JP3017498B2 - 非晶質合金製造装置及び非晶質合金の製法 - Google Patents

非晶質合金製造装置及び非晶質合金の製法

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、非晶質合金の製造
装置及び非晶質合金の製法に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、1〜100 K/sの非常に小さな臨
界冷却速度をもった非晶質合金が開発されている。例え
ば、Zr−Al−Co−Ni−Cu系、Zr−Ti−A
l−Ni−Cu系、Zr−Ti−Nb−Al−Ni−C
u系、Zr−Ti−Hf−Al−Co−Ni−Cu系、
Zr−Al−Ni−Cu系などがあり、特に、Zr−A
l−Ni−Cu系が好ましいとされている。また、これ
にともない、大型(バルク状)の非晶質合金成型品が種
々の方法により製造されつつある。例えば、溶融金属を
押圧して所定形状にする鍛造法、溶融金属を圧延して所
定形状にする圧延法、溶融金属を鋳込んで所定形状にす
る鋳造法などである。
【0003】上記鍛造法や圧延法では、例えば、水冷さ
れた銅製の金型上に設けられた溶解部に、金属材料を設
置し、アーク放電などで金属材料を溶解し、所定形状を
有する上記金型上の溶融金属を、上型にて押し広げたり
(鍛造)ロールにて押し充填(圧延)すると共に、溶融
金属を臨界冷却速度以上で冷却して、非晶質合金を成形
する。これら鍛造法や圧延法は、溶湯を金型に押圧する
過程があるため、鋳造法に比べて溶湯と金型の接触圧が
高く、従って接触部での熱伝導が高いために極めて高い
冷却速度が得られ、過冷却度の高い良好な大型(バルク
状)の非晶質合金成型品が得られる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、より良
好な大型(バルク状)の非晶質合金成型品を得るために
は、次のような問題点がある。 溶融金属が凝固しないうちに成形を完了しなければ
ならないことから、溶解工程から押圧工程に移るまでの
時間を極力短くしなければならないが、水冷された銅製
の金型上で金属材料が溶解されるので、溶解するための
アーク放電や電子ビームを停止すれば直ちに金型に熱を
奪われ、溶湯温度の低下が速い。 水冷銅製金型上で溶解するので、金型に接している
部分の溶解すべき合金(金属材料)は溶解できない。即
ち、金型が溶解しないようにして溶解すべき合金を全て
溶解するには、金型の融点以上に金型温度を上げないよ
うな高度な温度コントロールが必要であり、現実上困難
である。 金型と溶解すべき合金間の熱接触が比較的悪いとは
いえ、金型材料よりも融点の高い合金を完全に溶解する
ことは不可能である。 以上のの問題点によって、溶湯の温度を高くする
ことができず、上述したような「溶融金属が凝固しない
うちに成形を完了しなければならない」という点におい
て不利である。 さらに、完全に溶解しない場合、金型に接している
未溶解部表面から次々と結晶核と成りうるクラスタ(隣
接原子の配置が結晶の配置に近い原子の小集団)などが
溶湯内に放出されていると考えられ、臨界冷却速度以上
の急冷による非晶質の形成に際して、溶湯内に結晶核と
成りうるクラスタを含むことは極めて不都合である。 一方で、融点の高い、例えばカーボン製の金型を用
いれば、溶解すべき合金の完全な溶解は可能であるもの
の、溶湯を金型に充填すると共に溶融金属を臨界冷却速
度以上で冷却するためには、熱伝導率が不十分である。
【0005】そこで、本発明は、簡単かつ確実により良
好な大型(バルク状)の非晶質合金成型品を得ることが
できる非晶質合金製造装置、及び、非晶質合金の製法を
提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】上述の目的を達成するた
めに、本発明に係る非晶質合金製造装置は、金属材料を
