JP2725168B2 - 防食被覆された鋼撚り線の製造方法 - Google Patents

防食被覆された鋼撚り線の製造方法

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、例えばプレストレ
ストコンクリートの緊張材等に用いられる鋼撚り線、特
に、防食被覆された鋼撚り線の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】プレストレストコンクリート(PC)に
緊張材として用いられる鋼撚り線は、芯線の周囲に複数
本の側線を撚り合わせたものである。すなわち前記プレ
ストレストコンクリートは、予め緊張させた鋼撚り線の
周囲にコンクリートを打設して養生させることにより、
このコンクリートにプレストレスを導入するプレテンシ
ョン工法や、あるいはコンクリート内に予めシース管を
配設してこのシース管内に鋼撚り線を挿入して緊張さ
せ、更に前記シース管内にグラウトを充填して前記コン
クリートにプレストレスを導入するポストテンション工
法等によって製造される。緊張材としての鋼撚り線は、
ひとたび腐食が生じると急激に破断されるので、例えば
橋梁等のプレストレストコンクリート構造物は破壊の危
機に直面することになる。したがって、このような緊張
材として用いられる鋼撚り線は、高い引張強度や降伏強
度、優れた靭性、低リラクゼーション値を有することが
必要であると共に、優れた耐食性が要求されており、鋼
撚り線の防食被覆は、プレストレストコンクリート構造
物にとって極めて重要な問題である。
【0003】防食被覆された鋼撚り線としては、従来、
次のようなものが公知である。 (1) 鋼撚り線の外面にグリース等の腐食防止剤を塗布し
てその外周を合成樹脂製の管体で被覆したもの(特公昭
53−47609号公報又は特開昭61−103633
号公報等参照)。 (2) 芯線と側線とを撚り合わせて鋼撚り線とする際、又
は既成の鋼撚り線の撚りを一時的に緩解してから再び撚
り戻す際に、芯線と各側線の間に粉体又は液体状の防食
樹脂を充填し、撚り戻した後で必要に応じて更にこの鋼
撚り線外周に前記防食樹脂を付着させ、加熱定着させる
ことによって防食被覆したもの(特公平2−53139
号公報、特開平2−242989号公報、特開平6−3
22679号公報、特開平6−272181号公報等参
照)。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、(1) の
方法で製造される防食被覆された鋼撚り線は、鋼撚り線
の外面にグリース等の腐食防止剤を塗布してその外周を
合成樹脂製の管体で被覆しているので、鋼線とコンクリ
ートとの付着力を得ることが不可能であり、プレテンシ
ョン工法に適用することができない。
【0005】また、(2) の方法で製造される防食被覆さ
れた鋼撚り線は、芯線と各側線の間での防食剤の充填
や、撚り線外周に付着される防食剤にバラツキが生じや
すく、その防食被覆の精度や信頼性に問題がある。特
に、特開平2−242989号公報、特開平6−322
679号公報、特開平6−272181号公報等に開示
されたものにおいては、ブルーイング加熱処理による熱
を粉体樹脂からなる防食剤の定着に利用しており、生産
性が良いが、ブルーイング加熱処理における処理温度は
少なくとも300℃以上(一般に350〜400℃)で
あるため、前記防食剤として例えばエポキシ樹脂等の安
価な樹脂材を使用した場合は、樹脂被覆層の延伸性や強
度が熱劣化を起して、経時的にクラック等を生じやす
く、腐食防止性能が低下する恐れがある。また、芯線と
その周囲の側線との間に防食剤が完全に充填されない空
隙が残存することによって樹脂被覆層にピンホールを生
じ、そこから鋼撚り線本体の腐食が進行することがあ
る。
【0006】本発明は、上記のような事情のもとになさ
れたもので、その技術的課題とするところは、防食被覆
層に空隙等を生じることなく、防食の信頼性の高い鋼撚
り線を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】上述した技術的課題は、
