JP2827388B2 - 耐食性耐酸化性材料およびその製造方法 - Google Patents

耐食性耐酸化性材料およびその製造方法

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【発明の詳細な説明】 「産業上の利用分野」 本発明は、ガスタービンを構成する部材、原子炉部
材、ジェットエンジン部材、ロケット部材、プラント部
材などに利用できる耐食性および耐酸化性に優れた材料
およびその製造方法に係り、特に、熱履歴を受ける条件
下で使用されても優れた耐食性耐酸化性を維持できる材
料とそれを得る方法に関するものである。
「従来の技術」 エネルギー、輸送(陸上、海上および航空宇宙)、素
材製造等の分野では、耐食性および耐酸化性に優れた材
料が必要とされている。
かかる用途における要求を完全に満たす材料を提供す
ることは困難であるが、一部を満足させる材料として、
基材表面に直接、耐食性、耐酸化性に優れた緻密な保護
層が形成されたものが提供されている。
従来、かかる耐食性耐酸化性材料を製造する場合に
は、化学気相成長法によって基材表面に緻密な保護層を
形成していた。
「発明が解決しようとする課題」 しかしながら、前記従来の耐食性耐酸化性材料が熱履
歴を受ける条件下で使用される場合は、基材と保護層と
の熱膨張率等の差により保護層に亀裂が入ったり保護層
が剥離するのを防ぐ為に、保護層を薄く形成せざるを得
ない。
このように、前記従来の耐食性耐酸化性材料を熱履歴
を受ける条件下で使用する場合には保護層を厚く形成で
きないため、耐食性、耐酸化性を十分向上できない不満
があった。
本発明は前記事情に鑑みて為されたもので、十分な耐
食性、耐酸化性を付与できるように保護層を厚く形成し
ても熱履歴による亀裂、剥離等が生じ難く、また例え亀
裂が生じた場合でも基材を保護できる信頼性の高い耐食
性耐酸化性材料とその製造方法を提供することを目的と
するものである。
「課題を解決するための手段」 上記目的を達成するために、本発明の耐食性耐酸化性
材料では、基材と保護層との間に使用温度では軟化しな
い多孔質な緩衝層を設けると共に、前記多孔質緩衝層の
空孔内に、使用温度で酸化されると溶融状態あるいは軟
化状態のガラスとなる物質からなる粉体(以下、充填粉
体と略記する)を充填した。
この耐食性耐酸化性材料をなす基材としては、鉄、コ
バルト、ニッケル、チタン、ジルコニウム、ハフニウ
ム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデ
ン、タングステンまたは炭素のいずれかを主成分とする
ものや、炭素繊維で強化されたものを例示できる。これ
らからなる基材は、高温下でも良好な強度を有する点で
好適である。
また保護層をなす物質としては、珪素、アルミニウ
ム、マグネシウム、クロムまたはジルコニウムの酸化
物、窒化物、炭化物あるいはホウ化物、ないしはそれら
の複合化合物等を例示できる。これらの材料は、耐食性
および耐酸化性に優れている点で望ましい。この保護層
を形成する方法としては、加熱されて前記化合物となる
ような前駆体の溶液を塗布したあと焼成する液体前駆体
塗布焼成法や化学気相成長法(CVD法)等を利用でき
る。
多孔質緩衝層をなすのに好適な物質としては、前記保
護層に付いて例示したものと同様のものを挙げることが
できる。この緩衝層は空孔率が30〜60vol%程度のもの
であることが望ましい。
この多孔質緩衝層を形成する方法としては、基材表面
に粉体化された原料を塗布したあとこれを焼成する方法
が好適である。粉体原料を塗布する方法としては、粉体
原料を有機バインダおよび分散媒と混合してスラリー状
にして塗布する方法など種々の方法を利用できる。
この多孔質緩衝層の空孔に充填される充填粉体をなす
物質、すなわち酸化されると当該材料の使用温度で溶融
状態であるいは軟化状態のガラスとなる物質としては、
