JP3254831B2 - 金属酸化物の溶融還元方法 - Google Patents

金属酸化物の溶融還元方法

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明はニッケル鉱石やクロム鉱
石などの金属酸化物を溶融還元する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】ニッケル鉱石やクロム鉱石などを溶融還
元する場合には、例えば図1に示すような溶融還元炉が
使用されている。図1中、1はマグネシア系耐火物がラ
イニングされた溶融還元炉、2は上吹き酸素ランス、3
は攪拌ガスを吹き込むための底吹き羽口であり、10は
溶湯、11は溶融スラグを示す。
【0003】この炉を使用する操業においては、ランス
2から酸素を、底吹き羽口3から攪拌ガスを吹き込みな
がら、ニッケルやクロムなどの鉱石、炭材、及び造滓剤
を炉口から装入する。そして炉内の溶銑中炭素又は炭材
によって鉱石を溶融還元し、溶湯10を生成させる。こ
の際、生成したCOを炉内で燃焼(二次燃焼)させ、効
率的な熱の供給を行っている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかし、上記の溶融還
元技術においては炉体耐火物の損耗が激しく、その損耗
がコスト面でも無視出来ないと言う問題がある。炉体耐
火物の損傷は、主に炉体耐火物と溶融スラグとの界面に
おける溶融スラグの流動によって、炉体耐火物中のマグ
ネシアがスラグ中に溶解する現象、所謂溶損によるもの
である。炉体耐火物の溶損が激しく起こる理由として
は、溶融還元製錬の操業は一般の鋼の転炉精錬の操業に
比べて溶銑装入から出鋼まで(1タップ)の処理時間が
長いために、炉体耐火物と溶融スラグの接触時間が長い
こと、及び炉内でCOを二次燃焼させるのでスラグの温
度が溶湯の温度よりも高くなること等が挙げられる。更
に溶融還元製錬においては多量のスラグが生成するの
で、炉体耐火物と溶融スラグの接触面積が広くなり、炉
体耐火物の損耗度合が一層大きくなる。
【0005】本発明は上記の知見に基づいてなされたも
ので、その目的とするところは炉体耐火物の損耗速度を
小さくすることができる金属酸化物の溶融還元方法を提
供するものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するた
めに本発明においては、生成するスラグ中のマグネシア
含有率がその生成スラグにおける飽和溶解度よりも1%
〜20%過剰になるようにマグネシア含有物質を添加す
る。
【0007】スラグ中のマグネシア含有率は、概念的に
は図2に示す斜線を付した範囲となり、ニッケル鉱石の
精錬ではスラグ中マグネシア含有率31%〜50%とな
り(飽和溶解度30%の場合)、又クロム鉱石の精錬で
はスラグ中マグネシア含有率18%〜37%(飽和溶解
度17%の場合)となる。尚、図2でMgOの飽和溶解
度はスラグ組成、温度によって変わり得るが、簡単のた
めに、図2では一例を示した。
【0008】添加するマグネシア含有物質としては、マ
グネシアを含有するものであれば使用可能であるが、マ
グクロ煉瓦やマグカーボン煉瓦等の屑及び軽焼ドロマイ
ト等を使用するのが実用的である。
【0009】
【作用】本発明においては、スラグ中の溶解マグネシア
の含有率を、常に、飽和領域に維持する。このため多量
のマグネシア含有物質を添加し、スラグ中のマグネシア
含有率が飽和溶解度を超える範囲になるように、換言す
ればスラグ中に固体のマグネシア含有物質が存在するよ
うにする。このようにしてスラグ中のマグネシア含有率
を、常時過飽和領域にしておくと、炉体耐火物からのマ
グネシアの溶出が抑制され、マグネシアの溶出に起因す
る炉体耐火物の損傷が防止される。
【0010】スラグ中マグネシア含有率が飽和溶解度を
20%以上超える状態になると、スラグ中に固体のまま
存在するマグネシア含有物質の量が多くなって(固相率
が高くなって)スラグの流動性が悪くなり、還元不足や
スロッピングなど操業上のトラブルが発生し、又飽和溶
