JP2636325B2 - コムギ属植物のプロトプラストの培養方法 - Google Patents

コムギ属植物のプロトプラストの培養方法

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【発明の詳細な説明】 〔産業上の利用分野〕 本発明は、コムギ属植物の未熟胚由来のカルスから調
製されたプロトプラスト、或は未熟胚から直接調製され
たプロトプラストから植物体再生能のあるコロニーを再
現性良く形成させ得る培養方法に関するものである。
〔従来の技術及び発明が解決しようとする問題〕
近年、細胞融合あるいは遺伝子組換えの手法により、
新しい形質を持った植物の人為的作出が種々検討されて
いる。その際、細胞壁を除いたプロトプラストから再現
性良く植物体を再生する系を確立する事が必要となる。
しかし、ナス科、アブラナ科植物等では培養系を確立し
たという報告が見られるものの、世界の主要作物が多く
含まれるイネ科での例は、イネを除き殆どない。本発明
者らは、先にイネ完熟種子由来のカルスから調製したプ
ロトプラストを、イネ培養細胞を含む液体培地中で培養
することにより、効率良く植物体を再生させることを提
案した(特開昭62−232382号)が、コムギ属植物につい
ては、Plant Cell Report,6,23−26(1987)にコムギ
Triticum aestivum)懸濁培養細胞から調製したプロ
トプラストからのコロニー形成の簡単な報告があるのみ
で、未だに植物体が再生した例はない。
〔問題点を解決するための手段〕 そこで、本発明者らは、コムギ属植物のプロトプラス
トから効率よく植物体を再生する方法を提供すべく鋭意
検討した結果、特定の方法で調製されたプロトプラスト
を使用すれば、再現性良くコムギ属植物の植物体を再生
し得ることを知得し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明の要旨は、コムギ属植物の未熟胚より、
植物ホルモンとして少なくともディカンバを含有する培
地で誘導されたカルスから調製されたプロトプラスト、
或は、該未熟胚から調製されたプロトプラストを、イネ
培養細胞を含む液体培地中で培養する事を特徴とするコ
ムギ属植物のプロトプラストの培養方法に存する。
以下本発明を詳細に説明する。
本発明においては、例えばTriticum aestivum cv.Chi
nese Spring等のコムギ属植物の未熟胚からプロトプラ
ストを調製する。その際、植物ホルモンとして少なくと
もディカンバを含む培地上でカルスを一旦誘導し、該カ
ルスからプロトプラストを調製する。或は、未熟胚から
培養過程を経ずにプロトプラストを調製してもよい。
(1) カルスを材料とする場合は、コムギ属植物の未
熟種子由来のカルスからプロトプラストを調製する。即
ち、例えば開花後6−12日目の未熟種子をエタノール、
次亜塩素酸ソーダ等で滅菌処理した後、未熟胚を摘出し
て、3,6−dichloro−2−methoxybenzonic acid(dicam
ba)1−50mg/を含むMurashige&Skoog(MS)寒天培
地(Physiol.Plant.15,473−497(1962))に胚盤を上
向きにして置床し、25−30℃,2000−3000lux(17hr日
長)の条件下で培養してカルスを誘導する。
培養3−4週間後にカルスを集め、メスで細分しセル
ラーゼやペクチナーゼ等の細胞壁分解酵素を含む酵素液
中、25−35℃,40−80spmの条件で、3−10時間程度酵素
処理する。酵素処理終了後、ろ過して未消化物を除いて
ろ液に2−5倍量のKMC液(KCl 0.118M,MgCl2 0.0817M,
CaCl2 0.085M,pH6.0)(Theor.Appl.Genet.53,57−63
(1978))等を加え、遠心分離して壊れた細胞成分等を
上清中に分離して除去し、精製されたプロトプラストを
得る。本発明によれば、通常活性の高いプロトプラスト
をカルス1g(Fresh Weight)当り約1−10×105個の収
率で取得することができる。
(2) 未熟胚を材料とする場合は、コムギ属植物の未
熟胚から培養過程を経ずにプロトプラストを調製する。
即ち、例えば開花後10日目の未熟種子をエタノール、次
亜塩酸ソーダ等で滅菌処理した後、胚を摘出して集め、
メスで細分しセルラーゼやペクチナーゼ等の細胞壁分解