珪素の炭化物や窒化物〔例えば炭化珪素(SiC)、窒化
珪素(Si3N4)〕など、酸化物ガラスを形成する元素を
含む炭化物や窒化物を例示することができる。緩衝層の
空孔に充填される充填粉体は、前記化合物のみからなる
ものであっても良いが、他の成分が混合されたものであ
っても良い。他の成分を混合すると、この充填粉体が酸
化されて生成するガラスの溶融温度を調製することがで
きる。加えてこの充填粉体は少なくとも基材の酸化腐食
が始まる温度以下で酸化されるものであれば良く、常温
で酸化されるものであっても、当該材料の使用温度下で
酸化されるものであっても良い。
この充填粉体を緩衝層の空孔に充填する方法として
は、焼成されると充填粉体に転化する前駆体の溶液を、
多孔質な緩衝層に含浸させたあと焼成処理を行う方法が
好適である。
「作用」 本発明の耐食性耐酸化性材料に設けられた緩衝層は多
孔質なので、その空孔部が縮小あるいは拡大することに
よって歪みを吸収できる。空孔部には充填粉体が充填さ
れているが、これは粉体なので互いにずれることが可能
である。よって、当該材料が温度変化を受けて、熱膨張
率の差に起因するずれが基材と保護層との間に生じる
と、多孔質な緩衝層が変形して無理なく基材−保護層間
のずれを許容する。
疲労等により保護層に割れが生じた場合は、割れた部
分から侵入した酸素によって緩衝層の空孔に充填された
充填粉体が酸化されて、当該材料の使用温度で溶融状態
あるいは軟化状態のガラスとなる物質が生成する。そし
てこの材料の使用時にはこの物質が溶融状態あるいは軟
化状態のガラスとなって空孔を閉塞して、基材の酸化お
よび腐食を防止する。またこの状態で、基材と保護層と
の間にずれが生じても、空孔を閉塞するガラスは溶融状
態あるいは軟化状態なので、緩衝層の変形が阻害される
ことがない。
この充填粉体を緩衝層の空孔に充填する方法として、
焼成によって充填粉体となる前駆体の溶液を多孔質な緩
衝層に含浸させ、ついでこれを焼成する方法を採用する
と、空孔の深部まで充填粉体を充填することができる。
「実施例」 第1図は、本発明の耐食性耐酸化性材料の一実施例を
示すものである。
この耐食性耐酸化性材料は、基材1の表面に緩衝層2
が形成され、この緩衝層2上が保護層5によって覆われ
たものである。
前記基材1は、炭素および炭化珪素からなる母材が炭
素繊維によって強化された、炭素繊維強化炭化珪素母材
複合材料によって形成されている。
前記緩衝層2は、2000℃まで安定でかつ耐食性および
耐酸化性に優れている炭化珪素によって形成されてい
る。この緩衝層2は、多孔質に形成されており、その空
孔率は40%である。またこの緩衝層2の厚さは約60μm
である。
この緩衝層2の空孔3…には、充填粉体4…が緩く充
填されている。粉体4…は、窒化珪素の微粉末、酸化マ
グネシウムの微粉末、酸化カルシウムの微粉末、酸化リ
チウムの微粉末の混合物である。この粉体4…の組成は
モル比で、窒化珪素:酸化マグネシウム:酸化カルシウ
ム:酸化リチウム=50:20:20:10であった。
保護層5は、スピネル(MgO・Al2O3)よって形成され
ている。この保護層5は前記緩衝層2と異なり、酸素分
子が通過し得ないように緻密に形成されている。この保
護層5の厚さは、約30μmである。
次にこの耐食性耐酸化性材料の製造方法を説明する。
この耐食性耐酸化性材料を製造するに当たっては、ま
ず基材1を次のように製造した。
まず太さ8μmの炭素繊維からなる織布にエポキシ樹
脂を含浸させたプリプレグを積層して加圧することによ
り、板状成形体を得た。この成形体を窒素ガス中で1200
℃まで加熱しエポキシ樹脂を熱分解・炭化させて繊維成
形体を製造した。この繊維成形体においては、その体積
の約50容積%が空隙であった。
ついでCVD法によって、水素−15%プロパンの組成の
気体原料を用いて1300℃にて30時間の処理を行ない、前
記繊維成形体中に炭化水素ガスを含浸させるとともに、
