわたってアー
チ状に連続した1本の長尺物であってもよいが、この実
施例では、格子シェル1の枡目の対角線長さに対応する
長さのパイプを必要本数、後述する継手7で連結してア
ーチ状に構成している。
【0014】図3に一点鎖線で示す周囲の矩形枠部分
は、図12、図13に示す観覧席8によって例示される
障害物であり、床格子シェル1Bを地組みする床面9よ
りも高い位置に設けられている。地組みする格子シェル
1Bの縦横の寸法は、リフトアップ時に、観覧席8が障
害物とならないように、平面視において、この観覧席8
が形成する開口の内法寸法よりも小さく設定されてい
る。つまり、図1、図3で示す格子シェル1から観覧席
8が形成する開口の内法寸法よりも小さな格子シェル1
Bを切り出して地組みし、残りの格子シェル1Aは、格
子シェル1Bのリフトアップに先立って、鉄骨柱2に取
り付けられることになる。
【0015】格子シェル1Bは、アーチ材6を周囲の四
辺とする方形状に切り出してもよいが、この実施例で
は、リフトアップ時に、自重で変形しないような張り出
し量の少ないシェル部分1bまで切り出し、格子シェル
1Bの一部として地組みしている。
【0016】格子シェル用ビームとしては、集成材(挽
き板を貼り合わせたもの)10が使用されており、格子
シェル1の交差部には、鋼製の継手7が設けられてい
る。即ち、前記格子シェル1のうち、大部分は、図4、
図5に示すように、集成材10の端部に予め接合金物1
1をボルト・ナット又はドリフトピン12で連結して成
る単材を、継手7を介して格子状に連結して構成された
ものであり、継手7と接合金物11とは、両側面を当て
板13で挟持した状態で、ボルト・ナット14により連
結されている。15は補強用のリブである。16は、適
当な時点で、格子シェル1の交差部に被覆される耐火カ
バーである。
【0017】継手7には、図5に示すように、束17が
突設されており、この束17に屋根仕上げ層18を取り
付けるようになっている。屋根仕上げ層18は、例え
ば、軽量鉄骨よりなる屋根下地18aと屋根パネル18
bとで構成される。
【0018】継手7のうち、所定位置Qに配置される継
手7には、図6、図7、図8に示すように、集成材10
を連結する板状部分と45度の角度をなすブラケット1
9が突設されており、このブラケット19にアーチ材6
の端部をボルト・ナット20aと当て板20bで着脱自
在に連結するようになっている。尚、ブラッケト19
は、アーチ材6の撤去後、耐火カバー16の被覆前に、
切除される。
【0019】継手7のうち、下弦材4の端部連結点Pに
配置される継手7には、図9、図10に示すように、所
定の板状部分の両面に一対のブラケット21がボルト・
ナット22で固定されている。これらのブラケット21
には、集成材10の上下幅の中央部に貫通孔が形成され
ている。そして、下弦材4を構成する一対のPC鋼材2
3を集成材10の両側に配置し、これらのPC鋼材23
の端部を前記貫通孔に挿通して、その挿通端部にナット
等の定着金具24を取り付けてブラケット21に連結す
るようになっている。25はPC鋼材23に套嵌した補
強用の鋼製スリーブである。
【0020】また、この継手7は、一対のPC鋼材23
よりなる下弦材4を連結するブラケット21が邪魔にな
らないように、継手7の前記板状部分を延長して、この
延長した部分26を、集成材10の端部のスリットに嵌
入し、ボルト・ナット又はドリフトピン12で集成材1
0と連結するようになっている。
【0021】図9に示す27は、継手7の上部に突設し
た吊り下げ用ブラケット、仮想線で示す28は吊り下げ
用ブラケット27に係止させたシャックル、29は吊り
ロープを示す。
【0022】尚、ブラッケト21は、下弦材4の撤去
後、耐火カバー16の被覆前に取り外される。この時、
吊り下げ用ブラケット27も切除される。
【0023】上記の構成によれば、図11に示すよう
に、格子シェルのビームaと引張強度の高い下弦材4と
で形成される弓形が二組ずつ互いに交差し、これらの交
差した弓形が圧縮強度の高いアーチ状のアーチ材6で連
結された架構体となり、下弦材4の両端連結点Pを吊り
下げ支持して格子シェル1Bを吊り上げた際、格子シェ
ル1Bの変形が防止されることになり、リフトアップ工
法が可能となる。
