JP3085253B2 - 湿潤硫化水素環境で疲労亀裂進展特性に優れる原油タンカー用鋼板の製造方法 - Google Patents

湿潤硫化水素環境で疲労亀裂進展特性に優れる原油タンカー用鋼板の製造方法

Info

Publication number
JP3085253B2
JP3085253B2 JP09225299A JP22529997A JP3085253B2 JP 3085253 B2 JP3085253 B2 JP 3085253B2 JP 09225299 A JP09225299 A JP 09225299A JP 22529997 A JP22529997 A JP 22529997A JP 3085253 B2 JP3085253 B2 JP 3085253B2
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
hydrogen sulfide
crack growth
steel
steel plate
wet hydrogen
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Expired - Lifetime
Application number
JP09225299A
Other languages
English (en)
Other versions
JPH1068019A (ja
Inventor
隆弘 櫛田
登 誉田
英昭 幸
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
Nippon Steel Corp
Original Assignee
Sumitomo Metal Industries Ltd
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by Sumitomo Metal Industries Ltd filed Critical Sumitomo Metal Industries Ltd
Priority to JP09225299A priority Critical patent/JP3085253B2/ja
Publication of JPH1068019A publication Critical patent/JPH1068019A/ja
Application granted granted Critical
Publication of JP3085253B2 publication Critical patent/JP3085253B2/ja
Anticipated expiration legal-status Critical
Expired - Lifetime legal-status Critical Current

