JP2766931B2 - X線管用ターゲット及びその製造方法並びにx線管 - Google Patents

X線管用ターゲット及びその製造方法並びにx線管

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【発明の詳細な説明】 〔産業上の利用分野〕 本発明はX線管用の回転陽極ターゲットに係り、特に
黒鉛基体とX線源材料を組合せたX線管用ターゲット及
びその製造方法並びにX線管に関する。
〔従来の技術〕
X線管用の回転陽極ターゲットは、従来から金属モリ
ブデン基板とタングステン又はタングステン・レニウム
合金を一体成形したものが用いられて来た。さらに、X
線管の入力の増加に伴ない、前記金属ターゲットの裏面
を黒化処理したものや金属に比べて軽量の黒鉛(タング
ステンの1/10,モリブデンの1/5)を前記金属ターゲット
の裏面に接着して熱輻射率の向上を図ったターゲットが
検討されて来た。しかし、これらはいずれも比重の大き
い金属が基体の主要部分を構成するため、ターゲットの
大熱容量化(ターゲットに入力される電子線のエネルギ
のほとんどが熱に変換されるため、入力の増加で発熱量
が大きくなる)の要求に対して、ターゲット径や肉厚を
大きくするため重量が重くなり、回転軸受等に苛酷な負
荷が加わる問題があった。
これに対し、大熱容量でも軽いターゲットの一例が特
公昭47−8263号公報に記載されている。それは石墨を基
体とし、電子線が照射される部分のみにタングステン・
レニウム合金被覆を施した構造及び前記合金被覆層と石
墨基体との間にレニウムを介在させた構造のターゲット
で、石墨の大きな熱容量がタングステン・レニウム合金
被覆層を熱的な過大負荷から守ると記載されている。
また、レニウム及びタングステン・レニウム合金の被
覆技術を詳細に検討し、過大な熱負荷でも被覆層の剥離
がなく、かつ被覆層表面の電子線照射による荒れが小さ
い(実働時間に対してX線量低下が小さい)ターゲット
を提案された(特開昭63−228553号公報)。これは黒鉛
の多孔質面に中間層のレニウムを浸透させ、かつ表面結
晶を細かくすることが一つの特徴である。
一方、黒鉛基体の表面に結晶層組織を有する熱分解グ
ラファイト層を設け、この熱分解グラファイト層上に更
に高融点金属層(X線発生層)を設けた特開昭56−1835
5号公報や実公昭55−25170号公報がある。熱分解被覆層
は孔のない平滑な表面を得るのに有用であり、いかなる
粒子も基体から分離せず、孔がないことによって、ガス
が基体から発生するのを防止する。
〔発明が解決しようとする課題〕
X線による断層撮影とコンピュータによる画像処理を
組合せたX線CT(Computed Tomography)装置には、診
断時間の短縮と画像の鮮明化が要求される。これにはX
線管の入力を大きくして線量を増し、かつ小焦点にする
必要がある。ところが入力の増加に伴ないターゲットに
は大熱容量化が必要である。ここで回転軸受負荷の軽減
や熱容量を考え合せると黒鉛基体を用いるターゲットが
軽量,大熱容量ターゲットとして有用である。しかし、
黒鉛は多孔質であるが故にガス放出が多く、かつX線管
に組立てる工程でのハンドリングによる摩擦,高入力負
荷による二次電子線衝撃さらには高速回転による黒鉛粒
子の飛散等によるX線管の耐電圧特性等の改良を進める
必要がある。この点において、前記特開昭56−18355号
公報及び実公昭55−25170号公報の様に黒鉛基体にあら
かじめ平滑な熱分解グラファイト層を設けて目詰めをし
た後、その上に高融点のX線源材料をコーティングする
方法が提案されている。これらの方法では熱分解グラフ
ァイトが気相から基板表面に被着した時、この被着層は
結晶層構造を呈し、表面に平行の層状構造となる。グラ
ファイトの熱伝導性はその結晶層を横切る方向における
よりも、結晶層の方向における方がかなり高いことか
ら、熱分解グラファイト層を厚く(通常は数mm)して、
層内の結晶を横断する共通の接触面を高融点金属層と熱
分解グラファイト層とに設けて、電子線衝突によって発
生する熱をすみやかに伝導する。また黒鉛粒子の飛散防
止として働く。しかし、一方で熱分解グラファイトの熱
膨張係数は基板に平行な結晶層の方向で2×10-6/℃
(垂直方向で25×10-6/℃)と小さく、かつ気相からの
