JP3097597B2 - Iii族窒化物半導体の形成方法 - Google Patents

Iii族窒化物半導体の形成方法

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【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、窒化ガリウム・イ
ンジウム(GaInN)等のIII 族窒化物半導体活性層
の形成方法に係わり、特に高出力の発光素子用途の発光
層として好適な不均質な内部組織を有するIII 族窒化物
半導体活性層の形成方法に関する。
【0002】
【従来の技術】Alx Gay Inz N(x+y+z=
1、0≦x,y<1、z≠0)等のインジウムを含有す
るIII 窒化物半導体は、青色或いは緑色等の短波長光を
放射する発光ダイオード(LED)やレーザーダイオー
ド(LD)等や、高移動度電界効果型トランジスタ(M
ODFET)等の電子デバイス用途の母体材料を構成す
る一構成層として利用されている。特に、窒化ガリウム
・インジウム混晶(GaxIn1-x N:0≦x≦1)か
らなる結晶層は発光素子にあっては活性層、即ち発光層
として常用されるに至っている。
【0003】LED等の発光素子にあって、素子の呈す
る発光強度は発光層を構成する結晶層の結晶品質並びに
結晶学的な内部組織に大きく依存する。例えば、従来か
ら発光強度に優れる発光素子を得んがために発光層を構
成する結晶層には、(1)転位や積層欠陥等の結晶欠陥
密度が小であること、(2)抵抗値等の電気的特性が均
一であることなどの品質が要求されている。混晶層を発
光層とする場合にあっては、これらの品質に更に層内の
混晶組成比の均一性が要求されて来た。III 族窒化物発
光素子で発光層として利用される窒化ガリウム・インジ
ウム混晶層にあっても(1)結晶の均質性、(2)組成
の均一性が従前通りの主たる要求項目であった。換言す
れば、均質な結晶性と均一な混晶組成比を有する所謂、
単一の組成の均質な相(phase)からなる窒化ガリ
ウム・インジウム混晶層が、発光強度を向上させる上に
都合が良い発光層として漠然的に且つ慣習的に要求され
て来たのが現状である。
【0004】発光層としての窒化ガリウム・インジウム
混晶には、結晶性の均質性や混晶組成比の均一性が要求
される一方で、均質な混晶組成比を有する窒化ガリウム
・インジウム混晶を安定して定常的に得るには、成長上
の多大の困難さが伴うことが教示されている。その主た
る原因は窒化ガリウム・インジウム結晶層が混晶組成比
を相互に異にする相に分離する性質を保有していること
による(Jpn.J.Appl.Phys.,46
(8)(1975)、3432.)。窒化ガリウム・イ
ンジウム結晶層に於いて、混晶を構成する窒化ガリウム
と窒化インジウムの双方の共有結合半径の相違による非
混和性から、混晶層内部に混晶組成比の不均一さが生ず
ることは最近の研究に於いても確認されている(199
6年秋季第57回応用物理学会学術講演会講演予稿集N
o.1、講演番号8p−ZF−14、209頁参照)。
即ち、従来から思料されていたのとは逆に、発光層とし
て利用されている窒化ガリウム・インジウム結晶層は、
本来組成が均一な混晶層とは成り難いのが明らかになり
つつある。
【0005】しかも、窒化ガリウム・インジウム結晶層
等のインジウムを含有するIII 族窒化物半導体を発光層
とするLEDなどの発光素子にあって、素子の発光出力
は発光層を構成するIII 族窒化物半導体結晶層内部の結
晶組織構造に依存することが最近、知れるに至ってい
る。窒化ガリウム・インジウムを発光層とする発光素子
の場合、発光出力は必ずしも発光層を構成する結晶層の
結晶組織的な均質性の向上をもって達成されるのではな
く、むしろ適度の結晶組織的な不均質性を存在させるこ
とをもって助長されると思料されるに至っている。即
ち、発光層の結晶学的な不均質性は発光素子の発光出力
に影響を与える支配的な因子として重要視されている。
窒化ガリウム・インジウム結晶層を例にすれば、結晶組
織的な不均質性とは(1)インジウム濃度の不均一性で
あり、また(2)相の多様性などである。より具体的に
記述すれば、インジウム濃度を異にする複数の相からな
る窒化ガリウム・インジウム結晶層は、結晶組織的な不
均質性を内在する発光層の主要な例である。複数の相か
らなる結晶層の一例には、基板表面近傍の格子配列と略
平行な格子配列を有する薄層状の固体相と、これとは配
列方向を異にする粒状の固体相等とを含む窒化ガリウム
・インジウム結晶層が挙げられる。
【0006】インジウムを含有するIII 族窒化物半導体
発光層の代表な例を窒化ガリウム・インジウム発光層と
し更に説明を加えるに、窒化ガリウム・インジウム結晶
層の相の多様性は上述の如く窒化ガリウム・インジウム
の非混和性と云う熱力学的な性質に起因するものであ
る。従って、窒化ガリウム・インジウム結晶層の非混和
性に主に基づく結晶学的な相の不均質性の度合いは、そ
の成長過程或いはそれに付随するプロセスで被る加熱或
いは冷却等の熱的条件に依存することが示唆される。此
処で均質で単一の相から構成される従来の認識によった
窒化ガリウム・インジウム結晶層を発光層として具備す
るLED用途の積層構造体の形成時の温度的な変化を省
みる。先ず、図1に窒化ガリウム・インジウム発光層を
備えた代表的な従来のLED用途積層構造の断面模式図
を提示する。積層構造体は基板(101)表面上に順
次、積層した低温緩衝層(102)、下部クラッド層
(103)、発光層(104)、上部クラッド層(10
5)及びコンタクト層(106)各構成層から構成され
るのが通例である。この積層構造体を接合様式の観点か
ら分類すれば、発光層(104)と上下のクラッド層
((103)及び(105))とで形成されるダブルヘ
テロ(DH)接合構造を含むものとなる。発光層は不均
質性等に特に言及されていない従来の窒化ガリウム・イ
ンジウム結晶層から構成されている。図2にこの様なL
ED用途の積層構造体を構成する各構成層の成長に供さ
れる温度変化の従来の開示例を示す(「光学」、第22
第11号(1993年11月)、670〜675頁参
照)。窒化ガリウム・インジウム結晶層からなる発光層
を成長する過程(114)に到達する以前には、(イ)
積層構造体を形成するに当たり基板となる材料の表面を
清浄とするために基板材料を室温近傍の温度から約90
0℃から約1200℃の間の温度に昇温する過程(10
7)、(ロ)基板表面の清浄化のために通常は一定温度
で一定の時間実施されるのサーマルエッチング過程(1
08)、(ハ)サーマルエッチングを実施する温度より
緩衝層の成長温度へ冷却する過程(109)、(ニ)一
般には約400℃〜約600℃の一定の温度でサーマル
エッチングを施した基板表面上に緩衝層を成長する過程
(110)、(ホ)比較的低温で成長した緩衝層上に下
部クラッド層を兼用する、例えば伝導形をnとする窒化
ガリウム(GaN)層を成長するために、約900℃〜
約1200℃の間の温度に昇温する過程(111)、
(ヘ)通常、約900℃〜約1200℃の間の一定の温
度で下部クラッド層を成長する過程(112)、及び
(ト)下部クラッド層の成長を終了した後、窒化ガリウ
ム・インジウムからなる発光層を成長するための温度へ
積層構造体(基板)の温度を降下させる過程(113)
を経過するのが極く一般的となっている。窒化ガリウム
・インジウム発光層を成長する当たり成長温度を敢えて
低下させるのは易昇華性の窒化ガリウム・インジウム結
晶の熱的分解や逸失を成長温度の低下をもって抑制する
ためである(JOURNAL DE PHYSIQUE
IV、Vol.5(C5)(1995)、C5−117
3〜C5−1178頁参照)。
【0007】発光層となる窒化ガリウム・インジウム結
晶層の成長を行う過程(114)の温度は有機金属熱分
解気相成長法(MOCVD)を例にすれば約650℃〜
約950℃が一般的である。成長温度に幅が存在するの
は、目的とするインジウム組成比に依存して結晶性の観
点から最適な成長温度が異なるからである。高いインジ
ウム組成比の窒化ガリウム・インジウム結晶層の成膜を
期す程、一般には低温度で成長が実施されている。一
方、窒化ガリウム・インジウム結晶層の結晶性は成長温
度の低下に伴い悪化する。青色等の短波長LED用途の
窒化ガリウム・インジウム発光層にあっては、インジウ
ム組成比は、実用上約0.05(5%)から約0.20
(20%)の範囲内に設定されることが多い。この様な
インジウム組成比の窒化ガリウム・インジウム結晶層は
良好な結晶性及びインジウムの取り込まれ率の維持の双
方の項目を折衷的に考慮した場合、成長温度として約8
00℃〜約900℃が好ましいとされている。
【0008】発光層の形成を終了した後は、再び昇温し
て上部クラッド層等を形成するための昇温過程(11
5)に移行する。上部クラッド層は窒化アルミニウム・
ガリウム混晶層から構成するのが一般的である。その形
成温度は概ね950℃〜1200℃の温度に設定されて
いる。従って、この過程では発光層は発光層の成長温度
から950℃〜1200℃の範囲の温度へ昇温される。
しかし、従来技術に於いてこの昇温過程での昇温速度を
明確に規定した例はない。昇温後は発光層上に上部クラ
ッド層及びコンタクト層を形成する過程(116)とな
る。コンタクト層は窒化ガリウムから構成するのが通常
である。その形成温度は上部クラッド層の場合とほぼ同
様の約950℃〜1200℃前後の温度とするのが一般
的である。従って、発光層上に機能層を重層させる際に
は、云わば発光層はその成長温度よりもより高温に暴露
されるのが通例である。発光層上へ機能層を重層するた
めに発光層が高温に曝される期間は、最低限所望の層厚
に至る迄実施される機能層の成膜時間である。通常は機
能層の成長を開始する以前に、成長用原料ガスの流量の
安定化等のために高温の機能層成長温度に暫時待機する
期間を設けるのが一般的である。発光層上への機能層の
配置に伴い発光層が高温に暴露される期間は、従来例に
於いては機能層の成長開始以前の待機期間を含めて5分
間から240分間(「固体物理」、第25巻第6号(1
