JP2738619B2 - 高速打抜性に優れた積層鉄心用電磁鋼板 - Google Patents

高速打抜性に優れた積層鉄心用電磁鋼板

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【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、積層鉄心用電磁鋼板
に関し、とくにその高速打抜性の改善を図ったものであ
る。
【0002】
【従来の技術】モーターやトランス等に使用される電磁
鋼板は、磁気特性に優れるだけでなく、量産性の観点か
ら良好な打抜性も要求され、この要請を満たすために一
般に鋼板表面に有機樹脂を含む絶縁被膜が被成される。
ここに打抜性の改善のためには、ある程度樹脂塗布量を
増やすことが有効であることが知られている。しかしな
がら、塗布量を多くすると溶接時に有機樹脂から発生す
る多量のガスに起因してブローホールが発生するなど溶
接性の点に問題を残していた。
【0003】この点を解消するものとして、鋼板表面に
20 Hr.m.s.μ inch 以上の表面粗さを付与したのち、
有機質被膜を被成する方法(特公昭49−6744号公報)や
有機質被膜自体に粗さを与え、溶接時に発生するガスを
逸散させることによりブローホールの発生を防止する方
法(特公昭49-19078号公報)等が提案されている。しか
し、これらの方法では、必然的に占積率が97〜98%まで
低下するので好ましくない。
【0004】そこで特開昭54−134043号公報において、
表面粗さが中心線平均粗さRaで0.35〜0.6 μm の鋼板上
に被膜厚み1〜2.5 g/m2の有機質被膜を被成する方法が
提案された。しかしながらこの方法でも、溶接箇所によ
ってはブローホールの発生が見られ、必ずしも良好な溶
接性が安定して得られるとは限らず、そのため打抜性向
上を目指して被膜厚を厚くすることができないという問
題があった。
【0005】このように従来は、溶接性の向上を目的と
して表面粗さRaを大きくしたり、被膜厚を肥厚化した場
合には、それぞれ占積率の低下やブローホールの発生を
招く等の弊害を伴っていた。また最近では精密かつ高速
での打抜き加工が必要とされ、一段と優れた打抜性が要
求されるようになってきたが、上記したとおり被膜厚を
十分厚くすることができないため、打抜性とくに高速打
抜きやオイルレス打抜きの場合の打抜性に劣るところに
も問題を残していた。
【0006】その他、特開平1−289103号公報には、鋼
板の表面粗さを、Ra< 0.5μm でかつRmax<2μm と
し、その表面に有機樹脂を含む絶縁被膜を被成した電磁
鋼板が開示されている。しかしながら、この技術は、鋼
板表面の凹部だけに着目したものであることから、たと
えRmaxを2μm 未満にしたとしても、十分満足がいくほ
どの溶接性の向上は期待できなかった。またこのような
電磁鋼板を得るには、工程上厳重な管理を必要とすると
ころにも問題を残していた。すなわち鋼板表面の凹部を
少なくするためには、圧延方法を厳密に制御してオイル
ピットの発生を極力低減する必要があることから、圧延
スピードの低減を余儀なくされ、実操業上また経済性の
面からも不利が残る。しかも打抜性については、とくに
その効果は認められなかった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】この発明は、上記の現
状に鑑み開発されたもので、溶接性、生産性は勿論のこ
と占積率の低下を招くことなしに、打抜性を格段に向上
させた積層用電磁鋼板を提案することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】さて発明者らは、上記の
目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、電磁鋼板の積
層端面溶接に際しては、鋼板表面の単純な粗さよりも、
