JP2603170B2 - 加工性の優れた高磁束密度超低鉄損方向性電磁鋼板の製造方法 - Google Patents

加工性の優れた高磁束密度超低鉄損方向性電磁鋼板の製造方法

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明はグラス被膜(フォルステ
ライト被膜)を有しない方向性電磁鋼板、特に切断性、
打ち抜き性等の加工性に著しく優れた高磁束密度超低鉄
損方向性電磁鋼板の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】方向性電磁鋼板は一般に軟磁性材料とし
て、主としてトランスその他の電機機器の鉄心として使
用されるもので、磁気特性として、励磁特性と鉄心特性
が良好なものが要求される。良好な磁気特性を得るため
には、磁化容易軸である<001>軸を圧延方向に高度
に揃えることが重要である。また、板厚、結晶粒度、固
有抵抗、被膜等も磁気特性に大きい影響を与えるため重
要である。
【0003】結晶の方向性については、AlN、MnS
をインヒビターとして利用した高圧下最終冷延を特徴と
する方法により大幅に向上し、現在では磁束密度が理論
値に近いものまで製造されるようになってきた。一方、
方向性電磁鋼板の需要家における使用時に、磁気特性と
共に重要なのは被膜特性と共に加工性である。通常、方
向性電磁鋼板は最終仕上焼鈍時に形成するグラス被膜と
絶縁被膜の二層被膜によって表面が処理されている。グ
ラス被膜は焼鈍分離剤のMgOと脱炭焼鈍時に形成する
SiO2 の反応物であるフォルステライト(Mg2 Si
4 )が主成分の被膜である。このセラミック被膜は硬
質で磨耗性が強く、電磁鋼板加工時のスリット、切断、
打ち抜き等の際の工具類の耐久性に著しい悪影響を及ぼ
す。例えば、グラス被膜を有する方向性電磁鋼板の打ち
抜き加工を行う場合には、金型の磨耗が生じ、数千回程
度の打ち抜きによって、打ち抜いた時にシートの返りが
大きくなり、使用時に問題が生じる程の返りが生じる。
このため、金型の再研磨、新品との取換えが必要にな
る。これは、需要家における鉄心加工時の作業能率を低
下させ、またコスト上昇を招く結果になる。また、電磁
鋼板自体の磁気特性に対しては、たしかに被膜張力によ
る鉄損の改善効果があるが、形成状態によっては被膜厚
みの増加等によって、非磁性体による磁束密度の低下の
問題がある。このため、鋼板板厚の厚い材料のように被
膜張力による鉄損改善効果が期待できないような材料
や、他の手段で磁区細分化を行い、鉄損が改善できるケ
ース等では、むしろ前記問題からグラス被膜を有しない
方向性電磁鋼板が望まれる。
【0004】とりわけ、近年では磁区細分化技術とし
て、光学的、機械的、化学的な手段による技術が発達
し、グラス被膜の張力なしでも鉄損の改善が得られるよ
うになり、むしろグラス被膜を有しない方向性電磁鋼板
の方が磁化の際の磁壁移動のピンニング現象を起こすグ
ラス被膜の内部酸化層等の悪影響がないため有利である
ことも分かってきた。このためグラス被膜を有しない高
磁束密度方向性電磁鋼板の開発は需要家での種々の使用
条件を考える際に重要で、ニーズが高まっている。
【0005】グラス被膜を有しない方向性電磁鋼板の製
造方法としては、例えば特開昭53−22113号公報
に開示のものがある。これは、脱炭焼鈍において酸化膜
の厚みを3μm以下とし、焼鈍分離剤として含水珪酸塩
鉱物粉末を5〜40%含有する微粒子のアルミナを用
い、これを鋼板に塗布し、仕上焼鈍することからなる。
これによると、酸化膜を薄くし、さらに含水珪酸塩鉱物
の配合によって、剥離しやすいグラス被膜が形成され、
金属光沢を有するものが得られるとされている。焼鈍分
離剤によりグラス被膜の形成を抑制する方法としては、
特開昭56−65983号公報に示されるように、水酸
化アルミニウムに不純物除去用添加物20重量部、抑制
物質10重量部を配合した焼鈍分離剤を鋼板に塗布し、
0.5μm以下の薄いグラス被膜を形成する方法があ
る。また、特開昭59−96278号公報には、脱炭焼
鈍で形成した酸化層のSiO2 との反応が弱いAl2
3 と、1300℃以上の高温で焼成し、活性を低下させ
たMgOとからなる焼鈍分離剤が提案されている。これ
によると、フォルステライトの形成が抑制されるという
ものである。
【0006】これらの先行技術は、いずれも通常のオリ
エントコアと呼ばれる磁束密度が1.88Tesla以
下と低い低級の方向性電磁鋼板をベースとする技術であ
り、本発明のように高磁束密度方向性電磁鋼板を安定し
