JP2940571B2 - 希土類ボンド磁石 - Google Patents

希土類ボンド磁石

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JP2940571B2 JP3224729A JP22472991A JP2940571B2 JP 2940571 B2 JP2940571 B2 JP 2940571B2 JP 3224729 A JP3224729 A JP 3224729A JP 22472991 A JP22472991 A JP 22472991A JP 2940571 B2 JP2940571 B2 JP 2940571B2
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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、回転電機等に組み込ま
れて使用される希土類ボンド磁石に関する。
【0002】
【従来の技術】従来から、比較的安価でしかも良好な磁
気特性を備えたボンド磁石の開発が種々行なわれてい
る。例えば特開昭59−211549号公報には、希土
類−鉄−ホウ素系磁性粉末を接着剤で固化してなるボン
ド磁石が提案されており、また特開昭61−17436
4号公報には、ミッシュメタル−遷移金属−ホウ素系磁
性粉末をバインダーと混合してなるプラスチック磁石が
提案されている。さらに特開昭63−274114号公
報及び特開昭63−287003号公報には、希土類磁
性粉末とフェライト磁性粉末との混合物を用いたプラス
チック磁石が提案されており、また特開平2−2280
3号公報には、希土類磁性粉末どうしを混合してなるボ
ンド磁石が提案されている。
【0003】上述したような各ボンド磁石は、磁性粉末
を混練によって樹脂バインダー中に分散してなるもので
あるが、その製造方法が例えば特開昭60−16431
3号公報に記載されている。当該公報に開示された製造
方法によれば、磁性粉末とシラン系カップリング剤とを
樹脂バインダー中に少量ずつ混合しつつ、ミキシングロ
ールを用いて混練を行っている。得られた混練物は、一
旦粉砕された後に圧延され、シート状になされる。その
シート状の磁石素材には例えば水蒸気による熱処理が施
され、圧延工程にて生じた歪の除去が行なわれ、あるい
は加硫による硬化が行なわれている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】このようなボンド磁石
において、本願発明者らは、可撓性を有する樹脂バイン
ダー中に希土類磁性粉末を分散させることによって可撓
性の希土類ボンド磁石を得る場合に、例えば要求磁気力
が小さく設定されている等により希土類磁性粉末を過少
に配合してしまうと、着磁したときのボンド磁石自身の
磁力や内部応力によって磁石に変形を生じるという問題
を見出した。これは希土類−遷移金属−ホウ素系の磁性
粉末を用いる場合には、希土類磁性粉末の磁気特性が良
好であることから、バインダーに対する磁性粉末量すな
わちフィラー充填率が低くなる傾向にあるためであり、
フィラー充填率が一定値を下回ると、バインダー量が相
対的に増大することとなって、そのバインダーの可撓性
により磁石全体が伸縮し易くなるためであると考えられ
る。このような磁石の変形が、例えばモータ内において
生じると、コアとマグネットとの間のエアギャップに変
動を来たし、モータ特性が大きく変わってモータの使用
が不可能になることもある。一方希土類磁性粉末を過多
に配合したときには、硬化が進んでシート状に形成する
ことができなかったり、可撓性が不足して製品に組み込
むことができなくなったりするとともに、着磁によるボ
ンド磁石自身の磁力や内部応力によって磁石が崩れると
いう現象を見出した。これは、希土類磁性粉末の充填率
が高くなり過ぎると、バインダーの保持力すなわち磁石
の剛性が磁力や内部応力に負けてしまうからであると考
えられる。
