JP2722241B2 - 車両用差動制限装置 - Google Patents

車両用差動制限装置

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JP2722241B2
JP2722241B2 JP1082525A JP8252589A JP2722241B2 JP 2722241 B2 JP2722241 B2 JP 2722241B2 JP 1082525 A JP1082525 A JP 1082525A JP 8252589 A JP8252589 A JP 8252589A JP 2722241 B2 JP2722241 B2 JP 2722241B2
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Description

【発明の詳細な説明】 〔産業上の利用分野〕 本発明は、車両の走行状態あるいは路面状況に応じて
湿式油圧多板クラッチへの作動油圧を制御し、この制御
を通じて車両の左右駆動輪への伝達トルクを可変制御で
きるようにした車両用差動制限装置に関する。
〔従来の技術〕
このような車両用差動制限装置として、特開昭62−14
3719号公報,あるいは特開昭62−134339号公報に記載の
ものが従来知られている。これは、左右輪の差動装置に
おけるディフアレンシャルケースとサイドギヤとの間
に、差動歯車の差動作用を制限するトルクを発生させる
湿式油圧多板クラッチを構成したものであり、その作動
油圧の制御により差動制限トルクを変化させて良好な旋
回性能を得るようになっている。ここで前記湿式油圧多
板クラッチは、クラッチプレートやクラッチディスクな
どの多板クラッチの潤滑油が、ディファレンシャルケー
ス外側の終減速歯車用の潤滑油(ハイポイドギヤ油)と
共用されている。
〔発明が解決しようとする課題〕
このように従来は、湿式油圧多板クラッチの潤滑油
が、終減速歯車のかみ合い接触面での高面圧を重視した
極圧添加剤を含んだ終減速歯車用の潤滑油と共用されて
いるため、湿式油圧多板クラッチは広い運転範囲で適切
な摩擦特性が得られず、クラッチ板に必要に応じてスベ
リ作用を与える際に伝達トルクが不安定となってスティ
ックスリップを起し、車体のこもり音や振動騒音を発生
する問題があった。
そこで本発明は、車両の走行状態や路面状況に応じて
湿式油圧多板クラッチがスベリ作用する際のスティック
スリップの発生を未然に防止し、併せて湿式油圧多板ク
ラッチへの作動油圧の制御精度を向上できる車両用差動
制限装置を提供することを目的とする。
〔課題を解決するための手段〕
上記目的を達成するため、本発明は、前輪用または後
輪用の独立差動装置におけるディファレンシャルケース
内に固定されるピニオンシャフトに、複数のピニオンを
回転自在に装着し、該ピニオンに噛合する一対のサイド
ギヤを上記ディファレンシャルケース内に回転自在に配
設すると共に、ディファレンシャルケースと一方のサイ
ドギヤとの間に、作動油圧の制御に応じて伝達トルクを
変化して差動制限する湿式油圧多板クラッチを介設した
車両用差動制限装置において、上記湿式油圧多板クラッ
チ、ピニオン、及びサイドギヤを、上記ディファレンシ
ャルケースの外側の終減速歯車用の潤滑油と分離して、
ディファレンシャルケース内に配置し、上記湿式油圧多
板クラッチを作動すると共に該湿式油圧多板クラッチ、
上記ピニオン及びサイドギヤを潤滑する作動油を貯溜す
る油溜りを、上記終減速歯車用の潤滑油と分離して独立
差動装置本体に設け、上記油溜りに貯溜された作動油を
昇圧して送出するオイルポンプと、上記オイルポンプに
連通構成され、上記湿式油圧多板クラッチを作動するた
め該湿式油圧多板クラッチのピストンの一方側に形成さ
れた油圧室へ供給する作動油の作動油圧を車両の走行状
態に応じて制御すると共に、上記湿式油圧多板クラッ
チ、ピニオン、及びサイトギヤへ潤滑用として供給する
