JP2024102795A - 複合材、端子及び端子の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】微摺動摩耗を起こしにくく、従来技術と同程度に摩擦係数の低い端子嵌合部と、従来技術と同様の優れた半田付け性を備えた半田付け部とを備える端子やその製造方法、並びに前記端子の製造に利用可能な複合材を提供すること。【解決手段】銀及び錫の少なくとも一方を含む金属被膜と、炭素粒子を含有する銀層からなる複合被膜とが素材上に形成されてなる複合材であって、前記金属被膜が露出している部位と、前記複合被膜が露出している部位とが存在する、半田付け部及び端子嵌合部を有する端子の製造に使用される複合材。【選択図】図1

Description

本発明は、端子の製造に用いられる複合材、端子及び端子の製造方法に関する。
電子機器等のコネクタに用いられる端子には、一端がプリント基板等に半田付けされ、他端が相手の端子に接続されるものがある。例えば、自動車において使用される、プリント基板とワイヤハーネスを中継する棒状のオス端子は、一端は端子嵌合部と呼ばれメス端子と嵌合する機能を持ち、もう一端は半田付け部と呼ばれ基板と半田付けされる機能を持つ。
この場合、端子嵌合部はメス端子との安定した電気的接触を確保するため、接触抵抗の小さいことが要求される。また、電子制御ユニット(ECU)の高度化等に伴い近年はコネクタ部位の端子の数が増えてきており(多極化)、オス端子とメス端子の嵌合に要する力が大きくなりやすい。このような場合に嵌合を容易とするため、端子嵌合部の摩擦係数が低いことも求められる。一方端子の半田付け部はプリント基板に半田付けされるため、半田付け性の良好なことが要求される。
コネクタ用の端子ではないが、特許文献1には、外部接続端子と一体で形成された接点が絶縁ケースの内底面に露呈するように設けられたプリント基板装着用電子部品において、上記外部接続端子と接点を一体で形成する材料に、接点の接触面側には接触抵抗の低い表面めっき処理(例えば銀めっき)をされ、その裏面側は半田付け性の良い表面めっき処理(例えば錫めっき)をされた金属板を用いてなるプリント基板装着用電子部品が開示されている。当該文献の図より、前記外部接続端子の一端が固定接点と接触し、他端が半田付け処理されることがわかる。
コネクタ用の端子については、特許文献2には、素材の一部領域がSnめっき薄層で被覆され、残部領域がSnめっき厚層で被覆されてなり、該Snめっき薄層および該Snめっき厚層の下地層として、前記素材側からNiめっき層とCuめっき層で形成された下地層を有する導電材が開示されている。摩擦係数の低い前記Snめっき薄層で被覆された部分が端子嵌合部として機能し、耐熱性や半田付け性に優れる前記Snめっき厚層で被覆された部分が半田付け部として機能する。
また、特許文献3には、メス端子と嵌合される嵌合部と半田付けされる半田付け部とを有する金属を素材としたオス端子であって、嵌合部と半田付け部とで異なる積層構成の3又は4層めっきがされた(表層はいずれもSnめっき)オス端子が開示されている。
特開平9-298018号公報 特開2005-307240号公報 WO2008/072418号公報
例えば自動車用のプリント回路板用端子では、(高温環境下に保持される)走行中の振動によって、オス端子とメス端子の接点部間の50μm程度といった僅かな距離の摺動によって、最表層が摩耗(微摺動摩耗)し易くなり、このような微摺動摩耗によって接点部の抵抗が上昇する(接触信頼性が損なわれる)という問題がある。近年の自動車などのプリント回路板用端子では、端子の小型化により、ばね部の板厚が薄くなり、また、ばね変位量を十分に確保することができなくなって、オス端子とメス端子の間の接点において接触荷重が小さくなっている。これにより接点が動き易くなり、微小な摺動による微摺動摩耗を抑えるのが困難になる。
特許文献1に開示された端子構造(接点と接続する部位が銀めっきされた端子)では、銀は凝着を起こしやすいため、微摺動摩耗を起こしやすいという問題がある。特許文献2及び3では、微摺動摩耗についての考慮はなされていない。
以上より本発明は、微摺動摩耗を起こしにくく、従来技術と同程度に摩擦係数の低い端子嵌合部と(以下、微摺動摩耗を起こしにくいことを「微摺動摩耗特性に優れる」ともいう)、従来技術と同様の優れた半田付け性を備えた半田付け部とを備える端子やその製造方法、並びに前記端子の製造に利用可能な複合材を提供することを目的とする。
また、特許文献1~3に開示された端子において採用されているSnめっきは、回路短絡の原因となるウィスカの発生を防止するために、Snめっき層を形成した後に加熱処理すること(リフロー)が必要であり、このため端子の製造コストが高くなってしまう。更に、特許文献1については端子の表面と裏面で別種のめっきをするため、素材に対して最初のめっきをする際には、反対面がめっきされないようにマスクをする必要があり(めっき後にはマスク除去も必要である)、次に反対面をめっきする際には最初にめっきした面にマスクをする必要があり、やはり端子の製造コストが高い。
そこで本発明は、望ましくは、簡易な製造工程で安価に製造可能な端子、及びその製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、半田付け部においては銀及び錫の少なくとも一方を含む金属被膜の構成とし、端子嵌合部においては炭素粒子が銀層中に分散した複合被膜の構成とすることで、端子嵌合部においては優れた微摺動摩耗特性及び従来技術と同程度の低摩擦係数を達成し、半田付け部においては従来技術と同様の優れた半田付け性を達成できることを見出した。
また、素材の表層全面に銀被膜が形成され、その上の、端子嵌合部となる部分に前記複合被膜が形成された構成とすれば、簡易な製造工程で安価に端子を製造することができることを見出した。
以上により、本発明者らは本発明を完成するに至った。すなわち本発明は、以下のとおりである。
[1]銀及び錫の少なくとも一方を含む金属被膜と、炭素粒子を含有する銀層からなる複合被膜とが素材上に形成されてなる複合材であって、前記金属被膜が露出している部位と、前記複合被膜が露出している部位とが存在する、半田付け部及び端子嵌合部を有する端子の製造に使用される複合材。
[2]前記複合材の、前記金属被膜が露出している部位が前記端子における半田付け部に対応し、前記複合被膜が露出している部位が前記端子における端子嵌合部に対応する、[1]に記載の複合材。
[3][1]又は[2]に記載の複合材を端子の形状に加工する、端子の製造方法。
[4]素材上に被膜が形成されてなる、半田付け部及び端子嵌合部を有する端子であって、前記被膜は、前記素材上に形成された銀及び錫の少なくとも一方を含む金属被膜と、前記素材上に形成された炭素粒子を含有する銀層からなる複合被膜とを含み、前記端子の金属被膜が露出している部位が前記半田付け部を構成し、前記端子の複合被膜が露出している部位が前記端子嵌合部を構成する、端子。
[5]前記端子が、収容部を備えるメス端子と嵌合されるオス端子である、[4]に記載の端子。
[6]前記金属被膜が、前記素材の表層全面に形成された銀からなる銀被膜であり、前記銀被膜上の一部に前記複合被膜が形成されている、[4]又は[5]に記載の端子。
[7]前記金属被膜の厚さが0.01~2.0μmである、[4]~[6]のいずれかに記載の端子。
[8]前記複合被膜の表面における炭素粒子が占める割合が1~80面積%である、[4]~[7]のいずれかに記載の端子。
[9]前記複合被膜の厚さが0.5~15μmである、[4]~[8]のいずれかに記載の端子。
[10]前記素材上に、Cu、Ni、Sn及びAgからなる群より選択される少なくとも一種からなる下地層が形成され、該下地層上に前記金属被膜及び複合被膜が形成されている、[4]~[9]のいずれかに記載の端子。
[11]前記半田付け部及び端子嵌合部を離間させるスペーサ部を更に有する、[4]~[10]のいずれかに記載の端子。
[12]素材上に、銀及び錫の少なくとも一方を含む金属被膜と炭素粒子を含有する銀層からなる複合被膜とを形成し、得られた複合材を端子の形状に加工する工程を備える端子の製造方法であって、前記端子の金属被膜が露出している部位が半田付け部を構成し、前記端子の複合被膜が露出している部位が端子嵌合部を構成する、端子の製造方法。
[13]素材を端子の形状に加工し、加工された素材上に、銀及び錫の少なくとも一方を含む金属被膜と炭素粒子を含有する銀層からなる複合被膜とを形成する工程を備える端子の製造方法であって、前記端子の金属被膜が露出している部位が半田付け部を構成し、前記端子の複合被膜が露出している部位が端子嵌合部を構成する、端子の製造方法。
[14]素材の表層全面に銀からなる銀被膜を形成し、該銀被膜上の一部に炭素粒子を含有する銀層からなる複合被膜を形成し、得られた複合材を端子の形状に加工する工程を備える端子の製造方法であって、前記端子の銀被膜が露出している部位が半田付け部を構成し、前記端子の複合被膜が露出している部位が端子嵌合部を構成する、端子の製造方法。
