JP2024079169A - 防汚コーティング組成物、防汚コーティング膜、防汚コーティング積層体及びこれらの製造方法 - Google Patents

防汚コーティング組成物、防汚コーティング膜、防汚コーティング積層体及びこれらの製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】金属酸化物の表面に優れた抗菌性及び防汚性を有すると共に高い透明性を有する防汚コーティング膜を形成できる防汚コーティング組成物を提供する。【解決手段】本発明の防汚コーティング組成物は、フッ化アルキルアルコキシシランと四級アンモニウム塩型アルコキシシランとの共重合体化合物と、パーフルオロポリエーテル構造を有するアルコキシシランと、を含む。【選択図】なし

Description

本発明は、防汚コーティング組成物、防汚コーティング膜、防汚コーティング積層体、防汚コーティング組成物の製造方法、防汚コーティング膜の製造方法及び防汚コーティング積層体の製造方法に関する。
ガラス等の金属酸化物をコーティングする防汚剤として、撥水撥油性に優れ、摩擦係数が低いパーフルオロポリエーテル(PFPE)構造を有するアルコキシシラン系防汚剤が広く使用されている。
近年では、防汚剤には防汚性の他に抗菌性の需要が高まっている。防汚剤と抗菌剤を含む組成物又は防汚剤が抗菌性を有すれば、表面に抗菌性と防汚性を有するコーティング膜が形成される。このコーティング膜は、不特定多数の人が使用する環境でも清潔な表面状態を維持できるため、スマートフォンやタブレットPC等のタッチパネル等の用途への応用が期待される。
抗菌性と防汚性を有するアルコキシシラン系防汚剤として、例えば、特許文献1には、ガラス層の表面に存在する水酸基と脱水反応又は脱水素反応により結合するケイ素含有官能基を有する成分としてパーフロロアルキル基含有有機ケイ素化合物及び加水分解性基含有メチルポリシロキサン化合物を含むと共に、Ag、Cu、Zn等の抗菌金属の微粉末を抗菌成分として含む基体用防汚処理剤が開示されている。
また、特許文献2には、4級アンモニウム(メタ)アクリレート(A)と、シロキサン(メタ)アクリレート(B)との共重合体同士が架橋された架橋共重合体を含む抗菌・防汚材料が開示されている。
特開2001-192587号公報 特開2016-147808号公報
しかしながら、特許文献1の基体用防汚処理剤は、ガラス層に塗布して撥水抗菌層を形成しても、撥水抗菌層の表面に存在する抗菌成分が脱落して防汚性及び抗菌性が低下する場合がある、という問題があった。また、抗菌成分の大きさ次第では、光散乱が生じて撥水抗菌層に白濁が生じ、光学部品等に使用できない、という問題があった。
特許文献2の抗菌・防汚材料は、用途によってはシロキサンによる防汚性能では不十分である、という問題があった。また、特許文献2の抗菌・防汚材料を塗膜として使用する場合、表面にガラス等の基材との反応基を有しないため、基材と殆ど密着できず、定期的なメンテナンスが必要である、という問題があった。
本発明の一態様は、金属酸化物の表面に優れた抗菌性及び防汚性を有すると共に高い透明性を有する防汚コーティング膜を形成できる防汚コーティング組成物を提供することを目的とする。
本発明の他の態様は、金属酸化物の表面に優れた抗菌性及び防汚性を有すると共に高い透明性を有する防汚コーティング膜を形成する防汚コーティング組成物を製造できる防汚コーティング組成物の製造方法を提供することを目的とする。
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。
即ち、
<1> フッ化アルキルアルコキシシランと四級アンモニウム塩型アルコキシシランとの共重合体化合物と、
パーフルオロポリエーテル構造を有するアルコキシシランと、
を含む防汚コーティング組成物。
<2> 前記四級アンモニウム塩型アルコキシシランのモル数が、固形分に対して、100μmol/g以上である<1>に記載の防汚コーティング組成物。
<3> 前記共重合体化合物の数平均分子量が、1000~10000である<1>又は<2>に記載の防汚コーティング組成物。
<4> 前記共重合体化合物の含有量が、固形分に対して、5wt%~50wt%である<1>~<3>の何れか1つに記載の防汚コーティング組成物。
<5> 溶剤を含み、
前記溶剤が、アルコール系溶剤及びフッ素系溶剤を含む<1>~<4>の何れか1つに記載の防汚コーティング組成物。
<6> 前記フッ素系溶剤が、ハイドロフルオロエーテルを含む<5>に記載の防汚コーティング組成物。
