JP2663769B2 - 湿潤硫化水素環境で疲労亀裂進展特性に優れる鋼 - Google Patents
湿潤硫化水素環境で疲労亀裂進展特性に優れる鋼Info
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輸送するタンカー用の鋼板のように湿潤硫化水素を含む
環境下で繰り返し応力を受ける用途に用いる疲労亀裂進
展特性に優れる鋼に関する。
いては水素誘起割れ(HIC) あるいは硫化物応力割れ(SS
C) が問題となることは既に衆知の事実であり、その防
止に関しては数多くの研究がなされ、幾多の対策が提案
されている。
割れであり、SSC は静的な応力下での割れである。HIC
やSSC は、湿潤硫化水素環境で鋼が腐食したときに発生
する水素が鋼中に侵入することによって生じる水素脆化
であり、鋼の脆化現象の1つである。
疲労破壊および腐食疲労破壊も、鋼のもう一つの大きな
脆化現象である。
いは海洋構造物、自動車のホイールやクランク軸、さら
には歯車用材料等の疲労および腐食疲労についてもまた
数多くの研究例がある。
ンの観点から、高張力鋼の使用が広がって来ている。そ
の場合、鋼材にはこれまで以上の応力がかかることにな
り、割れ以外に疲労の問題が懸念されるようになってき
た。ところが、先に述べたような湿潤硫化水素環境に曝
されるタンカーなどに用いられる鋼について、湿潤硫化
水素環境下の疲労挙動を調査した例は少ない。
er、1976) のO.VOSHIKOVSKI による「Fatigue Crack Gr
owth in an X65 Line-Pipe Steel in Sour Crude Oil」
と題する報告には、硫化水素濃度が高くなると疲労亀裂
進展速度が著しく加速することが明らかにされており、
湿潤硫化水素環境下の疲労に及ぼす環境効果は決して無
視できない問題であると考えられる。この硫化水素によ
ると思われる亀裂進展速度の加速は、水素脆性と重畳し
たためと考察されている。しかしながら、湿潤硫化水素
環境下の疲労に及ぼす材料因子について詳細に研究した
例は少なく、具体的な対策も見出されていない。
の大気中および湿潤硫化水素環境における疲労試験結果
である。縦軸のda/dN は亀裂進展速度で、応力サイクル
1回当たりの進展距離(mm)で表している。横軸のΔK
は最大応力拡大係数(Kmax)と最小応力拡大係数(Kmi
n)の差である。即ち、ΔK=Kmax −Kmin である。一
般に、亀裂進展速度(da/dN)は、ΔKに対して da/dN=
C(ΔK) m の関係が広く認められることから、横軸に
ΔKを取った。なお、応力拡大係数とは、腐食疲労現象
を、亀裂 (欠陥あるいは割れ) が存在するときの亀裂の
寸法・形状、材料の寸法・形状、荷重条件などの力学的
境界条件を標準化して取り扱う破壊力学において、応力
として取り扱われるものである。
硫化水素環境中では亀裂進展速度が大きい。特に、ΔK
の大きい領域(約 20ksi√in以上) で亀裂進展が加速さ
れている。
過酷化と、鋼材の高強度化に伴って頻発することが予想
される湿潤硫化水素環境下での疲労破壊に対処すること
を課題としてなされたものである。
用途に使用されるYS (降伏応力 )20〜45kgf/mm2 、TS
(引張強さ) 35〜60kgf/mm2 級の鋼材であって、湿潤硫
化水素環境下で使用されたときに疲労亀裂が進展しにく
い性質をもった鋼を提供することにある。
鋼にある。
0.6 %、Mn:0.3〜2.0 %、Cu:0.2〜1.0 %、sol.Al: 0.
