JP2541092B2 - 肉厚大型などの耐摩耗鋳鉄材の製造方法 - Google Patents
肉厚大型などの耐摩耗鋳鉄材の製造方法Info
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- JP2541092B2 JP2541092B2 JP5047329A JP4732993A JP2541092B2 JP 2541092 B2 JP2541092 B2 JP 2541092B2 JP 5047329 A JP5047329 A JP 5047329A JP 4732993 A JP4732993 A JP 4732993A JP 2541092 B2 JP2541092 B2 JP 2541092B2
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Description
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は耐摩耗性に優れ、かつ靭
性も具えた大型肉厚材に好適な耐摩耗鋳鉄材の製造方法
に係る。
性も具えた大型肉厚材に好適な耐摩耗鋳鉄材の製造方法
に係る。
【0002】
【従来の技術】産業上の各種設備において摩耗的な使用
条件に曝される部材が多くあり、その耐用期間を長く保
つため耐摩耗性に優れた材質が開発され実用化されてい
る。耐摩耗性を最も決定的に支配するのは、材料の硬度
であり、ほぼ比例的な関係にあることが経験的に実証さ
れている。その意味で最も古くから多くの分野で適用さ
れてきたのがCrを大量に配合した高クローム鋳鉄であ
り、10〜30%に亘る広い範囲で多くの規格化された
材質が実用に供されている。すなわち、Crは原料コス
トが比較的廉価であり、鋳鉄成分中の高いCと結合する
と硬度の高いCr7C3を大量に析出して基地のマルテ
ンサイトとともに硬度の高い耐摩耗鋳鉄を形成するので
ある。
条件に曝される部材が多くあり、その耐用期間を長く保
つため耐摩耗性に優れた材質が開発され実用化されてい
る。耐摩耗性を最も決定的に支配するのは、材料の硬度
であり、ほぼ比例的な関係にあることが経験的に実証さ
れている。その意味で最も古くから多くの分野で適用さ
れてきたのがCrを大量に配合した高クローム鋳鉄であ
り、10〜30%に亘る広い範囲で多くの規格化された
材質が実用に供されている。すなわち、Crは原料コス
トが比較的廉価であり、鋳鉄成分中の高いCと結合する
と硬度の高いCr7C3を大量に析出して基地のマルテ
ンサイトとともに硬度の高い耐摩耗鋳鉄を形成するので
ある。
【0003】耐摩耗性の要求される部材といっても、そ
の使用条件には千差万別の隔たりがあり、きわめて多様
化しているのが現状である。今日は鋳鉄の耐摩耗性を向
上するための成分添加や熱処理の方法についての研究開
発も進み、一般的な原則も打ち立てられて共通の公知技
術となっている。しかし、単に耐摩耗性を向上させるだ
けであれば前述のように硬度さえ高くすればよいが、実
際の使用条件においては耐摩耗性とともにある程度の靭
性を具えていないと、僅かの衝撃、振動などの外力が原
因となって破断したり亀裂が走ったりする懸念が高い。
特に大型の部材や交叉する複数の面を組合せた比較的複
雑な形状の部材に対しては、この懸念がますます増大す
ることは言うまでもない。たとえば圧延機用のロールで
は、圧延製品の鋼板の材質が高級化して、成形加工する
場合の抵抗が増加し高圧圧延の必要性がますます求めら
れる一方、製造原価の面からは省エネルギーが声高に叫
ばれて圧延時の低温化の傾向がますます拍車をかけてい
る。この要請がロール材の品質の上に反映して、従来に
勝る厳しい使用条件に堪え得る優れた材料が求められる
ようになり、高クローム鋳鉄のなかでも硬度と靭性のバ
ランスを見比べてCr15%を中心として10〜27%
Crを含む合金鋳鉄がほぼ主流を占めるに至っている。
の使用条件には千差万別の隔たりがあり、きわめて多様
