以下、本考案の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本考案の一実施形態による油圧クラッチが搭載された自動二輪車(車両)の全体構造を示した側面図である。図2〜図9は、図1に示した一実施形態による自動二輪車の油圧クラッチおよびその内部の構造を詳細に説明するための図である。なお、本実施形態では、本考案の車両の一例として、自動二輪車について説明する。図中、FWDは、自動二輪車の走行方向の前方を示している。まず、図1〜図9を参照して、本実施形態による自動二輪車1の構造について説明する。
本考案の一実施形態による自動二輪車1では、図1に示すように、ヘッドパイプ2の後方に、前後方向に延びるメインフレーム3が配置されている。また、メインフレーム3の後方には、後方の上方向に延びるリヤフレーム4が接続されている。これらのヘッドパイプ2、メインフレーム3およびリヤフレーム4によって、車体フレームが構成されている。
また、ヘッドパイプ2の上部には、ハンドル5が回動可能に取り付けられている。また、ハンドル5には、ホルダ5aが取り付けられている。ホルダ5aには、クラッチレバー5bが回動可能に取り付けられている。クラッチレバー5bは、ハンドル5の矢印X2方向側(図2参照)に配置されているとともに、クラッチレバー5bには、マスタシリンダ5cを介してオイルホース6(図3参照)の一方側が接続されている。つまり、クラッチレバー5bは、運転者がクラッチレバー5bを握って回動させることにより、マスタシリンダ5cが作動されるとともに、オイルホース6の内部に充満されたオイルがオイルホース6の他方側6a(図3参照)に移動するように構成されている。また、ヘッドパイプ2の下方には、上下方向の衝撃を吸収するためのサスペンションを有する一対のフロントフォーク7が配置されている。この一対のフロントフォーク7の下端には、前輪8が回転可能に取り付けられている。
また、メインフレーム3の後方の上部には、シート9が配置されている。このシート9の下方には、樹脂製の燃料タンク10が配置されている。また、メインフレーム3の後端部(下部)には、ピボット軸3aが設けられている。このピボット軸3aには、リヤアーム11の前端部が上下に揺動可能に支持されている。このリヤアーム11の後端部には、後輪12が回転可能に取り付けられている。
また、メインフレーム3の下方には、エンジン13が配置されている。エンジン13の上部には、吸気ダクト14が接続されているとともに、エンジン13の前方側には、排気管15aが接続されている。さらに、エンジン13には排気管15aを介してマフラー15bが接続されている。また、エンジン13は、図2に示すように、後述するシリンダ部材48を収納する収納部16aを有するクランクケース部16と、ピストン17が内部に配置されるシリンダ部18と、シリンダ部18の上部に配置されるシリンダヘッド部19と、シリンダヘッドカバー20とを含んでいる。なお、図2には、シリンダ部18を2つ図示しているが、実際には、本実施形態のエンジン13は、4気筒である。すなわち、本実施形態では、図1に示すように、前側の2つのシリンダ部18(シリンダヘッド部19)と後側2つのシリンダ部18(シリンダヘッド部19)とがエンジン13の上方にV形の空間を有するように配置されるV型4気筒エンジンからなる。また、シリンダヘッド部19の下部には、図2に示すように、燃焼室19aが設けられている。また、燃焼室19aの上部には、点火プラグ21が配置されている。また、燃焼室19aの上部には、吸気バルブ22および排気バルブ(図示せず)が配置されている。これら吸気バルブ22および排気バルブ(図示せず)は、それぞれ、吸気バルブ22および排気バルブ(図示せず)の上方に配置されているカム23および図示しないカムが回転することにより燃焼室19aに対して開閉可能に構成されている。また、カム23および図示しないカムは、それぞれ、カム軸24と図示しないカム軸とに設けられている。カム軸24には、スプロケット24aが設けられているとともに、スプロケット24aには、チェーン25が噛合されている。また、チェーン25は、クランク軸26に設けられたスプロケット26aに噛合されている。
また、クランク軸26は、クランクケース部16の内部に配置されているとともに、ピストン17がコンロッド27を介して接続されている。すなわち、クランク軸26は、ピストン17がシリンダ部18の内周面を繰り返し摺動することにより、所定の方向に回転するように構成されている。また、クランク軸26の矢印X2方向側には、発電機28が設けられている。また、クランク軸26の矢印X1方向側には、上流側一次減速ギア29がクランク軸26と共に回転するように取り付けられている。
