JP2953499B2 - 中空スラブ工法用の管支持固定器具および支持固定方法 - Google Patents

Description

【発明の詳細な説明】

【０００１】

【発明の属する技術分野】本発明は高層建築物などの構
築に対して多用される中空スラブ工法の改善に係る。

【０００２】

【従来の技術】中空スラブ工法は建築物の各階層の床面
を形成するときに適用する工法であり、床面用型枠を架
設した上で中空スラブ管を多数浮かした状態で並列さ
せ、その上からセメントスラーリを打設して中空スラブ
管を埋没させ、固化後に床面用型枠をコンクリート面か
ら剥離して取り除くことによって、軽量化された床面を
高能率で構築する手法として広く慣用化されている。こ
の工法においては、床面内に中空部を設けるために多数
の中空スラブ管を規則正しく型枠面上の中空位置に宙吊
りの浮いた状態で支持し、かつセメントスラリーを流入
したときでも、管が流勢に押されて移動しないように、
その位置で不動に固定しなければならない。そのために
中空スラブ工法においては中空スラブ管の支持と固定が
必須の手順となり、並列する管が多数に達することか
ら、所定の中空位置へ管を固定する作業性の優劣は、当
工法全体の日程に影響を与えるほどの重要な要素とな
る。

【０００３】中空スラブ管の支持と固定する工程に対し
て、その作業性と安全性を向上する目的で既に相当数の
従来技術が開発され、現に建築現場で実施されている。
その幾つかを引用すれば、図４に示す実公昭６２−４１
０３号公報では、床面用型枠Ｆの所定の位置に穿孔した
透孔内へ、型枠の上部からネジ杆１０１の下端を挿通し
て支持部材１０２に螺着し、該支持部材１０２の上部に
支持杆１０３を螺着する。一方型枠から下方に突出する
下端には下方からナット１０４を螺合して係止し、この
支持杆や支持台１０５の上に中空スラブ管Ｐを載置して
帯体１０６で固定するという方式を提案している。

【０００４】図５（Ａ）（Ｂ）に示す特公昭５５−１２
９５１号公報では、雌ネジ２０１と外周に複数のスリー
ブ２０２を屈曲自在に具えたボルト２０３よりなる拡張
栓２０４を下方へ向けて挿通して仮止めし、このボルト
２０３の上部外周に支持脚を螺着して支持脚先端の受け
具２０６の位置を固定する構成を提示し、床面用型枠Ｆ
の上側だけの作業によって中空スラブ管Ｐの支持固定が
可能となり、作業性が著しく向上したたと謳っている。

【０００５】これに対して実開平４−５５９５１号公報
の従来技術では図６に示すように管受け台３０１の中央
に垂下する係合杆３０２の下端が床面用型枠Ｆに穿孔し
た取付け孔を貫通して、なお下方に突出するだけの長さ
を具えてその先端は杆径よりも大きな多角形で形成して
いる。床面用型枠Ｆの上部でこの管受け台を正しい位置
に載置し、下部でこの突出する係合杆３０２の先端に長
孔を穿設した斜めの楔面を具えた係止部材３０３を填め
込み、打撃を加えて楔作用を働かせ、係合杆３０２を床
面用型枠Ｆ上の定位置に固定する構成を採っている。床
面用型枠Ｆの下面に楔作用を利用した固定金具を使用
し、床面用型枠Ｆ上面の管受け台を固定する発想は、他
に実公平７−８７２１号公報の技術もあり、従来の上下
にそれぞれ分れた部材を螺合する方式よりは、遥かに簡
便で作業性が高くなったと謳っている。

【０００６】

【発明が解決しようとする課題】以上のように引用した
従来技術は何れも中空スラブ管を床面用型枠Ｆ上の中空
位置に支持し固定する作業性の向上を図り、それぞれそ
れなりの効果を上げたものと認められるが、なお、現地
で実施する場合に課題を残していることも事実である。
作業性と安全性を向上する上で最も切実に求められる条
件は、どのような態様であれ、要するに床面用型枠の上
部だけの作業によって中空スラブ管を支持し固定できる
ことであり、これさえ実現できれば、作業性の改善、と
くに建築要員の不足が深刻な課題である今日、現地作業
の省力化が直接実現するから最も待望される技術的貢献
に繋がる。

【０００７】その点から見れば、全ての従来技術は床面
用型枠Ｆの上下に作業員を配置し、双方が呼応した共同
作業が前提となっている。特に床面用型枠Ｆの下方の作
業は、作業員の脊高を考えれば床面用型枠Ｆ面（天井面
となる）に腕先が到底届かないから足場上の高所作業を
強いられ、作業自体が煩瑣で非能率な上、不安定で無理
な姿勢による作業は労働安全上でも万全を期し難く、安
全第一のスローガンに背く結果を誘発する可能性があ
る。特公昭５５−１２９５１号公報では床盤上のみの作
業によって事故を防止することを目的としているいる
が、床盤を挟んだ上下の作業のない限り、果たして管の
固定が可能なのかは疑問の余地が残る。