化しているのが現状である。今日は鋳鉄の耐摩耗性を向
上するための成分添加や熱処理の方法についての研究開
発も進み、一般的な原則も打ち立てられて共通の公知技
術となっている。しかし、単に耐摩耗性を向上させるだ
けであれば前述のように硬度さえ高くすればよいが、実
際の使用条件においては耐摩耗性とともにある程度の靭
性を具えていないと、僅かの衝撃、振動などの外力が原
因となって破断したり亀裂が走ったりする懸念が高い。
特に大型の部材や交叉する複数の面を組合せた比較的複
雑な形状の部材に対しては、この懸念がますます増大す
ることは言うまでもない。たとえば圧延機用のロールで
は、圧延製品の鋼板の材質が高級化して、成形加工する
場合の抵抗が増加し高圧圧延の必要性がますます求めら
れる一方、製造原価の面からは省エネルギーが声高に叫
ばれて圧延時の低温化の傾向がますます拍車をかけてい
る。この要請がロール材の品質の上に反映して、従来に
勝る厳しい使用条件に堪え得る優れた材料が求められる
ようになり、高クローム鋳鉄のなかでも硬度と靭性のバ
ランスを見比べてCr15%を中心として10〜27%
Crを含む合金鋳鉄がほぼ主流を占めるに至っている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかし、言うまでもな
く従来の高クローム鋳鉄が大型耐摩耗材として万全であ
るとは到底評価できない。硬度自体も焼入硬化後の状態
でHRC58〜62、基地硬さはHMV660〜780
程度しか期待できず、耐摩耗性がなお不十分であること
は明らかである。しかもロール材のような肉厚の大型部
材に適用するときには、肉厚感受性が大きいために熱処
理時に割れが生じ易いという大きな課題があり、またロ
ール材の表面近くと深部とではかなりの硬度差が目立
ち、摩耗による表面の退入とともにその耐摩耗性が低下
していくという課題も加わる。
く従来の高クローム鋳鉄が大型耐摩耗材として万全であ
るとは到底評価できない。硬度自体も焼入硬化後の状態
でHRC58〜62、基地硬さはHMV660〜780
程度しか期待できず、耐摩耗性がなお不十分であること
は明らかである。しかもロール材のような肉厚の大型部
材に適用するときには、肉厚感受性が大きいために熱処
理時に割れが生じ易いという大きな課題があり、またロ
ール材の表面近くと深部とではかなりの硬度差が目立
ち、摩耗による表面の退入とともにその耐摩耗性が低下
していくという課題も加わる。
【0005】このようなCr単体の添加による高硬度材
料では硬度の点でも、また、大型部材への適用の点で
も、また、一定の靭性確保の点でも限界があることに着
目して種々の添加元素の同時添加による相乗的な効果を
狙う従来技術が多く提案されている。たとえば、特開平
2−115343号公報ではC:2.8〜3.5%、M
o:1.0〜3.0%、Cr:15〜25%、Ni:
0.5〜2.0%、を含有し、残部Feおよび不可避的
な不純物よりなる高クローム鋳鉄に、Ti:2〜5%添
加するとともに、Nを含有させてTiCおよびTiCN
を組織内へ分散させてきわめて高硬度の材料を得たと開
示している。確かにMC形の炭化物は従来のM7C3形
の炭化物よりも遥かに硬度が高く、従来の高クローム鋳
鉄の限界を大きく超えた耐摩耗性の得られることは予想
できる。しかし、そのために高価なTiをそれも相当な
配合率で添加することは、製造材料費の大幅な高騰を余
儀なくし、大型の消耗取替え部材へ適用するには相当逡
巡巡せざるを得ないという弱点が見逃せない。同様に特
開昭61−42553号公報においても、C:2.5〜
3.5%、Si:0.5〜1.5%、Mn:0.5〜
1.5%、Cr:10〜25%、Ni:3%以下、M
o:3%以下、Ti:5〜20%、を含有し、残部Fe
および不可避的な不純物よりなり、靭性、耐摩耗性の両
者が優れた合金鋳鉄を開発したと謳っている。しかし、
前記の従来技術と同様、高価なTiを最大20%も配合
しなければ発明が成立しないという原価上の大きな負担
