JP3191301B2 - X線管用陽極ターゲット及びx線管 - Google Patents

X線管用陽極ターゲット及びx線管

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JP3191301B2 JP52508995A JP52508995A JP3191301B2 JP 3191301 B2 JP3191301 B2 JP 3191301B2 JP 52508995 A JP52508995 A JP 52508995A JP 52508995 A JP52508995 A JP 52508995A JP 3191301 B2 JP3191301 B2 JP 3191301B2
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馬場  昇
政男 清水
元達 土肥
裕三 小園
邦裕 前田
正俊 関
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株式会社 日立製作所
株式会社 日立メディコ
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Description

【発明の詳細な説明】 技術分野 本発明は、電子線を照射してX線を発生させる陽極タ
ーゲットを有するX線管及びその製造方法に関する。
背景技術 産業用、医療用などに用いられるX線発生機器のX線
管は陰極から放出される熱電子を陽極ターゲットが受け
てX線を発生する。この陽極ターゲット(以下、X線タ
ーゲットと記載する。)のX線発生金属にはX線発生効
率が良く、かつ高融点の金属としてWあるいはW合金が
用いられている。
特に医療用に用いられるX線管は、診療部の高精細な
画像を得る必要があり、通常のX線管に比べて高いX線
出力が要求されている。X線を発生する際に電子線のエ
ネルギーの大部分が熱に変換されるためX線ターゲット
は高温に加熱される。
また、大容量のX線管はX線ターゲットの過熱を防止
するため電子線照射時にターゲットを回転させる構造と
なっている。このようにX線管には耐熱性、回転時の強
度等が要求されている。これに対して、例えば特開昭58
−59545号公報には、表面にWあるいはW合金をCVD等の
方法によりMoあるいはMo合金基板の表面に形成する方法
が開示されている。この方法は、基体のMo合金と表面の
W合金との密着性が良く、従って熱伝導性に優れてい
る。また、特開昭57−176654号公報には、MoまたはMo合
金の表面にWあるいはW合金をCVD等の方法で順次積層
し、その後アニーリングして膜の密着力を向上するX線
ターゲットの製造方法が開示されている。これらのX線
ターゲットを用いたX線管は従来のX線発生金属を焼結
合金としたX線管に比べ耐負荷性に優れ、長時間の連続
使用に耐えることができる。
医療機器用のX線CT装置などのコンピュータ処理を伴
うX線装置の発達に伴い、X線管には処理画像の鮮明化
が要求されるようになった。また、診断時間の短縮のた
めにはX線管を連続して使用できる時間を長くする必要
がある。これにはX線管の入力を増加してX線放射量を
多くすることが必要となる。また、鮮明な画像を得るた
めには、陰極からの電子線を小さく絞る、つまり小焦点
で大電流密度による高輝度化が重要である。このために
X線ターゲットは電子線照射面の大きな熱負荷に耐え得
る必要がある。これらの要求に対して、特開昭58−5954
5号公報に開示された方法では、使用時間が長くなるに
つれ、W合金からなるX線発生金属の表面が荒れ、X線
発生効率が低下するという問題があった。
また、特開昭57−176654号公報に開示された方法は、
ターゲット作製工程が複雑化し製造コスの上昇をきたす
おそれがあった。
発明の開示 本発明の目的は、高輝度、高精細、長時間の連続使用
に耐え得る、すなわち高い熱負荷に耐えることができる
X線管とその製造方法を提供するにある。
本発明は、金属基体表面にX線発生金属層を有し、該