【0005】本発明は、変形や崩れ等を生じることのな
い高剛性を有する可撓性の希土類ボンド磁石を提供する
ことを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため
本発明にかかる希土類ボンド磁石は、請求項1に記載さ
れているように、希土類−遷移金属−ホウ素系の磁性粉
末を、可撓性樹脂バインダー中に混練により分散してな
る希土類ボンド磁石において、上記磁性粉末には、補強
剤として非磁性の粉体が添加されていて、希土類−遷移
金属−ホウ素系磁性粉末13〜71体積%、非磁性の
粉体は2〜60体積%であり、磁性粉末と非磁性の粉末
とを加えたフィラーが、磁石全体に対する体積百分率
で、50〜73体積%で充填され、上記非磁性の粉体
大きさがメジアン径で70μm以下であり、残留磁束密
度を6300(G)以下とする構成になっている。
【0007】
【0008】
【作用】このような構成を有する手段では、希土類磁性
粉末において不足する傾向にあるフィラー充填率が補強
材によって補完され、フィラーに対するバインダーの量
が過多にならないように維持されるようになっている。
【0009】また特に請求項1に記載されているよう
に、磁性粉末と非磁性の粉末とを加えたもの、すなわち
フィラーの配合量を一定範囲とすれば、フィラー充填率
が高くなり過ぎたり、低くなり過ぎたりすることがなく
なり、したがってフィラーに対するバインダーの量が適
正に維持されるようになっている。
【0010】上記手段のより具体的な構成を説明する
と、まず超急冷法により希土類−遷移金属系の磁性粉末
を得る。超急冷法の一例としてはジェットキャスティン
グ法がある。このジェットキャスティング法において
は、インゴッド状に形成された磁性合金が受皿内に収容
され、不活性環境下で上記合金が高周波等によって溶融
される。溶融状態となった磁性合金はノズル付きの湯溜
りに注入され、ノズルを通して回転ホイール上に落下さ
れる。回転ホイールは水によって冷却されており、ここ
で急速冷却が行なわれる。急冷された磁性合金は、リボ
ン状の磁性粉末に凝固されて下方に落下していき、容器
内に収集される。
【0011】ここで希土類−遷移金属系磁性粉末を用い
る場合の希土類としては、ランタノイドのうち一種また
は二種以上が用いられ、遷移金属としては、Fe,Co,
Niのうち一種または二種以上が用いられる。この希土
類−遷移金属系磁性粉末には、ホウ素を含ませて希土類
−遷移金属−ホウ素系(R−T−B)磁性粉末とするこ
とができる。具体的には、Nd−Fe−B系磁性粉末とし
て、Nd−Fe−B,Nd−Fe−Co−B,(Nd,Pr)
−Fe−B,(Nd,Pr)−Fe−Co−B等が用いら
れ、(Ce,La)−Fe−B系磁性粉末としては、(Ce,L
a)−Fe−B,(Ce,La)−Fe−Co−B,MM−Fe−
B,MM−Fe−Co−B等が用いられ、さらにSm−Co
系磁性粉末としては、Sm−Co,Sm−Co−Fe,Sm−
Co−Mn等が用いられる。
【0012】つぎに図1に示されているように、希土類
−遷移金属−ホウ素系の磁性粉末と非磁性の粉体とを加
えたフィラーが、磁石全体に対して50〜73重量%と
なるように計量される。フィラーを磁石全体に対して7
3重量%以下とするのは、フィラーの割合が73重量%
を越えた高充填率となると、フィラーに対するバインダ
ーの量が不足状態になり、磁石自身の磁力や内部応力に
バインダー強度が負けて磁石の倒壊を招き、あるいは磁
石が硬くなり過ぎになってシート状に成形することがで
きなったり、可撓性が不足して製品に組み込むことがで
きなくなったりするからである。一方フィラーを磁石全
体に対して50重量%以上とするのは、フィラーの割合
が50重量%より少ないと、フィラーの充填率が低くな
り過ぎて磁石の変形が容易に起きてしまうからである。
【0013】このとき希土類−遷移金属−ホウ素系(R
−T−B)磁性粉末を用いる場合には、磁性粉末の粒度
をメジアン径で78μm以下の微粉、例えば42μmに粉