表面の凸部の個数の方が溶接性に強く影響を与えるてい
ること、また打抜性については表面形態が強く影響して
いることの知見を得た。この発明は、上記の知見に立脚
するもので、鋼板表面における形態を制御することによ
って、従来両立することが困難とされた溶接性と打抜性
の両者を併せて改善したものである。
【0009】すなわちこの発明は、地鉄表面の3次元表
面粗さが中心面平均粗さSRa で 0.5μm 以下でかつ、周
波数解析による波長域:2730〜1024μm におけるパワー
スペクトル和が 0.04 μm2以上であり、その表面に有機
樹脂系の絶縁被膜をそなえることを特徴とする高速打抜
性に優れた積層鉄心用電磁鋼板である。
【0010】ここに中心面平均粗さSRa とは、粗さ曲面
からその中心面上に面積SM を抜き取り、この抜き取り
部分の中心面上に直交座標軸、X軸、Y軸をおき、中心
面に直交する軸をZ軸として粗さ曲面をZ=f(X,
Y)で表したとき、次の数式
【数1】 で与えられる値のことである(単位μm )。
【0011】またパワースペクトル和とは、周波数解析
の一手法で、断面曲線から特長的な成分を各周波数ごと
のレベルに分解表示し、図1に示すような積分値により
特定波長区間のパワースペクトルを加算(Pab)したも
のである。
【0012】さて発明者らは、多種多様の表面粗さ形態
を有する鋼板を準備し、その表面に重クロム酸塩−有機
樹脂系絶縁被膜を塗布、焼付けたものについて、種々の
特性調査を行った。なお鋼板表面形態は3次元粗さ測定
機を用いて検出した。まず3次元粗さと占積率の関係に
ついて調べた。その結果、占積率に関しては従来から指
摘されているように、3次元粗さが 0.5μm より大きく
なると急激に低下することが確認された。従って3次元
粗さSRa は、 0.5μm 以下に限定したのである。
【0013】次に高速打抜性に関する実験を種々の条件
で数多く行った。とくに種々の3次元粗度パラメータに
ついて数多くの検討を重ねたところ、とりわけパワース
ペクトル和と高速打抜性との間に強い相関が認められ
た。なお、打抜性については、ダイスサイズ7mmφのハ
イスダイスを使用し、毎分1000回の高速と 150回の通常
速度で打抜いた時のかえり高さが20μm に達するまでの
打抜き回数で評価した。また打抜き用潤滑油としては高
揮発性打抜き油を使用した。
【0014】図2に、得られた実験結果を示す。実験に
供した電磁鋼板は種々の表面形状を持つ板厚:0.5 mmの
鋼板で下記の配合割合になる処理液1を片面当たり 0.7
g/m2 の割合で塗布、焼付けたものである。
【表1】 〔処理液1〕 ・30%重クロム酸マグネシウム溶液 :100 重量部 (CrO3分) :32.5重量部 ・アクリル樹脂エマルジョン(樹脂固形分:50%): 20 重量部 ・エチレングリコール : 10 重量部 ・硼酸 : 10 重量部
【0015】図2より明らかなように、低速打抜き時に
おいては限界打抜き回数に関し、とくにパワースペクト
ル和依存性はほとんど認められなかったけれども、毎分
1000回打抜きの高速打抜きでは、パワースペクトル和に
対する依存性が極めて大きかった。すなわち波長域:27
30〜1024μm でのパワースペクトル和が0.04μm2未満で
は、限界打抜き回数がかなり低かったのに対し、パワー
スペクトル和が0.04μm2以上になると限界打抜き回数は
格段に向上した。なお、波長域:1024〜5.09μm におけ
るパワースペクトル和依存性についても調査したけれど
も明確な傾向は認められなかった。また2730μm 以上の
波長域の解析でも同様に明確な傾向は認められなかっ
た。
【0016】そこでこの発明では、所期した目的を達成
するために、3次元粗度解析による長波長域:2730〜10
24μm におけるパワースペクトル和を0.04μm2以上の範
囲に限定したのである。上記ような結果が得られた理由
は、まだ明確に解明されたわけではないが、次のとおり
