JP2593940B2 - インクジェット記録ヘッドの駆動方法 - Google Patents

インクジェット記録ヘッドの駆動方法

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JP2593940B2
JP2593940B2 JP19215889A JP19215889A JP2593940B2 JP 2593940 B2 JP2593940 B2 JP 2593940B2 JP 19215889 A JP19215889 A JP 19215889A JP 19215889 A JP19215889 A JP 19215889A JP 2593940 B2 JP2593940 B2 JP 2593940B2
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Description

【発明の詳細な説明】 (産業上の利用分野) 本発明はインクジェット記録ヘッドの駆動方法にかか
り、詳しくはオンデマンド型インクジェット記録ヘッド
において、インク吐出の安定化及び高速化ならびに印字
品質の向上を可能にした記録ヘッドの駆動方法に関す
る。
(従来の技術) 従来、インクジェット記録ヘッド及びその駆動装置に
は多くの方式がある。これを大きく分類すると連続噴
射型オンデマンド型(インパルス型)静電吸引型の
3つである。この中で、オンデマンド型インクジェット
記録ヘッドは、構成が比較的簡単であり、しかも安価に
て製造できるという特徴から、プリンタ等の記録ヘッド
として広く使用されている。
第12図及び第13図は、この記録ヘッドの主要部を示し
たもので、これらの図において、11はインクタンク、12
はインク供給路、13は平面形状が円形または多角形状の
インク加圧室、14はその中心に設けられた断面形状が例
えば円形のインクノズル、15はインク加圧室13の外側に
おいてインクノズル14とは反対側に設けられた振動板、
16はこの振動板15に貼着された電気機械変換素子として
の圧電素子であり、前記振動板15及び圧電素子16により
バイモルフが構成されている。
このような構成において、圧電素子16にパルス状の電
圧が印加されると、圧電素子16は図示する矢印のように
長さ方向に収縮して厚さ方向に膨張するため、振動板15
が図の一点鎖線aのようにインク加圧室13の内側にたわ
む。これによりインク加圧室13の容積が僅かながら減少
し、振動板15の変形によって生じた圧力波により、イン
ク加圧室13内のインクがインク滴となってインクノズル
14から図のb方向に吐出される。なお、この記録ヘッド
はインク加圧室13とインクノズル14とが直接連通した構
造であり、インク滴はインクの加圧方向に対して平行な
方向に吐出されるものである。
また、第14図に示すものは他の記録ヘッドの主要部を
示したものであり、その基本的な構造やインク吐出の原
理は第12図及び第13図に示したものとほぼ同様である。
しかるにこの例では、インクノズル14′がインク加圧室
13の側方に形成されていてインク滴はインクの加圧方向
に対して直角方向に吐出されると共に、インク加圧室13
とインクノズル14′との間には段差を有するインク供給
路17が形成されている。
この記録ヘッドのインクノズル14′では、製造方法等
の点からその断面形状を円形にすることが困難であるた
め、通常は断面形状が第15図(a)の正方形、同図
(b)の長方形、または同図(c)の台形に形成されて
いる。
なお、第14図に示した記録ヘッドではインクノズル1
4′が記録ヘッドの側方に設けられているため、第12図
及び第13図に示した記録ヘッドに比べてノズルピッチを
短小化し易く、印字ドット数の増加により高解像度の印
字が可能である。
ところで、圧電素子16に印加される電圧パルス波形と
しては、第16図(a)〜(c)に示すものが多用されて
いる。まず、第16図(a)は時刻t1で電圧をV1とし、
(t2−t1)時間経過後の時刻t2で電圧をゼロに除荷する
ものであり、インク滴は時刻t1で吐出し、これを目的と
する周波数に応じてn回(nは自然数)繰り返す。この
