JP3081916B2 - 抗菌性高分子素材及びその製造方法 - Google Patents

抗菌性高分子素材及びその製造方法

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JP3081916B2
JP3081916B2 JP10244130A JP24413098A JP3081916B2 JP 3081916 B2 JP3081916 B2 JP 3081916B2 JP 10244130 A JP10244130 A JP 10244130A JP 24413098 A JP24413098 A JP 24413098A JP 3081916 B2 JP3081916 B2 JP 3081916B2
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益裕 塚田
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理都子 村上
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農林水産省蚕糸・昆虫農業技術研究所長
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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、抗菌性高分子素材
及びその製造方法に関わり、更に詳しくは、スペーサー
を結合させた又は結合させない高分子素材に、抗菌性金
属イオンを配位させてなる抗菌性高分子素材であり、病
原細菌に対して広い抗菌スペクトルを示す抗菌性高分子
素材及びその製造法に関する。
【0002】
【従来の技術】最近、身の回りのあらゆる商品に安全性
や清潔性が求められる傾向があり、特に若者を中心とし
た清潔志向が高まりを見せ、抗菌性の付与された製品が
注目されている。生体組織や環境の汚染につながらない
毒性の低い抗菌剤ならびに抗菌性製品の開発が積極的に
進められている。
【0003】抗菌性を付与するための最も一般的な素材
は、銀、銅等の抗菌性金属を用いる方法である。例え
ば、レーヨン繊維をタンニン酸で処理し、タンニン酸の
配位基に銅(II)を配位させたものが抗菌活性を示すこ
とから、この手法を絹フィブロイン繊維に応用し、金属
イオンを直接配位させたり、金属タンニン酸錯体を絹フ
ィブロイン繊維に担持させる方法が開発され、金属イオ
ンを配位させた絹フィブロイン繊維の製造方法が知られ
ている(繊維学会誌、51巻、4号、176〜180
(1995))。この方法によれば、絹フィブロイン繊
維をタンニン酸水溶液に予め浸漬してタンニン酸を繊維
内に導入した後、金属イオンをタンニン酸に配位させて
金属タンニン酸錯体を絹フィブロイン繊維に担持させる
ことができる。
【0004】従来の抗菌性金属を含む素材の製造方法に
おいて、一般によく用いられる抗菌性金属は銀イオンで
ある。銀イオンによる抗菌性物質は、銀イオンが溶出す
ることにより抗菌性が発現する溶出型薬剤が多く、この
溶出型薬剤の担体として、ゼオライト、粘土鉱物、ガラ
ス等が知られている。このような銀イオン等の溶出型薬
剤は、優れた抗菌性機能を持っており、例えば、抗菌性
の金属イオンを含む微粉末状のゼオライトを有効成分と
するスプレーの形態が知られている。この場合、簡便に
各種物品の表面を抗菌性にすることが可能である。
【0005】また、従来の抗菌性粉末としては、銀、
銅、亜鉛、あるいはこれらの金属からなる錯体を含有す
るものも知られている(特開平9−263715号公
報)。かかる抗菌性粉末によって抗菌処理された物品
は、強い抗菌性を持っている。
【0006】さらに、抗菌性金属を担持するゼオライト
を練り込んだ抗菌性樹脂組成物も知られている(特開昭
63−265958号公報)。
【0007】さらにまた、抗菌性を有する粉末塗料を用
いて物品表面を被覆して抗菌性を付与せしめることも知
られている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】上記繊維学会誌には、
金属イオンを効率よく配位させるための最適pHは、1
1.3−11.7であることが開示されているが、タン
ニン酸水溶液のpHを11.4付近にまで上げると、タ
ンニン酸水溶液が淡茶〜茶褐色に着色してしまい不都合
である。そのため、この刊行物記載の方法を絹フィブロ
イン繊維の代わりに羊毛に適用した場合、タンニン酸の
水溶液のpHをアルカリ薬剤で10−11に調整しても
羊毛にはタンニン酸を導入することができないし、また
タンニン酸水溶液はアルカリ側pHで茶褐色に着色して
しまうため、羊毛等の天然繊維の処理用の試薬としては
適当でないという問題があった。また、タンニン酸を天
然繊維に導入し、その後抗菌性金属イオンを配位させる
従来の方法では、タンニン酸導入の処理過程で天然繊維
の強度や伸度等の機械的性質が劣化したり、タンニン酸
水溶液が継時的に安定ではないので、放置しておくと分
解するという問題があった。なお、タンニン酸水溶液に
高分子素材を浸漬し、素材にタンニン酸を導入するとい
う従来の方法では、加工する対象物が蛋白質繊維、絹蛋
白質に限られており、羊毛等の動物性蛋白質繊維、その
他の合成、半合性繊維には適用できないという問題があ
った。
【0009】銀イオン等の抗菌性金属を有する上記溶出
型薬剤は、優れた抗菌性機能を持つ反面、金属が溶出し
て生体組織、あるいは環境を汚染するという問題があっ
た。従来のスプレー材の場合、処理された物品の表面に
付着しているゼオライト粒子が物理的刺激を受けて脱離
しやすいので、耐久性に欠けるという問題もあった。
【0010】前記特開平9−263715号公報記載の
錯体の場合、抗菌処理された物品は、強い抗菌性を持つ
反面、錯体から銀等の抗菌性金属のイオンが微量づつ長
年にわたって流出し、これが生体組織、あるいは環境を
汚染する原因となっており、そのため、抗菌材から金属
イオンが流れ出ることがなく、安定して抗菌機能を維持
できる抗菌材の開発が望まれてきた。
【0011】また、特開昭63−265958号公報記
載の組成物の場合、コスト高となり、光のエネルギーで
樹脂が着色や変色をしてしまうため、実用上の問題とな
っていた。
【0012】さらにまた、抗菌性を有する粉末塗料を用
いる場合、焼付け時に150〜200℃まで加熱する工
程を必要とするため、製造には大型の加熱装置が必要
で、調製上エネルギ消費型の技術を駆使しなければなら
ないという問題があり、また、通常多く用いる一般的な
有機系の抗菌剤では抗菌機能の低下が問題であった。
【0013】かくして、本発明は、上記の問題を解決
し、高分子素材からなる抗菌性と耐久性に優れた抗菌性
高分子素材及びその製造方法を提供することを課題とし
ている。
【0014】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、各種の細
菌の増殖を阻止するというスペクトルが広い抗菌活性を
持ち、かつ耐久性に優れた抗菌性高分子素材に関して鋭
意検討した結果、金属イオンに配位可能な「スペーサ
ー(以下に定義するような配位基を有する化合物を意味
する)」を予め高分子素材に導入しておき、これを抗菌
性金属塩水溶液に浸漬することによって、あるいは
「スペーサー」を介することなく蛋白質(特に、生体蛋
白質)水溶液に抗菌性金属イオンを直接作用させること
によって、この金属イオンを高分子素材ないしは蛋白質
に配位させることができ、このようにして、耐久性に優