【０００８】本発明は以上の課題を解決するために部材
の構成が簡単であり、確実に床面用型枠上部側からの容
易な単純作業によってのみ中空スラブ管の支持と固定が
行なわれ、かつ、コンクリート打設後の処理のと再利用
も最も容易な中空スラブ工法の管支持固定器具と固定方
法の提供を目的とする。

【０００９】

【課題を解決するための手段】本発明に係る中空スラブ
工法は、床面用型枠Ｆ上方へ所定の空間を隔てて中空ス
ラブ管Ｐを多数並べて所定の位置に支持固定し、コンク
リート打設、固化後に該床面用型枠Ｆを取り外して中空
床面を構築する工法であり、この工法に使用する器具と
しては、中空スラブ管Ｐの支持金物１が、両端を逆屈曲
した半円弧状の受け台１１と、該受け台１１の中央底点
を支えて垂下する支持杆１２と、該支持杆１２の両側で
対称的に垂下して床面用型枠Ｆ上に載置される２本の脚
体１３とよりなり、該支持金物１を床面用型枠Ｆ上で固
定する部材が、ほぼ直方体状のコマ２と、該コマ内で垂
直方向へ嵌合する係止釘３とよりなり、コマ２は前記支
持杆１２の下端を屈折した係止端１４が挿通する横向き
の係止孔２１と、前記係止釘３１を内嵌する縦向きの凹
所２２を穿孔し、係止釘３はコマ内に嵌入する上半部３
１に抜け止めスリーブ３２を外装したことを構成上の特
徴とする。

【００１０】この工法において、床面用型枠面上で中空
スラブ管Ｐを支持固定すべき所望の位置へ、ほぼ直方体
状のコマ２を打ち込んで内嵌した係止釘３の突出した下
半部３４を固定し、該コマ２に穿孔した横向きの係止孔
２１へ支持金物１の半円弧状の受け台１１の中央底点か
ら垂下する支持杆１２の屈折した係止端１４を挿通し
て、前記受け台１１の両側から垂下する２本の脚体１３
と共に支持金具１全体を床面用型枠Ｆ上に固定し、前記
受け台１１の上へ中空スラブ管Ｐを載置して両側の逆屈
曲した端部１５に係合した番線４と共に拘束して中空ス
ラブ管Ｐを床面用型枠Ｆ上面側からの作業によってのみ
支持固定し、コンクリート打設、固化後に床面用型枠Ｆ
を剥脱するとき、前記コマ２から離脱した係止釘３を床
面用型枠Ｆと共に抜き去る手順を施工上の特徴とする。

【００１１】この手順によって中空スラブ管を支持し固
定する作業を動作毎に見れば、床面用型枠Ｆの上面に所
定の中空スラブ管の配列を墨入れして罫書くなど管の位
置を明示し、基準通りの管支持固定位置も特定する。そ
の位置へコマの上面を槌打して金具内に嵌入し下半部３
４が下方へ突出している係止釘３を床面の上面内へ打ち
込み、固定したコマの係止孔２１へ支持金具１の支持杆
１２の先端の係止端１４を挿通するだけで支持金具１が
所定の位置に固定する。支持金具１の受け台１１の半円
弧面上に中空スラブ管Ｐを載置し、支持杆の両端部１５
に係止した番線４を管の上方へ巻き回して固定すれば管
が固定する。すなわち作業はすべて床面用型枠Ｆの上面
側からだけに限られ、床面用型枠Ｆの下面側からの作業
が完全に消滅するので、作業の簡略化、能率化と、不安
定な高所作業の解消が実現しすべての課題を一挙に解決
する。

【００１２】固定した中空スラブ管にはコンクリート打
設のときに上方へ押上げる浮力が当然加わるが、係止釘
３は下半部３４が床面用型枠Ｆの内部へ打ち込まれて一
体的に係止していると共に、コマ２内に留まる上半部３
１は抜け止めスリーブ３２に囲繞されて垂直方向へ押上
げる浮力に対抗するから、支持金具が浮力に負けて移動
することを防止して正しい位置に留まり、中空スラブ管
を不動の状態に拘束してコンクリートの固化するまでこ
の関係を維持し続ける。

【００１３】コンクリートが固化した後、床面用型枠Ｆ
を固化した床面（天井面）から取り外すと、床面用型枠
Ｆ内部へ打ち込まれた係止釘３も天井面に残ったコマか
ら離脱し、自動的に一緒に抜け出してくるから、特に天
井面から支持金物を取り外すための工作は不要であり、
現場における作業の単純化は労務時間の低減となって顕
著に現われる。

