JP3258535B2 - スピーカ用磁気回路 - Google Patents

Description

【発明の詳細な説明】

【０００１】

【産業上の利用分野】本発明は、スピーカ用磁気回路の
改良に関し、さらに詳しくはスピーカ音声の高調波歪を
低減するスピーカ用磁気回路に関する。

【０００２】

【従来の技術】磁気回路はスピーカユニットの駆動源を
構成する重要な構成メンバーであるが、現在のスピーカ
は金属部品を多く使い、ボイスコイル作動時、この金属
部品に渦電流を誘発させこの渦電流が音声の歪の原因と
なり、またボイスコイルの高速応答性の阻害要因となり
音質低下の原因となっている。この改善方法として、
（１）磁気回路を構成する鉄ヨークの磁気ギャップ形成
部に銅リングを被着する方法、（２）磁気回路の構成部
品を非金属とし、渦電流発生を抑える方法等あるが、
（１）の場合、部品点数の増によるコスト増、および磁
気回路での磁気ギャップ幅が大きくなりギャップ磁束密
度が低下することによるボイスコイル駆動力の低下を招
いている。また（２）の場合、非金属ヨークの代表例は
ソフトフェライトであるが、このソフトフェライトはヨ
ーク材の重要な特性の１つである飽和磁束密度が鉄と比
べて約１／４であり、磁気回路のギャップ磁束密度を大
きくできず、充分なボイスコイル駆動力が得られず、低
出力スピーカ用に限られる欠点がある。

【０００３】

【発明が解決しようとする課題】従来のスピーカの磁気
回路構成の１例は次のようなものである。図３に示すよ
うに軸方向（Ｙ方向）に異方性を付した焼結フェライト
磁石１を使用して、その上下に鉄部材（ヨーク）２、３
を配置させて磁気ギャップ部４を形成する。符号５はボ
イスコイルであり、磁気ギャップ部４内に位置してい
る。この従来のスピーカは次のような欠点を有する。ス
ピーカはボイスコイル５に音声電流（交流）を流すこと
により動作するが、この際ボイスコイル５から発生する
磁界により鉄部材（ヨーク）２、３に渦電流が発生し歪
の原因となっている。鉄部材２，３は軟鉄であり導電性
であり、ここに交流磁界が横切ることにより、その変化
を妨げる方向に渦電流が発生する為である。またこの渦
電流はボイスコイル５の高速応答性の妨げともなり、ボ
イスコイルに印加された信号に対して実際のボイスコイ
ル５の動きに遅れが生じ、音質劣化を引き起こす。本発
明の目的はスピーカの磁気回路による歪を低減し高速応
答性を向上したスピーカの磁気回路を提供するものであ
る。

【０００４】

【課題を解決するための手段】本発明は、ヨークと磁石
とを備え、ボイスコイルが挿入される磁気ギャップが形
成されたスピーカ用磁気回路に於いて、前記磁石の周面
と前記ヨークの周面との間の上下端部にそれぞれ磁気ギ
ャップが形成されていると共に、前記各磁気ギャップに
第１と第２のボイスコイルがそれぞれ挿入され、前記第
１と第２のボイスコイルの駆動方向が同一となるように
通電されるものであり、前記ヨークの少なくとも前記各
磁気ギャップに面する部分が鉄粉ボンドで形成されてい
るスピーカ用磁気回路である。また、本発明は、ヨーク
と磁石とを備え、ボイスコイルが挿入される磁気ギャッ
プが形成されたスピーカ用磁気回路に於いて、前記磁石
の上下面にそれぞれ接合される第１と第２のヨークと、
この第１と第２のヨークの周面と対向する対向ヨークと
を備え、前記第１のヨークの周面と前記対向ヨークの周
面との間に第１のボイスコイルが挿入される第１の磁気
ギャップが形成されていると共に前記第２のヨークの周
面と前記対向ヨークの周面との間に第２のボイスコイル
が挿入される第２の磁気ギャップが形成されており、前
記第１と第２のボイスコイルの駆動方向が同一となるよ
うに通電されるものであり、前記第１と第２のヨークの
少なくとも前記各磁気ギャップに面する部分が鉄粉ボン
ドで形成されているスピーカ用磁気回路である。ここ
で、前記対向ヨークも鉄粉ボンドで形成することは望ま
しいことである。

