JP2901400B2 - アンチロック制動用モジュレータの制御方法 - Google Patents

Description

【発明の詳細な説明】

【０００１】

【産業上の利用分野】本発明は、アンチロック制動前に
カットバルブを閉弁直前位置まで移動させて効率的なア
ンチロック制動を行うためのアンチロック制動用モジュ
レータの制御方法に関する。

【０００２】

【従来の技術】自動車や自動二輪車等において、ブレー
キの制御を行うためにアンチロック制動用モジュレータ
を備えたブレーキ制御装置が使用されている。

【０００３】例えば、図７に示すように、自動二輪車に
組み込まれるアンチロック制動用モジュレータ１は、本
体ボデイ２と、運転者のレバー操作、ペダル操作により
発生するブレーキ作動指令を油圧力に変換するマスタシ
リンダに連通する入力油圧室３と、車輪のブレーキディ
スクに制動力を発生させるキャリパシリンダに連通する
出力油圧室４と、前記入力油圧室３と出力油圧室４とを
連通並びに遮断するカットバルブ５と、前記出力油圧室
４側に配設されアンチロック制動時にカットバルブ５を
閉弁させるとともに、出力油圧室４の容積を増大させて
油圧力を減少させるエキスパンダピストン６と、このエ
キスパンダピストン６に当接する偏心部７が設けられた
クランク部材８と、前記クランク部材８を回動させるこ
とで前記エキスパンダピストン６を変位させる直流モー
タ９とを備えている。

【０００４】

【発明が解決しようとする課題】この場合、上記のモジ
ュレータ１では、通常制動時に入力油圧室３から出力油
圧室４に圧油を円滑に供給するために、カットバルブ５
をその着座位置から相当距離だけ離間させる必要があ
る。従って、カットバルブ５をこの離間位置から着座位
置まで移動させるためには、クランク部材８を比較的大
きな角度だけ回転させなければならない。このため、ア
ンチロック制動開始信号が出力されてから実際にアンチ
ロック制動が開始されるまでにかなりの時間がかかって
しまい、応答性が低下するという問題が指摘されてい
る。

【０００５】本発明は、この種の問題を解決するもので
あり、簡単な制御によってアンチロック制動開始信号が
出力されてから実際にアンチロック制動が開始されるま
での時間を可及的に短縮化することが可能なアンチロッ
ク制動用モジュレータの制御方法を提供することを目的
とする。

【０００６】

【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため
に、本発明は、クランク部材を回転させてカットバルブ
を進退させることにより、通常制動時には車輪に制動力
を付与するための出力油圧室を開弁する一方、アンチロ
ック制動時には前記カットバルブを閉弁して前記出力油
圧室の容積を増大させて前記制動力を減少させるアンチ
ロック制動用モジュレータの制御方法であって、前記ア
ンチロック制動が開始されることを事前に信号として検
出する過程と、前記検出された信号に基づいて、前記ア
ンチロック制動開始前までに、前記クランク部材を、前
記カットバルブにより出力油圧室を閉弁させる角度に対
して開弁側に所定の角度になるまで回転させる過程と、
前記クランク部材が前記所定角度に配置された後、前記
クランク部材をさらに回転させてアンチロック制動を開
始させる過程とを備えることを特徴とする。

【０００７】

【作用】本発明に係るアンチロック制動用モジュレータ
の制御方法では、アンチロック制動開始前までに、クラ
ンク部材が回転されてカットバルブを出力油圧室の閉弁
位置近傍に配置させる。このため、この状態でアンチロ
ック制動が開始されると、クランク部材が僅かな角度だ
け回転するだけでカットバルブは閉弁位置に至る。従っ
て、アンチロック制動開始信号が出力された直後にアン
チロック制動が実際に開始され、応答性が向上すること
になる。

【０００８】

【実施例】本発明に係るアンチロック制動用モジュレー
タの制御方法について実施例を挙げ、添付の図面を参照
して以下詳細に説明する。

【０００９】図２において、参照符号１０は自動二輪車
を示し、この自動二輪車１０は、本体部１２とハンドル
部１４と前輪部１６と後輪部１８とを備える。

【００１０】この自動二輪車１０に、本実施例に係る制
御方法を実施するためのブレーキ制御装置２０が配設さ
れ、図１に示すように、このブレーキ制御装置２０は、
アンチロック制動用モジュレータ２２を備え、このモジ
ュレータ２２を構成する直流モータ２４にはピニオン２
６が軸着され、このピニオン２６にギヤ２８が噛合す
る。ギヤ２８は、クランク軸３０に軸支されており、こ
のクランク軸３０にはクランクアーム３２を介してクラ
ンクピン３４の一端部が偏心して連結されている。この
クランクピン３４の他端部にはクランクアーム３６を介
してエキスパンダピストン（後述する）の位置を検出す
るためのポテンショメータ３８が取着される。