Links

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、硫化水素を含む原
油タンカー用の鋼板として好適な湿潤硫化水素環境下で
疲労亀裂進展特性に優れる鋼板の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】湿潤硫化水素環境で用いられる鋼材にお
いて水素誘起割れ(HIC) あるいは硫化物応力割れ(SSC)
が問題となることは既に衆知の事実であり、その防止に
関しては数多くの研究がなされ、幾多の対策が提案され
ている。
【0003】HIC は外部応力のない状態で鋼材に生じる
割れであり、SSC は静的な応力下での割れである。HIC
やSSC は、湿潤硫化水素環境で鋼が腐食したときに発生
する水素が鋼中に侵入することによって生じる水素脆化
であり、鋼の脆化現象の1つである。
【0004】上記のHIC やSSCを抑制するためには、極
低S化し、かつCa処理をすることが有効であるとされ
ている。しかし、極低S化およびCa処理は精錬コスト
を上昇させ、かつ、Ca処理は次に述べる疲労亀裂の進
展抑制にはかえって逆効果になる場合が多い。
【0005】一方、繰り返し応力のかかる状態で生じる
疲労破壊および腐食疲労破壊も、鋼のもう1つの大きな
脆化現象である。波浪による繰り返し応力がかかる船舶
あるいは海洋構造物、自動車のホイールやクランク軸、
さらには歯車用材料等の疲労および腐食疲労についても
また数多くの研究例がある。
【0006】最近、原油タンカー等では大型化やコスト
ダウンの観点から、高張力鋼の使用が広がって来てい
る。その場合、鋼材にはこれまで以上の応力がかかるこ
とになり、疲労、さらには湿潤硫化水素環境での疲労の
問題が懸念されるようになってきた。ところが、先に述
べたような湿潤硫化水素環境に曝される原油タンカー用
鋼板の波浪に起因する疲労挙動を調査した例はなく、も
ちろん材料因子について研究した例はない。
【0007】Corrosion NACE、vol.32、No.12 (Decemb
er、1976) のO.VOSHIKOVSKI による「Fatigue Crack Gr
owth in an X65 Line-Pipe Steel in Sour Crude Oil」
と題する報告には、硫化水素濃度が高くなると疲労亀裂
進展速度が著しく加速することが明らかにされており、
湿潤硫化水素環境下の疲労に及ぼす環境効果は決して無
視できない問題であると考えられる。上記文献の内容は
ラインパイプ用鋼を対象とした湿潤硫化水素環境での疲
労に限定される。この硫化水素によると思われる亀裂進
展速度の加速は、水素脆性と重畳したためと考察されて
いる。しかしながら、湿潤硫化水素環境下の疲労に及ぼ
す材料因子について詳細に研究した例は少なく、具体的
な対策も見出されていない。
【0008】図1は、後述する実施例において試験した
従来鋼の大気中および湿潤硫化水素環境における疲労試
験結果である。縦軸のda/dN は亀裂進展速度であり、応
力サイクル1回当たりの進展距離(mm)で表している。
横軸のΔKは最大応力拡大係数(Kmax)と最小応力拡大
係数(Kmin)の差である。即ち、ΔK=Kmax −Kmin
である。一般に、亀裂進展速度(da/dN)は、ΔKとの間
に da/dN=C(ΔK)mの関係が広く認められることか
ら、横軸にΔKを取った。なお、応力拡大係数とは、亀
裂 (欠陥あるいは割れ) が存在するときの亀裂の寸法・
形状、材料の寸法・形状、荷重条件などの力学的境界条
件を標準化して取り扱う破壊力学において、応力として
取り扱われるものである。腐食疲労現象においても疲労
亀裂を標準化して取り扱う上で有用である。
【0009】図1から明かなように、大気中に比べ湿潤
硫化水素環境中では亀裂進展速度が大きい。特に、ΔK
の大きい領域(約 20ksi(in)1/2 以上) で亀裂進展が加
速されている。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、鋼材の高張
力化に伴って頻発することが予想される湿潤硫化水素環
境下での疲労破壊に対処することを課題としてなされた
ものである。
【0011】本発明の具体的な目的は、精錬コストを高
めることなく、原油タンカーに使用されるYS (降伏応力
)20〜45kgf/mm2 、TS (引張強さ) 35〜60kgf/mm2 級の
鋼材であって、湿潤硫化水素環境下で使用されたときに
疲労亀裂が進展しにくい性質をもった鋼板製造方法を提
供することにある。さらに詳しくは、従来の普通鋼また
は高張力鋼を用いてもHICやSSCを生じることはな
いが、従来の高張力鋼を用いたのでは疲労亀裂進展速度
が促進される湿潤硫化水素環境において耐疲労亀裂進展
特性の優れた鋼板も製造方法を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】本発明の要旨は、下記の
製造方法にある。
【0013】(1) 重量%で、C: 0.01〜0.2 %、Si:0.2
〜0.6 %、Mn:0.3〜2.0 %、sol.Al:0.01〜0.1 %を含
み、残部はS:0.003%超え0.020%以下および不可避不
純物とFeからなる連続鋳造スラブまたはインゴットを熱
間鍛造または熱間圧延を(Ar3点−30℃) 以上の温度域で
終了させ、再加熱することなく(Ar3点−30℃) 以上の温
度から冷却速度5〜25℃/sで 400〜600 ℃の温度域まで
加速冷却し、その後放冷または徐冷することを特徴とす
る湿潤硫化水素環境で疲労亀裂進展特性に優れる原油タ
ンカー用鋼板の製造方法。
【0014】(2) 上記(1) に記載の合金成分に加えて更
に、重量%で、Nb: 0.01〜0.1 %、Ti: 0.01〜0.1 %お
よびV: 0.01〜0.1 %の中の1種以上を含み、残部は