れた抗菌性高分子素材が製造できることを見出して、上
記課題を解決し、本発明を完成させるに至った。
【0015】本発明の抗菌性高分子素材は、高分子素材
と化学的に結合できる働きを持つスペーサーが該高分子
素材に導入され、かつ該スペーサーを介して高分子素材
に抗菌性金属イオンが配位されているものであるか、又
は該抗菌性金属イオンが該スペーサーを介することなく
該高分子素材に直接配位されているものである。この高
分子素材としては、例えば、絹蛋白質、羊毛、又はコラ
ーゲンのような動物蛋白質繊維、木綿繊維のような天然
セルロース繊維、ジアセテート繊維、及びポリアミド繊
維の群から選ばれる少なくとも一つを用いることができ
る。また、ビニル化合物でグラフト加工された高分子素
材も使用できる。
【0016】本発明の抗菌性高分子の製造方法は、高分
子素材に、該高分子素材と化学的に結合できる働きを持
つスペーサーを導入した後、該スペーサーを導入した高
分子素材を抗菌性金属含有水溶液に浸漬して高分子素材
に抗菌性金属イオンを配位させることからなり、又は該
スペーサーの導入処理を行わず、該高分子素材を抗菌性
金属含有水溶液に浸漬して高分子素材に抗菌性金属イオ
ンを直接配位させることからなる。
【0017】
【発明の実施の形態】本発明では、−COOH、−NH
2、−OH、−SH、=NH等の配位基を有し、金属イ
オンと配位することができる化合物を便宜的に「スペー
サー」と呼ぶことにする。本発明によれば、高分子素材
に抗菌性金属イオンを確実に配位させて洗濯洗いや取り
扱いに対して耐久性を持たせるために、まず高分子素材
に金属イオンの配位基となるスペーサーを予め導入して
おき、この部位に抗菌性金属イオンを配位させている。
【0018】本発明者らは、スペーサーとして、すなわ
ち、高分子素材と物理的な相互作用を示したり、結合可
能なものであって、かつ抗菌性金属イオンが配位できる
配位基を有するものとして、金属比色定量試薬に用いら
れている多塩基酸等を利用することを見出して、本発明
を完成させるに至ったのである。
【0019】本発明で用いるスペーサーは、高分子素材
に導入することによって、両者間に相互作用を持たせる
ものであり、さらにこのスペーサーの導入された高分子
素材を金属イオン水溶液に浸漬することによって、高分
子素材に金属イオンの配位された金属錯体が形成され
る。利用できるスペーサーとしては、多塩基酸又はポリ
フェノール類がある。
【0020】多塩基酸とは、アルカリで中和した場合、
いくつかのアルカリ塩が生ずる酸である。多塩基酸の中
で金属比色定量試薬として身近なエチレンジアミン四酢
酸(以下、EDTAと略記することもある)を例にとる
と、アルカリで中和する際に、1〜4個のアルカリ塩が
生成するので、EDTAは四塩基酸として分類できる。
多塩基酸の例を次に列挙する。三塩基酸としては、ニト
リロ三プロピオン酸(以下、NTPと略記する。株式会
社同仁化学研究所、カタログ番号343−0208
1)、また四塩基酸としては、エチレンジアミン四酢酸
(以下、EDTAと略記する。株式会社同仁化学研究
所、カタログ番号342−01353)をはじめ、ニト
リロ三酢酸(以下、NTAと略記する。株式会社同仁化
学研究所、カタログ番号344−02072)、トラン
ス-1,2-ジアミノシクロヘキサン四酢酸・1無水物
(以下、CyDTAと略記する。株式会社同仁化学研究
所、カタログ番号343−00881)、グリコールエ
ーテルジアミン四酢酸(以下、GEDTAと略記する。
株式会社同仁化学研究所、カタログ番号348−013
11)、ジエチレントリアミン五酢酸(株式会社同仁化
学研究所、カタログ番号347−01141)、トリエ
チレンテトラミン六酢酸(株式会社同仁化学研究所、カ
タログ番号340−02873)を用いることができ
る。これらの化合物の中で、金属イオンを配位させるた
めに最も簡便に利用でき、金属の比色定量試薬としても
一般的なものはEDTAである。その無水物であるエチ
レンジアミン四酢酸・二無水物(以下、EDTA無水物
と略記する)が高分子素材にスベーサーを形成する試薬
として好ましく用いられる。
【0021】高分子素材と多塩基酸とを反応させるため
には、これらの多塩基酸から多塩基酸無水物を合成して
おき有機溶媒中で反応させる必要がある。多塩基酸の無
水物を合成するには、多塩基酸から6員環もしくは5員
環の無水物を調製するための簡便な従来公知の方法が利
用できる。例えば、密封した系において、窒素などの不
活性ガス雰囲気下、150℃以上の加熱により脱水反応
を起こすことで多塩基酸の無水物が合成できる。あるい
はまた、塩基酸のアルカリ塩と酸塩化物とを作用させる
ことで下記の化学式[I]の反応により塩基酸の無水物
を合成することもできる。
【0022】 RCOONa+RCOCl→ (RCO)2O+NaCl [I] EDTAは四塩基酸であるため、アルカリで中和すると
物理特性がそれぞれ異なる1〜4個のアルカリ塩が生成
する。EDTAは、種々な金属イオンの配位子となり、
EDTAと金属イオンとでは1:1の化学量論で反応が
進む。また金属イオンが配位すると吸収スペクトルが大
幅に変化するため、金属イオンの比色定量試薬として広
く用いられている。
【0023】EDTAからEDTA無水物を調製するに
は上記の酸無水物の製造方法により調製できる。高分子
素材とEDTA無水物とを化学修飾加工方法により反応
させ、高分子素材に先ずEDTAを導入し、次にEDT
Aの配位子に抗菌性金属イオンを配位させることで耐久
性に優れた抗菌性高分子素材を製造できる。
【0024】以下、EDTA無水物を例にとり、高分子
素材への化学修飾加工方法の具体例を記述する。まず、
EDTA無水物をジメチルスルホキシド(以下、DMS
Oと略記)あるいは、N,N'-ジメチルホルムアミド(以
下、DMFと略記する)等の有機溶媒に溶解させ、高分
子素材をこの溶液系に浸漬し、60−80℃の温度で1
時間−5時間反応させればよい。高分子素材に導入でき
るEDTA量は反応温度と反応時間により決まる。反応
温度が低い場合には反応時間を長めに設定する必要があ
るし、反応温度か高いと反応が早すぎるためEDTA導
入量が制御しにくい。そこで、最も好ましい反応条件
は、家蚕絹糸では、75℃、2−4時間、羊毛では75
℃、1−2時間である。
【0025】多塩基酸の無水物は、絹蛋白質や羊毛等の
蛋白質の分子側鎖のリジン、アルギニン、ヒスチジン等
の反応性に富む塩基性アミノ酸残基とアシル化反応を起
したり、セリン、チロシン、スレオニン等のアミノ酸残
基のフェノール性の水酸基とも反応する。羊毛には、反
応性に富むこれらの塩基性アミノ酸残基あるいはフェノ
ール性水酸基の総量が、絹フィブロインに比ベて約一桁
多く含まれるので、羊毛を加工する際のEDTA無水物
濃度は絹フィブロインの場合に比ベて希薄でもよく、反
応時間は短時間でよい。反応終了後は、DMFで試料を
洗い、試料に付着した未反応物を除去し、最終的には水
で洗う。このようにして高分子素材と多塩基酸とがアシ
ル化反応で結合して、後の反応で抗菌性金属と結合する
スペーサーが高分子素材に導入できる。
【0026】このようにして調製したスペーサーを導入
した高分子素材に抗菌性金属イオンを配位させるには、
この素材を室温の抗菌性金属塩水溶液に5−40時間浸
漬すればよく、これにより金属イオンがスペーサーの配
位基と簡単に配位する。この際に用いる金属塩水溶液
は、1Nのアンモニア水を加えてpHを9−12に調節
しておくと金属の錯体形成能力が高まる。金属塩水溶液
濃度は、5−60mMでよく、好ましくは20−30m
