JP3214689B2 - 鋳鉄用被覆アーク溶接棒およびその溶着部 - Google Patents

鋳鉄用被覆アーク溶接棒およびその溶着部

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JP3214689B2 JP28933996A JP28933996A JP3214689B2 JP 3214689 B2 JP3214689 B2 JP 3214689B2 JP 28933996 A JP28933996 A JP 28933996A JP 28933996 A JP28933996 A JP 28933996A JP 3214689 B2 JP3214689 B2 JP 3214689B2
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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は鋳鉄用アーク溶接
棒、特に近年管路敷設の軽便さに注目されて適用範囲が
急速に拡大しつつあるダクタイル鋳鉄管の無締結継手方
式などで必要な高強度、高耐衝撃性の溶着部を形成でき
る鋳鉄用アーク溶接棒の改善に係る。
【0002】
【従来の技術】鋳鉄用アーク溶接棒として汎用化されて
ダクタイル鋳鉄を含む各種、各レベルの鋳鉄同士の溶接
材として広く使用されるのは、JIS−Z−3252の
うちでも、DFCNiFeとして分類される品種であ
り、その線材の成分はC:2.0%,Si:2.5%,
Mn:2.5%の他に少なくともNi:40〜60%を
含むオーステナイト系の材質を基調として形成されてい
る。すなわち、Niは典型的なオーステナイト形成元素
であり、大量の添加によって常温までγ領域を維持する
特性があり、鋳鉄材の溶接棒の線材として適用すれば、
比較的低温で溶解してオーステナイト組織の溶着部を形
成するから、他の材質のように線材の溶解温度が高く溶
接時の急速な昇温や急冷によって母材である鋳鉄材との
境界部や熱影響部に割れや剥離の発生する危険性を緩和
し、軟性ではあるが靱性も具え母材との間にある程度の
粘結力を具えた溶着部を得ることができる。
【0003】しかしながら、この線材をベースとして通
常公知の被覆材で安定したアークを維持するように図っ
た従来の鋳鉄用アーク溶接棒は、単に鋳鉄と鋳鉄同士の
間に柔軟な中間層を溶着部として介在させて見掛け上、
鋳鉄同士を互に接着させただけであり、溶着部と母材の
接する境界間には金属分子の相互の交流があったとして
も極く境界の表面だけの限られた範囲に留まり、通常の
炭素鋼や合金鋼に見られるように相互に溶け込んで特定
の溶着組織層を形成するのとは異なり、境界を超えて分
子の固溶する範囲はきわめて限定されるから、強度的に
母材に近い材力を予定できるレベルに達しないのは当然
の帰結というべきである。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】然るに近年、鋳鉄用ア
ーク溶接棒材といえども相当な強度や耐衝撃性を求めら
れるケースがその使用の態様によっては必須の要件とな
る場合も現われるようになった。たとえば従来、地中に
埋設する水道用管路の敷設にはダクタイル鋳鉄管の受口
内へ挿口を嵌挿し、押輪の脚端面で継手内のゴムパッキ
ングの端面を押圧しつつ押輪と受口フランジとをボルト
・ナットで締結して管同士を継合していたが、近年は無
締結法(スリップオンタイプ:S2型)として押輪やボ
ルト・ナットを使用しない継合方式が着目されるように
なった。たとえば図9に示す実開平4−133090号
の従来技術では、受口1の開口端近くにロックリング溝
2を周設してロックリング3を嵌入し、さらに挿口4に
は挿口リング5を固着し、受口内面と挿口外周面間の中
空部にゴム輪6を介装して継手部の水封作用を維持する
構成としている。ダクタイル鋳鉄管を継合して地下に管