990年6月)、35〜41頁)、或いは約60分間で
ある(J.Crystal Growth、98(19
89)、209〜219頁.)。これら従来に於ける高
温での待機時間はあくまでも所望する層厚の機能層を得
るために要する成長期間から決定されるものである。こ
の発光層の成長温度より高温に発光層が滞在する期間が
長期に亘れば、発光層の結晶組織に変化を来すであろう
ことは充分に推測される。しかし、現時点に於いて発光
層をその成長温度より高温で保持する場合に結晶組織の
変遷の観点から高温での滞在期間を明確に規定した例は
知られていない。窒化ガリウム・インジウム結晶層を発
光層とする上記の如くの積層構造体の形成が完了した後
は、積層構造体を室温近傍の温度迄降温する冷却工程
(117)に移行する。室温近傍の温度には自然放冷に
よって降温するのが通例であるが、冷却(降温)速度を
規定する技術例がある(特開平8−32113号公報参
照)。従来の技術例に於いて冷却(降温)速度を規定す
る目的は積層構造体が被る歪の量の低減にある(上記の
特開平8−32113号公報参照)。即ち、この従来技
法は冷却時に於ける急激な温度変化に因り積層構造体の
全体にクラック等の不具合が発生するのを抑制するため
の手段であって、特に窒化ガリウム・インジウム発光層
の内部の結晶組織或いは混晶組成の不均一化を意識的に
変更することを意図した手段となってはない。即ち、窒
化ガリウム・インジウム結晶層を発光層として包含する
積層構造体を形成する従来の方法にあっても、発光層の
不均一化を促進する若しくは結晶学的な内部組織等に変
更を加えることを意図した特別な手段、例えば適当な昇
温或いは冷却手段を備えた発光層の形成方法は未だ開示
されていない。要約すれば、混晶組成比の乱雑性等を備
えた窒化ガリウム・インジウム結晶層を安定して得る特
定の目的をもった窒化ガリウム・インジウム発光層の形
成方法は、従来技術に於いて採用されるに至っていな
い。
【0009】以上、窒化ガリウム・インジウム結晶層か
らなる発光層を具備したLED用途の積層構造体の従来
からの形成方法を成長温度の経時的な変化から記述し
た。温度プロセスの観点からの従来技術の要点は、
(A)発光層とする窒化ガリウム・インジウム発光層は
形成終了後に高温に昇温する、(B)発光層上への機能
層の重層が終了するに至る迄の期間に発光層は高温下に
暴露される、及び(C)結晶の内部組織の形態変化の制
御の観点から観て適正化されていない速度で冷却するこ
とである。発光層の成長が終了した後の昇温の過程は相
分離現象から観れば、上記の様な昇温過程は相分離が促
進される過程である。或いは特定の元素の転位などの特
定領域への凝縮等により、「核」の発生が助長される過
程である。しかしながら、この様な熱的挙動の観点から
発光層の内部の結晶組織に発光素子にとって好都合とな
る何らかの変化を来すための昇温条件は確定されていな
いのが実状である。また、発光層は設定された成膜速度
の基で所望する層厚に到達する迄、高温に継続して保持
されるのが従来の常であった。相分離現象の観点からす
れば、高温での保持期間の冗長は分離した相が醸成され
る過程であり、分離した相の体積が増加する或いは形状
に変化を来す過程である。従って、高い発光出力をもた
らすに好都合な発光層とするには、発光層上に他の層を
重層する場合等に於ける高温での保持期間を規制する必
要があるにも拘らず、現状に於いて成膜温度以上の高温
に於ける窒化ガリウム・インジウム発光層の保持期間に
関してその熱的挙動の観点からの規定は未だ知られてい
ない。窒化ガリウム・インジウム結晶層を発光層として
具備した積層構造体の形成を終了した後の冷却方法につ
いても事態は同様で、上記の如く積層構造体が被る歪な
どの観点から決定されているに過ぎない。熱的な現象か
らすれば冷却過程は相の占有する体積の平均化或いは分
離相の分布の均等化が達成される過程であって、分離相
の体積並びに形状の均等化に影響を及ぼす過程である。
窒化ガリウム・インジウム結晶の熱的挙動に鑑み冷却の
条件に言及した従来例はない。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】本発明は高輝度の短波
長発光素子用途の発光層として好都合とされる不均質な
結晶組織を有する発光層を安定的に得るために、インジ
ウム含有III 族窒化物半導体の熱的な挙動の観点から最
適化された発光層の被熱プロセスを提示することを目的
とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】即ち、本発明は温度T℃
(但し、650℃<T≦950℃)で形成したインジウ
ム含有III 族窒化物半導体結晶層からインジウム濃度を
異にする複数のIII 族窒化物半導体相から構成される組
成的に不均質なIII 族窒化物半導体活性層を形成するに
際し、T℃で成長したIII 族窒化物結晶層をT℃から
T’℃(但し、950℃<T’≦1200℃)に毎分3
0℃以上の速度で加熱する昇温工程と、該結晶層をT’
で示される帯域の温度で被熱する時間を合計して60分
以下に制限した加熱工程と、該結晶層をT’より950
℃迄、毎分v℃の速度で冷却する第1の冷却工程と、該
結晶層を950℃から650℃の範囲の温度に毎分w℃
(但し、v>w)の速度で冷却する工程を含む第2の冷
却工程を備えたIII 族窒化物半導体活性層の形成方法を
提供する。特に、上記の冷却速度vを20℃/分以上
に、冷却速度wを20℃/分未満に制御することを特徴
とするIII 族窒化物半導体活性層の形成方法を提供する
ものである。
【0012】本発明に係わるインジウムを含有するIII
族窒化物半導体から成る活性層は、一般式 Alx Ga
y Inz N(x+y+z=1、0≦x,y<1、z≠
0)で表されるものがある。また、一般式 Alx Ga
y Inz1-a Asa (x+y+z=1、0≦x,y<
1、z≠0、0≦a<1)、或いは一般式Alx Gay
Inz1-bb (x+y+z=1、0≦x,y<1、
z≠0、0≦b<1)で表される砒素(As)やリン
(P)などの、窒素以外の第V族元素を構成元素とする
窒化物化合物半導体からも本発明に係わる活性層を構成
することができる。本発明ではこれらのIII 族窒化物化
合物半導体材料から活性層を形成した後、当該活性層の
結晶組織に変更を与えることを目的として最適化された
熱処理を施すのであるが、この熱処理は活性層の配置状
況に拘らず、即ち、積層構造体に於ける様々な活性層の
配置状況に拘らず施すことができる。要は熱処理の対象
とする積層構造体には活性層の配置等の構成上の特別な
限定は加わらない。活性層が表面に露呈する構成の積層
構造体であっても、また、活性層上に他のIII 族窒化物
半導体層を重層した構成の積層構造体であっても構わな
い。活性層の配置状況からみて最も簡略な重層構成から
なる積層構造体の一例には、サファイアのC(または
c)結晶面、M(またはm)結晶面或いはR(または
r)結晶面からなる基板表面上に、III 族窒化物半導体
活性層を直接重層してなる構造体が挙げられる。発光素
子用途の積層構造体は通常は活性層の周辺に発光に関係
して種々の電気的な機能を果たすクラッド層を配置した
ヘテロ接合構成となるため、積層構造体の構造はより複
雑となる。発光素子用途のIII 族窒化物半導体からなる
一般的な非対称積層構造体の構成例は前記の図1に観る
ことができる。
【0013】本発明では温度T℃で形成した上記の如く
のインジウム含有III 族窒化物半導体結晶層から、イン
ジウム濃度を異にする複数のIII 族窒化物半導体相から
構成される組成的に不均質なIII 族窒化物半導体活性層
を形成するために、活性層に熱処理を施すものである。
活性層の形成温度(T℃)を650℃を越え950℃以
下とするのは従来からのインジウム含有III 族窒化物半
導体層、特に窒化ガリウム・インジウム結晶層の一般的
な成長温度がこの範囲にあるからに過ぎない。即ち、本
発明は従来の成長温度で成長させた全ての活性層に適応
するものである。組成的に不均質なIII 族窒化物半導体
活性層とは、活性層の内部でのインジウムの組成比(濃
度)が不均一である活性層を云う。インジウムを含有す
るIII 族窒化物半導体にあっては、インジウム組成比の
不均一性は熱処理により分離して発生した相の相互間に
於けるインジウム濃度の差異に基づいている。窒化ガリ
ウム・インジウムからなる活性層を例にして説明すれ
ば、熱処理により様々なインジウム組成比の相が活性層
内に発生することをもって組成的に不均一な窒化ガリウ
ム・インジウム活性層と成る。より具体的に示せば、例
えば窒化ガリウム(GaN)からなる固体相とインジウ
ム組成比を0.05(5%)とするGa0.95In0.05
混晶からなる固体相とインジウム組成比を0.15(1
5%)とするGa0.85In0.15N混晶からなる固体相と
が混在してなる窒化ガリウム・インジウム活性層など
は、組成的に不均一なIII 族窒化物半導体活性層の一例
である。これらインジウム組成比を異にする固体相が活
性層内で占有する領域は同等とは限らない。一般的な傾
向をもってすれば、インジウム含有III 族窒化物半導体
結晶層は熱処理を施すと、活性層の大部分を占有する主
たる相(主体相と仮称する)と、主体相の一部の領域を
占める従属的な相(従属相と仮称する)とに分離する傾
向がある。主体相は概してインジウム組成比を比較的小
とする材料から構成され、従属相は高インジウム組成比
の材料から構成される傾向がある。形態的にみれば、主
体相は単結晶、多結晶或いは無定形(アモルファス;a
morphous)、またはこれらの結晶形態が混在す
る層として存在する場合が多い。従属相は外形を方形
状、多角形状或いは球状などとして主体相の内部に散在
している場合がほとんどである。
【0014】本発明では、T℃から活性層の加熱温度で
あるT’℃へ昇温する際の昇温速度を毎分30℃以上、
例えば50℃/分とする。昇温速度がこれより遅いとI
n原子が転位等の欠陥に集中し易くなるからである。発
光層をT℃からより高温へと加熱する過程は、いわば発
光層を構成するインジウム含有III 族窒化物半導体層に
あって主体相内に従属相の形成を誘引する「核」を発生