Mである。金属塩水溶液に浸漬したサンブルは処理後、
反応時と同一のpHのアンモニア水に入れて5時間静置
した後、室温で風乾させることで金属錯体を有する高分
子素材が調製できる。
【0027】また、スペーサーとしては、多塩基酸の代
わりにポリフェノール類を用いることもできる。ポリフ
ェノール類としては、タンニン酸、カテキン、フラボノ
イドが例示できる。緑茶由来のポリフェノールとして
は、(-)-エピカテキン(EC)、(-)-エピガロカテキン(EG
C)、(-)-エピカテキン ガレート(ECg)、(-)-エピガロカ
テキン ガレート(EGCg)等が例示できる。また、紅茶由
来のポリフェノールとしては、セアフラビン(TFI)、セ
アフラビン モノガレート A (TF2A)、セアフラビン モ
ノガレート B (TF2B)、セアフラビン ジガレート (TF3)
が例示できる。
【0028】タンニン酸はタンニンを加水分解して製造
できる。タンニンは植物界に広く存在しており、蛋白質
やゼラチンを水に溶けない物質に変える。カテキンは多
数の植物中にあり、多くのタンニンの母体と考えられ
る。フラボノールは黄色色素として植物界に存在する。
【0029】ポリフェノール類を用いる場合には、希薄
な硫酸水溶液を用いてポリフェノール水溶液のpHを1
−4付近、好ましくは1−3付近に調整し、この酸性水
溶液に高分子素材を浸漬処理して試料内部にポリフェノ
ール類を導入させる。高分子素材とポリフェノール類と
の間に働く強い分子相互作用を利用して両者は物理化学
的に結合する。しかる後にポリフェノール類の導入され
た高分子素材を抗菌性金属イオン水溶液に浸漬して、金
属イオンを配位させるとよい。この際、抗菌性金属イオ
ンはポリフェノール類の配位基、高分子素材の配位基と
配位する。
【0030】タンニン酸水溶液に高分子素材を浸漬して
素材にタンニン酸を効率よく導入するには、有機酸、無
機酸でタンニン酸水溶液のpHを1−4程度、好ましく
は1−3程度にまで下げておくとよい。こうすることに
より、家蚕絹糸、柞蚕絹糸及び羊毛等の高分子素材にタ
ンニン酸を効率よく導入できる。タンニン酸の水溶液に
希薄な硫酸水溶液を加えてpH調整をすることにより、
家蚕絹糸、柞蚕絹糸へのタンニン酸の吸着量は、それぞ
れ2.5倍、1.7倍にまで増加する。pH調整には硫
酸、塩酸等の公知の無機酸又は蟻酸、クエン酸等の公知
の有機酸を用いることができる。羊毛を始め天然繊維素
材の強度、伸度は、こうしたpH領域のタンニン酸水溶
液で処理しても低下し難く、素材は着色しない。
【0031】次に、高分子素材にスペーサーを介して抗
菌性金属イオンを結合せずに、高分子素材の水溶液と抗
菌性金属水溶液とを混合して、高分子素材に抗菌性金属
を直接作用させて金属イオンを配位する方法について、
絹蛋白質繊維を例にとり説明する。
【0032】絹蛋白質繊維から絹フィブロイン水溶液を
調製するための原料としては、家蚕又は野蚕由来の繭糸
もしくは生糸が用いられる。家蚕生糸を炭酸ナトリウム
等のアルカリ水溶液で煮沸し、繭糸もしくは生糸表面に
ある膠状の接着物質、セリシンを除去して調製できる絹
フィブロイン繊維を中性塩で溶解し、セルロース製の透
析膜で十分透析することにより純粋な絹フィブロイン水
溶液を調製できる。この絹フィブロイン水溶液をポリエ
チレン膜等の基質膜上で乾燥固化させると透明な絹フィ
ブロイン膜ができる。天然生体高分子である絹フィブロ
インは、手術用縫合絹糸の例からも明らかなように、生
体組織との生体適合性がよい。
【0033】上記のように、絹フィブロイン繊維を溶解
するには、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、臭化リチ
ウムなどの一般に知られた中性塩を利用できる。絹糸の
溶解性を高め、未変性状態に近い絹フィブロインを製造
するためには、溶解性の高いリチウムイオンを含む中性
塩が望ましく、臭化リチウムなどが特に好ましく用いら
れる。
【0034】また、野蚕絹フィブロイン水溶液は次のよ
うにして調製できる。柞蚕あるいは天蚕等から得られる
野蚕繭糸を繭糸重量に対して50倍量の0.1%過酸化
ナトリウム水溶液に浸漬し、98℃でl時間処理してセ
リシンを予め除去しておく必要がある。セリシンを除去
した野蚕絹フィブロイン繊維をチオシアン酸リチウム等
の溶解性の高い中性塩で溶解し、これをセルロース製透
析膜に入れ純水と透析することで野蚕絹フィブロイン水
溶液が調製できる。
【0035】本発明で用いる絹蛋白質としては、家蚕、
野蚕等のカイコ由来の蛋白質であれば種類を問わず利用
でき、未加工、未処理の蛋白質繊維であってもよく、あ
るいは金属イオンを配位させ得る配位基を予め導入した
蛋白質素材であってもよい。
【0036】絹蛋白質繊維は臭化リチウムの濃厚溶液で
溶解できる。これをセルロース透析膜に入れて純水と置
換することで絹フィブロン水溶液が調製できる。この水
溶液は、混合水溶液の蒸発速度や調製条件を変えること
によって、膜状にも、多孔質体状にも、ブロック状に
も、粉末状にも、ゲル状その他にも形成できる。粉末又
は多孔質体の調製は、絹フィブロインのブレンド水溶液
を−7℃以下、好ましくは−30℃以下で一旦凍結させ
たものを、さらに減圧下で凍結乾燥することにより行わ
れる。一方、絹フィブロイン膜は、その試料の水溶液
を、例えばポリエチレン膜上に広げ、水分を自然状態で
穏やかに蒸発させ、乾燥固化せしめることにより製造で
きる。水溶性蛋白質水溶液からゲル状材料を製造するに
は、まず、試料水溶液に、硫酸、塩酸等の無機酸、蟻
酸、クエン酸等の有機酸の水溶液を加えてpHを等電点
以下にするとよい。
【0037】本発明で利用できる抗菌性金属としては、
Ag、Cu、Fe、Ni、Zn、Co、Zr、Mn、S
n、Cr等の公知の抗菌性金属がある。通常これらの抗
菌性金属イオンを本発明のスペーサーに配位させたり、
又は高分子素材に直接配位させたりするには、水によく
溶ける塩の形の化合物が好ましく用いられる。硝酸塩、
硫酸塩、塩酸塩あるいはアンモニウム塩等の塩類化合物
が例示できる。水溶性の塩類化合物が特に良好であるの
は反応を進める上で有利であるからであり、例えば金属
の硝酸塩もしくは硫酸塩を用いることか望ましい。銀で
あれば硝酸塩であることが、鉄、ジルコニウムであれば
硫酸塩であることが特に好ましい。
【0038】抗菌性を付与する対象の素材としては、絹
蛋白質繊維であってもよいし、水溶液状態の絹フィブロ
インであってもよい。絹蛋白質繊維は、未処理・未加工
であっても、あるいは化学修飾加工した素材であっても
よい。
【0039】高分子素材にポリフェノールを導入した
後、抗菌性金属水溶液に浸漬して抗菌性金属イオンを配
位させる際に、ポリフェノールの導入量を増強させるに
は、ポリフェノール導入に先だって、高分子素材をビニ
ル化合物でグラフト加工をしておくとよい。ビニル化合
物としては、ビニル化合物の分子側鎖にアミド基を持つ
メタクリルアミド(以下、MAAと略記することもあ
る)あるいはアクリルアミドなどのような従来公知の重
合性ビニルモノマーが好ましく用いられる。
【0040】グラフト加工の概略は次の通りである。グ
ラフト加工液は、界面活性剤、グラフトモノマー、重合
開始剤から構成できる。加工液を調製する際に用いられ
る界面活性剤としては、例えばノイゲンHC(第一工業
製薬(株)製、商品名)のような非イオン界面活性剤や
ニューカルゲン1515−2H(竹本油脂(株)製、商
品名)のような非イオン界面活性剤とアニオン界面活性
剤との混合界面活性剤等が挙げられる。グラフト重合に