<7> <1>~<6>の何れか1つに記載の防汚コーティング組成物の硬化物からなる防汚コーティング膜。
<8> 前記硬化物の水に対する接触角が、100°以上であり、
前記硬化物のヘキサデカンに対する接触角が、40°以上である<7>に記載の防汚コーティング膜。
<9> 算術平均粗さ(Ra)が、100nm以下である<8>に記載の防汚コーティング膜。
<10> <7>~<9>の何れか1つに記載の防汚コーティング膜と、
前記防汚コーティング膜が設けられ、アルコキシシランと反応して化学結合を形成する金属酸化物を含む基材と、
を有する防汚コーティング積層体。
<11> フッ化アルキルアルコキシシランと四級アンモニウム塩型アルコキシシランとを共重合させて共重合体化合物を生成する共重合体化合物生成工程と、
前記共重合体化合物とパーフルオロポリエーテル構造を有するアルコキシシランと前記溶剤と混合して、前記共重合体化合物と前記アルコキシシランを前記溶剤に溶解した状態で含む混合物を生成する混合工程と、
を含む防汚コーティング組成物の製造方法。
<12> <11>の防汚コーティング組成物の製造方法により得られた防汚コーティング組成物を硬化させ、硬化物からなる防汚コーティング膜を得る防汚コーティング膜の製造方法。
<13> <11>の防汚コーティング組成物の製造方法により得られた防汚コーティング組成物を金属酸化物を含む基材上に塗布して硬化させた硬化物からなる防汚コーティング膜を形成する工程を含む防汚コーティング積層体の製造方法。
本発明に係る防汚剤の一態様は、金属酸化物の表面に優れた抗菌性及び防汚性を有すると共に高い透明性を有する防汚コーティング膜を形成することができる。
本発明に係る防汚コーティング組成物の製造方法の一態様は、金属酸化物の表面に優れた抗菌性及び防汚性を有すると共に高い透明性を有する防汚コーティング膜を形成する防汚コーティング組成物を製造できる。
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、本明細書において数値範囲を示す「~」は、別段の断わりがない限り、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
<防汚コーティング組成物>
本発明の実施形態に係る防汚コーティング組成物について説明する。本実施形態に係る防汚コーティング組成物は、フッ化アルキルアルコキシシランと四級アンモニウム塩型アルコキシシランとの共重合体化合物と、パーフルオロポリエーテル(PFPE)構造を有するアルコキシシラン(以下、「PFPE系アルコキシシラン」ともいう。)とを含む。
PFPE系アルコキシシラン及び四級アンモニウム塩型アルコキシシランを含む防汚コーティング組成物を用いて形成した防汚コーティング膜の表面及び内部には四級アンモニウム塩型アルコキシシランがPFPE系アルコキシシランとの巨視的な相分離に起因して、視認可能な大きさのハジキが多数発生し、防汚コーティング膜の視認性が悪化するため、光学用途等に使用できない。
本願発明者らは、鋭意検討した結果、フッ化アルキルアルコキシシランと四級アンモニウム塩型アルコキシシランとを共重合して化合物にすれば、化合物の極性変化、及び高粘度化による分子内の絡み合い相互作用の増加に起因して、100μm以下のドメインサイズを有する相分離構造が形成され易くなることを見出した。本願発明者らは、四級アンモニウム塩型アルコキシシランのオリゴマーとPFPE系アルコキシシランからなる相分離構造を形成させることで、優れた抗菌性及び抗菌性を有すると共に高い透明性を有する防汚コーティング膜を形成できる防汚コーティング組成物が得られることを見出した。
フッ化アルキルアルコキシシランと四級アンモニウム塩型アルコキシシランとの共重合体化合物は、PFPE系アルコキシシラン中に分散した状態で含まれ、抗菌性の機能を有する。共重合体化合物は、下記一般式(1)で表すことができる。
(但し、一般式(1)中、h、k、l、m、nは1以上の整数であり、ORは炭素数1以上のアルコキシ基又は水酸基であり、X、Xは炭素数1以上のアルキル基であり、Yは一価の陰イオンであり、Rfはパーフルオロアルキル基又はパーフルオロアルキレンエーテル基である。)
また、一般式(1)は、X又はXを有機酸の陰イオンとしてもよい。この場合、一般式(1)は、Y1を構造中に含まない。
アルコキシ基の炭素数は、1~16であることが好ましく、1~4であることがより好ましい。炭素数1以上のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ(OMe)基、エトキシ(OEt)基、プロポキシ基等が挙げられる。