01〜0.1 %およびCr:0.5%超2.0 %以下を含み、かつ、
0.5%≦Si+Cu≦ 1.5%を満足し、残部は不可避不純物
とFeからなる湿潤硫化水素を含む環境で疲労亀裂進展特
性に優れる鋼であって、繰り返し応力を受ける用途に用
いる鋼。」
った湿潤硫化水素環境下の疲労挙動に及ぼす材料因子に
ついて検討した結果に基づいてなされたものである。先
に掲げた文献に述べられているように、湿潤硫化水素環
境下の疲労挙動は水素脆性と重畳しており、鋼に固溶し
た水素濃度が高いほど亀裂進展速度が大きいことが判明
した。
素濃度を減少させることにより、疲労亀裂進展特性を向
上させることができると考えられる。
境では、鋼に添加したCuがCuS皮膜を形成することによ
り鋼中に侵入する水素濃度を下げることが既に知られて
いる。しかし、硫化水素を含む原油中に混入した水のpH
は、原油中の酸性不純物の影響によって、4以下、場合
によっては3程度まで低下することがある。そして、本
発明者の実験によれば、このような4以下という低いpH
の領域では、Cu添加だけでは充分効果がなく、亀裂進展
特性も改善されなかった。これは、上記のCu添加の効果
があるpH領域より強い酸性であるからと推定される。
は、体積ガス濃度1%の硫化水素(N2バランス)が吹き
込まれたpH3程度の水と原油の懸濁液中においても疲労
亀裂進展特性を改善する効果があることが判明した。
を含むpH3程度の低pHの環境でも、SiがCuS皮膜を緻密
に生成させ腐食を抑制するためと考えられる。すなわ
ち、SiがCuS皮膜の生成を助けていると考えられる。
含有させることにより、一層耐食性が向上し、硫化水素
ガス濃度10vol.%の混合ガスを水と原油の懸濁液に吹き
込んだような環境でも疲労亀裂進展特性が大きく改善さ
れることも判明した。Crも、Siと同様に硫化水素を含む
pH3程度の低pH環境で、CuS皮膜を緻密に安定化させて
腐食を抑制する効果があるものと推定される。また、Cr
とSiの相乗作用により、一層硫化水素濃度の高い原油と
水の懸濁液中でもCuS皮膜が安定に形成されて腐食を抑
制するものと推定される。
SiとCu、または更にCrを複合添加したことにあるが、前
述の用途に適する機械的性質、溶接性等の総合的な特性
は次に述べる各合金元素の総合的な作用効果によって得
られるものである。
明では、前記の強度レベルを保持するためにCの含有量
を0.01%(以下、合金成分に関する%は重量%を意味す
る)以上とした。これを下回ると本発明鋼の用途に必要
な鋼の強度を確保するのが困難である。一方、鋼の溶接
性を良好に保つために、C含有量の上限は 0.2%とし
た。本発明鋼の主要な用途では、溶接施工を受けること
が多い。C含有量が 0.2%を上回ると、溶接時に鋼中に
溶け込んだ水素が原因で、溶接熱影響部の硬化部に溶接
後しばらくして割れを生じる、いわゆる溶接割れが発生
しやすい。溶接割れには溶接熱影響部の硬さが大きく影
響し硬いほど割れやすくなる。Cの高い材料ほど硬化し
やすいから、これを防ぐにはCが低い方がよい。望まし
いC含有量は0.03〜0.18%である。
外に本発明では湿潤硫化水素環境での疲労亀裂進展特性
の改善のために積極的に利用する。Siの含有量が 0.2%
未満では、これらの効果が期待できない。一方、Siが
0.6%を超えると鋼の靱性が損なわれる。Siの望ましい
含有量は0.25〜0.5 %である。
0.3 %未満では本発明鋼の意図する用途に必要な強度を
確保するのが困難である。しかし、MnもCと同様、溶接
熱影響部を硬化させ溶接割れ惹起する成分であるから、
その含有量には上限がある。即ち、2.0 % を上回ると
溶接割れが発生しやすくなる。望ましいMnの含有量は0.