【０００５】

【作用】スピーカのボイスコイルに音声電流が流れたと
きに発生する渦電流は、磁気回路のボイスコイル周辺の
鉄ヨーク表面層（渦電流の表面効果）に起こる。従っ
て、ヨークの少なくとも磁気ギャップに面する部分を、
鉄の替りとして、鉄粉を樹脂結合した鉄粉ボンドで形成
することで磁気ギャップ周辺部の電気抵抗が大きくな
り、渦電流の発生を小さく抑えることができるものであ
る。

【０００６】

【実施例】以下、本発明の実施例を図面に基づいて更に
詳細に説明する。 （実施例１） 図１は本発明のスピーカ用磁気回路を組み込んだスピー
カの断面図である。フレーム６の底部には凸部７を形成
し、鉄粉を樹脂結合して形成したリング状の鉄粉ボンド
ヨーク８の内周部９を固定する。フレーム６の凸部７の
外周側に形成した凹部１０の内周部には、半断面形状が
略コ字状のＮｄＦｅＢ焼結磁石１１の外周部１２を固定
する。ＮｄＦｅＢ焼結磁石１１の最内周面１３及び１４
と鉄粉ボンドヨーク８の外周面１９とで磁気ギャップ１
５および１６を形成し、この磁気ギャップ１５および１
６内にボイスコイル１７および１８を各々挿入し、ボイ
スコイル１７および１８の駆動方向が同一になる様に通
電することにより、振動板が振動し音声が再生される。
ＮｄＦｅＢ焼結磁石１１には図示の如くＮ、Ｓ着磁が施
されている。尚、鉄粉ボンドヨークは、以下の通り作ら
れる。ボールミルにより粉砕された粒度３２５メッシュ
アンダーの鉄粉９２ｗｔ％とエポキシ樹脂２．５ｗｔ
％、硬化剤０．５ｗｔ％、残部有機溶媒とを混練し、真
空乾燥炉にて有機溶媒除去後、所定の形に圧縮成形し、
その後、１２０℃×３時間、エポキシ樹脂を加熱硬化さ
せる。その後に表面の防錆処理として、エポキシ樹脂を
電着塗装する。この様に形成された鉄粉ボンドヨークの
体積抵抗率ρは約１０^−３Ω・ｃｍであり、従来の鉄ヨ
ークの１０^−５Ω・ｃｍに比べ電気抵抗が約１００倍に
大きくなるものである。上記鉄粉ボンドヨークと、従来
の亜鉛メッキされたリング状の鉄ヨークとを使用した磁
気回路を組み込んだ２種のスピーカについて出力音圧特
性およびステップレスポンス特性（ステップ信号に対す
る振動板の変位）とを測定した結果を、図４、図５、図
６に各々示す。図４は鉄粉ボンドヨークを用いたスピー
カの出力音圧特性図、図５は亜鉛メッキされた鉄ヨーク
を用いたスピーカの出力音圧特性図、図６は鉄粉ボンド
ヨークと亜鉛メッキしたヨークを用いたスピーカのそれ
ぞれのステップレスポンス特性図である。図４、図５か
ら明らかなように、鉄粉ボンドヨークを有するスピーカ
は１ＫＨＺ以上で３次歪が約１５ｄＢ低減されている。
また、図６から明らかなように鉄粉ボンドヨークを有す
るスピーカは、ステップ信号に対して亜鉛メッキした鉄
ヨークを有するものに比べて短時間で反応しており、信
号に対するボイスコイルの高速応答性、即ち振動板の応
答性が改善されている。尚、本実施例では磁気回路にＮ
ｄＦｅＢ焼結磁石を用いているが、他の永久磁石（Ｎｄ
ＦｅＢボンド磁石、フェライト磁石等）を使用しても同
様の効果が得られることは容易に推察できる。また、本
実施例では鉄粉ボンドのみでヨーク８を一体形成してい
るが、磁気ギャップ１５，１６に面するヨーク８の外周
側のみを鉄粉ボンドで形成し、その内周側にリング状の
鉄ヨークを嵌入させてヨーク８を形成することによって
も充分にヨーク８内の渦電流歪の発生を抑えることがで
きるものである。

