JP2570710B2 - 溶接部の残留応力改善方法 - Google Patents

溶接部の残留応力改善方法

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Description

【発明の詳細な説明】 「産業上の利用分野」 本発明は、溶接部の残留応力改善方法に係り、特に、
炭素鋼材、低合金鋼等によって構成されている容器、配
管、鋼板の表面に、補修溶接、肉盛り溶接を施した場合
に発生し易い溶接表面の高い引っ張り残留応力を改善す
る方法に関するものである。
「従来の技術」 一般に、原子力プラント、化学プラント、火力プラン
ト等には、各種構造物の構成材料として、炭素鋼及び低
合金鋼等が多用されている。これらの構造物において、
その供用期間中に疲労、応力腐食割れ、ピッティング、
エロージョン等により、割れや局部的な肉厚の減少等の
現象が発生した場合は、構造物を構成している炭素鋼等
の母材の表面に、補修溶接や肉盛り溶接を行なって補強
する等の対策が実施される。
第3図によって、補修溶接の概略技術を説明すると、
母材Mに発生した欠陥部Cを除去することによって形成
された窪部Hを、適宜溶接金属によって補修溶接した溶
接金属(溶接部)Wの表面部分には、溶接金属Wの急速
な熱収縮に基づいて、高い残留応力が発生することが知
られており、表面の残留応力の分布は、第3図に分布曲
線を併記しているように、溶接部Wの付近では引っ張り
応力σとなっている。このため、補修溶接後において
も、溶接部Wの付近には、高い引っ張り残留応力σに基
づいて、再び疲労割れ及び応力腐食割れ等の欠陥が生じ
易くなっている。また、これらの補修溶接に際して、母
材の予熱や応力除去熱処理をすることが有効であるとさ
れているが、据え付け後の大型構造物では、このような
対策を施すことが困難である。
これに対処する一つの方法として、第4図に示す補修
溶接技術が開発されている。第4図(A)に示すよう
に、母材Mに欠陥部Cが生じてその大きさが許容限度を
越えている場合には、実線で示すように、欠陥部Cを含
む母材Mの肉を除去し、形成された窪部Hを補修溶接に
よって埋め戻すのであるが、その際に、溶接部近傍の母
材Mの組織中に、溶接熱の影響により硬化部(脆化部)
が残されないように、ハーフビード法を適用しながら溶
接が行なわれる。
つまり、第4図(B)のように、初層溶接ビードwaを
形成した後、第4図(C)に示すように、半分削った状
態のハーフビードwbとし、次いで、その上に、第2層以
下の溶接ビードを形成し、溶接熱をハーフビードwbの直
下の母材Mの組織に及ぼすことによって、母材Mの組織
中の溶接熱影響硬化部を軟化して靭性を回復させるもの
である。しかる後、第4図(D)に示すように、溶接金
属Wが母材Mの表面から盛り上がるように溶接を施すも
のである。
「発明が解決しようとする問題点」 しかしながら、第4図に示すように、ハーフビード法
を適用しても、補修溶接を施した溶接部Wの付近では、
前述した溶接時の熱収縮に基づいて、第3図の応力分布
のように、依然として引っ張り残留応力σが残された状
態となっており、補修溶接後においても、応力腐食割
れ、水素ぜい化割れおよび疲労割れなどの発生や進展原
因を解消することができない。
本発明は、これらの問題点を解決して、補修溶接箇所
に好ましくは圧縮残留応力を付与し、あるいは引っ張り
残留応力を積極的に低減することを目的としているもの
である。
「問題点を解決するための手段及び作用」 溶接部の残留応力を改善する方法として、母材におけ
る溶接部の上に母材表面よりも盛り上げた状態の盛り上
がり部を形成する工程と、該溶接の盛り上がり部の上に
室温よりも高い温度でマルテンサイト変態し易い溶接材
料によって追加肉盛り溶接部を形成する工程と、該追加
肉盛り溶接部にマルテンサイト変態を生じさせた後に母
材表面よりも盛り上げた部分を除去する工程とを採用す
る。