[15]素材を端子の形状に加工し、加工された素材の表層全面に銀からなる銀被膜を形成し、該銀被膜上の一部に炭素粒子を含有する銀層からなる複合被膜を形成する工程を備える端子の製造方法であって、前記端子の銀被膜が露出している部位が半田付け部を構成し、前記端子の複合被膜が露出している部位が端子嵌合部を構成する、端子の製造方法。
[16]前記端子が、収容部を備えるメス端子と嵌合されるオス端子である、[12]~[15]のいずれかに記載の端子の製造方法。
[17]前記銀被膜の露出している部位の一部と、前記複合被膜の露出している部位の一部との少なくとも一方の部分が、前記半田付け部及び端子嵌合部を離間させるスペーサ部を更に構成する、[14]又は[15]に記載の端子の製造方法。
[18]前記銀被膜の厚さが0.01~2.0μmである、[14]、[15]又は[17]に記載の端子の製造方法。
[19]前記素材の表層全面に、Cu、Ni、Sn及びAgからなる群より選択される少なくとも一種からなる下地層を形成し、該下地層の表層全面に前記銀被膜を形成する、[14]又は[15]に記載の端子の製造方法。
本発明によれば、微摺動摩耗を起こしにくく従来技術と同程度に摩擦係数の低い端子嵌合部と、従来技術と同様の優れた半田付け性を備えた半田付け部とを備える端子やその製造方法、並びに前記端子の製造に利用可能な複合材が提供される。更に本発明の好ましい態様によれば、簡易な製造工程で安価に製造可能な端子、及びその製造方法が提供される。
図1は、本発明の複合材の縦割断面の模式図である。 図2は、図1(b)の態様を例として、金属被膜14が露出した部位(金属被膜露出部位18)などを示す模式図である。 図3は、スペーサ部を有する本発明の複合材の縦割断面の模式図である。 図4は、本発明の端子の一実施形態を上面(複合被膜が見える視点)から見た場合の形状の模式図である。 図5は、スペーサ部を有する本発明の端子の縦割断面の模式図である。 図6は、ケーシング部材を取り付けた態様の本発明の端子の縦割断面の模式図である。 図7は、オス端子とメス端子の縦割断面の模式図である。
以下、本発明の実施の形態について説明する。
[複合材]
本発明の複合材は、銀及び錫の少なくとも一方を含む金属被膜と、炭素粒子を含有する銀層からなる複合被膜とが素材上に形成されてなり、前記金属被膜が露出している部位と、前記複合被膜が露出している部位とが存在する構成である。当該複合材は半田付け部及び端子嵌合部を有する端子の製造に使用される。以下、この複合材の各構成について、その縦割断面の模式図である図1を参照しながら説明する。図1は、本発明の複合材10の代表的な二つの態様を示す。
<素材、素材及び複合材の形状>
その上に金属被膜及び複合被膜を形成する素材12の構成材料としては、スイッチやコネクタなどの摺動電気接点部品などの材料に求められる導電性を有するものが好適であり、更にコストの観点から、構成材料としてCu(銅)及びCu合金が好適である。前記Cu合金としては、導電性と強度などの観点から、Cuと、Si(ケイ素),Fe(鉄),Mg(マグネシウム),P(リン),Ni(ニッケル),Sn(スズ),Co(コバルト),Zn(亜鉛),Be(ベリリウム),Pb(鉛),Te(テルル),Ag(銀),Zr(ジルコニウム),Cr(クロム),Al(アルミニウム)及びTi(チタン)からなる群より選ばれる少なくとも一種と、不可避不純物とで構成される合金が好ましい。Cu合金におけるCuの量は、好ましくは85質量%以上であり、より好ましくは92質量%以上である(Cuの量は好ましくは99.95質量%以下である)。
素材12の厚さは特に制限されないが、近年の端子の小型化に対応する観点からは、0.05~1mmであることが好ましく、0.1~0.6mmであることがより好ましい。素材12は代表的には平らな形状(平板形状など)で、金属被膜14及び複合被膜16が形成されて複合材10となった後に、当該複合材10の用途である端子の形状に成形される。反対に、素材12を端子の形状に加工し、その後金属被膜14と複合被膜16を形成してもよい。前記複合材10の形状は代表的には素材12と実質的に同一の形状、すなわち平板形状などである。本発明の複合材10は、後述する通り半田濡れ性に優れた部位と、微摺動摩耗特性に優れるとともに摩擦係数の低い部位とを有しているので、半田付け部及び端子嵌合部を有する端子の材料として好適である。
<下地層>
本発明の複合材10は、素材上に下地層(図1には図示せず)が形成され、その下地層上に金属被膜14及び複合被膜16が形成されている構成であってもよい。特に金属被膜14が厚さ0.1μm以下といった薄い層である場合には、下地層を備えることが、複合材10の耐熱性の観点から好ましい。下地層の構成金属としては、Cu、Ni、Sn及びAgからなる群より選択される少なくとも一種の金属又は合金が挙げられる。なお下地層は、Cu,Ni,Sn,Ag又はこれらの合金のそれぞれからなる単一層やそれらを組み合わせた(積層構造の)層であってもよく、下地層の形成は、製造される複合材10の用途に応じて、素材の表層全体に対して行われてもよいし、その一部に対して行われてもよい。また複合材10の製造性の観点からは、下地層の構成金属としてはCu、Ni及びAgからなる群より選択される少なくとも一種の金属又は合金が好ましい。
例えば素材12中の銅が金属被膜14や複合被膜16の表面に拡散して導電性が劣化することを防止する目的では、Niからなる下地層を形成することが好ましい。素材12が黄銅などの亜鉛を含む銅合金で、素材12中の亜鉛が金属被膜14や複合被膜16の表面に拡散することを防止する目的では、Cuからなる下地層を形成することが好ましい。金属被膜14や複合被膜16の素材12への密着性改善の目的では、Agからなる下地層を形成することが好ましい。下地層の厚さは特に限定されないが、その機能発揮とコストの観点から、0.05~2μmであることが好ましく、0.15~1μmであることがより好ましい。
<金属被膜>
本発明の複合材においては、素材12上又は以上説明した下地層上に金属被膜14が形成されている。この金属被膜14は、銀及び錫の少なくとも一方を含んでいる。より具体的には金属被膜14は、例えば銀又は錫の単一金属で構成された被膜や、銀と錫の合金で構成された被膜である。前記金属や合金は、不可避不純物を含み得る。
銀と錫はいずれも半田濡れ性に優れた金属であり、このため金属被膜14は、端子の半田付け部として好適である。半田濡れ性については、錫が特に優れる。一方錫からなる金属被膜を形成した場合、ウィスカ(短絡の原因となる)の発生が問題となり、これを防止するため、リフロー(加熱)処理して内部応力を低減するなどの追加の工程が必要となる。銀については半田濡れ性は錫ほどではないにしても実用上十分であり、ウィスカの問題はなく簡便な工程で製造可能であり、また耐熱性や導電性の点では錫よりも優れている。
金属被膜14は素材12の表層全面に形成されていてもよく、一部に形成されていてもよい。また金属被膜14の厚さは、良好な半田濡れ性を発揮する限り特に制限されないが、好ましくは0.01~2.0μmであり、コストもあわせて考慮すると、0.01~0.8μmであることがより好ましく、0.015~0.6μmであることが更により好ましく、0.02~0.2μmであることが特に好ましい。
<複合被膜>
本発明の複合材を構成する複合被膜16は、炭素粒子を含有する銀層からなる。複合被膜16は素材12上に直接形成されていてもよく(例えば図1(a)の構成)、素材上に形成された金属被膜14上の一部に形成されていてもよい(例えば図1(b)の構成)。複合被膜16を構成する銀層においては、銀からなるマトリクス中に炭素粒子が(好ましくは略均等に)分散している。
(炭素粒子)
複合被膜16が炭素粒子を含むことで、当該被膜は微摺動摩耗特性に優れるとともに、摩擦係数が低い。このような機能の発揮の観点から、炭素粒子は黒鉛粒子であることが好ましい。この炭素粒子の平均一次粒子径は、複合被膜16の微摺動摩耗特性及び低摩擦係数の観点から、0.5~15μmであることが好ましく、1~10μmであることがより好ましい。なお平均一次粒子径とは、粒子の長径の平均値であり、長径とは、複合材の複合被膜16中の炭素粒子を適切な観察倍率で観察した画像(平面)における、粒子内にひくことのできる最も長さの長い線分の長さとする。また長径は、50個以上の粒子について求めるものとする。更に、炭素粒子の形状は、略球状、鱗片形状、不定形など特に限定されないが、複合被膜16の表面を平滑にすることで複合材の微摺動摩耗特性を高めるとともに摩擦係数を低減する観点から、鱗片形状であることが好ましい。
(ビッカース硬度)
本発明の複合材10の複合被膜16は好ましくは硬度が高く、具体的には、そのビッカース硬度Hvは、好ましくは100以上であり、より好ましくは120~230である。このように硬度が高いことで複合被膜16が削れにくくなり複合材10の微摺動摩耗特性が特に優れたものとなる。