作動油の潤滑油圧を制御する油圧制御装置とを備え、更
に、上記湿式油圧多板クラッチのピストンの他方側に、
上記油圧室に作用する遠心油圧をキャンセルするため、
上記湿式油圧多板クラッチ、ピニオン、及びサイドギヤ
へ潤滑用として供給された作動油が充填されるバランス
油圧室を形成したことを特徴とする。
〔作 用〕
本発明では、独立差動装置のディファレンシャルケー
スとサイドギヤとの間に差動歯車の差動作用を制限する
トルクを発生させる湿式油圧多板クラッチを介設し、車
両の走行状態に応じて油圧制御装置により湿式油圧多板
クラッチのピストンの一方側に形成された油圧室へ供給
する作動油の油圧を制御することで、その差動油圧の制
御に応じて湿式油圧多板クラッチによる差動制限トルク
が連続的に変化し、車両の左右駆動輪へ任意の比率で動
力伝達される。
また、ディファレンシャルケースの外側の終減速歯車
用潤滑油と分離して、ディファレンシャル装置を構成す
る湿式油圧多板クラッチ、ピニオン、及びサイドギヤを
ディファレンシャルケース内に配置し、さらに、上記湿
式油圧多板クラッチを作動すると共に該湿式油圧多板ク
ラッチ、上記ピニオン及びサイドギヤを潤滑する作動油
を貯溜する油溜りを、上記終減速歯車用の潤滑油と分離
して独立差動装置本体に設け、上記油溜りに貯溜された
作動油をオイルポンプにより昇圧して油圧制御装置に送
出する。そして、この油圧制御装置により、湿式油圧多
板クラッチのピストンの一方側に形成された油圧室へ供
給する作動油の作動油圧を車両の走行状態に応じて制御
し、この作動油圧による作動油を湿式油圧多板クラッチ
の油圧室に供給して該湿式油圧多板クラッチによる差動
制限トルクを制御すると共に、ディファレンシャルケー
ス内に配置された上記湿式油圧多板クラッチ、ピニオ
ン、及びサイドギヤへ潤滑用として供給する作動油の潤
滑油圧を制御し、この潤滑油圧による作動油を湿式油圧
多板クラッチ、ピニオン、及びサイドギヤに供給してこ
れらを潤滑する。従って、湿式油圧多板クラッチの作
動、並びに、ディファレンシャル装置を構成する該湿式
油圧多板クラッチ、ピニオン、及びサイドギヤの潤滑を
行うための作動油を、終減速歯車用潤滑油と完全に分離
することができ、湿式油圧多板クラッチは、その潤滑に
適正な作動油の使用により、所望の摩擦特性が得られ、
例えば、舗装路で大きく転舵して左右輪に差動制限トル
クを与えながら走行する場合にも不快なスティックスリ
ップを伴わずに滑らかにスベリ作用する。
また、終減速歯車用の潤滑油と分離して独立差動装置
本体に設けた油溜りに貯溜された作動油をオイルポンプ
により昇圧して油圧制御装置に送出し、該油圧制御装置
により、ディファレンシャルケース内に配置された上記
湿式油圧多板クラッチ、ピニオン、及びサイドギヤへ潤
滑用として供給する作動油の潤滑油圧を制御し、この潤
滑油圧による作動油を湿式油圧多板クラッチ、ピニオ
ン、及びサイドギヤに供給するため、ディファレンシャ
ルケース内に配置された湿式多板クラッチ、ピニオン及
びサイドギヤを適正な潤滑油圧によって強制潤滑するこ
とが可能となり、これら湿式油圧多板クラッチ、ピニオ
ン及びサイドギヤに対する潤滑性が向上する。
また、湿式油圧多板クラッチには、油圧室側からピス
トンに作用する遠心油圧をキャンセルするためのバラン
ス油圧室がディファレンシャルケース内に設けられてい
るので、遠心油圧の影響を除去して、差動油圧の制御を
正確に行うことが可能となり、湿式油圧多板クラッチで
発生する差動制限トルクの制御精度が向上する。更に、
上記湿式油圧多板クラッチのピストンの他方側に、上記
油圧室に作用する遠心油圧をキャンセルするために形成
したバランス油圧室には、上記湿式油圧多板クラッチ、
ピニオン、及びサイドギヤへ潤滑用として供給された作
動油が充填されるため、バランス油圧室に対する油供給
のために別途油路を形成する必要が無く、また、ディフ
ァレンシャル装置を構成する湿式油圧多板クラッチの作