路を敷設する場合、狭隘な掘削抗内へ作業員が入り込ん
で不自然な姿勢で押輪と受口フランジとの締結などの手
作業に依存していた過去の煩瑣な重労働から開放され、
単に地上から特定の治具さえ準備して駆使すれば、容易
に継合の工程が消化できるから、作業性の改善や職場安
全の確保の面できわめて利点が大きい。この継手の基本
的な機能は、地震などの揺動が直撃して管同士の継合を
引き抜く方向に外力が作用したとしても、受口のロック
リングと挿口リングとが衝き当ってそれ以上の移動を阻
止する点にあり、挿口リングが鋳鉄管内周で堅牢に固定
されることが管同士の離脱が防止された免震管路を形成
する重要な前提であるとされている。
【0005】この例のように挿口内周面へ挿口リングを
固着するには、最も一般的には溶接施工が好適であるこ
とは論を待たず、図9でも溶着部7として示す固定の方
式が通例となっている。最大の課題は地震などの緊急時
に管同士が離脱する方向に外力が加わったとき、受口リ
ングと挿口リングとが衝き当って双方の移動を確実に阻
止しなければ無締結方式の信頼性に疑問が生じる点に集
約される。挿口リングは炭素鋼で製造される環状体であ
るから強度的に何の懸念もないが、ダクタイル鋳鉄管の
内周面と挿口リングとの溶着部7に離脱防止機能を保証
できるだけの強度、特に耐衝撃性が確保できるかという
点に本工法の成否が懸っている。十分に管の移動を制止
して管路の機能を守る条件は、母材であるダクタイル鋳
鉄自体の強度や耐衝撃値から勘案し、実体テストの繰り
返しからも少なくとも引張り強度は28Kgf/mm2、シャ
ルピー衝撃値(ノウノッチ)は5Kgm/cm2が必要条件で
あるという結論に達している。しかし、これに対して従
来のJISで規定された前記Ni−Fe系の鋳鉄用アー
ク溶接棒では到底このレベルに達することができず、特
に重要なシャルピー衝撃値については僅々、1〜3Kgm/
cm2程度の水準しか実績が認められず、このような苛酷
な使用条件で機能を託すには余りに不安が大きいため、
スリップオンタイプの工法が作業性や職場安全性の面で
如何に過去の方式を凌駕していても、実施に踏み切るに
は克服すべき最大の課題として残ることは否定し難い。
【0006】本来、金属材料の多岐に亘る発展や多彩な
使用条件の変遷と共に溶接技術の進歩もまた瞠目すべき
ものがあるが、その大半は低、中合金鋼における合金元
素の適量添加とそれに伴う熱処理などの関連技術であ
る。たとえば、特開平7−323392号公報の従来技
術では、490N/mm2級の高張力鋼の溶接に最適の被
覆アーク溶接棒としてVを芯線の含有量と歩留り係数を
掛けた被覆材の含有量の合計が0.05から0.25%
含む線材を提示し、高張力鋼特有の耐低温割れ性を改善
したと謳っている。本来、V添加が低水素系アーク溶接
棒の溶接欠陥防止に有効であることは比較的古くから知
られ、Vの添加が水素のトラップ作用を働くことによっ
て水素の固溶に基づく溶接低温割れの防止に顕著な効果
を示すことは冶金的な実験で確認され学会で報告されて
いる。
【0007】また、特公昭60−45993号公報の従
来技術では、大型構造物用鋼材には防錆用プライマーが
塗布されているので低水素系アーク溶接棒で溶接すれば
ピットが頻発して補修に難渋していたことを課題として
捉え、線材を被覆する被覆材としてSiC,Al−M
g,MgCO3,CaF2などの成分に置換し、場合によ
ってはNi,Cr,V,Mo,Cu,Nbの1種以上か
ら合計10%以下を含む被覆材を提示して脱酸性、耐割
れ性、耐アーク切れ性を同時に並立したと謳っている。
【0008】その他、主として9%Cr低合金鋼用専用
として開発し高温強度と靱性を具えた特開平5−161
993号公報のアーク溶接棒、同じく2.25〜3%C
r−1Mo鋼用に特に有効な特開平2−220797号
公報のアーク溶接棒、などすべての従来技術では合金元
素の添加によって目的とする特殊な性格や特有の耐性を
