JP3243307B2 - 非線形光学素子およびその製造方法 - Google Patents

非線形光学素子およびその製造方法

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、基板として非線形光学
材料用の微粒子分散複合薄膜を有する素子に関し、特に
成膜を行なう基板として、単結晶基板の一軸性配向面上
に、マトリックス中に金属の微粒子を分散析出させた非
線形光学薄膜を設けた素子とその製造方法に関する。こ
の微粒子分散複合薄膜をもつ素子は、光スイッチや光波
長変換素子等として利用され、光情報分野において用い
られる大きな非線形光学効果を有する。
【0002】
【従来の技術】半導体超微粒子を分散させたガラス等は
高い光学的非線形性を示すことから、その開発が積極的
に進められている。また、金属微粒子を分散させたガラ
スやコロイド溶液も比較的大きな非線形性を示すことが
報告されている。これらのうち、微粒子を分散させるマ
トリックスとしては、一般に石英ガラス、多成分ガラ
ス、高分子材料等が用いられている。
【0003】金微粒子を含有したガラスは従来から‘金
赤ガラス’と呼ばれ、赤色ガラスの一つとしてよく知ら
れた材料である。このガラスは0.01wt% 程度の金を
含有させて一旦溶融し、その後、熱処理を施して発色さ
せて造られる。
【0004】報告されている金赤ガラスの3次の非線形
感受率χ(3) の値は10-11esu程度であり、この値は必
ずしも大きくない。そして、低い値となる理由はガラス
中の金の体積分率が10-5程度の低濃度分散であるため
と考えられる。従って、非線形感受率を高めるためには
金微粒子濃度を高めることが一つの方法であると考えら
れるが、溶融法で作製する場合、溶解度の制限により高
濃度化には限界がある。
【0005】この問題を解決するために、高濃度化と組
成制御が比較的容易であるスパッタリング法やイオン注
入法についての提案が、次世代産業基盤技術・第2回光
電子材料シンポジウム予稿集P139−147,199
1や、特開平3−294829号公報になされている。
前者はスパッタリングやイオン注入法でSiO2 ガラス
マトリックス中にAu微粒子を分散させたものであり、
後者はSiO2 ガラス薄膜と島状成長させたAu、A
g、Cuの金属微粒子とを交互に積層したものである。
このような金属微粒子分散ガラスは、分散させた金属微
粒子の表面プラズモンの励起と量子サイズ効果で大きな
非線形性が発現し、高いχ(3) 値が得られるものである
と考えられている。
【0006】しかし、これらの提案では、例えば前者の
予稿集でも、χ(3) が最大でも1×10-7esu 程度であ
り、さらにχ(3) を向上させることが望まれる。
【0007】そこで本発明者らは、特願平4−1515
88号および平成4年10月27日付けの特許願:非線
形光学薄膜およびその製造方法(整理番号04P19
8)中で、強誘電性または高誘電性のマトリックス中に
金属の微粒子を少なくとも1種含む非線形光学薄膜を提
案している。この提案では、成膜後の熱処理によりマト
リックスのグレインが形成されたり、成長したりして、
金属微粒子のマトリックス中での結晶性向上とともに金
属微粒子のマトリックス中での分散性も向上し、さらに
金属微粒子の結晶粒径分布も均一化する。そして、金属
微粒子が誘電率εの高いマトリックス中に分散されてい
ることから生じる何らかの相互作用により、10-7esu
をこえる高いχ(3) 値が得られる。また、熱処理条件を
選択することでプラズマ共鳴ピーク位置をシフトさせる
ことができ、使用レーザの選択の巾を広げることもでき
る。
【0008】さらに本発明者らは、平成4年10月30
日付けの特許願:非線形光学薄膜(整理番号04P20
1)中で、前記成膜後の熱処理法に更に検討を加え、レ
ーザ等の活性エネルギー線を照射することで急速に昇温
したのち急冷させ、急冷速度を103 ℃/秒以上とする
フラッシュアニールを行なって、金属微粒子の均一分散