S:0.003%超え0.020%以下および不可避不純物とFeか
らなる連続鋳造スラブまたはインゴットを (1)と同じ工
程で処理する湿潤硫化水素環境で疲労亀裂進展特性に優
れる原油タンカー用鋼板の製造方法。
【0015】(3) 上記(1) に記載の合金成分に加えて更
に、重量%で、Cu:0.1〜1.0 %とCr:0.1〜2.0 %の1種
または2種を含み、残部はS:0.003%超え0.020%以下
および不可避不純物とFeからなる連続鋳造スラブまたは
インゴットを (1)と同じ工程で処理する湿潤硫化水素環
境で疲労亀裂進展特性に優れる原油タンカー用鋼板の製
造方法。
【0016】(4) 上記(1)に記載の合金成分に加えて更
に、重量%で、Cu:0.1〜1.0 %とCr:0.1〜2.0 %の1種
または2種、ならびにNb: 0.01〜0.1 %、Ti:0.01〜0.1
%およびV: 0.01〜0.1 %の中の1種以上を含み、残
部はS:0.003%超え0.020%以下および不可避不純物と
Feからなる連続鋳造スラブまたはインゴットを (1)と同
じ工程で処理する湿潤硫化水素環境で疲労亀裂進展特性
に優れる原油タンカー用鋼板の製造方法。
【0017】
【発明の実施の形態】本発明は、従来ほとんど検討のな
されていなかった湿潤硫化水素環境下の疲労挙動に及ぼ
す材料因子について検討した結果に基づいてなされたも
のである。
【0018】後の実施例でも明らかにするが、湿潤硫化
水素環境下の疲労挙動を観察すると、ΔKの大きい、即
ち、塑性変形域が広くなる応力状態で亀裂進展が著しく
加速されている。また、湿潤硫化水素環境下の疲労で
は、硫化水素濃度が高いほど亀裂進展が大きい。硫化水
素濃度が高いほど腐食に伴って発生する水素原子が鋼中
に侵入して固溶する量が多くなるからであると考えられ
る。また、塑性変形域が広くなる応力状態で亀裂進展が
加速されることから、この疲労破壊挙動には水素脆性が
大きく関与していると推定される。
【0019】更に、この疲労破壊が主にフェライト粒内
を進展し、かつ塑性変形の大きい領域で亀裂進展速度が
大きいことに注目すると、フェライト粒の塑性変形挙動
がこの疲労破壊挙動に密接に関係していると考えられ
る。
【0020】本発明は、鋼の化学組成と製造条件を適正
に選ぶことによる、フェライト粒自体の強度上昇、又は
微細フェライトと微細ベイナイト等の混合組織生成(ブ
ロック状のベイナイトおよびマルテンサイトの生成防
止)による疲労亀裂進展速度の抑制機構に基づいてい
る。すなわち、上記の金属組織においては従来の鋼に較
べて繰り返し応力下でフェライト粒の受ける塑性変形を
小さくすることができ、疲労亀裂の進展速度を低下させ
ることができるという新しい知見に基づいてなされたも
のである。
【0021】化学組成の面から言えば、Nb、TiおよびV
の中の1種以上を添加することによってフェライト結晶
粒を細粒化し、したがってベイナイトを微細化し、かつ
炭化物の生成によってフェライト自体を強化することが
でき、亀裂の進展速度を一層小さくすることができる。
また、CuとCrの一方または両方の添加により、硫化水素
を含む雰囲気での鋼の耐食性を向上させ、腐食速度を低
下させ、その結果、鋼の固溶水素の量を減らして亀裂進
展速度を小さくすることができる。
【0022】以下、本発明の製造方法の素材となる鋼の
化学組成の選定理由と、製造条件の選定理由を詳しく説
明する。
【0023】1)鋼の化学組成について Cは、鋼の強度を高める成分である。本発明では、前記
の強度レベルを保持するためにCの含有量を0.01%(以
下、合金成分に関する%は重量%を意味する)以上とし
た。これを下回ると本発明方法で製造される鋼(以下、
便宜的に本発明鋼と記す)の用途に必要な鋼の強度を確
保するのが困難である。一方、鋼の溶接性を良好に保つ
ために、C含有量の上限は 0.2%とした。本発明鋼の対
象とする原油タンカーでは、溶接施工を受ける。C含有
量が 0.2%を上回ると、溶接時に鋼中に溶け込んだ水素
が原因で、溶接熱影響部の硬化部に溶接後しばらくして
割れを生じる、いわゆる溶接割れが発生しやすい。溶接
割れには溶接熱影響部の硬さが大きく影響し硬いほど割
れやすくなる。Cの高い材料ほど硬化しやすいから、こ
れを防ぐにはCが低い方がよい。望ましいC含有量は0.
03〜0.18%である。
【0024】Siは、鋼の脱酸剤として有用であり、その
外に本発明では湿潤硫化水素環境での疲労亀裂進展特性
の改善のために積極的に利用する。Siの含有量が 0.2%
未満では、これらの効果が期待できない。一方、Siが
0.6%を超えると鋼の靱性が損なわれる。Siの望ましい
含有量は0.25〜0.5 %である。
【0025】Mnも、鋼の強度を向上させる成分である。
0.3 %未満では本発明鋼の意図する用途に必要な強度を
確保するのが困難である。しかし、MnもCと同様、溶接
熱影響部を硬化させ溶接割れ惹起する成分であるから、
その含有量には上限がある。即ち、2.0 %を上回ると溶
接割れが発生しやすくなる。望ましいMnの含有量は0.5
〜1.8 %である。
【0026】Alは、鋼の脱酸のために使用するものであ
り、sol.Alとして0.01%の含有量となるように添加する
必要がある。ただし、sol.Alの含有量が 0.1%を上回る
と鋼の清浄度および靱性が損なわれる。望ましいsol.Al
含有量の範囲は0.01〜0.05%である。
【0027】本発明方法の素材となる鋼の一つは、上記
の成分の外、残部がFeと不可避の不純物からなるもので
ある。不純物の中、PとSはそれぞれ 0.025%以下、0.
020%以下に抑えるのが望ましい。
【0028】但し、Sについては精錬コストを犠牲にし
て0.003 %以下にする必要はない。原油タンカーではS
を0.003 %以下に低く抑えなくてもHICやSSCは発生しな