際、電圧パルス幅Aを振動板15及び圧電素子16からなる
バイモルフの固有振動周期と等しくした場合、このよう
な電圧パルス波形による駆動方法は“押し打ち”の駆動
方法と呼ばれている。
次に、同図(b)は時刻t1で電圧をゼロとし、(t2
t1)時間経過後の時刻t2で電圧をV1とするものであり、
インク滴は時刻t2で吐出し、これを目的とする周波数に
応じてn回繰り返す。この際、(t2−t1)の時間Bをバ
イモルフの固有振動周期の1/2とした場合、このような
電圧パルス波形による駆動方法は“引き打ち”の駆動方
法と呼ばれている。
更に、同図(c)は同図(a)に示した“押し打ち”
の駆動方法の変形例であり、時刻t1で電圧をV1とし、
(t2−t1)時間経過後の時刻t2で電圧を−V2とした後、
(t3−t2)時間経過後の時刻t3で電圧をゼロとするもの
で、インク滴は時刻t1で吐出し、これを目的とする周波
数に応じてn回繰り返すものである。
なお、第16図(b)に示した“引き打ち”の駆動方法
は、インク加圧室13の容積を一旦増加させ、いわゆるイ
ンクノズル14,14′内のメニスカス(インクの出入り)
を後退させてからインクを加圧するものであり、この駆
動方法によれば、特開昭55−17589号公報に記載されて
いるごとく、同図(a)の“押し打ち”に比べてインク
滴を安定して吐出させることができ、かつ周波数応答性
にも優れていることが知られている。
(発明が解決しようとする課題) 上述したように、圧電素子16に印加される電圧パルス
波形に応じた記録ヘッドの駆動方法は様々であり、これ
らの駆動方法が記録ヘッドのインク吐出性に密接な関係
を有することが周知の事実となっている。そして、第16
図(a)〜(c)に示した各駆動方法では、もっぱら電
圧パルスの波高値及びパルズ幅のみが着目され、これら
の2つのパラメータによってインクの吐出性を制御しよ
うとする場合が多い。
しかるに、インク吐出時の挙動を考えるとき、上記2
つのパラメータのみによっては制御できない種々の好ま
しくない現象がある。例えば、インクノズル外部からの
気泡の侵入によるインク不吐出等のほか、重大なものと
していわゆるサテライトの発生による不都合がある。す
なわち、1回の電圧パルス波形を与えた場合、インクノ
ズルから主インク滴に続いて時間的に遅れをもったサテ
ライト(副インク滴)が数発吐出し、このサテライトに
よって文字を構成するドットがにじみ、印字品質が低下
するという問題を生じる。また、インクノズルから吐出
されたインク滴が曲がって直進性を失い、所望の文字を
印字できないという不都合が発生する場合もある。
これらの現象はストロボ観測装置を用いて容易に観測
することができ、実際に前記第16図(a)〜(c)の電
圧パルス波形を圧電素子16に印加した観測実験では、圧
電素子16の面積を小さくするほどサテライトが発生し易
いことが事実として判明した。また、このことは、以下
に詳述する集中定数回路モデルを用いたインクジェット
記録ヘッドの理論解析によっても明らかである。
すなわち、第12図及び第13図に示したインクジェット
記録ヘッドを等価電気回路に置き換えると第17図に示す
とおりとなる。同図において、mはイナータンス、cは
音響容量、rは音響抵抗、Uは体積速度を示し、これら
に関する添字の0はバイモルフからなる振動系、1はイ
ンク加圧室系、2はインク供給路系、3はインクノズル
系をそれぞれ意味している。それぞれの単位は、圧力:P
〔N/m2〕、体積速度:U〔m3/s〕、イナータンス:m〔kg/m
4〕、音響容量:c〔m2/N〕、音響抵抗:r〔Ns/m5〕を用い
る。
これらのうち、振動系のm0,r0,インク供給路系のc2
及びインクノズル系のc3は実際の計算過程で無視できる
ため、第17図の回路は第18図によって近似することがで
き、また、インク供給路系の定数はm2=km3,r2=kr3
関係を有している。この第18図の等価回路を用いて、圧
力Pを第19図に示すようなステップパルス応答における
ステップ関数としてとらえ、時間t≧0でインクノズル
系の体積速度U3の過渡応答性を求める場合、第18図の等
価回路をラプラス変換した第20図の回路に基づいて解析
