JP3197774B2 - Al−Li合金の熱間圧延方法 - Google Patents

Al−Li合金の熱間圧延方法

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敏正 坂本
卓三 萩原
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株式会社アリシウム
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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、Al−Li合金の熱間
圧延方法、とくに、熱間圧延工程のおいて、耳割れなど
の割れの発生、縞模様などの表面欠陥の発生を防止でき
るAl−Li合金の熱間圧延方法に関する。
【0002】
【従来の技術】Al−Li合金は、強度、剛性率が高く
密度が低いため、比強度、比剛性に優れ、航空・宇宙用
材料として期待されているが、その製造技術はまだ十分
に確立されていない。例えば、熱間圧延においても、従
来のアルミニウム合金以上に耳割れや表面欠陥が生じ易
く、圧延技術の確立が要望されている。
【0003】発明者らは、Al−Li合金の熱間圧延時
に発生する割れや表面結果を防止するために、合金成
分、鋳塊の面削方法、鋳塊の均質化処理、圧延条件とそ
れらの関連性について多角的に基礎的実験検討を行い、
種々の知見を得た。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記の基礎
的実験検討から得られた知見に基づいてなされたもので
あり、その目的は、熱間圧延の工程で耳割れなどの割れ
や模様発生などの表面欠陥を生じることが防止されるA
l−Li合金の熱間圧延方法を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するた
めの本発明によるAl−Li合金の熱間圧延方法は、L
i0.5 〜3.0 %を含有し、さらにCu1.0 〜3.0 %( 但
し、Mgを含有しない場合は1.5 〜5.5 %)、Mg0.5
〜2.0 %、Zr0.06〜0.3 %、V0.06〜0.3 %、Mn0.
06〜0.3 %、Cr0.06〜0.3 %、Ti0.02〜0.3 %のう
ちの1種または2種以上を含有し、残部がAlおよび不
可避的不純物からなるAl−Li合金の鋳塊を、520 ℃
±50℃の温度範囲に加熱して、1 〜24時間保持したの
ち、該温度範囲で熱間圧延を開始し、250 ℃以上の温度
で熱間圧延を終了することを第1の特徴とする。
【0006】また、Li0.5 〜3.0 %を含有し、さらに
Zr0.06〜0.3 %、V0.06〜0.3 %、Mn0.06〜0.3
%、Cr0.06〜0.3 %のうちの1種または2種以上を含
有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなるAl−
Li合金、またはZr0.06〜0.3 %、V0.06〜0.3 %、
Mn0.06〜0.3 %、Cr0.06〜0.3 %のうちの1種また
は2種以上、Cu1.0 〜3.0 %(但し、Mgが含有され
ない場合はCu1.5 〜5.5 %)、Mg0.5 〜2.0 %のう
ちの1種以上およびTi0.02〜0.3 %を含有し、残部が
Alおよび不可避的不純物からなるの鋳塊を、450℃
±30℃の温度範囲に1〜30時間加熱したのち、52
0±50℃の温度範囲に加熱して、1〜24時間保持
し、ついで該温度範囲で熱間圧延を開始し、250℃以
上の温度で熱間圧延を終了することを本発明の第2の特
徴とする。
【0007】さらに、熱間圧延の1回当たりの圧下量
を、最終圧延を除いて3 〜30mmとすると、総圧延回数の
うちの20%以上の回数の圧延段階で、それぞれ圧延板側
面部に片側5 〜50mmの幅方向圧延を行うこと、およびA
l−Li合金の鋳塊の圧延面および側面が5mm 以上面削
され、面粗度Raが2 μm 以下、うねりが200 μm 以下
に仕上げられていることをそれぞれ第3、第3および第
4の特徴とする。
【0008】本発明の目的を達成するためには、まず本
発明のAl−Li合金の組成を特定の範囲に限定しなけ
ればならない。本発明において使用するAl−Li合金
における合金元素の意義および限定理由について説明す
ると、Liは、合金材料を軽量化し強度を向上させる元
素であり、好ましい含有範囲は0.5 〜3.0 %であり、1.