盛り上がり部の上に、追加肉盛り溶接を行なうと、追
加肉盛り溶接部のマルテンサイト変態に基づく相対的な
寸法の増加によって、溶接金属の一部に降伏点を越えた
引っ張り応力が発生する。
また、追加肉盛り溶接部を急速加熱、急速冷却して、
追加肉盛り溶接部におけるマルテンサイト変態化を促進
させる技術が付加される。
その後、母材表面よりも盛り上げた部分である追加肉
盛り溶接部と溶接の盛り上がり部とをを除去することに
より、残された母材及び溶接部の組織中に、圧縮残留応
力を発生させること、あるいは引っ張り残留応力を低減
させることを行なうものである。
「実施例」 以下、本発明の炭素鋼材等における肉盛り溶接法の一
実施例を第1図に基づいて説明する。該一実施例では、
対象熱処理材が原子炉圧力容器として多用されている低
合金鋼(例えばP3材)である場合について説明するもの
である。
該一実施例において、補修溶接を施すまでの工程は、
第4図において説明した従来技術に準じて実施される。
一部重複して説明する。
[欠陥部の除去] 母材Mを削って欠陥部Cを除去する。
[補修溶接] 欠陥部Cの除去によって生じた窪部Hについて、板厚
が必要最小値未満になると、第4図で説明した補修溶接
に準じて埋め戻す。
[盛り上がり部の形成] 第4図(D)において、補修溶接を行なった後の状態
において、溶接金属Wの一部が母材Mの表面から余分に
盛り上るように配慮する。
[盛り上がり部の整形] 第1図(A)に鎖線で示している盛り上がり部Rの一
部を実線で示すように削り取って、表面を平らな状態と
するとともに、母材Mの表面から溶接金属Wが突出して
いる量を3〜6mmにする。
[追加肉盛り溶接] 補修溶接時に母材Mを予熱している場合は、予熱を解
除して母材Mが冷却した状態で、第1図(B)に示すよ
うに、盛り上がり部Rの上に、溶接肉盛りを行なう。こ
の場合に使用される溶接棒は、補修溶接に用いたものと
同じか、あるいはそれよりも強度レベルの高いもの、か
つ焼き入れ性のよい材料、例えば炭素鋼の母材に対して
は、低水素系のD7016やD8016、低合金鋼についてはD901
6等、または同等強さのティグ溶接棒を用いる。
[マルテンサイト変態] 追加肉盛り溶接部Xは、室温の近くまで急冷されるこ
とにより、上述の金属材の特性に基づき、室温よりも高
い温度で容易にマルテンサイト変態化する。このマルテ
ンサイト変態にともなって、追加肉盛り溶接部Xが、盛
り上がり部R、他の溶接金属W、母材M等に対して相対
的に大きな寸法(相対的な体積膨張を生じる)となる。
この結果近接している他の金属組織中に引っ張り応力を
発生させる{第1図(C)の矢印参照}。また、この引
っ張り応力が降伏点を越えることによって、肉盛り溶接
部Xに近接している盛り上がり部R及び母材Mの一部
に、降伏が生じた状態となる。この場合、肉盛り溶接部
Xは、補修部より機械的強度が高いため、広い部分に影
響を及ぼす。
[追加熱処理] 追加肉盛り溶接部Xにおけるマルテンサイト変態化を
十分に行なうために、追加熱処理を行なうこともある。
即ち、追加肉盛り溶接部Xの表面を、高周波誘導加熱等
により、母材M等を予熱していない条件下で、例えば90
0℃程度まで急速加熱するとともに、空気、水等により
急速冷却して、追加肉盛り溶接部Xの表面近傍のマルテ
ンサイト変態化を促進させる処理を行なう。この場合の
追加熱処理条件は、母材Mの表面よりも下方にマルテン
サイト変態を生じさせないようにすることが重要であ
り、高周波誘導加熱の場合は、周波数の選定により加熱
深さを設定するとともに、熱量を調整することが行なわ
れる。
[盛り上がり部までの除去] 次いで、第1図(D)に実線で示すように、肉盛り溶
接部Xと盛り上がり部Rと(鎖線部分)を削除する。
肉盛り溶接部Xを除去すると、他の金属組織を押し広
げていた力(マルテンサイト変態部分)がなくなるの
で、溶接金属Wは収縮し、溶接金属Wあるいは母材Mの
組織中に応力降伏が生じていた場合は、寸法の収縮によ