用いられる重合開始剤としては、通常の重合開始剤であ
ればよく、例えば過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウ
ム、過硫酸ナトリウム等が挙げられ、特に過硫酸アンモ
ニウムが好ましく用いられる。重合開始剤は、加工液に
添加される。重合開始剤の使用量は、通常のビニルモノ
マーの重合における使用量で十分であり、例えばMAA
40%owf(owfとは繊維重量に対する濃度表示)
用いた場合、重合開始剤として過硫酸アンモニウムを用
いるとき、過硫酸アンモニウムの使用量は、MAAと高
分子素材との合計重量に対し0.5〜3重量%程度であ
ることが好ましい。
【0041】グラフト加工液のpHを2〜4程度、好ま
しくは3前後に調整することは、グラフト重合反応を安
定して行わせ、グラフト効果、特にグラフト効率を向上
させるために好ましいことであり、pH調整は、硫酸、
蟻酸、塩酸等の酸、好ましくは蟻酸の添加により行われ
る。
【0042】グラフト加工液は、グラフト効率を高める
こと、また経済性の点から、蛋白質繊維又はその繊維製
品重量に対しての加工液重量比、即ち浴比を、好ましく
はl:10〜l:20、より好ましくは1:15とす
る。
【0043】グラフト重合反応は、加工液に蛋白質繊維
又はその繊維製品を浸漬し、加工液を室温から10〜2
0分かけて75〜80℃に昇温し、75〜80℃で30
分〜1時間保持して行う。グラフト重合反応後、反応さ
せた蛋白質繊維又はその繊維製品を洗浄し、乾燥し、本
発明で用いる改質蛋白質繊維又はその繊維製品を得る。
【0044】グラフト加工率は10〜30%であればよ
い。グラフト加工による重量増加率が10%未満である
とポリフェノールの導入効率が向上しないし、30%を
超えると絹糸、羊毛等の機械的特性が低下するおそれが
ある。MAAグラフト加工した絹糸をタンニン酸水溶液
で浸漬処理するには、上記に示した条件であれば可能で
ある。
【0045】以下、生体高分子である生体蛋白質に抗菌
性金属塩を作用させ、抗菌性蛋白質素材を調製する場合
を、水溶液状態の絹フィブロインを例にとり説明する。
絹フィブロイン繊維を臭化リチウム等の中性塩で溶解
し、セルロース製透析膜で純水と透析置換して得られる
絹フィブロイン水溶液を用いて抗菌性金属イオンを配位
させるには次のようにするとよい。0.2−1.5重量
%の絹フィブロイン水溶液に配位させようとする金属塩
の水溶液を先ず加え、次にこの系のイオン強度を調節す
るため中性塩を添加する。イオン強度を調節するために
添加する中性塩のアニオンは、用いた抗菌性金属塩のア
ニオンと一致させるとよい。例えば、硝酸銀を抗菌性金
属塩として用いた場合には、イオン強度の調節用の中性
塩は硝酸カリウムという具合である。
【0046】イオン強度調節用の中性塩のカチオンは、
特に制約を受けない。例えば、K、Na、Ca、Mg等
が例示できる。こうしたカチオンの中で、Kが特に好ま
しい。中性塩の添加量は、金属濃度に比べて過剰にする
ことが望ましく、濃度的には、50−200mMが適当
であり、特に好ましくは70−100mMである。イオ
ン強度調節用には、K、Ca等のカチオンであればどの
ようなものでも利用できるが、配位子に強く結合してし
まわないものが特に望まれる。
【0047】抗菌性金属塩の使用量は、抗菌性に特に優
れた銀の場合では、0.l−20mM程度の微量でよい
し、この添加量は用途に合わせて自由に変えることがで
きる。Fe、Cu、Zr、Zn等の抗菌性が中程度の金
属塩では、添加すべき抗菌性金属の量は多い方が望まし
く、通常は、l−70mMでよい。このように反応系の
イオン強度を一定にして、絹フィブロインに金属イオン
を配位させる反応を進めるイオン強度調節用の中性塩を
加える。通常は、カリウム塩がこの目的のために好まし
く用いられる。更に、この反応系のpHを、アルカリ水
溶液添加によりpH9−12に調整しておくことが望ま
しい。アルカリ水溶液として用いられるアルカリ剤は、
従来公知のものはいずれも利用できる。たとえば、アン
モニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リ
チウム等の水溶液が挙げられ、好ましくはアンモニア水
溶液が挙げられる。これらのアルカリ水溶液は単独で用
いても、又は組み合わせて用いてもよい。これらのアル
カリ水溶液を添加して反応系のpHを9以上に上げるこ
とで絹フィブロインヘの抗菌性金属イオンの配位が容易
となる。その理由は、絹蛋白質が両性物質であり、構成
アミノ酸側のカルボキシル基(−COOH)、アミノ基
(−NH2)に関し、試料環境のpHが上がると金属イ
オンの配位子となる蛋白質のアミノ酸側鎖からプロトン
が抜けて、抗菌性金属イオンが配位し易い構造を取るよ
うになるためである。すなわち、試料環境のpHが3以
上となると、先ず、次の反応が起こる。
【0048】−COOHからプロトンが抜けて → −
COO- → −COO−M 次いで、試料環境のpHがそれ以上になると、上記の反
応に加えて更に次の反応が起こる。
【0049】S−NH3 +からプロトンが抜けて → S
−NH2−M (但し、S及びMはそれぞれ、S:絹蛋白質、M:抗菌
性金属を意味する。) 絹フィブロイン等の生体高分子に抗菌性金属イオンが配
位する際には、金属イオンが生体高分子を構成する塩基
性アミノ酸側鎖(リジン、アルギニン、ヒスチジン)及
び/又は生体高分子主鎖のNH基、あるいはCO基との
間に可能な限りの配位結合が形成するものと考えられ
る。
【0050】絹フィブロインの等電点は3.8付近であ
るので、絹フィブロインの環境のpHを下げて等電点以
下とすると、反応系の絹フィブロインが凝固してしまう
ため不都合である。また、pHが13以上となると、ア
ルカリにより絹フィブロインの加水分解が起こり低分子
化するので好ましくない。
【0051】抗菌性金属のイオン価の違いにより、働き
うるイオンの数を一定にする必要がある。そのために
は、硝酸カリウムを必要に応じて添加する必要がある。
【0052】pH調節用にアンモニア水溶液を用いる理
由は、金属のアンモニウム塩が、抗菌性金属の配位子に
アンモニウムイオン等のカウンターイオンが入って安定
し、かつ抗菌性金属の沈殿が起こり難いためである。
【0053】
【実施例】次に本発明を実施例及び比較例によりさらに
詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるも
のではない。
【0054】以下の実施例において抗菌性評価のために
用いた植物性病原細菌として、トマトの重要な病原細菌
であり、植物性病原細菌の中でも数少ないグラム陽性菌
としてのトマトかいよう病菌(学術名:Corynebacteriu
m michiganese pv. michiganese)を選んだ。
【0055】実施例中の細菌に対する抗菌活性評価は下
記の方法により行った。
【0056】細菌に対する抗菌活性検定法:加熱溶解後
55℃に保持した半合成脇本培地又はキングB培地25
mlと、検定菌の胞子液(濃度109/ml)2mlと
を混合し、この混合物をシャーレに流し込んで平板状に
固めた。この菌液混合平板培地上に約2cmの長さ
(幅:0.1cm)に切断した細菌検定用の繊維状試料
を置き、ピンセットで注意深く検定試料の両端を培地に
埋め込み、試料全体を培地に密着させた。絹織物の場合
は、5mm角にハサミで切断して繊維状試料の場合と同
様に抗菌実験を行った。培地を20〜25℃に保ち、所
定の経過時間毎に検定試料付近の培地での菌増殖阻害程