【００１１】前記クランクピン３４にカムベアリング４
０が回転自在に装着され、このカムベアリング４０の下
端側は、スプリング収納部４２に収納されたリターンス
プリング４４の作用下に上限位置方向に常時押圧され
る。カムベアリング４０の上端側にはエキスパンダピス
トン４６が当接するとともに、このエキスパンダピスト
ン４６は、カムベアリング４０の上下動に伴って上下に
変位してカットバルブ４８の開閉を行う。

【００１２】このエキスパンダピストン４６の上部に、
カットバルブ４８を内蔵したカットバルブ収納部５０が
配設され、このカットバルブ収納部５０の入力ポート５
２には通路５４を介してマスタシリンダ５６が接続され
る一方、カットバルブ収納部５０の出力ポート５８には
通路６０を介して車輪制動用キャリパシリンダ６２が接
続される。このマスタシリンダ５６とキャリパシリンダ
６２とは、通路５４、モジュレータ２２および通路６０
を介して相互に接続され、かつ、この経路には油圧用の
オイルが充填される。マスタシリンダ５６は、ブレーキ
レバー６４の作用下に油圧の調節を行い、カットバルブ
４８を介してキャリパシリンダ６２を駆動し、前輪部１
６および後輪部１８に配設されたディスクプレート６６
に制動力を付与する。

【００１３】ポテンショメータ３８および直流モータ２
４にモータコントローラ７０が接続され、このモータコ
ントローラ７０は、コントロールユニット７２に接続さ
れる。このコントロールユニット７２には、前輪部１６
および後輪部１８の車輪速度を検出するための車輪速度
センサ７４、７６と、ブレーキレバー６４が操作される
際にブレーキ信号を出力するセンサ７８とが接続されて
いる。

【００１４】次に、このように構成されるブレーキ制御
装置２０の動作について、本実施例に係るモジュレータ
の制御方法との関連で説明する。

【００１５】通常制動時には、リターンスプリング４４
の弾発力によってクランクピン３４は予め設定された上
限位置に保持され、このクランクピン３４に装着された
カムベアリング４０がエキスパンダピストン４６を押し
上げた状態で維持されている。これにより、カットバル
ブ４８がエキスパンダピストン４６によって押し上げら
れ、入力ポート５２と出力ポート５８とが連通してい
る。

【００１６】そして、ブレーキレバー６４が把持される
ことによりマスタシリンダ５６が付勢され、このマスタ
シリンダ５６によって発生したブレーキ油圧は、通路５
４、入力ポート５２、出力ポート５８および通路６０を
介してキャリパシリンダ６２に伝達され、ディスクプレ
ート６６に制動力が付与される。

【００１７】ここで、ブレーキレバー６４の把持動作が
センサ７８によって検出されることにより、ブレーキ信
号がコントロールユニット７２に入力されると（図３
中、ステップＳ１および図４参照）、実際にアンチロッ
ク制動（ＡＢＳ作動）が開始される前までにクランクピ
ン３４がクランク角θＰまで回転される（ステップＳ２
のＮＯ、ステップＳ３）。すなわち、このコントロール
ユニット７２からモータコントローラ７０に駆動信号が
供給されて直流モータ２４が駆動制御され、図示しない
回転軸に軸着されたピニオン２６が回転されてこのピニ
オン２６と噛合するギヤ２８およびクランクアーム３２
が回転し、さらにクランクピン３４が上限位置から下限
位置方向にクランク角θＰだけ偏位する（図５参照）。
このクランクピン３４の偏位によりカムベアリング４０
が下降し、エキスパンダピストン４６とカットバルブ４
８とが一体的に下降する。その際、図５に示すように、
クランクピン３４のクランク角θＰは、カットバルブ４
８が着座して入力ポート５２と出力ポート５８との間を
遮断させるためのクランク角θＣよりも小さな角度に設
定されている。