0 %未満では軽量化および比強度、比剛性向上の効果が
得られず、3.0 %を越えて含有すると、鋳造割れ感受性
を増加させると同時に、粗大なδ´相を生成し合金の延
性および靭性を低下させる。
【0009】Cuは、Al−Cu系の板状析出物θ´
(Al2 Cu)やAl−Cu−Li系の板状析出物T1
相( Al2 CuLi)を生成し、強度および靭性の向上
に寄与する。好ましい含有範囲は1.0 〜3.0 %であり、
1.0 %未満ではその効果が不十分となり、3.0 %を越え
ると強度および靭性の向上効果が飽和するとともに軽量
化が損なわれる。なお、合金中にMgが含有されない場
合にはCuを1.5 〜5.5%の範囲で含有させるのが好ま
しい。また合金中にMgが含有される場合には、Mgに
よる強度向上効果が期待できるので、Cuの含有量を1.
0 〜2.5 %の範囲に減少することもできる。
【0010】Mgは、合金マトリックス中に固溶して合
金の延性および靭性を低下させることなく合金を強化す
ると同時に、Al−Cu−Mg系の準安定相の板状析出
物、S´(Al2 CuMg)を生成することにより、さ
らに強度を向上させる。好ましい含有範囲は0.5 〜2.0
%であり、0.5 %未満ではその効果が小さく、2.0 %を
越えて含有すると、強度は向上するが合金の延性および
靭性を劣化させる。
【0011】Zr、V、Mn、CrおよびTiは、合金
組織を微細化するとともに再結晶を抑制する効果があ
り、合金組織を微細で未再結晶状態の結晶組織とするた
めに含有させるもので、好ましい含有範囲は、Zr、
V、MnおよびCrは0.06〜0.3%、Tiは0.02〜0.3
%である。それぞれ下限未満では十分効果が得られず、
それぞれ上限を越えると、粗大金属間化合物を生成して
強度および靱性を低下させ、またその効果も飽和する。
【0012】本発明のAl−Li合金において、0.30%
以下のSi、0.25%以下のFe、0.25%以下のZnは、
本発明の効果を損なうことがなく、不純物として許容さ
れるが、これらの不純物は、化合物の生成、あるいは亜
粒界への偏析などにより靱性をていかさせるおそれがあ
るため、Fe0.10%以下、Si0.10%以下、Zn0.10%
以下に制限するのが好ましい。
【0013】本発明のAl−Li合金は、溶解後、連続
鋳造し、圧延用鋳塊を製造するが、鋳塊表面には合金成
分のLi、その他の含有成分が偏析し易く、このまま圧
延すると、圧延時に割れの起点となるおそれがあるた
め、熱間圧延に先立って、鋳塊の圧延面および側面を5m
m 以上面削し、表面を粗度Raが2 μm 以下、うねりが
200 μm 以下になるように仕上げるのが好ましい。
【0014】鋳塊には、鋳造時にAlLi、CuA
2 、Mg2 Si、FeAl3 などの粗大な金属間化合
物が生成し、これらの金属間化合物は圧延時に割れの原
因となり、合金強化の効果を阻害するので、粗大な金属
間化合物を分解、均質化するために、面削した鋳塊を高
温に加熱、保持することにより均質化処理を行う。好ま
しい均質化処理温度は520 ℃±50℃の範囲であり、保持
時間は1 〜24時間が好ましい。均質化処理温度は高い方
が効率的であるが、高過ぎると化合物やマトリックスが
部分溶解するおそれがあり、低過ぎると長時間の温度保
持を要するため生産効率を下げ、また活性なLiが周辺
の水分と反応して酸化し、製品の性状を劣化させること
からも好ましくない。
【0015】合金中に合金成分としてZr、V、Mn、
Crを含有している場合には、これらの元素とアルミニ
ウムの化合物をマトリックス中に微細分散析出させ、製
品板の品質、性状を高めるために、鋳塊を、まず450 ℃
±30℃の温度範囲で1 〜30時間保持し、その後520 ℃±
50℃の均質化処理温度に加熱するのが好ましい。
【0016】発明者らは、Al−Li合金における加工
温度と限界加工率との関係を調査するために、Cu、Z
r、Mgを含むAl−Li合金について、直径20mm、高
さ20mmの試料を作製し、これらの試料について各温度で
すえこみ鍛造した場合の割れ発生から、各加工温度にお
ける限界加工率を求めた。その結果の一例を図1に示
す。図1にみられるように、Al−Li合金において
は、加工時の割れ発生を防ぐために、特定の温度域で熱
間加工を行う必要があることがわかる。
【0017】上記の実験に基づいて、本発明のAl−L
i合金における熱間圧延温度を検討した結果、均質化処
理後、鋳塊を熱間圧延するに際しては、圧延時における
側部割れ(耳割れ)、圧延面割れなどの割れ発生、縞状