て得る技術を開発するまでには至っていない。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、打ち抜き
性、スリット性、切断性等が極めて優れた、ほぼ均一に
グラス被膜のない高磁束密度超低鉄損方向性電磁鋼板を
工業的に安価に製造する方法を提供することを目的とす
る。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明の要旨とするとこ
ろは下記のとおりである。
【0009】() 重量で、C:0.021〜0.0
75%、Si:2.5〜4.5%、酸可溶Al:0.0
10〜0.040%、N:0.0030〜0.0130
%、S≦0.014%、Mn:0.05〜0.45%を
含有し、残部がFe及び不可避の不純物からなるスラブ
を、1280℃未満の温度で加熱した後、熱延し、引続
き熱延板焼鈍し又はすることなく、1回又は焼鈍を挟む
2回以上の冷延により最終板厚とし、次いで脱炭焼鈍し
た後又は脱炭焼鈍の後半で若しくはこれらの両段階で窒
化処理し、次いでMgO100重量部に対し、Li、
K、Na、Ba、Ca、Mg、Zn、Fe、Zr、S
n、Sr、Al等の塩化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、
硫化物の中から選ばれる1種又は2種以上2〜30重量
部を添加した焼鈍分離剤を塗布し、次いで昇温時、均熱
までの雰囲気を少なくともN 2 :30%のN 2 +H 2
最終仕上焼鈍し、引き続く最終仕上焼鈍の均熱工程にお
いて二次再結晶と純化焼鈍を施すとともにグラスレス化
ならびにサーマルエッジングによる鏡面化を施した鋼板
に、ヒートフラットニングの前又は後に、磁区細分化処
理としてレーザー、歯型ロール、プレス、ケガキ、局部
エッチング等により線状又は点状キズを圧延方向に対し
て45〜90度の方向に付与した後、絶縁被膜処理を行
うことからなる加工性の優れた高磁束密度超低鉄損方向
性電磁鋼板の製造方法。
【0010】() 脱炭焼鈍における鋼板酸素目付量
が900ppm以下で、且つ酸化膜中のFeO/SiO
2 が0.20以下であることを特徴とする前項記載の
加工性の優れた高磁束密度超低鉄損方向性電磁鋼板の製
造方法。 () 窒化処理における窒化量が150ppm以上で
あることを特徴とする前項記載の加工性の優れた高磁
束密度超低鉄損方向性電磁鋼板の製造方法。
【0011】() 焼鈍分離剤に使用するMgOは、
粒子径が10μm以下のものを30%以上含み、クエン
酸活性度CAA値が50〜300秒(30℃測定値)、
水和水分が5%以下であることを特徴とする前項記載
の加工性の優れた高磁束密度超低鉄損方向性電磁鋼板の
製造方法。 () 線状又は点状キズの付与条件が、製品を鉄心加
工する際に、歪取焼鈍を行わない場合には深さ5μm未
満、歪取焼鈍を行う場合には深さ5〜50μm、間隔2
〜15mmとし、且つ圧延方向に対して45〜90度の
方向に線状又は点状に処理することを特徴とする前項
記載の加工性の優れた高磁束密度超低鉄損方向性電磁鋼
板の製造方法。
【0012】() 絶縁被膜剤の塗布に際し、無機、
有機、半有機のうち、いずれかを用いて1回又は2回以
上の焼付処理を行うことを特徴とする前項記載の加工
性の優れた高磁束密度超低鉄損方向性電磁鋼板の製造方
法。以下、本発明を詳細に説明する。本発明の高磁束密
度超低鉄損方向性電磁鋼板の製造工程では、スラブ加熱
段階ではインヒビター元素、例えばAl、N、Mn、S
等の鋼中への溶解を完全に行わず、脱炭焼鈍した後又は
脱炭焼鈍の後半で若しくはこれらの両段階で材料を強還
元雰囲気中で窒化処理をすることによって(Al、S
i)Nを主成分とするインヒビターを形成させ、仕上焼
鈍過程で良好な二次再結晶を発達させた後、磁区細分化
することを基本工程とする。
【0013】前記した成分組成の出発材と工程による本
発明のグラス被膜を有しない高磁束密度方向性電磁鋼板
を得る方法においては、脱炭焼鈍〜仕上焼鈍過程での処
理方法に特徴がある。最終板厚に冷延された素材は、連
続ラインにおいて脱炭焼鈍される。この脱炭焼鈍により
鋼中のCの除去と一次再結晶が行われ、同時に鋼板表面
にSiO2 を主成分とする酸化膜の形成が行われる。こ
の際の鋼板の酸化量は、本発明の第一の要素技術であ
り、酸素目付量として900ppm以下、且つFeO/
SiO2≦0.20とされる。
【0014】脱炭焼鈍は800〜875℃、雰囲気はN
2 +H2 中で露点をコントロールして行われる。次いで
脱炭焼鈍の後半あるいは終了後若しくはこれらの両段階