(炭素の含有量及び面積率)
本発明の複合材10の実施の形態における複合被膜16は上記の通り炭素粒子を含有しており、複合被膜16中の炭素の含有量は、複合材10の微摺動摩耗特性、低摩擦係数及び導電性の観点から、好ましくは1~50質量%であり、より好ましくは1.5~40質量%であり、更に好ましくは2~35質量%である。
また、炭素粒子を含んでいる複合被膜16の表面における炭素粒子が占める割合(面積率)は、微摺動摩耗特性及び低摩擦係数の指標になり、これら二つの特性と導電性のバランスの観点から、好ましくは1~80面積%であり、より好ましくは12~50面積%である。なお、複合被膜16の表面には、付着しているだけで脱落しやすい炭素粒子が存在している場合がある。この場合には、後述する(複合被膜表面の炭素粒子の一部除去処理)の項にて説明するのと同様の超音波洗浄処理を施してから複合被膜16の表面の炭素粒子の面積率を求めるものとする。前記面積率の測定方法の詳細については、実施例で説明する。
(複合被膜の元素組成)
本発明の複合材10の実施の形態における複合被膜16の元素組成については、典型的には実質的に銀と炭素とからなる(例えばエネルギー分散型X線分析装置を用いてEDX分析を行ったときに、複合被膜16における銀の含有量と炭素の含有量の合計は100質量%である)。
(複合被膜の厚さ)
複合被膜16の厚さは特に制限されないが、微摺動摩耗特性及び低摩擦係数や導電性の点で、最低限の厚さがあることが好ましい。また厚さが大きすぎても複合被膜16の効果は飽和し、原料コストが高まる。以上の観点から、複合被膜16の厚さは0.5~15μmであることが好ましく、0.6~8μmであることがより好ましく、0.7~6μmであることが更に好ましい。なお複合被膜16の厚さは蛍光X線膜厚計で測定するが、測定方法の詳細については、実施例で説明する。
<半田付け部に対応する部位及び端子嵌合部に対応する部位>
本発明の複合材10は以上説明した通り、素材12上に金属被膜14及び複合被膜16が形成された構成である。そして当該複合材10には、金属被膜14が露出した部位が存在する。「露出した」とは、前記「部位」が複合被膜16やその他の層で被覆されていないということであり、別の言い方をすれば前記「部位」が複合材10の最表面の一部を構成しているということである。図1(b)の態様を例として、前記の金属被膜14が露出した部位(金属被膜露出部位18)を図2に示す。
金属被膜露出部位18は半田濡れ性が良好であるので、半田付け部及び端子嵌合部を有する端子における半田付け部として良好に機能する。すなわち、複合材10を加工して端子にした際、金属被膜露出部位18を半田付け部として用いることが好ましい。
複合材10には、複合被膜16が露出した部位が存在する。「露出した」とは、前記「部位」が金属被膜14やその他の層で被覆されていないということであり、別の言い方をすれば前記「部位」が複合材10の最表面の一部を構成しているということである。この複合被膜露出部位20は微摺動摩耗特性に優れるとともに摩擦係数が低いので、半田付け部及び端子嵌合部を有する端子における端子嵌合部として良好に機能する。すなわち、複合材10を加工して端子にした際、複合被膜露出部位20を端子嵌合部として用いることが好ましい。
<スペーサ部に対応する部位>
上述の通り本発明の複合材10は、半田付け部及び端子嵌合部を有する端子の材料として好適である。このような端子においては後述する通り、半田付け部と端子嵌合部を離間させるスペーサ部が存在する場合がある。
この場合には、図3に示す通り、金属被膜露出部位18の一部から複合被膜露出部位20の一部にかけての部分22の全体又は一部がスペーサ部である。スペーサ部の詳細については、後述の本発明の端子に関する説明の箇所にて説明する。
<複合材の用途>
以上説明した本発明の複合材は、半田付け部及び端子嵌合部を有する端子の製造に用いるのに好適である。前記端子の具体例としては、プリント回路板用端子が挙げられる。
[複合材の製造方法]
以上説明した本発明の複合材の製造方法について、以下説明する。
<素材>
素材は上述の通りその構成材料としてCu及びCu合金が好適であり、前記Cu合金としては、Cuと、Si,Fe,Mg,P,Ni,Sn,Co,Zn,Be,Pb,Te,Ag,Zr,Cr,Al及びTiからなる群より選ばれる少なくとも一種と、不可避不純物とで構成される合金が好ましく、Cu合金におけるCuの量は、好ましくは85質量%以上であり、より好ましくは92質量%以上であり(Cuの量は好ましくは99.95質量%以下である)、素材の厚さ0.05~1mmであることが好ましく、0.1~0.6mmであることがより好ましく、また素材の形状は代表的には平らな形状(平板形状など)である。このような素材は市販されており、従来公知の方法によって製造可能である。
<下地層の形成>
本発明の複合材において下地層を形成する場合、その形成方法は特に限定されない。なお上述の通り、下地層の構成金属としては、Cu、Ni、Sn及びAgからなる群より選択される少なくとも一種の金属又は合金が挙げられ、製造性の観点からはCu、Ni及びAgからなる群より選択される少なくとも一種の金属又は合金が好ましく、その厚さは0.05~2μmであることが好ましく、0.15~1μmであることがより好ましい。
例えば下地層の構成金属のイオンを含むめっき液を用いて、公知の方法により電気めっきすることで、下地層を形成することができる。また下地層は、上述の通り、素材の表層全体に形成してもよいし、素材の表層の一部に形成してもよい。
<金属被膜の形成>
金属被膜は、上述の通り銀及び錫の少なくとも一方を含んでおり、半田濡れ性の観点からは錫が好ましく、製造工程の簡便さや耐熱性・導電性の点では銀が好ましく、金属被膜の厚さは好ましくは0.01~2.0μmであり、0.01~0.8μmであることがより好ましく、0.015~0.6μmであることが更により好ましく、0.02~0.2μmであることが特に好ましい。
金属被膜は従来公知の方法により素材上に形成することができ、例えば金属被膜の構成金属のイオンを含むめっき液を用いた電気めっきや、蒸着などの方法が採用可能である。錫被膜を形成した場合は、内部応力を除去してウィスカ形成を防止するため、リフロー(加熱)処理を行う。また、銀層と錫層を素材上に積層形成した後加熱することによって、これらの合金からなる被膜を形成することも可能である。
<複合被膜の形成>
複合被膜は、上述の通り炭素粒子を含有する銀層からなり、複合被膜のビッカース硬度Hvは好ましくは100以上であり、より好ましくは120~230であり、複合被膜中の炭素の含有量は好ましくは1~50質量%であり、より好ましくは1.5~40質量%であり、更に好ましくは2~35質量%であり、複合被膜の表面における炭素粒子が占める割合(面積率)は、好ましくは1~80面積%であり、より好ましくは12~50面積%であり、複合被膜の元素組成については、典型的には実質的に銀と炭素とからなり、複合被膜の厚さは0.5~15μmであることが好ましく、0.6~8μmであることがより好ましく、0.7~6μmであることが更に好ましい。
複合被膜は従来公知の方法により形成することができるが、以下、代表的な手法として、電気めっきを利用して銀めっき膜中に炭素粒子を巻き込ませることで複合被膜を形成する方法について説明する。
(銀ストライクめっき)
素材上に複合被膜を形成する前に、銀ストライクめっきにより非常に薄い中間層(銀ストライクめっき層)を形成して、素材と複合被膜との密着性を高めることが好ましい。なお、下地層を素材上に形成する場合は、下地層上に銀ストライクめっきを行う(それにより下地層と複合被膜の密着性を高める)。銀ストライクめっきの実施方法としては、本発明の効果を損なわない限り、従来公知の方法を特に制限なく採用することができる。また、上述の通り複合材における金属被膜は非常に薄いものであっても十分に優れた半田濡れ性を示すので、金属被膜が銀被膜である場合には、金属被膜を形成する部位及び複合被膜を形成する部位に銀ストライクめっきを行うことで、銀からなる金属被膜及びその上に複合被膜を形成するための銀ストライクめっき層を同時に形成することができる。これは製造工程の簡便さの点で非常に有利である。なお銀ストライクめっき層は薄い層とするのが一般的であるが、本発明においてはその厚さは0.01~2.0μmの範囲で調整することが好ましい。
(電気めっき)
銀ストライクめっき層を形成した後、炭素粒子を含む銀めっき液を用いた電気めっきを行って、銀マトリクスを形成するとともにその中に炭素粒子を巻き込ませることで、素材上に、銀層中に炭素粒子を含有する複合被膜を形成する。なお、複合被膜は素材上に直接形成してもよく、素材上に形成された金属被膜上の一部に形成してもよい。
