JP3109362B2 - 無段変速機の制御装置 - Google Patents

無段変速機の制御装置

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JP3109362B2
JP3109362B2 JP33145293A JP33145293A JP3109362B2 JP 3109362 B2 JP3109362 B2 JP 3109362B2 JP 33145293 A JP33145293 A JP 33145293A JP 33145293 A JP33145293 A JP 33145293A JP 3109362 B2 JP3109362 B2 JP 3109362B2
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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は無段変速機の制御装置に
関するものであり、特に氷雪路面や濡れたタイル路面等
のような低摩擦係数状態(この摩擦係数状態を単にμと
も記す)路面での急制動時又はその後にも舵取り効果や
制動距離を確保可能とするのに好適なものである。
【0002】
【従来の技術】このような低μ路面ではタイヤと路面と
の間の摩擦係数状態も小さいから、当該低μ路面で急制
動を行うと車輪はロックし易く、自動車工学に言うスリ
ップ率が大きくなる。現今のタイヤ特性ではスリップ率
が10〜30%程度の範囲内で操舵や駆動・制動に関与
するタイヤのグリップ力(摩擦力と等価である)は確保
されるから、これよりもスリップ率が大きくなることは
舵取り効果や制動距離の確保が困難になることになる。
【0003】このような問題,即ち車輪のロックを防止
しながら舵取り効果や制動距離を確保可能とするため
に,所謂車両のアンチスキッド制御装置では、アンチス
キッド制御の対象となる車輪の回転速度,つまり車輪速
を検出し、この車輪速と車体速(所謂車速と等価であ
る)との偏差から得られる実際のスリップ率(以下,実
スリップ率とも記す)が予め設定された目標スリップ率
の範囲,つまり前述の10〜30%の範囲内になるよう
な目標車輪速を算出し、この目標車輪速を達成するため
に,例えば流体圧ホイルシリンダを用いた制動装置にあ
っては,当該流体圧ホイルシリンダへの作動流体圧を増
減圧する。具体的に例えば、車輪速と車速との偏差から
得られた実スリップ率が前記目標スリップ率の範囲の上
限を上回って逸脱する或いは逸脱しそうな状況では,前
記流体圧ホイルシリンダへの作動流体圧を増圧して制動
力を増加し、実スリップ率が前記目標スリップ率の範囲
の下限を下回って逸脱する或いは逸脱しそうな状況で
は,前記流体圧ホイルシリンダへの作動流体圧を減圧し
て制動力を減少するようにしている。なお、前記したア
ンチスキッド制御装置でスリップ率を算出するために用
いられる車速とは,各輪の車輪速の最大値,つまりセレ
クトハイ車輪速であり、一般に疑似車速,或いは推定車
速と称される。そして、前述の範囲の目標スリップ率が
達成されている限り,車輪速と実際の車速とはほぼ等価
であると考えられるから、前記制動力の増減に伴って車
輪速が増減すれば車速も増減すると考えてよい。また、
特に制動力を減少するアンチスキッド制御で車輪速が増
速するのは,具体的な増速入力があるわけではなく、あ
くまでも路面にグリップしているタイヤが走行慣性によ
る車体速に追従するように車輪を回転させるためであ
る。
【0004】また、運転に熟練した運転者では,前述の
ようなアンチスキッド制御装置を搭載しない通常の車両
にあっても、車輪がロックする或いはロックする傾向、
つまり車輪のスリップ率が大きくなると、必然的に所謂
ポンピングブレーキ操作によって,前記アンチスキッド
制御装置と同様の制動力の増減操作を行って、前述の舵
取り効果や制動距離を確保しようとする。
【0005】一方、ベルトとプーリとの接触点半径を変
化させる,所謂プーリ比を変化させることで入出力の変
速比を変更するベルト式無段変速機にあっては、その性
能上,昨今のトルクコンバータ及び歯車伝達機構を用い
た自動変速機とその出力側との間に介装されているワン
ウエイクラッチのような動力伝達方向規制手段を介装し
ないのが好ましいとされている。ここでは、ベルト式無
段変速機より上流側,つまり機関(エンジン)側を入力
側、下流側,即ちプロペラシャフトやディファレンシャ
ル装置等の動力伝達系及び車輪側を出力側と定義する。
一般に、この種の無段変速機では、その変速比を制御す
るための変速パターンは,車速と機関回転数又は機関回
転速度(以下,これらを総称して機関回転状態とも記
す)とに依存しており、具体的には例えば車速とスロッ
トルバルブの開度(以下,単にスロットル開度とも記
す)等とを変数として変速パターンを制御している。従
って、制動中はスロットル開度が低減しているから実際
の機関回転状態に関わらず,無段変速機の変速パターン
は或る一定の変速比に設定され続けることも考えられ
る。なお、このようにスロットル開度が低減し且つ車速
が或る程度大きい場合を、通常の変速パターンにおいて
コースト状態,つまり惰性走行状態に等しいと考えれ
ば、前記制動中の変速パターンで設定され続けると考え
られる或る一定の変速比とは、実際の車両の変速比にお
いて減速比が最も小さい状態になる。
【0006】ここで、通常の乾燥したアスファルト路面
やコンクリート路面のような高μ路面において、車輪が
ロックする程度の急制動,所謂急ブレーキを行った場合
を想定する。このような高μ路面における急ブレーキで
は,通常の回転状態から車輪がロックするまでの当該車
輪の減速度は非常に大きく、タイヤと路面とのグリップ
力が大きいために,車体の減速度も非常に大きく、前記
検出される車速は急激に減少する。従って、前記無段変
速機の変速比制御では,その変速比は急激に大きくなる
と考えられる。ところが、このように急ブレーキの作動
中は無段変速機の変速比が急激に大きくなり、然る後,
アクセルペダルの踏込みを行うと、駆動輪に急激な駆動
力が負荷されるために車両の走行安定性が損なわれる虞
れがある。
【0007】このような問題を解決するために本出願人
は、先に特開平4−254054号公報に記載される無
段変速機の制御装置を提案した。この無段変速機の制御
装置によれば、前述のような急ブレーキ操作が行われる
と、無段変速機の変速比は,その直前の変速比,つまり
比較的小さな変速比に固定され、然る後,急ブレーキ操
作が解除されて駆動輪の回転が開始されるとこの変速比
の固定を解除する。従って、急ブレーキ操作によっても
駆動輪が回転している限り,変速比は小さな変速比に固
定されるから、この急ブレーキ操作の直後にアクセルペ
ダルの踏込みを行って駆動輪に駆動力が付与されても,
少なくともその瞬間に走行安定性が損なわれる虞れがな
い。また、急ブレーキ操作によって車両が停止した後
に,アクセルペダルの踏込みを行って車両を発進させる
と、駆動輪の回転に伴って,前記変速比固定制御が解除
されるから、無段変速機は当該発進直後の車速,つまり
小さな車速に応じた大きな変速比に変速制御され、十分
な回転駆動力を駆動輪に伝達してスムーズな発進を可能
とする。なお、前記変速比固定制御の解除は,単に駆動
輪の回転速度とか回転数といった駆動輪回転状態のみに
応じて実行されると考えてよく、具体的にこの駆動輪回
転状態値が“0”から正方向に増加した瞬間にこの変速
比固定制御が解除される。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】それでは、前記特開平
4−254054号公報に記載される無段変速機の制御
装置による変速比制御を,前記氷雪路面や濡れたタイル
路面等の低μ路面で子細に考察してみる。ここでは、前
記アンチスキッド制御装置を搭載しない車両を想定す
る。こうした低μ路面ではタイヤと路面との摩擦係数状
態が小さいために,急ブレーキ等の急制動では車輪の実
スリップ率は容易に前記目標スリップ率,つまり10〜
30%のスリップ率の範囲を越えて、ロックする或いは
ロックする傾向になる。このとき、実スリップ率が前記
目標スリップ率の範囲を越えて大きいということは、前
述のようにタイヤのグリップ力そのものが低下している
と考えてもよいことになる。
【0009】そして、実際に車輪がロックする或いはロ
ックする寸前まで減速してしまっても、前記特開平4−
254054号公報に記載される無段変速機の制御装置
では当該無段変速機の変速比は,その急制動開始直前の
変速比,つまり小さな変速比に固定され、運転者がブレ
ーキペダルの踏込みを解除して正に車輪が回転し始める
ときに,当該無段変速機の変速比は車体速,即ち車速と
スロットル開度とに応じた大きな変速比に設定変更され
る。
【0010】しかし、このような無段変速機の実際の変
速及び動力伝達系の出力側端である車輪速を,ブレーキ
ペダルの踏込みを解除して路面との摩擦力によって増速
しようとすると、この間,前述のようにスロットル開度
が低減して当該無段変速機の変速パターンが或る一定の
変速比に設定され続けているために、この車輪速変動
(前述より換言すれば車速変動と等価であるとも考えら
れる)が無段変速機の入力側,つまり機関出力軸にまで
回転変動として伝達されてしまう。ここで、出力側に前
記ワンウエイクラッチのような動力伝達方向規制手段を
持たない無段変速機では、出力端部である車輪がロック
して回転しない状況であるのに,機関は回転し続けてい
るという問題も考えられるが、実際には入力側に内装さ
れたクラッチ機構を遮断することで,この回転数差の問
題は回避される。
【0011】それよりも問題になるのは、車輪速が小さ
くなった車輪、極論すればロックして車輪速が零となっ
た車輪が、制動力を解除されて再び回転しようとすると
きである。ここで、前述のように出力側に前記ワンウエ
イクラッチのような動力伝達方向規制手段を持たない無
段変速機では、車輪速を増速させるために必要な車輪か
らの入力伝達系は小さな減速比、即ち車輪は回りにくい
状態であると考えられ、しかもこの車輪からの入力伝達
系は、その末端に当該無段変速機の回転系が持つ慣性重
量を備えていると言える。しかも、車輪への入力はタイ
ヤと路面とのグリップ力に依存していて、前述のような
低μ路面ではこのグリップ力そのものが小さく、更に実
スリップ率は目標スリップ率を越えて更にタイヤのグリ
ップ力が小さくなっている。従って、運転者が車輪速を
復帰しようとして車輪への制動力を減少しても、当該車
輪の車輪速は、十分なグリップ力を得にくく、且つ前記
末端の慣性重量に抗して増速しにくく、前記所望する目
標スリップ率の範囲に当該車輪速を復帰させることが困
難になる虞れがある。
【0012】これと同様の問題は、前記アンチスキッド
制御装置を搭載する車両にあって,当該アンチスキッド
制御装置により実スリップ率が目標スリップ率を上回っ
て増加した或いは増加しそうな車輪に対し、当該車輪へ
の制動力を減少した場合にも発生する可能性がある。本
発明はこれらの諸問題に鑑みて開発されたものであり、
特に低μ路面においても急激に減速した車輪速を,制動
力の減少時又は制動の解除時から速やかに車体速又は前
記目標スリップ率を満足する車輪速まで復帰して、舵取
り効果や制動距離を確保することが可能な無段変速機の
制御装置を提供することを目的とするものである。
【0013】
【課題を解決するための手段】本件発明者は前記諸問題
を解決すべく鋭意検討を重ねた結果,以下の知見を得て
本発明を開発した。即ち、例えば無段変速機の入力側に
設けられたクラッチを車輪の急制動時に遮断すること
は、機関の停止,つまりエンジンストップを回避するた
めには有効である。しかし、機関と車輪との動力伝達系
を完全に遮断してしまったのでは,具体的に前記各車輪
への制動力を減少した際、当該車輪の車輪速を低μ路面
で増速させることは依然としてできない。そこで、機関
と車輪とは動力伝達系によって接続した状態に維持し,
同時に機関,つまりエンジンの回転数や回転速度等の回
転状態を上昇させ、この機関回転状態上昇分を当該車輪
の車輪速を増速させる入力の一部に適用することに着目
した。この際、問題となるのは,実際の機関の回転状態
を上昇する制御量である。つまり、ブレーキペダルの踏
込みを解除してアクセルペダルの踏込みを行えば,機関
の回転状態は上昇するから、前述のような制御を無段変
速機側で行う必要はない。問題なのは、前記アンチスキ
ッド制御装置によって制動力が減少された場合をも含ん
で,アクセルペダルを踏込むことができない状況での機
関回転状態であり、これは即ち機関のアイドル回転状態
と等価である。また、如何なる急制動時にもこのように
アイドル回転状態を上昇することが適切かというと,高
μ路面等ではタイヤが十分なグリップ力を有しているか
ら、このアイドル回転状態上昇分が車両を不必要に加速
する虞れがある。従って、急制動によって車輪が通常の
回転状態から,前記目標スリップ率を越えるような車輪
速まで減速する比率、つまり車輪回転減速度が或る所定
車輪回転減速度値以上となった場合にのみ、前記機関の
アイドル回転状態上昇を実施するものとすればよい。こ
のとき、機関のアイドル回転状態上昇分,つまり目標ア
イドル回転状態上昇量は、車速の大きさや制動力の大き
さや車輪の減速度の大きさに応じたものでなければなる
まい。即ち、大きな車速と同等の速度で回転している車
輪速が,大きな制動力によって大きな減速度で減速して
いる場合には、当該車輪の車輪速は短時間で大きく減少
しているはずであり,前記車速から算出される目標スリ
ップ率の範囲を満足する車輪速との偏差は大きい。従っ
て、この偏差を速やかに是正すべく車輪速を増速するた
めには、車速が大きければ大きいほど,制動力が大きけ
れば大きいほど,更に車輪減速度が大きければ大きいほ
ど、アイドル回転状態上昇量を大きく設定しなければな
らない。
【0014】一方、コースト状態,つまり惰性走行状態
で車速が低減するのを期待し、その結果,前述のように
目標スリップ率を上回る実スリップ率となった車輪速を
復帰するためにブレーキペダルの踏込みもアクセルペダ
ルの踏込みも解除した運転者にとって、前記車輪速が目
標スリップ率の範囲を満足する車輪速まで復帰した後
は,通常のエンジンブレーキによって駆動輪の車輪速が
減少し、これにより可及的速やかに車速が低減すること
が望まれる。従って、前記機関のアイドル回転状態上昇
制御は,この車輪速の復帰に応じて停止される必要があ
る。ここで、この車輪速の復帰に必要な時間は,前記車
速から算出される目標スリップ率の範囲を満足する目標
車輪速と実際の車輪速の偏差に比例しているとすれば、
前述のように実際の車輪速は,車速が大きければ大きい
ほど,制動力が大きければ大きいほど,更に車輪減速度
が大きければ大きいほど短時間で大きく減少しているは
ずであり、前記目標車輪速との偏差も大きい。従って、
この偏差を是正するための所要時間は,これらのパラメ
ータの大きさに応じて設定すればよいことになり、この
所要時間,即ち算出される所定時間後に前記機関のアイ
ドル回転状態上昇制御を停止することで、車両には通常
のエンジンブレーキによる減速度が作用することが期待
される。
【0015】而して本発明のうち請求項1に係る無段変
速機の制御装置は図1の基本構成図に示すように、機関
のアイドル回転状態を制御するアイドル回転状態制御手
段と、出力側プーリと駆動輪との間が直結状態で駆動結