具有するように研究開発した成果を報告している。
【0009】翻って前記のダクタイル鋳鉄管と鋼材との
隅肉溶接によって規定された引張り強度とシャルピー衝
撃値とを得る手段もまた多くの金属材料の中から最も適
切な成分を最も適量範囲に限定して特定しなければなら
ない。この作業は結局、膨大な文献を注意深く読み取っ
て各元素の特性に着目した試行錯誤の連続によって見出
す他ないが、特にダクタイル鋳鉄が母材であり、本質的
には鋳鉄材とよく馴染んで割れや亀裂の発生しない堅牢
な溶着部の基地の強化を促す一方、析出した黒鉛のクッ
ション作用によって振動や衝撃を吸収するという両特性
の平衡を如何に調整するかの問題に帰結する。
【0010】本発明は以上の課題を解決するために多数
の実験を組織的、系統的に繰り返した後、ダクタイル鋳
鉄管と鋼材との溶着部が通常の母材の物性値を超える優
れた鋳鉄用アーク溶接棒の提供を目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】本発明に係る鋳鉄用アー
ク溶接棒による溶着部は、C:2.0重量以下,S
i:2.5重量以下,Mn:2.5重量以下の他に
Ni:40〜60重量%を含み、残りFeの高Ni系鋳
鉄の線材よりなる鋳鉄用被覆アーク溶接棒によって鋳鉄
材を母材として溶接した溶着部において被覆材または
線材自体に添加されたVによって、Vを1.20〜2.
20重量%含有することを構成上の特徴とする。
【0012】鉄鋼材料、またはさらに細分化して溶着部
にVを添加して各種の物性を改善する方策は前記のよう
に多岐に亘って繰り返され多数の報告もあるが、低合金
鋼、とくに高張力鋼の低温溶接割れの防止のために水素
をトラップする目的で適用される提案が目立って多く、
次いで高温強度、またはクリープ強度、破壊靱性の向上
などが続く。しかし、高炭素の鋳鉄用アーク溶接棒に関
する研究はきわめて稀であり、ましてや引張り強度やシ
ャルピー衝撃値の飛躍的な向上を目指した報告は発明者
の知る限り認められない。したがって、本格的な冶金的
考究は今後に待つとして、理論的な考察に関しては現時
点で得られた本発明のデータからVの挙動を推認するに
留めざるを得ない。
【0013】図2は本発明における実験の一例から抜粋
した線図であり、Fe,C,Vの3元素毎に組織内の特
定の検定線に添った分布状態をカウントしたEPMA
(X線マイクロアナライザ)である。図(A)は鉄の分
布を示し、図(B)は図(A)のそれぞれの位置に対応
する位置における炭素の分布を示し、図(C)は同じく
バナジウムの分布の多寡をそれぞれ表示したものであ
る。測定する位置のベースとなる組織は図3(A)〜
(C)にそれぞれ示し、図(A)が鉄、図(B)が炭
素、図(C)がバナジウムの存在だけを選択的に電子像
として表示した成分別組織写真(600倍)であり、図
3各図に引いた同一直線上をプローブが走査して各位置
毎の成分量だけをそれぞれカウントして波形で表示した
のが図2各図である。
【0014】図2(A)(B)(C)を関連付けて観察
すれば、図(A)で低い鉄分の箇所が高炭素に該当する
はずであるのに対し、この部分に該当する図(B)では
高炭素のピークが認められるから両成分の関係が表裏一
体となってよく整合しており、さらに、図3(A)で確
認すれば鉄の基地に黒鉛が黒く晶出していることが明示
され、両図を見比べると炭素の位置に関する表示がよく
一致するから、この検知手法の信頼性が高いことを示唆
している。次に図2(C)のバナジウムの分布を見れ
ば、図(B)の高炭素と一致するピークを認めることが
できるが、逆に図(B)の高炭素のすべてのピークが図
(C)の高バナジウムのピークと必ずしも一致するわけ
ではないことが読み取れる。すなわち、炭素は組織とし
ては黒鉛の形で晶出する部分と、炭化物の形で基地中に
析出する部分とに分別され、各図を通して炭素の挙動を
明確に示すために、図2各図内へ黒鉛タイプとして晶出