させる段階である。この「核」を起源にしてやがて従属
相に発展する。従属相は例えば、通常の透過電子顕微鏡
(TEM)を利用した活性層の断面TEM観察法によ
り、その存在を確認できる。断面TEM法では、主体相
に断面形状を台形状或いは円形状などとする粒状の従属
相が散在する模様をコントラスト像として撮像できる。
断面TEM像にあってインジウム濃度を主体相に比較し
て大とする従属相は、主体相からの背景上に黒色を帯び
た多くは円形状或いは楕円状のコントラストとして観測
される。この黒色コントラストは転位或いは積層欠陥に
起因する半ば直線状の陰影とは明らかに起因を相違する
ものである。従って、この黒色コントラストが発生して
いる状況から従属相の分布状況や存在密度等の情報が獲
得できる。相内のインジウム濃度はEPMA(電子線マ
イクロアナリシス)等の微小領域の組成分析機能を備え
た一般的な分析用電子顕微鏡(分析電顕)などを利用す
れば知ることができる。
【0015】上記の昇温速度は活性層内部に従属相への
育成をもたらす「核」の一様な発生を促すために決定さ
れたものである。T℃からT’℃への昇温速度が小であ
れば、活性層がT℃からT’℃の温度帯域に滞在する時
間が冗長となる。活性層の一構成元素であり、やがては
濃度の差こそあれ主体相や従属相に含有されることとな
るインジウムは容易に熱拡散を起こす。従って、活性層
を成長温度(T℃)を越える温度に長時間に亘り放置す
ると、活性層内のインジウムには充分に周囲に拡散する
機会が付与されることとなる。昇温時間の長時間化はイ
ンジウムの拡散距離の増大を招き、これに起因してイン
ジウムが活性層内の特定の領域に捕獲される度合いが増
加する。活性層内部の特定の領域とは転位等の結晶欠陥
が存在する領域であり、また、被熱により歪が発生した
領域など応力が集中して存在する領域が多い。特定の領
域に偏在したインジウムは従属相の形成を促進する上記
の「核」の発生に寄与する。即ち、活性層のT℃から
T’℃への過度に緩慢な昇温は、活性層内部に於ける従
属相の非一様な分布を誘発する。従属相の非一様な分布
は、しいては発光素子にあって素子間の発光強度の不均
一性を招く。
【0016】T℃からT’℃への昇温速度を必要以上に
極端に大とすると活性層内での主体相と従属相の発生に
よる不均質化には効果があるが、反面、従属相が出現す
る領域が主体相の特定の領域に集中する事態を招きかね
ない。活性層の急激な加熱は活性層の内部に局部的に歪
を発生させる。熱的に拡散し易いインジウムはこの様な
歪が発生した領域に移動し蓄積される。これより、熱歪
が掛かった特定の領域に於いてインジウムを含む従属相
が高密度に発生する。即ち、組成的に不均質な層を形成
することができるものの、活性層全体からみれば従属相
の分布は一様ではなくなる。LEDにあって、発光強度
の均一性は主体相内の従属相の存在密度の一様性に依存
するものである。従って、従属相の存在密度の分布はし
いては発光強度の分布を招き、一定の発光強度を保有す
る発光素子を安定的に得る際の支障となる。従属相の局
部的な分布を誘発する不都合な歪を発生させる昇温速度
は概ね、200℃/分を越える速度である。
【0017】本発明の条件で活性層に加熱を施す温度
T’℃に昇温した後は同温度に於いて規定の期間に亘り
加熱する。上記の昇温条件下で主体相内に発生した従属
相の大きさ(体積、表面積)の均一化を達成するために
設けるものである。従属相の大きさは活性層から放射さ
れる光の波長の単一性を左右する。本発明では主体相中
に散在する従属相の大きさの均一化を活性層の加熱処理
をもって達成する。従属相の大きさに変化を来す温度は
活性層の成長温度(T℃)を越える温度である。一方、
1200℃を越える温度での加熱処理は、活性層を構成
するインジウムを含有するIII 族窒化物半導体層の昇華
が激しく起こるため、活性層そのそものが損失する。従
って、本発明ではインジウム含有III 族窒化物半導体か
らなる活性層の加熱を950℃を越え1200℃以下の
範囲にある温度で実施する。最適な加熱温度は活性層の
成長方式、成長温度(T℃)、形成条件等に依存して上
記の温度範囲内で微妙に異なるが一括して記号T’で表
し、本発明ではこの温度T’℃に於ける加熱保持時間に
明確な規定を加える。
【0018】上記した断面TEM法による観察では、加
熱温度を高温とする程従属相の体積が増加する傾向が認
められる。また、高温での加熱時間の延長により従属相
の体積は増加する。主体相中にほぼ孤立して散在する従
属相の体積が増加すれば、従属相をなす結晶体相互の融
着、融合の機会が増す。微結晶体の融合が顕著に進行す
れば従属相が占有する体積は不必要に増加する。微結晶
体(従属相)の体積の増大は禁止帯幅(バンドギャッ
プ:bandgap)の低下をもたらすのは、シリコン
(Si)微結晶体の発光に関する最近の研究成果が教え
るところである(B.Delley and E.F.
Steigmeier、Phys.Rev.、47(1
993)、1397.)。青色帯或いは緑色帯などの短
波長領域の発光を意図した窒化ガリウム・インジウム発
光層を一例にすれば、主体相中の微結晶体(従属相)の
相互の融合の結果による微結晶体の体積は禁止帯幅の拡
張による発光波長の不必要な長波長化をもたらし、所望
する短波長の発光を得る際に支障となる。また、個々の
微結晶体にあってもその体積の増加率は必ずしも一定で
はない。加熱過程の期間が冗長となると体積増加率の相
違に基づく微結晶体相互の体積の差異はより顕著に発現
する。上記の如く(前記のPhys.Rev.、43
(1993)参照)、微結晶体の体積(或いは表面積)
は発光波長に影響を与える。即ち、発光層の加熱時間の
過度の延長は微結晶体の体積の差異を顕著にし、発光波
長の不画一化を誘発する不具合を招く。本発明では
(1)加熱により活性層の損失を来たさず、発光強度の
低下を帰結しない期間であること、(2)相互融合によ
る顕著な結晶体(従属相)の体積の増加に起因する発光
波長の長波長側への移行を帰結しない期間であること、
及び(3)結晶体(従属相)の体積に適度の増加をもた
らし且つ体積の画一化に寄与する期間であることを根拠
として温度T’℃に於ける活性層の加熱時間を60分以
内に制限する。温度T’℃での加熱時間が60分を越え
ると活性層の熱的損壊、変性の度合いが顕著となり、発
光強度に優れる活性層などを得るに不都合である。ま
た、個々の結晶体(従属相)の体積増加率の相違による
結晶体の体積の差異が大きくなり、発光スペクトルの半
値幅が拡副するなど単色性(発光色の純度)に優れる発
光をもたらす活性相を獲得するに支障を来す。温度T’
℃での加熱期間が逆に極端に短いと、個々の結晶体(従
属相)がほぼ一定の体積に成長するに充分な熱エネルギ
ーが付与されない。この場合、結晶体(従属相)の体積
は発光波長の長波長側へのシフトするまでには充分に肥
大するに至らず、比較的小体積を維持して主体相内に散
在する場合が多い。従って、所望の波長の発光をもたら
すのに適する体積を保有する結晶体(従属相)を充分に
均等に形成させる手段には至らない。断面TEM法を利
用した観察結果を基に判断すれば、加熱温度T’℃に於
ける最低の処理時間として概ね3分間が推奨される。例
えば、加熱処理時間を比較的短時間である約4〜5分間
程度に設定しても、加熱処理温度を適宣調整すれば本発
明に係わる不均質な結晶組織を有する活性層は充分に形
成し得ることが断面TEM技法による活性層内部の結晶
構造の観察結果から知れる。
【0019】活性層に加熱処理を施す一方式として、活
性層を950℃を越え1200℃以下の範囲の或る一定
の温度で一定期間内保持する方式がある。例えば、11
00℃の一定の温度で20分間に亘り活性層を加熱処理
する方式がこれに該当する。他には、時間的に加熱温度
を上記温度範囲内で変化させる加熱処理方式も許容され
る。即ち、上記の加熱処理を施すための温度範囲内であ
れば、加熱温度(T’)を必ずしも一定に維持する必要
はなく、T’を時間的に変化させる加熱処理方式も許容
される。加熱温度を経時的に変化させる加熱処理方式に
あっては、加熱温度(T’)が950℃<T’≦120
0℃の範囲内に滞留する時間をもって加熱時間とする。
経時的に温度を変化させて活性層に加熱処理を施す一例
には、850℃で成長させたIII 族窒化物半導体活性層
(T=850℃)について初期温度を1050℃として
加熱処理を開始し、同温度より800℃に至る迄毎分1
0℃の割合で降温する活性層の加熱処理方法が挙げられ
る。また、本発明に規定される範囲内の温度T’℃間で
の降温若しくは昇温速度は一律とする必要は何も無く、
複数の降温或いは昇温速度をもって加熱処理する方式も
ある。
【0020】活性層に加熱処理を実施する時期は特定さ
れない。活性層を形成した直後に、例えば活性層の成長
に供した成長炉内で継続して加熱処理を実施できる。活
性層を最表層とする積層構造体(活性層が表面に露出し
た構成の積層構造体)にあっては、積層構造体の形成を
終了したる後一旦室温近傍の温度に迄冷却して成長系の
外部へ取り出す。然る後、露呈している活性層の表面を
二酸化珪素(SiO2)や炭化珪素(SiN)等の保護
膜で被膜し、再び積層構造体の温度を昇温させ、温度
T’で加熱処理を施す措置も例示できる。更には、III
族窒化物半導体活性層を成長に供した装置より取り出し
たる後、活性層に加熱処理を施すための別の専用装置内
で加熱処理を施しても本発明に係わる結晶組織を保有す
る活性層は形成できる。例えば、830℃(T=830
℃)で成長させた窒化ガリウム・インジウム発光層を具
備した積層構造体を形成した後冷却し、専用の加熱処理
装置を利用して同積層構造体に950℃を越え1200
℃以下の温度で加熱処理を施すのも本発明に係わる活性
層の形成方法の一例である。
【0021】本発明が提示する活性層に対する加熱温度
(T’)の範囲は、活性層上にクラッド層等の機能層を
重層させる際に利用される成長温度の範囲に合致する。
発光素子用途のDH接合構造は、活性層とその層上の上
部クラッド層としての窒化アルミニウム・ガリウム系混
晶(Alx Ga1-x N:0≦x≦1)を要素として構成
される。この類の窒化アルミニウム・ガリウム系混晶の