って圧縮残留応力が発生するか、あるいは、組織中の引
っ張り残留応力を低減させることになる。
[改善策処理後の残留応力状態] 第2図は、本発明を板厚さ100mmの炭素鋼に実施した
場合の残留応力計測結果応力分布曲線と溶接部の大きさ
とを対比させて示したものである。第2図に示す結果か
ら、改善後における溶接部近傍の残留応力は、引っ張り
残留応力σについてはほぼ10kg/mm2以下、圧縮残留応力
−σについては10kg/mm2以上の範囲に収まっていること
が明らかである。
[その他の実施態様] (i)補修溶接に限定する技術ではなく、肉盛り溶接部
の残留応力改善、一般的な溶接継手における応力改善に
適用することができる。
(ii)第4図において説明した溶接金属Wが、焼き入れ
性の優れたものである場合には、第4図(D)の状態に
追加肉盛り溶接分を追加して補修溶接を完了し、その
後、[追加熱処理]の項に示した急速加熱、冷却の熱処
理を追加して、母材よりも盛り上がっている部分にマル
テンサイト変態を生じさせることにより、応力改善を行
なうことができる。
「発明の効果」 以上説明したように、本発明に係わる溶接部の残留応
力改善方法によれば、母材における溶接の盛り上がり部
の上に、マルテンサイト変態し易い溶接材料によって追
加肉盛り溶接を行ない、マルテンサイト変態によって生
じた相対的な寸法の増加現象を利用して、溶接金属中に
降伏点を越えた引っ張り応力を発生させ、その後、母材
表面よりも盛り上がっている部分を除去することによ
り、残された母材及び溶接部に圧縮の残留応力を付与す
ること、あるいは引っ張り残留応力を低減すること等の
改善を行なうことができる。また、追加溶接を行なった
後に、母材表面より突出している部分を除去するもので
あるから、熱処理箇所の制限が少なく、補修溶接部、既
存の溶接部における盛り上がり部等の広い範囲に容易に
適用することができる等の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
第1図は本発明における溶接部の残留応力改善方法の一
実施例の工程説明図、第2図は第1図において改善処理
後の状態における溶接部付近の残留応力の説明図、第3
図は補修溶接の既存技術の説明図、第4図は溶接補修の
従来例を示す工程説明図である。 M……母材、C……欠陥部、H……窪部、W……溶接金
属(溶接部)、wa……初層溶接ビード、wb……ハーフビ
ード、R……盛り上がり部、X……追加肉盛り溶接部。

Claims (2)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】母材(M)における溶接部(W)の上に母
    材表面よりも盛り上げた状態の盛り上がり部(R)を形
    成する工程と、該溶接の盛り上がり部の上に室温よりも
    高い温度でマルテンサイト変態し易い溶接材料によって
    追加肉盛り溶接部(X)を形成する工程と、該追加肉盛
    り溶接部にマルテンサイト変態を生じさせた後に母材表
    面よりも盛り上げた部分を除去する工程とを有すること
    を特徴とする溶接部の残留応力改善方法。
  2. 【請求項2】母材(M)における溶接部(W)の上に母
    材表面よりも盛り上げた状態の盛り上がり部(R)を形
    成する工程と、該溶接の盛り上がり部の上に室温よりも
    高い温度でマルテンサイト変態し易い溶接材料によって
    追加肉盛り溶接部(X)を形成する工程と、追加肉盛り
    溶接部を急速加熱後冷却してマルテンサイト変態を促進
    させる工程と、前記追加肉盛り溶接部にマルテンサイト
    変態を生じさせた後に母材表面よりも盛り上げた部分を
    除去する工程とを有することを特徴とする溶接部の残留
    応力改善方法。
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