パーフルオロアルキル基の炭素数は、生体蓄積性の観点から4又は6であることが好ましい。一般式(1)の共重合体化合物は、炭素数が6の炭化フッ素基(-C13)を有することで、安全性と防汚性を両立できる。
共重合体化合物は、一例として、下記合成式(I)で表されるように、フッ化アルキルアルコキシシランと四級アンモニウム塩型アルコキシシランの重合反応により得られる。
共重合体化合物共重合体化合物の数平均分子量は、1000~10000であることが好ましく、1500~5000であることがより好ましく、2000~3000であることがさらに好ましい。共重合体化合物の数平均分子量が小さすぎると、共重合体化合物の粘度が低いため、共重合体化合物をPFPE系アルコキシシランと混ぜると、相分離が容易に進行する。そのため、防汚コーティング組成物を硬化させて防汚コーティング膜を形成しても、防汚コーティング膜には大きな相分離構造が形成され、相分離構造に起因したハジキが生じ易くなる。一方、共重合体化合物の数平均分子量が大きすぎても、溶剤溶解性が低下する。共重合体化合物の数平均分子量が上記の好ましい範囲内であれば、溶剤溶解性を低下させることなく共重合体化合物とPFPE系アルコキシシランの相溶性を向上させることができる。
四級アンモニウム塩型アルコキシシランのモル数が、固形分に対して、100μmol/g以上であることが好ましく、150μmol/g以上であることがより好ましく、180μmol/g以上であることがさらに好ましい。四級アンモニウム塩型アルコキシシランのモル数が、固形分に対して、100μmol/g以上であれば、防汚コーティング組成物に含まれる四級アンモニウム塩型アルコキシシランの含有量は十分であるため、防汚コーティング組成物は抗菌性を発揮できる。なお、四級アンモニウム塩型アルコキシシランのモル数の上限値は、特に限定されないが、例えば、四級アンモニウム塩型アルコキシシランのモル数は、固形分に対して、3000μmol/g以下であればよい。
なお、固形分とは、本実施形態に係る防汚コーティング組成物に含まれる、共重合体化合物及びPFPE系アルコキシシランに由来して生じる固形分であり、共重合体化合物及びPFPE系アルコキシシランのみであってもよい。
共重合体化合物の含有量は、固形分に対して、5wt%~50wt%であることが好ましく、10wt%~30wt%であることがさらに好ましい。共重合体化合物の含有量が少なすぎると、防汚コーティング組成物中の共重合体化合物中に含まれる四級アンモニウム塩型アルコキシシランが少なくなるため、防汚コーティング組成物は十分な抗菌性を発揮できない。一方、共重合体化合物の含有量が多すぎると、防汚コーティング組成物中のPFPE系アルコキシシランが少なくなるため、防汚コーティング組成物は十分な防汚性を発揮できない。共重合体化合物の含有量が上記の好ましい範囲内であれば、抗菌性と防汚性の両方を発現することができる。
PFPE系アルコキシシランは、主に防汚性の機能を発揮し、抗菌性及び防汚性の機能を発揮してもよい。PFPE系アルコキシシランは、下記一般式(2)又は一般式(3)で表される。
(但し、一般式(2)中、nは1以上の整数であり、ORは炭素数1以上のアルコキシ基であり、Xは有機基であり、Rfはパーフルオロアルキレンエーテル基である。)
(但し、一般式(2)中、nは1以上の整数であり、ORは炭素数1以上のアルコキシ基であり、Xは有機基であり、Rfはパーフルオロアルキレンエーテル基である。)
本実施形態に係る防汚コーティング組成物は、さらに溶剤を含んでよい。
溶剤は、四級アンモニウム塩型アルコキシシランのオリゴマー及びPFPE系アルコキシシランに応じて適宜選択すればよい。溶剤としては、例えば、アルコール系溶剤、フッ素系溶剤、エステル系溶剤及び炭化水素系溶剤等の溶剤を単独又は混合して使用することができる。これらのうち、溶解性の観点から、フッ素系溶剤をアルコール系溶剤と併用することが好ましい。
アルコール系溶剤としては、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコールが挙げられる。
フッ素系溶剤としては、例えば、ハイドロフルオロエーテル、パーフルオロポリエーテル、パーフルオロアルカン、ハイドロフルオロポリエーテル、ハイドロフルオロカーボン、パーフルオロシクロエーテル、パーフルオロシクロアルカン、ハイドロフルオロシクロアルカン、キシレンヘキサフルオライド、ハイドロフルオロクロロカーボン及びパーフルオロカーボン等が挙げられる。これらの中でも、アルコール系溶剤との相溶性の観点から、ハイドロフルオロエーテルを用いることが好ましい。