成長に極く一般的に利用される成長温度は、概ね約90
0℃を越え1200℃以下の範囲である。母体を構成す
る材料を窒化ガリウム・アルミニウム混晶とする限り、
この窒化アルミニウム・ガリウム混晶について利用され
る成長温度の範囲には殆ど変化はない。この活性層上へ
重層する上部クラッド層の成長温度と本発明の云う加熱
温度との重複により、本発明の加熱処理を上部クラッド
層の成長をもって代替することができる。例えば、温度
1100℃で20分間に亘る窒化アルミニウム・ガリウ
ム混晶からなる上部クラッド層の成長過程をもって、
T’を1100℃とする20分間に亘る活性層の加熱処
理の代用とすることが可能である。活性層上に堆積する
次層の成長にあって、次層の成長温度は本発明のT’に
合致するものの、所望の層厚を得るために要する時間、
所謂成長時間が本発明の規定する加熱時間を越える場
合、成長速度を大とすることをもって次層の成長時間を
本発明の規定する加熱処理時間以内(60分間以内)と
する。
【0022】加熱処理工程を終了した後の活性層は冷却
する。この冷却過程は本発明の活性層の形成方法にあっ
ては加熱処理を通して発達させた主体相内の従属相の分
布状況を定着させるための工程である。また、従属相の
略均等な分布を定着させるための急激な降温により生じ
た活性層或いは活性層を備えた積層構造体の変形を緩和
するための工程でもある。従属相を形成するための
「核」を改めて発生させる、或いは結晶体等の形状を採
る従属相の体積の増大、発達を改めて促すことを目的と
した工程ではない。本発明では温度T’℃で加熱処理し
た活性層を或る温度に2段階で冷却する。加熱温度T’
℃から活性層の最高の成長温度である950℃への降温
過程を第1の冷却工程とする。950℃より活性層の最
低の成長温度である650℃への降温過程を第2の冷却
工程とする。本発明ではこれらの第1及び第2の冷却工
程に於ける冷却速度の関係を規定することを特徴として
おり、第1の冷却工程での毎分の冷却速度v(℃/分)
と第2の冷却工程での毎分の冷却速度w(℃/分)との
関係をv>wとする。
【0023】第1の冷却過程は加熱工程で主体相の内部
にほぼ均等に発生させた従属相の均等な分布を定着させ
るために設ける工程である。この冷却工程に於いては緩
慢な速度の冷却は、従属相の主体相内部での移動或いは
場合に依っては主体相からの逸脱を誘引し、従属相の略
均等な分布を崩壊させる。従って、第1の冷却工程に於
ける冷却速度v(℃/分)は強制風冷等の手段を利用し
て、自然放冷による降温速度よりも遥かに早い速度に設
定する。自然放冷の速度は加熱処理を施した装置の放冷
環境や装置を構成する部品の熱容量等に依存して相違す
るものである。断面TEM技法による観察結果を基に具
体的に冷却速度を判断すれば、結晶欠陥等への従属相の
凝縮、蓄積等に依る顕著な遍在を抑制できるのは約20
℃/分を越える冷却速度の場合である。例えば、本発明
の云う加熱温度(T’℃)の範囲にあって特に、頻繁に
利用する約1000℃〜約1150℃で本発明に係わる
加熱処理を実施した後、950℃へ降温する際の冷却速
度(v)は望ましくは20℃/分以上に設定する。ま
た、好ましくはvを30℃/分以上とする。950℃を
越える高温領域での活性層の冗長な滞在は従属相の再分
布を助長するのみである。局所的な領域への極端な遍在
を防ぐにはこの温度帯域を通過するに要する時間即ち、
冷却速度の調節が最も効果がある。例えば、1100℃
で本発明に係わる加熱処理を終了した後、950℃に毎
分5℃の緩慢な速度で30分間で降温すると従属相の転
位等の結晶欠陥が密集している領域への移動を誘発す
る。
【0024】第1の冷却工程に引き続く第2の冷却工程
では、第1の冷却工程での比較的、急激な冷却で活性層
内部に新たに付与された熱歪に起因する機械的な変形を
焼鈍により回復させることを主たる目的として設ける工
程である。従って、この冷却工程では、第1の冷却工程
に於ける冷却速度vより小さい冷却速度wを採用する。
第1の冷却工程に於ける冷却速度vを20℃/分以上に
規定していることからwは毎分20℃を越えない緩い冷
却速度とする。第2の冷却工程では、第1の冷却工程と
は逆に冷却速度を小さくする程、変形を回復するための
焼鈍の効果は上げられる。第2の冷却工程に於いて冷却
速度を小とすることは950℃から650℃に到達させ
る期間の遅延に帰結する。換言すれば、処理時間の延長
をもって焼鈍の効果をより発揮させるものである。この
ため、第2の冷却工程では処理時間を延長してより焼鈍
の効果を得るために950℃から650℃の範囲の或る
一定の温度で保持する処理手法も許容される。図3に活
性層の冷却過程に於ける経時的な変化例を提示する。同
図では活性層の加熱処理を終了した時点を便宜上、時間
にして零(0)としてある。冷却工程に於ける温度の変
化の例を図3に温度プロファイル(イ)〜(ニ)で示
す。 (イ)活性層の加熱処理を1080℃(T’=1080
℃)で30分間行った後、1080℃より950℃へ毎
分30℃の速度で冷却する第1の冷却工程と、継続して
950℃から650℃へ毎分10℃の割合で冷却する第
2の冷却工程とを採用した温度変化を示すプロファイ
ル。 (ロ)850℃(T=850℃)で成長させた窒化ガリ
ウム・インジウム活性層上に、1150℃(T’=11
50℃)で窒化アルミニウム・ガリウム混晶からなる上
部クラッド層及び1050℃(T’=1050℃)で窒
化ガリウムからなるコンタクト層を堆積した後、105
0℃から950℃に毎分40℃の速度で2.5分間で降
温する第1の冷却工程と、引き続き950℃から800
℃に5℃/分で降温させた後、一旦、800℃に15分
間に亘り保持して更に、800℃より650℃に10℃
/分の速度で降温する第2の冷却工程とを採用した温度
変化を示すプロファイル。 (ハ)800℃で成長させた活性層(T=800℃)上
への1020℃での上部クラッド層並びにコンタクト層
を合計35分間に亘り堆積させる操作をもって本発明の
加熱処理をなした後(T’=1020℃)、1020℃
から950℃に70℃/分の速度で1分間で降温する第
1の冷却工程と、950℃から活性層の成長温度とした
800℃に毎分5℃の速度で降温する過程と800℃か
ら650℃に毎分10℃の速度で降温する過程とからな
る第2の冷却過程を実行する際の温度変化を示すプロフ
ァイル。 (ニ)900℃で窒化アルミニウム・ガリウム・インジ
ウム結晶(Alx GayInz N:x+y+z=1、0
<x,y,z<1)からなる活性層を形成し(即ち、T
=900℃)、同活性層上に1080℃で20分間に亘
り窒化アルミニウム・ガリウム混晶(Alx Ga1-x
N:0<x<1)からなる上部クラッド層を成長させる
ことをもって本発明の加熱処理を代用した後(即ち、
T’=1080℃)、成長装置内の雰囲気ガスを充分に
切り換えるために5分間同成長温度(=T’)に保持し
た後、同一の成長装置内で950℃へ40℃/分の速度
での降温して第1の冷却工程を終え、継続して950℃
から800℃に10℃/分の速度で、更に800℃から
650℃に15℃/分の速度で冷却する2段階の冷却で
第2の冷却工程を経た温度プロファイル。上記の(ニ)
の温度の経時的変化の例に記載した様に、本発明の加熱
処理を代用する成長操作が終了した後、続けて同温度に
保持する操作が必要とされる場合にあっても、成長操作
及び成長操作に付随する操作を完了させるために活性層
を温度T’に滞在させる期間は、合計して本発明に規定
する通り60分間以内に留める。
【0025】活性層の内部結晶組織に変化を与えるため
には、本発明に掲げる全工程を通過させる必要がある。
即ち、(1)温度T℃(650<T≦950)で成長し
た活性層を加熱処理温度T’℃(950<T’≦120
0)へ昇温する工程、(2)温度T’℃での加熱処理工
程、及び(3)加熱処理終了後の第1及び第2の工程か
らなる冷却工程の3工程を本発明の規定する条件下で実
施することをもって、始めて本発明に記載する効果を奏
すものである。何れかの工程の削除は本発明の効果を発
揮するに至らない。あくまでも上記の全3工程の組み合
わせにより本発明の効果は達成されるものである。冷却
工程は加熱工程に付随する工程であって両工程は間断を
入れず連続して実施する必要がある。昇温工程と、加熱
及び冷却工程とは分断して実施しても差し支えはない。
例えば、室温近傍の温度迄一旦、冷却した温度T℃で成
長した活性層を対象として、加熱及び冷却工程を施す工
程流通方法も許容される。一旦、冷却する際の冷却速度
には特に規定はない。本発明の冷却工程で採用する冷却
速度としても勿論構わない。活性層の内部結晶組織の変
化はあくまでも昇温或いは加熱工程によって誘引される
ものであって、本発明の加熱処理を施工していない活性
層にあっては、T℃より例えば室温への冷却速度を如何
に選択しようとも、活性層の結晶組織を変化させるに充
分に足る影響を及ぼさないからである。
【0026】本発明は650℃未満の低い温度領域に於
ける降温速度には、特に限定を加えない。650℃未満
の温度から室温近傍の温度へは自然に放熱(自然冷却)
させたり、強制的に冷却する(強制冷却)措置により冷
却しても本発明の目的に合致した結晶組織を保有する活
性層を得るに何等の支障はない。また、650℃未満の
温度領域の或る温度で必要ならば、その温度で一定時間
保持しても差し支えはない。650℃未満の低温の領域
では、活性層の内部結晶組織に変化を及ぼすのに充分な
熱エネルギーが供与できないからである。
【0027】III 族窒化物半導体からなる活性層は抵抗
加熱、高周波誘導加熱或いは赤外線ランプ加熱等のジュ
ール(Joule)熱、電磁波或いは赤外線放射を利用
した手法で加熱できる。活性層或いは活性層を備えた積
層構造体についての熱処理に於いて所望の速度をもって
熱処理温度を降温或いは昇温させるには、高周波コイ
ル、抵抗加熱線や赤外線ランプ等の加熱媒体に供給する
電力を経時的に変化させることによって達成される。一
例として挙げれば、被加熱体の測温信号をPID方式等
の温度制御方式を採用した温度調節器に随時入力し、同
調節器からの制御信号をもって加熱媒体への電力供給量