は、得られる効果を考慮してもなお課題であると指摘し
ても不当とは考えられない。
料では硬度の点でも、また、大型部材への適用の点で
も、また、一定の靭性確保の点でも限界があることに着
目して種々の添加元素の同時添加による相乗的な効果を
狙う従来技術が多く提案されている。たとえば、特開平
2−115343号公報ではC:2.8〜3.5%、M
o:1.0〜3.0%、Cr:15〜25%、Ni:
0.5〜2.0%、を含有し、残部Feおよび不可避的
な不純物よりなる高クローム鋳鉄に、Ti:2〜5%添
加するとともに、Nを含有させてTiCおよびTiCN
を組織内へ分散させてきわめて高硬度の材料を得たと開
示している。確かにMC形の炭化物は従来のM7C3形
の炭化物よりも遥かに硬度が高く、従来の高クローム鋳
鉄の限界を大きく超えた耐摩耗性の得られることは予想
できる。しかし、そのために高価なTiをそれも相当な
配合率で添加することは、製造材料費の大幅な高騰を余
儀なくし、大型の消耗取替え部材へ適用するには相当逡
巡巡せざるを得ないという弱点が見逃せない。同様に特
開昭61−42553号公報においても、C:2.5〜
3.5%、Si:0.5〜1.5%、Mn:0.5〜
1.5%、Cr:10〜25%、Ni:3%以下、M
o:3%以下、Ti:5〜20%、を含有し、残部Fe
および不可避的な不純物よりなり、靭性、耐摩耗性の両
者が優れた合金鋳鉄を開発したと謳っている。しかし、
前記の従来技術と同様、高価なTiを最大20%も配合
しなければ発明が成立しないという原価上の大きな負担
は、得られる効果を考慮してもなお課題であると指摘し
ても不当とは考えられない。
【0006】今日の耐摩耗性材の研究開発レベルは、既
に周知とされる一般的な原則から一歩踏み出して値々の
製品用途に細分化された特性に着目し、それぞれ他の製
品と共通する一般的、普遍的技術から抜きん出た特殊な
要件を探索する段階に入ってきた。たとえば、同じCr
系の耐摩耗性鋳鉄であっても、Fe基焼結材料の改善に
係る特開昭59−16952号公報、カムシャフトやバ
ルブと高圧で当接するロッカーアームに係る特開平2−
64208号公報、または寸法安定性を重視したゲージ
ブロック用材に係る特公平49−9934など、いずれ
も細分化した個別の製品に最適の独自の限定要件を提示
している。したがって本発明としても特に大型の耐摩耗
性部材や複雑な形状の部材に課題を絞り、高価な添加成
分を比較的低く抑制しつつも、硬度が高くて耐摩耗性に
優れ、しかも応分の靭性にも恵まれてロール材のような
大型肉厚部材に好適な耐摩耗鋳鉄の製造方法の提供を目
的とする。
に周知とされる一般的な原則から一歩踏み出して値々の
製品用途に細分化された特性に着目し、それぞれ他の製
品と共通する一般的、普遍的技術から抜きん出た特殊な
要件を探索する段階に入ってきた。たとえば、同じCr
系の耐摩耗性鋳鉄であっても、Fe基焼結材料の改善に
係る特開昭59−16952号公報、カムシャフトやバ
ルブと高圧で当接するロッカーアームに係る特開平2−
64208号公報、または寸法安定性を重視したゲージ
ブロック用材に係る特公平49−9934など、いずれ
も細分化した個別の製品に最適の独自の限定要件を提示
している。したがって本発明としても特に大型の耐摩耗
性部材や複雑な形状の部材に課題を絞り、高価な添加成
分を比較的低く抑制しつつも、硬度が高くて耐摩耗性に
優れ、しかも応分の靭性にも恵まれてロール材のような
大型肉厚部材に好適な耐摩耗鋳鉄の製造方法の提供を目
的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明に係る耐摩耗鋳鉄
の製造方法は、重量%で、C:2.8〜3.6%、S
i:0.2〜1.0%、Mn:0.5〜1.8%、C
r:10〜20%、Ni:0.5〜1.5%、Mo:
1.0〜2.0%、W:0.2〜0.8%、V:0.5
〜1.2%、B:0.2%以下を含有し、残部Feおよ