溶解可能な高エネルギー熱源を用いて該金属材料を溶解
して形成した溶融金属を、所定形状に変形し、かつ、変
形と同時にもしくは変形後に上記溶融金属を臨界冷却速
度以上で冷却して、上記所定形状に成型する非晶質合金
製造装置であって、金属材料溶解部とキャビティ部を有
する下型と、該下型と共働きして上記金属材料溶解部の
溶融金属を押圧し上記キャビティ部に流し込んで成型す
るための上型と、から成る金型を備え、さらに、上記下
型の金属材料溶解部が、熱伝導率が250kcal/(m・h・
℃) 以下の材料にて構成されているものである。
【0007】また、下型のキャビティ部が、熱伝導率が
270kcal/(m・h・℃) 以上の材料にて構成されているも
のである。また、下型の金属材料溶解部が、グラファイ
トにて構成されているものである。また、下型のキャビ
ティ部が、銅又は銅合金もしくは銀にて構成されている
ものである。
【0008】また、本発明に係る非晶質合金の製法は、
熱伝導率が250kcal/(m・h・℃) 以下の材料にて構成さ
れている金属材料溶解部とキャビティ部を有する下型
と、該下型と共働きして上記金属材料溶解部の溶融金属
を押圧し上記キャビティ部に流し込んで成型するための
上型と、から成る金型の上記金属材料溶解部に、金属材
料を設置し、この金属材料を溶融可能な高エネルギー熱
源を用いて該金属材料を溶解し、得られた融点以上の溶
融金属を上記上型・下型にて押圧して所定形状に変形
し、変形と同時にもしくは変形後に上記溶融金属を臨界
冷却速度以上で冷却して、上記所定形状に成型するもの
である。
【0009】また、下型のキャビティ部が、熱伝導率が
270kcal/(m・h・℃) 以上の材料にて構成されているも
のである。
【0010】
【発明の実施の形態】以下、実施の形態を示す図面に基
づき、本発明を詳説する。
【0011】図1は、本発明の非晶質合金製造装置の実
施の一形態を示し、この非晶質合金製造装置は、金属材
料を溶解可能な高エネルギー熱源を用いて金属材料を溶
解して形成した溶融金属を、所定形状に変形し、かつ、
変形と同時もしくは変形後に溶融金属を臨界冷却速度以
上で冷却して、所定形状に成型するものである。
【0012】具体的に構造を説明すると、本発明の非晶
質合金製造装置は、上型2と下型3とから成る金型1
と、下型3上に設置した金属材料を溶解するための高エ
ネルギー熱源であるアーク電極(タングステン電極)4
及びアーク電源と、金型1の上型2・下型3及びアーク
電極4に水冷を循環供給する冷却水供給装置5と、金型
1及びアーク電極4等を収納する真空チャンバー6と、
モータ7にて駆動されると共に下型3を水平方向へ移動
させる下型移動機構8と、モータ9にて駆動されると共
に上型2を上下方向に移動させる上型移動機構10と、を
備えている。
【0013】しかして、図2〜図5に示すように、金型
1は、上型2と下型3とが相互に嵌合する嵌合部を有さ
ない形状である。具体的に説明すると、図2と図3は上
型2の断面正面図と底面図であり、上型2は、例えば
銅、銅合金もしくは銀等の熱伝導率の大きい金属にて矩
形平板状に形成されており、その下面11の外周端縁がパ
ーティング面12とされている。
【0014】図4と図5は、下型3の断面正面図と平面
図であり、下型3は、その上面の一端側に設けられた金
属材料溶解部14(おにぎり型の浅い凹部)と、この溶解
部14よりも他端側に設けられたキャビティ部13とを有す
ると共に、上面の外周端縁が上型2の上記パーティング
面12に対応するパーティング面15とされている。なお、
金属材料溶解部14の近傍部分はキャビティ部13と連続面
状とされている。
【0015】また、キャビティ部13の他端側のパーティ
ング面15に沿って段付状の隙間形成部16が設けられてお
り、この隙間形成部16によって型閉めの際、上型2との
間に隙間が形成され、余分な溶融金属を吸収するように