合されたベルト式の無段変速機の変速比車速と機関の
スロットル開度とに基づいて制御する無段変速機制御手
段とを備えた車両の無段変速機の制御装置において、車
輪回転の減速度を検出する車輪減速度検出手段を備え、
前記無段変速機制御手段は、前記車輪減速度検出手段で
検出された車輪回転減速度検出値が所定車輪回転減速度
値以上のときに、機関のアイドル回転状態を所定上昇量
上昇するアイドル回転状態上昇信号を前記アイドル回転
状態制御手段に向けて出力するアイドル回転状態上昇手
段を備えたことを特徴とするものである。
【0016】また、本発明のうち請求項2に係る無段変
速機の制御装置は、前記無段変速機制御手段が、前記車
輪回転減速度検出値が所定車輪回転減速度値以上になっ
たときから所定時間後に,前記アイドル回転状態上昇手
段からのアイドル回転状態上昇信号の出力を停止するア
イドル回転状態上昇停止手段を備えたことを特徴とする
ものである。
【0017】また、本発明のうち請求項3に係る無段変
速機の制御装置は、前記アイドル回転状態上昇手段が、
前記アイドル回転状態の所定上昇量を,前記車輪回転減
速度検出値と所定車輪回転減速度値との偏差に応じて変
更設定することを特徴とするものである。また、本発明
のうち請求項4に係る無段変速機の制御装置は、車両の
前後方向車速を検出する車速検出手段を備え、前記アイ
ドル回転状態上昇手段が、前記アイドル回転状態の所定
上昇量を,前記車輪回転減速度検出値が所定値以上にな
ったときの前記車速検出手段からの車速検出値に応じて
変更設定することを特徴とするものである。
【0018】また、本発明のうち請求項5に係る無段変
速機の制御装置は、制動系の制動力を発生するための流
体圧を検出する制動用流体圧検出手段を備え、前記アイ
ドル回転状態上昇手段が、前記アイドル回転状態の所定
上昇量を,前記車輪回転減速度検出値が所定値以上にな
ったときの前記制動用流体圧検出手段からの流体圧検出
値に応じて変更設定することを特徴とするものである。
【0019】また、本発明のうち請求項6に係る無段変
速機の制御装置は、前記アイドル回転状態上昇停止手段
が、前記アイドル回転状態上昇停止までの所定時間を,
前記車輪回転減速度検出値と所定車輪回転減速度値との
偏差に応じて変更設定することを特徴とするものであ
る。また、本発明のうち請求項7に係る無段変速機の制
御装置は、車両の前後方向車速を検出する車速検出手段
を備え、前記アイドル回転状態上昇停止手段が、前記ア
イドル回転状態上昇停止までの所定時間を,前記車輪回
転減速度検出値が所定値以上になったときの前記車速検
出手段からの車速検出値に応じて変更設定することを特
徴とするものである。
【0020】また、本発明のうち請求項8に係る無段変
速機の制御装置は、制動系の制動力を発生するための流
体圧を検出する制動用流体圧検出手段を備え、前記アイ
ドル回転状態上昇停止手段が、前記アイドル回転状態上
昇停止までの所定時間を,前記車輪回転減速度検出値が
所定値以上になったときの前記制動用流体圧検出手段か
らの流体圧検出値に応じて変更設定することを特徴とす
るものである。
【0021】
【作用】本発明のうち請求項1に係る無段変速機の制御
装置では、図1の基本構成図に示すように、少なくとも
ベルト式の無段変速機の出力側プーリと駆動輪との間が
直結状態で駆動結合された車両にあって、前記車輪減速
度検出手段は、例えば車輪速変化量の微分値から車輪回
転の減速度を検出し、前記無段変速機制御手段に設けら
れたアイドル回転状態上昇手段は、前記車輪減速度検出
手段で検出された車輪回転減速度検出値が所定車輪回転
減速度値以上のときに、例えば当該車輪の車輪速は前記
低μ路面で前記目標スリップ率の範囲を満足する車輪速
を越えて減速し、その結果、当該車輪はロックする或い
はロック傾向にあると判定し、これに基づいて前記機関
のアイドル回転状態制御手段に向けて機関のアイドル回
転状態を所定上昇量上昇するアイドル回転状態上昇信号
を出力する。これにより、増加する機関の回転駆動力
は、無段変速機を含む動力伝達系を介して車輪(具体的
には駆動輪のみ)に伝達され、この回転駆動力によっ
て、急制動が解除された場合や制動力が減少された場合
に、当該車輪の車輪速は車体速若しくは前記目標スリッ
プ率の範囲を満足する目標車輪速まで増速された復帰
し、再び舵取り効果や制動距離を確保することが可能と
なる。一方、前記高μ路面等でタイヤが十分なグリップ
力を有している場合には、急制動を行っても車輪の減速
度は車体の減速度と同程度であり、この車体の減速度
は、前記低μ路面において車輪がロックする或いはロッ
ク傾向である場合の当該車輪の減速度よりも小さいと考
えられるから、前記所定車輪回転減速度値を高μ路面に
おける当該車体の最大限速度よりも大きな値に設定する
ことで、前記アイドル回転状態上昇手段によるアイドル
回転状態上昇信号の出力を回避し、これにより前記機関
のアイドル回転状態上昇に伴う車輪回転駆動力が車両を
不必要に加速する虞れはない。
【0022】また、本発明のうち請求項3に係る無段変
速機の制御装置では、前記アイドル回転状態の所定上昇
量を,前記車輪回転減速度検出値と所定車輪回転減速度
値との偏差に応じて変更設定し、本発明のうち請求項4
に係る無段変速機の制御装置では、前記アイドル回転状
態の所定上昇量を,前記車輪回転減速度検出値が所定値
以上になったときの前記車速検出手段からの車速検出値
に応じて変更設定し、本発明のうち請求項5に係る無段
変速機の制御装置では、前記アイドル回転状態の所定上
昇量を,前記車輪回転減速度検出値が所定値以上になっ
たときの前記制動用流体圧検出手段からの流体圧検出値
に応じて変更設定することとしたために、これらの各パ
ラメータの大きさに応じてアイドル回転状態の所定上昇
量を大きくすれば、例えば大きな車速と同等の速度で回
転している車輪速が,大きな制動力によって大きな減速
度で減速している場合に、短時間で大きく減少している
当該車輪の車輪速と前記車速から算出される目標スリッ
プ率の範囲を満足する目標車輪速との大きな偏差は、前
記大きなアイドル回転状態上昇量による機関からの大き
な回転駆動力によって速やかに是正されることを可能と
する。
【0023】また、本発明のうち請求項2に係る無段変
速機の制御装置では、前記無段変速機制御手段に設けら
れたアイドル回転状態上昇停止手段が、前記車輪回転減
速度検出値が所定車輪回転減速度値以上になったときか
ら所定時間後に,前記アイドル回転状態上昇手段からの
アイドル回転状態上昇信号の出力を停止するため、例え
ばコースト状態,つまり惰性走行状態で,前記機関のア
イドル回転状態上昇制御により前記車輪速が目標スリッ
プ率の範囲を満足する目標車輪速まで復帰した後に、ア
イドル回転状態上昇信号の出力が停止されて通常のエン
ジンブレーキによって駆動輪の車輪速が有効に減少し、
これにより可及的速やかに車速を低減することができ
る。
【0024】また、本発明のうち請求項6に係る無段変
速機の制御装置では、前記アイドル回転状態上昇信号停
止までの所定時間を,前記車輪回転減速度検出値と所定
車輪回転減速度値との偏差に応じて変更設定し、本発明
のうち請求項7に係る無段変速機の制御装置では、前記
アイドル回転状態上昇信号停止までの所定時間を,前記
車輪回転減速度検出値が所定値以上になったときの前記
車速検出手段からの車速検出値に応じて変更設定し、本
発明のうち請求項8に係る無段変速機の制御装置では、
前記アイドル回転状態上昇信号停止までの所定時間を,
前記車輪回転減速度検出値が所定値以上になったときの
前記制動用流体圧検出手段からの流体圧検出値に応じて
変更設定することとしたために、これらの各パラメータ
の大きさに応じてアイドル回転状態上昇信号停止までの
所定時間を大きくすれば、例えば前記大きな車速と同等
の速度で回転している車輪速が,大きな制動力によって
大きな減速度で減速している場合に、短時間で大きく減
少している当該車輪の車輪速が前記車速から算出される
目標スリップ率の範囲を満足する車輪速まで増速して復
帰する時間に応じた所定時間を得ることができ、そのよ
うにすれば当該車輪速復帰時刻以後は通常の機関アイド
ル回転状態によって通常のエンジンブレーキによる車輪
速及び車速の低減が有効に行われる。
【0025】
【実施例】次に本発明の無段変速機の制御装置を実際の
車両に適用した第1実施例を図2〜図8に基づいて説明
する。この第1実施例の基本的な車両構造は,後述する
無段変速油圧制御回路やコントローラであるマイクロコ
ンピュータ等を含めて,本出願人が先に提案した特開昭
61−105353号公報に記載される無段変速機の制
御装置と同等かほぼ同等であり、このうち同等の部分は
夫々各構造の説明部位で同等であることを説明したの
ち,当該公報を参照するものとして詳細な説明を割愛す
ることもある。なお、本実施例では機関(即ちエンジ
ン)の回転駆動力によって回転駆動される駆動輪は前左
右輪である、所謂FF(フロントエンジンフロントドラ
イブ)車両に適用されたものとする。また、各車輪の制
動力は,当該車輪に設けられた流体圧ホイルシリンダに
よって供給されるものとし、各ホイルシリンダへの作動
流体圧は,ブレーキペダルに接続されたマスタシリンダ
内のマスタシリンダ圧が等分されるものとする。また、
基本的には前述のようなアンチスキッド制御装置を搭載
していないものとする。
【0026】図2は無段変速機の動力伝達機構を示すも
のであり、この無段変速機はフルードカップリング1
2,前後進切換機構15,Vベルト式無段変速機構2
9,差動装置56等を有しており、エンジン10の出力
軸10aの回転を所定の変速比及び回転方向で出力軸6
6及び68に伝達することができる。この無段変速機
は、フルードカップリング12(ロックアップ油室12
a,ポンプインペラ12b,タービンライナ12c,ロ
ックアップクラッチ12d等を有している)、回転軸1
3、駆動軸14、前後進切換機構15、駆動プーリ16
(固定円錐部材18,駆動プーリシリンダ室20(室2
0a,室20b),可動円錐部材22,溝22a等から
なる)、遊星歯車機構17(サンギヤ19,ピニオンギ
ヤ21,ピニオンギヤ23,ピニオンキャリア25,イ
ンターナルギヤ27等からなる)、Vベルト24、従動
プーリ26(固定円錐部材30,従動プーリシリンダ室
32,可動円錐部材34等からなる)、従動軸28、前
進用クラッチ40、駆動ギヤ46、アイドラギヤ48、
後進用ブレーキ50、アイドラ軸52、ピニオンギヤ5
4、ファイナルギヤ44、差動装置56(ピニオンギヤ
58,ピニオンギヤ60,サイドギヤ62,サイドギヤ
64等からなる)、出力軸66、出力軸68等から構成
されているが、これらのついての詳細な説明を省略す
る。なお、説明を省略した部分の詳細な構成については
本出願人が先に提案した前記特開昭61−105353
号公報を参照されたい。また、前記従動プーリ26のシ
リンダ室32の受圧面積は前記駆動プーリ16のシリン
ダ室20の各室20a,20bの受圧面積の約1/2程
度に設定してあり、当該従動プーリ26のシリンダ室3
2には後述する油圧制御装置から,共通作動油圧として
のライン圧が供給されており、駆動プーリ16のシリン
ダ室20の各室20a,20bに当該油圧制御装置から
制御された作動油圧が供給されて駆動プーリ16のV字
状プーリ溝の幅を拡狭変更して,Vベルト24と駆動プ
ーリ16との接触位置半径を変更制御すると、このVベ
ルト24に掛かるエンジン10からの回転駆動力に抗し
て当該Vベルト24と従動プーリ26とが滑らないよう
に挟持しながら,且つ駆動プーリ16のV字状プーリ溝
の幅の拡狭変更量に反比例するように当該従動プーリ2
6のV字状溝の幅を拡狭変更して当該従動プーリ26と
Vベルト24との接触位置半径を変更制御し、これによ
り所望する両プーリ16,26間のプーリ比を達成して
これを無段変速機の入出力間の変速比にするように構成
されている。
【0027】図3は本実施例の無段変速機の油圧制御装
置である。この油圧制御装置は、オイルポンプ101、
ライン圧調圧弁102、マニュアル弁104、変速制御
弁106、調整圧切換弁108、ステップモータ11
0、変速操作機構112、スロットル弁114、一定圧
調圧弁116、電磁弁118、カップリング圧調圧弁1
20、ロックアップ制御弁122等を有しており、これ
らは互いに図示のように接続されており、また前進用ク
ラッチ40、後進用ブレーク50、フルードカップリン
グ12、ロックアップ油室12a、駆動プーリシリンダ
室20及び従動プーリシリンダ室32とも図示のように
接続されている。これらの弁等についての詳細な説明は
前記特開昭61−105353号公報に記載されている
ものと同等かほぼ同等であるために,当該公報を参照さ
れるものとしてここでは割愛するが、前記マニュアル弁
104のスプール136の切換え停止位置には,Lレン
ジとDレンジとの間に所謂2レンジを介装して,計6つ
のポジションで当該スプール136が停止するものとし
た。この停止ポジション増加に係る当該油圧制御装置に
おける具体的な作動油圧の変化はなく、後述するマイク
ロコンピュータでの演算処理が若干異なる程度である。
なお、図3中の各参照符号は次の部材を示す。ピニオン
ギヤ110a、リザーバタンク130、ストレーナ13
1、油路132、リリーフ弁133、弁穴134、ポー
ト134a〜134e、スプール136、ランド136
a〜136b、油路138、一方向オリフィス139、
油路140、油路142、一方向オリフィス143、弁
穴146、ポート146a〜146g、スプール14
8、ランド148a〜148e、スリーブ150、スプ
リング152、スプリング154、変速比伝達部材15
8、油路164、油路165、オリフィス166、オリ
フィス170、弁穴172、ポート172a〜172
e、スプール174、ランド174a〜174c、スプ
リング175、油路176、オリフィス177、レバー
178、油路179、ピン181、ロッド182、ラン
ド182a,182b、ラック182c、ピン183、
ピン185、弁穴186、ポート186a〜186d、
油路188、油路189、油路190、弁穴192、ポ
ート192a〜192g、スプール194、ランド19
4a「194e、負圧ダイヤフラム198、オリフィス
199、オリフィス202、オリフィス203、弁穴2
04、ポート204a〜204e、スプール206、ラ
ンド206a,206b、スプリング208、油路20
9、フィルタ211、オリフィス216、ポート22
2、ソレノイド224、プランジャ224a、スプリン
グ225、弁穴230、ポート230a〜230e、ス
プール232、ランド232a,232b、スプリング
234、油路235、オリフィス236、弁穴240、
ポート240a〜240h、スプール242、ランド2
42a〜242e、油路243、油路245、オリフィ
ス246、オリフィス247、オリフィス248、オリ
フィス279、チョーク型絞り弁250、リリーフバル
ブ251、保圧弁252、チョーク型絞り弁253、油
路254、クーラ256、クーラ保圧弁258、オリフ
ィス259、切換検出スイッチ278である。
【0028】図4は前記ステップモータ110及びソレ
ノイド224の作動を制御する電子制御装置(マイクロ
コンピュータ)300を示すものである。このマイクロ
コンピュータ300は、入力インターフェース311、
基準パルス発生器312、中央演算処理装置(CPU)