び不可避的な不純物の成分よりなる耐摩耗鋳鉄を鋳造
後、それそれの鋳造材が固有に含有するCr%から T(℃)=Cr(%)×7+865±20の範囲内で個別に計算した温度Tより空中で強制空冷し
て常温に至り、内部応力を軽減すると共に割れや歪みの
発生を予防した ことによって前記の課題を解決した。
の製造方法は、重量%で、C:2.8〜3.6%、S
i:0.2〜1.0%、Mn:0.5〜1.8%、C
r:10〜20%、Ni:0.5〜1.5%、Mo:
1.0〜2.0%、W:0.2〜0.8%、V:0.5
〜1.2%、B:0.2%以下を含有し、残部Feおよ
び不可避的な不純物の成分よりなる耐摩耗鋳鉄を鋳造
後、それそれの鋳造材が固有に含有するCr%から T(℃)=Cr(%)×7+865±20の範囲内で個別に計算した温度Tより空中で強制空冷し
て常温に至り、内部応力を軽減すると共に割れや歪みの
発生を予防した ことによって前記の課題を解決した。
【0008】
【作用】本発明の従来技術に対する際立った特徴は、そ
の一つは高価な添加元素を比較的低率の配合に抑え、組
み合せの妙によって最大の相乗効果を得られるように図
ったことであり、いま一つは最高の硬度の得られる熱処
理(焼入)温度がCrの含有率によって有意差の認めら
れた変遷の起ることを実験的に見出され、この点に着目
して業界で始めて成分と熱処理温度との限定的な要件を
確立した点にある。
の一つは高価な添加元素を比較的低率の配合に抑え、組
み合せの妙によって最大の相乗効果を得られるように図
ったことであり、いま一つは最高の硬度の得られる熱処
理(焼入)温度がCrの含有率によって有意差の認めら
れた変遷の起ることを実験的に見出され、この点に着目
して業界で始めて成分と熱処理温度との限定的な要件を
確立した点にある。
【0009】まず、成分的な限定理由を各元素別に説明
する。Cは2.8%以下の場合には晶出および析出する
炭化物の量が少ないために高い硬度が得られず、したが
って優れた耐摩耗性が発揮できない。また、Cが3.6
%を超えると過共晶組成となり、靭性が低下して使用時
に割れの発生する危険性が否定できなくなる。したがっ
てその含有量は2.8〜3.6%、好ましくは3.0〜
3.4%に制限する。Siは主として溶湯の脱酸を目的
として精練時に添加されるものであるが、0.2%を下
回ると鋳造性を低下する。また、1%を超えるとトルー
スタイトを生成して耐摩耗性を低下させるし、靭性につ
いても好ましい傾向を示さない。したがってその含有量
は0.2〜1.0%、好ましくは0.3〜0.8%に制
限する。Mnは溶湯の脱酸のために0.5%は必要であ
るが、1.8%を超えると残留オーステナイトが増加し
て硬度の低下を招く。したがって0.5〜1.8%、好
ましくは0.8〜1.5%に制限する。Crは10%以
下では形成されるクローム炭化物の量が少なく高硬度の
組織が得られず、耐摩耗性が劣る。しかし、20%を超
えると過共晶組成となって靭性が著しく低下し、製造
中、または使用中に亀裂の発生する危険が大きくなる。
大物肉厚品については特にこの点を重視して10〜20
%、好ましくは13〜17%に制限する。Niは焼入性
を向上させるために0.5%以上は必要であるが、1.
5%を超えると、残留オーステナイトが増加して硬度低
下の原因となるので0.5〜1.5%、望ましくは0.
7〜1.3%に制限する。Moは冷却速度の遅くなる肉
厚製品において析出しやすいトルースタイトの生成を抑
制する特性があるので1.0%以上が必要である。同度
にクローム炭化物よりも硬度の高い複合炭化物(Cr−
Mo)7C3を形成して硬度の上昇に貢献する。しか
し、2.0%を超えても、この作用に大きな変化がな
く、原料費の増大に見合うだけの効果が期待できないの
で1.0〜2.0%、好ましくは1.2〜1.7%に制
限する。Wは硬度を高めるのに有効な成分で0.2%以
上配合する必要がある。しかし、0.8%を超えると靭
性が低下するので、0.2〜0.8%、好ましくは0.