動、該湿式油圧多板クラッチ、ピニオン及びサイドギヤ
の潤滑、並びに、バランス油圧室に充填する油は、全て
兼用することが可能となる。
〔実 施 例〕
以下、本発明の一実施例の図面を参照して説明する。
第2図は一実施例が適用される車両の伝動系の概略構
成を示すもので、車体前部にエンジン1,トランスミッシ
ョン2が車体前後方向に縦置き配置され、プロペラシャ
フト3,後輪駆動用の独立差動装置4を介して左右の後輪
5a,5bに動力伝達されるようになっている。
前記独立差動装置4は、第1図(a)に示すようにデ
ィファレンシャルキャリア6内に終減速歯車であるハイ
ポイドピニオンギヤ7,ハイポイドドライブギヤ8および
リヤディファレンシャル9を収容したもので、ディファ
レンシャルキャリア6の後端部はカバー10で覆われ、ま
た前端部にはエクステンションケース11が連設されてい
る。そしてハイポイドピニオンギヤ7は、前記プロペラ
シャフト3に接続する軸部7aが、ディファレンシャルキ
ャリア6側のダブルテーパローラベアリング12とエクス
テンションケース11側のボールベアリング13とで回転自
在に2点支持されている。またこのハイポイドピニオン
ギヤ7と噛合うハイポイドドライブギヤ8は、リヤディ
ファレンシャル9におけるディファレンシャルケース9a
のフランジ接合部にボルト固定されている。
前記リヤディフアレンシャル9は、ピニオンシャフト
9bに回転自在に支持されたディファレンシャルピニオン
9cやこれに噛合う左右のサイドギヤ9d,9eなどをディフ
ァレンシャルケース9a内に収容したもので、上記サイド
ギヤ9d,9eにスプライン嵌合する左右のアクスルシャフ
ト14,15は、ディファレンシャルケース9aの筒部9f,9f内
に回転自在に嵌合して挿通されている。そしてこのディ
ファレンシャルケース9aの筒部9f,9fは、前記ディファ
レンシャルキャリア6に嵌合固定したリテーナベアリン
グ16,17に嵌合し、かつテーパローラベアリング18,18を
介して回転自在に支持されており、このようなディファ
レンシャルケース9aと一方のサイドギヤ9dとの間には湿
式油圧多板クラッチ19が介設されている。
またディファレンシャルキャリア6内は、ハイポイド
ピニオンギヤ7の軸部7aに外装したオイルシール20とデ
ィファレンシャルケース9aの筒部9f,9fに外装したオイ
ルシール21,21およびピニオンシャフト9bとディファレ
ンシャルケース9aの嵌合部に装着したシールリング9
b′,9b′とディファレンシャルケース9aのフランジ接合
部に装着したシールリング9a′とによって液密に区画さ
れており、ハイポイドピニオンギヤ7,ハイポイドドライ
ブギヤ8,ダブルテーパローラベアリング12,テーパロー
ラベアリング18などの潤滑油(ハイポイドギヤ油)がリ
ヤディファレンシャル9内およびディファレンシャルキ
ャリヤ6とエクステンションケース11間に形成される湿
式油圧多板クラッチ用の作動油を溜めている部位6c内に
浸入しないようになっている。そしてこのリヤディファ
レンシャル9およびディファレンシャルキャリア6とエ
クステンションケース11間に形成される湿式油圧多板ク
ラッチ用の作動油を溜める部位6cを湿式油圧多板クラッ
チ19と共に潤滑し、これに作動油を供給するために、デ
ィファレンシャルキャリア6の側面には電動式のオイル
ポンプ22が付設されると共に、その下面には油圧制御装
置23を内蔵するオイルパン24が付設されている(第1図
(b)参照)。
前記湿式油圧多板クラッチ19は、ディファレンシャル
ケース9aをクラッチドラム19aと兼用するもので、クラ
ッチハブ19bは前記一方のサイドギヤ9dの外周にスプラ
イン嵌合されてディファレンシャルケース9aの筒部9fの
内端部に係止されている。そしてクラッチドラム19aの
内周には、複数枚のリング状クラッチプレート19cが両
端部のリテーナプレート19d,19eと共にスプライン嵌合
し、一方、クラッチハブ19bの外周には、複数枚のリン
