JP2945058B2 - 高周波溶接部の強度に優れたフエライト系ステンレス鋼 - Google Patents

高周波溶接部の強度に優れたフエライト系ステンレス鋼

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Description

【発明の詳細な説明】 〔産業上の利用分野〕 本発明は,高周波溶接部の強度に優れたフエライト系
ステンレス鋼に関するものである。
〔従来の技術〕
13Cr系ステンレス鋼の代表的鋼種であるSUS410は,Ni
を多く含有するオーステナイト系ステンレス鋼に比べる
と耐食性,加工性,溶接性などの面で劣ってはいるが,
それらの要求が比較的きびしくない用途に対して,安価
なステンレス鋼として多く用いられてきた。またそれら
の用途での量産性向上の要求により,SUS410よりも極低
C化して加工性,溶接性を改善したSUS410Lも材料とし
て供給されている。
通常,SUS410に代表される13Cr系ステンレス鋼は強い
焼入れ硬化性を有するので熱処理して高範囲な機械的性
質を引き出し,刃物や機械部品などに用いられる。しか
し,加工性,溶接性に対しては焼入れ硬化性が大きくな
い方が良い。SUS410を極低C化したSUS410Lはほとんど
焼入れ硬化しない。すなわち,極低C化したために金属
組織もほぼ完全なフエライト相であり,熱影響部に若干
のマルテンサイト相が析出する程度である。このSUS410
Lの開発により,TIG溶接のような溶融溶接でも充分な加
工性,溶接性を保証できるようになってきた。
しかし最近では,13Crフエライト系ステンレス鋼を,
より一層量産性の高い高周波溶接法に適用することが求
められるようになった。
〔発明が解決しようとする問題点〕
高周波溶接法は,従来の溶融溶接法に比較して著しく
速い溶接速度を有している反面,溶接部の溶込み量,ア
プセット量が小さく,加熱が溶接部近傍の極くせまい範
囲に集中し,しかも,溶接部がきわめて高温になり,冷
却速度も他の溶接法に比べて速い。そのために溶接部が
局所的に靭性の低下をきたし,SUS410Lのような溶接部の
靭性低下を起こしにくい鋼種においても,高周波溶接後
に加工を行なうと,溶接部近傍において粗粒化し,ぜい
化した熱影響部に加工割れを発生することがある。
本発明は,この問題の解決を目的とし,高周波溶接を
行っても溶接部強度が低下しにくい13Crフエライト系ス
テンレス鋼の開発を意図したものである。
〔問題点を解決するための手段〕
本発明は,前記の目的を達成する13Crフエライト系ス
テンレス鋼として, 重量%で, C:0.03%以下, Si:1.00%以下, Mn:0.80〜1.00%, Ni:0.60%以下, Cr:11.00〜13.50%, Mo:0.50%以下, Cu:0.50%以下, N:0.01〜0.025%, を含有し,且つ次式, γmax=420C%+7Mn%+23Ni%+9Cu% +470N%+189−11.5Si%−11.5Cr% −12Mo% に従うγmax値が68以上となるようにこれらの成分量が
調整され,残部がFeおよび不可避的不純物からなる高周
波溶接部の強度に優れたフエライト系ステンレス鋼を提
供するものであり, 高価な特殊元素の添加によらず溶接部近傍の熱影響部
に析出するマルテンサイト量を適切に調整することによ
って前記の目的を達成した点に特徴がある。
〔作用〕 フエライト系ステンレス鋼を変態温度以上に加熱し,
急冷却したさいに発生するマルテンサイトは,母材のフ
エライト相に比べて高い強度を持つが,前記の成分組成
の範囲において,該成分を適正に調整して高周波溶接部
近傍の熱影響部にマルテンサイトを適量析出させるよう
にすると,高周波溶接部の局所的な強度低下を十分に補
うことができることがわかった。マルテンサイトの生成
量は成分組成,溶接条件,後熱処理の設定などにより異
なってくるが,主として成分組成とよい相関関係を持つ
ことが知られている。本発明では高周波溶接部近傍のマ
ルテンサイト析出量の推定をマルテンサイトと成分組成
の関係式としてよく知られているCasto & Tricotの式
を用いてγmax値として評価し,前記組成範囲におい
て, γmax=420C%+7Mn%+23Ni%+9Cu% +470N%+189−11.5Si%−11.5Cr% −12Mo% の値が68以上となるように各成分量を調整するならば,
高周波溶接の通常の施工を実施したあと,拡管,曲げ等
の加工を施しても加工割れが発生しないことを知見し
た。
第1図は,γmaxが異なる13Crフエライト系ステンレ
ス鋼板を同一条件で高周波溶接した場合に,そのγmax
量と高周波溶接後の加工割れ発生率を調べたものであ
る。溶接は溶接欠陥(ピンホール,散り等)の生じない
標準的な溶け込みの得られる程度に実施し,加工割れ発
生率はユーザでよく施工される拡管,曲げ等の加工を施
した場合にその溶接部に発生した加工割れの発生割合で
評価した。第1図の試験結果から13Crフエライト系ステ
ンレス鋼の高周波溶接後の強度はそのγmax値と明らか
な相関があり,γmax値が68以上では溶接部の加工割れ
が発生しないことがわかる。したがって,前式に従うγ
max値≧68の関係を満足することが高周波溶接部の強度
を保障するうえで重要な作用を果たすことが明らかとな
った。
本発明鋼における各成分元素の作用効果と各成分量範
囲の規制理由はおよそ次のとおりである。
C:Cはオーステナイト生成元素であり,マルテンサイ
トを析出させるうえで有効な元素であるが,多量に含有
させると粒間腐食をうながし,耐食性上好ましくなく,
また溶接部の溶接脆化の原因ともなるので低い方が望ま
しい。この理由から上限を0.03%とする。
Si:Siはフエライト生成元素であり,マルテンサイト
