JP2872664B1

JP2872664B1 - 布帛のしみぬき用溶剤組成物

Info

Publication number: JP2872664B1
Application number: JP10063930A
Authority: JP
Inventors: 靖夫小澤
Original assignee: オザワ工業株式会社
Priority date: 1998-03-02
Filing date: 1998-03-02
Publication date: 1999-03-17
Anticipated expiration: 2018-03-02
Also published as: JPH11246898A

Abstract

【要約】【課題】引火性かつ可燃性である１−ブロモプロパン
（ＮＰＢ）の脱脂能、人体無害化性及びオゾン破壊係数
（ＯＤＰ）が小さい特性を利用して、難燃性、安全性、
かつ高いしみぬき効果と輪じみ発生防止能を有する優れ
たＮＰＢ系の布帛のしみぬき用溶剤組成物を提供する。【構成】本発明の第一の発明は、(1).１−ブロモプロ
パン（ｎ−プロピルブロマイド）と沸点が５０〜１１０
℃の脂肪族炭化水素とから成る混合溶剤成分、及び、
(2).沸点が３０℃以上〜１３０℃以下であるとともに、
引火点を示さない難燃化剤であって、溶剤組成物全体が
引火点を示さない割合に配合される難燃化剤、とから成
ることを特徴とする布帛のしみぬき用溶剤組成物に関す
る。また、本発明の第二の発明は、汚染物質に対する浸
透性を改善するめに前記第一の発明の組成に低級脂肪族
アルコールを配合したことを特徴とする布帛のしみぬき
用溶剤組成物に関する。

Description

【発明の詳細な説明】

【０００１】

【発明の属する技術分野】本発明は、フロンや塩素系の
代替溶剤として使用することができる洗浄用溶剤組成
物、特に布帛のしみぬき用溶剤組成物に関するものであ
る。

【０００２】本発明は、引火性である１−ブロモプロパ
ン（ｎ−プロピルブロマイド。以下、ＮＰＢと略記する
ことがある。）と沸点が５０〜１１０℃の脂肪族炭化水
素（以下、ＬＡＨＣと略記することがある。）からなる
混合溶剤成分を特定の難燃化剤により難燃化したことを
特徴とする洗浄力、安全性などの特性に優れたＮＰＢ系
の布帛のしみぬき用溶剤組成物に関するものである。

【０００３】また、本発明は、前記ＮＰＢとＬＡＨＣか
らなる混合溶剤成分に、低級脂肪族アルコールと特定の
難燃化剤を配合したことを特徴とする洗浄力、安全性な
どの特性に優れたＮＰＢ系の布帛のしみぬき用溶剤組成
物に関するものである。

【０００４】更にまた、本発明は、ＮＰＢと沸点が相違
するＬＡＨＣからなる混合溶剤成分に特定の難燃化剤及
び場合により低級脂肪族アルコールを配合したことを特
徴とする洗浄力、安全性に加え、布帛にとって致命傷と
なる輪じみの発生を抑制する特性に優れたＮＰＢ系の布
帛のしみぬき用溶剤組成物に関するものである。

【０００５】

【従来の技術】布帛の洗浄用溶剤は、洗浄力以外に、難
燃性であること、人体に対し低毒性であること、及びオ
ゾン破壊係数（ＯＤＰ）が小さいことが強く要求されて
いる。この種の洗浄用溶剤として、特定フロン、及び塩
素系溶剤は、洗浄力が優れているものの、前記ＯＤＰの
観点から、生産、及び使用制限がなされており、これら
に代る代替溶剤の開発が強く望まれている。

【０００６】布帛の洗浄用代替溶剤として、ＨＣＦＣ
（Hydro Chloro Fluoro Carbon）及びＨＦＣ（Hydro Fl
uoro Carbon）などの代替フロンが提案されているが、
これら代替フロンのうちＯＤＰが０．１以下のものは洗
浄力が小さく、また洗浄力が大きいものはＯＤＰ規制か
ら使用量が制限されつつある。更にこれら代替フロン
は、一般に沸点が低く、単独では洗浄剤として不向きな
ものが多く、７０℃前後に沸点を示す代替溶剤の開発が
強く望まれている現状にある。

【０００７】当業界において、前記特定フロンに代わる
代替洗浄用溶剤として、ジクロルプロパンあるいはイソ
プロピルブロマイド（２−ブロモプロパン。以下、ＩＰ
Ｂと略記することがある。）が注目されているが、近
年、その毒性が明らかとなり、健康障害防止のために使
用できなくなりつつある。

【０００８】また、当業界において、前記特定フロンに
代わる代替洗浄用溶剤として、臭素系炭化水素、例えば
前記ＩＰＢと同類の１−ブロモプロパン（ＮＰＢ）が注
目されている。前記ＮＰＢが洗浄用溶剤として注目され
ている理由は、脱脂効果に優れるとともに、ＯＤＰが
０．００６と極めて小さいこと、かつ人体への影響につ
いても米国環境保護庁（ＥＰＡ）において評価されつつ
あるためである。

【０００９】しかしながら、前記ＮＰＢ系洗浄用溶剤の
最大の問題点は、引火点（ＪＩＳＫ−２２６５、タグ密
閉方式引火点測定試験）が２５℃と低く、可燃性物質で
あるという点にある。なお、前記したＮＰＢの特性、即
ち、引火点が２５℃と低くかつ、可燃性物質であるとい
う事実は、本発明者らの公的機関（例えば、大阪市立工
業研究所）での測定、及び「１２，６９５の化学商品」
（化学工業日報社発行、１９９５年１月２５日、第７７
３頁）（この刊行物は、１２，６９５種類の化学商品の
特性等を説明している。）の説明と一致するものであ
る。

【００１０】前記したＮＰＢの特性を念頭にいれて、従
来から提案されているＮＰＢ系洗浄用溶剤について、以
下に考察する。

【００１１】洗浄剤業界において、「ＮＰＢは引火点を
示さない難燃性物質」であるとの認識が強く存在し、こ
れを前提にした提案が多くなされている。例えば、ＮＰ
Ｂが前記したように可燃性物質であるにも拘わらず、こ
れに可燃性の安定剤を添加したり、あるいは可燃性洗浄
用溶剤の難燃化剤としてＮＰＢを利用したりする提案が
なされており、これらは極めて危険な提案であるといわ
ざるを得ない。因みに、現在、国内に流通しているＮＰ
Ｂ単独あるいはＮＰＢに安定剤を添加した製品について
みると、製品を取扱っている三社の「製品安全データ」
は、「引火点なし」と記載している。

