JP2794881B2 - 高靱性球状黒鉛鋳鉄およびその製造方法 - Google Patents

高靱性球状黒鉛鋳鉄およびその製造方法

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Description

【発明の詳細な説明】 [産業上の利用分野] 本発明は、高い靭性を有する球状黒鉛鋳鉄およびその
製造方法に関する。本発明の球状黒鉛鋳鉄は、自動車の
足回り部品などに有用である。
[従来の技術] 球状黒鉛鋳鉄においては、機械的性質の調整は熱処理
で基地組織を調整することにより行なわれている。例え
ばJISに規定されるFCD40のように軟質で伸びの大きいこ
とを望む場合は、黒鉛化焼鈍処理によってフェライト基
地とする。FCD55、FCD70のように強さを要求する場合
は、800〜900℃で焼鈍処理した後空冷してパーライト基
地とする(焼ならし)。
800〜900℃で行なわれる焼鈍および焼ならし処理は、
鋳造状態で発生したFe3Cを黒鉛化することと、鋳造状態
でのSi、Mn、Pなどの偏析を均一化するという目的をも
っており、これにより高い粘り強さが得られる。また、
パーライト基地のものを共析温度付近に一定時間保持後
空冷することにより、フェライト・パーライトの微細混
合組織の基地とし、強さ、伸び、耐衝撃性、疲れ強さを
改善することも行なわれている。
[発明が解決しようとする課題] ところでフェライト基地の球状黒鉛鋳鉄は、上記した
ように軟質で伸びが大きいので高い衝撃性を有している
が、強度が低いという不具合がある(「球状黒鉛鋳鉄の
理論と実際」、P316−317、丸善)。そこで強度を高く
しようとすると、ぜい化により延性が急激に低下し衝撃
性が低下してしまう。
またベイナイト基地の球状黒鉛鋳鉄は、強度が高いこ
とで知られている。しかしながら靭性が不十分であり、
衝撃性が低いという欠点がある(「球状黒鉛鋳鉄」、ア
グネ、P268)。
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであ
り、強度と靭性の両性能をあわせもつ球状黒鉛鋳鉄とす
ることを目的とする。
[課題を解決するための手段] すなわち本発明の球状黒鉛鋳鉄は、ベイナイト組織10
〜80体積%とフェライト組織20〜90体積%からなる基地
組織をもち、球状黒鉛の周囲に60〜95体積%のベイニテ
ィックフェライトと5〜40体積%の残留オーステナイト
からなり平均厚さ3μm以上のベイナイト組織が形成さ
れていることを特徴とする。
本発明の球状黒鉛鋳鉄を構成する元素は、従来の球状
黒鉛鋳鉄に含まれる公知の元素を使用できる。ただMo、
Ni、Mnなどを多く添加すると偏析により靭性が低下す
る。したがってC:3.3〜4.2重量%、Si:2〜3重量%、M
n:0.5重量%以下、P:0.1重量%以下、S:0.02重量%以
下、Mg:0.02〜0.07重量%、Mo:0.09重量%以下、残部実
質的にFeの組成が特に推奨される。
基地組織は、ベイナイト組織10〜80体積%と、フェラ
イト組織20〜90体積%とからなる。第6図に基地中のベ
イナイト量と衝撃値および引張り強さとの関係を示す。
第6図より明らかなように、ベイナイト量が増加するに
つれて引張り強度は向上しているが、ベイナイト量が10
〜80体積%の範囲以外では衝撃値が低下している。すな
わちベイナイト量が10体積%に満たずフェライト量が90
体積%より多くなると衝撃強度および引張り強度に不足
し、ベイナイト量が80体積%%より多くフェライト量が
20体積%より少なくなると衝撃強度が不足し靭性が低下
する。
本発明の球状黒鉛鋳鉄では、球状黒鉛の周囲にベイニ
ティックフェライトと残留オーステナイトからなるベイ
ナイト組織が平均厚さ3μm以上で形成されている。第
5図に球状黒鉛の周囲のベイナイト組織の厚さと衝撃値
との関係を示す。第5図より明らかなように、ベイナイ
ト組織の平均厚さが3μmより少ないと衝撃値が低下
し、強度と靭性のバランスが悪化する。
球状黒鉛周囲のベイナイト組織は、ベイニティックフ
ェライト60〜95体積%と、残留オーステナイト5〜40体
積%とから構成されることが望ましい。ベイニティック
フェライトが60体積%より少ないか、または残留オース