模様などの表面欠陥の発生を防止するために、520 ℃±
50℃の温度域で熱間圧延を開始し、250 ℃以上の温度で
熱間圧延を終了するのが好ましいことが判明した。終了
温度は300 ℃以上とするのがより好ましい。
【0018】また、Al−Li合金の熱間圧延において
は、圧延一回当たりの圧下量が割れの発生に大きな影響
があることが見出された。割れ発生の観点からは、一回
当たりの圧下量は出来るだけ小さいほうが好ましいが、
小さ過ぎると、所定厚の板に圧延するまでの圧延回数が
増加し、圧延時間が長くなるため、圧延板の温度が上記
の終了温度より低下し易く、また生産効率もわるくなる
という難点があり、一方、一回当たりの圧下量が大き過
ぎると圧延時に耳割れなどが生じる。実験、検討の結果
として見出された圧延一回当たりの最適圧下量は、板厚
を調整するための最終圧延を除き、3 〜30mmであり、可
逆式圧延機を使用して熱間圧延を実施するのが好まし
い。
【0019】さらに、Al−Li合金の熱間圧延時に生
じる欠陥、とくに耳割れの発生を防止するためには、圧
延機に設置されている幅圧延ロールの使用が有効であ
る。幅圧延ロールは、圧延用鋳塊または圧延板の側面部
を圧延するためのものであり、圧延一回毎に幅圧延を行
うのがより望ましいが、生産性を低下させ、側面部の温
度低下を生じて耳割れを引き起こす原因となるなどの難
点があるから、本発明においては、熱間圧延の総圧延回
数のうち少なくとも20%に当たる回数の圧延において、
片側5 〜50mmの幅方向圧延を行う。
【0020】
【作用】本発明においては、Li:0.5〜3.0 %を含み、
さらに選択成分として特定量のCu、Mg、Zr、V、
Mn、Cr、Tiを含有させたAl−Li合金を用い、
鋳塊面削条件、鋳塊の均質化処理条件、熱間圧延条件を
特定し、これらの組み合わせにより、Al−Li合金の
熱間圧延時の割れおよび表面欠陥の発生を防止し、品
質、性状の優れたAl−Li合金の板材を得るものであ
る。
【0021】
【実施例】以下、本発明の実施例を比較例と対比して説
明する。 実施例1 表1に示す組成を有するAl−Li合金の鋳塊を連続鋳
造により製造し、鋳塊の圧延面を10mm面削して、試験鋳
塊とした。まず、表1の試験鋳塊No.A〜Dを450 ℃
の温度で24時間加熱処理したのち、520 ℃の温度に昇温
し、6 時間保持した。ついで、500 ℃で熱間圧延を開始
した。試験鋳塊の厚さは260mm であり、一回当たり20mm
の圧下量で合計14回圧延し、20mm厚のAl−Li合金板
を得た。熱間圧延は400 ℃の温度で終了した。幅方向圧
延は行わなかったが、発生した耳割れは10mm程度でAl
−Li合金板材として十分に使用できるものであった。
【0022】
【表1】
【0023】実施例2 実施例1において、奇数回目の圧延終了毎に7 回( 総圧
延回数の50%に相当する回数)、片側10mmの幅方向圧延
を行った。その結果、耳割れの発生は完全に防止され
た。
【0024】比較例1 表2の試験鋳塊No.E(260mm 厚) を、450 ℃の温度
に10時間加熱したのち、540 ℃の温度に昇温して6 時間
保持し、ついで、420 ℃の温度で熱間圧延を開始した。
一回当たり圧下量15mmで圧延を行い、圧延一回毎に片側
15mmの幅方向圧延を行ったところ、圧延回数16回で板厚
20mmまで圧延されたが、圧延板の温度が230 ℃となり大
きな耳割れが生じた。
【0025】実施例3 比較例1において、熱間圧延開始温度を500 ℃とし、圧
延を380 ℃で終了したところ、耳割れは完全に防止され
た。
【0026】実施例4 表3の試験鋳塊No.F(260mm 厚) を、450 ℃の温度
で24時間加熱したのち、550 ℃の温度に昇温して10時間
保持し、ついで、550 ℃の温度で熱間圧延を開始した。
一回当たり圧下量を25mmとし、最初の圧延で片側15mmの
幅方向圧延を行い、10回の圧延と圧下量12mmの最終圧延
により、圧延終了温度450 ℃となり、板厚8mm の板材を
得た。板材には、板として全く使用できないレベルでは
ないが、かなりの耳割れが発生し、歩留りのわるいもの
となった。
【0027】実施例5 実施例4において、1回目、3回目および5回目の圧延
終了後に片側15mmの幅方向圧延を実施したところ、耳割
れは完全に防止された。
【0028】比較例2 実施例4において、熱間圧延開始温度を420 ℃としたと
ころ、圧延終了温度は210 ℃となり、板表面全面に縞状
の模様が生じ、板製品として不合格であった。