砕することが上記充填率を得る上で好ましい。磁性粉末
の調整は、ボールミルやロール等を用いて行うこととす
る。
【0014】 また希土類磁性粉末の磁気特性が良好で
あることから、特に磁石の要求磁気力が小さく設定され
ている等の場合に、磁性粉末の投入量が少なく所定の充
填率を達し得ないことがある。その場合には、ホワイト
カーボン等の非磁性の粉体を、磁性粉末とともにバイン
ダー(後述)中に補強材として添加すればよい。このよ
に非磁性の粉体からなる混入フィラーを用い、これを
磁性粉末に混入してフィラーを形成すれば、磁石中のい
わゆるフィラー充填率を必要値まで高めることができ、
それによって磁石の変形性を改善し、磁石の剛性を高め
ることができる。このとき図2に示されているように、
磁性粉末と非磁性の粉体とを加えたフィラーの充填率
は、体積百分率で50〜73%の範囲が適切であり、そ
のうち希土類−遷移金属−ホウ素系(R−T−B)磁性
粉末は、13〜71体積%、混入フィラーは、2〜60
体積%の範囲とする。前述したようにフィラーに対する
バインダー量の過不足をなくし、磁石の倒壊あるいは過
硬化を防止するためである。
【0015】 上記非磁性の混入フィラーとしては、上
述したホワイトカーボンの他に、タルク、カーボンブラ
ック、カーボン繊維、フェライト粉等の化学的あるいは
物理的に安定な粉体を使用することができる。また混入
フィラーの粒度は、メジアン径で70μm以下とする。
【0016】さらに磁性粉末としてNd−Fe−Bを用い
る場合には、上述した非磁性の混入フィラーの代わり
に、(Ce,La)−Fe−B系磁性粉末を用いることが好ま
しい。これは、Nd−Fe−Bを用いた磁石が加硫(後
述)しにくく、必要な剛性を得にくいという問題がある
からである。加硫を行い易い希土類−遷移金属−ホウ素
系(R−T−B)磁性粉末を混入すれば、加硫が磁石内
部まで促進されて、磁石の剛性が高められ磁石の変形を
防止することができるものである。この場合の混入希土
類−遷移金属−ホウ素系(R−T−B)磁性粉末として
は、(Ce,La)−Fe−B、ミッシュメタル−Fe−B等
を採用することができる。
【0017】また磁性粉末どうしの混合割合は、残留磁
束密度Brが6300G以下となる割合ならば、どのよ
うな割合でも採用することができるが、特にNd−Fe−
B系磁性粉末と(Ce,La)−Fe−B系磁性粉末とを混合
させる場合には、(Ce,La)−Fe−B系磁性粉末を、磁
性粉末全体に対して5重量%以上に配合すれば、所定の
剛性を得ることが可能である。
【0018】次に上述したような磁性粉末に対し、所定
量の防錆剤及びエポキシ主剤が混合され、酸化膜、エポ
キシ樹脂膜及び防錆被膜の形成が行われる(被膜形成工
程)。すなわちまず混合装置中に不活性ガスが注入さ
れ、該混合装置中の空気が、酸素濃度0.08〜3%と
なるようにガス置換される。混合装置としては、ボール
ミル、V型ブレンダー、ダブルコーン型ブレンダー等が
用いられる。また不活性ガスとしては、アルゴンガス
(Ar)、窒素ガス(N2)、炭酸ガス(CO2)などが用い
られる。
【0019】このようにしてガス置換が行なわれた混合
装置中には、希土類−遷移金属系磁性粉末、エポキシ主
剤及び防錆剤が投入され、約2時間程度にわたって混合
が行なわれる。混合では、まず混合装置中に僅かに残留
している酸素によって上記磁性粉末の表面上に酸化膜が
形成され、さらにその上にエポキシ樹脂膜及び防錆被膜
が形成される。酸素濃度を0.08%〜3%としておく
のは、酸素濃度が0.08%より小さいと、酸化膜を形
成することができなくなるか、あるいは形成されても極
めて薄いものにしかならず、また酸素濃度が3%を越え
ると、酸素による発火の危険を生じるからである。
【0020】上記エポキシ主剤としては、ビスフェノー
ル系、フェノキシ系、ノボラック系、ポリフェノール
系、ポリヒドロキシベンゼン系あるいはこれらの誘導体
等の一種または二種以上が用いられ、また防錆剤として
はソルビタンモノオレエートと鉱物油または合成油の混