含浸した炭化水素ガスを高温下で熱化学反応を生じさ
せ、繊維成形体をなす各繊維の表面上に年輪状に炭素皮
膜を成長させ中間品を得た。この作業を、空孔率30%ま
で進んだところで中止した。
次ぎにこの中間品を、所定の溶液(液組成・テトラヒ
ドロフラン−20%ポリカーボシラン)に浸漬し、ついで
このものを乾燥して溶媒を除去し、この後、加熱処理す
ることにより中間品の空孔内に炭化珪素を生成させた。
この後この過程で再び生成される残存空孔内にさらに前
記溶液を含浸させる工程を繰り返し、最終的に開空孔率
0の緻密な基材1を得た。
つぎに平均粒径5μmの炭化珪素粉体と有機バインダ
(未硬化フェノール樹脂)とをエタノールに分散させて
スラリーを調製し、これを前記基材1にハケを用いて塗
布した。ついでこのものをアルゴンガス雰囲気下1600℃
で焼成したところ、塗布された粉体同士、および粉体と
基材1とが焼結して、基材1に強固に密着した多孔質な
緩衝層2が形成された。
ついでこの緩衝層2が形成されたものを、窒化珪素の
前駆体であるポリシラザンのテトラヒドロフラン溶液に
浸漬した。緩衝層2の空孔3に前記溶液が含浸されたも
のを取り出して、窒素雰囲気中で焼成し、空孔3…中に
窒化珪素の微粉末を生成させた。
ついで、このものを、水酸化マグネシウムと水酸化カ
ルシウムと水酸化リチウムの混合水溶液に浸漬した後、
焼成して酸化マグネシウム等からなる混合微粉末を生成
させた。
次にこのものをCVD装置内に収容し、塩化マグネシウ
ム、塩化アルミニウム、水蒸気、水素からなる原料ガス
を用いて、スピネルからなる緻密な保護層5を形成し
た。
このようにして製造された耐食性耐酸化性材料を加熱
炉に収容し、1500℃の空気雰囲気下に100時間放置し
た。このあと材料の表面を観察したところ、保護層5に
割れは全く発見できなかった。また材料の重量の減少は
全く観測されなかった。
つぎに製造した耐食性耐酸化性材料を加熱炉に収容し
て、室温1600℃の熱サイクルを50回繰り返した。この
あと材料表面を観察したところ、保護層5の割れの発生
は観察されなかった。
この熱サイクル試験を100回繰り返したところ、保護
層5の一部に長さ10μm程度の微少な亀裂が若干発生し
ていたが、材料の重量の減少は全く観察されなかった。
このものを切断して内部を観察したところ、第2図に
示すように、亀裂6…の近傍では緩衝層2の空孔3…が
ガラス7によって閉塞されていた。
この現象を本発明者は次のように考察している。すな
わち、保護層5に亀裂6…が入ると、緩衝層2の空孔3
…に充填されている充填粉体4…の窒化珪素が酸化され
て酸化珪素を生じる。この酸化珪素は酸化マグネシウム
等の他の成分と共に溶融したガラス状となり空孔3…を
閉塞する。この結果、外気が基材1に到達するのを阻止
することができ、基材1、特にその補強材としての炭素
繊維の酸化による変質が防止される。
(比較例) 基材1上に直接CVD法で保護層3を形成し、前記実施
例のものと緩衝層3を設けない点のみ異なる材料を製造
した。
このものは製造直後から表面に割れが発生していた。
またこのものを実施例と同様の熱サイクル試験に供した
ところ、割れが更に悪化した。
ついでこのものを実施例と同様に、1500℃の空気雰囲
気下に置いたところ、10時間で基材1をなす炭素の酸化
による重量減が観測された。
「発明の効果」 以上の説明で明らかなように、本発明の耐食性耐酸化
性材料は、基材と保護層との間に使用温度では軟化しな
い多孔質な緩衝層が形成されると共に、前記多孔質緩衝
層の空孔内に、酸化されると当該材料の使用温度で溶融
状態あるいは軟化状態のガラスとなる物質からなる粉体
が充填されたものなので、熱膨張率の差に起因するずれ
が基材と保護層との間で生じると、多孔質な緩衝層が空
孔の形状の変化を伴って変形し、無理なく基材−保護層
間のずれを許容する。緩衝層の空孔には充填粉体が充填
されているが、これは粉体なので互いにずれることが可
能なので、空孔部の変形の障害となることはない。
