JP3006009B2 - 選択的加水分解によるヌクレオシド誘導体の製造方法 - Google Patents

選択的加水分解によるヌクレオシド誘導体の製造方法

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Description

【発明の詳細な説明】 〔産業上の利用分野〕 本発明は、選択的加水分解によるヌクレオシド誘導体
の製造方法に関する。
下記構造式で示されるデオキシヌクレオシド類
(V)、(VI)および2′−フルオロ−2′,3′−ジデ
オキシヌクレオシド類(VII)、3′−フルオロ−2′,
3′−ジデオキシヌクレオシド類(VIII)は、抗エイズ
薬や抗ウィルス剤等の医薬又はその中間体として有用で
あり、これらのヌクレオシド誘導体の改良された製造方
法に関するものである。
式中、 B:核酸塩基 R1:炭素数1−12個の加水分解可能なアシル基 R3:炭素数1−12個の加水分解可能なアシル基もしく
は水素 を表す。
〔従来の技術〕
シクロデキストリンを用いた選択性の高い合成反応は
意欲的に研究がなされており、エステル加水分解、アミ
ド加水分解、脱炭酸などの結合開裂反応を触媒する。シ
クロデキストリンと反応基質とが包接化合物を形成し、
化学反応が、分子錯体内反応として進行することからシ
クロデキストリンは酵素モデルとして広範に用いられて
いる。ヌクレオチドとシクロデキストリンとのインタラ
クションについても研究されており(HoffannらBiochem
istry 1970,,3542),小宮山らは、ヌクレオシドとシ
クロデキストリンとの包接について研究を進め、α−シ
クロデキストリン触媒による、2′,3′−サイクリック
モノフォスフェートの位置選択的2′位切断反応を見出
した(J.Am.Chem.Soc.,111,3046,1989)。また、最近に
なって、植村らはチミジン誘導体の酵素による位置選択
的アセチル化、及び脱アセチル化反応を発見した。以上
のように、ヌクレオシド誘導体の選択的加水分解法は、
合成化学の分野にとどまらず、生化学分野、遺伝子工学
分野も含めて近年重要な研究ターゲットとなっている。
一方、デオキシヌクレオシド類(V)(VI)、2′−
フルオロ−2′,3′−ジデオキシヌクレオシド類(VI
I)および3′−フルオロ−2′,3′−ジデオキシヌク
レオシド類(VIII)は例えばエイズ治療薬などに利用で
きるなど、抗ウィルス作用を有する化合物として注目さ
れている(特開昭61−280500号公報及びJ.Med.Chem.,3
0,440(1987)参照)。
これらのヌクレオシド誘導体の製造方法に関して例え
ば、3′−デオキシヌクレオシド類(V)については、
2′−アセチル3′−ブロモアデノシンをラジカル還元
するReeseらの方法(Synthesis 304,1983)が知られて
いる。2′−デオキシヌクレオシド類(VI)については
Toddらの方法が知られている。(J.C.S.,3035,1958)。
また2′−フルオロ−2′,3′−ジデオキシヌクレオシ
ド類(VII)、3′−フルオロ−2′,3′−ジデオキシ
ヌクレオシド類(VIII)については、α体のものは、ヌ
クレオシドの水酸基を立体反転的でフッ素化し、残った
水酸基をラジカル還元する方法があるが、一方、β体に
ついては、フッ素化された糖と塩基とをグリコシル化す
る方法(以上Biochemical Pharmacology,36,2719,198
7)、また5′−トリチル−コルジセピンをDASTで処理
することにより合成する方法(J.Med.Chem.,30,2131,19
87)等が見出されている。
(発明が解決しようとする課題) 以上のように(V)−(VIII)の化合物は種々の追加
合成法が開発されてはいるが、 (a) 高価な反応試剤を用いる。
(b) 数多くの生成物が生成する。
(c) 工程数が長い。
(d) スケールアップ時に、反応や処理の操作性に問
題がある。
等の問題からより優れた合成法の開発が課題となってい
た。
(課題を解決するための手段) 本発明者らは、ヌクレオシド誘導体(V)−(VIII)
を合成するうえで、下記構造式 (式中、BおよびR1は前記と同じ意味をもち、R2は炭素