において、同一ライン又は別に設けたラインで窒化処理
が行われる。この際の最適の窒化量は一次再結晶粒径に
もよるが、150ppm以上、好ましくは150〜30
0ppmとして処理される。
【0015】この後焼鈍分離剤を塗布し、乾燥して巻き
取り、最終仕上焼鈍される。この際の焼鈍分離剤の組成
は本発明の第二の要素技術であり、グラス被膜の形成制
御や分解反応に重要な役割を持つ。本発明に用いる焼鈍
分離剤としては、まず、MgOは、粒径10μm以下の
ものが30%以上であり、CAA値が50〜300秒、
水和水分が5%以下のものとする。このMgOへの添加
剤としては、Li、K、Na、Ba、Ca、Mg、Z
n、Fe、Zr、Sn、Sr、Al等の塩化物、炭酸
塩、硝酸塩、硫酸塩、硫化物の1種又は2種以上を2〜
30重量部用いる。
【0016】本発明において焼鈍分離剤と共に重要なの
は第三の要素技術である最終仕上焼鈍の条件である。本
発明者等は、本発明のように脱炭焼鈍した後又は脱炭焼
鈍の後半で若しくはこれらの両段階で窒化処理を行い、
インヒビターとして(Al、Si)Nを主成分とするイ
ンヒビターを形成し、焼鈍分離剤と最終仕上焼鈍条件に
よってグラス被膜の形成制御、分解反応を起こさせる工
程を採る場合においては、焼鈍雰囲気条件が二次再結晶
の安定化と高磁束密度化に重要な要素となることを膨大
な実験と研究の結果つきとめた。
【0017】即ち、本発明のようにインヒビターとして
MnSを殆ど使用せず、(Al、Si)N系のインヒビ
ターを利用する工程においては、二次再結晶開始温度が
1100℃前後で、従来の高磁束密度方向性電磁鋼板の
製造法によるものより高い。このため、二次再結晶開始
温度領域までグラス被膜形成の抑制、分解反応を行いな
がらインヒビターの強度を一定レベルに保つ必要があ
る。
【0018】これは、焼鈍分離剤によって、一旦グラス
被膜の形成が始まり、次いで分解反応を誘起する工程で
は、グラス被膜の分解反応が開始する時期から鋼中のイ
ンヒビターの分解が急速に進行するからである。このた
め、本発明のように特定条件下で仕上焼鈍を行わないと
良好な二次再結晶と高磁束密度が得られない。仕上焼鈍
条件としては、グラス被膜の分解反応が開始する昇温
時、均熱温度に到達するまでの雰囲気をN2 30%以上
として行われる。これにより、二次再結晶開始時期まで
(Al、Si)Nの安定化が保たれる。
【0019】仕上焼鈍された鋼板は形状矯正、歪取焼鈍
をかねて連続焼鈍ラインで800〜900℃で絶縁被膜
剤の焼付けとヒートフラットニングされる。このヒート
フラットニングの前又は後にレーザー、歯型ロール、プ
レス、ケガキ、局部エッチング等により、深さ5〜50
μm、間隔2〜15mmで圧延方向に対して45〜90
度の方向に線状キズ又は点状キズが導入される。この
後、需要家における使用目的に応じて種々の絶縁被膜剤
が塗布され、焼付処理される。絶縁被膜剤として被膜張
力の付与を目的とする場合には、特公昭53−2837
5号公報に示されるような、燐酸塩〜コロイダルシリカ
系の被膜剤が塗布され、焼付処理される。また、後の需
要家での使用工程で良加工性を必要とする場合には、ヒ
ートフラットニング後の鋼板上に有機被膜剤又は半有機
被膜剤を塗布・焼付処理して使用してもよいし、無機被
膜剤を塗布・焼付処理した後、有機系被膜剤を塗布・焼
付処理して二層被膜を形成して使用してもよい。有機系
被膜剤としては、(1)アクリル、ポリビニル、酢酸ビ
ニル、エポキシ、スチレン等の樹脂及び/又はこれらの
重合体、架橋体の1種又は2種以上の全有機被膜剤か、
(2)前記(1)における樹脂とクロム酸塩、燐酸、燐
酸塩、ホウ酸、ホウ酸塩等の1種又は2種以上の混合物
からなる半有機系被膜剤を150〜450℃の温度で塗
布・焼付処理して使用する。
【0020】これらの有機系被膜剤の塗布・焼付処理に
より、打ち抜き性、スリット性、切断性等が著しく改善
される。本発明によれば、従来のグラス被膜を有する製
品の打ち抜き性が、スチールダイスを使用する場合には
5千回程度であるのに対し、グラス被膜を有しない製品
では、無機絶縁被膜剤を塗布・焼付した場合、約10万
回、さらにこの上に半有機系被膜剤を塗布・焼付した場
合には、200万回程度まで打ち抜き性が向上する。
【0021】次に、本発明における構成要件の限定理由
について述べる。まず、出発材として使用する電磁鋼ス
ラブの成分組成の限定理由は次の通りである。Cはその
含有量が0.021%未満では、二次再結晶が不安定に
なり、二次再結晶した場合にも製品の磁束密度がB8
1.80Tesla程度と低いものになる。一方、0.