従って本発明の耐食性耐酸化性材料によれば、基材を
十分保護できる厚さに保護層を形成して材料の耐食性、
耐酸化性を十分に向上することができる。
また本発明の耐食性耐酸化性材料の使用中に保護層に
割れが生じると、割れた部分から侵入した酸素によって
緩衝層の空孔に充填された充填粉体が酸化されて、当該
材料の使用温度で溶融状態あるいは軟化状態のガラスと
なる物質が生成する。そしてこの材料を使用する際には
この物質が溶融状態あるいは軟化状態のガラスとなって
空孔を閉塞して、基材の酸化および腐食を防止する。ま
たこの状態で、基材と保護層との間にずれが生じても、
空孔を閉塞するガラスは当該材料の使用時に溶融状態あ
るいは軟化状態なので、保護層に割れが生じた状態でこ
の材料を使用した場合でも、緩衝層の変形が阻害される
ことがない。
従って本発明の耐食性耐酸化性材料は、疲労等により
保護層に亀裂が生じても、基材の腐食酸化を防止するこ
とができ、耐食性および耐酸化性に関する信頼性の高い
ものとなる。
さらに本発明の耐食性耐酸化性材料の製造方法は、多
孔質な緩衝層を形成したあと、緩衝層の空孔内に液状の
前駆体を含浸させ、ついでこれを焼成することによって
前記液状の前駆体を固体に転化させて、前記使用温度で
酸化されると溶融状態あるいは軟化状態のガラスとなる
物質からなる粉体を生成する方法なので、緩衝層の空孔
の深部まで充填粉体を充填することができる。
よって本発明によれば、金属材料、炭素系材料、非酸
化物系セラミック材料など、機械的強度、耐熱性等の点
では優れているものの、耐食性、耐酸化性が不十分であ
った材料の耐食性、耐酸化性を大幅に改善できると共に
その信頼性も向上できる。そして、これらの材料の特性
を、高温の腐食性、酸化性雰囲気下でも十分発揮させる
ことができる。
【図面の簡単な説明】
第1図は本発明の耐食性耐酸化性材料の一実施例を示す
断面図、第2図は同実施例の材料を試験したあと保護層
に亀裂が生じた部分を観察した結果を示す断面図であ
る。 1……基材、2……緩衝層、3……空孔、4……充填粉
体、5……保護層、6……亀裂、7……ガラス。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 宮原 薫 東京都江東区豊洲3丁目1番15号 石川 島播磨重工業株式会社技術研究所内 (56)参考文献 特開 昭52−121011(JP,A) 特開 昭58−84190(JP,A) 特開 平2−74668(JP,A) 特開 平2−74669(JP,A) 特開 平2−74671(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.6,DB名) B32B 1/00 - 35/00

Claims (2)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】基材の表面に、使用温度において基材より
    も耐食性耐酸化性に優れる保護層が形成されてなる耐食
    性耐酸性材料において、 前記基材と保護層との間に使用温度では軟化しない多孔
    質な緩衝層が形成されると共に、前記多孔質緩衝層の空
    孔内に、酸化されると当該材料の使用温度で溶融状態あ
    るいは軟化状態のガラスとなる物質からなる粉体が充填
    されたことを特徴とする耐食性耐酸化性材料。
  2. 【請求項2】基材の表面に、多孔質な緩衝層を形成した
    あと、緩衝層の空孔内に液状の前駆体を含浸させ、つい
    でこれを焼成することによって前記液状の前駆体を固体
    に軟化させて、前記使用温度で酸化されると溶融状態あ
    るいは軟化状態のガラスとなる物質からなる粉体を生成
    させることを特徴とする請求項1記載の耐食性耐酸化性
    材料の製造方法。
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