前記銀めっき液は銀イオンを含み、この銀めっき液中の銀の濃度は、複合被膜の形成速度の観点や、複合被膜の外観ムラ抑制の観点から5~150g/Lであるのが好ましく、10~120g/Lであるのがさらに好ましく、20~100g/Lであるのが最も好ましい。
前記銀めっき液は炭素粒子を含む。炭素粒子の形状は、上述の通り略球状、鱗片形状、不定形など特に限定されないが、鱗片形状であることが好ましい。この炭素粒子の、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置により測定した体積基準の累積50%粒径(D50)は、銀マトリクスへの巻き込みやすさの観点から0.5~15μmであることが好ましく、1~10μmであることがより好ましい。また、この炭素粒子を酸化処理することにより、炭素粒子の表面に吸着している親油性有機物を除去することで、炭素粒子の銀めっき液中での分散性を高めることが好ましい。酸化処理の具体的な方法は公知である。
さらに、必要に応じて上記の酸化処理を行った炭素粒子に対して、ポリマーによる表面処理を行ってもよい。これにより、上記銀めっき液を使用して形成される複合被膜の表面の平滑性を高めることができる。
具体的には、前記炭素粒子を、ポリマーの存在下、水中で撹拌混合する。この際、前記ポリマーの官能基や三次元構造によって、ポリマーが炭素粒子に付着するものと考えられる。前記撹拌混合の後、ろ過及びろ取物(ポリマーで表面処理された炭素粒子)の水洗を行ってもよい。
ポリマーの重量平均分子量(GPCにより測定した標準ポリエチレングリコール及び標準ポリエチレンオキシド換算の分子量)は、1000以上15万以下であることが好ましい。また、ポリマーの具体例として、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロライド)やジアリルアミン塩酸塩・アクリルアミド共重合体が挙げられる。
炭素粒子を表面処理する際(上記の炭素粒子をポリマー存在下に水中で撹拌混合する場合)の、水中の炭素粒子濃度は200g/L以下であることが好ましく(通常10g/L以上である。より好ましくは50~120g/L)、炭素粒子100質量部に対するポリマーの使用量は10~150質量部であることが好ましく(20~100質量部であることがより好ましい)、液温は15℃以上60℃以下であることが好ましく、表面処理(撹拌混合)の時間は3h以上30h以下であることが好ましい。水洗はろ液の電導度が10μS/cm以下になるまで実施すればよい。
銀めっき液中の炭素粒子の濃度については、得られる複合材の微摺動摩耗特性や摩擦係数低減の観点と、複合被膜中に導入できる炭素粒子の量には限度があることから、10~150g/Lであることが好ましく、15~120g/Lであることがより好ましく、30~100g/Lであることが特に好ましい。
銀めっき液は、好ましくは下記一般式(1)で表される化合物Aを含む。化合物Aは、析出した銀の表面に吸着して銀の結晶が成長することを抑えることで、電気めっきにより形成される複合被膜における銀の結晶子サイズを小さくして、複合被膜の硬度を高めるものと考えられる。
Figure 2024102795000002
式(1)において、mは1~5の整数であり、Raは、カルボキシル基であり、Rbは、アルデヒド基、カルボキシル基、アミノ基、水酸基又はスルホン酸基であり、Rcは、水素又は任意の置換基であり、Ra及びRbはそれぞれ独立に、-O-及び-CH2-からなる群より選ばれる少なくとも一種で構成される2価の基を介してベンゼン環と結合していてもよい。前記2価の基の例としては、-CH-CH-O-、-CH-CH-CH-O-、(-CH-CH-O-)が挙げられる(nは2以上の整数である)。
式(1)において、mが2以上の場合、複数存在するRbは互いに同一であっても異なっていてもよく、mが3以下の場合、複数存在するRcは互いに同一であっても異なっていてもよい。Rcについて、前記「任意の置換基」としては、炭素数1~10のアルキル基、アルキルアリール基、アセチル基、ニトロ基、ハロゲン基、炭素数1~10のアルコキシル基が挙げられる。
銀めっき液中の化合物Aの濃度は、複合被膜の外観ムラ抑制や、形成される複合被膜における銀の結晶子サイズを適切に制御する観点から2~250g/Lであることが好ましく、3~200g/Lであることがより好ましい。
本発明で使用する銀めっき液は、好ましくは錯化剤を含有する。錯化剤は銀めっき液中の銀イオンを錯体化して、そのイオンとしての安定性を高める。錯化剤としては、形成される錯体の安定性の観点からスルホン酸基を有する化合物、例えば、炭素数1~12のアルキルスルホン酸、炭素数1~12のアルカノールスルホン酸及びヒドロキシアリールスルホン酸が好ましい。
更に、銀めっき液は、光沢剤、硬化剤、電導度塩を含有してもよい。
また、銀めっき液を構成する溶媒は、主に水である。水は、(錯体化した)銀イオンの溶解性、めっき液が含むその他の成分の溶解性や、環境への負荷が小さいことから好ましい。また、溶媒として、水とアルコールの混合溶媒を使用してもよい。
以上説明した銀めっき液を用いて電気めっきを行う。電気めっきする対象である素材がカソードである。溶解して銀イオンを提供する、例えば銀電極板がアノードである。銀めっき液(めっき浴)にカソード及びアノードを浸漬し、電流を流して銀めっきする。ここでの電流密度は、複合被膜の形成速度の観点及び複合被膜の外観のムラ抑制の観点から、0.5~10A/dmが好ましく、1~8A/dmがより好ましく、1~5A/dmが更に好ましい。電気めっきを行う際のめっき浴(銀めっき液)の温度(めっき温度)は、めっきの生産効率および液の過度な蒸発を防ぐ観点から15~50℃であることが好ましく、20~45℃であることがより好ましい。銀めっきの時間(電流をかける時間)は、目的とする複合被膜の厚さに応じて適宜調整することができるが、代表的には25~1800秒の範囲である。
(複合被膜表面の炭素粒子の一部除去処理)
例えば以上説明した電気めっきにより素材上に形成された複合被膜の表面には、銀マトリクスに巻き込まれて(埋まって)おり脱落しにくい炭素粒子と、巻き込まれたというよりも表面に付着しており、脱落しやすい炭素粒子が存在している。後者は複合材の曲げ加工時などに設備を汚染しうる。そこでこのような炭素粒子を洗浄して除去することが好ましい。洗浄方法の一つは、複合被膜の表面を超音波洗浄する処理である。超音波洗浄は、20~100kHzで1~300秒間行われることが好ましい。また別の洗浄方法としては電解洗浄処理が挙げられる。この場合、電解洗浄が1~30A/dmで10~300秒間行われることが好ましい。
[端子]
次に、本発明の端子について説明する。
本発明の端子は、素材上に被膜が形成されてなり、半田付け部及び端子嵌合部を有する。前記被膜は、前記素材上に形成された銀及び錫の少なくとも一方を含む金属被膜と、前記素材上に形成された炭素粒子を含有する銀層からなる複合被膜とを含み、前記端子の、前記金属被膜が露出している部位が前記半田付け部を構成し、前記端子の、前記複合被膜が露出している部位が前記端子嵌合部を構成する。以下、本発明の端子の各構成について説明する。
<素材>
前記素材は本発明の複合材における素材と同様であり、その構成材料としてCu及びCu合金が好適であり、前記Cu合金としては、Cuと、Si,Fe,Mg,P,Ni,Sn,Co,Zn,Be,Pb,Te,Ag,Zr,Cr,Al及びTiからなる群より選ばれる少なくとも一種と、不可避不純物とで構成される合金が好ましく、Cu合金におけるCuの量は、好ましくは85質量%以上であり、より好ましくは92質量%以上であり(Cuの量は好ましくは99.95質量%以下である)、素材の厚さは0.05~1mmであることが好ましく、0.1~0.6mmであることがより好ましい。
<下地層>
本発明の端子においては、素材上に下地層が形成され、その上に金属被膜及び複合被膜が形成された構成であってもよい。前記下地層は、本発明の複合材における下地層と同様であり、その構成金属としては、Cu、Ni、Sn及びAgからなる群より選択される少なくとも一種の金属又は合金が挙げられ、端子の製造性の観点から、Cu、Ni及びAgからなる群より選択される少なくとも一種の金属又は合金が好ましく、その厚さは0.05~2μmであることが好ましく、0.15~1μmであることがより好ましい。
<金属被膜>
本発明の端子における金属被膜は、本発明の複合材における金属被膜と同様であり、銀及び錫の少なくとも一方を含んでおり、半田濡れ性の観点からは錫が好ましく、製造工程の簡便さや耐熱性・導電性の点では銀が好ましく、金属被膜は素材の表層全面に形成されていてもよく、一部に形成されていてもよく、金属被膜の厚さは好ましくは0.01~2.0μmであり、0.01~0.8μmであることがより好ましく、0.015~0.6μmであることが更により好ましく、0.02~0.2μmであることが特に好ましい。
<複合被膜>
