JP2720579B2 - 原子間力顕微鏡用カンチレバーの製造方法 - Google Patents

原子間力顕微鏡用カンチレバーの製造方法

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Description

【発明の詳細な説明】 産業上の利用分野 本発明は原子間力顕微鏡に関するものであり、とりわ
け微小平板の自由端側に探針を有する原子間力顕微鏡用
薄膜カンチレバーに関するものである。
従来の技術 従来、固体表面を原子オーダで観察できる装置として
走査型トンネル顕微鏡(以後STMと呼ぶ)が開発されて
いる。しかし、STMは試料と探針間のトンネル電流を検
出して試料表面を観察するため、絶縁体表面は観察不可
能であった。この問題を解決するために試料と探針間に
働く原子間力を検出して試料表面を観察しようとする原
子間力顕微鏡(以後AFMと呼ぶ)が提案されている。こ
のAFMの分解能はSTMと同様に探針先端部の曲率半径に大
きく依存し、曲率半径が小さいほど分解能は上がる。AF
Mでは微少な力を検出するため微小な探針を有するカン
チレバーが必要である。原子間力顕微鏡用カンチレバー
の一例を第6図に示す。この例ではカンチレバー35はSi
O2薄膜あるいはSi3N4薄膜で形成され、平板形状のカン
チレバーとなっている。このカンチレバーは、通常、フ
ォトエッチング技術により作製される。さらにカンチレ
バー先端部には探針36が設けられている。従来、この探
針としては、カンチレバー先端部分を探針として併用し
たもの、結晶のエッチピットを鋳型として利用し作製し
たもの、異方性エッチングや等方性エッチングにより作
製したもの等が使用され、先端部の曲率半径が最小で30
0Å程度の探針が得られている。
発明が解決しようとする課題 AFM用カンチレバーは上記のような種々の手法によっ
て作製されているにもかかわらず、それぞれに問題点を
残している。カンチレバー先端部分を探針として利用す
る場合には、カンチレバーと探針間の密着性に関する問
題はなく、製造工程も比較的簡単であるが、フォトリソ
グラフィの精度で先端曲率半径が決まるため、通常のフ
ォトエッチング技術では数1000Å程度が限界であり、顕
微鏡としての分解能は低くなる。これ以下の曲率半径の
微細加工にはFIB等のマスクレスエッチング技術が必要
となるが、製造工程が複雑化するとともに、コスト面の
問題も生じてくる。結晶のエッチピットを鋳型として探
針を先端部に作製したカンチレバーでは、曲率半径は比
較的小さくできるが、工程が複雑となり、また探針とカ
ンチレバーの密着性が悪いため、振動モードでの観測が
困難である。さらに、現在のところいずれの手法におい
ても、作製可能な探針先端部の最小曲率半径は300Å程
度が限界とおり、原子オーダの分解能を有する原子間力
顕微鏡を実現する上での大きな課題となっている。本発
明は、尖端部がさらに小さな曲率半径の探針を有する原
子間力顕微鏡用カンチレバーを作製し、原子オーダの分
解能を有する原子間力顕微鏡を提供することを目的とす
る。
課題を解決するための手段 シリコン基板表面に尖端部分を有するシリコンの突起
物あるいはステップを形成し、1050℃以下の温度で表面
を熱硬化あるいは1150℃以下の温度で表面を熱窒化す
る。続いて表面に形成された酸化物あるいは窒化物を除
去し、この工程以前の曲率半径よりも小さな曲率半径の
尖端部を有するシリコン突起物あるいはステップを形成
する。その後、前記シリコン基板表面を酸化あるいは窒
化し、シリコン基板表面に酸化膜あるいは窒化膜を形成
し、この薄膜をフォトエッチング技術により、先端部分
に前記突起物あるいはステップ尖端部分が形成されるよ
うな凸状部を有する平板形状に微細加工する。さらに、
形成された薄膜凸状部下部のシリコンを除去することに
よって、先端部分に微小曲率の探針を有するカンチレバ
ーを作製する。
作用 上記の製造方法において、シリコン基板表面に作製さ
れる尖端部を有する突起物は、シリコン基板表面にエッ
チング用マスクを作製しマスク下部のシリコンを異方性
エッチングあるいは等方性エッチングする従来の手法に
より作製できる。また尖端部を有するシリコンのステッ
プも従来のフォトエッチング技術により作製できる。し
かし、これらの手法では尖端部の曲率半径は最小300Å
程度が限界となっている。このようにして作製された尖
端部を熱酸化すれば、シリコンの酸化に伴う体積膨張に
より尖端部には応力が発生する。特に1050℃以下の低温
で熱酸化すれば、酸化膜の粘度が高いため、酸化により
生じた応力の緩和速度がシリコンの酸化速度に比べて遅