する炭素分を、炭化物として析出する炭素分をと書
込んで相互の関係を明確にした。
【0015】一方、図4は本発明の同じ試料の光学顕微
鏡写真(×400)による組織(A)と、ミクロビッカ
ースによって硬度を測定した位置を表示した説明図
(B)である。同様に図5は被覆材中にVを添加しない
従来技術の光学顕微鏡写真(A)と、硬度測定の圧痕を
同様に表示した説明図(B)である。言うまでもなく両
者共に基地はオーステナイト相をベースとし、基地内に
線で囲まれて析出する部分が炭化物、灰黒色の塊状、ま
たは棒状に晶出しているのが黒鉛である。本発明と従来
技術とでは黒鉛の形状や炭化物の析出形状にも隔たりが
認められるが、本発明の実施例である図4と比較例であ
る図5の差を数値的に示すため、顕微鏡写真に菱形の圧
痕を残した通り、それぞれの基地および炭化物の部分に
ついてミクロビッカース硬度の測定を行なった。測定の
結果は表3に示したが、本発明の実施例と従来技術であ
るJIS−3252−DFC NiFeによる同一条件
下での比較例とを比べると、明瞭にV炭化物の有効性が
現われている。すなわち、本発明実施例ではVC系を主
体とする炭化物周辺のミクロビッカース硬度の平均が2
98に対して比較例のFe3Cを主体とする炭化物周辺
では平均225に留まり、また、基地組織についても本
発明では平均231に対して比較例では平均199を示
すに過ぎず、全体としてVCの作用が基地の強化と超硬
度の炭化物を形成して引張り強度とシャルピー衝撃値の
飛躍的な向上の根源にあると理解できるのではないか。
【0016】前記のミクロビッカース硬度試験が示唆す
るところは、Vの適量の添加は基地のオーステナイト相
に一部が固溶して強度と硬度を高め、さらに加熱・冷却
時の挙動によってオーステナイト結晶粒度の微細化を図
ると共に、その大部分はVCまたはFeC3とのダブル
カーバイドを形成して抜群の硬度アップと結果的にシャ
ルピー衝撃値の大幅なレベルアップを誘導したものと推
認される。図6(佐藤・西沢:日本金属学会会報,2,
1963,10,p565〜571)は鉄鋼材料中にお
ける各種炭化物の硬さを示したものであり、SiC,T
iCと並んでMCタイプの炭化物がきわめて硬度が高い
ことを示している。V添加の高速度鋼はこの原則を利用
した製品であり、本発明の図2〜図6の相互の関連性か
ら明らかに超硬度の炭化物形成にVが主役を演じたもの
と解釈するのが冶金的な常識上、正しい。
【0017】V添加の手法としては溶接用の線材自体に
配合する場合と、被覆材に配合する場合とがあり、最終
的に溶着部の適正な組織と、これに裏付けられたシャル
ピー衝撃値や引張り強度の確保のための配合%の上限、
下限を定めることが必要である。図1は後述する本発明
の実施の形態から誘導した成分範囲の限定根拠を示す図
表である。炭素成分が従来から研究開発が集中してきた
合金鋼の10倍以上含有する鋳鉄用アーク溶接棒の開発
においては、ほとんど有効に利用できる従来技術の文献
がなく、また、桁違いに大量のCの挙動が黒鉛晶出など
鋼類とは全く異質の組織を現わすことは言うまでもない
から、個々の溶接材に求められる基準に適合するように
成分の上下の限界を決めることが課題解決の王道である
と解釈した。図1はその意味で試料の測定結果を前記の
スリップオンタイプのダクタイル鋳鉄管の溶接に求めら
れる強度と衝撃値を目標に絞った、謂わば限られた条件
下の成分範囲であることを否定するものではないが、鋳
鉄材を母材とする従来技術と比べて卓抜した強力な溶着
部を形成し、他の構造的な用途に対しても広く適用可能
な抜群の特徴を具えることに変りはない。
【0018】図1の作図のデータは後述する実験記録、
特に硬度に関する表3と、シャルピー衝撃値に関する表
4から成分限定のために拾い上げた数値を組み合わせて
構築したものであり、実験で把握できた通則としては、 被覆材中に添加したVの歩留りは85〜95%の幅が