また、上流側一次減速ギア29には、クラッチ機構部30の下流側一次減速ギア31が噛合されている。なお、クラッチ機構部30は、本考案の「クラッチ」の一例である。この下流側一次減速ギア31には、図3および図4に示すように、ハウジングクラッチ32がリベット止めされており、ハウジングクラッチ32は、下流側一次減速ギア31と共に回転するように構成されている。また、ハウジングクラッチ32には、複数のフリクションプレート33がハウジングクラッチ32と共に回転するように配置されている。また、複数のフリクションプレート33の間には、それぞれ、複数のクラッチプレート34が配置されている。これら複数のクラッチプレート34は、ハウジングクラッチ32の内部に配置されているボスクラッチ35と共に回転するようにハウジングクラッチ32に配置されている。また、ハウジングクラッチ32の車幅方向の外側(矢印X1方向側)には、プレッシャープレート36が配置されている。このプレッシャープレート36は、複数のフリクションプレート33および複数のクラッチプレート34を車幅方向の中心方向(矢印X2方向側)に押圧するために設けられている。つまり、プレッシャープレート36は、交互に配置されている複数のフリクションプレート33および複数のクラッチプレート34同士を押し付けることにより、複数のフリクションプレート33および複数のクラッチプレート34の間に摩擦力を発生させる機能を有する。
また、ボスクラッチ35には、車幅方向の外側(矢印X1方向側)に突出する突起部35aが組み付けられている。この突起部35aには、ワッシャ37およびボルト38が螺合されており、ワッシャ37の外周部分の径は、突起部35aのワッシャ37が取り付けられている部分の外周部分の径よりも大きくなるように構成されている。そして、ワッシャ37の車幅方向の中心側(矢印X2方向側)の面と、プレッシャープレート36の車幅方向の外側(矢印X1方向側)の面との間には、板バネ39が配置されている。この板バネ39は、ワッシャ37に支持されることにより、プレッシャープレート36を車幅方向の中心側(矢印X2方向側)に付勢するように構成されている。なお、下流側一次減速ギア31、ハウジングクラッチ32、フリクションプレート33、クラッチプレート34、ボスクラッチ35、プレッシャープレート36などにより、クラッチ機構部30が主に構成されている。すなわち、本実施形態によるクラッチ機構部30は、湿式多板クラッチである。
また、ボスクラッチ35には、車幅方向(矢印X方向)に延びるように設けられたメイン軸40の一方側が取り付けられている。また、メイン軸40は、クランクケース部16に取り付けられた軸受41と軸受42とにより回転可能に支持されている。そして、メイン軸40とボスクラッチ35とは、一体的に回転するように構成されている。これにより、プレッシャープレート36が複数のフリクションプレート33および複数のクラッチプレート34を車幅方向の中心方向(矢印X2方向側)に押圧している場合には、上流側一次減速ギア29の駆動力は、下流側一次減速ギア31、ハウジングクラッチ32、フリクションプレート33、クラッチプレート34およびボスクラッチ35を介してメイン軸40に伝達される。一方、プレッシャープレート36が複数のフリクションプレート33および複数のクラッチプレート34を車幅方向の中心方向(矢印X2方向側)に押圧していない場合には、フリクションプレート33とクラッチプレート34との摩擦力が低下するので、上流側一次減速ギア29の駆動力は、メイン軸40に伝達され難い。
また、メイン軸40には、図4に示すように、軸中心の軸方向に沿うように貫通穴40aが形成されている。また、メイン軸40には、貫通穴40aからメイン軸40の外周面に貫通するように複数のオイル穴40bが形成されている。これにより、メイン軸40の矢印X2方向側から貫通穴40aに流入するオイルを、複数のオイル穴40bを介して後述するトランスミッション67(図3参照)などに供給することが可能となる。また、このオイルは、後述するプッシュロッド47付近にも供給される。また、メイン軸40の貫通穴40aには、アルミニウム製のロッド部材43が貫通穴40aの内周面と所定の間隔を隔てた状態で挿入されている。