本発明の端子における複合被膜は、本発明の複合材における複合被膜と同様であり、炭素粒子を含有する銀層からなり、炭素粒子の平均一次粒子径は0.5~15μmであることが好ましく、1~10μmであることがより好ましく、複合被膜のビッカース硬度Hvは好ましくは100以上であり、より好ましくは120~230であり、複合被膜中の炭素の含有量は好ましくは1~50質量%であり、より好ましくは1.5~40質量%であり、更に好ましくは2~35質量%であり、複合被膜の表面における炭素粒子が占める割合(面積率)は、好ましくは1~80面積%であり、より好ましくは12~50面積%であり、複合被膜の元素組成については、典型的には実質的に銀と炭素とからなり、複合被膜の厚さは0.5~15μmであることが好ましく、0.6~8μmであることがより好ましく、0.7~6μmであることが更に好ましい。
<端子嵌合部>
上述の通り、本発明の端子における端子嵌合部は、端子の複合被膜が露出している部位により構成される。「露出している」とは、前記「部位」が金属被膜やその他の層で被覆されていないということであり、別の言い方をすれば前記「部位」が端子の最表面の一部を構成しているということである。基本的には端子嵌合部は端子の一方の端部にある。この端子嵌合部の表面は複合被膜により構成されているので、微摺動摩耗特性に優れるとともに、摩擦係数が低い。
具体的には、後述する実施例における微摺動摩耗特性試験を実施した場合に、5000回の往復摺動動作後に、マイクロスコープ(株式会社キーエンス製のVHX-1000)によりインデント付き試験片及び平板状試験片の摺動痕の中心部を倍率200倍で観察したときに、どちらの摺動痕からも素材が露出していないことが確認される。また後述する実施例における方法で測定した摩擦係数が0.50以下であり、0.40以下であることが好ましく、0.30以下であることがより好ましい。なお、摩擦係数は通常0.01以上である。
端子嵌合部は素材と複合被膜との積層体や素材と金属被膜と複合被膜との積層体である(複合被膜の露出部位があれば、他の層があってもよい)。本発明の端子の一実施形態を上面(複合被膜が見える視点)から見た場合の形状の模式図を図4に示す。
詳細は後述するが、端子は典型的にはオス端子とオス端子の端子嵌合部を収容する収容部を備えるメス端子のセットであり、本発明の端子はオス端子として好適である。本発明の端子の端子嵌合部30は、代表的にはピンやタブなどの棒形状(円柱形や多角形柱の形状など)や凸形状や細長い板状の形状、あるいはこれらを組み合わせた形状に形成される。図4に示した態様では、直方体形状の先端が丸まって若干先細りになった形状(凸形状の一種)になっている。
端子嵌合部30の表面は複合被膜により形成されているが、この被膜の半田濡れ性は金属被膜に比べて低い。金属被膜が250℃程度に加熱した半田に対して優れた濡れ性を示すのに対して、複合被膜はこの程度の温度の半田にはほとんど濡れず、350℃またはそれ以上の高温に加熱した場合に実用上許容し得る半田濡れ性を示す。
<半田付け部>
次に、図4を参照しつつ本発明の端子の半田付け部について説明する。半田付け部32は、端子の金属被膜が露出している部位により構成される。「露出している」とは、前記「部位」が複合被膜やその他の層で被覆されていないということであり、別の言い方をすれば前記「部位」が端子の最表面の一部を構成しているということである。基本的には半田付け部32は端子嵌合部30と反対側の端部にある。金属被膜は銀及び錫の少なくとも一方という半田濡れ性に優れた金属で構成されているので、前記半田付け部32は従来技術と同程度の優れた半田濡れ性を示す。具体的には、後述する実施例において説明する半田濡れ試験(加熱エージング後の半田濡れ性を求める試験である)を実施した場合に、半田付け部32は80面積%以上の半田濡れ面積率を示す。半田付け部32の半田濡れ面積率は、好ましくは90面積%以上であり、より好ましくは95面積%以上である。更に、金属被膜が実質的に銀で構成される場合、銀は耐熱性に優れた金属であるので、半田付け部32は優れた半田濡れ性を示す。ただし銀被膜が0.1μm以下といった薄層である場合には、優れた半田濡れ性を達成するためには下地層を形成して、素材からの銀被膜表面への原子拡散を抑制することが好ましい。
半田付け部32は代表的には素材と金属被膜との積層体である(金属被膜の露出部位があれば、他の層があってもよい)。本発明の端子を上面視した場合の半田付け部32の形状は、例えば丸棒もしくは角棒のような棒状、細長い板状の形状、あるいはこれらを組み合わせた形状である。
<スペーサ部>
本発明の端子は、半田付け部及び端子嵌合部を離間させるスペーサ部を更に有していてもよい。図5にスペーサ部を有する本発明の端子の縦割断面の模式図を示す。
スペーサ部34には、後述するケーシング部材が取り付けられていてもよい。本発明の端子は、後述する通り、例えば本発明の複合材(素材上に金属被膜及び複合被膜を有する構成である)を打ち抜いて製造されるが、当該打ち抜きによって端子嵌合部30、半田付け部32及びスペーサ部34は同時に形成される。すなわちこれらは一体に形成されているのが代表的である。金属被膜露出部位42が半田付け部として最低限の寸法しか無く、複合被膜露出部位44が端子嵌合部として最低限の寸法しか無い場合には、スペーサ部は存在しない。一方金属被膜露出部位42及び/又は複合被膜露出部位44の寸法を前記の最低限の寸法よりも長く設計すれば、スペーサ部34が形成される。すなわち、スペーサ部34は金属被膜38の一部及び複合被膜40の一部の少なくとも一方の部分と、当該部分に対応する素材36の部分とで構成される。「当該部分に対応する素材36の部分」とは、端子を水平に置いたときに前記「当該部分」の鉛直下方にある素材36の部分のことである。
前記スペーサ部34の部分で本発明の端子が折れ曲がっていれば、曲がっていない直線タイプの端子とは異なった形状のコネクタなどの製品設計が可能である。スペーサ部34は、次に説明するケーシング部材を取り付けられることや、このような製品設計の自由度の点で有用である。
<ケーシング部材>
スペーサ部34には上記の通りケーシング部材を取り付けてもよい。ケーシング部材を取り付けた態様の端子の縦割断面の模式図を図6に示す。
スペーサ部34の箇所にケーシング部材50が取り付けられている。代表的にはケーシング部材50は開口部を有する箱型の形状であり、前記開口部と対向する壁面には端子60が貫通できる孔が複数設けられている。孔の数は端子の用途によって適宜調整される。端子60の半田付け部32はケーシング部材50の箱型の形状の外側に位置し、端子嵌合部30はケーシング部材50の箱型の形状の内側(前記孔からみて開口部の側)に位置する。またスペーサ部34のケーシング部材50の孔を貫通する部位には、ケーシング固定部Xを設けて、端子60がケーシング部材50から外れにくくすることができる。さらにケーシング部材50の前記開口部の箇所には、後述するメス端子との固定を可能とする端子固定部Yが設けられていてもよい。
ケーシング部材50は絶縁性の材料で構成され、当該材料の例としては樹脂が挙げられる。
<端子の具体的態様>
本発明の端子の具体的態様について、端子は典型的にはオス端子とメス端子のセットであり、本発明の端子はオス端子とすることが好ましい。以下、オス端子とメス端子について、これらの縦割断面の模式図である図7を参照しながら説明する。
メス端子70は、オス端子60の端子嵌合部30を収容する形状に形成された収容部72を備え、その内部に、嵌合したオス端子の端子嵌合部30をメス端子の収容部72内に固定して通電するための固定部74を備えている。収容部72の形状の例としては、円筒形状や箱型(直方体)形状が挙げられる。端子嵌合部30が収容部72に嵌まり込むことで、これらが物理的かつ電気的に接続する。良好な電気的接続等の実現のため収容部72と端子嵌合部30とは同一の材料で製造されることが好ましい。また、固定部74の形状や端子嵌合部30を固定する方式は、嵌まり込んだ端子嵌合部30を固定できる限り特に制限されず、例えばツメ形状、バネなどである。
またメス端子70にはケーシング部材76が取り付けられていてもよい。代表的にはケーシング部材76は開口部を有する箱型の形状であり、1つの壁面にはメス端子70が貫通できる孔が複数設けられている。孔の数は端子の用途によって適宜調整される。メス端子70の収容部72はケーシング部材76の開口部の箇所に位置する。ケーシング部材76には、上述したオス端子60の端子固定部Yと係合してオス端子60とメス端子70を固定する端子固定部Pが設けられていてもよい。オス端子60とメス端子70双方がケーシング部材を備えることで、小さな両端子を位置合わせするのでなく、ケーシング部材どうしを位置合わせすることで、複数のオス端子60とメス端子70をまとめて位置合わせ・嵌合することができる。