合成であるため、緻密な膜で、理論密度(2.2g/cm3)に
近い、ターゲット用の黒鉛基板としては通常は等方性の
ものが用いられ、熱膨張係数は4〜6×10-6/℃,密度
は1.7〜1.9g/cm3が一般的である。従って、大口径黒鉛
基板(100〜150mm)へ熱分解グラファイトを被覆する場
合は、比較的厚くして熱膨張係数の違いによるクラック
の発生を防止することが行なわれている。さらには高温
で被覆(例えば1000℃以上で、かつ基板との密着性を考
慮して2000℃前後で行なう場合もある)し、その被覆の
ための炭化水素ガス圧力は数Torr〜数10Torrの条件範囲
が選ばれる。
本発明者らは、前記特開昭63−228553号公報に提案し
た様な黒鉛の多孔質面に中間層のレニウムを浸透させ
て、タングステンやタングステン合金被覆層の剥離がな
いX線ターゲットを提供するためには、黒鉛基板が平滑
で孔のない熱分解グラファイトでは、耐剥離性向上の点
で不利であることを発見した。また、黒鉛は多孔質であ
るがゆえに存在する吸蔵ガスは、X線管に封入する前工
程で充分脱ガスされることが好ましい。ターゲット製造
工程(熱分解グラファイト被覆工程)の低真空ガスをそ
のまま被覆によって封じ込めることは、熱負荷等のゆら
ぎに対しても完全密封でない限りは、X線管の10-7〜10
-8Torrの高真空中にガスが徐々に放出し、結果としてX
線管の真空度を低下させ、高入力負荷使用が困難にな
る。また、熱分解グラファイトの被覆は高温で、かつ長
時間処理が必要である。
そこで、本発明は以上の点を鑑みなされたものであ
り、黒鉛基板の多孔質面に中間層のレニウムを浸透させ
てX線源材料の剥離がないターゲットで、黒鉛の吸蔵ガ
スを封じ込めることなく、かつ黒鉛粒子の飛散を防止し
たX線管用ターゲット及び製造方法並びにX線管を提供
することを目的とするものである。
〔問題点を解決するための手段〕 上記目的は、黒鉛基板の所要部分に浸透性の中間層,
その上にX線源材料をコーティングした後、黒鉛露出面
に物理的手法(PVD:Physical Vapor Depositon)によっ
て、被覆層を設けることにより達成される。
すなわち、本発明は、黒鉛基体の陰極対向面にX線源
材料が被設されて成るX線管用ターゲットにおいて、黒
鉛基体の表面に被覆層が形成され、該被覆層は気孔率が
1〜15%の有孔層に形成されているものである。
また、本発明は、気孔率に代えて密度にして2.0〜1.8
g/cm3となる有孔層に形成されている被覆層を設けたも
のである。前記ターゲットにおいて、被覆層はX線源材
料面以外の黒鉛表面に被設され、X線源材料は黒鉛表面
に直接被設されているものがよい。
また、前記ターゲットにおいて、被覆層は黒鉛表面の
多数の孔の孔内開口周縁部に該孔を開口状態で侵入され
ているものがよい。あるいは、被覆層は黒鉛、SiC等の
炭化物又は炭化物形成元素を被設したもののいずれかで
あるものがよい。あるいは、被覆層はその解離温度が14
00℃以上の物質にて形成されているものがよい。あるい
は、被覆層は気孔率が1〜15%の黒色素材から成ると共
に、黒鉛基体と結合強度が強い炭化物を形成しているも
のがよい。
本発明に係るX線管用ターゲットの製造方法は、黒鉛
基体の電子線照射面にX線源金属材料を被設する工程
と、黒鉛基体の表面にスパッタリング、蒸着、又は蒸着
とイオン打込みとを組合せた方法を含む物理的手法によ
り被覆層を設ける工程と、を含むものである。ここで、
X線源金属材料は、化学気相めっき又は化学気相めっき
と溶射を組合せた方法等の科学的手法により被設された
ものがよい。ここで、X線源金属材料を基体内部へ最大
浸透深さが10μm以上となるよう浸透させるのがよい。
更に、X線源金属材料の層は、200〜300℃の温度と常圧
近辺の圧力を満足する条件下で化学気相めっきを施すこ
とによって前記黒鉛基体表面にレニウム層を被設すると
共にレニウムの一部を基体内部へ最大浸透深さが10μm
以上となるように浸透させる工程を含み、その後、タン
グステン下部層とタングステン・レニウム合金の最表面
層よりなる二層構造に形成されるのがよい。
また、本発明に係るX線管は、前記のいずれかのX線
管用ターゲットと、このX線管用ターゲットを軸支する
回転軸と、前記X線管用ターゲットに対向して設置され