と考えられる。電磁鋼板の打抜き時の鋼板とダイスとの
間の潤滑は、一部を被膜中の樹脂が担い、一部を潤滑油
が担っていると推定される。その際、打抜き速度によっ
てそれぞれの作用が変化することが考えられ、とくに高
速打抜き時には樹脂及び油の鋼板と打抜き型との間への
侵入挙動が大きく変化し、そのため図2に示したような
結果が得られたものと推定される。
【0017】とくに中間波長域のパワースペクトル和が
大きいものについて良好な結果が得られたのは、このよ
うな表面形状を有する場合に高速度において樹脂と油の
侵入がとくに多くなり、良好な潤滑状態が得られるため
と推定される。一方、短波長域のパワースペクトル和と
の相関についても検討したが、何ら有意な傾向は認めら
れなかった。この理由は、おそらくあまりに短波長の変
化では潤滑が有意に作用し得なかったためと推定され
る。また、より長波長域については、その範囲では樹脂
膜厚等の変動もないため、ミクロな変形に対してはほと
んど影響を及ぼさないものと考えられる。なお、上記の
好適範囲のパワースペクトル和を有する絶縁被膜付き鋼
板の溶接性についても調査したが、その結果、このパワ
ースペクトル和の範囲では溶接性も十分に良好なことが
確認された。
【0018】
【作用】この発明で対象とする積層鉄心用電磁鋼板にお
いて、その成分組成はとくに限定されることはなく、従
来公知の無方向性電磁鋼板いずれもが適合する。
【0019】またこの発明において使用する有機樹脂系
被膜としては、クロム酸塩系及びりん酸塩系の1種又は
2種と有機樹脂との混合被膜あるいは有機樹脂単独の絶
縁被膜が好適である。ここでクロム酸塩系とは、カルシ
ウム、マグネシウム及び亜鉛の重クロム酸塩又は無水ク
ロム酸にカルシウム、マグネシウム及び亜鉛等の2価の
酸化物、水酸化物、炭酸塩を溶解したものの1種又は2
種以上の混合物、あるいはそれらにさらにシリカ、アル
ミナ、チタニアなどの金属酸化物微粉末やコロイド状シ
リカ、コロイド状アルミナ、硼酸など及び有機還元剤等
の1種又は2種以上を添加したものである。
【0020】さらにりん酸塩系としては、カルシウム、
マグネシウム、アルミニウム及び亜鉛のりん酸塩又はり
ん酸にカルシウム、マグネシウム、アルミニウム及び亜
鉛等の2価又は3価の酸化物、水酸化物、炭酸塩を溶解
したものの1種又は2種以上の混合物、あるいはそれら
にさらにシリカ、アルミナ、チタニアなどの金属酸化物
微粉末、コロイド状シリカ、コロイド状アルミナなど及
び硼酸等を1種又は2種以上添加したものである。
【0021】次に有機樹脂としては、水溶性又はエマル
ジョンタイプのアクリル樹脂及びその共重合物、酢酸ビ
ニル樹脂及びその共重合物、ベオバ樹脂、スチレン樹脂
共重合物、アミノ樹脂、アルキッド樹脂、フェノール樹
脂、無水マレイン酸共重合物、エポキシ樹脂又はその変
性物等の1種又は2種以上が有利に適合する。
【0022】かかる絶縁被膜の付着量は片面当たり 0.3
〜1.3 g/m2とすることが好ましい。というのは付着量が
0.3 g/m2 に満たないと十分な打抜性が得られず、一方
1.3g/m2を超えると溶接性が劣化するからである。
【0023】なおこの発明に従う表面粗さを得る手法に
ついては、とくに限定されることはないが、以下のよう
な方法が好適である。たとえば、ロール表面に予め、圧
延後の表面粗さがこの発明範囲となるような表面加工を
施しておく方法はその一つである。その他、鋼板表面
を、研磨やエッチングにより、所定の表面粗さになるよ
うに処理する方法もある。さらに、圧延速度の変更又は
圧延時に使用する圧延油の変更により、所定の表面粗さ
となるように処理することもできる。
【0024】
【実施例】
実施例1 C:0.025 wt%(以下単に%で示す)、Si:0.13%、M
n:0.15%を含有し、残部実質的にFeの組成になる電磁
鋼板で、3次元表面粗さが中心面平均粗さSRa で0.38μ