グ状クラッチディスク19fが上記クラッチプレート19cと
交互に配置されてスプライン嵌合し、これらのクラッチ
プレート19c,リテーナプレート19c,19e,クラッチディス
ク19fで多板クラッチが構成されている。またこのよう
な多板クラッチに押圧力を付与するピストン19gは、デ
ィファレンシャルケース9a内周とその筒部9fの内端部外
周とに摺動自在に嵌合するリング状をなしてディファレ
ンシャルケース9aとの間に油圧室19hを形成している。
そしてこの油圧室19hの反対側には、油圧室19h内に発生
する遠心油圧とバランスする遠心油圧を発生するための
バランス油圧室19iが形成され、このバランス油圧室19i
内においてピストン19gは、復帰用の皿バネ19jを介して
リテーナプレート19eに係合している。
一方、前記オイルポンプ22は、ディファレンシャルキ
ャリア6に形成したオイルポンプキャリア6a内にモータ
駆動されるインナロータ22aおよびこれに噛合うアウタ
ロータ22bを回転自在に収容した内接歯車ポンプであ
り、図示省略した油路を介してオイルパン24内に油圧制
御装置23およびオイルストレーナ25に連通構成されてい
る(第3図参照)。
前記油圧制御装置23は、レギュレータバルブ26,クラ
ッチコントロールバルブ27,パイロットバルブ28などを
一体構成したもので、前記リテーナベアリング16,17に
それぞれ設けた吸入ポート16a,17aに対し油路16c,17cを
介して連通構成されている。そしてリテーナベアリング
16の油圧連絡ポート16aは、前記ディファレンシャルケ
ース9aの筒部9fに設けたポート16dおよびアクスルシャ
フト14の外周に設けた螺旋状の油溝16eなどからなる油
路を介して湿式油圧多板クラッチ19の油圧室19hに連通
する。またリテーナベアリング17側の油圧連絡ポート17
aは、筒部9fに設けたポート17dおよびアクスルシャフト
15の外周に設けた螺旋状の油溝17eを介してディファレ
ンシャルケース9aの内部に連通している。
また、リテーナベアリング16の油圧連絡ポート16f
は、アクスルシャフト14の中に設けた連絡穴14bおよび
アクスルシャフト14の端部に形成した溝14aを介してデ
ィファレンシャルケース9aの内部に連通しており、詳細
図示省略した油路14cを介して油圧制御装置23内の図示
しない排油ポートに連通している。
ここで湿式油圧多板クラッチ19の油圧制御系について
説明する。これは第3図に示すように前記オイルポンプ
22からレギュレータバルブ26で圧力調整されて湿式油圧
多板クラッチ19の油圧室19hに至る油路中に介設したク
ラッチコントロールバルブ27をデューティ圧制御するも
ので、パイロットバルブ28を介してクラッチコントロー
ルバルブ27に至るパイロット圧の油圧回路中に排出制御
用のデューティソレノイドバルブ29が挿入される。そし
てこのデューティソレノイドバルブ29が制御ユニット30
からのデューティ信号により所望のデューティ圧に調整
することで、クラッチコントロールバルブ27は所望のク
ラッチ圧に調整されるようになっている。そしてこのク
ラッチ圧の変化に応じて湿式油圧多板クラッチ19は伝達
トルク(差動制限トルク)を変化するのであり、前記デ
ューティ比とデューティ圧およびデューティ圧と差動制
限トルクとの関係は第4図(a),(b)に示すとおり
である。また前記プレッシャレギュレータバルブ26で圧
力調整されたオイルは、リテーナベアリング17の油圧連
絡ポート17aを介してディファレンシャルケース9a内に
ほぼ充填され、そこでディファレンシャルピニオン9c,
サイドギヤ9d,9e,クラッチプレート19c,クラッチディス
ク19fなどを潤滑し、かつピストン19gと皿バネ19j間に
設けられたバランス油圧室19iにもオイルが充填される
ようになっている。一方、ディファレンシャルケース9a
内に供給されたオイルは、アクスルシャフト14内部の連