【００１２】(1).特開平６−２２０９４号公報、同７−
１５０１９７号公報、同８−６７６４３号公報、同８−
３３７７９５号公報には、ＮＰＢ系洗浄用溶剤の安定化
のために、ＮＰＢを難燃性であるとして位置づけし、こ
れに全て可燃性物質からなる安定剤を配合することが提
案されている。例えば、前記特開平８−６７６７４３号
公報は、可燃性のエーテル化合物を安定剤として１０％
以上添加するとＮＰＢの難燃性が低下するとしており、
これはＮＰＢが難燃化剤の特性を有しているとみなして
いるものである。

【００１３】(2).また、特開平７−２９２３９３号公報
は、炭素数４以下で沸点１００℃以下のハロゲン系溶剤
（例えばＩＰＢ、ＮＰＢなど）と防錆剤からなる洗浄
剤、特にはんだ付け後のフラックス残渣の除去能に優れ
た洗浄剤を提案している。この提案においても、ＮＰＢ
が引火点がなく、自己消火性であるとしている。

【００１４】(3).更に、特開平８−３０２３１６号公報
は、ＮＰＢ及び／又はＩＰＢを接着剤用溶媒として応用
するものであり、本発明が対象とする洗浄用溶媒と用途
が大きく異なるが、これは大気汚染性、労働安全性、オ
ソン層破壊などの観点から、従来型の揮発引火性溶剤や
塩素系溶剤に代わってＮＰＢ及び／又はＩＰＢを使用す
るものである。しかしながら、この提案においても、溶
媒系を難燃性にするという観念はない。

【００１５】一般に、引火性溶剤の難燃化手法として
は、水を加えて水溶液または水分散液とするか、ハロゲ
ン系の溶剤を難燃化剤として加えて引火性を抑制すると
いう手法がある。しかしながら、ＮＰＢ等の臭化プロピ
ル系溶剤に対しては、例えば特開平７−３１００９７号
公報は、ＮＰＢの引火点２５℃より更に低い引火点２１
℃を示すイソプロピルブロマイド（前記「１２，６９５
の化学商品」参照）を石油系溶剤と組み合わせてドライ
クリーニング用洗浄剤として用いており、前記公報には
引火性についての配慮が全くなされていない。

【００１６】更に、特開平２−１３５２９６号公報、同
２−１８５５９７号公報、同２−２１５７３６号公報、
同２−２３７９４４号公報、同２−２４７１４３号公報
等は、フッ素系炭化水素と臭化イソプロピル系溶剤とか
ら成る洗浄用組成物に関するものではあるが、これら全
ては、洗浄用組成物を共沸組成のものにすることに重点
がおかれている。また、ＮＰＢ単独であっても、蒸気洗
浄を対象としているため、熱安定性の配慮が中心課題で
ある（例えば、特開平８−３３７７９号公報参照）。

【００１７】前記したように、従来から提案されている
ＮＰＢ等の臭化プロピル系の洗浄用組成物（洗浄用溶
剤）は、一般に単一溶剤系のものか、あるいは共沸組成
物を対象としている。

【００１８】

【発明が解決しようとする課題】前記したように、従来
からＮＰＢを洗浄用溶媒として利用するという提案がな
されているが、ＮＰＢは実際には２５℃と極めて低い引
火点を有するものでありながら、当業者は、無関心とい
うよりも、逆にタグ密閉式引火点の測定試験における上
限値、８０℃よりも高い引火点を有する物質である、と
認識している危険な状態にある。

【００１９】本発明は、前記した当業界のＮＰＢに対す
る認識レベル及びそれに基づく危険な利用技術に反省を
せまるとともに、ＮＰＢ特性を十分に生かしつつ洗浄
力、安全性などの特性に優れたＮＰＢ系の布帛用溶剤、
特に布帛製品において致命傷となる「輪じみ」の発生防
止に優れた布帛のしみぬき用溶剤組成物を提供しようと
するものである。即ち、本発明は、ＮＰＢが洗浄力、Ｏ
ＤＰ、労働安全性などの観点から好ましい物質ではある
ものの、引火性であるため、使用雰囲気に厳しい制限が
必要な現状に鑑み、より安全なＮＰＢ系の布帛のしみぬ
き用溶剤を提供しようとするものである。

【００２０】特に、本発明は、引火点が実際には２５℃
という極めて低い可燃性のＮＰＢを引火点が８０℃以上
の難燃性物質であると錯覚する状況に置かれている当業
界の現状に鑑み、ＮＰＢのより安全な使用（利用）を図
り、かつＮＰＢの優れた洗浄力を利用したＮＰＢ系の布
帛のしみぬき用溶媒組成物を提供しようとするものであ
る。

【００２１】布帛のしみぬき用溶剤組成物にあっては、
洗浄力以外に、輪じみ（汚れが拡がり、周辺部に汚染跡
がリング状に残る現象をいう。）の発生を防止して、仕
上がりを良くする必要があり、特に白生地に対しては重
要な課題である。本発明者らは、前記した輪じみの発生
防止もしくは抑制手段について鋭意検討した結果、一般
の洗浄剤とは異なり、沸点が異なる数種の溶媒を混合し
たものの方が単一の沸点を示すもの（共沸系洗浄剤）よ
りも好ましいことを見い出した。

【００２２】本発明は、前記した知見をベースにしてお
り、布帛のしみぬき剤にあっては、従来の洗浄剤が共沸
成分（共沸組成）を目標としていたのに対し、洗浄剤を
輪じみの発生防止という観点からＮＰＢを主要成分とし
つつ複数の沸点の混合溶剤で構成するとともに、ＮＰＢ
が引火性物質であるという観点から難燃化の配慮をも同
時に行なった新規なＮＰＢ系の布帛のしみぬき用溶剤組
成物を提供しようとするものである。

【００２３】

【課題を解決するための手段】本発明を概説すれば、本
発明の第一の発明は、布帛のしみぬき用に使用される布
帛のしみぬき用溶剤組成物が、(1).１−ブロモプロパン
（ｎ−プロピルブロマイド）と沸点が５０〜１１０℃の
脂肪族炭化水素とから成る混合溶剤成分、及び、(2).沸
点が３０℃以上〜１３０℃以下であるとともに、引火点
を示さない難燃化剤であって、溶剤組成物全体が引火点
を示さない割合に配合される難燃化剤、とから成ること
を特徴とする布帛のしみぬき用溶剤組成物に関する。

【００２４】また、本発明の第二の発明は、布帛のしみ
ぬき用に使用される布帛のしみぬき用溶剤組成物が、
(1).１−ブロモプロパン（ｎ−プロピルブロマイド）、
沸点が５０〜１１０℃の脂肪族炭化水素、及び低級脂肪
族アルコールとから成る混合溶剤成分、及び、(2).沸点
が３０℃以上〜１３０℃以下であるとともに、引火点を
示さない難燃化剤であって、溶剤組成物全体が引火点を
示さない割合に配合される難燃化剤、とから成ることを
特徴とする布帛のしみぬき用溶剤組成物に関する。