フッ素系溶剤の好適な市販品としては、例えば、オプツールDSX(ダイキン工業社製)、KY-108(信越化学工業社製)等が挙げられる。
本実施形態に係る防汚コーティング組成物の製造方法について説明する。まず、フッ化アルキルアルコキシシランと四級アンモニウム塩型アルコキシシランとを共重合させて、共重合体化合物を生成する(共重合体化合物の生成工程)。
フッ化アルキルアルコキシシランと四級アンモニウム塩型アルコキシシランをギ酸とメタノールとを含む混合溶液中に投入して、加熱しながら、所定時間攪拌する。
加熱温度は、混合溶液の種類、濃度に応じて適宜選択してよく、例えば、55℃~70℃が好ましく、58℃~68℃がより好ましく、60℃~65℃がさらに好ましい。
混合時間は、混合溶液の種類、濃度に応じて適宜選択してよく、例えば、30分~5時間が好ましく、1時間~4時間がより好ましく、2時間~3時間がさらに好ましい。
次に、溶媒留去後、共重合体化合物とPFPE系アルコキシシランとをフッ素系溶剤とアルコール系溶剤を用いて混合する(混合工程)。
これにより、共重合体化合物とPFPE系アルコキシシランとをフッ素系溶剤とアルコール系溶剤中に溶解した状態で含む、本実施形態に係る防汚コーティング組成物が得られる。
このように、本実施形態に係る防汚コーティング組成物は、フッ化アルキルアルコキシシランと四級アンモニウム塩型アルコキシシランとから生成された共重合体化合物と、PFPE系アルコキシシランとを含む。共重合体化合物は、炭素数が6の炭化フッ素基(-C13)を含むことで、PFPE系アルコキシシランに相溶し易くなり、共重合体化合物はPFPE系アルコキシシラン内に均一に分散させることができる。よって、防汚コーティング組成物は、光学部品等の金属酸化物の表面に優れた抗菌性及び防汚性を有すると共に高い透明性を有する防汚コーティング膜を形成することができる。
したがって、防汚コーティング組成物は、透明性が高く、優れた抗菌及び防汚機能を有する表面を形成できるため、光学材料用途に適合した防汚コーティング膜を得ることができる。
また、共重合体化合物とPFPE系アルコキシシランとは、いずれも、シランカップリング剤として用いることができ、光学部品等の金属酸化物の表面から剥離することがない。よって、防汚コーティング組成物は、共重合体化合物と、PFPE系アルコキシシランとを含むことにより、高い耐久性を有する防汚コーティング膜を形成できる。
さらに、防汚コーティング組成物は、光学部品等の金属酸化物の表面に、ナノオーダーの膜厚で、抗菌性及び防汚性の機能を発現させることができるため、防汚コーティング組成物の塗布面の単位面積当たりの有効成分の量を少なくできる。よって、防汚コーティング組成物は、防汚コーティング膜の形成に要する費用を低減できる。
防汚コーティング組成物は、四級アンモニウム塩型アルコキシシランのモル数を、固形分に対して、100μmol/g以上とすることができる。これにより、防汚コーティング組成物は、共重合体化合物を生成できるため、抗菌性を確実に発揮できる。
防汚コーティング組成物は、共重合体化合物の数平均分子量を、1000~10000とすることができる。これにより、PFPE系アルコキシシランと共重合体化合物の相分離構造は小さく維持できるため、防汚コーティング組成物は、ハジキが発生してもその大きさを小さく抑えることができるため、高い透明性を確実に発揮できる。
防汚コーティング組成物は、共重合体化合物の含有量を、固形分に対して、5wt%~50wt%とすることができる。これにより、防汚コーティング組成物は、PFPE系アルコキシシラン内に四級アンモニウム塩型アルコキシシランを相溶させ、相分離構造を確実に形成できるため、高い透明性を発揮すると共に、防汚性及び抗菌性を確実に発揮させることができる。
防汚コーティング組成物は、溶剤を含み、溶剤にはアルコール系溶剤及びフッ素系溶剤を含むことができる。フッ素系溶剤は、主にPFPE系を溶解させるために使用し、アルコール系溶剤は、主に共重合体化合物を溶解させるために使用される。
防汚コーティング組成物は、フッ素系溶剤としてハイドロフルオロエーテルを含むことができる。ハイドロフルオロエーテルはフッ素系溶剤の中でも特にアルコール系溶剤との相溶性により優れ、速やかに揮発できる。これにより、防汚コーティング組成物は、防汚コーティング組成物を硬化させることで生じる防汚コーティング膜内に生じる相分離構造の範囲をさらに小さく抑え易くなる。よって、防汚コーティング組成物は、より高い透明性を確実に発揮すると共に、防汚性及び抗菌性を発揮させることができる。