5〜1.8 %である。
り、sol.Alとして0.01%の含有量となるように添加する
必要がある。ただし、sol.Alの含有量が 0.1%を上回る
と鋼の清浄度および靱性が損なわれる。望ましいsol.Al
含有量の範囲は0.01〜0.05%である。
鋼の疲労亀裂進展特性の改善に必須の成分である。0.2
%未満では、添加の効果が小さい。一方、Cuは溶接割れ
を誘発し、また、高温で融解し鋼の粒界強度を下げて熱
間圧延途中に割れや傷を発生させやすくするから、その
含有量は 1.0%までにとどめるべきである。望ましいCu
の含有量は0.25〜0.5 %である。
存することに特徴がある。この共存の条件が 0.5%≦ S
i + Cu ≦ 1.5% である。Si+Cuが 0.5%未満である
と湿潤硫化水素環境での疲労亀裂進展特性の改善という
本発明の目的が達成できない。一方、Si+Cuが 1.5%を
超えても効果の増大はなく、鋼の靱性、溶接性が損なわ
れるという好ましくない影響が現れる。Si+Cuの望まし
い範囲は 0.6〜1.0 %である。
がFeと不可避の不純物からなるものである。不純物のう
ち、PとSは、それぞれ 0.025%以下、0.020 %以下に
抑えるのが望ましい。
てさらにCrを含有するものである。Crは 0.5%を超える
含有量で湿潤硫化水素環境での疲労亀裂進展特性の一層
の改善に有効である。ただし、CrもC、Mnと同様、溶接
熱影響部を硬化させ溶接割れを惹起する成分であるか
ら、添加する場合は含有量の上限を 2.0%とすべきであ
る。Crの望ましい含有量は 0.6〜1.5 %である。
いは圧延後放冷する熱間加工、更に要すれば冷間加工等
の工程を経て、板、管、フランジ等に加工され、通常は
加工のままで使用に供される。ただし、熱間加工後に水
冷等の加速冷却処理を施すとミクロ組織の均一化によっ
て亀裂進展特性が一層向上し、また、合金元素の添加を
少なくしても高強度化ができ、材料コストを下げること
ができる。これらの理由で、熱間加工後に加速冷却処理
を施すことが推奨される。
鋼の化学組成ならびに湿潤硫化水素環境における疲労試
験結果(ΔK= 20ksi√inにおける亀裂進展速度(da/d
N)、ならびに大気中の亀裂進展速度との比) を示す。
を熱間鍛造し、これを1150℃に加熱し、仕上温度 830℃
で熱間圧延して厚さ15mmの板とし、放冷して製造した。
試験片は、この板から亀裂進展方向が圧延方向と直交す
るように採取した。
(b) は試験片の形状を示す図である。(b) の形状、寸法
の試験片1に試験溶液槽2中で油圧シリンダー5により
繰り返し応力を負荷する。3は溶液循環ポンプ、4はロ
ードセル、6は油圧源、7はサーボバルブ、8は波形発
生器、9は負荷制御器である。
成、ならびに湿潤硫化水素環境下でΔK= 20ksi√inに
おける亀裂進展速度(da/dN)およびその値と大気中でΔ
K= 20ksi√inにおける亀裂進展速度(da/dN)との比を
示す。なお、亀裂進展速度としてΔK= 20ksi√inの時
の値を採用した理由は、以下に説明する図1に示すよう
に、この領域で亀裂進展速度が大気中のそれと大きく差
がつくからである。
せた原油に、硫化水素濃度1vol.%あるいは10vol.%
(残りは窒素) の混合ガスを試験期間中常時吹き込むと
いうものである。
湿潤硫化水素環境 (ガスの硫化水素濃度1vol.%) にお
ける亀裂進展速度の比較を示す。図1から明かなよう
に、大気中に比べ湿潤硫化水素環境中では亀裂進展速度
が大きい。特に、ΔKの大きい領域(約 20ksi√in以
上) で亀裂の進展が加速されている。
て、鋼に固溶した水素濃度の疲労亀裂進展速度に及ぼす
影響を調査した結果を示す。この実験では吹き込むガス
として硫化水素濃度1vol.%および10vol.%の混合ガ
ス、ならびに純粋の硫化水素ガスを用いて固溶水素濃度
を変えた。図2から明らかなように、吹き込むガスの硫
化水素濃度が高いほど鋼に固溶する水素濃度は高くな
り、亀裂進展速度が大きくなる。
硫化水素環境下(ガスの硫化水素濃度1vol.%)と大気
中における亀裂進展速度の比に及ぼすSi+Cuの影響をグ
ラフにしたものである。Si+Cuが 0.5%以上の領域で亀
裂進展速度が大気中のそれの2倍以内に抑えられてい
る。ただし、SiおよびCuがそれぞれの下限値を下回るも
のはその限りではない。
ら更に厳しい湿潤硫化水素環境下(ガスの硫化水素濃度
10vol.%) と大気中における亀裂進展速度の比に及ぼす
Si+CuおよびCrの影響をグラフにしたものであり、ここ
でもSi+Cuが 0.5%以上の領域で亀裂進展速度が大気中
のそれの3倍程度に抑えられている。さらに図4に○で
示すCrを含む鋼は、湿潤硫化水素環境下での亀裂進展速
度が大気中のそれの2倍以内に抑えられており、Cr添加
の効果が高濃度の硫化水素環境下において顕著である。
い鋼であり、湿潤硫化水素環境における亀裂進展速度は
大気中の5倍以上ある。
で、また、Si+Cuも少な過ぎる鋼であり、湿潤硫化水素
環境における亀裂進展速度は従来鋼に比べて改善されて
いない。同じように、鋼No.8および15 は、Siの含有量