【００２５】以下、本発明の技術的構成及び実施態様に
ついて詳しく説明する。

【００２６】まずはじめに、本発明の技術的構成を詳述
する前に、本発明の理解を助けるために、特定フロン対
策との関連において洗浄剤の開発がどのように進められ
て来たかを、代表的な洗浄剤の利用分野について考察す
ることにする。

【００２７】(1).洗浄剤の第１の利用分野として、特定
フロン対策に早くから対応してきた、電子部品の製造時
に使用される洗浄剤がある。特に、米国において、特定
フロン及び塩素化炭化水素を電子部品の製造時に使用し
た場合に、「Caution Mark」の表示義務が必要とされた
こと、及びこれら特定フロンが多量に使用されていたた
め、その低減化努力が強く望まれた。電子部品工場で
は、自動化が進んでおり、かつ、密閉、加熱、乾燥方式
が採用できるため、水系洗浄剤への変更、非フロン、非
塩素系溶剤を併用した共沸組成物の開発によるＯＤＰ対
策がなされて来た。

【００２８】(2).洗浄剤の第２の利用分野として、アパ
レルを対象としたクリーニング用洗浄剤がある。この利
用分野においても密閉式もしくは水系化により対応して
きたが、ＯＤＰ、毒性、引火性の全てを満足するものは
得られていない。

【００２９】本発明は、前記した洗浄剤の第１〜第２の
利用分野と比較して、特殊な利用分野に属するものであ
る。即ち、本発明は、洗浄剤分野において最も対応が遅
れている繊維や布帛の洗浄剤、なかでも縫製時に発生す
るミシン油の飛散による汚れ（しみ）に接触させ、輪じ
み、染色の色落ち、しわを残さず、新製品同様に仕上げ
るための高性能の洗浄用溶剤として有効なＮＰＢ系の布
帛のしみぬき用溶剤組成物を提供するものである。

【００３０】前記した縫製工業の「しみぬき」作業は、
２次洗浄、乾燥工程を設けることが不可能であるため、
洗浄用溶剤の乾燥速度が極めて重要な因子となる。ま
た、縫製工業は中小企業が多く、自動化が遅れており、
たとえ大規模工場においても、前記した「しみぬき」作
業は、目視により各しみ毎に手作業で行なうのが現状で
ある。そして、前記「しみぬき」作業を省力化するため
の「しみぬき装置」は改善されつつあるが、これまで長
い間、洗浄剤として作業環境を汚染しやすいにも拘ら
ず、特定フロンと塩素系溶剤であるトリクロロエタンに
依存してきた。前記特定フロンなどの洗浄剤は、１９９
５年以降、製造中止になっており、入手不可能な現状で
あり、このため引火性の危険を承知で石油系溶剤を併用
する等の状況にあり、当業界において安全な代替洗浄用
溶剤の開発が強く望まれている。

【００３１】いうまでもないことであるが、本発明は、
前記ニーズに答えようとするものである。以下、本発明
のＮＰＢ系の布帛のしみぬき用溶剤組成物に関する技術
的構成を詳しく説明する。

【００３２】本発明のＮＰＢ系の布帛のしみぬき用溶剤
組成物において、主たる溶剤成分となるＮＰＢは、引火
点が２５℃と極めて低いものの、発火点が４９０℃と高
く、引火性さえ効果的に抑制すれば、常用される雰囲気
においては不燃に近い難燃性物質とみなされるものであ
る。この点が本発明の着眼点になっていることはいうま
でもないことである。

【００３３】本発明のＮＰＢ系の布帛のしみぬき用溶剤
組成物は、前記ＮＰＢに対して、(i)輪じみの発生防止
能を高めるとともに非共沸系を実現するために特定の脂
肪族炭化水素、及び(ii)溶剤組成物全体を難燃化するた
めに特定の難燃化剤を配合することによって構成される
ものである。

【００３４】本発明は、前記したように、特に布帛のし
みぬき用溶剤に係るものである。本発明者は、しみぬき
用溶剤について鋭意研究した結果、前記したように、従
来から洗浄用溶剤として提案されてきた共沸系組成物
は、輪じみの発生原因となりやすいことをつきとめた。
輪じみの発生原理及び抑制作用の詳細は不明であるが、
単一溶剤等沸点が一定であると使用雰囲気下において一
定の蒸散速度を示すようになり、このことは共沸系組成
物においても同様のことが考えられる。

【００３５】従って、布帛にしみぬき用溶剤を含ませる
と、溶剤が汚れを溶かしつつ全面に広がり、汚れはうす
められて目立たなくなる。しかしながら、単一溶剤系の
しみぬき用溶剤を用いると、蒸発速度が一定であるた
め、溶剤で湿潤された布帛の表面から一定速度で均質に
溶剤が蒸散して汚れが再び濃縮され、残存汚点となる。
なお、実際のしみぬき作業においては、汚れに対して多
量のしみぬき用溶剤を用いるため、汚点は目立たなくな
る。この時のしみぬき用溶剤の乾燥状態を観察すると、
布帛面に拡がった溶剤は、初期にはしみぬき用溶剤を接
触させた中心部に多く存在し、周辺部は少なくなってい
る。特に、近年においては、しみぬき用溶剤を布帛表面
から噴射すると同時に、布帛裏面から吸引して過剰の溶
剤を回収するというしみぬき手法の利用が多くなってき
ており、噴射ガンと接触する汚点部分は、常に新しいし
みぬき用溶剤と接触して汚れの濃度が小さくなる。逆
に、周辺部においては、初期拡散の汚れは、中央部から
供給された汚れの少ない溶剤により希釈されてうすめら
れることになる。

【００３６】溶剤の沸点（蒸発速度）が一定であると、
中央部と周辺部は同一速度で蒸発するが、中央部の溶剤
による湿潤度（布帛への溶剤の含浸量）が大きいため、
湿潤度の小さい周辺部に汚れ残分を含んだ溶剤が補給さ
れ、最終的に乾燥した時には外周部（周辺部）に汚れ成
分が多く残り、輪じみになるものと考えられる。

【００３７】他方、複数の沸点からなる混合溶剤組成物
においては、一部共沸現象が認められるものの、複雑な
蒸発系となりやすいものである。従って、溶剤で湿潤さ
れた周辺部は、拡散により溶剤が供給されるが、拡散途
中で低沸点成分が蒸散しやすく、高沸点成分が残りやす
くなり、乾燥が遅れて湿潤状態が長く続くことになる。
このことは、中央部からの溶剤の拡散に対する抵抗とな
り、希釈された汚れ成分も溶剤の移動の抑制により補給
されなくなり、汚れが均質になりやすくなると推定され
る。