3〜0.7%に制限する。VはCと結合して硬度が1ラ
ンク上のMC形の炭化物を形成するので従来から大量に
配合されてきた。耐摩耗性の向上、結晶粒の微細化、靭
性の向上など高クローム鋳鉄の材質改善にはきわめて有
効な成分とされている。しかし、本発明では他の添加成
分との相乗的な効果に依存して配合率自体は最低限に抑
制するという発明の基本的な姿勢から、0.5〜1.2
%、好ましくは0.6〜1.0%で十分に目的を達成す
ると判断した。Bは炭化物を微細化させる有効な成分で
あるが、0.2%以上となると靭性低下の傾向が著しく
なるので、この数値を以て上限とし、好ましくは0.0
7〜0.13%程度に抑制する。以上のように本発明の
成分範囲は極力添加成分の配合率を切り詰め、その相乗
的な作用を最大限に発揮させることを主眼においてい
る。特に15%Crを中心とする材質では、Cr%が下
がると共晶点が上がるので亜共晶組織の領域を適用する
のが常道とされている。この領域内でCrを下げた場合
にはCを高くすることができるから、炭化物の析出量が
増加し耐摩耗性の向上に良い影響を与えることができる
という利点を最大に利用すべきである。
する。Cは2.8%以下の場合には晶出および析出する
炭化物の量が少ないために高い硬度が得られず、したが
って優れた耐摩耗性が発揮できない。また、Cが3.6
%を超えると過共晶組成となり、靭性が低下して使用時
に割れの発生する危険性が否定できなくなる。したがっ
てその含有量は2.8〜3.6%、好ましくは3.0〜
3.4%に制限する。Siは主として溶湯の脱酸を目的
として精練時に添加されるものであるが、0.2%を下
回ると鋳造性を低下する。また、1%を超えるとトルー
スタイトを生成して耐摩耗性を低下させるし、靭性につ
いても好ましい傾向を示さない。したがってその含有量
は0.2〜1.0%、好ましくは0.3〜0.8%に制
限する。Mnは溶湯の脱酸のために0.5%は必要であ
るが、1.8%を超えると残留オーステナイトが増加し
て硬度の低下を招く。したがって0.5〜1.8%、好
ましくは0.8〜1.5%に制限する。Crは10%以
下では形成されるクローム炭化物の量が少なく高硬度の
組織が得られず、耐摩耗性が劣る。しかし、20%を超
えると過共晶組成となって靭性が著しく低下し、製造
中、または使用中に亀裂の発生する危険が大きくなる。
大物肉厚品については特にこの点を重視して10〜20
%、好ましくは13〜17%に制限する。Niは焼入性
を向上させるために0.5%以上は必要であるが、1.
5%を超えると、残留オーステナイトが増加して硬度低
下の原因となるので0.5〜1.5%、望ましくは0.
7〜1.3%に制限する。Moは冷却速度の遅くなる肉
厚製品において析出しやすいトルースタイトの生成を抑
制する特性があるので1.0%以上が必要である。同度
にクローム炭化物よりも硬度の高い複合炭化物(Cr−
Mo)7C3を形成して硬度の上昇に貢献する。しか
し、2.0%を超えても、この作用に大きな変化がな
く、原料費の増大に見合うだけの効果が期待できないの
で1.0〜2.0%、好ましくは1.2〜1.7%に制
限する。Wは硬度を高めるのに有効な成分で0.2%以
上配合する必要がある。しかし、0.8%を超えると靭
性が低下するので、0.2〜0.8%、好ましくは0.
3〜0.7%に制限する。VはCと結合して硬度が1ラ
ンク上のMC形の炭化物を形成するので従来から大量に
配合されてきた。耐摩耗性の向上、結晶粒の微細化、靭
性の向上など高クローム鋳鉄の材質改善にはきわめて有
効な成分とされている。しかし、本発明では他の添加成
分との相乗的な効果に依存して配合率自体は最低限に抑
制するという発明の基本的な姿勢から、0.5〜1.2
%、好ましくは0.6〜1.0%で十分に目的を達成す
ると判断した。Bは炭化物を微細化させる有効な成分で
あるが、0.2%以上となると靭性低下の傾向が著しく
なるので、この数値を以て上限とし、好ましくは0.0
7〜0.13%程度に抑制する。以上のように本発明の
成分範囲は極力添加成分の配合率を切り詰め、その相乗
的な作用を最大限に発揮させることを主眼においてい
る。特に15%Crを中心とする材質では、Cr%が下
がると共晶点が上がるので亜共晶組織の領域を適用する
のが常道とされている。この領域内でCrを下げた場合
にはCを高くすることができるから、炭化物の析出量が
増加し耐摩耗性の向上に良い影響を与えることができる
という利点を最大に利用すべきである。
【0010】本発明の他の作用の特徴は、従来の高クロ
ーム鋳鉄の熱処理が単に漠然と900〜1100℃から