【００１４】請求項２および４について言えば、係止釘
３の上半部３１の下端、すなわち床面用型枠Ｆ内へ打ち
込まれる境界付近に切込み３３を刻設しているから、コ
ンクリート打設、固化後に打設面から該型枠を剥脱した
段階においては、型枠内に打ち込んだ係止釘の下半部３
４は残っているが、コマ内に留まっていた上半部３１
（頭部）がコマから抜け出して露出している。ここで上
半部３１を横方向から打撃すれば、前記の切込み３３が
ノッチ作用を起こし突出部が打折し、床面用型枠Ｆの上
面は労せずして平滑となり、そのまま次の使用に供する
という特別の作用も発揮される。このようにコンクリー
ト打設後の処理と床面用型枠の再利用が最も簡便で人手
を費やさないことも課題解決をさらに助長する一因とな
ることは言うまでもない。

【００１５】

【発明の実施の形態】図１は本発明の実施形態を示す縦
断正面図であり、床面用型枠Ｆの上面に中空スラブ管Ｐ
を支持金具１で支持し、コマ２と係止釘３、番線４とで
位置を固定した状態である。図のように支持金具１の詳
細は中空スラブ管Ｐの下方外周面を支持する受け台１
１、受け台１１の円弧部の底点に係合して床面用型枠Ｆ
上で垂直に支持する支持杆１２、支持杆１２の両サイド
に立設して安定的に管を支える脚体１３とからなり、番
線４は受け台１１の逆屈曲した端部１５に係止して中空
スラブ管Ｐの上方外周面に巻き回して受け台と共に管の
位置を拘束する。

【００１６】支持杆１２の下端はほぼ直角に屈折して係
止端１４となり、係止端１４がコマ２へ水平に穿孔した
係止孔２１内へ挿通して係止される。コマ２は係止釘３
によって床面用型枠Ｆに固定されるが、図２（Ａ）
（Ｂ）は使用前のコマの正面図と平面図を示したもので
ある。コマ２はその本体はほぼ直方体の合成樹脂製の箱
状体で形成し、側面中央を水平に貫通する係止孔２１
と、両側で垂直に穿孔した凹所２２を具えている。係止
釘の数は特に限定する必要はないが、通常は図から見て
前後左右に対称的に合計４本取付けた形態が望ましい。
コマ内に嵌入している係止釘のほぼ上半部３１には抜け
止めスリーブ３２を外装してあり、中空スラブ工法でセ
メントスラリーを流入するとき、その浮力を受けて係止
釘が床面用型枠Ｆから抜け出して浮上し、折角固定した
中空スラブ管の位置を狂わせることがないように図って
いる。

【００１７】図３は図１〜２とは係止釘３の形状の異な
る別の形態と作用を示したものである。この図はコンク
リート打設、固化後に床面用型枠Ｆを打設面から取り外
した状態を示し、図のように係止釘３の下半部３４はそ
のまま進入した床面用型枠Ｆに連立ってコマから離れて
外れ、今までコマ内に嵌入していた上半部３１が露出し
た状態で型枠面上に現われる。床面用型枠Ｆの剥離後に
突出した係止釘の上半部３１を横からハンマーなどで槌
打すれば、切込み３２がノッチ作用となって簡単に打折
し、床面用型枠Ｆの表面から取り除かれ、床面用型枠Ｆ
の表面は再使用するのに適した平滑面に再生する。

【００１８】

【発明の効果】本発明は以上に述べたように中空スラブ
工法において従来技術では床面用型枠Ｆの上下での複数
の作業員による共同作業を廃絶し、単独の作業員による
床面用型枠上面だけに限った軽便な作業で中空スラブ管
の支持と固定ができるようになったから、現地作業の省
人化をもたらし、特に近年の建築関係の人手不足を解消
する効果が顕著である。また、作業の内容がハンマーな
どを使用した２〜３回の軽打で位置が固定するので、従
来技術に比べると所要の時間がきわめて短縮されて単純
動作でほとんど瞬時に完了し、従来の中空スラブ管の固
定工程に消費した工数は数分の一という単位で大幅な軽
減となる。

【００１９】また、従来技術に必要であった足場を組ん
で型枠の下面側から行なう高所作業が解消し、労働安全
の面での向上が著しいので、転落事故、骨折、腰部捻
挫、などに対する一切の懸念が払拭され、職場にもたら
す安心感や指示系統に対する信頼感などの醸成という好
影響も看過し難い効果の一つである。

