JP2739554B2 - 四硼酸リチウム結晶の製造方法 - Google Patents

四硼酸リチウム結晶の製造方法

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【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、四硼酸リチウム結晶の
製造方法に関し、例えば弾性表面波装置の基板材料とし
て用いる四硼酸リチウムの大口径結晶の製造に利用して
好適な技術に関する。
【0002】
【従来の技術】四硼酸リチウム単結晶は、零温度係数を
有し且つ電気機械結合係数の高い結晶方位を有するなど
の優れた特性により、近年、弾性表面波装置用の基板材
料として注目されている。
【0003】一般に、四硼酸リチウム単結晶は、四硼酸
リチウム原料の融液表面に接触させた種結晶を回転させ
ながら徐々に引き上げるチョクラルスキー法(回転引上
げ法)により育成される。育成の終了した四硼酸リチウ
ム結晶のインゴットは、融液面から切り離されて融液面
から5mm程度離れた引上炉内の上方位置に保持された状
態で室温まで冷却(炉冷)される。さらに、その炉冷の
済んだインゴットは、その外周部を円筒状に研削加工さ
れて基板(ウェハ)の切出しが可能な状態とされる。
【0004】ところで、四硼酸リチウムの結晶製造にあ
たっては、生産性等の効率上、インゴットから切り出さ
れてなる基板の面が素子等の作製に供せられる主面とな
るような面方位に長尺の結晶を育成することが望まし
い。即ち、例えば弾性表面波装置の製造においては(1
10)又は(100)面を主面とする基板が求められて
いるので、〈110〉又は〈100〉方向に種結晶を引
き上げて四硼酸リチウム結晶のインゴットを育成するこ
とが望まれている。また、弾性表面波装置の生産性を向
上させ、基板コストを低減させるため、直径3インチ以
上の大口径の基板が必要とされており、直胴部の直径が
3インチ以上のインゴットを育成することが望まれてい
る。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、直径3
インチ以上の四硼酸リチウム結晶のインゴットをチョク
ラルスキー法で〈110〉又は〈100〉方向に育成す
ると、育成直後の炉冷中、或は炉冷後の円筒研削加工時
にインゴットに2〜3個程度のクラックが発生して割れ
てしまうことがあるという問題点があった。
【0006】本発明は、このような問題点を解決するた
めになされたもので、その目的は、結晶育成直後の炉冷
中、或は炉冷後の円筒研削加工時におけるクラックの発
生を防止し、以て弾性表面波装置用の基板の製造に好適
な大口径の結晶の製造を可能ならしめる四硼酸リチウム
結晶の製造方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するた
め、本発明者は、結晶育成時及び結晶の切離し時におけ
る引上炉内の温度分布を結晶のない状態で測定したとこ
ろ、融液面からの距離が10mm未満の領域では温度勾配
が急峻になっているとの知見を得た。従って、本発明者
は、結晶育成直後の炉冷時に、インゴットの下端を融液
面から10mm以上上方の温度勾配の緩やかな所に位置さ
せることによりクラックの発生原因となる熱歪みを低減
させることができると考えた。その際、インゴットを融
液面から切り離した直後はインゴットの周囲の温度環境
が乱れていると推察されるので、切り離してから適当な
時間(例えば、15分以上)が経過した後に冷却を開始
するのが好ましいと考えられる。また、本発明者は、円
筒研削加工時のクラック発生を防ぐには、その加工前に
熱処理を行って結晶中の熱歪みを低減させておくことが
有効であると考えた。
【0008】本発明は、以上の知見等に基づきなされた
もので、四硼酸リチウム原料の融液から育成された四硼
酸リチウム結晶のインゴットを、該インゴットの外周部
を研削加工する前に、800℃以上917℃未満の温度
で1時間以上保持した後、50℃/時以下の冷却速度で
冷却して熱処理することを提案するものである。
【0009】ここで、上記熱処理において、熱処理温度
が800℃以上917℃未満であるのは、以下の理由に
よる。即ち、熱処理によって結晶中の熱歪みを低減させ
るにはなるべく高い温度で熱処理を行うのが好ましい
が、上記下限値未満の温度では熱歪みを有効に低減させ
るには低すぎ、一方、上記上限値が四硼酸リチウム結晶
の融点であるためその上限値を超えると融解してしまう
からである。なお、その熱処理温度は好ましくは820
℃〜880℃であり、その理由は、本発明者がこの温度
範囲内の臨界温度に近い温度で熱処理を行ったところ良
好な結果が得られたからである。
【0010】上記熱処理における保持時間が1時間以上
であるのは、熱歪みを有効に低減させるには少なくとも
その程度の時間を要するからである。なお、その保持時
間は好ましくは3時間以上であり、その理由は、本発明
者の行った実験によれば3時間以上保持することにより
熱歪みが著しく低減されたからである。
【0011】上記熱処理における冷却速度が50℃/時
以下であるのは、その上限値を超えると冷却速度が速す