金属層に電子線を照射してX線を発生させる陽極ターゲ
ットを有するX線管において、前記金属層はW−Re合金
からなり、該合金の前記電子線の照射面が粒径0.9〜4.5
μmの粒子からなり、その厚さが200μm以下であるこ
とを特徴とする。
前記金属層がW−Re合金からなり、該合金の前記基体
に接する側が前記電子線の照射面側に比べW量が多いこ
と、又、前記基体はMo基体、Mo表面の電子線の照射面側
に形成されたW−Re焼結合金層を有する基体、並びに黒
鉛、Mo及びW−Re焼結合金が前記電子線の照射面側に向
かって順次積層された基体のいずれかよりなり、前記金
属層の前記照射面側がCVD法によって形成された金属層
からなることが好ましい。
更に、本発明は、金属基体表面にX線発生金属層を有
し、該金属層に電子線を照射してX線を発生させる陽極
ターゲットを有するX線管の製造方法において、前記基
体の温度を250〜600℃として、前記基体表面にW及びRe
のハロゲン化合物を含むガスを水素ガスで還元するCVD
法により粒径0.9〜4.5μmの粒子のW−Re合金からな
り、厚さ200μm以下の前記金属層を形成した後、1000
〜2000℃で加熱処理することを特徴とする。
本発明によれば、長寿命で、耐負荷性に優れ、高輝度
で、より鮮明な画像を得ることができるX線CT装置など
のX線装置を提供することができる。結晶粒径は研摩面
を光学顕微鏡、電子顕微鏡を用いて写真撮影し、画像処
理方法を用いて計算しても良く、またX線を用いて結晶
学的に測定しても良い。この場合X線を用いて測定した
結晶粒径の胞が小さく測定される傾向にあるが、いずれ
の方法を用いても良い。
X線発生金属は2層以上からなることが好ましい。2
層以上とは各層の組成が異なっていても良いし、単に境
界が生じているだけでも良い。例えば、X線発生金属層
をCVD法を用いて形成する場合、成膜時に一時的に原料
ガスの供給を停止し、再び成膜を行うと境界が生じ2層
になっているように見える。CVDによる成膜では基板上
に種結晶が一旦生成し、その種結晶を基に結晶成長が起
こり膜が形成される。原料ガスの供給を一旦停止する
と、その時点で結晶成長が停止し、再びガスが供給され
ると、種結晶が新しく生成することになる。このように
して、各層の組成が同一であっても2層以上の金属膜を
形成することができる。2層以上かどうかを判定するに
は、断面を研摩して顕微鏡で観察することが最も簡便で
ある。
また、上記のX線発生金属がW、Reを含む2層以上か
らなり、かつ前記金属からなる基板に接する層が電子線
照射面表面層に比べWが濃化しているX線管であること
が好ましい。X線発生金属としては原子番号の大きい物
質の方がX線発生効率が良く好ましいが、一方融点が高
いことも要求される。それらを満たす元素としてWが一
般に用いられているが、この元素だけでは高温強度が低
く、実用的ではないため合金元素としてReを添加して用
いる。
また、上記X線発生金属膜の膜厚は200μm以下とす
るものである。
上記X線発生金属膜の前記基板側にW合金層を有する
ことが好ましい。
また、本発明によれば、上記X線管の陽極ターゲット
の電子線照射面の少なくとも一部が、金属からなる基板
の表面に、2層以上の合金層を有するX線管が提供され
る。2層以上の定義は前記したとおりである。
また、本発明によれば電子線を照射して金属表面より
X線を発生させるX線管において、該X線管の陽極ター
ゲットの電子線照射面の少なくとも一部が、金属からな
る基板の表面に、W、ReからなるX線発生金属を有し、
かつ該X線発生金属のW、Re以外の元素の濃度が100ppm
以下であるX線管が提供される。濃度は重量比であり、
化学分析、機器分析等の方法により分析される。
また、形成されるW、Reを含む金属層が、最大厚さ10
0μm以下で形成されていることが好ましい。金属基体
の電子線照射面のすべてにX線発生金属膜が存在する必
要は無く、例えば放射状に部分的にX線発生金属膜が存
在しても良い。また、Moを主成分とする金属焼結体から
なる基体の電子線照射面側に前述のX線発生金属層が形