た電子線を発射する陰極と、前記X線管用ターゲット,
回転軸,及び陰極を内部に密閉する密閉容器とを備えた
ものである。
〔作用〕
黒鉛露出面にPVD法によって被覆層を設けるため、黒
鉛の凹凸面は、緻密に被覆されず、表面上は無数の孔が
存在する形態となる。これは前記特開昭56−18355号公
報で示されるように、例えば熱分解グラファイトが気相
からの析出(CVD:Chemical Vapor Depositon)であるた
め、黒鉛孔内部まで浸透してつきまわりがよく、緻密に
被着するCVDと対称的である。これにより、黒鉛粒子の
飛散防止と脱ガスを容易にする(ガスを封じ込めない)
作用を兼ねたX線管用黒鉛ターゲットとすることができ
る。さらに、中間層のレニウム等を、直接黒鉛多孔質面
にコーティングするため、X線源材料の耐剥離性は保持
される。
〔実施例〕
以下、本発明の実施例を図面等を用いて具体的に説明
する。
(実施例1) 第1図には本発明の一実施例が示されている。同図に
示されているようにX線管用ターゲットは黒鉛基体1、
対陰極面となる傾斜面にX線源材料2、黒鉛粒子の飛散
を防止するための被覆層3で構成され、回転軸5に座金
(ワッシャ)6を介してナット7で固定されてX線管に
封入される。そのX線管の拡大断面図を第5図に示す。
X線管用ターゲット18は回転陽極17に軸支され、陰極22
から発射される電子線23を受けてX線を放射する。上記
各構成要素は密閉容器11内に封入されている。ここで被
覆層3は、前記した耐剥離性の大きいX線源材料2をCV
D法でコーティングした後、X線源材料2の部分をマス
キングして、黒鉛露出面のみにPVDの代表的手法である
スパッタリング法で黒鉛の被覆層3を設けた時の一例で
ある。スパッタリング装置は、図示しないが、マグネト
ロンカソード型でX線管用黒鉛ターゲット基体が下、被
覆層3を設けるためのスパッタリング黒鉛焼結体ターゲ
ットが上のスパッタ・ダウン方式を用いた。スパッタリ
ング条件はアルゴンガス圧力1×10-2Torr,時間90分,
入力500ワットで行なわれた。得られた膜厚は2〜3μ
mである。黒鉛露出面の被覆層3は黒鉛粒子の飛散を防
止するためには基板との接着力が強固でなければならな
い。この点をスパッタのアルゴンガス圧力との関係で検
討した結果、1×10-1〜1×10-3Torr(安定したグロー
放電が得られる圧力)の範囲では1×10-2〜5×10-3To
rrが最適であり、短時間での被覆を考慮すると1×10-2
Torrが好ましいことを確認した。
次に被覆後の表面を走査型電子顕微鏡で観察した結
果、黒鉛基板自身の本来有する10〜50%の気孔率は被覆
層3を設けることによって数%に減っているが、空隙の
存在する粗表面形態で、黒鉛基体からの脱ガスは容易に
行なわれるものである。気孔率にして1〜15%の被覆層
3にすれば、脱ガスを確実に図れる。これは、見方を変
えると、密度にしても表現することができ、2.0〜1.8g/
cm3の範囲の密度にすれば、前記気孔率に相当する被覆
層となる。第4図は黒鉛基体1の孔中に侵入している被
覆層3を示す要部拡大断面図である。
(実施例2) 第2図及び第3図には本発明の別の実施例が示されて
いる。ここでは被覆層3がSiCの場合である。スパッタ
リング用ターゲットを焼結体のSiCとして、実施例1と
同様のスパッタリング条件で被覆層3が設けられた。こ
こで前記実施例1と異なる点は膜厚が3〜5μmと厚く
できること,被覆層3のSiCの組成がSiC1-X(X<1)
でC成分が欠乏した被膜となること及び電気抵抗の大き
い(SiCは半導体に分類される)被膜になることが挙げ
られる。X線ターゲットは陽極部品であるため、従っ
て、前記実施例1にさらに工夫がなされ、回転軸5と導
通をよくする目的で、第2図では回転軸取付穴4を中心
に回転軸5と接する黒鉛基体1の下座面8、第3図では
黒鉛基体1のワッシャ6と接する上座面9へのSiCの被
覆をさけてX線管用黒鉛ターゲットが作られたものであ
る。
一般に、X線ターゲットをX線管に組込む場合は、あ
らかじめターゲットの脱ガスを目的にした真空熱処理が
行なわれることは周知の事実であるが、前記のSiC1-X
覆層3は、この工程(真空熱処理)において、黒鉛基板
との接着性(基板からのC成分の拡散による)がより改
善されるものである。このことは、粒子の飛散防止効果