化、金属微粒子およびマトリックスの結晶性、粒度の均
一性等をさらに向上させることで、高いχ(3) 値をもつ
非線形光学素子を得ることができる旨を提案している。
【0009】本発明者らは、さらに性能を向上させるた
めに、成膜基板として単結晶の一軸配向面を用いること
を検討した。このような単結晶基板の使用は、前記の次
世代産業基盤技術・第2回光電子材料シンポジウム予稿
集および特開平3−294829号公報等の提案でも検
討されていない。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】本発明の主たる目的
は、単結晶基板の一軸配向性面を用いて成膜すること
で、熱処理による金属微粒子の結晶成長を制御し、所望
の粒径でマトリックス内に均一析出させ、高いχ(3)
を示す金属微粒子分散系の複合薄膜を有する非線形光学
素子と、その製造方法とを提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】このような目的は、下記
(1)〜(12)の本発明により達成される。 (1) 単結晶基板表面の一軸性配向面上に、強誘電性
または高誘電性のマトリックス中に少なくとも1種類の
金属微粒子を分散させた非線形光学薄膜を有する非線形
光学素子。 (2) 前記マトリックスは酸化チタンまたは酸化チタ
ンを含む複合酸化物である上記(1)の非線形光学素
子。 (3) 前記マトリックスのグレインの平均粒径が、4
0〜1000nmの範囲にある上記(1)または(2)の
非線形光学素子。 (4) 前記金属微粒子の平均粒径が1〜100nmであ
る上記(1)〜(3)のいずれかの非線形光学素子。 (5) 前記金属微粒子の含有量が1〜80vol%である
上記(1)〜(4)のいずれかの非線形光学素子。 (6) 前記単結晶基板の一軸性配向面上に、マトリッ
クス成分と金属微粒子成分とを含有する薄膜を成膜した
後、熱処理を施して前記微粒子の結晶性および微粒子径
を調整して前記非線形光学薄膜を得る上記(1)〜
(5)のいずれかの非線形光学素子の製造方法。 (7) 前記熱処理を100〜1100℃の温度で行な
う上記(6)の非線形光学素子の製造方法。 (8) 前記熱処理は、活性エネルギー線を照射するこ
とで昇温し、103 ℃/秒以上の急冷速度で急冷する工
程を含む上記(6)の非線形光学素子の製造方法。 (9) 前記薄膜の成膜を同時スパッタリング法によっ
て行なう上記(6)〜(8)のいずれかの非線形光学素
子の製造方法。 (10) 前記基板の温度を600℃以上として成膜を
行なう上記(6)〜(9)のいずれかの非線形光学素子
の製造方法。 (11) 前記基板の温度を600℃以上として、前記
単結晶基板表面の一軸性配向面上に、前記マトリックス
中に前記金属微粒子を分散させた非線形光学薄膜を成膜
する上記(1)〜(5)のいずれかの非線形光学素子の
製造方法。 (12) 前記成膜を同時スパッタリング法により行な
う上記(11)の非線形光学素子の製造方法。
【0012】
【具体的構成】以下、本発明の具体的構成について詳細
に説明する。
【0013】本発明の非線形光学素子は、強誘電性また
は高誘電性のマトリックス中に金属微粒子を分散させた
微粒子分散複合薄膜と基板とからなり、成膜基板に単結
晶表面の一軸配向面を用い、好ましくは所定の熱処理を
施すか、所定の基板温度で成膜を行うことにより、高い
χ(3) 値を示す非線形光学素子が得られるものである。
【0014】本発明に用いる基板は、単結晶基板であ
り、α−Al23 、Si、Ge、GaAs、MgO、
MgO−Al23 、等種々の材質が使用可能で、そし
てその基板表面は一軸配向性の配向面を有する。このよ
うにほぼ実質的に一軸配向した配向面が基板表面である
ものであれば特に制限はないが、好ましくはα−Al2
3 (サファイア)のc面(0001)、R面(110
2)、MgOの(100)面、(111)面等の配向面
を有する透明単結晶基板が好ましいが、導波路型の素子
とするときにはSi(100)面等を表面とする単結晶