すると、前記体積速度U3は(1)式のとおりとなる。
ここで、Dは減衰定数、Eは角周波数であり、これは
それぞれ以下の(2),(3)式により表わされる。
D=r3/2m3 …………(2) また、電圧V(t)と圧力P(t)との関係は以下の
(4)式のとおりとなり、(4)式のCは(5)式で表
わされる。
V(t)=P(t)/C …………(4) ここで、tpは圧電素子の厚さ、αは振動板の厚さをtv
とした場合のtv/tp、S11 Eは圧電素子のコンプライアン
ス、aは圧電素子の半径、d31は横効果圧電定数であ
る。また、η=S11 E・Ev(1−νp2)/(1−νv)2
であり、ここにEvは振動板のヤング率、νpは圧電素子
のポアソン比、νvは振動板のポアソン比である。
前記(1),(4)式に基づいて、第21図上段に示す
如くt=0でV=V0のステップ電圧を印加した場合の体
積速度U3を時間tに対してプロットした結果は同図下段
に示すとおりである。同図において、体積速度U3の2番
目以後の極大値はサテライトを意味し、2番目のサテラ
イトの最大値Bと主インク滴の最大値U3m(=A)との
比B/Aは50%となっている。ここで、最大値U3mをインク
ノズルの断面積で割ると、インク滴の吐出速度が得られ
る。また、図中、Tは体積速度U3の固有振動周期を示
し、前述した(3)式を用いて、T=2π/Eにより求め
られる。更に、インク滴の体積Qは、前記(1)式をt
=0〜t1まで積分した値となり、次の(6)式によって
表わされる。
第22図は、上述の解析結果に基づいて矩形波パルス電
圧を印加した場合の体積速度U3の振動をプロットしたも
のである。同図においても、体積速度U3の2番目以後の
極大値はサテライトを意味しており、かかるサテライト
がドットのにじみによる印字品質の低下をもたらすこと
になる。そしてこのサテライトの発生は、圧電素子16の
面積が小さいほど顕著となる。
このような問題は、圧電素子16の小型化により記録ヘ
ッドの小型化を図りたい場合に大きな障害であり、換言
すれば、従来では記録ヘッドの小型化とサテライトの除
去による印字品質の向上、ひいてはインク吐出の安定性
確保が同時に達成できないという問題があった。
一方、このような問題点をインクノズルの断面形状と
の関連で考察すると、第14図に示した記録ヘッドではイ
ンクノズル14′の断面形状が第15図のような多角形であ
るため、第12図及び第13図に示したように断面形状が殆
ど円形で緩やかなテーパを有するインクノズル14を備え
た記録ヘッドに比べて、以下のような新たな問題を生じ
ることになる。すなわち、第12図及び第13図に示したイ
ンクノズル14では、その構造に起因してインクの流れや
インクメニスカスの挙動がインクノズル14内で不均一に
なることはないが、第14図に示したインクノズル14′で
は、第16図(a)や(b)のような電圧パルス波形その
ものではインク滴の吐出が不安定となりやすく、印字品
質上の不都合が発生し易い。これは、前述の如くインク
ノズル14′の断面形状が多角形であるので、その断面内
の位置に応じてインクが受ける抵抗が別々となり、イン
クメニスカスの挙動が不均一なり易いためではないかと
考えられている。
ここで、記録ヘッドの構造上は、前述した如く第14図
の記録ヘッドの方がノズルピッチを短小化して解像度を
向上させることができ、マルチノズル化し易いという特
徴があるため、このように特にインクノズルの断面形状
が多角形の記録ヘッドにおいて、インク滴の吐出安定化
及び印字品質の向上を図れる駆動方法の提供が要請され
ている。
本発明は上記問題点を解決するべくなされたもので、
第1の発明の目的とするところは、サテライトを除去し
て印字品質の向上及びインク吐出の安定化を図ると共
に、記録ヘッドの小型化をも可能にしたインクジェット
記録ヘッドの駆動方法を提供することにあり、更に、第
2の発明の目的とするところは、インクノズルの断面形
状が多角形であっても印字品質の向上及びインク吐出の
安定化を図り得るインクジェット記録ヘッドの駆動方法
を提供することにある。
(課題を解決するための手段) 上記目的を達成するため、発明者等は上述した従来の
理論解析に改良を加えて解析した結果、第1の発明とし