度を下記の判定基準により4段階で評価した。但し、阻
止帯の幅が大きいものについては、実測値(mm)で表
示した。また、27Wの蛍光灯下で30cmの明るい位
置に培養容器を置いて行った抗菌評価実験については
「明」と記述した。「明」の標記のないものは、黒い布
をかけて光を遮断した状態で抗菌実験を行った。
【0057】++:強い(明瞭で幅2mm以上の菌増殖
阻止帯を形成) + :弱い(不明瞭な阻止帯、又は幅1mm以下の明瞭
な阻止帯を形成) ± :軽微(わずかに阻害が認められる) − :抗菌活性は認められない。
【0058】また、金属イオンを配位することにより試
料の機械的特性がどのように変化するかを調べる目的で
次の項目の試験を行った。
【0059】機械的特性:絹繊維、羊毛ならびに絹フィ
ブロイン膜の機械的性質(強度及び伸度)を測定し、切
断時の試料の強度と伸度を評価した。測定条件は、試料
の長さ15mm及び幅2mm、引張り速度4mm/mi
n、チャートフルスケール200gであり、(株)島津
製作所製引張り試験機(オートグラフ、形式AGS−5
D)により測定した。
【0060】フーリエ変換赤外吸収スペクトル:パーキ
ンエルマー社製のFT−IRスペクトル(フーリエ変換
赤外吸収スペクトル)測定装置を用いて金属錯体を形成
した絹フィブロイン膜の分子形態に関する吸収スペクト
ルを観察した。測定波数は、2000〜400cm-1
測定の繰り返し数は20回であった。
【0061】実施例1 JIS染色堅ろう度試験用の14目付の家蚕絹織物(J
IS L0803準拠)(以下、絹織物と略記する)ヘ
のエチレンジアミン四酢酸・二無水物(シグマアルドリ
ッチ ジャパン株式会社製、カタログ番号33,204
−6、以下EDTA無水物と略記)による処理を次のよ
うにして行った。先ず、絹織物を105℃の乾燥器に2
時間入れて試料重量を計量した(W1)。l0mLの無
水DMFを50mL容量のナス型フラスコに取り、ED
TA無水物2gを加えてよく溶解させた。その後、約
0.12gの絹織物を入れ、これに逆流冷却器を付け7
5℃で反応させた。なお、反応時間は、2時間、及び5
時間に設定した。反応終了後、試料に付着する未反応試
薬を除去するため先ずDMFで洗浄し、続いて55℃の
アセトンで試料を洗浄した。最後に水で洗った後、10
5℃で2時間の乾燥処理後、絶乾重量(W2)を測定し
た。反応前後における試料の重量増加の変化から重量増
加率(WG)を次式により求めた。
【0062】WG=(W2一W1)/Wl×l00(%) 75℃で2時間及び5時間反応させることで重量増加率
がそれぞれ7、12%の加工絹織物が調製できた。これ
らの試料を以下、No.l、No.2と略記する。
【0063】こうして調製できる絹織物を次の方法によ
り硝酸銀水溶液及び硝酸銅水溶液に浸漬することで抗菌
性金属イオンを配位させた。339.7mgの硝酸銀A
gNO3を4mLの水に溶解して0.5mMの硝酸銀溶
液を作製した。この中に硝酸カリウム(KNO3)を5
05.6mg加え、1Nのアンモニア水を用いてこの混
合水溶液のpHを11.4に調整し、最後に水を加えて
全量を60mLとした。こうして調製できる浸漬用の硝
酸銀水溶液に、EDTA無水物で処理し重量増加率が7
%(No.1)及び12%(No.2)の絹織物を25
℃で浸漬し36時間密封して放置した。反応終了後、l
Nのアンモニア水に硝酸銀水溶液から取り出した絹織物
を入れ、5時間静置後、取り出して室温で風乾させた。
このようにして銀イオンを配位させた絹織物を調製し
た。試料No.1に銀イオンを配位させた試料を以下試
料No.1−1、No.2−1と略記する。EDTA無
水物未処理、未加工絹織物を硝酸銀水溶液に浸漬したも
のを試料No.3と略記する。
【0064】上記の同様の方法でEDTA無水物で化学
修飾加工し、重量増加率が7%(No.1)と12%
(No.2)の絹織物に銅イオンを配位させた。すなわ
ち、4mLの水に483.2mgのCu(NO32・3
2Oを溶解させ、0.5mMの水溶液を調製した。l
Nのアンモニア水でこの水溶液のpHを11.4に調整
し、水を加えて溶液の全量を60mLとした。反応終了
後、1Nアンモニア水に硝酸銅水溶液から取り出した絹
織物を入れ、5時間静置後取り出して、これを室温で風
乾させた。このようにして銅イオンを吸着・配位させた
絹織物を調製した。これを以下試料No.1−2、N
o.2−2と略記する。EDTA無水物未処理・未加工
絹織物を硝酸銅水溶液に浸漬したものを試料No.4と
略記する。
【0065】トマトかいよう病細菌の増殖に及ぼすこれ
らの試料の阻害効果を評価した。試料の外周に現れる阻
止円(mm)を測定した。得られた結果を表1に示す。
【0066】
【表1】
【0067】表1から、抗菌性金属としては、銀イオン
の方が銅イオンより抗菌性が高いこと、重量増加率、す
なわち絹織物へのEDTA導入量が多い程抗菌性が向上
することが分かる。
【0068】実施例2 実施例lと同様の方法でEDTA無水物を用いて羊毛へ
の化学修飾を行った。但し、反応温度は75℃で、反応
時間は1、2、3、5時間に設定した。30mLの無水
DMFに3gのEDTA無水物を溶解させた溶液中で化
学処理を行った。このようにして重量増加率がそれぞ
れ、5.9、12.2、14.5、18.1%の加工羊
毛を調製した。以下、これらの試料をNo.5、6、
7、8と略記する。No.5に実施例1と同様の方法で
銀イオンあるいは銅イオンを配位させたものを以下、N
o.5−1、No.5−2と略記する。同様に、No.
6に銀イオンあるいは銅イオンを配位させたものを以
下、No.6−l、No.6−2と略記する。EDTA
無水物未加工の羊毛に実施例1と同様の方法で銀イオ
ン、又は銅イオンを付着させたものを以下、No.9、
No.10と略記する。トマトかいよう病細菌の増殖に
及ぼすこれら試料の阻害効果を評価した。得られた結果
を表2に示す。
【0069】
【表2】
【0070】表2から、表1でも明らかなとおり銀イオ
ンの抗菌性が銅イオンの抗菌性よりも優れていること、
絹織物に抗菌性金属イオンを単に吸着させるよりも、ま
ずEDTAを試料内に導入しておき、しかる後にこの試
料に抗菌性金属を導入する方が抗菌性が向上すること、
さらに絹織物へのEDTA導入量が多い程抗菌性が向上
することが分かる。
【0071】参考例1:タンニン酸の吸着量の検証 4.7重量%タンニン酸水溶液100mLに1.13m
Lの1N硫酸水溶液を加えた場合と加えない場合、家蚕
絹糸、柞蚕絹糸、及び羊毛ではどの程度のタンニン酸が
吸着するかを浸漬処理前後の試料重量変化の値から検討
した。浴比は1:100、処理温度70℃、反応時問は
20分〜7時間まで変化させた。各試料に対する具体的
な浸漬処理時間は表3を参照のこと。反応後、試料を水
で洗って乾燥後重量を測定した。得られた結果を表3に
示す。なお、硫酸を添加したタンニン酸処理区で羊毛を
処理してタンニン酸を導入し重量増加率が6%、8%と
なった試料を以下、No.11、No.12と略記す
る。同様に硫酸を添加したタンニン酸処理区で家蚕絹糸
を処理してタンニン酸を導入し、重量増加率が9、1
1、18%となった試料を以下、No.13、No.1
4、No.15と略記する。
【0072】なお、硫酸を添加したタンニン酸処理区で
羊毛を処理してタンニン酸を導入し重量増加率が6%、
8%となった試料を以下、No.11、No.12と略
記する。同様に硫酸を添加したタンニン酸処理区で家蚕
絹糸を処理してタンニン酸を導入し、重量増加率が9、
11、18%となった試料を以下、No.13、No.