の空気中への強制放冷としていたのに対し、慎重な実験
の結果から特定の有意差な関係が隠れていることを発見
し、これをベースとした極く狭い温度範囲に限定した特
別の数値関係を要件に掲げたことである。この基本とな
る実験資料は実施例において説明するが、 T(℃)=Cr(%)×7+865±20 なる数式によってCr%が変動するにつれて、最高硬度
の得られる焼入温度が移動していく特定の関係を焼入条
件とし、従来に比べて遥かに狭い熱処理温度範囲を設定
することによって発明の目的達成を果したのである。こ
のことは従来からこのタイプの高Cr鋳鉄材の焼入温度
が周知の900〜1100℃の範囲内であれば、ほとん
ど何の考慮も払わずに恣意に選んでいた現実に反し、確
実に計算し尽くした作用と裏付けされた効果に基づいて
精緻に温度を管理するものであり、従来、漠然と設定し
ていた焼入温度と結果的に一致する場合があったとして
も、両者の技術的根拠に大きな隔たりがあることは言う
までもない。
ーム鋳鉄の熱処理が単に漠然と900〜1100℃から
の空気中への強制放冷としていたのに対し、慎重な実験
の結果から特定の有意差な関係が隠れていることを発見
し、これをベースとした極く狭い温度範囲に限定した特
別の数値関係を要件に掲げたことである。この基本とな
る実験資料は実施例において説明するが、 T(℃)=Cr(%)×7+865±20 なる数式によってCr%が変動するにつれて、最高硬度
の得られる焼入温度が移動していく特定の関係を焼入条
件とし、従来に比べて遥かに狭い熱処理温度範囲を設定
することによって発明の目的達成を果したのである。こ
のことは従来からこのタイプの高Cr鋳鉄材の焼入温度
が周知の900〜1100℃の範囲内であれば、ほとん
ど何の考慮も払わずに恣意に選んでいた現実に反し、確
実に計算し尽くした作用と裏付けされた効果に基づいて
精緻に温度を管理するものであり、従来、漠然と設定し
ていた焼入温度と結果的に一致する場合があったとして
も、両者の技術的根拠に大きな隔たりがあることは言う
までもない。
【0011】
【実施例】表1は本発明の実施例および比較のために同
一方法で調整した比較材の成分表である。
一方法で調整した比較材の成分表である。
【0012】
【表1】
【0013】各供試材は50KG高周波誘導炉によって
溶解して最高加熱温度を1660℃とし、1420℃で
CO2ガス鋳型である80mm厚さのYブロックへ鋳造
した。各供試材は鋳造後それぞれ所定の焼入(所定温度
からの強制空中放冷)処理を施し、硬度測定(HRC、
Hmv)、摩耗試験(衝撃摩耗、加圧摩耗)、衝撃試験
を実施した。衝撃摩耗試験は直径20mmの石英斑岩中
を周速1.57m/sec×20分継続し、加圧摩耗は
回転するラバーホィールの表面へ試料を押し付け、その
間へ6号珪砂を流し込むもので、周速1.57m/se
c×60分で乾式の摩耗試験を行なった。表2はこの硬
度、摩耗試験、衝撃試験の実施例と比較材の結果をまと
めたものである。ここで摩耗試験の結果を示す数値は耐
摩耗倍数と呼び、基準材である普通炭素鋼(SS40
0)と比較した耐摩耗性の倍率を採用してそれぞれの耐
摩耗性を表示している。
溶解して最高加熱温度を1660℃とし、1420℃で
CO2ガス鋳型である80mm厚さのYブロックへ鋳造
した。各供試材は鋳造後それぞれ所定の焼入(所定温度
からの強制空中放冷)処理を施し、硬度測定(HRC、
Hmv)、摩耗試験(衝撃摩耗、加圧摩耗)、衝撃試験
を実施した。衝撃摩耗試験は直径20mmの石英斑岩中
を周速1.57m/sec×20分継続し、加圧摩耗は
回転するラバーホィールの表面へ試料を押し付け、その
間へ6号珪砂を流し込むもので、周速1.57m/se
c×60分で乾式の摩耗試験を行なった。表2はこの硬
度、摩耗試験、衝撃試験の実施例と比較材の結果をまと
めたものである。ここで摩耗試験の結果を示す数値は耐
摩耗倍数と呼び、基準材である普通炭素鋼(SS40
0)と比較した耐摩耗性の倍率を採用してそれぞれの耐
摩耗性を表示している。
【0014】
【表2】
【0015】表からも明らかなように、HRC(マクロ
硬度)はほぼ85以上、基地(マトリックス)のHmv
は720以上、最高では800を超える高硬度が記録さ
れた。
硬度)はほぼ85以上、基地(マトリックス)のHmv
は720以上、最高では800を超える高硬度が記録さ
れた。
【0016】他の成分がほぼ等しく揃えCrだけを大幅
に変動してみると、表1、表2から判断してCrが高く
なるにつれて硬度が高くなるとは限らず、むしろCrが