くなるため、尖端部では応力が増大し、他の部分に比べ
てシリコンの酸化が抑制される。この結果、尖端部で
は、生成された酸化膜下部のシリコン尖端部の形状は熱
酸化以前の曲率半径よりもかなり小さな曲率半径とな
る。以上の作用は1150℃以下の温度で熱窒化した場合に
も現れる。したがって、尖端部表面の酸化膜あるいは窒
化膜をを除去した後、シリコン基板を酸化あるいは窒化
し、この突起物やステップの尖端部分がカンチレバーの
自由端部分にくるように従来のフォトエッチング技術に
より加工すれば、非常に微小な先端曲率半径の探針を有
する原子間力顕微鏡用カンチレバーが得られ、このカン
チレバーを用いることで原子オーダの分解能を有する原
子間力顕微鏡が実現可能となる。
実施例 実施例1 第1図(a)〜(f)に実施例1の原子間力顕微鏡用
探針の製造プロセスを示す。厚さ300〜400μmの(10
0)シリコン基板1の表面にフォトエッチング技術を用
いて、厚さ1000Åの熱酸化SiO2膜でエッチング用マスク
2を作製する(第1図a)。なお、このマスクはSi3N4
膜を用いてもよい。作製されたマスク2は、各辺がシリ
コン基板の<110>方向に沿った6μm角の正方形とな
っている。この基板をエチレンジアミン680ml、ピロカ
テコール120g、水320mlを混合して作製したエッチング
液に110℃で浸漬し、シリコンを異方性エッチングす
る。この溶液における各結晶面に対するエッチング速度
を表1に示す。
エッチングが進行すれば、シリコン(111)面3のエ
ッチング速度が極端に遅いため、SiO2マスク2下部には
(111)面3を側面とする四角錘のシリコン突起物4が
形成される。突起物の側面は基板に対し、55度の角度を
成す。本実施例では、形成されたシリコン突起物の尖端
部の曲率半径は500Å程度であった(第1図b)。次に
この基板1をバッファエッチ溶液(HF1容とNH4F6容の混
合液)に浸漬してSiO2マスク2をエッチングにより除去
する。Si3N4マスクを用いる場合には、HFによりマスク
をエッチングできる。次に作製されたシリコン突起物4
の表面を、950℃で乾燥酸素によりドライ酸化し、酸化
膜5を形成する(第1図c)。この酸化過程では、尖端
部のシリコンは酸化時の体積膨張による応力を受け、他
の部分に比べ酸化速度が遅くなり、酸化膜下部のシリコ
ン尖端部の曲率半径は酸化以前に比べて小さくなる。酸
化膜の厚さが厚くなると酸化速度が遅くなり、発生する
応力の緩和速度の方が早くなり、上記のような作用が得
られなくなる。従って、この工程での酸化膜の厚さは、
1μm以下が望ましい。本実施例では1000Åの酸化膜を
作製した。次に、表面酸化膜5をバッファエッチ溶液で
除去することにより、非常に小さな曲率半径の尖端部分
6を有するシリコン突起物7が得られる(第1図d)。
本実施例では、100Å以下の曲率半径の尖端部分を有す
るシリコン突起物7が作製された。次に、このシリコン
基板1を1100℃で水蒸気によりスチーム酸化し、厚さ1.
5μm程度の酸化膜8、9をシリコン基板の両面に形成
する。次に突起物7を有する側の酸化膜8をフォトエッ
チング技術を用いて、先端部に前記突起物7が形成され
るような長さ100μm程度のV型あるいは長方形のカン
チレバー部分10とその基板部分11を有する形状に微細加
工する。この基板部分11は各辺がシリコン基板の<110
>方向を向いた四角形である。さらに、もう一方の面の
酸化膜9をフォトエッチング技術により、前記カンチレ
バー基板部分11をシリコン基板表面に対し55度の角度方
向に縮小した形状に微細加工する(第1図e)。次にこ
のシリコン基板1をエチレンジアミン680ml、ピロカテ
コール120g、水320mlを混合して作製したエッチング液
に110℃で浸漬し、シリコンを異方性エッチングする。
エッチングはシリコン基板両面から(111)面12に沿っ
て進行し、カンチレバー部分10がその基板11から突出し
た形状になり、100Å以下の曲率半径の尖端部分6を有
する探針13が設けられたカンチレバー10が作製される
(第1図f)。
なお、シリコン突起物やカンチレバーを作製時のシリ
コンの異方性エッチング液は、エチレンジアミン、ピロ
カテコール、水の混合液に限られるものではなく、KOH
水溶液やヒドラジン水溶液をシリコンのエッチング液と
して用いても異方性エッチングにより同様の形状のシリ
コン突起物やカンチレバーが作製される。
また、シリコン突起物はシリコン異方性エッチング技
術を用いて作製したが、等方性エッチング技術を用いて
も作製できる。この場合、エッチング液としては、HF、
