JP3038979B2 - 船外機の被吊設装置 - Google Patents

Description

【発明の詳細な説明】

【０００１】

【産業上の利用分野】本発明は、船外機のエンジン単体
もしくは船外機全体を吊り上げるため、エンジン上部に
設けられる、船外機の被吊設装置に関する。

【０００２】

【従来の技術】一般的な船外機は、エンジンが最上部に
搭載されている。そして船外機を船体に着脱する場合、
あるいはエンジンのみを船外機に着脱する場合には、エ
ンジンの上部に設けられている被吊設装置（ハンガーブ
ラケット）にクレーン等の吊設用フックを掛止させて船
外機全体もしくはエンジン単体を吊り上げ、着脱を行
う。上記ハンガーブラケットの設置場所は、特にエンジ
ン単体を吊設した際のエンジンの傾きを防止し、船外機
に搭載し易くするために、エンジン重心の鉛直上に当た
るエンジンケース上面とするのが望ましい。

【０００３】ところが、４サイクルエンジンを搭載した
船外機のように、エンジンケースの上面にベルト駆動等
によるカムシャフト駆動装置が配置され、その耐水性お
よび安全性の確保と作動騒音低減等のためにエンジンケ
ース上面が全面的にカバーで覆われているものにおいて
は、ハンガーブラケットをエンジンケース上面に設置し
にくい。

【０００４】そこで、例えば実開平３−７６７９９号公
報に見られるように、エンジンケース上面を覆うカバー
を一部切り抜き、エンジンケース上面にボルトで締結し
たハンガーブラケットをカバーの切り抜き穴から上方に
突出させている。

【０００５】しかし、このようにカバーに切り抜き穴を
開けてしまうと、カバーの耐水性および防音性が損なわ
れてしまうため、同公報の図７に示されるように、エン
ジン上面に設けたボスをカバーの貫通孔に貫通させ、上
記ボスの上端にハンガーブラケットをボルト止めすると
ともに、ボスの周囲に環装した弾性部材をカバーの貫通
孔に嵌合することにより、カバーの貫通孔を弾性部材で
閉塞して耐水性や防音性を良くしている。

【０００６】

【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記構
成では、弾性部材がボスの軸方向に位置決めされていな
いため、弾性部材がカバーとともにボスの軸方向に相対
移動しやすく、カバーの耐水性や防音性および防振性の
面において充分ではない。しかも、ボス（エンジンケー
ス）に対するカバーの相対高さを変更できないため、カ
ムシャフト駆動装置やカバー等の設計変更がなされる
と、ハンガーブラケットの取り付けができなくなる懸念
があった。

【０００７】本発明は上記問題点を考慮してなされたも
ので、船外機に搭載される４サイクルエンジンのエンジ
ンケース上面がカムシャフト駆動装置のカバーにより覆
われていても、上記カバーの耐水性、防音性および防振
性を損うことなく、エンジン重心鉛直上部にハンガーブ
ラケットを設置可能にするとともに、エンジンケースに
対する上記カバーの相対高さを選択可能にして設計変更
等を容易にすることのできる船外機の被吊設装置を提供
することを目的とする。

【０００８】

【課題を解決するための手段】上記目的を達成するた
め、本発明に係る船外機の被吊設装置は、クランクシャ
フトが直立する姿勢で搭載された４サイクルエンジンの
エンジンケース上面がカムシャフト駆動装置のカバーで
覆われ、上記エンジンケース上面に突設された支持体が
上記カバーに穿設された貫通孔を貫いてカバー上に露出
し、上記支持体にハンガーブラケットが固定された船外
機の被吊設装置において、上記支持体を、エンジンケー
スの上面に一体形成した取付台座と、この取付台座の上
部に重ねられる別体のスペーサとを備えて構成し、上記
スペーサの周囲にリング形状の弾性部材を密に環装する
とともに、スペーサの上部に上記ハンガーブラケットを
固定し、スペーサの下端側に形成した外フランジとハン
ガーブラケットとの間に上記弾性部材を上下方向不動に
保持するとともに、上記弾性部材の周囲に上記カバーの
貫通孔を上下方向不動かつ密に嵌合させることにより、
弾性部材でカバーの貫通孔を閉塞するとともにカバーを
弾性支持したことを特徴とする。

【０００９】

【作用】上記のように、４サイクルエンジンのエンジン
ケース上面に設けた支持体を、エンジンケース上面を覆
うカバーを貫通させてカバー上に露出させ、この支持体
の上部にハンガーブラケットを固定すれば、エンジン重
心鉛直上部にハンガーブラケットを設置することがで
き、エンジンを水平状態で吊設可能にすることができ
る。