14、No.15と略記する。
【0073】
【表3】
【0074】上記と同様の方法で合成高分子繊維、天然
繊維高分子を含む各種素材をタンニン酸水溶液(硫酸添
加)に浸漬することでタンニン酸がどの程度導入された
かを調べた。得られた結果を表4に示す。
【0075】
【表4】
【0076】表4から明らかなように、硫酸水溶液を含
むタンニン酸水溶液に各種高分子素材を入れ浸漬処理後
の重量増加量をみると、ポリアミド繊維、ジアセテー
ト、木綿でタンニン酸が多く吸着されていることが確認
された。タンニン酸を吸着せしめたジアセテート、ポリ
アミド、木綿、及びアクリルの繊維状試料に、実施例1
と同様にして、トマトかいよう病細菌の増殖に及ぼす銀
イオンを配位させた各種繊維の阻害効果を評価した。各
試料の阻止円の大きさをmmで表示すると、それぞれ、
10、16、4、及び2であった。
【0077】実施例 実施例lと同様の方法で羊毛への化学修飾を行った。E
DTA無水物で化学修飾した羊毛であって金属イオンを
錯体化させてない羊毛及び金属イオンを配位させた羊毛
を用いて、それらの試料をを切断するまで延伸したとき
の強度と伸度を測定した。得られた結果を表5に示す。
【0078】
【表5】
【0079】注)*:羊毛に実施例1と同様の方法で銅
イオンを直接配位させた試料 **:羊毛に EDTA を5.9%導入した後、銅イオンを配位
させた試料 ***:羊毛にタンニンを6.2%導入した後、銅イオンを
配位させた試料 EDTAによる化学修飾した羊毛あるいはタンニン酸水
溶液により浸漬処理した羊毛でほぼ同一の重量増加率を
示したが、タンニン酸処理した羊毛では強度低下が生じ
た。EDTAによる化学修飾では羊毛の機械的特性の低
下割合が小さいことが確かめられた。
【0080】実施例 実施例1及び2と同様の方法で家蚕絹フィブロイン繊維
へのEDTA(実施例)及びタンニン酸(参考例)によ
る化学修飾を行った。但し、反応温度は75℃で、反応
時間は1、2、3、5時間であった。このようにして重
量増加率がそれぞれ、表6に示すような加工絹フィブロ
イン繊維を調製した。EDTA無水物又はタンニン酸で
化学修飾した絹フィブロイン繊維及びこれにさらに金属
イオンを配位させた絹フィブロイン繊維を用いて、これ
らの試料を切断するまで延伸したときの強度と伸度を測
定し、得られた結果を表6に示す。
【0081】
【表6】
【0082】注)*:家蚕絹糸に実施例1と同様に銅イ
オンを直接配位させた試料 **:家蚕絹糸に EDTA を11.1%導入した後、銅イオン
を配位させた試料 ***:家蚕絹糸にタンニンを11.2%導入した後、銅イ
オンを配位させた試料 タンニン酸処理した家蚕絹糸の強度、伸度は、EDTA
による化学修飾加工の結果、重量増加率がほぼ同一の試
料の強度、伸度に比べて低下が目立つ。EDTA無水物
による処理を行っても家蚕絹糸の機械的性質の低下は見
られない。
【0083】実施例 実施例1で調製した試料No.3、2−1を水洗いして
抗菌性金属の洗濯耐久性を評価した。試料に導入した抗
菌性金属が流出し易いように、pH3.8に調整した2
5℃の酢酸水溶液に試料No.3、2−1を10時間浸
漬し静置した。浸漬処理後は、水洗いをして風乾した。
こうして得られる試料を試料No.301、211と略
記する。トマトかいよう病細菌の増殖に及ぼす阻害効果
を評価した。試料の6周に現れる阻止円(mm)を測定
し、得られた結果を表7に示す。
【0084】
【表7】
【0085】表7から明らかなように、絹織物に銀イオ
ンを単に吸着させた試料の抗菌活性は、浸漬処理をした
場合、低下してしまうが、EDTAをスペーサーとして
銀イオンと錯体化させた試料は、浸漬処理をしても抗菌
性の低下が僅かとなる。EDTAを家蚕絹に導入してお
くことにより銀イオンの脱離量が極微量となるからであ
る。
【0086】実施例 銀イオンで錯体化した木綿糸 木綿糸を実施例1と同様の方法で硝酸銀水溶液、あるい
は硝酸銅水溶液に浸積処理した。トマトかいよう病細菌
の増殖に及ぼすこの2種の試料の阻害効果を評価したと
ころいずれの場合も試料の外周に現れる阻止円の大きさ
は3.5mmであった。
【0087】実施例 2.5gの家蚕絹糸を55℃の8.5M臭化リチウム水
溶液20mL中に完全に溶解せしめ、この水溶液をセル
ロース製透析膜にいれて、5℃で5日間純水と置換する
ことで不純物を除去して純粋な絹フィブロイン水溶液を
調製した。かくして調製された絹フィブロイン水溶液に
蒸留水を加え、絶乾濃度が0.4%となるように絹フィ
ブロイン水溶液の原液を調製した。
【0088】2mLの水に6.8mgの硝酸銀AgNO
3 を溶解させて0.02mol/Lの硝酸銀水溶液を調
製した。これとは別に、16.2mgの硝酸カリウムを
2mLの水に加えて0.08mol/Lの硝酸カリウム
水溶液を調製した。硝酸銀水溶液と硝酸カリウム水溶液
とを1mL等量宛混合した後、この混合水溶液に0.4
%フィブロイン水溶液10mL、13mLの水を加えて
全液量を25mLとした。これに1Nのアンモニア水を
加えてpHを11.4に調整し、5℃に保った冷蔵庫に
12時間放置した。この水溶液をセルロース製の透析膜
に入れ、pH11.4のアンモニア水溶液で透析した。
このようにしてできる試料水溶液をポリエチレン膜上に
広げ、20℃でl昼夜かけて水分を蒸発させることによ
り、銀で錯体化した絹フィブロインの透明な膜を調製
し、抗菌性評価試験を行った。この試料を以下、AgS
Fと略記する。なお、調製条件の中で、金属塩量と硝酸
カリウムの添加量だけを変えることにより得られる絹フ
ィブロイン膜試料を以降、AgF1、AgF2、A
F3と略記する。同様にして銀の代わりにCu、C
oを錯体とした絹フィブロイン膜を調製した。トマトか
いよう病細菌の増殖に及ぼす金属錯体化絹フィブロイン
膜の阻害効果を評価し、得られた結果を表8に示す。表
8中、CuSF1及びCoSF1はそれぞれ、以下の実
施例10及び13記載の方法に従って調製したものであ
り、本実施例のAgイオンの代わりにCuイオン、Co
イオンが同様に配位された絹フィブロイン膜である。ま
た、「明」は抗菌実験を明るい環境下で行った場合であ
り、本明細書中「明」の表示のないものは全て暗い環境
下で行った場合であることを意味する。勿論、「暗」と
表示されていれば、暗い環境下で行ったものを意味す
る。
【0089】
【表8】
【0090】表8から明らかなように、絹フィブロイン
に銀イオンを錯体化した膜状試料は高い抗菌活性を示し
た。また、コバルトを錯体化した絹フィブロイン膜も銀
イオンの場合と同様に高い抗菌活性を示しており(抗菌
実験の環境が暗い「暗」の場合)、コバルトイオンの場
合には特に、抗菌実験が明るい環境下で行われた時に
は、銀イオンの場合及びコバルトイオンの暗い環境下で
の場合よりも2倍程度高い抗菌活性を示した。
【0091】実施例:銅イオンで錯体化した絹フィブ
ロイン膜 2mLの水に14.5gの硝酸銅(Cu(NO32・3
2O)を溶解させて0.06mol/Lの銅イオン水
溶液を調製した。これに0.4%絹フィブロイン水溶液
l0mL、13mLの水を加えて全液量を25mLとし
た。これにlNのアンモニア水を加えてpHを11.4
に調整し、5℃に保った冷蔵庫に12時間放置した。実
施例と同様の方法で、処理後、セルロース製の透析膜
を用いて同一pHのアンモニア水で透析後、銅で錯体化
した絹フィブロイン(CuSF)の透明な膜を調製し
た。銅錯体化絹フィブロイン膜の強度及び伸度を調べ、
得られた結果を表9に示す。なお、メタノール、10
分、60分区は、絹フィブロイン水溶液をポリエチレン
膜上で蒸発乾固させ調製できる絹フィブロイン膜を50
%(v/v)のメタノール水溶液に入れ、それぞれ10
分、60分浸漬処理したのち室温で乾燥した試料であ
る。
【0092】
【表9】
【0093】 (注)試料長:15mm チャート速度:500mm/min 延伸率:4mm/min チャートフルスケール:500gf 絹フィブロインの膜厚:20μm 表9から明らかなように、50%のメタノール水溶液で
10分間処理した絹フィブロイン膜は、0.6%引き伸
ばしても破れてしまう程の機械的もろさを示すが、銀イ
オンや、ジルコニウムイオンと錯体化させることで、若