13〜17%の範囲に最高硬度があり、本発明について
はCrの挙動をさらに詳細にチェックすることが必要で
あることを示唆している。この意図のもとに実施したの
がCr%の変動と諸性質との相関関係である。すなわ
ち、図2はCr%と引張り強さN/mm2、およびシャ
ルピー衝撃値J/cm2の関係を示している。また、図
3はCr%とマクロ硬度(HRC)および基地ミクロ硬
度(Hmv)をそれぞれ示したものである。図4はCr
%と耐摩耗倍数(SS400を1として対比)と、基地
ミクロ硬度(Hmv)をそれぞれ示す。また、図5は各
段階のCr%を含む高クローム鋳鉄の耐摩耗倍数(同)
と基地ミクロ硬度(同)を総括的に表示したものであ
り、各数値からみて15%Cr鋳鉄が一番優れた性質を
具えていることが明示されている。
に変動してみると、表1、表2から判断してCrが高く
なるにつれて硬度が高くなるとは限らず、むしろCrが
13〜17%の範囲に最高硬度があり、本発明について
はCrの挙動をさらに詳細にチェックすることが必要で
あることを示唆している。この意図のもとに実施したの
がCr%の変動と諸性質との相関関係である。すなわ
ち、図2はCr%と引張り強さN/mm2、およびシャ
ルピー衝撃値J/cm2の関係を示している。また、図
3はCr%とマクロ硬度(HRC)および基地ミクロ硬
度(Hmv)をそれぞれ示したものである。図4はCr
%と耐摩耗倍数(SS400を1として対比)と、基地
ミクロ硬度(Hmv)をそれぞれ示す。また、図5は各
段階のCr%を含む高クローム鋳鉄の耐摩耗倍数(同)
と基地ミクロ硬度(同)を総括的に表示したものであ
り、各数値からみて15%Cr鋳鉄が一番優れた性質を
具えていることが明示されている。
【0017】ここまでの図表はすべて同一の焼入温度に
よって各試料を熱処理してCr%と諸性質との関連性を
探知していったものであるが、図6は各Cr%毎に焼入
温度を変えて熱処理し、Cr%と熱処理温度と得られる
硬度(HRC)との関係をプロットした図表である。図
が明確に現わすように、Cr%が高くなるにつれて最高
硬度の得られる焼入温度は高くなるという傾向が確認さ
れ、この関係から最高硬度の得られる温度とCr%との
相関性を取り出したものが図1である。すなわち、図1
における右上がりの関係を±20℃の誤差範囲内におい
て、Cr%を変数とする一次式で表示することができ、
焼入温度の有利な設定に大きな目安を得ることが容易と
なった。
よって各試料を熱処理してCr%と諸性質との関連性を
探知していったものであるが、図6は各Cr%毎に焼入
温度を変えて熱処理し、Cr%と熱処理温度と得られる
硬度(HRC)との関係をプロットした図表である。図
が明確に現わすように、Cr%が高くなるにつれて最高
硬度の得られる焼入温度は高くなるという傾向が確認さ
れ、この関係から最高硬度の得られる温度とCr%との
相関性を取り出したものが図1である。すなわち、図1
における右上がりの関係を±20℃の誤差範囲内におい
て、Cr%を変数とする一次式で表示することができ、
焼入温度の有利な設定に大きな目安を得ることが容易と
なった。
【0018】
【発明の効果】本発明は以上に述べたように、比較的低
率の合金元素配合によって従来の高クローム鋳鉄の水準
を抜く高硬度を得て、優れた耐摩耗性を保証できる材質
を創成した。しかも、配合されたCr%と最高硬度の得
られる焼入温度との間には、従来漠然と信じられていた
傾向とは全く異なる意外な相関関係があり、この関係を
利用すれば、たとえば、Cr%を比較的低い範囲に留め
て、比較的低い焼入温度から熱処理をすることが最も賢
明であることが判明する。これは単に省エネルギーや低
材料コストを実現できるだけに留まらず、肉厚大型部材
や比較的複雑な形状の部材を製品化する上で、内部応力
を軽減し割れや歪みを防止するための必須の要件を満足
するものであり、大きな利点に直結する効果をもたら
す。
率の合金元素配合によって従来の高クローム鋳鉄の水準
を抜く高硬度を得て、優れた耐摩耗性を保証できる材質
を創成した。しかも、配合されたCr%と最高硬度の得
られる焼入温度との間には、従来漠然と信じられていた
傾向とは全く異なる意外な相関関係があり、この関係を
利用すれば、たとえば、Cr%を比較的低い範囲に留め
て、比較的低い焼入温度から熱処理をすることが最も賢
明であることが判明する。これは単に省エネルギーや低
材料コストを実現できるだけに留まらず、肉厚大型部材
や比較的複雑な形状の部材を製品化する上で、内部応力
を軽減し割れや歪みを防止するための必須の要件を満足
するものであり、大きな利点に直結する効果をもたら