075%超になると、脱炭焼鈍工程で長時間を要するた
め、生産性を阻害する。
【0022】Siはその含有量によって固有抵抗が変化
する。2.5%未満では良好な鉄損値が得られない。一
方4.5%超と多くなり過ぎると冷延時に材料の割れ、
破断が多発し、安定した冷延作業を不可能にする。本発
明の出発材の成分系における特徴の一つは、Sを0.0
14%以下とすることにある。従来の公知技術は、例え
ば特公昭47−25220号公報に開示されている技術
においては、SはMnSとして二次再結晶を生起させる
に必要な析出物を形成する元素で、前記公知技術におい
てSが最も効果を発現する含有範囲があり、それは熱延
に先立って行われるスラブ加熱段階でMnSを固溶でき
る量として規定されていた。しかし、近年の研究におい
て、二次再結晶に必要な析出物として(Al、Si)N
を用いる一方向性電磁鋼板の製造プロセスにおいて、素
材中のSi量の多いスラブを低温でスラブ加熱して熱延
する場合、Sは二次再結晶不良を助長することが見出さ
れた。素材中のSi量が4.5%以下の場合、S含有量
は0.014%以下、好ましくは0.0070%以下で
あれば二次再結晶不良の発生は全く生じない。
【0023】本発明では二次再結晶に必要な析出物とし
て(Al、Si)Nを用いる。従って、必要最低限のA
lNを確保するためには、酸可溶Alは0.010%以
上、Nは0.0030%以上必要である。しかしなが
ら、酸可溶Alが0.040%を超えると熱延中のAl
N量が不適切となり、二次再結晶が不安定となるため、
0.010〜0.040%に制限される。一方、Nの含
有量は、0.0130%を超えるとブリスターと呼ばれ
る鋼板表面の割れが発生し、また一次再結晶の粒径が調
整できないため、0.0030〜0.0130%に限定
する。
【0024】Mnは0.05%未満では二次再結晶が不
安定となる。しかし、多くなるとB 8値は高くなるが、
一定量以上添加してもコスト面で不利となる。このた
め、0.05〜0.45%に制限される。本発明におけ
る脱炭焼鈍は、酸素目付量で900ppm以下、且つF
eO/SiO2 が0.20以下に限定される。酸素目付
量が900ppm超では、必然的に酸化膜中のSiO2
量、FeO量が多くなり、酸化膜の厚みも増すため、最
終仕上焼鈍中でのグラス被膜分解反応を行うに際して不
利となる。即ち、表面直下にSiO2 が残留し、加工性
向上効果を弱めたり、完全に鏡面的なグラスレスの表面
状態が得られないばかりでなく、磁性劣化の原因にな
る。さらに、過剰のSiO2 の形成は、二次再結晶開始
以前に鋼中のインヒビターのAlN等のSiO 2 による
分解反応を促進するため、良好な方位を有する方向性が
得られなくなるという問題がある。しかし、極端に酸化
量を抑制しようとすると、脱炭時間が長くなるという問
題があり、生産性を阻害する。好ましい範囲は酸素目付
量で400〜700ppmである。
【0025】また、酸化膜中のFeO/SiO2 は0.