ケーシング部材76の構成材料はオス端子60のケーシング部材50の構成材料と同様である。なお、ケーシング部材76及び50は弾性変形が可能な材料で構成されていることが好ましく、この場合、オス端子60とメス端子70を、端子嵌合部30が収容部72に嵌合するように互いに押し込むことで、ケーシング部材76及び50が変形してケーシング部材76がオス端子60のケーシング部材50の内側に入り込むことができ、両ケーシング部材が固定部PとYで係合して固定される。
<端子の用途>
以上説明した、半田付け部及び端子嵌合部を有する本発明の端子の具体的な用途としては、プリント回路板用端子が挙げられる。
[端子の製造方法]
本発明の端子の製造方法について説明する。当該製造方法では、素材上に、銀及び錫の少なくとも一方を含む金属被膜と、炭素粒子を含有する銀層からなる複合被膜とを形成する。なお上述の通り、端子には金属被膜の露出部位と複合被膜の露出部位があるが、これらの少なくとも一方の寸法を、それぞれ半田付け部および端子嵌合部としての最低限の寸法より長く設計することで端子にスペーサ部が形成される。
本発明の端子の製造方法では、用途の形状となっていない(例えば平板形状の)素材に金属被膜及び複合被膜を形成して複合材としてから端子の形状に加工する方法(被膜の先形成)と、素材を端子の形状に加工してから金属被膜及び複合被膜を形成する方法(被膜の後形成)とがある。以下、これらの二つの手法について説明する。
<被膜の先形成>
被膜の先形成の手法では、まず本発明の複合材を製造する(平板形状の素材上に金属被膜及び複合被膜を形成する)。次にこの複合材を、打ち抜き加工や曲げ加工などの公知の加工手法の一つ又は複数の組み合わせによって、所望の端子の形状に加工する。
<被膜の後形成>
被膜の後形成の手法では、素材を打ち抜き加工や曲げ加工などの公知の加工手法の一つ又は複数の組み合わせによって、所望の端子の形状に加工する。そして端子形状となった素材に対して、本発明の複合材の製造方法(金属被膜及び複合被膜の形成(必要に応じて下地層等をさらに形成))を実施する。
<被膜の先形成と後形成に共通の各種構成>
次に、被膜の先形成手法と後形成手法において共通の各種構成を説明する。
(素材、下地層の形成、金属被膜の形成、複合被膜の形成)
これらについては、いずれも本発明の複合材の製造方法についての説明箇所で説明したのと同様である。
(ケーシング部材の取り付け)
各手法にて形成した端子について、ケーシング部材を取り付けてもよい。例えば上記にて図6を参照して説明した、開口部と対向する壁面に本発明の端子が貫通できる孔が複数設けられている態様のケーシング部材の場合、例えば、樹脂を用いて射出成形を行うことで前記ケーシング部材を製造し、ケーシング部材の孔に端子を挿入し、押し込む。これにより、ケーシング部材の複数の孔に端子が挿通しかつケーシング固定部Xで固定された物品が得られる。
(金属被膜が銀被膜である場合)
金属被膜が銀被膜である場合、以下に説明する通り簡便な方法で本発明の端子を製造することができる。
まず、素材(被膜の後形成手法を採用する場合は端子の形状に加工したもの)の表層全面に銀からなる銀被膜を形成し、その後、銀被膜上の一部(端子嵌合部となる部位に対応する部分)に複合被膜を形成する。このような単純な工程2つで素材上に銀被膜及び複合被膜を形成できる。一方金属被膜が錫被膜である場合には、ウィスカ防止のためにリフロー処理という追加の処理が必要である。また、金属被膜が錫被膜や銀錫合金被膜などの錫を含む被膜である場合、当該被膜と複合被膜の密着性は十分ではない場合があり、金属被膜及び複合被膜のそれぞれが素材(下地層が形成されている場合は下地層)上に直接形成されることが好ましい。この場合には、一方の被膜を形成する場合に他方の被膜が形成される部分にマスクをして、被膜形成が終了したらマスクを除去(剥離)するという追加の工程が生じる。
上述の通り、複合被膜の形成においては、素材(下地層がある場合は下地層)と複合被膜の密着性の観点から、素材(下地層)に対して銀ストライクめっきをしたのち、複合被膜を形成することが好ましい。そして銀ストライクめっきを素材表層全面にした後、形成された銀ストライクめっき層上の一部に複合被膜を形成する。以上は複合被膜を形成する工程であるが、その工程で同時に銀被膜も形成される。
また複合被膜の形成について、銀めっき液を用いた手法により行い、銀ストライクめっきした素材の一部(端子嵌合部となる部分)を銀めっき液に浸漬してめっきを実施すれば、マスクの利用なしに銀被膜の一部上に複合被膜を形成することができる。めっきの際に銀めっき液が多少波打つので、銀被膜及び複合被膜の上面視での境界が直線とならない場合もあるが、端子を、スペーサ部を有しスペーサ部が前記の境界を包含するような寸法に設計しておけば、特に問題ない。
そして被膜の先形成手法を採用した場合には、以上の通り銀被膜及び複合被膜を形成した素材(代表的には平板形状)を端子の形状に加工して、本発明の端子を得る。得られた端子は、素材の表層全面に銀からなる銀被膜が形成され、この銀被膜上の一部に前記複合被膜が形成されている構成である。
以下、本発明の実施例について詳細に説明する。
[実施例1]
<炭素粒子の準備 酸化処理>
炭素粒子として平均粒径5μmの鱗片形状黒鉛粒子(日本黒鉛工業株式会社製のPAG-3000)80gを1.4Lの純水中に添加し、この混合液を攪拌しながら50℃に昇温させた。なお前記平均粒径は、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製のMT3300(LOW-WET MT3000II Mode))を用いて測定した、体積基準の累積値が50%の粒径である。次に、この混合液に酸化剤として0.1モル/Lの過硫酸カリウム水溶液0.6Lを徐々に滴下した後、2時間攪拌することで酸化処理を行い、その後、ろ紙によりろ別を行い、得られた固形物に対して水洗を行った。
<銀ストライクめっき>
縦5.0cm、横5.0cm、厚さ0.2mmのCu-Ni-Sn-P合金からなる板材(1.0質量%のNiと0.9質量%のSnと0.05質量%のPを含み、残部がCuおよび不可避不純物である銅合金の板材)(DOWAメタルテック株式会社製のNB-109EH)を用意した。この板材を素材として、当該素材をカソード、(チタンのメッシュ素材を酸化イリジウムコーティングした)酸化イリジウムメッシュ電極板をアノードとして使用して、錯化剤としてメタンスルホン酸を含む25℃のスルホン酸系銀ストライクめっき液(大和化成株式会社製のダインシルバーGPE-ST。銀濃度3g/L、メタンスルホン酸濃度42g/L)中において、電流密度5A/dmで20秒間電気めっき(銀ストライクめっき)を行った。なお銀ストライクめっきは素材の表層全体に対して行った。
<AgCめっき>
錯化剤としてメタンスルホン酸を含む、銀濃度30g/L、メタンスルホン酸濃度60g/Lのスルホン酸系銀めっき液(大和化成株式会社製のダインシルバーGPE-HB(一般式(1)に該当する化合物Aを4.2g/Lの濃度で含み、溶媒は主に水である))に、上記の酸化処理を行った炭素粒子(黒鉛粒子)を添加して、濃度50g/Lの炭素粒子と濃度30g/Lの銀と濃度60g/Lのメタンスルホン酸を含む炭素粒子含有スルホン酸系銀めっき液を用意した。
次に、上記の銀ストライクめっきした素材をカソード、銀電極板をアノードとして使用して、上記の炭素粒子含有スルホン酸系銀めっき液中に銀ストライクめっきした素材の縦2.5cm、横5.0cmを浸漬させて、スターラにより400rpmで撹拌しながら、温度25℃、電流密度3A/dmで120秒間電気めっきを行い、銀層中に炭素粒子を含有する複合被膜(AgCめっき被膜)が素材の銀ストライクめっき層上に形成されてなる複合材を得た。なお複合被膜は素材の銀ストライクめっき層の表層半分(縦2.5cm、横5.0cmの領域)に形成した。またAgCめっきにおいて、銀ストライクめっきした素材のめっき液中に浸漬されていない部分については、マスクを施さなかった。
この実施例1で得られた複合材について、AgCめっきがされた側を端子嵌合部、AgCめっきがされておらず銀ストライクめっき層が露出した側を半田付け部とみなして、以下の評価を行った。
<銀ストライクめっき層の厚さ>
複合材の銀ストライクめっき層が露出した部分(2.5cm×5.0cmの面)における中央部分の直径0.2mmの円形の範囲の厚さを蛍光X線膜厚計(株式会社日立ハイテクサイエンス製のFT110A)で測定したところ、0.03μmであった。
<複合被膜の厚さ>
複合材の半田付け部側の2.5cm×5.0cmの面における中央部分の直径0.2mmの円形の範囲の厚さを蛍光X線膜厚計(株式会社日立ハイテクサイエンス製のFT110A)で測定した。これにより求められた厚さは複合被膜と銀ストライクめっき層の厚さの合計値であり、これから銀ストライクめっき層の厚さを差し引くことにより、複合被膜の厚さを求めた。その結果、複合皮膜の厚さは2μmであった。なお蛍光X線膜厚計では(炭素粒子の)C原子の検出は困難でAg原子を検出して厚さを求めているが、本発明ではこれにより求まる厚さを複合被膜と銀ストライクめっき層の厚さの合計とみなす。