【００１０】また、支持体を構成するスペーサの周囲に
密に環装された弾性部材が上下方向不動に保持され、こ
の弾性部材にカバーの貫通孔が上下方向不動かつ密に嵌
合されるため、カバーがエンジンケースに対して上下方
向に相対移動せず、支持体とカバーとの間に弾性部材が
介在することからカバーの耐水性や防音性および防振性
が良好に保たれる。

【００１１】さらに、エンジンケース上面に一体形成さ
れた取付台座の上に別体のスペーサが重ねられるため、
高さサイズの異なるスペーサに交換することにより、エ
ンジンケースに対するカバーの相対高さを任意に変更す
ることができる。したがって、カムシャフト駆動装置や
カバー等の設計変更がなされても、ハンガーブラケット
の取り付けに支障を来すことがなく、設計変更等が容易
である。

【００１２】

【実施例】以下、図面を参照しながら本発明の一実施例
を説明する。

【００１３】図３は、本発明に係る船外機の被吊設装置
を備えた船外機の右側面を示す図である。

【００１４】この船外機１の中央部であるドライブシャ
フトハウジング２の上部には略平板状のエンジンホルダ
３が載置され、このエンジンホルダ３の上には、エンジ
ン４が、そのクランクシャフト５を直立させる姿勢で搭
載されている。

【００１５】上記ドライブシャフトハウジング２の下部
にはプロペラシャフトハウジング６が接続されており、
これら２，６の内部にはドライブシャフト７がほぼ垂直
に軸支されている。このドライブシャフト７の上端は、
クランクシャフト５の下端にセレーション結合等によっ
て接続される。

【００１６】プロペラシャフトハウジング６内にはプロ
ペラシャフト８が水平に軸支されており、このプロペラ
シャフト８の後端部はプロペラシャフトハウジング６よ
り突出し、この部分にプロペラ９が回転一体に取り付け
られる。

【００１７】上記ドライブシャフト７とプロペラシャフ
ト８は、例えば複数のベベルギヤとドッグクラッチによ
り構成されるクラッチ機構１０を介して連動回転する。
このクラッチ機構１０は、ドライブシャフト７の回転を
ドッグクラッチによって切り換え、プロペラシャフト８
を正転又は逆転、もしくは停止状態に保つことができ
る。

【００１８】このような構成を持つ船外機１は、ドライ
ブシャフトハウジング２の前縁に枢着されたクランプブ
ラケット１１によって船体１２のトランサム（船尾部）
１３に、左右回動自在に据え付けられる。そして船外機
１はエンジン４の動力によってプロペラ９を回転させ、
推進力を船体１２に伝達するともに、船体１２に対して
左右に回動し、操舵を行う。

【００１９】このような船外機１を船体１２に着脱する
場合、あるいはエンジン４のみを船外機１に着脱する場
合には、エンジンカバ１４を取り外し、エンジンケース
１５上面に設置された被吊設装置１６にクレーン等の吊
設用フックを掛止させて船外機１全体、もしくはエンジ
ン４単体を吊り上げ、着脱を行う。

【００２０】次に上記エンジン４の構造を簡単に説明す
る。図４はエンジン４の縦断面、図５は図４のＶ矢視を
それぞれ示している。

【００２１】このエンジン４は４サイクルＳＯＨＣ型式
のガソリン機関で、例えば直列４シリンダ配置のもので
あり、その外殻となるエンジンケース１５は、シリンダ
ヘッド２１とシリンダブロック２２、およびクランクケ
ース２３より構成される。また上記シリンダヘッド２１
にはヘッドカバー２４が被装される。

【００２２】前記クランクシャフト５は、シリンダブロ
ック２２とクランクケース２３とが画成するクランク室
２５内に回転自在に軸支され、クランクシャフト５のク
ランクホイール２６，２６間に偏心介装されたクランク
ピン２７が、シリンダブロック２２内に形成されたシリ
ンダ２８内に摺動自在に挿入されたピストン２９のピス
トンピン３０にコンロッド３１で連接されているため、
ピストン２９の往復運動がクランクシャフト５の回転運
動に変換され、エンジン４の動力となる。

【００２３】一方、シリンダヘッド２１とヘッドカバ２
４とが画成するカム室３２内には、４サイクルエンジン
としての動弁機構３３を駆動させるカムシャフト３４が
回転自在に軸支されている。

【００２４】前記クランクシャフト５およびカムシャフ
ト３４の上端は、エンジンケース１５より突出してお
り、クランクシャフト５はカムシャフト駆動装置３５を
介してカムシャフト３４を駆動する。