している。また、下型3の金属材料溶解部14からキャビ
ティ部13にかけては、溶解部14からの溶融金属がキャビ
ティ部13へ流れ込み易いように広がった形状とされてい
る。
【0016】しかして、この金型1は、下型3の金属材
料溶解部14が、熱伝導率が250kcal/(m・h ・℃) 以下の
材料にて構成されており、好ましくは220kcal/(m・h ・
℃)以下の材料である。このとき、溶融金属と接する溶
解部14の接触面(おにぎり型の浅い凹部の表面)が、25
0kcal/(m・h ・℃) 以下好ましくは220kcal/(m・h ・
℃) 以下の熱伝導率の材料にて構成されておれば良い。
さらに、溶解部14は、融点が2000℃以上の材料にて構成
されており、好ましくは3000℃以上の材料である。
【0017】この金属材料溶解部14を構成する材料とし
ては、Al23 ,CaO,MgO,ZrO2 ,BN
(チッ化ホウ素),グラファイトなど種々考えられる
が、グラファイトが最適である。即ち、グラファイト
は、その結晶構造によって熱伝導率が変化しうるが、そ
の値は70〜220kcal/(m・h ・℃) であり、融点は3500℃
以上と高く、溶解部14を構成する材料に最も適してい
る。さらに、グラファイトは導電性が高く、アーク放電
による溶融金属の溶解が可能であり、また、Zr系非晶
質合金と反応し難く好都合である。
【0018】なお、金属材料溶解部14が、熱伝導率が25
0kcal/(m・h ・℃) よりも大きい材料にて構成される
と、高エネルギー熱源(例えばアーク放電)を停止すれ
ば溶融金属の熱を下型3に奪われ易くなるという問題が
ある。また、溶解部14が、融点が2000℃未満の材料にて
構成されると、金属材料を溶解する際に、溶解部14自身
が変形や溶解を起こし易くなる。
【0019】また、下型3のキャビティ部13は、熱伝導
率が270kcal/(m・h ・℃) 以上の材料にて構成されてお
り、好ましくは300kcal/(m・h ・℃) 以上の材料であ
る。このとき、金属材料溶解部14から流れ込んだ溶融金
属と接するキャビティ部13の接触面───即ち、非晶質
合金成型品と接する面───が、270kcal/(m・h ・℃)
以上好ましくは300kcal/(m・h ・℃) 以上の熱伝導率の
材料にて構成されておれば良い。また、キャビティ部13
は、融点が800 ℃以上の材料にて構成されており、好ま
しくは1000℃以上の材料である。
【0020】このキャビティ部13を構成する材料として
は、熱伝導率の大きいものが良く、さらに融点の高い材
料が好ましい。即ち、キャビティ部13を構成する材料と
しては銅(熱伝導率340kcal/(m・h ・℃) 融点1083
℃)、銅合金、銀(熱伝導率370kcal/(m・h ・℃) 融点
962℃)、金(熱伝導率270kcal/(m・h ・℃) 融点1064
℃)などがあるが、熱伝導率と融点の両方が高いという
点で銅、銅合金、銀が良く、さらに低コストという点で
銅や銅合金が好ましい。
【0021】なお、キャビティ部13が、熱伝導率が270k
cal/(m・h ・℃) 未満の材料にて構成されると、金属材
料溶解部14からキャビティ部13に流れ込んだ溶融金属を
急冷し難くなるという問題がある。また、キャビティ部
13が、融点が 800℃未満の材料にて構成されると、キャ
ビティ部13自身が変形や溶解を起こす場合がある。
【0022】このように構成された金型1の下型3は、
図4と図5に示す如く、本実施の形態では、(平面視)
おにぎり型の浅い凹部を有するグラファイト製の浅皿部
材31を有すると共に、浅皿部材31を嵌合する凹部32aを
有する銅製(又は銅合金製もしくは銀製)の下型本体32
を備え、下型本体32の凹部32aに浅皿部材31を隙間無く
嵌着させることによって形成されている。そして、浅皿
部材31の凹部を金属材料溶解部14としている。なお、浅
皿部材31と下型本体32が互いに当接する面となる当接面