合物等が用いられる。
【0021】酸化膜、エポキシ樹脂膜及び防錆剤の被膜
が形成された磁性粉末は、取り出されて計量された後、
加圧式ニーダー等により可撓性を有する樹脂バインダー
と数分にわたって混練される(混練工程)。このときエ
ポキシ樹脂の硬化剤及び硬化促進剤が添加される。硬化
剤及び硬化促進剤をこの段階で添加するのは、磁性粉末
の混合物を取り出した直後から直ちに磁性粉末が硬化し
てしまうのを回避するためである。このような混練工程
により、希土類−遷移金属系磁性粉末は、可撓性を有す
る樹脂バインダー中にほぼ均一に分散される。
【0022】このときの可撓性を有する樹脂バインダー
としては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(I
R)、ブダジエンゴム(BR)、スチレン−ブタジエン
ゴム(SBR)、ブチルゴム(IIR)、エチレン−プ
ロピレンゴム(EPR)、エチレン−酢ビゴム(EV
A)、ニトリルゴム(NBR)、アクリルゴム(A
R)、ウレタンゴム(UR)等が、一種または二種以上
にわたって用いられる。すなわちこれらの樹脂バインダ
ーは、いわゆる3元ゴムであり、極性がないゴム成分
(例えばIIR)と、極性が強いゴム成分(例えばNB
R)とが、ハロゲンを含有するゴム成分(例えばCR)
を介して良好に混合されている。極性がないゴム成分は
耐油性・耐候性に難点があり、また極性が強いゴム成分
は非常に硬く伸展油または可塑剤の添加を要する。そこ
でハロゲンを含有するゴム成分を介して両ゴム成分を混
合させることとすれば、それぞれのゴム成分の難点を補
い合うゴム成分どうしが容易に混合され、耐油性・耐候
性の改善が行なわれるものである。
【0023】上記ハロゲンを含有するゴム成分として
は、クロロプレンゴム(CR)、ハイパロン(CSM)、
塩素化ポリエチレン等の塩素を含有するものが一種また
は二種以上にわたって用いられる。この場合、当該ハロ
ゲン含有のゴム成分は、樹脂バインダー全体の重量に対
して15重量%以下、好ましくは6.2重量%以下に設
定する必要がある。ハロゲンを含有するゴム成分が樹脂
バインダー全体重量の15重量%を越えて含まれる場合
には、塩素ガス(Cl2)や塩素ガス(HCl)が発生する
こととなり、例えばモータの場合には整流子腐食や磁石
の錆及びコア錆の原因となるからである。またハロゲン
を含有するゴム成分が樹脂バインダー全体重量の6.2
重量%を越えて含まれる場合には、磁石が硬くなりすぎ
て脆性状態となり、シート状に成形することができなか
ったり、可撓性が不足して製品に組み込むことができな
くなったりする。また外力あるいは自己の磁力によって
破壊し易くなる。
【0024】上記硬化剤としては、脂肪族ポリアミンや
芳香族ポリアミン等のポリアミン、無水フタル酸等の酸
無水物、ポリアミド樹脂、ポリスルフィッド樹脂、三フ
ッ化ホウ素等のアミンコンプレックス、フェノール樹脂
等の合成樹脂初期縮合物あるいはこれらの誘導体の一種
または二種以上が用いられる。硬化促進剤しては、トリ
スジメチルアミノメチルフェノール等のアミン、1−イ
ソブチル−2−メチルイミダゾール等のイミダゾールあ
るいはこれらの誘導体の一種または二種以上が用いられ
る。
【0025】この混練工程において、加圧ニーダーは冷
却されており、95℃以下、好ましくは50〜60℃の
温度条件下で混練が行なわれる。この温度設定により、
混練工程における発火の危険性が回避される。すなわち
95℃を越えて混練が行なわれると発熱より発火を生じ
る危険があり、また40℃以下ではゴムの可塑化が進ま
ず十分な混練が行なわれない。
【0026】以上の混練工程により得られた混練物とし
ての磁石素材は、加圧式ニーダーから取り出され、直ち
に10kg以下の小ロットごとに小分けされる。これらの
小分けされた各磁石素材は、密閉容器内にそれぞれ封入
されて保存され、磁石素材の温度が室温に低下するまで
そのまま放置される(保存工程)。この保存工程による