成される。
また、Moを主成分とする金属焼結体からなる基体の電
子線照射面側の少なくとも一部にW、Reを含む金属層が
形成され、更に該金属層のReの分布が一様であるX線管
が好ましい。X線発生金属の断面を走査型電子顕微鏡
(SEM)で観察し、EPMAで元素分析を行うと、Reを粉末
として添加して焼結した焼結体の場合はReがほぼ粒子の
ままで焼結体中に存在するため、Reの分布にばらつきが
ある。CVD、PVD法やスパッタ等の方法で金属膜を形成し
た場合、このようなことはなく、ReがW中に均一に分散
する。
また、Moを主成分とする金属焼結体からなる基体の電
子線照射面側の少なくとも一部にW、Reを含む金属層が
形成され、かつ該金属層の論理密度に対する相対密度が
98%以上であるX線管が好ましい。理論密度としては化
学便覧等に記載されている数値を用いる。密度の測定
は、例えば水中置換法(アルキメデス法)等を用いる。
金属薄膜からなるX線金属の密度の測定は膜を機械的に
剥離して測定を行うのが最も簡便である。
また、W、Reを含む金属層が、WとReの組成割合が、
電子線照射面側の方がReの比率が大きくなっているX線
管が好ましい。X線の発生効率は原子番号の大きい金属
の方が大きい。Wの原子番号は74、Reの原子番号は75で
あるからReのX線発生効率の方がWより高い。一方、X
線発生金属表面への電子線の侵入深さは、電子線のエネ
ルギーにもよるが10μm程度である。よって表面から10
μm程度の深さまではReの含有量を多くし、金属基板に
近くなるほどWの含有量を多くする方が好ましくなる。
なお、ReはWに比べて融点が低く、コストが高い。あま
りReの含有量を多くすることは、表面の溶融、コスト面
で好ましくない。
X線管のX線ターゲットの使用時における温度分布の
シミュレーション結果を第1図に示す。電子線照射面の
表面では1500℃程度まで温度が上昇しているが、表面下
では急激に温度が低下している。黒鉛を基材とし、電子
線照射面にCVD法を用いてX線発生金属を設けた場合、
製造コストとの関係でX線発生金属の厚さは500μm以
下であるので黒鉛とX線発生金属との界面は1300℃以上
に上昇する。このような温度条件では黒鉛とW−Re合金
からなるX線発生金属のWが反応しWCのような炭化物を
生成する。このような炭化物が生成すると界面の結合力
が低下し、X線管使用時の接合部分で割れや剥離が発生
する可能性がある。
また、このような炭化物は、熱伝導率が小さいため電
子線照射面で発生した熱が充分拡散しにくくなる。すな
わち電子線照射面の温度上昇につながり、耐負荷性の低
下をまねく。
発明者らは上記のような炭化物生成による耐負荷性の
低下を起こさないX線ターゲットを検討中に本発明にい
たった。すなわち、X線ターゲットの基体をMoのような
金属焼結体とし、その上にCVD法などの薄膜技術を用い
て前述の粒径のX線発生金属を設けることにより耐負荷
性の高いX線ターゲットを得ることができることを見い
出した。
X線管を経年使用しているとX線発生金属表面形状が
熱により荒れてくる現象がある。これは、電子線照射面
のごと近傍では、温度が2000℃程度にまで上昇するた
め、X線発生金属の昇華もしくは溶融が起こるためであ
る。表面が荒れた場合、X線発生金属表面から放射され
るX線が表面の荒れによって散乱されるため、X線の発
生量が低下する。(第2図に模式図を示す。) これを抑制するため、結晶粒径を小さくすることが有
効であることを見い出した。X線発生金属表面の昇華、
溶融は粒内に比べて強度の小さい粒界に優先的に発生す
るためである。(第3図に模式図を示す。) これらの知見から、発明者らはX線発生金属をCVD法
等を用いて、粒径0.9〜4.5μmの粒子としたX線ターゲ
ットを有するX線管が高輝度かつ長年使用時の性能劣化
が少ないことを見い出した。
X線発生金属の結晶粒径と表面荒れの関係を第4図に
示す。この試験は、試験時間を加速するため、電子線で
はなくYAGレーザを照射し、高い入熱を加えることによ