絡穴14bから潤滑油ドレーン油路14cを介してオイルパン
24内に戻るようになっている。
第5図は、制御ユニット30内において行なわれる処理
の流れを示している。まず、左右駆動輪の回転数を検出
して左右輪のスリップの有無を演算し、左右輪のスリッ
プが設定値以下ならば、スロットル開度,車速,加速
度,ギヤ位置,転舵角等で予め設定したマップから必要
差動制限トルクを検索する。そしてこのクラッチのトル
ク伝達容量に対応したデューティ比を選択してデューテ
ィソレノイドバルブ29に出力する。ここで、左右輪のス
リップが所定値以上になるとスリップと判定し、スリッ
プ発生時のマップ値を検索してデューティソレノイドバ
ルブ29に出力する。
以上の構成を有する車両は、エンジン1からトランス
ミッション2を介して伝達された動力をそこで適宜変速
し、プロペラシャフト3を介して独立差動装置4に入力
する。そして独立差動装置4内のリヤディファレンシャ
ル9を介して左右の後輪5a,5bに動力伝達して2輪駆動
する。
ここでリヤディファレンシャル9のディファレンシャ
ルケース9aとサイドギヤ9dとの間に、伝達トルクが可変
の湿式油圧多板クラッチ19が介設れているので、その伝
達トルクに応じて差動制限トルクは連続的に変化する。
すなわち制御ユニット30からのデューティ比信号に応じ
たクラッチ圧の変化により差動制限トルクが連続的に変
化するのである。例えばデューティ比100%の湿式油圧
多板クラッチ19の伝達トルクをゼロとした場合には差動
制限作用は行なわれず、左右の後輪5a,5bは直進状態で
路面抵抗が等しい場合、左右のサイドギヤ9d,9eにかか
る抵抗が等しいのでピニオン9cは回転せず、ディファレ
ンシャルケース9a,ピニオンシャフト9bおよびサイドギ
ヤ9d,9eは一体となって回転し、左右輪の駆動トルクは5
0%,50%に動力分配されると共に、路面抵抗が等しい旋
回等には自由に差動作用する。
しかし、片輪が舗装路等の摩擦係数の高い路面に接
し、反対側が圧雪等の摩擦係数の低い路面に接する場
合、ディファレンシャルケース9aが回転すると路面抵抗
の差により差動作用が生じ、摩擦係数の高い路面に接し
ている駆動輪は駆動力を失ない、例えば泥ねい地,不整
地あるいは雪上等からの脱出は難しくなる。
一方、デューティ比0%として湿式油圧多板クラッチ
19を直結した場合にはリヤディファレンシャル9はロッ
クされ、左右の後輪5a,5bは路面摩擦係数が左右で異な
り、路面抵抗に差が生じた場合においても50%,50%に
動力分配され、駆動力が確保される。
そして特にデューティ比を0%から増加していった場
合には湿式油圧多板クラッチ19の伝達トルクが漸次低下
してデフロック状態は徐々に解除され、差動制限トルク
を低い値にすれば左右の後輪5a,5bは路面抵抗が等しい
旋回時に左右輪の回転差による差動作用が発生し、また
路面摩擦係数が左右で異なる旋回の場合にも高い路面摩
擦係数側の駆動輪は駆動力を失なうことなく作動作用を
する。そしてこの差動時および直進状態時には、車両の
走行状態や路面状況に応じた差動制限作用により所定比
率までの範囲で差動制限トルクを自由に変化させながら
左右の後輪5a,5bに動力分配されるのである。
そこで制御ユニット30にスロットル開度信号,変速レ
ンジ信号,左右の後輪回転信号,舵角信号等の各種の信
号を入力し、あらかじめ各変速レンジ毎に設定されたデ
ューティ比のテーブルマップから最適デューティ比をマ
ップ検索して信号出力することにより、車両の高速時,
低速時,加速時,減速時,直進時,旋回時などの各種走
行状態や路面条件に応じた最適な左右の後輪5a,5bへの
動力分配が可能となり、走行安定性,運転性,発進性な
どを向上することができる。また、ブレーキ系にアンチ
ロックブレーキシステムを備えた車両では、その作動時
における左右の後輪5a,5b間の差動状態が湿式油圧多板
クラッチ19を解放することで得られるから、アンチロッ
クブレーキの機能を有効に発揮し得る。