【０００７】（実施例２）図２は本発明を組み込んだス
ピーカの断面図である。フレーム２１の底部には凸部２
２を形成し、鉄粉を樹脂結合して形成したリング状の鉄
粉ボンドヨーク２４および２５の内周部を接着固定す
る。各鉄粉ボンドヨーク２４，２５はほぼ同径のリング
状のＮｄＦｅＢ焼結磁石２６を介して接合してある。フ
レーム２１の凹部２７の内周部にはリング状の鉄ヨーク
２３を固定する。鉄粉ボンドヨーク２４および２５の外
周面とリング状の鉄ヨーク２３の内周面とで、上下２ヶ
所に磁気ギャップ部３０，３１を形成し、この磁気ギャ
ップ部３０，３１にボイスコイル２８および２９を各々
挿入し、ボイスコイル２８および２９の駆動方向が同一
になるように通電することによって音声が再生される。
リング状のＮｄＦｅＢ焼結磁石２６には図示の如く、Ｎ
Ｓ着磁が施されている。鉄粉ボンドヨーク２４および２
５は実施例１と同様の製法にて作成したものを使用す
る。この様に準備された鉄粉ボンドヨークを用いた磁気
回路を組み込んだスピーカと鉄粉ボンドヨークの代替品
として通常の鉄ヨークを用いた磁気回路を組込んだスピ
ーカの２種類について、出力音圧特性およびステップレ
スポンス特性を測定したが、実施例１と同様に鉄粉ボン
ドヨークを有するスピーカの方が、出力音圧特性の３次
歪が小さく、また応答性が良好となっている。尚、本実
施例では磁気ギャップ部３０，３１の外周側に鉄ヨーク
２３を設けてあるが、この鉄ヨーク２３の替わりに鉄粉
ボンドヨークを設けることにより、さらに渦電流の発生
を抑制でき、音質を向上することができるものである。

【０００８】

【発明の効果】本発明によって、スピーカの磁気回路に
よる歪を減らせ、音質の改善されたスピーカを安価に提
供できる。

【図面の簡単な説明】

【図１】本発明の実施例１の縦断面図である。

【図２】本発明の実施例２の縦断面図である。

【図３】従来のスピーカの縦断面図である。

【図４】鉄粉ボンドヨークを用いたスピーカの出力音圧
特性図である。

【図５】亜鉛メッキされた鉄ヨークを用いたスピーカの
出力音圧特性図である。

【図６】鉄粉ボンドヨークと亜鉛メッキされた鉄ヨーク
を用いたスピーカのステップレスポンス特性図である。

【符号の説明】

６ フレーム、 ８ 鉄粉ボンドヨーク、 １１ Ｎｄ
ＦｅＢ焼結磁石、１５，１６ 磁気ギャップ、 １７，
１８ ボイスコイル

───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 田辺 景 東京都品川区西五反田１丁目１番８号ア ルパイン株式会社内 (72)発明者 島村 直樹 東京都品川区西五反田１丁目１番８号ア ルパイン株式会社内 (56)参考文献 特開 昭59−133799（ＪＰ，Ａ) 特開 平６−233380（ＪＰ，Ａ) (58)調査した分野(Int.Cl.⁷，ＤＢ名) H04R 9/02 102

Claims (3)

(57)【特許請求の範囲】
1. 【請求項１】 ヨークと磁石とを備え、ボイスコイルが
   挿入される磁気ギャップが形成されたスピーカ用磁気回
   路に於いて、前記磁石の周面と前記ヨークの周面との間
   の上下端部にそれぞれ磁気ギャップが形成されていると
   共に、前記各磁気ギャップに第１と第２のボイスコイル
   がそれぞれ挿入され、前記第１と第２のボイスコイルの
   駆動方向が同一となるように通電されるものであり、前
   記ヨークの少なくとも前記各磁気ギャップに面する部分
   が鉄粉ボンドで形成されていることを特徴とするスピー
   カ用磁気回路。
2. 【請求項２】 ヨークと磁石とを備え、ボイスコイルが
   挿入される磁気ギャップが形成されたスピーカ用磁気回
   路に於いて、前記磁石の上下面にそれぞれ接合される第
   １と第２のヨークと、この第１と第２のヨークの周面と
   対向する対向ヨークとを備え、前記第１のヨークの周面
   と前記対向ヨークの周面との間に第１のボイスコイルが
   挿入される第１の磁気ギャップが形成されていると共に
   前記第２のヨークの周面と前記対向ヨークの周面との間
   に第２のボイスコイルが挿入される第２の磁気ギャップ
   が形成されており、前記第１と第２のボイスコイルの駆
   動方向が同一となるように通電されるものであり、前記
   第１と第２のヨークの少なくとも前記各磁気ギャップに
   面する部分が鉄粉ボンドで形成されていることを特徴と
   するスピーカ用磁気回路。
3. 【請求項３】 前記対向ヨークが鉄粉ボンドで形成され
   ていることを特徴とする請求項２に記載のスピーカ用磁
   気回路。