り、X線発生金属の表面の損耗量を測定したものであ
る。これによれば、CVD法によって形成された結晶粒径
0.9〜4.5μmの粒子からなるW−Re合金のものは、結晶
粒径が50μm程度の焼結W−Re合金のものに比べ損耗断
面積が小さく、表面荒れが少ないことがわかる。なお、
第4図において、Zはレーザ焦点レンズ中心から試料表
面までの距離を示す。第5図に断面形状の写真を示す。
同写真5(a)はCVD・W−Re(往復20回)の場合の、
5(b)は焼結W−Re(往復20回)の場合のものであ
る。第5図において、長い1cmは20μmに相当する。
また、第6図に、加熱温度によるX線発生金属の結晶
粒径の変化を示す。初期の結晶粒径が1μm程度のもの
は2000℃、1時間の加熱によっても結晶粒径はそれほど
大きくなっていないことがわかる。このことは、経年使
用時においても、X線発生金属の結晶粒径の粗大化はな
く、従って表面荒れの問題も少ないことを意味してい
る。
第7図に示すようにMoの焼結合金基体の表面に厚さ約
1000μmのW−Reからなる焼結合金を設けたX線ターゲ
ットを作製し、更にその上の半面に焼結粒径10μm以
下、膜厚100μmのX線発生金属膜を設けたX線ターゲ
ットを作製した。このX線ターゲットを回転させなが
ら、一定回数電子線を照射した後、ターゲットの回転を
停止し、X線発生金属膜の有る側と無い側での発生する
X線の量とX線量減率を測定した結果を第8図に示す。
X線量はX線発生金属膜の有る側の方が無い側に比べて
常に10%程度多いこと、X線量減率もX線発生金属膜の
有る側の方が無い側に比べて5%程度少ないことがわか
る。試験後のX線発生金属近傍の断面写真を第9図に示
す。同写真9(a)はCVD・W−Reの場合の、9(b)
は焼結W−Reの場合のものである。第9図において、長
さ1cmは100μmに相当する。表面の荒れはX線発生金属
膜の有る側の方が無い側に比べて少ない。触針式の表面
粗さ計での測定によるとX線発生金属膜の有る側の平面
粗さ(Ra)は5.7μm、最大粗さ(Rmax)は45μmであ
るのに対し無い側のRaは7.5μm、Rmaxは71μmとやは
り表面粗さはX線発生金属膜の有る側の方が小さい。
X線発生金属膜の有無による違いを考察した結果、
電子線照射面の結晶粒径が一定値以下の場合は、表面荒
れが少ない。表面膜と下地に境界があると表面のある
点を起点とした割れの進展が妨害され、割れの進展距離
が短くなる。表面に形成したX線発生金属膜中のReの
分布をEPMA(Electron Probe Micro Analyzer)で調べ
たところ、焼結W−Re層に比べて均一に分布している。
X線発生金属膜の表面の方が焼結W−Re層表面に比べ
て論理密度に対する密度が大きい、すなわち焼結W−Re
層には空孔が多く、表面粗さが大きい。
上記の実験データに基づき、高輝度、長寿命のX線管
を得るため、 Mo等の金属基体の表面に最大粒径4.5μm以下のX線
発生金属膜が形成されていること。
X線発生金属膜と金属基体、またはX線発生金属膜中
に境界が存在し、割れの進展が妨害されるような構造に
なっていること。
X線発生金属膜中のReの分布が均一になっているこ
と。
電子線照射面表面層の対理論密度比が98%以上である
こと。
上記特定構造により、高輝度、長寿命のX線管が得ら
れる。
また、本発明の製造法上の特徴としてはX線発生金属
材料のW−Re合金の被覆を金属ハロゲンガス(WF6,Re
F6)を水素を含むガスで還元するCVD法を用いて、基板
温度200〜600℃、特に400〜500℃の温度範囲であるとき
被膜生成速度を大きく、かつ均一な微細組織を得ること
ができるため好ましい。基板温度が200℃以下では生成
する膜が不均一な形態の膜となる可能性が高い。また、
基板温度が600℃以上になるとReの含有量が少なくなる
ために微細組織が得られない。なお、成膜速度を大きく
するためにはCVD圧力が常圧に近いことが好ましい。ま
た、微細組織のW−Re合金に含まれるReの量は2.5〜26w
t%であることが微細組織形成上好ましい。