の生成をおさえる効果があり,さらに多量に含有する
と,母材および溶接部の靭性,延性に悪影響を与えるた
め,1.00%以下とする。
Mn:Mnはオーステナイト生成元素として有効であり,
脱酸剤としても必要不可欠な元素である。また,他のオ
ーステナイト生成元素の添加は一般に母材の加工性,溶
接部の靭性,熱間表面疵などの悪影響を与えるのに対
し,Mnはその程度が低い。したがってMn含有量を多めに
することによってマルテンサイト生成量を調整するのが
望ましい。ただし,Mn量が1.00%を超えると母材の耐食
性が急激に低下する。このため本発明ではMn量,0.80〜
1.00%の範囲とする。
Ni:Niは耐食性の向上,あるいはフエライト系ステン
レス鋼の低温脆化の改善に対して有効であるが,高価な
元素であり,本発明の目的とする経済鋼種としては多量
の添加は好ましくないので0.60%以下とした。
Cr:Crはフエライト系ステンレス鋼の基本元素であ
り,かつ高耐食性を得るために必須の元素であるため11
%以上の含有が必要であるが,フエライト生成元素であ
り,多量の含有はマルテンサイトの生成に対して不利と
なるので11.00〜13.50%とする。
Mo:Moは耐食性向上に対してきわめて有効な元素であ
るが,マルテンサイト生成に関して不利に働く元素であ
るため0.50%以下とする。
Cu:CuもMo同様に耐食性を向上させるが,熱間での加
工性を低下させる原因となるため0.50%以下にする。
N:Nは強力なオーステナイト生成元素であり,マルテ
ンサイト生成を促すには有効であるが,母材の加工性を
害し,熱間での表面疵発生の原因ともなるので低いほう
が良い。このために本発明では0.01〜0.025%とする。
〔実施例〕
第1表に本発明鋼と比較鋼のSUS410Lの化学成分(重
量%)を示した。本発明鋼は通常生産されているSUS410
LよりMn含有量を多くし且つγmax値が68以上になるよう
に成分調整されている。通常生産されているSUS410Lの
成分範囲ではγmax値は60前後であり,本発明鋼とはマ
ルテンサイトの析出量に大きな差がある。ただし,SUS41
0Lや本発明鋼では溶接部近傍の極く狭い範囲にしかマル
テンサイトが析出せず,特に高周波溶接の場合は析出量
を定量的に求めることが不可能なため第1表にマルテン
サイト量の比較は行っていない。
なお,比較鋼はすべて通常生産されるSUS410Lの成分
範囲に入っているが,各成分とγmax値及び溶接部強度
の関係を明確にするため,成分範囲をちらしてある。比
較鋼のC−1材はSUS410Lの平均的な成分である。C−
2〜4はC含有量を,またC−5〜7はN含有量を変化
させている。同様にC−8〜10はNi含有量を,またC−
11〜12はMn含有量を通常生産されるSUS410Lの成分範囲
でちらしてある。
本発明鋼とこれらの比較鋼を,高周波溶接法が用いら
れる代表的な用途である中小径のパイプの造管に使用
し,パイプ溶接部の偏平曲げ試験を実施し,加工割れの
発生有無を確認した。なお,造管及び高周波溶接条件
は,素材の板厚が1.0〜2.0mm,造管外径が42.7〜65.0mm
の範囲の標準的な条件とした。また,偏平曲げ試験につ
いてはJISの構造用ステンレス鋼管製造規格(JIS,G344
6)に規定があるが,それよりもさらに過酷な偏平密着
曲げ試験を実施した。すなわち,第2図に示したよう
に,造管したパイプ1の高周波溶接部2が圧縮方向と直
角になるようにセッテングし(第2図(a)),これを
圧縮し(同(b)),密着するまで押し潰して(同
(c))溶接部の割れの発生の有無を調べた。この偏平
密着曲げ試験を各鋼のパイプについて各々25〜40回実施
し,割れの発生したものの不良発生率を求めた。その結
果を第1表に併記すると共にそれらの値を第3図にプロ
ットした。
第3図に見られるように,γmax≧68の範囲となるよ
うに成分量を調整した鋼では,かような苛酷な偏平密着
曲げ試験でも割れが発生せず,高周波溶接部の強度が保
証されたことが明らかである。
【図面の簡単な説明】
第1図は,13Crフエライト系ステンレス鋼の高周波溶接
後の加工割れ発生率とγmax量との関係図, 第2図は偏平密着曲げ試験を説明するための略断面工程
図, 第3図は本発明鋼と比較鋼の高周波溶接パイプ造管後の
偏平密着曲げ試験による加工割れ不良発生率とγmax
との関係図である。 1……高周波溶接パイプ,2……高周波溶接部。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (56)参考文献 特開 昭63−213640(JP,A) 特開 昭63−157837(JP,A) 特開 平1−100245(JP,A) 特開 昭55−24901(JP,A) 特公 昭53−28014(JP,B2) (58)調査した分野(Int.Cl.6,DB名) C22C 38/00 302 C22C 38/44

Claims (1)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】重量%で, C:0.03%以下, Si:1.00%以下, Mn:0.80〜1.00%, Ni:0.60%以下, Cr:11.00〜13.50%, Mo:0.50%以下, Cu:0.50%以下, N:0.01〜0.025%, を含有し,且つ次式, γmax=420C%+7Mn%+23Ni%+9Cu% +470N%+189−11.5Si%−11.5Cr% −12Mo% に従うγmax値が68以上となるようにこれらの成分量が
    調整され,残部がFeおよび不可避的不純物からなる高周
    波溶接部の強度に優れたフエライト系ステンレス鋼。
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