て、駆動電圧パルスの立ち上がり時間をインクノズルの
インク体積速度の固有振動周期と等しくし、前記電圧パ
ルスの立ち下がり時間を前記固有振動周期のn倍(nは
自然数)とすることにより、記録ヘッドの構造の若干の
変更や駆動電圧パルス波形の種類に拘らず、サテライト
を除去してインク吐出の安定化を可能にしたものであ
る。
また、第2の発明として、発明者等はインクノズル内
のインク体積速度(メニスカスの動き)に着目し、メニ
スカスの後退は緩やかとし、逆にメニスカスの前進(イ
ンク吐出)は速やかに行い、かつインク滴(もしくはイ
ンク柱)の吐出量を制御可能な電圧パルス波形を提供す
ることにより、断面形状が多角形のインクノズルをもつ
記録ヘッドにおいてもインク吐出の安定化及び印字品質
の向上を可能にしたものである。
(作用) 第1の発明において、本発明者等は、矩形パルス応答
解析においてパルスの立ち上がりと立ち下がりに着目し
て解析を進めた。その結果、圧力Pを第1図のように立
ち上げた場合のラプラス変換は、 となる。これをラプラス変換(t→s)した集中定数回
路に代入してインクノズルのインク体積速度を求める
と、以下の(8),(9)式のようになる。
である。
いま、矩形パルスが第2図に示すようなものであると
き、インクノズルの体積速度は以下のとおりとなる。
そして、この際の前記体積速度の挙動は、前述した第
22図のようになる。
一方、圧力Pを、前述した第1図に準じて第3図のよ
うに立ち上がり時間t3を考慮したものとすると、インク
ノズルの体積速度は以下のとおりとなる。
また、圧力Pを、立ち上がり時間t3のみならず第4図
のように立ち下がり時間(t2−t0)をも考慮したものと
すると、上記体積速度は以下のとおりとなる。
このように立ち上がり時間及び立ち下がり時間を考慮
した電圧パルスを用い、例えば第16図(b)の引き打ち
駆動方法により記録ヘッドを駆動した場合について考察
する。
第5図に示すように、立ち下がり時間tA=2T(Tはイ
ンクノズルのインク体積速度の固有振動周期)、立ち上
がり時間tB=Tの電圧パルスを圧電素子に印加した際の
体積速度の解析結果は第6図のとおりとなる。本発明に
よれば、インク吐出動作が1パルス当たりほぼ1回とな
り、第22図のような余分を振動が抑えられるため、サテ
ライトが殆ど生じなくなる。第6図におけるサテライト
の最大値Bと主インク滴の最大値Aとの比B/Aはほぼ6.6
%であり、圧電素子の形状が変わった場合でも、電圧パ
ルス波形の立ち下がり時間tA及び立ち上がり時間tBを前
記固有振動周期Tに合わせて制御することにより、サテ
ライトの発生を解消してインク吐出の安定化を実現する
ことができる。
一方、第2の発明においては、以下のような電圧パル
ス波形を用いて記録ヘッドを駆動する。すなわち、イン
ク不吐出時には圧電素子に予め電圧V1を印加してインク
加圧室の容積を減少させておき、印字に当たってはイン
ク加圧室の容積が急激に変化しないようにt1なる立ち下
がり時間を経て前記電圧V1を除荷したままt2なる時間を
保持し、その後t3なる立ち上がり時間を経て前記電圧V1
より高い電圧V2を印加したままt4なる時間を保持するこ
とによりインク加圧室の容積を急激に減少させてインク
ノズルからインクを吐出させ、更にt5なる立ち下がり時
間を経て前記電圧V1よりも低い電圧V3を印加したままt6
なる時間を保持し、その後t7なる立ち上がり時間を経て
前記電圧V1に復帰する電圧パルス波形である。
ここで、上記時間t1ないしt7としては、t1はインクノ
ズルにおけるインク体積速度の固有振動周期の1/2以上
とし、また、t2は10〜50μsec、t3は10μsec以下、t4
50〜150μsec、t5は10μsec以下、t6は10〜50μsec、t7
は10μsec以下とし、更に、前記電圧V1はほぼ100Vと
し、電圧V2は120〜170V、電圧V3は50〜75Vの範囲とする
ものである。
このような電圧パルス波形を用いることにより、断面
形状が多角形のインクノズルを有する記録ヘッドであっ
てもインク吐出の安定化が可能になる。
(実施例) まず、第1の発明の一実施例を説明する。第1の発明