を調整すれば自動的に且つ経時的に所望の温度変化量で
被加熱体の温度に変化が与えられる。
【0028】本発明の各処理工程は水素(H2 )やアル
ゴン(Ar)等の不活性ガス雰囲気内で実施できる。処
理工程の雰囲気を創出するに利用できる不活性ガスとし
ては窒素(N2 )や、ヘリウム(He)等の周期律表第
VIII族に属する単原子分子気体が挙げられる。不活性ガ
スを主体として構成されている雰囲気は、高温に於いて
窒化物化合物半導体の昇華を促進する作用が少なく、不
都合な腐食等を起こさないために窒化物半導体層の表面
状態の保持にも効果がある。不活性ガスを主体として含
む雰囲気とは、例えばアルゴンのみ或いはアルゴンと窒
素、アルゴンとヘリウム等の混合気体からなるものであ
って、一不活性ガス種を容積比率にして概ね50%を越
えて含む雰囲気である。本発明に係わる処理では従来の
p形のIII 族窒化物半導体層を得るための熱処理に要求
される雰囲気構成とは明らかに異なり(特許第2540
791号明細書参照)、アンモニア(NH3 )等の窒素
原子(N)と水素原子(H)との結合を含む分子を雰囲
気構成ガスに存在させることも許容される。アンモニア
等の窒素原子を含有する分子の存在は、本発明の活性層
に対する熱処理を施す際にIII 族窒化物半導体層からの
窒素原子の逸脱による表面状態の劣化を抑制するに効果
が認められるからである。気流中での或る圧力下での加
熱処理に拘らず、減圧下並びに真空中での加熱処理手段
も本発明の活性層を形成する方法に利用できる。例え
ば、分子線エピタキシャル法(MBE)で形成した活性
層或いはそれを含むIII 族窒化物半導体層からなる積層
構造体を真空状態にあるMBE装置内で窒素原子を含有
してなる分子のビーム(beam)を照射しながら活性
層に加熱処理を施す方法も一法である。
【0029】活性層内部のインジウム組成に関する不均
一性の程度はX線散乱角度の分布幅からも定量的に判断
することができる。結晶層からの回折X線の微小角散乱
角度は市販の高性能のX線回折装置により精密に測定で
きる。図4は本発明の加熱処理を施したn形の窒化ガリ
ウム(GaN)層上の窒化ガリウム・インジウム活性層
についてのX線回折角度と結晶格子面の間隔の相関を示
す一例である。図4の縦軸はX線回折角度の偏差を、横
軸は結晶格子の面間隔の偏差を各々示している。X線回
折角度の分布幅は配向性(orientation)の
画一性の度合い、即ち、配向の乱雑性(モザイク(mo
saic)度とも称されている。)の大小を表してい
る。結晶格子の面間隔の分布からは窒化ガリウム・イン
ジウム結晶にあっては、従属相のインジウム組成比の差
異の不均一性を定量することができる。この様な評価手
法は本発明の加熱処理の効果を定量的に判断する上で有
効であり、また、本発明が及ぼす作用の安定性を確認し
管理するに一つの便法となる。
【0030】透過電子顕微鏡を利用して撮像した断面T
EM像からも観察される如く、本発明の加熱処理により
形成される従属相が採る主たる形状は島状或いは略球状
である。本発明の加熱処理条件下で形成される従属相
(微結晶体)の大きさは横幅或いは直径にして大凡、2
5nm(ナノメーター)以下である。微結晶体が極端に
大となると光の放出効率の大小以前に短波長の発光を得
るのは困難となる。本発明の加熱処理に依れば青色帯或
いは緑色帯の短波長の発光を確実に帰結する従属相(結
晶体)を得ることができる。従属相(結晶体)から放射
される短波長光の波長は従属相のインジウム濃度に関係
して変化する。インジウム濃度の相違は結晶の格子定
数、即ち格子面の間隔に反映されるため、従属相のイン
ジウム濃度は上記のX線精密回折測定法などから知れ
る。本発明の加熱処理条件は赤色帯域等の長波長可視領
域の発光を帰結するものではなく、従属相のインジウム
濃度に依って波長を約420〜450nmとする青色帯
域或いは波長を約480〜約500nmとする青緑色若
しくは波長を約510〜530nmとする緑色帯域の短
波長の可視発光を与えるものである。この様な短波長の
可視発光を与えるのは従属相たる微結晶体の大きさが大
凡、15nm以下である。この程度の大きさの微結晶体
であれば、微結晶体の量子ドット(dot)的な作用に
依る発光も期待される。
【0031】横幅或いは直径に代表される微結晶体の大
きさは、活性層の加熱処理条件の微調整により制御でき
る。加熱処理の温度T’(℃)を許容された範囲内で高
温とする程、微結晶体の大きさは一般に大となる傾向が
ある。加熱処理温度及び期間の範囲内で加熱温度を経時
的に変化させる際には、加熱時間に対する温度変化量が
緩慢である程、横幅或いは直径を大とする微結晶体が得
られる傾向が一般にはある。また、昇温或いは冷却工程
に於いて緩やかに昇温或いは降温を施す程、微結晶体の
大きさの分布幅は縮小する傾向がある。次の加熱処理を
施した一積層構造体を例にして活性層内の微結晶体の分
布例を述べる。積層構造体は830℃(T=830℃)
でインジウム組成比を約0.06(約6%)とする層厚
約60nmの窒化ガリウム・インジウム活性(発光)層
(Ga0.94In0.06N)を成長させた後、1100℃
(T’=1100℃)に約125℃/分の速度をもって
昇温し層厚を約120nmとする窒化アルミニウム・ガ
リウム混晶(Al0.10Ga0.90N)及び層厚が約100
nmのp型の窒化ガリウムを合計にして30分間で順
次、重層する成長操作をもって加熱処理をなした後、9
50℃に毎分30℃の割合で、950℃から750℃に
10℃/分で20分間で、750℃から650℃に15
℃の割合で冷却処理を施したものである。その後はこの
昇温、加熱及び冷却各工程を施したMOCVD成長用反
応炉の外部から冷風を強制的に送気して室温(約24
℃)迄、約40分間を消費して冷却した。断面TEM法
での観察に依れば、この加熱処理によって発生する略球
状の微結晶体の直径はほぼ、約3nmから約12nmの
範囲に分布しており、平均の直径は約8nmであった。
【0032】上記の加熱処理を施した積層構造体を用い
て作製したLEDからは、実際に波長を約420〜44
0nmとする青(紫)色発光が発せられる。しかも、こ
の様な微結晶体を含む結晶組織的に不均一な構造の発光
層からの放出される光の強度を、従来のほぼ均一な組成
とほぼ均一な結晶組織の層状発光層のそれに比すれば、
格段に優れるものとなる。例えば、亜鉛(Zn)等のア
クセプター性不純物と珪素(Si)等のドナー不純物と
を共にドーピングしてなる従来の窒化ガリウム・インジ
ウム発光層(特開平6−260680号公報参照)を備
えたLEDから放射されるフォトルミネッセンス(P
L)発光スペクトルを図5に例示する。図5には、本発
明に係わる発光層を備えたLEDの青色帯域の発光スペ
クトルを併せて提示する。双方共に窒化ガリウム・イン
ジウム発光層の層厚は約50nmである。本発明に係わ
る発光層からは従来に比して約10倍以上の発光強度が
得られている。しかも、本発明に係わる発光層からの光
放射は応答性に優れ、パルス(plus)的にヘリウム
(He)−カドミウム(Cd)レーザー光を入射した際
の発光強度の減衰の速度は極めて早い。この様な物理物
性的な特性は、低次元的な(low−dimensio
nal)キャリア(carrier)の振る舞いによる
ものとするのが一般的な見解である。本発明により形成
される発光層が示す発光特性は、主体層(相)に内包さ
れる微結晶体(従属相)の量子ドット的な作用によるも
のと考慮される。
【0033】
【作用】冷却速度を制御することによって主体相内に従
属相を形成し、もってIII −V族窒化物半導体活性層の
結晶組織或いは組成等の不均一化を促進させる。
【0034】
【実施例】
(実施例1)III −V族窒化物化合物半導体層から構成
される積層構造体を常圧方式のMOCVD装置を利用し
て形成する例をもって本発明を説明する。本実施例では
830℃で成長させたIII 族窒化物半導体結晶層からな
る発光層を備えた積層構造体の形成を通じて活性層につ
いての加熱処理を採り挙げる。
【0035】図7に本実施例に記す積層構造体の形成並
びに加熱処理に利用した常圧MOCVD装置の構成の概
略を示す。このMOCVD装置を利用して以下の手順に
より積層構造体を構成する各積層体構成層を成長すると
共に発光層を対象とした加熱処理を実施した。先ず、基
板(101)として面方位を(0001)とする直径2
インチのサファイア(α−Al23 )を反応炉(11
8)内の支持台(119)上に水平に載置した。基板
(101)の厚みは約100μm弱である。反応炉(1
18)内を開閉バルブ(120)を介し、真空ポンプ
(121)により真空に排気した。約10-3トール(T
orr)の真空度に到達して約10分間経過した後に、
ガス導入孔(122)より約3リットル/分の流量のア
ルゴンガスを反応炉(118)内に流通させ、炉内の圧
力をほぼ大気圧(760Torr)に復帰させた。
【0036】暫時、反応炉(118)内を精製された高
純度のアルゴンガスで掃気した後、アルゴンガスの反応
炉(118)への供給を停止した。代替に露点を約マイ
ナス90℃とする精製水素ガスの反応炉(118)内へ
の供給を開始した。水素ガスの流量は約5リットル/分
とした。然る後、反応炉(118)の外周に設けた高周
波加熱コイル(123)に高周波電源(124)より電
流を投入した。これにより、基板(101)の温度を室
温より1050℃に上昇させた。基板(101)の温度
は支持台(119)の内部に挿入された白金−白金・ロ
ジウム合金からなる熱電対(125)により測温した。
基板(101)の温度が1050℃に到達してから約2
0分経過して、窒素源としてアンモニアガスを毎分6リ
ットルの割合で反応炉(118)に供給し始めた後、基
板(101)上に積層構造体(126)を構成する次の
各III 族窒化物半導体層を順次堆積した。
【0037】トリメチルガリウム((CH33 Ga)
をガリウム(Ga)源として、基板(101)上に先ず
430℃に於いてアンドープの窒化ガリウム(GaN)
からなる低温緩衝層(102)を成長した。低温緩衝層
(102)の層厚は約7nmとした。低温緩衝層(10
2)の成長時には、アンモニアの流量を毎分1リットル