また、ロッド部材43のプレッシャープレート36側(矢印X1方向側)には、複数の中間部材44と、押圧部材45とが配置されている。この押圧部材45は、車幅方向の外側(矢印X1方向側)に移動可能に構成されている。これにより、押圧部材45は、押圧部材45が車幅方向の外側(矢印X1方向側)に移動された際には、板バネ39の付勢力に抗してプレッシャープレート36を車幅方向の外側(矢印X1方向側)に移動させるように構成されている。また、押圧部材45は、プレッシャープレート36に挿入された軸受46により回転可能に支持されている。そして、プレッシャープレート36は、押圧部材45が中間部材44を介してロッド部材43に車幅方向の外側(矢印X1方向側)に押圧されることにより、車幅方向の外側(矢印X1方向側)に移動されるように構成されている。
また、ロッド部材43のプレッシャープレート36側の反対側(矢印X2方向側)には、プッシュロッド47が取り付けられている。なお、プッシュロッド47は、本考案の「レバー部材」の一例である。プッシュロッド47は、後述するピストン51に挿入されるピストン挿入部47aと、車幅方向(矢印X方向)に延びる本体部47bと、ロッド部材43のプッシュロッド挿入穴43aに嵌合される嵌合凸部47cとを含んでいる。また、プッシュロッド47は、後述するピストン51によりプレッシャープレート36側(矢印X1方向側)に押圧されるように構成されている。つまり、プッシュロッド47は、ロッド部材43をプレッシャープレート36側(矢印X1方向側)に移動させるとともに、中間部材44および押圧部材45を介してプレッシャープレート36を車幅方向の外側(矢印X1方向側)に移動させる機能を有する。
また、図3に示すように、プッシュロッド47のロッド部材43側とは反対方向側(矢印X2方向側)には、プッシュロッド47のピストン挿入部47a側が配置されたシリンダ部材48が、クランクケース部16の収納部16a内に収納されている。なお、シリンダ部材48は、本考案の「シリンダ部」の一例である。ここで、クランクケース部16の収納部16aは、後述するベベルギア68やジョイント軸69などを収納する部分の近傍に設けられている。
また、シリンダ部材48には、図4に示すように、シリンダ部材48と後述するピストン51とに挟まれた油圧印加部48aが形成されている。また、オイルホース6の他方側6aは、ボルト49を介してシリンダ部材48の矢印X2方向側に接続されている。これにより、オイルホース6と油圧印加部48aとを接続することが可能になる。また、油圧印加部48aは、空気抜きのための弁50と接続されている。
ここで、本実施形態では、シリンダ部材48には、ピストン51がシリンダ部材48の内周面に対して矢印X方向に摺動可能に配置されている。このピストン51の矢印X1方向側には、プッシュロッド47のピストン挿入部47aが当接している。また、ピストン51には、ピストン51とシリンダ部材48とを固定する伸縮可能な固定部材51aと、油圧印加部48aからシリンダ部材48の外部にオイルが漏れるのを抑制するためのオイルシール51bとが設けられている。
また、本実施形態では、シリンダ部48の油圧印加部48aには、リターンスプリング52が配置されているとともに、リターンスプリング52は、ピストン51を常時プッシュロッド47側(矢印X1方向側)に付勢するように配置されている。また、リターンスプリング52の付勢力は、プッシュロッド47に伝わる板バネ39の付勢力よりも小さくなるように構成されている。なお、リターンスプリング52は、本考案の「付勢部材」の一例である。
また、本実施形態では、シリンダ部材48が取り付けられている部分と、クランクケース部16のメイン軸40が配置されている部分との間には、シリンダ部材48とクランクケース部16の矢印X2方向側とを隔てるように、オイルシール53と、鉄製の押圧プレート54とが設けられている。また、オイルシール53および押圧プレート54の穴部54aには、プッシュロッド47の本体部47bが挿入されている。なお、オイルシール53は、本考案の「シール部材」の一例である。また、シリンダ部材48には、一対のネジ挿入穴48bが、X方向に延びるように2つ設けられている。また、シリンダ部材48は、図9に示すように、押圧プレート54の後述する爪部54dと係合する部分において、厚みtを有する。