す。
【図1】本発明の要件(焼入温度の計算式)を実証する
図表である。
図表である。
【図2】Cr%と引張り強さ、シャルピー衝撃値の関係
を示す。
を示す。
【図3】Cr%とマクロ硬度、基地ミクロ硬度の関係を
示す。
示す。
【図4】Cr%と耐摩耗倍数、基地ミクロ硬度の関係を
示す。
示す。
【図5】各種高クローム鋳鉄の耐摩耗倍数、基地ミクロ
硬度の比較データである。
硬度の比較データである。
【図6】Cr%と焼入温度と得られる硬度の関係を示
す。
す。
Claims (1)
- 【請求項1】 重量%で、C:2.8〜3.6%、S
i:0.2〜1.0%、Mn:0.5〜1.8%、C
r:10〜20%、Ni:0.5〜1.5%、Mo:
1.0〜2.0%、W:0.2〜0.8%、V:0.5
〜1.2%、B:0.2%以下を含有し、残部Feおよ
び不可避的な不純物の成分よりなる耐摩耗鋳鉄を鋳造
後、それそれの鋳造材が固有に含有するCr%から T(℃)=Cr(%)×7+865±20の範囲内で個別に計算した温度Tより空中で強制空冷し
て常温に至り、内部応力を軽減すると共に割れや歪みの
発生を予防した ことを特徴とする肉厚大型などの耐摩耗
鋳鉄材の製造方法。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP5047329A JP2541092B2 (ja) | 1993-02-12 | 1993-02-12 | 肉厚大型などの耐摩耗鋳鉄材の製造方法 |
Applications Claiming Priority (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP5047329A JP2541092B2 (ja) | 1993-02-12 | 1993-02-12 | 肉厚大型などの耐摩耗鋳鉄材の製造方法 |
Publications (2)
Publication Number | Publication Date |
---|---|
JPH06240403A JPH06240403A (ja) | 1994-08-30 |
JP2541092B2 true JP2541092B2 (ja) | 1996-10-09 |
Family
ID=12772202
Family Applications (1)
Application Number | Title | Priority Date | Filing Date |
---|---|---|---|
JP5047329A Expired - Fee Related JP2541092B2 (ja) | 1993-02-12 | 1993-02-12 | 肉厚大型などの耐摩耗鋳鉄材の製造方法 |
Country Status (1)
Country | Link |
---|---|
JP (1) | JP2541092B2 (ja) |
Families Citing this family (1)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
CN102371273B (zh) * | 2010-08-20 | 2015-02-18 | 鞍钢重型机械有限责任公司 | 一种高铬铸铁轧辊及其生产方法 |
Family Cites Families (2)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JPS559739B2 (ja) * | 1972-05-19 | 1980-03-12 | ||
JP2733773B2 (ja) * | 1988-08-30 | 1998-03-30 | 日本ピストンリング株式会社 | ロッカアーム |
-
1993
- 1993-02-12 JP JP5047329A patent/JP2541092B2/ja not_active Expired - Fee Related
Also Published As
Publication number | Publication date |
---|---|
JPH06240403A (ja) | 1994-08-30 |
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Legal Events
Date | Code | Title | Description |
---|---|---|---|
LAPS | Cancellation because of no payment of annual fees |