また、本発明のX線ターゲットの製造法として、Moあ
るいはMo合金,WあるいはW合金、さらにはそれらを積層
した複合基体からなる耐熱性陽極金属基板に、X線発生
金属材料として粒径0.9〜4.5μmの粒子を有する微細組
織のW−Re合金を被覆した後、1000〜2000℃の温度で真
空加熱を施すことが好ましい。この真空加熱処理によ
り、前記金属基板と該金属基板上に被覆した前記X線発
生金属との拡散が進み、併せてX線ターゲットに吸蔵さ
れているガスを完全に除去する。加熱温度が1000℃未満
では、被覆したX線発生金属とMoあるいはMo合金,Wある
いはW合金、もしくはそれらを積層した複合基板との拡
散が不十分であるので十分に密着しない。またX線ター
ゲットの脱ガスも不完全となるためにX線管に組み込ん
だときに放出されるガスで耐電圧が低くなり十分な強度
のX線を発生することができない。
図面の簡単な説明 第1図は、X線ターゲットの温度シミュレーション結
果を示す図である。
第2図は、X線ターゲット表面のX散乱の模式図であ
る。
第3図は、X線発生金属層の結晶粒径と粗さの模式図
である。
第4図は、X線発生金属のレーザー照射加速試験結果
を示す図である。
第5図は、X線発生金属のレーザー照射加速試験後の
断面形状を示す写真である。
第6図は、本発明X線ターゲットのX線発生金属の加
熱温度と結晶粒径を示す図である。
第7図は、半周面に本発明のX線発生金属を被覆した
X線ターゲットを示す図である。
第8図は、X線ターゲットの実負荷試験後の線量減率
及び線量を示す図である。
第9図は、X線ターゲットの実負荷試験後の断面組織
を示す写真である。
第10図は、本発明のX線ターゲットを組み込んだX線
管の断面構造を示す図である。
第11図は、本発明のX線ターゲットの断面構造を示す
図である。
第12図は、本発明のX線ターゲットの実負荷試験後の
表面形態を示す写真である。
第13図は、従来のX線ターゲットの実負荷試験後の表
面形態を示す写真である。
第14図は、本発明の他の実施例のX線ターゲットの断
面構造を示す図である。
第15図は、本発明の他の実施例のX線ターゲットの断
面構造を示す図である。
第16図は、本発明のX線ターゲットの加熱試験後の断
面結晶組織を示す図である。
第17図は、本発明の他のX線ターゲットの多層構造を
示す模式図である。
発明を実施するための最良の形態 (実施例1) 第10図は、本発明により製造したX線ターゲットを備
えたX線管の一実施例の概略断面図である。
X線管10は、密閉容器11内にX線管球100を内蔵して
いる。この容器内のX線管球100の周囲には冷却媒体15
が充填されている。密閉容器11は、X線放射窓12を有す
る。X線放射窓12は、例えばガラス板の外側面或いは内
側面にX線が放射される部分を残して鉛製スリットを張
ったものが望ましい。X線放射窓12を除く密閉容器内に
もX線を遮蔽するために例えば鉛を張ることが望まし
い。
X線管は、X線放射とともに多量の熱を発生する。こ
の発生した熱を強制的に冷却するために密閉容器内に冷
却媒体15を充填し、且つこれを循環させる。冷却媒体と
しては、液体のもの例えば絶縁油を入れることが好まし
い。
X線管球100は、真空用外囲器110内に回転陽極120と
陰極130を有する。真空用外囲器110は、ガラス、或いは
金属とガラスの複合体によりなる。回転陽極120は、X
線ターゲット121とこのX線ターゲットの回転機構を具
備する。X線ターゲットの回転機構は、モータ・ロータ
を備えている。X線管の外側の前記ロータと対向する位
置にモータ・ステータ125を有する。
陰極130は、電子線放出のためのフィラメントを備え
ており、放出された電子線131はX線ターゲット121に入
射し、放射したX線は密閉容器11のX線放射窓12から放
出される。符号129は陽極端子を示し、符号139は陰極端
子を示す。また、符号141,142は、X線管球100を密閉容
器11内に収納,固定するための部品を示す。符号111
は、真空用外囲器110内を真空排気し、最終的に管端を