また、オイルシール53は、ゴムからなるリング状の部材であり、図4に示すように、クランクケース部16に設けられた凹状の挿入部16bに圧入されている。これにより、クランクケース部16内からプッシュロッド47を介してシリンダ部材48側(矢印X2方向側)にオイルが漏れるのを抑制することが可能である。また、押圧プレート54は、シリンダ部材48と共に一対のネジ55によってクランクケース部16に共締めされている。この際、この押圧プレート54は、オイルシール53をクランクケース部16側(矢印X1方向側)に押圧することが可能であるように構成されている。
ここで、本実施形態では、押圧プレート54には、図5〜図7に示すように、上記した穴部54aが設けられているとともに、一対のネジ挿入穴54bが、穴部54aの中心から等間隔に隔てた端部54c上にそれぞれ設けられている。この一対のネジ挿入穴54bは、シリンダ部材48と押圧プレート54とが係合した状態においては、図8に示すように、シリンダ部材48の一対のネジ挿入穴48bと貫通するように構成されている。
また、本実施形態では、図5〜図7に示すように、押圧プレート54には、シリンダ部材48と係合するための一対の爪部54dが、穴部54aの中心を対称点として、それぞれ両端部54cと一体的に形成されている。なお、爪部54dは、本考案の「係合部」の一例である。爪部54dは、図5および図7に示すように、端部54cから垂直に延びるように形成されているとともに、高さH1を有する。また、爪部54dの頭部は、それぞれ押圧プレート54の内側方向に、かつ、端部54cに平行に折れ曲がるように形成されている。また、図9に示すように、シリンダ部材48の押圧プレート54の爪部54dが係合する部分の厚みtは、爪部54dの係合部分の高さH1よりも小さい。
また、本実施形態では、押圧プレート54は、図7に示すように、上記したネジ挿入穴54bおよび爪部54dが設けられている一対の端部54cと、穴部54aの周辺部である中央部54eと、中央部54eと両端部54cとに挟まれた中段部54fとを有するように形成されている。ここで、爪部54dから両端部54cまでの高さH1は、爪部54dから中段部54fまでの高さH2よりも小さい。また、爪部54dから中央部54eまでの高さH3は、爪部54dから中段部54fまでの高さH2よりも大きい。また、図4に示すように、押圧プレート54の中央部54eの矢印X3方向側(図7参照)の面は、組み付け時に、オイルシール53と接するように形成されている。また、押圧プレート54は、図9に示すように、シリンダ部材48と押圧プレート54とが係合された状態では、リターンスプリング52により矢印X1方向に付勢されているピストン51によって、押圧プレート54の中段部54fが押圧されるように構成されている。
また、マスタシリンダ5cのオイルは、図3に示すように、運転者によってクラッチレバー5bが握られた際には、マスタシリンダ5cからオイルホース6を介してシリンダ部材48の油圧印加部48aに流入されるとともに、ピストン51は、プッシュロッド47側(矢印X1方向側)に移動されるように構成されている。その結果、プッシュロッド47は、プレッシャープレート36側(矢印X1方向側)に移動されるので、プレッシャープレート36は、ロッド部材43、中間部材44および押圧部材45を介して車幅方向の外側(矢印X1方向側)に移動される。なお、クラッチ機構部30、板バネ39、メイン軸40、ロッド部材43、プッシュロッド47、シリンダ部材48、オイルホース6、マスタシリンダ5cおよびクラッチレバー5bなどにより、油圧クラッチ100が主に構成されている。
また、メイン軸40には、上流側1速ギア56、上流側2速ギア57、上流側3速ギア58、上流側4速ギア59および上流側5速ギア60が設けられている。具体的には、上流側1速ギア56は、メイン軸40のクラッチ機構部30側(矢印X1方向側)に一体的に形成されており、メイン軸40と共に回転可能に形成されている。また、上流側1速ギア56のクラッチ機構部30側とは反対方向側(矢印X2方向側)の隣には、上流側4速ギア59がメイン軸40に対して空転可能に配置されている。ここで、上流側3速ギア58がクラッチ機構部30側(矢印X1方向側)にスライド移動した際に、上流側3速ギア58と上流側4速ギア59とは、互いに係合されるように配置されている。この場合、上流側4速ギア59は、上流側3速ギア58により空転するのが抑制される。
また、上流側3速ギア58のクラッチ機構部30側とは反対方向側(矢印X2方向側)の隣には、上流側5速ギア60がメイン軸40に対して空転可能に配置されている。ここで、上流側3速ギア58がクラッチ機構部30側とは反対方向側(矢印X2方向側)にスライド移動した際に、上流側5速ギア60と上流側3速ギア58とは、互いに係合されるように配置されている。この場合、上流側5速ギア60は、上流側3速ギア58により空転するのが抑制される。