【0024】そして、外周フレーム3の構築後、所定レ
ベルまでリフトアップした格子シェル1Bの外周部を外
周フレーム3に接合して、全体形状を形成することによ
り、シェル屋根の形状が安定するので、邪魔になる下弦
材4およびアーチ材6を撤去して、本来のシェル屋根を
構築することができる。
【0025】殊に、上記の実施例では、下弦材4に油圧
ジャッキ5を介装して下弦材4の張力を調整可能に構成
したため、下弦材4を撤去する際、下弦材4に導入した
張力を徐々に開放することができ、格子シェル1に大き
な衝撃を与えて、破損したり変形させたりする恐れがな
く、安全かつ確実な施工が可能となる。
【0026】また、下弦材4およびアーチ材6を格子シ
ェル1Bの交差部に突設したブラケット21、19に着
脱自在に連結するため、格子シェル用ビームとして集成
材10を用いた木造のシェル屋根にも適用でき、連結手
段としてもボルト・ナット等の作業性の良い連結手段を
採用できる。
【0027】次に、上記のような補強手段を採り入れた
シェル屋根のリフトアップ工法の具体的な施工手順の一
例を図12、図13に基づいて説明する。
【0028】図12の(イ)に示すように、RC造の柱
30や観覧席8を構築する一方、床面9には短い支柱3
1を設置し、その上で集成材10の接続を行い、上述し
た格子シェル1Bを地組みする。この時点で、或いは、
その後の適当な時点で、前記下弦材4を張設し、アーチ
材6を連結しておく。
【0029】次いで、図12の(ロ)に示すように、格
子シェル1Bの上に屋根仕上げ層18を施工すると共
に、天井(図示せず)や照明器具等(図示せず)の設備
工事を行う一方、前記柱30の上部に鉄骨柱2を立設し
て、前記格子シェル1Aを架設し、外周フレーム3を構
成する。
【0030】この状態で、図12の(ハ)に示すよう
に、油圧ジャッキ5により下弦材4を緊張させて、下弦
材4に張力を導入する一方、仮設柱32に設置した4台
のウインチ33により、前記下弦材4の両端部連結点P
を吊り下げ支持して、地組みした格子シェル1Bを吊り
上げ、支柱31を撤去する。34はウインチ33により
巻き取られるワイヤーロープ、35はガイド用のシープ
を示す。尚、地組みした格子シェル1Bの吊上げに際
し、必要であれば、仮想線で示すように、バックステイ
32aをとって補強するものとする。
【0031】そして、図13の(イ)に示すように、格
子シェル1Bを所定レベルまでリフトアップし、格子シ
ェル1Bの外周部を前記外周フレーム3に接合した後、
前記下弦材4およびアーチ材6を撤去すると共に、外周
フレーム3側の屋根仕上げ層18や天井(図示せず)等
を施工して、図13の(ロ)に示すように、上に凸の略
球面状をなす格子シェル1がシングルレイヤーで構成さ
れたシェル屋根Aを構築するのである。
【0032】以上のように、格子シェル1Bの補強が、
下弦材4やアーチ材6といった少量の仮設材によって行
われるため、仮設材の使用量が少なくて、搬入・搬出に
さほどの手間を必要とせず、組立・解体も短時間で行
え、しかも、格子シェル1Bのリフトアップ後は、天候
に左右されない作業空間が形成されることになり、これ
らの結果として、大幅な工期短縮とコストダウンが可能
である。また、屋根仕上げ層18や天井の工事、照明器
具等の設備工事を低所で行えるため、安全性の向上を図
ることができる。
【0033】尚、上記の実施例では、地組みした格子シ
ェル1Bのリフトアップ時の障害物となる観客席8が周
囲全体に位置するため、格子シェル1の中央側を切り出
して格子シェル1Bを地組みしたが、図14に示すよう
に、観客席8等の障害物が二辺のみに位置する場合は、
地組みする格子シェル1Bとしては、図14や図15に
示すように、障害物の存在しない二辺の端部まで切り出
しもよい。障害物が全く存在しない場合は、図16に示
すように、鉄骨柱2を除く格子シェル1全体を地組みし
てリフトアップするよう構成することが望ましい。ま
た、上記各実施例では、いずれも格子シェル1を木造と
したが、鋼管等を使用したS造の格子シェル1について
も、本発明は同様に実施できる。また、本発明は、ビー
ムが直角に交差する格子シェルであれば、枡目が長方形
になるような格子シェルを骨組みとするシェル屋根につ
いても同様に実施できる。
【0034】