<超音波洗浄処理後の複合被膜表面の炭素面積率>
得られた複合材の複合被膜表面に対して、超音波洗浄器(AS ONE製のVS-100III、出力100W、槽内寸法:縦140mm×横240mm×深さ100mm、使用液体は純水、水温は20℃)を使用して、28kHzで4分の超音波洗浄処理を実施した。
超音波洗浄処理後の複合被膜表面の炭素面積率は、以下のようにして測定した。
卓上顕微鏡(株式会社日立ハイテク製のTM4000 Plus)を使用して加速電圧5kVで1000倍に拡大して複合被膜の表面を観察した反射電子組成(COMPO)像(1視野)をGIMP 2.10.10(画像解析ソフト)にて2値化し、複合被膜表面において炭素が占める面積率を算出した。具体的には、全ピクセル(880×1270=1117600ピクセル)のうち最も高い輝度を255、最も低い輝度を0とすると、輝度が127以下のピクセルが黒、輝度が127を超えるピクセルが白になるように階調を2値化し、銀の部分(白い部分)と炭素粒子の部分(黒い部分)に分離して、画像全体のピクセル数Pに対する炭素粒子の部分のピクセル数Qの比Q/Pを、表面の炭素面積率(%)として算出した。その結果、超音波洗浄処理後の炭素面積率は20面積%だった。
<微摺動摩耗特性の評価>
上記実施例1で得られた複合材の端子嵌合部から横2.0cm×縦3.0cmの大きさの平板状試験片を切り出した。
一方、複数作成した上記実施例1で得られた複合材の端子嵌合部から横1.0cm×縦4.0cmの試験片を切り出し、これに対して内径1.0mmのインデント(半球形状に押し出す)加工を施して、インデント付き試験片(圧子)を得た。このように、実施例1では実施例1の複合材(の端子嵌合部)から平板状試験片及びインデント付き試験片の双方を作成した。以降の実施例及び比較例においても同様である(例えば実施例2では、実施例2の複合材から平板状試験片及びインデント付き試験片の双方を作成した)。
摺動摩耗試験機(株式会社山崎精機研究所製 CRS-G2050-DWA)により、上記平板状試験片に、前記インデント付き試験片の凸部が平板状試験片にあたるようにして、インデント付き試験片を一定の加重(2N)で平板状試験片に押し当てながら、往復摺動動作(摺動距離50μm(1往復で100μm)、摺動速度3mm/s)を継続して、インデント付き試験片と平板状試験片の摩耗状態を確認する摩耗試験を行うことにより、微摺動摩耗特性の評価を行った。その結果、5000回の往復摺動動作後に、マイクロスコープ(株式会社キーエンス製のVHX-1000)によりインデント付き試験片及び平板状試験片の摺動痕の中心部を倍率200倍で観察したところ、どちらの摺動痕からも(茶色の)素材が露出していないことが確認され、実施例1の複合材の端子嵌合部側は微摺動摩耗特性に優れていることがわかった。
<摩擦係数の測定>
微摺動摩耗特性の評価の場合と同様に、上記実施例1で得られた複合材の端子嵌合部を使用して平板状試験片及びインデント付き試験片を作成した。
そして、摺動摩耗試験機(株式会社山崎精機研究所製 CRS-G2050-DWA)により、平板状試験片の複合被膜の表面に、インデント付き試験片の凸部があたるようにして、インデント付き試験片を一定の加重(2N)で平板状試験片に押し当てながら、摺動速度0.4mm/秒で摺動させ、摺動開始から摺動距離5mmまで摺動荷重を測定した。そして摺動距離2mm~3mmの間の摺動荷重データを平均して、摩擦係数(摺動荷重の平均F/5N)を求めた。結果、端子嵌合部の摩擦係数は0.20だった。
<半田付け性の評価>
上記実施例1で得られた複合材の半田付け部から横1.0cm×縦2.5cmの大きさの平板状試験片を切り出した。155℃の大気中で16時間保持(エージング)した後に、下記に示す試験条件で評価を行った。その結果、濡れ面積率は85%と、実施例1の複合材の半田付け部は半田付け性に優れていることがわかった。
[試験条件]
半田 Sn-3Ag-0.5Cu
半田槽温度 250℃
フラックス 非活性ロジンフラックス(当該フラックスに試験片を浸漬した)
半田への試験片の浸漬速度 25mm/s
半田への試験片の浸漬深さ 4mm
半田への試験片の浸漬時間 5s
判定方法 浸漬部のうち半田で濡れた面積率を求めた
[実施例2]
実施例1と同様の素材をカソード、Ni電極板をアノードとして使用して、濃度342g/Lのスルファミン酸ニッケル(Ni濃度として80g/L)と濃度45g/Lのホウ酸からなるニッケルめっき浴(水溶液)中において、液温55℃、電流密度4A/dmで攪拌しながら40秒間電気めっき(Niめっき)を行って、素材上に厚さ0.2μmのNi被膜(Ni下地層)を形成した。下地層の厚さは複合被膜の厚さを求める方法と同様の方法で測定した。
Ni下地を形成した素材に対して銀ストライクめっきを施した以外は、実施例1と同様にして複合材を作成した。
得られた複合材について、実施例1と同様に、複合被膜の厚さ、銀ストライクめっき層の厚さ、超音波洗浄処理後の複合被膜表面の炭素面積率及び摩擦係数を求め、微摺動摩耗特性及び半田付け性の評価を行った。
[実施例3]
Ni下地を形成した素材に対して電流密度5A/dmで150秒間電気めっき(銀ストライクめっき)を実施した以外は、実施例2と同様にして複合材を作成した。得られた複合材について、実施例1と同様に、複合被膜の厚さ、銀ストライクめっき層の厚さ、超音波洗浄処理後の複合被膜表面の炭素面積率及び摩擦係数を求め、微摺動摩耗特性及び半田付け性の評価を行った。
[実施例4]
Ni下地を形成した素材に対して電流密度5A/dmで375秒間電気めっき(銀ストライクめっき)を実施した以外は、実施例2と同様にして複合材を作成した。得られた複合材について、実施例1と同様に、複合被膜の厚さ、銀ストライクめっき層の厚さ、超音波洗浄処理後の複合被膜表面の炭素面積率及び摩擦係数を求め、微摺動摩耗特性及び半田付け性の評価を行った。
[実施例5]
実施例1で使用した、酸化処理を施した炭素粒子60gを0.6Lの純水中に添加した後、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロライド)(重量平均分子量:1600、数平均分子量:1500)の水溶液(株式会社センカ製ユニセンスFPA100L、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロライド)の濃度は25~35質量%)100gを加え、液温25℃の状態で24h攪拌混合することで炭素粒子に対する表面処理を行った。その後、ろ紙によりろ別を行い、得られた固形物に対して、ろ液の電導度が10μS/cmになるまで水洗を行った。なお平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により測定した。測定条件の詳細は以下のとおりである。
溶離液:水(硝酸ナトリウムを濃度0.1mol/Lで、酢酸を濃度0.5mol/Lで含有)
標準物質:ポリエチレンオキシド(分子量1万以上についての標準物質)及びポリエチレングリコール(分子量1万未満についての標準物質)の混合物
試料濃度:0.2w/v%
注入量:100μL
流量:1.0mL/分
カラム:Shodex OHpak SB-806M HQ×2(昭和電工(株)製)
カラム温度:40℃
ポンプ:LC-10ADvp((株)島津製作所製)
検出器:Shodex RI-71(昭和電工(株)製)
炭素粒子として、上記のポリマーによる表面処理を行った炭素粒子(黒鉛粒子)を使用し、AgCめっきにおけるめっき時間を60秒に変更した以外は、実施例3と同様にして複合材を作成した。得られた複合材について、実施例1と同様に、複合被膜の厚さ、銀ストライクめっき層の厚さ、超音波洗浄処理後の複合被膜表面の炭素面積率及び摩擦係数を求め、微摺動摩耗特性及び半田付け性の評価を行った。
[比較例1]
<銀ストライクめっき>
縦5.0cm、横5.0cm、厚さ0.2mmのCu-Ni-Sn-P合金からなる板材(1.0質量%のNiと0.9質量%のSnと0.05質量%のPを含み、残部がCuおよび不可避不純物である銅合金の板材)(DOWAメタルテック株式会社製のNB-109EH)の表層半分(縦2.5cm、横5.0cmの領域)に銀ストライクめっきしたこと以外は実施例3と同様にして銀ストライクめっきを行った。
<AgCめっき>
上記の銀ストライクめっきした素材をカソード、銀電極板をアノードとして使用して、炭素粒子含有スルホン酸系銀めっき液中に素材の銀ストライクめっきした部分である縦2.5cm、横5.0cmを浸漬させたこと以外は実施例1と同様にして複合材を作成した。得られた複合材について、実施例1と同様に、複合被膜の厚さ、銀ストライクめっき層の厚さ、超音波洗浄処理後の複合被膜表面の炭素面積率及び摩擦係数を求め、微摺動摩耗特性及び半田付け性の評価を行った。なお、銀ストライクめっき層の厚さは、複合皮膜を形成する前に測定した。また、半田付け性の評価はめっきがされていない素材部分で行った。