あること、 Vが無添加の従来技術におけるシャルピー衝撃値(Kg
m/cm2)は、最低1.81、最高3.63、平均2.5
1であること、 溶着金属内のV成分が1.40重量%含む実施例1の
シャルピー衝撃値(Kgm/cm2)は最低5.60、最高
6.82、平均6.15であること、 溶着金属内のV成分が1.60重量%含む実施例2の
シャルピー衝撃値(Kgm/cm2)は最低6.36、最高
8.39、平均7.53であること、 溶着金属内のV成分が1.40重量%含む実施例1の
ミクロビッカースの硬度は炭化物周辺が最低290、最
高330、平均298であり、また基地内が最低21
2、最高245、平均231であること、 Vが無添加の従来技術におけるミクロビッカースの硬
度は炭化物周辺で最低212、最高234、平均225
であり、また、基地内が最低180、最高217、平均
199であること がピックアップされる。本発明の目的から評価するなら
ば、シャルピー衝撃値(Kgm/cm2)は5以上であること
が最大の要件であるから、V重量%を横軸に、シャルピ
ー衝撃値を縦軸に取ってシャルピー衝撃値5Kgm/cm2
截るV重量%を求めると測定の平均値ではV:1.0重
量%が得られるが、最大・最小のバラツキを考慮し、そ
れぞれのV値におけるシャルピー衝撃値の最低値だけを
プロットした最低線Lがシャルピー衝撃値5Kgm/cm2
を交差する点を求めるとV:1.20重量%となる。こ
れがバラツキの中の最低の場合を想定したV重量%の下
限である。なお、引張り強度については何れも28Kgf/
mm2を遥かに超える好成績を記録しているので、特に論
議の対象とする必要がなく、焦点は耐衝撃性だけに絞ら
れたと見てよい。
【0019】V重量%の上限は硬度によって決定され
る。Vの増加と共にオーステナイト基地へ固溶する量は
さらに高まり基地の硬度を上げると共に、炭化物の析出
量も増加していくが、溶着部のシャルピー衝撃値はこれ
に比例して際限なく増大するわけではない。硬度の上昇
は耐摩耗性の増大に対してはほぼ比例関係にあるが、シ
ャルピー衝撃値に対しては適正値があり、限度を超えれ
ば当然マイナス作用となって現われる。本発明ではその
上限の設定を基地の硬度に基づいたのは、他の分野、代
表的には合金鋼の研究結果を教訓として冶金的に公知の
一般原則に準拠したからであり、具体的には目標とする
シャルピー衝撃値が確保される限度において、むしろ靱
性の確保こそ健全な溶着部形成の要諦であると判断し、
具体的には基地のミクロビッカース硬度が250を上限
と定め、この硬度に対応するVはV:2.20重量%に
相当することを図1から読み取った。なお、この場合も
硬度の最高値だけを各Vの含有成分毎に結んでバラツキ
の中の最高線Hを範囲決定の要因に選んで試料のバラツ
キを吸収したが、平均値を結んで誘導される線もほぼ同
様にV:2.20重量%=Hv:250でほとんど収斂
し、この上限に関しては二重に再現性を証明する結果と
なっている。
【0020】溶着金属内のV重量%の成分範囲を決定し
たが、このVはアーク溶接棒の被覆棒内に添加してもよ
いし、溶接用の線材自体に添加してもよい。または両者
からそれぞれ添加して合計して溶着金属内に前記の範囲
で含有するようにそれぞれ歩留り量から逆算して決定し
てもよい。以下は被覆材に添加する場合の計算の根拠で
あり、Fe−Vは被覆材中へ均等に配合できる粉末状の
フェロバナジウムを意味する。 V重量%=(Fe−V/被覆材)×(被覆材/線材)×
(V/Fe−V)×0.85 ∴(Fe−V/被覆材)=V重量%/[(被覆材/線
材)×(V/Fe−V)×0.85 ] ここで0.85は前記のVの歩留りの低い方を採用して
万全を期したものであり、(V/Fe−V)は各メーカ
の規格品が50重量%で提供されている。(被覆材/線
材)は溶接棒メーカのそれぞれ技術と経験によって各自
のノウハウが成立しているが、溶着部のV重量%が1.