基板を用いてもよい。
【0015】表面が一軸配向している基板を用いること
で、熱処理条件を変えることにより金属微粒子の結晶性
および結晶径を任意に制御することができる。これは、
一軸配向性表面を持つ基板上に成膜して熱処理すること
により、これまで一般に用いられてきた合成石英基板等
で成膜して、同じ条件で熱処理した膜と比較したとき、
基板の配向性の影響により金属微粒子の結晶性が向上
し、さらに結晶粒径も大きく、かつ粒度も揃ってくるか
らである。そして、この結果3次の非線形感受率χ(3)
値も向上することになる。
【0016】マトリックスとして例えばSiO2 ガラス
等を用いることでも一軸配向性の配向表面を有する基板
を用いることで金属微粒子の結晶性等は改良される。し
かし、本発明のように、その後の熱処理により微結晶化
を伴う強誘電性材料あるいは高誘電性材料を用いるとき
には、金属微粒子の結晶性改良効果はより一層高いもの
となる。
【0017】この原因は以下のようなものであると考え
られる。結晶性マトリックスでは、熱処理によるマトリ
ックスの微結晶化に伴い、金属微粒子はマトリックス粒
子の三重点の位置に移動してくると推測される。この移
動に従い、薄膜中における金属微粒子の分散が均一化す
るため、金属微粒子の含有濃度もより高くすることが可
能となり、さらに金属微粒子の結晶性が向上し、金属微
粒子、マトリックス粒子ともに、粒度の揃ったものとな
る。また、基板温度を600℃以上として成膜したとき
も同様の効果が得られる。
【0018】従って、金属微粒子が3次元的に閉じ込め
られた結果、例えば金属微粒子の表面プラズモンの励起
と量子サイズ効果とで発現する非線形性が向上し、縮退
四波混合法により測定される非線形感受率χ(3) は、後
述のように、10-7esu をこえる高いものとなる。ま
た、非線形性の向上に寄与すると考えられる、金属微粒
子が誘電率の高いマトリックス中に分散されて生じる何
らかの相互作用も、このχ(3) の向上に寄与する。この
結果、光双安定性とpsオーダーの光緩和時間をもつ非線
形光学材料が実現し、光スイッチやTHG等の光波長変
換素子に適用できる。
【0019】前記の強誘電性材料あるいは高誘電性材料
を用いたマトリックスが結晶化することは、透過型電子
顕微鏡(TEM)による観察により確認することができ
る。すなわち、例えば600℃程度より低い基板温度で
成膜後は、マトリックスがアモルファス状態にあるか、
アモルファス状態が優勢であるのが観察されるのに対
し、600℃程度より高い基板温度で成膜するか、また
は600℃程度より低い基板温度で成膜後、さらに加熱
処理することによりマトリックスのグレインが観察され
る。また、このとき金属微粒子がマトリックスグレイン
の三重点に位置していることも観察される。さらに、金
属微粒子の結晶性が向上することはX線回折(XRD)
の結果から確認することができる。すなわち、そのスペ
クトルは、マトリックスがアモルファス状態にあるとき
は金属のピークはブロードだが、熱処理後にはシャープ
なものとなる。
【0020】また、上記の熱処理条件を変えることによ
り、プラズマ共鳴吸収ピーク位置をシフトさせることが
でき、使用レーザの選択の巾が広がる。なお、成膜後に
熱処理を行わないときや、比較的低温で成膜を行うとき
でも、一軸性配向面上に成膜すればこれらの効果が向上
する。これらは、配向面との何らかの相互作用が生じて
いるものであると考えられる。
【0021】前記のように、本発明の微粒子分散複合薄
膜をもつ素子は金属の微粒子を含有する。用いる金属と
しては、Au(共鳴吸収ピーク位置約520nm)、Ag
(同約370nm)、Cu(同約630nm)を用いること
が好ましいが、各種単一金属や合金が使用でき、特に制
限されるものではない。これらは、いずれも本発明に従
い、単結晶基板上で成膜・熱処理することにより結晶性
が向上し、結晶粒径揃ったものとなる。
【0022】このような微粒子の平均粒径は1〜100
nm、好ましくは2〜30nmである。このような平均粒径