ここで車両の路面抵抗が等しい旋回時等における差動
制限作用時の湿式油圧多板クラッチ19の挙動についてみ
ると、差動制限トルクを低い値に制御するように前述の
マップ検索によりデューティソレノイドバルブ29がデュ
ーティ制御されるから、油圧室19hにはクラッチコント
ロールバルブ27で所定値に調圧された作動油圧が作用
し、クラッチプレート19cとクラッチディスク19fとの間
に相対スベリが生じる。この場合、湿式油圧多板クラッ
チ19はハイポイドピニオンギヤ7,ハイポイドドライブギ
ヤ8などの潤滑油(ハイポイドギヤ油)とは分離するよ
うにディファレンシャルケース9a内に配置されて所定の
組成を有する適切な潤滑油が使用されることから、所望
の摩擦特性が得られ、スティックスリップを伴なわずに
滑らかにスベリ作用する。従って車両は不快な振動や騒
音を生じることがなく、またクラッチプレート19c等の
摩擦材についても所望の信頼性および耐久性が得られ
る。
またディファレンシャルケース9a内は、潤滑油がオイ
ルポンプ22から油圧制御装置23を介して常時供給されて
充填状態になっており、しかも湿式油圧多板クラッチ19
のピストン19gの両側には、油圧室19hとバランス油圧室
19iが形成され、ディファレンシャルケース9aを回転す
るに伴い油圧室19h内からピストン19gに作用する遠心油
圧と、ディファレンシャルケース9aの回転に伴うバラン
ス油圧室19i側からピストン19gに作用する遠心油圧は、
ピストン19gの受圧面積が等しいためキャンセルするよ
うになり、作動油圧の制御は正確なものとなり、湿式油
圧多板クラッチ19は制御精度が向上し、中速から高速域
の駆動,制動安定性が向上する。
なお、上述した実施例は、フロントエンジン・リヤド
ライブ(FR)方式の2輪駆動車に本発明を適用したもの
を示すが、前輪もしくは後輪側に独立差動装置をもつ4
輪駆動車あるいは複数の車輪を駆動可能な作業車にも本
発明が適用できることは、言うまでもない。
また、独立差動装置にオイルポンプおよび油圧制御装
置を取付けた構成を示したが、独立差動装置以外の車体
もしくはエンジン,トランスミッションに取付け、外部
配管で構成するものに本発明が適用できることは言うま
でもない。
〔発明の効果〕
以上説明したように、本発明によれば、独立差動装置
のディファレンシャルケースとサイドギヤとの間に差動
歯車の差動作用を制限するトルクを発生させる湿式油圧
多板クラッチを介設し、車両の走行状態に応じて油圧制
御装置により湿式油圧多板クラッチのピストンの一方側
に形成された油圧室へ供給する作動油の油圧を制御する
ので、その差動油圧の制御に応じて湿式油圧多板クラッ
チによる差動制限トルクが連続的に変化し、車両の走行
状態や路面状況に応じて左右駆動輪へ任意の比率で動力
伝達され、泥ねい地、不整地等からの脱出や走行を容易
にすることができると共に、路面状況に応じた車両の最
適な駆動、制動安定性が得られ、旋回時における車両の
コーナリング特性を制御することができる。
また、ディファレンシャルケースの外側の終減速歯車
用潤滑油と分離して、ディファレンシャル装置を構成す
る湿式油圧多板クラッチ、ピニオン、及びサイドギヤを
ディファレンシャルケース内に配置し、さらに、上記湿
式油圧多板クラッチを作動すると共に該湿式油圧多板ク
ラッチ、上記ピニオン及びサイドギヤを潤滑する作動油
を貯溜する油溜りを、上記終減速歯車用の潤滑油と分離
して独立差動装置本体に設け、上記油溜りに貯溜された
作動油をオイルポンプにより昇圧して油圧制御装置に送
出する。そして、この油圧制御装置により、湿式油圧多
板クラッチのピストンの一方側に形成された油圧室へ供
給する作動油の作動油圧を車両の走行状態に応じて制御
し、この作動油圧による作動油を湿式油圧多板クラッチ
の油圧室に供給して該湿式油圧多板クラッチによる差動
制限トルクを制御すると共に、ディファレンシャルケー
ス内に配置された上記湿式油圧多板クラッチ、ピニオ