313、リードオンリメモリ(ROM)314、ランダ
ムアクセスメモリ(RAM)315及び出力インターフ
ェース316を有しており、これらはアドレスバス31
9及びデータバス320によって連結されている。この
マイクロコンピュータには、エンジン回転速度センサ3
01、車速センサ302、スロットル開度センサ30
3、シフトポジションスイッチ304、タービン回転速
度センサ305、エンジン冷却水温センサ306、ブレ
ーキセンサ307、切換検出スイッチ298、左駆動輪
速(即ち前左輪速)センサ402、右駆動輪速(即ち前
右輪速)センサ404及びマスタシリンダ圧センサ40
6からの信号が直接又は波形成形器308,309,3
22,412及び414、及びAD変換器310,41
6を介して入力され、一方、増幅器317及び信号線3
17a〜317dを介してステップモータ110へ信号
が出力され、またソレノイド224及びエンジン回転コ
ントローラ391へも信号が出力されるが、これらの詳
細な説明は前記特開昭61−105353号公報に記載
されるものと同等又はほぼ同等であるので,そちらを参
照されるものとして割愛する。なお、当該公報に記載さ
れていないものとしては、前述のようにシフトポジショ
ンとしてLレンジとDレンジとの間に2レンジが新たに
設けられているため、前記シフトポジションスイッチ3
04からはこの2レンジを加えた計6つのポジション信
号がマイクロコンピュータ300に入力される。また、
また左駆動輪速センサ402及び右駆動輪速センサ40
4からは,夫々当該駆動輪速に応じた正弦波出力信号が
出力され、夫々,波形整形器412,414を介して当
該駆動輪速に応じたパルス信号からなる車輪速検出値V
WL,VWR(これらを統括して各車輪速とも記し,その場
合の符号はVWjとも記す。従って、jはL又はRに相当
する)が入力インターフェース311を介してマイクロ
コンピュータ300内に読込まれる。また、前記マスタ
シリンダ圧センサ406は,制動系のマスタシリンダ圧
の大きさに応じた出力信号を出力するものであり、この
出力信号は前記A/D変換器416を介して,大気圧よ
りも増加したマスタシリンダ圧の増加分に相当するマス
タシリンダ圧検出値(単にマスタシリンダ圧とも記す)
Pとして,入力インターフェース311を介してマイク
ロコンピュータ300内に読込まれる。また、前記エン
ジン回転コントローラ391は,エンジン10の回転数
や回転速度等の回転状態の制御を司るものであり、主と
してアクセルペダルの踏込み量を検出して車速との相関
からエンジンの回転状態を増減制御するためにスロット
ルバルブの開閉制御を行うものであるが、前記マイクロ
コンピュータ300から出力インターフェース316を
介して目標アイドル回転数N* idleが出力されると、当
該目標アイドル回転数N* idleに応じたアイドル回転数
がエンジン10で達成されるように図示されないアイド
ルバルブの開度を変更設定するなどして対応するものと
した。
【0029】なお、前記追記したセンサ406、及びA
/D変換器416は、本実施例で,それらを介した各検
出値を直接的に使用しないので特に構成の必須要件とし
なくともよい。そして、前記マイクロコンピュータ30
0により前記無段変速機の変速比制御は図5のフローチ
ャートに示す基準演算処理に従って実行される。この演
算処理の基本的なロジック体系は前記特開昭61−10
5353号公報に記載されるものとほぼ同等であるが、
前記シフトポジションに2レンジが付加された関係で,
検索される変速パターンとして当該2レンジに相当する
変速パターンが付加される。この変速比制御の基準演算
処理について簡単に説明すれば、図5の演算処理は所定
時間(ΔT)毎のタイマ割込みによって実行され、まず
ステップ502で前記シフトポジションスイッチ304
からのシフトポジションを読込み、次いでステップ50
4でシフトポジションがD,2,L,Rレンジであると
判定された場合にはステップ508に移行し、そうでな
い場合にはステップ506に移行する。前記ステップ5
08では前記スロットル開度センサ303からの信号に
基づいてスロットル開度THを読込み、次いでステップ
510で車速センサ302からの信号に基づいて車速V
を読込み、次いでステップ512でエンジン回転速度セ
ンサ301からの信号に基づいてエンジン回転速度NE
を読込み、次いでステップ514でタービン回転速度セ
ンサ305からの信号に基づいてタービン回転速度Nt
を読込む。次にステップ516に移行して,前記エンジ
ン回転速度NEとタービン回転速度Nt との回転偏差N
D を算出し、次にステップ518で,予め記憶されてい
る制御マップに従ってロックアップ車速VON及びロップ
アップオフ車速VOFF を検索する。
【0030】次にステップ520に移行して、ロップア
ップフラグLUFが設定されている場合にはステップ5
44に移行し、そうでない場合にはステップ522に移
行する。前記ステップ544では、当該車速Vが前記ロ
ックアップオフ車速VOFF よりも小さい場合にステップ
540に移行し、そうでない場合にステップ546に移
行する。一方、前記ステップ522で当該車速Vが前記
ロックアップ車速VONよりも大きいと判定された場合に
はステップ524に移行し、そうでない場合には前記ス
テップ540に移行する。前記ステップ524では、前
記回転偏差NDから第1の目標値Nm1 を減じて回転目
標値偏差eを算出し、次にステップ526で予め記憶さ
れた制御マップから前記回転目標値偏差eに応じた第1
のフィードバックゲインG1 を検索し、次にステップ5
28で前記回転偏差ND が制御系切換閾値N0 よりも小
さい場合にはステップ530に移行し、そうでない場合
にはステップ538に移行する。前記ステップ530で
は、前回デューティ比に微小所定値αを加えて今回デュ
ーティ比を設定し、次にステップ532でこの今回デュ
ーティ比が100%より小さいと判定された場合にはス
テップ602に移行し、そうでない場合にはステップ5
34に移行する。前記ステップ534では、今回ディー
ティ比を100%に修正し、次にステップ536でロッ
プアップフラグLUFを設定して前記ステップ602に
移行する。一方、前記ステップ538では今回デューテ
ィ比を,前記回転目標値偏差e及び第1のフィードバッ
クゲインG1 を変数とする演算式に基づいて算出し、前
記ステップ602に移行する。一方、前記ステップ54
0では今回デューティ比を0%に設定し、次にステップ
542でロックアップフラグLUFを算出し、前記ステ
ップ602に移行する。また、前記ステップ546では
今回デューティ比を100%に設定して、前記ステップ
602に移行する。
【0031】前記ステップ602で、当該車速Vが変速
比制御開始閾値V0 よりも小さいと判定された場合はス
テップ604に移行し、そうでない場合はステップ62
4に移行する。前記ステップ604でスロットル開度T
Hがアイドル判定閾値TH0よりも小さいと判定された
場合はステップ610に移行し、そうでない場合にはス
テップ606に移行する。前記ステップ606では、今
回デューティ比を0%に設定し、次にステップ608で
ステップモータ110への目標パルスPD を最大変速比
パルスP1 に設定してステップ630に移行する。一
方、前記ステップ506では、今回デューティ比を0%
に設定して前記ステップ630に移行する。
【0032】一方、前記ステップ624ではシフトポジ
ションがDレンジである場合にステップ626に移行
し、当該Dレンジに相当する変速パターンから車速V及
びスロットル開度THに応じた変速比を検索して前記ス
テップ630に移行する。シフトポジションがDレンジ
でない場合にはステップ639に移行して、シフトポジ
ションが2レンジである場合にはステップ640に移行
し、当該2レンジに相当する変速パターンから車速V及
びスロットル開度THに相当する変速比を検索して前記
ステップ630に移行する。シフトポジションが2レン
ジでない場合にはステップ642に移行して、シフトポ
ジションがLレンジである場合にはステップ628に移
行し、当該Lレンジに相当する変速パターンから車速V
及びスロットル開度THに相当する変速比を検索して前
記ステップ630に移行する。またシフトポジションが
Lレンジでない場合にはステップ644に移行して、シ
フトポジションRレンジに相当する変速パターンから車
速V及びスロットル開度THに相当する変速比を検索し
て前記ステップ630に移行する。
【0033】一方、前記ステップ610で,前記切換検
出スイッチ298がオン状態である場合にはステップ6
12に移行し、そうでない場合にはステップ620に移
行する。前記ステップ612では前記回転偏差ND から
第2の目標値Nm2 を減じて回転目標値偏差eを算出
し、次にステップ614で予め記憶された制御マップか
ら前記回転目標値偏差eに応じた第2のフィードバック
ゲインG2 を検索し、次にステップ616で今回デュー
ティ比を,前記回転目標値偏差e及び第2のフィードバ
ックゲインG2 を変数とする演算式に基づいて算出し、
次にステップ618でステップモータ110への現在の
パルス数PA を“0”に設定してステップ636に移行
する。一方、前記ステップ630で現在パルス数PA
目標パルス数PD に等しいと判定された場合には前記ス
テップ636に移行する。また、前記ステップ630で
現在パルス数PA が目標パルス数PD より小さいと判定
された場合には、ステップ632に移行してステップモ
ータ駆動信号をアップシフト方向に移動し、次にステッ
プ634で現在パルス数PA に“1”を加えて新たな現
在パルス数PA として更新記憶した後、前記ステップ6
36に移行する。一方、前記ステップ630で現在パル
ス数PA が目標パルス数PD より大きいと判定された場
合には、前記ステップ620に移行してステップモータ
駆動信号をダウンシフト方向に移動し、次にステップ6
22で現在パルス数PA から“1”を減じて新たな現在
パルス数PA として更新記憶した後、前記ステップ63
6に移行する。
【0034】前記ステップ636では、前記ステップモ
ータ駆動信号を出力し、次にステップ638でソレノイ
ド駆動信号を出力してメインプログラムに復帰する。本
実施例では、前記ステップ644のRレンジ相当変速パ
ターン検索を除くステップ626,628,640で検
索される変速パターンは、凡そ図6のような変速パター
ンに従って無段変速機の変速比が設定されると考えてよ
い。即ち、各変速パターンにおける変速比は,車速Vと
スロットル開度THとを変数とする制御マップ上で,そ
れらの変数に従って検索すれば一意に設定される。この
図6を,車速Vを横軸,エンジン回転速度Neを縦軸,
スロットル開度THをパラメータとする変速パターンの
総合制御マップであると仮定すれば、原点を通る傾き一
定の直線は変速比が一定であると考えればよく、例えば
変速パターンの全領域において最も傾きの大きい直線
は,車両全体の減速比が最も大きい,即ち最大変速比C
Hiであり、逆に最も傾きの小さい直線は,車両全体の減
速比が最も小さい,即ちDレンジ最小変速比CDLO であ
り、このDレンジ最小変速比よりも傾きの大きい車両全
体の減速比が2レンジ最小変速比C2LO であると考えて
よい。従って、具体的には前記Lレンジの変速パターン
は車速V及びスロットル開度THに関わらず前記最大変
速比CHiに固定され、前記2レンジの変速パターンは前
記最大変速比CHiと2レンジ最小変速比C2LO との間の
領域で車速V及びスロットル開度THに応じて設定され
る変速比の経時的軌跡からなる制御曲線となり、前記D
レンジの変速パターンは前記最大変速比CHiとDレンジ
最小変速比CDLO との間の領域で車速V及びスロットル
開度THに応じて設定される変速比の経時的軌跡からな
る制御曲線となろう。なお、車速Vが前記変速比制御開
始閾値V0 よりも小さい領域では,各シフトポジション
のレンジに関係なく,変速比(即ち変速パターン)は前
記最大変速比CHiに固定される。つまり、この変速比制
御開始閾値V0 は自動変速機搭載車両で発生するクリー
プ状態の制御上限値であると考えればよい。ここで、最
大変速比CHiにおける変速比制御開始閾値V0 のときの
スロットル開度THを同じく変速比制御開始閾値TH1
と定義し、この変速比制御開始スロットル開度閾値TH
1 において2レンジ最小変速比C2LO となる車速Vを2
レンジ最小変速比車速V21,同じく変速比制御開始スロ
ットル開度閾値TH1においてDレンジ最小変速比C
DLO となる車速VをDレンジ最小変速比車速VD1と定義
し、これらの各レンジ最小変速比車速V21,VD1を単に
レンジ最小変速比車速Vj1とも記すこととする。
【0035】それでは次に、前述のような無段変速機並
びにその変速制御装置を搭載する車両にあって,特に氷
雪路面や濡れたタイル路面等の低μ路面で発生する車輪
速(特に駆動輪速)の問題並びにそれを解決するための
本実施例の基本原理について、簡潔に説明する。こうし
た低μ路面では、タイヤと路面との摩擦係数状態が小さ
いために,急ブレーキ等の急制動では車輪の実スリップ
率は前記舵取り効果や制動距離を確保可能な目標スリッ
プ率,つまり10〜30%のスリップ率の範囲を容易に
越えて、更にタイヤのグリップ力そのものが低下する。
そして、実際に車輪がロックする或いはロックする寸前
まで減速してしまっても、前記特開平4−254054
号公報に記載される無段変速機の制御装置では当該無段
変速機の変速比は,その急制動開始直前の変速比,つま
り大きな変速比に固定され、運転者がブレーキペダルの
踏込みを解除して正に車輪が回転し始めるときに,当該
無段変速機の変速比は小さな変速比に設定変更される。
【0036】しかし、このような無段変速機の実際の変
速及び動力伝達系の出力側端である車輪速への路面から
の入力を考えると、出力側に前記ワンウエイクラッチの
ような動力伝達方向規制手段を持たない無段変速機で
は、出力端部である車輪を回転させようとする入力は当
該無段変速機の入力側にまで伝達される。このとき、前
記無段変速機の制御装置によって,車両として大きな減
速比に変速比制御された無段変速機により車輪は回りに
くい状態であると考えられ、しかもこの車輪からの入力
伝達系は,その末端に当該無段変速機の回転系が持つ慣
性重量を備えている。従って、前記タイヤのグリップ力
低下を合わせて、運転者が車輪速を復帰しようとして車
輪への制動力を減少しても,当該車輪の車輪速は,十分
なグリップ力を得,且つ前記末端の慣性重量に抗して増
速しにくく、前記所望する目標スリップ率の範囲に当該
車輪速を復帰させることが困難になる虞れがある。
【0037】なお、これと同様の問題は,同じく低μ路
面でシフトポジションをダウンシフト方向,つまりDレ
ンジから2レンジやLレンジに移行した場合や、同じく
低μ路面で低いシフトポジション,つまり2レンジやL
レンジで急激にアクセルペダルの踏込みを解除したコー
スト走行状態に移行した場合にも、大きなバックトルク
を発生したエンジンブレーキが駆動輪に対して大きな制
動力を発生するために生じると考えられる。
【0038】そこで、機関と車輪とは動力伝達系によっ
て接続した状態に維持し,同時に機関,つまりエンジン
の回転数や回転速度等の回転状態を上昇させ、この機関
回転状態上昇分を当該車輪の車輪速を増速させる入力の
一部に適用することができる。この際、アクセルペダル