を確認する摩擦粘着粒子剥離試験(黒鉛表面を摩擦後、
粘着テープにより粒子の剥離状態を観察)によって明ら
かにされた。ここで、被覆層3は黒鉛及びSiCに止まる
ことなく、黒鉛基体1と反応する炭化物形成元素並びに
炭化物で形成されることが望まれるが、黒鉛ターゲット
の脱ガス真空処理温度(最高1400℃以下が望ましい)及
びX線管での動作温度(ターゲット基体の平均温度1100
℃以下)を考えると、それ以下の温度で融解するものは
さけるべきである。さらに、被覆手法はスパッタに止め
ることなく、蒸着,イオンミキシング,プラズマ応用被
覆技術等でも達成できる。
〔発明の効果〕
上述のように本発明によれば黒鉛の吸蔵ガスを封じ込
めることなく、かつ黒鉛粒子の飛散を防止するための被
覆層を設けたことにより、X線管の組立て工程や高入力
負荷での黒鉛のダスト発生を防止でき、信頼性の高いX
線管が得られる。X線管の動作入力は被覆層を設けた黒
鉛ターゲットで、150KVが安定して負荷でき、およそ3
割程度の性能向上が見込まれる。
また、本発明に係る製造方法によれば、上記ターゲッ
トを容易に作ることができる。
【図面の簡単な説明】
第1図は本発明のX線管用黒鉛ターゲットと回転軸の関
係を示す一実施例であり、第2図及び第3図は本発明の
他の実施例を示すターゲットの断面図、第4図は第1図
の要部拡大断面図であり、第5図はX線管の断面図を示
す。 1……黒鉛基体、2……X線源材料、3……被覆層、4
……回転軸取付穴、5……回転軸、6……座金(ワッシ
ャ)、7……ナット、8……下座面、9……上座面。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 三浦 裕二 茨城県日立市久慈町4026番地 株式会社 日立製作所日立研究所内 (72)発明者 楮原 広美 茨城県勝田市堀口832番地の2 株式会 社日立製作所勝田工場内 (72)発明者 広瀬 一弘 茨城県勝田市堀口832番地の2 株式会 社日立製作所勝田工場内 (72)発明者 横田 能治 千葉県柏市新十余二2番地の1 株式会 社日立メディコ柏工場内 (56)参考文献 特開 昭63−228553(JP,A) 特開 昭61−39352(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.6,DB名) H01J 35/10

Claims (4)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】黒鉛基体の陰極対向面にX線源材料が被設
    されてなるX線管用ターゲットにおいて、黒鉛基体の表
    面の前記X線源材料が被設されていない部分に被覆層が
    形成され、該被覆層はその解離温度が少なくとも1400℃
    である材質で気孔率が1〜15%の有孔層に形成されてい
    ることを特徴とするX線管用ターゲット。
  2. 【請求項2】黒鉛基体の電子線照射面にX線源金属材料
    を被設する工程と、X線源金属材料を被設したのち、黒
    鉛基体の黒鉛露出面に、スパッタリング、蒸着、または
    蒸着とイオン打込みとを組合わせた方法を含む物理的手
    法により気孔率が1〜15%の有孔層からなる被覆層を設
    ける工程と、を含むことを特徴とするX線管用ターゲッ
    トの製造方法。
  3. 【請求項3】請求項2において、X線源金属材料の層は
    200〜300℃の温度と常圧近辺の圧力を満足する条件下で
    化学気相めっきを施すことによって前記黒鉛基体表面に
    レニウム層を被設すると共にレニウムの一部を基体内部
    へ最大浸透深さが10μm以上となるように浸透させる工
    程を含み、その後、タングステン下部層とタングステン
    ・レニウム合金の最表面層よりなる二層構造に形成され
    るX線管用ターゲットの製造方法。
  4. 【請求項4】請求項1のX線管用ターゲットと、このX
    線管用ターゲットを軸支する回転軸と、前記X線管用タ
    ーゲットに対向して設置された電子線を発射する陰極
    と、前記X線管用ターゲット,回転軸,及び陰極を内部
    に密閉する密閉容器とを備えたX線管。
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