【００１８】次いで、アンチロック制動が行われた場合
は、直流モータ２４の回転方向および回転量の制御が行
われ、クランクピン３４がクランク角θＰの位置から下
限位置方向にさらに偏位する。このため、クランクピン
３４がクランク角θＣの位置に至ってカットバルブ４８
が着座し、入力ポート５２と出力ポート５８との間が遮
断される。そして、エキスパンダピストン４６が単独で
さらに下降して、出力ポート５８側の体積が増大してキ
ャリパシリンダ６２に付与される油圧が減少し、例え
ば、前輪部１６の制動力が減少する。これによって、ア
ンチロック制動が遂行されることになる。

【００１９】この場合、本実施例では、アンチロック制
動が開始される直前に、クランクピン３４が上限位置か
ら下限位置方向にクランク角θＰだけ偏位してカットバ
ルブ４８が着座位置近傍に配置されている。従って、図
６に示すように、アンチロック制動が開始された時点Ｔ
₁ から、カットバルブ４８が着座して実際にアンチロッ
ク制動が行われるまでに、従来のアンチロック制動に比
べてΔｔ時間だけ短縮される。このため、アンチロック
制動開始信号が出力されてから実際にアンチロック制動
が開始されるまでの時間を短縮化することができ、応答
性が一挙に向上して最適なアンチロック制動が可能にな
るという効果が得られる。

【００２０】なお、本実施例では、アンチロック制動開
始信号として、ブレーキレバー６４が操作される際にセ
ンサ７８から出力されるブレーキ信号を用いているが、
例えば、路面や車体速度等に応じたスリップ率の変化
（図６参照）等を利用することができる。

【００２１】

【発明の効果】以上のように、本発明に係るアンチロッ
ク制動用モジュレータの制御方法では、アンチロック制
動開始前までにカットバルブが出力油圧室の閉弁位置近
傍に配置されるため、アンチロック制動開始信号が出力
された直後にアンチロック制動が開始される。従って、
アンチロック制動の応答性が向上して最適な操縦性を確
保することが可能になる。

【図面の簡単な説明】

【図１】本発明に係るアンチロック制動用モジュレータ
の制御方法を実施するためのブレーキ制御装置の構成図
である。

【図２】前記ブレーキ制御装置を搭載する自動二輪車の
側面説明図である。

【図３】前記制御方法のフローチャートである。

【図４】前記制御方法と従来の方法とによるアンチロッ
ク制動の動作説明図である。

【図５】前記制御方法の動作説明図である。

【図６】前記制御方法のタイミングチャートである。

【図７】一般的なモジュレータの縦断面図である。

【符号の説明】

２０…ブレーキ制御装置 ２２…モジュレータ ２４…直流モータ ３４…クランクピン ３８…ポテンショメータ ４６…エキスパンダピストン ４８…カットバルブ ７０…モータコントローラ ７２…コントロールユニット ７８…センサ

フロントページの続き (72)発明者 桜井 健 埼玉県和光市中央１丁目４番１号 株式 会社本田技術研究所内 (56)参考文献 特開 平３−121963（ＪＰ，Ａ) 特開 平３−54055（ＪＰ，Ａ) 特開 平１−224549（ＪＰ，Ａ) 特開 平２−237853（ＪＰ，Ａ) 特開 平３−54057（ＪＰ，Ａ) 特開 昭56−90760（ＪＰ，Ａ) (58)調査した分野(Int.Cl.⁶，ＤＢ名) B60T 8/40

Claims (1)

(57)【特許請求の範囲】
1. 【請求項１】クランク部材を回転させてカットバルブを
   進退させることにより、通常制動時には車輪に制動力を
   付与するための出力油圧室を開弁する一方、アンチロッ
   ク制動時には前記カットバルブを閉弁して前記出力油圧
   室の容積を増大させて前記制動力を減少させるアンチロ
   ック制動用モジュレータの制御方法であって、 前記アンチロック制動が開始されることを事前に信号と
   して検出する過程と、前記検出された信号に基づいて、 前記アンチロック制動
   開始前までに、前記クランク部材を、前記カットバルブ
   により出力油圧室を閉弁させる角度に対して開弁側に所
   定の角度になるまで回転させる過程と、 前記クランク部材が前記所定角度に配置された後、前記
   クランク部材をさらに回転させてアンチロック制動を開
   始させる過程とを備えることを特徴とするアンチロック
   制動用モジュレータの制御方法。