干柔軟性を帯び、膜の切断強度が増加するなどの変化が
見られる。
【0094】実施例:銅イオンで錯体化した絹フィブ
ロイン膜 2mLの水に28.9mgのCu(NO32・3H2
を溶解させて0.06mol/Lの硝酸銅水溶液を調製
した。これとは別に、505.6mgの硝酸カリウムを
2mLの水に加えて2.5mol/Lの硝酸カリウム水
溶液を調製した。硝酸銀水溶液と硝酸カリウム水溶液と
を1mL等量宛混合した後、この混合水溶液に0.4%
絹フィブロイン水溶液10mL、13mLの水を加えて
全液量を25mLとした。これに1Nのアンモニア水を
加えてpHを11.4に調整し、5℃に保った冷蔵庫に
12時間放置した。この水溶液をセルロース製の透析膜
に入れ、pHll.4のアンモニア水溶液で透析した。
このようにしてできる試料水溶液をポリエチレン膜上に
広げ、20℃で1昼夜かけて蒸発させることにより、銅
で錯体化した絹フィブロイン(CuSF)の透明な膜を
調製した。トマトかいよう病細菌の増殖に及ぼす銅錯体
化絹フィブロイン膜の阻害効果を評価し、得られた結果
を表8に示す。
【0095】実施例10:鉄イオンで錯体化した絹フィ
ブロイン膜 33.4mgのFeSO4・7H2Oを2mLの水に溶解
して0.02mol/Lの硝酸鉄水溶液を調製した。ま
た、871.4mgのK2SO4に、2mLの水を入れて
0.08mol/LのK2SO4水溶液を調製した。各水
溶液1mLづつを等量宛混合した後、この混合水溶液に
0.4%絹フィブロイン水溶液10mL、13mLの水
を加えて全液量を25mLとした。これに1Nのアンモ
ニア水を加えてpHを11.4に調整した。この水溶液
をセルロース製の透析膜に入れ、pH11.4のアンモ
ニア水溶液で透析した。このようにしてできる試料水溶
液をポリエチレン膜上に広げ、20℃で1昼夜かけて蒸
発させることにより、鉄イオンで錯体化した絹フィブロ
イン(FeSF)の透明な膜を調製した。
【0096】実施例11:ジルコニウムで錯体化した絹
フィブロイン膜 実施例における硝酸銀の代わりに、22.0mgのZ
rSO4 を用いて同様の方法でZrで錯体化した絹フィ
ブロインの透明な膜を調製した。これを以下、ZrSF
と略記する。
【0097】実施例12:コバルトで錯体化した絹フィ
ブロイン膜 実施例における硝酸銀の代わりに、34.9mgのC
o(NO32・3H2Oを用いて同様の方法でCoで錯
体化した絹フィブロインの透明な膜を調製した。これを
以下、CoSFと略記する。
【0098】表8に示すとおり、コバルトで錯体化させ
た絹フィブロイン膜は、トマトかいよう病細菌の増殖を
極めて効率的に阻止していることが分かったため、次
に、コバルトで配位した絹フィブロイン膜の分子形態を
評価するためFT−IRスペクトル測定を行った。FT
−IRスペクトルの測定で観察できる吸収の波数(cm
−1)を測定し、得られた結果を表10に示す。
【0099】
【表10】
【0100】(注):( )内は、吸収スペクトルの強度
を次の4段階で示した。
【0101】vw:非常に弱い m:中程度 s:
強い vs:非常に強い 実施例13:ニッケルで錯体化した絹フィブロイン膜 実施例における硝酸銀の代わりに、34.9mgのN
i(NO3)2・6H2Oを用いて同様の方法でNiで錯体
化した絹フィブロインの透明な膜を調製した。これを以
下、NiSFと略記する。
【0102】実施例14:亜鉛で錯体化した絹フィブロ
イン膜 実施例における硝酸銀の代わりに、35.7mgのZ
n(NO3)2・6H2Oを用いて同様の方法でZnで錯体
化した絹フィブロインの透明な膜を調製した。これを以
下、ZnSFと略記する。
【0103】実施例15:マンガンで錯体化した絹フィ
ブロイン膜 実施例における硝酸銀の代わりに、34.4mgのM
n(NO3)2・6H2Oを用いて同様の方法でMnで錯体
化した絹フィブロインの透明な膜を調製した。これを以
下、MnSFと略記する。
【0104】実施例16 実施例7〜15で調製した各種金属錯体化絹フィブロイ
ン膜の形態的、理化学的特徴を調べ、得られた結果を表
11に示す。表中、金属錯体を含んだ絹フィブロイン膜
の形態的特徴の評価基準は次の通りであった。
【0105】 透明性:+透明、−不透明 強度:+あり、−
なし 水に対する溶解性:+溶解、−不溶
【0106】
【表11】
【0107】注)金属塩量は、金属の種類の違いによ
り、結晶水を含むものと含まないものとがある。
【0108】*:硫酸カリウムを使用、その他は硝酸カ
リウムを使用。
【0109】実施例17:浸透処理による金属イオンの
流出の検証7 実施例1及び2の方法に従って、絹織物及び羊毛のそれ
ぞれにEDTA無水物(実施例)で化学修飾したもの又
はタンニン酸(参考例)を反応させたものに銀イオンを
配位させた。EDTA無水物及びタンニン酸による重量
増加率の導入率は、それぞれ10.3%、10.5%で
あった。
【0110】酢酸水溶液でpH3.5にした洗浄液に試
料を入れ、振盪機を用いて15時間、及び5日間振盪処
理し、更に水洗いした試料の抗菌活性の実験を行った。
トマトかいよう病細菌の増殖に及ぼす各種試料の阻害効
果を評価した。得られた結果を阻止円の直径(mm)で
表12に示す。
【0111】
【表12】
【0112】表12から明らかなように、EDTAを導
入し、銀イオンで錯体化した絹織物は、振盪時間が12
0時間になっても抗菌活性の変化はない。タンニン酸で
処理し、銀イオンで錯体化した試料では銀イオンが極僅
か脱離し、抗菌活性が若干低下する。
【0113】実施例18:EDTA処理した絹織物、羊
毛をAg、Coで配位 実施例1及び2の方法に従って、絹織物及び羊毛のそれ
ぞれにEDTA無水物で化学修飾したものに銀イオン、
コバルトイオンを配位させた。EDTA無水物の導入率
は0%、10%、16%であった。これらの試料につい
て、抗菌活性を調べた。トマトかいよう病細菌の増殖に
及ぼすこれらの試料の阻害効果を評価した。得られた結
果を阻止円の直径(mm)で表13に示す。
【0114】
【表13】
【0115】表13から明らかなように、EDTA無水
物で化学修飾した絹織物にCoイオンが配位するとAg
イオンが配位した場合よりも抗菌性が向上する。また、
Coイオンを配位させた試料では、抗菌性の評価条件を
「明」、すなわち光をあてて明るくした条件下で行うこ
とで抗菌力が増加することが分かる。
【0116】実施例19:絹フィブロインと金属イオン
との錯体形成の検証 実施例で製造した水溶液状態の金属錯体化絹フィブロ
インのpH滴定曲線を文献(高分子論文集、51巻、1
67−171(1994))に示された方法で求めた。
得られた結果において、消費された−OHの量を金属1
イオン当たりに換算してpHに対してプロットすると複
数の階段状ステップ部位が認められたことから、絹フィ
ブロインに金属イオンが配位していることが確かめられ
た。
【0117】実施例20:絹フィブロイン水溶液中での
金属錯体の検証 3.6mMの金属イオン(Cu、Co、Fe、Ni)と
イオン強度調整用には50mM硝酸カリウムとを含む
0.31重量%の絹フィブロインの混合水溶液のpHを
アンモニア水溶液で11.4に調整した。なお、Feイ
オン調整用には50mMの硫酸カリウムを用いた。この
ようにして調製した金属イオンを含む絹フィブロイン水
溶液を1mLの石英製の角形セルに入れ、電子スペクト
ル測定装置(日立製作所製、U−3200)で吸光度を
測定した。測定の波数範囲は200−500nmであっ
た。金属イオンを含む絹フィブロインの水溶液の電子ス
ペクトルには、絹フィブロインのみ、及び金属イオンの
みの水溶液では全く見られない新しい吸収が出現した。
新しく表れた吸収の波数(nm)と吸収の形態を表14
に示す。
【0118】
【表14】
【0119】表記の吸収ピークはd−d遷移に基づくも
のであり、絹フィブロインと金属イオンとが錯体を確か
に形成していることを実証している。従って、金属イオ
ンを含む絹フィブロイン水溶液を乾燥固化させて得た絹
フィブロイン膜の場合も金属イオンが錯体を形成してい
る。
【0120】参考例2 シグマ社製のカテキン([+]−カテキン、C1251又
は[±]−カテキン、C1788)5mgを20mlの水
に溶解させ、これを50mlの三角フラスコに取り、こ