放熱によって発火の危険が回避される。
【0027】上記保存工程によって十分な放熱が行なわ
れた混練物としての磁石素材は、取り出されて粒度5mm
以下の大きさに砕かれる(粉砕工程)。この粉砕工程
は、アルゴンガス(Ar)、窒素ガス(N2)、炭酸ガス(CO
2)などの不活性ガスの流動による冷却下で行なわれ、
温度条件は95℃以下に設定される。粉砕には回転刃等
が使用される。すなわちこの粉砕工程では、不活性ガス
による空冷が行なわれることとなり、ほぼ大気中での粉
砕が可能になっている。
【0028】ついで上記粉砕工程により得られた粉砕物
に対してロール等による圧延が施され、シート状のボン
ド磁石が得られる(シート形成工程)。このとき圧延ロ
ールの表面温度は、20〜80℃に維持されており、こ
れによって上記シート状磁石素材の引っ張り強度が巻き
取り可能な範囲に良好に維持されるとともに、磁性粉末
の酸化が抑制され磁気特性の劣化が防止されるようにな
っている。
【0029】希土類−遷移金属−ホウ素系(R−T−
B)磁性粉末を用いた磁石においては、圧延後の密度が
4.9〜5.8となるように磁性粉末等のフィラー充填率
を調整しておく必要がある。磁石の密度が4.9より小
さい場合には、磁石の剛性不足が生じて変形し易くなっ
てしまい、製品への組込が不可能になるからであり、ま
た磁石の密度が5.8を越えると、磁石の脆性が大きく
なって割れ等の発生が起き易くなってしまい、着磁によ
って磁石が崩れる等の問題を生じるからである。
【0031】さらに上記圧延工程によって得られたシー
ト状磁石素材は、予熱された後に熱処理が施される。予
熱工程によって、シート状磁石素材中に不可避的に含ま
れている水分やガス等を外部へ発散させるためである。
この予熱工程における温度条件及び時間条件は、30℃
〜70℃及び6時間以上に設定される。このときシート
状磁石素材に対する空気の巻き込みは予め極力抑えられ
る。
【0032】一方予熱後の熱処理工程における温度条件
及び時間条件は、125℃〜180℃及び60分以上1
80分以内に設定されており、シート状磁石素材は、例
えば上下各3段に鉄板を積層してなる加熱装置、あるい
は蒸気缶等からなる恒温槽中に60〜180分間放置さ
れる。これによって加硫が行われると、所定の引っ張り
強度が付与される。このときにもシート状磁石素材に対
する空気の巻き込みは予め極力抑えられている。このよ
うな高温加熱を行う場合において、シート状磁石素材中
の水分やガス等は、上述した予熱工程によって予め発散
させられているため、加熱工程中においてシート状磁石
素材に空気発泡等の不具合を生じることはない。
【0033】この加熱時において、加熱温度が180℃
を越えると、磁性粉末の酸化が顕著となって磁気特性の
劣化を招来するとともに、加熱温度が125℃以下で
ると加硫が進まず、必要な引張強度が得られなくなる。
同様の理由から、加熱時間として60分以上180分以
内を要する。
【0034】加熱処理が行なわれたシート状磁石素材
は、適宜の寸法に切断されてシート状磁石になされる
が、切断後に恒温槽中で100〜180℃、20〜18
0分間の条件で再び熱処理が行われる。切断後の再熱処
理によって、元々の表面のみならず切断面からの加硫が
促進されることとなり、磁石の剛性が高められるもので
ある。この再熱処理工程においては、恒温槽中がN2
ス雰囲気等の不活性雰囲気になされ、これによってシー
ト状磁石素材の酸化が防止されるようになっている。ま
た恒温槽中を不活性雰囲気としない場合には、シート状
磁石素材の表面ができるだけ大気に触れることのないよ
うに、周囲をアルミホイルで包む等の手段が施される。
【0035】上記希土類−遷移金属−ホウ素系(R−T
−B)磁性粉末を用いたシート状磁石素材は、再熱処理
後にショアー硬さD(ピーク値)が45°以上になされ
るとともに、引張強度(引張速度50mm/min)が4.5K
g/mm2以上になされる。また撓み量は60mm以内になさ
れる。ここで撓み量とは、横断面寸法が2.55mm×2.