を踏込むことができない状況での機関回転状態を上昇,
つまり増加させることが大切であり、従って,実際には
アイドル回転状態,アイドリング回転数を上昇又は増加
させなければならない。
【0039】また、如何なる急制動時にもこのようにア
イドル回転状態を上昇することが適切かというと,高μ
路面等ではタイヤが十分なグリップ力を有しているか
ら、このアイドル回転状態上昇分が車両を不必要に加速
する,或いは制動距離を確保できなくなる虞れがある。
従って、前記エンジンブレーキの作用による制動時をも
含んで,急制動によって車輪回転減速度が或る所定車輪
回転減速度値以上となった場合にのみ、前記機関のアイ
ドル回転状態上昇を実施するものとすればよい。本実施
例では、前記機関のアイドル回転状態上昇量は、予め設
定されたアイドリング回転数まで上昇するものとした。
【0040】一方、コースト状態,つまり惰性走行状態
で車速が低減するのを期待し、その結果,前述のように
目標スリップ率を上回る実スリップ率となった車輪速を
復帰するためにブレーキペダルの踏込みもアクセルペダ
ルの踏込みも解除した運転者にとって、前記車輪速が目
標スリップ率の範囲を満足する車輪速まで復帰した後
は,通常のエンジンブレーキによって駆動輪の車輪速が
減少し、これにより可及的速やかに車速が低減すること
が望まれる。従って、前記機関のアイドル回転状態上昇
制御は,この車輪速の復帰に応じて停止される必要があ
る。本実施例では、予め設定された所定時間後に前記ア
イドル回転状態上昇制御を強制的に停止するものとする
が、その時点で,前述の車輪減速度が未だ所望状態に復
帰せず、従って未だ目標スリップ率の範囲を満足する車
輪速が得られていないと判断された場合は、再びアイド
ル回転状態上昇制御を行えるようにした。
【0041】以上の発明原理に基づいて,実際の車両で
機関回転数を制御するための演算処理を図7に示す。こ
の演算処理は、前記無段変速機の制御装置であるマイク
ロコンピュータ30で所定時間(ΔT)毎のタイマ割込
みによって実行され、ここで算出設定された目標アイド
ル回転数N* idleは前記エンジン回転コントローラ39
1に向けて出力され、当該エンジン回転コントローラ3
91では,当該目標アイドル回転数N* idleに応じたア
イドル回転数がエンジン10で達成されるように図示さ
れないアイドルバルブの開度を変更設定するなどして対
応する。ここで、演算処理中の制御フラグFは“1”の
セット状態で,前記目標アイドル回転数N* idleからな
るエンジンのアイドル回転数上昇制御信号出力中である
ことを示し、“0”のリセット状態で通常のエンジンア
イドル回転数上昇制御信号が出力されていないことを示
す。そして、エンジン回転コントローラ391では、前
記アイドル回転数上昇制御信号に相当する目標アイドル
回転数N* idleが出力されていないときには、当該エン
ジン回転コントローラ391の記憶装置に記憶された最
新の目標アイドル回転数N* idleに応じたアイドル回転
数が達成されるように前記アイドルバルブの開度制御等
を行うものとする。また、算出される車輪減速度には車
両前方への車輪加速度も包含されるため、ここでは両者
を含めて車輪加減速度αWjを算出するものとし、車両前
方への車輪加速度を正,車両後方への車輪減速度を負で
表す。従って、前記車輪減速度が或る所定値よりも大き
いという表現は,ここでは車輪加減速度αWjが或る所定
値αW0(負の値)よりも小さいと表記される。なお、こ
の所定値αW0は、低μ路面で車輪に大きな制動力が作用
し、その結果,当該車輪速が前記目標スリップ率を満足
する車輪速よりも減少するような場合,つまりロック傾
向を示す場合に、この車輪の減速度,つまり負の車輪加
減速度が下回る程度の値に設定してあり、通常の高μ路
面では,急制動を行っても負の車輪加減速度がこの所定
値を下回ることのない程度の大きさに設定してある。ま
た、図中の制御フラグやタイマのセット・リセットで
は,その都度,RAM315への記憶更新が同時に実行
される。
【0042】この図7の演算処理では、まずステップS
1で前記左駆動輪速センサ402,右駆動輪速センサ4
04から,夫々,各車輪速検出値(単に車輪速とも記
す)V Wjを読込む。次にステップS2に移行して、前記
マイクロコンピュータ300のRAM315に記憶され
ている最新の各車輪速前回値VWj0 を読込む。
【0043】次にステップS3に移行して、前記ステッ
プS1で読込まれた車輪速VWjとステップS2で読込ま
れた車輪速前回値VWj0 とを用いて,下記1式に従って
各車輪加減速度αWjを算出する。 αWj=(VWj0 −VWj)/ΔT ……… (1) 次にステップS4に移行して、各車輪加減速度αWjのう
ち,小さい車輪加減速度αWjをセレクトローにより選択
し、この車輪加減速度αWjを最小車輪加減速度αW とし
て算出設定する。
【0044】次にステップS5に移行して、制御フラグ
Fが“1”のセット状態であるか否かを判定し、制御フ
ラグFが“1”のセット状態である場合にはステップS
8に移行し、そうでない場合にはステップS7に移行す
る。前記ステップS7では、前記ステップS4で算出設
定された最小車輪加減速度αW が,絶対値が大きく且つ
負の値である予め設定された所定値αW0よりも大きいか
否かを判定し、最小車輪加減速度αW が所定値αW0より
も大きい場合にはステップS6に移行し、そうでない場
合にはステップS9に移行する。
【0045】前記ステップS9では制御フラグFを
“1”にセットし、次いでステップS10に移行して、
タイマTを予め設定された所定時間T1 にセットし、次
いでステップ11に移行する。一方、前記ステップS8
では、RAM315に記憶されている最新のタイマTを
読込み、次いでステップS12に移行して、このタイマ
Tからこの演算処理が実行されるサンプリング時間ΔT
を減じた値を新たなタイマTとしてRAM315に更新
記憶し、次いでステップS13に移行して、この新たな
タイマTが零以下であるか否かを判定し、タイマTが零
以下である場合にはステップS14に移行し、そうでな
い場合には前記ステップS11に移行する。
【0046】前記ステップS14では、制御フラグFを
“0”にリセットし、次いでステップS15に移行し
て、目標アイドル回転数N* idleを通常アイドル回転数
0 に設定してからステップS16に移行する。一方、
前記ステップS11では,予め設定された正の所定値N
1 を前記通常アイドル回転数N0 に加した値を,アイド
ルアップ回転数(N1 +N0 )として目標アイドル回転
数N* idleに設定し、これをRAM315に更新記憶し
てから、前記ステップS16に移行する。
【0047】前記ステップS16では、前記ステップS
15又はステップS11で設定された目標アイドル回転
数N* idleをエンジン回転コントローラ391に向けて
出力してから、前記ステップS6に移行する。そして、
前記ステップS6では,前記ステップS1で読み込まれ
た各車輪速V Wjを各車輪速前回値VWj0 としてRAM3
15に更新記憶してから,メインプログラムに復帰す
る。
【0048】次に、前記図7の演算処理の作用を説明す
る。今、乾燥したアスファルト路面やコンクリート路面
等のようにタイヤとの間に十分な摩擦係数状態が維持さ
れる高μ路面において、アクセルペダルを踏込んで車両
が定速状態若しくは加速状態で通常に走行している状態
を想定する。なお、シフトポジションは通常走行に好適
な前記Dレンジに維持されているものと想定する。この
状態では、ブレーキペダルの踏込みがなく、その結果,
ブレーキ液圧が増加していない状態では各車輪への制動
力が作用していないから、従って前記図7の演算処理が
実行される所定サンプリング時間毎に,ステップS1〜
S3で算出される各車輪加減速度αWjは零又は正の値と
なり、車速一定であっても,直進走行から旋回走行への
移行等によって具体的に旋回内輪の車輪速が減少してい
る場合にも,このステップS1〜S3で算出される各車
輪加減速度αWjは零よりもやや小さい程度の負の値とな
る。従って、前記図7の演算処理のステップS4で算出
設定される最小車輪加減速度αW も,せいぜい零よりも
やや小さい程度の負の値となる。この零よりもやや小さ
い程度の負の値である最小車輪加減速度α W は,前記絶
対値が大きく且つ負の値に設定された所定値αW0よりも
大きいはずであり、未だ制御フラグFは“0”のリセッ
ト状態であるから、前記図7の演算処理のステップS5
からステップS7を経てステップS6に移行し、前記ス
テップS1で読込んだ各車輪速VWjを車輪速前回値V
Wj0 としてRAM315に更新記憶し、メインプログラ
ムに復帰するフローを繰り返す。
【0049】従って、このフローからは前記目標アイド
ル回転数N* idleはエンジン回転コントローラ391に
向けて出力されないから、当該エンジン回転コントロー
ラ391は具体的にアイドルバルブの開度を変更制御し
たりせず、その結果,エンジン10のアイドル回転数は
通常回転数に維持されている。次にこの状態から,同じ
く高μ路面においてシフトポジションを変えることな
く,ブレーキペダルの踏込みもアクセルペダルの踏込み
も解除した惰性走行状態,つまりコースト走行状態に移
行したとする。このコースト走行状態では,所謂エンジ
ンブレーキによって各車輪にはバックトルクが制動力と
して作用し、その結果,前記図7の演算処理が実行され
るサンプリング時間毎に,ステップS1〜S3で算出さ
れる各車輪加減速度αWjのうち,ステップS4で選択さ
れた最小車輪加減速度αW は或る負の値となるが、この
最小車輪加減速度αW が前記絶対値が大きく且つ負の値
である所定値αW0を下回ることはなく、未だ制御フラグ
Fは“0”のリセット状態であるから、前記ステップS
5からステップS7を経てステップS6に移行し、前記
ステップS1で読込んだ各車輪速VWjを車輪速前回値V
Wj0 としてRAM315に更新記憶し、メインプログラ
ムに復帰するフローを繰り返す。
【0050】従って、このフローからも前記目標アイド
ル回転数N* idleはエンジン回転コントローラ391に
向けて出力されないから、当該エンジン回転コントロー
ラ391は具体的にアイドルバルブの開度を変更制御し
たりせず、その結果,エンジン10のアイドル回転数は
通常回転数に維持されている。また、このような高μ路
面で,シフトポジションをダウンシフト方向,即ちDレ
ンジから2レンジ若しくはLレンジに移行し、前記無段
変速機の変速パターンによる変速比を強制的に大きくし
て,エンジンブレーキを各駆動輪へのより大きな制動力
として作用させた場合には、前記図7の演算処理が実行
されるサンプリング時間毎に,ステップS1〜S3で算
出される各車輪加減速度αWjのうち,ステップS4で選
択された最小車輪加減速度αW はより絶対値の大きな或
る負の値となるが、この最小車輪加減速度αW が前記絶
対値が大きく且つ負の値である所定値αW0を下回ること
はなく、また制御フラグFが“1”にセットされること
もないから、前記ステップS5からステップS7,S6
を経てメインプログラムに復帰するフローを繰り返し、
その結果,エンジン10のアイドル回転数は通常回転数
に維持されている。
【0051】また、このような高μ路面では,例え急ブ
レーキによって各車輪に大きな制動力が作用しても、路
面とタイヤとの大きな摩擦係数状態により当該車輪速が
前記目標スリップ率を満足する目標車輪速を大きく下回
ることはないから、急制動を含む高μ路面での制動時に
は、前記図7の演算処理が実行されるサンプリング時間
毎に,ステップS1〜S3で算出される各車輪加減速度
αWjのうち,ステップS4で選択された最小車輪加減速
度αW は更に絶対値の大きな或る負の値となるが、この
最小車輪加減速度αW が前記絶対値が大きく且つ負の値
である所定値α W0を下回ることはなく、また制御フラグ
Fが“1”にセットされることもないから、前記ステッ
プS5からステップS7,S6を経てメインプログラム
に復帰するフローを繰り返し、その結果,エンジン10
のアイドル回転数は通常回転数に維持されている。
【0052】以上より、高μ路面では,如何なる場合に
もアイドル回転数の上昇又は増加制御は実行されず、そ
の結果,アイドル回転数の上昇が制動時に加速力として
車両に作用することもなく、前記通常アイドル回転数に
よるエンジンブレーキを有効に活用して制動距離が確保
される。一方、前記氷雪路面や濡れたタイル路面等の低
μ路面では,タイヤと路面との摩擦係数状態が小さいか
ら、前記急ブレーキを含む制動時には車輪はロック傾向
を示し、その結果,当該車輪速は前記目標スリップ率を
満足する目標車輪速を下回り易くなる。そして、このよ
うな低μ路面では,前述のように路面,即ち車体速が車
輪を回転させようとする入力に対して、実際の車輪速は
非常に増速しにくい状態であると考えられるから、前記
車輪速が目標車輪速を下回り始めると,少なくともアク
セルペダルを踏込んでエンジンの回転駆動力で積極的に
車輪速を増速しない限り、当該車輪速は減速を続け,比
較的短時間後にロックする或いはロックする直前の状態
にまで至るものと考えられる。従って、この低μ路面で
の制動時において,前記車輪速が急激に減速し始めた最
初の前記図7の演算処理で、ステップS1〜S3で算出
される各車輪加減速度αWjは絶対値の相当に大きな負の
値となろう。従って、前記図7の演算処理のステップS
4で算出設定される最小車輪加減速度αW も,絶対値の
相当に大きな負の値となる。ここで、制御フラグFは未
だ“0”のリセット状態であるとすれば、前記図7の演
算処理のステップS5からステップS7に移行し、前記
最小車輪加減速度αW が前記絶対値が大きく且つ負の値
に設定された所定値αW0を下回ると,ステップS9に移
行する。このステップS9では、制御フラグFを“1”
にセットし、次いでステップS10でタイマTを所定時
間T1 にセットし、次いでステップS11でアイドルア
ップ回転数(N1 +N0 )を目標アイドル回転数N*
idleに設定し、これをRAM315に更新記憶してか
ら、次いでステップS16でこの目標アイドル回転数N
* idleをエンジン回転コントローラ391に向けて出力
し、次いでステップS6で,前記ステップS1で読込ん
だ各車輪速VWjを車輪速前回値VWj0 としてRAM31
5に更新記憶し、メインプログラムに復帰する。そし
て、その後,前記図7の演算処理が実行されるサンプリ
ング時間毎に,前記ステップS5で制御フラグFが
“1”のセット状態であるためにステップS8に移行
し、読込まれた最新のタイマTから所定時間ΔTを減じ
た値を新たなタイマTとして更新記憶し、次いでステッ
プS13を経てステップS11でアイドルアップ回転数
(N1 +N0)を目標アイドル回転数N* idleに設定
し、これをRAM315に更新記憶してから、次いでス
テップS16でこの目標アイドル回転数N* idleをエン
ジン回転コントローラ391に向けて出力し、次いでス
テップS6で,前記ステップS1で読込んだ各車輪速V
Wjを車輪速前回値VWj0 としてRAM315に更新記憶
し、メインプログラムに復帰するフローを、前記ステッ
プS13でタイマTが零になるまで繰り返す。
【0053】従って、この間,前記目標アイドル回転数
* idleはアイドルアップ回転数(N1 +N0 )に維持
されてエンジン回転コントローラ391に向けて出力さ