について、(作用)の項で詳述した理論解析に基づき、
インクノズルの体積速度の固有振動周期Tを求めてみ
た。まず、電気等価回路の各定数を以下の式により計算
する。
ここで、EP,EVは前述のようにそれぞれ圧電素子及び
振動板のヤング率、K1は定数(実験ではK1=12.5)、a
は圧電素子の半径、tp,tvはそれぞれ圧電素子及び振動
板の厚さ、dcはインク加圧室の深さ、vはインク中の音
速、γはインク粘度、lはインクノズルにおけるインク
流路長、Sは流路断面積、βはインク密度、dは流路直
径を示す。なお、流路直径d≒2S/(b+c)であり、
b,cは流路断面の辺の長さである。
また、インクノズル系においてl=0.3mm(ノズル外
径=40μm、同内径=90μm)、インク加圧室系におい
てdc=0.2mm、振動系においてEp=5.5×1010N/m2、Ev=
9.15×1010N/m2、a=0.79mm、tp=0.2mm、tv=0.2mm、
前述した横効果圧電定数d31=245m/V、インク供給路系
における第18図中のk=5、インク粘度γ=1.6Cp、イ
ンク密度β=1.0g/cm3、印加電圧波高値V0=50Vとする
と、結果として固有振動周期T=20μsとなる。
上記理論解析から得られた結果をもとに実験を行な
い、この実施例による効果を確認してみた。実験では、
従来の駆動方法については矩形電圧パルスによる押し打
ちとし、パルス幅=周期のときに吐出特性がよいものと
してこの記録ヘッドに波高値60V、パルス幅20μs、周
波数3KHzの矩形電圧パルスを印加したのに対して、この
実施例においては上記解析結果に基いた波高値100V、パ
ルス幅20μs、立ち下がり時間40μs、立ち上がり時間
20μs、周波数3KHzの電圧パルスを印加した。また、本
実施例においては引き打ちの駆動方法も試みた。これら
によるインク飛距離、サテライト及び印字によるドット
形状の評価結果を以下の表1に示す。
この表1から明らかなように、本実施例によれば十分
なインク飛距離が得られ、サテライトが発生しないと共
に、ドット形状も良好で印字品質を高められることが判
明した。
次に、第2の発明の一実施例を説明する。この実施例
では、感光性ガラス(例えば、HOYA株式会社製の商品名
「PEG−3」など)を素材に用いて第7図及び第8図に
示す構造の記録ヘッドを製作し、後述する電圧パルス波
形による駆動方法とインク吐出性との関係を試験研究し
た。ここで、感光性ガラスとは、インク供給路などの溝
を形成したい所要の部分のみに紫外線を照射して潜像を
つくり、これを現像(熱処理)すると、その部分が結晶
化されて酸に溶けやすくなるので、エッチング時間の調
整等によって溝の深さを正確に制御できる材料である。
この感光性ガラスはその表面上に微細なパターンを精度
よく加工でき、かつ適切な熱処理条件によって融着(物
理的接合)も可能であるという特徴を有している。
一方、この感光性ガラスは露光→現象(熱処理)によ
って異方性となるため、そのエッチングによる溝の断面
形状は方形となり、例えば断面形状が半円形のように溝
の底部分に曲率を付与することが困難である。また、イ
ンク供給路等の深さを緩やかなテーパをもって変化させ
ること等も不可能である。
第7図において、第14図に示したのと同様に11はイン
クタンク、12はインク供給路、13はインク加圧室、14′
は断面形状が例えば第15図(a)〜(c)の如く多角形
(四角形)に形成されたインクノズル、15は振動板、16
は振動板15と共にバイモルフを形成している圧電素子で
ある。ここで、インク加圧室13とインクノズル14′との
間にはそれぞれ深さの異なるインク供給路12A,12Bが形
成されている。また、第8図は第7図とほぼ同様な構成
であるが、インク加圧室13とインクノズル14′との間に
は均一の深さを有するインク供給路12Aのみが形成され
ている点が異なっている。
また、第7図及び第8図において、インクノズル14′
の断面形状は深さと幅とがそれぞれ0.035mmの正方形
と、長辺が0.04mm、短辺が0.03mmで深さが0.035mmの台
形との2つとし、インク供給路12,12Aの深さは何れも0.