【００３８】しかも、しみぬき作業は汚点を取り除くの
が目的であるため、噴射作業は汚点中心部の一ケ所に限
定されず、汚点を中心に円形に移動して噴射がなされる
ため、布帛の湿潤部分の面積は大きくなる（この点は、
単一溶剤組成物においても同じである。）かつ、混合溶
剤系においては、汚れ成分が更に均一化されるため、輪
じみの発生が更に効果的に抑制されると考えられる。

【００３９】従って、本発明のＮＰＢ系の布帛のしみぬ
き用溶剤組成物は、ＮＰＢの洗浄効果を高める補助的成
分として、沸点成分の調整が容易な脂肪族炭化水素（Ｌ
ＡＣＨ）を必須成分とするものである。本発明におい
て、前記ＬＡＣＨの沸点を５０〜１１０℃とした理由
は、ＮＰＢの沸点が７１℃であり、後述する難燃化剤と
して有利な物質であるＨＣＦＣの沸点が２７℃〜８１℃
であることと関連している。

【００４０】ＬＡＣＨの沸点が５０℃以下のものは、一
般に引火点が低く、可燃物質となりやすく、この沸点領
域は３０℃前後の沸点を示すＨＣＦＣで代用可能であ
り、また沸点が低すぎると揮発性が高くなり、汚点を溶
解、拡散する力が不足するためである。逆に、１１０℃
以上の沸点を示すＬＡＣＨでは、蒸散しにくく、従っ
て、布帛がいつまでも湿潤して汚点が残りやすくなり、
強制乾燥等が必要になるためである。しかしながら、本
発明において、前記ＬＡＣＨの沸点は、厳密に５０℃〜
１１０℃に限定されるものではなく、しみぬき用溶剤組
成物の全体に対して５重量％程度以内、あるいはＬＡＣ
Ｈに対して１５重量％程度以内であれば、沸点が５０℃
以下、または１１０℃以上の他の溶剤成分を含んでいて
も乾燥性に悪い影響を与えないため、これら他の溶剤成
分を利用することが可能である。

【００４１】本発明の前記ＬＡＣＨは、脂肪族炭化水素
の１種または２種以上の混合物で構成されるものであ
り、炭素数６〜９程度の炭化水素群が一般に用いられ
る。前記ＬＡＣＨの代表的なものとして、ｎ−ヘキサン
（Ｂ.Ｐ,６９℃。以下同じ）、イソヘキサン（６０〜６
４℃）、ｎ−ヘプタン（９８℃）、イソオクタン（９９
℃）、等のパラフィン系及びシクロヘキサン（８０
℃）、メチルシクロヘキサン（１０１℃）、エチルシク
ロペンタン（１０３℃）等のナフテン系化合物が例示さ
れる。

【００４２】本発明の前記ＬＡＣＨは、前記した単一化
合物の一種または二種以上の混合物に限らず、一般に流
通している混合溶剤、例えば、石油ベンジン（５０〜９
０℃）、リグロイン（７５〜１２０℃）、イプゾール
（出光社製，５５〜１００℃）、イプゾールＨ（出光社
製，８７〜１１０℃）などであっても良い。

【００４３】本発明において、ＮＰＢ成分に対する他の
溶剤成分を脂肪族炭化水素に限定したのは、環境及び衛
生安全性に基づく理由によるものでる。また、本発明に
おいて、前記したようにしみぬき用溶剤組成物の全体に
対して５重量％程度、あるいはＬＡＣＨに対して１５重
量％程度以内の範囲で芳香族炭化水素が含まれるもの
も、本発明のＬＡＣＨとして利用することができる。前
記した芳香族炭化水素が含まれるものの利用は経済的で
ある。即ち、一般に石油製品は蒸留品で流通するため、
単一化合物は、一般に高価となる。また、蒸留段階で芳
香族成分を完全に除去したものも高価になり、しかも芳
香族成分は、一般に布帛の汚れを溶解しやすいものが多
いため、一般に芳香俗炭化水素をそのまま利用するほう
が便利である。

【００４４】次に、本発明の前記混合溶剤成分（ＮＰＢ
及び脂肪族炭化水素）に配合される特定の難燃化剤につ
いて説明する。本発明において、「難燃性」とは、「Ｊ
ＩＳＫ−２２６５」に基づくタグ密閉式引火点測定試
験法により、「引火点」を示さない性質をいう。前記試
験法においては、８０℃以上の引火性物質の測定は困難
であるため、「引火点なし」として表示されることがあ
る。従って、本発明の難燃性物質あるいは難燃化剤は、
実質上、８０℃以上の引火点を有する難燃性または不燃
性物質により構成されるものである。なお、消防法の危
険物の定義によると、引火点が７１℃以上のものは危険
度の低い第三石油類に分類されており、これらの危険物
は、特殊な環境以外においては７０℃以下の雰囲気下で
使用されなければならないものである。

【００４５】本発明のＮＰＢ系布帛のしみぬき用溶剤組
成物において、前記難燃化剤は、沸点が３０℃以上、か
つ１３０℃以下であるとともに、引火点を示さないもの
が好適に使用される。

【００４６】また、本発明は、難燃性の改善を図るとと
もに、環境面からの社会的ニーズを満たすために、具体
的にはオゾン破壊係数（ＯＤＰ）の低減化を図るため
に、溶剤組成物全体のＯＤＰ値を０．１以下、好ましく
は０．０５以下にすることを目標としている。このた
め、前記難燃化剤は、前記したＯＤＰ値を達成するよう
に、その種類及び配合量が決定されるべきである。前記
難燃化剤のＯＤＰ値から見た選択は、難燃化効果、即ち
配合量により制限されるが、一応の目安として、ＮＰＢ
のＯＤＰ値が０．００６であるので、難燃化剤として
０．３以下、好ましくは０．１以下のＯＤＰ値を有する
ものが好適に使用される。

【００４７】本発明において、前記難燃化剤の沸点を３
０℃以上、１３０℃以下とした理由は、ＮＰＢの引火点
が２５℃であるため、２５℃付近でＮＰＢの蒸気を難燃
化する程度に気化することが必要であり、また、蒸気圧
にもよるが５０℃付近の沸点のものが有効に作用するこ
とが好ましいためである。一方、沸点が３０℃以下であ
ると夏期等の高温時に気化が激しく、ＮＰＢと共沸する
ことがなく難燃化剤が先に蒸散して難燃効果が消失しや
すく、更に密閉容器での貯蔵時に内圧が上昇して危険で
あるためである。