に設定した。低温緩衝層(102)の成長を終了した
後、水素ガスの反応炉(118)への供給を停止すると
は逆に、5リットル/分のアルゴンガスの反応炉(11
8)への供給を開始した。アンモニアガスの反応炉(1
18)への供給量は不変とし、1リットル/分に保持し
たままで、高周波コイル(123)に印加する電力量を
増し、基板(101)の温度を430℃から1100℃
に昇温した。熱電対(125)で測温される温度が11
00℃となった時点で直ちにアンモニアの反応炉(11
8)への供給量を毎分1リットから3リットルへと増加
させた。同時にアルゴンガスの供給量を5リットル/分
より3リットル/分に減じると共に、水素ガスの反応炉
(118)への供給を毎分3リットルの流量をもって再
開した。これにより、上部が内径を約80mmとする高
純度石英管から構成される反応炉(118)へは、合計
して9リットル/分の水素、アルゴン及びアンモニアが
流通する状況とした。基板(101)の温度が1100
℃に到達して5分間待機した後、低温緩衝層(102)
上に珪素(Si)をドーピングしたn型の窒化ガリウム
からなる下部クラッド層(103)を成長させた。珪素
は、高純度水素で体積濃度にして約1ppmに希釈され
たジシラン(Si26 )をドーピングガスとして利用
して成長させた。一般的な電解C−V法により測定され
た窒化ガリウムからなる下部クラッド層(103)のキ
ャリア濃度は、約1×1018cm-3であった。層厚は約
4μmであった。珪素ドープn型窒化ガリウム下部クラ
ッド層(103)の成長が終了した後には、基板(10
1)の温度を1100℃から約10分間で830℃に低
下させた。基板温度が発光層の形成温度(本文中のT℃
に相当する)である830℃に安定する迄暫時待機した
後、珪素ドープn型窒化ガリウム下部クラッド層(10
3)上への珪素ドープ窒化ガリウム・インジウム発光層
(104)の成長を開始した。インジウムの供給源に
は、結合価を1価とするシクロペンタジエニルインジウ
ム(cyclopentadienylindium:C55 In(I))を
使用した。窒化ガリウム・インジウム発光層(104)
のインジウム組成比は約6%(0.06)とし、その層
厚は約100nmとした。珪素はn型窒化ガリウム下部
クラッド層(103)の成長時に使用したのと同様のジ
シランガスをドーピングガスとして利用して発光層とな
す窒化ガリウム・インジウム層(Ga0.94In0.06N)
(104)に添加した。上記ジシランガスの反応炉(1
18)への供給量は、原子濃度が約2×1018cm-3
なるように設定した。
【0038】珪素ドープn型窒化ガリウム・インジウム
発光層(Ga0.94In0.06N)(104)の成長が終了
した後は、熱電対(125)からの熱起電力信号を基に
高周波コイル(123)に印加する電力量を高周波電源
(124)設備で調節しながら、基板(101)の温度
を再び1100℃に昇温した。この昇温工程に於ける昇
温速度は90℃/分に設定し、830℃(=T℃)から
1100℃へ3分間で到達させた。
【0039】昇温した直後に於ける基板温度の変動が解
消され、1100℃に安定する迄2分間待機した後、マ
グネシウム(Mg)をドーピングした窒化ガリウム上部
クラッド層(105)を重層させた。本実施例ではこの
1100℃に於ける窒化ガリウム上部クラッド層(10
5)の成長をもって、上記の発光層(104)について
の加熱処理工程を代用させた。マグネシウムのドーピン
グ源には、ビス−メチルシクロペンタジエニル(bis
−(CH3542 Mg)を使用した。マグネシウ
ムドーピング源の反応炉(118)への供給量は、上部
クラッド層(105)内のマグネシウム原子の濃度が約
3×1020cm-3に到達する様に調整した。層厚を約2
00nmとする上部クラッド層(105)の成長には2
0分間を要した。従って、1100℃に於ける加熱工程
に費やした期間は、成長時間(20分)と上部クラッド
層(105)の成長を開始する以前に安定を期すために
待機した時間(5分)とを合計して25分に止めた。即
ち、本実施例の発光層(104)についての加熱処理工
程は25分間とした。
【0040】積層構造体(126)を構成する上記の各
III 族窒化物半導体層((102)〜(105))の成
長を終了した後、水素、アルゴン及びアンモニア各ガス
の流量を毎分3リットルに維持したままで、反応炉(1
18)内に滞めた積層構造体(121)の温度を110
0℃から950℃迄、正確に5分間を掛けて降温した。
即ち、毎分30℃の速度をもって積層構造体(126)
の温度を降下させ、窒化ガリウム・インジウム発光層
(104)を対象とした第1の冷却工程を施した。加熱
処理温度1100℃(=T’℃)から950℃への第1
の冷却工程を終了した後は、引き続き950℃から65
0℃へ毎分10℃の割合で降温させる第2の冷却工程を
実施した。第2の冷却工程に於ける反応炉(118)内
の雰囲気構成ガスは、第1の冷却工程を同じく各々、毎
分3リットルの水素、アルゴン及びアンモニアとした。
積層構造体(126)の温度を650℃に降下させて第
2の冷却工程を終了させた後は、直ちに高周波電源(1
24)からコイル(123)への高周波電源の供給を停
止して室温迄自然冷却した。自然放冷による室温への降
温の中途、積層構造体(126)の温度が450℃とな
った時点で、反応炉(118)へのアンモニア及び水素
ガスの供給を停止した。その後はアルゴンのみを反応炉
(118)に供給した状態で冷却した。図6に加熱処理
開始直後からの処理時間に対する温度変化を示す。図中
の数字は降温する際の分単位の温度変化量を表してお
り、負符号(−)は降温、冷却時の速度を意味してい
る。
【0041】上記の加熱処理を施した積層構造体(12
6)の一部を短冊状に切削し、更にアルゴンイオン(A
+ )を用いたスパッタリング法で薄層化して、断面T
EM観察用の試料を作製した。一般的な透過型電子顕微
鏡(TEM)を利用して同試料の断面TEM像を加速電
圧200キロボルト(KV)で撮像した。上記の窒化ガ
リウム・インジウム(Ga0.94In0.06N)発光層(1
04)の内部には略球状の微結晶体が撮像された。断面
TEM像の撮像範囲内に於いて観察される微結晶体にあ
って最小の直径は約4nmであり、最大の直径は約13
nmであった。微結晶体の直径は約7〜8nmの範囲に
最も高い頻度で分布していた。図8に微結晶体の直径の
分布を掲げる。平均の直径は約10nmであった。ま
た、微結晶体は発光層の内部の特定領域に偏析する傾向
は殆ど認められず、ほぼ均等に分布して存在していた。
図9に撮像された従属相である略球状の微結晶体(12
7)の一例を示す。断面TEM像には微結晶体(12
7)が整列した結晶格子像(128)の中に埋没してい
る様に撮像されている。また、従属相である微結晶体
(127)とその周囲の主体相(129)との境界には
歪等によると思われる結晶格子の配列が乱れた領域(1
30)が存在した。
【0042】比較のため本発明の昇温、加熱及び冷却の
各工程を施していないas−grown状態の窒化ガリ
ウム・インジウム発光層の断面を同様のTEM技法によ
り観察した。その結果、従属相である微結晶体の発生は
明瞭には認められ難く、単一的な結晶組織が維持されて
いると認められた。即ち、窒化ガリウム・インジウム発
光層の内部が、主体相と従属相とに分離するような結晶
組織の不均一化は達成されていない。これより、窒化ガ
リウム・インジウム発光層の結晶組織の不均一化には、
発光層を加熱処理する手段が必須であると判断された。
【0043】(実施例2)本実施例では、850℃(T
=850℃)で成長した窒化ガリウム・インジウム(G
aInN)発光層を備えた積層構造体をMOCVD成長
炉内で形成した後、実施例1とは異なる冷却工程を有す
る加熱処理を施して微結晶体を内包する発光層を得る例
を記す。
【0044】積層構造体は図7に掲示した常圧(大気
圧)の有機金属熱分解気相成長(MOCVD)装置で成
長したIII 族窒化物化合物半導体層を積層させて形成し
た。面方位を(0001)とするc面サファイア基板
(101)上には層厚を約17nmとする窒化アルミニ
ウム(AlN)からなる緩衝層(102)を堆積した。
窒化アルミニウム・ガリウム緩衝層(102)は純度を
5N(99.999%)以上とする半導体工業用途トリ
メチルアルミニウム((CH33 Al)をアルミニウ
ム(Al)源とし、気化させたアンモニア(NH3 )ガ
スを窒素(N)源として成長させたものである。緩衝層
(102)は、基板(101)の温度を520℃として
成長させた。緩衝層(102)上には、層厚を約5μm
とするインジウム(In)と珪素(Si)をドーピング
したn型窒化ガリウム(GaN)層(103)を形成し
た。インジウムの供給源にはインジウムの結合価を一価
とするシクロペンタジエニルインジウム(C55
n)を用いた。珪素の供給源には高純度水素により体積
比率にして約1ppmに希釈されたジシラン(Si2
6)を用いた。n型窒化ガリウム層(103)内のイン
ジウムの原子濃度は約1×1019cm-3であり、珪素の
濃度は約7×1018cm-3であった。n型窒化ガリウム
層(103)のキャリア濃度は約2〜3×1018cm-3
であった。n型窒化ガリウム層(103)上には、層厚
は約60nmとするインジウムとゲルマニウム(Ge)
と亜鉛(Zn)との3元素をドーピングした窒化ガリウ
ム・インジウム発光層(104)を850℃で形成し
た。即ち、本文中のTは850℃である。インジウムは
上記のシクロペンタジエニルインジウムを供給源として
約8×1020cm-3の濃度となる様にドーピングした。
ゲルマニウムは、高純度水素ガスにより体積比率にして
約10ppmに希釈されたゲルマン(GeH4 )ガスを
供給源として約7×1017cm-3の原子濃度となる様に
ドーピングした。亜鉛のドーピング濃度は約9×1017
cm-3とした。この比較的低濃度のドーピングを施すた
め、高純度水素により体積比率にして約100ppmに
希釈されたジエチル亜鉛((C252 Zn)を供給
源としてドーピングした。
【0045】850℃で発光層(104)の成長を終了