数1−12個の加水分解可能なアシル基を、Xは水素原
子、ハロゲン原子または炭素数1−12個のアルキル基も
しくはアシル基を、それぞれ表す。) で示されるヌクレオシド誘導体(I)、(II)に着目
し、(I)(II)のアシル基の選択的加水分解反応を鋭
意検討した結果、ヌクレオシド誘導体(I)(II)にシ
クロデキストリン存在下、適当な無機塩を加えることに
より選択的に加水分解が進行し、下記構造式 で示される、目的のヌクレオシド誘導体(III)(IV)
が得られることを見いだしこの発見に基づき本発明を完
成するにいたった。
本発明である、シクロデキストリンを用いたヌクレオ
シド類のアシル基の選択的加水分解反応については、核
酸化学上これまでに例がなく、核酸化学分野、あるいは
合成化学分野において新規で重要な発見である。
更に、発明者らは、本発明の利用についても鋭意検討
し、加水分解反応によって得られるヌクレオシド(II
I)、(IV)より、医薬として有用な前記ヌクレオシド
誘導体(V)−(VIII)を合成するルートについても発
明するにいたった。
〔反応例〕
(なお、前記ヌクレオシド誘導体(II)からは同様の合
成ルートを経て式(IV)、(VI)、(VIII)の化合物が
得られる。) 上記式(I)〜(VIII)において、R1,R2,R3,R4は炭
素数1−12のアシル基を表わし、Xは水素、ハロゲン、
炭素数1−12個のアルキル基、または炭素数1−12個の
アシル基を表わし、Bは糖残基に9位で結合しているプ
リン塩基、1位で結合しているピリミジン塩基、1位で
結合しているイミダゾール塩基または1位で結合してい
るトリアゾール塩基を表わす。
R1−R4のアシル基の例としてはアセチル基、プロピオ
ニル基、ベンゾイル基など、ハロゲン原子はフッ素、塩
素、臭素、ヨウ素等を挙げることができる。Bのプリン
塩基としてはアデニン、グアニン、ヒポキサンチン、キ
サンチン、6−クロロプリン、6−メルカプトプリン、
6−メチルチオプリン、2,6−ジクロロプリン、2−ク
ロロプリン、2,6−ジアミノプリン、2−アミノ6−ク
ロロプリン、2−アミノプリン等が例示でき、ピリミジ
ン塩基としてはウラシル、シトシン、チミン、5−フル
オロウラシル、5−クロロウラシル、5−ブロモウラシ
ル、5−ヨードウラシル、5−エチルウラシル、オロチ
ア酸等が例示できる。イミダゾール塩基としては5−ア
ミノ−4−イミダゾールカルボキサミド等が例示でき、
トリアゾール塩基としては、1、2、4−トリアゾール
−3−カルボキサミド等が例示できる。必要な場合、塩
基部分のアミノ基等は保護されていてもよい。
前記ヌクレオシド誘導体(I)(II)の中で3′−デ
オキシ−3′−ブロモ−2′,5′−0−ジアセチルアデ
ノシン(IX)は例えば出願人の先願に係る、特開平1−
224390号公報に開示の方法等により合成される。化合物
(IX)をβ−シクロデキストリンを溶解した水溶液中、
適当な無機塩を加えることにより、高選択的に2′位の
加水分解が進行し、5′−0−アセチル−3′−デオキ
シ−ブロモアデノシン(X)が得られた。
シクロデキストリンについてはα−、β−、γ−体の
少なくとも一種が用いられるが、特にβ−シクロデキス
トリンが好ましい。シクロデキストリンを溶解する水溶
液は有機溶媒を含有していても良いが水単独系が更に好
ましい。また無機塩としては、炭酸水素塩、炭酸塩、リ
ン酸塩、等を用いることができるが、特に炭酸水素ナト
リウムが好ましい。使用する水の量は、原料に対して1
−100g/、シクロデキストリンの量は原料に対して0.0
1−10当量、塩基の量は0.1−10当量の範囲で用いる。
(表1)に無機塩の種類を変えた際の5′位に対する
2′位の加水分解速度比(K)及び各化合物の生成比を
示す。
表より明らかなように炭酸水素ナトリウム、あるいは
リン酸水素二ナトリウムを用いたケースが最も加水分解
選択性の良い結果が得られる。本加水分解選択性につい
ては、同一化合物(IX)をシクロデキストリンのない系
で塩を加えても、室温では反応は全く進行せず、加熱条
件下でも非常に加水分解は遅く、分解が優先すること、
また塩酸で加水分解する際には5′位加水分解が優先
し、その速度比は約6であり、水酸化ナトリウムで加水
