JP3501922B2 - 圧力容器の剥離割れ防止方法 - Google Patents

圧力容器の剥離割れ防止方法

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【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は圧力容器の剥離割れ
防止方法に関し、詳細には石油精製等に用いられる圧力
容器であって、内面にステンレス鋼材が積層された圧力
容器のステンレス鋼材と母材の界面に発生する剥離割れ
を防止する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】耐食性が要求される圧力容器には、炭素
鋼を母材としてその内面にステンレス鋼板が積層される
ことが一般的である。例えば、石油精製においては原油
から各種石油類を精製した後に残る重油を利用し、圧力
容器中でこの重油と高温高圧の水素とを反応させること
により、有用な軽質油類を取り出すということがなされ
ているが、この反応では副生成物として腐食性の高い硫
化水素が生成する。圧力容器の母材として通常使用され
るCr−Mo系合金鋼やCr−Mo−V系合金鋼等は、
この硫化水素に対する耐食性が低い。従って、この硫化
水素から母材を守るため、容器の内壁面にはSUS30
9やSUS347等のステンレス鋼板が積層されてい
る。
【0003】石油精製用圧力容器は、上記母材表面にス
テンレス鋼板が密着されたクラッド鋼を用いるか、或い
は上記母材表面にサブマージアーク溶接等によりステン
レス鋼板が肉盛溶接された材料を用いて、上記材料をリ
ング状または板状の部品に加工し、これらの部品を継手
溶接によりつなぎ合わせることにより最終製品の形状に
形成されている。従って、多くの継手溶接部が存在して
おり、継手溶接部の残留応力の除去を目的として溶接後
に熱処理が施されている。この溶接後熱処理は応力除去
焼鈍と呼ばれていて、溶接時に溶け込んだ水素の放出
や、母材の機械的特性の調整等にも有効である。この応
力除去焼鈍は650℃以上720℃以下の温度で5〜3
0時間行われることが一般的であり、圧力容器製作工程
においては、ほぼ最終製品の状態にて、大型の焼鈍炉に
搬入して実施されている。
【0004】しかしながら、この応力除去焼鈍により圧
力容器用部材の肉盛溶接部やクラッドの界面組織が硬化
し、さらに石油精製用圧力容器の運転停止時に、水素が
その硬化した上記界面組織に侵入することにより界面を
脆化させ、母材とステンレス鋼層の界面で一種の遅れ割
れである剥離割れが生じる問題が起こっている。
【0005】溶接後に応力除去焼鈍を施すことにより母
材−ステンレス鋼材の界面で剥離割れが発生する理由
は、上記応力除去焼鈍により上記界面にマルテンサイト
組織が生成することで、界面の硬度が大幅に上昇して割
れ易くなるからである。そこで、生成したマルテンサイ
ト組織を熱処理によりトルースタイトやソルバイト等の
他の組織に代えて耐剥離割れ性を向上させる方法が考え
られる。例えば圧力容器製作における応力除去焼鈍後に
600℃前後の熱処理を実施することによりステンレス
鋼層の剥離を防止する方法が知られている(「DISBONDIN
G MECHANISMS, IMPROVEMENT OF OVERLAY BEHAVIOR」 CRE
USOT-LOIRE INDUSTRIE Seminar, 1992)。但し、石油精製
用圧力容器製作過程において、応力除去焼鈍後の最終製
品形状の状態で大型の焼鈍炉において再度600℃前後
の熱処理を行うことは、製造コスト及び工期の面で望ま
しいことではないことから、応力除去焼鈍後の圧力容器
に熱処理を施さなくとも剥離割れを防止できる方法の開
発が要望されていた。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明は上記事情に着
目してなされたものであって、応力除去焼鈍による母材
−ステンレス層界面の硬化を防ぎ、一種の遅れ破壊であ
る剥離割れを防止することができる方法を提供しようと
するものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決し得た本
発明とは、母材表面にステンレス鋼板が積層された圧力
容器用部材を溶接し、次いで応力除去焼鈍を施すことに
より製造される圧力容器の剥離割れを防止する方法であ
って、前記溶接に先立って上記圧力容器用部材に560
℃以上640℃以下の熱処理を施すことを要旨とするも
のである。或いは、上記応力除去焼鈍に先立って560