で量子サイズ効果が実現する。微粒子の含有量は、全体
の1〜80vol%、特に5〜60vol%であることが好まし
い。含有量が少なすぎると、3次の非線形感受率χ(3)
値が低下して非線形光学材料としての有用性がうすれ、
多すぎると、バルク的な性質が大きくなるために光学的
非線形性が小さくなる。なお、微粒子結晶の平均粒径
は、透過型電子顕微鏡(TEM)画像から求めるか、あ
るいはX線回析スペクトルから、シェラーの式によって
求めることができる。また含有量は、化学分析あるいは
ESCA等から求めればよい。
【0023】本発明で使用するマトリックス材料は、通
常用いられる例えばSiO2 等よりは、前記の微結晶性
の強誘電性材料あるいは高誘電性材料等が好ましい。こ
のうち強誘電性材料は、バルクの多結晶体の常温での誘
電率が150程度以上のものであり、また高導電性材料
は、バルクの多結晶体の常温での誘電率が10以上15
0未満程度のものである。
【0024】このような強誘電性材料としては、ペロブ
スカイト型化合物が好適である。ペロブスカイト型化合
物としては、A1+5+3 、A2+4+3 、A3+3+
3 、AX BO3 、A(B′0.67B″0.33)O3 、A
(B′0.33B″0.67)O3 、A(B0.5 +30.5 +5 )O
3 、A(B0.5 2+0.5 6+ )O3 、A(B0.5 1+0.5
7+)O3 、A3+(B0.5 2+0.5 4+ )O3 、A(B0.25
1+0.75 5+)O3 、A(B0.5 3+0.5 4+ )O2.75、A
(B0.5 2+0.5 5+ )O2.75等いずれであってもよい。
例えば、BaTiO3 、PbTiO3 、KTaO3 、N
aTaO3 、SrTiO3 、CdTiO3 、KNbO
3 、LiNbO3 、LiTaO3 、PZT(PbZrO
3 −PbTiO3 )、PLZT(PbZrO3 −PbT
iO3 :La23 )等である。
【0025】また高誘電性材料としては、TiO2 、2
MgO・TiO2 、MgO・TiO2 、MgO・2Ti
2 、ZnO−TiO2 、CaTiO3 等が好適であ
る。これら強誘電性ないし高誘電性材料としては、酸化
チタン、あるいは酸化チタンを含む複合酸化物(チタン
酸塩)が好適であり、特にバルクの多結晶体の常温での
誘電率が100〜300程度のチタン酸塩ペロブスカイ
ト型化合物、例えばBaTiO3 、SrTiO3 、Ca
TiO3 、PbTiO3 等が好ましい。
【0026】このようなマトリックスは、前述のよう
に、成膜時の加熱あるいはその後の熱処理により微結晶
化するが、このときのグレインの平均粒径は40〜10
00nm、好ましくは45〜500nmである。この粒径
は、TEM画像から求めることができる。また、平均粒
径の±30%以内の粒径の粒子数が全体の80%以上で
あることが好ましい。この上限値は大きいほど好ましい
が、通常95%程度である。
【0027】このようなマトリックス中に微粒子を分散
した薄膜の厚さは、一般に0.01〜5μm 程度とす
る。薄膜の厚さは厚くなるに従ってχ(3) 値が向上する
傾向をもつが、その効果は膜の厚さ方向に金属微粒子量
が増加するためと考えられる。また、微粒子材料や、場
合によってはマトリックス材料を2種以上用いることも
できる。
【0028】本発明の素子を製造するには、マトリック
ス材料と微粒子材料とを同時スパッタすることが好まし
い。スパッタリングの方式はいずれであってもよいが、
成膜速度の点ではRFマグネトロンスパッタが好適であ
る。この際、動作圧力は10-3〜10-2Torr程度、基板
としては前記単結晶基板を用い、基板温度は常温〜11
00℃程度とする。そして、両者の成膜スピードやター
ゲット面積を変更することにより、容易に前記の含有量
にて微粒子と分散することができる。このとき、基板温
度を600℃程度より高くすることで、成膜されたマト
リックスおよび金属微粒子は、成膜後の熱処理無しでも
基板表面と同軸状に配向した膜が形成される。すなわち