いからである。これは、従来より普通鋼または高張力鋼
を原油タンカーに用いてもHICやSSCを全く発生しなかっ
たことからも明らかである。したがって、当然ながら硫
化物の形状制御のためにCaを含む必要はない。すなわ
ち、本発明方法によって製造された鋼板が用いられる部
位では、耐HICや耐SSCの対策をとった高価な鋼板を用い
る必要はない。Ca処理をすると処理条件によっては粗
大なCaの硫化物と酸化物との複合化合物を生成し、疲
労強度をかえって低下する場合も生じる。一方、Sが0.
020 %を超えると、溶接時にラメラー割れを発生するの
で0.020%以下とする。
【0029】本発明方法の素材となる鋼は、上記の成分
に加えてさらに次の2群の元素の中の1種以上を含むも
のであってもよい。
【0030】 第1群・・・それぞれ0.01〜0.1 %のNb、TiおよびV 第2群・・・ 0.1〜1.0 %のCuおよび 0.1〜2.0 %のCr 第1群の元素は、フェライト粒の細粒化、したがってベ
イナイトの微細化およびその強化によって亀裂進展特性
を改善する作用をもつ。
【0031】Nb、Ti、Vのいずれも0.01%未満では湿潤
硫化水素環境での疲労亀裂進展特性の改善の効果が乏し
い。一方、それぞれの含有量が 0.1%を超えると効果が
飽和するばかりか、鋼の強度が上がりすぎて靱性を損な
う。いずれも望ましい含有量は0.02〜0.05%である。
【0032】第2群の元素は、前記のように鋼の耐食性
を向上させるものである。ただし、Cuは 0.1%未満では
添加の効果が小さい。一方、Cuは溶接割れを誘発し、ま
た、高温で融解し鋼の粒界強度を下げて熱間圧延途中に
割れや傷を発生させやすくするから、その含有量は 1.0
%までにとどめるべきである。望ましいCuの含有量は0.
2〜0.5 %である。
【0033】Crは、0.1 %以上の含有量で湿潤硫化水素
環境での疲労亀裂進展特性の一層の改善に有効である。
ただし、CrもC、Mnと同様、溶接熱影響部を硬化させ溶
接割れを惹起する成分であるから、添加する場合は含有
量の上限を 2.0%とすべきである。Crの望ましい含有量
は 0.5〜1.5 %である。
【0034】前記の第1群および第2群の一方または双
方から1種以上の元素を選んで添加することができる。
【0035】2)製造方法について 上記の化学組成をもつ鋼は、通常の溶製、鋳造(連続鋳
造またはインゴット鋳造)の後、熱間鍛造または熱間圧
延(以下、まとめて熱間加工という)されて、板の製品
となる。
【0036】連続鋳造スラブまたはインゴットを熱間加
工する際の加熱温度には特に制約はない。次の熱間加工
および加速冷却が可能な温度域に加熱すればよい。
【0037】重要なのは熱間加工後の冷却条件である。
この冷却は、(Ar3点−30℃) 以上の温度からの加速冷却
でなければならない。冷却開始温度が(Ar3−30℃) より
も低いと、粗大な初析フェライトが多く形成され、その
フェライトは加速冷却によっても強化されずに疲労亀裂
進展特性の改善効果がないばかりか、ブロック状のベイ
ナイトおよびマルテンサイトが生成し亀裂進展がむしろ
加速される。望ましい冷却開始温度はAr3 点以上の温度
である。
【0038】冷却速度は、5℃/sから25℃/sまでの
範囲とする。5℃/sより遅い冷却速度では加速冷却の
効果がなく、本発明の目的とする湿潤硫化水素環境での
疲労亀裂進展特性の改善効果がない。一方、25℃/sを
上回る冷却速度では、鋼の強度が上がりすぎるばかり
か、前記のブロック状のベイナイトおよびマルテンサイ
トが生成し亀裂進展が加速される。
【0039】上記の加速冷却の停止温度は、400 〜600
℃の範囲が適当である。400 ℃よりも低温では、冷却速
度が大きすぎる場合と同様に、鋼の強度が上がりすぎ、
またブロック状のベイナイトおよびマルテンサイトの生
成によって亀裂進展が加速される。加速冷却の停止温度
が 600℃を上回るとフェライト、ベイナイト等が微細化
されず、かつフェライトが強化されず加速冷却の効果が
乏しい。加速冷却の終了後は、放冷または徐冷を行う。
このようにして得られた鋼材 (製品) は、そのままで使
用できる。
【0040】
【実施例】以下に、本発明を実施例について説明する。
【0041】表1に、供試鋼の化学組成を示す。これら
の鋼を溶製し、連続鋳造で 240mm厚のスラブとし、これ
を1150℃に加熱して 15 mm厚の板に圧延した。その仕上
温度を表2〜表4に示す。次いで、同じく表2〜表4に
示す加速冷却開始温度から冷却を行った。冷却速度、加
速冷却停止温度も表2〜表4に示す。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
【表3】
【0045】
【表4】
【0046】以上によって得られた鋼板から、図4の
(b) に示す試験片を採取し、同図 (a)に示す装置で湿潤
硫化水素環境における疲労試験を行った。即ち、図4の
(a)に示すように、試験溶液槽2中で試験片1に油圧シ
リンダー5により繰り返し応力を負荷した。3は溶液循
環ポンプ、4はロードセル、6は油圧源、7はサーボバ
ルブ、8は波形発生器、9は負荷制御器である。疲労試
験条件は以下のとおりである。
【0047】f(繰り返し速度)=30 Hz R(応力比)=0.1 T(試験温度)=室温 表2〜表4に、湿潤硫化水素環境下で、ΔK= 20ksi(i
n)1/2 における亀裂進展速度(da/dN)およびその値と大
気中でΔK= 20ksi(in)1/2 における亀裂進展速度(da
/dN)との比を示す。なお、亀裂進展速度としてΔK= 2
0ksi(in)1/2 の時の値を採用した理由は、以下に説明す
る図1に示すように、この領域で亀裂進展速度が大気中
のそれと大きく差がつくからである。湿潤硫化水素環境
は、水を10%含む懸濁させた原油に、硫化水素濃度1vo