ン、及びサイドギヤへ潤滑用として供給する作動油の潤
滑油圧を制御して、この潤滑油圧による作動油を湿式油
圧多板クラッチ、ピニオン、及びサイドギヤに供給して
これらを潤滑するので、湿式油圧多板クラッチの作動、
並びに、ディファレンシャル装置を構成する該湿式油圧
多板クラッチ、ピニオン、及びサイドギヤの潤滑を行う
ための作動油を、終減速歯車用潤滑油と完全に分離する
ことができる。
従って、終減速歯車に対しては従来と同様に、噛み合
い接触面での高面圧を重視した極圧添加剤を含んだ終減
速歯車用の潤滑油を用いることができ、また、ディファ
レンシャル装置を構成する湿式油圧多板クラッチ、ピニ
オン及びサイドギヤに対しては、該湿式油圧多板クラッ
チの作動、並びに、この湿式油圧多板クラッチ、ピニオ
ン及びサイドギヤの潤滑に適正な所定の組成を有する作
動油の使用が可能となる。その結果、湿式油圧多板クラ
ッチは、その潤滑に適正な作動油の使用により、所望の
摩擦特性が得られ、路面抵抗の等しい舗装路で大きく転
舵して左右輪に差動制限トルクを与えながら走行する場
合にも不快なスティックスリップを伴わずに滑らかにス
ベリ作用することが可能となる。
また、終減速歯車用の潤滑油と分離して独立差動装置
本体に設けた油溜りに貯溜された作動油をオイルポンプ
により昇圧して油圧制御装置に送出し、該油圧制御装置
により、ディファレンシャルケース内に配置された上記
湿式油圧多板クラッチ、ピニオン、及びサイドギヤへ潤
滑用として供給する作動油の潤滑油圧を制御し、この潤
滑油圧による作動油を湿式油圧多板クラッチ、ピニオ
ン、及びサイドギヤに供給するため、ディファレンシャ
ル装置を構成する湿式多板クラッチ、ピニオン及びサイ
ドギヤを強制潤滑することが可能となり、これら湿式油
圧多板クラッチ、ピニオン及びサイドギヤに対する潤滑
性を向上することができ、更に、油圧制御装置により適
切に潤滑油圧が制御されるため、デファレンシャルケー
ス内に配置された湿式油圧多板クラッチ、ピニオン及び
サイドギヤを、常に適正に潤滑することができる効果を
有する。
更に、ディファレンシャルケース内に配置された上記
湿式油圧多板クラッチ、ピニオン、及びサイドギヤを潤
滑し、且つ、ピストンの一方側の油圧室に供給して湿式
油圧多板クラッチを作動すると共に、ピストンの他方側
のバランス油圧室に供給して上記油圧室に作用する遠心
油圧をキャンセルするための作動油は、独立差動装置本
体に別途設けた油溜りから供給するので、経時使用によ
り作動油が劣化しても、この油溜りから容易に作動油を
交換することができる。
また、湿式油圧多板クラッチには、油圧室側からピス
トンに作用する遠心油圧をキャンセルするためのバラン
ス油圧室がディファレンシャルケース内に設けられてい
るので、遠心油圧の影響を除去して、差動油圧の制御を
正確に行うことが可能となり、特に中速から高速域にお
いて湿式油圧多板クラッチの制御精度が向上し、駆動、
制動安定性を向上することができる。
更に、上記湿式油圧多板クラッチのピストンの他方側
に、上記油圧室に作用する遠心油圧をキャンセルするた
めに形成したバランス油圧室には、上記湿式油圧多板ク
ラッチ、ピニオン、及びサイドギヤへ潤滑用として供給
された作動油が充填されるので、バランス油圧室に対す
る油供給のために別途油路を形成することなく実現で
き、また、ディファレンシャル装置を構成する湿式油圧
多板クラッチの作動、該湿式油圧多板クラッチ、ピニオ
ン及びサイドギヤの潤滑、並びに、バランス油圧室に充
填する油は、全て兼用することが可能となる。そして、
ディファレンシャル装置を構成する湿式油圧多板クラッ
チの作動、該湿式油圧多板クラッチ、ピニオン及びサイ
ドギヤの潤滑、並びに、バランス油圧室に充填する油
は、同一の作動油を同一の油圧源から油圧制御装置を介
して供給されるため、スティックスリップの防止、ディ
ファレンシャル装置を構成する湿式油圧多板クラッチ、
ピニオン及びサイドギヤの潤滑性の向上、湿式油圧多板