本発明によって有効に解決することができる。すなわ
ち、本発明に係る防食被覆された鋼撚り線の製造方法
は、芯線の周囲に複数本の側線を撚り合わせて形成され
た鋼撚り線を一時的に個々の線に緩解し、緩解された前
記芯線及び各側線の表面に防食樹脂粉体を付着させ、前
記防食樹脂粉体の付着した前記芯線及び各側線を撚り戻
す過程で前記芯線及び各側線を加熱して前記鋼撚り線の
外周及びその芯線と各側線間に不完全硬化した防食被覆
層を形成し、前記不完全硬化した防食被覆層を撚り戻さ
れた前記鋼撚り線と共に更に加熱して完全硬化させるも
のである。
【0008】本発明によれば、まず鋼撚り線を芯線とそ
の周囲の複数本の側線とに緩解し、各々の表面に防食樹
脂粉体を付着させてから再び撚り戻す過程で、前記芯線
及び各側線を加熱することによって、前記防食樹脂粉体
が軟化すると共に、その一部が、互いに撚り合わされる
前記芯線と各側線との間の隙間に封じ込められ、鋼撚り
線の外周及びその芯線と各側線間に不完全硬化した防食
被覆層が形成される。ここで、前記鋼撚り線の撚り戻し
過程においては、芯線とその周囲に離間していた各側線
は単純に収束するのではなく、螺旋状に撚り合わされて
行くため、これに伴って、前記芯線外周の樹脂層と各側
線外周の樹脂層との間の空気が自然に螺旋方向へ押し出
されて排出される。鋼撚り線の撚り戻し後は、この鋼撚
り線の外周及びその芯線と各側線間で不完全硬化した防
食被覆層を更に加熱して完全硬化させることにより、緻
密な防食被覆層が形成される。
【0009】本発明においては、防食樹脂粉体は、緩解
された芯線及び各側線を例えば静電粉体塗装装置に通す
ことによってこの芯線及び各側線の表面に静電付着され
る。また、不完全硬化した防食被覆層は、防食樹脂粉体
の付着した芯線及び各側線をその撚り戻し過程で誘導加
熱装置に通すことによって形成することができる。
【0010】
【発明の実施の形態】図1は、本発明に係る防食被覆さ
れた鋼撚り線の製造方法の典型的な実施形態を示す説明
図、図2は、この実施形態による各工程での鋼撚り線の
防食被覆過程を示す断面図で、図中の参照符号10は鋼
撚り線、11はこの鋼撚り線10を繰り出す巻き出し
機、12は鋼撚り線10を芯線101とその周囲の複数
本の側線102とに一時的に緩解させる緩解機、13は
静電粉体塗装装置、14は誘導加熱装置、15は硬化
炉、16は巻き取り機である。
【0011】巻き出し機11から巻き取り機16へ向け
て連続的に移送される鋼撚り線10は7本撚りの鋼線か
らなり、すなわち図2の断面(A)に示すように、1本
の芯線101の周囲に6本の側線102を撚り合わせた
ものである。巻き出し機11から繰り出されたこの鋼撚
り線10は、まず緩解機12によって、図2の断面
(B)に示すように、芯線101と側線102とに一時
的に緩解される。
【0012】緩解機12は、例えば鋼撚り線10の移動
方向に対して直交するように配置された回転体(図示省
略)を備えるものであって、この回転体には、前記芯線
101を通すために中央に開設された一個の芯孔と、こ
の芯孔を中心とする円周上に等間隔で開設され前記各側
線102を通すための六個の側孔とを有し、鋼撚り線1
0を一定速度で移動させた場合の任意の通過地点におけ
る特定の側線102の見かけ上の回転に対応して、前記
回転体を回転させるようになっている。すなわちこの緩
解機12によれば、巻き出し機11から巻き取り機16
へ向けて移動する鋼撚り線10は、その芯線101及び
各側線102を通した回転体の回転によって、この回転
体の前方の所定位置P1 で、各側線102が前記P1
頂点とし前記側孔の回転軌跡の内周を底面とする円錐状
の軌跡を描いて回する円錐状の軌跡を描いて回転しつつ
芯線101の外周から緩解される一方、前記回転体の後
方の所定位置P2 で、この位置P2 を頂点とし前記側孔
の回転軌跡の内周を底面とする円錐状の軌跡を描いて回
転しつつ芯線101の外周に再び撚り戻される。緩解さ
れた各側線102及び芯線101の互いの距離は、緩解