の中に3cm四方の絹織物を浸漬し、70℃で2時間加
熱処理した。反応終了後水洗いして室温で風乾させた。
実施例1と同様にして、硝酸銀水溶液にカテキン処理し
た絹織物を浸漬し、これに銀イオンを配位させた。カテ
キン処理をしない未加工絹織物に銀イオンを配位させた
ものに比べて、カテキン処理した絹織物に銀イオンを配
位させたものは、銀イオン吸着による着色程度が増加し
ており、カテキン処理した絹織物に銀イオンが多く配位
していることが確かめられた。
【0121】金属イオンを配位させていないカテキン処
理しただけの絹織物(カテキン処理絹織物)、ならびに
カテキン処理した絹織物に実施例1で用いた銀イオンの
代わりに銅イオンを配位させた絹織物(カテキン・銅錯
体化絹織物)の抗菌活性を評価した。トマトかいよう病
細菌の増殖に及ぼすこれら試料の阻害効果を調べた。カ
テキン処理絹織物には不明瞭であるが直径3mmの阻止
円と比較的明瞭な直径5mmの阻止円が、またカテキン
・銅錯体化絹織物では、22mmの阻止円が現れた。
【0122】カテキンをあらかじめ絹織物に作用させる
だけでも病原細菌の増殖を阻止する効果が見られるが、
カテキン処理絹織物に銅イオンを錯体化させることで、
さらに抗菌活性は目立って増加した。
【0123】実施例21:家蚕及び羊毛へのMAAグラ
フト加工 家蚕絹糸及び羊毛繊維それぞれへのグラフト加工を、次
のようにして行った。重合用モノマーとしてMAAを用
い、家蚕絹糸に対してはMAA濃度を70%owf、1
50%owf、羊毛に対してはMAA濃度を100%o
wf、150%owfに設定した。グラフト加工用溶液
には、MAAの他に12重量%ニューカルゲン1515
−2H(商品名、竹本油脂(株)製非イオン界面活性剤
/アニオン界面活性剤の混合界面活性剤)、過硫酸アン
モニウム1.8%owf(蛋白質繊維とMAAとの合計
重量に対する濃度表示)を加え、更に蟻酸2ml/Lを
添加してグラフト系のpHを3.1に調整した。グラフ
ト加工系の温度を20℃から80℃に20分かけて昇温
し、80℃に1時間保持してグラフト重合反応を行っ
た。グラフト重合反応後、蛋白質繊維又はその繊維製品
を取り出して洗浄し、乾燥した。家蚕絹糸についてはグ
ラフト加工率43%(MAA濃度70owfの場合)、
102%(MAA濃度150owfの場合)の加工試料
を、また羊毛についてはグラフト加工率22%(MAA
濃度100owfの場合)、41%(MAA濃度150
owfの場合)の加工試料を調製した。このようにして
調製した家蚕絹糸及び羊毛を70℃の4.76重量%濃
度のタンニン酸水溶液に浸漬した。家蚕絹糸では60
分、羊毛では3時間静置することでタンニン酸を吸着さ
せた。なお羊毛処理時には100mlのタンニン酸水溶
液に1N硫酸を1.13ml加えpH調整を行った。浴
比は1:100に設定した。処理前後の試料重量の測定
によりタンニン酸が試料重量の何%導入されたかを測定
し、得られた結果を表15に示す
【0124】
【表15】
【0125】表15から明らかなように、家蚕絹糸や羊
毛などの蛋白質繊維を予めグラフト加工により繊維内に
メタクリルアミドポリマーを充填させておき、これをタ
ンニン酸水溶液に浸漬処理するだけで、繊維内にタンニ
ン酸の導入量を増加させることができる。これを抗菌性
金属イオン水溶液に浸漬処理することにより抗菌性金属
イオンを配位させることができ、トマトかいよう病細菌
の増殖を抑制する抗菌性素材が調製できた。
【0126】
【発明の効果】本発明によれば、絹蛋白質や羊毛等の天
然繊維あるいは合成繊維に、化学修飾法で抗菌性金属イ
オンを配位させることが可能な配位基を有するスペーサ
ーを予め導入し、その後、抗菌性金属イオンを配位させ
ているため、洗濯等の処理に対しても耐久性に優れ、抗
菌スペクトルの広い抗菌性素材が提供できる。この抗菌
性素材は、植物由来のトマトかいよう病菌の増殖を阻害
することができるという効果を持つ。
【0127】動物蛋白質繊維では、多塩基酸の無水物を
反応させてアシル化反応でスペーサーを導入しているの
で、抗菌性金属イオンがスペーサーの配位基に確実に配
位し、洗濯、ドライクリーニングを行っても金属が脱離
することもなく、耐久性に優れた抗菌性素材として利用
できる。
【0128】絹フィブロイン水溶液に抗菌性金属水溶液
を作用させて調製した抗菌性絹フィブロイン水溶液を用
いると、膜状、多孔質体状、ブロック状、粉末状、ゲル
状等形がさまざまに異なる抗菌性蛋白質を形成すること
ができる。所望により、上記抗菌性絹フィブロイン水溶
物体の表面上にスプレーし、乾燥固化してできる薄
膜を不溶化させれば耐久性に富んだ抗菌性薄膜を核物体
の表面に被覆することができる。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.7 識別記号 FI C08J 7/06 C08J 7/06 Z D06M 13/342 D06M 13/342 (56)参考文献 特開 平5−7617(JP,A) 特開 平8−232169(JP,A) 特開 平7−3651(JP,A) 特開 平7−138875(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) D06M 13/00 - 13/535

Claims (10)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 高分子素材からなり、該高分子素材と化
    学的に結合できる働きを持つスペーサーとしてEDTA
    無水物が該高分子素材に導入され、かつ該EDTA無水
    を介して高分子素材に抗菌性金属イオンが配位されて
    いることを特徴とする抗菌性高分子素材。
  2. 【請求項2】 前記高分子素材は、動物蛋白質繊維、天
    然セルロース繊維、ジアセテート繊維及びポリアミド繊
    維の群から選ばれる少なくとも一つであることを特徴と
    する請求項1記載の抗菌性高分子素材。
  3. 【請求項3】 前記動物蛋白質繊維は、絹蛋白質、羊
    毛、又はコラーゲンであることを特徴とする請求項2記
    載の抗菌性高分子素材。
  4. 【請求項4】 前記天然セルロース繊維は木綿繊維であ
    ることを特徴とする請求項2記載の抗菌性高分子素材。
  5. 【請求項5】 前記抗菌性金属イオンは、銀イオン、銅
    イオン、コバルトイオン、亜鉛イオン、ニッケルイオ
    ン、鉄イオン、ジルコニウムイオン、マンガンイオン、
    錫イオン、又はクロムイオンであることを特徴とする請
    求項1〜のいずれかに記載の抗菌性高分子素材。
  6. 【請求項6】 前記高分子素材が、絹フィブロイン繊維
    を中性塩水溶液中に溶解して得た絹フィブロイン水溶液
    から蒸発固化して得た絹フィブロイン膜であり、抗菌性
    金属イオンが前記スペーサーを介することなく絹フィブ
    ロインに直接配位されていることを特徴とする請求項
    又は5記載の抗菌性高分子素材。
  7. 【請求項7】 前記高分子素材はビニル化合物でグラフ
    ト加工されたものであり、前記スペーサーはポリフェノ
    ール化合物であり、該グラフト加工によりポリフェノー
    ル化合物の導入量が増強されていることを特徴とする請
    求項1〜のいずれかに記載の抗菌性高分子素材。
  8. 【請求項8】 前記ビニル化合物はメタクリルアミド又
    はアクリルアミドであることを特徴とする請求項7記載
    の抗菌性高分子素材。
  9. 【請求項9】 前記ポリフェノール化合物は、タンニン
    酸、カテキン、又はフラボノイドであることを特徴とす
    る請求項7又は8記載の抗菌性高分子素材。
  10. 【請求項10】 絹フィブロイン繊維を中性塩水溶液中
    に溶解して、絹フィ ブロイン水溶液を調製し、該絹フィ
    ブロイン水溶液と抗菌性金属含有水溶液との混合物から
    水分を蒸発せしめ、抗菌性金属の配位された絹フィブロ
    イン膜を得ることを特徴とする抗菌性絹フィブロイン膜
    の製造方法。
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