成膜と熱処理を同時に施すことも可能である。ただし、
この場合、例えば成膜後の膜の歪み取りの目的等でさら
に熱処理することが必要になることもある。
【0029】なお、同時スパッタリング法にかえ、前記
の次世代産業基盤技術・第2回光電子材料シンポジウム
予稿集に記載のイオン注入法や、特開平3−29482
9号公報記載の交互積層スパッタリングを用いることも
できる。
【0030】成膜時の基板温度を600℃程度より低く
したときの成膜直後の薄膜は、マトリックス中に分散さ
れている金属微粒子の結晶性と結晶粒子径を調整するた
めに、熱処理を施すことが好ましい。この熱処理は、一
般には大気あるいは不活性ガス雰囲気中で100℃以
上、特に300℃以上、さらには500℃以上、一般に
1100℃以下、特に1000℃以下の温度に、20時
間程度以下、一般に1分以上、特に10分以上保持する
ことによって行えばよい。
【0031】また、前記条件による熱処理法とは別に、
成膜直後の熱処理としては、レーザ等により活性エネル
ギー線を照射することで急速に昇温したのち急冷する工
程を含み、急冷の際の急冷速度が103 ℃/秒以上、一
般に107 ℃/秒以下程度のフラッシュアニールを行な
うことによってもできる。
【0032】この成膜と同時または成膜直後の熱処理に
より、金属微粒子の結晶性が上がり、結晶粒子も成長す
る。従って、成膜時の基板の温度条件、または成膜後の
熱処理温度と時間等の条件とを、結晶性および結晶粒子
径の関係を実験から求めておけば、容易に所望の結晶性
および結晶粒子径をもつχ(3) 値の高い非線形光学素子
を再現性よく得ることができる。
【0033】このような素子のうち、マトリックスに特
に熱処理により微結晶化を伴う強誘電性材料あるいは高
誘電性材料を用いると、一般に10以上の誘電率εを示
し、特に100以上、さらに150以上、さらには20
0以上とすることができる。このような薄膜の誘電率を
測定するには、合成石英ガラス基板上に、スパッタリン
グ法にて白金薄膜下部電極を形成し、その上に被測定薄
膜を形成して、さらにその上に白金製の1mmφのパッド
上部電極を形成し、必要に応じてその後熱処理を行う。
そして、LFインピーダンスアナライザーを用いてCお
よびQを測定し、これから計算によりεを求めればよ
い。
【0034】また、このような強誘電性材料あるいは高
誘電性材料等を用いた素子のχ(3)値は、10-7esu 以
上、特に10-6esu が得られる。このような高いχ(3)
値が得られるのは、マトリックス中に分散されている金
属微粒子が高濃度であること、および使用したマトリッ
クス物質の誘電率が高いためであると考えられる。な
お、χ(3) 値は前記の光電子材料シンポジウム予稿集に
記載の位相共役型の縮退四光波混合法(DFWM)に準
じて測定することができる。また、上記のχ(3)値は、
Nd:YAGレーザ(1.06μm )の第2高調波(5
32nm)を用いたときの値であり、プラズマ共鳴吸収ピ
ーク位置での値ではないので、このプラズマ共鳴吸収ピ
ーク波長でのχ(3) は10-7esu 以上、特に10-6esu
以上の範囲でさらに一層高いものとなる。
【0035】
【実施例】以下、本発明の具体的実施例を示し、本発明
をさらに詳細に説明する。
【0036】<実施例1>RFマグネトロンスパッタ装
置を用い、BaTiO3 ターゲットにAuチップを乗
せ、同時スパッタを行った。基板としてはα−Al2
3 (C面)を用いた。基板への薄膜作製条件は、アルゴ
ン雰囲気中でガス圧5×10-3Torr、基板温度150
℃、RFパワーは100W とした。Au濃度はチップの
量で制御し、膜厚はスパッタ時間で制御して素子1およ
び2を作製した。この成膜直後の素子を所定温度で1時
間熱処理し、素子3〜8を得た。
【0037】<実施例2>基板温度を700℃とし、実
施例1の成膜直後の熱処理を行わずに、他は実施例1と
同様にして素子11を得た。
【0038】<比較例1>基板を合成石英にかえた他は
実施例1と同様にして素子21〜24を得た。