機12の回転体の各孔を通過する時点で最大となる。
【0013】静電粉体塗装装置13は、緩解機12の後
方に配置されている。この静電粉体塗装装置13は、高
電圧の印加によって例えば正の電荷を帯電させた防食樹
脂粉体としてのエポキシ樹脂粉体103aを、乾燥空気
を所定の圧力で供給することにより容器内で浮遊させ、
電気的に接地させた物体の表面に、前記エポキシ樹脂粉
体103a静電付着させるものである。この実施例にお
いては、緩解機12によって鋼撚り線10が緩解された
芯線101及び側線102を、前記容器内に通してあ
り、この容器内では、帯電されたエポキシ樹脂粉体10
3aの粒子が互いに同符号の電荷により反斥し合いなが
ら浮遊しているため、その中を通過する芯線101及び
側線102の表面には、図2の断面(C)に示すように
エポキシ樹脂粉体103aが均一な厚さで静電付着され
る。
【0014】誘導加熱装置14は、静電粉体塗装装置1
3の後方における再撚り合わせ位置P2 の直前に配置さ
れている。すなわち芯線101と各側線102とに緩解
された鋼撚り線10は、緩解機12の回転体の回転に伴
って、静電粉体塗装装置13の後方位置P2 において再
び撚り戻されるが、静電粉体塗装装置13によって表面
にそれぞれエポキシ樹脂粉体103aが静電付着された
芯線101及び側線102は、前記再撚り合わせ位置P
2 の直前で、誘導加熱装置14により一時的に加熱され
る。
【0015】この誘導加熱装置14は、高周波発振器1
41を介して高周波が印加される発振コイル142を備
え、芯線101及び側線102は、この発振コイル14
2で囲まれた空間内を通過した直後に撚り合わされる。
このため、磁性体である鋼材からなる前記芯線101及
び側線102は、発振コイル142を通過する時に生じ
る渦電流によって一時的に加熱されるので、図2の断面
(D)に示すように、表面に静電付着している熱硬化性
のエポキシ樹脂粉体103aがいったん軟化すると共
に、その一部が、互いに撚り合わされる前記芯線101
と各側線102との間に封じ込められ、更に、いったん
軟化したエポキシ樹脂粉体103aは、熱硬化反応によ
って一部高分子化するので、不完全硬化した防食被覆層
103bとなる。
【0016】鋼撚り線10の復元過程においては、芯線
101とその周囲に離間していた各側線102は再撚り
合わせ位置P2 で単純に収束するのではなく、螺旋状に
撚り合わされて行くため、これに伴って、前記芯線10
1の表面の軟化したエポキシ樹脂層と各側線102の表
面の軟化したエポキシ樹脂層との間の空気が自然に押し
出され排出される。したがって、前記芯線と各側線10
2との間で不完全硬化した防食被覆層103bに、空気
の混入による空隙が形成されるのを有効に防止すること
ができる。
【0017】硬化炉15は、再撚り合わせ位置P2 の後
方に配置されている。この硬化炉15における加熱温度
は、好ましくはエポキシ樹脂粉体103aの融着・熱硬
化に適した例えば200〜280℃に設定されている。
すなわち、鋼撚り線10の復元過程で誘導加熱装置14
によって一時的に加熱され、不完全硬化した防食被覆層
103bは、鋼撚り線10が前記硬化炉15を通過する
過程でこの鋼撚り線10と共に加熱され、再溶融して芯
線101及び各側線102の表面に被着される数秒間の
ゲル化過程を経て、熱硬化反応によって完全に硬化し、
図2の断面(E)に示すように、芯線101と各側線1
02の間及び鋼撚り線10の外周部に相当する各側線1
02の表面にエポキシ樹脂による完全硬化した防食被覆
層103が形成される。この防食被覆層103で防食被
覆された鋼撚り線10’は、硬化炉15を出た後、適宜
冷却されながら巻き取り機16によって巻き取られる。
【0018】エポキシ樹脂からなる防食被覆層103
は、高張力条件においても芯線101及び側線102の
表面に対する優れた被着性を示すと共に、耐摩耗性や延
伸性にも優れた特性を有し、しかも芯線101とその周
囲の側線102との間に空隙が形成されないので、上述
のような工程を経て製造された防食被覆された鋼撚り線