部分に於て、浅皿部材31の裏面の表面粗度又は下型本体
32の表面の表面粗度を粗くしたり、浅皿部材31又は下型
本体32の表面に溝加工を施すようにして、浅皿部材31と
下型本体32の接触面積を小さくするようにすることも可
能である。浅皿部材31と下型本体32の接触面積を小さく
することによって、浅皿部材31が熱を奪われ難くなっ
て、結果的に溶湯の温度をより高くすることができる
(図示省略)。また、図1と図4に示すように、下型本
体32は、冷却水供給装置5よって冷却される。即ち、下
型3のキャビティ部13が冷却されるように構成してい
る。
【0023】ところで、図1と図6に示すように、19は
上型移動機構10の昇降ロッドであり、この昇降ロッド19
の下端には上型2を保持するための取付部材17が水平状
に取付けられている。そして、取付部材17の下面側に上
型2が傾斜状に取付けられている。具体的には、上型2
の一端側と取付部材17の一端側とが弾発部材18(例えば
コイルスプリング)にて連結されると共に、上型2の他
端側と取付部材17の他端側とは揺動片20,20(図例では
一方のみを示す)及び支軸21,21を介して連結されてお
り、上型2の一端側が弾発部材18にて下方へ弾発付勢さ
れること(又は上型2の自重)によって比較的小さな傾
斜角度θ(例えば1°)で傾斜状とされている。なお、
下型3は取付部材17と同じく水平状とされている。
【0024】しかして、このように構成された本発明の
非晶質合金製造装置を用いて非晶質合金を製造する方法
を説明すると、図1と図6に示すように、先ず、下型3
の金属材料溶解部14に金属材料22を設置する。
【0025】次に、図1と図6及び図7に示すように、
モータ7にて下型移動機構8を駆動して下型3を水平方
向(矢印A方向)に移動させ、アーク電極4の下方位置
にて停止させる。そして、アーク電源をONにしてアー
ク電極4の先端から金属材料22との間にプラズマアーク
23を発生させ、金属材料22を完全に溶解して溶融金属24
を形成させる。このとき、溶融金属24は金属材料溶解部
14にて流止めされる。
【0026】その後、図1と図7と図8に示すように、
アーク電源をOFFにしてプラズマアーク23を消す。そ
して、速やかに下型3を上型2の下方位置(矢印B方
向)に移動させると共に、モータ9及び上型移動機構10
にて上型2を下降(矢印C方向)させて、得られた融点
以上の溶融金属24を上型2と下型3との共働きによって
押圧して所定形状に変形し、かつ、変形と同時もしくは
変形後に、冷却されている金型1にて溶融金属24を臨界
冷却速度以上で冷却し、それによって溶融金属24が急速
に固化して、図9に示す如く、所定形状の非晶質合金成
型品25となる。
【0027】このとき、図7と図8に示すように、アー
ク放電停止後から下型3がプレス位置(上型2下方位
置)へ移動し、下降した上型2が溶融金属24に接触する
までの間に於て、下型3の金属材料溶解部14が熱伝導率
の小さいグラファイトにて形成されているため、融点以
上の溶融金属24の温度低下が大幅に減少する(熱が奪わ
れ難い)。そして、上型2が傾斜状から水平状となって
溶融金属24に接触押圧し型閉めされることで、溶融金属
24が流動性の良好な状態で金属材料溶解部14からスムー
スに流れ出して熱伝導率の大きいキャビティ部13全体に
充満し、かつ、溶融金属24と金型1との接触面積が急激
に増大して高い冷却速度が得られ、図10及び図11(イ)
に示すような薄肉で大きな面積(バルク状)の非晶質合
金成型品25を得ることができる。
【0028】なお、得られた非晶質合金成型品25の内、
26は下型3のキャビティ部13に対応する部分であり、27
は金属材料溶解部14及びその近傍に対応する部分であ
り、28は隙間形成部16に対応する部分(バリ部)であ
り、不要な部分27,28を切削・研磨等の加工にて除去し
て図11(ロ)に示す製品化した状態に仕上げる。