【００２０】請求項２および４については、コンクリー
ト打設後、床面用型枠は当然次の工事に回送され再度使
用されるが、使用した後の表面が簡単な１動作によって
完全な平滑面に再生されるから、再使用までの段取りが
簡単で時間のロスがなく、手軽に床面用型枠の回転率を
高めて効率的な使用を保証する独特の効果が加えられ
る。ただし、この場合に型枠内に使用頻度に応じた数だ
けの係止釘の下半部がそのまま滞留していることは避け
られないから、寸法通りに型枠を切断するときなどにお
いては、事前にチェックしておく必要がある。

【図面の簡単な説明】

【図１】本発明の実施の形態を示す縦断正面図である。

【図２】同形態で使用するコマの正面図（Ａ）と平面図
（Ｂ）とを例示する。

【図３】別の実施形態においてコンクリート打設後に取
り外した床面用型枠Ｆと係止釘３の状態を示す縦断正面
図である。

【図４】従来技術の縦断正面図である。

【図５】別の従来技術の固定前（Ａ）と固定後（Ｂ）を
示す縦断正面図である。

【図６】さらに別の従来技術の縦断正面図である。

【符号の説明】

１ 支持金具 ２ コマ ３ 係止釘 ４ 番線 11 受け台 12 支持杆 13 脚体 14 係止端（支持杆） 15 端部（受け台） 21 係止孔 22 凹所 31 上半部 32 抜け止めスリーブ 33 切込み 34 下半部 Ｆ 床面用型枠 Ｐ 中空スラブ管

Claims (4)

(57)【特許請求の範囲】
1. 【請求項１】 床面用型枠Ｆの上方へ所定の空間を隔て
   て中空スラブ管Ｐを多数並べて所定の位置に支持固定
   し、コンクリート打設、固化後に該床面用型枠Ｆを取り
   外して中空床面を構築する中空スラブ工法において、中
   空スラブ管Ｐの支持金物１は、両端を逆屈曲した半円弧
   状の受け台１１と、該受け台１１の中央底点を支えて垂
   下する支持杆１２と、該支持杆１２の両側で対称的に垂
   下して床面用型枠Ｆ上に載置される２本の脚体１３とよ
   りなり、該支持金物１を床面用型枠Ｆ上で固定する部材
   は、ほぼ直方体状のコマ２と、該コマ内で垂直方向へ嵌
   合する係止釘３とよりなり、コマ２は前記支持杆１２の
   下端を屈折した係止端１４が挿通する横向きの係止孔２
   １と、前記係止釘３を内嵌する縦向きの凹所２２を穿孔
   し、係止釘３はコマ内に嵌入する上半部３１は抜け止め
   スリーブ３２を外装したことを特徴とする中空スラブ工
   法用の管支持固定器具。
2. 【請求項２】 請求項１において係止釘３に外装したス
   リーブ３２の下端付近に打設後の破断用の切込み３３を
   刻設したことを特徴とする中空スラブ工法用の管支持固
   定方法。
3. 【請求項３】 床面用型枠Ｆ上方へ所定の空間を隔てて
   中空スラブ管Ｐを多数並べて所定の位置に支持固定し、
   コンクリート打設、固化後に該床面用型枠Ｆを取り外し
   て中空床面を構築する中空スラブ工法において、床面用
   型枠面上で中空スラブ管Ｐを支持固定すべき所望の位置
   へ、ほぼ直方体状のコマ２を打ち込んで該コマ２に内嵌
   した係止釘３の突出した下半部３４を固定し、該コマ２
   に穿孔した横向きの係止孔２１へ、支持金物１の半円弧
   状の受け台１１の中央底点から垂下する支持杆１２の屈
   折した係止端１４を挿通して、前記受け台１１の両側か
   ら垂下する２本の脚体１３と共に、支持金具１全体を床
   面用型枠Ｆ上に固定し、前記受け台１１の上へ中空スラ
   ブ管Ｐを載置して両側の逆屈曲した端部１５に係合した
   番線４と共に拘束して、中空スラブ管Ｐを床面用型枠Ｆ
   上面側からの作業によってのみ支持固定し、コンクリー
   ト打設、固化後に床面用型枠Ｆを剥脱するとき、前記コ
   マ２から離脱した係止釘３を床面用型枠Ｆと共に抜き去
   ることを特徴とする中空スラブ工法用の管支持固定方
   法。
4. 【請求項４】 請求項３において、係止釘３の突出した
   下半部３４の上端付近に切込み３３を刻設して床面用型
   枠内へ打ち込んで固定し、コンクリート打設、固化後に
   コマ２から離脱した係止釘３を床面用型枠Ｆと共に抜き
   去った後、該型枠面上に突出した上半部３１を打折して
   取り除くことを特徴とする中空スラブ工法用の管支持固
   定方法。