15mm、インク供給路12Bの深さは0.1mmとした。更に、圧
電素子16の形状は1.5×3.0×0.15mmとした。
また、上記寸法をもつ記録ヘッドにおけるインク体積
速度の固有振動周期は、前述の第1の発明の実施例にお
いて説明したように記録ヘッドの構成を電気音響変換し
た等価回路図の数値解析から、120〜135μsecと求めら
れた。
<比較例1> 第7図及び第8図に示す記録ヘッドに前記第16図
(a),(b)の電圧パルス波形を印加してインク吐出
性を調べた。この時、第16図(a),(b)における電
圧V1は120〜150V、時間A,B(何れもt2−t1)は20〜150
μsec、パルスの立ち上がり時間及び立ち下がり時間は
何れも8μsec、駆動周波数は1〜5kHzとして試験し
た。この条件ではサテライトの発生も多く、かつインク
ノズル14′の外部からの気泡の侵入も数多くみられ、良
好な印字品質は得られなかった。
<実施例1> 発明者等は、種々検討を行い、第9図に示す電圧パル
ス波形が本発明の目的に合致することを見出し、その細
部について実験的考察を進めた結果、以下の要件により
本発明の目的を達成するに至った。
すなわち第9図の電圧パルス波形では、まず、予め電
圧V1を圧電素子16に印加しておき、この電圧V1を立ち下
がり時間t1を経てゼロに除荷する。ここで、時間t1は電
圧V1を除荷してインク加圧室13の容積を復元し、インク
の吸い込みとインクノズル14′内のメニスカスの後退を
行う期間であり、この時間t1はインク体積速度の固有振
動周期の1/2以上の時間としてメニスカスの後退を緩や
か、かつ少なくするように設定され、または、t1と後述
するt2との和がインク体積速度の固有振動周期の1/2以
上の時間になるように設定して、メニスカスの動きを安
定化することが必要とされる。
次に、電圧ゼロの状態を例えば10〜50μsecの時間t2
にわたって保持した後、電圧ゼロから前記電圧V1よりも
高い電圧V2に立ち上げる時間t3は、例えば10μsec以下
に設定される。この時間t3が10μsec以上であると、圧
力波の発生が不十分となってインク吐出速度が低下し、
記録媒体に対するインクの着弾位置がずれ、印加品質に
欠陥を生じることとなる。
次に、電圧V2の保持時間であるt4は、例えば50〜150
μsecの範囲であれば特に印字品質上、不都合を与える
ことはない。そして、この時間t4を経過した後、立ち下
がり時間t5を経て前記電圧V1よりも低い電圧V3に立ち下
げることとする。この電圧V3は、インクノズル14′内の
メニスカスを瞬間的に後退させて吐出インク滴もしくは
インク柱を作為的に切断し、サテライトの発生やインク
柱の曲がり等を防止する役割をもつものである。従っ
て、電圧V3は電圧ゼロと電圧V1以下の範囲内にあればよ
い。なお、前記立ち下がり時間t5は例えば10μsec以下
に設定される。
また、電圧V3の保持時間t6は、10〜50μsecの範囲に
あれば十分である。その後、電圧V3の状態から立ち上が
り時間t7を経て再び前記V1に復帰させるが、この時の時
間t7は前記立ち下がり時間t5と同様に例えば10μsec以
下であればよい。
更に、上述した種々の印加電圧のレベルは、第7図ま
たは第8図の記録ヘッドであれば、V1は100V前後、V2
120〜170V、V3は50〜75Vの範囲が最適であることが判明
している。
以下、前記時間t1〜t7及び電圧V1〜V3を種々異ならせ
た10の電圧波形パターンを用いたときの、サテライト発
生の有無及びインク柱の曲がりについての実験結果を表
2に示す。なお、t1〜t7の単位はμsec、V1〜V3はV
(ボルト)である。
なお、この表2において、“○”はサテライトの発生
がない場合、またはインク柱の曲がりが認められない場
合を、“×”はサテライトの発生がある場合、またはイ
ンク柱の曲がりが認められた場合をそれぞれ示す。