20以下と規定する。0.20超になると仕上焼鈍前半
でのグラス被膜形成反応性が極端に増加し、フォルステ
ライト形成量が増大するため、後のフォルステライトの
分解工程で十分に反応が進行しない。FeO/SiO2
≦0.20であればMgOへの添加物等の効果によって
最終仕上焼鈍後では、ほぼ完全にグラス被膜を有しない
鋼板が得られる。
【0026】脱炭焼鈍後の鋼板の窒化量は150ppm
以上とする。これは、本発明の工程で安定して良好な二
次再結晶を得るためにインヒビター(Al、Si)Nを
形成するために必要な条件である。150ppm未満で
は二次再結晶が不安定になり、細粒の発生が生じやす
い。しかし、300ppm超では後の脱N等の反応の際
に表面に肌あれ状のムラを生じたり、後の純化工程で不
利になる場合があるので、300ppm以下とするのが
望ましい。
【0027】次に焼鈍分離剤に使用するMgOは粒子
径、CAA値、水和水分量が制限される。本発明の技術
では、グラスレス化は仕上焼鈍の昇温時前段で形成した
適度のグラス被膜を昇温時後段で化学反応により分解除
去することにより行われる。即ち、仕上焼鈍前段の二次
再結晶開始までのインヒビターの安定化のためには、こ
の時期における適度な量のグラス被膜による追加酸化、
窒化等の抑制効果を利用する必要があり、磁気特性の優
れたグラスレスの製品を得るために重要だからである。
【0028】このためには、焼鈍分離剤のベースとなる
MgO自体が適度の反応性を持っていることが重要であ
る。即ち、MgOの反応性が極端に悪いと、仕上焼鈍の
昇温過程前半のフォルステライトの形成反応が進行せ
ず、被膜によるシール効果が生じない。このような場
合、二次再結晶が生じても極端に結晶方位が悪くなった
り、追加酸化により、鋼板表面直下に残留SiO2 、A
2 3 或いはこれらのスピネルが生じて鉄損の劣化を
もたらす。このため、MgOの粒子径は10μm以下の
ものが30%以上であるように制限される。これが30
%未満では、極端に反応性が悪くなって前記効果を発揮
できない。またMgOのCAA値は50〜300秒に規
定する。この値が50秒未満では工業的に使用する際に
極端に水和の進行が早くなって、水和水分のコントロー
ルが困難になり、他方300秒超では、MgO粒子の反
応性が極度に低下して、仕上焼鈍前段での適度なフォル
ステライトの形成が生じなくなる。また、MgOの水和
水分は5%以下に制限される。これが5%超になると、
鋼板間の露点が高くなって昇温時前段で追加酸化を生
じ、均一なグラスレス化状態を作ることが困難になり、
極端な場合にはインヒビターにまで影響を与えて二次再
結晶不良が生じる。
【0029】MgOへの添加物としては、Li、K、N
a、Ba、Ca、Mg、Zn、Fe、Zr、Sn、S
r、Al等の塩化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、硫化物
の中から選ばれる1種又は2種以上がMgO100重量
部に対して2〜30重量部配合される。これらの化合物
の添加により、まず仕上焼鈍昇温時前段で鋼板表面に適
度の薄いフォルステライト被膜が形成され、次いでフォ
ルステライトの形成抑制と、追加酸化が防止され、昇温
時後段に被膜層中のFeのエッチング反応により、被膜
層が分解され、グラスレス化される。これらの化合物の
添加量が2重量部未満では前段で形成したフォルステラ
イトの分解反応が十分に進行せず、グラス被膜が残留す
るため好ましくなく、一方30重量部超では添加剤中の
成分元素が鋼板中に拡散侵入して粒界エッチングを起こ
したり、インヒビターに影響を与えたり、後の純化処理
に影響を与えるため好ましくない。最も好ましい範囲は
5〜15重量部である。
【0030】最終仕上焼鈍の条件は、本発明のように最
終焼鈍過程でグラス被膜の適度な形成と分解を行う工程
においては非常に重要である。通常、方向性電磁鋼板の
最終仕上焼鈍においては、雰囲気ガスはN2 、H2 或い
はこれらの混合ガスが用いられるが、表面の酸化制御と
コストの問題からN2+H2 が有利である。本発明の場
合、グラスレス化反応の過程の中でインヒビターの強度
を制御するため、昇温中の雰囲気ガスとして少なくとも
2 30%以上のN2 、H2 及び他の不活性ガスからな
る雰囲気が用いられる。N2 分圧力が30%未満では、
グラスレス化の反応過程で生じる(Al、Si)Nの弱
体化の抑制効果がなく、高磁束密度材が安定して得られ
ない。特にN2 20%以下のような雰囲気条件では著し
い磁気特性の劣化をもたらす。しかし、N2 100%の
ような場合には、MgOの物性値によっては、鋼板間の
酸化度の上昇によって、酸化が生じて、鋼板表面にむら