封じた部分すなわち真空封止部を示す。
第10図では密閉容器11の上端にゴム蓋13がかぶせてあ
る。これは、X線管球の動作によりX線管球,絶縁油が
温度上昇し、絶縁油の体積が変化するために設けてあ
る。ゴム蓋13は、ゴムの持つ伸縮作用によって冷却媒体
の圧力上昇による流失を阻止する。
本発明のX線ターゲットは、第10図に示すような構造
のX線管に回転陽極として使用することに適する。また
本発明のX線ターゲットは大きな熱負荷に耐えることが
できるので、小焦点,高輝度のX線管球に特に適してい
る。
上記したようなX線管の陽極ターゲットとして第11図
の断面構造を有するX線ターゲットを用いた。中心の穴
7は、Mo製の回転軸(図示せず)を挿入するための穴で
あり、Mo製のナット(図示せず)等により前記X線ター
ゲットと該回転軸が締め付けられる。さらに、円周上に
は、X線を取り出すための傾斜が設けてある。基板の構
成は、金属製ターゲット8の非電子照射面側に黒鉛4を
高融点金属ろう材5で接合した焼結W−Re/Mo/黒鉛であ
り、直径5インチの基板の電子照射面となる結晶粒径が
粗い焼結W−Re合金1の上に、X線発生金属の微細組織
W−Re合金6をCVD法で被覆した。CVDは、先ず基板を水
素ガス雰囲気中で450℃に加熱し、ついでWF6とReF6とを
含む混合ガスを基板上に導入して行った。基板の電子照
射面以外には黒鉛製のマスクでマスキングを行い、さら
に、蒸着中は基板円周上に均一な被覆をするために約10
rpmで基板を回転した。試作したX線ターゲットは、140
0℃の真空加熱処理を1時間行った。この時の微細組織
W−Re合金6の粒径は0.9〜4.5μmであった。次にこの
ターゲットを回転陽極に組立て、第10図に示す構造のX
線管に真空封止して実負荷試験を行った。管電圧120KV,
管電流400mAの条件でX線を発生させ、50000ショット
(1ショットはX線断層撮影1枚分に相当する。)後の
X線発生量の変化を検討した。電子線の照射を受けてX
線ターゲットの表面が荒れるためX線発生量が初期に比
べて低下する。微細組織のW−Re合金を被覆した本発明
によるX線管の低下量は5%程度であった。一方、微細
組織のW−Re合金を被覆していない従来のターゲットで
はX線発生量が初期に比べて15%低下した。本発明によ
るX線管では発生するX線の減少量が少なく、耐負荷性
が高い結果を得た。実負荷試験後のX線ターゲットの表
面を軽く研摩し、ヒートクラックを顕微鏡観察した。第
12図は本発明のX線ターゲット、第13図は従来のX線タ
ーゲットのヒートクラックである。本発明のX線ターゲ
ットのヒートクラックは微細なものである。第12,13図
において、長さ1cmは100μmに相当する。
(実施例2) 第14図に、本発明の他の実施例のX線ターゲットの断
面構造を示す。Mo基板2の上に結晶粒径が粗い焼結W−
Re合金1を積層した金属製ターゲットである。非電子線
照射面にTi,Zr,Al等を含む混合酸化物の被覆層3を溶射
法で設けて、熱の輻射を大きくした基板である。この上
に実施例1と同様にしてCVD法により微細組織のW−Re
合金を被覆した。次に非電子線照射面にTi,Zr,Al等を含
む混合酸化物の被覆層3を溶射法で設けた。このターゲ
ットを実施例1と同様にして真空加熱処理を行い、X線
管に真空封止して実負荷試験を行った。その結果、実施
例1と同様の性能が得られた。
(実施例3) 実施例1と同じ基板の上に実施例1と同様な条件でCV
D法により微細組織のW−Re合金を被覆した。次にこの
X線ターゲットを真空中で2000℃1時間加熱処理した。
この時の微細組織W−Re合金6の粒径は2〜8μmであ
った。X線管に真空封止して実負荷試験を行った。その
結果、耐負荷性に優れたX線ターゲットであることを確
認した。
(実施例4) 第15図は、本発明の他の実施例のX線ターゲットの断
面構造を示す。Mo単体基板2ので視線照射面に微細組織
のW−Re合金6をCVD法で実施例1と同様にして被覆し
た。このターゲットに実施例1と同様な真空加熱処理を