45mm、長さ寸法が205.5mmの寸法及び形状に成形
された試験片の基部側50mmを水平台上に固定し、この
試験片の自由端が15秒後に自重で撓んだ量を、雰囲気
温度15〜25℃で測定した量と定義する。上述したよ
うな加熱温度条件の範囲内になければ、磁気特性の低下
を招くか(温度範囲を越えた場合)、あるいは加硫が進
まず(温度範囲を下回った場合)、硬度の低下、引張強
度の低下及び撓み量の増大を生ずる。
【0036】 以上のようにして得られた希土類−遷移
金属−ホウ素系(R−T−B)磁性粉末を用いたシート
状磁石には、所定の方向に着磁が行われる。このとき磁
石の圧延面に対して着磁が行われる場合には、表面磁束
密度の範囲が350G〜1400Gになされるととも
に、磁石の圧延面に直交する面に対して着磁が行われる
場合には、表面磁束密度の範囲が40G〜1400Gに
なされる。圧延面に対して着磁が行われる場合は、例え
ばモータ駆動用の主着磁として行われる場合であり、ま
た圧延面の直交面に対して着磁が行われる場合は、例え
ばモータ回転検出用のFG着磁として行われる場合であ
る。ここで「表面磁束密度」とは、着磁したときの磁石
の表面の磁束密度のことである。これに対して「残留磁
束密度」とは磁石本来の特性値を表す。
【0037】表面磁束密度が1400Gを越えて着磁さ
れた場合には、磁石中のバインダーが磁力に打ち勝って
磁性粉末を固定することができなくなり、磁石に崩れを
生じる。一方圧延面に対して例えばモータ駆動用の主着
磁が行われる場合において、表面磁束密度が350G以
下であると、磁束密度が小さくなり過ぎて、希土類−遷
移金属−ホウ素系(R−T−B)磁性粉末を用いる有用
性がなくなる。350G以下の磁束密度の磁石は、生産
コストの安いフェライト系磁性粉末を用いれば十分であ
るからである。また圧延面の直交面に対して例えばモー
タ回転検出用のFG着磁が行われる場合において、表面
磁束密度が40G以下であると、磁束密度が小さくなり
過ぎて必要なFG波形が得られなくなる。
【0038】
【実施例】以下、本発明の実施例を詳細に説明する。 実施例1 磁性粉末としては、ゼネラルモーターズ社製MQPを湿
式ボールミルにより予め粉砕し粒度調整したNd−Fe−
B磁性粉末を用いた。この磁性粉末は、超急冷法により
形成したままでは粒度2mm以下の磁性粉末であるため、
これを粉砕して粒度78μm以下としたものを用いた。
防錆剤としては、花王社製レオドールSP−O10を用
い、エポキシ主剤としては、油化シェル社製エピコート
828を用いた。
【0039】そしてボールミル容器の中に、磁性粉末、
エポキシ主剤、防錆剤及びアルミナボールを入れ、容器
内の空気をN2ガスで、酸素濃度が1.2%となるように
ガス置換した後、1時間の混合を行ない磁性粉末表面
に、酸化膜、エポキシ樹脂膜及び防錆膜を形成した。
【0041】つぎに上記のようにして得られた混合物と
ゴムバインダーとを、硬化剤及び硬化促進剤とともに加
圧式ニーダーで7分間にわたって混練した。上記硬化剤
及び硬化促進剤としては、油化シェル社製のYH−30
2及びIBMI−12を用いた。
【0042】さらに得られた混練物を、4kgずつの小ロ
ットに小分けしてビニール袋に入れ、直ちに口元を縛っ
てから密閉容器内に収納した。その後適当時間放置して
密閉容器から混練物を取り出し、粉砕機で粒度約2.6m
m程度に粉砕した。粉砕機には朋来鉄工所製U−140
回転刃式を用いた。