<防汚コーティング膜>
本実施形態に係る防汚コーティング膜は、本実施形態に係る防汚コーティング組成物の硬化物から構成される。
防汚コーティング膜は、水に対する接触角が100°以上であることが好ましく、105°以上であることがより好ましく、110°以上であることがさらに好ましい。防汚コーティング膜の、水に対する接触角が100°以上であれば、防汚コーティング膜の表面は水等の液体を弾き、汚れ難くなるため、水分に対する防汚性を有する指標となる。
防汚コーティング膜は、ヘキサデカンに対する接触角が、40°以上であることが好ましく、50°以上であることがより好ましく、60°以上であることがさらに好ましい。防汚コーティング膜の、ヘキサデカンに対する接触角が40°以上であれば、防汚コーティング膜の表面の油等の油分を弾き、汚れ難くなるため、油分に対する防汚性を有する指標となる。
防汚コーティング膜は、算術平均粗さRaが100nm以下であることが好ましく、30nm以下であることがより好ましく、10nm以下であることがさらに好ましい。算術平均粗さRaが100nm以下であれば、防汚コーティング膜の表面の透明性が損なわることを抑えられる。
防汚コーティング膜の膜厚は、30nm以下が好ましく、20nm以下がより好ましく、10nm以下がさらに好ましい。
本実施形態に係る防汚コーティング膜は、本実施形態に係る防汚コーティング組成物を硬化させ、硬化物を生成することにより得られる。
本実施形態に係る防汚コーティング膜は、上記の本実施形態に係る防汚コーティング組成物の硬化物からなることで、優れた抗菌性及び防汚性を有すると共に高い透明性を有することができる。
防汚コーティング膜は、その水に対する接触角を100°以上とし、ヘキサデカンに対する接触角を40°以上とすることができる。これにより、防汚コーティング膜は、水分及び油分に対する防汚性を高めることができる。
防汚コーティング膜は、算術平均粗さRaを100nm以下とすることができる。これにより、防汚コーティング膜は、その表面の透明性が損なわれることを低減できる。
<防汚コーティング積層体>
本実施形態に係る防汚コーティング積層体は、本実施形態に係る防汚コーティング膜と、防汚コーティング膜が設けられる基材とを有する。
基材は、PFPE系アルコキシシランと反応して化学結合を形成する金属酸化物を含む。基材としては、例えば、ガラス、SiO、TiO、Al、ZrO、有機物基材にスパッタ等で製膜した金属酸化物薄膜等が挙げられる。
本実施形態に係る防汚コーティング積層体は、本実施形態に係る防汚コーティング組成物を基材上に塗布し、硬化させることにより、本実施形態に係る防汚コーティング膜を形成することにより得られる。
防汚コーティング組成物の塗布方法は、特に限定されず、一般的な塗布方法を用いてよい。防汚コーティング組成物の塗布方法としては、例えば、グラビアコート、ロールコート、スピンコート、リバースコート、バーコート、スクリーンコート、ブレードコート、ナイフコート、カーテンコート、スプレーコート、ダイコート、ディップコート、インクジェット、ディッピング、ディスペンシング等の方法が挙げられる。
本実施形態に係る防汚コーティング積層体は、本実施形態に係る防汚コーティング膜を基材に備えることで、基材の表面に優れた抗菌性及び防汚性を持たせると共に、高い透明性を有することができる。
よって、本実施形態に係る防汚コーティング積層体は、例えば、タブレット、携帯端末等の各種のデバイスのガラスに好適に用いることができる。
以上の通り、実施形態を説明したが、上記実施形態は、例として提示したものであり、上記実施形態により本発明が限定されるものではない。上記実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の組み合わせ、省略、置き換え、変更などを行うことが可能である。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
以下、実施形態の実施例を説明するが、実施形態は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
[共重合体化合物の製造]
(合成例1)