した後は、反応炉(118)内へのアルゴンとアンモニ
アの流通を継続したままで、直ちに基板(101)の温
度を850℃から1050℃に4分間で昇温した。即
ち、昇温工程に於ける昇温速度は50℃/分に設定し
た。
【0046】昇温工程に引き続き1050℃(=T’
℃)を加熱工程に供した。発光層(104)の加熱処理
は発光層(104)上への次層の成長操作をもって代用
した。発光層(104)上にはマグネシウム(Mg)を
ドーピングした窒化アルミニウム・ガリウム(Al0.05
Ga0.95N)混晶層からなる上部クラッド層(105)
を成長させた。p型不純物としてのマグネシウムはビス
メチルシクロペンタジエニルマグネシウム(bis−
(CH3542 Mg)の高純度水素ガスによるバ
ブリング操作を介して成長系に添加した。マグネシウム
は原子濃度が1019cm-3を越える程度にドーピングを
施した。Al0.05Ga0.95N混晶層からなる上部クラッ
ド層(105)の層厚は約50nmとした。Al0.05
0.95N混晶層からなる上部クラッド層(105)に
は、1050℃に於いてマグネシウムとインジウムを共
にドーピングした窒化ガリウムからなるコンタクト層
(106)を堆積した。マグネシウム及びインジウムの
ドーピングには上記の供給源を各々使用した。マグネシ
ウム及びインジウムのドーピング濃度は各々4×1019
cm-3及び3×1019cm-3とした。コンタクト層(1
06)の膜厚は約100nmとした。以上、上部クラッ
ド層(105)とコンタクト層(106)の成長に要し
た時間は合計して30分間であった。即ち、本実施例に
於ける加熱処理工程の条件は1050℃で30分間とな
った。
【0047】上記の積層構造体(126)を構成する最
表層の窒化ガリウムからなるコンタクト層(106)の
成長を終了した直後に、同積層構造体(126)を形成
したと同一の反応炉(118)内に於いて積層構造体
(126)の温度を降温させる冷却工程に付した。先
ず、III 族元素原料の成長炉(118)への供給を停止
し、流通するガスをアンモニアとアルゴンとして炉(1
18)内をアンモニア−アルゴン混合気体で充満させ
た。この混合気体雰囲内で基板(101)の温度で代表
させた積層構造体(126)の温度を1050℃(=
T’℃)から毎分20℃の降温速度をもって5分間で9
50℃に降温して第1の冷却工程を終了した。然る後、
発光層(104)の成長温度(T℃)とした850℃に
毎分10℃の割合で降温し、第2の冷却工程の第1段を
終了した。積層構造体(126)の温度が850℃に到
達した直後に、反応炉(118)内へのアンモニアガス
の流通を停止してアルゴンのみとした。アルゴン単体で
構成した雰囲気内で引き続き、積層構造体(126)の
温度を850℃から800℃に2℃/分の一定の変化量
をもって経時的に温度を変化させ25分間を費やして降
温して第2の冷却工程の第2段を実施した。更に、引き
続いてアルゴン雰囲気下に於いて積層構造体(126)
の温度を800℃から650℃へ5℃/分の降温速度で
低下させ、第2の冷却工程の第3段を終了させた。65
0℃に降温した以降は自然放冷に任せて室温に冷却し
た。この自然冷却では650℃から約500℃に約25
〜30℃/分の割合で温度が降下するのが認められ、約
60分後に室温に至った。図11に本実施例の降温時に
於ける温度プロファイル(温度の時間変化)を示す。同
図に於いては降温を開始した時間を零(0)としてあ
る。
【0048】上記の積層構造体(126)の一部を短冊
状に切削し、それをアルゴン(Ar)ビームを利用する
イオンスパッタリング法で薄層となし、断面TEM観察
用の試料を作製した。一般的な透過型電子顕微鏡(TE
M)を利用して同試料の断面TEM像を加速電圧200
キロボルト(KV)で撮像した。上記の窒化ガリウム・
インジウム発光層(104)の内部には平均直径を約8
nmとする略球状の微結晶体が撮像された。図12に微
結晶体の直径の分布を掲げる。断面TEM像の撮像範囲
内に於いて観察される微結晶体にあってそれらの直径は
約7〜8nmの範囲に集中していた。この結果は本発明
の発光層を対象とする加熱手段は直径が均一化された微
結晶体を得るに有効であると判断された。また、微結晶
体の発光層(104)内部の特定の一部の領域への偏析
は明瞭に認めらなかった。しいて記述すれば、発光層
(104)の両側に存在する接合界面よりも、むしろこ
れらの接合界面間の距離のほぼ中央近傍の領域、即ち、
発光層(104)の厚さ方向のほぼ中央の領域に分布す
る傾向が見受けられた。
【0049】上記の加熱処理した積層構造体(126)
の最表層であるコンタクト層(106)の表面状態から
評価するに、窒化ガリウムコンタクト層(106)は充
分に平滑で且つ平坦な表面を保持していた。このため、
電極コンタクト層(106)を兼ねる窒化ガリウム層
(106)上に金・亜鉛(Au・Zn)合金/ニッケル
(Ni)を重層させた薄膜電極(131−1)と金・亜
鉛/金(Au)の重層パッド電極(131−2)からな
るp型電極(131)を形成した。コンタクト層(10
6)に接触させるのは金・亜鉛薄膜とした。n型電極
(132)はアルミニム(Al)より構成した。n型電
極(132)は、形成予定領域に在るn型窒化ガリウム
層(103)の上部に積層された各層((104)〜
(106))を、アルゴン/メタン(CH3 )/水素
(H2 )混合ガスを使用するプラズマエッチング法によ
り除去した後に形成した。図10に作製したLEDの断
面構造を模式的に示す。
【0050】p,n両電極((131)及び(13
2))間に順方向に20mAの電流の通電により、中心
波長を約434nmとする青色の発光を確認した。サフ
ァイア基板(101)の裏面を粒径を約3μmとするダ
イヤモンド砥粒により約80μm程度にラッピング後、
スクライブ法により各チップに裁断した。このスクライ
ビングでは、基板(101)の表側或いは裏側若しくは
その双方にスクライブ用途の溝を全く設けず直接、表面
にスクライブ用ダイヤモンド針を走行させて裁断した。
本発明に係わる冷却過程を備えた処理方法によって冷却
された積層構造体(126)は機械的変形の度合いが
「反り」にして10μm未満と小さく裁断に不都合はな
かった。裁断したLEDチップを一般的な半導体封止用
エポキシ樹脂で封止して、集光レンズを付帯したモール
ド(mold)品となした。その後、積分球を利用した
一般的な手法により発光強度を測定した。発光強度は
1.0から1.2ミリワット(mW)であり、高い発光
強度の青色LEDがもたらされることが確認された。特
に、主発光スペクトルの半値幅は従来品(市販品)の約
50〜70nmに対して約15nm前後と発光色の単色
化により優位となる結果となった。スペクトル半値幅の
縮小には微結晶体の直径(粒径)が本発明に係わる加熱
処理によって均一化が果たされていることも一因である
と考慮された。
【0051】(実施例3)常圧MOCVD法により厚さ
を100μm弱とする(0001)(c面)サファイア
基板の表面上に実施例2に記載の成長条件及び昇温並び
に加熱条件により低温緩衝層、n型層、発光層、クラッ
ド層及びコンタクト層からなる積層構造体を構成した。
しかし、冷却工程に限って実施例2とは条件を変更し
た。本実施例では窒化ガリウムコンタクト層をT’たる
1100℃で成長させた後、抵抗加熱型ヒーターに投入
する電力を減ずることにより950℃に降温する第1の
冷却工程を実施した。第1の冷却工程に於ける冷却速度
は60℃/分とした。950℃から800℃には15℃
/分の速度で冷却し第2の冷却工程の第1段とした。積
層構造体の温度を800℃に冷却した後は引き続き80
0℃に15分間保持した。一定温度で一定の期間保持し
た後、アンモニア−アルゴン混合雰囲気にあるMOCV
D反応炉内で毎分15℃の割合で650℃まで積層構造
体を冷却して第2の冷却工程の第2段を完了させた。6
50℃に降温した後は反応炉へのアンモニアの供給を停
止し、アルゴンのみを流通させた。650℃から50℃
近傍の温度迄は反応炉の外壁に向けて送気することをも
って強制的に冷却した。図13に本実施例に於ける冷却
工程以後の温度の経時的変化を示す。図中の括弧内の数
字0は温度を経時的に変化させていない、即ち、一定の
温度に保持されている状態を示す。
【0052】室温近傍に冷却後に反応炉から積層構造体
を取り出した。積層構造体の一片からイオンシニング
(ion thinning)法により断面TEM像を
観察するための試料を作成した。断面TEM像の観察で
は直径を約1〜10nmとする微結晶体の存在が確認さ
れた。分析用の電子顕微鏡による微小領域に於ける組成
分析では、微結晶体内部のインジウムの濃度は微結晶体
の周辺の領域に比較すれば定性的ではあるが高い傾向が
あるように観測された。即ち、インジウムの濃度の観点
からしても、本発明に係わる加熱処理は発光層内にイン
ジウム濃度を異にする相の発生をも促すものと把握され
た。
【0053】また、積層構造体の一部を利用して実施例
2に記載と同様の電極構成を有するLEDを作成した。
LEDからは順方向の電流値を20mAとした場合に波
長を約440nmとする青色の発光が得られた。この青
色発光が仮に、インジウムを含有する上記の如くの微結
晶体からのものとすれば、この微結晶体内のインジウム
濃度(組成比)は公知の実験結果(特公昭55−383
4号公報参照)を参照すれば約0.20(約20%)と
計算された。
【0054】(実施例4)実施例2に記載の成長条件に
従い窒化ガリウム(GaN)緩衝層及び窒化ガリウム・
インジウム(GaInN)発光層を順次、c面サファイ
ア上に堆積した。但し、本実施例では窒化ガリウム・イ
ンジウム発光層の層厚は約42nmとした。Tを850
℃として発光層の成長を終了した後は、発光層をMOC
VD反応炉より一旦、取り出すために反応炉の外周囲に
冷気を強制的に送風して室温近傍の温度迄冷却した。8
50℃から約100℃に降温するに約25分間を要し、
更に室温近傍の温度(約26℃)に冷却するにはそれよ
り約20分間を費やした。反応炉から外部へ取り出し発
光層の表面を市販の弗化アンモニウム(NH4 F)水溶