【0043】シートを得るために用いられる圧延ロール
の表面温度を約50℃に維持しながら圧延を行ない、シ
ート状磁石素材を得た。ついでこのシート磁石素材を約
50℃の温度条件下で約8時間にわたって予熱した後、
約170℃に加熱してゴムバインダーの加硫を行った。
そして所定の寸法に切断して可撓性を有するシート状磁
石を得た。
【0044】本実施例における配合を次表1に示す。
【表1】
【0045】この実施例の混練工程において、予め形成
された防錆被膜によって磁性粉末表面の活性度が低下さ
れていること、及び素材内への空気巻き込みがほとんど
生じないことが確認された。さらに混練物は、粉砕工程
により不活性ガスの流動下で所定の小粒径に粉砕され、
これによりつぎの圧延工程においても空気の巻き込みは
ほとんど生じることがないことが確認された。
【0046】また圧延工程においては、圧延ロールの表
面が所定の温度に維持されたため、シート状磁石の引っ
張り強度が巻き取り可能な範囲に良好に維持され、かつ
磁性粉末の酸化が抑制されて磁気特性の劣化を生じるこ
とはなかった。
【0047】さらにつぎの高温加熱においては、シート
状磁石素材に空気発泡等の不具合を生じることがないこ
とが確認された。なお加熱温度が180℃を越えると、
磁性粉末の酸化が顕著となって磁気特性の劣化を招来
し、加熱温度が125℃以下では加硫が進まず、所定の
引っ張り強度を得ることができなかった。
【0048】また本実例では、混合工程に、エポキシ樹
脂を投入して混合し、そこで磁性粉末にエポキシ樹脂被
膜を形成しているから、空気の巻き込みは一層低減され
た。エポキシ樹脂を混練工程で加えることとしても同様
の作用・効果が得られた。
【0049】なお本実施例により得られた磁石の磁気特
性は、Br=3.9[KG]、iHc=8.0[kOe]、bHc=3.2[k
Oe]、(BH)max=3.1[MGOe]であった。また得られた磁
石を60℃、90%RH雰囲気中に80時間放置したとこ
ろ、表面に発錆はみられなかった。さらにブラシ付きD
Cモータの駆動用磁石として用いたところ、60℃、2
00時間の連続回転後も、ブラシ材質(Ag-Pd)とコミ
ュテータ材質(Ag-Cd)に腐食の発生はなかった。
【0051】実施例2 磁性粉末としては、MM14(Fe0.9Co0.1)79B7なる組成
の合金を単ロール法によって超急冷リボンとし、湿式ボ
ールミルにより粉砕し粒度調整したものを用いた。防錆
剤としては、花王社製レオドルSP−O10と米国テネ
コケミカル社製アンデロール456との混合液とを用い
た。以下上述した実施例1と同様にしてシート状の可撓
性磁石を得た。
【0052】この実施例による混練工程においても、予
め形成された防錆被膜によって磁性粉末表面の活性度が
低下されていること、及び素材内への空気巻き込みはほ
とんどないことが確認された。さらにこの混練物は、粉
砕工程により不活性ガスの流動下で所定の小粒径に粉砕
され、これによりつぎの圧延工程においても空気の巻き
込みはほとんど生じることがなかった。
【0053】また圧延工程においても、圧延ロールの表
面温度が所定値に維持され、所定の引っ張り強度を得
た。さらに磁性粉末の酸化も同様に抑制され、磁気特性
の劣化を生じることはなかった。つぎの高温加熱におい
ても、シート状磁石素材に空気発泡等の不具合を生じる
ことはなかった。
【0054】なおこの実施例2により得られた磁石の磁
気特性は、Br=3.3[KG]、iHc=6.5[kOe]、bHc=2.