【００４８】また、難燃化剤の沸点を１３０℃以下にし
た理由は、ＬＡＣＨがその沸点からみて１１０℃の温度
領域に対応することができるためであり、また１３０℃
以上では乾燥が遅く作業性に問題となり、かつ輪じみの
原因にもなりやすいためである。

【００４９】本発明において、輪じみ防止の観点から、
高沸点サイドの難燃化剤及びその多量の使用は避けるべ
きである。また、本発明において、沸点の低い難燃化剤
のみでの難燃化処方では、先に低沸点の難燃化剤が揮発
してしまうため、難燃化剤の沸点の共なる成分を２種共
用するのが好ましい。

【００５０】前記性質を有する難燃化剤としては、例え
ば、代替フロンに属する物質であるＨＣＦＣ（Hydro Ch
loro Fluoro Corbon）及びフルオロアルコール類が有用
である。前記ＨＣＦＣ及びフルオロアルコール類の具体
例を下記の表１に示す。

【００５１】

【表１】

【００５２】難燃化剤として、代替フロンに属するＨＦ
Ｃ（Hydro Fluoro Carbon）はＯＤＰは０（ゼロ）のも
のが多いため、有力候補であるが、現在開発されている
ＨＦＣは沸点が０℃以下のものしかなく、本発明には適
さないものである。また、ＨＦＣは、平成９年京都で開
催された環境問題国際会議で廃絶対象物質に指定された
ものもあり、今後開発されるＨＦＣにおいて、前記した
特性を満たすものは、本発明の難燃化剤として有用なも
のとなる。

【００５３】本発明において、難燃化剤は、前記表１に
示した５種の化合物のものに限定されない。即ち、難燃
化剤として、前記した沸点、引火点及びＯＤＰ値を有す
る他の化合物を使用できることはいうまでもないことで
ある。本発明において、前記表１に示される５種の難燃
化剤は、これらを単独もしくは２種以上の混合物として
使用することができる。なお前記５種の難燃化剤のう
ち、最も入手可能なものはＨＣＦＣ１４１ｂである。

【００５４】本発明の難燃化剤において、ＨＣＦＣは極
めて有用なものであるが、いずれも沸点が１００℃以下
のものが多く、９０℃以上の沸点を示すＬＡＣＨには対
応しにくい。なお、９０℃以上の沸点を示すＬＡＣＨの
中には、比較的高い引火点を示すものもあるが、いずれ
も７０℃以下の引火点の第二石油類に分類されている。
従って、高温でも抑止力のある難燃化剤を併用すること
が有効であり、このような難燃化剤として、トリクロロ
エチレン（Ｂ.Ｐ,８７℃）、テトラクロロエチレン（パ
ークレン、１２１℃）などは有効なものである。

【００５５】同様な観点から、低い沸点を有するＬＡＣ
Ｈに対応するための難燃化剤をデザインしておくことも
重要である。この種の低温対応用の難燃化剤として、メ
チレンクロライド（４０℃）などの塩素系難燃化剤を併
用することは有効である。但し、これらの塩素系難燃化
剤は、ＨＣＦＣに比べて環境負荷が大きいため、環境、
衛生面から使用量は極力制限すべきであり、しみぬき用
溶剤組成物中、５重量％以下が好ましい。

【００５６】本発明の第一（請求項１）の発明のＮＰＢ
系布帛のしみぬき用溶剤組成物は、前記ＮＰＢ成分と沸
点５０℃〜１１０℃のＬＡＣＨ成分との混合溶剤成分
と、前記した単独系もしくは複合系の難燃化剤成分とを
混合することにより調製される。本発明において、難燃
化剤の混合割合の下限値は、難燃化剤の種類にもよる
が、「重量％」表示（以下、同じ。）で２０％以上、好
ましくは３０％以上で難燃化効果を得ることができる。
本発明において、難燃化剤の混合割合の上限値は、所望
に設定すればよい。一般的な上限値の目安としては、難
燃化剤の比重が大きいこと、油類の溶解性を示すカウリ
ブタノール（ＫＢ値、Kauri Butanol value）がＮＰＢ
の１２５に対して５０以下のものが多く、洗浄効果が小
さいこと、かつ高価であること、などを総合評価して上
限値を７０％以下好ましくは６０％以下に設定すればよ
い。

【００５７】前記したことから、本発明において、難燃
化剤の混合割合は、３０〜６０％が好ましいものであ
る。本発明の第一（請求項１）の発明のＮＰＢ、ＬＡＣ
Ｈ系布帛のしみぬき用溶剤組成物において、前記難燃化
剤の混合割合の上限値及び下限値は、溶剤組成物全体が
引火点を示さないように設定されることはいうまでもな
いことである。この点は、後述する第二（請求項２）の
発明のＮＰＢ、ＬＡＣＨ、低級脂肪族アルコール系布帛
のしみぬき用溶剤組成物においても同じである。

【００５８】前記した本発明の第一（請求項１）の発明
のＮＰＢ、ＬＡＣＨ及び難燃化剤から成るしみぬき用溶
剤の特異性について、以下に説明する。 (1).まず、ＮＰＢとトリクロロエタン（Ｃ₂Ｈ₃Cl₃；Ｔ
ＣＥ）の洗浄力を評価した。なお、洗浄力の評価は、布
帛に付着したミシンのギアオイル（出願人社製、ＡＴＦ
オイル。ピンク色）によるしみに対するしみ抜き効果に
より評価した。本発明のしみぬき用溶剤の主成分である
ＮＰＢ、及び当業界においてしみぬき用溶剤として主力
であるＴＣＥの特性を下記表２に示す。

【００５９】

【表２】

【００６０】ＮＰＢとＴＣＥの洗浄力評価において、Ｎ
ＰＢはＴＣＥより約１０％ほど良い結果を示す。次に、
ＮＰＢ及び難燃化剤（ＨＣＦＣ１４１ｂ）（＝６５wt
％：３５wt％）からなるしみぬき用溶剤の洗浄力を評価
した。特記すべき点は、前記しみぬき用溶剤は、ＮＰＢ
の単独系よりも、更に１０％以上優れた洗浄力を示し
た。

【００６１】前記した顕著な作用効果の発現理由は不明
であるが、本発明者らは、ＨＣＦＣ１４１ｂの表面張力
が２１．８（ｍＮ／ｍ）とＮＰＢより小さいために、浸
透性を改善すること、また、一般的に溶解性や洗浄性を
考えるとき、溶解力の大きいものの方が洗浄効果が大き
いはずであるが、真溶剤のみの系では汚れが拡散しやす
くなり、これに溶解力が小さい希釈剤を併用すると汚れ
を離脱しやすくし、洗浄効果を高める、と推察してい
る。なお、ＨＣＦＣ１４１ｂの配合により、ＮＰＢの
難燃化が図られるとともに、洗浄力が改善されることは
いうまでもないことである。