【0039】<比較例2>基板を合成石英に、ターゲッ
トをSiO2 にそしてRFパワーを200W にそれぞれ
かえた他は実施例1と同様にして素子31を得た。
【0040】<実施例3>ターゲットをSrTiO3
かえた他は実施例1と同様にして素子41〜43を得
た。
【0041】このようにして得られたそれぞれの素子に
ついて、透過吸収スペクトルを測定し、プラズマ共鳴吸
収ピーク位置を求めた。用いた成膜基板、成膜時の基板
温度、マトリックス、Au分散量、膜厚および熱処理温
度とともに測定結果を表1にまとめた。
【0042】
【表1】
【0043】ターゲットにBaTiO3 を用い、基板と
してα−Al23 (C面)および合成石英を用い、成
膜時の基板温度を150℃として1000A および20
00A の薄膜を形成して得た素子1(α−Al23
板・1000A )、素子2(α−Al23 基板・20
00A )、素子21(合成石英基板・1000A )、素
子22(合成石英基板・2000A )、そして素子を形
成していない合成石英基板およびα−Al23 (サフ
ァイア)基板の透過吸収スペクトルの測定結果を図1に
示す。さらに、これらの薄膜を成膜直後に900℃1時
間熱処理して得た素子8(α−Al23 基板・100
0A )、素子6(α−Al23 基板・2000A )、
素子23(合成石英基板・1000A )および素子24
(合成石英基板・2000A )の透過吸収スペクトルの
測定結果を図2に示す。
【0044】図1および図2に示す各透過吸収スペクト
ルのプラズマ共鳴ピーク位置の透過率をみると、熱処理
をしているか否かにかかわらず、合成石英基板を用いた
素子よりα−Al23 基板を用いた素子の方が、そし
て、膜厚の厚い方が透過率が低い。また、用いた基板お
よび膜厚にかかわらず、熱処理することにより、吸収ピ
ークが鋭くなり、さらにプラズマ共鳴ピーク位置が長波
長側にシフトしていることを示している。
【0045】次に、膜厚1000A 、熱処理温度900
℃の同じ条件で、成膜基板をα−Al23 基板と合成
石英基板とした素子8と素子23のX線回析スペクトル
を図3に示す。合成石英基板を用いて成膜した素子23
はAu(111)面のピークがブロードだが、一方、本
発明のα−Al23 基板をもちいて成膜した素子8は
Au(111)面のピークが鋭く、結晶性が良好となっ
ていることがわかる。また、TEM像によると、素子2
3では、マトリックスはほぼ結晶化していたが、マトリ
ックスの結晶粒径にバラツキが多かった。これに対し、
素子8では、マトリックスは微結晶化しており、Au微
粒子の結晶性も良好である。そしてマトリックスのグレ
インの3重点にAu微粒子が位置する構造を採っている
ことも確認された。
【0046】また、900℃で熱処理して、膜厚のみが
異なる素子6(膜厚2000A )および素子8(膜厚1
000A )のX線回析スペクトルを図4に示す。膜厚が
厚くなると、Au微粒子の結晶性が良くなる傾向を示し
ている。
【0047】ターゲットにBaTiO3 を用い、基板と
してα−Al23 (C面)を用い、成膜時の基板温度
を150℃として2000A の厚さの薄膜を形成して得
た素子2と、さらに各温度で熱処理して得た素子3(熱
処理温度500℃)、素子4(熱処理温度600℃)、
素子5(熱処理温度700℃)、素子6(熱処理温度9
00℃)およびα−Al23 基板単体の透過吸収スペ
クトルの測定結果を図5に示す。さらに、1000A の
厚さの薄膜を形成して得た素子1、素子7、素子8の透
過吸収スペクトルの測定結果を図6に示す。
【0048】図5および図6より、前記図1および図2
と同様に、熱処理することにより、吸収ピークが鋭くな
り、プラズマ共鳴ピーク位置が長波長側にシフトしてい
ることがわかる。これは、本発明者らが前記特願平4−
151588号および平成4年10月27日付けの特許
願:非線形光学薄膜およびその製造方法(整理番号04
P198)中で提案しているように、強誘電性または高
誘電性のマトリックス中に金属の微粒子を少なくとも1