行い、次にこれをX線管に真空封止してから実負荷試験
を行った。その結果、このターゲットも耐負荷性に優れ
たX線ターゲットであることを確認した。
(実施例5) 本発明のターゲットの耐熱性を加熱試験で検討した。
ターゲットは実施例1と同様にして作製した。Mo基板の
上に結晶粒径が粗い焼結W−Re合金を積層し、その上に
微細組織のW−Re合金をCVD法で実施例1と同様にして
被覆した後真空加熱処理を行った。このターゲットにつ
いて加熱試験結果から、加熱温度が2000℃と非常に高温
度においても微細組織のW−Re合金の結晶成長による粗
大化は見られなかった。断面組織のスケッチを第16図に
示す。結晶粒径の大きな焼結W−Re合金基板の上に形成
した微細組織のCVD・W−Re合金は加熱試験後も結晶の
成長がなく微細組織を保持していることがわかる。さら
に、焼結W−Re合金基板上の微細組織のCVD・W−Re合
金の加熱試験後の表面の残留応力をX線法で解析した結
果、いずれの加熱温度においても圧縮応力が作用してお
り、熱負荷等によるクラックの発生を抑制する方向の応
力場になっていることが明らかになった。
(実施例6) W粉末、Re粉末をらいかい器を用いて混合した混合粉
末に、更にW粉末を加えたものをV型ミキサーを用いて
1時間混合する。混合した粉末にバインダーとしてパラ
フィンを加え、真空中で加熱することにより乾燥させ
る。乾燥粉末をふるいにより分級した物を直径100mmの
金型に充填し、その上にMo粉末を充填し圧力300MPaで圧
粉体を作製する。この圧粉体中のパラフィンを水素気流
中で加熱することにより燃やすとともに焼結を行い焼結
体を得る。このようにして得た焼結体を鍛造、切削、成
形を行いX線ターゲット用金属基板を得る。このように
して得た金属基板の電子線照射面側に、CVDにより成膜
を行った。
上記金属基板を水素ガス雰囲気中で450℃に加熱し、
ついでWF6を含む混合ガスを基板上に導入して行った。
基板の電子照射面以外には黒鉛製のマスクでマスキング
を行い、さらに、蒸着中は基板円周上に均一な被覆をす
るために約10rpmで基板を回転した。W薄膜が膜厚約20
μmとなるようにCVD時間を調整してCVDを行った。その
後、WF6ガスにReF6ガスを添加した混合ガスを基板上に
導入してW−Re薄膜を形成した。膜厚は約100μmであ
る。このようにして作製したX線ターゲットを1400℃の
真空加熱処理を1時間行った。
この時のW−Re合金の粒径は0.9〜4.5μmであった。
次にこのターゲットを回転陽極に組立て、第10図に示す
構造のX線管に真空封止してX線管を得た。
(実施例7) 実施例6で作製した金属基板の電子線照射面側にCVD
により成膜を行った。上記金属基板を水素ガス雰囲気中
で450℃に加熱し、ついでWF6を含む混合ガスを基板上に
導入してW薄膜が膜厚約10μmとなるようにCVD時間を
調整してCVDを行った。基板の電子照射面以外には黒鉛
製のマスクでマスキングを行い、さらに、蒸着中は基板
円周上に均一な被覆をするために約10rpmで基板を回転
するのは実施例6と同様である。その後、WF6ガスにReF
6ガスを少量添加した混合ガスを基板上に導入してRe含
有量の少ないW−Re薄膜を形成した。その後、ReF6ガス
の添加量を徐々に多くしていき電子線照射面表面でのRe
含有量が重量で約20%になるように成膜を行った。全膜
厚は約100μmである。このようにして作製したX線タ
ーゲットを1400℃の真空加熱処理を1時間行った。この
時のW−Re合金の粒径は0.9〜4.5μmであった。次にこ
のターゲットを回転陽極に組立て、第4図に示す構造の
X線管に真空封止してX線管を得た。
(実施例8) 実施例6で作製した金属基板の電子線照射面側にCVD
により成膜を行った。
WF6とReF6とを含む混合ガスを基板上に導入してCVDを
行った。基板の電子線照射面以外には黒鉛製のマスクで
マスキングを行い、さらに、蒸着中は基板円周上に均一
な被覆をするために約10rpmで基板を回転した。CVDの際