℃以上640℃以下の熱処理を施す方法を採用しても良
い。尚、本発明において応力除去焼鈍とは、650℃以
上720℃以下の温度において、5時間以上30時間以
下保持する熱処理を意味するものである。
【0008】
【発明の実施の形態】そもそも母材−ステンレス鋼層界
面にマルテンサイト組織が生成する機構は、界面の合金
元素(Cr,Ni等)の濃度が連続的に変化しているた
め、部分的にオーステナイト化温度が非常に低下してお
り、上記応力除去焼鈍によって部分的にオーステナイト
化された領域が冷却によりマルテンサイトとなるからで
あると考えられる。
【0009】従って応力除去焼鈍によってオーステナイ
ト化される領域を予めなくしておけば、マルテンサイト
組織が生成されなくなる。そこで本発明では、応力除去
焼鈍の前に、その焼鈍温度よりも低い温度で加熱・保持
することにより、界面の結晶組織を全てフェライト+炭
化物に変態させる熱処理を施す方法を採用するものであ
る。一旦、フェライト+炭化物に変態させられた結晶組
織のオーステナイト化温度は応力除去焼鈍の加熱温度よ
り十分高く、応力除去焼鈍を施してもオーステナイト化
することはないので、急冷してもマルテンサイト組織が
生成することはない。従って、界面の硬さは応力除去焼
鈍終了後も上昇することがないので、遅れ割れ発生の要
因がなくなり、耐剥離割れ性が改善されるものである。
【0010】更に、本発明に係る方法を採用すれば、応
力除去焼鈍をおこなってもマルテンサイトが生成されな
い機構について詳述すると、以下の通りである。即ち、
Cr−Mo鋼等の母材にステンレス鋼を溶接(積層)す
ると、界面にマルテンサイト相が生成する。このマルテ
ンサイト相は、600℃前後の加熱ではオーステナイト
変態を起こすことはなく、母材からの浸炭により炭化物
(例えば炭化クロム)を析出すると共に、上記マルテン
サイト相が分解してフェライト組織に変化する。このよ
うなフェライト+炭化物は、応力除去焼鈍時において高
温度(650℃以上720℃以下)に加熱されても、既
に形成されている炭化物が地相に固溶することはなく、
またフェライト化された地相に存在するCやCr等の組
成も少なくなっているので、オーステナイト化変態温度
が高くなっていてオーステナイト変態を起こしにくくな
っていると共に、たとえ部分的にオーステナイト変態し
たとしても冷却過程にマルテンサイト変態が起こりにく
い(焼入れが入りにくい)状態となっているからであ
る。
【0011】図1は、応力除去焼鈍(690℃×21時
間)の前に施す熱処理(保持時間:5時間)の温度と、
応力除去焼鈍後の界面硬さの関係を示すグラフである。
界面硬さは600℃付近で極小となり、660℃以下で
400Hv以下となっており、640℃以下で350H
v以下となっている。界面硬さが400Hv以下であれ
ば耐剥離割れ性を確認できるが、界面硬さを350Hv
以下とすることにより耐剥離割れ性は大幅に向上するの
で、640℃以下で熱処理を行うことが推奨される。熱
処理温度が低過ぎると熱処理効果が十分に得られず、ま
た保持時間に長時間を要するので560℃以上とするこ
とが望ましい。保持時間については短か過ぎるとフェラ
イトと炭化物が十分に分離できないので1時間以上が望
ましく、5時間以上がより望ましい。一方、保持時間が
長過ぎると母材の強度低下を招く恐れがあるので200
時間以下とする必要があり、また生産効率の点からはで
きるだけ熱処理時間は短い方が望ましく、20時間以下
がより望ましい。
【0012】このように本発明によれば応力除去焼鈍後
に熱処理を行わなくともマルテンサイト組織の生成を防
止して剥離割れを防ぐことができる。従って、本発明に
よれば、圧力容器全体ではなく個々の圧力容器用部材に
対し剥離割れ防止用の熱処理を行うことができ、また耐
剥離割れ性の改善が必要な部材のみに対して熱処理を行
うこともできる。この様に圧力容器全体に熱処理を行う
のではなく、圧力容器部材に熱処理を施すことができる
ので、熱処理炉のスペース効率やエネルギー効率も高ま
り、複数の圧力容器分の圧力容器用部材に、同時に熱処
理を施すことも可能であるので、工期の短縮を図ること
もできる。尚、本発明方法は界面の結晶組織をフェライ
ト+炭化物にすることによりマルテンサイトの生成を防
止する方法であるので、応力除去焼鈍前であれば、圧力
容器用部材を組みつけた後に熱処理を行っても良い。
【0013】以下本発明を実施例によってさらに詳細に
説明するが、下記実施例は本発明を限定する性質のもの
ではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変