【００２５】上記カムシャフト駆動装置３５は一般的な
ベルト駆動方式であり、クランクシャフト５に回転一体
であるドライブプーリ３６と、カムシャフト３４に回転
一体であるドリブンプーリ３７と、これらプーリ３６，
３７間に架け渡されたタイミングベルト３８、およびタ
イミングベルト３８の張力を調整するベルトテンショナ
３９より構成される。

【００２６】上記タイミングベルト３８は有歯ベルトで
あり、ドライブプーリ３６とドリブンプーリ３７の外周
歯にかみ合うため、クランクシャフト５の動力は滑るこ
となくカムシャフト３４に伝達され、クランクシャフト
５が２回転する毎にカムシャフト３４が１回転する設定
となっている。

【００２７】このカムシャフト駆動装置３５は、クラン
クシャフト５に回転一体であるフライホイール４１やス
タータモータ４２とともにカムシャフト駆動装置３５の
カバーとなるベルトカバー４３で覆われる。ベルトカバ
ー４３は例えば合成樹脂製であり、エンジン４の上面に
複数設けられたねじ穴４４にねじ止めされてエンジンケ
ース１５の上面を全面的に覆い、カムシャフト駆動装置
３５やフライホイール４１およびスタータモータ４２の
耐水性および安全性を確保するとともに、カムシャフト
駆動装置３５の作動騒音を低減させる。

【００２８】さて、前記被吊設装置１６は、エンジン重
心Ｇの鉛直上に当たるエンジンケース１５の上面に設置
されている。図１は図４に示す被吊設装置１６の拡大図
であり、本発明の一実施例を示している。また図２は図
１のＩＩ−ＩＩ線に沿う断面を示している。

【００２９】この被吊設装置１６は、エンジンケース１
５（本実施例ではシリンダブロック２２）の上面に設け
られ、上記ベルトカバー４３に穿設された貫通孔４３ａ
を貫いてベルトカバー４３上に露出する支持体４５にハ
ンガーブラケット４７を設ける一方、この支持体４５に
設けられた弾性部材であるブッシュ４８を上記貫通孔４
３ａに装着して貫通孔４３ａを閉塞するとともにベルト
カバー４３を弾性支持したものである。

【００３０】本実施例において上記支持体４５は、シリ
ンダブロック２２の上面に一体形成された取付台座４９
と、その上部に別体に重ねられる前後一対のスペーサ５
０とを備えて構成されている。スペーサ５０は、硬質な
金属材料等により略円筒状に形成され、固定ボルト５１
が挿通される挿通孔５０ａを有し、その下端側に外フラ
ンジ５０ｂが形成され、この外フランジ５０ｂ側が取付
台座４９の上に載置され、外フランジ５０ｂよりも上の
筒状部分がベルトカバー４３の貫通孔４３ａを貫く。

【００３１】一方、ハンガーブラケット４７は、例えば
直角に折り曲げられた金属板であり、クレーン等のフッ
ク５２が掛止される被吊設孔４７ａと、一対の取付孔４
７ｂを有している。取付孔４７ｂが形成される部分は水
平かつ平坦な取付座面４７ｃとされ、この取付座面４７
ｃがスペーサ５０の上に載置され、取付孔４７ｂがスペ
ーサ５０の挿通孔５０ａの上に整合する。

【００３２】また、固定ボルト５１は、ハンガーブラケ
ット４７の取付孔４７ｂおよびスペーサ５０の挿通孔５
０ａに上方から挿通され、取付台座４９の中心軸に沿っ
て形成された取付ねじ穴４９ａに締結される。

【００３３】さらに、ブッシュ４８は、例えばゴム製で
リング形状をなし、その上下端にそれぞれ上フランジ４
８ａおよび下フランジ４８ｂが形成されている。このブ
ッシュ４８はスペーサ５０に密に環装されるとともにス
ペーサ５０の外フランジ５０ｂと、ハンガーブラケット
４７の取付座面４７ｃとの間に挟持され、上下方向不動
に保持される。

【００３４】そして、ブッシュ４８の周囲にベルトカバ
ー４３の貫通孔４３ａが上下方向不動かつ密に嵌合され
る。このため、ブッシュ４８により貫通孔４３ａが閉塞
されるとともに、ブッシュ４８の上フランジ４８ａと下
フランジ４８ｂとの間でベルトカバー４３が弾性支持さ
れる。