ぎてかえって結晶中に熱歪みが生じてしまうからであ
る。なお、冷却過程における外的要因等による冷却速度
の変動等を考慮すると、その冷却速度は好ましくは25
℃/時以下である。
【0012】また、本発明は、四硼酸リチウム原料の融
液の表面に接触させた種結晶を回転させながら徐々に引
き上げる方法(チョクラルスキー法)により育成された
四硼酸リチウム結晶のインゴットを融液面から切り離し
た後、前記融液面から10mm以上離れた炉内上方位置に
前記インゴットを位置させ、50℃/時以下の冷却速度
で室温まで冷却することを提案するものである。この発
明において、上記炉内上方位置に前記インゴットを所定
時間保持した後、冷却するようにしてもよい。
【0013】ここで、上記炉冷中のインゴットの位置が
融液面から10mm以上上方に離れた位置であるのは、上
述したように本発明者の行った炉内温度分布の測定結果
によれば融液面からの距離が10mm未満の領域では温度
勾配が急峻になっているが、さらにその上方の温度勾配
は緩やかであるからである。なお、インゴットの位置は
好ましくは融液面から上方に15mm以上離れた位置であ
るのがよく、その理由は、融液面から15mm以上離れる
と温度勾配が略一定になっているからである。
【0014】上記炉冷中の冷却速度が50℃/時以下で
あるのは、その上限値を超えると冷却速度が速すぎてか
えって結晶中に熱歪みが生じてしまうからである。な
お、冷却過程における外的要因等による冷却速度の変動
等を考慮すると、その冷却速度は好ましくは25℃/時
以下である。
【0015】
【作用】本発明に係る四硼酸リチウム結晶の製造方法に
よれば、育成された四硼酸リチウム結晶のインゴット
を、800℃以上917℃未満の温度で1時間以上保持
した後、50℃/時以下の冷却速度で冷却して熱処理す
るようにしたため、結晶中に生じた熱歪みがその熱処理
により低減されるので、インゴットの外周部を円筒研削
加工する際にクラックが発生するのが有効に防止され
る。
【0016】また、本発明に係る四硼酸リチウム結晶の
製造方法によれば、チョクラルスキー法により育成され
た四硼酸リチウム結晶のインゴットを融液面から切り離
した後、前記融液面から10mm以上離れた炉内上方位置
に前記インゴットを位置させ、50℃/時以下の冷却速
度で室温まで冷却するようにしたため、結晶育成直後、
炉内でインゴットを冷却する際に、炉内の温度勾配が緩
やかで略一定となる所(融液面から10mm以上上方の位
置)にインゴットが位置されることになり、冷却中に生
じる熱歪みが従来よりも低減されるので、冷却中にクラ
ックが発生するのが有効に防止される。その際、上記炉
内上方位置に前記インゴットを所定時間保持した後、冷
却するようにすれば、熱歪みがさらに低減されるので、
冷却中にクラックが発生するのがより一層有効に防止さ
れる。
【0017】
【実施例】以下に、実施例及び従来例を挙げて、本発明
に係る四硼酸リチウム結晶の製造方法の特徴とするとこ
ろを明らかにする。なお、実施例及び従来例において
は、直胴部の直径が4インチのインゴットを夫々複数本
ずつチョクラルスキー法により〈110〉方向に引き上
げて育成した。
【0018】(実施例1)高純度(純度:99.99
%)の四硼酸リチウムよりなる原料を白金るつぼに充填
し、それを引上炉(抵抗加熱炉)で加熱して前記原料を
融解させた。その融解した原料融液の表面に種結晶を接
触させ、回転数0.3rpmで回転させながら引上速度
0.1〜1.0mm/時で鉛直方向に徐々に引き上げて、
長さ100mmの四硼酸リチウム結晶のインゴットを育成
した。その際、上記種結晶として、2本の四硼酸リチウ
ム単結晶をそれらの(001)面同士で貼り合わせるこ
とにより(001)面が露出しないようにしたものを用
いた。
【0019】結晶育成直後、加熱炉の上部に耐火物を載
せて炉内温度を上昇させるとともに、引上速度を5mm/
時に速めてインゴットを融液面から切り離し、さらにイ
ンゴットをその下端が融液面から5mm離れるまで引き上
げてその位置に保持した状態で10℃/時の冷却速度で
もって室温(約20℃)まで炉冷した。この冷却過程に
おいて、育成した全インゴット数に対して30%にあた
るものにクラックが発生した。
【0020】続いて、冷却の終了したもののうちクラッ
クの発生していないインゴット(その数は、全数に対し
て70%にあたる。)を加熱炉内に入れ、20℃/時で
昇温して870℃で4時間保持した後、20℃/時の冷
却速度でもって室温(約20℃)まで冷却して熱処理を
行った。熱処理の終了したすべてのインゴットの外周部
を円筒研削加工したところ、その加工中にクラックの発
生したインゴットは1本もなかった。
【0021】従って、後述する従来例との比較から、育
成の終了したインゴットを円筒研削加工する前に熱処理
することにより、加工時のクラック発生を有効に防止す
ることができることが確認された。また、クラックが発
生しなかったことから、熱処理によって結晶中の熱歪み
が低減されたことがわかった。なお、結晶育成開始から
円筒研削加工の終了までのインゴットの歩留りは70%
であった。
【0022】(実施例2)結晶育成直後、炉内で冷却す