氷浴内に設置した三口フラスコに、原料モノマーとして、フッ化アルキルアルコキシシラン1(トリメトキシ(トリデカフルオロ-n-オクチル)シラン(TDF-TMS、東京化成工業社製))と第四級アンモニウム塩を構造中に有する四級アンモニウム塩型アルコキシシラン1(KBM-9418-40、信越シリコーン社製)をモル比で1:9の割合で投入し、溶液濃度20wt%になるようにメタノールを加え、200ml/minの流量でフラスコ内を窒素気流下にして10分攪拌し、8℃の溶液を調製した。次に、蒸留水をモノマーに対し0.5当量、ギ酸をモノマーに対し0.1当量をパスツールピペットで滴下し、10分攪拌した後、氷浴を撤去して30分攪拌し、溶液を室温にした。続いて、オイルバスを設置して昇温し、63℃還流下で3時間反応させた。その後、オイルバスを撤去して30分間攪拌し、溶液を室温に戻した。三口フラスコから試料瓶に溶液を移し、エバポレーターにて常温で3時間減圧濃縮した後、室温の真空オーブンで18時間減圧乾燥することで、下記一般式(1-1)に示す、合成物1を得た。合成物1をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した結果、ポリスチレン標準試料換算で数平均分子量が2620だった。
(但し、一般式(1-1)中、m、nは1以上の整数である。)
(合成例2)
原料モノマーを、フッ化アルキルアルコキシシラン1と四級アンモニウム塩型アルコキシシラン1とが3:7のモル比となるように投入したこと以外は、合成例1と同様に操作し、合成物2を得た。合成物2をGPCで測定した結果、ポリスチレン標準試料換算で数平均分子量が2515だった。
(合成例3)
原料モノマーを、フッ化アルキルアルコキシシラン1と四級アンモニウム塩型アルコキシシラン1とが5:5のモル比となるように投入したこと以外は、合成例1と同様に操作し、合成物3を得た。合成物3をGPCで測定した結果、ポリスチレン標準試料換算で数平均分子量が2141だった。
(合成例4)
原料モノマーを、フッ化アルキルアルコキシシラン1と四級アンモニウム塩型アルコキシシラン1とが7:3のモル比となるように投入したこと以外は、合成例1と同様に操作し、合成物4を得た。合成物4をGPCで測定した結果、ポリスチレン標準試料換算で数平均分子量が2262だった。
(合成例5)
原料モノマーを、フッ化アルキルアルコキシシラン1と四級アンモニウム塩型アルコキシシラン1とが9:1のモル比となるように投入したこと以外は、合成例1と同様に操作し、合成物5を得た。合成物5をGPCで測定した結果、ポリスチレン標準試料換算で数平均分子量が2837だった。
[実施例1]
(防汚コーティング膜の製造)
PFPE系アルコキシシラン1(オプツールDSX、ダイキン工業社製)に対し、合成物1をその質量比が10wt%となるように固形分を配合した。その固形分を、フッ素系液体(Novec7100(登録商標)、3M社製)とメタノールとを質量比4:1で混合した混合溶媒に完全溶解させ、0.1wt%の固形分濃度を有する防汚コーティング組成物である防汚コーティング液を調製した。防汚コーティング液を1000rpmで30secの条件で市販のスライドガラスにスピンコートし、60℃で2時間熱処理を行った。その後、混合溶媒を数回スライドガラスに流しかけて洗浄した。成膜、乾燥及び洗浄の工程は2回繰り返して実施し、防汚コーティング膜がスライドガラスの主面に形成されたガラスコーティング試料を得た。
[実施例2]
PFPE系アルコキシシラン1に対し、合成物2を10wt%になるよう固形分を配合したこと以外は、実施例1と同様に行い、ガラスコーティング試料を作製した。
[実施例3]
PFPE系アルコキシシラン1に対し、合成物3を10wt%になるよう固形分を配合したこと以外は、実施例1と同様に行い、ガラスコーティング試料を作製した。
[実施例4]
PFPE系アルコキシシラン1に対し、合成物4を30wt%になるよう固形分を配合したこと以外は、実施例1と同様に行い、ガラスコーティング試料を作製した。
[実施例5]
PFPE系アルコキシシラン1に対し、合成物5を30wt%になるよう固形分を配合したこと以外は、実施例1と同様に行い、ガラスコーティング試料を作製した。
[比較例1]
PFPE系アルコキシシラン1に対し、四級アンモニウム塩型アルコキシシラン1を5wt%になるよう固形分を配合したこと以外は、実施例1と同様に行い、ガラスコーティング試料を作製した。
[比較例2]
PFPE系アルコキシシラン1に対し、四級アンモニウム塩型アルコキシシラン1を10wt%になるよう固形分を配合したこと以外は、実施例1と同様に行い、ガラスコーティング試料を作製した。