l.% (残りは窒素) の混合ガスを試験期間中常時吹き込
むというものである。
【0048】図1に従来例(表2の試番A−1)の鋼の
大気中および湿潤硫化水素環境における亀裂進展速度の
比較を示す。図1から明らかなように大気中に比べ湿潤
硫化水素環境中では亀裂進展速度が大きい。特に、ΔK
の大きい領域(約 20ksi(in)1/2以上) で湿潤硫化水素
環境中での亀裂進展が加速されている。
【0049】図2は、同じく従来例(表2の試番A−
1)の鋼を用いて、鋼に固溶した水素濃度の疲労亀裂進
展速度に及ぼす影響を調査した結果を示す。この実験で
は、硫化水素濃度1vol.%と10vol.%の混合ガスおよび
純粋の硫化水素ガスを用いて、それぞれ固溶水素濃度を
変えた。硫化水素濃度が高いほど、鋼に固溶する水素濃
度は高くなる。従って、図2から明らかなように、硫化
水素濃度が高いほど、すなわち、固溶水素濃度が高いほ
ど亀裂進展速度が大きい。
【0050】図3は、試番E−1〜F−6の湿潤硫化水
素環境下における亀裂進展速度と大気中のそれとの比に
及ぼす加速冷却停止温度の影響を示したものであり、冷
却停止温度が 600〜400 ℃の範囲で亀裂進展速度が大気
中のそれの3倍以内に抑えられている。
【0051】表2における試番A−1、B−1、C−1
およびD−1は、前記第1群元素も第2群元素も添加さ
れていない鋼を素材とし、かつ加速冷却を行わなかった
例である。これらの例で得られた鋼の湿潤硫化水素環境
における亀裂進展速度は大気中のそれの5倍以上であ
る。
【0052】試番E−1〜E−8は、同じく第1群元素
も第2群元素も添加されていない鋼を素材とするが、加
速冷却を行ってその冷却停止温度の影響を調べたもので
ある。E−1は従来法と同じ自然放冷であり、湿潤硫化
水素環境における亀裂進展速度は大気中のそれの5倍以
上と何ら改善されていない。
【0053】一方、試番E−3〜E−7は加速冷却停止
温度が本発明で定める 600〜400 ℃の範囲にあり、亀裂
進展速度は大気中のそれの3倍以内に改善されている。
しかし、試番E−2は加速冷却停止温度が高すぎ、ま
た、E−8は加速冷却停止温度が低すぎて、いずれも、
湿潤硫化水素環境における亀裂進展速度は従来例に比べ
て殆ど改善されていない。
【0054】表3に示す試番F−1〜F−6は第1群元
素の中のNbを添加した鋼を使用し、加速冷却条件の中で
冷却停止温度の影響を調べたものである。F−1は従来
法と同じ自然放冷であり、湿潤硫化水素環境における亀
裂進展速度は大気中の8倍にも達する。一方、試番F−
3〜F−5は加速冷却停止温度が 600〜400 ℃の範囲に
あり、亀裂進展速度は大気中の2倍以内と改善が認めら
れる。しかし、試番F−2は加速冷却停止温度が高す
ぎ、また、F−6は加速冷却停止温度が低くすぎて、い
ずれも湿潤硫化水素環境における亀裂進展速度は従来例
に比べて殆ど改善されていない。
【0055】表3中の試番G−1〜G−4は第2群元素
の中のCuを添加した鋼を用いて、加速冷却条件の中で加
速冷却開始温度と停止温度の影響を調べたものである。
試番G−1〜G−3は加速冷却停止温度が 600〜400 ℃
の範囲にあり、冷却速度が6℃/sであっても亀裂進展
速度は大気中の2倍以内におさまっている。しかし、G
−4は加速冷却開始温度が低すぎて、湿潤硫化水素環境
における亀裂進展速度は従来例に比べてあまり小さくな
っていない。
【0056】表3および表4に示す試番H−1〜H−5
は前記第1群および第2群の元素の全て添加した鋼を素
材として、加速冷却条件の中で加速冷却開始温度と冷却
速度の影響を調べたものである。試番H−1とH−4は
加速冷却停止温度が 600〜400 ℃の範囲にあり、冷却速
度がそれぞれ25℃/s、12℃/sであるから亀裂進展速
度は大気中の2倍以内と大きな改善が認められる。しか
し、試番H−2は加速冷却開始温度が低すぎるため、湿
潤硫化水素環境における亀裂進展速度は従来例に比べて
殆ど改善されていない。試番H−3は冷却速度が小さ
く、H−5は冷却速度が大き過ぎ、これらも改善の効果
が乏しい。試番I−1も同様に、冷却速度が小さすぎて
湿潤硫化水素環境における亀裂進展特性の改善が小さ
い。
【0057】試番I−2、J−1、K−1、M−1、N
−1およびO−1は、本発明で定める条件を全て満たす
例である。いずれも湿潤硫化水素環境における亀裂進展
速度は大気中それの2〜3倍以内と大きく改善されてい
る。
【0058】
【発明の効果】実施例に示したように、本発明方法で製
造される鋼板は、湿潤硫化水素環境での疲労亀裂進展速
度が著しく小さく、大気中における疲労亀裂進展速度の
2〜3倍以内におさまる。即ち、この鋼板は亀裂進展特
性において著しく優れており、湿潤硫化水素環境に曝さ
れ、かつ繰り返し応力を受ける原油タンカー用鋼板とし
て極めて実用性が高い。
【図面の簡単な説明】
【図1】従来鋼の大気中および湿潤硫化水素環境におけ
る疲労試験結果である。
【図2】従来鋼の疲労亀裂進展速度に及ぼす硫化水素濃
度の影響を示す図である。
【図3】湿潤硫化水素環境下(硫化水素濃度1vol.%)
における亀裂進展速度と大気中の亀裂進展速度との比に
及ぼす熱間圧延後の加速冷却停止温度の影響を示す図で
ある。
【図4】(a)は疲労試験装置の概要を示す図、(b) は試
験片の形状と寸法を示す図である。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (56)参考文献 特開 昭63−26339(JP,A) 特開 平2−263918(JP,A) 特開 昭63−38519(JP,A) 特開 昭58−77530(JP,A) 特開 昭57−85928(JP,A) 特開 昭55−38901(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) C21D 8/00 - 8/04