【００６２】次に、本発明の第一（請求項１）の発明の
ＮＰＢとＬＡＣＨ（シクロヘキサン，Ｂ.Ｐ,８０℃）及
び難燃化剤（ＨＣＦＣ１４１ｂ）（５５wt％，１０wt
％，３５wt％）からなるしみぬき用溶剤の洗浄力を評価
した。洗浄力は、ＮＰＢ／ＨＣＦＣ２成分系より若干悪
くなったが、ＮＰＢの単独系よりも優れ、かつ引火性は
認められなかった。なお、前記しみぬき用溶剤におい
て、特記すべき点は、ＮＰＢの単独系と比較して優れた
輪じみの抑制効果が認められた点である。

【００６３】次に、本発明の第二（請求項２）の発明の
ＮＰＢ系しみぬき用溶剤組成物について説明する。本発
明の第二（請求項２）の発明のＮＰＢ系しみぬき用溶剤
組成物は、前記第一（請求項１）の発明の組成物に対し
て低級脂肪族アルコールを併用した点に特徴点がある。

【００６４】本発明の第二（請求項２）の発明のＮＰＢ
系しみぬき用溶剤組成物において、低級脂肪族アルコー
ルを使用する目的は、浸透力の改善、及び汚れ成分中の
油成分以外の極性物質の除去を助けるためである。本発
明において、前記低級脂肪族アルコールとして、炭素数
が３以下のアルコールが好ましく、具体的には、メチル
アルコール、エチルアルコール、（ｎ−，ｉｓｏ−）プ
ロピルアルコールを単独もしくは２種以上を使用するこ
とができる。前記したアルコールのうち、労働衛生面か
らエチルアルコールが最も適しており、次いでイソプロ
ピルアルコールが好ましいものである。本発明におい
て、前記低級脂肪族アルコールの配合割合は、所望に設
定すればよいが、５重量％以内が好ましい値である。

【００６５】本発明において、低級脂肪族アルコールの
炭素数が３以下のものが好ましいとした理由は、炭素数
が４以上のアルコールでは沸点が高くなること、輪じみ
が発生しやすくなる傾向にあること、また臭気が強くな
ること、親油性が大きくなること、ＬＡＣＨ成分と特化
できないこと、など併用効果が乏しいためである。本発
明の第二（請求項２）の発明において、低級脂肪族アル
コールの配合割合が５重量％以下が好ましいとした理由
は、これらのアルコールはいずれも引火点が低く、多用
すると難燃化剤も多用せざるを得なくなり、非経済であ
ること、更に重要な点は、ＬＡＣＨ成分の配合割合が小
さくなってしまい輪じみ抑制効果が劣るものになるため
である。本発明の第二（請求項２）の発明のしみぬき用
溶剤、具体的には、ＮＰＢ／ＬＡＣＨ／ＨＣＦＣ１４
１ｂ／ＥｔＯＨ＝５５／１５／２５／５の組成物は、前
記ＡＴＦオイルによるしみに対するしみ抜き効果におい
て、ＮＰＢの単独系とほぼ同等の効果を得ることができ
る。

【００６６】本発明のＮＰＢ系布帛のしみぬき用溶剤組
成物において、ＮＰＢに対する公知の安定剤、防錆剤、
浸透剤、あるいは界面活性剤などの他の配合成分は、併
用されてもよいものである。また、本発明において、難
燃性を阻害しない範囲でこの種の洗浄剤に使用されてい
るエーテル、エステル、ケトン、炭化水素、あるいはア
ルコール類などは、併用されてもよいものである。

【００６７】本発明は、優れた洗浄力を有し、かつ環境
や労働安全性を重視した難燃性の布帛のしみぬき用溶剤
に係るものであるが、本発明に係るしみぬき用溶剤の基
本組成は、他のしみぬき用溶剤の希釈剤として利用され
てもよいものである。即ち、本発明の基本組成は、環境
汚染の観点から規制対象となっている塩素系溶剤の使用
量の低減化のために、これら塩素系溶剤の希釈剤として
利用されてもよいものである。

【００６８】本発明の前記したＮＰＢ系の布帛のしみぬ
き用溶剤組成物は、高度な洗浄力が要求され、かつ洗浄
用溶剤に由来する輪じみや染色の色落ちなどの防止が強
く要求される布帛製品のしみ抜き剤として特に有用なも
のである。なお、本発明において、布帛とは繊維を含む
ような広義に解釈されるべきである。本発明のＮＰＢ系
の布帛のしみぬき用溶剤組成物を繊維、布帛（織物地、
編物地、不織地）の製造、縫製加工、及び通常の使用や
着用の際に発生する油類、汚点などのしみ抜きに利用す
るには、通常、以下の方法を採用すればよい。

【００６９】(1).汚点部分に裏当材料を配置し、溶剤に
より汚点を裏当て材料に吸収させる裏当法。 (2).汚点部分を溶剤溶液中に浸漬し、汚染物質を溶剤溶
液中へ溶出させる浸漬法。 (3).溶剤をスプレーガンに充填し、そのノズルから布帛
類の汚点部分に溶剤を噴射して汚染物質を吹き飛ばすス
プレーガン噴射法。

【００７０】

【実施例】以下、本発明を実施例により更に詳しく説明
する。

【００７１】（試験例）まず、本発明のＮＰＢ系布帛の
しみぬき用溶剤組成物において、引火点を示さない溶剤
組成物を得るためのＮＰＢと難燃化剤の混合割合につい
て試験した。即ち、ＮＰＢに各種の難燃化剤を混合し、
ＪＩＳＫ−２２６５タグ密閉式引火点測定試験法に
基づいて引火性を測定し、引火点を示さない混合割合を
求めた。難燃化剤の種類と引火点を示さない添加量の関
係は、下記表３の通りである。

【００７２】

【表３】

【００７３】前記表３は、ＮＰＢと難燃化剤の二成分系
でのデータある。次に、ＮＰＢ、ＬＡＣＨ、及び難燃化
剤の三成分系について考察した。前記ＮＰＢとＬＡＣＨ
は、ともに引火点を示すものであり、ＮＰＢ単独系の引
火点と所定の配合割合でＬＡＣＨを配合したＮＰＢ／Ｌ
ＡＣＨ混合系溶剤の引火点は相違する。実験の結果、沸
点５０℃〜１１０℃のＬＡＣＨの添加量が３０wt％以下
であれば、ＬＡＣＨと難燃化剤の種類にもよるが、３５
wt％〜６０wt％の難燃化剤の併用により引火点を示さな
くなることが判明した。また、５％以内の範囲でＨＣＦ
Ｃの一部を塩素系難燃化剤で置き換えることにより、引
火性の抑止力が増大することが判明した。