20〜2.20と特定したから (Fe−V/被覆材)=1.20〜2.20/[(被覆材/線材)×(V/F e−V)×0.85 ]………… が成立する範囲の被覆材を使用することが被覆材から添
加する原則となる。ここで(被覆材/線材)の割合を3
0重量%と限定すれば、 (Fe−V/被覆材)=1.20〜2.20/0.30
×0.50×0.85=9.4〜17.2重量%とな
り、歩留りの変動も考慮に入れて被覆材内に添加すべき
Fe−Vは9.0〜17重量%の範囲と算出される。し
かしこの添加量は前記の鋳鉄用アーク溶接棒製作時の被
覆材形成の諸条件により、支配され変動することは言う
までもない。
【0021】溶着金属に添加するVを被覆材からではな
く線材自体から含有させることは当然可能であり、線材
を量産できる状態であれば却って有効な手段でさえあ
る。この場合は溶融金属中にVを添加するのであるが、
合金鋼とは異なって高Ni系の鋳鉄は高C、高Si、高
Mnと酸素との親和力の高い成分を大量に含み、安定し
た非酸化性のオーステナイト相形成元素であるNiも大
量に含むから、酸化による減耗はほとんど考慮の必要も
なく、歩留りも90%以上はあるものと解される。た
だ、線材溶解のロットがある程度纏まらないと少量多種
生産は経済的にも不利であるから、被覆材による添加の
方が優先する場合も多いと考えられるが、この場合の添
加量は前記の計算式に準拠して 添加Fe−V量=V重量%×線材溶解量/[(V/Fe−V)×0.90 ] …… 前記の溶着部内のV重量%を1.20〜2.20に収め
るためには、線材に配合すべきVは1.30〜2.40
重量%となり、Fe−Vの含有量が50%であればその
倍量を配合して線材を溶解精練すればよいことになる。
被覆材および線材溶解時の添加の両方からVを含有させ
る方法は当然可能であるが、その場合は前記の数式お
よびより個々に算定してその合計が1.20〜2.2
0重量%の範囲に含まれればよい。すなわち、 (Fe−V/被覆材)×(被覆材/線材)×(V/Fe−V)×0.85+0. 90×(線材中に配合したV)………… で算出した数値がV重量%=1.20〜2.20の範囲
であれば本発明の作用と効果はそのまま再現される。
【0022】
【発明の実施の形態】図7は本発明の実施に当り、今回
課せられた条件をクリアすべき挿口リング5のサイズを
示す図であり、呼び径75〜250mmまでの中短口径
のダクタイル鋳鉄管の挿口4に対しては、図におけるM
=15、X=25で鋼板製の挿口リング5を手溶接しな
ければならない。また同様に呼び径が300〜450m
mの中口径管に対してはM=20、X=30として溶接
することが規定されている。溶着部7を形成するための
アーク溶接棒としては、表1の上段は従来から広く使用
される合金鋼などに使用される一般のアーク溶接棒線材
であり、後段は従来技術および本発明の実施形態に共通
して適用する線材の成分範囲であり、何れも残りはFe
である。後段の線材は上段の鋼用と比べればC,Si,
Mnにおいて大きな差があるが、鋳鉄用としては成分を
ほぼ同一に揃えて純粋に被覆材におけるV添加の影響だ
けに焦点を当てた。
【0023】
【表1】
【0024】表2は本発明に使用したアーク溶接棒の被
覆材の成分であり、表1に示した線材に通常のアーク溶
接棒製作技術によって製品化した。一方、比較すべき従
来技術は表2の成分のうち、Fe−Vだけを削除した以
外は変更なく、このように作成した直径4.0mmの2