3[kOe]、(BH)max=1.9[MGOe]であった。さらに得ら
れた磁石を60℃、90%RH雰囲気中に80時間放置し
たところ、表面に発錆はみられなかった。さらにブラシ
付きDCモータの駆動用磁石として用いたところ、60
℃、200時間の連続回転後も、ブラシ材質(Ag-Pd)
とコミュテータ材質(Ag-Cd)に腐食は発生しなかっ
た。
【0055】このように本発明によるシート状の可撓性
ボンド磁石は、回転電機等に対して好適に取り付けられ
使用されることが確認された。なお永久磁石粉の代わり
に、鉄粉、鉄合金等の高透磁率を有する金属粉を用いる
こととすれば、可撓性を有する高透磁率材を形成するこ
とができる。
【0056】
【発明の効果】 以上述べたように本発明による希土類
ボンド磁石では、磁性粉末に補強剤として非磁性の粉体
が添加されており、希土類−遷移金属−ホウ素系磁性粉
末を13〜71体積%、非磁性の粉体を2〜60体積%
として、上記磁性粉末と上記非磁性の粉体とを加えたフ
ィラーが、磁石全体に対する体積百分率で、50〜73
体積%で充填されているため、フィラーに対するバイン
ダーの量の過不足をなくし、磁石の倒壊あるいは過硬化
を防止することができる。また、上記非磁性の粉体の大
きさがメジアン径で70μm以下であって、フィラーの
充填率を高めるのに適切な大きさになっている。そし
て、磁性粉末と非磁性の粉体とが上記の条件のもとに充
填されることと相俟って、残留磁束密度を6300
(G)以下とすることにより、要求磁気力が小さい場合
に、磁石の可撓性及び剛性を適切に維持しつつ、製品化
を不可能とするような磁石の変形を防止することがで
き、極めて有用な希土類ボンド磁石を得ることができ
る。
【0057】
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明にかかる希土類ボンド磁石の製造工程を
表わしたフロー図である。
【図2】本発明にかかる希土類ボンド磁石における磁性
粉末と補強材との配合関係及び磁性分末と非磁性の粉体
との配合関係を表わした線図である。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 坂巻 弘孝 長野県駒ヶ根市赤穂14−888番地 株式 会社三協精機製作所駒ヶ根工場内 (56)参考文献 特開 平3−129802(JP,A) 特開 平1−103807(JP,A) 特開 昭62−190256(JP,A)

Claims (1)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 希土類−遷移金属−ホウ素系磁性粉末を
    可撓性樹脂バインダー中に混練により分散してなる希土
    類ボンド磁石において、 上記磁性粉末には、補強剤としての非磁性粉体が添加さ
    れていて、希土類−遷移金属−ホウ素系磁性粉末13
    71体積%、非磁性の粉体は2〜60体積%であり、 上記磁性粉末と上記非磁性の粉体とを加えたフィラー
    が、磁石全体に対する体積百分率で、50〜73体積%
    充填され、 上記非磁性の粉体の大きさがメジアン径で70μm以下
    であり、 残留磁束密度が6300(G)以下であることを特徴と
    する希土類ボンド磁石。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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