れるから、当該エンジン回転コントローラ391は具体
的にアイドルバルブの開度を大きくするように変更制御
し、その結果,エンジン10のアイドル回転数は通常回
転数よりも前記所定値N1 の大きさに応じて上昇又は増
加した状態に維持される。これにより、上昇又は増加さ
れた当該アイドル回転数に伴って増加するエンジンの回
転駆動力は,無段変速機及び動力伝達系を経て各駆動輪
に伝達され、前記路面からの入力に関わらず当該駆動輪
の車輪速は増速される。従って、前記アイドルアップ回
転数(N1 +N0 )に関与する回転上昇所定値N1 が大
きければ大きいほど,駆動輪の車輪速の増速率(つまり
当該駆動輪の加速度である)は大きくなる。
【0054】やがて、この状態が所定時間T1 だけ継続
されると、その後,最初に実行される前記図7の演算処
理のステップS13でタイマTが零以下となるため、ス
テップS14に移行して制御フラグFが“0”にリセッ
トされ、次いでステップS11で通常回転数N0 を目標
アイドル回転数N* idleに設定し、これをRAM315
に更新記憶してから、次いでステップS16でこの目標
アイドル回転数N* id leをエンジン回転コントローラ3
91に向けて出力し、次いでステップS6で,前記ステ
ップS1で読込んだ各車輪速VWjを車輪速前回値VWj0
としてRAM315に更新記憶し、メインプログラムに
復帰する。
【0055】この時点で、1回の制動操作,つまりブレ
ーキペダルの踏込み等に関して、当該駆動輪の車輪速
が,前記目標スリップ率を満足する目標車輪速と同等か
それ以上まで増速していれば、車輪速はそれ以下に減速
する虞れはないから、前記図7の演算処理が実行される
サンプリング時間毎に,同演算処理のステップS1〜S
4,ステップS5,S7を経てステップS6に移行する
フローを繰り返して、エンジン10のアイドル回転数は
通常回転数に復帰維持され、通常のエンジンブレーキが
駆動輪に有効に作用して制動距離を確保することができ
ると共に、舵取り効果も確保することができる。
【0056】ところが、同じく1回の制動操作,つまり
ブレーキペダルの踏込み等に関して、当該駆動輪の車輪
速が,前記目標スリップ率を満足する目標車輪速に至る
まで増速していない場合、前述のようにタイヤは未だ十
分なグリップ力を得るに至っていないとも考えられるか
ら、当該駆動輪の車輪速は,再びロックする或いはロッ
クする直前の状態まで比較的短時間に減速する虞れがあ
る。このような場合にあって,その後の最初の図7の演
算処理の実行時に、ステップS4で算出設定される最小
車輪加減速度αW も,絶対値の相当に大きな負の値とな
るから、同ステップS5からステップS7に移行し、前
記最小車輪加減速度αW が前記絶対値が大きく且つ負の
値に設定された所定値αW0を下回るためにステップS9
に移行し、制御フラグFを“1”にセットしてから次い
でステップS11でアイドルアップ回転数(N1
0 )を目標アイドル回転数N* idleに設定し、これを
ステップS16でこの目標アイドル回転数N* idleをエ
ンジン回転コントローラ391に向けて出力し、次いで
ステップS6で,前記ステップS1で読込んだ各車輪速
Wjを車輪速前回値VWj0 としてRAM315に更新記
憶し、その後,当該図7の演算処理が実行されるサンプ
リング時間毎に,前記ステップS5で制御フラグFが
“1”のセット状態であるためにステップS8,S1
3,S11でアイドルアップ回転数(N1 +N0 )を目
標アイドル回転数N* idleに設定し、これをステップS
16でこの目標アイドル回転数N* idleをエンジン回転
コントローラ391に向けて出力し、次いでステップS
6で,前記ステップS1で読込んだ各車輪速VWjを車輪
速前回値VWj0 としてRAM315に更新記憶してメイ
ンプログラムに復帰するフローを、前記ステップS13
でタイマTが零になるまで,つまり所定時間T1 が経過
するまで繰り返す。
【0057】従って、この間,エンジン10のアイドル
回転数は通常回転数よりも上昇又は増加され、各駆動輪
の車輪速は増速される。従って、具体的には前記エンジ
ンのアイドル回転上昇又は増加に伴う駆動輪の車輪速増
速制御は、当該車輪速が前記目標スリップ率を満足する
目標車輪速に至るまで,一旦,通常アイドル回転数に復
帰するものの,継続されることになり、結果的に車輪速
は目標車輪速に増速復帰して舵取り効果やエンジンブレ
ーキによる制動距離が確保可能となる。
【0058】このような状況は,同じく低μ路面で、前
記シフトポジションをダウンシフト方向,即ちDレンジ
から2レンジ若しくはLレンジに移行し、前記無段変速
機の変速パターンによる変速比を強制的に大きくして,
エンジンブレーキを各駆動輪へのより大きな制動力とし
て作用させた場合にも同様に発生することが考えられ、
その結果,駆動輪の車輪速が前記目標スリップ率を満足
する目標車輪速を下回り、当該駆動輪がロックする或い
はロックする直前の状態に比較的短時間に移行した場合
には、前記と同様のエンジンアイドル回転上昇又は増加
に伴う駆動輪の車輪速増速制御が実行され、当該駆動輪
の車輪速は目標車輪速に増速復帰して舵取り効果や制動
距離の確保が可能となる。
【0059】また、類似する状況は、同じく低μ路面に
おいて前記Dレンジを除く走行レンジ,つまり2レンジ
やLレンジ等でアクセルペダルを踏込んだ走行状態から
コースト走行状態に移行した際にも発生することが考え
られる。即ち、このように変速比制御の変速パターンに
おける最小変速比が大きい場合には、アクセルペダルを
踏込んでいる状態,つまりスロットル開度が大きい状態
で走行し、然る後,コースト走行状態に移行してスロッ
トル開度が小さくなっても、無段変速機の変速比が比較
的大きいために前記ダウンシフト方向にシフトポジショ
ンを移行した場合と同様にエンジンブレーキによって各
駆動輪に大きな制動力が作用し、これにより駆動輪の車
輪速が前記目標スリップ率を満足する目標車輪速を下回
り、当該駆動輪がロックする或いはロックする直前の状
態に比較的短時間に移行するためである。このような場
合にも,本実施例によるエンジンアイドル回転上昇又は
増加に伴う駆動輪の車輪速増速制御が実行され、当該駆
動輪の車輪速は目標車輪速に増速復帰して舵取り効果や
制動距離の確保が可能となる。
【0060】なお、前記実施例ではアンチスキッド制御
装置を搭載しない車両についてのみ本実施例の作用を説
明したが、実際にはアンチスキッド制御装置を搭載した
車両にあってもこれと同等の問題が発生する可能性はあ
り、前記図7の演算処理をアンチスキッド制御装置の作
動信号に組合わせて実行させることでほぼ同様に解決す
ることができる。また、この場合には前記車輪加減速度
の判定に合わせてスリップ率を判定要件として設定すれ
ば、より一層確実な構成となる。
【0061】また、前記アイドル回転数上昇制御に係る
所定値N1 やその制御時間に相当する所定時間T1 は、
前記車輪加減速度の所定値αW0と最小車輪加減速度αW
との偏差や,車速Vや,マスタシリンダ圧P等を用い
て、各パラメータの大きさに応じてこれらの所定値を大
きくすれば、例えば大きな車速と同等の速度で回転して
いる車輪速が,大きな制動力によって大きな減速度で減
速している場合に、短時間で大きく減少している当該車
輪の車輪速と前記車速から算出される目標スリップ率の
範囲を満足する目標車輪速との大きな偏差は、前記大き
なアイドル回転状態上昇量による機関からの大きな回転
駆動力によって速やかに是正され、また、この大きな偏
差を是正するために必要な所定時間が経過した後は、通
常の機関アイドル回転状態によって通常のエンジンブレ
ーキによる車輪速及び車速の低減が有効に行われるする
ことも可能である。
【0062】以上より本実施例は本発明のうち請求項1
及び2に係る無段変速機の制御装置を実施化したものと
考えられ、図7の演算処理のステップS1が本発明の車
輪回転減速度検出手段に相当し、以下同様に図7の演算
処理のステップS1〜S7,S9〜S11,S16がア
イドル回転状態上昇手段に相当し、図7の演算処理のス
テップS8,S12〜S16がアイドル回転上昇停止手
段に相当し、図4に示すマイクロコンピュータ300が
無段変速機制御手段に相当し、前記エンジン回転コント
ローラ391がアイドル回転状態制御手段に相当する。
【0063】次に本発明の無段変速機の制御装置を実際
の車両に適用した第2実施例を図8に基づいて説明す
る。この第2実施例の基本的な車両構造は,後述する無
段変速油圧制御回路やコントローラであるマイクロコン
ピュータ等を含めて,本出願人が先に提案した特開昭6
1−105353号公報に記載される無段変速機の制御
装置と同等かほぼ同等であり、このうち同等の部分は夫
々各構造の説明部位で同等であることを説明したのち,
当該公報を参照するものとして詳細な説明を割愛するこ
ともある。
【0064】まず、本実施例の無段変速機の動力伝達機
構は、前記第1実施例に相当する図2の無段変速機の動
力伝達機構と同等又はほぼ同等であり、同時にこれが前
記特開昭61−105353号公報に記載されるものと
同等かほぼ同等であるために、ここでは詳細な説明を割
愛する。また、本実施例の無段変速機の油圧制御装置
は、前記第1実施例に相当する図3の無段変速機の油圧
制御装置と同等又はほぼ同等であり、同時にこれが前記
特開昭61−105353号公報に記載されるものと同
等かほぼ同等であるために、ここでは詳細な説明を割愛
する。
【0065】また、本実施例の変速制御装置に相当する
コントローラの一部を構成するマイクロコンピュータ
は、前記第1実施例に相当する図4の電子制御装置(マ
イクロコンピュータ)300と同等又はほぼ同等であ
り、同時にこれが前記特開昭61−105353号公報
に記載されるものと同等かほぼ同等であるために、ここ
では詳細な説明を割愛する。
【0066】なお、前記追記したセンサ402,40
4,406、波形整形器412,414、及びA/D変
換器416は、本実施例で,それらを介した各検出値を
直接的に使用するための必須要件である。また、前記マ
イクロコンピュータ300により実行される通常の無段
変速機の変速比制御は、前記図5のフローチャートに示
す基準演算処理に従って前記第1実施例と同等又はほぼ
同等に実施され、同時にこれが前記特開昭61−105
353号公報に記載されるものと同等かほぼ同等である
ために、ここでは詳細な説明を割愛する。なお、前記2
レンジ変速パターン検索に関しては,前記第1実施例と
同等である。従って、Rレンジを除く前記各レンジの変
速パターンによる変速比制御は凡そ図6に示す前記第1
実施例と同等かほぼ同等であるから、その詳細な説明も
割愛する。
【0067】それでは次に、前述のような無段変速機並
びにその変速制御装置を搭載する車両にあって,特に氷
雪路面や濡れたタイル路面等の低μ路面で発生する車輪
速(特に駆動輪速)の問題並びにそれを解決するための
本実施例の基本原理について、簡潔に説明する。こうし
た低μ路面では、タイヤと路面との摩擦係数状態が小さ
いために,急ブレーキ等の急制動では車輪の実スリップ
率は前記舵取り効果や制動距離を確保可能な目標スリッ
プ率,つまり10〜30%のスリップ率の範囲を容易に
越えて、更にタイヤのグリップ力そのものが低下する。
そして、実際に車輪がロックする或いはロックする寸前
まで減速してしまっても、前記特開平4−254054
号公報に記載される無段変速機の制御装置では当該無段
変速機の変速比は,その急制動開始直前の変速比,つま
り大きな変速比に固定され、運転者がブレーキペダルの
踏込みを解除して正に車輪が回転し始めるときに,当該
無段変速機の変速比は小さな変速比に設定変更される。
【0068】しかし、このような無段変速機の実際の変
速及び動力伝達系の出力側端である車輪速への路面から
の入力を考えると、出力側に前記ワンウエイクラッチの
ような動力伝達方向規制手段を持たない無段変速機で
は、出力端部である車輪を回転させようとする入力は当
該無段変速機の入力側にまで伝達される。このとき、前
記無段変速機の制御装置によって,車両として大きな減
速比に変速比制御された無段変速機により車輪は回りに
くい状態であると考えられ、しかもこの車輪からの入力
伝達系は,その末端に当該無段変速機の回転系が持つ慣
性重量を備えている。従って、前記タイヤのグリップ力
低下を合わせて、運転者が車輪速を復帰しようとして車
輪への制動力を減少しても,当該車輪の車輪速は,十分
なグリップ力を得,且つ前記末端の慣性重量に抗して増
速しにくく、前記所望する目標スリップ率の範囲に当該
車輪速を復帰させることが困難になる虞れがある。
【0069】なお、これと同様の問題は,同じく低μ路
面でシフトポジションをダウンシフト方向,つまりDレ
ンジから2レンジやLレンジに移行した場合や、同じく
低μ路面で低いシフトポジション,つまり2レンジやL
レンジで急激にアクセルペダルの踏込みを解除したコー
スト走行状態に移行した場合にも、大きなバックトルク
を発生したエンジンブレーキが駆動輪に対して大きな制
動力を発生するために生じると考えられる。
【0070】そこで、機関と車輪とは動力伝達系によっ
て接続した状態に維持し,同時に機関,つまりエンジン
の回転数や回転速度等の回転状態を上昇させ、この機関
回転状態上昇分を当該車輪の車輪速を増速させる入力の
一部に適用することができる。この際、アクセルペダル
を踏込むことができない状況での機関回転状態を上昇,
つまり増加させることが大切であり、従って,実際には
アイドル回転状態,アイドリング回転数を上昇又は増加
させなければならない。
【0071】また、如何なる急制動時にもこのようにア
イドル回転状態を上昇することが適切かというと,高μ
路面等ではタイヤが十分なグリップ力を有しているか
ら、このアイドル回転状態上昇分が車両を不必要に加速
する,或いは制動距離を確保できなくなる虞れがある。
従って、前記エンジンブレーキの作用による制動時をも
含んで,急制動によって車輪回転減速度が或る所定車輪
回転減速度値以上となった場合にのみ、前記機関のアイ
ドル回転状態上昇を実施するものとすればよいことにな
る。
【0072】本実施例では,前述の基本原理に基づい
て、特に低μ路面において目標車輪速を下回る車輪速を
増速させる入力として,エンジンのアイドル回転状態上
昇を実施するのであるが、その際,上昇するアイドル回
転状態上昇量を,以下に列記するパラメータを用いて変
更設定する。具体的には前記アイドル回転数上昇制御に
係る所定値N1 を各パラメータに基づいて変更設定し、
この所定値N1 をアイドルアップ上昇値として通常アイ
ドル回転数N0 に加算した値を,アイドルアップ回転数
として目標アイドル回転数N* idleに設定する。
【0073】例えば前記低μ路面において、大きな車速
と同等の速度で回転している車輪速が,大きな制動力に
よって大きな減速度で減速している場合には、短時間で
大きく減少している当該車輪の車輪速と前記車速から算
出される目標スリップ率の範囲を満足する目標車輪速と
の間に大きな偏差が発生する。この目標車輪速に対して
大きな偏差を有する当該車輪の車輪速を,可及的速やか
に増速して目標車輪速に復帰するためには、その分だけ
大きなエンジンからの回転駆動力が必要となると考えら
れる。そこで、前記アイドル回転数上昇制御に係る所定
値N1 を前述した各パラメータ,即ち車速V,制動力と
等価であると考えられるマスタシリンダ圧P,減速度の