[比較例3]
PFPE系アルコキシシラン1に対し、合成物1を5wt%になるよう固形分を配合したこと以外は、実施例1と同様に行い、ガラスコーティング試料を作製した。
[比較例4]
PFPE系アルコキシシラン1に対し、合成物2を5wt%になるよう固形分を配合したこと以外は、実施例1と同様に行い、ガラスコーティング試料を作製した。
[比較例5]
PFPE系アルコキシシラン1に対し、合成物3を5wt%になるよう固形分を配合したこと以外は、実施例1と同様に行い、ガラスコーティング試料を作製した。
[比較例6]
PFPE系アルコキシシラン1に対し、合成物4を10wt%になるよう固形分を配合したこと以外は、実施例1と同様に行い、ガラスコーティング試料を作製した。
[比較例7]
PFPE系アルコキシシラン1に対し、合成物5を20wt%になるよう固形分を配合したこと以外は、実施例1と同様に行い、ガラスコーティング試料を作製した。
[実施例6]
PFPE系アルコキシシラン1に対し、合成物1を50wt%になるよう固形分を配合したこと以外は、実施例1と同様に行い、ガラスコーティング試料を作製した。
[実施例7]
PFPE系アルコキシシラン1に対し、合成物2を50wt%になるよう固形分を配合したこと以外は、実施例1と同様に行い、ガラスコーティング試料を作製した。
[実施例8]
PFPE系アルコキシシラン1に対し、合成物3を50wt%になるよう固形分を配合したこと以外は、実施例1と同様に行い、ガラスコーティング試料を作製した。
[実施例9]
PFPE系アルコキシシラン1に対し、合成物4を50wt%になるよう固形分を配合したこと以外は、実施例1と同様に行い、ガラスコーティング試料を作製した。
[実施例10]
PFPE系アルコキシシラン1に対し、合成物5を50wt%になるよう固形分を配合したこと以外は、実施例1と同様に行い、ガラスコーティング試料を作製した。
[特性の評価]
各実施例及び比較例の防汚コーティング膜の特性として、防汚コーティング膜の、透明性、防汚性及び抗菌性を測定し、評価した。
(透明性)
防汚コーティング膜の透明性は、防汚コーティング膜の、外観観察、ヘイズ値、全光線透過率及び算術平均粗さRaに基づいて評価した。なお、防汚コーティング膜の、外観、ヘイズ値及び全光線透過率は、ガラスコーティング試料の、外観観察、ヘイズ値及び全光線透過率を用いて評価した。
1.目視による外観の観察
ガラスコーティング試料の外観を観察し、下記評価基準に基づいて評価した。
((評価基準))
A:防汚コーティング膜にハジキがなく、クリアな外観が確認された。
B:防汚コーティング膜にハジキが多く確認された。
2.ヘイズ値の測定
ガラスコーティング試料のヘイズ値は、ヘイズメーターNDH 7000SP(日本電色工業製)により測定した。なお、スライドガラスのヘイズ値は0.27であった。
3.全光線透過率の測定
ガラスコーティング試料の全光線透過率は、ヘイズメーターNDH 7000SP(日本電色工業製)により測定した。なお、スライドガラスの全光線透過率は91.5%であった。
4.算術平均粗さRaの測定
防汚コーティング膜の算術平均粗さRaは、プローブ顕微鏡 SPA400(日立ハイテクサイエンス製)を使用して、防汚コーティング膜の表面の10μm四方をAFMで測定した結果から算出した。なお、測定は、実施例3~5、8~10と、比較例6について行った。
(防汚性)
防汚コーティング膜の防汚性は、防汚コーティング膜の水に対する接触角と、ヘキサデカンに対する接触角に基づいて評価した。防汚コーティング膜の水に対する接触角と、ヘキサデカンに対する接触角とは、接触角計DM-501(協和界面社製)を用いて、2μL液体を滴下して3秒後にθ/2法により算出した。
(抗菌性)
防汚コーティング膜の抗菌性は、JIS Z 2801に準拠した方法により、フィルム密着法による抗菌試験を実施し、下記評価基準に基づいて評価した。
((評価基準))
A:抗菌活性値が、2.0以上であった。
B:抗菌活性値が、2.0未満であった。
各実施例及び比較例の防汚コーティング膜の、透明性、防汚性及び抗菌性の測定結果又は判定結果を表1に示す。
表1より、実施例1~10では、ガラスコーティング試料を観察した結果、防汚コーティング膜にはハジキがなく、クリアな外観が観察された。ガラスコーティング試料のヘイズ値は0.5未満であり、全光線透過率は90%以上であり、防汚コーティング膜の表面の算術平均粗さRaは、2.7nm以下であった。よって、各実施例の防汚コーティング膜は十分な透明性を有していた。