分解すると2′位選択性が高く、速度比はやはり約6で
あることから、シクロデキストリンの存在によって明ら
かに2′位の加水分解が選択的に触媒されていることは
明らかである。また、1H−NMRによって、シクロデキス
トリンの添加によって、アデニンプロトンが高磁場シフ
トすることからアデニンとシクロデキストリンが包接状
態となっていることが推測される。
次に、化合物(X)をアセトニトリル(MeCN)と炭酸
ナトリウム水溶液の有機溶剤−水の混合溶媒中、パラジ
ウム触媒存在下で水素添加反応を行うことによって、
3′−デオキシ−5′−アセチル5′−0−アセチルア
デノシン(XI)を高選択的に合成することができる。本
反応をメタノール溶媒や塩基にトリエチルアミン(Et
3N)を用いた系では、エポキシ体(Epo)の生成が大き
く、化合物(XI)の収率が大幅に低下する(表2)。
以上のようなヌクレオシド誘導体(I)(II)を用いた
デオキシヌクレオシド誘導体(V)(VI)、2′−フル
オロ−2′,3′−ジデオキシヌクレオシド誘導体(VI
I)、3′−フルオロ−2′,3′−ジデオキシヌクレオ
シド誘導体(VIII)の簡便な合成法を見いだすにいた
り、本発明であるシクロデキストリンによる選択的加水
分解反応の有用性が非常に高いものであることが明らか
となった。
〔実施例〕
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
実施例1 水1にβ−シクロデキストリン50gを加え、加熱し
完全に溶解させる。これを室温まで冷却した後、3′−
デオキシ−3′−ブロモ−2−5′−0−ジアセチルア
デノシン(IX)10gを加え、さらに炭酸水素ナトリウム
2.5gを1時間かけて加えた。引き続き2時間攪拌を続け
た後、酢酸エチル500mlで3回抽出し溶媒を留去する
と、5′−0−アセチル−3′−デオキシ−ブロモアデ
ノシン(X)7g(収率78%)が得られた。1 H−NMRデータ(300MHz) 2.06(3H,s)4.37(1H,brs)4.39(1H,brs)4.57−4.64
(2H,m)5.01(1H,m)5.89(1H,d,J=4.03Hz)6.51(1
H,d,J=5.13Hz)7.33(2H,brs)8.17(1H,s)8.30(1H,
s) M.S.データ MH+=373 実施例2 5′−0−アセチル−3′−デオキシ−3′−ブロモ
アデノシン(X)5gをアセトニトリル100mlに溶かし、
炭酸ナトリウム1.71g(水10mlに溶かしたもの)Pd/C
1.5gを加え、3.5気圧の水素雰囲気下、2時間室温で攪
拌する。反応液をろ過し、残渣は酢酸エチルで洗う。ろ
液と洗液を合わせ有機溶媒を減圧で留去し、現われた結
晶をろ取する。結晶を酢酸エチル200mlに溶かし、硫酸
マグネシウムで乾燥させ、乾燥剤を除いた後、濃縮し、
3′−デオキシ−5′−0−アセチルアデノシン(XI)
2.7g(収率69%)を得た。1 H−NMRデータ(300MHz) 2.00(3H,s)2.01(1H,m)2.32(1H,m)4.19(1H,dd,J
=11.96,3.17Hz)4.26(1H,dd,J=11.96,5.86Hz)4.53
(1H,m)4.70(1H,brs)5.75(1H,d,J=3.91Hz)5.92
(1H,d,J=1.71Hz)7.29(2H,brs)8.16(1H,s)8.25
(1H,s) M.S.データ MH+=294 実施例3 3′−デオキシ−5′−0−アセチルアデノシン(X
I)300mg(1.0mmol)を塩化メチレン10mlに懸濁させ、D
AST(Diethylamino sulfurtifluoride)0.5ml(4.0mmo
l)を加え、おだやかに加熱し5時間還流を行なう。10
%の炭酸水素ナトリウム水溶液30mlを加え、塩化メチレ
ン50mlで2回抽出を行い、有機層を硫酸マグネシウムで
乾燥した後、溶媒を留去しシリカゲルカラムクロマトグ
ラフィー(展開溶媒:クロロホルム/メタノール=24:
1)による精製で、2′−β−フルオロ−2′,3′−ジ
デオキシアデノシン(XII)15mg(収率5%)を得た。1 H−NMRデータ(300MHz) 2.05(3H,s)2.19−2.37(1H,m)2.61−2.81(1H,m)4.