大きさを示すと考えられる前記車輪加減速度の所定値α
WOと最小車輪加減速度αW との偏差の絶対値|αWD|を
用いて変更設定するものとし、具体的には,下記2式に
従って当該所定値N1 をアイドルアップ上昇値N1 とし
て算出する。
【0074】 N1 =K1 |αWD|+K2 V+K3 P ……… (2) 但し、K1 ,K2 ,K3 は夫々,予め設定された正の重
み付け制御係数であり、K1 +K2 +K3 =k1 (k1
は定数)を満足するものとする。なお、このアイドルア
ップ上昇値N1 には後述する理由によって上限値を設定
するものとした。
【0075】一方、コースト状態,つまり惰性走行状態
で車速が低減するのを期待し、その結果,前述のように
目標スリップ率を上回る実スリップ率となった車輪速を
復帰するためにブレーキペダルの踏込みもアクセルペダ
ルの踏込みも解除した運転者にとって、前記車輪速が目
標スリップ率の範囲を満足する車輪速まで復帰した後
は,通常のエンジンブレーキによって駆動輪の車輪速が
減少し、これにより可及的速やかに車速が低減すること
が望まれる。従って、前記機関のアイドル回転状態上昇
制御は,この車輪速の復帰に応じて停止される必要があ
る。
【0076】そこで、本実施例では,このアイドル回転
上昇制御停止に係る所定時間T1 を以下に列記するパラ
メータを用いて変更設定する。前述のように,本実施例
では目標車輪速と当該車輪速との偏差の大きさを速やか
に是正するように,前記各パラメータを用いてエンジン
のアイドル回転状態上昇量を変更制御することとした
が、前記各パラメータの増加に応じてエンジンのアイド
ル回転状態上昇量をどこまでも大きくしてしまったので
は,乗員に違和感を与えるし、同時に駆動輪に過大な回
転駆動力が付与されて当該駆動輪の車輪速が目標車輪速
を上回ってスリップし、走行安定性が低下する虞れがあ
る。従って、前記2式で算出されるアイドルアップ上昇
値N1 には予め設定された上限値を存在させる。
【0077】従って、例えば前述のような目標車輪速と
当該車輪速との大きな偏差を是正するためには,その偏
差の大きさに応じた時間を必要とすると考えられるか
ら、この所定時間T1 を前述した各パラメータ,即ち車
速V,制動力と等価であると考えられるマスタシリンダ
圧P,減速度の大きさを示すと考えられる前記車輪加減
速度の所定値αWOと最小車輪加減速度αW との偏差の絶
対値|αWD|を用いて変更設定するものとし、具体的に
は,下記3式に従って当該所定時間T1 をアイドルアッ
プ制御時間T1 として算出する。
【0078】 T1 =K4 |αWD|+K5 V+K6 P ……… (3) 但し、K4 ,K5 ,K6 は夫々,予め設定された正の重
み付け制御係数であり、K4 +K5 +K6 =k2 (k2
は定数)を満足するものとする。なお、このアイドルア
ップ制御時間T1 にも上限値を設定し、前記大きなアイ
ドルアップ上昇値N1 によるアイドル回転数上昇制御
が,大きなアイドルアップ制御時間T1 継続して実施さ
れた結果、当該車輪速が目標車輪速を上回る事態を回避
できるようにした。
【0079】以上の発明原理に基づいて,実際の車両で
機関回転数を制御するための演算処理を図8に示す。こ
の演算処理は、前記無段変速機の制御装置であるマイク
ロコンピュータ30で所定時間(ΔT)毎のタイマ割込
みによって実行され、ここで算出設定された目標アイド
ル回転数N* idleは前記エンジン回転コントローラ39
1に向けて出力され、当該エンジン回転コントローラ3
91では,当該目標アイドル回転数N* idleに応じたア
イドル回転数がエンジン10で達成されるように図示さ
れないアイドルバルブの開度を変更設定するなどして対
応する。ここで、演算処理中の制御フラグFは“1”の
セット状態で,前記目標アイドル回転数N* idleからな
るエンジンのアイドル回転数上昇制御信号出力中である
ことを示し、“0”のリセット状態で通常のエンジンア
イドル回転数上昇制御信号が出力されていないことを示
す。そして、エンジン回転コントローラ391では、前
記アイドル回転数上昇制御信号に相当する目標アイドル
回転数N* idleが出力されていないときには、当該エン
ジン回転コントローラ391の記憶装置に記憶された最
新の目標アイドル回転数N* idleに応じたアイドル回転
数が達成されるように前記アイドルバルブの開度制御等
を行うものとする。また、算出される車輪減速度には車
両前方への車輪加速度も包含されるため、ここでは両者
を含めて車輪加減速度αWjを算出するものとし、車両前
方への車輪加速度を正,車両後方への車輪減速度を負で
表す。従って、前記車輪減速度が或る所定値よりも大き
いという表現は,ここでは車輪加減速度αWjが或る所定
値αW0(負の値)よりも小さいと表記される。なお、こ
の所定値αW0は、低μ路面で車輪に大きな制動力が作用
し、その結果,当該車輪速が前記目標スリップ率を満足
する車輪速よりも減少するような場合,つまりロック傾
向を示す場合に、この車輪の減速度,つまり負の車輪加
減速度が下回る程度の値に設定してあり、通常の高μ路
面では,急制動を行っても負の車輪加減速度がこの所定
値を下回ることのない程度の大きさに設定してある。ま
た、図中の制御フラグやタイマのセット・リセットで
は,その都度,RAM315への記憶更新が同時に実行
される。
【0080】この図8の演算処理では、まずステップS
21で前記左駆動輪速センサ402,右駆動輪速センサ
404から,夫々,各車輪速検出値(単に車輪速とも記
す)VWjを読込む。次にステップS22に移行して、前
記マイクロコンピュータ300のRAM315に記憶さ
れている最新の各車輪速前回値VWj0 を読込む。
【0081】次にステップS23に移行して、前記ステ
ップS1で読込まれた車輪速VWjとステップS22で読
込まれた車輪速前回値VWj0 とを用いて,下記1式に従
って各車輪加減速度αWjを算出する。 αWj=(VWj0 −VWj)/ΔT ……… (1) 次にステップS24に移行して、各車輪加減速度αWj
うち,小さい車輪加減速度αWjをセレクトローにより選
択し、この車輪加減速度αWjを最小車輪加減速度αW
して算出設定する。
【0082】次にステップS25に移行して、制御フラ
グFが“1”のセット状態であるか否かを判定し、制御
フラグFが“1”のセット状態である場合にはステップ
S26に移行し、そうでない場合にはステップS27に
移行する。前記ステップS27では、前記ステップS2
4で算出設定された最小車輪加減速度αW が,絶対値が
大きく且つ負の値である予め設定された所定値αW0より
も大きいか否かを判定し、最小車輪加減速度αW が所定
値αW0よりも大きい場合にはステップS28に移行し、
そうでない場合にはステップS29に移行する。
【0083】前記ステップS29では、前記車速センサ
302からの車速検出値(単に車速とも記す)Vを読込
み、次いでステップS30に移行して、前記マスタシリ
ンダ圧センサ406からのマスタシリンダ圧Pを読込
み、次いでステップS31に移行する。前記ステップS
31では、前記ステップS24で算出設定された最小車
輪加減速度αW と前記所定値αW0との偏差の絶対値から
最小車輪加減速度偏差絶対値|αWD|を算出してからス
テップS32に移行する。
【0084】前記ステップS32では、前記ステップS
31で算出された最小車輪加減速度偏差絶対値|α
WD|,前記ステップS29で読込まれた車速V,前記ス
テップS30で読込まれたマスタシリンダ圧Pを用い
て,前記2式に従ってアイドルアップ上昇値N1 を算出
してからステップS33に移行する。前記ステップS3
3では、前記ステップS31で算出された最小車輪加減
速度偏差絶対値|αWD|,前記ステップS29で読込ま
れた車速V,前記ステップS30で読込まれたマスタシ
リンダ圧Pを用いて,前記3式に従ってアイドルアップ
制御時間T1 を算出してからステップS34に移行す
る。
【0085】前記ステップS34では制御フラグFを
“1”にセットし、次いでステップS35に移行して、
タイマTを,前記ステップS33で算出されたアイドル
アップ制御時間T1 にセットし、次いでステップ36に
移行する。一方、前記ステップS26では、RAM31
5に記憶されている最新のタイマTを読込み、次いでス
テップS37に移行して、このタイマTからこの演算処
理が実行されるサンプリング時間ΔTを減じた値を新た
なタイマTとしてRAM315に更新記憶し、次いでス
テップS38に移行して、この新たなタイマTが零以下
であるか否かを判定し、タイマTが零以下である場合に
はステップS39に移行し、そうでない場合には前記ス
テップS36に移行する。
【0086】前記ステップS39では、制御フラグFを
“0”にリセットし、次いでステップS40に移行し
て、目標アイドル回転数N* idleを通常アイドル回転数
0 に設定してからステップS41に移行する。一方、
前記ステップS36では,前記ステップS32で算出さ
れたアイドルアップ上昇値N1 を前記通常アイドル回転
数N0 に加した値を,アイドルアップ回転数(N1 +N
0 )として目標アイドル回転数N* idleに設定し、これ
をRAM315に更新記憶してから、前記ステップS4
1に移行する。
【0087】前記ステップS41では、前記ステップS
36又はステップS40で設定された目標アイドル回転
数N* idleをエンジン回転コントローラ391に向けて
出力してから、前記ステップS28に移行する。そし
て、前記ステップS28では,前記ステップS21で読
み込まれた各車輪速VWjを各車輪速前回値VWj0 として
RAM315に更新記憶してから,メインプログラムに
復帰する。
【0088】次に、前記図8の演算処理の作用を説明す
る。今、乾燥したアスファルト路面やコンクリート路面
等のようにタイヤとの間に十分な摩擦係数状態が維持さ
れる高μ路面において、アクセルペダルを踏込んで車両
が定速状態若しくは加速状態で通常に走行している状態
を想定する。なお、シフトポジションは通常走行に好適
な前記Dレンジに維持されているものと想定する。この
状態では、ブレーキペダルの踏込みがなく、その結果,
ブレーキ液圧が増加していない状態では各車輪への制動
力が作用していないから、従って前記図8の演算処理が
実行される所定サンプリング時間毎に,ステップS21
〜S23で算出される各車輪加減速度αWjは零又は正の
値となり、車速一定であっても,直進走行から旋回走行
への移行等によって具体的に旋回内輪の車輪速が減少し
ている場合にも,このステップS21〜S23で算出さ
れる各車輪加減速度αWjは零よりもやや小さい程度の負
の値となる。従って、前記図8の演算処理のステップS
24で算出設定される最小車輪加減速度αW も,せいぜ
い零よりもやや小さい程度の負の値となる。この零より
もやや小さい程度の負の値である最小車輪加減速度αW
は,前記絶対値が大きく且つ負の値に設定された所定値
αW0よりも大きいはずであり、未だ制御フラグFは
“0”のリセット状態であるから、前記図8の演算処理
のステップS25からステップS27を経てステップS
28に移行し、前記ステップS21で読込んだ各車輪速
Wjを車輪速前回値VWj0 としてRAM315に更新記
憶し、メインプログラムに復帰するフローを繰り返す。
【0089】従って、このフローからは前記目標アイド
ル回転数N* idleはエンジン回転コントローラ391に
向けて出力されないから、当該エンジン回転コントロー
ラ391は具体的にアイドルバルブの開度を変更制御し
たりせず、その結果,エンジン10のアイドル回転数は
通常回転数に維持されている。次にこの状態から,同じ
く高μ路面においてシフトポジションを変えることな
く,ブレーキペダルの踏込みもアクセルペダルの踏込み
も解除した惰性走行状態,つまりコースト走行状態に移
行したとする。このコースト走行状態では,所謂エンジ
ンブレーキによって各車輪にはバックトルクが制動力と
して作用し、その結果,前記図8の演算処理が実行され
るサンプリング時間毎に,ステップS21〜S23で算
出される各車輪加減速度αWjのうち,ステップS24で
選択された最小車輪加減速度αW は或る負の値となる
が、この最小車輪加減速度αW が前記絶対値が大きく且
つ負の値である所定値αW0を下回ることはなく、未だ制
御フラグFは“0”のリセット状態であるから、前記ス
テップS25からステップS27を経てステップS28
に移行し、前記ステップS21で読込んだ各車輪速VWj
を車輪速前回値VWj0 としてRAM315に更新記憶
し、メインプログラムに復帰するフローを繰り返す。
【0090】従って、このフローからも前記目標アイド
ル回転数N* idleはエンジン回転コントローラ391に
向けて出力されないから、当該エンジン回転コントロー
ラ391は具体的にアイドルバルブの開度を変更制御し
たりせず、その結果,エンジン10のアイドル回転数は
通常回転数に維持されている。また、このような高μ路
面で,シフトポジションをダウンシフト方向,即ちDレ
ンジから2レンジ若しくはLレンジに移行し、前記無段
変速機の変速パターンによる変速比を強制的に大きくし
て,エンジンブレーキを各駆動輪へのより大きな制動力
として作用させた場合には、前記図8の演算処理が実行
されるサンプリング時間毎に,ステップS21〜S23
で算出される各車輪加減速度αWjのうち,ステップS2
4で選択された最小車輪加減速度αW はより絶対値の大
きな或る負の値となるが、この最小車輪加減速度αW
前記絶対値が大きく且つ負の値である所定値αW0を下回
ることはなく、また制御フラグFが“1”にセットされ
ることもないから、前記ステップS25からステップS
27,S28を経てメインプログラムに復帰するフロー
を繰り返し、その結果,エンジン10のアイドル回転数
は通常回転数に維持されている。
【0091】また、このような高μ路面では,例え急ブ
レーキによって各車輪に大きな制動力が作用しても、路
面とタイヤとの大きな摩擦係数状態により当該車輪速が
前記目標スリップ率を満足する目標車輪速を大きく下回
ることはないから、急制動を含む高μ路面での制動時に
は、前記図8の演算処理が実行されるサンプリング時間
毎に,ステップS21〜S23で算出される各車輪加減
速度αWjのうち,ステップS24で選択された最小車輪
加減速度αW は更に絶対値の大きな或る負の値となる
が、この最小車輪加減速度αW が,前記絶対値が大きく
且つ負の値である所定値αW0を下回ることはなく、また
制御フラグFが“1”にセットされることもないから、
前記ステップS25からステップS27,S28を経て
メインプログラムに復帰するフローを繰り返し、その結
果,エンジン10のアイドル回転数は通常回転数に維持
されている。
【0092】以上より、高μ路面では,如何なる場合に
もアイドル回転数の上昇又は増加制御は実行されず、そ
の結果,アイドル回転数の上昇が制動時に加速力として
車両に作用することもなく、前記通常アイドル回転数に
よるエンジンブレーキを有効に活用して制動距離が確保
される。一方、前記氷雪路面や濡れたタイル路面等の低
μ路面では,タイヤと路面との摩擦係数状態が小さいか
ら、前記急ブレーキを含む制動時には車輪はロック傾向
を示し、その結果,当該車輪速は前記目標スリップ率を
満足する目標車輪速を下回り易くなる。そして、このよ