【発明の効果】以上説明したように、本発明によれば、
シェル屋根の骨組となる格子シェルがシングルレイヤー
で構成されているにもかかわらず、下弦材やアーチ材と
いった少量の仮設材で格子シェルを補強して、リフトア
ップ時の変形を防止することができ、仮設材使用量の低
減、工期短縮、コストダウン、安全性向上等を図り得る
のである。
【図面の簡単な説明】
【図1】シングルレイヤーで構成された格子シェル全体
を上面側から見た概略斜視図である。
【図2】地組みされる格子シェルを下面側から見た概略
斜視図である。
【図3】地組みされる格子シェルと先行して施工される
外周フレームとを下面側から見た概略平面図である。
【図4】格子シェルの交差部の平面図である。
【図5】格子シェルの交差部の縦断側面図である。
【図6】格子シェルの交差部とアーチ材との連結構造を
示す要部の平面図である。
【図7】格子シェルの交差部とアーチ材との連結構造を
示す要部の縦断側面図である。
【図8】格子シェルの他の箇所の交差部とアーチ材との
連結構造を示す要部の平面図である。
【図9】格子シェルの交差部とアーチ材および下弦材と
の連結構造を示す要部の縦断側面図である。
【図10】格子シェルの交差部と下弦材との連結構造を
示す要部の横断平面図である。
【図11】アーチ材および下弦材で補強された格子シェ
ルの作用説明図である。
【図12】シェル屋根のリフトアップ施工手順の説明図
である。
【図13】シェル屋根のリフトアップ施工手順の説明図
である。
【図14】本発明の他の実施例を示すものであって、地
組みされる格子シェルと先行して施工される外周フレー
ムとを下面側から見た概略平面図である。
【図15】図14の格子シェルを下面側から見た概略斜
視図である。
【図16】本発明の他の実施例を示す格子シェルの全体
を下面側から見た概略平面図である。
【符号の説明】
1,1A,1B…格子シェル、3…外周フレーム、4…
下弦材、5…油圧ジャッキ、6…アーチ材。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 藪下 善弘 大阪市中央区本町4丁目1番13号 株式 会社竹中工務店大阪本店内 (72)発明者 中井 公彦 大阪市中央区本町4丁目1番13号 株式 会社竹中工務店大阪本店内 (72)発明者 菊池 公男 大阪市中央区本町4丁目1番13号 株式 会社竹中工務店大阪本店内 (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) E04B 1/342 E04B 1/35 E04B 7/10

Claims (4)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 上に凸の略球面状をなす格子シェルがシ
    ングルレイヤーで構成されたシェル屋根を構築するにあ
    たり、格子シェルの少なくとも一部を地組みし、地組み
    した格子シェルの下面側に引張補強材となる下弦材を平
    面視で格子シェルのビームと平行に且つ十字状に張設す
    ると共に、互いに交差する下弦材の隣合う端部連結点間
    には、圧縮補強材となるアーチ材を前記連結点間に位置
    する格子シェルの各交差部に固定された状態に連結し、
    外周フレームの構築後、前記下弦材の両端部連結点を吊
    り下げ支持して前記格子シェルをリフトアップし、当該
    格子シェルの外周部を前記外周フレームに接合した後、
    前記下弦材およびアーチ材を撤去することを特徴とする
    シェル屋根のリフトアップ工法。
  2. 【請求項2】 前記下弦材に油圧ジャッキを介装して下
    弦材の張力を調整可能に構成してあることを特徴とする
    請求項1に記載のシェル屋根のリフトアップ工法。
  3. 【請求項3】 前記下弦材およびアーチ材が格子シェル
    の交差部に突設したブラケットに着脱自在に連結されて
    いることを特徴とする請求項1又は2に記載のシェル屋
    根のリフトアップ工法。
  4. 【請求項4】 前記格子シェルが木造であることを特徴
    とする請求項3に記載のシェル屋根のリフトアップ工
    法。
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