液に浸し、主に表面の自然酸化膜の除去を期して処理し
た。乾燥後、表面処理を施した発光層を一般のプラズマ
化学堆積法(CVD)装置内の窒化珪素膜(SiN)を
堆積するための通常の然るべき位置に水平に載置した。
その後、CVD装置内の真空への排気操作、シラン(S
iH4 )及びアンモニアガスの原料ガスのCVD装置内
への導入操作、CVD装置内の真空度を堆積に適する圧
力に安定させる操作等の窒化珪素膜を被堆積物表面上に
堆積ための準備操作を実施した。然る後、CVD装置内
に導入した原料ガス分子を周波数を13.56メガヘル
ツ(MHz)とするマイクロ波で励起してプラズマとな
し、窒化ガリウム・インジウム発光層上への窒化珪素膜
の堆積を開始した。窒化珪素膜の堆積は同膜の膜厚が約
100nmに至る迄の約4分間に亘り継続した。窒化珪
素膜の堆積期間中は基板の温度を350℃に維持した。
堆積した窒化珪素膜表面の色合い(干渉色)から判断し
て直径2インチの上記基板の一主面上に成長した発光層
の周縁約3mmより中央部にはほぼ均一な膜厚の窒化珪
素膜が堆積されていると判断された。市販のエリプソメ
ーターを利用した窒化珪素膜の屈折率からは窒化珪素膜
はSi34 に近い組成を持つと解釈された。
【0055】窒化珪素(Si34 )膜の堆積を終えた
後に、加熱処理用途の保護膜としての窒化珪素膜を被着
させたままの窒化ガリウム・インジウム発光層を加熱処
理専用の炉体内に室温近傍の温度で挿入した。この加熱
処理専用炉は石英製円筒炉心管の外周囲に配置した螺旋
状に巻上げた発熱体(商品名カンタルA1線)からの発
熱を利用して加熱するものである。炉内の雰囲気をアル
ゴンとした上で発熱体に流通する電流を増加させ保護膜
付き発光層の温度を室温から発光層を成長した温度85
0℃(=T℃)に毎分約50℃の速度で上昇させた。8
50℃に正確に5分間保持した。この保持後、本発明の
昇温工程を施すために、発光層の温度を1050℃に毎
分50℃の割合で4分間を掛けて昇温した。1050℃
に到達後、正確に5分間保持して発光層に加熱工程の前
工程に付した。加熱処理を施す間は炉内の雰囲気はアン
モニア−アルゴン混合雰囲気とした。継続して、105
0℃から1000℃に一定の速度で5分間で経時的に降
温する加熱工程の後工程を施した。従って、加熱工程に
要した合計の時間は10分間であった。加熱工程の終了
後は1000℃から950℃に毎分25℃の速度で降温
して第1の冷却工程をなした。引き続き950℃から6
50℃までより緩慢な20℃の割合で冷却して第2の冷
却工程をなした。第2の冷却工程での冷却速度は、発光
層を構成する窒化ガリウム・インジウムとそれに被着さ
せた窒化珪素膜との熱膨張率の相違により危惧される、
発光層内の熱歪を焼鈍する意図で設定されたものであ
る。650℃から炉内に熱伝導率を大とする水素ガスを
流通して未ば強制的に発光層の温度を室温迄冷却した。
図14に、一旦冷却した発光層を再び昇温する工程とそ
れに引き続く加熱及び冷却工程を通しての経時的な温度
変化を示す。
【0056】成長後、一旦冷却して外部に取り出したも
のの、その後本発明の昇温、加熱及び冷却の全工程を経
過した発光層の断面TEM像には、主体相内に散在する
略球状の微結晶体の形態を呈するからなる従属相の発生
が認められた。微結晶体の直径は概ね、十数nmであっ
た。また、分析用電子顕微鏡に付帯するEPMAを利用
した組成分析の結果によれば従属相(微結晶体)と主体
相とではインジウム濃度の差異が認められ、主体相より
も従属相により多量のインジウムが含有される結果とな
った。即ち、結晶組織的に不均一な発光層は発光層の形
成直後に継続して昇温、加熱及び冷却工程を施工せず、
成長後に或る工程を経た発光層に間欠的に全工程を施し
ても形成できる。また、主体相と従属相とから結晶組織
的に不均一な本実施例の発光層はヘリウム(He)−カ
ドミウム(Cd)レーザー光を励起光源により中心波長
を約430nmとし、半値幅を約20nmとする青色帯
フォトルミネッセンス(PL)発光が放射された。
【0057】(比較例) 実施例4に記載の窒化ガリウム・インジウム発光層にあ
って、成長終了後に実施例4の手順により窒化珪素膜を
冠した状態に止めた発光層を試料として、発光層の内部
構造とPL発光特性を比較した。結晶の内部構造を比較
するに、発光層に昇温から冷却に及ぶ加熱処理を施して
いない試料には主体相と従属相とへの明確な分離が認め
られなかった。発光層上に窒化珪素膜を被着した際に、
窒化珪素と窒化ガリウム・インジウムとの間の熱膨張率
等の相違に因る歪が発光層内に従属相(微結晶体)の発
生を誘引するかと思われたが、断面TEM像には微結晶
体の存在も確認されず、従って、結晶組織的に単一な組
織層であるものと判断された。また、PLスペクトル上
には波長を約415nmとする青紫色の近紫外スペクト
ルの他、波長365nm近傍に窒化ガリウムのバンド端
に帰結されるピークが観測された。しかし、青紫色を呈
するPLピークの発光強度は実施例4のそれに比較して
1/10以下の微弱なものであり、上記のバンド端の強
度とほぼ同等であった。青色帯の半値幅は明らかに実施
例4のそれとは異なり、約45nmと極端に拡副したも
のとなった。
【0058】
【発明の効果】LED等の発光素子にあって発光スペク
トルの半値幅が縮小される。発光スペクトルの半値幅の
縮小は発光素子からの発光をより単色化するに効果があ
る。
【図面の簡単な説明】
【図1】窒化ガリウム・インジウム発光層を備えた代表
的な従来のLED用途積層構造の断面模式図である。
【図2】従来に於ける積層構造体を成長するための温度
変化の一例を示す図である。
【図3】本発明の加熱処理方法の経時的な温度変化を例
示する図である。
【図4】X線回折角度と結晶格子面の配向性の相関分布
図の一例を示す図である。
【図5】従来のLEDから放射される発光スペクトル
と、本発明に係わる発光層を備えたLEDの青色帯域の
発光スペクトルを併せて提示する図である。
【図6】実施例1の温度プロファイルを示す図である。
図中の数字は分単位の温度変化量を表しており、負符号
(−)は降温、冷却時の速度を意味している。
【図7】実施例1で使用した常圧MOCVD装置の構成
の概略を示す図である。
【図8】実施例1の発光層の主体相の内部に発生させた
微結晶体の直径の分布を示す図である。
【図9】従属相である略球状の微結晶体の存在を示す断
面TEM像の模式図の一例である。
【図10】実施例2の積層構造体の断面模式図である。
【図11】実施例2の温度の経時的時間変化を示す図で
ある。
【図12】実施例2に記載の発光層の内部に加熱処理後
に観測される微結晶体の直径の分布を示す図である。
【図13】実施例3の温度プロファイルを示す図であ
る。
【図14】実施例4の温度プロファイルを示す図であ
る。
【符号の説明】
(101) 基板 (102) 緩衝層 (103) 下部クラッド層 (104) 発光層 (105) 上部クラッド層 (106) コンタクト層 (107) 基板となる材料の表面を清浄とするための
サーマルエッチング過程への昇温過程 (108) サーマルエッチング過程 (109) サーマルエッチングを実施する温度より緩
衝層の成長温度へ冷却する過程 (110) サーマルエッチングを施した基板表面上に
緩衝層を成長する過程 (111) 低温で成長した緩衝層上に下部クラッド層
を成長するための温度に昇温する過程 (112) 一定の温度で下部クラッド層を成長する過
程 (113) 下部クラッド層の成長を終了した後、発光
層の成長温度へ温度を降下させる過程 (114) 発光層の成長を行う過程 (115) 上部クラッド層及びコンタクト層への形成
過程 (116) 上部クラッド層及びコンタクト層の形成過
程 (117) 冷却過程 (118) MOCVD反応炉 (119) 基板支持台 (120) MOCVD反応炉と真空ポンプの中間に設
置した開閉バルブ (121) 真空ポンプ (122) ガス導入孔 (123) 高周波コイル (124) 高周波供給電源 (125) 熱電対 (126) 積層構造体 (127) 従属相たる微結晶体 (128) 結晶格子像 (129) 主体相 (130) 結晶格子の配列が乱れた領域 (131) p型電極(正極) (132) n型電極(負極)
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (56)参考文献 特開 平8−125222(JP,A) 特開 平8−115880(JP,A) 特開 平9−129559(JP,A) 特開 平9−40490(JP,A) 特開 平8−32113(JP,A) 特開 平9−270508(JP,A) 特開 平5−62896(JP,A) 特開 平8−88345(JP,A) 特開 平9−293678(JP,A) 特開 平9−199758(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) H01L 33/00 H01L 21/205 JICSTファイル(JOIS)

Claims (1)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 温度T℃(但し、650℃<T≦950
    ℃)で形成したインジウム含有III 族窒化物半導体結晶
    層からインジウム濃度を異にする複数のIII族窒化物半
    導体相から構成される組成的に不均質なIII 族窒化物半
    導体活性層を形成するに際し、T℃で成長したIII 族窒
    化物結晶層をT℃からT’℃(但し、950℃<T’≦
    1200℃)に毎分30℃以上の速度で加熱する昇温工
    程と、該結晶層をT’で示される帯域の温度で被熱する
    時間を合計して60分以下に制限した加熱工程と、該結
    晶層をT’より950℃迄、毎分20℃以上の速度で冷
    却する第1の冷却工程と、該結晶層を950℃から65
    0℃の範囲の温度に毎分20℃未満の速度で冷却する工
    程を含む第2の冷却工程を備えたIII 族窒化物半導体の
    形成方法。
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