うな低μ路面では,前述のように路面,即ち車体速が車
輪を回転させようとする入力に対して、実際の車輪速は
非常に増速しにくい状態であると考えられるから、前記
車輪速が目標車輪速を下回り始めると,少なくともアク
セルペダルを踏込んでエンジンの回転駆動力で積極的に
車輪速を増速しない限り、当該車輪速は減速を続け,比
較的短時間後にロックする或いはロックする直前の状態
にまで至るものと考えられる。従って、この低μ路面で
の制動時において,前記車輪速が急激に減速し始めた最
初の前記図8の演算処理で、ステップS21〜S23で
算出される各車輪加減速度αWjは絶対値の相当に大きな
負の値となろう。従って、前記図8の演算処理のステッ
プS24で算出設定される最小車輪加減速度αW も,絶
対値の相当に大きな負の値となる。ここで、制御フラグ
Fは未だ“0”のリセット状態であるとすれば、前記図
8の演算処理のステップS25からステップS27に移
行し、前記最小車輪加減速度αW が前記絶対値が大きく
且つ負の値に設定された所定値αW0を下回ると,ステッ
プS29に移行する。このステップS29では当該時点
の,つまり前記最小車輪加減速度αW が前記絶対値が大
きく且つ負の値に設定された所定値αW0を下回った時刻
の車速Vが読込まれ、次いでステップS30では当該時
点のマスタシリンダ圧P,即ち制動力が読込まれ、次い
でステップS31では当該時点の最小車輪加減速度偏差
絶対値|αWD|,即ち車輪回転減速度が読込まれ、次い
でステップS32ではこれらの各パラメータに応じたア
イドルアップ上昇値N1 が算出設定され、次いでステッ
プS33では前記各パラメータに応じたアイドルアップ
制御時間T1が算出設定され、次いでステップS34で
は制御フラグFを“1”にセットし、次いでステップS
35でタイマTを前記アイドルアップ制御時間T1 にセ
ットし、次いでステップS36で前記アイドルアップ上
昇値N1 に応じたアイドルアップ回転数(N1 +N0
を目標アイドル回転数N* idleに設定し、これをRAM
315に更新記憶してから、次いでステップS41でこ
の目標アイドル回転数N * idleをエンジン回転コントロ
ーラ391に向けて出力し、次いでステップS28で,
前記ステップS21で読込んだ各車輪速VWjを車輪速前
回値VWj0 としてRAM315に更新記憶し、メインプ
ログラムに復帰する。そして、その後,前記図8の演算
処理が実行されるサンプリング時間毎に,前記ステップ
S25で制御フラグFが“1”のセット状態であるため
にステップS26に移行し、読込まれた最新のタイマT
から所定時間ΔTを減じた値をステップS37で新たな
タイマTとして更新記憶し、次いでステップS38を経
てステップS36でアイドルアップ回転数(N1
0 )を目標アイドル回転数N* idleに設定し、これを
RAM315に更新記憶してから、次いでステップS4
1でこの目標アイドル回転数N* idleをエンジン回転コ
ントローラ391に向けて出力し、次いでステップS2
8で,前記ステップS21で読込んだ各車輪速VWjを車
輪速前回値VWj0 としてRAM315に更新記憶し、メ
インプログラムに復帰するフローを、前記ステップS3
8でタイマTが零になるまで繰り返す。
【0093】従って、この間,前記目標アイドル回転数
* idleはアイドルアップ回転数(N1 +N0 )に維持
されてエンジン回転コントローラ391に向けて出力さ
れるから、当該エンジン回転コントローラ391は具体
的にアイドルバルブの開度を大きくするように変更制御
し、その結果,エンジン10のアイドル回転数は通常回
転数よりも前記所定値N1 の大きさに応じて上昇又は増
加した状態に維持される。これにより、上昇又は増加さ
れた当該アイドル回転数に伴って増加するエンジンの回
転駆動力は,無段変速機及び動力伝達系を経て各駆動輪
に伝達され、前記路面からの入力に関わらず当該駆動輪
の車輪速は増速される。このとき、前記アイドルアップ
回転数(N1 +N0 )に関与するアイドルアップ上昇値
1 は、車速V,即ち目標スリップ率を満足する目標車
輪速、マスタシリンダ圧P,即ち制動力、最小車輪加減
速度偏差絶対値|αWD|,即ち等の大きさ、つまり当該
車輪回転の減速度の大きさ(減速全体の大きさを含む)
に応じて変更設定されているから、この車輪回転の減速
度が大きければ大きいほどエンジンのアイドル回転状態
上昇量は大きくなり、駆動輪の車輪速の増速率(つまり
当該駆動輪の加速度である)は大きくなって速やかに目
標車輪速に復帰する。
【0094】やがて、この状態が前記アイドルアップ制
御時間T1 だけ継続されると、その後,最初に実行され
る前記図8の演算処理のステップS38でタイマTが零
以下となるため、ステップS39に移行して制御フラグ
Fが“0”にリセットされ、次いでステップS40で通
常回転数N0 を目標アイドル回転数N* idleに設定し、
これをRAM315に更新記憶してから、次いでステッ
プS41でこの目標アイドル回転数N* idleをエンジン
回転コントローラ391に向けて出力し、次いでステッ
プS28で,前記ステップS21で読込んだ各車輪速V
Wjを車輪速前回値VWj0 としてRAM315に更新記憶
し、メインプログラムに復帰する。
【0095】このとき、前記アイドルアップ制御時間T
1 は、車速V,即ち目標スリップ率を満足する目標車輪
速、マスタシリンダ圧P,即ち制動力、最小車輪加減速
度偏差絶対値|αWD|,即ち等の大きさ、つまり当該車
輪回転の減速度の大きさ(減速全体の大きさを含む)に
応じて変更設定されているから、この車輪回転の減速度
が大きければ大きいほど前記エンジンのアイドル回転状
態上昇制御による目標車輪速までの復帰時間は大きいと
考えられ、当該車輪回転の減速度に応じて設定されたア
イドルアップ制御時間T1 はこの目標車輪速までの復帰
に要する時間と等価と考えられる。従って、前記アイド
ルアップ制御時間T1 の経過後は,1回の制動操作,つ
まりブレーキペダルの踏込み等に関して、当該駆動輪の
車輪速が,前記目標スリップ率を満足する目標車輪速と
同等かそれ以上まで増速していると考えられ、その結
果,車輪速はそれ以下に減速する虞れはないから、前記
図8の演算処理が実行されるサンプリング時間毎に,同
演算処理のステップS21〜S24,ステップS25,
S27を経てステップS28に移行するフローを繰り返
して、エンジン10のアイドル回転数は通常回転数に復
帰維持され、通常のエンジンブレーキが駆動輪に有効に
作用して制動距離を確保することができると共に、舵取
り効果も確保することができる。
【0096】しかしながら、前述のように前記アイドル
アップ上昇値N1 にもアイドルアップ制御時間T1 にも
上限値を設けてあるため、同じく1回の制動操作,つま
りブレーキペダルの踏込み等に関して、当該駆動輪の車
輪速が,前記目標スリップ率を満足する目標車輪速に至
るまで増速していない場合、前述のようにタイヤは未だ
十分なグリップ力を得るに至っていないとも考えられる
から、当該駆動輪の車輪速は,再びロックする或いはロ
ックする直前の状態まで比較的短時間に減速する虞れが
ある。このような場合にあって,その後の最初の図8の
演算処理の実行時に、ステップS24で算出設定される
最小車輪加減速度αW も,絶対値の相当に大きな負の値
となるから、同ステップS25からステップS27に移
行し、前記最小車輪加減速度αW が前記絶対値が大きく
且つ負の値に設定された所定値α W0を下回るためにステ
ップS29に移行し、以下,前記エンジンのアイドル回
転状態上昇制御が,当該時刻のアイドルアップ制御時間
1 ,繰り返される。
【0097】従って、この間,エンジン10のアイドル
回転数は通常回転数よりも上昇又は増加され、各駆動輪
の車輪速は増速される。従って、具体的には前記エンジ
ンのアイドル回転上昇又は増加に伴う駆動輪の車輪速増
速制御は、当該車輪速が前記目標スリップ率を満足する
目標車輪速に至るまで,一旦,通常アイドル回転数に復
帰するものの,継続されることになり、結果的に車輪速
は目標車輪速に増速復帰して舵取り効果やエンジンブレ
ーキによる制動距離が確保可能となる。
【0098】このような状況は,同じく低μ路面で、前
記シフトレンジをダウンシフト方向,即ちDレンジから
2レンジ若しくはLレンジに移行し、前記無段変速機の
変速パターンによる変速比を強制的に大きくして,エン
ジンブレーキを各駆動輪へのより大きな制動力として作
用させた場合にも同様に発生することが考えられ、その
結果,駆動輪の車輪速が前記目標スリップ率を満足する
目標車輪速を下回り、当該駆動輪がロックする或いはロ
ックする直前の状態に比較的短時間に移行した場合に
は、前記と同様のエンジンアイドル回転上昇又は増加に
伴う駆動輪の車輪速増速制御が実行され、当該駆動輪の
車輪速は目標車輪速に増速復帰して舵取り効果や制動距
離の確保が可能となる。この場合には、前記アイドルア
ップ上昇値N1 やアイドルアップ制御時間T1 の算出に
用いられるマスタシリンダ圧Pは,零又はほぼ零となる
から、これらの制御量はその分だけ小さな値となり、ブ
レーキペダル踏込みによる制動時よりもエンジンのアイ
ドル回転上昇制御による回転駆動力は小さなものとなる
が、所謂制動系による車輪への制動力よりもこのエンジ
ンブレーキによる車輪への制動力は小さいと考えられ、
その分だけ,車輪の減速度も小さいと考えられるから,
エンジンのアイドル回転上昇制御による回転駆動力は小
さなものでよいと解せられる。
【0099】また、類似する状況は、同じく低μ路面に
おいて前記Dレンジを除く走行レンジ,つまり2レンジ
やLレンジ等でアクセルペダルを踏込んだ走行状態から
コースト走行状態に移行した際にも発生することが考え
られる。即ち、このように変速比制御の変速パターンに
おける最小変速比が大きい場合には、アクセルペダルを
踏込んでいる状態,つまりスロットル開度が大きい状態
で走行し、然る後,コースト走行状態に移行してスロッ
トル開度が小さくなっても、無段変速機の変速比が比較
的大きいために前記ダウンシフト方向にシフトレンジを
移行した場合と同様にエンジンブレーキによって各駆動
輪に大きな制動力が作用し、これにより駆動輪の車輪速
が前記目標スリップ率を満足する目標車輪速を下回り、
当該駆動輪がロックする或いはロックする直前の状態に
比較的短時間に移行するためである。このような場合に
も,本実施例によるエンジンアイドル回転上昇又は増加
に伴う駆動輪の車輪速増速制御が実行され、当該駆動輪
の車輪速は目標車輪速に増速復帰して舵取り効果や制動
距離の確保が可能となる。この場合には、前記アイドル
アップ上昇値N1 やアイドルアップ制御時間T1 の算出
に用いられるマスタシリンダ圧Pは,零又はほぼ零とな
り、このような低いシフトポジションでの車速Vも小さ
くなるから,これらの制御量はその分だけより一層小さ
な値となり、ブレーキペダル踏込みによる制動時よりも
エンジンのアイドル回転上昇制御による回転駆動力はよ
り一層小さなものとなるが、所謂制動系による車輪への
制動力よりもこの低いシフトポジションでのコースト走
行状態におけるエンジンブレーキによる車輪への制動力
は小さいと考えられ、その分だけ,車輪の減速度も小さ
いと考えられるから,エンジンのアイドル回転上昇制御
による回転駆動力は小さなものでよいと解せられる。
【0100】なお、前記実施例ではアンチスキッド制御
装置を搭載しない車両についてのみ本実施例の作用を説
明したが、実際にはアンチスキッド制御装置を搭載した
車両にあってもこれと同等の問題が発生する可能性はあ
り、前記図8の演算処理をアンチスキッド制御装置の作
動信号に組合わせて実行させることでほぼ同様に解決す
ることができる。また、この場合には前記車輪加減速度
の判定に合わせてスリップ率を判定要件として設定すれ
ば、より一層確実な構成となる。
【0101】また、前記実施例では前記アイドルアップ
上昇値N1 やその制御時間T1 が、前記車輪加減速度の
所定値αW0と最小車輪加減速度αW との偏差や,車速V
や,マスタシリンダ圧P等の全てのパラメータを用い、
各パラメータの大きさに応じてこれらの制御量が大きく
なるようにしたが、これらの各パラメータの選択や組合
わせはこれに限定されるものではなく、場合によっては
各パラメータを全く用いないで,各制御量を予め設定さ
れた所定値としてもよい。
【0102】以上より本実施例は本発明のうち請求項1
〜8の全てに係る無段変速機の制御装置を実施化したも
のと考えられ、図8の演算処理のステップS21が本発
明の車輪回転減速度検出手段に相当し、以下同様に図8
の演算処理のステップS29が車速検出手段に相当し、
図8の演算処理のステップS30が制動用流体圧検出手
段に相当し、図8の演算処理のステップS21〜S2
5,S27,S29〜S36,S41がアイドル回転状
態上昇手段に相当し、図8の演算処理のステップS2
6,S37〜S40がアイドル回転上昇停止手段に相当
し、図4に示すマイクロコンピュータ300が無段変速
機制御手段に相当し、前記エンジン回転コントローラ3
91がアイドル回転状態制御手段に相当する。
【0103】次に前記各実施例による車輪速増速効果を
図9〜図11を用いて説明する。これらの図は、何れ
も,時刻“0”で駆動輪の車輪速VWjが零又はほぼ零の
状態,即ちロックする或いはロックする直前の状態まで
減速し、この時刻“0”の後,エンジンのアイドル回転
状態による回転駆動力が無段変速機を含む動力伝達系か
ら伝達されて当該駆動輪の車輪速が増速する状態を示す
シミュレーション実験結果である。図中、車速Vには理
解を容易化するために前記アンチスキッド制御装置で採
用される疑似車速,即ち最大車輪速VWHi を採用した。
また、目標車輪速V* Wjは、前記車速Vに対して目標ス
リップ率の上限値である約30%が達成されるように,
この車速Vに係数(0.7)を乗じて設定した。また、
エンジン,つまり機関の回転数は、車両前後方向への相
対速度(機関回転速度)VE に換算して表した。ここ
で、車輪速の増速過程を考察すると,その過程は二つの
大きなモードに分類することができる。その一つは機関
の回転駆動力が車輪速を増速する第1モードであり、も
う一つは車輪の回転駆動力が機関の回転数を増速する第
2モードである。ここで、前記のように車輪がロックす
る或いはロックする直前の状態から当該車輪速の増速過
程を検討する場合には,必ず前者の第1モードが先行
し、然る後,後者の第2モードに移行する。従って、両
モードの移行時刻をtn MODEで表し、このnには夫々の
機関アイドル回転数が代入されるものとする。また、車
輪速VWjが目標車輪速V* Wjに復帰するまでの時間を示
す復帰時刻をtn で表し、このnには夫々の機関アイド
ル回転数が代入されるものとする。また、この復帰時間
の目標時間を示す目標復帰時刻をt* で表し、この目標
復帰時間には,運転者が車輪のロックを回避するために
当該車輪への制動力を解除してから不安感が発生しない
程度の時間を設定した。
【0104】図9は機関のアイドル回転数を750rp
m,即ち通常のアイドル回転数に維持した場合の車輪速
の増速状態を示している。ここで、このアイドル回転数
750rpmにおいて,車輪速VWjが機関回転速度V
E750に到達する時刻,即ち前記第1モードから第2モー
ドへの移行時刻t750MODE までの車輪速の増速状態を考
察すると、この時間における車輪速VWjの傾き,即ち増
速率は比較的小さいことが分かる。そして、この移行時