テナイトが40体積%を超えると強度が不足するようにな
り、ベイニティックフェライトが95体積%より多いか、
または残留オーステナイトが5体積%より少ない場合は
靭性が低下するようになる。
この球状黒鉛鋳鉄を製造する本発明の製造方法は、パ
ーライト組織が25体積%以下のフェライト系球状黒鉛鋳
鉄を急速に加熱し800〜1100℃で4〜180秒間保持して球
状黒鉛の周囲を含めた基地組織の10〜80体積%をオース
テナイト化し、次いでパーライト変態が生じない冷却速
度で200〜400℃に冷却しその温度で10分〜4時間保持す
ることにより球状黒鉛の周囲のオーステナイト組織をベ
イナイト変態させ、ベイナイト組織10〜80体積%とフェ
ライト組織20〜90体積%からなる基地組織とするととも
に球状黒鉛の周囲に60〜95体積%のベイニティックフェ
ライトと5〜40体積%の残留オーステナイトからなり平
均厚さ3μm以上のベイナイト組織を形成することを特
徴とする。
本発明の球状黒鉛鋳鉄を製造するための出発原料は、
パーライト組織が25体積%以下のフェライト系球状黒鉛
鋳鉄である。パーライト量が25体積%を超えると、基地
中に必要なフェライト量が得られなくなる。パーライト
組織は無くともよい。
このフェライト系球状黒鉛鋳鉄は加熱され、800〜110
0℃で保持される。これにより球状黒鉛の周囲の基地組
織を含めた10〜80体積%をオーステナイト化する。加熱
はオーステナイト化の量を所定の量とするために急速に
行なうことが望ましい。保持温度が800℃より低い場合
には、オーステナイト化が充分生じない。また保持温度
が1100℃より高くなると、オーステナイト化が早すぎて
目的の組織が得られない。この温度範囲で処理すること
により、10〜80体積%のオーステナイト組織をもつ球状
黒鉛鋳鉄が得られる。すなわち、基地組織の10〜80体積
%をオーステナイト化することにより、次のベイナイト
変態で基地組織がベイナイト10〜80体積%とフェライト
20〜90体積%の組織となる。なお、加熱保持時間は4〜
180秒程度があり、加熱温度や組成によって最適時間が
選択される。
オーステナイト化後は、パーライト変態が生じない冷
却速度で200〜400℃に急速に冷却し、その温度で10分〜
4時間保持する。保持温度が200℃より低くなるとベイ
ナイト組織が得られず脆くなり、400℃より高くなると
パーライト変態が生じて脆くかつ強度が低下する。また
保持時間がこの範囲を外れると、必要のベイナイト組織
が得られない。
[作用] すなわち本発明の球状黒鉛鋳鉄では、基地組織が所定
の範囲とされ、かつ球状黒鉛の周囲に所定組成のベイナ
イト組織が平均厚さ3μm以上で形成されている。この
ベイナイト組織によってクラックの発生・伝播が防止さ
れるため強度と靭性のバランスがとれ、フェライト基地
の球状黒鉛鋳鉄と同等の衝撃性と、高い強度とを両立す
ることができる。
[実施例] 以下、実施例により具体的に説明する。
(実施例1) C:3.8重量%、Si:2.4重量%、Mn:0.3重量%、残部実
質的にFeであり、鋳放し時の基地組織がフェライト95体
積%+パーライト5体積%の球状黒鉛鋳鉄において、15
℃/秒の昇温速度で加熱し800〜1100℃の温度領域で40
秒間保持してオーステナイト化する。
次いで21℃/秒の降温速度で375℃まで急速に冷却
し、375℃で30分保持してベイナイト変態させた。
得られた球状黒鉛鋳鉄の組織の顕微鏡写真を第1図に
示す。第1図から明らかなように、球状黒鉛の周囲に平
均厚さ10μmのベイナイト組織が形成されている。この
ベイナイト組織は、ベイニティックフェライト82体積%
+残留オーステナイト18体積%から構成されている。ま
た、基地はベイナイト69体積%+フェライト31体積%か
ら構成されている。
(実施例2) C:3.8重量%、Si:2.4重量%、Mn:0.3重量%、残部実
質的にFeの球状黒鉛鋳鉄において、まずフェライト化焼
鈍を行ないパーライト組織を無くして基地を全フェライ
トとする。次に15℃/秒の昇温速度で加熱し800〜1100
℃の温度領域で20秒間保持してオーステナイト化する。
次いで22℃/秒の降温速度で375℃まで急速に冷却