ここで、本発明の電圧パルス波形を印加した際の振動
板15の変位挙動を模式的に示すと、第10図及び第11図の
ようになると考えられる。このうち第10図において、C
は電圧パルス波形を、Dは振動板15の変位挙動をそれぞ
れ示しており、また、第11図における〜は第10図中
のタイミング〜にそれぞれ対応している。
振動板15の変位挙動を第11図に基づいて説明すると、
まず、では振動板15かインク加圧室13内へ変位し、
では振動板15が圧電素子16側に戻る。また、では例え
ばV2=150Vを印加することにより、振動板15がの場合
よりも大きくインク加圧室13内へ変位し、このタイミン
グにてインクが吐出する。そして、では例えばV3=50
Vを印加することにより、振動板15がの場合よりも小
さく圧電素子16側に戻り、では再び電圧V1を印加する
ことによって振動板15がインク加圧室13内へ変位し、
の状態に戻るものである。
(発明の効果) 以上詳述したように第1の発明によれば、記録ヘッド
の圧電素子に印加する電圧パルス波形の立ち上がり及び
立ち下がりを、インクノズルの体積速度に応じた時間に
設定したことにより、サテライトや気泡侵入の原因とな
る体積速度の振動を解消することができ、印字品質の向
上及びインク吐出性の安定化、高速化が可能になる。ま
た、サテライトを生じないため、圧電素子の小型化ひい
ては記録ヘッド全体の小型化を図ることができる。
更に第2の発明によれば、記録ヘッドの圧電素子に印
加する電圧パルス波形を、インクノズル内のインク体積
速度(メニスカスの動き)に着目してメニスカスの後退
を緩やかとし、逆にメニスカスの前進(インク吐出)を
速やかに行い、かつインク滴(またはインク柱)の吐出
量を制御できる形にしたため、断面形状が四角形の如き
多角形のインクノズルをもつ記録ヘッドでも安定なイン
ク吐出が可能になり、印字品質の向上を図ることができ
ると共に、感光性ガラスを使用して高解像度でマルチノ
ズルの記録ヘッドを提供できるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
第1図ないし第6図は第1の発明の作用を説明するため
のもので、第1図は圧力の擬ステップパルス応答波形、
第2図は圧力の矩形パルス波形、第3図は立ち上がり時
間を考慮した圧力のパルス波形、第4図は立ち上がり時
間及び立ち下がり時間を考慮した圧力のパルス波形、第
5図は第1の発明における駆動電圧パルス波形、第6図
は第5図の駆動電圧パルス波形によるインク体積速度の
応答波形、第7図ないし第11図では第2の発明の一実施
例を説明するためのもので、第7図及び第8図はオンデ
マンド型インクジェット記録ヘッドの概略的な断面図、
第9図は駆動電圧パルス波形、第10図は電圧パルス波形
及び振動板の変位挙動を示す図、第11図〜は振動板
の変位挙動を示す模式図、第12図ないし第22図は従来技
術を説明するためのもので、第12図は記録ヘッドの一例
を示す概略的な断面図、第13図は同じく平面図、第14図
は上記記録ヘッドの他の例を示す概略的な断面図、第15
図(a)〜(c)はインクノズルの断面図、第16図
(a)は押し打ちの駆動電圧波形、同図(b)は引き打
ちの駆動電圧波形、同図(c)は押し打ちの変形例の駆
動電圧波形、第17図は電気音響変換した記録ヘッドの等
価回路図、第18図は第17図の回路を簡略化した等価回路
図、第19図は圧力のステップ応答波形、第20図は第18図
の回路をラプラス変換した場合の等価回路図、第21図は
インク体積速度のステップ応答を示す波形図、第22図は
同じくパルス応答を示す波形図である。 11…インクタンク、12,12A,12B…インク供給路 13…インク加圧室、14,14′…インクノズル 15…振動板、16…圧電素子