HNO3、CH3COOHの混合液が用いられる。例えばHF1容、HN
O325容、CH3COOH10容の混合液では約0.5μm/minのエッ
チング速度が得られる。第2図(a)に異方性エッチン
グ技術を用いた場合の探針、第2図(b)に等方性エッ
チング技術を用いた場合の探針の斜視図を示す。異方性
エッチング技術を用いた場合には、作製される探針14は
四角錘の形状であるが、等方性エッチング技術を用いれ
ば、マスクの形状に応じた形状の探針が作製される。第
2図(b)は、円形のマスクで等方性エッチングを行っ
た例であり、円錐状の探針15が作製される。
また、本実施例ではシリコン突起物表面を1050℃以下
の温度で熱酸化したが、1150℃以下の温度で熱窒化して
も、同様の効果が得られる。この場合、熱窒化は、窒素
あるいはアンモニア雰囲気中で行うことができ、作製さ
れた窒化膜はHFによりエッチングできる。
さらに、本実施例ではシリコン基板を酸化し、形成さ
れた酸化膜でカンチレバーを作製したが、シリコン基板
を窒化し、形成された窒化膜でカンチレバーを作製して
もよい。この場合、窒化膜は酸化膜より機械的強度が高
く、より薄いカンチレバーを作製することができる。
第3図に本実施例により作製されたカンチレバー16を
有する原子間力顕微鏡の測定部の概略図を示す。測定試
料17はX,Y,Zの3方向に微動可能な試料台18上に固定さ
れる。探針19を試料表面に近づけると探針19と試料17間
に原子間力が働き、カンチレバー16がたわむ。このたわ
み量をレーザー20と光検出器21を組み合わせた光てこに
より測定しながら、試料17をX,Y方向に走行すること
で、試料表面の形状を観測する。この原子間力顕微鏡で
は、原子オーダの分解能が得られる。
なお、カンチレバーのたわみ量の測定は、光干渉計を
用いてもよく、さらに、カンチレバーの背面を導電材料
で被覆することによりSTMを用いても測定可能である。
実施例2 第4図に実施例2の製造方法で作製された原子間力顕
微鏡用探針22およびカンチレバー23の概略図を示す。カ
ンチレバー自由端側の尖端部を探針として用いる。
本実施例で用いた原子間力顕微鏡用探針の製造プロセ
スを第5図(a)〜(e)に示す。厚さ300〜400μmの
(100)シリコン基板24の表面にフォトエッチング技術
を用いて、尖端部25を有する長さ100μm程度のV型の
カンチレバー部分26とその基板部分27を作製する(第5
図a)。この基板部分27は各辺がシリコン基板の<110
>方向を向いた四角形となっている。次に、カンチレバ
ー尖端部25を950℃で乾燥酸素によりドライ酸化し、厚
さ1000Å程度の酸化膜28を形成する(第5図b)。実施
例1と同様に、この熱酸化の結果、表面酸化膜28をバッ
ファエッチ溶液で除去すれば、得られるシリコン尖端部
のエッジ部分29は非常に小さな曲率半径となる(第5図
c)。本実施例では、100Å以下の曲率半径のエッジ部
分が作製された。次に、このシリコン基板24を1100℃で
水蒸気によりスチーム酸化し、厚さ1.5μm程度の酸化
膜30、31をシリコン基板の両面に形成する。次に尖端部
を有する側の酸化膜30をフォトエッチング技術を用い
て、カンチレバー部分32とその基板部分33を残してエッ
チングする。さらに、もう一方の面の酸化膜31をフォト
エッチング技術により、前記カンチレバー基板部分33を
シリコン基板表面に対し55度の角度方向に縮小した形状
に微細加工する(第5図d)。次にこのシリコン基板24
をエチレンジアミン680ml、ピロカテコール120g、水320
mlを混合して作製したエッチング液に110℃で浸漬し、
シリコンを異方性エッチングする。エッチングはシリコ
ン基板両面から(111)面34に沿って進行し、カンチレ
バー32がその基板33から突出した形状になり、100Å以
下の曲率半径の尖端部のエッジ部分29を探針とするカン
チレバー32が作製される(第5図e)。
なお、シリコンの異方性エッチングは、実施例1と同
様のエッチング液で行うことができる。
また、本実施例ではカンチレバー尖端部を1050℃以下
の温度で熱酸化したが、1150℃以下の温度で熱窒化して
も、同様の効果が得られる。この場合、熱窒化は、窒素
あるいはアンモニア雰囲気中で行うことができ、作製さ
れた窒化膜はHFによりエッチングできる。
さらに、本実施例ではシリコン基板を酸化し、形成さ
れた酸化膜でカンチレバーを作製したが、シリコン基板
を窒化し、形成された窒化膜でカンチレバーを作製して
もよい。この場合、窒化膜は酸化膜より機械的強度が高
く、より薄いカンチレバーを作製することができる。