10’は腐食防止機能に対する高い信頼性を確保するこ
とができる。このため、例えば橋梁を構築するプレスト
レストコンクリートの緊張材として用いた場合、このコ
ンクリートに生じたひびから雨水が侵入しても、これに
よる緊張材の腐食を有効に防止することができる。
【0019】なお、本発明は図示の一実施形態によって
限定的に解釈されるものではない。例えば、緩解機12
は、鋼撚り線10を一時的に緩解した後再び撚り合わせ
るものであれば良く、特にその構造を、上記孔開き回転
体のものに限定するものではない。また、上述の実施形
態においては、1本の芯線101の周囲に6本の側線1
02を撚り合わせた7本撚りの鋼撚り線10を防食被覆
する場合についてのみ説明したが、例えば19本撚り等
の他の鋼撚り線を防食被覆する場合にも適用することが
できる。
【0020】また、上述の実施形態においては、不完全
硬化した防食被覆層103bの形成を、誘導加熱装置1
4を用いた一時的な加熱によって行い、その後の完全硬
化した防食被覆層103の形成を、再撚り合わせ位置P
2 の後方に配置した硬化炉15を用いた再加熱によって
行っているが、これは、例えば硬化炉15を再撚り合わ
せ位置P2 の直前位置まで延在させて、そこから加熱温
度を制御しつつ連続的に加熱することによっても実現す
ることができる。
【0021】
【発明の効果】本発明の製造方法によると、鋼撚り線を
緩解した芯線とその周囲の各側線との間の隙間に、その
再撚り合わせの過程で空隙のない防食被覆層が形成され
るため、少ない工数によって、腐食防止機能に対する高
い信頼性が得られ、プレストレストコンクリートの緊張
材としての耐食性に優れた防食被覆された鋼撚り線を提
供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る防食被覆された鋼撚り線の製造方
法の好ましい一実施形態を示す説明図である。
【図2】上記実施形態による各工程での鋼撚り線の防食
被覆過程を示す断面図である。
【符号の説明】
10 鋼撚り線 10’ 防食被覆された鋼撚り線 101 芯線 102 側線 103 完全硬化した防食被覆層 103a エポキシ樹脂粉体(防食樹脂粉体) 103b 不完全硬化した防食被覆層 12 緩解機 13 静電粉体塗装装置 14 誘導加熱装置 15 硬化炉

Claims (3)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 芯線の周囲に複数本の側線を撚り合わせ
    て形成された鋼撚り線を一時的に個々の線に緩解する工
    程と、 緩解された前記芯線及び各側線の表面に防食樹脂粉体を
    付着させる工程と、 前記防食樹脂粉体の付着した前記芯線及び各側線を撚り
    戻す過程で前記芯線及び各側線を加熱して前記鋼撚り線
    の外周及びその芯線と各側線との間に不完全硬化した防
    食被覆層を形成する工程と、 前記不完全硬化した防食被覆層を撚り戻された前記鋼撚
    り線と共に更に加熱して完全硬化させる工程と、からな
    ることを特徴とする防食被覆された鋼撚り線の製造方
    法。
  2. 【請求項2】 緩解された芯線及び各側線の表面に防食
    樹脂粉体を付着させる工程において、防食樹脂粉体は、
    緩解された芯線及び各側線を静電粉体塗装装置に通すこ
    とによってこの芯線及び各側線の表面に静電付着させる
    ことを特徴とする請求項1に記載の防食被覆された鋼撚
    り線の製造方法。
  3. 【請求項3】 防食樹脂粉体の付着した芯線及び各側線
    を一時的に加熱して不完全硬化した防食被覆層を形成す
    る工程において、 前記不完全硬化した防食被覆層は、防食樹脂粉体の付着
    した芯線及び各側線をその撚り戻し過程で誘導加熱装置
    に通すことによって形成することを特徴とする請求項1
    又は2に記載の防食被覆された鋼撚り線の製造方法。
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