m 、波長域:2730〜1024μm でのパワースペクトル和が
(A) 0.065μm2、(B)0.02μm2である鋼板表面に下
記処理液2を被膜目付量が 1.1 g/m2 (片面当たり)と
なるように塗布したのち、400 ℃で70秒間焼付けた。
【表2】 〔処理液2〕 ・30%重クロム酸マグネシウム溶液 :100 重量部 (CrO3分) :32.5重量部 ・アクリル−酢酸ビニル樹脂エマルジョン (樹脂固形分:50%): 20 重量部 ・エチレングリコール : 15 重量部 ・硼酸 : 10 重量部
【0025】かくして得られた絶縁被膜付き電磁鋼板の
占積率、高速打抜性(試験条件は図2を得た高速打抜き
条件と同じ)及びTIG溶接性について調べた結果を、
表3に示す。
【0026】
【表3】
【0027】実施例2 C:0.023 %、Si:0.09%を含有し、残部実質的にFeの
組成になる電磁鋼板で、3次元表面粗さが中心面平均粗
さSRa で0.36μm 、波長域:2730〜1024μm でのパワー
スペクトル和が(A)0.08μm2、(B)0.03μm2である
鋼板表面に下記処理液3を被膜目付量が 1.0 g/m2 (片
面当たり) となるように塗布した後、400 ℃で70秒間
焼付けた。
【表4】 〔処理液3〕 ・30%重クロム酸マグネシウム溶液 :130 重量部 (CrO3分) :32.5重量部 ・アクリル樹脂エマルジョン(樹脂固形分:50%): 20 重量部 ・エチレングリコール : 15 重量部 ・硼酸 : 10 重量部
【0028】かくして得られた絶縁被膜付き電磁鋼板の
占積率、打抜性及び溶接性について調べた結果は、次表
5のとおりであった。
【0029】
【表5】
【0030】実施例3 C:0.021 %、Si:0.11%を含有し、残部実質的にFeの
組成になる電磁鋼板で、3次元表面粗さが中心面平均粗
さSRa で0.35μm 、波長域:2730〜1024μm でのパワー
スペクトル和が(A) 0.072μm2、(B) 0.018μm2
ある鋼板表面に下記処理液4を被膜目付量が3 g/m2
(片面当たり)となるように塗布した後、400 ℃で1分
間焼付けた。
【表6】 〔処理液4〕 ・ポリエステル樹脂/メラミン樹脂 : 75/25
【0031】かくして得られた絶縁被膜付き電磁鋼板の
占積率及び高速打抜性について調べた結果は、次表7の
とおりであった。
【0032】
【表7】
【0033】
【発明の効果】かくしてこの発明によれば、溶接性や占
積率の低下を招くことなしに、打抜性が大幅に向上した
積層用電磁鋼板を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】パワースペクトルの説明図である。
【図2】パワースペクトル和と打抜き回数との関係を示
したグラフである。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 井上 雅隆 岡山県倉敷市水島川崎通1丁目(番地な し) 川崎製鉄株式会社 水島製鉄所内 (72)発明者 小野 智睦 岡山県倉敷市水島川崎通1丁目(番地な し) 川崎製鉄株式会社 水島製鉄所内 (56)参考文献 特開 平1−289103(JP,A) 特開 昭54−134043(JP,A) 特開 平1−283306(JP,A)

Claims (1)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 地鉄表面の3次元表面粗さが中心面平均
    粗さSRa で 0.5μm以下でかつ、周波数解析による波長
    域:2730〜1024μm におけるパワースペクトル和が 0.0
    4 μm2以上であり、その表面に有機樹脂系の絶縁被膜を
    そなえることを特徴とする高速打抜性に優れた積層鉄心
    用電磁鋼板。
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