解度に対し1%未満になると、耐火物の損耗速度が急激
に上昇する。
【0011】
【実施例】本発明の一実施例について説明する。 (実施例1)図1と同様の構成で、マグカーボン煉瓦で
ライニングされた溶融還元炉に、初期溶銑として脱硫及
び脱燐の予備処理がなされた溶銑60tを装入し、底吹
き羽口から窒素ガスを吹き込むと共に、ランスから酸素
を吹き込んだ。初期造滓剤を装入した後、溶銑温度が1
520℃まで上昇した段階で、ニッケル鉱石(Ni含有
率2%)を1.7〜1.8t/min 、炭材を0.7t/
min の装入速度で原料装入を行った。この間、原料と共
にマグカーボン煉瓦の屑を粉砕したものを、10〜15
分毎に0.7ton の割合で添加し、スラグ中のマグネシ
ア含有率が38%になるようにした。なお、このスラグ
におけるマグネシアの飽和溶解度は33%であった。
【0012】上述のような操業を5タップした後、炉腹
部における耐火物の損耗を調べたところ、平均の損耗速
度は0.1mm/時であり、次に記載する比較例1に比
べ、極めて良好な値であった。
【0013】上記実施例の操業においては、原料及び副
原料の装入量から生成するスラグの組成を算定し、この
スラグ組成と操業温度に基づいてマグネシアの飽和溶解
度を求めた。そして、この飽和溶解度よりも過剰にする
値を加算してスラグ中に存在させる予定のマグネシア含
有率を求め、このマグネシア含有率に基づいて煉瓦屑の
装入量を決定した。そして、操業後に、定期的に採取し
ておいたスラグのサンプル中のマグネシア含有率を分析
し、その分析値及び操業温度から、マグネシア含有率が
予定値になっていることを確認した。又、採取したスラ
グの顕微鏡観察を行い、固体の煉瓦屑が存在しているこ
とも確認した。
【0014】上記実施例において、煉瓦屑の装入量を算
定するためのマグネシア含有率の予定値を決定する元と
なる飽和溶解度は次のようにして求めた。図4はMgO
−FeO−SiO2 の3元系状態図である。この図にお
いて、例えば、FeOが10%、操業温度が1520℃
である場合、MgOが飽和するスラグはA点の組成にな
り、MgOは約33%となる。そして、このA点におけ
るMgO値33%をマグネシア含有率の予定値とし、操
業開始時の煉瓦屑装入量を算定した。
【0015】なお、スラグ中のマグネシア含有率を飽和
溶解度よりも過剰にするために、スラグ分析等の測定を
行い、この測定に基づいて煉瓦屑の装入量を調節すれ
ば、より精度の高い制御が可能になるが、マグネシア含
有率とその飽和溶解度の差が大きい場合には、このよう
な調節は必ずしも必要ではなく、所定量の煉瓦屑を装入
するだけでよい。
【0016】(比較例1)実施例1と同じようにしてニ
ッケル鉱石の溶融還元を行った。但し、マグカーボン煉
瓦屑の添加量は、10〜15分毎に0.2tonにした。
この操業におけるスラグ中のマグネシア含有率は約27
%であり、飽和溶解度に達していなかった。この操業を
5タップした後、炉腹部における耐火物の損耗を調べた
ところ、平均損耗速度は0.5mm/時であり、実施例の
場合の5倍であった。
【0017】(実施例2)実施例1と同様にしてクロム
鉱石の溶融還元を行った。まず、初期溶銑90tを装入
し、底吹き羽口から窒素ガスを吹き込むと共に、ランス
から酸素を吹き込んだ。初期造滓剤を装入した後、溶銑
温度が1630℃まで上昇した段階で、クロム鉱石(C
r含有率30%)を0.6〜0.7t/min 、炭材を
0.7t/min の装入速度で原料装入を行った。この
間、原料と共にマグカーボン煉瓦の屑を粉砕したもの
を、10〜15分毎に0.7ton の割合で添加し、スラ
グ中のマグネシア含有率が22%になるようにした。な
お、このスラグにおけるマグネシアの飽和溶解度は18
%であった。上述のような操業を5タップした後、炉腹
部における耐火物の損耗を調べたところ、平均の損耗速
度は0.3mm/時であり、良好であった。
【0018】(比較例2)実施例2と同じようにしてク
ロム鉱石の溶融還元を行った。但し、マグカーボン煉瓦
屑の添加量は、10〜15分毎に0.2tonにした。こ