【００３５】以上のように構成された被吊設装置１６
は、エンジンケース１５の上面に設けた支持体４５（ス
ペーサ５０）がベルトカバー４３の貫通孔４３ａを貫通
してベルトカバー４３上に露出し、その上部にハンガー
ブラケット４７が固定される構造なので、エンジンケー
ス１５の上面がベルトカバー４３に覆われているにも拘
らず、ハンガーブラケット４７をエンジン重心Ｇの鉛直
上部に設置することができる。このため、特にエンジン
４を単体で船外機１に着脱する際に、エンジン４を水平
状態で吊設することができ、着脱作業が行いやすい。

【００３６】また、スペーサ５０に対し上下方向不動に
設けられたブッシュ４８にベルトカバー４３の貫通孔４
３ａが同じく上下方向不動に嵌合されるため、ベルトカ
バー４３がエンジンケース１５に対して上下方向に相対
移動することがなく、しかもブッシュ４８により貫通孔
４３ａが液密に閉塞されることから、ベルトカバー４３
の耐水性や防音性および防振性が良好に保たれる。特
に、ベルトカバー４３のほぼ中央部がブッシュ４８によ
り弾性支持されることから、エンジン４の運転時におけ
るベルトカバー４３の振動が効果的に抑制され、ベルト
カバー４３からの放射音が低減してエンジン４の静粛性
が向上する。

【００３７】さらに、支持体４５は、エンジンケース１
５の上面に一体形成された取付台座４９の上に別体のス
ペーサ５０が重ねられる構造であるため、スペーサ５０
を高さサイズの異なるものに交換することにより、エン
ジンケース１５に対するベルトカバー４３の相対高さを
任意に変更することができる。したがって、カムシャフ
ト駆動装置３５やベルトカバー４３等の設計変更がなさ
れても、ハンガーブラケット４７の取り付けに支障を来
すことがなく、エンジン４の設計変更等が非常に容易で
ある。

【００３８】なお、本実施例においてエンジン４は、直
列４シリンダ配置のＳＯＨＣ型式であるが、本発明に係
る被吊設装置はＶ型シリンダ配置のエンジンやＤＯＨＣ
エンジン等にも幅広く適用できる。

【００３９】

【発明の効果】以上説明したように、本発明に係る船外
機の被吊設装置によれば、４サイクルエンジンのエンジ
ンケース上面がカムシャフト駆動装置のカバーにより覆
われていても、上記カバーの耐水性、防音性および防振
性を損うことなく、エンジン重心鉛直上部にハンガーブ
ラケットを設置可能にするとともに、エンジンケースに
対する上記カバーの相対高さを選択可能にして設計変更
等を容易にすることができる。

【図面の簡単な説明】

【図１】本発明の一実施例を示す被吊設装置の縦断面
図。

【図２】図１のＩＩ−ＩＩ線に沿う断面図。

【図３】本発明に係る船外機の被吊設装置を備えた船外
機の右側面図。

【図４】船外機のエンジンの縦断面図。

【図５】図４のＶ矢視図。

【符号の説明】

１ 船外機 ４ エンジン ５ クランクシャフト １５ エンジンケース １６ 被吊設装置 ２２ シリンダブロック ３５ カムシャフト駆動装置 ４３ カムシャフト駆動装置のカバーとなるベルトカバ
ー ４３ａ 貫通孔 ４５ 支持体 ４７ ハンガーブラケット ４７ａ 被吊孔 ４８ 弾性部材となるブッシュ ４８ａ 上フランジ ４８ｂ 下フランジ ４９ 取付台座 ５０ スペーサ ５０ｂ 外フランジ ５１ 固定ボルト

Claims (1)

(57)【特許請求の範囲】
1. 【請求項１】 クランクシャフトが直立する姿勢で搭載
   された４サイクルエンジンのエンジンケース上面がカム
   シャフト駆動装置のカバーで覆われ、上記エンジンケー
   ス上面に突設された支持体が上記カバーに穿設された貫
   通孔を貫いてカバー上に露出し、上記支持体にハンガー
   ブラケットが固定された船外機の被吊設装置において、
   上記支持体を、エンジンケースの上面に一体形成した取
   付台座と、この取付台座の上部に重ねられる別体のスペ
   ーサとを備えて構成し、上記スペーサの周囲にリング形
   状の弾性部材を密に環装するとともに、スペーサの上部
   に上記ハンガーブラケットを固定し、スペーサの下端側
   に形成した外フランジとハンガーブラケットとの間に上
   記弾性部材を上下方向不動に保持するとともに、上記弾
   性部材の周囲に上記カバーの貫通孔を上下方向不動かつ
   密に嵌合させることにより、弾性部材でカバーの貫通孔
   を閉塞するとともにカバーを弾性支持したことを特徴と
   する船外機の被吊設装置。