また、上流側2速ギア57は、メイン軸40のクラッチ機構部30側とは反対方向側(矢印X2方向側)に設けられている。
また、上流側1速ギア56、上流側2速ギア57、上流側3速ギア58、上流側4速ギア59および上流側5速ギア60には、それぞれ、下流側1速ギア61、下流側2速ギア62、下流側3速ギア63、下流側4速ギア64および下流側5速ギア65が噛合されている。これら下流側1速ギア61、下流側2速ギア62、下流側3速ギア63、下流側4速ギア64および下流側5速ギア65は、それぞれ、ドライブ軸66に設けられている。
下流側1速ギア61は、ドライブ軸66のクラッチ機構部30側(矢印X1方向側)に設けられている。この下流側1速ギア61は、ドライブ軸66に対して空転可能に配置されている。また、下流側1速ギア61のクラッチ機構部30側とは反対方向側(矢印X2方向側)の隣には、下流側4速ギア64がドライブ軸66の軸方向(矢印X方向)に移動可能に配置されている。ここで、下流側4速ギア64がクラッチ機構部30側(矢印X1方向側)にスライド移動した際に、下流側4速ギア64と下流側1速ギア61とは、互いに係合されるように配置されている。この場合、下流側1速ギア61は、下流側4速ギア64により空転するのが抑制される。
また、下流側4速ギア64のクラッチ機構部30側とは反対方向側(矢印X2方向側)の隣には、下流側3速ギア63がドライブ軸66に対して空転可能に配置されている。また、下流側3速ギア63のクラッチ機構部30側とは反対方向側(矢印X2方向側)の隣には、下流側5速ギア65がドライブ軸66の軸方向(矢印X方向)に移動可能に配置されている。ここで、下流側4速ギア64がクラッチ機構部30側とは反対方向側(矢印X2方向側)にスライド移動した際に、下流側4速ギア64と下流側3速ギア63とは、互いに係合されるように配置されている。この場合、下流側3速ギア63は、下流側4速ギア64により空転するのが抑制される。
また、下流側5速ギア65のクラッチ機構部30側とは反対方向側(矢印X2方向側)の隣には、下流側2速ギア62がドライブ軸66に対して空転可能に配置されている。ここで、下流側5速ギア65がクラッチ機構部30側とは反対方向側(矢印X2方向側)にスライド移動した際に、下流側2速ギア62と下流側5速ギア65とは、互いに係合されるように配置されている。この場合、下流側2速ギア62は、下流側5速ギア65により空転するのが抑制される。なお、クラッチ機構部30、メイン軸40、上流側1速ギア56、下流側1速ギア61、およびドライブ軸66などによって、トランスミッション67が構成されている。
また、ドライブ軸66は、クラッチ機構部30側(矢印X1方向側)を軸受66aによって、中央部近傍を軸受66bによって、さらにクラッチ機構部30側とは反対方向側(矢印X2方向側)を軸受66cによって、それぞれ、回転可能に支持されている。
また、ドライブ軸66のクラッチ機構部30側とは反対方向側(矢印X2方向側)には、ドライブ軸66の回転に伴って回転するベベルギア68が取り付けられている。また、ベベルギア68には、ジョイント軸69を回転させるためのベベルギア70が噛合されている。これらベベルギア68およびベベルギア70によって、ジョイント軸69を、ドライブ軸66の回転方向と直交する方向に回転させることが可能となる。そして、ジョイント軸69に配置される接続部材71が回転され、図示しないユニバーサル軸とプロペラ軸とを介してドライブ軸66の駆動力を後輪12に伝達することが可能となる。また、ジョイント軸69は、クランクケース部16に設けられた軸受72によって回転可能に支持されている。
図10は、本実施形態によるシリンダ部材と押圧プレートとの係合動作を説明するための平面図である。次に、図8〜図10を参照して、本実施形態によるシリンダ部材48と押圧プレート54との係合動作について説明する。