【0029】なお、本発明は上述の実施の形態に限定さ
れず、例えば、下型3の金属材料溶解部14及びキャビテ
ィ部13を凹曲面状に形成すると共に、上型2の下面に凸
曲面部を形成して、弯曲板状の非晶質合金成型品25を作
製するも良い。
【0030】
【実施例】次に、具体的な本発明の実施例(図4と図5
で説明した下型3)、及び、図12と図13に示す比較例
(下型30)について、下記の条件で作製した。 (1) 実施例の下型3及び比較例の下型30は、各々その
キャビティ部13の縦寸法Xを80mm、横寸法Yを50mm、厚
み方向寸法Zを2mmとした。 (2) 実施例の下型3は、無酸素銅にて下型本体32を形
成すると共に、グラファイト───東洋炭素株式会社製
のIG−11───にて厚さ2mmの浅皿部材31を形成して
カーボン複合銅金型とし、比較例の下型30は、全体を無
酸素銅にて形成した(銅金型)。
【0031】この実施例及び比較例について、下記の条
件で成型実験を行った。 (3) 図1で説明した本発明の非晶質合金製造装置を用
いた。 (4) 上型2は、図2と図3で説明した矩形平板状のも
のを無酸素銅にて形成し、実施例及び比較例に共通して
使用した。 (5) 金属材料としては、Zr55Al10Ni5 Cu30
る合金を使用した。 (6) 成型前の状態に於て、上型2の傾斜角度θを1°
とした。 (7) アーク放電(20V− 300A)にて2分間金属材料
を溶解した。 (8) アーク放電停止後からプレス位置への下型移動時
間を 1.6sとし、型閉め時間を 1.3sとした。
【0032】成型実験結果を表1に示す。
【0033】
【表1】
【0034】アーク放電の停止直後に放射温度計にて溶
湯(溶融金属)の表面温度を測定した結果、表1に示す
ように、実施例は比較例よりも非常に高い溶湯温度が得
られていることが分かる。また、図10と表1に示すよう
に、実施例では溶湯がキャビティ部13に完全充填してい
るが、図14と表1に示す如く、比較例では溶湯の凝固に
より湯流れが不十分であることが分かる。
【0035】次に、実施例及び比較例について、下記の
条件で成型品の非晶質形成状態及び機械的強度の測定を
行った。 (9) 成型品のキャビティ部に対応する部分が正常に非
晶質化しているか否かを、X線回折により確認した。な
お、X線回折に用いたサンプルとしては、成形した縦80
mm×横50mm×厚さ2mmの板の中央付近より縦10mm×横10
mm×厚さ2mmの小片を切り出し、次に、(厚み方向の中
央部付近の非晶質化状態を調査するために、)厚み半分
を研磨紙にて水で冷却しながら研磨して、厚さ1mmの小
片を作製してサンプルとした。このサンプルの研磨面を
X線回折で測定した。 (10) 成型品から短冊状のサンプル(長さ50mm、幅20m
m、厚み2mm) を切り出し、インテスコ社製の万能試験
機を用いて3点曲げ破壊試験を行った。試験条件は、ス
パン30mmで、試験速度1mm/minである。なお、比較例の
ものは、湯流れが不十分で型閉めが不完全となり、成型
品の厚みが厚くなってそのままでは試験が行えないた
め、金属材料の仕込み量を減らし、型閉めが完全になっ
て所定の厚み2mmとなる成型条件として成型したもの使
用した。
【0036】測定結果を表2及び図15に示す。
【0037】
【表2】
【0038】表2に示すように、実施例は比較例よりも
良好な非晶質が形成されていることが分かった。また、
3点曲げ破壊試験の結果としては、最大曲げ荷重を比較
すると、実施例のほうが大幅に高く、同じ非晶質合金成
型品であっても実施例の方が比較例よりも非常に機械的
特性が高いことが分かった。さらに、図15の変位荷重曲
線に示すように、比較例は弾性域での変形中に破壊を生
じているのに対し、実施例では明瞭な擬弾性を示してお
り、これは実施例が極めて良好な非晶質状態が得られて
いることに起因しているものと考えられる。