酵素を含む酵素液中、25−35℃、40−80spmの条件で、
5−6時間程度酵素処理をする。以下(1)での場合と
同様の操作で精製されたプロトプラストを得る。本発明
によれば、通常、活性の高いプロトプラストを未熟胚10
0個当り約1−10×104個の収率で取得することができ
る。
上記(1)又は(2)の様にして調製したプロトプラ
ストをR2培地(Plant Cell Pysiol.14,1113−1121(196
8))、P2培地(Proceeding of Symposium on Plant Ti
ssue Culture,Peking,Peking Scientific Press,pp.51
−56(1978))、KM培地(Planta126,105−110(197
5))、MS培地等に懸濁し、これを2−3%のアガロー
スを含むR2培地、あるいはP2,KM,MS培地等と等量ずつ混
ぜ、速やかにシャーレ中に広げて薄く固める。この時の
プロトプラストの密度は約1−10×105個/mlとなるよう
にする。
固化したアガロースゲルを5×20mm程度の大きさに切
り、上記培地中で培養する。その際本発明においては、
イネ培養細胞を200−300mg(FW)dish程度共存させ、20
−40rpmの回転でゆっくりと振とうしながら、暗条件下2
3−27℃で培養する。
イネ培養細胞を共存させる方法は上記の様な方法に限
定されるものではなく、プロトプラストと直接混合しな
い様な方法、例えば、イネ培養細胞をアガロース中に包
埋させ、その上にプロトプラストをアガロースに包埋さ
せる様に重層するフィーダーレーヤー法、底にミリポア
フィルター等を設けた容器にイネ培養細胞をいれて、そ
の容器をプロトプラストを含む液体培地中に浸してミリ
ポアフィルターを介して共存させる方法等が挙げられ
る。
本発明で使用するイネ培養細胞は、旺盛に分裂してい
る細かい細胞塊を毎週植継ぎ、4−7日目のものを使用
するのが望ましい。この様な培養細胞塊は、例えば未熟
胚由来のカルスや葯由来のカルスを液体培地中で継代し
て、選抜してゆく等の公知の方法に準じて容易に得られ
る。
培養開始後、3−5日目で第一分裂が始まり、(1)
の様にして得られたプロトプラストの場合3週間後には
10細胞以上からなるコロニーが約1−3%の頻度で形成
される。この時、細胞質の密な直径400μm程度のコロ
ニーは、約0.01−0.1%の頻度で形成される。一方、
(2)の様にして得られたプロトプラストの場合は、10
細胞以上からなるコロニーは約0.05−0.5%の頻度で、
細胞質の密な直径400μm程度のコロニーはごく希に形
成される。コムギ属植物のプロトプラスト培養において
は、イネ培養細胞を第一分裂終了後も共存させておく事
が必要である。
次いで、細胞質の密なコロニーを、イネ培養細胞とミ
リポアフィルターを介して共存させる方法で培養すると
約8−10週間後には、2−3mmのカルスに生長する。
このカルスを再分化培地、例えば、ホルモンフリーの
N6培地(Sci.Sin.16,659−688(1975))で、23−27℃
で2000−3000lux(17hr日長)の条件下培養すれば4−
6週間で幼植物の形成が認められる。
〔実施例1〕 (コムギ未熟胚由来カルスの誘導) 開花後10日目のコムギ(Triticum aestivum var.Chin
ese Spring)の未熟種子を滅菌処理した後、胚を摘出
し、Murashige&Skoog(MS)寒天培地(dicamba 32mg/
;アガロース8g/)を胚盤に上向きに置床して、26
℃で培養してカルスを誘導した。
(コムギプロトプラストの調製) 誘導開始後3−4週間目の未熟胚由来のカルスを集
め、そのままメスで細分し4%セルラーゼ(セルラーゼ
RS)および1%ペクチナーゼ(マセロザイムR−10)を
含む0.4Mシュークロース溶液(pH 5.8)に移して30℃,6
0spmで5−6時間酵素処理した。酵素処理液をろ過した
後、ろ液に3倍量のKMC液(KCl 0.118M,CaCl2 0.085M,M
gCl2 0.0817M,pH 6.0)を加え、遠心分離して沈降した
プロトプラストを得た。このプロトプラストを上記KMC
液で2回洗浄した。以上の操作で活性の高いプロトプラ
ストをカルス1g(FM)当り約5×105個の収率で得るこ
とができる。
(コムギプロトプラストの培養) 得られたプロトプラストをR2培地(2,4−D 2mg/,0.