種含む非線形光学薄膜は、成膜後の熱処理によりマトリ
ックスのグレインが形成されて金属微粒子のマトリック
ス中での分散性を上げており、また金属微粒子の結晶粒
径分布も向上し、さらに金属微粒子が誘電率εの高いマ
トリックス中に分散されていることから生じる何らかの
相互作用によるものと考えられ、実際、これらの薄膜の
誘電率εを前記の方法にしたがって測定すると、熱処理
なしの薄膜の誘電率εは10〜20であったが、熱処理
した薄膜は、50〜300の高い値を示した。
【0049】次に、前記の光電子材料シンポジウム予稿
集に記載の縮退四光混合法に従い、これらの素子のレー
ザー波長532nmにおけるχ(3) 値を求めた。その結
果、マトリックスにBaTiO3 を用いた素子におい
て、成膜基板としてα−Al23 (C面)を用いた素
子のχ(3) 値は合成石英基板を用いたものより向上し、
10-7esu を越える高い値を示した。また、熱処理によ
ってもχ(3) は向上した。
【0050】実施例3で示したマトリックスとしてSr
TiO3 を用いた素子41〜43でも、実施例1のBa
TiO3 を用いた素子と同様で、成膜基板としてα−A
23 (C面)を用いることで、その透過吸収スペク
トル、X線回析スペクトル、TEM観察、誘電率さらに
χ(3) 値等の結果に同様の傾向がみられ、χ(3) 値は1
-7esu を越える高い値を示した。
【0051】さらに、成膜時の基板温度を700℃と
し、成膜直後の金属微粒子およびマトリックスの結晶化
のための熱処理を行わない実施例2で得られた素子11
においても、その透過吸収スペクトル、X線回析スペク
トル、TEM観察、誘電率さらにχ(3) 値等の結果は、
成膜直後に700℃で結晶化のための熱処理を行なった
素子5と同様の傾向がみられ、χ(3) 値が向上し、10
-7esu を越える高い値を示した。
【0052】従って、表面が一軸配向面を持つ基板上で
の特性向上の効果は、マトリックスの微結晶化によるも
のであることが裏づけられる。
【0053】
【発明の効果】本発明により、成膜基板に単結晶基板表
面の一軸性配向面を用いることで、熱処理による金属微
粒子の結晶成長を制御し、所望の粒径でマトリックス内
に均一析出させた高いχ(3) 値を示す非線形光学素子
と、その製造方法とを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】BaTiO3 −Au薄膜素子の透過吸収スペク
トルに及ぼす非熱処理薄膜の膜厚そして成膜基板の影響
および基板単体の透過吸収スペクトルを示すグラフであ
る。
【図2】BaTiO3 −Au薄膜素子の透過吸収スペク
トルに及ぼす熱処理薄膜の膜厚および成膜基板の影響を
示すグラフである。
【図3】BaTiO3 −Au薄膜素子のX線回析スペク
トルに及ぼす成膜基板の影響を示すグラフである。
【図4】BaTiO3 −Au薄膜素子のX線回析スペク
トルに及ぼす薄膜の膜厚の影響を示すグラフである。
【図5】α−Al23 (C面)基板に成膜した膜厚2
000A のBaTiO3 −Au薄膜の素子の透過吸収ス
ペクトルに及ぼす熱処理温度効果を示すグラフである。
【図6】α−Al23 (C面)基板に成膜した膜厚1
000A のBaTiO3 −Au薄膜の素子の透過吸収ス
ペクトルに及ぼす熱処理温度効果を示すグラフである。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (56)参考文献 特開 平4−281433(JP,A) 特開 平4−107430(JP,A) 特開 平4−73722(JP,A) TSUNETOMO K.,et.a l.,Quantum Size Ef fect of Semiconduc tor Microcrystalli tes Doped in SiO2− Glass Thin Films P repared by Rf,JAPA NESE JOURNAL OF AP PLIED PHYSICS,Vol. 