【0039】また、以上の手法により、実施例と比較例
のX線回折パターンを測定した結果が、図16(実施例)
及び図17(比較例)である。実施例のX線回折パターン
においては、ブロードなハローピークのみしか見られ
ず、その構成が良好なアモルファス相よりなっているこ
とを示している。一方比較例のX線回折パターンにおい
ては、ブロードなハローピーク上に結晶相に起因する鋭
いピークが存在しており、成形品内に微少な結晶粒が存
在しているものと考えられる。なお、図16及び図17に於
て、横軸は回析角(2θ)であり、縦軸は回析強度
(I)である。また、CuKαは、対陰極の金属がCu
(銅)のX線管を使用して、CuのKα線(1.5429×10
-10 m)を発生させてこれを用いた結果である。
【0040】
【発明の効果】本発明は上述の如く構成されるので、次
に記載する効果を奏する。
【0041】(請求項1によれば)下型3の金属材料溶
解部14上にて溶解して形成された溶融金属24は、高エネ
ルギー熱源の停止後においてもその温度低下が大幅に減
少する(熱が奪われ難くなる)。従って、上型2・下型
3によるプレス成型時に溶融金属24の良好な流動性を得
ることができ、かつ、高い冷却速度で溶融金属24を冷却
することができ、それによって強度特性に優れた良好な
大型(バルク状)の非晶質合金成型品25を得ることがで
きる。
【0042】(請求項2によれば)上型2と下型3にて
共働きして金属材料溶解部14の溶融金属24をキャビティ
部13へ流し込む際、溶融金属24をより一層急冷すること
ができる。従って、より強度特性に優れた大型(バルク
状)の非晶質合金成型品25を得ることができる。
【0043】(請求項3によれば)グラファイトは熱伝
導率が小さくかつ融点も高いため、金属材料溶解部14を
構成する材料として最適であり、成型前の溶融金属24の
温度低下を防止するのに効果的であると共に、下型3の
長期使用が可能となる。さらに、グラファイトは導電性
が高いためアーク放電による溶融金属の溶解が可能とな
り、また、Zr系非晶質合金と化合し難く好都合であ
る。
【0044】(請求項4によれば)熱伝導率が大きくか
つ融点が高いため、キャビティ部13を構成する材料に好
適であり、丈夫で長期使用も可能である。特に、銅や銅
合金を使用すれば低コストにて作製することができるメ
リットもある。
【0045】(請求項5によれば)溶解直後の融点以上
の溶融金属の熱が奪われないようにして一気に所定形状
に変形させ、かつ、急速に冷却固化して非晶質合金成型
品25を作製することができるので、均一に冷却凝固さ
れ、不均一凝固や不均一核生成による結晶相が混在せ
ず、しかも油境などの欠陥のない高強度、高靱性等の強
度特性に優れた大型(バルク状)の非晶質合金成型品25
を得ることができる。また、一気に簡単な工程で再現性
よく非晶質合金成型品25を作製することができる。
【0046】(請求項6によれば)金型1にて溶融金属
を変形・冷却する際、より高い冷却速度をえることがで
き、それによってより強度特性に優れ、かつ、より良好
な大型(バルク状)の非晶質合金成型品25を得ることが
できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の一形態を示す簡略構成説明図で
ある。
【図2】上型を示す断面正面図である。
【図3】上型を示す底面図である。
【図4】下型を示す断面正面図である。
【図5】下型を示す平面図である。
【図6】成型前の状態を示す要部断面正面図である。
【図7】溶融金属の形成状態を示す要部断面正面図であ
る。
【図8】成型状態を示す要部断面正面図である。
【図9】型閉め状態を示す要部断面正面図である。
【図10】下型のキャビティ部における溶融金属の充填度
合いを示す平面図である。
【図11】非晶質合金成型品を示す断面正面図である。
【図12】他の下型を示す断面正面図である。