【００７４】更に、本発明のＮＰＢ、ＬＡＣＨ及び難燃
化剤から成る布帛のしみぬき用溶剤組成物において、Ｌ
ＡＣＨの一部を炭素数が３以下の低級脂肪族アルコール
を５％以内の範囲で置き換えても、難燃化剤の効果は低
下せず、難燃性に優れたしみぬき用溶剤組成物が得られ
ることも判明した。

【００７５】（実施例１） (1).白色のポリエステル織物地にミシンのギアオイル
（出願人社製ＡＴＦオイル。ピンク色）を直径３ｍｍの
円形状に付着させ、桃色の円形汚点を形成した。なお、
前記無色のＡＴＦオイルは、縫製時に付着した汚点が判
別しにくく、気付かずに放置すると紫外線などで変色
し、製品出荷後に問題となるため、着色された状態で使
用されている。 (2).次に、前記汚点の下側に三枚の濾紙を配置し、汚点
部を下記表４に示す各種の洗浄剤を含浸させた綿棒でこ
すり、汚点の消失効果を試験した。試験結果を表４に示
す。なお、評価基準として、使用規制の対象になってい
るトリクロロエタン（ＴＣＥ）の消失効果を「７点」と
し、基準値とした。

【００７６】

【表４】

【００７７】前記実施例１の各種の洗浄剤（しみぬき用
溶剤）の評価は、次の通りである（表４参照）。 (1).汚点の残り具合において、本発明の組成物は、全て
ＴＣＥと同等以上であった。 (2).ＬＡＣＨ、難燃化剤のそれぞれの単独系では、洗浄
力が不足していた。 (3).難燃化剤（ＨＣＦＣ１４１ｂ）は、沸点が低いた
め、輪じみはできにくかった。 (4).本発明の組成物は、洗浄力、輪じみの抑制の面にお
いてともに改善することができる。 (5).ＮＰＢ及びＬＡＣＨの単独系以外は、引火点を示さ
なかった。

【００７８】（実施例２）実施例１と同法で汚点を作成
した。次いで、電動式スプレーガンにより実施例１で使
用した洗浄用溶剤組成物を約５秒間汚染部分に噴射し、
汚染部分を吹き飛ばす試験を行なった。

【００７９】前記スプレーガン噴射試験の結果は、次の
通りである。 (1).メチルシクロヘキサン（ＭＣＨ）単独のものは、５
秒間の噴射を２回行なったとき、わずかに汚点が残っ
た。 (2).ＨＣＦＣ１４１ｂ単独のものは、５秒間の噴射を
３回行なったとき、わずかに汚点が残った。 (3).ＮＰＢ単独のものは、１回の噴射で汚点が消失し、
ＴＣＥ単独よりもきれいであった。 (4).ＮＰＢ／ＭＣＨ／ＨＣＦＣ１４１ｂの配合割合
が、４５／１５／４０；５０／１０／４０／；５５／５
／４０のものは、いずれも洗浄力は、ＴＣＥと同等以上
であった。 (5).ＮＰＢ、ＭＣＨのそれぞれの単独系では、いずれも
輪じみが発生した。また、ＮＢＰ、ＭＣＨの単独系以外
のものは、噴射停止後２分以内に乾燥したとき、輪じ
み、しわ等が認められなかった。

【００８０】同種の汚点について、１回の噴射条件を５
秒間とし、これを１０回以上繰返すしみぬき作業を行な
った結果、ＮＰＢ単独系では５％（２０回に１回）程
度、ＴＣＥ単独系では７．６％、ＮＰＢ／ＨＣＦＣ１
４１ｂ＝６０／４０では８．１％、ＮＰＢ／ＭＣＨ／Ｈ
ＣＦＣ１４１ｂ系では４５／１５／４０が７．１％、
５０／１０／４０が７．２％、５５／５／４０が７．５
％の割合でごくわずかではあるが輪じみの発生が認めら
れた。但し、これらはいずれも実用上、問題にならない
範囲のものであった。なお、本法の評価法による場合で
も、実施例１の評価点とほぼ同じ結果が得られた。

【００８１】（実施例３）実施例２において、ＮＰＢの
使用量のうち５wt％をエチルアルコール（ＥＯＨ）に変
更（単独系については、その成分の５wt％をＥＯＨに変
更）した以外は、同法で行なった結果を下記表５に示
す。

【００８２】

【表５】

【００８３】前記実施例３の各種の洗浄剤（しみぬき用
溶剤）の評価は、次の通りである（表５参照）。 (1).難燃化剤またはＴＣＥを用いたものは、全て引火点
を示さず難燃性であり、また、ＥＯＨ成分を配合するこ
とにより臭気がまろやかになった。 (2).ＮＰＢ／ＬＡＣＨ／ＥＯＨ／難燃化剤を用いた４成
分系のものは、しみぬき効果及び輪じみの抑制効果が改
善された。 (3).ＥＯＨの併用効果であるしみぬき効果の改善につい
ては、親水性を付与することにより、極性汚染成分の溶
解力が高められるためであると考えられる。また、輪じ
みの抑制効果の改善については、表面張力の低下により
汚染成分の拡散が高められるためであると考えられる。

【００８４】（実施例４）実施例２において、難燃化剤
のＨＣＦＣ１４１ｂの１部をトリクロロエチレン（ト
リクレン、ＴＣ）に変更した以外は、同法で行なった結
果を下記表６に示す。

【００８５】

【表６】

【００８６】表６において、臭気の欄の（×）は刺激臭
の強いもの、（○）はほとんど感じないもの、（△）
は、わずかに認められるもの、をそれぞれに示す。ま
た、引火性の欄の（○）は引火点を示さないものを示
す。なお、評価点は、全て実施例２の評価法に基づいて
行なった。

【００８７】表６に示されるように、ＴＣ（トリクロル
エチレン）の併用は、汚染成分の溶解、輪じみの抑制に
は効果的であるが、５％を超える使用量のもとにおいて
は、刺激臭が強くなり、かつ作業環境衛生上問題となる
ため、その使用量は５％未満が好ましい。

【００８８】（実施例５）実施例３において、実施例４
と同様に難燃化剤の一部をテトラクロルエチレン（パー
クロロエチレン、ＰＣ）に変更した以外は、実施例４と
同法で行なった結果を下記表７に示す。

【００８９】

【表７】

【００９０】表７において、ＰＣを５％混合したもの
は、ＥＯＨで若干、臭気が調和されるものの、刺激臭が
わずかに感じられた。表７に示されるように、ＮＰＢ、
ＬＡＣＨ（メチルシクロヘキサン）、ＨＣＦＣ１４１
ｂ系にＥＯＨ、ＰＣを併用した場合、しみぬき効果及び
輪じみの抑制効果に改善がみられる。