防汚コーティング膜の水に対する接触角は100°以上であり、ヘキサデカンに対する接触角は40°以上であった。特に、実施例1~10では、防汚コーティング膜の水に対する接触角は100°以上であり、ヘキサデカンに対する接触角は40°以上であった。よって、各実施例の防汚コーティング膜は十分な防汚性を有していた。よって、各実施例の防汚コーティング膜は十分な防汚性を有していた。
防汚コーティング膜の抗菌活性値は2.0以上であった。よって、各実施例の防汚コーティング膜は抗菌性を有していた。
一方、比較例1~7のうち、比較例1及び2では、ガラスコーティング試料を観察した結果、防汚コーティング膜にはハジキが多く観察され、防汚コーティング膜の透明性は不十分であった。
比較例1~7は、防汚コーティング膜の水に対する接触角は110°以上であり、ヘキサデカンに対する接触角は60°以上であり、各比較例の防汚コーティング膜は十分な防汚性を有していた。
比較例1~7のうち、少なくとも比較例3~7では、防汚コーティング膜の抗菌活性値は2.0未満であり、これらの比較例の防汚コーティング膜は抗菌性を有していなかった。
よって、各実施例では、ハジキが殆ど見られず、透明で、抗菌性及び防汚性に優れたコーティング膜を形成できた。一方、各比較例では、透明性又は抗菌性が少なくとも不十分なコーティング膜であった。
よって、上記各実施例の防汚コーティング組成物は、共重合体化合物と、PFPE系アルコキシシランとを含むことで、優れた抗菌性及び防汚性を発揮すると共に、高い透明性を有する防汚コーティング膜を形成することが確認された。したがって、本実施形態に係る防汚コーティング組成物は、ガラス等の物品の表面に抗菌性、防汚性を発揮させつつ透明性を維持した膜を形成できるので、例えば、タブレット、携帯端末等の各種のデバイスのガラスに好適に用いることができるといえる。

Claims (13)

  1. フッ化アルキルアルコキシシランと四級アンモニウム塩型アルコキシシランとの共重合体化合物と、
    パーフルオロポリエーテル構造を有するアルコキシシランと、
    を含む防汚コーティング組成物。
  2. 前記四級アンモニウム塩型アルコキシシランのモル数が、固形分に対して、100μmol/g以上である請求項1に記載の防汚コーティング組成物。
  3. 前記共重合体化合物の数平均分子量が、1000~10000である請求項1に記載の防汚コーティング組成物。
  4. 前記共重合体化合物の含有量が、固形分に対して、5wt%~50wt%である請求項1に記載の防汚コーティング組成物。
  5. 溶剤を含み、
    前記溶剤が、アルコール系溶剤及びフッ素系溶剤を含む請求項1に記載の防汚コーティング組成物。
  6. 前記フッ素系溶剤が、ハイドロフルオロエーテルを含む請求項5に記載の防汚コーティング組成物。
  7. 請求項1に記載の防汚コーティング組成物の硬化物からなる防汚コーティング膜。
  8. 前記硬化物の水に対する接触角が、100°以上であり、
    前記硬化物のヘキサデカンに対する接触角が、40°以上である請求項7に記載の防汚コーティング膜。
  9. 算術平均粗さ(Ra)が、100nm以下である請求項8に記載の防汚コーティング膜。
  10. 請求項7に記載の防汚コーティング膜と、
    前記防汚コーティング膜が設けられ、アルコキシシランと反応して化学結合を形成する金属酸化物を含む基材と、
    を有する防汚コーティング積層体。
  11. フッ化アルキルアルコキシシランと四級アンモニウム塩型アルコキシシランとを共重合させて共重合体化合物を生成する共重合体化合物生成工程と、
    前記共重合体化合物とパーフルオロポリエーテル構造を有するアルコキシシランと溶剤とを混合して、前記共重合体化合物と前記アルコキシシランを前記溶剤中に溶解した混合物を生成する混合工程と、
    を含む防汚コーティング組成物の製造方法。
  12. 請求項11の防汚コーティング組成物の製造方法により得られた防汚コーティング組成物を硬化させ、硬化物からなる防汚コーティング膜を得る防汚コーティング膜の製造方法。
  13. 請求項11の防汚コーティング組成物の製造方法により得られた防汚コーティング組成物を金属酸化物を含む基材上に塗布して硬化させた硬化物からなる防汚コーティング膜を形成する工程を含む防汚コーティング積層体の製造方法。
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