本実施例により作製されたカンチレバーと実施例1と
同様のカンチレバーたわみ量を測定する機構とを組み合
わせることで、原子オーダの分解能を有する原子間力顕
微鏡が得られる。
発明の効果 本発明によれば、従来作製困難であった、100Å以下
の先端曲率半径を有し、また探針との密着性も良好な原
子間力顕微鏡用カンチレバーを作製することが可能とな
る。
【図面の簡単な説明】
第1図は、本発明の一実施例における原子間力顕微鏡用
カンチレバーの製造プロセスを説明するための工程図、
第2図は、上記実施例により作製した原子間力顕微鏡用
カンチレバーの斜視図、第3図は、上記実施例により作
製したカンチレバーを有する原子間力顕微鏡の測定部の
概略図、第4図は、本発明の他の実施例により作製した
原子間力顕微鏡用カンチレバーの斜視図、第5図は本発
明の他の実施例における原子間力顕微鏡用カンチレバー
の製造プロセスを説明するための工程図、第6図は、従
来の原子間力顕微鏡用カンチレバーおよび探針の斜視図
である。 1、24……シリコン基板、2……エッチング用マスク、
3、12、34……シリコン(111)面、4、7……突起
物、5、8、9、28、30、31……酸化膜、6、25……尖
端部分、10、16、23、26、32、35……カンチレバー、1
1、27、33……カンチレバー基板、13、14、15、19、2
2、36……探針、17……試料、18……試料台、20……レ
ーザー、21……光検出器、29……エッジ部分。

Claims (6)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】シリコン基板表面に尖端部を有するシリコ
    ンの突起物を作製後、1050℃以下の温度で前記突起物の
    表面を熱酸化し、続いて前記突起物表面に形成された酸
    化物を除去後、前記シリコン基板表面を酸化し、シリコ
    ン基板表面に酸化膜を形成し、さらに前記酸化膜をフォ
    トエッチング技術により、前記突起物が先端部分に形成
    された凸状部を有する平板形状に微細加工し、少なくと
    も前記酸化膜凸状部下部のシリコンを除去し、前記突起
    物が形成された凸状部先端部を自由端側とすることを特
    徴とする原子間力顕微鏡用カンチレバーの製造方法。
  2. 【請求項2】シリコン基板表面に、エッチング用マスク
    を形成後、前記シリコン基板を等方性エッチングするこ
    とにより、尖端部を有するシリコンの突起物を作製する
    ことを特徴とする請求項1に記載の原子間力顕微鏡用カ
    ンチレバーの製造方法。
  3. 【請求項3】(100)シリコン基板表面に、各辺が<110
    >方向に沿った正方形のエッチング用マスクを形成後、
    前記シリコン基板を異方性エッチングすることにより、
    四角錘状のシリコンの突起物を形成することを特徴とす
    る請求項1に記載の原子間力顕微鏡用カンチレバーの製
    造方法。
  4. 【請求項4】シリコン基板表面にフォトエッチング技術
    により、少なくとも面内方向に先端部が尖った形状の凸
    状部を有するステップを作製後、1050℃以下の温度で、
    前記尖端部の表面を熱酸化し、続いて前記尖端部表面に
    形成された酸化物を除去後、前記シリコン基板表面を酸
    化し、シリコン基板表面に酸化膜を形成し、さらに前記
    酸化膜をフォトエッチング技術により少なくとも前記凸
    状部を含むステップ形状に微細加工し、少なくとも前記
    酸化膜凸状部下部のシリコンを除去し、凸状部尖端部を
    自由端側とし、前記尖端部のエッジ部分を探針とするこ
    とを特徴とする原子間力顕微鏡用カンチレバーの製造方
    法。
  5. 【請求項5】1050℃以下の温度でシリコン突起物の表面
    またはステップ尖端部の表面を熱酸化した後、前記酸化
    物を除去することに代えて、1150℃以下の温度でシリコ
    ン突起物の表面またはステップ尖端部の表面を熱窒化し
    た後、前記窒化物を除去することを特徴とする請求項1
    から4のいずれかに記載の原子間力顕微鏡用カンチレバ
    ーの製造方法。
  6. 【請求項6】シリコン基板表面を酸化し、前記酸化膜を
    微細加工することに代えて、シリコン基板表面を窒化
    し、前記窒化膜を微細加工することを特徴とする請求項
    1から5のいずれかに記載の原子間力顕微鏡用カンチレ
    バーの製造方法。
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