クラッチの制御精度の向上を、構成簡素にして実現する
ことができる効果を有する。
【図面の簡単な説明】
第1図(a)は本発明の一実施例を示す要部断面図、第
1図(b)は第1図(a)のB−B線断面図、第2図は
一実施例が適用される車両の伝動系の概略構成図、第3
図は一実施例に使用する油圧制御回路図、第4図(a)
はデューティ圧の特性図、第4図(b)は差動制限トル
クの特性図、第5図は制御装置内の演算処理の流れ図を
示すものである。 1……エンジン、2……トランスミッション、3……プ
ロペラシャフト、4……独立差動装置、5a,5b……後
輪、6……ディファレンシャルキャリア、7……ハイポ
イドピニオンギヤ、7a……軸部、8……ハイポイドドラ
イブギヤ、9……リヤディファレンシャル、9a……ディ
ファレンシャルケース、9b……ピニオンシャフト、9c…
…ディファレンシャルピニオン、9d,9e……サイドギ
ヤ、9f……筒部、10……カバー、11……エクステンショ
ンケース、12……ダブルテーパローラベアリング、13…
…ボールベアリング、14,15……アクスルシャフト、16,
17……リテーナベアリング、18……テーパローラベアリ
ング、19……湿式油圧多板クラッチ、19a……クラッチ
ドラム、19b……クラッチハブ、19c……クラッチプレー
ト、19d,19e……リテーナプレート、19f……クラッチデ
ィスク、19g……ピストン、19h……油圧室、19i……バ
ランス油圧室、19j……皿バネ、20,21……オイルシー
ル、22……オイルポンプ、23……油圧制御装置、24……
オイルパン、25……オイルストレーナ、26……レギュレ
ータバルブ、27……クラッチコントロールバルブ、28…
…パイロットバルブ、29……デューティソレノイドバル
ブ、30……制御ユニット。

Claims (1)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】前輪用または後輪用の独立差動装置におけ
    るディファレンシャルケース内に固定されるピニオンシ
    ャフトに、複数のピニオンを回転自在に装着し、該ピニ
    オンに噛合する一対のサイドギヤを上記ディファレンシ
    ャルケース内に回転自在に配設すると共に、ディファレ
    ンシャルケースと一方のサイドギヤとの間に、作動油圧
    の制御に応じて伝達トルクを変化して差動制限する湿式
    油圧多板クラッチを介設した車両用差動制限装置におい
    て、 上記湿式油圧多板クラッチ、ピニオン、及びサイドギヤ
    を、上記ディファレンシャルケースの外側の終減速歯車
    用の潤滑油と分離して、ディファレンシャルケース内に
    配置し、 上記湿式油圧多板クラッチを作動すると共に該湿式油圧
    多板クラッチ、上記ピニオン及びサイドギヤを潤滑する
    作動油を貯溜する油溜りを、上記終減速歯車用の潤滑油
    と分離して独立差動装置本体に設け、 上記油溜りに貯溜された作動油を昇圧して送出するオイ
    ルポンプと、 上記オイルポンプに連通構成され、上記湿式油圧多板ク
    ラッチを作動するため該湿式油圧多板クラッチのピスト
    ンの一方側に形成された油圧室へ供給する作動油の作動
    油圧を車両の走行状態に応じて制御すると共に、上記湿
    式油圧多板クラッチ、ピニオン、及びサイドギヤへ潤滑
    用として供給する作動油の潤滑油圧を制御する油圧制御
    装置とを備え、 更に、上記湿式油圧多板クラッチのピストンの他方側
    に、上記油圧室に作用する遠心油圧をキャンセルするた
    め、上記湿式油圧多板クラッチ、ピニオン、及びサイド
    ギヤへ潤滑用として供給された作動油が充填されるバラ
    ンス油圧室を形成したことを特徴とする車両用差動制限
    装置。
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