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 斉藤 岳史 神奈川県川崎市川崎区田辺新田1番1号 富士電機株式会社内 (72)発明者 河村 幸則 神奈川県川崎市川崎区田辺新田1番1号 富士電機株式会社内 (72)発明者 北出 雄二郎 神奈川県川崎市川崎区田辺新田1番1号 富士電機株式会社内 (56)参考文献 特開 昭59−176060(JP,A) 特開 昭63−54251(JP,A)

Claims (5)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】インク加圧室と、このインク加圧室に連通
    するインクノズルと、前記インク加圧室の外側に配置さ
    れ、かつ電圧パルスの印加により変形して前記インク加
    圧室の容積を減少させる電気機械変換素子とを備え、こ
    の電気機械変換素子の変形の際に生じる圧力波により前
    記インク加圧室内のインクを加圧して前記インクノズル
    から吐出させるオンデマンド型インクジェット記録ヘッ
    ドにおいて、 前記電圧パルスの立ち上がり時間を前記インクノズルの
    インク体積速度の固有振動周期に等しくし、かつ前記電
    圧パルスの立ち下がり時間を前記固有振動周期のn倍
    (nは自然数)としたことを特徴とするインクジェット
    記録ヘッドの駆動方法。
  2. 【請求項2】電圧パルスによる押し打ち駆動方法である
    請求項(1)記載のインクジェット記録ヘッドの駆動方
    法。
  3. 【請求項3】電圧パルスによる引き打ち駆動方法である
    請求項(1)記載のインクジェット記録ヘッドの駆動方
    法。
  4. 【請求項4】インク加圧室と、このインク加圧室に連通
    するインクノズルと、前記インク加圧室の外側に配置さ
    れ、かつ電圧パルスの印加により変形して前記インク加
    圧室の容積を変化させる電気機械変換素子とを備え、こ
    の電気機械変換素子の変形の際に生じる圧力波により、
    前記インク加圧室内のインクを加圧してその加圧方向に
    対してほぼ直交する向きに設けられた断面形状が多角形
    の前記インクノズルからインクを吐出させるオンデマン
    ド型インクジェット記録ヘッドにおいて、 インク不吐出時には、前記電気機械変換素子に予め電圧
    V1(V1≒100〔V〕)を印加して前記インク加圧室の容
    積を減少させておき、印字に当たっては前記インク加圧
    室の容積が急激に変化しないようにt1なる立ち下がり時
    間を経て前記電圧V1を除荷したままt2なる時間を保持
    し、その後t3なる立ち上がり時間を経て電圧V2(120
    〔V〕≦V2≦170〔V〕)を印加したままt4なる時間を
    保持することにより前記インク加圧室の容積を急激に減
    少させて前記インクノズルからインクを吐出させ、更に
    t5なる立ち下がり時間を経て電圧V3(50〔V〕≦V3≦75
    〔V〕)を印加したままt6なる時間を保持し、その後t7
    なる立ち上がり時間を経て前記電圧V1に復帰する電圧パ
    ルス波形(前記時間t1〜t7は下記の範囲とする)を前記
    電気機械変換素子に印加することを特徴とするインクジ
    ェット記録ヘッドの駆動方法。 t1:インクノズルにおけるインク体積速度の固有振動周
    期の1/2以上 t2:10〜50〔μsec〕 t3:10〔μsec)以下 t4:50〜150〔μsec〕 t5:10〔μsec〕以下 t6:10〜50〔μsec〕 t7:10〔μsec〕以下
  5. 【請求項5】インクノズルの断面形状が四角形であり、
    このインクノズルとインク加圧室との間のインク供給路
    は深さが異なる段差を有する構造である請求項(4)記
    載のインクジェット記録ヘッドの駆動方法。
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