[比較例2]
実施例3と同様にして、Ni下地層を素材上に形成し、続いて銀ストライクめっきを実施した。この、銀ストライクめっきした素材をカソード、銀電極板をアノードとして使用して、実施例1で用いたのと同様の炭素粒子含有スルホン酸系銀めっき液中に銀ストライクめっきした素材の縦5.0cm、横5.0cm(素材全面)を浸漬させて、スターラにより400rpmで撹拌しながら、温度25℃、電流密度3A/dmで120秒間電気めっきを行い、銀層中に炭素粒子を含有する複合被膜が素材(の銀ストライクめっき層)上全面に形成されてなる複合材を得た。
得られた複合材について、実施例1と同様に、複合被膜の厚さ、銀ストライクめっき層の厚さ、超音波洗浄処理後の複合被膜表面の炭素面積率及び摩擦係数を求め、微摺動摩耗特性及び半田付け性の評価を行った。なお銀ストライクめっき層の厚さについては、複合皮膜を形成する前に測定した。更に半田付け性の評価については、比較例1の複合材から横1.0cm×縦2.5cmの大きさの平板状試験片を切り出して(当該試験片の切り口以外の部分の最表面は複合皮膜で構成されている)、これを使用して評価を行った。
[比較例3]
<Snめっき>
硫酸第一錫(SnSO4)70g/Lと(Sn濃度として39g/L)、硫酸(HSO)75g/Lと、レベリング剤 としてクレゾールスルホン酸30g/Lと、界面活性剤としてポリオキシエチレンステアリルアミン2g/Lとを含有する水溶液からなるSnめっき液を用意した。
実施例1と同様の素材をカソード、Sn電極板をアノードとして使用して、上記のSnめっき液中に素材の縦5.0cm、横5.0cm(素材全面)を浸漬させて、スターラにより400rpmで撹拌しながら、温度25℃、電流密度4A/dmで55秒間電気めっきを行い、錫の金属被膜(Snめっき被膜)が素材上に形成されてなるめっき材を得た。なお金属被膜は素材の表層全面(縦5.0cm、横5.0cmの領域)に形成した。
得られたSnめっき材に対してリフロー処理(Sn溶融処理)を行った。このリフロー処理では、近赤外線ヒーター(株式会社ハイベック製のHYW-8N、定格電圧100V、定格電力560W)を使用し、電源コントローラ(株式会社ハイベック製のHYW-20CCR-αN)によって設定電流値を10.8Aとして、大気雰囲気においてSnめっき材を11秒間加熱(約250℃)してSnめっき層の表面を溶融させた直後に20℃の水槽内に浸漬して冷却した。
得られたリフローSnめっき材について、実施例1と同様に、Snめっき膜の厚さ及び摩擦係数を求め、微摺動摩耗特性及び半田付け性の評価を行った。
[比較例4]
<Agめっき>
めっき時間を150秒に変更した以外は、実施例1と同様にして、素材に対して銀ストライクめっきを実施した。
実施例1で使用したのと同様のスルホン酸系銀めっき液(大和化成株式会社製のダインシルバーGPE-HB)を用意した。上記の銀ストライクメッキした素材をカソード、銀電極板をアノードとして使用して、前記のスルホン酸系銀めっき液中に銀ストライクめっきした素材の縦5.0cm、横5.0cm(素材全面)を浸漬させて、スターラにより400rpmで撹拌しながら、温度25℃、電流密度3A/dmで120秒間電気めっきを行い、Agめっき被膜が素材上に形成されてなるめっき材を得た。なおAgめっき被膜は素材の表層全面(縦5.0cm、横5.0cmの領域)に形成した。
得られたAgめっき材について、実施例1と同様に、銀被膜の厚さ及び摩擦係数を求め、微摺動摩耗特性及び半田付け性の評価を行った。
以上の実施例1~5並びに比較例1~4の複合材、Snめっき材及びAgめっき材の製造条件を下記表1に、各種評価結果を下記表2にまとめた。
Figure 2024102795000003
Figure 2024102795000004
10 複合材
12 素材
14 金属被膜
16 複合被膜
18 金属被膜露出部位
20 複合被膜露出部位
22 金属被膜露出部位18の一部から複合被膜露出部位20の一部にかけての部分
30 端子嵌合部
32 半田付け部
34 スペーサ部
36 素材
38 金属被膜
40 複合被膜
42 金属被膜露出部位
44 複合被膜露出部位
50 ケーシング部材
60 端子
70 メス端子
72 収容部
74 固定部
76 ケーシング部材

Claims (19)

  1. 銀及び錫の少なくとも一方を含む金属被膜と、炭素粒子を含有する銀層からなる複合被膜とが素材上に形成されてなる複合材であって、
    前記金属被膜が露出している部位と、前記複合被膜が露出している部位とが存在する、
    半田付け部及び端子嵌合部を有する端子の製造に使用される複合材。
  2. 前記複合材の、前記金属被膜が露出している部位が前記端子における半田付け部に対応し、前記複合被膜が露出している部位が前記端子における端子嵌合部に対応する、請求項1に記載の複合材。
  3. 請求項1又は2に記載の複合材を端子の形状に加工する、端子の製造方法。
  4. 素材上に被膜が形成されてなる、半田付け部及び端子嵌合部を有する端子であって、
    前記被膜は、前記素材上に形成された銀及び錫の少なくとも一方を含む金属被膜と、前記素材上に形成された炭素粒子を含有する銀層からなる複合被膜とを含み、
    前記端子の金属被膜が露出している部位が前記半田付け部を構成し、
    前記端子の複合被膜が露出している部位が前記端子嵌合部を構成する、
    端子。
  5. 前記端子が、収容部を備えるメス端子と嵌合されるオス端子である、請求項4に記載の端子。
  6. 前記金属被膜が、前記素材の表層全面に形成された銀からなる銀被膜であり、
    前記銀被膜上の一部に前記複合被膜が形成されている、請求項4又は5に記載の端子。
  7. 前記金属被膜の厚さが0.01~2.0μmである、請求項6に記載の端子。
  8. 前記複合被膜の表面における炭素粒子が占める割合が1~80面積%である、請求項4又は5に記載の端子。
  9. 前記複合被膜の厚さが0.5~15μmである、請求項4又は5に記載の端子。
  10. 前記素材上に、Cu、Ni、Sn及びAgからなる群より選択される少なくとも一種からなる下地層が形成され、該下地層上に前記金属被膜及び複合被膜が形成されている、請求項4又は5に記載の端子。
  11. 前記半田付け部及び端子嵌合部を離間させるスペーサ部を更に有する、請求項4又は5に記載の端子。
  12. 素材上に、銀及び錫の少なくとも一方を含む金属被膜と炭素粒子を含有する銀層からなる複合被膜とを形成し、得られた複合材を端子の形状に加工する工程を備える端子の製造方法であって、
    前記端子の金属被膜が露出している部位が半田付け部を構成し、
    前記端子の複合被膜が露出している部位が端子嵌合部を構成する、
    端子の製造方法。
  13. 素材を端子の形状に加工し、加工された素材上に、銀及び錫の少なくとも一方を含む金属被膜と炭素粒子を含有する銀層からなる複合被膜とを形成する工程を備える端子の製造方法であって、
    前記端子の金属被膜が露出している部位が半田付け部を構成し、
    前記端子の複合被膜が露出している部位が端子嵌合部を構成する、
    端子の製造方法。
  14. 素材の表層全面に銀からなる銀被膜を形成し、該銀被膜上の一部に炭素粒子を含有する銀層からなる複合被膜を形成し、得られた複合材を端子の形状に加工する工程を備える端子の製造方法であって、
    前記端子の銀被膜が露出している部位が半田付け部を構成し、
    前記端子の複合被膜が露出している部位が端子嵌合部を構成する、
    端子の製造方法。
  15. 素材を端子の形状に加工し、加工された素材の表層全面に銀からなる銀被膜を形成し、該銀被膜上の一部に炭素粒子を含有する銀層からなる複合被膜を形成する工程を備える端子の製造方法であって、
    前記端子の銀被膜が露出している部位が半田付け部を構成し、
    前記端子の複合被膜が露出している部位が端子嵌合部を構成する、
    端子の製造方法。
  16. 前記端子が、収容部を備えるメス端子と嵌合されるオス端子である、請求項12~15のいずれかに記載の端子の製造方法。
  17. 前記銀被膜の露出している部位の一部と、前記複合被膜の露出している部位の一部との少なくとも一方の部分が、前記半田付け部及び端子嵌合部を離間させるスペーサ部を更に構成する、請求項14又は15に記載の端子の製造方法。
  18. 前記銀被膜の厚さが0.01~2.0μmである、請求項14又は15に記載の端子の製造方法。
  19. 前記素材の表層全面に、Cu、Ni、Sn及びAgからなる群より選択される少なくとも一種からなる下地層を形成し、
    該下地層の表層全面に前記銀被膜を形成する、請求項14又は15に記載の端子の製造方法。
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