まず、押圧プレート54の中段部54fをピストン51の矢印X1方向側(図9参照)の面に当接させる。その後、ピストン51を矢印X2方向(図9参照)に押圧しながら、押圧プレート54をシリンダ部材48側(矢印X2方向側)に移動させる。さらに、図10に示すように、押圧プレート54を、押圧プレート54の穴部54aの中心を回動中心としてR方向に回動させる。すると、シリンダ部材48における押圧プレート54の爪部54dが係合する部分の厚みt(図9参照)は、爪部54dの係合部分の高さH1よりも小さいので、図8および図9に示すように、押圧プレート54の爪部54dとシリンダ部材48とが係合する。この際、押圧プレート54は、ピストン51によって押圧プレート54の中段部54fが押圧されるので、矢印X1方向側に付勢される。しかし、押圧プレート54の爪部54dがシリンダ部材48に引っかかるように係合することによって、爪部54dは、リターンスプリング52の付勢力に抗することが可能になる。これにより、押圧プレート54が矢印X1方向側に移動することによって、シリンダ部材48から脱落することはない。さらに、押圧プレート54は、矢印X1方向側に付勢されているので、押圧プレート54が付勢方向と逆の方向である矢印X2方向側(図9参照)に移動することによって、シリンダ部材48から脱落することはない。
図11は、本実施形態による係合しているシリンダ部材と押圧プレートとをクランクケース部へ組み付ける動作を説明するための断面図である。次に、図9および図11を参照して、本実施形態による係合しているシリンダ部材48と押圧プレート54とをクランクケース部16へ組み付ける動作について説明する。
図9に示すように、シリンダ部材48と押圧プレート54とを前もって係合させた状態で、押圧プレート54の中央部54eの矢印X3方向側の面(図7参照)を、クランクケース部16の収納部16a(図3参照)に圧入されているオイルシール53に接触させる。この際、プッシュロッド47をオイルシール53と押圧プレート54の穴部54aとに挿入するように組み付ける。この状態で、図11に示すように、シリンダ部材48と押圧プレート54とを一対のネジ55によってクランクケース部16に固定する。すると、オイルシール53は、押圧プレート54の中央部54eによってクランクケース部16側(矢印X1方向側)に押圧される。この際、リターンスプリング52の付勢力は、プッシュロッド47に伝わる板バネ39からの付勢力よりも小さいので、ピストン51と押圧プレート54の中段部54fとは離間され、ピストン51はクランクケース部16の反対側(矢印X2方向側)に移動させられる。
本実施形態では、上記のように、クラッチ機構部30の接続状態および切断状態を切り替えるプッシュロッド47と、プッシュロッド47を駆動するピストン51と、ピストン51が収納されるシリンダ部材48と、プッシュロッド47を介してシリンダ部材48側にオイルが漏れるのを抑制するためのオイルシール53と、オイルシール53とシリンダ部材48との間に配置される押圧プレート54とを備え、シリンダ部材48と押圧プレート54との少なくとも一方に、シリンダ部材48と押圧プレート54とを係合させるための係合部を設けることによって、シリンダ部材48と押圧プレート54とを係合させることができるので、シリンダ部材48と押圧プレート54とを容易に、かつ、適切な位置で接触させることができる。これにより、組立作業が困難になるのを抑制することができる。
また、本実施形態では、上記のように、係合部は、押圧プレート54に設けられ、シリンダ部材48と係合するための爪部54dであることによって、シリンダ部材48内でピストン51は揺動可能であるように配置されることにより、シリンダ部材48は押圧プレート54よりも堅固に構成する必要がある。これにより、シリンダ部材48に爪部を設ける場合と比べて、堅固に構成する必要がない押圧プレート54には、容易に、係合のための爪部54dを設けることができる。
また、本実施形態では、上記のように、シリンダ部材48と押圧プレート54とを、組み付け時に、爪部54dがシリンダ部材48に係合した状態で組み付けるとともに、組み付け後は、ピストン51と押圧プレート54とが離間するように構成することによって、組み付け時に、シリンダ部材48と押圧プレート54とを前もって組み付けておくことができるので、油圧クラッチ100を組み付ける際に、シリンダ部材48と押圧プレート54とを油圧クラッチ100の一部として組み付ける作業が困難になるのを抑制することができる。また、組み付け後は、ピストン51と押圧プレート54とが離間することによって、押圧プレート54はピストン51の移動を阻害しない。これにより、押圧プレート54が、ピストン51に当接するように配置されているプッシュロッド47の動きを阻害しないので、押圧プレート54がクラッチ機構部30の動作を阻害するのを抑制することができる。