刻t750MODE を過ぎると、駆動輪には機関のアイドル回
転数がエンジンブレーキ,制動力として作用するが、前
記移行時刻t750M ODE までの車輪速VWjの増速率が初期
値として残存するため、車輪速VWjの増速率は次第に小
さくなると考えてよい。更に、車輪速VWjが目標車輪速
* Wjに近づくに従って次第にタイヤのグリップ力が回
復し、これによって車体速,つまり車速Vが入力として
作用するために車輪速VWjはほぼ等加速度,即ち増速率
がほぼ一定の状態で増速することも判明する。ところ
で、この機関の通常のアイドル回転数750rpmで,
車輪速VWjが目標車輪速V* Wjに復帰する復帰時刻t75
0 は、前記目標復帰時刻t* よりも遅いから、運転者に
は,車輪速が復帰しないという不安感が発生する虞れが
あることも分かる。
【0105】一方、図10は前記各実施例のアイドル回
転状態上昇制御により機関のアイドル回転数を通常のア
イドル回転数よりも250rpm高い,1000rpm
に維持した場合の車輪速の増速状態を示している。ここ
で、このアイドル回転数1000rpmにおいて,車輪
速VWjが機関回転速度VE1000 に到達する時刻,即ち前
記第1モードから第2モードへの移行時刻t1000MODE
での車輪速の増速状態を考察すると、この時間における
車輪速VWjの傾き,即ち増速率は、前記通常のアイドル
回転数750rpmの移行時刻t750MODE までの車輪速
の増速率に対して大きいことが分かる。その一方で、当
該アイドル回転数1000rpmにおける移行時刻t
1000MODEまでの時間は,前記通常のアイドル回転数75
0rpmにおける移行時刻t750MODE までの時間と大差
ないことも分かる。そして、この移行時刻t1000MODE
過ぎると、前述と同様に駆動輪には機関のアイドル回転
数がエンジンブレーキ,制動力として作用し、前記移行
時刻t1000MODEまでの車輪速VWjの増速率が初期値とし
て残存するため、車輪速VWjの増速率は次第に小さくな
り、更に、車輪速VWjが目標車輪速V* Wjに近づくに従
って次第にタイヤのグリップ力が回復し、これによって
車体速,つまり車速Vが入力として作用するために車輪
速VWjはほぼ等加速度,即ち増速率がほぼ一定の状態で
増速する。しかし、前記車輪速VWjが機関回転速度V
E1000 まで増速する時間,即ち移行時刻t 1000MODEまで
の時間が、前記通常のアイドル回転数750rpmの移
行時刻t75 0MODE までの時間と大差ないことから、機関
のアイドル回転数1000rpmで,車輪速VWjが目標
車輪速V* Wjに復帰する復帰時刻t1000は、前記目標復
帰時刻t* よりも早くなり、運転者には,車輪速が復帰
しないという不安感が発生する虞れがない。ここで、前
記通常のアイドル回転数750rpmでの復帰時刻t
750 からアイドル回転数1000rpmでの復帰時刻t
1000までの短縮時間を効果時間Δt750-1000と定義す
る。
【0106】一方、図11は前記各実施例のアイドル回
転状態上昇制御により機関のアイドル回転数を通常のア
イドル回転数よりも650rpm高い,1400rpm
に維持した場合の車輪速の増速状態を示している。ここ
で、このアイドル回転数1400rpmにおいて,車輪
速VWjが機関回転速度VE1400 に到達する時刻,即ち前
記第1モードから第2モードへの移行時刻t1400MODE
での車輪速の増速状態を考察すると、この時間における
車輪速VWjの傾き,即ち増速率は、前記通常のアイドル
回転数750rpmの移行時刻t750MODE までの車輪速
の増速率に対して相当に大きく、前記アイドル回転数1
00rpmの移行時刻t1000MODEまでの車輪速の増速率
に対しても大きいことが分かる。その一方で、当該アイ
ドル回転数1400rpmにおける移行時刻t1400MODE
までの時間は,前記通常のアイドル回転数750rpm
における移行時刻t750MODE までの時間と大差ないこと
も分かる。そして、この移行時刻t1400MODEを過ぎる
と、前述と同様に駆動輪には機関のアイドル回転数がエ
ンジンブレーキ,制動力として作用し、前記移行時刻t
1400MODEまでの車輪速VWjの増速率が初期値として残存
するため、車輪速VWjの増速率は次第に小さくなり、更
に、車輪速VWjが目標車輪速V* Wjに近づくに従って次
第にタイヤのグリップ力が回復し、これによって車体
速,つまり車速Vが入力として作用するために車輪速V
Wjはほぼ等加速度,即ち増速率がほぼ一定の状態で増速
する。しかし、前記車輪速VWjが機関回転速度VE1400
まで増速する時間,即ち移行時刻t1400MODEまでの時間
が、前記通常のアイドル回転数750rpmの移行時刻
750MODE までの時間と大差ないことから、機関のアイ
ドル回転数1400rpmで,車輪速VWjが目標車輪速
* Wjに復帰する復帰時刻t 1400は、前記目標復帰時刻
* よりも早くなり、運転者には,車輪速が復帰しない
という不安感が発生する虞れがなく、更に前記アイドル
回転数1000rpmの復帰時刻t1000よりも相当に早
くなっている。ここで、前記通常のアイドル回転数75
0rpmでの復帰時刻t750 からアイドル回転数140
0rpmでの復帰時刻t1400までの効果時間Δt
750-1400は、前記アイドル回転数1000rpmの効果
時間Δt750-1000よりも相当に大きくなっていることか
ら、機関のアイドル回転数上昇値が目標車輪速までの復
帰時間に大きく関与していることが判明する。
【0107】これを更に子細に考察すると、この復帰時
間を短縮することが本発明の主眼であるから、この復帰
時間に関与する変数には,目標車輪速を設定するための
車速や車輪速の増速を開始する時点での車輪速,換言す
れば車輪減速度の大きさがあることが分かる。また、こ
の車輪減速度の大きさには,実際の車輪に与えられる制
動力,つまり流体圧ホイルシリンダを用いる場合にはそ
の作動流体圧も変数として介在している。従って、これ
らの変数を用いて,機関のアイドル回転数上昇値を設定
すれば、所望する復帰時間を得ることができる。以上よ
り前記各実施例においてこれらのパラメータに応じてア
イドル回転数上昇量を設定することの正確性が証明され
た。
【0108】そして、前記復帰時間後は,エンジンのア
イドル回転数を通常のアイドル回転数に復帰して、エン
ジンブレーキによる制動効果を車輪に発現させる必要が
ある。前述のように復帰時間に関与する変数には,目標
車輪速を設定するための車速や車輪速の増速を開始する
時点での車輪速,換言すれば車輪減速度の大きさがある
ことが分かる。また、この車輪減速度の大きさには,実
際の車輪に与えられる制動力,つまり流体圧ホイルシリ
ンダを用いる場合にはその作動流体圧も変数として介在
している。従って、これらの変数を用いて,機関のアイ
ドル回転数上昇制御の停止時間を設定すれば、この停止
時間後には車輪速は目標車輪速に復帰して十分なグリッ
プ力を発現し、同時にエンジンブレーキの制動効果によ
って制動距離を確保することができる。以上より前記各
実施例においてこれらのパラメータに応じてアイドル回
転数上昇時間を設定することの正確性が証明された。
【0109】なお、前記各実施例は,本出願人が先に提
案した特開昭61−105353号公報に記載される無
段変速機の制御装置を基体としたものであるが、本発明
はこれ以外のベルト式無段変速機に広く展開可能である
ことは言うまでもない。また、前記各実施例では、変速
比制御コントローラをマイクロコンピュータで構築した
ものについてのみ詳述したが、これに限定されるもので
はなく、演算回路等の電子回路を組み合わせて構成して
もよいことは言うまでもない。
【0110】
【発明の効果】以上説明したように本発明の無段変速機
の制御装置によれば、車輪回転減速度検出値が所定車輪
回転減速度値以上のときに、機関のアイドル回転状態制
御手段に向けてアイドル回転状態上昇信号を出力し、増
加する機関の回転駆動力が、無段変速機を含む動力伝達
系を介して車輪に伝達され、当該車輪の車輪速は車体速
若しくは前記目標スリップ率の範囲を満足する目標車輪
速まで増速されて復帰する構成としたために、ベルト式
の無段変速機の出力側プーリと駆動輪との間が直結結合
された場合でも車輪のロック及び変速比の固定を回避し
て、特に低μ路面において舵取り効果や制動距離を確保
することが可能となる。このとき、アイドル回転状態の
上昇量を、前記車輪回転減速度検出値と所定車輪回転減
速度値との偏差や、車体検出値や、動用流体圧検出値
の増大に応じて大きく設定すれば、車輪回転の減速との
大きさに応じたアイドル回転状態上昇量によって機関の
好適な増加回転駆動力を得ることができ、車輪速の増速
復帰時間を所望値に制御することができる。
【0111】また、車輪回転減速度検出値が所定車輪回
転減速度値以上になったときから所定時間後に,前記ア
イドル回転状態上昇信号の出力を停止するため、例えば
前記車輪速が目標スリップ率の範囲を満足する目標車輪
速まで復帰した後には、通常の機関アイドル回転状態に
よるエンジンブレーキが駆動輪に有効に作用して速やか
に車速を低減することができる。このとき、前記アイド
ル回転状態上昇信号停止までの時間を,前記車輪回転減
速度検出値と所定車輪回転減速度値との偏差や、車速検
出値や、作動用流体圧検出値の増大に応じて大きく設定
すれば、車輪回転の減速度の大きさに応じた車輪速の増
速復帰時間を設定し、この復帰時間後に前記エンジンブ
レーキによる車速低減効果,つまり制動距離の確保が可
能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の無段変速機の制御装置の基本構成図で
ある。
【図2】無段変速機の動力伝達機構の一例を示す構成図
である。
【図3】無段変速機の油圧制御装置の一例を示す構成図
である。
【図4】無段変速機の変速比制御装置に相当するコント
ローラの一例を示す構成図である。
【図5】図5のコントローラで実行される通常の無段変
速機の変速比制御の演算処理の一例を示すフローチャー
トである。
【図6】図5の演算処理による変速パターンの説明図で
ある。
【図7】本発明の無段変速機の制御装置の第1実施例を
示す機関回転状態上昇制御を行う演算処理のフローチャ
ートである。
【図8】本発明の無段変速機の制御装置の第2実施例を
示す機関回転状態上昇制御を行う演算処理のフローチャ
ートである。
【図9】通常のアイドル回転数による車輪速増速の説明
図である。
【図10】アイドル回転数1000rpmにおける車輪
速増速の説明図である。
【図11】アイドル回転数1400rpmにおける車輪
速増速の説明図である。
【符号の説明】
10はエンジン(機関) 29は無段変速機構(無段変速機) 110はステップモータ 118は電磁弁 224はソレノイド 300はマイクロコンピュータ 302は車速センサ(車速検出手段) 303はスロットル開度センサ 304はシフトポジションスイッチ 391はエンジン回転コントローラ(アイドル回転状態
制御手段) 402は左駆動輪速センサ(車輪回転減速度検出手段) 404は右駆動輪速センサ(車輪回転減速度検出手段) 406はマスタシリンダ圧センサ(制動用流体圧検出手
段)
フロントページの続き (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) F02D 29/00 - 29/06 F02D 41/00 - 45/00 395 B60K 41/00 - 41/28

Claims (8)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 機関のアイドル回転状態を制御するアイ
    ドル回転状態制御手段と、出力側プーリと駆動輪との間
    が直結状態で駆動結合されたベルト式の無段変速機の変
    速比車速と機関のスロットル開度とに基づいて制御す
    る無段変速機制御手段とを備えた車両の無段変速機の制
    御装置において、車輪回転の減速度を検出する車輪減速
    度検出手段を備え、前記無段変速機制御手段は、前記車
    輪減速度検出手段で検出された車輪回転減速度検出値が
    所定車輪回転減速度値以上のときに、機関のアイドル回
    転状態を所定上昇量上昇するアイドル回転状態上昇信号
    を前記アイドル回転状態制御手段に向けて出力するアイ
    ドル回転状態上昇手段を備えたことを特徴とする無段変
    速機の制御装置。
  2. 【請求項2】 前記無段変速機制御手段は、前記車輪回
    転減速度検出値が所定車輪回転減速度値以上となったと
    きから所定時間後に、前記アイドル回転状態上昇手段か
    らのアイドル回転状態上昇信号の出力を停止するアイド
    ル回転状態上昇停止手段を備えたことを特徴とする請求
    項1に記載の無段変速機の制御装置。
  3. 【請求項3】 前記アイドル回転状態上昇手段は、前記
    アイドル回転状態の所定上昇量を、前記車輪回転減速度
    検出値と所定車輪回転減速度値との偏差に応じて変更設
    定することを特徴とする請求項1又は2に記載の無段変
    速機の制御装置。
  4. 【請求項4】 車両の前後方向車速を検出する車速検出
    手段を備え、前記アイドル回転状態上昇手段は、前記ア
    イドル回転状態の所定上昇量を、前記車輪回転減速度検
    出値が所定値以上になったときの前記車速検出手段から
    の車速検出値に応じて変更設定することを特徴とする請
    求項1乃至3に記載の無段変速機の制御装置。
  5. 【請求項5】 制動系の制動力を発生するための流体圧
    を検出する制動用流体圧検出手段を備え、前記アイドル
    回転状態上昇手段は、前記アイドル回転状態の所定上昇
    量を、前記車輪回転減速度検出値が所定値以上になった
    ときの前記制動用流体圧検出手段からの流体圧検出値に
    応じて変更設定することを特徴とする請求項1乃至4に
    記載の無段変速機の制御装置。
  6. 【請求項6】 前記アイドル回転状態上昇停止手段は、
    前記アイドル回転状態上昇停止までの所定時間を、前記
    車輪回転減速度検出値と所定車輪回転減速度値との偏差
    に応じて変更設定することを特徴とする請求項1乃至5
    に記載の無段変速機の制御装置。
  7. 【請求項7】 車両の前後方向車速を検出する車速検出
    手段を備え、前記アイドル回転状態上昇停止手段は、前
    記アイドル回転状態上昇停止までの所定時間を、前記車
    輪回転減速度検出値が所定値以上になったときの前記車
    速検出手段からの車速検出値に応じて変更設定すること
    を特徴とする請求項1乃至6に記載の無段変速機の制御
    装置。
  8. 【請求項8】 制動系の制動力を発生するための流体圧
    を検出する制動用流体圧検出手段を備え、前記アイドル
    回転状態上昇停止手段は、前記アイドル回転状態上昇停
    止までの所定時間を、前記車輪回転減速度検出値が所定
    値以上になったときの前記制動用流体圧検出手段からの
    流体圧検出値に応じて変更設定することを特徴とする請
    求項1乃至7に記載の無段変速機の制御装置。
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