の操業におけるスラグ中のマグネシア含有率は約16%
であり、飽和溶解度に達していなかった。この操業を5
タップした後、炉腹部における耐火物の損耗を調べたと
ころ、平均損耗速度は1.2mm/時であり、実施例2の
場合の4倍であった。
【0019】次に、煉瓦屑の添加量だけを種々変え、上
記実施例、比較例と同様の条件でニッケル鉱石の溶融還
元を行った結果について説明する。図3はニッケル鉱石
を溶融還元した場合における溶湯中の〔Ni〕含有率の
上昇速度を示す図である。この図のように、スラグ中に
その固体が存在するようになるまでマグネシア含有物質
を添加しても、鉱石の還元速度は殆ど変わらない。この
関係をクロム鉱石の場合についても調べたが、その結果
は図3と同様であった。
【0020】図5に示す結果によれば、スラグ中のマグ
ネシア含有率が高くなるに従って、耐火物の損耗速度は
小さくなるが、その含有率が飽和溶解度に達するまでの
範囲においては、損耗速度の低下度合はあまり大きくな
い。又、その含有率が飽和溶解度を超えていても、飽和
点の近傍においては、耐火物の損耗速度は急激に低下す
るものの、未だかなり大きい。しかしスラグ中のマグネ
シア含有率が飽和溶解度よりも1%以上大きくなると、
耐火物の損耗速度は非常に小さくなり、更に、この値が
3%以上になると、損耗速度は極めて小さくなると共に
略一定になる。このように、マグネシア含有率が飽和点
に達していても、その近傍における損耗速度がなお大き
いのは、次のような理由によるものと思われる。すなわ
ち、マグネシア含有率が上記の範囲である場合には、マ
グネシア含有物質の固体状態で存在する量が僅かである
ので、スラグ組成の変化や温度変化などによるマグネシ
ア溶解度の変動に対応したマグネシアの供給が速やかに
行われないためであろうと思われる。
【0021】
【発明の効果】本発明はスラグにマグネシア含有物質を
添加し、スラグ中のマグネシア含有率を飽和溶解度より
も過剰の状態に維持する金属酸化物の溶融還元方法であ
る。本発明を実施すれば、スラグ中の溶解マグネシアの
量が、常に、飽和状態になるように維持されるので、炉
体耐火物からのマグネシアの溶出が極めて僅かになり、
マグネシアの溶出に起因する耐火物の損耗速度が著しく
低下し、炉体の寿命が飛躍的に長くなる。
【図面の簡単な説明】
【図1】溶融還元炉の一例を示す図である。
【図2】本発明におけるスラグ中のマグネシア含有率の
例を示す図である。
【図3】スラグ中のマグネシア含有率と鉱石の還元速度
との関係を示す図である。
【図4】MgO−FeO−SiO2 の3元系状態図であ
る。
【図5】スラグ中のマグネシア含有率と炉体耐火物の損
耗速度との関係を示す図である。
【符号の説明】
1 溶融還元炉 2 上吹き酸素ランス 3 底吹き羽口 10 溶湯 11 溶融スラグ
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.7 識別記号 FI C22B 34/32 C22B 34/32 (72)発明者 中村 英夫 東京都千代田区丸の内一丁目1番2号 日本鋼管株式会社内 審査官 鈴木 毅 (56)参考文献 特開 昭61−23709(JP,A) 特開 昭59−89751(JP,A) 特開 昭63−282235(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) C22B 1/00 - 61/00 C21B 1/00 - 15/04 C21C 5/36

Claims (1)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 マグネシア系耐火物がライニングされた
    溶融還元炉を使用する金属酸化物の溶融還元方法におい
    て、生成するスラグ中のマグネシア含有率がその生成ス
    ラグにおける飽和溶解度よりも1%〜20%過剰になる
    ようにマグネシア含有物質を添加することを特徴とする
    金属酸化物の溶融還元方法。
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