Claims (4)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】重量%で、C: 0.01〜0.2 %、Si:0.2 〜
    0.6 %、Mn:0.3 〜2.0 %、sol.Al:0.01〜0.1 %を含
    み、残部はS:0.003%超え0.020%以下および不可避不
    純物とFeからなる連続鋳造スラブまたはインゴットを熱
    間鍛造または熱間圧延を(Ar3点−30℃) 以上の温度域で
    終了させ、再加熱することなく(Ar3点−30℃) 以上の温
    度から冷却速度5〜25℃/sで 400〜600 ℃の温度域まで
    加速冷却し、その後放冷または徐冷することを特徴とす
    る湿潤硫化水素環境で疲労亀裂進展特性に優れる原油タ
    ンカー用鋼板の製造方法。
  2. 【請求項2】重量%で、C: 0.01〜0.2 %、Si:0.2 〜
    0.6 %、Mn:0.3 〜2.0 %、sol.Al:0.01〜0.1 %を含
    み、さらに、Nb: 0.01〜0.1 %、Ti: 0.01〜0.1 %およ
    びV:0.01〜0.1 %の中の1種以上を含み、残部はS:
    0.003%超え0.020%以下および不可避不純物とFeからな
    る連続鋳造スラブまたはインゴットを熱間鍛造または熱
    間圧延を(Ar3点−30℃) 以上の温度域で終了させ、再加
    熱することなく(Ar3点−30℃) 以上の温度から冷却速度
    5〜25℃/sで 400〜600 ℃の温度域まで加速冷却し、そ
    の後放冷または徐冷することを特徴とする湿潤硫化水素
    環境で疲労亀裂進展特性に優れる原油タンカー用鋼板の
    製造方法。
  3. 【請求項3】重量%で、C: 0.01〜0.2 %、Si:0.2 〜
    0.6 %、Mn:0.3 〜2.0 %、sol.Al:0.01〜0.1 %を含
    み、さらに、Cu:0.1〜1.0 %とCr:0.1〜2.0 %の1種ま
    たは2種を含み、残部はS:0.003%超え0.020%以下お
    よび不可避不純物とFeからなる連続鋳造スラブまたはイ
    ンゴットを熱間鍛造または熱間圧延を(Ar3点−30℃)以
    上の温度域で終了させ、再加熱することなく(Ar3点−30
    ℃) 以上の温度から冷却速度5〜25℃/sで 400〜600 ℃
    の温度域まで加速冷却し、その後放冷または徐冷するこ
    とを特徴とする湿潤硫化水素環境で疲労亀裂進展特性に
    優れる原油タンカー用鋼板の製造方法。
  4. 【請求項4】重量%で、C: 0.01〜0.2 %、Si:0.2 〜
    0.6 %、Mn:0.3 〜2.0 %、sol.Al:0.01〜0.1 %を含
    み、さらに、Cu:0.1〜1.0 %とCr:0.1〜2.0.%の1種ま
    たは2種、ならびにNb: 0.01〜0.1 %、Ti: 0.01〜0.1
    %およびV: 0.01〜0.1 %の1種以上を含み、残部は
    S:0.003%超え0.020%以下および不可避不純物とFeか
    らなる連続鋳造スラブまたはインゴットを熱間鍛造また
    は熱間圧延を(Ar3点−30℃) 以上の温度域で終了させ、
    再加熱することなく(Ar3点−30℃) 以上の温度から冷却
    速度5〜25℃/sで 400〜600 ℃の温度域まで加速冷却
    し、その後放冷または徐冷することを特徴とする湿潤硫
    化水素環境で疲労亀裂進展特性に優れる原油タンカー用
    鋼板の製造方法。
JP09225299A 1997-08-21 1997-08-21 湿潤硫化水素環境で疲労亀裂進展特性に優れる原油タンカー用鋼板の製造方法 Expired - Lifetime JP3085253B2 (ja)