にWF6とReF6ガスの導入を同時に停止したもの、WF6ガス
の導入のみを停止したものの2種を作製した。第17図に
多層CVD膜構造のスケッチを示す。(a)がWF6とReF6
スの導入を同時に停止したもの、(b)がWF6ガスの導
入のみを停止したものである。ガスの導入の停止によ
り、結晶の成長が一旦停止するため上記の方法で作製し
たX線発生金属は、層境界を有する多層構造となってい
る。このような構造のX線発生金属は、一旦表面に亀裂
が生じても亀裂が一気に金属基板にまで達しない。層境
界で亀裂の進展が屈曲させられるからである。これによ
り、亀裂が一気に金属基板まで達して、X線発生金属が
剥離するという問題が少なくなる。このようにして形成
したX線発生金属の全膜厚は約100μmである。このよ
うにして作製したX線ターゲットを1400℃の真空加熱処
理を1時間行った。この時のW−Re合金の粒径は0.9〜
4.5μmであった。次にこのターゲットを回転陽極に組
立て、図10に示す構造のX線管に真空封止してX線管を
得た。
以上述べたように本発明のX線ターゲットは、電子照
射面が微細組織のW−Re合金で被覆されているので耐熱
性が高い。従って、本発明のX線ターゲットを組み込ん
だX線管は、小焦点,高負荷に耐えられるため、CT装置
診断画像の高輝度化を図ることができる。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 小園 裕三 茨城県常陸太田市真弓町3234−2 (72)発明者 前田 邦裕 茨城県日立市台原町2−14−16 (72)発明者 関 正俊 茨城県ひたちなか市津田1892−101 (56)参考文献 特開 平3−82765(JP,A) 特開 平5−279710(JP,A) 特開 昭63−146330(JP,A) 特開 昭63−193442(JP,A) 特開 平1−107439(JP,A) 特開 昭57−176654(JP,A) 特公 昭54−34517(JP,B2) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) H01J 35/08 H01J 9/14

Claims (4)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】金属基体表面にX線発生金属層を有し、該
    金属層に電子線を照射してX線を発生させる陽極ターゲ
    ットを有するX線管において、前記金属層はW−Re合金
    からなり、該合金の前記電子線の照射面が粒径0.9〜4.5
    μmの粒子からなり、その厚さが200μm以下であるこ
    とを特徴とするX線管。
  2. 【請求項2】請求項1において、前記W−Re合金の前記
    基体に接する側が前記電子線の照射面側に比べW量が多
    いことを特徴とするX線管。
  3. 【請求項3】請求項1又は2において、前記基体はMo基
    体、Mo表面の電子線の照射面側に形成されたW−Re焼結
    合金層を有する基体、並びに黒鉛、Mo及びW−Re焼結合
    金が前記電子線の照射面側に向かって順次積層された基
    体のいずれかからなり、前記金属層の前記照射面側がCV
    D法によって形成された金属層からなることを特徴とす
    るX線管。
  4. 【請求項4】金属基体表面にX線発生金属層を有し、該
    金属層に電子線を照射してX線を発生させる陽極ターゲ
    ットを有するX線管の製造方法において、前記基体の温
    度を250〜600℃として、前記基体表面にWのハロゲン化
    合物及びReのハロゲン化合物を含むガスを水素ガスで還
    元するCVD法により粒径0.9〜4.5μmの粒子のW−Re合
    金からなり、厚さ200μm以下の前記金属層を形成した
    後、1000〜2000℃で加熱処理することを特徴とするX線
    管の製造方法。
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