種類の試験用溶接棒をそれぞれ使って図8の要領で溶着
部の試験片を作成した。すなわち、肉厚10mmのダク
タイル鋳鉄管の素材を両側の母材とし、35°の傾斜角
度からなる開先を取って下方で9〜11mm、上方で2
0〜23mm開き、35°の傾斜角度からなる開先部に
135〜140Aの溶接電流で溶接試験を実施した。表
3は本発明実施形態と従来技術による比較例とのマイク
ロビッカース硬度測定の結果を纏めたものであり、それ
ぞれの数値の意味するところは既に述べた通りである。
【0025】
【表2】
【0026】
【表3】
【0027】また、表4は本発明実施形態と従来技術に
よる比較例とのシャルピー衝撃値(ノッチなし)(Kgm/
cm2)の比較を示したものであり、本発明の場合、被覆
材へのFe−Vの添加量が何れも11重量%であるにも
拘わらず、溶着金属の分析では実施例1でV:1.40
重量%、実施例2ではV:1.60重量%と異なった結
果を示し、両者の成分差は被覆材中のVの歩留りの差に
起因するものと見て、計算の基礎としては高い歩留り9
5%を捨て、低い85%を基準に置いて歩留りのバラツ
キに対応するように適正範囲を限定した。
【0028】
【表4】
【0029】
【発明の効果】本発明は以上に述べた通り、鋳鉄、特に
ダクタイル鋳鉄管において構造的に強度が必要であり、
またシャルピー衝撃値も母材と同一のレベルが求められ
るような鋳鉄用アーク溶接棒を提供し、種々の構造物、
たとえば近年水道用管路の敷設に最も注目を集めている
無締結工法(スリップオンタイプ・S2型)の挿口リン
グの固定溶着に最大の威力を発揮する効果がある。すな
わち、如何に無締結工法が現場能率や職場安全の点で従
来の掘削工法を遥かに凌駕したところで、管路に震動、
振動、揺動などが加わって管同士を離脱する方向に外力
が掛かったとき、その抜け止めの機能は一に懸って挿口
リングの堅牢、強力な固着作用に支配されるのであるか
ら、優れた工法の採否を左右する重大な要件である。本
発明の実施が規定されたシャルピー衝撃値と強度、硬度
をバランスよく具備し、要求に叶う材力を実現した効果
はきわめて顕著なものがある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の成分限定の根拠を図解する説明図であ
る。
【図2】本発明実施形態における鉄(A),炭素
(B),バナジウム(C)の成分毎のX線マイクロアナ
ライザの波動線を示す。
【図3】図2の測定ベースとなった鉄(A),炭素
(B),バナジウム(C)の成分毎の電子顕微鏡組織
(×600)である。
【図4】同じ実施形態の光学顕微鏡組織(×400)
(A)と、その測定箇所の説明図(B)である。
【図5】従来技術の光学顕微鏡組織(×400)(A)
と、その測定箇所の説明図(B)である。
【図6】各種の炭化物のミクロビッカース硬度を示す図
表である。
【図7】無締結工法(スリップオンタイプ・S2型)の
挿口リングの形態を示した図である。
【図8】溶着部の材料試験片を作成する基準を示した正
面図(A)と側面図(B)である。
【図9】本発明や従来技術が使用される無締結工法の全
体の縦断正面図を示す。
【符号の説明】
1 受口 2 ロックリング溝 3 ロックリング 4 挿口 5 挿口リング 6 ゴム輪