【図13】他の下型を示す平面図である。
【図14】他の下型のキャビティ部における溶融金属の充
填度合いを示す平面図である。
【図15】変位荷重曲線を示すグラフ図である。
【図16】実施例の成型品の肉厚方向中央部付近の表面と
平行な面のX線回析パターンを示すグラフ図である。
【図17】比較例の成型品の肉厚方向中央部付近の表面と
平行な面のX線回析パターンを示すグラフ図である。
【符号の説明】
1 金型 2 上型 3 下型 13 キャビティ部 14 金属材料溶解部 22 金属材料 24 溶融金属
フロントページの続き (51)Int.Cl.7 識別記号 FI B22D 27/04 B22D 27/04 G C22C 45/00 C22C 45/00 // C22C 1/00 1/00 A (72)発明者 井上 明久 宮城県仙台市青葉区川内元支倉35番地 川内住宅11−806 (56)参考文献 特開 平10−216920(JP,A) 特開 平3−204160(JP,A) 特開 昭59−133964(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) B22D 27/09 B22D 18/02 B22D 23/06 B22D 27/04 C22C 45/00 C22C 1/00

Claims (6)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 金属材料22を溶解可能な高エネルギー熱
    源を用いて該金属材料22を溶解して形成した溶融金属24
    を、所定形状に変形し、かつ、変形と同時にもしくは変
    形後に上記溶融金属24を臨界冷却速度以上で冷却して、
    上記所定形状に成型する非晶質合金製造装置であって、
    金属材料溶解部14とキャビティ部13を有する下型3と、
    該下型3と共働きして上記金属材料溶解部14の溶融金属
    24を押圧し上記キャビティ部13に流し込んで成型するた
    めの上型2と、から成る金型1を備え、さらに、上記下
    型3の金属材料溶解部14が、熱伝導率が250kcal/(m・h
    ・℃) 以下の材料にて構成されていることを特徴とする
    非晶質合金製造装置。
  2. 【請求項2】 下型3のキャビティ部13が、熱伝導率が
    270kcal/(m・h・℃)以上の材料にて構成されている請
    求項1記載の非晶質合金製造装置。
  3. 【請求項3】 下型3の金属材料溶解部14が、グラファ
    イトにて構成されている請求項1又は2記載の非晶質合
    金製造装置。
  4. 【請求項4】 下型3のキャビティ部13が、銅又は銅合
    金もしくは銀にて構成されている請求項1、2又は3記
    載の非晶質合金製造装置。
  5. 【請求項5】 熱伝導率が250kcal/(m・h・℃) 以下の
    材料にて構成されている金属材料溶解部14とキャビティ
    部13を有する下型3と、該下型3と共働きして上記金属
    材料溶解部14の溶融金属24を押圧し上記キャビティ部13
    に流し込んで成型するための上型2と、から成る金型1
    の上記金属材料溶解部14に、金属材料22を設置し、この
    金属材料22を溶融可能な高エネルギー熱源を用いて該金
    属材料22を溶解し、得られた融点以上の溶融金属24を上
    記上型2・下型3にて押圧して所定形状に変形し、変形
    と同時にもしくは変形後に上記溶融金属24を臨界冷却速
    度以上で冷却して、上記所定形状に成型する非晶質合金
    の製法。
  6. 【請求項6】 下型3のキャビティ部13が、熱伝導率が
    270kcal/(m・h・℃)以上の材料にて構成されている請
    求項5記載の非晶質合金の製法。
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