Priority Applications (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP09225299A JP3085253B2 (ja) 1997-08-21 1997-08-21 湿潤硫化水素環境で疲労亀裂進展特性に優れる原油タンカー用鋼板の製造方法

Applications Claiming Priority (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP09225299A JP3085253B2 (ja) 1997-08-21 1997-08-21 湿潤硫化水素環境で疲労亀裂進展特性に優れる原油タンカー用鋼板の製造方法

Related Parent Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP3295681A Division JP2967889B2 (ja) 1991-11-12 1991-11-12 湿潤硫化水素環境で疲労亀裂進展特性に優れる鋼の製造方法

Publications (2)

Publication Number Publication Date
JPH1068019A JPH1068019A (ja) 1998-03-10
JP3085253B2 true JP3085253B2 (ja) 2000-09-04

Family

ID=16827170

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP09225299A Expired - Lifetime JP3085253B2 (ja) 1997-08-21 1997-08-21 湿潤硫化水素環境で疲労亀裂進展特性に優れる原油タンカー用鋼板の製造方法

Country Status (1)

Country Link
JP (1) JP3085253B2 (ja)

Families Citing this family (4)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
KR100399231B1 (ko) * 1998-12-14 2004-02-14 주식회사 포스코 내유화물부식피로특성이우수한후강판제조방법
KR101786409B1 (ko) * 2013-12-12 2017-10-16 제이에프이 스틸 가부시키가이샤 원유 탱크 상판 및 저판용 강재 및 원유 탱크
JP6048385B2 (ja) * 2013-12-12 2016-12-21 Jfeスチール株式会社 耐食性に優れる原油タンク用鋼材および原油タンク
JP6064888B2 (ja) * 2013-12-12 2017-01-25 Jfeスチール株式会社 耐食性に優れる原油タンク用鋼材および原油タンク