【００９１】（実施例５〜１８／比較例１〜４）各種の
しみぬき用溶剤を調製して行なった他の実施例５〜１８
及び比較例１〜４の結果を下記表８に示す。表８におい
て、各実施例及び比較例の上段は成分の種類、下段の数
値はwt％値を示す。また、評価は実施例２と同様、１回
の噴射条件を５秒間とし、これを１０回以上繰返す試験
での汚点、輪じみの発生状態をＴＣＥ（トリクロロエタ
ン）と比較して、配合割合、濃度等をもとに評価した。

【００９２】表８中の各成分の略号は、以下のものを示
す。なお、参考のために、（）内にＢ.Ｐ（沸点）を
示す。・ＮＰＢ１−ブロモプロパン（ｎ−プロピルブロマイド）（７１℃）・ｎＨＮｎヘキサン（６９℃）・ｎＨＰｎヘプタン（９８℃）・ＣＨＮシクロヘキサン（８０℃）・ＥＣＨエチルシクロヘキサン（１０３℃）・ＬＧＲリグロイン（７５〜１２０℃）・ＩＰＨイプゾールＨ（出光社製）（８７〜１１０℃）・ｉＨＮイソヘキサン（６０〜６４℃）・ｉＯＮイソオクタン（９９℃）・ＭＣＨメチルシクロヘキサン（１０１℃）・ＰＢ石油ベンジン（５０〜９０℃）・ＩＰイプゾール（出光社製）（５５〜１００℃）・ＨＣＦＣ１２３（２７．５℃）、１４１ｂ（３２℃）、２２５ｂ（５６℃）、５ＦＰ（８１℃）・ＥＯＨエチルアルコール（７８℃）・ＮＰＡｎ−プロピルアルコール（９７℃）・ＩＰＡイソプロピルアルコール（８２℃）・ＰＣパークレン（１２１℃）・ＴＣトリクレン（８７℃）・ＭＣ塩化メチレン（４０℃）

【００９３】

【表８】

【００９４】

【発明の効果】本発明は、引火性かつ可燃性の１−ブロ
モプロパン（ｎ−ブロモプロパン、ＮＰＢ）を主要な溶
剤成分としつつ、これに特定の脂肪族炭化水素及び特定
の難燃化剤成分を配合することにより、更には低級脂肪
族アルコールを配合することにより、洗浄力や安全性は
もとより、しみぬき効果や輪じみの発生防止能に優れた
ＮＢＰ系の布帛のしみぬき用溶剤組成物を提供するもの
である。本発明は、引火性かつ可燃性のＮＰＢを主要な
溶剤成分とするものの、難燃性で洗浄力や安全性に優
れ、特に、布帛作業において高度のしみぬき効果と輪じ
みの発生防止能が要求されているしみぬき用の溶剤組成
物を提供するものである。

【００９５】本発明のＮＰＢ系の布帛のしみぬき用溶剤
組成物は、難燃性で安全であり、環境（オゾン層の保
護）や作業環境にやさしく、かつしみぬき効果に優れる
とともに輪じみの発生を高度に抑制ないし防止すること
ができる。また、本発明のＮＰＢ系の布帛のしみぬき用
溶剤組成物は、共沸組成等の配合組成を気にせずに、種
々の沸点成分のものを所望に利用することができるた
め、調合が容易であるという利点も享受することができ
る。

───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.⁶ 識別記号ＦＩ // Ｄ０６Ｆ 43/00 Ｄ０６Ｆ 43/00 Ｚ (58)調査した分野(Int.Cl.⁶，ＤＢ名) C11D 7/50 C11D 7/24 C11D 7/28 C11D 3/43 - 3/44 D06L 3/00 ＣＡ（ＳＴＮ)

Claims

(57)【特許請求の範囲】

【請求項１】布帛のしみぬき用に使用される布帛のし
みぬき用溶剤組成物が、 (1).１−ブロモプロパン（ｎ−プロピルブロマイド）と
沸点が５０〜１１０℃の脂肪族炭化水素とから成る混合
溶剤成分、及び、 (2).沸点が３０℃以上〜１３０℃以下であるとともに、
引火点を示さない難燃化剤であって、溶剤組成物全体が
引火点を示さない割合に配合される難燃化剤、とから成ることを特徴とする布帛のしみぬき用溶剤組成
物。
【請求項２】布帛のしみぬき用に使用される布帛のし
みぬき用溶剤組成物が、 (1).１−ブロモプロパン（ｎ−プロピルブロマイド）、
沸点が５０〜１１０℃の脂肪族炭化水素、及び低級脂肪
族アルコールとから成る混合溶剤成分、及び、 (2).沸点が３０℃以上〜１３０℃以下であるとともに、
引火点を示さない難燃化剤であって、溶剤組成物全体が
引火点を示さない割合に配合される難燃化剤、とから成
ることを特徴とする布帛のしみぬき用溶剤組成物。
【請求項３】脂肪族炭化水素が、１−ブロモプロパン
の沸点と相違した沸点を有するとともに共沸系を形成し
にくいもので構成されたものである請求項１または２に
記載の布帛のしみぬき用溶剤組成物。
【請求項４】難燃化剤が、塩素、フッ化炭化水素化合
物（ＨＣＦＣ）から選ばれた１種又は２種以上の化合物
で構成されたものである請求項１または２に記載の布帛
のしみぬき用溶剤組成物。
【請求項５】難燃化剤が、ＨＣＦＣ１４１ｂ（ＣＨ₂
ＣＣｌ₂Ｆ）である請求項４に記載の布帛のしみぬき用
溶剤組成物。
【請求項６】難燃化剤が、トリクロルエチレン、テト
ラクロロエチレン、メチレンクロライドから選ばれた１
種又は２種以上の混合物であるとともに、前記難燃化剤
を５重量％未満含有する請求項１または２に記載の布帛
のしみぬき用溶剤組成物。
【請求項７】低級脂肪族アルコールが、炭素数３以下
の１種又は２種以上のアルコールで構成されたものであ
る請求項２に記載の布帛のしみぬき用溶剤組成物。
【請求項８】低級脂肪族アルコールの含有量が、５重
量％以下である請求項２に記載の布帛のしみぬき用溶剤
組成物。
【請求項９】１−ブロモプロパン ………… １０〜５５重量％、難燃化剤 ……………………… ６０〜３５重量％、脂肪族炭化水素 ……………… ３０〜５重量％、低級脂肪族アルコール ……… ０〜５重量％、から成ることを特徴とする請求項１または２に記載の布
帛のしみぬき用溶剤組成物。