が生じることがある。好ましくはN2 30〜90%の範
囲である。
【0031】N2 30%以上のガスの使用に当たって昇
温時全体をこの雰囲気中で焼鈍してもよいが、MgOの
条件等によっては追加酸化が生じることがあり、(A
l、Si)Nの安定化に最も効果的な温度である700
℃以後に切り替えるのが好ましい。最終仕上焼鈍におけ
る均熱温度は本発明においては1180〜1250℃と
するのが有利である。本発明においては、最終仕上焼鈍
の均熱に到達した時点でグラスレス化が実現しており、
この時期の温度によってはさらに熱的なエッチングによ
り、鋼板表面の鏡面化が得られる。均熱温度が1180
℃未満ではこの効果が弱く、また、純化に対して不利と
なる。一方、1250℃超では、鏡面化効果に限界があ
ることと、コイル形状が悪くなったり、エッジ部の焼付
きが発生することがある。
【0032】この後、得られた鋼板に絶縁被膜剤を塗布
し、ヒートフラットニングするに際し、ヒートフラット
ニングの前又は後にレーザー、歯型ロール、プレス、ケ
ガキ、局部エッチング等により、鋼板表面に線状キズを
付与する。線状キズの条件は、電磁鋼板の用途によって
異なる。需要家で鉄心を加工する際に歪取焼鈍を行わず
に使用する場合は、適度な歪みによる効果を利用するた
め、深さは5μm未満のような浅い条件でよい。一方、
歪取焼鈍工程を必要とする巻き鉄心の場合には、線状キ
ズの状態が重要で深さ5〜50μm、間隔2〜15m
m、で圧延方向に対して45〜90度である。線状キズ
の幅は特に特定するものではないが、できるだけ狭いほ
うがよい。深さが5μm未満では焼鈍後の鉄損値の改善
効果が小さく、50μm超では磁束密度の低下が大きく
なり、高磁場での特性を考えると不利になる。線状キズ
の方向はこの領域を外れると鉄損の改善効果が得られな
かったり、劣化が生じる。
【0033】次いで、塗布・焼付処理される絶縁被膜剤
としては使用目的によって、無機、有機、半有機被膜等
が用いられる。張力効果と耐熱性を要求されるケースで
は、コロイド状シリカと燐酸塩を主成分とする処理剤や
燐酸塩単独の処理剤が塗布・焼付処理され、加工性を要
求されるケースでは、無機、有機、半有機被膜剤を1回
又は2回以上塗布・焼付処理される。
【0034】本発明によりグラス被膜を有しない超低鉄
損材が得られるメカニズムは、以下のようであると考え
られる。本発明においては、脱炭焼鈍で形成した反応性
を制御した適正量の酸化膜と反応性を制御したMgO及
び添加材により、まず仕上焼鈍の昇温過程前段で適正量
のグラス被膜を形成する。これにより鋼板表面に適度の
シール効果が生じ、AlN、MnS等のインヒビターの
安定化が図れる。次いで仕上焼鈍昇温時後段で、MgO
に配合された塩化物、炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩、硫化物
等の添加物の作用によってグラス被膜のエッチング、分
解反応が進行する。この後、さらに仕上焼鈍の高温均熱
段階で、サーマルエッチング効果が生じる。この段階に
おいては、冷延時の表面荒れ、脱炭焼鈍での酸化膜の不
均一化等によって生じた鋼板地鉄面の凹凸が平滑化され
て鏡面的な表面となる。これは、グラスレス化すること
により、高温熱処理時の表面の原子の移動が容易にな
り、表面張力を下げる結果、表面の平滑化がもたらされ
からである。このような反応過程では、二次再結晶開
始前までは、インヒビターの安定化、強化が重要であ
り、この対策として、本発明においてはN2 分圧をコン
トロールする。これにより、インヒビターの安定化が保
たれ、高磁束密度の方向性電磁鋼板が得られる。
【0035】このようにして得られたグラスレスで、且
つ高磁束密度方向性電磁鋼板は、磁区細分化処理により
通常のグラス被膜付きの高磁束密度の方向性電磁鋼板に
比べて大きな鉄損改善効果が得られる。これは、1つは
グラス被膜を有する製品に見られるグラス被膜及び内部
酸化層がないことと、もう1つは凹凸が少ないスムーズ
な表面であることの2つの効果によって、磁区細分化の
時の磁壁移動の際にピンニング現象がないため、高磁束
密度の効果と相まって大きな効果を生み、超低鉄損材が
得られるものと考えられる。
【0036】
【実施例】
実施例1 重量でC:0.056%、Si:3.35%、Mn:
0.10%、酸可溶Al:0.27%、N:0.007
0%、S:0.0065%を含有し、残部Fe及び不可
避不純物からなる素材を2.0mmに熱延し、1120
℃で2分間焼鈍し、酸洗し、冷延して最終板厚0.22
5mmとした。次いで、N2 25%+H275%、露点
55℃の雰囲気中で850℃で3分間の脱炭焼鈍を行っ
た。この時の鋼板の酸素目付量は600ppmであっ