4M シュークロース)に懸濁し、この懸濁液0.5mlと約4
0℃に温めたアガロース2.0%を含むR2培地0.5mlとを混
合し速やかにシャーレに均一に広げて固化させた。この
時の細胞密度は1×106個/mlであった。この固化したア
ガロースゲルを5×20mm位の大きさに切り、上記R2培地
6mlの入っている直径6cmのシャーレに浮かべ、同時にイ
ネの培養細胞200mg(FW)を加えた。
このイネの培養細胞は次の様にして調製した。即ち、
葯由来のカルスを液体培地中で週1回の頻度で何代にも
わたって植継ぎ維持している、分裂旺盛な細かい培養細
胞の植継ぎ後5日目のものを37μmのナイロンメッシュ
で過して培養細胞を集めた。
これを30rpm位の回転でゆっくり振とうしながら暗条
件下、25℃で培養した。培養開始後3−5日目で第一分
裂が始まり、3週間後には、10細胞以上からなるコロニ
ーが約2%の頻度で形成された。この時細胞質の密な直
径400μm程度のコロニーは0.01%の頻度で形成され
た。
このコロニーを、イネ培養細胞とミリポアフィルター
を介して共存させる方法でさらに培養を続けると、培養
8−10週間後には直径2−3mmのカルスが得られた。
次いでこのカルスを再分化培地(N6:ホルモンフリ
ー,シュークロース 6%)に移し25℃で培養を続けた
ところ、4−6週間で幼植物の再生が認められた。
〔実施例2〕 (コムギ未熟胚からのプロトプラストの調製) 開花後10日目の未熟種子置を滅菌処理した後、胚を摘
出して集め、そのままメスで細分し4%セルラーゼ(セ
ルラーゼRS)および1%ペクチナーゼ(マセロザイムR
−10)を含む0.4Mシュークロース溶液(pH5.8)に移し
て30℃,60spmで5−6時間酵素処理した。
(未熟胚由来のプロトプラストの培養) 実施例1と同様の操作でプロトプラストを精製する
と、活性の高いプロトプラストを未熟胚100個当り約1
×105個の収率で取得することができた。得られたプロ
トプラストを実施例1と同様にして培養すると、培養開
始後3−5日目に第一分裂が始まり、3週間後には、10
細胞以上からなるコロニーが約0.1%の頻度で形成され
た。この時、細胞質の密な植物体再生能のあるコロニー
も形成され、実施例1と同様にして培養すると幼植物の
再生が認められた。
比較列1 実施例1および2において、イネの培養細胞を加える
事なくプロトプラストのアガロースゲル片を培養した
が、実施例1および2で得られた様なコロニーは形成さ
れなかった。
〔発明の効果〕
本発明方法によれば、コムギ属植物のプロトプラスト
を培養して再分化能のあるコロニーを再現性良く得るこ
とができる。また、このコロニーを培養して得られたカ
ルスから植物体を再生させることができる。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (56)参考文献 特開 昭62−232382(JP,A) Plant Cell Rep,Vo l.6(1987)P.23−26 Mol.Gen.Genet.,Vo l.206,No.3(1987)P.408− 413

Claims (1)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】コムギ属植物の未熟胚より、植物ホルモン
    として少なくともディカンバを含有する培地で誘導され
    たカルスから調製されたプロトプラスト、或は、該未熟
    胚から調製されたプロトプラストを、イネ培養細胞を含
    む液体培地中で培養する事を特徴とするコムギ属植物の
    プロトプラストの培養方法。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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Mol.Gen.Genet.,Vol.206,No.3(1987)P.408−413
Plant Cell Rep,Vol.6(1987)P.23−26

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