る際に、インゴットを融液面から上方に15mm離れた位
置で保持する以外は、上記実施例1と同じ条件で結晶育
成を行った。この冷却中にクラックの発生したインゴッ
トは1本もなかった。
【0023】また、冷却の終了したすべてのインゴット
について、上記実施例1と同じ条件で熱処理を行い、そ
の後その外周部を円筒研削加工したところ、その加工中
にクラックの発生したインゴットは1本もなかった。
【0024】従って、後述する従来例との比較から、育
成の終了したインゴットを融液面から切り離した後炉令
する際に、インゴットの下端を融液面から例えば15mm
離してインゴットを温度勾配の略一定で緩やかな所に位
置させることにより、結晶育成直後の冷却時のクラック
発生を有効に防止することができることが確認された。
また、クラックが発生しなかったことから、そのような
所に位置させて冷却することによって結晶中の熱歪みが
低減されたことがわかった。なお、結晶育成開始から円
筒研削加工の終了までのインゴットの歩留りは100%
であった。
【0025】(従来例)上記実施例1と同じ条件で結晶
育成を行ったところ、結晶育成直後の冷却中に、育成し
た全インゴット数に対して30%にあたるものにクラッ
クが発生した。
【0026】続いて、冷却の終了したもののうちクラッ
クの発生していないインゴット(その数は、全数に対し
て70%にあたる。)について、そのままその外周部を
円筒研削加工したところ、その加工中に、加工を行った
全インゴット数に対して60%にあたるものにクラック
が発生した。
【0027】従って、結晶育成開始から円筒研削加工の
終了までのインゴットの歩留りは28%であり、極めて
低かった。
【0028】なお、本発明は、上記各実施例により何等
制限されるものではないのは勿論である。例えば、円筒
研削加工前に行なう熱処理について、処理温度は800
℃以上917℃未満であればよく、また処理時間も1時
間以上であればよく、さらに保持後の冷却速度も50℃
/時以下であればよい。また、融液面から切り離した直
後に行なうインゴットの炉冷について、インゴットの保
持位置はその下端が融液面から10mm以上上方に離れて
いればよく、さらにその炉冷の際の冷却速度も50℃/
時以下であればよいし、上記保持位置にインゴットを保
持した後例えば15分以上の適当な時間が経過してから
炉冷を開始するようにしてもよい。
【0029】
【発明の効果】本発明に係る四硼酸リチウム結晶の製造
方法によれば、育成された四硼酸リチウム結晶のインゴ
ットを、800℃以上917℃未満の温度で1時間以上
保持した後、50℃/時以下の冷却速度で冷却して熱処
理するようにしたため、結晶中に生じた熱歪みがその熱
処理により低減されるので、インゴットの外周部を円筒
研削加工する際にクラックが発生するのが有効に防止さ
れる。
【0030】また、本発明に係る四硼酸リチウム結晶の
製造方法によれば、チョクラルスキー法により育成され
た四硼酸リチウム結晶のインゴットを融液面から切り離
した後、前記融液面から10mm以上離れた炉内上方位置
に前記インゴットを位置させ、50℃/時以下の冷却速
度で室温まで冷却するようにしたため、結晶育成直後、
炉内でインゴットを冷却する際に、炉内の温度勾配が緩
やかで略一定となる所にインゴットが位置されることに
なり、冷却中に生じる熱歪みが従来よりも低減されるの
で、冷却中にクラックが発生するのが有効に防止され
る。その際、上記炉内上方位置に前記インゴットを所定
時間保持した後、冷却するようにすれば、熱歪みがさら
に低減されるので、冷却中にクラックが発生するのがよ
り一層有効に防止される。
【0031】従って、結晶育成直後の炉冷中、或は炉冷
後の円筒研削加工時におけるクラックの発生が防止さ
れ、弾性表面波装置用の基板として好適な大口径の四硼
酸リチウム結晶を安定して歩留り良く製造することが可
能になり、経済的効果が極めて大である。

Claims (3)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 四硼酸リチウム原料の融液から育成され
    た四硼酸リチウム結晶のインゴットを、該インゴットの
    外周部を研削加工する前に、800℃以上917℃未満
    の温度で1時間以上保持した後、50℃/時以下の冷却
    速度で冷却して熱処理することを特徴とする四硼酸リチ
    ウム結晶の製造方法。
  2. 【請求項2】 四硼酸リチウム原料の融液の表面に接触
    させた種結晶を回転させながら徐々に引き上げることに
    より育成された四硼酸リチウム結晶のインゴットを融液
    面から切り離した後、前記融液面から10mm以上離れた
    炉内上方位置に前記インゴットを位置させ、50℃/時
    以下の冷却速度で室温まで冷却することを特徴とする四
    硼酸リチウム結晶の製造方法。
  3. 【請求項3】 上記炉内上方位置に前記インゴットを所
    定時間保持した後、冷却することを特徴とする請求項2
    記載の四硼酸リチウム結晶の製造方法。
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