18−4.34(2H,m)4.39(1H,m)5.39(1H,d,J2′F=5
2.7Hz)6.31(1H,dd,J1′F=17.8Hz)7.26(2H,brs)
8.08(1H,d,J=2.4Hz)8.10(1H,s) M.S.データ MH+=296 〔発明の効果〕 以上から明らかな如く、本発明によれば、ヌクレオシ
ド誘導体の製造に関し、収率および純度が一段と向上
し、製造工程が簡素化され、工業化が有利となった。こ
れにより、本発明は薬理活性を示すヌクレオシド等の各
種物質の製造が容易となり、医薬産業上の貢献が大いに
期待される。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.7 識別記号 FI // C07B 61/00 300 C07B 61/00 300 (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) C07H 19/06 - 19/073 C07H 19/16 - 19/173 B01J 31/26 CAPLUS(STN) REGISTRY(STN)

Claims (10)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】下記構造を有するヌクレオシド類化合物
    (I)もしくは(II)を溶液中でシクロデキストリン及
    び無機塩存在下に加水分解することを特徴とするヌクレ
    オシド(III)もしくは(IV)の製造方法 (ただし、式中、 B:核酸塩基、 R1,R2:炭素数が1−12個の加水分解可能なアシル基、 X:水素原子、ハロゲン原子、炭素数1−12個のアルキル
    基、炭素数1−12個のアシル基 を表す。)
  2. 【請求項2】シクロデキストリンとしてβ−シクロデキ
    ストリンを用いる請求項(1)に記載の製造方法
  3. 【請求項3】無機塩として炭酸水素ナトリウムを用いる
    請求項(1)に記載の製造方法
  4. 【請求項4】核酸塩基が糖残基に9位で結合しているア
    デニン、ヒポキサンチン、グアニン、キサンチンのいず
    れか一種である請求項(1)記載の製造方法
  5. 【請求項5】核酸塩基が糖残基に1位で結合しているウ
    ラシル、シトシン、チミンのいずれか一種である請求項
    (1)に記載の製造方法
  6. 【請求項6】R1,R2がともにアセチル基である請求項
    (1)に記載の製造方法
  7. 【請求項7】請求項(1)に記載の製造方法に従ってヌ
    クレオシド(III)(X=ハロゲン)もしくは(IV)
    (X=ハロゲン)を得た後、これを水素添加反応に付す
    ることを特徴とするヌクレオシド(V)もしくは(VI)
    の製造方法 (ただし、式中、BおよびR1は前記と同じ意味をも
    つ。)
  8. 【請求項8】水素添加反応を有機溶剤−水混合系で実施
    する請求項(7)に記載の製造方法
  9. 【請求項9】請求項(7)記載の製造方法に従ってヌク
    レオシド(V)もしくは(VI)を得た後、これをフッ素
    化剤で反応せしめる、もしくはその後更に加水分解する
    ことを特徴とするヌクレオシド(VII)もしくは(VII
    I)の製造方法 (ただし、式中、Bは前記と同じ意味をもち、R3は炭素
    数1−12の加水分解可能なアシル基もしくは水素を表
    す。)
  10. 【請求項10】フッ素化剤としてジエチルアミノサルフ
    ァートリフルオリドを用いる請求項(9)に記載の製造
    方法
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