更して実施することはいずれも本発明の技術的範囲に含
まれるものである。
【0014】
【実施例】実施例1 2.25Cr−1 Mo鋼を母材とする石油精製用圧力容器の
実機材であって、帯状電極サブマージアーク溶接により
母材の内表面にSUS309及びSUS347の2層の
ステンレス鋼層を肉盛溶接により形成した鋼材(60m
mφ)を供試材として用いた。表1に示す種々の温度で
5時間の熱処理を行った後、690℃で21時間の応力
除去焼鈍を行い、ステンレス鋼層と母材との界面の硬さ
を測定した。硬さの測定は、各試料につき20か所の測
定を行い、夫々の最高硬さを求め、それらの平均をとっ
たものである。試験の結果を表1に併記する。
【0015】
【表1】
【0016】応力除去焼鈍前の熱処理温度が640℃以
下であれば、応力除去焼鈍後の界面硬さが約350Hv
以下となることが分かる。
【0017】実施例2 実施例1と同様にして得られた供試材No.1を用いて
耐剥離割れ感受性の評価を行った。剥離割れ試験の試験
条件は、試験温度480℃、水素圧力200kg/cm
2 ,保持時間48時間であり、保持終了後300℃/時
間の冷却速度で室温まで冷却した。室温到達後336時
間(2週間)放置してから超音波探傷試験を行い、剥離
面積を測定した。供試材No.1に関して、剥離割れ防
止を目的とする熱処理(600℃×5Hr)を応力除去
焼鈍の前後に行った場合と、行わない場合の結果を表2
に示す。
【0018】また、実施例1のサブマージアーク溶接
(SAW)に代えて、ガスタングステンアーク溶接(G
TAW)を行った供試材No.2と、更に応力除去焼鈍
の熱処理の前に焼入れ(960℃×2.5Hr;水冷)
及び焼戻し(650℃×2.5Hr;空冷)を行った供
試材No.3を用いて、上記剥離割れ試験を行った。結
果は表2に併記する。
【0019】
【表2】
【0020】剥離割れ防止を目的とした熱処理を行わな
い場合には剥離割れが発生しているが、本発明法によれ
ば、従来法と同様に剥離割れを防止することが可能であ
ることが分かる。
【0021】
【発明の効果】本発明は以上の様に構成されているの
で、応力除去焼鈍後に熱処理を行わなくとも圧力容器の
母材とステンレス鋼層との界面で発生する剥離割れを防
止することができる方法の提供が可能となった。従っ
て、圧力容器全体ではなく個々の圧力容器用部材に対し
剥離割れ防止用の熱処理を行うことができ、また耐剥離
割れ性の改善が必要な部材のみに対して熱処理を行えば
良いこととなった。
【図面の簡単な説明】
【図1】応力除去焼鈍前の熱処理温度と応力除去焼鈍後
の界面硬さの関係を示すグラフである。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.7 識別記号 FI C21D 9/50 101 C21D 9/50 101Z (56)参考文献 特開 昭62−263932(JP,A) 特開 平9−324897(JP,A) 特公 昭52−22812(JP,B1) 特公 昭57−49091(JP,B1) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) C21D 9/00 - 9/44 C21D 9/50 B23K 9/00 501 B23K 9/23 B23K 9/235

Claims (3)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 母材表面にステンレス鋼板が積層された
    圧力容器用部材を溶接し、次いで応力除去焼鈍を施すこ
    とにより製造される圧力容器の剥離割れを防止する方法
    であって、 前記溶接に先立って上記圧力容器用部材に560℃以上
    640℃以下の熱処理を施し、前記応力除去焼鈍を65
    0℃以上720℃以下で行うことを特徴とする圧力容器
    の剥離割れ防止方法。
  2. 【請求項2】 母材表面にステンレス鋼板が積層された
    圧力容器用部材を溶接し、次いで応力除去焼鈍を施すこ
    とにより製造される圧力容器の剥離割れを防止する方法
    であって、 上記応力除去焼鈍に先立って560℃以上640℃以下
    の熱処理を施し、前記応力除去焼鈍を650℃以上72
    0℃以下で行うことを特徴とする圧力容器の剥離割れ防
    止方法。
  3. 【請求項3】 前記応力除去焼鈍を5時間以上30時間
    以下行う請求項1または2に記載の圧力容器の剥離割れ
    防止方法。
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