Also Published As

Publication number Publication date
JPH1068019A (ja) 1998-03-10

Similar Documents

Publication Publication Date Title
JP5928405B2 (ja) 耐水素誘起割れ性に優れた調質鋼板及びその製造方法
JP2008208454A (ja) 耐遅れ破壊特性に優れた高張力鋼材並びにその製造方法
JPH01230713A (ja) 耐応力腐食割れ性の優れた高強度高靭性鋼の製造法
JP7339339B2 (ja) 冷間加工性及びssc抵抗性に優れた超高強度鋼材及びその製造方法
JP4207334B2 (ja) 溶接性と耐応力腐食割れ性に優れた高強度鋼板およびその製造方法
JP4857583B2 (ja) 板厚方向の強度差が小さい疲労亀裂伝播特性に優れた鋼材の製造方法
JPS63241114A (ja) 耐応力腐食割れ性の優れた高靭性高張力鋼の製造法
JP2005314811A (ja) 延性と耐疲労亀裂伝播特性に優れた鋼材の製造方法
JPH0748621A (ja) 耐ssc,耐hic性に優れた圧力容器用鋼の製造方法
JP3247908B2 (ja) 延性と耐遅れ破壊特性に優れた高強度熱延鋼板およびその製造方法
JP2785643B2 (ja) 湿潤硫化水素環境で耐疲労亀裂進展特性に優れるタンカー用鋼板
JPH05271766A (ja) 耐水素誘起割れ性の優れた高強度鋼板の製造方法
JP3085253B2 (ja) 湿潤硫化水素環境で疲労亀裂進展特性に優れる原油タンカー用鋼板の製造方法
JP7070814B1 (ja) 厚鋼板およびその製造方法
JP5796369B2 (ja) 耐サワー性能に優れた調質型低降伏比厚鋼板およびその製造方法
JP7333786B2 (ja) 低合金第3世代先進高張力鋼および製造プロセス
JPH1161250A (ja) 湿潤硫化水素環境で疲労亀裂進展特性に優れる原油タンカー用鋼板の製造方法
JP6673320B2 (ja) 厚鋼板および厚鋼板の製造方法
JPH08225882A (ja) フェライト・ベイナイト二相鋼
JP2002339037A (ja) 低温継手靱性と耐ssc性に優れた高張力鋼とその製造方法
JP4250113B2 (ja) 耐震性と溶接性に優れた鋼板の製造方法
JP2967889B2 (ja) 湿潤硫化水素環境で疲労亀裂進展特性に優れる鋼の製造方法
KR100345704B1 (ko) 내수소유기응력부식균열성이우수한고강도열연강판의제조방법
JP2532176B2 (ja) 溶接性および脆性亀裂伝播停止特性の優れた高張力鋼の製造方法
JP5278502B2 (ja) 板厚方向の強度差が小さい疲労亀裂伝播特性に優れた鋼材の製造方法

Legal Events

Date Code Title Description
FPAY Renewal fee payment (event date is renewal date of database)

Free format text: PAYMENT UNTIL: 20070707

Year of fee payment: 7

FPAY Renewal fee payment (event date is renewal date of database)

Free format text: PAYMENT UNTIL: 20080707

Year of fee payment: 8

FPAY Renewal fee payment (event date is renewal date of database)

Free format text: PAYMENT UNTIL: 20080707

Year of fee payment: 8

FPAY Renewal fee payment (event date is renewal date of database)

Free format text: PAYMENT UNTIL: 20090707

Year of fee payment: 9

FPAY Renewal fee payment (event date is renewal date of database)

Free format text: PAYMENT UNTIL: 20090707

Year of fee payment: 9

FPAY Renewal fee payment (event date is renewal date of database)

Free format text: PAYMENT UNTIL: 20100707

Year of fee payment: 10

FPAY Renewal fee payment (event date is renewal date of database)

Free format text: PAYMENT UNTIL: 20110707

Year of fee payment: 11

FPAY Renewal fee payment (event date is renewal date of database)

Free format text: PAYMENT UNTIL: 20110707

Year of fee payment: 11

FPAY Renewal fee payment (event date is renewal date of database)

Free format text: PAYMENT UNTIL: 20120707

Year of fee payment: 12

EXPY Cancellation because of completion of term
FPAY Renewal fee payment (event date is renewal date of database)

Free format text: PAYMENT UNTIL: 20120707

Year of fee payment: 12