が少なく、また、Si+Cuも0.5%に満たない鋼であり、
湿潤硫化水素環境における亀裂進展速度は従来鋼に比べ
て改善されていない。
明で定める条件を満足しているが、前者はSi量が、後者
はCu量が少な過ぎる鋼であり、湿潤硫化水素環境におけ
る亀裂進展速度はやはり従来鋼に比べて改善されていな
い。
量は請求範囲を満足しているが、Si+Cuの量が少なすぎ
る鋼であり、湿潤硫化水素環境における亀裂進展速度は
従来鋼に比べてほとんど改善されていない。
含有量、および合計含有量が本発明の条件を満足する上
に、さらに0.5%超2.0%以下のCrを含む鋼である。これ
らの鋼は吹き込んだガスの硫化水素濃度が10vol.%の湿
潤硫化水素環境においても、亀裂進展速度は大気中の2
倍以内に抑えられており、ガス硫化水素濃度1vol.%の
湿潤硫化水素環境における亀裂進展速度は、大気中のそ
れとほとんど変わらない程に改善されている。 なお、
表3に示すように本発明鋼の機械的性質はいずれも目標
とするレベルを上回るものであった。
進展速度は、湿潤硫化水素環境で従来鋼に比べて著しく
小さく、その亀裂進展速度は大気中における疲労亀裂進
展速度の2倍以下である。即ち、本発明鋼は亀裂進展特
性に優れた鋼であり、湿潤硫化水素環境に曝され、かつ
繰り返し応力を受けるタンカー等の素材として極めて優
れている。
る疲労試験結果である。
度の影響を示した図である。
における亀裂進展速度と大気中の亀裂進展速度との比に
及ぼすSiとCuの合計含有量の影響を示す図である。
における亀裂進展速度と大気中の亀裂進展速度との比に
及ぼすSiとCuの合計含有量およびCr含有量の影響を示す
図である。
験片の形状と寸法を示す図である。
Claims (1)
- 【請求項1】重量%で、C: 0.01〜0.2 %、Si:0.2〜0.
6 %、Mn:0.3〜2.0 %、Cu:0.2〜1.0 %、sol.Al: 0.01
〜0.1 %およびCr:0.5 %超2.0 %以下を含み、かつ、
0.5%≦Si+Cu≦ 1.5% を満足し、残部は不可避不純物
とFeからなる湿潤硫化水素環境で疲労亀裂進展特性に優
れる鋼であって、繰り返し応力を受ける用途に用いる
鋼。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP3295627A JP2663769B2 (ja) | 1991-11-12 | 1991-11-12 | 湿潤硫化水素環境で疲労亀裂進展特性に優れる鋼 |
Applications Claiming Priority (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP3295627A JP2663769B2 (ja) | 1991-11-12 | 1991-11-12 | 湿潤硫化水素環境で疲労亀裂進展特性に優れる鋼 |
Publications (2)
Publication Number | Publication Date |
---|---|
JPH05132737A JPH05132737A (ja) | 1993-05-28 |
JP2663769B2 true JP2663769B2 (ja) | 1997-10-15 |
Family
ID=17823088
Family Applications (1)
Application Number | Title | Priority Date | Filing Date |
---|---|---|---|
JP3295627A Expired - Lifetime JP2663769B2 (ja) | 1991-11-12 | 1991-11-12 | 湿潤硫化水素環境で疲労亀裂進展特性に優れる鋼 |
Country Status (1)
Country | Link |
---|---|
JP (1) | JP2663769B2 (ja) |
Family Cites Families (2)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JPS5358919A (en) * | 1976-11-09 | 1978-05-27 | Nippon Kokan Kk <Nkk> | Low alloy steel with hydrogen stress cracking resistance |
JPS6347352A (ja) * | 1986-08-18 | 1988-02-29 | Kobe Steel Ltd | 耐水素誘起割れ性に優れた鋼板 |
-
1991
- 1991-11-12 JP JP3295627A patent/JP2663769B2/ja not_active Expired - Lifetime
Also Published As
Publication number | Publication date |
---|---|
JPH05132737A (ja) | 1993-05-28 |
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