た。次いで、N2 25%+H2 75%+NH3 の雰囲気
中で770℃で鋼板N量が220ppmになるように窒
化処理を行い、供試材とした。
【0037】この鋼板上に表1に示す組成の焼鈍分離剤
を塗布し、図2(A)、(B)、(C)に示す雰囲気条
件で最終仕上焼鈍を行った。次いで、この鋼板に歯幅3
0μmの歯型ロールで深さ15μmになるように間隔5
mmで鋼板の圧延方向と直角方向に線状キズを付与した
後、絶縁被膜処理剤として、20%コロイド状シリカ1
00ml+50%Al(H2 PO4 3 50ml+Cr
3 5gからなる溶液を乾燥後重量で6g/m2 となる
ように塗布し、880℃で45秒間のヒートフラットニ
ングと焼付処理を行った。この時の鋼板表面の被膜特性
及び磁気特性を表2に示す。
【0038】この結果本発明によるものは、いずれもほ
ぼ全面的にグラス被膜が形成せず、金属光沢を呈してお
り、打ち抜き性が良好であった。また、磁気特性は昇温
雰囲気のN2 分圧の高い本発明の焼鈍条件(A)、
(B)によるものは非常に良好であった。しかし、焼鈍
分離剤を本発明のものを用いても焼鈍条件が(C)の条
件によるものは、いずれも磁束密度が低く、良好な磁性
は得られなかった。
【0039】
【表1】
【0040】
【表2】
【0041】実施例2 実施例1と同一の素材コイルを同様にして処理し、最終
板厚0.22mmの冷延板を得た。次いで、N2 25%
+H2 75%中で露点を変更して酸素目付量(1)50
0ppm、(2)750ppm、(3)1200ppm
となるように脱炭焼鈍し、次いでN2 25%+H2 75
%+NH3 雰囲気中で窒素量が250ppmとなるよう
に窒化処理を行って出発材とした。
【0042】この鋼板に表3に示す組成の焼鈍分離剤を
塗布し、最終仕上焼鈍を図2(A)に示すサイクルで行
った。この後、この鋼板に歯幅20μmのプレスロール
で間隔4mm、深さ10μmの条件で圧延方向に直角な
方向に線状キズを付与し、5%H2 SO4 で80℃で1
0秒間の軽酸洗をし、絶縁被膜処理剤として、20%コ
ロイダルシリカ100ml+50%Al(H2 PO4
3 50ml+CrO35gからなる処理剤を乾燥後の重
量で4.5g/m2 になるように塗布した後、890℃
で30秒間のヒートフラットニングと焼付処理を行っ
た。
【0043】この製品板に別のラインでアクリル系樹脂
をベースとする半有機被膜剤を乾燥後の重量で0.3g
/m2 になるように塗布し、300℃で30秒間焼付処
理を行った。この時の鋼板表面状況及び磁気特性を表4
に示す。
【0044】
【表3】
【0045】
【表4】
【0046】この結果、本発明によるものは脱炭後の酸
素目付量500ppm、750ppmの材料はいずれも
グラスレス化が顕著で、グラス被膜量の定量の結果でも
ほとんどフォルステライトが形成されていないことが確
認された。また、打ち抜き性の試験結果においても非常
に良好な結果が得られた。また、磁気特性も酸素目付量
500ppm、750ppmの条件では本発明の焼鈍分
離剤のものは、いずれも高磁束密度で、良好な鉄損値が
得られた。
【0047】実施例3 重量で、C:0.060%、Si:3.40%、Mn:
0.140%、酸可溶Al:0.026%、N:0.0
075%、S:0.075%を含有し、残部Fe及び不
可避不純物からなる素材を熱延し、1120℃で2分間
焼鈍し、酸洗し、冷延して最終板厚0.170mmとし
た。次いで、脱炭焼鈍条件としてN2 25%+H2 75
%、露点65℃にて850℃×1.5分間の焼鈍を行っ
た。この時の鋼板の酸素目付量は550ppmであっ
た。次いで、実施例1、2と同様にして窒素量が200
ppmになるように窒化処理を行って出発材とした。
【0048】この鋼板に表5に示す組成の焼鈍分離剤を
塗布し、図2(B)に示す条件で最終仕上焼鈍を行っ
た。この後2%H2 SO4 、80℃で15秒間の条件で
軽酸洗を行い、絶縁被膜剤として20%コロイダルシリ
カ100ml+50%Al(H 2 PO4 3 50ml+
CrO3 5gの組成の処理剤を乾燥後の重量で6g/m
2 の割合で塗布し、850℃で30秒間のヒートフラッ
トニングと焼付処理を行った。
【0049】この製品板にレーザーを用いて鋼板の圧延
方向と直角方向に間隔5mm、照射幅0.15mm、照
射痕の深さ2.0μmの条件で歪み付与処理を行って最
終製品とした。この時の鋼板表面状況と磁気特性の結果
を表6に示す。
【0050】
【表5】
【0051】
【表6】
【0052】この結果、本発明によるものは、いずれも
グラスレス化が顕著で、レーザー処理による磁区制御を
行った製品の特性が良好であった。特に、MgOのCA