し、375℃で30分保持してベイナイト変態させた。
得られた球状黒鉛鋳鉄の組織の顕微鏡写真を第2図に
示す。第2図から明らかなように、球状黒鉛の周囲に平
均厚さ7μmのベイナイト組織が形成されている。この
ベイナイト組織は、ベイニティックフェライト78体積%
+残留オーステナイト22体積%から構成されている。ま
た、基地はベイナイト43体積%+フェライト57体積%か
ら構成されている。
(比較例1) C:3.8重量%、Si:2.4重量%、Mn:0.3重量%、残部実
質的にFeの球状黒鉛鋳鉄において、900℃のオーステナ
イト領域で1時間加熱し、次いで375℃で1時間保持す
るオーステンパ処理を施した。得られた球状黒鉛鋳鉄の
組織の顕微鏡写真を第3図に示す。この組織はベイナイ
ト基地となっている。
(比較例2) C:3.8重量%、Si:2.4重量%、Mn:0.3重量%、残部実
質的にFeの球状黒鉛鋳鉄において、フェライト化焼鈍を
行ない基地を全フェライトとした。得られた球状黒鉛鋳
鉄の組織の顕微鏡写真を第4図に示す。この組織はフェ
ライト基地となっている。
(評価) 上記した4種類の球状黒鉛鋳鉄について引張り強さと
衝撃値を測定し、結果を第1表に示す。引張り強さは引
張り試験機に供して室温での引張り強度を測定した。ま
た衝撃値は、JIS−3号試験片形状として5kgシャルピー
衝撃試験機に供し室温での衝撃値を測定した。
第1表より実施例の球状黒鉛鋳鉄は引張り強さが62kg
f/mm2以上であり、かつ衝撃値が3.2kgfm/cm2以上と、両
性能に優れている。一方ベイナイト基地の比較例1の球
状黒鉛鋳鉄では、引張り強さには極めて優れるものの衝
撃値が劣っている。また比較例2のフェライト基地の球
状黒鉛鋳鉄では、衝撃値は高い反面引張り強さに劣って
いることがわかる。
すなわち本実施例の球状黒鉛鋳鉄は、強度と靭性の両
性能を両立しているので、自動車の足回り部品用素材と
して極めて有用である。
[発明の効果] したがって本発明の球状黒鉛鋳鉄は自動車の足回り部
品など靭性が特に必要な部位に使用することができ、従
来FCD40などから形成されていた同部品の軽量化を図る
ことができる。
そして本発明の製造方法によれば、このような優れた
性能の球状黒鉛鋳鉄を安定して確実に製造することがで
きる。
【図面の簡単な説明】
第1図および第2図は、それぞれ本発明の実施例で得ら
れた球状黒鉛鋳鉄の金属組織を示す顕微鏡写真である。
第3図および第4図は、それぞれ本発明の比較例で得ら
れた球状黒鉛鋳鉄の金属組織を示す顕微鏡写真である。
第5図は球状黒鉛回りのベイナイト厚さと衝撃値との関
係を示すグラフ、第6図は基地中のベイナイト量と衝撃
値および引張り強さとの関係を示すグラフである。

Claims (2)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】ベイナイト組織10〜80体積%とフェライト
    組織20〜90体積%からなる基地組織をもち、かつ球状黒
    鉛の周囲に60〜95体積%のベイニティックフェライトと
    5〜40体積%の残留オーステナイトからなり平均厚さ3
    μm以上のベイナイト組織が形成されていることを特徴
    とする高靭性球状黒鉛鋳鉄。
  2. 【請求項2】パーライト組織が25体積%以下のフェライ
    ト系球状黒鉛鋳鉄を急速に加熱し800〜1100℃で4〜180
    秒間保持して球状黒鉛の周囲を含めた基地組織の10〜80
    体積%をオーステナイト化し、 次いでパーライト変態が生じない冷却速度で200〜400℃
    に冷却しその温度で10分〜4時間保持することにより該
    球状黒鉛の周囲のオーステナイト組織をベイナイト変態
    させ、ベイナイト組織10〜80体積%とフェライト組織20
    〜90体積%からなる基地組織とするとともに該球状黒鉛
    の周囲に60〜95体積%のベイニティックフェライトと5
    〜40体積%の残留オーステナイトからなり平均厚さ3μ
    m以上のベイナイト組織を形成することを特徴とする高
    靭性球状黒鉛鋳鉄の製造方法。
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