【0029】実施例6 表1の試験鋳塊No.Fと同一組成の鋳塊を、圧延面お
よび側面をそれぞれ10mm面削し、実施例4と同一の工程
で処理したところ、圧延板には10mm程度の耳割れが発生
しただけであった。
【0030】
【発明の効果】以上のとおり、本発明によれば、Al−
Li合金を熱間圧延する場合、耳割れ、圧延面割れなど
の割れ発生および縞模様などの表面欠陥の発生を防止す
ることができるAl−Li合金の熱間圧延方法が提供さ
れ、Al−Li合金の実用化に有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】Al−Li合金の加工温度と限界加工率の関係
を示すグラフである。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (56)参考文献 特開 昭61−166938(JP,A) 特開 平3−183750(JP,A) 特開 平6−158248(JP,A) 特公 昭64−1543(JP,B2) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) B21B 3/00 C22C 21/00 C22F 1/04

Claims (4)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 Al−Li合金を熱間圧延する方法にお
    いて、Li0.5 〜3.0 %(wt%、以下同じ)を含有し、
    さらにCu1.0 〜3.0 %(但し、Mgが含有されない場
    合はCu1.5 〜5.5 %)、Mg0.5 〜2.0 %、Zr0.06
    〜0.3 %、V0.06〜0.3 %、Mn0.06〜0.3 %、Cr0.
    06〜0.3 %、Ti0.02〜0.3 %のうちの1種または2種
    以上を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からな
    るAl−Li合金の鋳塊を520±50℃の温度範囲に
    加熱して、1〜24時間保持したのち、該温度範囲で熱
    間圧延を開始し、250℃以上の温度で熱間圧延を終了
    し、熱間圧延における1回の圧下量を、最終圧延を除い
    て3〜30mmとし、総圧延回数のうち20%以上の回
    数の圧延段階で、圧延板側面部にそれぞれ片側5〜50
    mmの幅方向圧延を行うことを特徴とするAl−Li合
    金の熱間圧延方法。
  2. 【請求項2】 Al−Li合金を熱間圧延する方法にお
    いて、Li0.5 〜3.0 %を含有し、さらにZr0.06〜0.
    3 %、V0.06〜0.3 %、Mn0.06〜0.3 %、Cr0.06〜
    0.3 %のうちの1種または2種以上を含有し、残部がA
    lおよび不可避的不純物からなるAl−Li合金の鋳塊
    を、450℃±30℃の温度範囲に1〜30時間加熱し
    たのち、520±50℃の温度範囲に加熱して、1〜2
    4時間保持し、ついで該温度範囲で熱間圧延を開始し、
    250℃以上の温度で熱間圧延を終了し、熱間圧延にお
    ける1回の圧下量を、最終圧延を除いて3〜30mmと
    し、総圧延回数のうち20%以上の回数の圧延段階で、
    圧延板側面部にそれぞれ片側5〜50mmの幅方向圧延
    を行うことを特徴とするAl−Li合金の熱間圧延方
    法。
  3. 【請求項3】 請求項2において、Al−Li合金がL
    i0.5 〜3.0 %を含有し、さらにZr0.06〜0.3 %、V
    0.06〜0.3 %、Mn0.06〜0.3 %、Cr0.06〜0.3 %の
    うちの1種または2種以上、Cu1.0 〜3.0 %(但し、
    Mgが含有されない場合はCu1.5 〜5.5 %)、Mg0.
    5 〜2.0 %のうちの1種以上およびTi0.02〜0.3 %を
    含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなる組成
    を有することを特徴とするAl−Li合金の熱間圧延方
    法。
  4. 【請求項4】 前記Al−Li合金の鋳塊の圧延面およ
    び側面が5mm以上切削され、粗度Raが2μm以下、
    うねり200μm以下に仕上げられていることを特徴と
    する請求項1〜3のいずれかに記載のAl−Li合金の
    熱間圧延方法。
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