A値280秒のMgOを使用したものは良好な結果が得
られた。一方、比較材の条件では厚いグラス被膜を形成
したが、磁区制御後の特性がやや悪い結果となった。
【0053】
【発明の効果】本発明によれば、グラス被膜を有しない
加工性の良好な高磁束密度超低鉄損方向性電磁鋼板を提
供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】最終仕上焼鈍におけるインヒビター元素Alの
変化(a)及びNの変化(b)を示す図である。
【図2】最終仕上焼鈍条件を示す図で、(A)、(B)
は本発明の焼鈍条件の例を示す図、(C)は従来の焼鈍
条件を示す図である。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 原谷 勤 福岡県北九州市戸畑区飛幡町1番1号 新日本製鐵株式会社 八幡製鐵所内 (72)発明者 石橋 希瑞 福岡県北九州市戸畑区飛幡町1番1号 新日本製鐵株式会社 八幡製鐵所内 (56)参考文献 特開 平2−22421(JP,A) 特開 昭59−205420(JP,A) 特開 平1−62417(JP,A) 特開 昭60−145382(JP,A)

Claims (6)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 重量で、C:0.021〜0.075
    %、Si:2.5〜4.5%、酸可溶Al:0.010
    〜0.040%、N:0.0030〜0.0130%、
    S≦0.014%、Mn:0.05〜0.45%を含有
    し、残部がFe及び不可避の不純物からなるスラブを、
    1280℃未満の温度で加熱した後、熱延し、引続き熱
    延板焼鈍し又はすることなく、1回又は焼鈍を挟む2回
    以上の冷延により最終板厚とし、次いで脱炭焼鈍した後
    又は脱炭焼鈍の後半で若しくはこれらの両段階で窒化処
    理し、次いでMgO100重量部に対し、Li、K、N
    a、Ba、Ca、Mg、Zn、Fe、Zr、Sn、S
    r、Al等の塩化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、硫化物
    の中から選ばれる1種又は2種以上2〜30重量部を添
    加した焼鈍分離剤を塗布し、次いで昇温時、均熱までの
    雰囲気を少なくともN 2 :30%のN 2 +H 2 で最終仕
    上焼鈍し、引き続く最終仕上焼鈍の均熱工程において二
    次再結晶と純化焼鈍を施すとともにグラスレス化ならび
    にサーマルエッジングによる鏡面化を施した鋼板に、
    ートフラットニングの前又は後に、磁区細分化処理とし
    てレーザー、歯型ロール、プレス、ケガキ、局部エッチ
    ング等により線状又は点状キズを圧延方向に対して45
    〜90度の方向に付与した後、絶縁被膜処理を行うこと
    からなる加工性の優れた高磁束密度超低鉄損方向性電磁
    鋼板の製造方法。
  2. 【請求項2】 脱炭焼鈍における鋼板酸素目付量が90
    0ppm以下で、且つ酸化膜中のFeO/SiO2
    0.20以下であることを特徴とする請求項記載の加
    工性の優れた高磁束密度超低鉄損方向性電磁鋼板の製造
    方法。
  3. 【請求項3】 窒化処理における窒化量が150ppm
    以上であることを特徴とする請求項記載の加工性の優
    れた高磁束密度超低鉄損方向性電磁鋼板の製造方法。
  4. 【請求項4】 焼鈍分離剤に使用するMgOは、粒子径
    が10μm以下のものを30%以上含み、クエン酸活性
    度CAA値が50〜300秒(30℃測定値)、水和水
    分が5%以下であることを特徴とする請求項記載の加
    工性の優れた高磁束密度超低鉄損方向性電磁鋼板の製造
    方法。
  5. 【請求項5】 線状又は点状キズの付与条件が、製品を
    鉄心加工する際に、歪取焼鈍を行わない場合には深さ5
    μm未満、歪取焼鈍を行う場合には深さ5〜50μm、
    間隔2〜15mmとし、且つ圧延方向に対して45〜9
    0度の方向に線状又は点状に処理することを特徴とする
    請求項記載の加工性の優れた高磁束密度超低鉄損方向
    性電磁鋼板の製造方法。
  6. 【請求項6】 絶縁被膜剤の塗布に際し、無機、有機、
    半有機のうち、いずれかを用いて1回又は2回以上の焼
    付処理を行うことを特徴とする請求項記載の加工性の
    優れた高磁束密度超低鉄損方向性電磁鋼板の製造方法。
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