フロントページの続き (72)発明者 橋本 高明 大阪府堺市海山町3丁156番地 特殊溶 接棒株式会社内 (72)発明者 橋本 善行 大阪府堺市海山町3丁156番地 特殊溶 接棒株式会社内 (56)参考文献 特開 昭58−23594(JP,A) 特開 平3−146298(JP,A) 特開 平5−237691(JP,A) 特開 平8−3694(JP,A) 特公 昭57−26878(JP,B2) 特公 昭42−3284(JP,B1) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) B23K 35/365 B23K 35/30

Claims (4)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 C:2.0重量以下,Si:2.5
    以下,Mn:2.5重量以下の他にNi:40〜
    60重量%を含み、残りFeの高Ni系鋳鉄の線材より
    なる鋳鉄用被覆アーク溶接棒によって鋳鉄材を母材とし
    て溶接した溶着部において被覆材または線材自体に添
    加されたVによって、Vを1.20〜2.20重量%含
    有することを特徴とする鋳鉄用被覆アーク溶接棒による
    溶着部。
  2. 【請求項2】 C:2.0重量以下,Si:2.5
    以下,Mn:2.5重量以下の他にNi:40〜
    60重量%を含み、残りFeの高Ni系鋳鉄の線材より
    なる鋳鉄用被覆アーク溶接棒において、少なくとも炭酸
    カルシウム20〜40重量%,ふっ化バリウム:10〜
    30重量%,黒鉛:5〜20重量%とその他の有効補助
    成分を含むと共に、被覆材に対するFe−Vの添加重量
    %を下記数式が成立する範囲内の被覆材で前記線材を
    被覆したことを特徴とする鋳鉄用被覆アーク溶接棒。 (Fe−V/被覆材)=1.20〜2.20/[(被覆材/線材)×(V/F e−V)×0.85 ]…………
  3. 【請求項3】 C:2.0重量%以下,Si:2.5重
    量%以下,Mn:2.5重量%以下の他にNi:40〜
    60重量%を含み、残りFeの高Ni系鋳鉄の線材より
    なる鋳鉄用被覆アーク溶接棒において、該線材にV:
    1.30〜2.40重量%を含有させ、少なくとも炭酸
    カルシウム20〜40重量%,ふっ化バリウム:10〜
    30重量%,黒鉛:5〜20重量%とその他の有効補助
    成分を含む被覆材で前記線材を被覆したことを特徴とす
    る鋳鉄用被覆アーク溶接棒。
  4. 【請求項4】 C:2.0重量%以下,Si:2.5重
    量%以下,Mn:2.5重量%以下の他にNi:40〜
    60重量%を含み、残りFeの高Ni系鋳鉄の線材より
    なる鋳鉄用被覆アーク溶接棒において、該線材にVを含
    有させ、かつ、少なくとも炭酸カルシウム20〜40重
    量%,ふっ化バリウム:10〜30重量%,黒鉛:5〜
    20重量%とその他の有効補助成分を含むと共にFe−
    Vを添加した被覆材で前記線材を被覆し、前記線材配合
    のVおよび被覆材添加のFe−Vの双方を下記数式
    代入して計算する溶着部内に含有するV重量%が1.2
    0〜2.20の範囲に含まれることを特徴とする鋳鉄用
    被覆アーク溶接棒。 (Fe−V/被覆材)×(被覆材/線材)×(V/Fe−V)×0.85+0. 90×(線材中に配合したV)…………
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