28,No.10,pp.1928−1933 HAYASHI R.,et.a l.,Preparation and Properties of Ge Microcrystals Embe dded in SiO2 Glass Films,JAPANESE JO URNAL OF APPLIED P HYSICS,Vol.29,No.4, pp.756−759 (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) G02F 1/35 - 1/377 JICSTファイル(JOIS)

Claims (12)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 単結晶基板表面の一軸性配向面上に、強
    誘電性または高誘電性のマトリックス中に少なくとも1
    種類の金属微粒子を分散させた非線形光学薄膜を有する
    非線形光学素子。
  2. 【請求項2】 前記マトリックスは酸化チタンまたは酸
    化チタンを含む複合酸化物である請求項1の非線形光学
    素子。
  3. 【請求項3】 前記マトリックスのグレインの平均粒径
    が、40〜1000nmの範囲にある請求項1または2の
    非線形光学素子。
  4. 【請求項4】 前記金属微粒子の平均粒径が1〜100
    nmである請求項1〜3のいずれかの非線形光学素子。
  5. 【請求項5】 前記金属微粒子の含有量が1〜80vol%
    である請求項1〜4のいずれかの非線形光学素子。
  6. 【請求項6】 前記単結晶基板の一軸性配向面上に、マ
    トリックス成分と金属微粒子成分とを含有する薄膜を成
    膜した後、熱処理を施して前記微粒子の結晶性および微
    粒子径を調整して前記非線形光学薄膜を得る請求項1〜
    5のいずれかの非線形光学素子の製造方法。
  7. 【請求項7】 前記熱処理を100〜1100℃の温度
    で行なう請求項6の非線形光学素子の製造方法。
  8. 【請求項8】 前記熱処理は、活性エネルギー線を照射
    することで昇温し、103 ℃/秒以上の急冷速度で急冷
    する工程を含む請求項6の非線形光学素子の製造方法。
  9. 【請求項9】 前記薄膜の成膜を同時スパッタリング法
    によって行なう請求項6〜8のいずれかの非線形光学素
    子の製造方法。
  10. 【請求項10】 前記基板の温度を600℃以上として
    成膜を行なう請求項6〜9のいずれかの非線形光学素子
    の製造方法。
  11. 【請求項11】 前記基板の温度を600℃以上とし
    て、前記単結晶基板表面の一軸性配向面上に、前記マト
    リックス中に前記金属微粒子を分散させた非線形光学薄
    膜を成膜する請求項1〜5のいずれかの非線形光学素子
    の製造方法。
  12. 【請求項12】 前記成膜を同時スパッタリング法によ
    り行なう請求項11の非線形光学素子の製造方法。
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HAYASHI R.,et.al.,Preparation and Properties of Ge Microcrystals Embedded in SiO2 Glass Films,JAPANESE JOURNAL OF APPLIED PHYSICS,Vol.29,No.4,pp.756−759
TSUNETOMO K.,et.al.,Quantum Size Effect of Semiconductor Microcrystallites Doped in SiO2−Glass Thin Films Prepared by Rf,JAPANESE JOURNAL OF APPLIED PHYSICS,Vol.28,No.10,pp.1928−1933

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