また、本実施形態では、上記のように、シリンダ部材48は、ピストン51を付勢するためのリターンスプリング52を含み、シリンダ部材48を、組み付け時に、押圧プレート54に対して係合した状態で、押圧プレート54をリターンスプリング52の付勢力により押圧するように構成することによって、押圧プレート54は矢印X方向(図9参照)に移動することによりシリンダ部材48から脱落することはないので、組み付け時に、シリンダ部材48と押圧プレート54との係合が解除されるのを抑制することができる。
また、本実施形態では、上記のように、組み付け後は、プッシュロッド47から伝えられる押圧力によって、リターンスプリング52の付勢力に抗して、ピストン51と押圧プレート54とが離間するように構成することによって、押圧プレート54をピストン51から離間させるための付勢部材などを別途必要としないので、部品点数の増加を抑制することができる。
また、本実施形態では、上記のように、爪部54dを、複数設けることによって、爪部54dを1つのみ設ける場合と比べて、より確実に、シリンダ部材48と押圧プレート54とを係合させることができる。
また、本実施形態では、上記のように、爪部54dを押圧プレート54の穴部54aの中心を対称点にして一対設けることによって、爪部54dが穴部54aの中心を対称点に設けられていない場合と比べて、シリンダ部材48と押圧プレート54との係合箇所がシリンダ部材48と押圧プレート54とに均等に設けられているので、ある任意の方向において係合が解除されやすいということがない。この結果、押圧プレート54とシリンダ部材48との係合が解除されるのをより抑制することができる。
また、本実施形態では、上記のように、押圧プレート54とシリンダ部材48とを、押圧プレート54の穴部54aの中心を回動中心として押圧プレート54を回動させることによって爪部54dを係合させるように構成することによって、押圧プレート54を回動させるだけにより押圧プレート54とシリンダ部材48とを係合させることができるので、複雑な係合作業を必要としない。この結果、組立作業が困難になるのを抑制することができる。
また、本実施形態では、上記のように、押圧プレート54とシリンダ部材48とは、それぞれネジ挿入穴54bおよびネジ挿入穴48bを有し、押圧プレート54のネジ挿入穴54bとシリンダ部材48のネジ挿入穴48bとを、押圧プレート54とシリンダ部材48とが係合した状態で貫通するように構成することによって、シリンダ部材48と押圧プレート54とが係合した状態で、それらを一対のネジ55によりクランクケース部16に固定することができるので、より正確に組み付けができるとともに、押圧プレート54をオイルシール53により強く押圧することができる。この結果、クランクケース部16からプッシュロッド47を介してシリンダ部材48が配置されている側(図11の矢印X2方向側)にオイルが漏れるのをより抑制することができる。
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本考案の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく実用新案登録請求の範囲によって示され、さらに実用新案登録請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
たとえば、上記実施形態では、油圧クラッチ100を自動二輪車1に適用した例を示したが、本考案はこれに限らず、自動車、三輪車、ATV(All Terrain Vehicle;不整地走行車両)などの自動二輪車以外の他の車両にも適用可能である。
また、上記実施形態では、係合部が押圧プレート54の爪部54dからなる例を示したが、本考案はこれに限らず、たとえば、ボスとボス穴により構成された係合部であってもよい。
また、上記実施形態では、押圧プレート54の爪部54dを押圧プレート54と一体的に形成した例を示したが、本考案はこれに限らず、押圧プレートの爪部を押圧プレートと一体的に設けなくてもよい。
また、上記実施形態では、押圧プレート54の爪部54dを2つ設けた例を示したが、本考案はこれに限らず、押圧プレート54の爪部54dを1つまたは3つ以上設けてもよい。
また、上記実施形態では、押圧プレート54を端部54c、中央部54eおよび中段部54fの3つの段差を有するように形成した例を示したが、本考案はこれに限らず、押圧プレートがオイルシールを押圧するとともに、組み付け時にピストンに付勢されるように構成されていれば、段差を有しないように構成してもよい。